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ニュートン力学の基礎:三法則から運動量・エネルギー保存則へ

対象読者: 高校物理の力学(力・加速度・仕事)と、大学 1 年の微分積分(微分方程式の初歩、ε-δ 論法)・ベクトルの基礎を学んだ人。解析力学や座標変換の知識は仮定しません。

前提となる記事:極限と連続性:ε-δ 論法を「誤差の契約」として読む、ベクトル空間と線形変換:8 つの公理から次元定理まで

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投げ上げたボールは放物線を描き、ばねにつないだおもりは行ったり来たりします。こうした身近な運動を、「質量 × 加速度 = 力」というたった一つの式から説明するのがニュートン力学です。この記事では、その式が何を主張しているのかを整理し、「運動量が保存する」「エネルギーが保存する」という高校でも習った法則が、実はこの式から計算で導かれることを確かめます。読み終えると、簡単な運動を自分で式に直して解き、保存則を使って運動の様子を見通せるようになります。

  • ニュートンの第 1 法則は「力がなければ等速直線運動する」という主張ではなく、そのような座標系(慣性系)が存在するという主張です。第 2 法則はその慣性系でのみ意味を持ちます。
  • 運動方程式 mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{F} は位置についての 2 階の微分方程式です。だからこそ、初期位置と初期速度の 2 つを与えると以後の運動が一意に決まります。
  • 力が具体的に何であるか(重力・ばね・摩擦)を与えて初めて方程式が閉じます。力の形を指定する部分は法則ではなく、実験から得られる構成則(力の形を実験で決めた関係式のこと)です。
  • 運動量保存則は第 3 法則(作用反作用)から、力学的エネルギー保存則は力が保存力であることから、それぞれ運動方程式の帰結として導かれます。保存則は追加の公理ではありません。
  • 1 次元の保存系では、エネルギー保存則を 1 階の方程式とみなして積分するだけで運動が求まります(求積法。積分を 1 回行って運動を求める方法のことです)。ポテンシャルのグラフを描けば、運動の定性的な様子が計算前にわかります。

1. 動機:なぜ「力 = 加速度」なのか

Section titled “1. 動機:なぜ「力 = 加速度」なのか”

アリストテレス以来、力と運動の関係は「力が速度を決める」と考えられていました。荷車を押し続ければ動き、手を離せば止まる。日常の経験はこの見方を支持します。

この見方を壊したのがガリレオです。彼は斜面を転がる球を観察し、下り坂では加速し、上り坂では減速し、水平面では(摩擦を減らすほど)いつまでも同じ速さで動き続けることに気づきました。ここから、等速直線運動を保つのに力は要らないという結論が出ます。手を離した荷車が止まるのは、力が消えたからではなく、摩擦という別の力が働くからです。

この転換の意味を微分の言葉で言い直すと次のようになります。力が決めるのは速度 r˙\dot{\boldsymbol{r}} ではなく加速度 r¨\ddot{\boldsymbol{r}} である、つまり運動方程式は位置についての 2 階の微分方程式である、ということです。この「2 階」という事実が古典力学の性格をほとんど決めてしまいます。2 階の常微分方程式の初期値問題は、初期位置 r(t0)\boldsymbol{r}(t_0) と初期速度 r˙(t0)\dot{\boldsymbol{r}}(t_0) の 2 つを指定すれば解が一つに定まります。逆に言えば、位置だけを知っていても未来はわからず、速度も同時に知らなければならない。ラプラスが「宇宙のすべての粒子の位置と速度を知る知性は未来を計算できる」と述べたときの「位置と速度」の 2 つ組は、方程式が 2 階であることの直接の反映です。

ニュートンが 1687 年の『プリンキピア』で行ったのは、この洞察を公理系として書き下し、さらに万有引力という具体的な力の形と組み合わせて、ケプラーが観測から見出した惑星の運動法則を導いてみせたことでした。天体の運動と地上の落下運動が同じ方程式に従うという主張は、当時としては極端に大胆なものです。惑星運動への応用は 惑星の運動と中心力 で扱います(軌道が円錐曲線になることは ケプラーの第一法則(定理 5.2)[惑星の運動と中心力])。

この記事では、三法則を精密に述べ直したうえで、保存則が公理ではなく定理であることを確認します。運動量保存則もエネルギー保存則も、運動方程式から証明できます。証明を通して「どの仮定がどの保存則を支えているか」が見えると、仮定が破れる状況(摩擦がある、外力がある)で何が起きるかも予測できるようになります。

古典力学の最も単純な対象は質点です。質点とは、大きさを無視して 1 点で代表してよい物体のことで、その状態は位置ベクトルだけで表されます。地球を質点として扱ってよいかどうかは、問題のスケールによります(公転を論じるなら可、自転を論じるなら不可)。

3 次元空間を実ベクトル空間 R3\mathbb{R}^3 と同一視し、質点の位置を時刻 tt の関数 r(t)=(x(t),y(t),z(t))\boldsymbol{r}(t) = (x(t), y(t), z(t)) で表します。ベクトル空間としての性質は ベクトル空間と線形変換(ベクトル空間の定義(定義 3.1)[ベクトル空間と線形変換])を前提とします。r\boldsymbol{r} が 2 回微分可能なとき、

v(t)=r˙(t)=drdt,a(t)=r¨(t)=d2rdt2\boldsymbol{v}(t) = \dot{\boldsymbol{r}}(t) = \frac{d\boldsymbol{r}}{dt}, \qquad \boldsymbol{a}(t) = \ddot{\boldsymbol{r}}(t) = \frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2}

をそれぞれ速度・加速度と呼びます。ドットは時間微分を表すニュートン以来の記法です。微分の定義そのもの(定義 3.3[導関数の定義と基本的な微分法])は 導関数の定義と基本的な微分法 を参照してください。

物体には質量 m>0m > 0 という正の実数が割り当てられているとします。質量は物体固有の量で、場所や運動状態によらないと仮定します(古典力学の範囲では。相対論ではこの仮定が修正されます)。

三法則は互いに独立な主張です。順に見ていきます。

定義 3.1(慣性系)↗

時刻と空間座標の組 (t,r)(t, \boldsymbol{r}) を与える基準系のうち、他の物体から力を受けていないすべての質点が等速直線運動(加速度 0\boldsymbol{0} の運動)をするようなものを、慣性系と呼びます。

公理 3.2(第 1 法則(慣性の法則))↗

慣性系が少なくとも一つ存在します。

第 1 法則を「力を受けない物体は等速直線運動する」と述べると、第 2 法則で F=0\boldsymbol{F} = \boldsymbol{0} とした場合にすぎず、独立な主張になりません。第 1 法則の内容は、そうではなく、第 2 法則が成り立つ舞台(慣性系)が存在するという存在主張です。回転する円盤の上に固定した座標系では、力を受けていない質点も曲がって見えます(遠心力・コリオリ力と呼ばれる見かけの力が現れます)。第 1 法則は、そういう系ばかりではないことを保証しています。

公理 3.3(第 2 法則(運動の法則))↗

慣性系において、質量 mm の質点の運動量を p=mv\boldsymbol{p} = m\boldsymbol{v} と定めると、質点に働く力 F\boldsymbol{F} に対して

dpdt=F\frac{d\boldsymbol{p}}{dt} = \boldsymbol{F}

が成り立ちます。とくに mm が時間によらないとき、これは ma=Fm\boldsymbol{a} = \boldsymbol{F} と書けます。

質量が変化する場合(ロケットのように燃料を放出する場合)には dp/dt=Fd\boldsymbol{p}/dt = \boldsymbol{F} の形が本質的で、ma=Fm\boldsymbol{a} = \boldsymbol{F} をそのまま使うと誤ります。この記事では以後 mm は定数とします。

公理 3.4(第 3 法則(作用反作用の法則))↗

質点 ii が質点 jj に及ぼす力を Fji\boldsymbol{F}_{ji} と書くとき、

Fji=−Fij\boldsymbol{F}_{ji} = -\boldsymbol{F}_{ij}

が成り立ちます(弱い形)。さらに Fji\boldsymbol{F}_{ji} が 2 質点を結ぶ直線 rj−ri\boldsymbol{r}_j - \boldsymbol{r}_i に平行であるとき、強い形が成り立つと言います。

弱い形は運動量保存則を導くのに十分ですが、角運動量保存則には強い形が必要です。重力やクーロン力は強い形を満たします。一方、運動する電荷どうしに働く磁気的な力は第 3 法則を満たしません(失われた運動量は電磁場が持ち去ります)。第 3 法則は普遍的な真理ではなく、力の種類に依存する仮定である、と理解しておくのが安全です。保存則をより深い原理(時空の対称性)から捉え直す視点は 対称性と保存則(ネーターの定理) で扱います(ネーターの定理(定理 4.1)[対称性と保存則])。

注意 3.5(力と質量の定義は循環していないか)

「力とは何か」と問うと「質量かける加速度」と答え、「質量とは何か」と問うと「同じ力に対する加速度のしにくさ」と答える。これでは循環です。マッハはこの点を批判し、第 3 法則を使って質量比を先に定義する道を示しました。孤立した 2 質点が相互作用するとき、m1a1=−m2a2m_1\boldsymbol{a}_1 = -m_2\boldsymbol{a}_2 が成り立つので、加速度の比の測定から質量比 m2/m1=∣a1∣/∣a2∣m_2/m_1 = |\boldsymbol{a}_1|/|\boldsymbol{a}_2| が力を知らずに決まります。基準となる 1 kg を決めれば、あとはすべての質量が測定できます。質量が決まれば、第 2 法則が力を定義し、さらに「重力は距離の −2-2 乗に比例する」といった具体的な力の法則が独立の内容を持つことになります。

三法則だけでは運動は決まりません。F\boldsymbol{F} が位置・速度・時刻のどんな関数なのかを指定して初めて、運動方程式は解くべき微分方程式になります。この指定は実験から得られるもので、構成則と呼ばれます。代表的なものを挙げます。

万有引力。質量 MM, mm の質点が距離 rr だけ離れているとき、互いに引き合う力の大きさは GMm/r2GMm/r^2 です(G=6.674×10−11 N m2/kg2G = 6.674 \times 10^{-11}\ \mathrm{N\,m^2/kg^2})。地表付近では r≈R⊕r \approx R_\oplus(地球半径)とみなせるので、力の大きさは mgmg、g=GM⊕/R⊕2≈9.8 m/s2g = GM_\oplus/R_\oplus^2 \approx 9.8\ \mathrm{m/s^2} とほぼ一定になります。

ばねの力(フックの法則)。自然長からの伸び xx に対して F=−kxF = -kx(k>0k > 0 はばね定数)。この線形性は基本法則ではなく近似です。実際、一般のポテンシャル U(x)U(x) が x=x0x = x_0 で極小値をとるなら、テイラーの定理(定理 5.3[平均値の定理とテイラーの定理]、平均値の定理とテイラーの定理)より

U(x)=U(x0)+12U′′(x0)(x−x0)2+O ⁣((x−x0)3)U(x) = U(x_0) + \tfrac{1}{2}U''(x_0)(x-x_0)^2 + O\!\left((x-x_0)^3\right)

(1 次の項は U′(x0)=0U'(x_0)=0 より消えます)。したがって力は F=−U′(x)≈−U′′(x0)(x−x0)F = -U'(x) \approx -U''(x_0)(x-x_0) となり、U′′(x0)>0U''(x_0) > 0 ならば k=U′′(x0)k = U''(x_0) とおいてフックの法則が得られます(U′′(x0)=0U''(x_0)=0 の退化した極小、たとえば U∝(x−x0)4U \propto (x-x_0)^4 では 2 次の項が消えてしまい、この近似は使えません)。2 階微分が正である極小点の近傍では、どんな系も近似的にばねである。これが単振動があらゆる分野に現れる理由です。

摩擦力。固体どうしの滑り摩擦は、速さによらず大きさ μN\mu N(NN は垂直抗力、μ\mu は動摩擦係数)で運動と逆向きに働く、というクーロンの近似がよく使われます。流体中の抵抗は速さが小さいとき F=−γv\boldsymbol{F} = -\gamma\boldsymbol{v}(粘性抵抗)、速さが大きいとき大きさが v2v^2 に比例します。

拘束力。糸の張力や床からの垂直抗力は、あらかじめ大きさが与えられておらず、「糸が伸びない」「面にめり込まない」という条件を満たすように値が定まります。拘束力を消去して扱う技法が ラグランジュ形式の力学 の主要な動機の一つです。

次の命題は、「初期位置と初期速度を決めれば運動が一つに決まる」という §1 の主張を数学的に述べたものです。そのために力に課す条件が「リプシッツ連続」で、位置や速度が少し違うとき力の違いもその差の定数倍以内におさまる、つまり力が急激には変わらない、という意味です。証明は長いので Appendix に回してあり、ここでは主張だけ読めば十分です。

命題 4.1(初期値問題の解の一意性)✓

m>0m > 0 とし、F:R×Rn×Rn→Rn\boldsymbol{F} : \mathbb{R} \times \mathbb{R}^n \times \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n, (t,r,v)↦F(t,r,v)(t, \boldsymbol{r}, \boldsymbol{v}) \mapsto \boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r},\boldsymbol{v}) が連続で、さらに (r,v)(\boldsymbol{r},\boldsymbol{v}) について一様にリプシッツ連続、すなわちある L>0L > 0 が存在してすべての tt と (r1,v1),(r2,v2)(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{v}_1), (\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{v}_2) に対して

∣F(t,r1,v1)−F(t,r2,v2)∣≤L(∣r1−r2∣+∣v1−v2∣)|\boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{v}_1) - \boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{v}_2)| \le L\left(|\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2| + |\boldsymbol{v}_1-\boldsymbol{v}_2|\right)

が成り立つとします。このとき、区間 J∋t0J \ni t_0 上の C2C^2 級の解で

mr¨(t)=F(t,r(t),r˙(t)),r(t0)=r0,r˙(t0)=v0m\ddot{\boldsymbol{r}}(t) = \boldsymbol{F}(t, \boldsymbol{r}(t), \dot{\boldsymbol{r}}(t)), \qquad \boldsymbol{r}(t_0) = \boldsymbol{r}_0,\quad \dot{\boldsymbol{r}}(t_0) = \boldsymbol{v}_0

を満たすものは、JJ 上でたかだか一つです。

注意 4.2(一意性が破れるとき)

証明は Appendix に置きました。リプシッツ性を落とすと一意性は本当に壊れます。ノートンは、ms¨=sm\ddot{s} = \sqrt{s}(s≥0s \ge 0)という形の方程式が s(0)=s˙(0)=0s(0)=\dot{s}(0)=0 という初期条件に対して s≡0s \equiv 0 以外の解 s(t)=t4/144s(t) = t^4/144(m=1m=1 のとき)を持つことを指摘し、これを「ドーム」の形に成形した力学系として提示しました。右辺 s\sqrt{s} は s=0s=0 でリプシッツでないため 命題 4.1 の仮定を満たしません。古典力学の決定論は法則そのものからではなく、力の滑らかさという追加の仮定から出ている、ということです。

以下、直線上の運動 x(t)x(t) を考えます。運動方程式は mx¨=Fm\ddot{x} = F です。

FF が定数 F0F_0 のとき、a=F0/ma = F_0/m も定数です。v˙=a\dot{v} = a を t0=0t_0=0 から積分し(微積分学の基本定理 定理 5.4[積分の基本定理と定積分]、積分の基本定理と定積分)、

v(t)=v0+at,x(t)=x0+v0t+12at2.v(t) = v_0 + at, \qquad x(t) = x_0 + v_0 t + \tfrac{1}{2}at^2 .

第 1 式から t=(v−v0)/at = (v - v_0)/a(a≠0a \ne 0)を第 2 式に代入すると、

x−x0=v0⋅v−v0a+a2⋅(v−v0)2a2=2v0(v−v0)+(v−v0)22a=v2−v022ax - x_0 = v_0\cdot\frac{v-v_0}{a} + \frac{a}{2}\cdot\frac{(v-v_0)^2}{a^2} = \frac{2v_0(v-v_0) + (v-v_0)^2}{2a} = \frac{v^2 - v_0^2}{2a}

となり、時刻を含まない関係式 v2−v02=2a(x−x0)v^2 - v_0^2 = 2a(x-x_0) が得られます。これは後に述べるエネルギー保存則(定理 7.5)の特別な場合です。実際、両辺に m/2m/2 を掛ければ 12mv2−12mv02=F0(x−x0)\frac{1}{2}mv^2 - \frac{1}{2}mv_0^2 = F_0 (x - x_0) となり、運動エネルギーの変化が仕事に等しいという式そのものです。

例 5.1(粘性抵抗を受ける落下)

鉛直下向きを正にとり、質量 mm の物体が重力 mgmg と粘性抵抗 −γv-\gamma v(γ>0\gamma > 0)を受けて v(0)=0v(0)=0 から落下するとします。運動方程式は

mv˙=mg−γv.m\dot{v} = mg - \gamma v .

τ=m/γ\tau = m/\gamma、v∞=mg/γv_\infty = mg/\gamma とおくと v˙=−(v−v∞)/τ\dot{v} = -(v - v_\infty)/\tau です。w=v−v∞w = v - v_\infty とおけば w˙=−w/τ\dot{w} = -w/\tau なので、ddt(wet/τ)=et/τ(w˙+w/τ)=0\frac{d}{dt}\left(w e^{t/\tau}\right) = e^{t/\tau}(\dot{w} + w/\tau) = 0。よって w(t)=w(0)e−t/τ=−v∞e−t/τw(t) = w(0)e^{-t/\tau} = -v_\infty e^{-t/\tau} となり、

v(t)=v∞(1−e−t/τ),x(t)=v∞[t−τ(1−e−t/τ)]v(t) = v_\infty\left(1 - e^{-t/\tau}\right), \qquad x(t) = v_\infty\left[t - \tau\left(1 - e^{-t/\tau}\right)\right]

(x(0)=0x(0)=0 として vv を積分しました)。t→∞t \to \infty で v→v∞v \to v_\infty、これが終端速度です。

抵抗が無視できる極限で自由落下に戻ることを確かめます。t/τt/\tau が小さいとき e−t/τ=1−tτ+t22τ2−⋯e^{-t/\tau} = 1 - \frac{t}{\tau} + \frac{t^2}{2\tau^2} - \cdots なので

v(t)=v∞(tτ−t22τ2+⋯ )=gt(1−t2τ+⋯ )v(t) = v_\infty\left(\frac{t}{\tau} - \frac{t^2}{2\tau^2} + \cdots\right) = gt\left(1 - \frac{t}{2\tau} + \cdots\right)

(v∞/τ=gv_\infty/\tau = g を使いました)。第 1 項は gtgt、すなわち自由落下の速度です。補正項の相対的な大きさは t/(2τ)t/(2\tau) なので、t≪τt \ll \tau の間は抵抗を無視してよい、と定量的に言えます。

vtv∞τ2τ3τ4τ自由落下 v = gt抵抗あり
粘性抵抗を受ける落下の速度(実線)。破線は抵抗がないときの自由落下で、時刻 τ に終端速度 v∞ へ達する直線。実線は最初はこの直線に接し、やがて v∞ に近づく。

定理 5.2(調和振動子の一般解)✓

m>0m > 0, k>0k > 0 とし、ω=k/m\omega = \sqrt{k/m} とおきます。x:R→Rx : \mathbb{R} \to \mathbb{R} が C2C^2 級で

mx¨(t)=−k x(t)(t∈R)m\ddot{x}(t) = -k\,x(t) \qquad (t \in \mathbb{R})

を満たすならば、

x(t)=x(0)cos⁡ωt+x˙(0)ωsin⁡ωtx(t) = x(0)\cos\omega t + \frac{\dot{x}(0)}{\omega}\sin\omega t

がすべての tt で成り立ちます。逆に、任意の実数 A,BA, B に対し x(t)=Acos⁡ωt+Bsin⁡ωtx(t) = A\cos\omega t + B\sin\omega t はこの方程式の解です。

証明の方針を先に述べます。解が一つだけであることを示すには、同じ初期条件を持つ 2 つの解の差 uu を考え、それがつねに 00 であることを言えば十分です。差 uu も同じ形の方程式を満たすので、運動エネルギーとばねの位置エネルギーに相当する量 EE を作ると、時間がたっても変わらず、しかも最初は 00 になります。このとき uu が 00 以外の値をとれない、という筋道です。

証明(定理 5.2)

まず逆向きを確かめます。x(t)=Acos⁡ωt+Bsin⁡ωtx(t) = A\cos\omega t + B\sin\omega t とすると x˙(t)=−Aωsin⁡ωt+Bωcos⁡ωt\dot{x}(t) = -A\omega\sin\omega t + B\omega\cos\omega t、 x¨(t)=−Aω2cos⁡ωt−Bω2sin⁡ωt=−ω2x(t)\ddot{x}(t) = -A\omega^2\cos\omega t - B\omega^2\sin\omega t = -\omega^2 x(t) なので、mx¨=−mω2x=−kxm\ddot{x} = -m\omega^2 x = -kx となり方程式を満たします。

次に一意性を示します。xx を方程式の解とし、A=x(0)A = x(0), B=x˙(0)/ωB = \dot{x}(0)/\omega とおいて

u(t)=x(t)−(Acos⁡ωt+Bsin⁡ωt)u(t) = x(t) - \left(A\cos\omega t + B\sin\omega t\right)

と定めます。xx も括弧内も方程式の解であり、方程式は uu について線形なので、uu も u¨=−ω2u\ddot{u} = -\omega^2 u を満たします。また u(0)=x(0)−A=0u(0) = x(0) - A = 0、u˙(0)=x˙(0)−Bω=0\dot{u}(0) = \dot{x}(0) - B\omega = 0 です。

ここで

E(t)=12u˙(t)2+12ω2u(t)2E(t) = \tfrac{1}{2}\dot{u}(t)^2 + \tfrac{1}{2}\omega^2 u(t)^2

とおきます。uu は C2C^2 級なので EE は微分可能で、積の微分法から

E˙=u˙u¨+ω2uu˙=u˙(−ω2u)+ω2uu˙=0.\dot{E} = \dot{u}\ddot{u} + \omega^2 u\dot{u} = \dot{u}\left(-\omega^2 u\right) + \omega^2 u \dot{u} = 0 .

よって EE は定数であり、E(0)=12⋅0+12ω2⋅0=0E(0) = \frac{1}{2}\cdot 0 + \frac{1}{2}\omega^2\cdot 0 = 0 だから E≡0E \equiv 0 です。EE は非負の 2 項の和なので、両方が 00、とくに 12ω2u(t)2=0\frac{1}{2}\omega^2 u(t)^2 = 0。ω>0\omega > 0 より u(t)=0u(t) = 0 がすべての tt で成り立ちます。

この証明は、後で導くエネルギー保存則(定理 7.5)を一意性の道具として先取りしたものです。線形代数の言葉で言えば、解空間が 2 次元のベクトル空間で {cos⁡ωt,sin⁡ωt}\{\cos\omega t, \sin\omega t\} がその基底であることを示したことになります。

Acos⁡ωt+Bsin⁡ωt=Ccos⁡(ωt−φ)A\cos\omega t + B\sin\omega t = C\cos(\omega t - \varphi)(C=A2+B2C = \sqrt{A^2+B^2}, tan⁡φ=B/A\tan\varphi = B/A)と書き直せば、CC が振幅、ω\omega が角振動数、φ\varphi が位相です。周期は T=2π/ω=2πm/kT = 2\pi/\omega = 2\pi\sqrt{m/k} で、振幅によらないことに注意してください(等時性)。

例 5.3(ばね振り子の具体的な数値)

m=0.50 kgm = 0.50\ \mathrm{kg}, k=200 N/mk = 200\ \mathrm{N/m} のばねに付けた物体を、つり合いの位置から 0.030 m0.030\ \mathrm{m} だけ引いて静かに手を離します。

角振動数は ω=k/m=200/0.50=400=20 rad/s\omega = \sqrt{k/m} = \sqrt{200/0.50} = \sqrt{400} = 20\ \mathrm{rad/s}、周期は T=2π/20≈0.314 sT = 2\pi/20 \approx 0.314\ \mathrm{s}、振動数は 1/T≈3.18 Hz1/T \approx 3.18\ \mathrm{Hz} です。

初期条件は x(0)=0.030 mx(0) = 0.030\ \mathrm{m}, x˙(0)=0\dot{x}(0) = 0 なので、定理 5.2 より x(t)=0.030cos⁡(20t) mx(t) = 0.030\cos(20t)\ \mathrm{m}。したがって最大の速さは ωC=20×0.030=0.60 m/s\omega C = 20 \times 0.030 = 0.60\ \mathrm{m/s}、最大の加速度の大きさは ω2C=400×0.030=12 m/s2\omega^2 C = 400 \times 0.030 = 12\ \mathrm{m/s^2} です。

全エネルギーは 12kC2=12×200×(0.030)2=0.090 J\frac{1}{2}kC^2 = \frac{1}{2}\times 200 \times (0.030)^2 = 0.090\ \mathrm{J}。これが中心を通過する瞬間にすべて運動エネルギーになるはずで、実際 12mvmax⁡2=12×0.50×(0.60)2=0.090 J\frac{1}{2}m v_{\max}^2 = \frac{1}{2}\times 0.50 \times (0.60)^2 = 0.090\ \mathrm{J} と一致します。

ここからは NN 個の質点からなる系を考えます。質点 ii(質量 mim_i、位置 ri\boldsymbol{r}_i)に働く力を、系の外から働く外力 Fiext\boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}} と、系内の質点 jj から働く内力 Fij\boldsymbol{F}_{ij} に分けます。第 2 法則(公理 3.3)は

mir¨i=Fiext+∑j≠iFij(i=1,…,N)m_i \ddot{\boldsymbol{r}}_i = \boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}} + \sum_{j \ne i} \boldsymbol{F}_{ij} \qquad (i = 1,\dots,N)

です。

定理 6.1(運動量保存則)✓

上の設定で、内力が第 3 法則の弱い形(公理 3.4)Fij=−Fji\boldsymbol{F}_{ij} = -\boldsymbol{F}_{ji} を満たすとします。系の全運動量を P=∑i=1Nmir˙i\boldsymbol{P} = \sum_{i=1}^{N} m_i\dot{\boldsymbol{r}}_i と定めると、

dPdt=∑i=1NFiext\frac{d\boldsymbol{P}}{dt} = \sum_{i=1}^{N}\boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}}

が成り立ちます。とくに外力の総和が恒等的に 0\boldsymbol{0} ならば、P\boldsymbol{P} は時間によらず一定です。

証明(定理 6.1)

運動方程式を ii について総和します。

dPdt=∑imir¨i=∑iFiext+∑i∑j≠iFij.\frac{d\boldsymbol{P}}{dt} = \sum_{i} m_i\ddot{\boldsymbol{r}}_i = \sum_i \boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}} + \sum_{i}\sum_{j \ne i}\boldsymbol{F}_{ij} .

二重和は、順序対 (i,j)(i,j)(i≠ji \ne j)すべてにわたる和です。これを非順序対 {i,j}\{i,j\} ごとにまとめると、各非順序対からちょうど 2 項 Fij\boldsymbol{F}_{ij} と Fji\boldsymbol{F}_{ji} が現れます。第 3 法則の弱い形よりこの 2 項の和は Fij+Fji=0\boldsymbol{F}_{ij} + \boldsymbol{F}_{ji} = \boldsymbol{0} です。したがって二重和全体が 0\boldsymbol{0} となり、第 1 式が従います。

外力の総和が 0\boldsymbol{0} なら dP/dt=0d\boldsymbol{P}/dt = \boldsymbol{0} であり、各成分が定数関数となるので P\boldsymbol{P} は一定です。

系 6.2(重心の運動)✓

全質量を M=∑imiM = \sum_i m_i、重心を R=1M∑imiri\boldsymbol{R} = \frac{1}{M}\sum_i m_i \boldsymbol{r}_i とすると、定理 6.1 の仮定の下で

MR¨=∑iFiextM\ddot{\boldsymbol{R}} = \sum_{i}\boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}}

が成り立ちます。すなわち重心は、全質量が集まった 1 個の質点が外力の合計を受けるのと同じ運動をします。

証明(系 6.2)

MR=∑imiriM\boldsymbol{R} = \sum_i m_i\boldsymbol{r}_i を tt で 1 回微分すると MR˙=∑imir˙i=PM\dot{\boldsymbol{R}} = \sum_i m_i\dot{\boldsymbol{r}}_i = \boldsymbol{P} です(mim_i も MM も定数なので微分の線形性がそのまま使えます)。もう 1 回微分して MR¨=dP/dtM\ddot{\boldsymbol{R}} = d\boldsymbol{P}/dt となり、定理 6.1 を適用すれば結論を得ます。

この系のおかげで、花火が破裂しても破片全体の重心は元の放物線を描き続ける、といったことがただちに言えます。破裂の内力がどれほど複雑でも、重心の運動には一切影響しません。

例 6.3(完全非弾性衝突)

なめらかな水平面上を m1=2.0 kgm_1 = 2.0\ \mathrm{kg} の台車が v1=3.0 m/sv_1 = 3.0\ \mathrm{m/s} で走り、静止している m2=4.0 kgm_2 = 4.0\ \mathrm{kg} の台車に衝突して一体になりました。水平方向には外力が働かないので、定理 6.1 より衝突前後で運動量が保存します。

m1v1+m2⋅0=(m1+m2)v′  ⟹  v′=2.0×3.06.0=1.0 m/s.m_1 v_1 + m_2\cdot 0 = (m_1+m_2)v' \implies v' = \frac{2.0\times 3.0}{6.0} = 1.0\ \mathrm{m/s}.

運動エネルギーはどうなるでしょうか。衝突前は 12×2.0×3.02=9.0 J\frac{1}{2}\times 2.0\times 3.0^2 = 9.0\ \mathrm{J}、衝突後は 12×6.0×1.02=3.0 J\frac{1}{2}\times 6.0 \times 1.0^2 = 3.0\ \mathrm{J} で、6.0 J6.0\ \mathrm{J} が失われています。失われた分は変形と発熱に使われました。

運動量は保存するが運動エネルギーは保存しない。この非対称性は重要です。運動量保存は第 3 法則だけから出るので内力の詳細によらないのに対し、力学的エネルギー保存には次節で見るように「力が保存力である」という追加の条件が要ります。

定義 7.1(仕事と運動エネルギー)↗

質点が力 F\boldsymbol{F} を受けながら C1C^1 級の道 r:[t1,t2]→R3\boldsymbol{r}:[t_1,t_2] \to \mathbb{R}^3 に沿って動くとき、この間に力がした仕事を

W=∫t1t2F(t)⋅r˙(t) dtW = \int_{t_1}^{t_2} \boldsymbol{F}(t)\cdot\dot{\boldsymbol{r}}(t)\,dt

と定めます。また質点の運動エネルギーを K=12m∣v∣2K = \frac{1}{2}m|\boldsymbol{v}|^2 と定めます。

定理 7.2(仕事・運動エネルギー定理)✓

質量 mm(定数)の質点が慣性系で運動方程式 mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{F} を満たし、r\boldsymbol{r} が [t1,t2][t_1,t_2] 上で C2C^2 級、F\boldsymbol{F} が連続であるとします。このとき

K(t2)−K(t1)=∫t1t2F⋅r˙ dtK(t_2) - K(t_1) = \int_{t_1}^{t_2}\boldsymbol{F}\cdot\dot{\boldsymbol{r}}\,dt

が成り立ちます。すなわち運動エネルギーの変化量は、その間に力がした仕事に等しくなります。

証明(定理 7.2)

K(t)=12m v(t)⋅v(t)K(t) = \frac{1}{2}m\,\boldsymbol{v}(t)\cdot\boldsymbol{v}(t) を微分します。内積は各成分の積の和なので、積の微分法を成分ごとに適用して

dKdt=12m(v˙⋅v+v⋅v˙)=m a⋅v\frac{dK}{dt} = \frac{1}{2}m\left(\dot{\boldsymbol{v}}\cdot\boldsymbol{v} + \boldsymbol{v}\cdot\dot{\boldsymbol{v}}\right) = m\,\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{v}

(内積の対称性を使いました)。ここで運動方程式 ma=Fm\boldsymbol{a} = \boldsymbol{F}(公理 3.3)を代入すると dKdt=F⋅v\dfrac{dK}{dt} = \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v} です。

r\boldsymbol{r} が C2C^2 級、F\boldsymbol{F} が連続なので右辺は [t1,t2][t_1,t_2] 上連続であり、KK は C1C^1 級です。微積分学の基本定理により

K(t2)−K(t1)=∫t1t2dKdt dt=∫t1t2F⋅r˙ dt.K(t_2)-K(t_1) = \int_{t_1}^{t_2}\frac{dK}{dt}\,dt = \int_{t_1}^{t_2}\boldsymbol{F}\cdot\dot{\boldsymbol{r}}\,dt .

定義 7.3(保存力とポテンシャル)↗

領域 D⊂R3D \subset \mathbb{R}^3 上で定義された力の場 F:D→R3\boldsymbol{F}: D \to \mathbb{R}^3 が保存力であるとは、C1C^1 級の関数 U:D→RU : D \to \mathbb{R} が存在して

F(r)=−∇U(r)(r∈D)\boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}) = -\nabla U(\boldsymbol{r}) \qquad (\boldsymbol{r} \in D)

となることをいいます。この UU をポテンシャルエネルギーと呼びます。UU は定数の差を除いて一意です(DD が連結のとき)。

ここで ∇U\nabla U(勾配)は、UU を x,y,zx, y, z のそれぞれで偏微分したものを並べたベクトル (∂U/∂x, ∂U/∂y, ∂U/∂z)\left(\partial U/\partial x,\ \partial U/\partial y,\ \partial U/\partial z\right) のことです。1 次元では普通の微分 U′(x)U'(x) にあたり、F=−∇U\boldsymbol{F} = -\nabla U は F=−U′(x)F = -U'(x) と読めます。

保存力の力は位置だけで決まり、速度や時刻を含みません。摩擦力は運動の向きに依存する(速度の関数である)ため、この定義から外れます。多変数の微分と勾配 ∇\nabla については 全微分可能性の定義(定義 4.1)[多変数関数の微分と偏微分](多変数関数の微分と偏微分)を参照してください。

命題 7.4(1 次元の連続な力は必ず保存力)✓

I⊂RI \subset \mathbb{R} を区間、F:I→RF : I \to \mathbb{R} を連続関数とし、x0∈Ix_0 \in I を固定して

U(x)=−∫x0xF(ξ) dξU(x) = -\int_{x_0}^{x} F(\xi)\,d\xi

とおきます。このとき UU は C1C^1 級で U′(x)=−F(x)U'(x) = -F(x)、すなわち FF は保存力です。

証明(命題 7.4)

FF は II 上連続なので、微積分学の基本定理より x↦∫x0xF(ξ)dξx \mapsto \int_{x_0}^{x}F(\xi)d\xi は微分可能で導関数が F(x)F(x) に等しく、FF が連続だからこの導関数も連続です。両辺に −1-1 を掛けて U′(x)=−F(x)U'(x) = -F(x)、かつ U′U' は連続、すなわち UU は C1C^1 級です。

1 次元では位置の連続関数である力はすべて保存力になります。エネルギー保存が破れるのは、力が速度に依存する(摩擦・抵抗)か、時刻に陽に依存する(外から揺すられている)場合だけです。3 次元では話が変わり、位置だけの関数でも保存力とは限りません(∇×F=0\nabla \times \boldsymbol{F} = \boldsymbol{0} が必要です)。

定理 7.5(力学的エネルギー保存則)✓

m>0m > 0 を定数、UU を領域 DD 上の C1C^1 級関数とし、質点が DD 内で C2C^2 級の軌道を描き、運動方程式

mr¨(t)=−∇U(r(t))m\ddot{\boldsymbol{r}}(t) = -\nabla U(\boldsymbol{r}(t))

を満たすとします。このとき力学的エネルギー

E(t)=12m∣r˙(t)∣2+U(r(t))E(t) = \tfrac{1}{2}m|\dot{\boldsymbol{r}}(t)|^2 + U(\boldsymbol{r}(t))

は時間によらず一定です。

証明(定理 7.5)

定理 7.2 の証明中で示したように dKdt=F⋅r˙\dfrac{dK}{dt} = \boldsymbol{F}\cdot\dot{\boldsymbol{r}} です。一方、合成関数の微分法(連鎖律、定理 6.1[多変数関数の微分と偏微分])より

ddtU(r(t))=∇U(r(t))⋅r˙(t).\frac{d}{dt}U(\boldsymbol{r}(t)) = \nabla U(\boldsymbol{r}(t))\cdot\dot{\boldsymbol{r}}(t).

仮定 F=−∇U\boldsymbol{F} = -\nabla U を使うと、

dEdt=dKdt+ddtU(r(t))=(−∇U)⋅r˙+∇U⋅r˙=0.\frac{dE}{dt} = \frac{dK}{dt} + \frac{d}{dt}U(\boldsymbol{r}(t)) = \left(-\nabla U\right)\cdot\dot{\boldsymbol{r}} + \nabla U\cdot\dot{\boldsymbol{r}} = 0 .

EE は区間上で微分可能かつ導関数が恒等的に 00 なので、平均値の定理より定数関数です。

系 7.6(1 次元保存系の求積)✓

1 次元で mx¨=−U′(x)m\ddot{x} = -U'(x)(UU は C1C^1 級)に従う運動を考え、E=12mx˙2+U(x)E = \frac{1}{2}m\dot{x}^2 + U(x) とおきます。ある区間で E−U(x)>0E - U(x) > 0 かつ x˙>0\dot{x} > 0 であれば、その区間で

x˙=2(E−U(x))m,t−t1=∫x(t1)x(t)m2(E−U(ξ)) dξ\dot{x} = \sqrt{\frac{2\left(E - U(x)\right)}{m}}, \qquad t - t_1 = \int_{x(t_1)}^{x(t)}\sqrt{\frac{m}{2\left(E-U(\xi)\right)}}\,d\xi

が成り立ちます。すなわち運動は 1 回の積分(求積)で決まります。

証明(系 7.6)

定理 7.5 より 12mx˙2=E−U(x)\frac{1}{2}m\dot{x}^2 = E - U(x) です。両辺を m/2m/2 で割って平方根をとり、x˙>0\dot{x} > 0 という仮定から符号を正に選ぶと第 1 式を得ます。次に第 1 式を dx2(E−U(x))/m=dt\dfrac{dx}{\sqrt{2(E-U(x))/m}} = dt と変数分離し、t1t_1 から tt まで積分します。左辺は xx についての置換積分になり、E−U>0E - U > 0 より被積分関数は連続なので、第 2 式が従います。

7.1. ポテンシャルの図から運動を読む

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E−U(x)=12mx˙2≥0E - U(x) = \frac{1}{2}m\dot{x}^2 \ge 0 なので、質点は U(x)≤EU(x) \le E を満たす範囲にしか入れません。等号が成り立つ点では速度が 00 になり、そこで折り返します。これを転回点と呼びます。ポテンシャルのグラフに水平線 U=EU = E を引くだけで、運動が有界か非有界か、どこで折り返すかがわかります。

UxEx₁x₂KU → 0 (束縛が解ける高さ)
ポテンシャル曲線とエネルギー準位。両者の差の高さが運動エネルギーで、両者が一致する点が転回点。

図の EE では、質点は x1x_1 と x2x_2 の間を往復します(有界運動)。EE を上げて破線が U→0U \to 0 の水平漸近線を超えると、右側の転回点が消えて質点は無限遠まで飛んでいきます(非有界運動)。この境界のエネルギーが「束縛が解ける」条件で、天体の場合はこれが脱出速度を与えます。

例 7.7(地球からの脱出速度)

地球(質量 MM、半径 RR)の中心から距離 rr にある質量 mm の物体のポテンシャルは U(r)=−GMm/rU(r) = -GMm/r です(無限遠を基準にとりました)。地表から鉛直上向きに速さ vv で打ち出すとき、空気抵抗と地球の自転を無視すれば 定理 7.5 より

E=12mv2−GMmRE = \frac{1}{2}mv^2 - \frac{GMm}{R}

が保存します。無限遠に到達する(r→∞r \to \infty で U→0U \to 0、12mr˙2≥0\frac{1}{2}m\dot{r}^2 \ge 0)ためには E≥0E \ge 0 が必要十分で、

v≥2GMR.v \ge \sqrt{\frac{2GM}{R}} .

数値を入れます。GM=3.986×1014 m3/s2GM = 3.986\times 10^{14}\ \mathrm{m^3/s^2}, R=6.371×106 mR = 6.371\times 10^{6}\ \mathrm{m} なので

2GMR=2×3.986×10146.371×106=1.251×108 m2/s2,v≥1.119×104 m/s≈11.2 km/s.\frac{2GM}{R} = \frac{2 \times 3.986\times 10^{14}}{6.371\times 10^{6}} = 1.251\times 10^{8}\ \mathrm{m^2/s^2}, \qquad v \ge 1.119\times 10^{4}\ \mathrm{m/s} \approx 11.2\ \mathrm{km/s}.

質量 mm が消えることに注意してください。ボールでもロケットでも必要な速さは同じです。

例 7.8(摩擦がある場合:エネルギーは保存しない)

水平面上で m=2.0 kgm = 2.0\ \mathrm{kg} の物体を v0=6.0 m/sv_0 = 6.0\ \mathrm{m/s} で滑らせます。動摩擦係数を μ=0.30\mu = 0.30、g=9.8 m/s2g = 9.8\ \mathrm{m/s^2} とすると、垂直抗力は N=mgN = mg、摩擦力の大きさは μmg\mu mg で運動と逆向きです。運動方程式は mv˙=−μmgm\dot{v} = -\mu mg、つまり加速度は −μg=−2.94 m/s2-\mu g = -2.94\ \mathrm{m/s^2} の一定値です。

等加速度運動の関係式 v2−v02=2a(x−x0)v^2 - v_0^2 = 2a(x-x_0) に v=0v = 0 を代入して、停止距離は

d=v022μg=362×0.30×9.8=365.88≈6.1 m.d = \frac{v_0^2}{2\mu g} = \frac{36}{2 \times 0.30 \times 9.8} = \frac{36}{5.88} \approx 6.1\ \mathrm{m}.

エネルギーの帳尻を見ます。初めの運動エネルギーは 12×2.0×6.02=36 J\frac{1}{2}\times 2.0 \times 6.0^2 = 36\ \mathrm{J}、摩擦力がした仕事は −μmg d=−0.30×2.0×9.8×6.1≈−36 J-\mu mg\,d = -0.30\times 2.0\times 9.8\times 6.1 \approx -36\ \mathrm{J} で、定理 7.2 のとおり両者は釣り合います。しかし摩擦力は速度の向きに依存するので保存力ではなく、36 J36\ \mathrm{J} を蓄えるポテンシャルは存在しません。力学的エネルギーは熱に変わって力学の枠から出ていきます。

三法則から保存則が導かれる筋道

保存則が「運動方程式の帰結」であることは、この図から読み取れます。しかし逆に、保存則の側をより基本的な原理から導く道もあります。空間の一様性が運動量保存を、時間の一様性がエネルギー保存を導く、というのがネーターの定理です(対称性と保存則(ネーターの定理))。その定式化には ラグランジュ形式の力学 が必要になります。

演習 8.1易

地上から鉛直上向きに初速 v0=20 m/sv_0 = 20\ \mathrm{m/s} でボールを投げ上げます。空気抵抗を無視し g=9.8 m/s2g = 9.8\ \mathrm{m/s^2} とするとき、最高点の高さ hh と、そこに達するまでの時間 t1t_1 を求めてください。さらに、同じ hh をエネルギー保存則からも求めてください。

解答

鉛直上向きを正にとると、力は重力だけなので my¨=−mgm\ddot{y} = -mg、加速度は a=−ga = -g の一定値です。等加速度運動の公式より v(t)=v0−gtv(t) = v_0 - gt。最高点では v=0v = 0 なので

t1=v0g=209.8≈2.04 s.t_1 = \frac{v_0}{g} = \frac{20}{9.8} \approx 2.04\ \mathrm{s}.

高さは y(t)=v0t−12gt2y(t) = v_0 t - \frac{1}{2}gt^2 に代入して

h=v02g−12⋅v02g=v022g=40019.6≈20.4 m.h = \frac{v_0^2}{g} - \frac{1}{2}\cdot\frac{v_0^2}{g} = \frac{v_0^2}{2g} = \frac{400}{19.6} \approx 20.4\ \mathrm{m}.

エネルギーからも同じ結果が出ます。重力 −mg-mg は位置だけの関数なので 命題 7.4 より保存力で、U(y)=mgyU(y) = mgy(U′(y)=mg=−(−mg)U'(y) = mg = -(-mg))。定理 7.5 より

12mv02+0=12m⋅02+mgh  ⟹  h=v022g,\tfrac{1}{2}mv_0^2 + 0 = \tfrac{1}{2}m\cdot 0^2 + mgh \implies h = \frac{v_0^2}{2g},

質量によらず 20.4 m20.4\ \mathrm{m} です。

演習 8.2標準

mx¨=−kxm\ddot{x} = -kx に従う運動が初期条件 x(0)=x0x(0) = x_0, x˙(0)=v0\dot{x}(0) = v_0 から始まるとき、振幅 CC(x(t)x(t) がとる最大値)を x0,v0,ω=k/mx_0, v_0, \omega = \sqrt{k/m} で表してください。またその結果がエネルギー保存則と整合することを確かめてください。

解答

定理 5.2 より x(t)=x0cos⁡ωt+v0ωsin⁡ωtx(t) = x_0\cos\omega t + \dfrac{v_0}{\omega}\sin\omega t です。A=x0A = x_0, B=v0/ωB = v_0/\omega とおき、C=A2+B2C = \sqrt{A^2+B^2}、cos⁡φ=A/C\cos\varphi = A/C, sin⁡φ=B/C\sin\varphi = B/C となる φ\varphi をとると(C>0C > 0 のとき (A/C,B/C)(A/C, B/C) は単位円上の点なのでそのような φ\varphi が存在します)、加法定理から

x(t)=C(cos⁡φcos⁡ωt+sin⁡φsin⁡ωt)=Ccos⁡(ωt−φ).x(t) = C\left(\cos\varphi\cos\omega t + \sin\varphi\sin\omega t\right) = C\cos(\omega t - \varphi).

cos⁡\cos の値域は [−1,1][-1,1] で、ωt−φ=0\omega t - \varphi = 0 となる tt が存在するので最大値はちょうど CC。したがって

C=x02+v02ω2.C = \sqrt{x_0^2 + \frac{v_0^2}{\omega^2}} .

エネルギーとの整合を見ます。定理 7.5 より E=12mv02+12kx02E = \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}kx_0^2 が一定です。一方、x=±Cx = \pm C の瞬間には x˙=0\dot{x} = 0 なので E=12kC2E = \frac{1}{2}kC^2。両者を等置して

12kC2=12mv02+12kx02  ⟹  C2=x02+mkv02=x02+v02ω2,\tfrac{1}{2}kC^2 = \tfrac{1}{2}mv_0^2 + \tfrac{1}{2}kx_0^2 \implies C^2 = x_0^2 + \frac{m}{k}v_0^2 = x_0^2 + \frac{v_0^2}{\omega^2},

先の結果と一致します。

演習 8.3標準

なめらかな直線上を質量 m1,m2m_1, m_2 の質点が速度 v1,v2v_1, v_2 で運動し、衝突して一体になりました。外力は働かないとします。衝突後の速度 v′v' を求め、失われた運動エネルギーが

ΔK=−12μ(v1−v2)2,μ=m1m2m1+m2\Delta K = -\frac{1}{2}\mu\left(v_1 - v_2\right)^2, \qquad \mu = \frac{m_1m_2}{m_1+m_2}

であることを示してください(μ\mu を換算質量といいます)。

解答

外力の総和が 00 なので 定理 6.1 より運動量が保存し、

m1v1+m2v2=(m1+m2)v′  ⟹  v′=m1v1+m2v2m1+m2.m_1v_1 + m_2v_2 = (m_1+m_2)v' \implies v' = \frac{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2}.

M=m1+m2M = m_1+m_2 とおきます。運動エネルギーの変化は

ΔK=12Mv′2−12m1v12−12m2v22=(m1v1+m2v2)22M−m1v12+m2v222.\Delta K = \tfrac{1}{2}Mv'^2 - \tfrac{1}{2}m_1v_1^2 - \tfrac{1}{2}m_2v_2^2 = \frac{(m_1v_1+m_2v_2)^2}{2M} - \frac{m_1v_1^2 + m_2v_2^2}{2}.

右辺を通分して分子を計算します。

(m1v1+m2v2)2−M(m1v12+m2v22)=m12v12+2m1m2v1v2+m22v22−(m12v12+m1m2v22+m1m2v12+m22v22)=2m1m2v1v2−m1m2v12−m1m2v22=−m1m2(v1−v2)2.\begin{aligned} (m_1v_1+m_2v_2)^2 - M\left(m_1v_1^2+m_2v_2^2\right) &= m_1^2v_1^2 + 2m_1m_2v_1v_2 + m_2^2v_2^2 \\ &\quad - \left(m_1^2v_1^2 + m_1m_2v_2^2 + m_1m_2v_1^2 + m_2^2v_2^2\right) \\ &= 2m_1m_2v_1v_2 - m_1m_2v_1^2 - m_1m_2v_2^2 \\ &= -m_1m_2\left(v_1-v_2\right)^2 . \end{aligned}

よって

ΔK=−m1m2(v1−v2)22M=−12μ(v1−v2)2≤0.\Delta K = \frac{-m_1m_2(v_1-v_2)^2}{2M} = -\frac{1}{2}\mu(v_1-v_2)^2 \le 0 .

失われる量は相対速度 v1−v2v_1 - v_2 だけで決まり、相対速度が 00(同じ速度で並走)のときだけ損失がありません。例 6.3 の数値では μ=8.0/6.0≈1.33 kg\mu = 8.0/6.0 \approx 1.33\ \mathrm{kg}、ΔK=−12×1.33×3.02=−6.0 J\Delta K = -\frac{1}{2}\times 1.33 \times 3.0^2 = -6.0\ \mathrm{J} となり、直接計算した値と一致します。

演習 8.4難

系 7.6 の求積公式を使い、U(x)=12kx2U(x) = \frac{1}{2}kx^2 の中でエネルギー E>0E > 0 で運動する質量 mm の質点の周期を計算し、T=2πm/kT = 2\pi\sqrt{m/k} となること(すなわち周期が EE によらないこと)を確かめてください。

解答

転回点は U(x)=EU(x) = E を解いて x=±Ax = \pm A、A=2E/kA = \sqrt{2E/k} です。運動は −A-A と AA の間の往復で、対称性から、00 から AA まで動くのに要する時間の 4 倍が周期になります。実際、UU は偶関数なので x↦−xx \mapsto -x で方程式が不変であり、また時間反転 t↦−tt \mapsto -t でも不変なので、0→A0 \to A、A→0A \to 0、0→−A0 \to -A、−A→0-A \to 0 の 4 区間の所要時間はすべて等しくなります。

系 7.6 より、xx が 00 から AA へ動く間(そこでは x˙>0\dot{x} > 0、かつ x<Ax < A で E−U>0E - U > 0)

T4=∫0Am2(E−12kξ2) dξ=∫0Amk⋅dξ2Ek−ξ2=mk∫0AdξA2−ξ2.\frac{T}{4} = \int_{0}^{A}\sqrt{\frac{m}{2\left(E - \frac{1}{2}k\xi^2\right)}}\,d\xi = \int_{0}^{A}\sqrt{\frac{m}{k}}\cdot\frac{d\xi}{\sqrt{\frac{2E}{k} - \xi^2}} = \sqrt{\frac{m}{k}}\int_{0}^{A}\frac{d\xi}{\sqrt{A^2-\xi^2}} .

(2(E−12kξ2)=k(2Ek−ξ2)=k(A2−ξ2)2(E - \frac{1}{2}k\xi^2) = k\left(\frac{2E}{k} - \xi^2\right) = k(A^2-\xi^2) を使いました。)ξ=Asin⁡θ\xi = A\sin\theta と置換すると dξ=Acos⁡θ dθd\xi = A\cos\theta\,d\theta、A2−ξ2=Acos⁡θ\sqrt{A^2-\xi^2} = A\cos\theta(0≤θ≤π/20 \le \theta \le \pi/2 で cos⁡θ≥0\cos\theta \ge 0)なので

∫0AdξA2−ξ2=∫0π/2dθ=π2\int_{0}^{A}\frac{d\xi}{\sqrt{A^2-\xi^2}} = \int_{0}^{\pi/2}d\theta = \frac{\pi}{2}

(ξ→A\xi \to A で被積分関数は発散しますが、置換後の積分は有限で、広義積分として収束しています)。したがって

T4=π2mk,T=2πmk.\frac{T}{4} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}, \qquad T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} .

振幅 AA が約分で消えたため、周期はエネルギーに依存しません。これが調和振動子の等時性です。UU が x2x^2 以外(たとえば x4x^4)に比例する場合には AA が残り、周期は振幅に依存するようになります。

  • I. Newton, Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica, 1687 — 冒頭の「公理、あるいは運動の法則」。邦訳は中野猿人訳『プリンシピア 自然哲学の数学的原理』講談社。
  • 原島鮮『力学』裳華房 — 第 1 章〜第 3 章。日本語の標準的な教科書で、三法則の意味と 1 次元の解法が丁寧です。
  • L. D. ランダウ、E. M. リフシッツ『力学(増訂第 3 版)』東京図書 — 第 1 章・第 2 章。最小作用の原理から出発し、保存則を対称性から導く構成です。
  • D. Kleppner and R. Kolenkow, An Introduction to Mechanics, 2nd ed., Cambridge University Press, 2014 — Chapters 2–5(ニュートンの法則、運動量、エネルギー)。
  • V. I. Arnold, Mathematical Methods of Classical Mechanics, 2nd ed., Springer, 1989 — Chapter 1。ガリレイ変換と決定性原理を数学的に定式化しています。
  • J. D. Norton, “The Dome: An Unexpectedly Simple Failure of Determinism”, Philosophy of Science 75 (2008) — リプシッツ性が破れると古典力学の決定論が壊れる例。

命題 4.1 を証明します。

読み飛ばしても本文は追えます。ねらいは、同じ初期値から出発する 2 つの解の差が時間とともに大きくなりえないことを示すことです。そのために 2 階の方程式を 1 階の連立系に直し、「グロンウォールの不等式」と呼ばれる、増え方を押さえる不等式の議論(証明の中で導きます)を使います。

証明(命題 4.1)

方針。 2 階の方程式を 1 階の連立系に書き換え、2 つの解の差にグロンウォールの不等式を適用します。

y=(r,v)∈R2n\boldsymbol{y} = (\boldsymbol{r}, \boldsymbol{v}) \in \mathbb{R}^{2n} とおき、

G(t,y)=(v, 1mF(t,r,v))\boldsymbol{G}(t, \boldsymbol{y}) = \left(\boldsymbol{v},\ \frac{1}{m}\boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r},\boldsymbol{v})\right)

と定めると、もとの方程式は y˙=G(t,y)\dot{\boldsymbol{y}} = \boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y})、y(t0)=(r0,v0)\boldsymbol{y}(t_0) = (\boldsymbol{r}_0,\boldsymbol{v}_0) と同値です。実際、y=(r,v)\boldsymbol{y} = (\boldsymbol{r},\boldsymbol{v}) がこの系を満たすことは、r˙=v\dot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{v} かつ v˙=F/m\dot{\boldsymbol{v}} = \boldsymbol{F}/m、すなわち mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{F} と同じことです。

G\boldsymbol{G} のリプシッツ性。 yi=(ri,vi)\boldsymbol{y}_i = (\boldsymbol{r}_i,\boldsymbol{v}_i)(i=1,2i = 1,2)に対して、ノルムを成分ごとの和で評価すると

∣G(t,y1)−G(t,y2)∣≤∣v1−v2∣+1m∣F(t,r1,v1)−F(t,r2,v2)∣≤(1+Lm)(∣r1−r2∣+∣v1−v2∣)\left|\boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y}_1) - \boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y}_2)\right| \le |\boldsymbol{v}_1-\boldsymbol{v}_2| + \frac{1}{m}\left|\boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{v}_1)-\boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{v}_2)\right| \le \left(1 + \frac{L}{m}\right)\left(|\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2| + |\boldsymbol{v}_1-\boldsymbol{v}_2|\right)

となります(仮定のリプシッツ条件を使いました)。右辺の係数を改めて Λ=1+L/m\Lambda = 1 + L/m と書き、∣y1−y2∣|\boldsymbol{y}_1 - \boldsymbol{y}_2| を成分和ノルム ∣r1−r2∣+∣v1−v2∣|\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2| + |\boldsymbol{v}_1-\boldsymbol{v}_2| で測ることにすれば、∣G(t,y1)−G(t,y2)∣≤Λ∣y1−y2∣|\boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y}_1)-\boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y}_2)| \le \Lambda|\boldsymbol{y}_1-\boldsymbol{y}_2| です。

積分形への書き換え。 y1,y2\boldsymbol{y}_1, \boldsymbol{y}_2 を同じ初期値を持つ JJ 上の解とします。どちらも C1C^1 級なので、微積分学の基本定理より t≥t0t \ge t_0 に対して

yi(t)=yi(t0)+∫t0tG(s,yi(s)) ds.\boldsymbol{y}_i(t) = \boldsymbol{y}_i(t_0) + \int_{t_0}^{t}\boldsymbol{G}(s,\boldsymbol{y}_i(s))\,ds .

初期値が等しいので差をとると

φ(t):=∣y1(t)−y2(t)∣≤∫t0t∣G(s,y1(s))−G(s,y2(s))∣ds≤Λ∫t0tφ(s) ds\varphi(t) := \left|\boldsymbol{y}_1(t)-\boldsymbol{y}_2(t)\right| \le \int_{t_0}^{t}\left|\boldsymbol{G}(s,\boldsymbol{y}_1(s))-\boldsymbol{G}(s,\boldsymbol{y}_2(s))\right|ds \le \Lambda\int_{t_0}^{t}\varphi(s)\,ds

(積分の三角不等式とリプシッツ評価を順に使いました)。

グロンウォールの不等式。 ψ(t)=∫t0tφ(s) ds\psi(t) = \int_{t_0}^{t}\varphi(s)\,ds とおきます。φ\varphi は連続なので ψ\psi は C1C^1 級で ψ′=φ\psi' = \varphi、上の不等式は ψ′(t)≤Λψ(t)\psi'(t) \le \Lambda\psi(t)、ψ(t0)=0\psi(t_0)=0 と書けます。そこで

ddt(e−Λtψ(t))=e−Λt(ψ′(t)−Λψ(t))≤0\frac{d}{dt}\left(e^{-\Lambda t}\psi(t)\right) = e^{-\Lambda t}\left(\psi'(t) - \Lambda\psi(t)\right) \le 0

なので e−Λtψ(t)e^{-\Lambda t}\psi(t) は t≥t0t \ge t_0 で単調非増加、よって e−Λtψ(t)≤e−Λt0ψ(t0)=0e^{-\Lambda t}\psi(t) \le e^{-\Lambda t_0}\psi(t_0) = 0、すなわち ψ(t)≤0\psi(t) \le 0 です。一方 φ≥0\varphi \ge 0 より ψ≥0\psi \ge 0 なので ψ≡0\psi \equiv 0、ふたたび φ≤Λψ=0\varphi \le \Lambda\psi = 0 と φ≥0\varphi \ge 0 から φ≡0\varphi \equiv 0 を得ます。したがって t≥t0t \ge t_0 で y1=y2\boldsymbol{y}_1 = \boldsymbol{y}_2 です。

過去向き。 t≤t0t \le t_0 については y~(t)=y(2t0−t)\tilde{\boldsymbol{y}}(t) = \boldsymbol{y}(2t_0 - t) と時間を反転させると、y~\tilde{\boldsymbol{y}} は y~˙(t)=−G(2t0−t,y~(t))\dot{\tilde{\boldsymbol{y}}}(t) = -\boldsymbol{G}(2t_0-t, \tilde{\boldsymbol{y}}(t)) を満たし、右辺も同じ定数 Λ\Lambda でリプシッツです。上と同じ議論を適用して t≥t0t \ge t_0 の側で一致が言え、元の変数に戻せば t≤t0t \le t_0 での一致が従います。以上で JJ 全体での一意性が示されました。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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