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ニュートン力学の基礎:三法則から運動量・エネルギー保存則へ

前提:極限と連続性:ε-δ 論法を「誤差の契約」として読むベクトル空間と線形変換:8 つの公理から次元定理まで

生 Markdown
  • ニュートンの第 1 法則は「力がなければ等速直線運動する」という主張ではなく、そのような座標系(慣性系)が存在するという主張です。第 2 法則はその慣性系でのみ意味を持ちます。
  • 運動方程式 mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{F} は位置についての 2 階の微分方程式です。だからこそ、初期位置と初期速度の 2 つを与えると以後の運動が一意に決まります。
  • 力が具体的に何であるか(重力・ばね・摩擦)を与えて初めて方程式が閉じます。力の形を指定する部分は法則ではなく、実験から得られる構成則です。
  • 運動量保存則は第 3 法則(作用反作用)から、力学的エネルギー保存則は力が保存力であることから、それぞれ運動方程式の帰結として導かれます。保存則は追加の公理ではありません。
  • 1 次元の保存系では、エネルギー保存則を 1 階の方程式とみなして積分するだけで運動が求まります(求積法)。ポテンシャルのグラフを描けば、運動の定性的な様子が計算前にわかります。

1. 動機:なぜ「力 = 加速度」なのか

Section titled “1. 動機:なぜ「力 = 加速度」なのか”

アリストテレス以来、力と運動の関係は「力が速度を決める」と考えられていました。荷車を押し続ければ動き、手を離せば止まる。日常の経験はこの見方を支持します。

この見方を壊したのがガリレオです。彼は斜面を転がる球を観察し、下り坂では加速し、上り坂では減速し、水平面では(摩擦を減らすほど)いつまでも同じ速さで動き続けることに気づきました。ここから、等速直線運動を保つのに力は要らないという結論が出ます。手を離した荷車が止まるのは、力が消えたからではなく、摩擦という別の力が働くからです。

この転換の意味を微分の言葉で言い直すと次のようになります。力が決めるのは速度 r˙\dot{\boldsymbol{r}} ではなく加速度 r¨\ddot{\boldsymbol{r}} である、つまり運動方程式は位置についての 2 階の微分方程式である、ということです。この「2 階」という事実が古典力学の性格をほとんど決めてしまいます。2 階の常微分方程式の初期値問題は、初期位置 r(t0)\boldsymbol{r}(t_0) と初期速度 r˙(t0)\dot{\boldsymbol{r}}(t_0) の 2 つを指定すれば解が一つに定まります。逆に言えば、位置だけを知っていても未来はわからず、速度も同時に知らなければならない。ラプラスが「宇宙のすべての粒子の位置と速度を知る知性は未来を計算できる」と述べたときの「位置と速度」の 2 つ組は、方程式が 2 階であることの直接の反映です。

ニュートンが 1687 年の『プリンキピア』で行ったのは、この洞察を公理系として書き下し、さらに万有引力という具体的な力の形と組み合わせて、ケプラーが観測から見出した惑星の運動法則を導いてみせたことでした。天体の運動と地上の落下運動が同じ方程式に従うという主張は、当時としては極端に大胆なものです。惑星運動への応用は 惑星の運動と中心力 で扱います(軌道が円錐曲線になることは ケプラーの第一法則(定理 5.2)[惑星の運動と中心力])。

この記事では、三法則を精密に述べ直したうえで、保存則が公理ではなく定理であることを確認します。運動量保存則もエネルギー保存則も、運動方程式から証明できます。証明を通して「どの仮定がどの保存則を支えているか」が見えると、仮定が破れる状況(摩擦がある、外力がある)で何が起きるかも予測できるようになります。

古典力学の最も単純な対象は質点です。質点とは、大きさを無視して 1 点で代表してよい物体のことで、その状態は位置ベクトルだけで表されます。地球を質点として扱ってよいかどうかは、問題のスケールによります(公転を論じるなら可、自転を論じるなら不可)。

3 次元空間を実ベクトル空間 R3\mathbb{R}^3 と同一視し、質点の位置を時刻 tt の関数 r(t)=(x(t),y(t),z(t))\boldsymbol{r}(t) = (x(t), y(t), z(t)) で表します。ベクトル空間としての性質は ベクトル空間と線形変換ベクトル空間の定義(定義 3.1)[ベクトル空間と線形変換])を前提とします。r\boldsymbol{r} が 2 回微分可能なとき、

v(t)=r˙(t)=drdt,a(t)=r¨(t)=d2rdt2\boldsymbol{v}(t) = \dot{\boldsymbol{r}}(t) = \frac{d\boldsymbol{r}}{dt}, \qquad \boldsymbol{a}(t) = \ddot{\boldsymbol{r}}(t) = \frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2}

をそれぞれ速度加速度と呼びます。ドットは時間微分を表すニュートン以来の記法です。微分の定義そのもの(定義 3.3[導関数の定義と基本的な微分法])は 導関数の定義と基本的な微分法 を参照してください。

物体には質量 m>0m > 0 という正の実数が割り当てられているとします。質量は物体固有の量で、場所や運動状態によらないと仮定します(古典力学の範囲では。相対論ではこの仮定が修正されます)。

三法則は互いに独立な主張です。順に見ていきます。

定義 3.1慣性系

時刻と空間座標の組 (t,r)(t, \boldsymbol{r}) を与える基準系のうち、他の物体から力を受けていないすべての質点が等速直線運動(加速度 0\boldsymbol{0} の運動)をするようなものを、慣性系と呼びます。

公理 3.2第 1 法則(慣性の法則)

慣性系が少なくとも一つ存在します。

第 1 法則を「力を受けない物体は等速直線運動する」と述べると、第 2 法則で F=0\boldsymbol{F} = \boldsymbol{0} とした場合にすぎず、独立な主張になりません。第 1 法則の内容は、そうではなく、第 2 法則が成り立つ舞台(慣性系)が存在するという存在主張です。回転する円盤の上に固定した座標系では、力を受けていない質点も曲がって見えます(遠心力・コリオリ力と呼ばれる見かけの力が現れます)。第 1 法則は、そういう系ばかりではないことを保証しています。

公理 3.3第 2 法則(運動の法則)

慣性系において、質量 mm の質点の運動量p=mv\boldsymbol{p} = m\boldsymbol{v} と定めると、質点に働く力 F\boldsymbol{F} に対して

dpdt=F\frac{d\boldsymbol{p}}{dt} = \boldsymbol{F}

が成り立ちます。とくに mm が時間によらないとき、これは ma=Fm\boldsymbol{a} = \boldsymbol{F} と書けます。

質量が変化する場合(ロケットのように燃料を放出する場合)には dp/dt=Fd\boldsymbol{p}/dt = \boldsymbol{F} の形が本質的で、ma=Fm\boldsymbol{a} = \boldsymbol{F} をそのまま使うと誤ります。この記事では以後 mm は定数とします。

公理 3.4第 3 法則(作用反作用の法則)

質点 ii が質点 jj に及ぼす力を Fji\boldsymbol{F}_{ji} と書くとき、

Fji=Fij\boldsymbol{F}_{ji} = -\boldsymbol{F}_{ij}

が成り立ちます(弱い形)。さらに Fji\boldsymbol{F}_{ji} が 2 質点を結ぶ直線 rjri\boldsymbol{r}_j - \boldsymbol{r}_i に平行であるとき、強い形が成り立つと言います。

弱い形は運動量保存則を導くのに十分ですが、角運動量保存則には強い形が必要です。重力やクーロン力は強い形を満たします。一方、運動する電荷どうしに働く磁気的な力は第 3 法則を満たしません(失われた運動量は電磁場が持ち去ります)。第 3 法則は普遍的な真理ではなく、力の種類に依存する仮定である、と理解しておくのが安全です。保存則をより深い原理(時空の対称性)から捉え直す視点は 対称性と保存則(ネーターの定理) で扱います(ネーターの定理(定理 4.1)[対称性と保存則])。

注意 3.5力と質量の定義は循環していないか

「力とは何か」と問うと「質量かける加速度」と答え、「質量とは何か」と問うと「同じ力に対する加速度のしにくさ」と答える。これでは循環です。マッハはこの点を批判し、第 3 法則を使って質量比を先に定義する道を示しました。孤立した 2 質点が相互作用するとき、m1a1=m2a2m_1\boldsymbol{a}_1 = -m_2\boldsymbol{a}_2 が成り立つので、加速度の比の測定から質量比 m2/m1=a1/a2m_2/m_1 = |\boldsymbol{a}_1|/|\boldsymbol{a}_2| が力を知らずに決まります。基準となる 1 kg を決めれば、あとはすべての質量が測定できます。質量が決まれば、第 2 法則が力を定義し、さらに「重力は距離の 2-2 乗に比例する」といった具体的な力の法則が独立の内容を持つことになります。

三法則だけでは運動は決まりません。F\boldsymbol{F} が位置・速度・時刻のどんな関数なのかを指定して初めて、運動方程式は解くべき微分方程式になります。この指定は実験から得られるもので、構成則と呼ばれます。代表的なものを挙げます。

万有引力。質量 MM, mm の質点が距離 rr だけ離れているとき、互いに引き合う力の大きさは GMm/r2GMm/r^2 です(G=6.674×1011 Nm2/kg2G = 6.674 \times 10^{-11}\ \mathrm{N\,m^2/kg^2})。地表付近では rRr \approx R_\oplus(地球半径)とみなせるので、力の大きさは mgmgg=GM/R29.8 m/s2g = GM_\oplus/R_\oplus^2 \approx 9.8\ \mathrm{m/s^2} とほぼ一定になります。

ばねの力(フックの法則)。自然長からの伸び xx に対して F=kxF = -kxk>0k > 0 はばね定数)。この線形性は基本法則ではなく近似です。実際、一般のポテンシャル U(x)U(x)x=x0x = x_0 で極小値をとるなら、テイラーの定理(定理 5.3[平均値の定理とテイラーの定理]平均値の定理とテイラーの定理)より

U(x)=U(x0)+12U(x0)(xx0)2+O ⁣((xx0)3)U(x) = U(x_0) + \tfrac{1}{2}U''(x_0)(x-x_0)^2 + O\!\left((x-x_0)^3\right)

(1 次の項は U(x0)=0U'(x_0)=0 より消えます)。したがって力は F=U(x)U(x0)(xx0)F = -U'(x) \approx -U''(x_0)(x-x_0) となり、k=U(x0)k = U''(x_0) とおけばフックの法則が得られます。極小点の近傍では、どんな系も近似的にばねである。これが単振動があらゆる分野に現れる理由です。

摩擦力。固体どうしの滑り摩擦は、速さによらず大きさ μN\mu NNN は垂直抗力、μ\mu は動摩擦係数)で運動と逆向きに働く、というクーロンの近似がよく使われます。流体中の抵抗は速さが小さいとき F=γv\boldsymbol{F} = -\gamma\boldsymbol{v}(粘性抵抗)、速さが大きいとき大きさが v2v^2 に比例します。

拘束力。糸の張力や床からの垂直抗力は、あらかじめ大きさが与えられておらず、「糸が伸びない」「面にめり込まない」という条件を満たすように値が定まります。拘束力を消去して扱う技法が ラグランジュ形式の力学 の主要な動機の一つです。

命題 4.1初期値問題の解の一意性

m>0m > 0 とし、F:R×Rn×RnRn\boldsymbol{F} : \mathbb{R} \times \mathbb{R}^n \times \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n, (t,r,v)F(t,r,v)(t, \boldsymbol{r}, \boldsymbol{v}) \mapsto \boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r},\boldsymbol{v}) が連続で、さらに (r,v)(\boldsymbol{r},\boldsymbol{v}) について一様にリプシッツ連続、すなわちある L>0L > 0 が存在してすべての tt(r1,v1),(r2,v2)(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{v}_1), (\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{v}_2) に対して

F(t,r1,v1)F(t,r2,v2)L(r1r2+v1v2)|\boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{v}_1) - \boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{v}_2)| \le L\left(|\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2| + |\boldsymbol{v}_1-\boldsymbol{v}_2|\right)

が成り立つとします。このとき、区間 Jt0J \ni t_0 上の C2C^2 級の解で

mr¨(t)=F(t,r(t),r˙(t)),r(t0)=r0,r˙(t0)=v0m\ddot{\boldsymbol{r}}(t) = \boldsymbol{F}(t, \boldsymbol{r}(t), \dot{\boldsymbol{r}}(t)), \qquad \boldsymbol{r}(t_0) = \boldsymbol{r}_0,\quad \dot{\boldsymbol{r}}(t_0) = \boldsymbol{v}_0

を満たすものは、JJ 上でたかだか一つです。

注意 4.2一意性が破れるとき

証明は Appendix に置きました。リプシッツ性を落とすと一意性は本当に壊れます。ノートンは、ms¨=sm\ddot{s} = \sqrt{s}s0s \ge 0)という形の方程式が s(0)=s˙(0)=0s(0)=\dot{s}(0)=0 という初期条件に対して s0s \equiv 0 以外の解 s(t)=t4/144s(t) = t^4/144m=1m=1 のとき)を持つことを指摘し、これを「ドーム」の形に成形した力学系として提示しました。右辺 s\sqrt{s}s=0s=0 でリプシッツでないため 命題 4.1 の仮定を満たしません。古典力学の決定論は法則そのものからではなく、力の滑らかさという追加の仮定から出ている、ということです。

以下、直線上の運動 x(t)x(t) を考えます。運動方程式は mx¨=Fm\ddot{x} = F です。

FF が定数 F0F_0 のとき、a=F0/ma = F_0/m も定数です。v˙=a\dot{v} = at0=0t_0=0 から積分し(微積分学の基本定理 定理 5.4[積分の基本定理と定積分]積分の基本定理と定積分)、

v(t)=v0+at,x(t)=x0+v0t+12at2.v(t) = v_0 + at, \qquad x(t) = x_0 + v_0 t + \tfrac{1}{2}at^2 .

第 1 式から t=(vv0)/at = (v - v_0)/aa0a \ne 0)を第 2 式に代入すると、

xx0=v0vv0a+a2(vv0)2a2=2v0(vv0)+(vv0)22a=v2v022ax - x_0 = v_0\cdot\frac{v-v_0}{a} + \frac{a}{2}\cdot\frac{(v-v_0)^2}{a^2} = \frac{2v_0(v-v_0) + (v-v_0)^2}{2a} = \frac{v^2 - v_0^2}{2a}

となり、時刻を含まない関係式 v2v02=2a(xx0)v^2 - v_0^2 = 2a(x-x_0) が得られます。これは後に述べるエネルギー保存則(定理 7.5)の特別な場合です。実際、両辺に m/2m/2 を掛ければ 12mv212mv02=F0(xx0)\frac{1}{2}mv^2 - \frac{1}{2}mv_0^2 = F_0 (x - x_0) となり、運動エネルギーの変化が仕事に等しいという式そのものです。

例 5.1粘性抵抗を受ける落下

鉛直下向きを正にとり、質量 mm の物体が重力 mgmg と粘性抵抗 γv-\gamma vγ>0\gamma > 0)を受けて v(0)=0v(0)=0 から落下するとします。運動方程式は

mv˙=mgγv.m\dot{v} = mg - \gamma v .

τ=m/γ\tau = m/\gammav=mg/γv_\infty = mg/\gamma とおくと v˙=(vv)/τ\dot{v} = -(v - v_\infty)/\tau です。w=vvw = v - v_\infty とおけば w˙=w/τ\dot{w} = -w/\tau なので、ddt(wet/τ)=et/τ(w˙+w/τ)=0\frac{d}{dt}\left(w e^{t/\tau}\right) = e^{t/\tau}(\dot{w} + w/\tau) = 0。よって w(t)=w(0)et/τ=vet/τw(t) = w(0)e^{-t/\tau} = -v_\infty e^{-t/\tau} となり、

v(t)=v(1et/τ),x(t)=v[tτ(1et/τ)]v(t) = v_\infty\left(1 - e^{-t/\tau}\right), \qquad x(t) = v_\infty\left[t - \tau\left(1 - e^{-t/\tau}\right)\right]

x(0)=0x(0)=0 として vv を積分しました)。tt \to \inftyvvv \to v_\infty、これが終端速度です。

抵抗が無視できる極限で自由落下に戻ることを確かめます。t/τt/\tau が小さいとき et/τ=1tτ+t22τ2e^{-t/\tau} = 1 - \frac{t}{\tau} + \frac{t^2}{2\tau^2} - \cdots なので

v(t)=v(tτt22τ2+)=gt(1t2τ+)v(t) = v_\infty\left(\frac{t}{\tau} - \frac{t^2}{2\tau^2} + \cdots\right) = gt\left(1 - \frac{t}{2\tau} + \cdots\right)

v/τ=gv_\infty/\tau = g を使いました)。第 1 項は gtgt、すなわち自由落下の速度です。補正項の相対的な大きさは t/(2τ)t/(2\tau) なので、tτt \ll \tau の間は抵抗を無視してよい、と定量的に言えます。

定理 5.2調和振動子の一般解

m>0m > 0, k>0k > 0 とし、ω=k/m\omega = \sqrt{k/m} とおきます。x:RRx : \mathbb{R} \to \mathbb{R}C2C^2 級で

mx¨(t)=kx(t)(tR)m\ddot{x}(t) = -k\,x(t) \qquad (t \in \mathbb{R})

を満たすならば、

x(t)=x(0)cosωt+x˙(0)ωsinωtx(t) = x(0)\cos\omega t + \frac{\dot{x}(0)}{\omega}\sin\omega t

がすべての tt で成り立ちます。逆に、任意の実数 A,BA, B に対し x(t)=Acosωt+Bsinωtx(t) = A\cos\omega t + B\sin\omega t はこの方程式の解です。

証明(定理 5.2)

まず逆向きを確かめます。x(t)=Acosωt+Bsinωtx(t) = A\cos\omega t + B\sin\omega t とすると x˙(t)=Aωsinωt+Bωcosωt\dot{x}(t) = -A\omega\sin\omega t + B\omega\cos\omega tx¨(t)=Aω2cosωtBω2sinωt=ω2x(t)\ddot{x}(t) = -A\omega^2\cos\omega t - B\omega^2\sin\omega t = -\omega^2 x(t) なので、mx¨=mω2x=kxm\ddot{x} = -m\omega^2 x = -kx となり方程式を満たします。

次に一意性を示します。xx を方程式の解とし、A=x(0)A = x(0), B=x˙(0)/ωB = \dot{x}(0)/\omega とおいて

u(t)=x(t)(Acosωt+Bsinωt)u(t) = x(t) - \left(A\cos\omega t + B\sin\omega t\right)

と定めます。xx も括弧内も方程式の解であり、方程式は uu について線形なので、uuu¨=ω2u\ddot{u} = -\omega^2 u を満たします。また u(0)=x(0)A=0u(0) = x(0) - A = 0u˙(0)=x˙(0)Bω=0\dot{u}(0) = \dot{x}(0) - B\omega = 0 です。

ここで

E(t)=12u˙(t)2+12ω2u(t)2E(t) = \tfrac{1}{2}\dot{u}(t)^2 + \tfrac{1}{2}\omega^2 u(t)^2

とおきます。uuC2C^2 級なので EE は微分可能で、積の微分法から

E˙=u˙u¨+ω2uu˙=u˙(ω2u)+ω2uu˙=0.\dot{E} = \dot{u}\ddot{u} + \omega^2 u\dot{u} = \dot{u}\left(-\omega^2 u\right) + \omega^2 u \dot{u} = 0 .

よって EE は定数であり、E(0)=120+12ω20=0E(0) = \frac{1}{2}\cdot 0 + \frac{1}{2}\omega^2\cdot 0 = 0 だから E0E \equiv 0 です。EE は非負の 2 項の和なので、両方が 00、とくに 12ω2u(t)2=0\frac{1}{2}\omega^2 u(t)^2 = 0ω>0\omega > 0 より u(t)=0u(t) = 0 がすべての tt で成り立ちます。

この証明は、後で導くエネルギー保存則(定理 7.5)を一意性の道具として先取りしたものです。線形代数の言葉で言えば、解空間が 2 次元ベクトル空間で {cosωt,sinωt}\{\cos\omega t, \sin\omega t\} がその基底であることを示したことになります。

Acosωt+Bsinωt=Ccos(ωtφ)A\cos\omega t + B\sin\omega t = C\cos(\omega t - \varphi)C=A2+B2C = \sqrt{A^2+B^2}, tanφ=B/A\tan\varphi = B/A)と書き直せば、CC振幅ω\omega角振動数φ\varphi位相です。周期は T=2π/ω=2πm/kT = 2\pi/\omega = 2\pi\sqrt{m/k} で、振幅によらないことに注意してください(等時性)。

例 5.3ばね振り子の具体的な数値

m=0.50 kgm = 0.50\ \mathrm{kg}, k=200 N/mk = 200\ \mathrm{N/m} のばねに付けた物体を、つり合いの位置から 0.030 m0.030\ \mathrm{m} だけ引いて静かに手を離します。

角振動数は ω=k/m=200/0.50=400=20 rad/s\omega = \sqrt{k/m} = \sqrt{200/0.50} = \sqrt{400} = 20\ \mathrm{rad/s}、周期は T=2π/200.314 sT = 2\pi/20 \approx 0.314\ \mathrm{s}、振動数は 1/T3.18 Hz1/T \approx 3.18\ \mathrm{Hz} です。

初期条件は x(0)=0.030 mx(0) = 0.030\ \mathrm{m}, x˙(0)=0\dot{x}(0) = 0 なので、定理 5.2 より x(t)=0.030cos(20t) mx(t) = 0.030\cos(20t)\ \mathrm{m}。したがって最大の速さは ωC=20×0.030=0.60 m/s\omega C = 20 \times 0.030 = 0.60\ \mathrm{m/s}、最大の加速度の大きさは ω2C=400×0.030=12 m/s2\omega^2 C = 400 \times 0.030 = 12\ \mathrm{m/s^2} です。

全エネルギーは 12kC2=12×200×(0.030)2=0.090 J\frac{1}{2}kC^2 = \frac{1}{2}\times 200 \times (0.030)^2 = 0.090\ \mathrm{J}。これが中心を通過する瞬間にすべて運動エネルギーになるはずで、実際 12mvmax2=12×0.50×(0.60)2=0.090 J\frac{1}{2}m v_{\max}^2 = \frac{1}{2}\times 0.50 \times (0.60)^2 = 0.090\ \mathrm{J} と一致します。

ここからは NN 個の質点からなる系を考えます。質点 ii(質量 mim_i、位置 ri\boldsymbol{r}_i)に働く力を、系の外から働く外力 Fiext\boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}} と、系内の質点 jj から働く内力 Fij\boldsymbol{F}_{ij} に分けます。第 2 法則(公理 3.3)は

mir¨i=Fiext+jiFij(i=1,,N)m_i \ddot{\boldsymbol{r}}_i = \boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}} + \sum_{j \ne i} \boldsymbol{F}_{ij} \qquad (i = 1,\dots,N)

です。

定理 6.1運動量保存則

上の設定で、内力が第 3 法則の弱い形(公理 3.4Fij=Fji\boldsymbol{F}_{ij} = -\boldsymbol{F}_{ji} を満たすとします。系の全運動量を P=i=1Nmir˙i\boldsymbol{P} = \sum_{i=1}^{N} m_i\dot{\boldsymbol{r}}_i と定めると、

dPdt=i=1NFiext\frac{d\boldsymbol{P}}{dt} = \sum_{i=1}^{N}\boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}}

が成り立ちます。とくに外力の総和が恒等的に 0\boldsymbol{0} ならば、P\boldsymbol{P} は時間によらず一定です。

証明(定理 6.1)

運動方程式を ii について総和します。

dPdt=imir¨i=iFiext+ijiFij.\frac{d\boldsymbol{P}}{dt} = \sum_{i} m_i\ddot{\boldsymbol{r}}_i = \sum_i \boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}} + \sum_{i}\sum_{j \ne i}\boldsymbol{F}_{ij} .

二重和は、順序対 (i,j)(i,j)iji \ne j)すべてにわたる和です。これを非順序対 {i,j}\{i,j\} ごとにまとめると、各非順序対からちょうど 2 項 Fij\boldsymbol{F}_{ij}Fji\boldsymbol{F}_{ji} が現れます。第 3 法則の弱い形よりこの 2 項の和は Fij+Fji=0\boldsymbol{F}_{ij} + \boldsymbol{F}_{ji} = \boldsymbol{0} です。したがって二重和全体が 0\boldsymbol{0} となり、第 1 式が従います。

外力の総和が 0\boldsymbol{0} なら dP/dt=0d\boldsymbol{P}/dt = \boldsymbol{0} であり、各成分が定数関数となるので P\boldsymbol{P} は一定です。

系 6.2重心の運動

全質量を M=imiM = \sum_i m_i、重心を R=1Mimiri\boldsymbol{R} = \frac{1}{M}\sum_i m_i \boldsymbol{r}_i とすると、定理 6.1 の仮定の下で

MR¨=iFiextM\ddot{\boldsymbol{R}} = \sum_{i}\boldsymbol{F}_i^{\mathrm{ext}}

が成り立ちます。すなわち重心は、全質量が集まった 1 個の質点が外力の合計を受けるのと同じ運動をします。

証明(系 6.2)

MR=imiriM\boldsymbol{R} = \sum_i m_i\boldsymbol{r}_itt で 1 回微分すると MR˙=imir˙i=PM\dot{\boldsymbol{R}} = \sum_i m_i\dot{\boldsymbol{r}}_i = \boldsymbol{P} です(mim_iMM も定数なので微分の線形性がそのまま使えます)。もう 1 回微分して MR¨=dP/dtM\ddot{\boldsymbol{R}} = d\boldsymbol{P}/dt となり、定理 6.1 を適用すれば結論を得ます。

この系のおかげで、花火が破裂しても破片全体の重心は元の放物線を描き続ける、といったことがただちに言えます。破裂の内力がどれほど複雑でも、重心の運動には一切影響しません。

例 6.3完全非弾性衝突

なめらかな水平面上を m1=2.0 kgm_1 = 2.0\ \mathrm{kg} の台車が v1=3.0 m/sv_1 = 3.0\ \mathrm{m/s} で走り、静止している m2=4.0 kgm_2 = 4.0\ \mathrm{kg} の台車に衝突して一体になりました。水平方向には外力が働かないので、定理 6.1 より衝突前後で運動量が保存します。

m1v1+m20=(m1+m2)v    v=2.0×3.06.0=1.0 m/s.m_1 v_1 + m_2\cdot 0 = (m_1+m_2)v' \implies v' = \frac{2.0\times 3.0}{6.0} = 1.0\ \mathrm{m/s}.

運動エネルギーはどうなるでしょうか。衝突前は 12×2.0×3.02=9.0 J\frac{1}{2}\times 2.0\times 3.0^2 = 9.0\ \mathrm{J}、衝突後は 12×6.0×1.02=3.0 J\frac{1}{2}\times 6.0 \times 1.0^2 = 3.0\ \mathrm{J} で、6.0 J6.0\ \mathrm{J} が失われています。失われた分は変形と発熱に使われました。

運動量は保存するが運動エネルギーは保存しない。この非対称性は重要です。運動量保存は第 3 法則だけから出るので内力の詳細によらないのに対し、力学的エネルギー保存には次節で見るように「力が保存力である」という追加の条件が要ります。

定義 7.1仕事と運動エネルギー

質点が力 F\boldsymbol{F} を受けながら C1C^1 級の道 r:[t1,t2]R3\boldsymbol{r}:[t_1,t_2] \to \mathbb{R}^3 に沿って動くとき、この間に力がした仕事

W=t1t2F(t)r˙(t)dtW = \int_{t_1}^{t_2} \boldsymbol{F}(t)\cdot\dot{\boldsymbol{r}}(t)\,dt

と定めます。また質点の運動エネルギーK=12mv2K = \frac{1}{2}m|\boldsymbol{v}|^2 と定めます。

定理 7.2仕事・運動エネルギー定理

質量 mm(定数)の質点が慣性系で運動方程式 mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{F} を満たし、r\boldsymbol{r}[t1,t2][t_1,t_2] 上で C2C^2 級、F\boldsymbol{F} が連続であるとします。このとき

K(t2)K(t1)=t1t2Fr˙dtK(t_2) - K(t_1) = \int_{t_1}^{t_2}\boldsymbol{F}\cdot\dot{\boldsymbol{r}}\,dt

が成り立ちます。すなわち運動エネルギーの変化量は、その間に力がした仕事に等しくなります。

証明(定理 7.2)

K(t)=12mv(t)v(t)K(t) = \frac{1}{2}m\,\boldsymbol{v}(t)\cdot\boldsymbol{v}(t) を微分します。内積は各成分の積の和なので、積の微分法を成分ごとに適用して

dKdt=12m(v˙v+vv˙)=mav\frac{dK}{dt} = \frac{1}{2}m\left(\dot{\boldsymbol{v}}\cdot\boldsymbol{v} + \boldsymbol{v}\cdot\dot{\boldsymbol{v}}\right) = m\,\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{v}

(内積の対称性を使いました)。ここで運動方程式 ma=Fm\boldsymbol{a} = \boldsymbol{F}公理 3.3)を代入すると dKdt=Fv\dfrac{dK}{dt} = \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v} です。

r\boldsymbol{r}C2C^2 級、F\boldsymbol{F} が連続なので右辺は [t1,t2][t_1,t_2] 上連続であり、KKC1C^1 級です。微積分学の基本定理により

K(t2)K(t1)=t1t2dKdtdt=t1t2Fr˙dt.K(t_2)-K(t_1) = \int_{t_1}^{t_2}\frac{dK}{dt}\,dt = \int_{t_1}^{t_2}\boldsymbol{F}\cdot\dot{\boldsymbol{r}}\,dt .

定義 7.3保存力とポテンシャル

領域 DR3D \subset \mathbb{R}^3 上で定義された力の場 F:DR3\boldsymbol{F}: D \to \mathbb{R}^3保存力であるとは、C1C^1 級の関数 U:DRU : D \to \mathbb{R} が存在して

F(r)=U(r)(rD)\boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}) = -\nabla U(\boldsymbol{r}) \qquad (\boldsymbol{r} \in D)

となることをいいます。この UUポテンシャルエネルギーと呼びます。UU は定数の差を除いて一意です(DD が連結のとき)。

保存力の力は位置だけで決まり、速度や時刻を含みません。摩擦力は運動の向きに依存する(速度の関数である)ため、この定義から外れます。多変数の微分と勾配 \nabla については 全微分可能性の定義(定義 4.1)[多変数関数の微分と偏微分]多変数関数の微分と偏微分)を参照してください。

命題 7.41 次元の連続な力は必ず保存力

IRI \subset \mathbb{R} を区間、F:IRF : I \to \mathbb{R} を連続関数とし、x0Ix_0 \in I を固定して

U(x)=x0xF(ξ)dξU(x) = -\int_{x_0}^{x} F(\xi)\,d\xi

とおきます。このとき UUC1C^1 級で U(x)=F(x)U'(x) = -F(x)、すなわち FF は保存力です。

証明(命題 7.4)

FFII 上連続なので、微積分学の基本定理より xx0xF(ξ)dξx \mapsto \int_{x_0}^{x}F(\xi)d\xi は微分可能で導関数が F(x)F(x) に等しく、FF が連続だからこの導関数も連続です。両辺に 1-1 を掛けて U(x)=F(x)U'(x) = -F(x)、かつ UU' は連続、すなわち UUC1C^1 級です。

1 次元では位置の連続関数である力はすべて保存力になります。エネルギー保存が破れるのは、力が速度に依存する(摩擦・抵抗)か、時刻に陽に依存する(外から揺すられている)場合だけです。3 次元では話が変わり、位置だけの関数でも保存力とは限りません(×F=0\nabla \times \boldsymbol{F} = \boldsymbol{0} が必要です)。

定理 7.5力学的エネルギー保存則

m>0m > 0 を定数、UU を領域 DD 上の C1C^1 級関数とし、質点が DD 内で C2C^2 級の軌道を描き、運動方程式

mr¨(t)=U(r(t))m\ddot{\boldsymbol{r}}(t) = -\nabla U(\boldsymbol{r}(t))

を満たすとします。このとき力学的エネルギー

E(t)=12mr˙(t)2+U(r(t))E(t) = \tfrac{1}{2}m|\dot{\boldsymbol{r}}(t)|^2 + U(\boldsymbol{r}(t))

は時間によらず一定です。

証明(定理 7.5)

定理 7.2 の証明中で示したように dKdt=Fr˙\dfrac{dK}{dt} = \boldsymbol{F}\cdot\dot{\boldsymbol{r}} です。一方、合成関数の微分法(連鎖律、定理 6.1[多変数関数の微分と偏微分])より

ddtU(r(t))=U(r(t))r˙(t).\frac{d}{dt}U(\boldsymbol{r}(t)) = \nabla U(\boldsymbol{r}(t))\cdot\dot{\boldsymbol{r}}(t).

仮定 F=U\boldsymbol{F} = -\nabla U を使うと、

dEdt=dKdt+ddtU(r(t))=(U)r˙+Ur˙=0.\frac{dE}{dt} = \frac{dK}{dt} + \frac{d}{dt}U(\boldsymbol{r}(t)) = \left(-\nabla U\right)\cdot\dot{\boldsymbol{r}} + \nabla U\cdot\dot{\boldsymbol{r}} = 0 .

EE は区間上で微分可能かつ導関数が恒等的に 00 なので、平均値の定理より定数関数です。

系 7.61 次元保存系の求積

1 次元で mx¨=U(x)m\ddot{x} = -U'(x)UUC1C^1 級)に従う運動を考え、E=12mx˙2+U(x)E = \frac{1}{2}m\dot{x}^2 + U(x) とおきます。ある区間で EU(x)>0E - U(x) > 0 かつ x˙>0\dot{x} > 0 であれば、その区間で

x˙=2(EU(x))m,tt1=x(t1)x(t)m2(EU(ξ))dξ\dot{x} = \sqrt{\frac{2\left(E - U(x)\right)}{m}}, \qquad t - t_1 = \int_{x(t_1)}^{x(t)}\sqrt{\frac{m}{2\left(E-U(\xi)\right)}}\,d\xi

が成り立ちます。すなわち運動は 1 回の積分(求積)で決まります。

証明(系 7.6)

定理 7.5 より 12mx˙2=EU(x)\frac{1}{2}m\dot{x}^2 = E - U(x) です。両辺を m/2m/2 で割って平方根をとり、x˙>0\dot{x} > 0 という仮定から符号を正に選ぶと第 1 式を得ます。次に第 1 式を dx2(EU(x))/m=dt\dfrac{dx}{\sqrt{2(E-U(x))/m}} = dt と変数分離し、t1t_1 から tt まで積分します。左辺は xx についての置換積分になり、EU>0E - U > 0 より被積分関数は連続なので、第 2 式が従います。

7.1. ポテンシャルの図から運動を読む

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EU(x)=12mx˙20E - U(x) = \frac{1}{2}m\dot{x}^2 \ge 0 なので、質点は U(x)EU(x) \le E を満たす範囲にしか入れません。等号が成り立つ点では速度が 00 になり、そこで折り返します。これを転回点と呼びます。ポテンシャルのグラフに水平線 U=EU = E を引くだけで、運動が有界か非有界か、どこで折り返すかがわかります。

UxEx₁x₂KU → 0 (束縛が解ける高さ)
ポテンシャル曲線とエネルギー準位。両者の差の高さが運動エネルギーで、両者が一致する点が転回点。

図の EE では、質点は x1x_1x2x_2 の間を往復します(有界運動)。EE を上げて破線が U0U \to 0 の水平漸近線を超えると、右側の転回点が消えて質点は無限遠まで飛んでいきます(非有界運動)。この境界のエネルギーが「束縛が解ける」条件で、天体の場合はこれが脱出速度を与えます。

例 7.7地球からの脱出速度

地球(質量 MM、半径 RR)の中心から距離 rr にある質量 mm の物体のポテンシャルは U(r)=GMm/rU(r) = -GMm/r です(無限遠を基準にとりました)。地表から鉛直上向きに速さ vv で打ち出すとき、空気抵抗と地球の自転を無視すれば 定理 7.5 より

E=12mv2GMmRE = \frac{1}{2}mv^2 - \frac{GMm}{R}

が保存します。無限遠に到達する(rr \to \inftyU0U \to 012mr˙20\frac{1}{2}m\dot{r}^2 \ge 0)ためには E0E \ge 0 が必要十分で、

v2GMR.v \ge \sqrt{\frac{2GM}{R}} .

数値を入れます。GM=3.986×1014 m3/s2GM = 3.986\times 10^{14}\ \mathrm{m^3/s^2}, R=6.371×106 mR = 6.371\times 10^{6}\ \mathrm{m} なので

2GMR=2×3.986×10146.371×106=1.251×108 m2/s2,v1.119×104 m/s11.2 km/s.\frac{2GM}{R} = \frac{2 \times 3.986\times 10^{14}}{6.371\times 10^{6}} = 1.251\times 10^{8}\ \mathrm{m^2/s^2}, \qquad v \ge 1.119\times 10^{4}\ \mathrm{m/s} \approx 11.2\ \mathrm{km/s}.

質量 mm が消えることに注意してください。ボールでもロケットでも必要な速さは同じです。

例 7.8摩擦がある場合:エネルギーは保存しない

水平面上で m=2.0 kgm = 2.0\ \mathrm{kg} の物体を v0=6.0 m/sv_0 = 6.0\ \mathrm{m/s} で滑らせます。動摩擦係数を μ=0.30\mu = 0.30g=9.8 m/s2g = 9.8\ \mathrm{m/s^2} とすると、垂直抗力は N=mgN = mg、摩擦力の大きさは μmg\mu mg で運動と逆向きです。運動方程式は mv˙=μmgm\dot{v} = -\mu mg、つまり加速度は μg=2.94 m/s2-\mu g = -2.94\ \mathrm{m/s^2} の一定値です。

等加速度運動の関係式 v2v02=2a(xx0)v^2 - v_0^2 = 2a(x-x_0)v=0v = 0 を代入して、停止距離は

d=v022μg=362×0.30×9.8=365.886.1 m.d = \frac{v_0^2}{2\mu g} = \frac{36}{2 \times 0.30 \times 9.8} = \frac{36}{5.88} \approx 6.1\ \mathrm{m}.

エネルギーの帳尻を見ます。初めの運動エネルギーは 12×2.0×6.02=36 J\frac{1}{2}\times 2.0 \times 6.0^2 = 36\ \mathrm{J}、摩擦力がした仕事は μmgd=0.30×2.0×9.8×6.136 J-\mu mg\,d = -0.30\times 2.0\times 9.8\times 6.1 \approx -36\ \mathrm{J} で、定理 7.2 のとおり両者は釣り合います。しかし摩擦力は速度の向きに依存するので保存力ではなく、36 J36\ \mathrm{J} を蓄えるポテンシャルは存在しません。力学的エネルギーは熱に変わって力学の枠から出ていきます。

flowchart TD
A["第2法則: m a = F"] --> B["1質点の運動方程式"]
C["第3法則: 作用反作用(弱い形)"] --> D["内力の相殺"]
B --> D
D --> E["運動量保存則(外力の和が0)"]
B --> F["仕事・運動エネルギー定理"]
G["力が保存力: F = -grad U"] --> H["力学的エネルギー保存則"]
F --> H
H --> I["1次元では求積法で解ける"]
三法則から保存則が導かれる筋道

保存則が「運動方程式の帰結」であることは、この図から読み取れます。しかし逆に、保存則の側をより基本的な原理から導く道もあります。空間の一様性が運動量保存を、時間の一様性がエネルギー保存を導く、というのがネーターの定理です(対称性と保存則(ネーターの定理))。その定式化には ラグランジュ形式の力学 が必要になります。

演習 8.1

地上から鉛直上向きに初速 v0=20 m/sv_0 = 20\ \mathrm{m/s} でボールを投げ上げます。空気抵抗を無視し g=9.8 m/s2g = 9.8\ \mathrm{m/s^2} とするとき、最高点の高さ hh と、そこに達するまでの時間 t1t_1 を求めてください。さらに、同じ hh をエネルギー保存則からも求めてください。

解答

鉛直上向きを正にとると、力は重力だけなので my¨=mgm\ddot{y} = -mg、加速度は a=ga = -g の一定値です。等加速度運動の公式より v(t)=v0gtv(t) = v_0 - gt。最高点では v=0v = 0 なので

t1=v0g=209.82.04 s.t_1 = \frac{v_0}{g} = \frac{20}{9.8} \approx 2.04\ \mathrm{s}.

高さは y(t)=v0t12gt2y(t) = v_0 t - \frac{1}{2}gt^2 に代入して

h=v02g12v02g=v022g=40019.620.4 m.h = \frac{v_0^2}{g} - \frac{1}{2}\cdot\frac{v_0^2}{g} = \frac{v_0^2}{2g} = \frac{400}{19.6} \approx 20.4\ \mathrm{m}.

エネルギーからも同じ結果が出ます。重力 mg-mg は位置だけの関数なので 命題 7.4 より保存力で、U(y)=mgyU(y) = mgyU(y)=mg=(mg)U'(y) = mg = -(-mg))。定理 7.5 より

12mv02+0=12m02+mgh    h=v022g,\tfrac{1}{2}mv_0^2 + 0 = \tfrac{1}{2}m\cdot 0^2 + mgh \implies h = \frac{v_0^2}{2g},

質量によらず 20.4 m20.4\ \mathrm{m} です。

演習 8.2標準

mx¨=kxm\ddot{x} = -kx に従う運動が初期条件 x(0)=x0x(0) = x_0, x˙(0)=v0\dot{x}(0) = v_0 から始まるとき、振幅 CCx(t)x(t) がとる最大値)を x0,v0,ω=k/mx_0, v_0, \omega = \sqrt{k/m} で表してください。またその結果がエネルギー保存則と整合することを確かめてください。

解答

定理 5.2 より x(t)=x0cosωt+v0ωsinωtx(t) = x_0\cos\omega t + \dfrac{v_0}{\omega}\sin\omega t です。A=x0A = x_0, B=v0/ωB = v_0/\omega とおき、C=A2+B2C = \sqrt{A^2+B^2}cosφ=A/C\cos\varphi = A/C, sinφ=B/C\sin\varphi = B/C となる φ\varphi をとると(C>0C > 0 のとき (A/C,B/C)(A/C, B/C) は単位円上の点なのでそのような φ\varphi が存在します)、加法定理から

x(t)=C(cosφcosωt+sinφsinωt)=Ccos(ωtφ).x(t) = C\left(\cos\varphi\cos\omega t + \sin\varphi\sin\omega t\right) = C\cos(\omega t - \varphi).

cos\cos の値域は [1,1][-1,1] で、ωtφ=0\omega t - \varphi = 0 となる tt が存在するので最大値はちょうど CC。したがって

C=x02+v02ω2.C = \sqrt{x_0^2 + \frac{v_0^2}{\omega^2}} .

エネルギーとの整合を見ます。定理 7.5 より E=12mv02+12kx02E = \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}kx_0^2 が一定です。一方、x=±Cx = \pm C の瞬間には x˙=0\dot{x} = 0 なので E=12kC2E = \frac{1}{2}kC^2。両者を等置して

12kC2=12mv02+12kx02    C2=x02+mkv02=x02+v02ω2,\tfrac{1}{2}kC^2 = \tfrac{1}{2}mv_0^2 + \tfrac{1}{2}kx_0^2 \implies C^2 = x_0^2 + \frac{m}{k}v_0^2 = x_0^2 + \frac{v_0^2}{\omega^2},

先の結果と一致します。

演習 8.3標準

なめらかな直線上を質量 m1,m2m_1, m_2 の質点が速度 v1,v2v_1, v_2 で運動し、衝突して一体になりました。外力は働かないとします。衝突後の速度 vv' を求め、失われた運動エネルギーが

ΔK=12μ(v1v2)2,μ=m1m2m1+m2\Delta K = -\frac{1}{2}\mu\left(v_1 - v_2\right)^2, \qquad \mu = \frac{m_1m_2}{m_1+m_2}

であることを示してください(μ\mu を換算質量といいます)。

解答

外力の総和が 00 なので 定理 6.1 より運動量が保存し、

m1v1+m2v2=(m1+m2)v    v=m1v1+m2v2m1+m2.m_1v_1 + m_2v_2 = (m_1+m_2)v' \implies v' = \frac{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2}.

M=m1+m2M = m_1+m_2 とおきます。運動エネルギーの変化は

ΔK=12Mv212m1v1212m2v22=(m1v1+m2v2)22Mm1v12+m2v222.\Delta K = \tfrac{1}{2}Mv'^2 - \tfrac{1}{2}m_1v_1^2 - \tfrac{1}{2}m_2v_2^2 = \frac{(m_1v_1+m_2v_2)^2}{2M} - \frac{m_1v_1^2 + m_2v_2^2}{2}.

右辺を通分して分子を計算します。

(m1v1+m2v2)2M(m1v12+m2v22)=m12v12+2m1m2v1v2+m22v22(m12v12+m1m2v22+m1m2v12+m22v22)=2m1m2v1v2m1m2v12m1m2v22=m1m2(v1v2)2.\begin{aligned} (m_1v_1+m_2v_2)^2 - M\left(m_1v_1^2+m_2v_2^2\right) &= m_1^2v_1^2 + 2m_1m_2v_1v_2 + m_2^2v_2^2 \\ &\quad - \left(m_1^2v_1^2 + m_1m_2v_2^2 + m_1m_2v_1^2 + m_2^2v_2^2\right) \\ &= 2m_1m_2v_1v_2 - m_1m_2v_1^2 - m_1m_2v_2^2 \\ &= -m_1m_2\left(v_1-v_2\right)^2 . \end{aligned}

よって

ΔK=m1m2(v1v2)22M=12μ(v1v2)20.\Delta K = \frac{-m_1m_2(v_1-v_2)^2}{2M} = -\frac{1}{2}\mu(v_1-v_2)^2 \le 0 .

失われる量は相対速度 v1v2v_1 - v_2 だけで決まり、相対速度が 00(同じ速度で並走)のときだけ損失がありません。例 6.3 の数値では μ=8.0/6.01.33 kg\mu = 8.0/6.0 \approx 1.33\ \mathrm{kg}ΔK=12×1.33×3.02=6.0 J\Delta K = -\frac{1}{2}\times 1.33 \times 3.0^2 = -6.0\ \mathrm{J} となり、直接計算した値と一致します。

演習 8.4

系 7.6 の求積公式を使い、U(x)=12kx2U(x) = \frac{1}{2}kx^2 の中でエネルギー E>0E > 0 で運動する質量 mm の質点の周期を計算し、T=2πm/kT = 2\pi\sqrt{m/k} となること(すなわち周期が EE によらないこと)を確かめてください。

解答

転回点は U(x)=EU(x) = E を解いて x=±Ax = \pm AA=2E/kA = \sqrt{2E/k} です。運動は A-AAA の間の往復で、対称性から、00 から AA まで動くのに要する時間の 4 倍が周期になります。実際、UU は偶関数なので xxx \mapsto -x で方程式が不変であり、また時間反転 ttt \mapsto -t でも不変なので、0A0 \to AA0A \to 00A0 \to -AA0-A \to 0 の 4 区間の所要時間はすべて等しくなります。

系 7.6 より、xx00 から AA へ動く間(そこでは x˙>0\dot{x} > 0、かつ x<Ax < AEU>0E - U > 0

T4=0Am2(E12kξ2)dξ=0Amkdξ2Ekξ2=mk0AdξA2ξ2.\frac{T}{4} = \int_{0}^{A}\sqrt{\frac{m}{2\left(E - \frac{1}{2}k\xi^2\right)}}\,d\xi = \int_{0}^{A}\sqrt{\frac{m}{k}}\cdot\frac{d\xi}{\sqrt{\frac{2E}{k} - \xi^2}} = \sqrt{\frac{m}{k}}\int_{0}^{A}\frac{d\xi}{\sqrt{A^2-\xi^2}} .

2(E12kξ2)=k(2Ekξ2)=k(A2ξ2)2(E - \frac{1}{2}k\xi^2) = k\left(\frac{2E}{k} - \xi^2\right) = k(A^2-\xi^2) を使いました。)ξ=Asinθ\xi = A\sin\theta と置換すると dξ=Acosθdθd\xi = A\cos\theta\,d\thetaA2ξ2=Acosθ\sqrt{A^2-\xi^2} = A\cos\theta0θπ/20 \le \theta \le \pi/2cosθ0\cos\theta \ge 0)なので

0AdξA2ξ2=0π/2dθ=π2\int_{0}^{A}\frac{d\xi}{\sqrt{A^2-\xi^2}} = \int_{0}^{\pi/2}d\theta = \frac{\pi}{2}

ξA\xi \to A で被積分関数は発散しますが、置換後の積分は有限で、広義積分として収束しています)。したがって

T4=π2mk,T=2πmk.\frac{T}{4} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}, \qquad T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} .

振幅 AA が約分で消えたため、周期はエネルギーに依存しません。これが調和振動子の等時性です。UUx2x^2 以外(たとえば x4x^4)に比例する場合には AA が残り、周期は振幅に依存するようになります。

  • I. Newton, Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica, 1687 — 冒頭の「公理、あるいは運動の法則」。邦訳は中野猿人訳『プリンシピア 自然哲学の数学的原理』講談社。
  • 原島鮮『力学』裳華房 — 第 1 章〜第 3 章。日本語の標準的な教科書で、三法則の意味と 1 次元の解法が丁寧です。
  • L. D. ランダウ、E. M. リフシッツ『力学(増訂第 3 版)』東京図書 — 第 1 章・第 2 章。最小作用の原理から出発し、保存則を対称性から導く構成です。
  • D. Kleppner and R. Kolenkow, An Introduction to Mechanics, 2nd ed., Cambridge University Press, 2014 — Chapters 2–5(ニュートンの法則、運動量、エネルギー)。
  • V. I. Arnold, Mathematical Methods of Classical Mechanics, 2nd ed., Springer, 1989 — Chapter 1。ガリレイ変換と決定性原理を数学的に定式化しています。
  • J. D. Norton, “The Dome: An Unexpectedly Simple Failure of Determinism”, Philosophy of Science 75 (2008) — リプシッツ性が破れると古典力学の決定論が壊れる例。

方針。 命題 4.1 を証明します。2 階の方程式を 1 階の連立系に書き換え、2 つの解の差にグロンウォールの不等式を適用します。

y=(r,v)R2n\boldsymbol{y} = (\boldsymbol{r}, \boldsymbol{v}) \in \mathbb{R}^{2n} とおき、

G(t,y)=(v, 1mF(t,r,v))\boldsymbol{G}(t, \boldsymbol{y}) = \left(\boldsymbol{v},\ \frac{1}{m}\boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r},\boldsymbol{v})\right)

と定めると、もとの方程式は y˙=G(t,y)\dot{\boldsymbol{y}} = \boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y})y(t0)=(r0,v0)\boldsymbol{y}(t_0) = (\boldsymbol{r}_0,\boldsymbol{v}_0) と同値です。実際、y=(r,v)\boldsymbol{y} = (\boldsymbol{r},\boldsymbol{v}) がこの系を満たすことは、r˙=v\dot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{v} かつ v˙=F/m\dot{\boldsymbol{v}} = \boldsymbol{F}/m、すなわち mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{F} と同じことです。

G\boldsymbol{G} のリプシッツ性。 yi=(ri,vi)\boldsymbol{y}_i = (\boldsymbol{r}_i,\boldsymbol{v}_i)i=1,2i = 1,2)に対して、ノルムを成分ごとの和で評価すると

G(t,y1)G(t,y2)v1v2+1mF(t,r1,v1)F(t,r2,v2)(1+Lm)(r1r2+v1v2)\left|\boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y}_1) - \boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y}_2)\right| \le |\boldsymbol{v}_1-\boldsymbol{v}_2| + \frac{1}{m}\left|\boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{v}_1)-\boldsymbol{F}(t,\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{v}_2)\right| \le \left(1 + \frac{L}{m}\right)\left(|\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2| + |\boldsymbol{v}_1-\boldsymbol{v}_2|\right)

となります(仮定のリプシッツ条件を使いました)。右辺の係数を改めて Λ=1+L/m\Lambda = 1 + L/m と書き、y1y2|\boldsymbol{y}_1 - \boldsymbol{y}_2| を成分和ノルム r1r2+v1v2|\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2| + |\boldsymbol{v}_1-\boldsymbol{v}_2| で測ることにすれば、G(t,y1)G(t,y2)Λy1y2|\boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y}_1)-\boldsymbol{G}(t,\boldsymbol{y}_2)| \le \Lambda|\boldsymbol{y}_1-\boldsymbol{y}_2| です。

積分形への書き換え。 y1,y2\boldsymbol{y}_1, \boldsymbol{y}_2 を同じ初期値を持つ JJ 上の解とします。どちらも C1C^1 級なので、微積分学の基本定理より tt0t \ge t_0 に対して

yi(t)=yi(t0)+t0tG(s,yi(s))ds.\boldsymbol{y}_i(t) = \boldsymbol{y}_i(t_0) + \int_{t_0}^{t}\boldsymbol{G}(s,\boldsymbol{y}_i(s))\,ds .

初期値が等しいので差をとると

φ(t):=y1(t)y2(t)t0tG(s,y1(s))G(s,y2(s))dsΛt0tφ(s)ds\varphi(t) := \left|\boldsymbol{y}_1(t)-\boldsymbol{y}_2(t)\right| \le \int_{t_0}^{t}\left|\boldsymbol{G}(s,\boldsymbol{y}_1(s))-\boldsymbol{G}(s,\boldsymbol{y}_2(s))\right|ds \le \Lambda\int_{t_0}^{t}\varphi(s)\,ds

(積分の三角不等式とリプシッツ評価を順に使いました)。

グロンウォールの不等式。 ψ(t)=t0tφ(s)ds\psi(t) = \int_{t_0}^{t}\varphi(s)\,ds とおきます。φ\varphi は連続なので ψ\psiC1C^1 級で ψ=φ\psi' = \varphi、上の不等式は ψ(t)Λψ(t)\psi'(t) \le \Lambda\psi(t)ψ(t0)=0\psi(t_0)=0 と書けます。そこで

ddt(eΛtψ(t))=eΛt(ψ(t)Λψ(t))0\frac{d}{dt}\left(e^{-\Lambda t}\psi(t)\right) = e^{-\Lambda t}\left(\psi'(t) - \Lambda\psi(t)\right) \le 0

なので eΛtψ(t)e^{-\Lambda t}\psi(t)tt0t \ge t_0 で単調非増加、よって eΛtψ(t)eΛt0ψ(t0)=0e^{-\Lambda t}\psi(t) \le e^{-\Lambda t_0}\psi(t_0) = 0、すなわち ψ(t)0\psi(t) \le 0 です。一方 φ0\varphi \ge 0 より ψ0\psi \ge 0 なので ψ0\psi \equiv 0、ふたたび φΛψ=0\varphi \le \Lambda\psi = 0φ0\varphi \ge 0 から φ0\varphi \equiv 0 を得ます。したがって tt0t \ge t_0y1=y2\boldsymbol{y}_1 = \boldsymbol{y}_2 です。

過去向き。 tt0t \le t_0 については y~(t)=y(2t0t)\tilde{\boldsymbol{y}}(t) = \boldsymbol{y}(2t_0 - t) と時間を反転させると、y~\tilde{\boldsymbol{y}}y~˙(t)=G(2t0t,y~(t))\dot{\tilde{\boldsymbol{y}}}(t) = -\boldsymbol{G}(2t_0-t, \tilde{\boldsymbol{y}}(t)) を満たし、右辺も同じ定数 Λ\Lambda でリプシッツです。上と同じ議論を適用して tt0t \ge t_0 の側で一致が言え、元の変数に戻せば tt0t \le t_0 での一致が従います。以上で JJ 全体での一意性が示されました。

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