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静電場とガウスの法則:クーロンの法則からポアソン方程式まで

対象読者: 学部 1 年の微積分(ε-δ 論法による極限、偏微分、重積分の初歩)とニュートン力学の三法則・エネルギー保存則を学んだ人。ベクトル解析と電磁気学は仮定せず、発散や勾配はこの記事で導入します。

前提となる記事:極限と連続性:ε-δ 論法を「誤差の契約」として読む、ニュートン力学の基礎:三法則から運動量・エネルギー保存則へ

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離れた場所にある 2 つの帯電した物体が、間に何もないのに引き合ったり反発したりするのはなぜでしょうか。この記事は、電荷のまわりの空間に「場」という量を考えると、この疑問が見通しのよい数本の式にまとまることを示します。読み終えると、電荷がどう分布しているかが分かっているとき、そのまわりの電場を決める式を、実験で確かめられた 1 つの法則から順に導けるようになります。

  • 電磁気学は「離れた電荷どうしが直接引き合う」という描像を捨て、「電荷が空間に場をつくり、場が力を及ぼす」という描像に立ちます。この乗り換えを最初に完成させるのが静電場の理論です。
  • クーロンの法則と重ね合わせの原理だけを出発点にすると、任意の閉曲面について ∮SE⋅dS=Qin/ε0\oint_S \boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S} = Q_{\text{in}}/\varepsilon_0(ガウスの法則の積分形)が定理として導かれます。鍵は 1/r21/r^2 という指数と、立体角(ある点から曲面を見込む広がりの大きさ)の計算です。
  • 「発散」div⁡E\operatorname{div}\boldsymbol{E} は、点のまわりの微小体積からの正味の流出量を体積で割った極限、すなわち湧き出しの密度です。この定義と発散定理を組み合わせると、積分形から微分形 div⁡E=ρ/ε0\operatorname{div}\boldsymbol{E} = \rho/\varepsilon_0 が出ます。
  • 静電場は E=−grad⁡V\boldsymbol{E} = -\operatorname{grad}V と書けます。これはクーロン場が 1/r1/r の勾配であることの直接の帰結で、ベクトル場 3 成分の問題をスカラー関数 1 個の問題に減らします。
  • 2 つを合わせると ポアソン方程式 ΔV=−ρ/ε0\Delta V = -\rho/\varepsilon_0 が得られます。静電気の問題は結局、この 1 本の偏微分方程式を境界条件のもとで解くことに帰着します。

18 世紀の終わり、クーロンはねじり秤を使って、帯電した 2 つの小球の間に働く力が距離の 2 乗に反比例することを測定しました。形は万有引力の法則とそっくりです。そこで最初に考えられた描像も、ニュートン力学と同じ遠隔作用でした。すなわち、電荷 q1q_1 と q2q_2 は空間を隔てて直接に力を及ぼし合う、というものです。

この描像には、当時から気になる点が 2 つありました。

第一に、媒介するものが何もないという点です。力は何を通じて伝わるのでしょうか。第二に、時間が入っていないという点です。クーロンの法則は「いま q2q_2 がここにあるなら、いま q1q_1 にこれだけの力が働く」と主張しますが、q2q_2 を突然動かしたとき q1q_1 はいつ気づくのでしょうか。遠隔作用の描像は「即座に」と答えますが、これは後に相対性理論と真正面から衝突します。

ファラデーとマクスウェルが導入した解決策が場です。電荷は自分のまわりの空間の状態を変える。その状態を電場 E\boldsymbol{E} と呼ぶ。別の電荷は、遠くの電荷を「見る」のではなく、自分がいる場所の E\boldsymbol{E} だけを感じて力を受ける。こうすると、力は局所的な量のやりとりになり、場の変化が有限の速さで伝わるという可能性が開けます。実際にその速さが光速であることを示すのがこのテーマの最終目標、マクスウェル方程式と電磁波 です。

ただし、場を導入しただけでは何も新しいことは言えません。E(x)=F(x)/q\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x}) = \boldsymbol{F}(\boldsymbol{x})/q と定義しただけなら、それは記号の言い換えにすぎないからです。場の描像が力を持つのは、場そのものが従う法則(微分方程式)を書き下せたときです。この記事の目的は、静止した電荷に限った場合にその法則が

div⁡E=ρε0,rot⁡E=0\operatorname{div}\boldsymbol{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}, \qquad \operatorname{rot}\boldsymbol{E} = \boldsymbol{0}

という 2 本になることを、クーロンの法則から証明することです。「導入する」ではなく「証明する」と書いたのは、静電気学の範囲ではこれらが実験法則の言い換えであって、独立な仮定ではないからです。逆に、時間変化する場まで含めると rot⁡E=0\operatorname{rot}\boldsymbol{E} = \boldsymbol{0} の方が破れます(rot は回転と呼ばれる微分で、場の渦の強さを表す量です)。それが 電磁誘導と変位電流 の話題です。

この記事の論理の流れ

以下、x,y\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y} は R3\mathbb{R}^3 の位置ベクトル、r=∣x∣r = |\boldsymbol{x}|、r^=x/r\hat{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{x}/r とします。単位は SI 単位系を用い、真空の誘電率を

ε0=8.8541878×10−12 F/m,14πε0=8.9875×109 N m2/C2\varepsilon_0 = 8.8541878\times 10^{-12}\ \mathrm{F/m}, \qquad \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} = 8.9875\times 10^{9}\ \mathrm{N\,m^2/C^2}

と書きます。

微分作用素。 スカラー場 ff とベクトル場 A=(Ax,Ay,Az)\boldsymbol{A} = (A_x, A_y, A_z) に対し、

grad⁡f=∇f=(∂f∂x,∂f∂y,∂f∂z),div⁡A=∇⋅A=∂Ax∂x+∂Ay∂y+∂Az∂z\operatorname{grad} f = \nabla f = \left(\frac{\partial f}{\partial x}, \frac{\partial f}{\partial y}, \frac{\partial f}{\partial z}\right), \qquad \operatorname{div}\boldsymbol{A} = \nabla\cdot\boldsymbol{A} = \frac{\partial A_x}{\partial x} + \frac{\partial A_y}{\partial y} + \frac{\partial A_z}{\partial z}

とします。ラプラシアンは Δf=div⁡grad⁡f=∇2f\Delta f = \operatorname{div}\operatorname{grad} f = \nabla^2 f です。偏微分の扱いに不安があれば 多変数関数の微分と偏微分 を先に読んでください。

面積分の向き。 閉曲面 SS 上の面積要素ベクトル dS=n^ dSd\boldsymbol{S} = \hat{\boldsymbol{n}}\,dS の向きは、常に外向きに取ります。この約束を破ると符号が全部ひっくり返るので、以下ずっと固定します。

領域の仮定。 「なめらかな有界領域」とは、有界な開集合 V⊂R3V\subset\mathbb{R}^3 であって、その境界 ∂V\partial V が有限個の区分的に C1C^1 な曲面からなり、各点で外向き法線が定まるもの、という意味で使います。球、直方体、円柱はすべてこの条件を満たします。

電荷分布の仮定。 電荷密度 ρ:R3→R\rho:\mathbb{R}^3\to\mathbb{R} は連続で、有界な集合の外では 00 とします(コンパクト台を持つ、と言います。電荷のある範囲が有限の大きさに収まっている、ということです)。この仮定は、後で出てくる積分の存在と積分順序の交換を保証するために必要です。点電荷はこの仮定を満たさない極限的な対象ですが、扱いは Appendix で述べます。


公理 3.1(クーロンの法則と重ね合わせの原理)↗

(i) 真空中で静止した 2 個の点電荷 q1,q2q_1, q_2 がそれぞれ位置 x1,x2\boldsymbol{x}_1, \boldsymbol{x}_2 にあるとき、q2q_2 が q1q_1 に及ぼす力は

F1←2=14πε0 q1q2∣x1−x2∣3 (x1−x2)\boldsymbol{F}_{1\leftarrow 2} = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\,\frac{q_1 q_2}{|\boldsymbol{x}_1 - \boldsymbol{x}_2|^3}\,(\boldsymbol{x}_1 - \boldsymbol{x}_2)

で与えられる。すなわち大きさは ∣q1q2∣/(4πε0∣x1−x2∣2)|q_1q_2|/(4\pi\varepsilon_0 |\boldsymbol{x}_1-\boldsymbol{x}_2|^2) で距離の 2 乗に反比例し、向きは 2 点を結ぶ直線に沿い、同符号なら斥力、異符号なら引力である。

(ii) 電荷が 3 個以上あるとき、1 個の電荷に働く力は、他の各電荷が単独で存在したときに及ぼす力のベクトル和に等しい(重ね合わせの原理)。

(i) の距離依存性 1/r21/r^2 は、この記事のすべてを支える指数です。あとで見るように、ガウスの法則が成り立つのは指数がちょうど 22 のときだけです。現代の実験では、指数を 2+δ2+\delta と置いたときの ∣δ∣|\delta| の上限は 10−1610^{-16} 程度に押さえられています。

(ii) の重ね合わせは当たり前に見えますが、独立な実験事実です。力が電荷について線形であることを主張しており、これがないと以下の議論はすべて崩れます。

例 3.2(電気力は重力よりどれだけ強いか)

2 個の陽子(電荷 e=1.602×10−19 Ce = 1.602\times10^{-19}\ \mathrm{C}、質量 mp=1.673×10−27 kgm_p = 1.673\times10^{-27}\ \mathrm{kg})を距離 rr 離して置きます。クーロン力と万有引力の比は、rr が消えて

F電F重=e2/(4πε0r2)Gmp2/r2=e24πε0Gmp2\frac{F_{\text{電}}}{F_{\text{重}}} = \frac{e^2/(4\pi\varepsilon_0 r^2)}{G m_p^2/r^2} = \frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0 G m_p^2}

となります。分子は 8.9875×109×(1.602×10−19)2=2.306×10−288.9875\times10^{9}\times(1.602\times10^{-19})^2 = 2.306\times10^{-28}、分母は 6.674×10−11×(1.673×10−27)2=1.868×10−646.674\times10^{-11}\times(1.673\times10^{-27})^2 = 1.868\times10^{-64} ですから、

F電F重=2.306×10−281.868×10−64=1.23×1036\frac{F_{\text{電}}}{F_{\text{重}}} = \frac{2.306\times10^{-28}}{1.868\times10^{-64}} = 1.23\times10^{36}

です。桁が違うどころの話ではありません。それにもかかわらず日常生活で電気力を感じないのは、物質がきわめて精密に電気的中性を保っているからです。逆に言えば、わずかな電荷の不均衡が巨大な力を生みます。

さて、公理 3.1 の (i) を見ると、右辺は q1q_1 と「q2q_2 と位置で決まる量」の積に分解できます。そこで後者に名前を与えます。

定義 3.3(電場)↗

電荷分布が与えられているとき、位置 x\boldsymbol{x} に置いた点電荷 qq が受ける力を F(x)\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}) とする。F(x)=q E(x)\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}) = q\,\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x}) を満たすベクトル場 E\boldsymbol{E} を、その電荷分布のつくる電場という。単位は N/C=V/m\mathrm{N/C} = \mathrm{V/m} である。

とくに、原点にある点電荷 qq のつくる電場は 公理 3.1 より

E(x)=q4πε0 x∣x∣3=q4πε0r2 r^\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x}) = \frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\,\frac{\boldsymbol{x}}{|\boldsymbol{x}|^{3}} = \frac{q}{4\pi\varepsilon_0 r^2}\,\hat{\boldsymbol{r}}

であり、電荷密度 ρ\rho で連続的に分布した電荷がつくる電場は、重ね合わせの原理を積分の形に書いて

E(x)=14πε0∫R3ρ(y) x−y∣x−y∣3 d3y\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x}) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_{\mathbb{R}^3} \rho(\boldsymbol{y})\,\frac{\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^{3}}\,d^3y

で与えられる。

注意 3.4

定義に使う「試験電荷」qq は、それ自身が周囲の電荷分布を動かしてしまわない程度に小さい、と暗黙に仮定しています。厳密には E=lim⁡q→0F/q\boldsymbol{E} = \lim_{q\to 0}\boldsymbol{F}/q と書くべきところです。ただし電荷は ee の整数倍にしか取れないので、この極限は数学的な理想化です。実用上は「電場は測定手段によらずに決まる場そのものの量」と考えてください。

なお 定義 3.3 の積分は、y=x\boldsymbol{y}=\boldsymbol{x} で被積分関数が ∣x−y∣−2|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^{-2} のように発散します。しかし 3 次元の体積積分では d3y∼r2 dr dΩd^3y \sim r^2\,dr\,d\Omega なので r−2⋅r2=1r^{-2}\cdot r^2 = 1 となって、特異性は積分可能です。したがって ρ\rho が有界でコンパクト台を持てば、この積分はすべての x\boldsymbol{x} で絶対収束します。極座標での重積分の扱いは 重積分と累次積分、とくに 極座標変換とそのヤコビアン(例 6.11)[重積分と累次積分] を参照してください。


電場を可視化するとき、私たちは電気力線を描きます。力線の「本数」を数えるという素朴な操作を数学的に表したものが、次の量です。

定義 4.1(電束(フラックス))↗

向き付けられた曲面 SS に対し、

ΦS=∫SE⋅dS=∫SE⋅n^ dS\Phi_S = \int_S \boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S} = \int_S \boldsymbol{E}\cdot\hat{\boldsymbol{n}}\,dS

を SS を貫く電束(フラックス)という。SS が閉曲面のときは n^\hat{\boldsymbol{n}} を外向きに取り、∮S\oint_S と書く。

E⋅n^\boldsymbol{E}\cdot\hat{\boldsymbol{n}} は電場の面に垂直な成分ですから、ΦS\Phi_S は「面をどれだけ垂直に貫いているか」の総量です。面に平行な電場は寄与しません。

ここからが本題です。クーロンの法則の 1/r21/r^2 という指数には、次の著しい性質があります。

補題 4.2(立体角の補題)✓

y∈R3\boldsymbol{y}\in\mathbb{R}^3 を固定し、y\boldsymbol{y} 以外で定義されたベクトル場

Fy(x)=x−y∣x−y∣3\boldsymbol{F}_{\boldsymbol{y}}(\boldsymbol{x}) = \frac{\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^{3}}

を考える。VV をなめらかな有界領域、S=∂VS=\partial V をその境界(外向き法線)とし、y∉S\boldsymbol{y}\notin S とする。このとき

∮SFy⋅dS={4π,y∈V (内部),0,y∉V‾ (外部).\oint_S \boldsymbol{F}_{\boldsymbol{y}}\cdot d\boldsymbol{S} = \begin{cases} 4\pi, & \boldsymbol{y}\in V\ (\text{内部}),\\[2pt] 0, & \boldsymbol{y}\notin \overline{V}\ (\text{外部}). \end{cases}

次の証明の方針は、まず原点以外では湧き出しがないことを計算で確かめ、次に原点を小さな球でくり抜いて、くり抜いた領域に発散定理を使う、というものです。くり抜くと境界が 2 枚になり、内側の球面では法線の向きが逆になる点に注意してください(下の図)。

SΣ_a0V’
穴あき領域 V' の断面。外側の面 S の法線は外向き、内側の球面 Σ_a の法線は V' から見て外向きなので、中心に向かう。
証明(補題 4.2)

一般性を失わずに y=0\boldsymbol{y}=\boldsymbol{0} としてよい(座標を平行移動する)。このとき F(x)=x/r3\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}) = \boldsymbol{x}/r^3、r=∣x∣r=|\boldsymbol{x}| です。

第 1 段:x≠0\boldsymbol{x}\ne\boldsymbol{0} で div⁡F=0\operatorname{div}\boldsymbol{F}=0 であること。 まず ∂r/∂xi=xi/r\partial r/\partial x_i = x_i/r です(r=(x12+x22+x32)1/2r = (x_1^2+x_2^2+x_3^2)^{1/2} を微分すればよい)。よって積の微分から

∂∂xi(xir3)=1r3+xi⋅(−3r4)xir=1r3−3xi2r5\frac{\partial}{\partial x_i}\left(\frac{x_i}{r^3}\right) = \frac{1}{r^3} + x_i\cdot\left(-\frac{3}{r^4}\right)\frac{x_i}{r} = \frac{1}{r^3} - \frac{3x_i^2}{r^5}

となり、i=1,2,3i=1,2,3 について足すと x12+x22+x32=r2x_1^2+x_2^2+x_3^2=r^2 を使って

div⁡F=3r3−3r2r5=3r3−3r3=0.\operatorname{div}\boldsymbol{F} = \frac{3}{r^3} - \frac{3r^2}{r^5} = \frac{3}{r^3}-\frac{3}{r^3} = 0 .

ここで指数 33(すなわちクーロン力の 1/r21/r^2)が本質的に効いています。F=x/rn\boldsymbol{F} = \boldsymbol{x}/r^{n} とすると同じ計算で div⁡F=(3−n)/rn\operatorname{div}\boldsymbol{F} = (3-n)/r^{n} となり、n=3n=3 以外では 00 になりません。

第 2 段:外部の場合。 0∉V‾\boldsymbol{0}\notin\overline{V} なら、F\boldsymbol{F} は V‾\overline{V} を含む開集合上で C1C^1 です。したがって発散定理 定理 5.3 が使えて

∮SF⋅dS=∫Vdiv⁡F d3x=∫V0 d3x=0.\oint_S \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{S} = \int_V \operatorname{div}\boldsymbol{F}\,d^3x = \int_V 0\,d^3x = 0 .

第 3 段:内部の場合。 0∈V\boldsymbol{0}\in V なら、VV は開集合なので、十分小さい a>0a>0 を取れば閉球 Ba‾={∣x∣≤a}\overline{B_a} = \{|\boldsymbol{x}|\le a\} が VV に含まれます。そこで穴あき領域 V′=V∖Ba‾V' = V\setminus \overline{B_a} を考えます。V′V' の境界は、外側の SS(外向き法線は VV から見て外向き)と、内側の球面 Σa={∣x∣=a}\Sigma_a = \{|\boldsymbol{x}|=a\}(V′V' から見た外向き法線は原点に向かう向き、すなわち −r^-\hat{\boldsymbol{r}})からなります。V′V' 上で F\boldsymbol{F} は C1C^1 で発散は 00 ですから、発散定理より

∮SF⋅dS+∫ΣaF⋅(−r^) dS=0,すなわち∮SF⋅dS=∫ΣaF⋅r^ dS.\oint_S \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{S} + \int_{\Sigma_a}\boldsymbol{F}\cdot(-\hat{\boldsymbol{r}})\,dS = 0, \qquad\text{すなわち}\qquad \oint_S \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{S} = \int_{\Sigma_a}\boldsymbol{F}\cdot\hat{\boldsymbol{r}}\,dS .

右辺は直接計算できます。Σa\Sigma_a 上では F=r^/a2\boldsymbol{F} = \hat{\boldsymbol{r}}/a^2 なので F⋅r^=1/a2\boldsymbol{F}\cdot\hat{\boldsymbol{r}} = 1/a^2 であり、球面の面積は 4πa24\pi a^2 ですから

∫ΣaF⋅r^ dS=1a2⋅4πa2=4π.\int_{\Sigma_a}\boldsymbol{F}\cdot\hat{\boldsymbol{r}}\,dS = \frac{1}{a^2}\cdot 4\pi a^2 = 4\pi .

aa が消えました。これで両方の場合が示されました。

注意 4.3

第 3 段で aa が消えたことには意味があります。F⋅dS\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{S} は幾何学的には立体角要素 dΩd\Omega に等しく、閉曲面全体にわたる積分は「原点から曲面を見込む全立体角」を与えます。中から見れば全方向が見えるので 4π4\pi、外から見れば手前側で入った分と向こう側で出た分がちょうど打ち消して 00 になります。この直観が下の図です。

電荷が内側:正味のフラックスは q/ε₀電荷が外側:入る分と出る分が相殺して 0SSqq
閉曲面 S を貫く電気力線。電荷が内側にあれば正味の流出があり、外側にあれば入った分と出た分が相殺する。

定理 4.4(ガウスの法則(積分形))✓

ρ\rho を連続でコンパクト台を持つ電荷密度、E\boldsymbol{E} を 定義 3.3 の積分で定まる電場とする。VV をなめらかな有界領域、S=∂VS = \partial V をその境界(外向き法線)とする(SS 上に電荷があってもよい)。このとき

∮SE⋅dS=1ε0∫Vρ(y) d3y=Qinε0\oint_S \boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S} = \frac{1}{\varepsilon_0}\int_V \rho(\boldsymbol{y})\,d^3y = \frac{Q_{\text{in}}}{\varepsilon_0}

が成り立つ。ここで QinQ_{\text{in}} は VV の内部に含まれる全電荷である。有限個の点電荷 q1,…,qNq_1,\dots,q_N の場合も同様で、SS 上に電荷がなければ QinQ_{\text{in}} は VV の内部にある電荷の総和である。

次の証明の筋道は単純で、電場の式に含まれる y\boldsymbol{y} についての積分と、曲面 SS についての積分の順序を入れ替え、先ほどの補題に帰着させる、というものです。順序を入れ替えてよい理由を述べる前半は技術的な確認なので、初めて読むときは「積分が有限に収まるから入れ替えられる」とだけ受け取って先に進んでかまいません。

証明(定理 4.4)

定義 3.3 の表式を代入すると

∮SE⋅dS=∮S[14πε0∫R3ρ(y) Fy(x) d3y]⋅dS(x)\oint_S \boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S} = \oint_S \left[\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_{\mathbb{R}^3}\rho(\boldsymbol{y})\,\boldsymbol{F}_{\boldsymbol{y}}(\boldsymbol{x})\,d^3y\right]\cdot d\boldsymbol{S}(\boldsymbol{x})

です。ここで Fy\boldsymbol{F}_{\boldsymbol{y}} は 補題 4.2 の記号です。積分の順序を交換します。これが許されるのは、二重積分が絶対収束するからです。実際 ∣Fy(x)∣=∣x−y∣−2|\boldsymbol{F}_{\boldsymbol{y}}(\boldsymbol{x})| = |\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^{-2} であり、SS と ρ\rho の台はともに有界なので、RR を十分大きく取ればすべての x∈S\boldsymbol{x}\in S について supp⁡ρ⊂{∣y−x∣≤R}\operatorname{supp}\rho\subset\{|\boldsymbol{y}-\boldsymbol{x}|\le R\} とでき、

∫supp⁡ρd3y∣x−y∣2≤∫∣z∣≤Rd3z∣z∣2=4πR\int_{\operatorname{supp}\rho}\frac{d^3y}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^{2}} \le \int_{|\boldsymbol{z}|\le R}\frac{d^3z}{|\boldsymbol{z}|^{2}} = 4\pi R

と x\boldsymbol{x} について一様に押さえられます(極座標で ∣z∣−2⋅∣z∣2=1|\boldsymbol{z}|^{-2}\cdot|\boldsymbol{z}|^2 = 1 となるためです)。ρ\rho は有界、SS の面積も有限ですから全体の積分は有限で、トネリ・フビニの定理(フビニの定理(定理 4.2)[重積分と累次積分])が使えます。よって

∮SE⋅dS=14πε0∫R3ρ(y)[∮SFy⋅dS]d3y.\oint_S \boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S} = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_{\mathbb{R}^3}\rho(\boldsymbol{y})\left[\oint_S \boldsymbol{F}_{\boldsymbol{y}}\cdot d\boldsymbol{S}\right]d^3y .

内側の括弧に 補題 4.2 を適用します。y∈V\boldsymbol{y}\in V なら 4π4\pi、y∉V‾\boldsymbol{y}\notin\overline{V} なら 00 です(残る y∈S\boldsymbol{y}\in S の部分は、SS が区分的に C1C^1 な曲面なので 3 次元の測度が 00 であり、y\boldsymbol{y} についての体積積分に寄与しません)。したがって

∮SE⋅dS=14πε0∫Vρ(y)⋅4π d3y=1ε0∫Vρ d3y.\oint_S \boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S} = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_{V}\rho(\boldsymbol{y})\cdot 4\pi\,d^3y = \frac{1}{\varepsilon_0}\int_V \rho\,d^3y .

点電荷の場合は、積分を有限和 ∑iqi\sum_i q_i に置き換えて同じ議論を繰り返せば得られます。

この定理の使い道は 2 つあります。1 つは、対称性がある問題で電場を実際に計算する道具として。もう 1 つは、次節で微分形を導く出発点として、です。まず前者を見ます。

次の例では、最初に対称性から電場の向きを決めます。球を原点のまわりでどう回しても電荷分布は変わらないので、電場だけが特定の方向にずれることはなく、向きは中心から外へ(または中心へ)の方向に限られる、という考え方です。

例 4.5(一様に帯電した球の電場)

半径 aa の球の内部に電荷 QQ が一様に分布しているとします。電荷密度は ρ=Q/(43πa3)=3Q/(4πa3)\rho = Q/\left(\tfrac{4}{3}\pi a^3\right) = 3Q/(4\pi a^3) です。

対称性の議論。 電荷分布は原点まわりの回転で不変です。電場もこの対称性を持つはずなので、E(x)=E(r)r^\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x}) = E(r)\hat{\boldsymbol{r}} の形に限られます。実際、点 x\boldsymbol{x} を通る軸まわりの回転は、電荷分布も点 x\boldsymbol{x} も動かしません。したがって E(x)\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x}) もこの回転で不変でなければなりませんが、x\boldsymbol{x} に垂直な成分があると、00 でない角度の回転でその向きが変わってしまい矛盾します。よって E(x)\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x}) は r^\hat{\boldsymbol{r}} に平行です。また原点まわりの任意の回転で ∣E∣|\boldsymbol{E}| は変わらないので、大きさは rr だけの関数です。

ガウス面。 半径 rr の球面 SrS_r を取ります。SrS_r 上で E⋅n^=E(r)\boldsymbol{E}\cdot\hat{\boldsymbol{n}} = E(r) は一定なので、フラックスは

∮SrE⋅dS=E(r)⋅4πr2.\oint_{S_r}\boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S} = E(r)\cdot 4\pi r^2 .

一方、内部に含まれる電荷は、r≥ar\ge a なら QQ、r<ar < a なら Q (r/a)3Q\,(r/a)^3 です(体積比)。定理 4.4 より

E(r)={Q4πε0ra3,r<a,Q4πε0r2,r≥a.E(r) = \begin{cases} \dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{r}{a^3}, & r < a,\\[10pt] \dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_0 r^2}, & r \ge a . \end{cases}

内部では中心からの距離に比例して増え、外部では全電荷が中心に集まっているのと区別がつきません。r=ar=a で両者は Q/(4πε0a2)Q/(4\pi\varepsilon_0 a^2) に一致し、電場は連続です。

数値。 Q=1.0×10−8 CQ = 1.0\times10^{-8}\ \mathrm{C}、a=5.0 cma = 5.0\ \mathrm{cm} とすると、表面での電場は

E(a)=8.9875×109×1.0×10−8(5.0×10−2)2=8.9875×109×1.0×10−82.5×10−3=3.6×104 V/mE(a) = 8.9875\times10^{9}\times\frac{1.0\times10^{-8}}{(5.0\times10^{-2})^2} = 8.9875\times10^{9}\times\frac{1.0\times10^{-8}}{2.5\times10^{-3}} = 3.6\times10^{4}\ \mathrm{V/m}

です。乾燥した空気の絶縁破壊はおよそ 3×106 V/m3\times10^{6}\ \mathrm{V/m} ですから、この程度なら放電せずに保持できます。

rEaE(a)r に比例1/r² で減少
一様に帯電した球の電場の大きさ。縦軸は表面での値 E(a) を 1 とし、横軸は r/a。内部では r に比例して増え、外部では 1/r² で減る。r = a で連続。

例 4.6(無限に長い直線電荷)

zz 軸上に線密度 λ\lambda の電荷が一様に分布しているとします。円柱座標 (s,φ,z)(s,\varphi,z) を使うと、分布は zz 方向の平行移動、zz 軸まわりの回転、z↦−zz\mapsto -z の鏡映、および zz 軸を含む平面についての鏡映で不変です。ここから、E=E(s)s^\boldsymbol{E} = E(s)\hat{\boldsymbol{s}}(動径方向のみ)であることが従います。平行移動と回転から各成分は ss だけの関数になり、zz 成分があると z↦−zz\mapsto -z の鏡映で符号が変わって矛盾し、φ\varphi 成分があると zz 軸を含む平面についての鏡映(φ^\hat{\boldsymbol{\varphi}} の向きを反転させる)で符号が変わって矛盾するからです。

半径 ss、長さ LL の円柱面をガウス面に取ります。上下の蓋では E⊥dS\boldsymbol{E}\perp d\boldsymbol{S} なので寄与は 00、側面では E⋅n^=E(s)\boldsymbol{E}\cdot\hat{\boldsymbol{n}} = E(s) が一定です。側面積は 2πsL2\pi s L、内部電荷は λL\lambda L ですから

E(s)⋅2πsL=λLε0⟹E(s)=λ2πε0s.E(s)\cdot 2\pi s L = \frac{\lambda L}{\varepsilon_0} \qquad\Longrightarrow\qquad E(s) = \frac{\lambda}{2\pi\varepsilon_0 s} .

LL が消えるのが気持ちよいところです。減り方が 1/s1/s であって 1/s21/s^2 でないことに注意してください。次元が 1 つ落ちると指数も 1 つ落ちます。

注意 4.7

定理 4.4 はどんな閉曲面についても成り立つ恒等式ですが、そこから E\boldsymbol{E} を取り出せるのは、E⋅n^\boldsymbol{E}\cdot\hat{\boldsymbol{n}} が曲面上で定数になるようなガウス面を対称性から選べる場合だけです。使えるのは実質、球対称・軸対称(無限円柱)・平面対称(無限平板)の 3 種類に限られます。有限の長さの帯電棒では、ガウスの法則は正しいけれども役に立ちません。そういう場合は 定義 3.3 の積分か、次節以降のポアソン方程式に戻ります。


5. 発散とガウスの法則の微分形

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定理 4.4 は、有限の大きさの領域についての主張です。場の理論としては、各点ごとの局所的な法則がほしい。そこで、閉曲面をどんどん小さくして 1 点に潰す極限を考えます。

定義 5.1(発散(湧き出しの密度))↗

ベクトル場 A\boldsymbol{A} と点 x0\boldsymbol{x}_0 に対し、x0\boldsymbol{x}_0 を含むなめらかな領域 VV を x0\boldsymbol{x}_0 に縮めていくときの極限

div⁡A(x0)=lim⁡V→{x0}1∣V∣∮∂VA⋅dS\operatorname{div}\boldsymbol{A}(\boldsymbol{x}_0) = \lim_{V\to\{\boldsymbol{x}_0\}} \frac{1}{|V|}\oint_{\partial V}\boldsymbol{A}\cdot d\boldsymbol{S}

を A\boldsymbol{A} の点 x0\boldsymbol{x}_0 における発散という(∣V∣|V| は VV の体積)。分子は「VV から正味どれだけ流れ出したか」なので、発散は単位体積あたりの湧き出しの強さである。

この定義は座標に依存しない形になっているのが利点です。一方、計算するには座標表示が要ります。

命題 5.2(発散の直交座標表示)✓

A=(Ax,Ay,Az)\boldsymbol{A} = (A_x,A_y,A_z) が x0\boldsymbol{x}_0 の近傍で C1C^1 級なら、定義 5.1 の極限を「x0\boldsymbol{x}_0 を中心とする一辺 2ϵ2\epsilon の立方体 CϵC_\epsilon を ϵ→0\epsilon\to 0 とする」形で取ったとき、極限は存在して

div⁡A(x0)=∂Ax∂x(x0)+∂Ay∂y(x0)+∂Az∂z(x0)\operatorname{div}\boldsymbol{A}(\boldsymbol{x}_0) = \frac{\partial A_x}{\partial x}(\boldsymbol{x}_0) + \frac{\partial A_y}{\partial y}(\boldsymbol{x}_0) + \frac{\partial A_z}{\partial z}(\boldsymbol{x}_0)

に等しい。

次の証明が言いたいことは、立方体の向かい合う 2 面でのフラックスの差が、その方向の偏微分に立方体の体積をかけたものにほぼ等しい、ということです。途中の η\eta を使った評価は、立方体が十分小さければ「ほぼ」の誤差をいくらでも小さくできる、と確認する部分です。

証明(命題 5.2)

x0=(x0,y0,z0)\boldsymbol{x}_0 = (x_0,y_0,z_0)、Cϵ=[x0−ϵ,x0+ϵ]×[y0−ϵ,y0+ϵ]×[z0−ϵ,z0+ϵ]C_\epsilon = [x_0-\epsilon,x_0+\epsilon]\times[y_0-\epsilon,y_0+\epsilon]\times[z_0-\epsilon,z_0+\epsilon] とします。体積は ∣Cϵ∣=8ϵ3|C_\epsilon| = 8\epsilon^3 です。

立方体の 6 面を向かい合う 3 組に分けます。xx に垂直な 2 面では、外向き法線はそれぞれ +e^x+\hat{\boldsymbol{e}}_x と −e^x-\hat{\boldsymbol{e}}_x ですから、この組からのフラックスは

Φx=∫y0−ϵy0+ϵ ⁣ ⁣∫z0−ϵz0+ϵ[Ax(x0+ϵ,y,z)−Ax(x0−ϵ,y,z)] dz dy.\Phi_x = \int_{y_0-\epsilon}^{y_0+\epsilon}\!\!\int_{z_0-\epsilon}^{z_0+\epsilon} \Big[A_x(x_0+\epsilon,y,z) - A_x(x_0-\epsilon,y,z)\Big]\,dz\,dy .

被積分関数に、xx についての 1 変数の平均値の定理(ラグランジュの平均値の定理(定理 3.3)[平均値の定理とテイラーの定理])を適用します。AxA_x は C1C^1 なので、各 (y,z)(y,z) に対して ξ=ξ(y,z)∈(x0−ϵ,x0+ϵ)\xi = \xi(y,z)\in(x_0-\epsilon,x_0+\epsilon) が存在して

Ax(x0+ϵ,y,z)−Ax(x0−ϵ,y,z)=2ϵ ∂Ax∂x(ξ,y,z).A_x(x_0+\epsilon,y,z) - A_x(x_0-\epsilon,y,z) = 2\epsilon\,\frac{\partial A_x}{\partial x}(\xi,y,z) .

∂Ax/∂x\partial A_x/\partial x は連続なので、x0\boldsymbol{x}_0 を含むコンパクトな閉近傍の上で一様連続です。よって任意の η>0\eta>0 に対し ϵ\epsilon を十分小さく取れば、CϵC_\epsilon 内のすべての点 p\boldsymbol{p} で

∣∂Ax∂x(p)−∂Ax∂x(x0)∣<η\left|\frac{\partial A_x}{\partial x}(\boldsymbol{p}) - \frac{\partial A_x}{\partial x}(\boldsymbol{x}_0)\right| < \eta

とできます(ここで使っているのは 一様連続性(定義 6.1)[極限と連続性] の定義そのものです)。(ξ,y,z)∈Cϵ(\xi,y,z)\in C_\epsilon ですからこの評価が使えて、

∣Φx−2ϵ⋅(2ϵ)2 ∂Ax∂x(x0)∣≤2ϵ⋅(2ϵ)2 η=8ϵ3η.\left|\Phi_x - 2\epsilon\cdot(2\epsilon)^2\,\frac{\partial A_x}{\partial x}(\boldsymbol{x}_0)\right| \le 2\epsilon\cdot(2\epsilon)^2\,\eta = 8\epsilon^3\eta .

両辺を ∣Cϵ∣=8ϵ3|C_\epsilon| = 8\epsilon^3 で割ると、∣Φx/(8ϵ3)−∂xAx(x0)∣≤η\left|\Phi_x/(8\epsilon^3) - \partial_x A_x(\boldsymbol{x}_0)\right| \le \eta です。η>0\eta>0 は任意でしたから

lim⁡ϵ→0Φx8ϵ3=∂Ax∂x(x0).\lim_{\epsilon\to 0}\frac{\Phi_x}{8\epsilon^3} = \frac{\partial A_x}{\partial x}(\boldsymbol{x}_0) .

yy 方向、zz 方向の組についても文字を入れ替えるだけで同じ評価が成り立ちます。3 つを足して主張を得ます。

命題 5.2 は「発散 = 偏微分の和」という機械的な公式に、湧き出しという意味を与えます。逆に言えば、∂xAx+∂yAy+∂zAz\partial_xA_x+\partial_yA_y+\partial_zA_z という一見無機質な式を見たら、「この点で場が湧き出しているか吸い込まれているか」と読み替えてください。

微小領域についての 定義 5.1 を有限の領域に足し上げたものが、次の定理です。

定理 5.3(発散定理(ガウス・オストログラツキーの定理))✓

VV をなめらかな有界領域、A\boldsymbol{A} を V‾\overline{V} を含む開集合上で C1C^1 級のベクトル場とする。このとき

∫Vdiv⁡A d3x=∮∂VA⋅dS\int_V \operatorname{div}\boldsymbol{A}\,d^3x = \oint_{\partial V}\boldsymbol{A}\cdot d\boldsymbol{S}

が成り立つ(∂V\partial V の法線は外向き)。

証明(定理 5.3)

これは数学の定理で、ラプラス方程式 の 補題 2.1[ラプラス方程式と調和関数] の n=3n=3 の場合そのものです。実際、そこでの仮定「Ω\Omega は滑らかな境界をもつ有界領域、XX は Ω‾\overline\Omega の近傍で C1C^1 級」は、ここでの VV と A\boldsymbol A の仮定と同じです。また面要素ベクトルは外向き単位法線 n\boldsymbol n と面積要素 dSdS により dS=n dSd\boldsymbol S=\boldsymbol n\,dS と書かれるので、右辺 ∮∂VA⋅dS\oint_{\partial V}\boldsymbol A\cdot d\boldsymbol S は同補題の ∫∂ΩX⋅ν dS\int_{\partial\Omega}X\cdot\nu\,dS にあたります。左辺の div⁡\operatorname{div} はどちらも直交座標の ∑i∂iAi\sum_i\partial_iA_i です(命題 5.2)。したがって主張が成り立ちます。

注意 5.4

発散定理は純粋に数学の定理で、電磁気学とは無関係に成り立ちます。直観的には、領域を微小な直方体に分割し、隣り合う直方体の共有面でのフラックスが向きが逆なので打ち消し合うこと(内部の寄与がすべて相殺し、外側の面だけが残ること)を示し、各直方体に 命題 5.2 を適用する、という筋道です。上の証明が引く補題は、微分形式のストークスの定理を経由してこれを厳密にしたものです。標準領域に限った初等的な証明は ベクトル解析 の 定理 7.1[ベクトル解析と積分定理] にあります。

積分形から微分形に移るには、「すべての領域で積分が等しいなら被積分関数も等しい」という一手が必要です。これは自明ではなく、ρ\rho や div⁡E\operatorname{div}\boldsymbol{E} の連続性を使います。

補題 5.5(連続関数の消滅補題)✓

Ω⊂R3\Omega\subset\mathbb{R}^3 を開集合、f:Ω→Rf:\Omega\to\mathbb{R} を連続関数とする。Ω\Omega に含まれるすべての閉球 BB について ∫Bf d3x=0\int_B f\,d^3x = 0 が成り立つならば、Ω\Omega 上で f≡0f\equiv 0 である。

証明(補題 5.5)

背理法で示します。ある x0∈Ω\boldsymbol{x}_0\in\Omega で f(x0)≠0f(\boldsymbol{x}_0)\ne 0 とし、まず c:=f(x0)>0c := f(\boldsymbol{x}_0) > 0 の場合を考えます。

ff は x0\boldsymbol{x}_0 で連続なので、ε=c/2\varepsilon = c/2 に対して δ>0\delta>0 が存在して、∣x−x0∣≤δ|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_0| \le \delta ならば ∣f(x)−c∣<c/2|f(\boldsymbol{x}) - c| < c/2、したがって f(x)>c/2f(\boldsymbol{x}) > c/2 となります。Ω\Omega は開集合なので、δ\delta をさらに小さく取って閉球 B={∣x−x0∣≤δ}B = \{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_0|\le\delta\} が Ω\Omega に含まれるようにできます。この BB について

∫Bf d3x ≥ ∫Bc2 d3x=c2⋅43πδ3>0\int_B f\,d^3x \ \ge\ \int_B \frac{c}{2}\,d^3x = \frac{c}{2}\cdot\frac{4}{3}\pi\delta^3 > 0

となり、仮定 ∫Bf=0\int_B f = 0 に矛盾します。f(x0)<0f(\boldsymbol{x}_0)<0 の場合は −f-f に同じ議論を適用すればよい。よって ff はどの点でも 00 です。

定理 5.6(ガウスの法則(微分形))✓

ρ\rho を連続でコンパクト台を持つ電荷密度、E\boldsymbol{E} をそれがつくる電場とする。E\boldsymbol{E} が C1C^1 級である領域において

div⁡E(x)=ρ(x)ε0\operatorname{div}\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x}) = \frac{\rho(\boldsymbol{x})}{\varepsilon_0}

が各点で成り立つ。

証明(定理 5.6)

E\boldsymbol{E} が C1C^1 級である開集合を Ω\Omega とし、Ω\Omega に含まれる任意の閉球 BB を取ります。BB の内部を VV とすると、定理 5.3 より

∫Vdiv⁡E d3x=∮∂VE⋅dS\int_{V}\operatorname{div}\boldsymbol{E}\,d^3x = \oint_{\partial V}\boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{S}

です。一方、定理 4.4 より右辺は 1ε0∫Vρ d3x\dfrac{1}{\varepsilon_0}\displaystyle\int_V \rho\,d^3x に等しい(定理 4.4 は境界面上に電荷があってもよい形で述べてあるので、電荷が詰まっている領域に置いた球にもそのまま適用できます)。したがって

∫V(div⁡E−ρε0)d3x=0.\int_{V}\left(\operatorname{div}\boldsymbol{E} - \frac{\rho}{\varepsilon_0}\right)d^3x = 0 .

E\boldsymbol{E} が C1C^1 かつ ρ\rho が連続なので、括弧の中身 f=div⁡E−ρ/ε0f = \operatorname{div}\boldsymbol{E} - \rho/\varepsilon_0 は Ω\Omega 上で連続です。上の等式は Ω\Omega に含まれる任意の閉球について成り立つので、補題 5.5 より f≡0f\equiv 0、すなわち div⁡E=ρ/ε0\operatorname{div}\boldsymbol{E} = \rho/\varepsilon_0 です。

これが「電荷は電場の湧き出し口である」という命題の正確な意味です。正電荷のあるところで電気力線が湧き出し、負電荷のあるところで吸い込まれ、電荷のない場所では力線は途切れも生まれもしない。定義 5.1 の湧き出し密度としての読み方が効いています。

例 5.7(一様帯電球で微分形を確かめる)

例 4.5 で求めた電場が、確かに 定理 5.6 を満たすことを直接計算で確認します。球対称なベクトル場 A=A(r)r^\boldsymbol{A} = A(r)\hat{\boldsymbol{r}} の発散は、球座標での公式

div⁡A=1r2ddr(r2A(r))\operatorname{div}\boldsymbol{A} = \frac{1}{r^2}\frac{d}{dr}\left(r^2 A(r)\right)

で与えられます(この公式自体、定義 5.1 で VV として厚さ drdr の球殻を取れば導けます:流出 =4π(r+dr)2A(r+dr)−4πr2A(r)= 4\pi(r+dr)^2A(r+dr) - 4\pi r^2A(r)、体積 =4πr2dr= 4\pi r^2 dr)。

外部 r>ar > a。 A(r)=Q/(4πε0r2)A(r) = Q/(4\pi\varepsilon_0 r^2) なので r2A(r)=Q/(4πε0)r^2A(r) = Q/(4\pi\varepsilon_0) は定数であり、ddr\dfrac{d}{dr} を取ると 00 です。よって div⁡E=0\operatorname{div}\boldsymbol{E} = 0。外部には電荷がないので ρ=0\rho = 0、一致します。

内部 r<ar < a。 A(r)=Qr/(4πε0a3)A(r) = Qr/(4\pi\varepsilon_0 a^3) なので r2A(r)=Qr3/(4πε0a3)r^2A(r) = Qr^3/(4\pi\varepsilon_0 a^3)、微分して 3Qr2/(4πε0a3)3Qr^2/(4\pi\varepsilon_0 a^3)、r2r^2 で割って

div⁡E=3Q4πε0a3=1ε0⋅3Q4πa3=ρε0.\operatorname{div}\boldsymbol{E} = \frac{3Q}{4\pi\varepsilon_0 a^3} = \frac{1}{\varepsilon_0}\cdot\frac{3Q}{4\pi a^3} = \frac{\rho}{\varepsilon_0} .

例 4.5 で使った ρ=3Q/(4πa3)\rho = 3Q/(4\pi a^3) とぴったり合いました。なお r=ar=a では EE は連続ですが dE/drdE/dr が不連続なので、E\boldsymbol{E} は C1C^1 ではありません。これは ρ\rho がそこで不連続(内側で正、外側で 00)であることに対応しています。定理 5.6 の仮定が破れる点では、微分形は各点では意味を失い、積分形の方が基本的になります。


6. 静電ポテンシャルとポアソン方程式

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定理 5.6 は 1 本の方程式ですが、未知数は E\boldsymbol{E} の 3 成分です。これだけでは E\boldsymbol{E} は決まりません。足りない情報を供給するのが、静電場のもう 1 つの性質です。

出発点は、1/r1/r の勾配の計算です。r=∣x∣r=|\boldsymbol{x}| に対し ∂r/∂xi=xi/r\partial r/\partial x_i = x_i/r でしたから、合成関数の微分により

∂∂xi(1r)=−1r2⋅xir=−xir3,すなわち∇(1r)=−xr3.\frac{\partial}{\partial x_i}\left(\frac{1}{r}\right) = -\frac{1}{r^2}\cdot\frac{x_i}{r} = -\frac{x_i}{r^3}, \qquad\text{すなわち}\qquad \nabla\left(\frac{1}{r}\right) = -\frac{\boldsymbol{x}}{r^3} .

右辺は、まさに点電荷のつくる電場の形です。つまりクーロン場は 1/r1/r という 1 個のスカラー関数の勾配になっています。これを重ね合わせれば、一般の分布についても同じことが言えます。

定義 6.1(静電ポテンシャル)↗

連続でコンパクト台を持つ電荷密度 ρ\rho に対し、

V(x)=14πε0∫R3ρ(y)∣x−y∣ d3yV(\boldsymbol{x}) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_{\mathbb{R}^3}\frac{\rho(\boldsymbol{y})}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|}\,d^3y

を静電ポテンシャル(電位)という。単位は V=J/C\mathrm{V} = \mathrm{J/C} である。無限遠で V→0V\to 0 となるように基準を選んである。

定理 6.2(電場はポテンシャルの勾配)✓

定義 6.1 の VV は R3\mathbb{R}^3 全体で C1C^1 級であり、

E=−grad⁡V=−∇V\boldsymbol{E} = -\operatorname{grad}V = -\nabla V

が成り立つ。

次の証明の方針は、VV の定義の積分を x\boldsymbol{x} で微分し、微分を積分の中に入れて −E-\boldsymbol{E} を得る、というものです。難しいのは、被積分関数が y=x\boldsymbol{y}=\boldsymbol{x} で発散するため、微分と積分の順序の交換に注意が要る点です。そのため、特異点のまわりを小さな球で切り分けて、球の内側と外側を別々に評価します。この評価の部分は読み飛ばしても、結論の E=−∇V\boldsymbol{E}=-\nabla V の意味は追えます。

証明(定理 6.2)

被積分関数を x\boldsymbol{x} について微分します。上で計算したとおり、y\boldsymbol{y} を固定すると

∇x1∣x−y∣=−x−y∣x−y∣3\nabla_{\boldsymbol{x}}\frac{1}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|} = -\frac{\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^3}

です(x↦x−y\boldsymbol{x}\mapsto\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y} と平行移動しただけです)。積分記号の下で微分することが許されれば

∇V(x)=14πε0∫ρ(y)(−x−y∣x−y∣3)d3y=−E(x)\nabla V(\boldsymbol{x}) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int\rho(\boldsymbol{y})\left(-\frac{\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^3}\right)d^3y = -\boldsymbol{E}(\boldsymbol{x})

となり、これが主張です。微分と積分の交換が正当化できる理由は次のとおりです。ρ\rho は有界(連続かつコンパクト台)なので ∣ρ∣≤M|\rho|\le M とします。方向 h\boldsymbol{h}(∣h∣=ϵ|\boldsymbol{h}|=\epsilon 小)の差分商 (V(x+h)−V(x))/ϵ\bigl(V(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{h})-V(\boldsymbol{x})\bigr)/\epsilon の積分を、特異点を含む球 B={∣y−x∣<2ϵ}B=\{|\boldsymbol{y}-\boldsymbol{x}|<2\epsilon\} の内と外に分けます。内側では、被積分関数が M(∣x+h−y∣−1+∣x−y∣−1)/ϵM\bigl(|\boldsymbol{x}+\boldsymbol{h}-\boldsymbol{y}|^{-1}+|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^{-1}\bigr)/\epsilon で押さえられ、∫B∣x−y∣−1d3y=2π(2ϵ)2\int_B |\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^{-1}d^3y = 2\pi(2\epsilon)^2 で、もう一方の項も同じ位数の O(ϵ2)O(\epsilon^2) なので、全体は O(ϵ)O(\epsilon) で 00 に近づきます(極限の候補 ∫Bρ ∣x−y∣−2d3y=O(ϵ)\int_B \rho\,|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^{-2}d^3y=O(\epsilon) も同様です)。外側では、y∉B\boldsymbol{y}\notin B なら線分 {x+th}\{\boldsymbol{x}+t\boldsymbol{h}\} 上で ∣x+th−y∣≥∣x−y∣/2|\boldsymbol{x}+t\boldsymbol{h}-\boldsymbol{y}|\ge|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/2 なので、平均値の定理により差分商は 4M/∣x−y∣24M/|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^2 で押さえられ、これは y\boldsymbol{y} について(コンパクト台上で)可積分です。ルベーグの優収束定理により外側の積分は極限と交換できます。よって ∇V=−E\nabla V = -\boldsymbol{E} が成り立ち、E\boldsymbol{E} が連続であることから VV は C1C^1 級です。

系 6.3(静電場は保存力場)✓

定理 6.2 の状況で、R3\mathbb{R}^3 内の任意の区分的に C1C^1 な曲線 CC(始点 AA、終点 BB)に対し

∫CE⋅dl=V(A)−V(B)\int_C \boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{l} = V(A) - V(B)

が成り立つ。とくに線積分は経路によらず、閉曲線に沿えば ∮CE⋅dl=0\oint_C\boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{l} = 0 である。また VV が C2C^2 級の領域では rot⁡E=0\operatorname{rot}\boldsymbol{E} = \boldsymbol{0} である。

証明(系 6.3)

CC を c:[0,1]→R3\boldsymbol{c}:[0,1]\to\mathbb{R}^3、c(0)=A\boldsymbol{c}(0)=A、c(1)=B\boldsymbol{c}(1)=B とパラメータ表示します。多変数の合成関数の微分法(連鎖律(定理 9.4)[多変数関数の微分と偏微分])より

ddtV(c(t))=∇V(c(t))⋅c′(t)=−E(c(t))⋅c′(t)\frac{d}{dt}V(\boldsymbol{c}(t)) = \nabla V(\boldsymbol{c}(t))\cdot \boldsymbol{c}'(t) = -\boldsymbol{E}(\boldsymbol{c}(t))\cdot\boldsymbol{c}'(t)

です(2 つ目の等号で 定理 6.2 を使いました)。両辺を tt について 00 から 11 まで積分し、微分積分学の基本定理(定理 5.4)[積分の基本定理と定積分] を適用すると

V(B)−V(A)=−∫01E(c(t))⋅c′(t) dt=−∫CE⋅dlV(B) - V(A) = -\int_0^1 \boldsymbol{E}(\boldsymbol{c}(t))\cdot\boldsymbol{c}'(t)\,dt = -\int_C\boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{l}

となり、移項して主張を得ます。右辺は端点だけで決まるので経路によりません。閉曲線なら A=BA=B なので 00 です。最後に、rot⁡(∇V)\operatorname{rot}(\nabla V) の第 1 成分は ∂y∂zV−∂z∂yV\partial_y\partial_z V - \partial_z\partial_y V ですが、VV が C2C^2 なら偏微分の順序が交換できる(シュワルツの定理(定理 9.9)[多変数関数の微分と偏微分])のでこれは 00、他の成分も同様です。

注意 6.4

系 6.3 の物理的な意味は、電荷 qq を AA から BB まで運ぶときに電場がする仕事が q (V(A)−V(B))q\,(V(A)-V(B)) であり、経路によらないということです。すなわち静電場は保存力場で、ニュートン力学の基礎 の 力学的エネルギー保存則(定理 7.5)[ニュートン力学の基礎] がそのまま使えます。位置エネルギーは U=qVU = qV です。

ベクトル場 3 成分をスカラー 1 個で書けることの実用上の価値は大きく、静電気の問題はほぼすべて VV を求める問題として解かれます。なお、時間変化する場では rot⁡E≠0\operatorname{rot}\boldsymbol{E}\ne\boldsymbol{0} になるためスカラーポテンシャルだけでは足りず、ベクトルポテンシャル A\boldsymbol{A} が必要になります。そこで初めてゲージ変換の自由度が現れます(電磁ポテンシャルとゲージ変換)。静電場でも VV に定数を足す自由度がありますが、これはゲージ自由度のもっとも簡単な例だと見ることができます。

定理 6.5(ポアソン方程式)✓

ρ\rho を連続でコンパクト台を持つ電荷密度、VV を 定義 6.1 の静電ポテンシャルとする。VV が C2C^2 級である領域において

ΔV=∂2V∂x2+∂2V∂y2+∂2V∂z2=−ρε0\Delta V = \frac{\partial^2V}{\partial x^2}+\frac{\partial^2V}{\partial y^2}+\frac{\partial^2V}{\partial z^2} = -\frac{\rho}{\varepsilon_0}

が成り立つ。

証明(定理 6.5)

定理 6.2 より E=−∇V\boldsymbol{E} = -\nabla V です。VV が C2C^2 なら E\boldsymbol{E} は C1C^1 なので 定理 5.6 が使えて

ρε0=div⁡E=div⁡(−∇V)=−ΔV.\frac{\rho}{\varepsilon_0} = \operatorname{div}\boldsymbol{E} = \operatorname{div}(-\nabla V) = -\Delta V .

最後の等号は div⁡grad⁡=Δ\operatorname{div}\operatorname{grad} = \Delta という定義そのものです。符号を整理して主張を得ます。

系 6.6(ラプラス方程式)✓

電荷のない領域(ρ≡0\rho\equiv 0)では、静電ポテンシャルは ΔV=0\Delta V = 0 を満たす。この方程式をラプラス方程式、その解を調和関数という。

証明(系 6.6)

定理 6.5 と同じ仮定(VV が C2C^2 級である領域)のもとで、ΔV=−ρ/ε0\Delta V=-\rho/\varepsilon_0 に ρ≡0\rho\equiv0 を代入すれば ΔV=0\Delta V=0 です。

なお、ρ\rho が開集合 UU 上で 00 なら、VV は UU 上で自動的に C2C^2 級(実は C∞C^\infty 級)です。x∈U\boldsymbol x\in U に対し閉球 B(x,2r)‾⊂U\overline{B(\boldsymbol x,2r)}\subset U をとると、x′∈B(x,r)\boldsymbol x'\in B(\boldsymbol x,r) と ρ(y)≠0\rho(\boldsymbol y)\ne0 となる y\boldsymbol y の距離は rr 以上なので、定義 6.1 の被積分関数 ρ(y)/∣x′−y∣\rho(\boldsymbol y)/|\boldsymbol x'-\boldsymbol y| は x′\boldsymbol x' について何回でも微分でき、その導関数はコンパクトな台 supp⁡ρ\operatorname{supp}\rho 上で一様に有界です。よって積分記号下で微分でき、さらに Δx′∣x′−y∣−1=0\Delta_{\boldsymbol x'}|\boldsymbol x'-\boldsymbol y|^{-1}=0(x′≠y\boldsymbol x'\ne\boldsymbol y)から直接 ΔV=0\Delta V=0 も確かめられます。

注意 6.7

細かいけれども正直に述べておくべき点があります。ρ\rho が連続であるだけでは、定義 6.1 の VV は一般に C2C^2 級とは限りません。C2C^2 を保証するには、ρ\rho が局所ヘルダー連続であるなどのもう少し強い条件が要ります(連続なだけの ρ\rho で V∉C2V\notin C^2 となる例が知られています)。この事情はポテンシャル論の標準的な話題で、Evans の Partial Differential Equations 第 2 章に詳しい議論があります。物理の問題で扱う電荷分布はたいてい区分的に滑らかなので、実用上は気にしなくてかまいません。

定理 6.5 は、この記事の到達点です。静電気の問題は、次の形に定式化されます。

領域と境界条件(導体の表面電位、無限遠での挙動など)が与えられたとき、ΔV=−ρ/ε0\Delta V = -\rho/\varepsilon_0 を満たす VV を求めよ。

定義 6.1 の積分は、境界条件が「無限遠で 00」のときの解の公式にほかなりません。導体や誘電体が置かれた有限領域の問題では、境界条件が変わるので積分公式はそのままでは使えず、鏡像法・変数分離・グリーン関数といった偏微分方程式の技法が登場します。

例 6.8(一様帯電球のポテンシャルとポアソン方程式)

例 4.5 の球について、VV を求めてポアソン方程式を確かめます。球対称なので V=V(r)V = V(r) で、定理 6.2 より E(r)=−dV/drE(r) = -dV/dr です。

外部 r≥ar\ge a。 −dV/dr=Q/(4πε0r2)-dV/dr = Q/(4\pi\varepsilon_0 r^2) を積分し、r→∞r\to\infty で V→0V\to0 となるよう定数を決めると

V(r)=Q4πε0r.V(r) = \frac{Q}{4\pi\varepsilon_0 r} .

内部 r≤ar\le a。 −dV/dr=Qr/(4πε0a3)-dV/dr = Qr/(4\pi\varepsilon_0 a^3) を積分して V(r)=−Qr28πε0a3+CV(r) = -\dfrac{Qr^2}{8\pi\varepsilon_0 a^3} + C。r=ar=a で外部の値 Q/(4πε0a)Q/(4\pi\varepsilon_0 a) に一致させると

−Q8πε0a+C=Q4πε0a⟹C=3Q8πε0a,-\frac{Q}{8\pi\varepsilon_0 a} + C = \frac{Q}{4\pi\varepsilon_0 a} \quad\Longrightarrow\quad C = \frac{3Q}{8\pi\varepsilon_0 a},

したがって

V(r)=Q8πε0a(3−r2a2)(r≤a).V(r) = \frac{Q}{8\pi\varepsilon_0 a}\left(3 - \frac{r^2}{a^2}\right) \qquad (r\le a).

中心では V(0)=3Q/(8πε0a)V(0) = 3Q/(8\pi\varepsilon_0 a) で、表面の値の 1.51.5 倍です。例 4.5 の数値(Q=1.0×10−8 CQ=1.0\times10^{-8}\ \mathrm{C}、a=5.0 cma=5.0\ \mathrm{cm})を入れると、表面電位は 8.9875×109×10−8/(5.0×10−2)=1.8×103 V8.9875\times10^{9}\times10^{-8}/(5.0\times10^{-2}) = 1.8\times10^{3}\ \mathrm{V}、中心電位は 2.7×103 V2.7\times10^{3}\ \mathrm{V} です。

ポアソン方程式の確認。 球対称な関数のラプラシアンは ΔV=1r2ddr(r2dVdr)\Delta V = \dfrac{1}{r^2}\dfrac{d}{dr}\left(r^2\dfrac{dV}{dr}\right) です。内部では dV/dr=−Qr/(4πε0a3)dV/dr = -Qr/(4\pi\varepsilon_0a^3) なので

r2dVdr=−Qr34πε0a3,ddr(r2dVdr)=−3Qr24πε0a3,ΔV=−3Q4πε0a3.r^2\frac{dV}{dr} = -\frac{Qr^3}{4\pi\varepsilon_0a^3},\qquad \frac{d}{dr}\left(r^2\frac{dV}{dr}\right) = -\frac{3Qr^2}{4\pi\varepsilon_0a^3},\qquad \Delta V = -\frac{3Q}{4\pi\varepsilon_0 a^3} .

一方 ρ=3Q/(4πa3)\rho = 3Q/(4\pi a^3) ですから −ρ/ε0=−3Q/(4πε0a3)-\rho/\varepsilon_0 = -3Q/(4\pi\varepsilon_0a^3) で、確かに 定理 6.5 が成り立っています。外部では r2 dV/dr=−Q/(4πε0)r^2\,dV/dr = -Q/(4\pi\varepsilon_0) が定数なので ΔV=0\Delta V = 0 となり、系 6.6 のとおりです。


演習 7.1易

半径 aa の球面上に電荷 QQ が一様に分布している(面密度 σ=Q/(4πa2)\sigma = Q/(4\pi a^2)、内部は空洞)。中心からの距離 rr における電場 E(r)E(r) と電位 V(r)V(r) を求めてください。また、r=ar=a で EE と VV がそれぞれ連続か不連続かを述べてください。

解答

球対称なので 例 4.5 と同じ議論により E=E(r)r^\boldsymbol{E} = E(r)\hat{\boldsymbol{r}} です。半径 rr の球面をガウス面に取ると、フラックスは 4πr2E(r)4\pi r^2E(r)。内部電荷は r<ar < a なら 00、r>ar > a なら QQ です。定理 4.4 より

E(r)={0,r<a,Q4πε0r2,r>a.E(r) = \begin{cases} 0, & r < a,\\[6pt] \dfrac{Q}{4\pi\varepsilon_0 r^2}, & r > a. \end{cases}

空洞の内部で電場が完全に 00 になるのが要点です。これは 補題 4.2 の外部の場合が効いている状況で、クーロンの法則の指数がちょうど 22 であることの直接の帰結です(実験的に指数のずれを高精度で検証する方法として、この「空洞内で電場が 00」を測る実験が実際に使われています)。

電位は V(r)=−∫∞rE dr′V(r) = -\int_\infty^r E\,dr' から求めます。r≥ar\ge a では V(r)=Q/(4πε0r)V(r) = Q/(4\pi\varepsilon_0 r)。r≤ar\le a では E=0E=0 なので VV は定数で、r=ar=a での値と等しく

V(r)=Q4πε0a(r≤a).V(r) = \frac{Q}{4\pi\varepsilon_0 a} \qquad (r\le a).

r=ar=a では EE は 00 から Q/(4πε0a2)Q/(4\pi\varepsilon_0a^2) に飛ぶので不連続です(面電荷では一般に法線成分が σ/ε0\sigma/\varepsilon_0 だけ跳びます。ここでも σ/ε0=Q/(4πε0a2)\sigma/\varepsilon_0 = Q/(4\pi\varepsilon_0a^2) で一致します)。一方 VV は r=ar=a で両側とも Q/(4πε0a)Q/(4\pi\varepsilon_0 a) となり連続です。VV は EE の積分なので、EE が有界に跳ぶ程度では連続性は保たれます。

演習 7.2標準

無限に長い半径 aa の円柱の内部に、電荷が一様な密度 ρ\rho で分布している。円柱座標 (s,φ,z)(s,\varphi,z) を使って電場を求め、さらに円柱座標での発散の公式

div⁡A=1s∂∂s(sAs)+1s∂Aφ∂φ+∂Az∂z\operatorname{div}\boldsymbol{A} = \frac{1}{s}\frac{\partial}{\partial s}\left(sA_s\right) + \frac{1}{s}\frac{\partial A_\varphi}{\partial\varphi} + \frac{\partial A_z}{\partial z}

を用いて、内外の両方で 定理 5.6 が成り立つことを確認してください。

解答

例 4.6 と同じ対称性の議論(zz 方向の並進、zz 軸まわりの回転、z↦−zz\mapsto-z の鏡映、zz 軸を含む平面についての鏡映)から E=E(s)s^\boldsymbol{E} = E(s)\hat{\boldsymbol{s}} です。

半径 ss、長さ LL の同軸円柱面をガウス面に取ります。側面のフラックスは E(s)⋅2πsLE(s)\cdot 2\pi sL、蓋の寄与は 00 です。内部電荷は、s≤as\le a なら ρ⋅πs2L\rho\cdot\pi s^2L、s≥as\ge a なら ρ⋅πa2L\rho\cdot\pi a^2 L です。定理 4.4 より

E(s)={ρs2ε0,s≤a,ρa22ε0s,s≥a.E(s) = \begin{cases}\dfrac{\rho s}{2\varepsilon_0}, & s\le a,\\[10pt] \dfrac{\rho a^2}{2\varepsilon_0 s}, & s\ge a.\end{cases}

s=as=a でどちらも ρa/(2ε0)\rho a/(2\varepsilon_0) となり連続です。

発散を計算します。Aφ=Az=0A_\varphi = A_z = 0 なので、公式の第 1 項だけが残ります。

内部(s<as < a)では sE(s)=ρs2/(2ε0)sE(s) = \rho s^2/(2\varepsilon_0) なので

div⁡E=1sdds(ρs22ε0)=1s⋅ρsε0=ρε0\operatorname{div}\boldsymbol{E} = \frac{1}{s}\frac{d}{ds}\left(\frac{\rho s^2}{2\varepsilon_0}\right) = \frac{1}{s}\cdot\frac{\rho s}{\varepsilon_0} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}

となり、微分形が成り立ちます。外部(s>as > a)では sE(s)=ρa2/(2ε0)sE(s) = \rho a^2/(2\varepsilon_0) が ss によらない定数なので

div⁡E=1s⋅0=0\operatorname{div}\boldsymbol{E} = \frac{1}{s}\cdot 0 = 0

で、そこでは ρ=0\rho = 0 ですから、これも一致します。

演習 7.3難

無限に広い平板 ∣z∣≤d|z|\le d の内部に電荷が一様な密度 ρ>0\rho > 0 で分布している。VV が zz だけの関数であり、対称性から V(z)=V(−z)V(z)=V(-z)、V(0)=0V(0)=0 と規格化できることを認めて、ポアソン方程式 ΔV=−ρ/ε0\Delta V = -\rho/\varepsilon_0 を ∣z∣≤d|z|\le d と ∣z∣≥d|z|\ge d の両方で解き、z=dz=d で VV と dV/dzdV/dz が連続になるように接続してください。得られた VV から E\boldsymbol{E} を求め、ガウスの法則で直接求めた結果と一致することを確かめてください。

解答

VV が zz だけの関数なので ΔV=d2V/dz2\Delta V = d^2V/dz^2 です。z≥0z\ge 0 の側で解き、あとで偶関数に拡張します。

内部 0≤z≤d0\le z\le d。 方程式は V′′=−ρ/ε0V'' = -\rho/\varepsilon_0 です。2 回積分して

V(z)=−ρ2ε0z2+Bz+C.V(z) = -\frac{\rho}{2\varepsilon_0}z^2 + Bz + C .

V(0)=0V(0)=0 より C=0C=0。偶関数であるためには V′(0)=0V'(0)=0 が必要(偶関数の微分は奇関数なので 00 で 00)なので B=0B=0。よって

V(z)=−ρ2ε0z2(0≤z≤d).V(z) = -\frac{\rho}{2\varepsilon_0}z^2 \qquad (0\le z\le d).

外部 z≥dz\ge d。 そこでは ρ=0\rho=0 なので V′′=0V''=0、すなわち V(z)=αz+βV(z) = \alpha z + \beta(系 6.6 の 1 次元版です)。

接続。 z=dz=d で V′V' が連続であること:内部側は V′(d)=−ρd/ε0V'(d) = -\rho d/\varepsilon_0、外部側は α\alpha。よって α=−ρd/ε0\alpha = -\rho d/\varepsilon_0。VV が連続であること:−ρd2/(2ε0)=αd+β=−ρd2/ε0+β-\rho d^2/(2\varepsilon_0) = \alpha d + \beta = -\rho d^2/\varepsilon_0 + \beta より

β=−ρd22ε0+ρd2ε0=ρd22ε0.\beta = -\frac{\rho d^2}{2\varepsilon_0} + \frac{\rho d^2}{\varepsilon_0} = \frac{\rho d^2}{2\varepsilon_0}.

したがって z≥dz\ge d で V(z)=ρdε0(d2−z)V(z) = \dfrac{\rho d}{\varepsilon_0}\left(\dfrac{d}{2} - z\right) です。z≤−dz\le -d 側は z↦∣z∣z\mapsto|z| と読み替えます。なおこの分布は無限に広がっているため、無限遠で V→0V\to0 とはできません(VV は ∣z∣→∞|z|\to\infty で −∞-\infty に発散します)。基準点を z=0z=0 に取ったのはそのためです。

電場。 Ez=−dV/dzE_z = -dV/dz より

Ez(z)={ρzε0,∣z∣≤d,ρdε0sgn⁡(z),∣z∣≥d.E_z(z) = \begin{cases}\dfrac{\rho z}{\varepsilon_0}, & |z|\le d,\\[10pt] \dfrac{\rho d}{\varepsilon_0}\operatorname{sgn}(z), & |z|\ge d.\end{cases}

ガウスの法則による検算。 底面積 SS の直方体で、z=−hz=-h から z=+hz=+h までを覆うガウス面を取ります。対称性から Ez(−h)=−Ez(h)E_z(-h) = -E_z(h) なので上下 2 面のフラックスは 2SEz(h)2SE_z(h)、側面の寄与は 00 です。内部電荷は h≤dh\le d なら ρ⋅2hS\rho\cdot 2hS、h≥dh\ge d なら ρ⋅2dS\rho\cdot 2dS。定理 4.4 より 2SEz(h)=2ρmin⁡(h,d)S/ε02SE_z(h) = 2\rho\min(h,d)S/\varepsilon_0、すなわち Ez(h)=ρmin⁡(h,d)/ε0E_z(h) = \rho\min(h,d)/\varepsilon_0 となり、上で得た結果と一致します。

d→0d\to0、ρ⋅2d→σ\rho\cdot 2d\to\sigma の極限を取ると Ez=σ/(2ε0)sgn⁡(z)E_z = \sigma/(2\varepsilon_0)\operatorname{sgn}(z) という、無限平面上の面電荷がつくる有名な式が得られます。距離によらず一定であることが特徴です。


  • 砂川重信『理論電磁気学』第 3 版、紀伊國屋書店、1999 — 第 1 章・第 2 章に静電場とガウスの法則の体系的な扱いがあります。
  • 太田浩一『電磁気学の基礎 I』東京大学出版会、2012 — 第 1 章。歴史的経緯と実験的根拠の記述が丁寧です。
  • D. J. Griffiths, Introduction to Electrodynamics, 4th ed., Cambridge University Press, 2017 — Chapter 2 (Electrostatics)。ガウスの法則の使い方の演習が豊富です。
  • J. D. Jackson, Classical Electrodynamics, 3rd ed., Wiley, 1998 — Chapter 1。デルタ関数とグリーン関数を使った定式化。
  • R. P. Feynman, R. B. Leighton, M. Sands, The Feynman Lectures on Physics, Vol. II — Chapters 4–6。全文が 公式サイト で公開されています。場の描像の説明はここが群を抜いています。
  • L. C. Evans, Partial Differential Equations, 2nd ed., American Mathematical Society, 2010 — Chapter 2.2。ポアソン方程式・ラプラス方程式の数学的に厳密な扱い(注意 6.7 の正則性の問題を含む)。

点電荷は本文の枠組みからはみ出します。 本文では ρ\rho を連続関数と仮定しました。点電荷はこの仮定を満たしません。にもかかわらず、点電荷の場は静電気学のもっとも基本的な例です。この食い違いをきちんと扱う枠組みが超関数(distribution)です。

原点にある点電荷 qq の電荷密度を、ρ(x)=q δ3(x)\rho(\boldsymbol{x}) = q\,\delta^3(\boldsymbol{x}) と書きます。δ3\delta^3 はディラックのデルタ関数で、通常の関数ではなく、「なめらかでコンパクト台を持つ任意の関数 ϕ\phi に対し ∫δ3(x)ϕ(x) d3x=ϕ(0)\int \delta^3(\boldsymbol{x})\phi(\boldsymbol{x})\,d^3x = \phi(\boldsymbol{0}) を満たす対応」として定義されます。

このとき、微分形のガウスの法則は次の恒等式になります。 E=q4πε0xr3\boldsymbol{E} = \dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{\boldsymbol{x}}{r^3} に対し div⁡E=ρ/ε0=qε0δ3(x)\operatorname{div}\boldsymbol{E} = \rho/\varepsilon_0 = \dfrac{q}{\varepsilon_0}\delta^3(\boldsymbol{x}) が成り立つべきなので、

div⁡(xr3)=4π δ3(x),同じことですがΔ(1r)=−4π δ3(x).\operatorname{div}\left(\frac{\boldsymbol{x}}{r^3}\right) = 4\pi\,\delta^3(\boldsymbol{x}), \qquad\text{同じことですが}\qquad \Delta\left(\frac{1}{r}\right) = -4\pi\,\delta^3(\boldsymbol{x}) .

一見すると、補題 4.2 の第 1 段で div⁡(x/r3)=0\operatorname{div}(\boldsymbol{x}/r^3)=0 を示したことと矛盾するように見えます。しかしあの計算は x≠0\boldsymbol{x}\ne\boldsymbol{0} でのみ有効でした。原点では x/r3\boldsymbol{x}/r^3 は定義されておらず、そこにすべての湧き出しが集中しているのです。実際、補題 4.2 の第 3 段が示したのは「原点を含むどんな小さい閉曲面を取っても、フラックスは 4π4\pi で変わらない」ということでした。これはまさに、原点に強さ 4π4\pi の点状の湧き出しがあるという主張です。

この恒等式は計算の道具として便利です。 たとえば 定義 6.1 の VV にラプラシアンを作用させると、形式的に

ΔV(x)=14πε0∫ρ(y) Δx1∣x−y∣ d3y=14πε0∫ρ(y)(−4πδ3(x−y))d3y=−ρ(x)ε0\Delta V(\boldsymbol{x}) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int\rho(\boldsymbol{y})\,\Delta_{\boldsymbol{x}}\frac{1}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|}\,d^3y = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int\rho(\boldsymbol{y})\left(-4\pi\delta^3(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y})\right)d^3y = -\frac{\rho(\boldsymbol{x})}{\varepsilon_0}

となり、定理 6.5 が 1 行で出ます。本文で 定理 4.4 から遠回りをしたのは、この形式的計算を正当化するにはそれなりの準備(超関数の微分の定義、たたみこみの微分)が要るからです。どちらの道を通っても結論は同じです。

なお、点電荷の自己エネルギーは発散します。 点電荷 qq の場のエネルギー密度 ε02∣E∣2\tfrac{\varepsilon_0}{2}|\boldsymbol{E}|^2 を全空間で積分すると、原点付近で ∫0r−4⋅r2dr\int_0 r^{-4}\cdot r^2dr の形になって発散します。これは古典電磁気学が抱える本質的な困難で、点電荷という理想化の限界を示しています。エネルギーの話題は マクスウェル方程式と電磁波 で改めて扱います。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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