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素数の魅力と素数定理:無限性・一意分解から分布の法則へ

対象読者: 高校数学の数列・微分積分と、集合と論理の基本的な記法を学んだ人。群論や複素解析は仮定しません。整除と素数は定義から説明します。

前提となる記事:数学の国語:集合と論理を正確に読み書きする、群論入門:群の公理と、対称性を計算するための言葉

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2, 3, 5, 7, 11, … と続く素数は、いくつあるのでしょうか。大きな数のあたりでは、どれくらいの割合で現れるのでしょうか。この記事は、そうした素朴な疑問に証明つきで答えます。読み終えると、素数が無限にあること、どんな整数も素数の積に一通りに分けられること、そして 100 万や 10 億のあたりに素数がおよそいくつあるかを見積もる法則(素数定理)が、どんな考えでつながっているかを説明できるようになります。

  • 素数は「掛け算の原子」です。整数はすべて素数の積に分解でき、しかもその分解は順序を除いて一通りしかありません(算術の基本定理)。この一意性は当たり前ではなく、ベズーの等式(gcd⁡(a,b)\gcd(a,b) が ax+byax+by の形の整数で書けるという事実)を経由した証明を要します。
  • 素数は無限個あります。ユークリッドの証明は 2300 年前のものですが、オイラーは ∑p1/p=∞\sum_p 1/p = \infty というはるかに強い定量的な形に強化しました。
  • xx 以下の素数の個数 π(x)\pi(x) は x/log⁡xx/\log x に漸近します(素数定理)。「nn の付近で整数が素数である確率はおよそ 1/log⁡n1/\log n」という直観が、そのまま定理になっています。
  • 素数定理そのものの証明は複素解析を使うのが標準ですが、二項係数 (2nn)\binom{2n}{n} を眺めるだけで π(x)\pi(x) の正しい大きさの上下からの評価(チェビシェフ型)が得られます。この記事ではその評価を完全に証明します。
  • 分布の「平均的な姿」は分かっても、個々の素数の振る舞いはほとんど分かっていません。双子素数予想もゴールドバッハ予想も未解決で、誤差項の精密化はリーマン予想そのものです。

素数は、小学校で「1 とその数自身でしか割り切れない数」として習う、数学でもっとも早く出会う概念のひとつです。それにもかかわらず、素数についての基本的な問いのうち相当数が、現在も未解決のまま残っています。この落差こそが数論の出発点です。

歴史をたどると、素数についての最初の定理はユークリッド『原論』第 IX 巻 命題 20 の「素数は与えられたどんな個数よりも多く存在する」です。当時は「無限」という語を避け、有限個の素数のリストが与えられるたびにそこにない素数を作れる、という構成的な形で述べられていました。この形の主張は今読んでも古びていません。

次の大きな一歩は、素数の「個数」ではなく「密度」を問うことでした。ガウスは 15 歳前後(1792–93 年頃)に素数表を眺めていて、xx 以下の素数の個数が ∫2xdt/log⁡t\int_2^x dt/\log t でよく近似できることに気づきます。同じ頃ルジャンドルは x/(log⁡x−1.08366)x/(\log x - 1.08366) という近似式を提案しました。どちらも予想であり、証明ではありません。チェビシェフは 1850 年前後に、π(x)\pi(x) が x/log⁡xx/\log x の定数倍の間に挟まれること、すなわち「正しいオーダー」を初等的な議論だけで確立しました。リーマンは 1859 年の論文で π(x)\pi(x) をゼータ関数 ζ(s)\zeta(s) の零点の言葉で書き下す枠組みを与え、それを解析的に完成させたアダマールとド・ラ・ヴァレ・プーサンが 1896 年に独立に素数定理を証明します。ガウスの観察から約 100 年が経っていました。

この記事では、この流れを次の順で追います。まず素数の定義と、整数論のもっとも基本的な道具である除法の原理・ベズーの等式を整備します。次にユークリッドの定理と算術の基本定理を証明します。そのうえで、素数の「多さ」を測る二つの定量的結果(オイラーの発散定理とチェビシェフの評価)を証明し、素数定理を述べ、最後に未解決問題を概観します。証明の技法そのものに不安があれば、証明の技術 - 数学的帰納法と背理法 を先に読んでください。

以下、断りのない限り文字はすべて整数を表します。N={1,2,…}\mathbb{N} = \{1, 2, \ldots\} とし、00 は含めません。

定義 2.1(整除と最大公約数)↗

整数 a,ba, b について、b=acb = ac を満たす整数 cc が存在するとき、aa は bb を割り切るといい、a∣ba \mid b と書きます。割り切らないときは a∤ba \nmid b と書きます。

a,ba, b が共に 00 ではないとき、aa と bb の最大公約数 gcd⁡(a,b)\gcd(a,b) を、aa と bb の共通の約数のうち最大のものと定めます。共通の約数は min⁡(∣a∣,∣b∣)\min(|a|,|b|) 以下なので、最大値は存在します。gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b) = 1 のとき a,ba, b は互いに素であるといいます。

定義 2.2(素数と合成数)↗

11 より大きい整数 pp が素数であるとは、pp の正の約数が 11 と pp だけであることをいいます。11 より大きく素数でない整数を合成数といいます。11 は素数でも合成数でもありません。

11 を素数から除くのは便宜ではなく必然です。11 を素数に含めると 6=2⋅3=1⋅2⋅3=1⋅1⋅2⋅36 = 2\cdot 3 = 1 \cdot 2\cdot 3 = 1\cdot 1\cdot 2\cdot 3 となり、後に述べる素因数分解の一意性が壊れてしまいます。

補題 2.3(除法の原理)✓

aa を整数、bb を正の整数とします。このとき

a=bq+r,0≤r<ba = bq + r, \qquad 0 \le r < b

を満たす整数の組 (q,r)(q, r) がただ一つ存在します。

証明(補題 2.3)

存在。集合 S={a−bq:q∈Z, a−bq≥0}S = \{a - bq : q \in \mathbb{Z},\ a - bq \ge 0\} を考えます。q=−∣a∣q = -|a| と取ると a−bq=a+b∣a∣≥a+∣a∣≥0a - bq = a + b|a| \ge a + |a| \ge 0(b≥1b \ge 1 を使いました)なので S≠∅S \ne \varnothing です。SS は非負整数からなる空でない集合なので、整列性(公理 3.1)[証明の技術] により最小元 r=a−bqr = a - bq を持ちます。もし r≥br \ge b なら r−b=a−b(q+1)≥0r - b = a - b(q+1) \ge 0 も SS の元で、r−b<rr - b < r となり rr の最小性に反します。よって 0≤r<b0 \le r < b です。

一意性。bq+r=bq′+r′bq + r = bq' + r'(0≤r,r′<b0 \le r, r' < b)とすると b(q−q′)=r′−rb(q - q') = r' - r です。0≤r,r′<b0 \le r, r' < b より ∣r′−r∣<b|r' - r| < b なので b∣q−q′∣<bb|q - q'| < b、すなわち ∣q−q′∣<1|q - q'| < 1 となり q=q′q = q'、したがって r=r′r = r' です。

補題 2.4(ベズーの等式)✓

a,ba, b を共に 00 ではない整数とし、d=gcd⁡(a,b)d = \gcd(a, b) とします。このとき d=ax0+by0d = ax_0 + by_0 を満たす整数 x0,y0x_0, y_0 が存在します。さらに dd は、集合 I={ax+by:x,y∈Z}I = \{ax + by : x, y \in \mathbb{Z}\} に属する正の整数のうち最小のものです。

証明(補題 2.4)

II には a2+b2>0a^2 + b^2 > 0 が属するので、II に属する正の整数の集合は空ではなく、整列性によりその最小元 d0=ax0+by0d_0 = ax_0 + by_0 が存在します。

まず d0∣ad_0 \mid a を示します。補題 2.3 により a=d0q+ra = d_0 q + r、0≤r<d00 \le r < d_0 と書けます。すると

r=a−d0q=a−(ax0+by0)q=a(1−qx0)+b(−qy0)∈Ir = a - d_0 q = a - (ax_0 + by_0)q = a(1 - qx_0) + b(-qy_0) \in I

です。0<r<d00 < r < d_0 なら d0d_0 の最小性に反するので r=0r = 0、すなわち d0∣ad_0 \mid a です。同様に d0∣bd_0 \mid b が従うので、d0d_0 は a,ba, b の共通の約数です。

次に、cc を a,ba, b の任意の共通の約数とすると、c∣ax0+by0=d0c \mid ax_0 + by_0 = d_0 なので c≤∣c∣≤d0c \le |c| \le d_0 です。したがって d0d_0 は共通の約数のうち最大であり、定義 2.1 の定義により d0=gcd⁡(a,b)=dd_0 = \gcd(a,b) = d となります。

補題 3.1(最小の約数は素数)✓

11 より大きい任意の整数 nn は、少なくとも一つの素因数を持ちます。より正確には、nn の 11 より大きい正の約数のうち最小のものは素数です。

証明(補題 3.1)

n>1n > 1 の 11 より大きい正の約数の集合は nn 自身を含むので空ではありません。整列性によりその最小元 pp が取れます。pp が素数でないとすると、1<e<p1 < e < p を満たす pp の約数 ee が存在します。e∣pe \mid p かつ p∣np \mid n なので e∣ne \mid n であり、ee は nn の 11 より大きい約数で e<pe < p です。これは pp の最小性に反します。よって pp は素数です。

定理 3.2(ユークリッドの定理)✓

素数は無限に存在します。すなわち、任意の有限個の素数 p1,…,pkp_1, \ldots, p_k に対し、そのどれとも異なる素数が存在します。

証明(定理 3.2)

p1,…,pkp_1, \ldots, p_k を任意の有限個の素数とし、

N=p1p2⋯pk+1N = p_1 p_2 \cdots p_k + 1

と置きます。各 pi≥2p_i \ge 2 なので N≥3>1N \ge 3 > 1 です。補題 3.1 により NN は素因数 qq を持ちます。

もし q=piq = p_i となる ii があったとすると、q∣p1⋯pkq \mid p_1\cdots p_k かつ q∣Nq \mid N なので、その差 q∣N−p1⋯pk=1q \mid N - p_1\cdots p_k = 1 が従います。しかし素数は 22 以上なので q∣1q \mid 1 はあり得ません。よって qq は p1,…,pkp_1, \ldots, p_k のどれとも異なる素数です。

素数が有限個 p1,…,pkp_1, \ldots, p_k しかないと仮定すれば、いま作った qq がそのリストに入っていないことになり矛盾します。したがって素数は無限個です。

例 3.3(p1⋯pk+1p_1\cdots p_k + 1 は素数とは限らない)

この証明はしばしば「最初の kk 個の素数の積に 11 を足すと新しい素数ができる」と誤って要約されます。実際にはできるのは「新しい素因数を持つ数」であって、その数自身が素数である保証はありません。最初のいくつかは確かに素数です。

2+1=3,2⋅3+1=7,2⋅3⋅5+1=31,2⋅3⋅5⋅7+1=211,2⋅3⋅5⋅7⋅11+1=23112+1 = 3,\quad 2\cdot3+1 = 7,\quad 2\cdot3\cdot5+1 = 31,\quad 2\cdot3\cdot5\cdot7+1 = 211,\quad 2\cdot3\cdot5\cdot7\cdot11+1 = 2311

はすべて素数です。ところが次の段階で崩れます。

2⋅3⋅5⋅7⋅11⋅13+1=30030+1=30031=59×509.2\cdot3\cdot5\cdot7\cdot11\cdot13 + 1 = 30030 + 1 = 30031 = 59 \times 509.

実際 59×509=59×500+59×9=29500+531=3003159 \times 509 = 59\times 500 + 59\times 9 = 29500 + 531 = 30031 です。3003130031 は合成数ですが、その素因数 5959 と 509509 はどちらも {2,3,5,7,11,13}\{2,3,5,7,11,13\} に入っていません。証明が主張しているのはまさにこの点だけです。

素数が無限にあることは分かりました。次に、素数が整数全体をどう組み立てているかを見ます。

補題 4.1(ユークリッドの補題)✓

pp を素数、a,ba, b を整数とします。p∣abp \mid ab ならば、p∣ap \mid a または p∣bp \mid b です。

証明(補題 4.1)

p∣ap \mid a ならば結論は成り立つので、p∤ap \nmid a と仮定して p∣bp \mid b を示します。

gcd⁡(p,a)\gcd(p, a) は pp の正の約数なので、定義 2.2 により 11 か pp です。gcd⁡(p,a)=p\gcd(p,a) = p なら p∣ap \mid a となって仮定に反するので、gcd⁡(p,a)=1\gcd(p, a) = 1 です。補題 2.4 により

1=px+ay1 = px + ay

を満たす整数 x,yx, y が存在します。両辺に bb を掛けると

b=pbx+(ab)yb = pbx + (ab)y

です。右辺の第 1 項は pp の倍数であり、第 2 項も仮定 p∣abp \mid ab から pp の倍数です。よって p∣bp \mid b です。

補題の主張は素数に固有です。pp が合成数なら成り立ちません。p=6p = 6、a=2a = 2、b=3b = 3 とすると 6∣6=ab6 \mid 6 = ab ですが 6∤26 \nmid 2、6∤36 \nmid 3 です。

定理 4.2(算術の基本定理)✓

11 より大きい任意の整数 nn は素数の積として表せます。さらにその表し方は、因子の順序を除いて一意です。すなわち

n=p1p2⋯pr=q1q2⋯qsn = p_1 p_2 \cdots p_r = q_1 q_2 \cdots q_s

(pi,qjp_i, q_j は素数、p1≤⋯≤prp_1 \le \cdots \le p_r、q1≤⋯≤qsq_1 \le \cdots \le q_s)ならば r=sr = s かつすべての ii について pi=qip_i = q_i です。

証明(定理 4.2)

存在。nn についての強帰納法(完全帰納法(定理 4.3)[証明の技術])で示します。n=2n = 2 は素数なので 11 個の積として表せます。n>2n > 2 とし、22 以上 n−1n-1 以下のすべての整数について主張が成り立つと仮定します。nn が素数ならそれ自身が求める表示です。nn が合成数なら n=abn = ab(1<a<n1 < a < n、1<b<n1 < b < n)と書けます。帰納法の仮定より aa と bb はそれぞれ素数の積で表せるので、それらを並べれば nn の素数の積としての表示が得られます。

一意性。rr についての帰納法で示します。ここでは「素数を rr 個掛けた数として表せる」を rr についての主張とみなします。

r=1r = 1 のとき。p1=q1⋯qsp_1 = q_1\cdots q_s で p1p_1 は素数です。s≥2s \ge 2 とすると q1∣p1q_1 \mid p_1 かつ 1<q1<q1q2⋯qs=p11 < q_1 < q_1 q_2 \cdots q_s = p_1 となり、p1p_1 が素数であること(定義 2.2)に反します。よって s=1s = 1 かつ p1=q1p_1 = q_1 です。

r≥2r \ge 2 とし、r−1r - 1 個の場合に一意性が成り立つと仮定します。p1∣q1q2⋯qsp_1 \mid q_1 q_2\cdots q_s なので、補題 4.1 を s−1s-1 回繰り返し適用すると、ある jj について p1∣qjp_1 \mid q_j が従います。qjq_j の正の約数は 11 と qjq_j だけで p1>1p_1 > 1 なので p1=qjp_1 = q_j です。同じ議論を逆向きに行えば、ある ii について q1=piq_1 = p_i です。したがって

p1≤pi=q1≤qj=p1p_1 \le p_i = q_1 \le q_j = p_1

となり、p1=q1p_1 = q_1 を得ます(並べ方を昇順にしたことをここで使いました)。両辺を p1p_1 で割ると

p2⋯pr=q2⋯qsp_2 \cdots p_r = q_2 \cdots q_s

という、左辺が r−1r-1 個の積である等式になります。帰納法の仮定より r−1=s−1r - 1 = s - 1 かつ pi=qip_i = q_i(i≥2i \ge 2)が従い、結論を得ます。

同じ素数をまとめて書けば、n>1n > 1 は相異なる素数 p1<⋯<pkp_1 < \cdots < p_k と正の整数 e1,…,eke_1, \ldots, e_k により

n=p1e1p2e2⋯pkekn = p_1^{e_1} p_2^{e_2}\cdots p_k^{e_k}

と一意に書けます。素数 pp に対し pe∣np^{e} \mid n を満たす最大の ee を vp(n)v_p(n) と書き、pp 進付値と呼びます。

例 4.3(2\sqrt{2} が無理数であること)

一意分解の典型的な使い方を見ます。2\sqrt 2 が有理数だとすると 2=a/b\sqrt 2 = a/b(a,b∈Na, b \in \mathbb{N})と書けるので a2=2b2a^2 = 2b^2 です。両辺に v2v_2 を適用します。v2(a2)=2v2(a)v_2(a^2) = 2v_2(a)、v2(2b2)=1+2v2(b)v_2(2b^2) = 1 + 2v_2(b) なので

2v2(a)=1+2v2(b)2v_2(a) = 1 + 2v_2(b)

となり、左辺は偶数、右辺は奇数で矛盾します。ここで「両辺の v2v_2 が一致する」と言えるのは、定理 4.2 により分解が一意だからです。一意性を認めなければ、この議論は成立しません。既約分数表示を使う古典的な証明は 定理 7.5[証明の技術] にあります。

注意 4.4(一意分解は当たり前ではない)

一意性が「当然」に見えるのは、Z\mathbb{Z} に慣れているせいです。Z[−5]={a+b−5:a,b∈Z}\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] = \{a + b\sqrt{-5} : a, b \in \mathbb{Z}\} という環では

6=2⋅3=(1+−5)(1−−5)6 = 2\cdot 3 = (1 + \sqrt{-5})(1 - \sqrt{-5})

となり、2,3,1±−52, 3, 1\pm\sqrt{-5} はいずれもこの環でそれ以上分解できません(ノルム N(a+b−5)=a2+5b2N(a+b\sqrt{-5}) = a^2 + 5b^2 を考えると、N(2)=4N(2) = 4、N(3)=9N(3) = 9、N(1±−5)=6N(1\pm\sqrt{-5}) = 6 であり、N(x)=2N(x) = 2 や N(x)=3N(x) = 3 となる元が存在しないことから分かります)。つまり分解が二通りあります(この例は 例 8.1[楕円曲線・モジュラー形式と現代数論] でも詳しく扱われます)。Z\mathbb{Z} で一意性が成り立つ根拠は 補題 2.4、すなわち除法の原理にあり、これは決して一般的な性質ではありません。この破れをどう修復するかがイデアル論の出発点であり、フェルマーの最終定理 の歴史にも直結します。

この記事の論理的な骨格。除法の原理から一意分解を経て、素数の分布へ進む

定義 5.1(素数計数関数と漸近同値)↗

実数 xx に対し、xx 以下の素数の個数を π(x)\pi(x) と書きます。すなわち π(x)=#{p:p は素数, p≤x}\pi(x) = \#\{p : p \text{ は素数},\ p \le x\} です。例えば π(10)=4\pi(10) = 4(2,3,5,72,3,5,7)、π(100)=25\pi(100) = 25 です。

また、正値関数 f,gf, g について lim⁡x→∞f(x)/g(x)=1\lim_{x\to\infty} f(x)/g(x) = 1 が成り立つとき f(x)∼g(x)f(x) \sim g(x)(x→∞x \to \infty)と書き、ff と gg は漸近同値であるといいます。

定理 5.2(オイラー:素数の逆数和の発散)✓

x≥2x \ge 2 を満たすすべての実数 xx について

∑p≤x1p≥log⁡log⁡x−12\sum_{p \le x} \frac{1}{p} \ge \log\log x - \frac{1}{2}

が成り立ちます(和は xx 以下のすべての素数 pp にわたります)。特に ∑p1/p=∞\sum_{p} 1/p = \infty であり、素数は無限個存在します。

次の証明の方針です。調和級数 1+12+13+⋯1 + \frac12 + \frac13 + \cdots が log⁡x\log x のように大きくなることを使い、それを素数だけの積に書き直して、素数の逆数和の下限を得ます。鍵になるのは、素数 22 と 33 だけの場合の次の観察です。(1+12+14+18+⋯ )(1+13+19+⋯ )(1 + \frac12 + \frac14 + \frac18 + \cdots)(1 + \frac13 + \frac19 + \cdots) を展開すると、12a3b\frac{1}{2^a 3^b} の形の項が一つずつ現れます。

b=0b=0b=1b=1b=2b=2
a=0a=01113\frac1319\frac19
a=1a=112\frac1216\frac16118\frac1{18}
a=2a=214\frac14112\frac1{12}136\frac1{36}
a=3a=318\frac18124\frac1{24}172\frac1{72}

素因数が 22 と 33 だけの整数の逆数が、重複も漏れもなく並びます。一意分解があるからこそ「重複なし」と言えます。第 3 段は、この積の対数を取って和に直し、−log⁡(1−t)-\log(1-t) を tt で上から抑えるための計算です。

証明(定理 5.2)

第 1 段:調和級数の下からの評価。 n≤t≤n+1n \le t \le n+1 のとき 1/n≥1/t1/n \ge 1/t なので 1n≥∫nn+1dtt\frac1n \ge \int_n^{n+1}\frac{dt}{t} です。n=1,…,⌊x⌋n = 1, \ldots, \lfloor x\rfloor について加えると

∑n≤x1n ≥ ∫1⌊x⌋+1dtt ≥ ∫1xdtt=log⁡x\sum_{n \le x}\frac1n \ \ge\ \int_1^{\lfloor x\rfloor + 1}\frac{dt}{t} \ \ge\ \int_1^{x}\frac{dt}{t} = \log x

を得ます(⌊x⌋+1>x\lfloor x\rfloor + 1 > x を使いました)。

第 2 段:一意分解によるオイラー積の不等式。 x≥2x \ge 2 を固定し、xx 以下の各素数 pp について 0<1/p≤1/2<10 < 1/p \le 1/2 < 1 なので等比級数

(1−1p)−1=∑k=0∞1pk\left(1 - \frac1p\right)^{-1} = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{1}{p^{k}}

が収束します。xx 以下の素数は有限個なので、これらを掛け合わせて項別に展開できます。展開して現れる項は 1/(p1k1⋯pmkm)1/(p_1^{k_1}\cdots p_m^{k_m}) の形で、p1,…,pmp_1, \ldots, p_m は xx 以下の相異なる素数です。定理 4.2 により、「素因数がすべて xx 以下である正の整数 nn」と、こうした指数の組は一対一に対応します。よって

∏p≤x(1−1p)−1=∑n∈A(x)1n,A(x)={n∈N:n のすべての素因数が x 以下}\prod_{p \le x}\left(1 - \frac1p\right)^{-1} = \sum_{n \in A(x)} \frac1n, \qquad A(x) = \{n \in \mathbb{N} : n \text{ のすべての素因数が } x \text{ 以下}\}

です。n≤xn \le x ならば nn の素因数はすべて nn 以下、したがって xx 以下なので {n∈N:n≤x}⊂A(x)\{n \in \mathbb{N} : n \le x\} \subset A(x) であり、項はすべて正なので第 1 段と合わせて

∏p≤x(1−1p)−1 ≥ ∑n≤x1n ≥ log⁡x\prod_{p \le x}\left(1 - \frac1p\right)^{-1} \ \ge\ \sum_{n\le x}\frac1n \ \ge\ \log x

を得ます。

第 3 段:対数を取って和に直す。 両辺の対数を取ると

∑p≤x(−log⁡(1−1p)) ≥ log⁡log⁡x\sum_{p \le x} \left(-\log\left(1 - \frac1p\right)\right) \ \ge\ \log\log x

です。ここで 0<t<10 < t < 1 に対し −log⁡(1−t)=∑k≥1tk/k-\log(1-t) = \sum_{k\ge1} t^k/k なので

−log⁡(1−t)≤t+12∑k≥2tk=t+t22(1−t)-\log(1-t) \le t + \frac12\sum_{k \ge 2} t^{k} = t + \frac{t^2}{2(1-t)}

が成り立ちます(k≥2k \ge 2 で 1/k≤1/21/k \le 1/2 を使いました)。t=1/pt = 1/p とすると

−log⁡(1−1p)≤1p+12p2⋅pp−1=1p+12p(p−1)-\log\left(1 - \frac1p\right) \le \frac1p + \frac{1}{2p^2}\cdot\frac{p}{p-1} = \frac1p + \frac{1}{2p(p-1)}

です。素数についての和を整数についての和で上から抑えると

∑p12p(p−1)≤12∑m≥21m(m−1)=12∑m≥2(1m−1−1m)=12\sum_{p} \frac{1}{2p(p-1)} \le \frac12\sum_{m \ge 2}\frac{1}{m(m-1)} = \frac12\sum_{m\ge2}\left(\frac{1}{m-1} - \frac1m\right) = \frac12

です(望遠鏡和)。したがって

log⁡log⁡x≤∑p≤x(−log⁡(1−1p))≤∑p≤x1p+12\log\log x \le \sum_{p\le x}\left(-\log\left(1-\frac1p\right)\right) \le \sum_{p \le x}\frac1p + \frac12

となり、移項して主張を得ます。x→∞x \to \infty で右辺は ∞\infty に発散するので ∑p1/p=∞\sum_p 1/p = \infty です。有限個の素数しかなければ和は有限値なので、素数は無限個です。

この定理は 定理 3.2 より強い情報を持っています。平方数の逆数和 ∑1/n2=π2/6\sum 1/n^2 = \pi^2/6 は収束する(バーゼル問題(例 3.5)[リーマン予想とは何か])ので、「素数は平方数よりも密に分布している」ことが分かるからです。また ∑p≤x1/p≈log⁡log⁡x\sum_{p\le x} 1/p \approx \log\log x という増え方は極端に遅く、素数がかなり薄いことも同時に示しています。

命題 5.3(チェビシェフ型の評価)✓

lim inf⁡x→∞π(x)log⁡xx ≥ log⁡2=0.6931…,lim sup⁡x→∞π(x)log⁡xx ≤ log⁡4=1.3862…\liminf_{x\to\infty}\frac{\pi(x)\log x}{x} \ \ge\ \log 2 = 0.6931\ldots, \qquad \limsup_{x\to\infty}\frac{\pi(x)\log x}{x} \ \le\ \log 4 = 1.3862\ldots

が成り立ちます。すなわち π(x)\pi(x) は x/log⁡xx/\log x と定数倍の差しかありません。

次の証明の方針です。中央二項係数 (2nn)\binom{2n}{n} を二通りに評価します。一方では 4n4^n 程度に大きく、他方では素因数が 2n2n 以下の素数に限られ、各素数の指数も小さいので、(2n)π(2n)(2n)^{\pi(2n)} 以下です。この二つを突き合わせると π(2n)\pi(2n) が小さすぎないことが分かります。第 2 段の指数の公式は、例えば 10!10! に含まれる 22 の個数が ⌊10/2⌋+⌊10/4⌋+⌊10/8⌋=5+2+1=8\lfloor 10/2\rfloor + \lfloor 10/4\rfloor + \lfloor 10/8\rfloor = 5 + 2 + 1 = 8 であることを一般にしたものです(22 の倍数を数え、44 の倍数でもう 1 回、88 の倍数でもう 1 回、と重ねて数えます)。最後の「実数 xx に移る」段は、xx のすぐ下の偶数 2n2n との差が 22 未満なので、比がほとんど変わらないことを使うだけです。

証明(命題 5.3)

ここでは下からの評価を証明します。上からの評価は Appendix に回します。

nn を正の整数とし、中央二項係数 C=(2nn)C = \binom{2n}{n} を考えます。

第 1 段:CC は大きい。 二項定理より ∑k=02n(2nk)=22n=4n\sum_{k=0}^{2n}\binom{2n}{k} = 2^{2n} = 4^n です。左辺は 2n+12n+1 個の項の和で、(2nn)\binom{2n}{n} はそのうち最大です((2nk)\binom{2n}{k} は k=nk = n で最大値を取ります)。よって

(2n+1) C ≥ 4n,すなわちC ≥ 4n2n+1.(2n+1)\,C \ \ge\ 4^n, \qquad \text{すなわち}\qquad C \ \ge\ \frac{4^n}{2n+1}.

第 2 段:CC の素因数は小さく、指数も小さい。 C=(2n)!/(n!)2C = (2n)!/(n!)^2 です。m!m! に含まれる素数 pp の指数は

vp(m!)=∑i≥1⌊mpi⌋v_p(m!) = \sum_{i \ge 1}\left\lfloor \frac{m}{p^i}\right\rfloor

です(1,…,m1, \ldots, m のうち pip^i の倍数はちょうど ⌊m/pi⌋\lfloor m/p^i\rfloor 個あり、pp の指数がちょうど ee の数は i=1,…,ei = 1,\ldots,e の ee 回数えられるため)。したがって

vp(C)=∑i≥1(⌊2npi⌋−2⌊npi⌋).v_p(C) = \sum_{i\ge1}\left(\left\lfloor\frac{2n}{p^i}\right\rfloor - 2\left\lfloor\frac{n}{p^i}\right\rfloor\right).

実数 tt を t=⌊t⌋+θt = \lfloor t\rfloor + \theta(0≤θ<10 \le \theta < 1)と書くと ⌊2t⌋−2⌊t⌋=⌊2θ⌋∈{0,1}\lfloor 2t\rfloor - 2\lfloor t\rfloor = \lfloor 2\theta\rfloor \in \{0, 1\} なので、和の各項は 00 か 11 です。さらに pi>2np^i > 2n のとき両方の床関数が 00 になるので項は消えます。よって vp(C)v_p(C) は pi≤2np^i \le 2n を満たす ii の個数以下であり、

pvp(C)≤2np^{v_p(C)} \le 2n

が成り立ちます。また CC を割り切る素数は (2n)!(2n)! を割り切るので p≤2np \le 2n です。定理 4.2 により C=∏p≤2npvp(C)C = \prod_{p \le 2n} p^{v_p(C)} と分解できるので、

C=∏p≤2npvp(C)≤(2n)π(2n).C = \prod_{p\le 2n} p^{v_p(C)} \le (2n)^{\pi(2n)}.

第 3 段:両者を突き合わせる。 第 1 段と第 2 段から (2n)π(2n)≥4n/(2n+1)(2n)^{\pi(2n)} \ge 4^n/(2n+1) です。対数を取ると

π(2n)log⁡(2n) ≥ 2nlog⁡2−log⁡(2n+1),\pi(2n)\log(2n) \ \ge\ 2n\log 2 - \log(2n+1),

すなわち

π(2n)log⁡(2n)2n ≥ log⁡2−log⁡(2n+1)2n.\frac{\pi(2n)\log(2n)}{2n} \ \ge\ \log 2 - \frac{\log(2n+1)}{2n}.

n→∞n \to \infty のとき右辺は log⁡2\log 2 に収束します。

最後に実数 x→∞x \to \infty に移ります。x≥4x \ge 4 に対し n=⌊x/2⌋n = \lfloor x/2\rfloor と置くと 2n≤x<2n+22n \le x < 2n + 2 です。π\pi は単調非減少なので π(x)≥π(2n)\pi(x) \ge \pi(2n) であり、

π(x)log⁡xx ≥ π(2n)log⁡(2n)2n⋅2nx ≥ (log⁡2−log⁡(2n+1)2n)⋅x−2x\frac{\pi(x)\log x}{x} \ \ge\ \frac{\pi(2n)\log (2n)}{2n}\cdot\frac{2n}{x} \ \ge\ \left(\log 2 - \frac{\log(2n+1)}{2n}\right)\cdot\frac{x-2}{x}

です(log⁡x≥log⁡2n\log x \ge \log 2n と 2n>x−22n > x - 2 を使いました)。x→∞x\to\infty で右辺は log⁡2\log 2 に収束するので、lim inf⁡\liminf についての主張を得ます。

定義 6.1(対数積分)↗

x>1x > 1 に対し対数積分を

li(x)=lim⁡ε→0+(∫01−εdtlog⁡t+∫1+εxdtlog⁡t)\mathrm{li}(x) = \lim_{\varepsilon \to 0+}\left(\int_0^{1-\varepsilon}\frac{dt}{\log t} + \int_{1+\varepsilon}^{x}\frac{dt}{\log t}\right)

(t=1t = 1 での主値積分)で定めます。部分積分を繰り返すと

li(x)=xlog⁡x+x(log⁡x)2+2x(log⁡x)3+⋯\mathrm{li}(x) = \frac{x}{\log x} + \frac{x}{(\log x)^2} + \frac{2x}{(\log x)^3} + \cdots

という漸近展開が得られ、特に li(x)∼x/log⁡x\mathrm{li}(x) \sim x/\log x です。

定理 6.2(素数定理)✓

π(x)∼xlog⁡x(x→∞),\pi(x) \sim \frac{x}{\log x} \qquad (x \to \infty),

すなわち lim⁡x→∞π(x)log⁡xx=1\lim_{x\to\infty}\dfrac{\pi(x)\log x}{x} = 1 が成り立ちます。同値な形として π(x)∼li(x)\pi(x)\sim \mathrm{li}(x) も成り立ちます。

次の注意に出てくるゼータ関数 ζ(s)\zeta(s) は、整数 nn の逆数の ss 乗 1/ns1/n^s を全部足した関数で、素数との関係はすぐ下の等式(オイラー積)が与えます。素数の話が、この関数の性質の話に置き換わる、というのが全体の見取り図です。

注意 6.3(証明について)

素数定理の証明は長くなるので、Newman と Zagier による方法で Appendix に置きます。本文では歴史的な道筋を述べます。1896 年のアダマールとド・ラ・ヴァレ・プーサンによる最初の証明は、リーマンゼータ関数

ζ(s)=∑n=1∞1ns=∏p(1−1ps)−1(Re⁡s>1)\zeta(s) = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{s}} = \prod_{p}\left(1 - \frac{1}{p^{s}}\right)^{-1} \qquad (\operatorname{Re} s > 1)

が直線 Re⁡s=1\operatorname{Re} s = 1 上に零点を持たないことを示す点に核心があります。オイラー積表示(右側の等号、定理 3.1[リーマン予想とは何か])は 定理 5.2 の第 2 段とまったく同じ論法、つまり 定理 4.2 から従います。素数定理と「ζ(1+it)≠0\zeta(1+it)\ne0」は実は同値であることが知られています。現代的には Newman による短い証明があり、Zagier による 3 ページの解説が読みやすいです。1949 年には Erdős と Selberg が複素解析を使わない初等的証明を与えました(初等的とは「易しい」という意味ではありません)。ゼータ関数の側の話題は リーマン予想とは何か で扱います。

素数定理の意味は「nn 付近の整数が素数である確率はおよそ 1/log⁡n1/\log n」という確率的な読み方をすると掴みやすくなります。実際 ∫2xdt/log⁡t\int_2^x dt/\log t は、この密度を積分したものにほかなりません。x=1010x = 10^{10} 付近では 1/log⁡(1010)≈1/23.0≈4.3%1/\log(10^{10}) \approx 1/23.0 \approx 4.3\% であり、100100 個に 44 個ほどが素数という計算になります。

数値で確かめます。

xxπ(x)\pi(x)x/log⁡xx/\log xπ(x)/xlog⁡x\pi(x)\big/\frac{x}{\log x}li(x)\mathrm{li}(x)li(x)−π(x)\mathrm{li}(x)-\pi(x)
10310^{3}168144.81.16117810
10410^{4}1 2291 085.71.1321 24617
10510^{5}9 5928 685.91.1049 63038
10610^{6}78 49872 382.41.08478 628130
10710^{7}664 579620 420.71.071664 918339
10810^{8}5 761 4555 428 681.01.0615 762 209754
10910^{9}50 847 53448 254 942.41.05450 849 2351 701
101010^{10}455 052 511434 294 481.91.048455 055 6153 104

第 4 列は確かに 11 に向かっていますが、x=1010x = 10^{10} でもまだ 4.8%4.8\% ずれています。これは偶然ではありません。定義 6.1 の漸近展開から li(x)−x/log⁡x≈x/(log⁡x)2\mathrm{li}(x) - x/\log x \approx x/(\log x)^2 なので、比の誤差はおよそ 1/log⁡x1/\log x のオーダーで減ります。x=1010x = 10^{10} なら 1/log⁡x≈0.0431/\log x \approx 0.043 であり、観測された 0.0480.048 とよく合います。一方、第 6 列の li(x)\mathrm{li}(x) との差は π(x)\pi(x) 自身に比べて桁違いに小さく、li(x)\mathrm{li}(x) がはるかに良い近似であることが読み取れます。

1.201.151.101.051.0010³10⁴10⁵10⁶10⁷10⁸10⁹10¹⁰xπ(x) ÷ (x / log x)
π(x) を x/log x で割った比の推移。1 に近づくものの、その速さは 1/log x でしかない(横軸は x の常用対数)

例 6.4(エラトステネスの篩で π(106)\pi(10^6) を数える)

表の値は自分で確かめられます。次のコードは標準ライブラリだけで動きます。

def sieve(n):
is_prime = bytearray([1]) * (n + 1)
is_prime[0] = is_prime[1] = 0
p = 2
while p * p <= n:
if is_prime[p]:
# p*p 未満の p の倍数は、より小さい素因数で既に消えている
is_prime[p * p :: p] = bytearray(len(range(p * p, n + 1, p)))
p += 1
return is_prime
import math
s = sieve(10**6)
pi = sum(s)
print(pi) # 78498
print(10**6 / math.log(10**6)) # 72382.41365054197
print(pi / (10**6 / math.log(10**6))) # 1.0844...

内側の消去を p2p^2 から始めてよいのは、p2p^2 より小さい pp の倍数 kpkp(k<pk < p)が、kk の素因数(補題 3.1)による消去で既に処理されているからです。また外側のループを p2≤np^2 \le n で止めてよいのは、nn 以下の合成数 mm が必ず m≤n\sqrt m \le \sqrt n 以下の素因数を持つからです(m=abm = ab で a≤ba \le b なら a≤ma \le \sqrt m、そして aa の最小素因数は aa 以下)。

例 6.5(素数の空白はいくらでも長い)

素数が平均的に 1/log⁡n1/\log n の密度で現れるからといって、均等に散らばっているわけではありません。n≥2n \ge 2 に対し

n!+2, n!+3, …, n!+nn! + 2,\ n! + 3,\ \ldots,\ n! + n

という n−1n-1 個の連続する整数を考えます。2≤k≤n2 \le k \le n のとき k∣n!k \mid n! かつ k∣kk \mid k なので k∣n!+kk \mid n! + k であり、しかも 1<k<n!+k1 < k < n! + k なので n!+kn!+k は合成数です。よって連続する n−1n-1 個の合成数が存在します。nn は任意なので、素数の間隔はいくらでも大きくなります。例えば n=10n = 10 とすると 3628802,…,36288103628802, \ldots, 3628810 の 99 個が連続して合成数です(実際にはこの付近にはもっと短い区間で素数が現れますが、存在証明としてはこれで十分です)。

素数定理は「平均としての素数の分布」を完全に決定しました。しかし個々の素数の振る舞いについては、驚くほど何も分かっていません。

差が 22 の素数の組 (p,p+2)(p, p+2) を双子素数といいます。(3,5),(5,7),(11,13),(17,19),(29,31),…(3,5), (5,7), (11,13), (17,19), (29,31), \ldots と続きます。

双子素数予想:双子素数は無限に存在する。

素数定理から予想される個数のヒューリスティクス(ハーディ–リトルウッドの予想)は、xx 以下の双子素数の組の個数が 2C2∫2xdt/(log⁡t)22C_2 \int_2^x dt/(\log t)^2(C2=0.6601…C_2 = 0.6601\ldots は双子素数定数)になるというもので、数値実験とよく合います。しかし無限性すら未解決です。

分かっていることもあります。ブルンは 1919 年に、双子素数の逆数和

(13+15)+(15+17)+(111+113)+⋯\left(\frac13+\frac15\right) + \left(\frac15+\frac17\right)+\left(\frac1{11}+\frac1{13}\right)+\cdots

が収束することを証明しました(その和はブルン定数と呼ばれ 1.902…1.902\ldots と推定されています)。定理 5.2 の ∑p1/p=∞\sum_p 1/p = \infty と対照的で、双子素数が素数全体よりずっと稀であることを意味します。この収束は、双子素数が有限個であることを意味しない点に注意してください。

2013 年、張益唐は「差が 7×1077\times 10^{7} 以下の素数の組が無限に存在する」ことを証明しました。無限性が言えた最初の有限の壁です。直後に Maynard と Tao が独立に別手法を与え、共同研究プロジェクト Polymath を通じて壁は 246246 にまで下げられています。22 まで下げるには現在の手法では届きません。

1742 年にゴールドバッハがオイラーに書いた手紙に端を発します。

(強い)ゴールドバッハ予想:44 以上のすべての偶数は、二つの素数の和として表せる。

4=2+24 = 2+2、6=3+36 = 3+3、8=3+58 = 3+5、100=3+97=11+89=17+83=29+71=41+59=47+53100 = 3+97 = 11+89 = 17+83 = 29+71 = 41+59 = 47+53 のように、大きな数ほど表し方は増えます。計算機による検証は 4×10184\times 10^{18} まで済んでいますが、証明はありません。

弱いゴールドバッハ予想:77 以上のすべての奇数は、三つの素数の和として表せる。

強い予想から弱い予想が従います(奇数 n≥7n \ge 7 に対し n−3n - 3 は 44 以上の偶数)。ヴィノグラードフは 1937 年に「十分大きいすべての奇数」について弱い予想を証明し、2013 年に Helfgott が残る有限個の場合を処理して完全な証明を発表しました(正式な出版手続きは長期にわたっています)。強い予想については、陳景潤が 1973 年に「十分大きい偶数は、素数と(素数または二つの素数の積)の和として書ける」ことを示しています。

素数定理は π(x)∼li(x)\pi(x) \sim \mathrm{li}(x) と述べますが、その誤差 π(x)−li(x)\pi(x) - \mathrm{li}(x) の大きさは決定的な形では分かっていません。フォン・コッホは 1901 年に、リーマン予想が

π(x)=li(x)+O ⁣(x log⁡x)\pi(x) = \mathrm{li}(x) + O\!\left(\sqrt{x}\,\log x\right)

と同値であることを示しました(定理 6.3[リーマン予想とは何か])。上の表で li(x)−π(x)\mathrm{li}(x)-\pi(x) が一貫して正で、しかも x\sqrt x 程度の大きさに収まっているのが見て取れます(x=1010x = 10^{10} で x=105\sqrt x = 10^5、差は 31043104)。

ただし「一貫して正」は永久には続きません。リトルウッドは 1914 年に、π(x)−li(x)\pi(x) - \mathrm{li}(x) が符号を無限回変えることを証明しました。最初に符号が変わる点の位置は現在も特定されておらず、上界(スキューズ数と呼ばれる系列の評価)だけが知られています。計算で見えている範囲がすべてではない、という数論の教訓です。

演習 8.1易

4n+34n+3 の形の素数が無限に存在することを証明してください。

解答

4n+34n+3 型の素数が有限個 p1=3,p2,…,pkp_1 = 3, p_2, \ldots, p_k しかないと仮定し、

N=4p1p2⋯pk−1N = 4p_1p_2\cdots p_k - 1

と置きます。N≥4⋅3−1=11>1N \ge 4\cdot3 - 1 = 11 > 1 であり、N≡−1≡3(mod4)N \equiv -1 \equiv 3 \pmod 4 です。

NN は奇数なので、その素因数はすべて奇素数、すなわち 4n+14n+1 型か 4n+34n+3 型です。もし素因数がすべて 4n+14n+1 型なら、(4a+1)(4b+1)=4(4ab+a+b)+1(4a+1)(4b+1) = 4(4ab+a+b)+1 より積も 4n+14n+1 型となり、N≡3(mod4)N \equiv 3 \pmod 4 に矛盾します。よって NN は 4n+34n+3 型の素因数 qq を持ちます(素因数の存在は 補題 3.1)。

仮定より q=piq = p_i となる ii があります。すると q∣4p1⋯pkq \mid 4p_1\cdots p_k かつ q∣Nq \mid N なので q∣4p1⋯pk−N=1q \mid 4p_1\cdots p_k - N = 1 となり、q≥3q \ge 3 に矛盾します。したがって 4n+34n+3 型の素数は無限個です。

なお 4n+14n+1 型の素数の無限性も成り立ちますが、この初等的な議論はそのままでは通用せず、−1-1 が法 pp の平方剰余になる条件が必要です。詳しくは 合同式とフェルマーの小定理 を参照してください。

演習 8.2標準

p1=2<p2=3<p3=5<⋯p_1 = 2 < p_2 = 3 < p_3 = 5 < \cdots を小さい順に並べた素数列とします。lim sup⁡n→∞(pn+1−pn)=∞\limsup_{n\to\infty}(p_{n+1} - p_n) = \infty を示してください。

解答

任意の M∈NM \in \mathbb{N} に対し、pn+1−pn>Mp_{n+1} - p_n > M を満たす nn が存在することを示せば十分です。

N=(M+1)!N = (M+1)! と置くと、例 6.5 と同じ議論により N+2,N+3,…,N+M+1N + 2, N+3, \ldots, N + M + 1 の MM 個はすべて合成数です。N+1≥3N + 1 \ge 3 なので、N+1N+1 以下の素数の集合は空ではなく有限です。その最大のものを pnp_n とすると pn≤N+1p_n \le N + 1 です。

一方 pn+1p_{n+1} は N+1N+1 より大きい最小の素数ですが、N+2,…,N+M+1N+2, \ldots, N+M+1 はすべて合成数なので pn+1≥N+M+2p_{n+1} \ge N + M + 2 です。よって

pn+1−pn≥(N+M+2)−(N+1)=M+1>Mp_{n+1} - p_n \ge (N + M + 2) - (N+1) = M + 1 > M

となります。MM は任意なので lim sup⁡n→∞(pn+1−pn)=∞\limsup_{n\to\infty}(p_{n+1}-p_n) = \infty です。

定理 6.2 は「平均の間隔が log⁡pn\log p_n 程度」であることを示しますが、この演習が示すとおり、個々の間隔はいくらでも大きくなります。

演習 8.3標準

nn を正の整数とします。2n−12^n - 1 が素数ならば nn は素数であることを示してください。また、その逆が成り立たないことを具体例で示してください。

解答

対偶を示します。nn が素数でないとします。n=1n = 1 のとき 21−1=12^1 - 1 = 1 は素数ではありません。nn が合成数のときは n=abn = ab(1<a<n1 < a < n、1<b<n1 < b < n)と書けます。恒等式

xab−1=(xa−1)(xa(b−1)+xa(b−2)+⋯+xa+1)x^{ab} - 1 = (x^{a} - 1)\left(x^{a(b-1)} + x^{a(b-2)} + \cdots + x^{a} + 1\right)

に x=2x = 2 を代入すると、2a−12^a - 1 は 2n−12^n - 1 を割り切ります。a>1a > 1 より 2a−1≥3>12^a - 1 \ge 3 > 1 であり、a<na < n より 2a−1<2n−12^a - 1 < 2^n - 1 です。よって 2n−12^n-1 は 11 と自分自身以外の約数を持ち、定義 2.2 により素数ではありません。

逆は成り立ちません。n=11n = 11 は素数ですが

211−1=2047=23×892^{11} - 1 = 2047 = 23 \times 89

です(23×89=23×90−23=2070−23=204723 \times 89 = 23\times 90 - 23 = 2070 - 23 = 2047)。2p−12^p - 1 の形の素数はメルセンヌ素数と呼ばれ、無限に存在するかどうかは未解決です。

演習 8.4難

NN を 11 以上の整数とするとき

π(N) ≥ log⁡N2log⁡2\pi(N) \ \ge\ \frac{\log N}{2\log 2}

が成り立つことを示してください(一意分解だけを使い、二項係数を使わずに素数の無限性の定量版を得る議論です)。

解答

1≤n≤N1 \le n \le N を満たす各整数 nn を、n=ab2n = a b^{2}(aa は平方因子を持たない正の整数、bb は正の整数)の形に書きます。実際 定理 4.2 により n=∏ppepn = \prod_p p^{e_p} と一意に書けるので、

b=∏pp⌊ep/2⌋,a=∏ppep−2⌊ep/2⌋b = \prod_p p^{\lfloor e_p/2\rfloor}, \qquad a = \prod_p p^{e_p - 2\lfloor e_p/2\rfloor}

と置けば、aa の各指数は 00 か 11 なので aa は平方因子を持たず、ab2=nab^2 = n です。

この aa の取り方を数えます。aa の素因数は n≤Nn \le N の素因数なので NN 以下であり、各素数が現れるか現れないかの二択なので、aa の候補は高々 2π(N)2^{\pi(N)} 通りです。次に bb を数えます。b2≤n≤Nb^2 \le n \le N より b≤Nb \le \sqrt N なので、bb の候補は高々 ⌊N⌋≤N\lfloor\sqrt N\rfloor \le \sqrt N 通りです。

nn から組 (a,b)(a,b) への対応は単射(n=ab2n = ab^2 から nn が復元される)なので、

N ≤ 2π(N)NN \ \le\ 2^{\pi(N)}\sqrt{N}

を得ます。両辺を N\sqrt N で割ると N≤2π(N)\sqrt N \le 2^{\pi(N)}、対数を取って

log⁡N2≤π(N)log⁡2,すなわちπ(N)≥log⁡N2log⁡2\frac{\log N}{2} \le \pi(N)\log 2, \qquad \text{すなわち}\qquad \pi(N) \ge \frac{\log N}{2\log 2}

です。この評価は π(N)→∞\pi(N) \to \infty を与えるので素数の無限性を再証明しますが、真の大きさ N/log⁡NN/\log N に比べれば圧倒的に弱い評価です。命題 5.3 と比べてみてください。

  • G. H. Hardy and E. M. Wright, An Introduction to the Theory of Numbers, 6th ed., Oxford University Press, 2008 — 第 1 章(整除と素数)、第 2 章(素数の分布)、第 22 章(素数の分布の続き)。
  • 高木貞治『初等整数論講義』第 2 版、共立出版、1971 — 第 1 章(整数の除法、最大公約数、素因数分解)。
  • T. M. Apostol, Introduction to Analytic Number Theory, Springer, 1976 — 第 3 章(平均の評価)、第 4 章(チェビシェフの関数と素数定理)。
  • D. Zagier, “Newman’s short proof of the prime number theorem”, American Mathematical Monthly 104 (1997), 705–708 — 素数定理の解析的証明のもっとも短い現代的な提示。
  • Y. Zhang, “Bounded gaps between primes”, Annals of Mathematics 179 (2014), 1121–1174.
  • J. Maynard, “Small gaps between primes”, Annals of Mathematics 181 (2015), 383–413.

Appendix: チェビシェフ上界の証明

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目標。 命題 5.3 の後半、lim sup⁡x→∞π(x)log⁡x/x≤log⁡4\limsup_{x\to\infty}\pi(x)\log x/x \le \log 4 を証明します。鍵になるのは、素数の個数ではなく素数の対数の和

θ(x)=∑p≤xlog⁡p\theta(x) = \sum_{p \le x}\log p

(チェビシェフの第一関数)を評価することです。θ(x)=log⁡(∏p≤xp)\theta(x) = \log\left(\prod_{p\le x} p\right) なので、以下は「xx 以下の素数の積は 4x4^x を超えない」という主張と同じです。

第 1 段:∏p≤np≤4n\prod_{p\le n} p \le 4^{n}(n≥1n \ge 1)。 nn についての強帰納法で示します。n=1n = 1 のとき左辺は空積 11、右辺は 44 で成立します。n=2n = 2 のとき左辺は 22、右辺は 1616 で成立します。

n≥3n \ge 3 とし、nn 未満のすべての正の整数について主張が成り立つとします。nn が偶数のとき、n≥3n \ge 3 より nn は素数ではないので ∏p≤np=∏p≤n−1p≤4n−1≤4n\prod_{p\le n} p = \prod_{p \le n-1} p \le 4^{n-1} \le 4^{n} です。

nn が奇数のときは n=2m+1n = 2m+1(m≥1m \ge 1)と書きます。m+1<p≤2m+1m + 1 < p \le 2m+1 を満たす素数 pp を考えると、pp は (2m+1)!(2m+1)! の因子として現れる一方、p>m+1p > m+1 より m!m! も (m+1)!(m+1)! も割り切りません。したがって

(2m+1m)=(2m+1)!m! (m+1)!\binom{2m+1}{m} = \frac{(2m+1)!}{m!\,(m+1)!}

は pp で割り切れます(補題 4.1 により、分子を割り切る素数が分母を割り切らなければ商に残ります)。相異なる素数についてこれを合わせると(再び 定理 4.2)

∏m+1<p≤2m+1p ∣ (2m+1m),よって∏m+1<p≤2m+1p ≤ (2m+1m).\prod_{m+1 < p \le 2m+1} p \ \Bigm|\ \binom{2m+1}{m}, \qquad\text{よって}\qquad \prod_{m+1<p\le 2m+1} p \ \le\ \binom{2m+1}{m}.

さらに (2m+1m)=(2m+1m+1)\binom{2m+1}{m} = \binom{2m+1}{m+1} であり、この二つはともに ∑k=02m+1(2m+1k)=22m+1\sum_{k=0}^{2m+1}\binom{2m+1}{k} = 2^{2m+1} の項なので

2(2m+1m)≤22m+1,すなわち(2m+1m)≤4m.2\binom{2m+1}{m} \le 2^{2m+1}, \qquad \text{すなわち}\qquad \binom{2m+1}{m}\le 4^{m}.

帰納法の仮定を m+1<nm+1 < n に適用すると ∏p≤m+1p≤4m+1\prod_{p \le m+1} p \le 4^{m+1} なので、

∏p≤2m+1p=(∏p≤m+1p)(∏m+1<p≤2m+1p)≤4m+1⋅4m=42m+1=4n\prod_{p\le 2m+1} p = \left(\prod_{p\le m+1}p\right)\left(\prod_{m+1<p\le 2m+1}p\right) \le 4^{m+1}\cdot 4^{m} = 4^{2m+1} = 4^{n}

となり、帰納法が完成します。実数 x≥1x \ge 1 については θ(x)=θ(⌊x⌋)≤⌊x⌋log⁡4≤xlog⁡4\theta(x) = \theta(\lfloor x\rfloor) \le \lfloor x\rfloor \log 4 \le x\log 4 です。

第 2 段:θ\theta から π\pi へ。 1<y<x1 < y < x とします。yy より大きく xx 以下の各素数 pp について log⁡p>log⁡y\log p > \log y なので

θ(x) ≥ ∑y<p≤xlog⁡p > (π(x)−π(y))log⁡y\theta(x) \ \ge\ \sum_{y < p \le x}\log p \ >\ (\pi(x) - \pi(y))\log y

です。π(y)≤y\pi(y) \le y は自明な評価(yy 以下の素数は yy 以下の正の整数の一部)なので、

π(x) < π(y)+θ(x)log⁡y ≤ y+xlog⁡4log⁡y.\pi(x) \ <\ \pi(y) + \frac{\theta(x)}{\log y} \ \le\ y + \frac{x\log 4}{\log y}.

第 3 段:yy を選ぶ。 y=x/(log⁡x)2y = x/(\log x)^{2} と取ります(xx が十分大きければ 1<y<x1 < y < x です)。このとき log⁡y=log⁡x−2log⁡log⁡x\log y = \log x - 2\log\log x なので

π(x)log⁡xx < 1log⁡x+log⁡41−2log⁡log⁡xlog⁡x.\frac{\pi(x)\log x}{x} \ <\ \frac{1}{\log x} + \frac{\log 4}{1 - \dfrac{2\log\log x}{\log x}}.

x→∞x \to \infty のとき log⁡log⁡x/log⁡x→0\log\log x/\log x \to 0 なので右辺は log⁡4\log 4 に収束します。したがって lim sup⁡x→∞π(x)log⁡x/x≤log⁡4\limsup_{x\to\infty}\pi(x)\log x/x \le \log 4 です。

まとめ。 命題 5.3 の下界 log⁡2=0.693…\log 2 = 0.693\ldots と上界 log⁡4=1.386…\log 4 = 1.386\ldots は、定理 6.2 の主張する値 11 を実際に挟んでいます。チェビシェフはこの種の議論を精密化して 0.921<π(x)log⁡x/x<1.1060.921 < \pi(x)\log x/x < 1.106(xx が十分大きいとき)まで到達しましたが、極限値が 11 であること自体はこの方向からは出ません。そこにゼータ関数が必要になる、というのが素数定理の物語の核心です。

証明(定理 6.2)

Newman の方法を Zagier の整理に従って述べます。pp は素数を走り、s=σ+its=\sigma+it と書きます。前の Appendix の θ(x)=∑p≤xlog⁡p\theta(x)=\sum_{p\le x}\log p と、Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 での

Φ(s)=∑plog⁡pps\Phi(s)=\sum_p\frac{\log p}{p^s}

を使います。使う事実は、前の Appendix 第 1 段の θ(x)≤xlog⁡4\theta(x)\le x\log4(x≥1x\ge1)、ゼータ関数の Euler 積と有理型接続(リーマン予想とは何か)、そして Newman の Tauber 定理(定理 4.2[Laplace・Mellin 変換と Tauber 型定理])です。

第 1 段:Φ\Phi と ζ′/ζ\zeta'/\zeta。 n=pkn=p^k(k≥1k\ge1)のとき Λ(n)=log⁡p\Lambda(n)=\log p、それ以外は Λ(n)=0\Lambda(n)=0 とおきます。定理 4.2 で n=∏pepn=\prod p^{e_p} と分解すると、nn の約数のうち素数冪であるものは pkp^k(1≤k≤ep1\le k\le e_p)なので ∑d∣nΛ(d)=∑peplog⁡p=log⁡n\sum_{d\mid n}\Lambda(d)=\sum_pe_p\log p=\log n です。Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 では ∑n−s\sum n^{-s} と ∑Λ(n)n−s\sum\Lambda(n)n^{-s}(0≤Λ(n)≤log⁡n0\le\Lambda(n)\le\log n)は絶対収束するので、積を (d,m)(d,m) を添字とする絶対収束する二重級数とみて n=dmn=dm ごとにまとめ直して(定理 7.11[級数と収束判定] の 2)

ζ(s)∑dΛ(d)ds=∑n∑d∣nΛ(d)ns=∑nlog⁡nns=−ζ′(s)\zeta(s)\sum_{d}\frac{\Lambda(d)}{d^s}=\sum_n\frac{\sum_{d\mid n}\Lambda(d)}{n^s}=\sum_n\frac{\log n}{n^s}=-\zeta'(s)

です。最後の等号は、∑n≤Nn−s\sum_{n\le N}n^{-s} が Re⁡s≥σ0>1\operatorname{Re}s\ge\sigma_0\gt1 で一様収束するので項別微分できること(定理 5.2[偏角の原理と Rouché の定理])によります。Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で ζ(s)≠0\zeta(s)\ne0 なので(系 3.2[リーマン予想とは何か])、

−ζ′(s)ζ(s)=∑nΛ(n)ns=Φ(s)+R(s),R(s)=∑plog⁡p∑k≥2p−ks-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}=\sum_n\frac{\Lambda(n)}{n^s}=\Phi(s)+R(s),\qquad R(s)=\sum_p\log p\sum_{k\ge2}p^{-ks}

です。Re⁡s≥σ0>12\operatorname{Re}s\ge\sigma_0\gt\frac12 では ∣R(s)∣≤(1−2−σ0)−1∑n(log⁡n) n−2σ0<∞|R(s)|\le(1-2^{-\sigma_0})^{-1}\sum_n(\log n)\,n^{-2\sigma_0}\lt\infty と一様に評価できるので、同じ収束定理から RR は Re⁡s>12\operatorname{Re}s\gt\frac12 で正則です。

第 2 段:Φ\Phi の接続。 定理 4.3[リーマン予想とは何か] より ζ\zeta は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で有理型で、極は s=1s=1 の単純極(留数 11)だけです。したがって Φ=−ζ′/ζ−R\Phi=-\zeta'/\zeta-R は Re⁡s>12\operatorname{Re}s\gt\frac12 に有理型に接続され、極の候補は s=1s=1 と ζ\zeta の零点だけです。s=1s=1 の近くで ζ(s)=h(s)/(s−1)\zeta(s)=h(s)/(s-1)(hh は正則、h(1)=1h(1)=1)と書くと −ζ′/ζ=1s−1−h′/h-\zeta'/\zeta=\frac1{s-1}-h'/h なので、Φ(s)−1s−1\Phi(s)-\frac1{s-1} は s=1s=1 の近くで正則です。ζ\zeta が bb で位数 m≥0m\ge0 の零点をもつ(m=0m=0 は零点でないことを表す)とき、ζ(s)=(s−b)mu(s)\zeta(s)=(s-b)^mu(s)(u(b)≠0u(b)\ne0)と書けて ζ′/ζ=ms−b+u′/u\zeta'/\zeta=\frac m{s-b}+u'/u なので

lim⁡ε↓0ε Φ(b+ε)=−m(b≠1),lim⁡ε↓0ε Φ(1+ε)=1\lim_{\varepsilon\downarrow0}\varepsilon\,\Phi(b+\varepsilon)=-m\qquad(b\ne1),\qquad\lim_{\varepsilon\downarrow0}\varepsilon\,\Phi(1+\varepsilon)=1

です(εR\varepsilon R と εu′/u\varepsilon u'/u の寄与は 00 に収束します)。

第 3 段:ζ(1+iα)≠0\zeta(1+i\alpha)\ne0(α∈R\alpha\in\mathbb{R}、α≠0\alpha\ne0)。 Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で ζ(sˉ)=ζ(s)‾\zeta(\bar s)=\overline{\zeta(s)} で、s↦ζ(sˉ)‾s\mapsto\overline{\zeta(\bar s)} も有理型なので、一致の定理(定理 7.3[正則関数の強力な性質])によりこの等式は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で成り立ちます。よって ζ\zeta の 1±iα1\pm i\alpha での零点の位数は等しく、これを μ\mu とし、1±2iα1\pm2i\alpha での位数を ν\nu とします(α>0\alpha\gt0 としてよい)。ε>0\varepsilon\gt0 について

∑r=−22(42+r)Φ(1+ε+irα)=∑plog⁡pp1+ε(piα/2+p−iα/2)4 ≥ 0\sum_{r=-2}^{2}\binom{4}{2+r}\Phi(1+\varepsilon+ir\alpha)=\sum_p\frac{\log p}{p^{1+\varepsilon}}\bigl(p^{i\alpha/2}+p^{-i\alpha/2}\bigr)^4\ \ge\ 0

です((x+x−1)4=∑r(42+r)x2r(x+x^{-1})^4=\sum_r\binom4{2+r}x^{2r} に x=p−iα/2x=p^{-i\alpha/2} を代入。piα/2+p−iα/2=2cos⁡(α2log⁡p)p^{i\alpha/2}+p^{-i\alpha/2}=2\cos(\frac\alpha2\log p) は実数)。両辺に ε\varepsilon を掛けて ε↓0\varepsilon\downarrow0 とすると、第 2 段から 6−8μ−2ν≥06-8\mu-2\nu\ge0。μ,ν\mu,\nu は 00 以上の整数なので μ=0\mu=0 です。

以上より、Φ(s)−1s−1\Phi(s)-\frac1{s-1} は閉半平面 Re⁡s≥1\operatorname{Re}s\ge1 の各点の近傍で正則です(Re⁡s=1\operatorname{Re}s=1 上では ζ\zeta が零点をもたず、s=1s=1 では第 2 段による)。

第 4 段:∫1∞θ(x)−xx2dx\int_1^\infty\frac{\theta(x)-x}{x^2}dx は収束する。 f(t)=θ(et)e−t−1f(t)=\theta(e^t)e^{-t}-1(t≥0t\ge0)とおくと、θ(x)≤xlog⁡4\theta(x)\le x\log4 から ∣f∣≤1+log⁡4|f|\le1+\log4 で、ff は区分的に連続です。Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 では θ(et)=∑plog⁡p⋅1t≥log⁡p\theta(e^t)=\sum_p\log p\cdot\mathbf 1_{t\ge\log p} を項別に積分して(非負の項の和なので σ=Re⁡s\sigma=\operatorname{Re}s で絶対収束が確かめられます)

∫0∞θ(et)e−stdt=∑plog⁡p∫log⁡p∞e−stdt=Φ(s)s.\int_0^\infty\theta(e^t)e^{-st}dt=\sum_p\log p\int_{\log p}^\infty e^{-st}dt=\frac{\Phi(s)}{s}.

したがって Re⁡z>0\operatorname{Re}z\gt0 で

g(z):=∫0∞f(t)e−ztdt=Φ(z+1)z+1−1z=1z+1(Φ(z+1)−1z−1)g(z):=\int_0^\infty f(t)e^{-zt}dt=\frac{\Phi(z+1)}{z+1}-\frac1z=\frac{1}{z+1}\Bigl(\Phi(z+1)-\frac1z-1\Bigr)

で、第 3 段の結論により右辺は Re⁡z≥0\operatorname{Re}z\ge0 の近傍で正則な関数に延びます。Newman の Tauber 定理から ∫0∞f(t) dt\int_0^\infty f(t)\,dt は収束し、x=etx=e^t と置換すれば ∫1∞θ(x)−xx2dx\int_1^\infty\frac{\theta(x)-x}{x^2}dx が収束します。

第 5 段:θ(x)∼x\theta(x)\sim x。 λ>1\lambda\gt1 とし、θ(x)≥λx\theta(x)\ge\lambda x となる xx がいくらでも大きくとれたとします。そのような xx について、θ\theta は単調非減少なので t∈[x,λx]t\in[x,\lambda x] で θ(t)≥λx\theta(t)\ge\lambda x であり、t=xut=xu と置換して

∫xλxθ(t)−tt2dt ≥ ∫xλxλx−tt2dt=∫1λλ−uu2du > 0\int_x^{\lambda x}\frac{\theta(t)-t}{t^2}dt\ \ge\ \int_x^{\lambda x}\frac{\lambda x-t}{t^2}dt=\int_1^\lambda\frac{\lambda-u}{u^2}du\ \gt\ 0

です。右辺は xx によらない正の数ですが、第 4 段の積分が収束することから左辺は x→∞x\to\infty で 00 に近づくはずで(Cauchy の判定条件)、矛盾します。同様に λ<1\lambda\lt1 で θ(x)≤λx\theta(x)\le\lambda x となる xx がいくらでも大きくとれたとすると、t∈[λx,x]t\in[\lambda x,x] で θ(t)≤λx\theta(t)\le\lambda x なので

∫λxxθ(t)−tt2dt ≤ ∫λ1λ−uu2du < 0\int_{\lambda x}^{x}\frac{\theta(t)-t}{t^2}dt\ \le\ \int_\lambda^1\frac{\lambda-u}{u^2}du\ \lt\ 0

となり、やはり矛盾します。よって θ(x)/x→1\theta(x)/x\to1 です。

第 6 段:π(x)∼x/log⁡x\pi(x)\sim x/\log x。 θ(x)≤π(x)log⁡x\theta(x)\le\pi(x)\log x なので lim inf⁡π(x)log⁡x/x≥lim⁡θ(x)/x=1\liminf\pi(x)\log x/x\ge\lim\theta(x)/x=1。逆向きは前の Appendix 第 2・3 段の評価 π(x)<y+θ(x)/log⁡y\pi(x)\lt y+\theta(x)/\log y を y=x/(log⁡x)2y=x/(\log x)^2 で使うと

π(x)log⁡xx < 1log⁡x+θ(x)/x1−2log⁡log⁡xlog⁡x ⟶ 1\frac{\pi(x)\log x}{x}\ \lt\ \frac1{\log x}+\frac{\theta(x)/x}{1-\frac{2\log\log x}{\log x}}\ \longrightarrow\ 1

なので lim sup⁡π(x)log⁡x/x≤1\limsup\pi(x)\log x/x\le1。以上で π(x)∼x/log⁡x\pi(x)\sim x/\log x です。最後に、li(x)\mathrm{li}(x) と x/log⁡xx/\log x はともに +∞+\infty に発散し、導関数の比 1/log⁡x1/log⁡x−1/(log⁡x)2\frac{1/\log x}{1/\log x-1/(\log x)^2} は 11 に収束するので、ロピタルの定理より li(x)∼x/log⁡x\mathrm{li}(x)\sim x/\log x、したがって π(x)∼li(x)\pi(x)\sim\mathrm{li}(x) です。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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