4時間で解く6問構成です。前半3問は量子力学・統計力学・電磁気学の標準問題で、計算量は多くありませんが、第2問の核スピン異性体と第3問の異常分散は物理的な読みが要求されます。後半3問は実験系の色が濃く、第4問の誤差伝播と最尤法、第5問のグラフからの数値読み取り、第6問の伝送線路と減衰器設計は、いずれも手を動かして数値まで出すことが求められます。
| 問題 | 分野 | 主題 |
|---|
| 第1問 | 量子力学 | 角運動量の交換関係、スピンの歳差運動、回転磁場と磁気共鳴 |
| 第2問 | 統計力学 | 二原子分子の回転分配関数と比熱、オルソ/パラ水素 |
| 第3問 | 電磁気学・光学 | 束縛電子の応答と分散関係、正常分散と異常分散 |
| 第4問 | 素粒子・原子核 | 反応しきい値、誤差伝播、飛行時間法、偶然同時計数、最尤法 |
| 第5問 | 物性物理・フーリエ解析 | 中性子準弾性散乱、Lorentz 関数、拡散係数と活性化エネルギー |
| 第6問 | 電気回路・電磁気学 | 同軸ケーブルの容量とインダクタンス、伝送線路方程式、T 型減衰器 |
第1問から第3問が全員必答で、第4問から第6問のうち1問を選んで解答する形式ですが、ここでは全問の解答を載せます。
磁場 H とスピン S の Zeeman 相互作用
H=−μH⋅S
を扱います(μ は定数)。設問1と2は角運動量代数とスピン行列の確認、設問3と4は静磁場 H=(H,0,0) の下での時間発展、設問5と6は回転磁場 H=(H0cosωt,−H0sinωt,H) による磁気共鳴です。設問3以降は ℏ=1 とし、a≡μH、a0≡μH0 と書きます。
L=r×p の成分は Lx=ypz−zpy、Ly=zpx−xpz、Lz=xpy−ypx です。異なる方向の座標と運動量は可換で、[x,px]=[y,py]=[z,pz]=iℏ だけが残ります。
[Lx,Ly]=[ypz−zpy,zpx−xpz]=[ypz,zpx]+[zpy,xpz]=y[pz,z]px+x[z,pz]py=−iℏypx+iℏxpy=iℏLz.
途中で [ypz,xpz]=[zpy,zpx]=0 を使いました。x→y→z→x の巡回置換で同じ計算が繰り返せるので、
[Lx,Ly]=iℏLz,[Ly,Lz]=iℏLx,[Lz,Lx]=iℏLy
すなわち [Li,Lj]=iℏϵijkLk が答えです。スピンもこれと同じ交換関係 [Si,Sj]=iℏϵijkSk に従います。
交換関係 [Sz,Sx]=iℏSy を使って Sy を作ります。
SzSx=4ℏ2(0−110),SxSz=4ℏ2(01−10)
なので [Sz,Sx]=2ℏ2(0−110) となり、
Sy=iℏ1[Sz,Sx]=2ℏ(0i−i0)
が答えです。これは Hermite かつ Sy2=(ℏ/2)2I を満たし、Sx2+Sy2+Sz2=43ℏ2I=ℏ2s(s+1)I(s=1/2)も成り立ちます。
H=(H,0,0) なので H=−μHSx です。ℏ=1 では
H=−2μH(0110)
となります。磁場が x 方向なので対角行列にはならず、固有ベクトルは Sx の固有ベクトル、つまり z 基底の重ね合わせになります。(0110) の固有値は ±1、固有ベクトルは 21(1,±1)T なので、
λ1=−2μH,∣λ1⟩=21(11);λ2=+2μH,∣λ2⟩=21(1−1)
が答えです。∣λ1⟩ は Sx=+1/2、∣λ2⟩ は Sx=−1/2 の状態で、μH>0 なら磁場方向にスピンが向いた ∣λ1⟩ が低エネルギーです。
⟨Sz⟩=1/2 かつ ⟨Sx⟩=⟨Sy⟩=0 を満たすのは z 上向き状態なので、位相を選んで ∣ϕ(0)⟩=(1,0)T とします。設問3の基底で ∣ϕ(0)⟩=21(∣λ1⟩+∣λ2⟩) なので、a=μH と書いて
∣ϕ(t)⟩=21(e−iλ1t∣λ1⟩+e−iλ2t∣λ2⟩)=21(eiat/2+e−iat/2eiat/2−e−iat/2)=(cos2atisin2at)
です。これは ∣ϕ(t)⟩=e−iHt∣ϕ(0)⟩=ei(at/2)σx∣ϕ(0)⟩ を展開したものと一致します。期待値は Si=21σi を挟んで
⟨ϕ(t)∣σx∣ϕ(t)⟩=0,⟨ϕ(t)∣σy∣ϕ(t)⟩=2sin2atcos2at=sinat,⟨ϕ(t)∣σz∣ϕ(t)⟩=cos22at−sin22at=cosat
となるので、答えは
(⟨Sx⟩,⟨Sy⟩,⟨Sz⟩)=(0, 21sinμHt, 21cosμHt)
です。x 成分は保存し、yz 面内でスピンが角速度 μH で回る歳差運動になります。Heisenberg 方程式 ⟨Sy⟩˙=a⟨Sz⟩、⟨Sz⟩˙=−a⟨Sy⟩ を上の式が満たしていることも確かめられます。
Schrödinger 方程式は ℏ=1 で idtd∣φ(t)⟩=(H1+H2)∣φ(t)⟩ です。∣ψ(t)⟩=eiH1t∣φ(t)⟩ を時間で微分すると、H1 が eiH1t と可換であることから H1 の寄与が打ち消し合い、
idtd∣ψ(t)⟩=eiH1tH2e−iH1t∣ψ(t)⟩≡H~2(t)∣ψ(t)⟩
が得られます。H2 を行列で書くと
H2=−a0(Sxcosωt−Sysinωt)=−2a0(0e−iωteiωt0),eiH1t=e−iaSzt=(e−iat/200eiat/2)
なので、両側から挟むと非対角成分の位相が ωt→(ω−a)t に置き換わり
H~2(t)=−2a0(0e−i(ω−a)tei(ω−a)t0)=−a0[Sxcos((ω−a)t)−Sysin((ω−a)t)]
となります。求める方程式は
idtd∣ψ(t)⟩=−a0[Sxcos((ω−a)t)−Sysin((ω−a)t)]∣ψ(t)⟩
です。相互作用表示に移ると回転磁場の回転が ω−a だけに減り、ω=a では時間依存性が完全に消えます。
ω=a では H~2=−a0Sx が時間に依存しないので、∣ψ(0)⟩=∣φ(0)⟩=(1,0)T から
∣ψ(t)⟩=eia0Sxt∣ψ(0)⟩=(cos2a0tisin2a0t)
です。Sz は H1=−aSz と可換なので、変換 ∣φ(t)⟩=e−iH1t∣ψ(t)⟩ は Sz の期待値を変えません。
⟨φ(t)∣Sz∣φ(t)⟩=⟨ψ(t)∣Sz∣ψ(t)⟩=21(cos22a0t−sin22a0t)
より、答えは
⟨φ(t)∣Sz∣φ(t)⟩=21cosa0t=21cos(μH0t)
です。t=0 で 1/2 になり、周期 π/a0 ごとに ±1/2 を往復します。共鳴条件 ω=a では横磁場がどれほど弱くても完全反転(Rabi 振動)が起こり、その振動数は H0 だけで決まります。
原子間隔一定の二原子分子の回転を、古典剛体回転子(設問1)と量子剛体回転子(設問2、3)で扱います。量はすべて1分子あたりで、β=1/(kBT) です。古典エネルギーは極座標 (θ,φ) とその共役運動量で
E=2I1(pθ2+sin2θpφ2)
量子準位は Eℓ=2Iℏ2ℓ(ℓ+1)(縮退度 2ℓ+1)です。設問4以降は水素分子で、二つの陽子の合成核スピンが1のものをオルソ、0のものをパラと呼び、軌道部分の波動関数は ℓ が偶数なら核の入れ換えについて対称、奇数なら反対称です。
古典分配関数は位相空間積分を h2 で割ったものとします(自由度2なので h2)。
Z=h21∫0πdθ∫02πdφ∫−∞∞dpθ∫−∞∞dpφexp[−2Iβ(pθ2+sin2θpφ2)]
運動量積分は Gauss 積分です。
∫−∞∞e−βpθ2/(2I)dpθ=β2πI,∫−∞∞e−βpφ2/(2Isin2θ)dpφ=sinθβ2πI
(0≤θ≤π で sinθ≥0 を使いました。)積は β2πIsinθ で、角度積分は ∫0πsinθdθ=2、∫02πdφ=2π です。したがって
Z=h21⋅β2πI⋅2⋅2π=βh28π2I=βℏ22I=ℏ22IkBT
が答えです。内部エネルギーは U=−∂lnZ/∂β=1/β=kBT で、比熱への回転運動の寄与は
C=dTdU=kB
です。回転自由度2つに 21kB ずつというエネルギー等分配の結果と一致します。Z の前係数(同種核分子なら対称数2で割る、など)は lnZ に定数を足すだけなので C を変えません。
縮退度を込めて
Z=ℓ=0∑∞(2ℓ+1)exp[−2Iβℏ2ℓ(ℓ+1)]
が求める表式です。十分高温 βℏ2/(2I)≪1 では和の刻みが細かくなるので積分で置き換えられます。x=ℓ(ℓ+1)、dx=(2ℓ+1)dℓ とすると
Z≃∫0∞(2ℓ+1)e−βℏ2ℓ(ℓ+1)/(2I)dℓ=∫0∞e−βℏ2x/(2I)dx=βℏ22I
となり、U=1/β=kBT、
C=kB
です。設問1の古典計算の結果と完全に一致します。古典論は量子論の高温極限であり、しかも位相空間体積を h2 で測った古典分配関数は前係数まで量子論の高温漸近形に一致します。逆に言えば、回転比熱が kB という古典値をとるのは kBT≫ℏ2/(2I) の場合に限られます。
十分低温 kBT≪ℏ2/(2I) では ℓ=0 と ℓ=1 だけが効きます。励起エネルギーを ϵ≡E1−E0=ℏ2/I と書くと
Z≃1+3e−βϵ,lnZ≃3e−βϵ
(e−βϵ≪1 で ln(1+u)≃u)。よって U=−∂lnZ/∂β≃3ϵe−βϵ で、
C=dTdU=kBT23ϵ2e−ϵ/(kBT)=3kB(IkBTℏ2)2exp(−IkBTℏ2)
が答えです。Θ≡ℏ2/(2IkB) を使えば C≃12kB(Θ/T)2e−2Θ/T と書けます。T→0 で指数関数的に消え、エネルギーギャップをもつ系の低温比熱の典型的な振る舞いです。T≫Θ で kB に飽和するので、C は T∼Θ 付近に極大をもちます。
陽子はスピン 1/2 のフェルミ粒子なので、二つの水素原子核を入れ換えたとき全波動関数は反対称でなければなりません。核スピン部分は、合成スピン1(三重項、オルソ)が入れ換えについて対称、合成スピン0(一重項、パラ)が反対称です。したがって軌道部分は、オルソでは反対称、パラでは対称でなければなりません。問題の仮定より軌道部分は ℓ が偶数で対称、奇数で反対称なので、
オルソ水素: ℓ=1,3,5,… (奇数),パラ水素: ℓ=0,2,4,… (偶数)
が許されます。パラ水素は ℓ=0(E0=0)をとれますが、オルソ水素の最低準位は ℓ=1、E1=ℏ2/I で、絶対零度でも回転エネルギーが残ります。
存在比は核スピン多重度と回転和の積で決まります。
NpNo=1⋅ℓ:偶∑(2ℓ+1)e−βEℓ3ℓ:奇∑(2ℓ+1)e−βEℓ
十分高温では隣り合う準位の Boltzmann 因子の差が無視できるほど和が滑らかになり、奇数 ℓ の和と偶数 ℓ の和はどちらも全体 2I/(βℏ2) のほぼ半分になって打ち消します。残るのは核スピンの縮退度、すなわちオルソの三重項3個とパラの一重項1個の比だけなので、
NpNo=3
が答えです。常温の水素ガスがオルソ75 %、パラ25 % の混合になっているのはこの理由です。
ℏ2/(2I)=kBΘ、Θ=90K なので Eℓ/kB=90ℓ(ℓ+1)K、T=30K で βEℓ=3ℓ(ℓ+1) です。オルソ・パラ間の遷移が起きないので、両成分をそれぞれ独立に T=30K で平衡化させ、存在比 3:1 で重みをつけます。
パラ成分(偶数 ℓ)は ℓ=0 が圧倒的です。ℓ=2 の重みは 5e−18=7.6×10−8 にすぎず、
kBUp≃1+5e−18540×5e−18≈4×10−5K≈0
です。オルソ成分(奇数 ℓ)は ℓ=1 が最低準位で、ℓ=3 の相対重み 37e−30∼10−13 は無視できます。したがってオルソ分子は事実上すべて ℓ=1 に凍結し、
kBUo≃kBE1=2Θ=180K
です。平均をとると
kBU=43⋅180K+41⋅0=135K
なので、答えは U/kB≃1.4×102K です。T=30K での熱エネルギーよりはるかに大きい値が残るのは、オルソ水素が ℓ=0 に落ちられず ℓ=1 の零点回転エネルギーを抱えたままだからです。もし完全に平衡化してパラの ℓ=0 に落ちれば U→0 になります。
誘電体中で原子に束縛された電子(質量 m、電荷 e<0、固有角振動数 ω0)が、入射光の電場 E=E0cosωt に駆動される問題です。減衰は入れず、自己力と磁場による Lorentz 力も無視します。単位体積あたりの電子数を N とし、束縛電子のつくる電流密度 id=Nev を Ampère–Maxwell の法則に入れて屈折率の分散を導きます。
復元力は変位に比例して −mω02r、電場から受ける力は eE です。
mdt2d2r=−mω02r+eE0cosωt
が答えです。
r=Rcosωt を代入すると、cosωt の係数を比べて −mω2R=−mω02R+eE0、すなわち
R=m(ω02−ω2)eE0
です。速度は v=r˙=−ωRsinωt なので、
id=Nev=−m(ω02−ω2)Ne2ωE0sinωt
が答えです。e2>0 なので符号は ω02−ω2 の符号で決まり、ω<ω0 では変位が電場と同位相、ω>ω0 では逆位相になります。
式 (1) の両辺の発散をとります。左辺は恒等的に divrotB=0 です。右辺は Gauss の法則 divE=ρ/ε0 を使って
0=ε0∂t∂(divE)+divi=∂t∂ρ+divi
となります。これはまさに電荷保存則(連続の式)であり、式 (1) は電荷保存則と矛盾しないどころか、それを含んでいます。逆に、もし変位電流の項 ε0∂E/∂t がなければ divi=0 が強制され、∂ρ/∂t=0 の状況(コンデンサーの充電など)と矛盾します。使った仮定は Gauss の法則と、divrot=0 というベクトル解析の恒等式だけです。
i=id として式 (1) に入れます。ε0∂E/∂t=−ε0ωE0sinωt なので、
μ01rotB=−ω[ε0+m(ω02−ω2)Ne2]E0sinωt
両辺に μ0 を掛けると式 (2) の形になり、
C=μ0[ε0+m(ω02−ω2)Ne2]=ε0μ0[1+mε0(ω02−ω2)Ne2]
が答えです。N→0 または ω→∞ で真空の値 C=ε0μ0 に戻ります。
C=εμ と同定できるので、屈折率は
n(ω)2=ε0μ0εμ=ε0μ0C=1+mε0(ω02−ω2)Ne2
です。ωp2=Ne2/(mε0) を使えば
n(ω)=1+ω02−ω2ωp2
が答え(分散関係式)です。ωp は角振動数の次元をもち、括弧内は無次元なので次元は合っています。極限も確かめられます。ω→0 では n2→1+ωp2/ω02 で静的な比誘電率を与え、ω→∞ では n→1 に戻ります。束縛をはずした ω0→0 では n2=1−ωp2/ω2 となり、自由電子プラズマの分散関係に一致します。
プリズムの偏角は屈折率が大きい光ほど大きいので、スクリーン上に並ぶ順は n(ω) の大きい順です。ω<ω0 では n2=1+ωp2/(ω02−ω2)>1 で ω の増加とともに単調増加し、ω→ω0− で +∞ に発散します。ω>ω0 では n2=1−ωp2/(ω2−ω02)<1 で、ω の増加とともに −∞ から単調増加し、ω=ω02+ωp2 で 0 を横切り、ω→∞ で下から 1 に漸近します。
石英は可視光域で n>1 かつスペクトルが振動数の順(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順に偏角が大きくなる)に並ぶので、可視域全体が ω<ω0 の正常分散領域にあります。つまり ω0 は可視域より高振動数側、紫外にあります。可視域での曲線は n2>1 の側にあり、右へ向かって単調増加・下に凸で、可視域の右外にある ω=ω0 で発散します。
物質 F では、観測された順序(黄、橙、赤、紫、藍、青)がそのまま n の大きい順です。前半の黄・橙・赤は n>1 で、黄が最大ということは黄より少し高振動数側に ω0 があることを意味します。後半の紫・藍・青は前半より n が小さく、しかも紫(最高振動数)が最大なので、これらは n<1 で ω とともに増加する ω>ω0 側の枝です。さらに緑がスペクトルから欠けているのは、緑が共鳴 ω≃ω0 にあたって強く吸収されるためです。したがって ω0 は可視域内の緑の位置にあります。曲線は、赤・橙・黄で n2>1 が急激に増大して ω0(緑)で +∞ に発散し、ω0 の直上で −∞ から立ち上がって ω=ω02+ωp2(緑と青の間)で n2=0 を横切り、青・藍・紫では 0<n2<1 の範囲を単調増加して 1 に漸近します。n2<0 の狭い帯域では光は伝播できず(全反射・減衰波)、青が観測されている以上 ω02+ωp2 は青より低振動数側にあります。両者の概略は次の通りです。
横軸は右へ ω が増える向きで、可視域の内側は左端が赤、右端が紫です。石英では可視域全体が発散点の左側にあり、物質 F では発散点が可視域の中(緑)にあります。
前半は陽子ビームによる π0 生成のしきい値と γ 線検出(設問1、2)、中盤は飛行時間法による粒子識別(設問3、4)、後半は μ+ の寿命測定装置の偶然同時計数と最尤推定(設問5、6)です。S1 から S5 は荷電粒子検出器で、S1 と S2 に信号があり S5 に信号がないという条件で、μ+ が標的内で静止した事象を選びます。崩壊で出る陽電子は S3 と S4 で検出します。
不変量 s=(E全/c2)2c4−(p全c)2 を使います。入射陽子の全エネルギーを E、運動量を p、静止標的陽子の質量を mp として
s=(E+mpc2)2−(pc)2=2mp2c4+2Empc2
(E2−(pc)2=mp2c4 を使いました。)しきい値では終状態3粒子が重心系で静止するので s=(2mp+mπ)c2 です。等号を課して E を解き、運動エネルギー T=E−mpc2 に直すと
Tmin=2mpc2(2mp+mπ)2c4−4mp2c4=2mpmπ(4mp+mπ)c2=mπc2(2+2mpmπ)
が答えです。数値を入れると
Tmin=135×(2+2×938135) MeV=135×2.072 MeV=2.8×102 MeV
すなわち約 280 MeV です。静止標的では重心系エネルギーに使えるのが入射エネルギーの一部だけなので、生成に必要な mπc2=135 MeV の約2倍が要ります。
γ 線と物質の相互作用で主なものは、光電効果、Compton 散乱、電子対生成の3つです。断面積の優劣はエネルギーで移り変わり、数十 keV 以下では光電効果、数百 keV から数 MeV では Compton 散乱、数 MeV 以上では電子対生成が支配します。
π0→γγ で出る γ 線は高エネルギー加速器実験では数十 MeV 以上になるので、特に重要なのは電子対生成です。生成された電子・陽電子が制動放射を出し、それがまた対生成するという電磁シャワーが発達するので、カロリメーターによる検出とエネルギー測定はこの過程に基づいています。
速さは v=ℓ/t です。中心値は
v=5.000×10−9 s1.200 m=2.400×108 m/s
ℓ と t の測定が独立なので、相対誤差は二乗和で伝播します。
vΔv=(ℓΔℓ)2+(tΔt)2=(0.0100)2+(0.0240)2=0.0260
よって Δv=2.400×108×0.0260=6.2×106 m/s で、答えは
v=(2.400±0.062)×108 m/s
です。光速で測れば v/c=0.800±0.021 で、誤差の主因は時間測定(相対誤差 2.4 %)です。
相対論では v=Epc2、E=(pc)2+(mc2)2 なので、飛行時間は
t=vℓ=pc2ℓE=cℓpc(pc)2+(mc2)2=cℓ1+(pmc)2
です。pc≫mc2 で展開すると t≃cℓ[1+2(pc)2(mc2)2] となり、同じ運動量の2粒子の飛行時間差は
Δt=2cℓ⋅(pc)2(mK2−mπ2)c4
です。(mKc2)2−(mπc2)2=4902−1402=2.205×105 MeV2、(pc)2=(4.0×103)2=1.6×107 MeV2 なので
Δt=2×3.0×108 m/sℓ×1.6×1072.205×105=2.30×10−11ℓ [s/m]
Δt≥300 ps=3.0×10−10 s を課すと
ℓ≥2.30×10−113.0×10−10 m=13 m
が答えです。Δt∝ℓ/p2 なので、高運動量になるほど識別には長い飛行距離が必要になります。
雑音パルスは各検出器で独立に率 r=1 kHz で発生し、パルス幅は τ=50 ns です。少しでも重なれば同時とみなすので、S3 のパルスに対して S4 のパルスが同時と判定される時間窓は前後に τ ずつ、合わせて 2τ です。よって偶然同時計数率は
R=r3×(2τr4)=103×2×50×10−9×103 Hz=0.1 Hz
答えは 0.1 Hz です。単独では 1 kHz あった雑音が、2重同時計数を要求するだけで4桁下がります。μ+ の寿命が μs の桁であることを思えば、0.1 Hz の偶然計数は測定に十分小さい率です。
対数尤度は
lnL=i=1∑nln(τ1e−ti/τ)=−nlnτ−τ1i=1∑nti
τ で微分して0とおくと
dτdlnL=−τn+τ21i∑ti=0⟹τ0=n1i=1∑nti
です。τ=τ0 での2階微分は dτ2d2lnL=τ02n−τ022n=−τ02n<0 なので、これは確かに最大値です。測定値の和は
i∑ti=0.34+0.74+4.76+1.81+1.35+9.80+0.65+0.62+2.43=22.50 μs
n=9 なので、答えは
τ0=922.50 μs=2.50 μs
です。指数分布の場合、最尤推定値は単純な標本平均になります。n=9 での統計誤差は τ0/n=0.83 μs 程度なので、μ+ の真の寿命 2.20 μs とは誤差の範囲で一致しています。
飛行時間法の中性子散乱で液体の拡散を調べます。グラファイト (002) 面の Bragg 反射で単色化した中性子をチョッパーでパルス化し、試料で散乱された中性子を距離 L 離れた検出器で、飛行時間 Δt の関数として測ります。入射・散乱の波数ベクトルを ki,kf、散乱角を 2θ とします。中性子の質量 m、Planck 定数 h、ℏ=h/2π、1 A˚=0.1 nm で、相対論効果は無視します。答えはすべて有効数字2桁です。
Bragg の式は 2dsinθB=nλ で、一次反射 n=1 を考えます。図の配置では入射ビームと結晶面のなす角、結晶面と反射ビームのなす角がともに 45∘(全体で 90∘ 曲がる)なので θB=45∘ です。d=3.4 A˚ として
λ=2dsin45∘=2×3.4×21 A˚=4.8 A˚
が答えです。
弾性散乱では ∣ki∣=∣kf∣=k=2π/λ で、両者のなす角が 2θ です。
Q2=∣ki−kf∣2=2k2(1−cos2θ)=4k2sin2θ
より
Q=2ksinθ=λ4πsinθ
が答えです。λ=4.8 A˚ なら Q=2.6sinθ A˚−1 で、Q の測定可能範囲は 0 から 2.6 A˚−1 になります。
入射側は単色化されているので、de Broglie 関係 λ=h/(mvi) から速さが決まります。
vi=mλh,Ei=21mvi2=2mλ2h2
散乱側は試料から検出器までの距離 L を時間 Δt で飛ぶので vf=L/Δt、
Ef=21m(ΔtL)2=2(Δt)2mL2
中性子が失って試料に渡すエネルギーを正にとると、
ΔE=Ei−Ef=2mλ2h2−2(Δt)2mL2
が答えです。飛行時間が弾性散乱の値 Δt=Lmλ/h より長ければ ΔE>0(中性子のエネルギー損失)、短ければ ΔE<0(利得)です。
Γ≡DQ2>0 とおいて式 (2) を式 (1) に入れます。絶対値を境目で分けると
∫−∞∞e−Γ∣t∣eiωtdt=∫−∞0eΓteiωtdt+∫0∞e−Γteiωtdt=Γ+iω1+Γ−iω1=Γ2+ω22Γ
となります(Γ>0 なので両方の積分が収束します)。したがって
I(Q,ω)=2πa⋅Γ2+ω22Γ=πa(DQ2)2+ω2DQ2
で、式 (3) が示されました。
ω=0 での最大値は I(Q,0)=πDQ2a です。その半分になる条件は
πa(DQ2)2+ω2DQ2=21⋅πDQ2a⟺(DQ2)2+ω2=2(DQ2)2
すなわち ω=±DQ2 です。2点の間隔は 2DQ2 なので、その半分をとって
Γ=DQ2
が半値半幅です。エネルギー目盛で書けば ℏΓ=ℏDQ2 です。∫Idω=a は Q によらないので、Q が大きいほど幅が広く高さが低い Lorentz 曲線になります。
図2の3本の曲線から、最大値の半分の高さになる ℏω を読み取ります。ピーク高さはそれぞれ約 1.6、0.79、0.49(任意単位)で、比は 1:1/1.96:1/3.24、つまり 1/Q2 に比例しており、面積 a が共通であることと整合します。半値半幅は次のようになります。
| Q (A˚−1) | Q2 (A˚−2) | ピーク高さ | ℏΓ (meV) |
|---|
| 0.5 | 0.25 | 1.6 | 0.20 |
| 0.7 | 0.49 | 0.79 | 0.40 |
| 0.9 | 0.81 | 0.49 | 0.65 |
グラフ用シールに ℏΓ を Q2 に対してプロットすると原点を通る直線に乗り、傾きは ℏD です。
ℏD=0.250.20≃0.490.40≃0.810.65≃0.81 meV⋅A˚2
ℏ=6.58×10−13 meV⋅s を使うと
D=6.58×10−13 meV⋅s0.81 meV⋅A˚2=1.2×1012 A˚2/s
1 A˚2=10−16 cm2 なので、答えは
D≃1.2×10−4 cm2/s
です。半値半幅が Q2 に正比例していることが、Brown 運動的な拡散(⟨r2⟩∝t)を仮定した式 (3) の妥当性を裏づけています。
Arrhenius 式の両辺の対数をとると
lnD=lnD0−RΔEa⋅T1
なので、lnD を 1/T に対してプロットした直線の傾きが −ΔEa/R です。表1の両端の点を使い、常用対数表から
lnD1D3=2.3×(log101.80−log101.10)=2.3×(0.255−0.042)=0.49
1/T の差は (3.64−3.37)×10−3=2.7×10−4 K−1 なので
ΔEa=R(1/T1)−(1/T3)ln(D3/D1)=8.3×2.7×10−40.49 J/mol=1.5×104 J/mol
答えは ΔEa≃15 kJ/mol です。中間点を使って区間ごとに求めても 14 から 16 kJ/mol で、3点はよく直線に乗ります。
1分子あたりに直すと 1.5×104/(6.0×1023)=2.5×10−20 J≃0.16 eV で、これは水分子1個がつくる水素結合の結合エネルギー(20 kJ/mol 程度、0.2 eV 程度)と同じ桁です。水中で分子が並進拡散するには周囲の分子との水素結合を組み替える必要があり、得られた活性化エネルギーは主にこの水素結合を切るためのエネルギーに対応します。共有結合(400 kJ/mol 程度)よりはるかに小さく、熱運動 RT≃2.4 kJ/mol の数倍という大きさも、この解釈と整合します。
内径(中心導体の直径)2a、外径(外部導体の直径)2b の同軸ケーブルで、間は誘電率 ε、透磁率 μ の絶縁体です。断面内で電場は径方向、磁場は周方向を向きます。抵抗成分を無視した等価回路は、単位長さあたりの直列インダクタンス L と並列容量 C を微小区間 Δx ずつ並べたはしご形です。
中心導体に単位長さあたり λ の電荷を与えると、半径 r(a<r<b)の同軸円筒に Gauss の法則を適用して Er=2πεrλ です。導体間の電位差は
V=∫abErdr=2πελlnab
なので、単位長さあたりの電気容量は
C=Vλ=ln(b/a)2πε
です。中心導体に電流 I を流すと、Ampère の法則から Bϕ=2πrμI で、単位長さあたりの磁束は
Φ=∫ab2πrμIdr=2πμIlnab
したがって単位長さあたりのインダクタンスは
L=IΦ=2πμlnab
です。積 LC=εμ が a,b によらないことが、後の設問3、4で効いてきます。
図4の区間で、直列インダクタンス LΔx の両端の電位差が誘導起電力に等しいので
V(x,t)−[V(x,t)+ΔV]=LΔx∂t∂I⟹ΔxΔV=−L∂t∂I
Δx→0 の極限で式 (1) ∂x∂V=−L∂t∂I が得られます。
次に区間の節点で電流を勘定します。流入 I(x,t) と流出 I(x,t)+ΔI の差は、並列容量 CΔx に蓄えられる電荷の増加率です。
I(x,t)−[I(x,t)+ΔI]=∂t∂[(CΔx)V]⟹ΔxΔI=−C∂t∂V
Δx→0 で式 (2) ∂x∂I=−C∂t∂V になります。Δx の1次までの近似では、インダクタンスを流れる電流やコンデンサーにかかる電圧を区間の左端の値で評価しても右端の値で評価しても差は Δx の2次なので、極限では同じ式に収束します。
式 (1) を x で、式 (2) を t で微分して組み合わせます。
∂x2∂2V=−L∂t∂x∂2I=−L∂t∂(−C∂t∂V)=LC∂t2∂2V
順序を入れ換えて同じことをすると
∂x2∂2I=LC∂t2∂2I
が得られます。どちらも ∂x2∂2=v21∂t2∂2 の形の波動方程式で、伝送速度は
v=LC1
です。設問1の結果を入れると v=1/εμ で、絶縁体中の光速に一致し、a,b という形状には依存しません。
ε=2ε0、μ=μ0 なので
v=εμ1=2ε0μ01=2c=0.71c
答えは光速の約 70 % です。
+x 方向に進む解 V=V0eiω(t−x/v)、I=I0eiω(t−x/v) を式 (1) に入れます。∂x∂V=−viωV、∂t∂I=iωI なので
−viωV=−iωLI⟹Z=IV=vL=LCL=CL
となります。x も ω もケーブルの長さも現れないので、Z はケーブルの長さによらず L と C だけで決まります。式 (2) から出発しても Z=1/(vC)=L/C で同じ結果になり、一貫しています。−x 方向に進む解では Z=−L/C となりますが、これは電力の流れる向きが逆になることを表すだけで、大きさは同じです。設問1を使えば
Z=εμ2πln(b/a)
と書けます。
同軸ケーブル2は末端を Z で終端されているので、その入力から見たインピーダンスは Z です。また無損失・無反射なので、ケーブル2の入口の電圧振幅とその末端の Vo は等しくなります。よって図5の T 型回路(直列 R1、並列 R2、直列 R1)に対する条件は次の2つです。
(ア)入力側から見たインピーダンスが Z に等しい(ケーブル1の終端で反射しない)。
(イ)出力電圧が入力電圧の半分になる。
(ア)は、並列部分と後段の直列 R1 とケーブル2の入力インピーダンス Z を合成して
R1+R2+R1+ZR2(R1+Z)=Z
です。ここで並列合成を R2∥(R1+Z)=Z−R1 と書けることに注意します。すると中間節点の電位は VM=VaZZ−R1、さらに後段の分圧で
Vo=VMR1+ZZ=VaZ+R1Z−R1
となります。(イ)Vo=Va/2 より Z+R1Z−R1=21、すなわち
R1=3Z
これを(ア)に戻すと R2∥(R1+Z)=Z−R1=32Z、R1+Z=34Z なので
R21=2Z3−4Z3=4Z3⟹R2=34Z
答えは R1=Z/3、R2=4Z/3 です。検算すると入力インピーダンスは 3Z+4Z/3+4Z/3(4Z/3)(4Z/3)=3Z+32Z=Z で確かに整合し、回路が左右対称なのでケーブル2の側から見ても Z に整合しています。減衰比を N=Va/Vo と一般化すると R1=ZN+1N−1、R2=ZN2−12N で、N=2 が上の答えです。N→1(無減衰)で R1→0、R2→∞ となって回路が素通しになる極限も正しく再現します。
出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成24年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。