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平成10年度 東大院 物理学専攻 修士 物理学 解答

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4 時間で 4 問という長い試験で、素粒子・原子核から生物物理までの 9 問が並びます。前半の 7 問は標準的な大学院入試の定番テーマですが、第1問の後半(1/r21/r^2 ポテンシャル)と第4問の同種粒子散乱は、答えの構造そのものが物理を語る良問です。第6問は絶対重力計の実機を題材にした実験物理の問題で、桁の見積もりが要求されます。第8問・第9問は生物物理からの出題で、量子力学の初歩と分子構造の知識をつなぐことが求められます。

問題分野主題
第1問量子力学井戸型ポテンシャルの s 波束縛状態と 1/r21/r^2 引力での中心への落下
第2問電磁気学・光学電磁波の境界条件、完全導体面の表面電流、誘電体板の干渉透過
第3問統計力学・物性物理ハイゼンベルグ二量体と正方形 4 スピン系の磁化率
第4問原子核同種粒子散乱の干渉、12^{12}C+12^{12}C 散乱、ガンマ線の測定
第5問固体物理ラウエ法とデバイ・シェラー法、構造因子、fcc/bcc/岩塩型の回折
第6問光学・実験物理レーザー干渉計による重力加速度の絶対測定
第7問フーリエ解析・微分方程式グリーン関数、弦の初期値問題、2 次元ラプラス方程式
第8問原子分子・生物物理ペプチド結合の平面性、α\alpha-ヘリックスとコイルドコイル
第9問量子力学・光学一次元箱と円環による π\pi 電子の光吸収、蛍光スペクトル

9 問から 4 問を選択する形式ですが、ここでは全問の解答を載せます。

第1問 中心力場の s 波束縛状態と中心への落下

Section titled “第1問 中心力場の s 波束縛状態と中心への落下”

中心対称なポテンシャル U(r)U(r) の中の粒子について、角運動量 =0\ell=0 の動径関数 R0(r)R_0(r) が満たす方程式

1r2ddr(r2dR0dr)+2m2[EU(r)]R0=0\frac{1}{r^2}\frac{d}{dr}\left(r^2\frac{dR_0}{dr}\right)+\frac{2m}{\hbar^2}\bigl[E-U(r)\bigr]R_0=0

を扱います。以下では χ(r)rR0(r)\chi(r)\equiv rR_0(r) を用いると便利です。実際、R0=χ/rR_0=\chi/r を代入すると

d2χdr2+2m2[EU(r)]χ=0\frac{d^2\chi}{dr^2}+\frac{2m}{\hbar^2}\bigl[E-U(r)\bigr]\chi=0

となり、1 次元の Schrödinger 方程式と同形になります。原点で R0R_0 が有限であることは χ(0)=0\chi(0)=0 を意味し、これが r=0r=0 での境界条件です。前半は深さ U0U_0、半径 r0r_0 の井戸型ポテンシャル、後半は rr0r\ge r_0α/r2-\alpha/r^2、内側では α/r02-\alpha/r_0^2 に切り落とした引力ポテンシャルを扱います。

(1) rr0r\le r_0 では U=U0U=-U_0 なので、

k2m(E+U0)k\equiv\frac{\sqrt{2m(E+U_0)}}{\hbar}

とおくと χ+k2χ=0\chi''+k^2\chi=0、すなわち χ=Asinkr+Bcoskr\chi=A\sin kr+B\cos kr です。U0E0-U_0\le E\le 0 より kk は実数です。χ(0)=0\chi(0)=0 から B=0B=0 となり、

R0(r)=Asinkrr(rr0).R_0(r)=A\,\frac{\sin kr}{r}\qquad(r\le r_0).

r0r\to0R0AkR_0\to Ak と有限になっていることが、境界条件を正しく使った証拠です。

(2) r>r0r>r_0 では U=0U=0E0E\le0 なので、

κ2mE=2mE\kappa\equiv\frac{\sqrt{-2mE}}{\hbar}=\frac{\sqrt{2m\lvert E\rvert}}{\hbar}

とおくと χκ2χ=0\chi''-\kappa^2\chi=0、すなわち χ=Ceκr+De+κr\chi=Ce^{-\kappa r}+De^{+\kappa r} です。束縛状態として規格化可能であるためには rr\to\infty で減衰する必要があり、D=0D=0 を選びます。したがって

R0(r)=Ceκrr(r>r0).R_0(r)=C\,\frac{e^{-\kappa r}}{r}\qquad(r>r_0).

(3) なめらかに接続する条件は χ\chiχ\chi' の連続、すなわち対数微分 χ/χ\chi'/\chi の連続です。内側は kcotkr0k\cot kr_0、外側は κ-\kappa なので

kcot(kr0)=κ.k\cot(kr_0)=-\kappa .

k,κk,\kappaEE で書き直すと、求める EEr0r_0 の関係式は

U0+Ecot ⁣(2m(U0+E)r0)=E\sqrt{U_0+E}\,\cot\!\left(\frac{\sqrt{2m(U_0+E)}}{\hbar}\,r_0\right)=-\sqrt{-E}

です。cot\cot の引数を ξ=kr0\xi=kr_0K2mU0/K\equiv\sqrt{2mU_0}/\hbar と書けば k2+κ2=K2k^2+\kappa^2=K^2 なので、

ξcotξ=(Kr0)2ξ2,0<ξKr0\xi\cot\xi=-\sqrt{(Kr_0)^2-\xi^2},\qquad 0<\xi\le Kr_0

と同値です。右辺が負なので cotξ<0\cot\xi<0、つまり解は必ず

(n+12)π<ξ(n+1)π(n=0,1,2,)\left(n+\tfrac12\right)\pi<\xi\le(n+1)\pi\qquad(n=0,1,2,\dots)

の区間に 1 つずつ現れます。n=0n=0 の解が存在する条件 Kr0>π/2Kr_0>\pi/2 は、3 次元井戸で束縛状態が現れるためのよく知られた閾値と一致します。

(4) U0U_0 が充分大きいとき Kr01Kr_0\gg1 です。井戸の底に近い準位(E\lvert E\rvertU0U_0 に近い準位)では κk\kappa\gg k となり、接続条件 cotξ=κ/k\cot\xi=-\kappa/k\to-\infty から ξνπ\xi\to\nu\piν=1,2,3,\nu=1,2,3,\dots)に近づきます。これは外側で波動関数が急激に減衰し、実効的に R0(r0)0R_0(r_0)\simeq0 という無限井戸の境界条件になったことを意味します。このとき

EνU0+π22ν22mr02,ν=1,2,,  νKr0πE_\nu\simeq-U_0+\frac{\pi^2\hbar^2\nu^2}{2mr_0^2},\qquad \nu=1,2,\dots,\ \ \nu\ll\frac{Kr_0}{\pi}

です。一方、R0=Asin(kr)/rR_0=A\sin(kr)/r のゼロ点は kr=jπkr=j\pi、すなわち r=jπ/kr=j\pi/kj=1,2,j=1,2,\dots)にあり、0<r<r00<r<r_0 に入るのは jnj\le nnn 個です(ξ\xi が上の区間にあることを使いました)。外側の eκr/re^{-\kappa r}/r にゼロ点はありません。

したがって関係は次のようになります。負のエネルギー準位を下から数えて n=0,1,2,n=0,1,2,\dots と番号づけると、第 nn 準位の動径関数 R0(r)R_0(r)0<r<0<r<\infty にちょうど nn 個のゼロ点をもち、ゼロ点の数が 1 つ増えるごとに準位が 1 つ上がります。深い井戸の近似式で書けば ν=n+1\nu=n+1 として

EnU0+π222mr02(n+1)2E_n\simeq-U_0+\frac{\pi^2\hbar^2}{2mr_0^2}(n+1)^2

であり、エネルギーはゼロ点の数の 2 乗で増えていきます。負の準位の総数は ξKr0\xi\le Kr_0 から約 Kr0/πKr_0/\pi 個です。ゼロ点の数が準位の順番を与えるという性質は、1 次元 Schrödinger 方程式の振動定理そのものです。

(1) rr0r\le r_0 では U=α/r02U=-\alpha/r_0^2 が一定です。EEα/r02\alpha/r_0^2 に比べて無視すると、方程式は

χ+2mα2r02χ=0,qβr0,β2mα2\chi''+\frac{2m\alpha}{\hbar^2r_0^2}\chi=0,\qquad q\equiv\frac{\sqrt{\beta}}{r_0},\quad \beta\equiv\frac{2m\alpha}{\hbar^2}

となります(β\beta は無次元)。χ(0)=0\chi(0)=0 を満たす解は χ=Asinqr\chi=A\sin qr なので

R0(r)=Asin ⁣(βr/r0)r(rr0).R_0(r)=A\,\frac{\sin\!\left(\sqrt{\beta}\,r/r_0\right)}{r}\qquad(r\le r_0).

(2) R0raR_0\sim r^a

d2R0dr2+2rdR0dr+βr2R0=0\frac{d^2R_0}{dr^2}+\frac{2}{r}\frac{dR_0}{dr}+\frac{\beta}{r^2}R_0=0

に代入すると、a(a1)+2a+β=0a(a-1)+2a+\beta=0、すなわち指数方程式

a2+a+β=0,a±=1±14β2a^2+a+\beta=0,\qquad a_\pm=\frac{-1\pm\sqrt{1-4\beta}}{2}

を得ます。β<1/4\beta<1/4 なら a±a_\pm は 2 つの異なる実数(ともに負)、β>1/4\beta>1/4 なら

a±=12±i2μ,μ4β1a_\pm=-\frac12\pm\frac{i}{2}\mu,\qquad \mu\equiv\sqrt{4\beta-1}

と複素共役になります。一般解は R0=Cra++DraR_0=Cr^{a_+}+Dr^{a_-} で、β>1/4\beta>1/4 では

R0=r1/2[Pcos ⁣(μ2lnr)+Qsin ⁣(μ2lnr)]R_0=r^{-1/2}\Bigl[P\cos\!\left(\tfrac{\mu}{2}\ln r\right)+Q\sin\!\left(\tfrac{\mu}{2}\ln r\right)\Bigr]

と実形に書けます。lnr\ln r について振動する解であることが後で本質的になります。

(3) ρr/r0\rho\equiv r/r_0γβcotβ\gamma\equiv\sqrt{\beta}\cot\sqrt{\beta} とおきます。設問(1)の解の r=r0r=r_0 での値と対数微分は

R0(r0)=Asinβr0,dlnR0drr0=γ1r0R_0(r_0)=\frac{A\sin\sqrt\beta}{r_0},\qquad \left.\frac{d\ln R_0}{dr}\right|_{r_0}=\frac{\gamma-1}{r_0}

です。外側の一般解の 2 つの係数をこの 2 条件で決めます(全体の規格化は AA に含まれるので、比が定まります)。ν14β\nu\equiv\sqrt{1-4\beta} とすると

R0(r)=Asinβνr0[(γ+ν12)ρν12+(ν+12γ)ρν+12](rr0)R_0(r)=\frac{A\sin\sqrt\beta}{\nu\,r_0}\left[\left(\gamma+\frac{\nu-1}{2}\right)\rho^{\frac{\nu-1}{2}} +\left(\frac{\nu+1}{2}-\gamma\right)\rho^{-\frac{\nu+1}{2}}\right]\qquad(r\ge r_0)

となります。β>1/4\beta>1/4 の場合は ν=iμ\nu=i\mu として実形に書き直すのが見やすく、

R0(r)=Asinβr0ρ1/2[cos ⁣(μ2lnρ)+2γ1μsin ⁣(μ2lnρ)]R_0(r)=\frac{A\sin\sqrt\beta}{r_0}\,\rho^{-1/2} \left[\cos\!\left(\frac{\mu}{2}\ln\rho\right)+\frac{2\gamma-1}{\mu}\sin\!\left(\frac{\mu}{2}\ln\rho\right)\right]

すなわち

R0(r)=Asinβr01+(2γ1μ)2  (rr0)1/2cos ⁣(μ2lnrr0δ),tanδ=2γ1μR_0(r)=\frac{A\sin\sqrt\beta}{r_0}\sqrt{1+\left(\frac{2\gamma-1}{\mu}\right)^2}\; \left(\frac{r}{r_0}\right)^{-1/2}\cos\!\left(\frac{\mu}{2}\ln\frac{r}{r_0}-\delta\right), \qquad \tan\delta=\frac{2\gamma-1}{\mu}

です。ρ=1\rho=1 で両式が Asinβ/r0A\sin\sqrt\beta/r_0 を与え、対数微分も一致することは代入して確かめられます(数値的に β=0.1,0.2,1,3\beta=0.1,0.2,1,3 で外側の方程式を r0r_0 から積分した解と一致することを確認しました)。

(4) β>1/4\beta>1/4 では上の解は r1/2r^{-1/2} の包絡線をもち、lnr\ln r について周期 4π/μ4\pi/\mu で振動します。ゼロ点は

μ2lnrnr0δ=π2+nπ  rn=r0exp ⁣[2μ(δ+π2+nπ)]\frac{\mu}{2}\ln\frac{r_n}{r_0}-\delta=\frac{\pi}{2}+n\pi \ \Longrightarrow\ r_n=r_0\exp\!\left[\frac{2}{\mu}\left(\delta+\frac{\pi}{2}+n\pi\right)\right]

にあり、公比 e2π/μe^{2\pi/\mu} の等比数列をなします。したがって、外側の適当な固定した距離 LL までに含まれるゼロ点の数は

N(r0)μ2πlnLr0r00N(r_0)\simeq\frac{\mu}{2\pi}\ln\frac{L}{r_0}\xrightarrow[r_0\to0]{}\infty

と対数的に発散します。設問1(4)で見たように、s 波の動径関数のゼロ点の数はその準位より下にある束縛準位の数に等しい(振動定理)ので、r00r_0\to0 ではどんなに低いエネルギーを基準にとってもその下に無限個の準位が存在することになります。すなわち束縛準位は無限個現れ、エネルギーは下に有界でなくなり、基底状態のエネルギーは -\infty に落ちていきます。lnr\ln r についての周期性から、準位は En+1/En=e4π/μE_{n+1}/E_n=e^{-4\pi/\mu} の等比数列状に r0r_0 をスケールとして並びます。

物理的には、引力 α/r2-\alpha/r^2 が強すぎて(β>1/4\beta>1/4、すなわち α>2/8m\alpha>\hbar^2/8m)不確定性原理による運動エネルギーの増大 2/2mr2\sim\hbar^2/2mr^2 で支えきれなくなり、粒子は中心に落ち込みます。r0r_0 は落下を止める短距離カットオフの役割を果たしており、r00r_0\to0 の極限では基底状態が存在せず、量子力学の問題として不完全になります。逆に β<1/4\beta<1/4 では a±a_\pm がともに実数で解は lnρ\ln\rho について振動せず、ゼロ点は有限個にとどまるので、基底状態は r00r_0\to0 でも有限のエネルギーをもちます。

第2問 電磁波の境界条件と誘電体板の干渉透過

Section titled “第2問 電磁波の境界条件と誘電体板の干渉透過”

2 つの媒質 (I), (II) の境界面で電磁場が満たす条件

Et(I)Et(II)=0,Dn(I)Dn(II)=Q,Ht(I)Ht(II)=J,Bn(I)Bn(II)=0E_{\rm t}({\rm I})-E_{\rm t}({\rm II})=0,\quad D_{\rm n}({\rm I})-D_{\rm n}({\rm II})=Q,\quad H_{\rm t}({\rm I})-H_{\rm t}({\rm II})=J,\quad B_{\rm n}({\rm I})-B_{\rm n}({\rm II})=0

を出発点にします。添字 t, n は境界面に平行・垂直な成分、QQ は表面電荷密度、JJ は表面電流密度です。以下、法線単位ベクトル n\boldsymbol n は媒質 (II) から (I) へ向く向きにとります。後半では、真空側 x<0x<0 から yzyz 平面に垂直入射する yy 偏光の単色平面波

Ey=E0exp(2πiνt+ikx)E_y=E_0\exp(-2\pi i\nu t+ikx)

を用います。ω2πν\omega\equiv2\pi\nu と書きます。

Faraday の法則 ×E=B/t\nabla\times\boldsymbol E=-\partial\boldsymbol B/\partial t をとり、境界面をまたぐ細長い長方形の閉曲線 CC を考えます。境界面に平行な 2 辺の長さを \ell(方向 t^\hat{\boldsymbol t})、境界面を横切る 2 辺の長さを δ\delta とし、媒質 (I) 側の辺を +t^+\hat{\boldsymbol t}、媒質 (II) 側の辺を t^-\hat{\boldsymbol t} の向きに回るようにとります。ストークスの定理から

CEdl=S(×E)dS=ddtSBdS.\oint_C\boldsymbol E\cdot d\boldsymbol l=\int_S(\nabla\times\boldsymbol E)\cdot d\boldsymbol S =-\frac{d}{dt}\int_S\boldsymbol B\cdot d\boldsymbol S .

左辺は [Et(I)Et(II)]+O(δ)\bigl[E_{\rm t}({\rm I})-E_{\rm t}({\rm II})\bigr]\ell+O(\delta)、右辺は面積 δ\ell\delta に比例するので、B/t\partial\boldsymbol B/\partial t が有界であれば δ0\delta\to0 で消えます。よって

[Et(I)Et(II)]=0.\bigl[E_{\rm t}({\rm I})-E_{\rm t}({\rm II})\bigr]\ell=0 .

t^\hat{\boldsymbol t} は境界面内の任意方向にとれるので、電場の接線成分 2 成分がともに連続、すなわち n×(E(I)E(II))=0\boldsymbol n\times(\boldsymbol E({\rm I})-\boldsymbol E({\rm II}))=0 が成り立ちます。表面電荷や表面電流があっても B\boldsymbol B 自身は有界なので、この結論は変わりません。

D=ρ\nabla\cdot\boldsymbol D=\rhoρ\rho は真電荷密度)に、境界面をまたぐ薄い円筒(面積 SS、厚さ δ\delta)についてガウスの定理を適用します。

DdS=ρdV.\oint\boldsymbol D\cdot d\boldsymbol S=\int\rho\,dV .

左辺は上下の面から [Dn(I)Dn(II)]S\bigl[D_{\rm n}({\rm I})-D_{\rm n}({\rm II})\bigr]S、側面から O(δ)O(\delta) です。右辺は Sδ/2δ/2ρdζS\int_{-\delta/2}^{\delta/2}\rho\,d\zeta で、δ0\delta\to0 の極限でこれが有限に残る場合、その値が定義により表面電荷密度

Q=limδ0δ/2δ/2ρdζQ=\lim_{\delta\to0}\int_{-\delta/2}^{\delta/2}\rho\,d\zeta

です。したがって Dn(I)Dn(II)=QD_{\rm n}({\rm I})-D_{\rm n}({\rm II})=Q、すなわち n(D(I)D(II))=Q\boldsymbol n\cdot(\boldsymbol D({\rm I})-\boldsymbol D({\rm II}))=Q が成り立ちます。同じ議論を B=0\nabla\cdot\boldsymbol B=0 に適用すれば、磁気単極子がないので右辺が恒等的に 0 となり、式(4)が得られます。

完全導体では電気伝導度 σ\sigma\to\infty なので、有限の電流密度を保つために E=j/σ0\boldsymbol E=\boldsymbol j/\sigma\to0、すなわち内部で E=D=0\boldsymbol E=\boldsymbol D=0 です。さらに ×E=B/t=0\nabla\times\boldsymbol E=-\partial\boldsymbol B/\partial t=0 から B\boldsymbol B は時間に依らず、振動数 ν0\nu\neq0 の電磁波に対しては B=H=0\boldsymbol B=\boldsymbol H=0 です。よって媒質 (II) の内部で全ての場が消え、表面 SS での条件は

n×E(I)=0,nB(I)=0,nD(I)=Q,n×H(I)=J\boldsymbol n\times\boldsymbol E({\rm I})=0,\qquad \boldsymbol n\cdot\boldsymbol B({\rm I})=0,\qquad \boldsymbol n\cdot\boldsymbol D({\rm I})=Q,\qquad \boldsymbol n\times\boldsymbol H({\rm I})=\boldsymbol J

となります。言葉で言えば、導体表面では電場は面に垂直(接線成分ゼロ)、磁場は面に平行(法線成分ゼロ)でなければならず、電場の法線成分は表面電荷を、磁場の接線成分は表面電流を与えます。QQJ\boldsymbol J は独立な境界条件ではなく、外側の場から決まる従属量です。

x=0x=0Et=0E_{\rm t}=0 なので、反射波の電場は Eyr=E0exp(iωtikx)E_y^{\rm r}=-E_0\exp(-i\omega t-ikx) です。真空側の全電場は

Ey=E0(eikxeikx)eiωt=2iE0sin(kx)eiωtE_y=E_0\left(e^{ikx}-e^{-ikx}\right)e^{-i\omega t}=2iE_0\sin(kx)\,e^{-i\omega t}

で、たしかに x=0x=0 で消えます。平面波では B=(1/ω)k×E\boldsymbol B=(1/\omega)\boldsymbol k\times\boldsymbol E なので、+x+x 進行波は Bz=Ey/cB_z=E_y/cx-x 進行波は Bz=Ey/cB_z=-E_y/c です。よって

Bz=E0c(eikx+eikx)eiωt,Hz(0)=2E0μ0c=2E0ϵ0μ0.B_z=\frac{E_0}{c}\left(e^{ikx}+e^{-ikx}\right)e^{-i\omega t},\qquad H_z(0)=\frac{2E_0}{\mu_0c}=2E_0\sqrt{\frac{\epsilon_0}{\mu_0}} .

導体の外向き法線は n=x^\boldsymbol n=-\hat{\boldsymbol x} なので、J=n×H=(x^)×(Hzz^)=Hzy^\boldsymbol J=\boldsymbol n\times\boldsymbol H=(-\hat{\boldsymbol x})\times(H_z\hat{\boldsymbol z})=H_z\hat{\boldsymbol y} となり、

J=2ϵ0μ0E0e2πiνty^(実部は 2ϵ0/μ0E0cos(2πνt)y^).\boldsymbol J=2\sqrt{\frac{\epsilon_0}{\mu_0}}\,E_0\,e^{-2\pi i\nu t}\,\hat{\boldsymbol y} \quad\Bigl(\text{実部は }2\sqrt{\epsilon_0/\mu_0}\,E_0\cos(2\pi\nu t)\,\hat{\boldsymbol y}\Bigr).

答えは、振幅 2E0ϵ0/μ0=2E0/(μ0c)2E_0\sqrt{\epsilon_0/\mu_0}=2E_0/(\mu_0c) の交流表面電流で、向きは yy 方向、すなわち入射波の電場と平行(振動しながら ±y\pm y を往復する)です。単位は ϵ0/μ0×[V/m]=[A/m]\sqrt{\epsilon_0/\mu_0}\times[\mathrm{V/m}]=[\mathrm{A/m}] で表面電流密度の次元に合っています。この表面電流が反射波を放射していると見ることができ、その振幅が入射磁場の 2 倍になるのは、入射波と反射波の磁場が導体面で同位相で足し合わさるためです。

媒質 (I)(x<0x<0、誘電率 ϵ1\epsilon_1)から媒質 (II)(x>0x>0、誘電率 ϵ2\epsilon_2)への垂直入射です。電場は yy、磁場は zz 方向で、いずれも境界面に平行なので Dn=Bn=0D_{\rm n}=B_{\rm n}=0 となり、式(2)(Q=0Q=0)と式(4)は自動的に満たされます。使うのは式(1)と、誘電体には表面電流が流れないので J=0J=0 とした式(3)です。反射波・透過波の電場振幅を Er,EtE_{\rm r},E_{\rm t} とすると、平面波では H=ϵ/μ0EH=\sqrt{\epsilon/\mu_0}\,E(進行方向に応じて符号が変わる)なので

E0+Er=Et(1)ϵ1(E0Er)=ϵ2Et(3)\begin{aligned} E_0+E_{\rm r}&=E_{\rm t} &&\text{(1)}\\ \sqrt{\epsilon_1}\,(E_0-E_{\rm r})&=\sqrt{\epsilon_2}\,E_{\rm t} &&\text{(3)} \end{aligned}

です。これを解いて

rErE0=ϵ1ϵ2ϵ1+ϵ2,tEtE0=2ϵ1ϵ1+ϵ2.r\equiv\frac{E_{\rm r}}{E_0}=\frac{\sqrt{\epsilon_1}-\sqrt{\epsilon_2}}{\sqrt{\epsilon_1}+\sqrt{\epsilon_2}}, \qquad t\equiv\frac{E_{\rm t}}{E_0}=\frac{2\sqrt{\epsilon_1}}{\sqrt{\epsilon_1}+\sqrt{\epsilon_2}} .

これが答えです(問題文の定義どおり電場の振幅比)。t=1+rt=1+r が成り立つのは式(1)そのもので、ϵ2>ϵ1\epsilon_2>\epsilon_1 のとき r<0r<0、すなわち反射波の電場が反転することは光学の「密な媒質での反射で位相が π\pi 跳ぶ」に対応します。ϵ2=ϵ1\epsilon_2=\epsilon_1r=0, t=1r=0,\ t=1ϵ2\epsilon_2\to\infty(完全導体の極限)で r1, t0r\to-1,\ t\to0 となり、設問4と整合します。

厚さ LL、誘電率 ϵ1\epsilon_1 の板が真空中に置かれ、垂直入射します。屈折率を

nϵ1ϵ0,δnk0L=2πνnLc=2πνLμ0ϵ1n\equiv\sqrt{\frac{\epsilon_1}{\epsilon_0}},\qquad \delta\equiv nk_0L=\frac{2\pi\nu n L}{c}=2\pi\nu L\sqrt{\mu_0\epsilon_1}

と書きます(δ\delta は板を 1 回通過する間の位相)。真空から板への振幅反射率は r12=(1n)/(1+n)r_{12}=(1-n)/(1+n)、板から真空へは r21=r12r_{21}=-r_{12}、透過率は t12=2/(1+n)t_{12}=2/(1+n)t21=2n/(1+n)t_{21}=2n/(1+n) です。板の中での多重反射をすべて足すと

ttot=t12t21eiδ1r212e2iδ,Rr212=(n1n+1)2.t_{\rm tot}=\frac{t_{12}t_{21}e^{i\delta}}{1-r_{21}^2e^{2i\delta}},\qquad R\equiv r_{21}^2=\left(\frac{n-1}{n+1}\right)^2 .

t12t21=4n/(1+n)2=1Rt_{12}t_{21}=4n/(1+n)^2=1-R に注意すると

Tttot2=(1R)2(1R)2+4Rsin2δ=[1+(n21)24n2sin2δ]1.T\equiv\lvert t_{\rm tot}\rvert^2=\frac{(1-R)^2}{(1-R)^2+4R\sin^2\delta} =\left[1+\frac{(n^2-1)^2}{4n^2}\sin^2\delta\right]^{-1}.

入射強度(ポインティングベクトルの時間平均)は S0=12ϵ0/μ0E02S_0=\tfrac12\sqrt{\epsilon_0/\mu_0}\,E_0^2 なので、透過する電磁波の強度は

St=E022ϵ0μ0[1+(ϵ1ϵ0)24ϵ0ϵ1sin2 ⁣(2πνLμ0ϵ1)]1S_{\rm t}=\frac{E_0^2}{2}\sqrt{\frac{\epsilon_0}{\mu_0}} \left[1+\frac{(\epsilon_1-\epsilon_0)^2}{4\epsilon_0\epsilon_1} \sin^2\!\left(2\pi\nu L\sqrt{\mu_0\epsilon_1}\right)\right]^{-1}

です。(n21)2/4n2=(ϵ1ϵ0)2/(4ϵ0ϵ1)(n^2-1)^2/4n^2=(\epsilon_1-\epsilon_0)^2/(4\epsilon_0\epsilon_1) を使いました。この式は、両側の境界面に設問5の r,tr,t を課して 4 元連立方程式を解いた結果と厳密に一致し、T+Rtot=1T+R_{\rm tot}=1(エネルギー保存)も満たします(n=1.5,2,3n=1.5,2,3 で数値的に確認しました)。ϵ1=ϵ0\epsilon_1=\epsilon_0St=S0S_{\rm t}=S_0L0L\to0 でも StS0S_{\rm t}\to S_0 となる極限も正しいです。

TT が最大(=1=1)になるのは sinδ=0\sin\delta=0、すなわち

2πνLμ0ϵ1=mπ  L=m2νμ0ϵ1=mλ12,m=1,2,3,2\pi\nu L\sqrt{\mu_0\epsilon_1}=m\pi \ \Longrightarrow\ L=\frac{m}{2\nu\sqrt{\mu_0\epsilon_1}}=\frac{m\lambda_1}{2},\qquad m=1,2,3,\dots

です。ここで λ1=1/(νμ0ϵ1)\lambda_1=1/(\nu\sqrt{\mu_0\epsilon_1}) は板の中での波長です。答えは「板の厚さが媒質内波長の半整数倍、すなわち半波長の整数倍のとき」で、そのときの透過強度と入射強度の比は

StS0=T=1\frac{S_{\rm t}}{S_0}=T=1

すなわち 100 % です。誘電率 ϵ1\epsilon_1 の値によらず、反射が完全に消えます。

物理的な意味は次のとおりです。反射波は前面での反射と、板の中を往復して裏面から出てくる反射との重ね合わせです。前面の反射係数 r12r_{12} と裏面の r21r_{21} は符号が逆(位相差 π\pi)で、これに往復の位相 2δ=2mπ2\delta=2m\pi が加わると、2 つの反射波はちょうど逆位相になって打ち消し合います。反射がゼロならエネルギー保存から透過は 1 です。板は共振(ファブリ・ペロー共振器)状態にあり、内部に定在波が立っています。逆に LL を固定して振動数を変えると、TTΔν=1/(2Lμ0ϵ1)\Delta\nu=1/(2L\sqrt{\mu_0\epsilon_1}) ごとに 1 のピークを繰り返し、谷では Tmin=[1+(ϵ1ϵ0)2/4ϵ0ϵ1]1T_{\min}=[1+(\epsilon_1-\epsilon_0)^2/4\epsilon_0\epsilon_1]^{-1} まで落ちます。この周期的な透過特性が干渉フィルターの原理です。なお眼鏡の反射防止コーティングは、両側の媒質が空気とガラスで異なるため条件が変わり、膜厚 λ/4\lambda/4、膜の屈折率 nf=nairnglassn_{\rm f}=\sqrt{n_{\rm air}n_{\rm glass}} のときに 2 つの反射が打ち消します。原理は同じ「2 面からの反射の干渉による消滅」です。

第3問 ハイゼンベルグ・スピン系の磁化率

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大きさ 1/21/2 のスピンが交換相互作用 J>0J>0(反強磁性的)で結合した系を扱います。スピン演算子は \hbar を単位とする無次元量とし、JJ はエネルギーの次元をもつものとします。合成則 S1S2=12[S(S+1)S1(S1+1)S2(S2+1)]\vec S_1\cdot\vec S_2=\frac12\bigl[S(S+1)-S_1(S_1+1)-S_2(S_2+1)\bigr] を繰り返し使います。磁場中では gμBHStotz-g\mu_{\rm B}H S^z_{\rm tot} が加わり、g=2g=2 です。以下 β=1/kBT\beta=1/k_{\rm B}ThgμBHh\equiv g\mu_{\rm B}H と書きます。

S=S1+S2\vec S=\vec S_1+\vec S_2 とすると

S1S2=12[S(S+1)3434]=S(S+1)234.\vec S_1\cdot\vec S_2=\frac12\left[S(S+1)-\frac34-\frac34\right]=\frac{S(S+1)}{2}-\frac34 .

S=0S=0(一重項)では 3/4-3/4S=1S=1(三重項)では +1/4+1/4 です。よって固有値は

ES=0=34J  (1 重に縮退),ES=1=+14J  (3 重に縮退).E_{S=0}=-\frac{3}{4}J\ \ (1\ \text{重に縮退}),\qquad E_{S=1}=+\frac{1}{4}J\ \ (3\ \text{重に縮退}).

固有状態は

S=0,M=0=12(),1,+1=,1,0=12(+),1,1=.\begin{aligned} &\lvert S=0,M=0\rangle=\tfrac{1}{\sqrt2}\left(\lvert\uparrow\downarrow\rangle-\lvert\downarrow\uparrow\rangle\right), \\ &\lvert 1,+1\rangle=\lvert\uparrow\uparrow\rangle,\quad \lvert 1,0\rangle=\tfrac{1}{\sqrt2}\left(\lvert\uparrow\downarrow\rangle+\lvert\downarrow\uparrow\rangle\right),\quad \lvert 1,-1\rangle=\lvert\downarrow\downarrow\rangle . \end{aligned}

固有値の総和 34J+314J=0-\frac34J+3\cdot\frac14J=0Tr(S1S2)=0\operatorname{Tr}(\vec S_1\cdot\vec S_2)=0 と整合します。J>0J>0 なので基底状態は一重項です。

[S2,Sz]=0[\vec S^2,S^z]=0 なので磁場は固有状態を変えず、エネルギーだけをずらします。

E(S,M)=J[S(S+1)234]hM.E(S,M)=J\left[\frac{S(S+1)}{2}-\frac34\right]-hM .

分配関数は

Z=e3βJ/4+eβJ/4(eβh+1+eβh)=e3βJ/4+eβJ/4[1+2cosh(βgμBH)].Z=e^{3\beta J/4}+e^{-\beta J/4}\left(e^{\beta h}+1+e^{-\beta h}\right) =e^{3\beta J/4}+e^{-\beta J/4}\bigl[1+2\cosh(\beta g\mu_{\rm B}H)\bigr].

H=0H=0Z=e3βJ/4+3eβJ/4Z=e^{3\beta J/4}+3e^{-\beta J/4}TT\to\inftyZ4Z\to4(状態数)となり正しいです。

M=gμBSz=kBTlnZ/HM=g\mu_{\rm B}\langle S^z\rangle=k_{\rm B}T\,\partial\ln Z/\partial H から

M=2gμBeβJ/4sinh(βgμBH)Z=2gμBsinh(βgμBH)eβJ+1+2cosh(βgμBH).M=\frac{2g\mu_{\rm B}e^{-\beta J/4}\sinh(\beta g\mu_{\rm B}H)}{Z} =\frac{2g\mu_{\rm B}\sinh(\beta g\mu_{\rm B}H)}{e^{\beta J}+1+2\cosh(\beta g\mu_{\rm B}H)} .

H0H\to0sinh(βh)βh\sinh(\beta h)\to\beta hcosh1\cosh\to1 とすると

χ=limH0MH=2g2μB2kBT(3+eJ/kBT)=8μB2kBT(3+eJ/kBT)(g=2).\chi=\lim_{H\to0}\frac{M}{H}=\frac{2g^2\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T\left(3+e^{J/k_{\rm B}T}\right)} =\frac{8\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T\left(3+e^{J/k_{\rm B}T}\right)}\quad(g=2).

漸近形は次のようになります。kBTJk_{\rm B}T\gg J では eβJ1+βJe^{\beta J}\simeq1+\beta J より

χ2g2μB24kBT+J=g2μB22kB(T+J/4kB)g2μB22kBT=2μB2kBT\chi\simeq\frac{2g^2\mu_{\rm B}^2}{4k_{\rm B}T+J} =\frac{g^2\mu_{\rm B}^2}{2k_{\rm B}\left(T+J/4k_{\rm B}\right)} \longrightarrow\frac{g^2\mu_{\rm B}^2}{2k_{\rm B}T}=\frac{2\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T}

で、自由な 2 個のスピン 1/21/2 のキュリー則 2×g2μB2S(S+1)/3kBT2\times g^2\mu_{\rm B}^2S(S+1)/3k_{\rm B}T に一致します。補正はキュリー・ワイス形 χ1/(TΘ)\chi\propto1/(T-\Theta)Θ=J/4kB<0\Theta=-J/4k_{\rm B}<0、すなわち反強磁性的です。kBTJk_{\rm B}T\ll J では eβJe^{\beta J} が支配して

χ2g2μB2kBTeJ/kBT=8μB2kBTeJ/kBT\chi\simeq\frac{2g^2\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T}e^{-J/k_{\rm B}T}=\frac{8\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T}e^{-J/k_{\rm B}T}

と指数関数的に消えます。一重項基底状態は磁気モーメントを持たず、磁性を担う三重項までのギャップが ES=1ES=0=JE_{S=1}-E_{S=0}=J だからです。

図示すると、χ\chiT=0T=0 でゼロ、指数関数的に立ち上がり、kBTmax0.62Jk_{\rm B}T_{\max}\simeq0.62J(方程式 x1=3exx-1=3e^{-x} の解 x=J/kBT=1.60x=J/k_{\rm B}T=1.60 より)で幅の広い極大 χmax1.61μB2/J\chi_{\max}\simeq1.61\,\mu_{\rm B}^2/J をとり、その後 1/T1/T のキュリー則に漸近して単調に減少します。変曲点をもつ非単調な山型で、極大の位置がギャップ JJ の目安を与えます。

123450.62kBT / Jchipeak 1.61 muB^2 / JCurie 1/Texp(-J/kBT)

AS1+S3\vec A\equiv\vec S_1+\vec S_3BS2+S4\vec B\equiv\vec S_2+\vec S_4SA+B\vec S\equiv\vec A+\vec B とすると(図から 1 と 3、2 と 4 がそれぞれ対角の位置で、H\mathcal H は正方形の 4 本の辺の和になっています)

H=JAB=J2[S(S+1)A(A+1)B(B+1)].\mathcal H=J\vec A\cdot\vec B=\frac{J}{2}\bigl[S(S+1)-A(A+1)-B(B+1)\bigr].

A,BA,B はそれぞれ 0 または 1 をとり、SSAB\lvert A-B\rvert から A+BA+B までです。全 16 状態は次のように分類されます。

(A,B)(A,B)スピン量子数 SS縮退度エネルギー
(1,1)(1,1)012J-2J
(1,1)(1,1)13J-J
(0,0)(0,0)0100
(1,0)(1,0), (0,1)(0,1)1, 13+3=63+3=600
(1,1)(1,1)25+J+J

合計 1+3+1+6+5=16=241+3+1+6+5=16=2^4 で、エネルギーの総和 2J3J+0+5J=0-2J-3J+0+5J=0TrH=0\operatorname{Tr}\mathcal H=0 と合います(16 次元の直接対角化でこのスペクトルを数値的に確認しました)。J>0J>0 なので基底状態は E=2JE=-2J の非縮退な S=0S=0 状態、第一励起状態は E=JE=-JS=1S=1 三重項で、ギャップは JJ です。

一般に H0H\to0 での磁化率は、各多重項の MM2=S(S+1)(2S+1)/3\sum_M M^2=S(S+1)(2S+1)/3 を使って

χ=g2μB2βmultS(S+1)(2S+1)3eβEmult(2S+1)eβE=g2μB2β2eβJ+4+10eβJe2βJ+3eβJ+7+5eβJ\chi=g^2\mu_{\rm B}^2\beta\,\frac{\sum_{\rm mult}\frac{S(S+1)(2S+1)}{3}e^{-\beta E}}{\sum_{\rm mult}(2S+1)e^{-\beta E}} =g^2\mu_{\rm B}^2\beta\,\frac{2e^{\beta J}+4+10e^{-\beta J}}{e^{2\beta J}+3e^{\beta J}+7+5e^{-\beta J}}

と書けます(分子は E=JE=-J の三重項から 2、E=0E=0 の 2 つの三重項から 4、E=+JE=+JS=2S=2 から 10)。この式は 4 スピン系の厳密対角化による数値計算と一致します。

低温 kBTJk_{\rm B}T\ll J では基底の S=0S=0 状態と E=JE=-J の三重項だけが効いて

χ2g2μB2kBTeJ/kBT=8μB2kBTeJ/kBT0.\chi\simeq\frac{2g^2\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T}e^{-J/k_{\rm B}T}=\frac{8\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T}e^{-J/k_{\rm B}T}\longrightarrow0 .

理由は二量体と同じで、基底状態が非縮退な S=0S=0(非磁性)であり、磁気モーメントをもつ最低の状態(S=1S=1)までにスピンギャップ JJ があるため、磁化応答は eJ/kBTe^{-J/k_{\rm B}T} で凍結します。指数の前の係数まで二量体と同じになるのは、低温で効くのが「非縮退一重項+三重項、ギャップ JJ」という同じ構造だからです。

高温 kBTJk_{\rm B}T\gg J では βJ\beta J で展開して

χg2μB2β(1βJ2)g2μB2kB(T+J/2kB)g2μB2kBT=4μB2kBT\chi\simeq g^2\mu_{\rm B}^2\beta\left(1-\frac{\beta J}{2}\right) \simeq\frac{g^2\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}\left(T+J/2k_{\rm B}\right)} \longrightarrow\frac{g^2\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T}=\frac{4\mu_{\rm B}^2}{k_{\rm B}T}

です。理由は、kBTJk_{\rm B}T\gg J では相互作用が無視でき、4 個の独立なスピン 1/21/2 のキュリー則 4×g2μB2S(S+1)/3kBT4\times g^2\mu_{\rm B}^2S(S+1)/3k_{\rm B}T になるからです。1 次補正はキュリー・ワイス温度 Θ=J/2kB\Theta=-J/2k_{\rm B} を与え、これは平均場の公式 Θ=zJS(S+1)/3kB\Theta=-zJS(S+1)/3k_{\rm B} に最近接数 z=2z=2S=1/2S=1/2 を入れた値と一致します(二量体の z=1z=1 では Θ=J/4kB\Theta=-J/4k_{\rm B} で設問3と整合)。極大は kBT0.78Jk_{\rm B}T\simeq0.78Jχmax2.23μB2/J\chi_{\max}\simeq2.23\,\mu_{\rm B}^2/J です。

第4問 同種粒子の散乱と原子核反応

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重心系で粒子 a と b が角度 θ\theta に散乱する実験です。運動は非相対論的に扱い、質量数 AA の原子核の半径を r=1.2A1/3×1015mr=1.2A^{1/3}\times10^{-15}\,\mathrm{m}、質量を MAc2=A×1000MeVM_Ac^2=A\times1000\,\mathrm{MeV} と近似します。c=200×1015MeVm\hbar c=200\times10^{-15}\,\mathrm{MeV\,m}e2/4πϵ0c=1/137e^2/4\pi\epsilon_0\hbar c=1/137121/3=2.312^{1/3}=2.3131/3=2.413^{1/3}=2.4 を使います。

(1) 異種粒子の場合は交換の対称化が不要で、検出器が粒子 a を角度 θ\theta に捉える微分断面積は

dσdΩ=f(θ)2.\frac{d\sigma}{d\Omega}=\lvert f(\theta)\rvert^2 .

(検出器が a と b を区別できない場合は、b が θ\theta に来る寄与を非干渉的に加えて f(θ)2+f(πθ)2\lvert f(\theta)\rvert^2+\lvert f'(\pi-\theta)\rvert^2 となりますが、干渉項は現れません。)

(2) 同種のスピン 0 ボソンでは、2 体の波動関数が座標交換について対称でなければなりません。座標交換は重心系で θπθ\theta\to\pi-\theta に対応するので、振幅を対称化して

dσdΩ=f(θ)+f(πθ)2.\frac{d\sigma}{d\Omega}=\bigl\lvert f(\theta)+f(\pi-\theta)\bigr\rvert^2 .

(3) 同種のスピン 1/21/2 フェルミオンでは、全波動関数が反対称でなければならず、スピン一重項(反対称、統計的重み 1/41/4)は空間対称、スピン三重項(対称、重み 3/43/4)は空間反対称と組みます。ビームも標的も無偏極なら

dσdΩ=14f(θ)+f(πθ)2+34f(θ)f(πθ)2=f(θ)2+f(πθ)2Re[f(θ)f(πθ)].\frac{d\sigma}{d\Omega}=\frac14\bigl\lvert f(\theta)+f(\pi-\theta)\bigr\rvert^2 +\frac34\bigl\lvert f(\theta)-f(\pi-\theta)\bigr\rvert^2 =\lvert f(\theta)\rvert^2+\lvert f(\pi-\theta)\rvert^2 -\operatorname{Re}\bigl[f^*(\theta)f(\pi-\theta)\bigr].

干渉項の係数がボソンの場合の 1/2-1/2 倍になっているのが要点です。θ=π/2\theta=\pi/2 では f(θ)=f(πθ)ff(\theta)=f(\pi-\theta)\equiv f なので、ボソンは 4f24\lvert f\rvert^2、フェルミオンは f2\lvert f\rvert^2、干渉を無視した和は 2f22\lvert f\rvert^2 です。同種ボソンは 2 倍に増強され、同種フェルミオンは 2 分の 1 に抑制されます。

(1) 12^{12}C(Mc2=12000MeVMc^2=12000\,\mathrm{MeV})のビームを静止標的に当てるので、重心系の運動エネルギーは

T=MtargetMbeam+MtargetElab=102=5 MeV.T=\frac{M_{\rm target}}{M_{\rm beam}+M_{\rm target}}E_{\rm lab}=\frac{10}{2}=5\ \mathrm{MeV}.

換算質量 μc2=Mc2/2=6000MeV\mu c^2=Mc^2/2=6000\,\mathrm{MeV} を使って相対運動の運動量は

pc=2μc2T=2×6000×5=245 MeV,pc=\sqrt{2\mu c^2\,T}=\sqrt{2\times6000\times5}=245\ \mathrm{MeV},

したがって ドブロイ波長は

λ=hp=2πcpc=2π×200×1015245=5.1×1015 m\lambda=\frac{h}{p}=\frac{2\pi\hbar c}{pc}=\frac{2\pi\times200\times10^{-15}}{245} =5.1\times10^{-15}\ \mathrm{m}

です(換算波長は /p=0.82×1015m\hbar/p=0.82\times10^{-15}\,\mathrm{m})。v/c=pc/Mc2=0.020v/c=pc/Mc^2=0.020 なので非相対論的扱いは妥当です。答えは T=5 MeVT=5\ \mathrm{MeV}λ=5.1×1015 m\lambda=5.1\times10^{-15}\ \mathrm{m}

(2) R=1.2×121/3×1015=1.2×2.3×1015=2.76×1015mR=1.2\times12^{1/3}\times10^{-15}=1.2\times2.3\times10^{-15}=2.76\times10^{-15}\,\mathrm{m} なので、接触距離 2R=5.52×1015m2R=5.52\times10^{-15}\,\mathrm{m} でのクーロンエネルギーは

VC=Z2e24πϵ0(2R)=36137c2R=0.263×200×10155.52×1015=9.5 MeV.V_C=\frac{Z^2e^2}{4\pi\epsilon_0(2R)}=\frac{36}{137}\cdot\frac{\hbar c}{2R} =0.263\times\frac{200\times10^{-15}}{5.52\times10^{-15}}=9.5\ \mathrm{MeV}.

VC=9.5MeV>T=5MeVV_C=9.5\,\mathrm{MeV}>T=5\,\mathrm{MeV} が確かめられました。2 つの核は古典的には接触できず、最近接距離は b=Z2e2/4πϵ0T=10.5×1015mb=Z^2e^2/4\pi\epsilon_0T=10.5\times10^{-15}\,\mathrm{m}(正面衝突の場合)で核半径の和の約 2 倍です。したがって核力は効かず、散乱はもっぱらクーロン力(ラザフォード散乱)で起きます。

(3) 図 A は 00^\circ から 180180^\circ まで単調に減少し、9090^\circ に関する対称性も振動もありません。図 B と C は 9090^\circ について左右対称で振動構造をもちます。9090^\circ について対称になるのは、同種粒子の対称化によって θ\thetaπθ\pi-\theta の振幅が組み合わさるからです。したがって

図 A は 12C+13C^{12}\mathrm{C}+^{13}\mathrm{C} です。異種粒子なので交換対称化がなく、ラザフォード断面積 1/sin4(θ/2)\propto1/\sin^4(\theta/2) の単調減少がそのまま見えます。

図 B は 12C+12C^{12}\mathrm{C}+^{12}\mathrm{C} です。9090^\circ でちょうど極大となり、その両側に断面積が 1 桁以上落ち込む鋭い極小が並んでいます。同種スピン 0 ボソンの f(θ)+f(πθ)2\lvert f(\theta)+f(\pi-\theta)\rvert^2 では、θ=90\theta=90^\circ で 2 つの振幅が同位相になって完全な強め合い(4f24\lvert f\rvert^2)を与え、逆に位相が π\pi ずれる角度では完全な打ち消しが起こって断面積が 0 まで落ちます。図 B の底なしの極小がこの完全消滅に対応します。

図 C は 13C+13C^{13}\mathrm{C}+^{13}\mathrm{C} です。9090^\circ が極小になっており、しかも振動の振幅(山と谷の比)が図 B よりずっと小さく、断面積がゼロまで落ちません。無偏極スピン 1/21/2 フェルミオンでは干渉項の係数が 1-1(ボソンは +2+2)で符号も逆なので、9090^\circ は極小になり、断面積は f12+f22\lvert f_1\rvert^2+\lvert f_2\rvert^2 を中心に ±f1f2\pm\lvert f_1\rvert\lvert f_2\rvert の範囲でしか振動できず、決してゼロになりません。この 2 点が図 C の特徴に合致します。

なお振動の本数は、クーロン散乱のゾンマーフェルト因子 η=Z2e2/4πϵ0vrel=6.4\eta=Z^2e^2/4\pi\epsilon_0\hbar v_{\rm rel}=6.4 が与える位相 ηlntan2(θ/2)\eta\ln\tan^2(\theta/2) から 6060^\circ から 120120^\circ の間で約 2 回強と見積もられ、図の構造とも整合します。

(1) Eγ=440keV=0.440MeVE_\gamma=440\,\mathrm{keV}=0.440\,\mathrm{MeV} なので

λ=hcEγ=2πcEγ=2π×200×10150.440=2.9×1012 m.\lambda=\frac{hc}{E_\gamma}=\frac{2\pi\hbar c}{E_\gamma}=\frac{2\pi\times200\times10^{-15}}{0.440} =2.9\times10^{-12}\ \mathrm{m}.

答えは λ2.9×1012m\lambda\simeq2.9\times10^{-12}\,\mathrm{m}(2.9 pm)です。

(2) 平均寿命 τ=1.1×1012s\tau=1.1\times10^{-12}\,\mathrm{s} の準位の自然幅は Γ=/τ\Gamma=\hbar/\tau です。=c/c=200×1015/(3×108)=6.7×1022MeVs\hbar=\hbar c/c=200\times10^{-15}/(3\times10^8)=6.7\times10^{-22}\,\mathrm{MeV\,s} なので

Γ=6.7×10221.1×1012=6.1×1010 MeV=6×104 eV.\Gamma=\frac{6.7\times10^{-22}}{1.1\times10^{-12}}=6.1\times10^{-10}\ \mathrm{MeV} =6\times10^{-4}\ \mathrm{eV}.

答えは Γ6×104eV\Gamma\simeq6\times10^{-4}\,\mathrm{eV}(約 0.6 meV)で、Γ/Eγ109\Gamma/E_\gamma\sim10^{-9} ときわめて鋭い準位です。

(3) 設問2(2)で見たように、重心系エネルギー 5 MeV はクーロン障壁 9.5 MeV より低く、2 つの核が核力の及ぶ距離まで近づくにはクーロン障壁をトンネルしなければなりません。WKB 近似での透過確率は

P=exp[4η(arccosxx(1x))],x=2Rb=TVC=0.53,  η=6.4P=\exp\left[-4\eta\left(\arccos\sqrt{x}-\sqrt{x(1-x)}\right)\right],\qquad x=\frac{2R}{b}=\frac{T}{V_C}=0.53,\ \ \eta=6.4

Pe6.7103P\simeq e^{-6.7}\simeq10^{-3} です。さらにトンネルして複合核ができても、それが陽子を放出して 23^{23}Na になる分岐比は小さく、出ていく陽子自身もクーロン障壁を越えねばなりません。これらが重なって核反応の確率はクーロン散乱に比べて非常に小さくなります。

(4) Q=0Q=0 なので終状態の重心系運動エネルギーの和は始状態と同じ T=5MeVT=5\,\mathrm{MeV} です。まず重心の速度は、実験室系の全運動量 plabc=2×12000×10=490MeVp_{\rm lab}c=\sqrt{2\times12000\times10}=490\,\mathrm{MeV}、全質量 24000MeV/c224000\,\mathrm{MeV}/c^2 から

vcmc=49024000=0.0204.\frac{v_{\rm cm}}{c}=\frac{490}{24000}=0.0204 .

重心系での 23^{23}Na^*pp の換算質量は μc2=23000×1000/24000=958MeV\mu'c^2=23000\times1000/24000=958\,\mathrm{MeV} なので、それぞれの運動量は

pc=2μc2T=2×958×5=97.9 MeV,vNac=97.923000=0.00426.p'c=\sqrt{2\mu'c^2T}=\sqrt{2\times958\times5}=97.9\ \mathrm{MeV},\qquad \frac{v'_{\rm Na}}{c}=\frac{97.9}{23000}=0.00426 .

実験室系での速度は 23^{23}Na^* が重心系で前方に出たとき最大となり

v=vcm+vNa=(0.0204+0.0043)c=0.0247c=7.4×106 m/s.v=v_{\rm cm}+v'_{\rm Na}=(0.0204+0.0043)c=0.0247c=7.4\times10^{6}\ \mathrm{m/s}.

答えは vmax7.4×106m/sv_{\max}\simeq7.4\times10^{6}\,\mathrm{m/s} です。vcm>vNav_{\rm cm}>v'_{\rm Na} なので、23^{23}Na^* は必ず前方(ビーム方向)に進みます。

(5) 検出器はビームの進行方向に置かれているので、飛行中に崩壊した核からのガンマ線はドップラー効果で青方偏移します。速度 vv で検出器に向かって進む核が出すガンマ線のエネルギーは Eγ(1+v/c)E_\gamma(1+v/c)v/c1v/c\ll1 の 1 次まで)です。最大は前方最大速度のときで

Emax=440×(1+0.0247)=451 keV.E_{\max}=440\times(1+0.0247)=451\ \mathrm{keV}.

一方、平均寿命 1.1×1012s1.1\times10^{-12}\,\mathrm{s} は減速・停止に要する時間 1012s\sim10^{-12}\,\mathrm{s} と同程度なので、かなりの割合の核は標的中で静止してから崩壊し、偏移のない 440 keV を出します。したがって

Emin=440 keV.E_{\min}=440\ \mathrm{keV}.

答えは最大 451 keV、最小 440 keV です。飛行中に崩壊するものだけを考えても、重心系で後方に出た核の速度が最小 (vcmvNa)=0.0162c (v_{\rm cm}-v'_{\rm Na})=0.0162c なので 447 keV より下には行かず、440 keV は停止後の崩壊が担います。なお核が反跳することによる後退エネルギー Eγ2/2Mc2=4eVE_\gamma^2/2Mc^2=4\,\mathrm{eV} はこの精度では無視できます。

(6) 主なものは、光電効果(原子に束縛された電子を叩き出し、光子は消える。低エネルギーで支配的で断面積は Z5Z^5 程度に強く依存)、コンプトン散乱(自由電子に近い電子との非弾性散乱で光子はエネルギーを失って方向を変える)、電子対生成(原子核の場の中で e+ee^+e^- を作る。閾値 2mec2=1.022MeV2m_ec^2=1.022\,\mathrm{MeV})の 3 つです。これに加えて、束縛電子による弾性散乱であるレイリー散乱(トムソン散乱)、さらに高エネルギーでは光核反応(巨大共鳴による中性子放出など)があります。440 keV では電子対生成は起こらず、光電効果とコンプトン散乱が主役です。

(7) 横軸をパルス波高(吸収エネルギー)、縦軸を計数として、期待されるスペクトルは次の構造をもちます。

440 keV に全エネルギー吸収ピーク(光電ピーク)が立ちます。光電効果でガンマ線の全エネルギーが結晶に落ちた事象、およびコンプトン散乱を何回か繰り返した末に光電吸収された事象が寄与します。幅は蛍光光子数と光電子数の統計揺らぎで決まるガウス形です。

0 から 278 keV までなだらかな連続分布(コンプトン連続部)が広がり、278 keV に段(コンプトンエッジ)ができます。これは結晶内で 1 回コンプトン散乱した後、散乱光子が結晶外へ逃げた事象です。エッジの位置は 180180^\circ 散乱に対応し

EC=Eγ2Eγ/mec21+2Eγ/mec2=0.440×1.722.72=278 keVE_{\rm C}=E_\gamma\frac{2E_\gamma/m_ec^2}{1+2E_\gamma/m_ec^2}=0.440\times\frac{1.72}{2.72}=278\ \mathrm{keV}

です。

160 keV 付近に後方散乱ピークが出ます。検出器の周囲(遮蔽体や試料)で 180180^\circ 近くに散乱された光子が入射したもので、440278=162keV440-278=162\,\mathrm{keV} に対応します。

411 keV 付近に小さなヨウ素 K X 線エスケープピークが出ることがあります。結晶表面近くで光電吸収された際、ヨウ素の特性 K X 線(約 29 keV)が逃げた事象で、44029=411keV440-29=411\,\mathrm{keV} です。

30 keV 付近にヨウ素の特性 X 線のピーク、遮蔽に鉛を使えば 75〜85 keV 付近に鉛の K X 線のピークが現れます。

440 keV は 2mec22m_ec^2 より低いので、511 keV の消滅ガンマ線ピークや対生成に伴うシングル・ダブルエスケープピークは現れません。この「消滅ピークがない」ことも定性的なスペクトルの特徴です。

第5問 X線回折による結晶構造解析

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問題では結晶学の慣用系(2π2\pi を含まない定義)が使われています。すなわち基本ベクトル ai\boldsymbol a_i と逆格子基本ベクトル bj\boldsymbol b_jaibj=δij\boldsymbol a_i\cdot\boldsymbol b_j=\delta_{ij} を満たし、逆格子ベクトル g=g1b1+g2b2+g3b3\boldsymbol g=g_1\boldsymbol b_1+g_2\boldsymbol b_2+g_3\boldsymbol b_3、面間隔 d=1/gd=1/\lvert\boldsymbol g\rvert、波数ベクトルの大きさ k=1/λ\lvert\boldsymbol k\rvert=1/\lambda、構造因子 F(g)=ifi(g)exp(2πigri)F(\boldsymbol g)=\sum_i f_i(\boldsymbol g)\exp(2\pi i\,\boldsymbol g\cdot\boldsymbol r_i) です。回折条件はラウエ条件 kk0=g\boldsymbol k-\boldsymbol k_0=\boldsymbol g です。

ラウエ法は、静止させた単結晶に白色X線(連続スペクトル)を当て、透過または反射した回折斑点を写真に記録する方法です。目的は単結晶の方位(結晶軸の向き)の決定と、斑点配置の対称性から結晶の対称性を調べることです。波長が連続的に含まれているので、どの逆格子点についても k=k0=1/λ\lvert\boldsymbol k\rvert=\lvert\boldsymbol k_0\rvert=1/\lambda とラウエ条件を同時に満たす λ\lambda が自動的に選ばれ、結晶を動かさずに多数の斑点が一度に得られます。逆に各斑点の波長が違うので、格子定数を精度よく決めるのには向きません。

デバイ・シェラー法は、粉末(ランダムな向きの微結晶の集まり)または多結晶試料に単色(特性)X線を当て、入射方向を軸とする円錐状に出る回折線(デバイ環)を記録する方法です。目的は格子定数の決定と結晶構造の同定です。波長が固定なので単結晶では偶然にしか条件が満たされませんが、粉末ならあらゆる方位の微結晶が含まれるため、各面間隔 dd に対してブラッグ条件を満たす向きの結晶が必ず存在します。環の半径から θB\theta_B、したがって dd が求まり、dd の系列から格子型と格子定数が決まります。

まとめると、目的は「方位・対称性」対「格子定数・構造同定」、X線は「白色」対「単色」、試料は「静止した単結晶」対「粉末・多結晶」という対比になります。

ラウエ条件 kk0=g\boldsymbol k-\boldsymbol k_0=\boldsymbol g の両辺を 2 乗します。弾性散乱では k=k0=1/λ\lvert\boldsymbol k\rvert=\lvert\boldsymbol k_0\rvert=1/\lambda なので、k\boldsymbol kk0\boldsymbol k_0 のなす角(散乱角)を 2θ2\theta とおくと

g2=k2+k022kk0=2λ2(1cos2θ)=4sin2θλ2,\lvert\boldsymbol g\rvert^2=\lvert\boldsymbol k\rvert^2+\lvert\boldsymbol k_0\rvert^2-2\boldsymbol k\cdot\boldsymbol k_0 =\frac{2}{\lambda^2}\left(1-\cos2\theta\right)=\frac{4\sin^2\theta}{\lambda^2},

すなわち

g=2sinθλ.\lvert\boldsymbol g\rvert=\frac{2\sin\theta}{\lambda}.

一方 k=k0+g\boldsymbol k=\boldsymbol k_0+\boldsymbol gk=k0\lvert\boldsymbol k\rvert=\lvert\boldsymbol k_0\rvert から g(k+k0)=0\boldsymbol g\cdot(\boldsymbol k+\boldsymbol k_0)=0 となり、g\boldsymbol gk\boldsymbol kk0\boldsymbol k_0 の二等分方向に垂直です。g\boldsymbol g は格子面に垂直なので、これは入射線と反射線が格子面に対して等しい角 θ\theta をなすこと、つまり格子面での鏡面反射になっていることを意味します。

いま g\boldsymbol g が、互いに素なミラー指数をもつ最小の逆格子ベクトル g0\boldsymbol g_0g0=1/d\lvert\boldsymbol g_0\rvert=1/d)の nn 倍、g=ng0\boldsymbol g=n\boldsymbol g_0 であるとすると g=n/d\lvert\boldsymbol g\rvert=n/d なので

nd=2sinθλ  2dsinθ=nλ.\frac{n}{d}=\frac{2\sin\theta}{\lambda} \ \Longrightarrow\ 2d\sin\theta=n\lambda .

これがブラッグの条件です。nn は反射の次数を与えます。

図のように立方晶の慣用単位胞をとります。g=h2+k2+l2/a\lvert\boldsymbol g\rvert=\sqrt{h^2+k^2+l^2}/a なので

sinθB=λg2=λ2ah2+k2+l2\sin\theta_B=\frac{\lambda\lvert\boldsymbol g\rvert}{2}=\frac{\lambda}{2a}\sqrt{h^2+k^2+l^2}

となり、ブラッグ角の小さい順は Nh2+k2+l2N\equiv h^2+k^2+l^2 の小さい順です。

bcc は単位胞に (0,0,0)(0,0,0)(12,12,12)(\frac12,\frac12,\frac12) の 2 原子があるので

F=f[1+eiπ(h+k+l)]=f[1+(1)h+k+l]F=f\left[1+e^{i\pi(h+k+l)}\right]=f\left[1+(-1)^{h+k+l}\right]

で、h+k+lh+k+l が偶数のときだけ F=2f0F=2f\neq0 です。許される反射を NN の小さい順に並べると (110)(110)N=2N=2(200)(200)N=4N=4(211)(211)N=6N=6。答えは (110)(110), (200)(200), (211)(211) です。

fcc は (0,0,0),(12,12,0),(12,0,12),(0,12,12)(0,0,0),(\frac12,\frac12,0),(\frac12,0,\frac12),(0,\frac12,\frac12) の 4 原子で

F=f[1+eiπ(h+k)+eiπ(h+l)+eiπ(k+l)]={4fh,k,l がすべて偶数またはすべて奇数0それ以外F=f\left[1+e^{i\pi(h+k)}+e^{i\pi(h+l)}+e^{i\pi(k+l)}\right] =\begin{cases}4f & h,k,l\ \text{がすべて偶数またはすべて奇数}\\ 0 & \text{それ以外}\end{cases}

です。NN の小さい順に (111)(111)N=3N=3(200)(200)N=4N=4(220)(220)N=8N=8。答えは (111)(111), (200)(200), (220)(220) です((110)(110) は指数の偶奇が混じるので消滅します)。

sinθBN\sin\theta_B\propto\sqrt N なので、sin2θB\sin^2\theta_B を最小のもので割った比が NN の比になります。表の数値からこれを計算すると

試料A: 1:2.01:3.00:4.001:2.01:3.00:4.00、すなわち N=2,4,6,8N=2,4,6,8。これは bcc の許容反射 (110),(200),(211),(220)(110),(200),(211),(220) の系列です。

試料B: 1:1.33:2.67:3.681:1.33:2.67:3.68、すなわち N=3,4,8,11N=3,4,8,11。これは fcc の許容反射 (111),(200),(220),(311)(111),(200),(220),(311) の系列です。

問題文で銅は fcc、鉄は bcc とされているので、試料Aは鉄です。

格子定数でも確かめられます。a=λN/(2sinθB)a=\lambda\sqrt N/(2\sin\theta_B)λ=0.71A˚\lambda=0.71\,\text{Å} を入れると、試料A の第 1 線(N=2N=2)から

a=0.71×22×0.175=2.87 A˚a=\frac{0.71\times\sqrt2}{2\times0.175}=2.87\ \text{Å}

で bcc 鉄の 2.87A˚2.87\,\text{Å} に一致し、試料B の第 1 線(N=3N=3)から

a=0.71×32×0.170=3.62 A˚a=\frac{0.71\times\sqrt3}{2\times0.170}=3.62\ \text{Å}

で fcc 銅の 3.62A˚3.62\,\text{Å} に一致します。答えは「試料Aは鉄」です。

岩塩型構造は、Na+^+ の fcc 副格子と Cl^- の fcc 副格子が立方軸方向に a/2a/2 だけずれて重なったものです。Na を原点、Cl を (12,0,0)(\frac12,0,0) にとると、単位胞(4 式単位)の構造因子は

F(hkl)=4[fNa+fCleiπ(h+k+l)]={4(fNa+fCl)h,k,l がすべて偶数4(fNafCl)h,k,l がすべて奇数0それ以外F(hkl)=4\left[f_{\rm Na}+f_{\rm Cl}\,e^{i\pi(h+k+l)}\right] =\begin{cases} 4\left(f_{\rm Na}+f_{\rm Cl}\right) & h,k,l\ \text{がすべて偶数}\\[2pt] 4\left(f_{\rm Na}-f_{\rm Cl}\right) & h,k,l\ \text{がすべて奇数}\\[2pt] 0 & \text{それ以外} \end{cases}

となります。fcc の消滅則により指数の偶奇が混じる反射は消え、残る反射のうち「全偶数」では 2 種のイオンの散乱が同位相で足し合わさり、「全奇数」では逆位相で引き算になります。

a=5.64A˚a=5.64\,\text{Å}、Cu Kα\alphaλ=1.54A˚\lambda=1.54\,\text{Å}2θ=2arcsin(λN/2a)2\theta=2\arcsin(\lambda\sqrt N/2a) を計算すると、(111)(111)2727^\circ(200)(200)3232^\circ(220)(220)4545^\circ(311)(311)5454^\circ(222)(222)5757^\circ となり、図のピーク 1〜5 はこの順に対応します。すなわちピーク 1 と 4 は (111)(111)(311)(311) で全奇数、ピーク 2, 3, 5 は (200),(220),(222)(200),(220),(222) で全偶数です。

強度は F2\lvert F\rvert^2 に比例します。Na+^+ は 10 個、Cl^- は 18 個の電子をもつので、小角では fNa10f_{\rm Na}\simeq10fCl18f_{\rm Cl}\simeq18 程度で、和は 28、差は 8 です。したがって

I全奇数I全偶数(fClfNafCl+fNa)2(828)20.08\frac{I_{\text{全奇数}}}{I_{\text{全偶数}}}\sim\left(\frac{f_{\rm Cl}-f_{\rm Na}}{f_{\rm Cl}+f_{\rm Na}}\right)^2 \sim\left(\frac{8}{28}\right)^2\simeq0.08

となり、ピーク 1, 4 はピーク 2, 3, 5 の 1 割程度にまで落ちます。これが観測された強度分布の理由です。もし正負イオンの散乱因子が完全に等しければ全奇数反射は消滅し、格子定数 a/2a/2 の単純な fcc(副格子)だけが見えることになります。逆に言えば、(111)(111)(311)(311) の弱いピークの存在が 2 種類のイオンの区別を反映しており、KCl(K+^+ と Cl^- はともに 18 電子)ではこれらがほとんど完全に消えることが知られています。

第6問 レーザー干渉計による重力加速度の絶対測定

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マイケルソン型干渉計の一方の腕に実験室固定のコーナーリフレクター MfM_f、他方に自由落下するコーナーリフレクター MdM_d(質量 100 g、断面積 10cm210\,\mathrm{cm^2})を置き、光検出器で干渉縞の通過を数えて重力加速度 gg を絶対測定する装置です。コーナーリフレクターは 3 枚の平面鏡を互いに直交させたものです。

コーナーリフレクターの頂点を原点にとり、3 枚の鏡面を座標平面(法線 x^,y^,z^\hat{\boldsymbol x},\hat{\boldsymbol y},\hat{\boldsymbol z})に一致させます。法線 n^\hat{\boldsymbol n} の平面鏡での反射は、光線の方向ベクトルを

k  k2(kn^)n^\boldsymbol k\ \longmapsto\ \boldsymbol k-2(\boldsymbol k\cdot\hat{\boldsymbol n})\hat{\boldsymbol n}

と写します。これは n^\hat{\boldsymbol n} 方向の成分だけを反転し、他の 2 成分を変えません。したがって法線 x^\hat{\boldsymbol x} の鏡は kxk_x のみ、y^\hat{\boldsymbol y} の鏡は kyk_y のみ、z^\hat{\boldsymbol z} の鏡は kzk_z のみを反転します。3 枚すべてに 1 回ずつ当たる光線(図2のように内側に入った光線)では、順序によらず

(kx,ky,kz)  (kx,ky,kz)=k(k_x,k_y,k_z)\ \longmapsto\ (-k_x,-k_y,-k_z)=-\boldsymbol k

となります。よって射出光線は入射光線と逆平行、すなわち入射方向と平行に戻ります。

さらに、この 3 回の鏡映の合成は頂点を中心とする点反転 rr\boldsymbol r\to-\boldsymbol r そのものです。したがって戻る光線は入射光線の点反転像であり、入射光の波面(平面)から戻ってきた波面までの光路長は、頂点からその平面までの距離 dd の 2 倍 2d2d で、光線がリフレクターのどこに入ったかにも、リフレクター自身の(小さな)傾きにもよりません。干渉計が測るのは頂点の位置だけになるので、落下中に MdM_d が回転しても測定値が乱れません。これがコーナーリフレクターを使う理由です。

干渉計の光路差は MdM_d の変位 zz の 2 倍だけ変化するので、zzλ/2\lambda/2 変わるごとに信号は 1 周期進みます。図3の t1,t2,t3t_1,t_2,t_3 は信号が中央線を同じ向き(下向き)に切る時刻を順に並べたもので、隣り合う 2 つの間で信号はちょうど 1 周期進みます。よって位置を zz とすると

z2z1=z3z2=λ2.z_2-z_1=z_3-z_2=\frac{\lambda}{2}.

一定加速度の運動では、区間の平均速度はその区間の中点の時刻における瞬間速度に等しいので

vˉ12=λ/2t2t1  (時刻 t1+t22),vˉ23=λ/2t3t2  (時刻 t2+t32)\bar v_{12}=\frac{\lambda/2}{t_2-t_1}\ \ \left(\text{時刻}\ \frac{t_1+t_2}{2}\right),\qquad \bar v_{23}=\frac{\lambda/2}{t_3-t_2}\ \ \left(\text{時刻}\ \frac{t_2+t_3}{2}\right)

です。この 2 つの速度の差を時刻の差 (t3t1)/2(t_3-t_1)/2 で割れば加速度が得られ

g=vˉ23vˉ12(t3t1)/2=λt3t1(1t3t21t2t1)=λ[(t2t1)(t3t2)](t2t1)(t3t2)(t3t1).g=\frac{\bar v_{23}-\bar v_{12}}{(t_3-t_1)/2} =\frac{\lambda}{t_3-t_1}\left(\frac{1}{t_3-t_2}-\frac{1}{t_2-t_1}\right) =\frac{\lambda\bigl[(t_2-t_1)-(t_3-t_2)\bigr]}{(t_2-t_1)(t_3-t_2)(t_3-t_1)} .

これが答えです。落下が加速していくので t3t2<t2t1t_3-t_2<t_2-t_1、したがって g>0g>0 となり符号も正しく、次元は [m]/[s2][\mathrm{m}]/[\mathrm{s}^2] で加速度になっています。3 つの時刻の第 2 階差をとる形なので、初速度と初期位置は自動的に落ちます。この値は t1t_1 から t3t_3 までの平均加速度で、区間の中央、すなわちほぼ t2t_2 における重力加速度を与えます(gg が高さとともに変化することを考えると、平均値としてどの時刻に対応させるかが問題になるため、あえて「時刻 t2t_2 における平均の」と書かれています)。

レーザービームが鉛直(落下方向)から角 θ\theta だけ傾いていると、干渉計が測るのは変位の視線方向成分 zcosθz\cos\theta です。したがって得られる加速度は gmeas=gcosθg_{\rm meas}=g\cos\theta となり、相対誤差は

ggmeasg=1cosθθ22109\frac{g-g_{\rm meas}}{g}=1-\cos\theta\simeq\frac{\theta^2}{2}\le10^{-9}

を要求します。よって

θ2×109=4.5×105 rad\theta\le\sqrt{2\times10^{-9}}=4.5\times10^{-5}\ \mathrm{rad}

です。角度で書けば約 99 秒角(2.6×1032.6\times10^{-3} 度)以内でなければなりません。誤差が θ\theta の 1 次でなく 2 次で入るおかげで、この程度の据え付け精度で 10910^{-9} が達成できます。

残留ガスの平均自由行程は問題の真空度では装置寸法よりはるかに長く(後述)、自由分子流の領域です。落下速度 vv が分子の熱速度 vˉ\bar v よりずっと小さいとき、断面積 AA の平板が受ける抗力は、前面と背面に当たる分子の運動量流束の差から

F=2ρvˉvA,ρ=nm,vˉ=8kBTπmF=2\rho\bar v v A,\qquad \rho=nm,\quad \bar v=\sqrt{\frac{8k_{\rm B}T}{\pi m}}

と評価できます(鏡面反射を仮定した 1 次の結果。散乱の詳細で 1 のオーダーの係数が変わります)。与えられた数値から

kBT=P0VmolNA=105×0.0206×1023=3.3×1021 J,m=30×1036×1023=5.0×1026 kgk_{\rm B}T=\frac{P_0V_{\rm mol}}{N_A}=\frac{10^5\times0.020}{6\times10^{23}}=3.3\times10^{-21}\ \mathrm{J}, \qquad m=\frac{30\times10^{-3}}{6\times10^{23}}=5.0\times10^{-26}\ \mathrm{kg}

なので vˉ=4.1×102m/s\bar v=4.1\times10^{2}\,\mathrm{m/s}、1 気圧での密度は ρ0=NAm/Vmol=1.5kg/m3\rho_0=N_Am/V_{\rm mol}=1.5\,\mathrm{kg/m^3} です。密度は圧力に比例するので ρ=ρ0P/P0\rho=\rho_0P/P_0 と書けます。要求は

FM109g  F109×0.100×9.8=9.8×1010 N\frac{F}{M}\le10^{-9}g\ \Longrightarrow\ F\le10^{-9}\times0.100\times9.8=9.8\times10^{-10}\ \mathrm{N}

です。A=10 cm2=1.0×103m2A=10\ \mathrm{cm^2}=1.0\times10^{-3}\,\mathrm{m^2}v=3m/sv=3\,\mathrm{m/s} を代入すると

F=2×1.5×P105×412×3×1.0×103=3.7×105P  [N](P は Pa)F=2\times1.5\times\frac{P}{10^5}\times412\times3\times1.0\times10^{-3} =3.7\times10^{-5}\,P\ \ [\mathrm{N}]\quad(P\ \text{は Pa})

なので

P9.8×10103.7×105=2.6×105 Pa3×105 Pa.P\le\frac{9.8\times10^{-10}}{3.7\times10^{-5}}=2.6\times10^{-5}\ \mathrm{Pa}\simeq3\times10^{-5}\ \mathrm{Pa}.

答えは P3×105PaP\lesssim3\times10^{-5}\,\mathrm{Pa}(約 0.03mPa0.03\,\mathrm{mPa}2×1072\times10^{-7} Torr 程度)で、たしかに 1 mPa 以下です。この圧力では数密度 n9×1015m3n\sim9\times10^{15}\,\mathrm{m^{-3}}、分子の衝突断面積を 1019m210^{-19}\,\mathrm{m^2} として平均自由行程は 10210^{2} m 以上あり、自由分子流の仮定は正しいです。なお熱速度を無視して F=ρAv2F=\rho Av^2 とすると P7×103PaP\lesssim7\times10^{-3}\,\mathrm{Pa} となり緩すぎる評価になります。vvˉv\ll\bar v の領域では抗力が v2v^2 ではなく vˉv\bar v\,v に比例することが要点です。

アースされた金属管は外部の静電場を遮蔽する役割をもち、これが第一の効果です。MdM_d が電荷 qq を帯びていると、管の内壁に誘導電荷(鏡像電荷)が現れ、MdM_d はそれに引かれます。しかし管が十分に長く、太さが一様で直線であれば、系は管軸方向の平行移動について不変なので静電エネルギーが軸方向の位置によらず、軸方向の力は生じません。MdM_d が軸からずれていれば近い壁に向かう横方向の力は働きますが、鉛直方向の力はやはりゼロです。したがって理想的な一様管の中では落下加速度は変化しません。

現実に効くのはこの対称性が破れる部分です。管の端(開口部)付近、継ぎ目、のぞき窓や配線の穴などで管の形が変わると鏡像力に鉛直成分が生じ、落下中に位置依存の力が加わって、測定される加速度が gg からずれます。誤差が 10910^{-9} 以下であるためには、たとえば MdM_d が壁から d=5cmd=5\,\mathrm{cm} の位置にある場合の平面近似での鏡像力 q2/16πϵ0d2q^2/16\pi\epsilon_0d^2109Mg=9.8×1010N10^{-9}Mg=9.8\times10^{-10}\,\mathrm{N} 以下、すなわち

q16πϵ0d2×109Mg3×1011 Cq\lesssim\sqrt{16\pi\epsilon_0d^2\times10^{-9}Mg}\simeq3\times10^{-11}\ \mathrm{C}

に帯電を抑える必要があります。素電荷で 2×1082\times10^{8} 個程度で、きわめて厳しい条件です。実際には反射鏡を導電性にして接地・放電させ、帯電を除去します。このほか、電荷が動くことで管に誘導電流が流れ、その散逸に対応する制動力も働きますが、これは v/cv/c の高次で無視できる大きさです。管の内壁の局所的な仕事関数の差(パッチ電位)による力も同種の系統誤差になります。

第7問 グリーン関数、弦の初期値問題、ラプラス方程式

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3 つの独立な問題です。フーリエ変換は

ϕ^(k)=ϕ(x)eikxdx,ϕ(x)=12πϕ^(k)eikxdk\hat\phi(k)=\int_{-\infty}^{\infty}\phi(x)e^{-ikx}dx, \qquad \phi(x)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\hat\phi(k)e^{ikx}dk

の規約を用います。

(1) ϕ\phi'' のフーリエ変換は k2ϕ^(k)-k^2\hat\phi(k)、また

δ(xa)eikxdx=eika\int_{-\infty}^{\infty}\delta(x-a)e^{-ikx}dx=e^{-ika}

なので、方程式 (d2/dx2+λ2)ϕ=δ(xa)(-d^2/dx^2+\lambda^2)\phi=\delta(x-a) を変換すると

(k2+λ2)ϕ^(k)=eika  ϕ^(k)=eikak2+λ2.\left(k^2+\lambda^2\right)\hat\phi(k)=e^{-ika} \ \Longrightarrow\ \hat\phi(k)=\frac{e^{-ika}}{k^2+\lambda^2}.

λ\lambda は正の実数なので k2+λ2k^2+\lambda^2 は実軸上でゼロにならず、ϕ^(k)\hat\phi(k) は一意に決まります(λ=0\lambda=0 なら k=0k=0 での特異性のため有界解が定まりません)。

(2) 逆変換して

ϕ(x)=12πeik(xa)k2+λ2dk.\phi(x)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{ik(x-a)}}{k^2+\lambda^2}dk .

k=±iλk=\pm i\lambda に単純極があります。x>ax>a では eik(xa)e^{ik(x-a)} が上半面で減衰するので上半面で閉じて k=+iλk=+i\lambda の留数を、x<ax<a では下半面で閉じて k=iλk=-i\lambda の留数を拾います。x>ax>a の場合

ϕ(x)=12π2πieλ(xa)2iλ=eλ(xa)2λ\phi(x)=\frac{1}{2\pi}\cdot2\pi i\cdot\frac{e^{-\lambda(x-a)}}{2i\lambda}=\frac{e^{-\lambda(x-a)}}{2\lambda}

で、x<ax<a も同様なので、まとめて

ϕ(x)=12λeλxa.\phi(x)=\frac{1}{2\lambda}e^{-\lambda\lvert x-a\rvert}.

これが答えです。x±x\to\pm\infty で 0 に収束するので有界です。検算として、xax\neq a では ϕ+λ2ϕ=0-\phi''+\lambda^2\phi=0 が成り立ち、x=ax=a での微分の跳びは

ϕ(a+)ϕ(a)=1212=1\phi'(a^+)-\phi'(a^-)=-\frac12-\frac12=-1

で、方程式 ϕ+λ2ϕ=δ(xa)-\phi''+\lambda^2\phi=\delta(x-a) が要求する [ϕ]=+1-[\phi']=+1 を満たしています。

初期形状 f(x)ψ(x,0)f(x)\equiv\psi(x,0) は、(2n1)π<x<(2n+1)π(2n-1)\pi<x<(2n+1)\pix2nππ/2\lvert x-2n\pi\rvert-\pi/2、すなわち周期 2π2\pi、振幅 π/2\pi/2、傾き ±1\pm1 の三角波です。x=2nπx=2n\pi で最小値 π/2-\pi/2x=(2n+1)πx=(2n+1)\pi で最大値 +π/2+\pi/2 をとり、平均は 0 です。初速度がゼロなので、ダランベールの解は

ψ(x,t)=12[f(xvt)+f(x+vt)].\psi(x,t)=\frac12\bigl[f(x-vt)+f(x+vt)\bigr].

ff をフーリエ級数に展開すると、偶関数で平均 0、am=4/πm2a_m=-4/\pi m^2mm 奇数)となり

f(x)=4πj=0cos[(2j+1)x](2j+1)2f(x)=-\frac{4}{\pi}\sum_{j=0}^{\infty}\frac{\cos\bigl[(2j+1)x\bigr]}{(2j+1)^2}

です(x=0x=04ππ28=π2-\frac4\pi\cdot\frac{\pi^2}{8}=-\frac\pi2 となり正しい)。各モードは cos(mvt)\cos(mvt) で振動するので

ψ(x,t)=4πj=0cos[(2j+1)x]cos[(2j+1)vt](2j+1)2\psi(x,t)=-\frac{4}{\pi}\sum_{j=0}^{\infty} \frac{\cos\bigl[(2j+1)x\bigr]\cos\bigl[(2j+1)vt\bigr]}{(2j+1)^2}

が答えです。奇数の振動数しか含まないので周期は 2π/v2\pi/v です。

0tπ/2v0\le t\le\pi/2v での変化を調べます。svt[0,π/2]s\equiv vt\in[0,\pi/2] とおき、ψ\psixx の偶関数で周期 2π2\pi であることを使って 0xπ0\le x\le\pi を見ると、ダランベールの式から

ψ(x,t)={sπ2,0xsxπ2,sxπsπ2s,πsxπ\psi(x,t)= \begin{cases} s-\dfrac{\pi}{2}, & 0\le x\le s\\[4pt] x-\dfrac{\pi}{2}, & s\le x\le \pi-s\\[4pt] \dfrac{\pi}{2}-s, & \pi-s\le x\le\pi \end{cases}

となります(接続点で値が一致し、フーリエ級数の数値和ともすべての tt で一致することを確認しました)。すなわち、三角波の折れ点(x=2nπx=2n\pi の谷と x=(2n+1)πx=(2n+1)\pi の山)から左右に速さ vv で平坦部が広がり、傾き ±1\pm1 の直線部分は両側から削られて短くなっていきます。平坦部の高さは谷側が π/2-\pi/2 から 0 へ上がり、山側が +π/2+\pi/2 から 0 へ下がります。

t=π/(2v)t=\pi/(2v)s=π/2s=\pi/2)では傾いた部分が消え、ψ(x,t)0\psi(x,t)\equiv0 となって弦は完全にまっすぐになります。このとき変位のエネルギーはすべて運動エネルギーに移っており、実際

ψt=v2[f(x+vt)f(xvt)]\frac{\partial\psi}{\partial t}=\frac{v}{2}\bigl[f'(x+vt)-f'(x-vt)\bigr]

t=π/2vt=\pi/2vx<π/2\lvert x\rvert<\pi/2+v+vπ/2<x<3π/2\pi/2<\lvert x\rvert<3\pi/2v-v という振幅 vv の矩形波になります。この後は形が反転していき、t=π/vt=\pi/vψ=f(x)\psi=-f(x)t=2π/vt=2\pi/v で元に戻ります。

2 次元ラプラス方程式の極座標での一般解は

ψ=A0+B0lnr+m1(Amrm+Cmrm)cosmθ+(Bmrm+Dmrm)sinmθ\psi=A_0+B_0\ln r+\sum_{m\ge1}\left(A_mr^{-m}+C_mr^{m}\right)\cos m\theta +\left(B_mr^{-m}+D_mr^{m}\right)\sin m\theta

です。rar\ge a(円の外部)で有界であることから、rr\to\infty で発散する lnr\ln rrmr^{m} の項を落とし、B0=Cm=Dm=0B_0=C_m=D_m=0 とします。境界値は

cos2θ=1+cos2θ2\cos^2\theta=\frac{1+\cos2\theta}{2}

なので、m=2m=2cos\cos 成分と定数項だけが残り、r=ar=a

A0=12,A2a2=12A_0=\frac12,\qquad \frac{A_2}{a^2}=\frac12

と決まります。よって

ψ(r,θ)=12+a22r2cos2θ=12+a2(x2y2)2(x2+y2)2\psi(r,\theta)=\frac12+\frac{a^2}{2r^2}\cos2\theta =\frac12+\frac{a^2\left(x^2-y^2\right)}{2\left(x^2+y^2\right)^2}

が答えです。r2cos2θ=Re(1/z2)r^{-2}\cos2\theta=\operatorname{Re}(1/z^2) は正則関数の実部なので調和で、rar\ge a で有界、r=ar=acos2θ\cos^2\thetarr\to\infty で境界値の平均 1/21/2 に収束します。

第8問 ペプチド結合の平面性と α\alpha-ヘリックス

Section titled “第8問 ペプチド結合の平面性と α\alphaα-ヘリックス”

Pauling が 2 つのアミノ酸からなるジペプチドの立体構造を解析して、ペプチド結合 CO-NH-\mathrm{CO}\text{-}\mathrm{NH}- の C, O, N, H の 4 原子が同一平面上にあることを見出し、それを手がかりに α\alpha-ヘリックスと β\beta-シートを提唱した、という歴史を題材にした問題です。

(1) 単結晶X線回折による結晶構造解析(X線結晶構造解析)です。ジペプチドやより簡単なアミド・アミノ酸の結晶を作り、単色X線を当てて多数のブラッグ反射の強度と位置を測り、構造因子のフーリエ合成で電子密度分布を求めて原子位置を決定します。原子間距離が 0.1nm0.1\,\mathrm{nm} 台であるため、それと同程度の波長をもつ波(X線)でなければ原子分解能は得られず、また結晶にして周期性を利用しなければ 1 分子からの散乱は弱すぎて測れない、という 2 点が方法選択の筋道です。得られた結合長・結合角から 4 原子の共面性が判明します。

(2) ペプチド結合の C-N 結合距離が、通常の C-N 単結合(約 0.147nm0.147\,\mathrm{nm})より明らかに短く、C=N 二重結合に近い約 0.132nm0.132\,\mathrm{nm} であったことです。関係は次のように説明されます。この短縮は、O=CN\mathrm{O}=\mathrm{C}-\mathrm{N} の共鳴(O=CN  O ⁣C=N+\mathrm{O}=\mathrm{C}-\mathrm{N}\ \leftrightarrow\ \mathrm{O}^-\!-\mathrm{C}=\mathrm{N}^+)によって C-N 結合が部分的な二重結合性をもつためで、Pauling 自身の共鳴理論から予想されることでした。部分二重結合性は、C と N がともに sp2^2 混成をとり、O-C-N にまたがる π\pi 電子が非局在化していることを意味します。π\pi 結合は C-N 軸まわりの回転を強く妨げ、π\pi 軌道が重なるためには 2 つの sp2^2 平面が一致しなければなりません。したがって C, O, N, H(および両側の Cα\mathrm{C}_\alpha)が同一平面上に固定されます。すなわち「C-N が短い」という結合長の事実と「4 原子が同一平面」という幾何の事実は、どちらも同じ π\pi 電子の非局在化の帰結であり、互いを裏付けます。

(1) 各 α\alpha-炭素の zz 座標が 0.15j0.15j nm なので、残基あたりの軸方向の上昇(rise)は 0.15nm0.15\,\mathrm{nm}、1 巻きのピッチが 0.54nm0.54\,\mathrm{nm} です。したがって 1 巻きあたりの残基数は

0.540.15=3.6=185\frac{0.54}{0.15}=3.6=\frac{18}{5}

です。らせん構造が厳密に周期的になるのは、残基数と巻き数がともに整数になるときで、3.6=18/53.6=18/5 より 18 残基でちょうど 5 巻きです。よって真の周期は

c=18×0.15 nm=5×0.54 nm=2.7 nm.c=18\times0.15\ \mathrm{nm}=5\times0.54\ \mathrm{nm}=2.7\ \mathrm{nm}.

答えは c=2.7nmc=2.7\,\mathrm{nm}(18 残基 5 巻き)で、これを一次元結晶の格子定数と見なすことができます。

(2) 主役は主鎖内の水素結合で、ii 番目の残基の C=O と i+4i+4 番目の N-H が NO\mathrm{N}\cdots\mathrm{O} 距離約 0.28nm0.28\,\mathrm{nm}、方向はほぼらせん軸に平行に結合します。残基あたり 1 本の水素結合がらせんの全長にわたって規則的に架かることが α\alpha-ヘリックスの安定性の中心です。これに加えて、らせん内部で原子が密に詰まることによるファンデルワールス力(ロンドン分散力)、水溶液中では側鎖同士の疎水性相互作用、荷電側鎖の間(iii+3i+3 あるいは i+4i+4)の静電相互作用(塩橋)と、各ペプチド双極子が同じ向きに並ぶことによるらせん双極子の効果が寄与します。側鎖と主鎖の間の水素結合もらせん端の安定化に働きます。

(1) 1 残基あたりの方位角の進みは 360/3.6=100360^\circ/3.6=100^\circ です。a を 00^\circ に置くと d は 3×100=3003\times100^\circ=300^\circ(すなわち 60-60^\circ)、次のヘプタッドの a は 7×100=7007\times100^\circ=700^\circ、つまり 20-20^\circ、d は 80-80^\circ になります。図示すると、らせんを軸方向から見た円周上で疎水性残基 a と d は約 6060^\circ の幅の狭い領域に集まり、これが軸方向に縦一列の帯(疎水性ストライプ、hydrophobic seam)をなします。特徴は次の 2 点です。第一に、a と d だけが疎水的なので、らせんの周囲のうち一面だけが疎水的で残りは親水的な両親媒性のらせんになります。第二に、7 残基で 700700^\circ しか進まず 2 回転(720720^\circ)に 2020^\circ 足りないため、このストライプはヘプタッドごとに 20-20^\circ ずつずれ、右巻きらせんの表面を非常に緩やかな左巻きでねじれながら進みます(1 回りするのに 360/20×7=126360/20\times7=126 残基)。

(2) 形成されるのは 2 本鎖コイルドコイル(ロイシンジッパー型の四次構造)です。特徴は次のとおりです。2 本の右巻き α\alpha-ヘリックスが互いに巻き付き、全体として左巻きのスーパーコイルを作ります。左巻きに巻き付くことでヘプタッドごとの 20-20^\circ のずれがちょうど打ち消され、疎水性ストライプが常に相手のヘリックスに向き続けます(これが 7 という周期の意味です)。接触面では a と d の疎水性側鎖が互いの隙間に噛み合う「ノブ・イントゥ・ホール(knobs into holes)」型のパッキングをとり、水から遮蔽された疎水性コアを作ります。これが水溶液中で会合する駆動力(疎水効果)です。さらに接触面の縁にある e と g の位置の荷電残基が鎖間で塩橋を作り、平行・逆平行やホモ二量体・ヘテロ二量体の選択性を与えます。2 本のヘリックスは通常平行で位置も揃っています。ロイシンジッパー型の転写因子、トロポミオシン、ケラチン、ミオシンの尾部などがこの構造をとります。

第9問 π\pi 電子系の光吸収と蛍光

Section titled “第9問 π\piπ 電子系の光吸収と蛍光”

電子の質量 mm、光速 cc、プランク定数 hh を用います。前半は共役 π\pi 電子を自由電子として扱い、直鎖ポリエンを一次元の箱、ベンゼンを円環に見立てて吸収波長を見積もります。mc/h=412nm1mc/h=412\,\mathrm{nm^{-1}} を使います。後半は蛍光スペクトルの定性的な議論です。

(1) 長さ LL の一次元の箱(両端で無限に高い壁)の中の電子の固有状態は、ψn(x)=2/Lsin(nπx/L)\psi_n(x)=\sqrt{2/L}\sin(n\pi x/L)

En=n2h28mL2,n=1,2,3,E_n=\frac{n^2h^2}{8mL^2},\qquad n=1,2,3,\dots

です。励起状態は n2n\ge2 の状態で、基底状態からの励起エネルギーは EnE1=(n21)h2/8mL2E_n-E_1=(n^2-1)h^2/8mL^2 です。実際の分子では各準位にスピン上向き・下向きの 2 個の電子が入るので、NN 個の π\pi 電子は n=1n=1 から n=N/2n=N/2 までを占め、最低の光吸収は n=N/2n=N/2(HOMO)から n=N/2+1n=N/2+1(LUMO)への遷移になります。

(2) 炭素は sp2^2 混成をとり、2s2s2px,2py2p_x, 2p_y から作った 3 本の sp2^2 軌道が分子平面内で σ\sigma 結合を作ります。残った、分子平面に垂直な 2p2p 軌道(2pz2p_z 軌道)が横並びに重なり合って π\pi 電子軌道(π\pi 共役系)を作ります。答えは炭素の 2p2p 軌道、なかでも分子平面に垂直な 2pz2p_z 軌道です。

(3) 図の視物質 A(レチナール)で LL が示しているポリエン鎖は、5 本の共役 C=C 二重結合、すなわち 10 個の炭素原子からなります。各炭素が 1 個の π\pi 電子を出すので N=10N=10n=1n=1 から 55 までが占められ、吸収は n=56n=5\to6 です。

ΔE=h28mL2(6252)=11h28mL2,λ=hcΔE=8mcL211h=8L211mch.\Delta E=\frac{h^2}{8mL^2}\left(6^2-5^2\right)=\frac{11h^2}{8mL^2}, \qquad \lambda=\frac{hc}{\Delta E}=\frac{8mcL^2}{11h}=\frac{8L^2}{11}\cdot\frac{mc}{h}.

L=1nmL=1\,\mathrm{nm}mc/h=412nm1mc/h=412\,\mathrm{nm^{-1}} を入れると

λ=8×12×41211=3.0×102 nm.\lambda=\frac{8\times1^2\times412}{11}=3.0\times10^{2}\ \mathrm{nm}.

答えは λ300nm\lambda\simeq300\,\mathrm{nm} です。もし末端のアルデヒド炭素まで共役系に数えて π\pi 電子を 12 個とすると λ=8×412/13=254nm\lambda=8\times412/13=254\,\mathrm{nm} となり、いずれにしても数百 nm、紫外から可視の境界という同じオーダーです。実測のレチナールの吸収極大 380 nm と桁で合っており、自由電子模型としては十分な精度です。

(4) 上の式を一般化すると、π\pi 電子数を NN、共役鎖の長さを LNL\simeq N\ell\ell は結合の軸方向の長さ)として

λ=8mcL2(N+1)h8mc2hN\lambda=\frac{8mcL^2}{(N+1)h}\simeq\frac{8mc\,\ell^2}{h}\,N

となり、共役鎖を長くすれば吸収波長は NN にほぼ比例して長波長側に伸びます。したがって、視物質 A の構造としては共役二重結合の数を増やしてポリエン鎖を長くすればよい、というのが答えです。夕闇では光量が少なく、また残っている光は青緑から緑にかけての波長域が相対的に強いので、吸収帯を紫外側から可視域(500 nm 付近)へ赤方移動させれば、届く光子をより多く捕らえられます。加えて共役長が伸びると遷移双極子モーメント(振動子強度)も大きくなるので、吸収確率そのものも増えて感度が上がります。実際の視覚では、レチナールがオプシンのリシン残基とプロトン化シッフ塩基を作り、正電荷による共役系の実効的な延長と周囲のアミノ酸の電荷分布によって吸収極大が 380 nm から約 500 nm へ移動しており、ここで論じた「共役系を伸ばして長波長化する」という筋道がそのまま実現されています。

ベンゼンの π\pi 電子が半径 rr の円環上を自由に動くとします。円周は C-C 結合 6 本ぶんなので

C=6×0.14=0.84 nm,r=C2π=0.134 nm.C=6\times0.14=0.84\ \mathrm{nm},\qquad r=\frac{C}{2\pi}=0.134\ \mathrm{nm}.

円環上の粒子の固有値は、1 価の周期境界条件から

El=2l22mr2=h2l28π2mr2,l=0,±1,±2,E_l=\frac{\hbar^2l^2}{2mr^2}=\frac{h^2l^2}{8\pi^2mr^2},\qquad l=0,\pm1,\pm2,\dots

で、l=0l=0 は 1 重、l1\lvert l\rvert\ge1 は 2 重に縮退します。6 個の π\pi 電子は l=0l=0 に 2 個、l=±1l=\pm1 に 4 個入り、HOMO が l=1\lvert l\rvert=1、LUMO が l=2\lvert l\rvert=2 です。よって

ΔE=h28π2mr2(2212)=3h28π2mr2,λ=hcΔE=8π2mcr23h=2C23mch\Delta E=\frac{h^2}{8\pi^2mr^2}\left(2^2-1^2\right)=\frac{3h^2}{8\pi^2mr^2}, \qquad \lambda=\frac{hc}{\Delta E}=\frac{8\pi^2mcr^2}{3h}=\frac{2C^2}{3}\cdot\frac{mc}{h}

です(2πr=C2\pi r=C を使って π\pi が消えます)。数値を入れると

λ=2×(0.84)23×412=1.9×102 nm.\lambda=\frac{2\times(0.84)^2}{3}\times412=1.9\times10^{2}\ \mathrm{nm}.

答えは λ194nm\lambda\simeq194\,\mathrm{nm} です。ベンゼンの最も強い吸収帯が 180 nm 付近にあることとよく一致します。芳香族アミノ酸(トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン)の吸収がこの帯の長波長側の裾(250〜280 nm)に来ることも、環が大きくなるほど(CC が大きいほど)長波長化するという上式から理解できます。

(1) 電子はすべて S0S_0 の最低振動準位にあるとします。吸収スペクトルは、S0(v=0)S_0(v=0) から S1S_1 の各振動準位 v=0,1,2,v'=0,1,2,\dots への遷移に対応する線の列(振電progression)になります。最も長波長側に 0-00\text{-}0 線があり、そこから短波長側へ S1S_1 の振動量子のエネルギー間隔で線が並びます。各線の強さはフランク・コンドン因子で決まり、ふつう v=1,2v'=1,2 あたりに極大をもつ分布になります。蛍光スペクトルは、S1S_1 の最低振動準位から S0S_0 の各振動準位 v=0,1,2,v''=0,1,2,\dots への発光で、同じ 0-00\text{-}0 線から出発して長波長側へ S0S_0 の振動量子の間隔で線が並びます。したがって吸収と蛍光は 0-00\text{-}0 線を鏡面として互いにほぼ鏡像の関係にあります。孤立分子なので溶媒による不均一な広がりがなく、線は鋭い線スペクトルになります。

(2) 有機溶媒に溶かすと次のように変化します。溶媒分子の配置がばらつくため各線が不均一に広がり、振動構造が埋もれて構造のない幅の広いバンドになります。溶媒との衝突で S1S_1 内の振動緩和が発光より速く起こるので、発光は必ず S1S_1 の最低振動準位から始まります(カシャ則)。さらに励起状態のほうが基底状態より双極子モーメントが大きいのがふつうなので、溶媒の再配向(溶媒緩和)が励起状態をより強く安定化し、吸収帯も蛍光帯も長波長側へずれ、蛍光のずれが大きいため吸収と蛍光の 0-00\text{-}0 位置が一致しなくなってストークスシフトが増大します。鏡像対称性は近似的にしか成り立たなくなります。溶媒による無放射失活の経路が加わるため、蛍光の量子収率と寿命も一般に減少します。

(3) 蛍光は弱くなります(消光される)。理由は 2 つあります。第一に、重金属の励起準位が F の S1S_1 とエネルギー的に近いので、双極子-双極子相互作用による共鳴エネルギー移動(フェルスター機構)や交換相互作用による移動(デクスター機構)が働き、F の S1S_1 の励起エネルギーが重金属イオンへ移ってしまいます。共鳴移動の効率は F の発光スペクトルと受容体の吸収スペクトルの重なりに比例するので、準位が近いことがまさに移動が効率よく起こる条件です。第二に、重原子は核電荷が大きく強いスピン-軌道相互作用をもたらすため(重原子効果)、S1S_1 から三重項 T1T_1 への項間交差が促進され、蛍光と競合する無放射(あるいはりん光)経路が開きます。いずれの機構でも S1S_1 の寿命が短くなるので、蛍光強度と蛍光寿命がともに減少し、代わりに(低温・脱酸素条件では)りん光が観測されることがあります。

(1) 塩酸グアニジンは代表的な変性剤で、水溶性球状タンパク質 P の疎水性コアを不安定化します。濃度 C0C_0 の前後で起こっているのは、天然の折りたたまれた立体構造(三次構造)が崩れてランダムコイル状の変性状態になる変性転移です。蛍光強度が C0C_0 で階段状に急落することが、この転移が天然状態と変性状態の 2 状態間の協同的(all-or-none)な転移であることを示しています。個々の相互作用が独立に切れていくなら変化はなだらかになるはずで、急峻な立ち下がりは多数の相互作用が一斉に崩れることを意味します。C0C_0 はその転移の中点(天然状態と変性状態が半々になる変性剤濃度)です。分子論的には、コアに埋もれていたトリプトファン残基が露出して水と接するようになります。

(2) トリプトファンの蛍光スペクトルは、C0C_0 を境に長波長側へ移動し(極大が約 330〜335 nm から約 350〜355 nm へ 20 nm 程度の赤方移動)、同時に強度が下がってスペクトルの幅も広がります。理由は設問3(2)と同じで、天然状態ではトリプトファンが疎水的で極性の低い環境に埋もれているため溶媒緩和による安定化が小さく発光が短波長側に出ますが、変性して水に露出すると、極性の高い水が励起状態を大きく安定化してストークスシフトが増えるためです。あわせて水分子や近傍の消光基(プロトン化したアミノ基、ジスルフィド、カルボニルなど)による無放射失活が効くようになり、量子収率が下がります。したがって蛍光極大波長の変化は、タンパク質が折りたたまれているかどうかを見る簡便な指標になります。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成10年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。

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