試験時間は3時間で、3問すべてに解答する形式です。第1問は2次元調和振動子を生成消滅演算子だけで解ききり、エネルギーと角運動量の同時固有状態を右回り・左回りの2モードで組み立てます。第2問はディラック分散をもつ電子系の状態密度から低温比熱までを一直線に計算する問題、第3問は電気双極子と電気四極子の多極子展開です。3問はいずれも同年度の修士課程 専門科目と共通の出題で、個々の手筋は標準的ですが、第1問設問6で β,γ を決める条件式の立て方と、第3問設問8で四極子モーメントと場の勾配の縮約を符号まで正しく処理するところが山になります。
| 問題 | 分野 | 主題 |
|---|
| 第1問 | 量子力学 | 2次元調和振動子の角運動量とエネルギーの同時固有状態 |
| 第2問 | 統計力学・物性物理 | ディラック電子系の状態密度と低温比熱 |
| 第3問 | 電磁気学 | 電気双極子・電気四極子のつくる場と相互作用エネルギー |
質量 m、角振動数 ω の等方な2次元調和振動子
H^=k=1∑2(2m1P^k2+21mω2X^k2)
を量子力学的に扱います。正準交換関係は [X^k,X^ℓ]=[P^k,P^ℓ]=0、[X^k,P^ℓ]=iℏδkℓ です。生成消滅演算子は
a^k=2ℏmω1(mωX^k+iP^k),a^k†=2ℏmω1(mωX^k−iP^k)
で定義され、面に垂直な向きの角運動量演算子は L^=X^1P^2−X^2P^1 です。後半では A^±†=βa^1†±γa^2† という線形結合を作り、H^ と L^ の同時固有状態を組み立てます。この問題は令和5年度 修士課程 専門科目 第1問と同一です。
定義式を代入して交換子を展開します。X^ 同士、P^ 同士は可換なので、残るのは X^ と P^ の交換子だけです。
[a^k,a^ℓ†]=2ℏmω1[mωX^k+iP^k,mωX^ℓ−iP^ℓ]=2ℏmω1(−imω[X^k,P^ℓ]+imω[P^k,X^ℓ])=2ℏmω1(−imω⋅iℏδkℓ+imω⋅(−iℏδkℓ))=2ℏmω2ℏmωδkℓ=δkℓ.
答えは [a^k,a^ℓ†]=δkℓ です。同様に [a^k,a^ℓ]=[a^k†,a^ℓ†]=0 も確かめられ、k=1,2 は独立な2つのボゾンモードとして振る舞います。
各 k について定義式を掛け合わせると、[X^k,P^k]=iℏ を使って
a^k†a^k=2ℏmω1(m2ω2X^k2+P^k2+imω[X^k,P^k])=ℏω1(2mP^k2+2mω2X^k2)−21
となります。したがって
H^=ℏωk=1∑2(a^k†a^k+21)=ℏω(a^1†a^1+a^2†a^2+1).
交換子は設問1の結果から直ちに出ます。[a^ℓ†a^ℓ,a^k]=a^ℓ†[a^ℓ,a^k]+[a^ℓ†,a^k]a^ℓ=−δkℓa^k なので
[H^,a^k]=−ℏωa^k,[H^,a^k†]=+ℏωa^k†(k=1,2).
a^k† はエネルギーを ℏω 上げ、a^k は ℏω 下げる演算子です。
a^k∣0⟩=0 から a^k†a^k∣0⟩=0 となるので、設問2の表式に代入して
H^∣0⟩=ℏω(0+0+1)∣0⟩=ℏω∣0⟩.
答えは E0=ℏω です。1次元の零点エネルギー ℏω/2 が2自由度分足し合わされた値になっています。
設問2の交換子から、a^k† を1個作用させるとエネルギーが ℏω 上がります。よって a^1†,a^2† を合計 n 個作用させた状態
(a^1†)n1(a^2†)n2∣0⟩,n1+n2=n,n1,n2≥0
が H^ の固有状態で、固有値は E0+nℏω です。n=0,1,2,… に対してエネルギーは単調に増えるので、低い方から数えた n 番目の準位がちょうどこの n に対応し
En=(n+1)ℏω.
n を固定したときの (n1,n2) の組は (0,n),(1,n−1),…,(n,0) の n+1 通りで、これらは互いに直交する独立な状態です。したがって縮退度は n+1 です。
a^k,a^k† の定義を X^k,P^k について解くと
X^k=2mωℏ(a^k+a^k†),P^k=−i2ℏmω(a^k−a^k†)
です。係数の積は 2mωℏ⋅2ℏmω=2ℏ なので
L^=−2iℏ[(a^1+a^1†)(a^2−a^2†)−(a^2+a^2†)(a^1−a^1†)].
添字1と2の演算子は互いに可換なので、展開すると a^1a^2 の項と a^1†a^2† の項が打ち消し合い、残る2種類が2倍になります。
L^=−iℏ(a^1†a^2−a^1a^2†).
(a^1†a^2)†=a^1a^2† より括弧の中は反エルミートで、−iℏ を掛けた L^ はエルミートです。次に H^ との交換子を計算します。[a^1†a^1,a^1†a^2]=a^1†a^2、[a^2†a^2,a^1†a^2]=−a^1†a^2 なので、全粒子数 N^=a^1†a^1+a^2†a^2 との交換子は打ち消し合って 0 です。a^1a^2† についても同様なので
[H^,L^]=0.
L^ は自由度1と2の間で量子を1個移すだけで総数を変えないため、エネルギーと同時対角化できます。
まず L^ と生成演算子の交換子を用意します。設問5の表式と [a^k,a^ℓ†]=δkℓ から
[L^,a^1†]=−iℏ(0−a^2†)=iℏa^2†,[L^,a^2†]=−iℏ(a^1†−0)=−iℏa^1†
です。したがって一般の線形結合について
[L^,βa^1†+γa^2†]=−iℏγa^1†+iℏβa^2†.
これが c(βa^1†+γa^2†) に等しいという条件は、a^1† と a^2† が線形独立なので
−iℏγ=cβ,iℏβ=cγ
の2式です。両辺を掛け合わせると ℏ2βγ=c2βγ となり、βγ=0 のもとで c=±ℏ を得ます。c=+ℏ のときは γ=iβ、c=−ℏ のときは γ=−iβ です。
A^+†=βa^1†+γa^2† と A^−†=βa^1†−γa^2† は係数の組が (β,γ) と (β,−γ) で γ の符号だけが違います。そこで γ=iβ を選ぶと、A^+† の側は c+=+ℏ、A^−† の側は係数が (β,−iβ) すなわち γ′=−iβ′ の形なので c−=−ℏ になります。これは c+>c− の指定と合っています(γ=−iβ を選ぶと大小が逆になるので不可です)。
大きさは規格化 [A^η,A^η′†]=δηη′ が成り立つように決めるのが自然で、具体例として
β=21,γ=2i,A^±†=21(a^1†±ia^2†)
が取れます。このとき c+=ℏ、c−=−ℏ です。実際 A^±=21(a^1∓ia^2) から [A^+,A^+†]=[A^−,A^−†]=1、[A^+,A^−†]=21(1−1)=0 となり、A^± は独立な2つのモードの消滅演算子として振る舞います。c±=±ℏ は角運動量の次元をもち、A^±† が角運動量を ±ℏ だけ運ぶことを表しています。
A^±† は a^k† の線形結合なので、設問2の交換子から
[H^,A^±†]=ℏωA^±†
です。これと設問6の [L^,A^±†]=c±A^±† を使うと
H^A^±†∣α⟩L^A^±†∣α⟩=([H^,A^±†]+A^±†H^)∣α⟩=(Eα+ℏω)A^±†∣α⟩,=([L^,A^±†]+A^±†L^)∣α⟩=(Lα+c±)A^±†∣α⟩
となります。よって A^+†∣α⟩ のエネルギー固有値と角運動量固有値は Eα+ℏω と Lα+ℏ、A^−†∣α⟩ については Eα+ℏω と Lα−ℏ です。エネルギーはどちらも同じだけ上がり、角運動量だけが ±ℏ に分かれます。
基底状態は a^k∣0⟩=0 から a^1†a^2∣0⟩=0 かつ a^1a^2†∣0⟩=a^2†a^1∣0⟩=0 となり、L^∣0⟩=0 をみたします。つまり ∣0⟩ は (E,L)=(ℏω,0) の同時固有状態です。∣n,ℓ⟩ は A^+† を ℓ 個、A^−† を n−ℓ 個、合計 n 個作用させた状態なので、設問7を n 回繰り返して
En=ℏω+nℏω=(n+1)ℏω,Ln,ℓ=ℏℓ−ℏ(n−ℓ)=(2ℓ−n)ℏ.
n を固定すると ℓ=0,1,…,n に対して Ln,ℓ は −nℏ から nℏ まで 2ℏ 刻みに並び、状態数は n+1 個です。これは設問4で求めた縮退度と一致します。
図示すると次のようになります。横軸を L/ℏ、縦軸を E/(ℏω) とすると、点は高さ E=(n+1)ℏω の水平な段ごとに並びます。n=0 の段(E=ℏω)には L=0 の1点、n=1 の段(E=2ℏω)には L=±ℏ の2点、n=2 の段(E=3ℏω)には L=0,±2ℏ の3点、n=3 の段(E=4ℏω)には L=±ℏ,±3ℏ の4点があります。合計10点で、全体は下向きの頂点をもつ二等辺三角形状の格子をなし、L=0 の軸に関して左右対称です。n が偶数の段には L=0 の点があり、奇数の段にはありません。
一辺 L、体積 V=L3 の立方体に周期境界条件を課し、温度 T、化学ポテンシャル μ の粒子浴に接した相互作用のない電子系をグランドカノニカル分布で考えます。スピン自由度は数えず、代わりに2成分の内部自由度をもつ模型
H(k)=ℏv(kxσx+kyσy+kzσz)
を採用します。σx,σy,σz はパウリ行列、v は群速度(定数)です。2つの固有値を εk,1≤εk,2 と書き、波数には ∣k∣≤k0 の上限を課します。ε0≡ℏvk0 とおきます。後半はディラック点が化学ポテンシャルに一致する μ=0 の場合を扱います。この問題は令和5年度 修士課程 専門科目 第2問と同一です。
周期境界条件 ψ(x,y,z+L)=ψ(x,y,z) から eikzL=1、すなわち
kz=L2πnz,nz=0,±1,±2,…
です。∣kz∣≤k0 の制限により ∣nz∣≤Lk0/(2π) の整数に限られます。
kx=ky=0 では H=ℏvkzσz=diag(ℏvkz,−ℏvkz) が対角なので、固有値は ±ℏvkz です。εk,1≤εk,2 の約束に従って並べ替えると
εk,1=−ℏv∣kz∣,εk,2=+ℏv∣kz∣.
図は次の通りです。横軸を kz、縦軸を ε とすると、εk,2 は原点を頂点として傾き ±ℏv で上に開く V 字、εk,1 はそれを上下反転した逆 V 字です。定義域は −k0≤kz≤k0 で、εk,2 の端点は (±k0, ℏvk0)、εk,1 の端点は (±k0, −ℏvk0) です。2本は kz=0 でのみ接触して ε=0 に二重縮退し(ディラック点)、それ以外では εk,2>0>εk,1 です。全体としては原点で交わる2直線(傾き +ℏv と −ℏv)の描く X 字形になります。厳密には kz が 2π/L 刻みなので、この2直線上に等間隔に並ぶ点の集まりです。
kx=ky=0 の状態のうち、エネルギーが 0 と ε>0 の間にあるのは上のバンド εk,2=ℏv∣kz∣ だけです。下のバンドは kz=0 では負のエネルギーをもち、この範囲に入りません。条件は
ℏv∣kz∣≤ε⟺∣kz∣≤ℏvε
で、以下 ε≤ε0 とします。kz の刻み幅は 2π/L なので、許される区間の長さを刻み幅で割って
Ω0(ε)=2π/L2ε/(ℏv)=πℏvLε.
系が十分大きいときは端点における ±1 程度のずれと kz=0 の縮退分は無視できます。ℏv はエネルギー×長さの次元をもつので Lε/(ℏv) は無次元となり、状態数として正しい次元です。
H(k)=ℏvk⋅σ について、パウリ行列の反交換関係 σiσj+σjσi=2δij から
(k⋅σ)2=∣k∣2I
が成り立ちます。また TrH(k)=0 です。前者から固有値の2乗が (ℏv)2∣k∣2 に等しく、後者から2つの固有値の和が 0 なので、両者は絶対値が等しく符号が逆です。k≡∣k∣ とおくと
εk,1=−ℏvk,εk,2=+ℏvk.
kx=ky=0 とすれば設問1の結果に戻ります。
0<ε≤ε0 に対して、エネルギーが 0 から ε の間にある状態は上のバンドで k≤ε/(ℏv) をみたすものです。波数空間の状態密度は周期境界条件から V/(2π)3 なので、半径 ε/(ℏv) の球の体積を掛けて
Ω(ε)=(2π)3V⋅34π(ℏvε)3=6π2ℏ3v3Vε3.
微分すると
D(ε)=dεdΩ(ε)=2π2ℏ3v3Vε2.
状態密度がエネルギーの2乗に比例し ε→0 で消えるのが、3次元線形分散の特徴です。Vε3/(ℏv)3 は無次元なので Ω は状態数、D はエネルギーの逆数の次元をもち、次元は合っています。スペクトルが上下対称なので、下のバンドについても ∣ε∣ を変数にとれば同じ D(∣ε∣) が使えます。
μ=0 のフェルミ分布に対して、大分配関数の対数は各1粒子状態の寄与の和になります。
logΞ=k∑a=1∑2log(1+e−βεk,a)
上のバンド(0≤ε≤ε0)の和は状態密度 D(ε) による積分に置き換わります。下のバンドは εk,1=−ℏvk なので、正の変数 ε=ℏvk に書き換えると同じ k 空間の測度をもち、やはり D(ε) で積分できて log(1+e+βε) が現れます。合わせて
logΞ=∫0ε0D(ε)[log(1+e−βε)+log(1+eβε)]dε.
したがって
F(ε)=D(ε)[log(1+e−βε)+log(1+eβε)]=D(ε)[βε+2log(1+e−βε)]
です。2つ目の表式では log(1+eβε)=βε+log(1+e−βε) を使いました。第1項は絶対零度で満たされた下のバンドからの寄与、第2項が熱励起の寄与にあたります。
A≡V/(2π2ℏ3v3) とおくと D(ε)=Aε2 で
logΞ=Aβ∫0ε0ε3dε+2A∫0ε0ε2log(1+e−βε)dε.
第1項は Aβε04/4 で、ε0 の4次の多項式です。第2項の被積分関数は ε≳kBT で指数的に小さくなるので、ε0≫kBT のもとでは積分の上限を ∞ に置き換えられます。そのときの差
G(ε0)=−2A∫ε0∞ε2log(1+e−βε)dε
が ε0→∞ で 0 になる項で、これを無視します。x=βε と置いて部分積分すると
∫0∞ε2log(1+e−βε)dε=β31∫0∞x2log(1+e−x)dx=3β31∫0∞ex+1x3dx=360β37π4
です。部分積分の表面項 [x3log(1+e−x)/3]0∞ は両端で消えます。以上より
logΞ≃4Aβε04+180β37π4A=8π2ℏ3v3kBTVε04+3607π2ℏ3v3V(kBT)3.
問題文の「ε0 の有限次の多項式」は、第1項(4次)と第2項(ε0 を含まない0次)の和に対応します。
μ=0 なので E=−∂logΞ/∂β です。設問6の結果を β で微分して
E=−∂β∂(4Aβε04+180β37π4A)=−4Aε04+60β47π4A,
すなわち
E=−8π2ℏ3v3Vε04+1207π2ℏ3v3V(kBT)4.
第1項は温度によらない負の定数で、絶対零度で下のバンドがすべて占有されているときのエネルギー −∫0ε0εD(ε)dε=−Aε04/4 に一致します。比熱には効きません。T で微分して
C=∂T∂E=307π2ℏ3v3VkB4T3=307π2VkB(ℏvkBT)3.
kBT/(ℏv) は長さの逆数なので、その3乗に V を掛けると無次元となり、C は kB の次元をもちます。また熱励起部分の係数は、2つの偏光をもつ光子気体のエネルギー密度 π2(kBT)4/(15(ℏc)3) にフェルミ統計の因子 7/8 を掛けた 7π2(kBT)4/(120(ℏv)3) と一致しており、独立な検算になります。
通常の金属では化学ポテンシャルがバンドの途中にあってフェルミ面が存在し、フェルミ準位の状態密度 D(εF) が有限の値をとります。温度 T で熱的に励起できるのはフェルミ準位から幅 ∼kBT の範囲にある電子だけで、その数は ∼D(εF)kBT、1個あたりのエネルギー増加は ∼kBT です。したがって内部エネルギーの温度依存部分は ∼D(εF)(kBT)2 となり、比熱は C∼kB2D(εF)T、つまり温度に比例します。
設問7の系では化学ポテンシャルが2つのバンドの接点(ディラック点)にあり、状態密度が D(ε)∝ε2 でフェルミ準位においてちょうど 0 になります。そのため励起に使える状態数そのものが温度とともに増えていき、熱励起される電子・正孔の数は ∼D(kBT)kBT∝T3、エネルギーは ∝T4 になります。比熱はその微分で C∝T3 となり、線形項が現れません。低温での比熱が通常の金属と定性的に異なるのは、フェルミ準位の状態密度が消えていることが原因です。
電気定数を ε0、観測点を r=(x,y,z)、r=∣r∣ とします。図はすべて xy 平面(z=0)内の配置です。
図1(a) では正電荷 e を (0,d/2,0)、負電荷 −e を (0,−d/2,0) に置きます。これを負電荷から正電荷に向く矢印(図1(b))で表し、図1(c) では +y 方向を向いた電気双極子を原点に、x 軸の正方向から測った角度 θ の向きの電気双極子を (0,a,0) に置きます。設問2から5では d≪r,a とし、最も支配的な項だけを残します。
図2(a) では原点に 2e、(0,±d/2,0) に −e を置いて電気四極子をつくります。設問6から8では与えられた多極子展開
φ(r)≃4πε01(rq+i=1∑3r3xipi+i=1∑3j=1∑3r5xixjQij)
と、q=∫ρd3r′、pi=∫xi′ρd3r′、Qij=21∫(3xi′xj′−(r′)2δij)ρd3r′ を使います。この問題は令和5年度 修士課程 専門科目 第3問と同一です。
∣r−r0∣2=r2−2r⋅r0+r02 なので
∣r−r0∣=r1−r22r⋅r0+r2r02.
r0/r≪1 として平方根を展開すると、r0/r の1次までは根号内の第3項が2次なので落ちて
∣r−r0∣≃r(1−r2r⋅r0)=r−rr⋅r0.
これは r 方向の単位ベクトル r^=r/r を使えば r−r^⋅r0 です。あとで使う形として、逆数も同じ精度で
∣r−r0∣1≃r1(1+r2r⋅r0)
となります。
r±=(0,±d/2,0) に ±e が置かれているので
φ(r)=4πε01(∣r−r+∣e−∣r−r−∣e).
設問1の逆数の展開で r⋅r±=±yd/2 を代入すると
φ(r)≃4πε0re[(1+2r2yd)−(1−2r2yd)]=4πε0edr3y.
(d/r)0 の項は全電荷が 0 なので打ち消し、最低次は d/r の1次です。答えは
φ(r)=4πε0edr3y
で、p=ede^y とおけば標準的な双極子ポテンシャル p⋅r/(4πε0r3) に一致します。無限遠で 0 になっており、境界条件をみたします。
p≡ed とおき、E=−∇φ を計算します。∂r/∂xi=xi/r を使って
∂x∂r3y=−r53xy,∂y∂r3y=r31−r53y2,∂z∂r3y=−r53yz
なので
Ex=4πε0pr53xy,Ey=4πε0p(r53y2−r31),Ez=4πε0pr53yz
です(p=ed)。まとめると E=[3(p⋅r^)r^−p]/(4πε0r3) という双極子場の標準形になっています。y 軸上(x=z=0)では E は +y 向きで大きさ 2p/(4πε0r3)、x 軸上では −y 向きで大きさ p/(4πε0r3) という、双極子場の見慣れた値を再現します。
原点の双極子は p1=pe^y、(0,a,0) の双極子は図1(c) より x 軸正方向から角度 θ をなすので
p2=p(cosθ, sinθ, 0),p=ed.
p1 がつくる場を設問3の式で (x,y,z)=(0,a,0)、r=a として評価すると
Ex=0,Ey=4πε0p(a53a2−a31)=4πε0a32p,Ez=0.
したがって
U=−p2⋅E(0,a,0)=−psinθ⋅4πε0a32p=−2πε0a3e2d2sinθ.
答えは U=−2πε0a3e2d2sinθ です。実際の点電荷4個のクーロン相互作用エネルギーを d/a≪1 で展開しても同じ式が得られます。
U は sinθ に負の係数で比例するので、sinθ=1 すなわち
θ=2π
のとき最小になり、最小値は U=−e2d2/(2πε0a3) です。このとき2つの双極子はどちらも +y 向き、つまり両者を結ぶ直線に沿って頭と尾をそろえた配置で、双極子どうしがもっとも強く引き合う向きです。
図2(a) の電荷分布は原点の 2e と (0,±d/2,0) の −e です。全電荷は
q=2e−e−e=0.
双極子モーメントは、x′=z′=0 なので p1=p3=0 であり、y 成分も
p2=2e⋅0+(−e)2d+(−e)(−2d)=0
と消えます。すべての i について pi=0 です。四極子モーメントは、原点の電荷が r′=0 で寄与しないので (0,±d/2,0) の2個だけを足します。この2点では x1′=x3′=0、x2′=±d/2、(r′)2=d2/4 なので、i=j の成分はすべて 0 で、対角成分は
Q11Q22Q33=21⋅2⋅(−e)(0−4d2)=4ed2,=21⋅2⋅(−e)(3⋅4d2−4d2)=−2ed2,=Q11=4ed2.
まとめると
q=0,pi=0,Qij=4ed21000−20001ij.
トレースが Q11+Q22+Q33=0 となっており、定義から要求される無跡性をみたしています。
q=pi=0 なので、多極子展開の第3項だけが残ります。
φ(r)≃4πε0r51(Q11x2+Q22y2+Q33z2)=16πε0ed2r5x2−2y2+z2.
x2+z2=r2−y2 を使えば x2−2y2+z2=r2−3y2 なので、K≡ed2/(16πε0) とおいて
φ(r)=K(r31−r53y2).
E=−∇φ を成分ごとに計算すると
Ex=K(r53x−r715xy2),Ey=K(r59y−r715y3),Ez=K(r53z−r715y2z)
となります(K=ed2/(16πε0))。検算として、y 軸上では φ=−2K/∣y∣3、x 軸上では φ=K/∣x∣3 となり、これは3個の点電荷のクーロンポテンシャルを d の2次まで展開した値と一致します。また ∇⋅E を計算すると、1/r5、y2/r7、y4/r9 の各係数がそれぞれ打ち消してゼロになり、電荷のない領域でのラプラス方程式をみたしています。
原点の四極子は y 軸に沿った向きなので、設問6の
Qij(y)=4ed2diag(1,−2,1)
をもち、その場は設問7で求めたものです。(0,a,0) に置く四極子は、y 軸に沿う場合が Q(y)、x 軸に沿う場合は x と y の役割を入れ替えて
Qij(x)=4ed2diag(−2,1,1)
です。まず場の勾配を (0,a,0) で評価します。設問7の Ei を微分して x=z=0、y=r=a を代入すると、非対角成分は消えて
∂x∂Ex=−a512K,∂y∂Ey=a524K,∂z∂Ez=−a512K
となります。3つの和が 0 で、∇⋅E=0 と整合しています。与えられた公式 U=−31∑i,jQij∂Ej/∂xi は、Q と勾配がともに対角なので3項の和になります。
図2(c1) では Qij=Qij(y) なので
Uc1=−31⋅4a5ed2K[1⋅(−12)+(−2)⋅24+1⋅(−12)]=−31⋅4a5ed2K(−72)=a56ed2K.
K=ed2/(16πε0) を戻して
Uc1=8πε0a53e2d4 (>0).
図2(c2) では Qij=Qij(x) なので
Uc2=−31⋅4a5ed2K[(−2)⋅(−12)+1⋅24+1⋅(−12)]=−31⋅4a5ed2K⋅36=−a53ed2K,
すなわち
Uc2=−16πε0a53e2d4 (<0).
Uc1=−2Uc2>0>Uc2 なので、静電エネルギーが小さいのは図2(c2) の系、つまり2つの四極子の向きが直交している配置です。検算として、点電荷6個のクーロンエネルギーを直接 d/a で展開すると、(d/a)0 から (d/a)3 までの項がすべて打ち消し、(c1) では +4πε0e22a53d4、(c2) では −4πε0e24a53d4 が残って上の2式に一致します。
出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 令和5年度 博士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。