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正規部分群と商群:剰余類に演算を入れるための条件

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章の群・部分群・剰余類・ラグランジュの定理を学んだ人。正規部分群や商群は仮定しません。

前提となる記事:部分群と剰余類:ラグランジュの定理はなぜ「割り切れる」を生むのか

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時計は 12 時間で一周するので、9 時の 5 時間後は 2 時になります。「12 で割った余りが同じ数を同じものとみなす」と決めたうえで、その世界で足し算をしてよいのはなぜか、という素朴な疑問がこの記事の出発点です。同じ疑問を群という一般の枠組みで考えると、うまくいくための条件が正規部分群という名前の性質として取り出されます。読み終えると、群を「割り算」して新しい群(商群)を作れるようになり、時計の計算がその一番簡単な例だったと分かります。

  • 部分群 H≤GH \le G の左剰余類全体 G/HG/H に「代表元どうしの積」で演算を入れようとすると、代表元の取り替えで答えが変わってしまうことがあります。G=S3G = S_3、H={e,(1 2)}H = \{e, (1\,2)\} が実際にその例です。
  • この演算が定まるための必要十分条件は「すべての g∈Gg \in G で gH=HggH = Hg」、すなわち HH が正規部分群であることです(定理 3.2)。正規性は「左右の剰余類が一致する」という妙な条件ではなく、「割り算をしたい」という要求そのものの言い換えです。
  • 正規部分群 NN に対して G/NG/N は群になり(商群)、π:G→G/N, g↦gN\pi : G \to G/N,\ g \mapsto gN は核が NN の全射準同型(演算を保つ写像で、G/NG/N のどの元にも行き着くもの。核は、単位元に写される元の全体)になります。逆に準同型の核はつねに正規部分群なので、「正規部分群」と「準同型の核」は同じ概念の 2 つの顔です。
  • Z\mathbb{Z} の部分群は nZn\mathbb{Z} に限られ、商群 Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} は位数 nn の巡回群(1 つの元を繰り返し足すだけですべての元が表せる群)です。aˉ\bar{a} の位数は n/gcd⁡(a,n)n/\gcd(a,n) で、aˉ\bar{a} が生成元になるのは gcd⁡(a,n)=1\gcd(a,n) = 1 のときに限ります。
  • 商をとる操作は情報を捨てる操作です。G/NG/N は GG の部分群とは限らず、NN の内部の区別は完全に忘れられます。

1. 動機:剰余類の集合に演算を入れたい

Section titled “1. 動機:剰余類の集合に演算を入れたい”

時計の針は 12 で一周します。9 時の 5 時間後は 14 時ではなく 2 時です。私たちはここで、整数を「12 で割った余りが等しい」という関係で同一視し、同一視したあとの世界で足し算をしています。この計算が矛盾なくできることを、ふだんは疑いません。しかし少し立ち止まると、これは決して自明ではありません。99 を 2121 に、55 を 1717 に取り替えても答えが変わらない、つまり

9+5=14≡2,21+17=38≡2(mod12)9 + 5 = 14 \equiv 2, \qquad 21 + 17 = 38 \equiv 2 \pmod{12}

のように、代表元の選び方によらず答えが定まるという事実が背後にあるからこそ、時計の計算は意味を持ちます。ガウスは『Disquisitiones Arithmeticae』(1801) の冒頭で合同式の記号 a≡b(modm)a \equiv b \pmod{m} を導入し、合同式が加法・減法・乗法について「そのまま計算してよい」ことを整理しました。近代代数学における「商」の思想の出発点です。

群論では、この状況をずっと一般の形で扱います。群 GG とその部分群 HH が与えられたとき、部分群と剰余類(ラグランジュの定理) で見たように、GG は左剰余類 aHaH たちに分割されます(補題 5.2[部分群と剰余類])。剰余類全体の集合を G/HG/H と書きます。整数の場合の Z\mathbb{Z} と 12Z12\mathbb{Z} に対応する状況です。そこで素朴にこう問いたくなります。

G/HG/H に、代表元どうしの積で演算を入れられるか。つまり (aH)⋅(bH):=(ab)H(aH) \cdot (bH) := (ab)H と定めてよいか。

もしこれができれば、G/HG/H 自身が群になり、GG を「HH の分だけ粗く見た」新しい群が手に入ります。大きな群を小さな群に分解して調べる、という群論の基本戦略はここから始まります。

ところが、この定義は一般には破綻します。aH=a′HaH = a'H かつ bH=b′HbH = b'H であっても (ab)H≠(a′b′)H(ab)H \ne (a'b')H となりうるからです(例 3.1)。破綻しないための条件をきちんと取り出すと、それがちょうどガロアが(左右の剰余類分解が一致する部分群として)最初に見いだし、のちに「不変部分群」とも呼ばれ、今日正規部分群と呼ばれている概念になります。この記事の目標は、その条件を導き、商群を構成し、最も基本的な例 Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} を隅々まで確かめることです。

なお、「同値関係で割って新しい対象を作る」という発想そのものは群論に限りません。集合レベルの一般論は 関係と同値関係 - 「同じ」とは何か にまとめてあります。この記事は「割った先に演算が降りるのはいつか」を問うている、と読むと見通しがよくなります。

記号を確認します。以下、GG は群、その単位元を ee と書きます。H≤GH \le G は「HH が GG の部分群である」ことを表します。

定義 2.1(左剰余類・右剰余類・指数)↗

H≤GH \le G と a∈Ga \in G に対し、

aH:={ah:h∈H},Ha:={ha:h∈H}aH := \{ah : h \in H\}, \qquad Ha := \{ha : h \in H\}

をそれぞれ aa を含む HH の左剰余類、右剰余類という。左剰余類全体の集合を G/HG/H、右剰余類全体の集合を H\GH \backslash G と書く。G/HG/H の元の個数(有限とは限らない濃度)を HH の GG における指数といい [G:H][G : H] と書く。

左剰余類の基本性質を、あとで何度も使うのでまとめておきます。証明は前章の内容の再確認ですが、以降の議論はすべてこの命題の上に乗るので、行間を埋めて書きます。

命題 2.2(左剰余類の基本性質)✓

H≤GH \le G とし、a,b∈Ga, b \in G とする。

  1. h∈Hh \in H であることと hH=HhH = H であることは同値である。
  2. aH=bHaH = bH であることと a−1b∈Ha^{-1}b \in H であることは同値である。
  3. aH∩bH≠∅aH \cap bH \ne \varnothing ならば aH=bHaH = bH である。とくに左剰余類全体は GG の分割を与える。
  4. 写像 H→aH, h↦ahH \to aH,\ h \mapsto ah は全単射である。とくに ∣aH∣=∣H∣|aH| = |H|。
証明(命題 2.2)

(1) hH=HhH = H とすると、HH は単位元 ee を含むから h=he∈hH=Hh = he \in hH = H、よって h∈Hh \in H。逆に h∈Hh \in H とする。HH は積で閉じているので hH⊆HhH \subseteq H。逆向きの包含を見るために x∈Hx \in H を取ると、HH は逆元で閉じているので h−1∈Hh^{-1} \in H、したがって h−1x∈Hh^{-1}x \in H であり、x=h(h−1x)∈hHx = h(h^{-1}x) \in hH。ゆえに H⊆hHH \subseteq hH で、hH=HhH = H が従います。

(2) aH=bHaH = bH とすると b=be∈bH=aHb = be \in bH = aH なので、ある h∈Hh \in H が存在して b=ahb = ah。両辺に左から a−1a^{-1} を掛けて a−1b=h∈Ha^{-1}b = h \in H。逆に a−1b=h∈Ha^{-1}b = h \in H とすると b=ahb = ah であり、

bH=(ah)H=a(hH)=aHbH = (ah)H = a(hH) = aH

です。ここで 2 つ目の等号は積の結合律、3 つ目で (1) を使いました。

(3) x∈aH∩bHx \in aH \cap bH を取ると、x=ah1=bh2x = ah_1 = bh_2 となる h1,h2∈Hh_1, h_2 \in H があります。すると a−1b=h1h2−1∈Ha^{-1}b = h_1h_2^{-1} \in H(HH が部分群であることを使いました)なので、(2) より aH=bHaH = bH。また e∈He \in H より a=ae∈aHa = ae \in aH なので、どの元も少なくとも 1 つの左剰余類に属します。以上より左剰余類全体は GG を互いに交わらない部分集合に分割します。

(4) 全射性は aHaH の定義そのものです。単射性は、ah=ah′ah = ah' ならば左から a−1a^{-1} を掛けて h=h′h = h' となることから従います(群の消去律)。

注意 2.3

命題 2.2 の (2) と (3) は、a∼b  ⟺  defa−1b∈Ha \sim b \overset{\text{def}}{\iff} a^{-1}b \in H で定めた GG 上の二項関係が同値関係(定義 3.1)[関係と同値関係]であり、その同値類がちょうど左剰余類であることを言っています。Z\mathbb{Z} と H=nZH = n\mathbb{Z} の場合、a∼ba \sim b は b−a∈nZb - a \in n\mathbb{Z}、すなわち a≡b(modn)a \equiv b \pmod{n} に他なりません。合同式は左剰余類の特別な場合です。

商群を論じるには準同型の言葉も必要なので、ここで用意します。本格的な扱いは次章 群の準同型定理 で行います。

定義 2.4(準同型写像と核)↗

G,G′G, G' を群とし、G′G' の単位元を e′e' とする。写像 f:G→G′f : G \to G' が

f(xy)=f(x)f(y)(∀x,y∈G)f(xy) = f(x)f(y) \qquad (\forall x, y \in G)

を満たすとき、ff を群準同型という。このとき

ker⁡f:={x∈G:f(x)=e′},im⁡f:=f(G)\ker f := \{x \in G : f(x) = e'\}, \qquad \operatorname{im} f := f(G)

をそれぞれ ff の核、像という。全単射な準同型を同型といい、G≅G′G \cong G' と書く。

補題 2.5(準同型は単位元・逆元を保ち、核は部分群である)✓

群準同型 f:G→G′f : G \to G' について、f(e)=e′f(e) = e'、f(x−1)=f(x)−1f(x^{-1}) = f(x)^{-1} が成り立ち、ker⁡f\ker f は GG の部分群である。

証明(補題 2.5)

f(e)=f(ee)=f(e)f(e)f(e) = f(ee) = f(e)f(e) の両辺に f(e)−1f(e)^{-1} を掛けて e′=f(e)e' = f(e) を得ます。さらに e′=f(e)=f(xx−1)=f(x)f(x−1)e' = f(e) = f(xx^{-1}) = f(x)f(x^{-1}) より f(x−1)=f(x)−1f(x^{-1}) = f(x)^{-1}。また f(e)=e′f(e) = e' より e∈ker⁡fe \in \ker f、x,y∈ker⁡fx, y \in \ker f なら f(xy)=e′e′=e′f(xy) = e'e' = e'、x∈ker⁡fx \in \ker f なら f(x−1)=f(x)−1=(e′)−1=e′f(x^{-1}) = f(x)^{-1} = (e')^{-1} = e' なので、ker⁡f≤G\ker f \le G です。

注意 2.6

準同型 ff は単位元と逆元を保ちます(補題 2.5)。実際 f(e)=f(ee)=f(e)f(e)f(e) = f(ee) = f(e)f(e) の両辺に f(e)−1f(e)^{-1} を掛けて e′=f(e)e' = f(e) を得ます。さらに e′=f(e)=f(xx−1)=f(x)f(x−1)e' = f(e) = f(xx^{-1}) = f(x)f(x^{-1}) より f(x−1)=f(x)−1f(x^{-1}) = f(x)^{-1}。また ker⁡f\ker f は GG の部分群です。f(e)=e′f(e) = e' より e∈ker⁡fe \in \ker f、x,y∈ker⁡fx, y \in \ker f なら f(xy)=e′e′=e′f(xy) = e'e' = e'、x∈ker⁡fx \in \ker f なら f(x−1)=f(x)−1=(e′)−1=e′f(x^{-1}) = f(x)^{-1} = (e')^{-1} = e' だからです。

3. 代表元による積はいつ定まるか

Section titled “3. 代表元による積はいつ定まるか”

いよいよ本題です。H≤GH \le G に対して G/HG/H に演算を入れたい。定めたい規則は

(aH)⋅(bH):=(ab)H(aH) \cdot (bH) := (ab)H

です。この式の左辺は「2 つの集合」を入力とし、右辺は「代表元 a,ba, b」を経由して答えを作っています。同じ集合 aHaH に対して代表元 aa の取り方は ∣H∣|H| 通りあるので、答えが代表元によらないことを確かめないかぎり、この式は写像を定義していません。まず、確かめるべき条件を正確に書き下します。

(W)aH=a′H かつ bH=b′H ⟹ (ab)H=(a′b′)H(∀a,a′,b,b′∈G)\text{(W)} \qquad aH = a'H \ \text{かつ}\ bH = b'H \ \Longrightarrow\ (ab)H = (a'b')H \qquad (\forall a, a', b, b' \in G)

条件 (W) が成り立つとき、上の規則は G/H×G/H→G/HG/H \times G/H \to G/H の写像を定め、この演算は well-defined であるといいます。次の例が示すように、(W) は無条件には成り立ちません。

次の例を読むときの注意です。置換の積は右にある置換を先に施す約束なので、(1 3)(1 2)(1\,3)(1\,2) は「まず (1 2)(1\,2) で動かし、その行き先を (1 3)(1\,3) で動かす」と読みます。各元について 1↦2↦21 \mapsto 2 \mapsto 2 のように 2 段階で追えば、計算は機械的にできます。

例 3.1(3 次対称群で代表元の積が破綻する)

G=S3G = S_3({1,2,3}\{1,2,3\} の置換全体)とし、積は写像の合成 (στ)(x)=σ(τ(x))(\sigma\tau)(x) = \sigma(\tau(x)) とします。部分群として

H={e, (1 2)}H = \{e,\ (1\,2)\}

を取ります。∣H∣=2|H| = 2、[S3:H]=3[S_3 : H] = 3 です。

まず左剰余類を計算します。(1 3)(1 2)(1\,3)(1\,2) は、1↦2↦21 \mapsto 2 \mapsto 2、2↦1↦32 \mapsto 1 \mapsto 3、3↦3↦13 \mapsto 3 \mapsto 1 なので (1 2 3)(1\,2\,3) です。同様に (2 3)(1 2)(2\,3)(1\,2) は 1↦2↦31 \mapsto 2 \mapsto 3、2↦1↦12 \mapsto 1 \mapsto 1、3↦3↦23 \mapsto 3 \mapsto 2 なので (1 3 2)(1\,3\,2)。したがって

eH={e,(1 2)},(1 3)H={(1 3),(1 2 3)},(2 3)H={(2 3),(1 3 2)}.eH = \{e, (1\,2)\},\qquad (1\,3)H = \{(1\,3), (1\,2\,3)\},\qquad (2\,3)H = \{(2\,3), (1\,3\,2)\}.

一方、右剰余類は (1 2)(1 3)(1\,2)(1\,3) が 1↦3↦31 \mapsto 3 \mapsto 3、2↦2↦12 \mapsto 2 \mapsto 1、3↦1↦23 \mapsto 1 \mapsto 2 より (1 3 2)(1\,3\,2) なので

H(1 3)={(1 3),(1 3 2)}≠(1 3)HH(1\,3) = \{(1\,3), (1\,3\,2)\} \ne (1\,3)H

となり、左右の剰余類は一致しません。

ここで (W) を検証します。(1 3)H=(1 2 3)H(1\,3)H = (1\,2\,3)H なので、a=b=(1 3)a = b = (1\,3) と a′=b′=(1 2 3)a' = b' = (1\,2\,3) は同じ剰余類の代表元です。ところが

ab=(1 3)(1 3)=e ⟹ (ab)H=H,ab = (1\,3)(1\,3) = e \ \Longrightarrow\ (ab)H = H,a′b′=(1 2 3)(1 2 3)=(1 3 2) ⟹ (a′b′)H=(2 3)Ha'b' = (1\,2\,3)(1\,2\,3) = (1\,3\,2) \ \Longrightarrow\ (a'b')H = (2\,3)H

であり((1 2 3)(1 2 3)(1\,2\,3)(1\,2\,3) は 1↦2↦31 \mapsto 2 \mapsto 3、2↦3↦12 \mapsto 3 \mapsto 1、3↦1↦23 \mapsto 1 \mapsto 2 すなわち (1 3 2)(1\,3\,2))、H≠(2 3)HH \ne (2\,3)H です。代表元を取り替えただけで答えの剰余類が変わってしまいました。この HH については G/HG/H に代表元の積で演算を入れることはできません。

上の計算で求めた S3S_3 の 6 個の元を、左剰余類と右剰余類でそれぞれ組分けして並べると、組分けが食い違っている様子が見えます。

左剰余類 aH右剰余類 Hae(1 2)(1 3)(1 2 3)(2 3)(1 3 2)e(1 2)(1 3)(1 3 2)(2 3)(1 2 3)
S3 の 6 個の元を H = {e, (1 2)} の左剰余類(上段)と右剰余類(下段)で組分けした図。(1 3) と同じ組に入る相手が、上段では (1 2 3)、下段では (1 3 2) になっている

失敗の理由を見ると、左剰余類と右剰余類のずれが効いていることが分かります。実際、次の定理が成り立ちます。この記事で最も大事な主張です。

定理 3.2(剰余類の積が定まるための必要十分条件)✓

GG を群、H≤GH \le G とする。次の 4 条件は同値である。

  1. 条件 (W) が成り立つ。すなわち G/HG/H 上の演算 (aH)(bH):=(ab)H(aH)(bH) := (ab)H は well-defined である。
  2. すべての a∈Ga \in G に対して aHa−1⊆HaHa^{-1} \subseteq H。ここで aHa−1:={aha−1:h∈H}aHa^{-1} := \{aha^{-1} : h \in H\}。
  3. すべての a∈Ga \in G に対して aHa−1=HaHa^{-1} = H。
  4. すべての a∈Ga \in G に対して aH=HaaH = Ha。

証明の方針です。4 条件を (1) → (2) → (3) → (4) → (1) の順にひと回りさせます。最初の (1) → (2) では、(W) が任意の代表元の組で成り立つことを逆手にとり、同じ剰余類 HH の代表元として hh と ee をわざと選びます。そうすると結論が、HH の元を aa で挟んだ形 aha−1aha^{-1} で出てきます。残りの 3 つの矢印は、集合の包含や等式の書き換えです。

証明(定理 3.2)

(1)⇒(2)⇒(3)⇒(4)⇒(1)(1) \Rightarrow (2) \Rightarrow (3) \Rightarrow (4) \Rightarrow (1) の順に示します。

(1) ⇒\Rightarrow (2). a∈Ga \in G と h∈Hh \in H を任意に取ります。h∈Hh \in H なので 命題 2.2 の (1) より hH=H=eHhH = H = eH です。また a−1H=a−1Ha^{-1}H = a^{-1}H は自明に成り立ちます。そこで (W) を、第 1 成分の代表元 hh と ee、第 2 成分の代表元 a−1a^{-1} と a−1a^{-1} に適用すると

(ha−1)H=(ea−1)H=a−1H(h a^{-1})H = (e a^{-1})H = a^{-1}H

を得ます。命題 2.2 の (2) より、これは (ha−1)−1⋅a−1∈H(ha^{-1})^{-1} \cdot a^{-1} \in H、すなわち

ah−1a−1∈Ha h^{-1} a^{-1} \in H

と同値です。hh は HH 全体を動き、h↦h−1h \mapsto h^{-1} は HH から HH への全単射なので、h−1h^{-1} も HH 全体を動きます。したがって任意の h∈Hh \in H について aha−1∈Haha^{-1} \in H、つまり aHa−1⊆HaHa^{-1} \subseteq H です。

(2) ⇒\Rightarrow (3). (2) を aa に適用して aHa−1⊆HaHa^{-1} \subseteq H。次に (2) を a−1a^{-1} に適用すると a−1Ha⊆Ha^{-1}Ha \subseteq H です。この両辺を左から aa、右から a−1a^{-1} で挟むと

H=a(a−1Ha)a−1⊆aHa−1H = a(a^{-1}Ha)a^{-1} \subseteq aHa^{-1}

となります(X⊆YX \subseteq Y ならば aXa−1⊆aYa−1aXa^{-1} \subseteq aYa^{-1} であることを使いました)。2 つの包含を合わせて aHa−1=HaHa^{-1} = H です。ここで、(2) が任意の元について成り立つという全称の仮定が本質的に効いています。

(3) ⇒\Rightarrow (4). aHa−1=HaHa^{-1} = H の両辺に右から aa を掛けると aH=HaaH = Ha を得ます。集合の等式なので、より丁寧に言えば、x∈aHx \in aH なら x=ahx = ah と書けて x=(aha−1)a∈Hax = (aha^{-1})a \in Ha、逆に x∈Hax \in Ha なら x=hax = ha と書けて、(3) を a−1a^{-1} に対して使うと a−1ha∈Ha^{-1}ha \in H なので x=a(a−1ha)∈aHx = a(a^{-1}ha) \in aH です。

(4) ⇒\Rightarrow (1). aH=a′HaH = a'H、bH=b′HbH = b'H とします。命題 2.2 の (2) より a′=ah1a' = ah_1、b′=bh2b' = bh_2 となる h1,h2∈Hh_1, h_2 \in H が取れます。すると

a′b′=ah1bh2.a'b' = a h_1 b h_2 .

ここで h1b∈Hbh_1 b \in Hb であり、仮定 (4) を bb に適用すると Hb=bHHb = bH なので、ある h3∈Hh_3 \in H が存在して h1b=bh3h_1 b = b h_3 と書けます。したがって

a′b′=a(bh3)h2=(ab)(h3h2)∈(ab)Ha'b' = a (b h_3) h_2 = (ab)(h_3h_2) \in (ab)H

です(h3h2∈Hh_3h_2 \in H は HH が積で閉じていることによります)。一方 a′b′∈(a′b′)Ha'b' \in (a'b')H なので、(ab)H∩(a′b′)H≠∅(ab)H \cap (a'b')H \ne \varnothing となり、命題 2.2 の (3) から (ab)H=(a′b′)H(ab)H = (a'b')H を得ます。

正規性をめぐる 4 条件の同値性(矢印の向きに証明した)

この定理の値打ちは、条件 (2) が検証しやすいことにあります。(1) は 4 つの元にわたる全称命題ですが、(2) は「HH の元を共役で動かしても HH から出ない」という 1 つの部分集合の包含にすぎません。以降は主に (2) の形で正規性を確認します。

定義 4.1(正規部分群)↗

群 GG の部分群 NN が、すべての g∈Gg \in G に対して

gNg−1=NgNg^{-1} = N

を満たすとき、NN を GG の正規部分群といい、N⊴GN \trianglelefteq G と書く。定理 3.2 により、これは「すべての g∈Gg \in G で gNg−1⊆NgNg^{-1} \subseteq N」とも「すべての g∈Gg \in G で gN=NggN = Ng」とも同値である。

gxg−1g x g^{-1} を xx の gg による共役といいます。φg(x):=gxg−1\varphi_g(x) := gxg^{-1} と置くと φg(xy)=gxyg−1=(gxg−1)(gyg−1)=φg(x)φg(y)\varphi_g(xy) = gxyg^{-1} = (gxg^{-1})(gyg^{-1}) = \varphi_g(x)\varphi_g(y) なので φg\varphi_g は準同型で、φg−1\varphi_{g^{-1}} が逆写像なので GG から GG への同型(内部自己同型)です。したがって正規部分群とは、すべての内部自己同型で不動な部分群のことです。「不変部分群」という古い呼び名はこの見方によります。共役は「見る座標を取り替える操作」だと思ってください。SnS_n なら文字の番号の付け替え、GLn\mathrm{GL}_n なら基底の取り替えに対応します。正規部分群は、そうした付け替えに影響されない、群に内在的な部分群です。

「自己同型」とは、自分自身への同型(全単射な準同型)のことです。内部自己同型はそのうち、ある gg による共役 x↦gxg−1x \mapsto gxg^{-1} の形で得られるものを指します。つまり「すべての内部自己同型で不動」は、どの gg で共役しても NN が NN に戻る、という gNg−1=NgNg^{-1} = N の言い換えにすぎません。

命題 4.2(正規性の判定法)✓

GG を群とする。

  1. GG が可換ならば、GG のすべての部分群は正規である。
  2. H≤GH \le G が [G:H]=2[G : H] = 2 を満たすならば H⊴GH \trianglelefteq G である。
  3. Z(G):={z∈G:zx=xz (∀x∈G)}Z(G) := \{z \in G : zx = xz \ (\forall x \in G)\}(GG の中心)は GG の正規部分群である。
  4. f:G→G′f : G \to G' を群準同型とすると、ker⁡f⊴G\ker f \trianglelefteq G である。
  5. {Nλ}λ∈Λ\{N_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} を GG の正規部分群の族(Λ≠∅\Lambda \ne \varnothing)とすると、⋂λ∈ΛNλ⊴G\bigcap_{\lambda \in \Lambda} N_\lambda \trianglelefteq G である。
証明(命題 4.2)

(1) H≤GH \le G、g∈Gg \in G、h∈Hh \in H とすると、GG が可換なので ghg−1=hgg−1=h∈Hghg^{-1} = hgg^{-1} = h \in H。よって gHg−1⊆HgHg^{-1} \subseteq H が任意の gg で成り立ち、定理 3.2 の (2) から H⊴GH \trianglelefteq G。

(2) g∈Gg \in G を取ります。g∈Hg \in H のときは 命題 2.2 の (1) より gH=HgH = H で、右剰余類についても同じ議論で Hg=HHg = H なので gH=HggH = Hg。g∉Hg \notin H のときを考えます。左剰余類は GG を分割し(命題 2.2 の (3))、その個数は [G:H]=2[G:H] = 2 です。そのうち 1 つは H=eHH = eH ですから、もう 1 つは G∖HG \setminus H です。g∈gHg \in gH かつ g∉Hg \notin H なので gH≠HgH \ne H、よって gH=G∖HgH = G \setminus H。右剰余類についてもまったく同様に、右剰余類は GG を 2 つに分割し、一方は HH、他方は G∖HG \setminus H で、Hg≠HHg \ne H だから Hg=G∖HHg = G \setminus H。ゆえに gH=HggH = Hg です。定理 3.2 の (4) より H⊴GH \trianglelefteq G。

(3) まず Z(G)≤GZ(G) \le G を確かめます。ee はすべての元と可換なので e∈Z(G)e \in Z(G)。z,w∈Z(G)z, w \in Z(G) と x∈Gx \in G に対し

(zw)x=z(wx)=z(xw)=(zx)w=(xz)w=x(zw)(zw)x = z(wx) = z(xw) = (zx)w = (xz)w = x(zw)

なので zw∈Z(G)zw \in Z(G)。z∈Z(G)z \in Z(G) のとき、zx=xzzx = xz の両辺に左右から z−1z^{-1} を掛けて xz−1=z−1xxz^{-1} = z^{-1}x を得るので z−1∈Z(G)z^{-1} \in Z(G)。次に正規性ですが、g∈Gg \in G、z∈Z(G)z \in Z(G) に対し gzg−1=zgg−1=z∈Z(G)gzg^{-1} = zgg^{-1} = z \in Z(G) なので gZ(G)g−1⊆Z(G)gZ(G)g^{-1} \subseteq Z(G)。定理 3.2 より Z(G)⊴GZ(G) \trianglelefteq G。

(4) 補題 2.5 より ker⁡f≤G\ker f \le G です。g∈Gg \in G、n∈ker⁡fn \in \ker f に対し

f(gng−1)=f(g)f(n)f(g)−1=f(g) e′ f(g)−1=e′f(gng^{-1}) = f(g)f(n)f(g)^{-1} = f(g)\,e'\,f(g)^{-1} = e'

(1 つ目の等号で準同型性と 補題 2.5 の f(g−1)=f(g)−1f(g^{-1}) = f(g)^{-1} を使いました)。よって gng−1∈ker⁡fgng^{-1} \in \ker f、すなわち g(ker⁡f)g−1⊆ker⁡fg(\ker f)g^{-1} \subseteq \ker f で、定理 3.2 より ker⁡f⊴G\ker f \trianglelefteq G。

(5) N:=⋂λNλN := \bigcap_\lambda N_\lambda と置きます。各 NλN_\lambda が ee を含むので e∈Ne \in N。x,y∈Nx, y \in N なら各 λ\lambda で x,y∈Nλx, y \in N_\lambda、よって xy∈Nλxy \in N_\lambda、ゆえに xy∈Nxy \in N。同様に x−1∈Nx^{-1} \in N。よって N≤GN \le G です。g∈Gg \in G、x∈Nx \in N に対し、各 λ\lambda で x∈Nλx \in N_\lambda かつ Nλ⊴GN_\lambda \trianglelefteq G なので gxg−1∈Nλgxg^{-1} \in N_\lambda。これがすべての λ\lambda で成り立つので gxg−1∈Ngxg^{-1} \in N。よって gNg−1⊆NgNg^{-1} \subseteq N となり N⊴GN \trianglelefteq G。

例 4.3(正規部分群の代表例)

(a) 特殊線型群。 KK を体とし、det⁡:GLn(K)→K×\det : \mathrm{GL}_n(K) \to K^{\times} を行列式とします。行列式の乗法性 det⁡(AB)=det⁡Adet⁡B\det(AB) = \det A \det B(定理 6.1[行列式とその性質] を参照)はまさに det⁡\det が群準同型であることを言っており、その核は SLn(K)={A:det⁡A=1}\mathrm{SL}_n(K) = \{A : \det A = 1\} です。命題 4.2 の (4) より SLn(K)⊴GLn(K)\mathrm{SL}_n(K) \trianglelefteq \mathrm{GL}_n(K)。

(b) 交代群。 符号写像 sgn:Sn→{±1}\mathrm{sgn} : S_n \to \{\pm 1\} は準同型で、その核が交代群 AnA_n です。よって An⊴SnA_n \trianglelefteq S_n。n≥2n \ge 2 なら [Sn:An]=2[S_n : A_n] = 2 なので 命題 4.2 の (2) からも従います。

(c) 自明な例。 任意の群 GG で {e}⊴G\{e\} \trianglelefteq G と G⊴GG \trianglelefteq G が成り立ちます。g{e}g−1={geg−1}={e}g\{e\}g^{-1} = \{geg^{-1}\} = \{e\}、gGg−1=GgGg^{-1} = G だからです。この 2 つ以外に正規部分群を持たない非自明な群を単純群といいます。

(d) 非例。 例 3.1 の H={e,(1 2)}H = \{e, (1\,2)\} は S3S_3 の正規部分群ではありません。実際 (1 3)(1 2)(1 3)−1(1\,3)(1\,2)(1\,3)^{-1} を計算すると、(1 3)−1=(1 3)(1\,3)^{-1} = (1\,3) なので 1↦3↦3↦11 \mapsto 3 \mapsto 3 \mapsto 1、2↦2↦1↦32 \mapsto 2 \mapsto 1 \mapsto 3、3↦1↦2↦23 \mapsto 1 \mapsto 2 \mapsto 2 となり (2 3)∉H(2\,3) \notin H です。指数は 3 なので 命題 4.2 の (2) は使えず、実際に正規でないわけです。

次の注意は、「正規かどうか」は、どの群の中で考えるかによって変わる、という点を D4D_4 の具体的な計算で確かめるものです。N={e,s}N = \{e, s\} は HH の元で共役しても動きませんが、HH の外の元 rr で共役すると NN から出てしまいます。

注意 4.4

正規性は推移的ではありません。N⊴HN \trianglelefteq H かつ H⊴GH \trianglelefteq G でも N⊴GN \trianglelefteq G とは限りません。位数 8 の二面体群

D4=⟨r,s∣r4=s2=e, srs−1=r−1⟩D_4 = \langle r, s \mid r^4 = s^2 = e,\ srs^{-1} = r^{-1} \rangle

で確かめます。H:={e,r2,s,r2s}H := \{e, r^2, s, r^2s\} と置くと、sr2s−1=(srs−1)2=r−2=r2sr^2s^{-1} = (srs^{-1})^2 = r^{-2} = r^2 より sr2=r2ssr^2 = r^2s なので HH は積で閉じ、各元が位数 2 以下なので H≤D4H \le D_4 で ∣H∣=4|H| = 4、[D4:H]=2[D_4 : H] = 2 です。よって 命題 4.2 の (2) より H⊴D4H \trianglelefteq D_4。同様に N:={e,s}N := \{e, s\} は HH の指数 2 の部分群なので N⊴HN \trianglelefteq H。しかし srs−1=r−1srs^{-1} = r^{-1} から sr−1=rssr^{-1} = rs が従い、

rsr−1=r(sr−1)=r(rs)=r2s∉Nrsr^{-1} = r(sr^{-1}) = r(rs) = r^2s \notin N

なので NN は D4D_4 の正規部分群ではありません。「正規部分群の正規部分群」は元の群では正規とは限らない、という事実は、群の構造を段階的に分解するとき(組成列を考えるとき)に必ず意識する必要があります。

定理 5.1(商群)✓

GG を群、N⊴GN \trianglelefteq G とする。左剰余類全体の集合 G/NG/N 上の演算

(aN)(bN):=(ab)N(a,b∈G)(aN)(bN) := (ab)N \qquad (a, b \in G)

は well-defined であり、G/NG/N はこの演算について群になる。単位元は eN=NeN = N、aNaN の逆元は a−1Na^{-1}N である。GG が有限群のときは ∣G/N∣=[G:N]=∣G∣/∣N∣|G/N| = [G : N] = |G| / |N| が成り立つ。この群 G/NG/N を GG の NN による商群(剰余群)という。

証明(定理 5.1)

well-defined 性。 N⊴GN \trianglelefteq G なので 定理 3.2 の (4) が成り立ち、同定理の (4) ⇒\Rightarrow (1) により条件 (W) が成立します。すなわち代表元の取り方によらず (ab)N(ab)N が定まります。

結合律。 a,b,c∈Ga, b, c \in G に対し、演算の定義を 2 回ずつ使って

((aN)(bN))(cN)=((ab)N)(cN)=((ab)c)N,\bigl((aN)(bN)\bigr)(cN) = \bigl((ab)N\bigr)(cN) = \bigl((ab)c\bigr)N,(aN)((bN)(cN))=(aN)((bc)N)=(a(bc))N.(aN)\bigl((bN)(cN)\bigr) = (aN)\bigl((bc)N\bigr) = \bigl(a(bc)\bigr)N .

GG における結合律 (ab)c=a(bc)(ab)c = a(bc) より両者は等しくなります。

単位元。 任意の a∈Ga \in G に対し (eN)(aN)=(ea)N=aN(eN)(aN) = (ea)N = aN かつ (aN)(eN)=(ae)N=aN(aN)(eN) = (ae)N = aN。よって eN=NeN = N が単位元です。

逆元。 (aN)(a−1N)=(aa−1)N=eN=N(aN)(a^{-1}N) = (aa^{-1})N = eN = N かつ (a−1N)(aN)=(a−1a)N=eN=N(a^{-1}N)(aN) = (a^{-1}a)N = eN = N。よって aNaN の逆元は a−1Na^{-1}N です。

以上より G/NG/N は群です。位数については、∣G/N∣|G/N| は定義から左剰余類の個数、すなわち指数 [G:N][G:N] です。GG が有限群なら、命題 2.2 の (3) より GG は [G:N][G:N] 個の左剰余類に分割され、(4) より各剰余類の元の個数は ∣N∣|N| に等しいので ∣G∣=[G:N] ∣N∣|G| = [G:N]\,|N|、すなわち [G:N]=∣G∣/∣N∣[G:N] = |G|/|N|(ラグランジュの定理(定理 6.1)[部分群と剰余類])が成り立ちます。

商群の各元は GG の部分集合であることに注意してください。aNaN は「aa と NN の差しかない元をひとまとめにした袋」であり、商群の演算は袋どうしの積です。この様子を図にしておきます。

GG / NNaNbNeNaNbNπ
自然な射影 π は各剰余類をまるごと 1 点につぶす。N の内部の区別は完全に忘れられる

命題 5.2(自然な射影)✓

N⊴GN \trianglelefteq G とする。写像

π:G⟶G/N,π(g)=gN\pi : G \longrightarrow G/N, \qquad \pi(g) = gN

は全射準同型であり、ker⁡π=N\ker \pi = N が成り立つ。π\pi を自然な射影(標準全射)という。

証明(命題 5.2)

準同型性。 a,b∈Ga, b \in G に対し、商群の演算の定義そのものから

π(ab)=(ab)N=(aN)(bN)=π(a)π(b).\pi(ab) = (ab)N = (aN)(bN) = \pi(a)\pi(b).

全射性。 G/NG/N の任意の元は定義により、ある g∈Gg \in G を用いて gNgN と書けます。そしてこれは π(g)\pi(g) です。

核。 定理 5.1 より G/NG/N の単位元は N=eNN = eN です。よって

g∈ker⁡π  ⟺  gN=eN  ⟺  g−1e∈N  ⟺  g−1∈N  ⟺  g∈Ng \in \ker\pi \iff gN = eN \iff g^{-1}e \in N \iff g^{-1} \in N \iff g \in N

となります。2 つ目の同値は 命題 2.2 の (2)、最後の同値は NN が逆元で閉じていることによります。ゆえに ker⁡π=N\ker\pi = N。

系 5.3

群 GG の部分群 NN について、次は同値である。

  1. N⊴GN \trianglelefteq G。
  2. ある群 G′G' とある準同型 f:G→G′f : G \to G' が存在して N=ker⁡fN = \ker f。
証明(系 5.3)

(1)⇒(2)(1) \Rightarrow (2):命題 5.2 の π:G→G/N\pi : G \to G/N が ker⁡π=N\ker \pi = N を満たすので、G′=G/NG' = G/N、f=πf = \pi と取ればよい。(2)⇒(1)(2) \Rightarrow (1):命題 4.2 の (4) そのものです。

この系は概念的に重要です。正規部分群の定義「gNg−1=NgNg^{-1} = N」は一見すると技巧的な条件ですが、実は「準同型で潰れる部分」という意味を持っていたわけです。GG から出ていく準同型をすべて調べることと、GG の正規部分群をすべて調べることは、同じ仕事です。この対応を精密化したものが次章の準同型定理(G/ker⁡f≅im⁡fG/\ker f \cong \operatorname{im} f、定理 5.1[群の準同型定理])で、群の準同型定理 で扱います。

注意 5.4

g∈Gg \in G の位数が有限で gm=eg^m = e ならば (gN)m=gmN=eN=N(gN)^m = g^mN = eN = N なので、gNgN の位数は gg の位数を割り切ります。ただし真に小さくなることがあります。G=ZG = \mathbb{Z}、N=12ZN = 12\mathbb{Z}、g=1g = 1 とすると gg は無限位数ですが gNgN の位数は 12 です。商をとると元の位数は下がりこそすれ上がりません。

6. 例:整数の合同群 Z/nZ を隅々まで

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最も基本的な商群を細部まで確かめます。加法群 (Z,+)(\mathbb{Z}, +) が舞台なので、記号は加法的に書きます。剰余類は a+Na + N、演算は (a+N)+(b+N)=(a+b)+N(a+N) + (b+N) = (a+b)+N です。

補題 6.1

HH を加法群 Z\mathbb{Z} の部分群とすると、ただ 1 つの整数 n≥0n \ge 0 が存在して H=nZ={nk:k∈Z}H = n\mathbb{Z} = \{nk : k \in \mathbb{Z}\} となる。

証明(補題 6.1)

存在。 H={0}H = \{0\} なら n=0n = 0 と取れば H=0ZH = 0\mathbb{Z} です。以下 H≠{0}H \ne \{0\} とします。00 でない m∈Hm \in H が取れ、HH は逆元(加法なので −m-m)で閉じているので、mm と −m-m の少なくとも一方は正です。よって HH は正の整数を含みます。自然数の整列性より、HH に含まれる正の整数のうち最小のものが存在します。それを nn とします。

nZ⊆Hn\mathbb{Z} \subseteq H を示します。n∈Hn \in H で、HH は加法と逆元で閉じているので、帰納法により任意の k≥0k \ge 0 で nk∈Hnk \in H、また −(nk)=n(−k)∈H-(nk) = n(-k) \in H です(形式的には 数学的帰納法の原理(定理 3.2)[証明の技術] をそのまま使います)。よって nZ⊆Hn\mathbb{Z} \subseteq H。

逆の包含を示します。a∈Ha \in H を任意に取り、除法の原理により a=qn+ra = qn + r(q,r∈Zq, r \in \mathbb{Z}、0≤r<n0 \le r < n)と書きます。qn∈nZ⊆Hqn \in n\mathbb{Z} \subseteq H であり a∈Ha \in H なので r=a−qn∈Hr = a - qn \in H。もし r>0r > 0 なら rr は HH に含まれる正の整数で r<nr < n となり、nn の最小性に反します。よって r=0r = 0、つまり a=qn∈nZa = qn \in n\mathbb{Z}。以上より H=nZH = n\mathbb{Z}。

一意性。 nZ=n′Zn\mathbb{Z} = n'\mathbb{Z}(n,n′≥0n, n' \ge 0)とします。n=0n = 0 なら nZ={0}n\mathbb{Z} = \{0\} なので n′Z={0}n'\mathbb{Z} = \{0\}、よって n′=0n' = 0。n>0n > 0 のときは、nn は nZn\mathbb{Z} に含まれる最小の正の整数であり、同じことが n′n' についても言えるので n=n′n = n' です。

Z\mathbb{Z} は可換群なので、命題 4.2 の (1) よりすべての部分群が正規です。したがって 定理 5.1 により、任意の n≥0n \ge 0 に対して商群

Z/nZ={ a+nZ:a∈Z }\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} = \{\,a + n\mathbb{Z} : a \in \mathbb{Z}\,\}

が定まります。a+nZa + n\mathbb{Z} を aˉ\bar{a} と略記します。命題 2.2 の (2) を加法的に書き直すと

aˉ=bˉ  ⟺  −a+b∈nZ  ⟺  n∣b−a  ⟺  a≡b(modn)\bar{a} = \bar{b} \iff -a + b \in n\mathbb{Z} \iff n \mid b - a \iff a \equiv b \pmod{n}

なので、Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} の元はちょうど法 nn の合同類です。そして商群の演算 aˉ+bˉ=a+b‾\bar{a} + \bar{b} = \overline{a+b} が well-defined であるという主張は、初等整数論でおなじみの

a≡a′, b≡b′(modn) ⟹ a+b≡a′+b′(modn)a \equiv a',\ b \equiv b' \pmod{n} \ \Longrightarrow\ a + b \equiv a' + b' \pmod{n}

に他なりません(直接示すなら、n∣a−a′n \mid a - a' と n∣b−b′n \mid b - b' から n∣(a+b)−(a′+b′)n \mid (a+b) - (a'+b'))。定理 3.2 は、この素朴な事実が「nZn\mathbb{Z} が正規部分群だから成り立っていた」ことを教えてくれます。

例 6.2(Z/nZ の元とその位数)

n≥1n \ge 1 とします。

元の個数。 任意の a∈Za \in \mathbb{Z} に対し、除法の原理から a=qn+ra = qn + r(0≤r<n0 \le r < n)と書けるので aˉ=rˉ\bar{a} = \bar{r}。よって Z/nZ={0ˉ,1ˉ,…,n−1‾}\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} = \{\bar{0}, \bar{1}, \ldots, \overline{n-1}\} です。さらに 0≤r<r′<n0 \le r < r' < n なら 0<r′−r<n0 < r' - r < n なので n∤r′−rn \nmid r' - r、したがって rˉ≠r′ˉ\bar{r} \ne \bar{r'}。ゆえにこの nn 個は相異なり、∣Z/nZ∣=n|\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}| = n です。定理 5.1 の [G:N][G:N] の計算と整合しています。

巡回性。 aˉ=a1ˉ\bar{a} = a\bar{1}(1ˉ\bar{1} を aa 回加える、a<0a < 0 なら −1ˉ-\bar 1 を ∣a∣|a| 回)なので Z/nZ=⟨1ˉ⟩\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} = \langle \bar{1} \rangle は位数 nn の巡回群です。

元の位数。 aˉ\bar{a} の位数は n/gcd⁡(a,n)n/\gcd(a, n) です。実際 d:=gcd⁡(a,n)d := \gcd(a,n)、a=da′a = da'、n=dn′n = dn'(gcd⁡(a′,n′)=1\gcd(a', n') = 1)と置くと、k≥1k \ge 1 に対して

kaˉ=0ˉ  ⟺  n∣ka  ⟺  dn′∣kda′  ⟺  n′∣ka′  ⟺  n′∣kk\bar{a} = \bar{0} \iff n \mid ka \iff dn' \mid k d a' \iff n' \mid ka' \iff n' \mid k

です。最後の同値では、gcd⁡(a′,n′)=1\gcd(a', n') = 1 とユークリッドの補題(n′∣ka′n' \mid ka' かつ gcd⁡(n′,a′)=1\gcd(n', a') = 1 ならば n′∣kn' \mid k)を使いました。これを満たす最小の正の整数 kk は k=n′=n/dk = n' = n/d です。

生成元。 上より aˉ\bar{a} が Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} を生成する(位数が nn になる)のは gcd⁡(a,n)=1\gcd(a,n) = 1 のときに限ります。したがって生成元の個数はオイラー関数 φ(n)\varphi(n) に等しくなります。

例 6.3(時計の群 Z/12Z)

n=12n = 12 で具体的に計算します。例 6.2 の公式 ord(aˉ)=12/gcd⁡(a,12)\mathrm{ord}(\bar a) = 12/\gcd(a,12) を使うと次の表を得ます。

aa01234567891011
gcd⁡(a,12)\gcd(a,12)1212341614321
aˉ\bar a の位数1126431221234612

生成元は 1ˉ,5ˉ,7ˉ,11‾\bar1, \bar5, \bar7, \overline{11} の 4 個で、φ(12)=12(1−1/2)(1−1/3)=4\varphi(12) = 12(1 - 1/2)(1-1/3) = 4 と一致します。

部分群は 1212 の各正の約数 dd に対して ⟨dˉ⟩\langle \bar{d}\rangle(位数 12/d12/d)がひとつずつ、計 6 個です。たとえば

⟨3ˉ⟩={0ˉ,3ˉ,6ˉ,9ˉ},⟨4ˉ⟩={0ˉ,4ˉ,8ˉ}.\langle \bar{3}\rangle = \{\bar{0}, \bar{3}, \bar{6}, \bar{9}\}, \qquad \langle \bar{4}\rangle = \{\bar{0}, \bar{4}, \bar{8}\} .

Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} は可換なのでこれらはすべて正規部分群であり、さらに商群を作れます。N:=⟨3ˉ⟩N := \langle\bar 3\rangle とすると ∣(Z/12Z)/N∣=12/4=3|(\mathbb{Z}/12\mathbb{Z})/N| = 12/4 = 3 で、剰余類は

0ˉ+N={0ˉ,3ˉ,6ˉ,9ˉ},1ˉ+N={1ˉ,4ˉ,7ˉ,10‾},2ˉ+N={2ˉ,5ˉ,8ˉ,11‾}\bar0 + N = \{\bar0,\bar3,\bar6,\bar9\},\quad \bar1 + N = \{\bar1,\bar4,\bar7,\overline{10}\},\quad \bar2 + N = \{\bar2,\bar5,\bar8,\overline{11}\}

の 3 つです。aˉ+N\bar{a} + N が定まるのは aa の「3 で割った余り」だけなので、この商群は Z/3Z\mathbb{Z}/3\mathbb{Z} と同型で、操作としては「12 で割った余りを見たあと、さらに 3 で割った余りを見る」=「最初から 3 で割った余りを見る」に対応します。「商の商は商」というこの現象は、次章で第 3 同型定理として一般的に定式化されます(系 7.2[群の準同型定理])。

例 7.1(対称群・一般線型群・実数直線の商)

(a) S3/A3S_3/A_3. A3={e,(1 2 3),(1 3 2)}A_3 = \{e, (1\,2\,3), (1\,3\,2)\} は指数 2 なので 命題 4.2 の (2) より A3⊴S3A_3 \trianglelefteq S_3。商群は 2 元 {A3, (1 2)A3}\{A_3,\ (1\,2)A_3\} からなり、A3A_3 が偶置換の全体、(1 2)A3(1\,2)A_3 が奇置換の全体です。商群の演算は

(偶)(偶)=偶,(偶)(奇)=奇,(奇)(奇)=偶(\text{偶})(\text{偶}) = \text{偶},\quad (\text{偶})(\text{奇}) = \text{奇},\quad (\text{奇})(\text{奇}) = \text{偶}

という規則そのもので、S3/A3≅Z/2ZS_3/A_3 \cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} です。置換の「中身」は完全に忘れられ、偶奇の情報だけが残ります。

(b) GLn(R)/SLn(R)\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})/\mathrm{SL}_n(\mathbb{R}). 例 4.3 (a) より SLn(R)⊴GLn(R)\mathrm{SL}_n(\mathbb{R}) \trianglelefteq \mathrm{GL}_n(\mathbb{R}) です。S:=SLn(R)S := \mathrm{SL}_n(\mathbb{R}) と置くと、命題 2.2 の (2) より

AS=BS  ⟺  A−1B∈S  ⟺  det⁡(A−1B)=1  ⟺  det⁡A=det⁡BAS = BS \iff A^{-1}B \in S \iff \det(A^{-1}B) = 1 \iff \det A = \det B

なので、剰余類は行列式の値と 1 対 1 に対応します。演算は (AS)(BS)=(AB)S(AS)(BS) = (AB)S で、行列式は det⁡(AB)=det⁡Adet⁡B\det(AB) = \det A \det B と掛かるので、GLn(R)/SLn(R)≅R×\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})/\mathrm{SL}_n(\mathbb{R}) \cong \mathbb{R}^{\times} です。商群は「行列を、その行列式だけで見た世界」になっています。

(c) R/Z\mathbb{R}/\mathbb{Z}. (R,+)(\mathbb{R}, +) は可換なので Z⊴R\mathbb{Z} \trianglelefteq \mathbb{R} で、商群 R/Z\mathbb{R}/\mathbb{Z} が作れます。x+Z=y+Zx + \mathbb{Z} = y + \mathbb{Z} は x−y∈Zx - y \in \mathbb{Z} と同値なので、各剰余類はただ 1 つの代表元を区間 [0,1)[0,1) の中に持ちます(xx の小数部分)。演算は「足して整数部分を捨てる」、すなわち mod 1\mathrm{mod}\ 1 の加法です。写像 x+Z↦e2πixx + \mathbb{Z} \mapsto e^{2\pi i x} は well-defined(xx を x+mx + m に取り替えても e2πim=1e^{2\pi i m} = 1 より値が変わらない)な全単射準同型なので、R/Z\mathbb{R}/\mathbb{Z} は複素数平面の単位円周がなす乗法群と同型です。無限に伸びた直線を、長さ 1 ごとに巻き取って円にする操作が、群論的には「商をとる」ことにあたります。

これらの例に共通するのは、商群が「捨てたい情報を捨てたあとに残るもの」を表しているという点です。(a) では置換の細部を捨てて偶奇だけを残し、(b) では行列の細部を捨てて行列式だけを残し、(c) では実数の整数部分を捨てて小数部分だけを残しました。どの場合も「捨てる情報の全体」がちょうど正規部分群 NN であり、「残る情報」が商群 G/NG/N です。系 5.3 が言っていたのは、この「捨てる/残す」の分け方が準同型 1 つと同じものだ、ということでした。

群の一般論としての出発点は 群論入門 - 群の定義と例 にありますが、群の分類という大問題に立ち向かうときの基本方針は「正規部分群 NN を見つけて NN と G/NG/N に分解する」ことです。この方針が最後まで働かない群、すなわち単純群が分解の「素粒子」にあたります。方程式の可解性を群の分解で判定するガロア理論(ガロア理論への招待)も、正規部分群の連鎖を追う議論です(定理 5.4[ガロア理論への招待])。

演習 8.1易

Z/18Z\mathbb{Z}/18\mathbb{Z} において、12‾\overline{12} の位数を求め、⟨12‾⟩\langle \overline{12}\rangle の元をすべて書き出せ。さらに商群 (Z/18Z)/⟨12‾⟩(\mathbb{Z}/18\mathbb{Z})/\langle\overline{12}\rangle の位数を求めよ。

解答

例 6.2 より 12‾\overline{12} の位数は 18/gcd⁡(12,18)=18/6=318/\gcd(12,18) = 18/6 = 3 です。よって

⟨12‾⟩={0ˉ, 12‾, 24‾}={0ˉ, 12‾, 6ˉ}\langle \overline{12}\rangle = \{\bar 0,\ \overline{12},\ \overline{24}\} = \{\bar 0,\ \overline{12},\ \bar 6\}

(24=18+624 = 18 + 6 なので 24‾=6ˉ\overline{24} = \bar 6)。Z/18Z\mathbb{Z}/18\mathbb{Z} は可換なので 命題 4.2 の (1) よりこの部分群は正規で、定理 5.1 の位数の公式から

∣(Z/18Z)/⟨12‾⟩∣=183=6.\bigl|(\mathbb{Z}/18\mathbb{Z})/\langle\overline{12}\rangle\bigr| = \frac{18}{3} = 6 .

なお ⟨12‾⟩=⟨6ˉ⟩\langle\overline{12}\rangle = \langle\bar 6\rangle であり、これは「1818 の約数 66 に対応する部分群」です。

演習 8.2標準

N,M⊴GN, M \trianglelefteq G とする。N∩MN \cap M と NM:={nm:n∈N, m∈M}NM := \{nm : n \in N,\ m \in M\} がいずれも GG の正規部分群であることを示せ。

解答

N∩MN \cap M について。 命題 4.2 の (5) を Λ={1,2}\Lambda = \{1,2\}、N1=NN_1 = N、N2=MN_2 = M に適用すればそのまま従います。

NMNM について。 まず部分群であることを示します。e=ee∈NMe = ee \in NM。積で閉じることを見るために n1m1, n2m2∈NMn_1m_1,\ n_2m_2 \in NM を取ります。M⊴GM \trianglelefteq G より n2−1m1n2∈Mn_2^{-1}m_1n_2 \in M なので、これを m′m' と置くと m1n2=n2m′m_1 n_2 = n_2 m' です。よって

(n1m1)(n2m2)=n1(m1n2)m2=n1n2m′m2∈NM(n_1m_1)(n_2m_2) = n_1(m_1n_2)m_2 = n_1n_2m'm_2 \in NM

(n1n2∈Nn_1n_2 \in N、m′m2∈Mm'm_2 \in M)。逆元については、N⊴GN \trianglelefteq G より m−1n−1m∈Nm^{-1}n^{-1}m \in N なので

(nm)−1=m−1n−1=(m−1n−1m) m−1∈NM.(nm)^{-1} = m^{-1}n^{-1} = (m^{-1}n^{-1}m)\,m^{-1} \in NM .

よって NM≤GNM \le G です。

次に正規性です。g∈Gg \in G、n∈Nn \in N、m∈Mm \in M に対し、g−1g=eg^{-1}g = e を挟み込んで

g(nm)g−1=(gng−1)(gmg−1)∈NMg(nm)g^{-1} = (gng^{-1})(gmg^{-1}) \in NM

となります(gng−1∈Ngng^{-1} \in N は N⊴GN \trianglelefteq G、gmg−1∈Mgmg^{-1} \in M は M⊴GM \trianglelefteq G による)。よって g(NM)g−1⊆NMg(NM)g^{-1} \subseteq NM が任意の gg で成り立ち、定理 3.2 の (2) より NM⊴GNM \trianglelefteq G です。

なお、MM の正規性を落として MM を単なる部分群にすると NMNM は部分群にはなりますが(上の計算で M⊴GM \trianglelefteq G の代わりに N⊴GN \trianglelefteq G を使えばよい)、正規とは限りません。

次の演習の方針です。G/Z(G)G/Z(G) が巡回群なら、GG のどの元も「生成元 gg のべき」と「中心の元」の積に書けます。中心の元はだれとでも可換なので、この形の 2 つの元は順序を入れ替えても積が変わりません。

演習 8.3標準

群 GG について、商群 G/Z(G)G/Z(G) が巡回群ならば GG は可換であることを示せ。これを用いて、∣G∣=p2|G| = p^2(pp は素数)ならば GG は可換であることを示せ。ただしラグランジュの定理と「位数が素数の群は巡回群」は用いてよい。また Z(G)≠{e}Z(G) \ne \{e\}(pp 群の中心が自明でないこと)も認めてよい。

解答

Z:=Z(G)Z := Z(G) と書きます。命題 4.2 の (3) より Z⊴GZ \trianglelefteq G なので商群 G/ZG/Z が定まります。

前半。 G/Z=⟨gZ⟩G/Z = \langle gZ\rangle とします。任意の x∈Gx \in G を取ると xZ∈G/ZxZ \in G/Z なので、ある整数 kk で xZ=(gZ)k=gkZxZ = (gZ)^k = g^kZ。命題 2.2 の (2) より (gk)−1x∈Z(g^k)^{-1}x \in Z なので、z:=g−kx∈Zz := g^{-k}x \in Z と置けば x=gkzx = g^kz と書けます。同様に y∈Gy \in G は y=glwy = g^lw(w∈Zw \in Z)と書けます。z,wz, w は GG のすべての元と可換なので

xy=gkz glw=gkglzw=gk+lzw,yx=glw gkz=glgkwz=gk+lwz.xy = g^kz\,g^lw = g^kg^lzw = g^{k+l}zw, \qquad yx = g^lw\,g^kz = g^lg^kwz = g^{k+l}wz .

z,w∈Zz, w \in Z より zw=wzzw = wz(たとえば z∈Zz \in Z と w∈Gw \in G に中心の定義を使えばよい)なので xy=yxxy = yx。x,yx, y は任意だったので GG は可換です。

後半。 ∣G∣=p2|G| = p^2 とします。Z≤GZ \le G なのでラグランジュの定理より ∣Z∣∈{1,p,p2}|Z| \in \{1, p, p^2\} ですが、仮定より ∣Z∣≠1|Z| \ne 1 です。∣Z∣=p2|Z| = p^2 なら Z=GZ = G となり GG は可換です。∣Z∣=p|Z| = p の場合を排除します。このとき 定理 5.1 より ∣G/Z∣=p2/p=p|G/Z| = p^2/p = p なので、位数が素数の群は巡回群であることから G/ZG/Z は巡回群です。すると前半より GG は可換、つまり Z=GZ = G となり ∣Z∣=p2|Z| = p^2、これは ∣Z∣=p|Z| = p に矛盾します。よって ∣Z∣=p2|Z| = p^2 しかありえず、GG は可換です。

演習 8.4難

交代群 A4A_4(位数 12)には位数 6 の部分群が存在しないことを示せ。とくに、ラグランジュの定理の逆は成り立たない。

解答

H≤A4H \le A_4 で ∣H∣=6|H| = 6 となるものが存在したと仮定します。定理 5.1 の位数の公式より [A4:H]=12/6=2[A_4 : H] = 12/6 = 2 なので、命題 4.2 の (2) から H⊴A4H \trianglelefteq A_4 です。よって商群 A4/HA_4/H が定まり、その位数は 2 です。

位数 2 の群では、任意の元 uu について u2u^2 は単位元です(uu が単位元なら明らか、そうでなければ uu の位数はラグランジュの定理より 2)。π:A4→A4/H\pi : A_4 \to A_4/H を自然な射影(命題 5.2)とすると、任意の x∈A4x \in A_4 に対し

π(x2)=π(x)2=H\pi(x^2) = \pi(x)^2 = H

なので x2∈ker⁡π=Hx^2 \in \ker\pi = H です。

いま σ∈A4\sigma \in A_4 を 3 次巡回置換とします。σ3=e\sigma^3 = e なので (σ2)2=σ4=σ(\sigma^2)^2 = \sigma^4 = \sigma であり、上の事実を x=σ2x = \sigma^2 に適用すると σ=(σ2)2∈H\sigma = (\sigma^2)^2 \in H を得ます。すなわち A4A_4 に含まれるすべての 3 次巡回置換は HH の元です。

{1,2,3,4}\{1,2,3,4\} の 3 次巡回置換の個数は、動かす 3 文字の選び方が (43)=4\binom{4}{3} = 4 通り、選んだ 3 文字の巡回の仕方が 22 通りなので 4×2=84 \times 2 = 8 個です。3 次巡回置換は互換 2 個の積((a b c)=(a b)(b c)(a\,b\,c) = (a\,b)(b\,c))なので偶置換であり、すべて A4A_4 に属します。したがって ∣H∣≥8+1=9|H| \ge 8 + 1 = 9(単位元も加えた)となり、∣H∣=6|H| = 6 に矛盾します。

よって位数 6 の部分群は存在しません。6∣126 \mid 12 であるにもかかわらず位数 6 の部分群がないので、「∣G∣|G| の任意の約数 dd に対して位数 dd の部分群が存在する」というラグランジュの定理の逆は偽です。

  • 松坂和夫『代数系入門』岩波書店、1976 — 第 3 章(群論)に剰余類・正規部分群・商群の詳しい解説があります。日本語で最も丁寧な入門書のひとつです。
  • 桂利行『代数学 I 群と環』東京大学出版会、2004 — 第 1 章。正規部分群と準同型定理を簡潔にまとめています。
  • 雪江明彦『代数学 1 群論入門』日本評論社、2010 — 第 2 章。具体例が豊富で、SnS_n や DnD_n での計算練習に向いています。
  • S. Lang, Algebra, 3rd revised ed., Springer GTM 211, 2002 — Chapter I(Groups)。商群と準同型定理を圏論的な言葉づかいで整理しています。
  • D. S. Dummit and R. M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004 — Chapter 3(Quotient Groups and Homomorphisms)。正規部分群の判定法と豊富な演習があります。
  • C. F. Gauss, Disquisitiones Arithmeticae, 1801 — 第 1 章。合同式の記法と、合同式が加減乗について保たれることの原典です。

Appendix: 正規部分群は共役類の合併である

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共役で互いに移り合う元をひとまとめにしたものを共役類といいます。正規部分群は「共役してもはみ出さない部分群」なので、共役類をまるごと含むはずです。この付録はその見方を確かめ、S3S_3 と A4A_4 で使ってみます。

共役による分割。 群 GG 上の関係 x≈y  ⟺  ∃g∈G, y=gxg−1x \approx y \iff \exists g \in G,\ y = gxg^{-1} は同値関係です(x=exe−1x = exe^{-1} で反射的、y=gxg−1y = gxg^{-1} なら x=g−1y(g−1)−1x = g^{-1}y(g^{-1})^{-1} で対称的、y=gxg−1y = gxg^{-1} かつ z=hyh−1z = hyh^{-1} なら z=(hg)x(hg)−1z = (hg)x(hg)^{-1} で推移的)。この同値類を共役類といいます。定義から、部分群 N≤GN \le G について

N⊴G  ⟺  N は共役類たちの合併であるN \trianglelefteq G \iff N \text{ は共役類たちの合併である}

が成り立ちます。実際、N⊴GN \trianglelefteq G なら x∈Nx \in N の共役 gxg−1gxg^{-1} はすべて NN に属するので NN は xx の共役類を丸ごと含み、逆に NN が共役類の合併なら gNg−1⊆NgNg^{-1} \subseteq N が任意の gg で成り立つので 定理 3.2 より正規です。この言い換えは、有限群の正規部分群をすべて列挙するときの実際的な道具になります。共役類の大きさの合計が ∣N∣|N| になり、かつ ∣N∣|N| が ∣G∣|G| を割り切る(ラグランジュの定理)という制約が強く効くからです。

S3S_3 の場合。 S3S_3 の共役類は {e}\{e\}(1 個)、互換の類 {(1 2),(1 3),(2 3)}\{(1\,2),(1\,3),(2\,3)\}(3 個)、3 次巡回置換の類 {(1 2 3),(1 3 2)}\{(1\,2\,3),(1\,3\,2)\}(2 個)の 3 つです。ee を含む共役類の合併で位数が 66 の約数になるものは、11、1+2=31+2 = 3、1+3+2=61+3+2 = 6 の 3 通りです(1+3=41+3 = 4 は 6 を割りません)。対応する部分集合はそれぞれ {e}\{e\}、A3A_3、S3S_3 で、いずれも部分群です。よって S3S_3 の正規部分群は {e}, A3, S3\{e\},\ A_3,\ S_3 の 3 つに限ります。例 3.1 の {e,(1 2)}\{e,(1\,2)\} が正規でなかったことも、それが互換の共役類の一部しか含まないことから直ちに分かります。

A4A_4 の場合。 V:={e, (1 2)(3 4), (1 3)(2 4), (1 4)(2 3)}V := \{e,\ (1\,2)(3\,4),\ (1\,3)(2\,4),\ (1\,4)(2\,3)\} を考えます。共役の計算は σ(a b)(c d)σ−1=(σ(a) σ(b))(σ(c) σ(d))\sigma (a\,b)(c\,d) \sigma^{-1} = (\sigma(a)\,\sigma(b))(\sigma(c)\,\sigma(d)) という規則に従うので、σ=(1 2 3)\sigma = (1\,2\,3) で (1 2)(3 4)(1\,2)(3\,4) を共役させると (2 3)(1 4)(2\,3)(1\,4)、σ=(1 3 2)\sigma = (1\,3\,2) なら (3 1)(2 4)(3\,1)(2\,4) が得られます。つまり 3 つの二重互換は A4A_4 の中で互いに共役であり、VV は共役類 {e}\{e\} とこの 3 元類の合併です。VV が部分群であること(2 つの二重互換の積が第 3 の二重互換になること、各元が位数 2 であること)を確かめれば、上の判定により V⊴A4V \trianglelefteq A_4 が従います。定理 5.1 より ∣A4/V∣=12/4=3|A_4/V| = 12/4 = 3 で、この商群は位数 3 の巡回群です。演習 8.4 と合わせると、A4A_4 は位数 6 の部分群を持たないのに位数 4 の正規部分群を持つ、という非対称な姿が見えてきます。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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