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なぜ場の量子論が必要か:一粒子の量子力学が相対論と両立しない理由

対象読者: 学部レベルの量子力学(シュレーディンガー方程式・波動関数)と特殊相対論(ローレンツ変換・エネルギー運動量関係)を学んだ人。場の量子論は仮定しません。

前提となる記事:量子力学の誕生:黒体放射・光電効果・物質波が壊した古典像、特殊相対性理論の原理:ガリレイの相対性から二つの公準へ、ニュートン力学の基礎:三法則から運動量・エネルギー保存則へ

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原子が光を出すと、光の粒が 1 個増えます。ところが、習ってきた量子力学では粒子の数は最初から決まっていて、増えも減りもしません。この記事では、量子力学と相対性理論をそのまま組み合わせるとどこが壊れるのかを三つの角度から確かめ、壊れたあとに何が残るのかを見ます。読み終えると、「粒子とは、場と呼ばれる広がったものが揺れたときの最小の単位である」という見方が、なぜ避けられないのかを説明できるようになります。以下の箇条書きは全体の見取り図なので、知らない言葉があっても、各節で順に説明するので先に進んでかまいません。

  • 非相対論的量子力学は、粒子数 NN を固定した Hilbert 空間 L2(R3N)L^2(\mathbb{R}^{3N}) の上に作られています。粒子の生成・消滅を書く場所が枠組みに存在しません。
  • 相対論的な分散関係 E2=p2c2+m2c4E^2 = \boldsymbol{p}^2c^2 + m^2c^4 を素朴に演算子へ置き換えるとクライン・ゴルドン方程式が得られますが、負エネルギー解が必ず現れ、保存カレント(保存される量の密度と流れをまとめたもの)の時間成分は負にもなります。確率密度として読めません。
  • ディラック方程式は確率密度の正値性を回復しますが、負エネルギー解は消えません。「ディラックの海」は実質的に無限個の粒子を持ち込む多体理論であり、ボソンには使えません。
  • さらに深刻なのは因果律です。H=−∇2+m2H = \sqrt{-\nabla^2 + m^2} による一粒子の時間発展はコンパクト台(有限の範囲に収まった台)を瞬時に壊し、空間的に隔たった点への伝播振幅もゼロになりません。
  • 出口はひとつ、場 ϕ(x)\phi(x) を量子化することです。自由場は各モードが独立な調和振動子になり、その励起量子が分散関係 E=p2+m2E = \sqrt{\boldsymbol{p}^2 + m^2} をもつ粒子として現れます。
  • 因果律は「振幅がゼロ」ではなく「空間的隔たりで交換子がゼロ」として実現されます。この打ち消しには反粒子が要り、反粒子の存在は相対論と量子力学の帰結です。

1. 動機:光子はどこから来るのか

Section titled “1. 動機:光子はどこから来るのか”

素朴な疑問から始めます。励起した原子が基底状態に落ちるとき、光子が 1 個放出されます。放出の前には光子は存在せず、後には存在します。ところが シュレーディンガー方程式と波動関数 の枠組み(状態と波動関数の定義(定義 2.1)[シュレーディンガー方程式と波動関数])では、状態は NN 個の粒子の座標の関数 ψ(x1,…,xN,t)\psi(\boldsymbol{x}_1,\ldots,\boldsymbol{x}_N,t) であり、NN は方程式を書いた瞬間に固定されます。粒子が 1 個増える過程を書く場所がどこにもありません。

同じことは電子と陽電子の対消滅 e−e+→γγe^- e^+ \to \gamma\gamma でも起こります。始状態は質量をもつ粒子 2 個、終状態は質量ゼロの粒子 2 個です。粒子の個数だけでなく種類まで変わります。

歴史的にも、この困難は量子力学の完成とほぼ同時に自覚されていました。シュレーディンガーが 1925 年末に最初に書いた波動方程式は相対論的なもの(現在クライン・ゴルドン方程式と呼ばれるもの)でしたが、水素原子の微細構造が実験と合わないため彼はこれを捨て、非相対論的な方程式を発表します。1926 年にクライン、ゴルドン、フォックらが独立に再発見した同じ方程式には、確率密度が負になるという病がついていました。

一方、ディラックは 1927 年の論文で電磁場そのものを量子化し、原子による光の放出・吸収を第一原理から計算してみせます。これが最初の場の量子論です。電磁場は古典的にも「場」であり、その量子化から光子という粒子が出てきました。自然な問いが立ちます。

電子もまた、何らかの場の量子なのではないか。

答えは「そうです」。ただしその結論に到達するには、一粒子の相対論的量子力学がどのように破綻するかを正確に知る必要があります。以下では破綻を三つの層(負エネルギー、確率解釈、因果律)に分けて示し、場の量子化がそれらを同時に解くことを見ます。

一粒子の相対論的量子力学が破綻し、場の量子化へ至る道筋

2. 準備:非相対論的量子力学が暗黙に置いている二つの仮定

Section titled “2. 準備:非相対論的量子力学が暗黙に置いている二つの仮定”

以下、特に断らない限り自然単位系 ℏ=c=1\hbar = c = 1 を使い、計量は ημν=diag(+1,−1,−1,−1)\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1) と取ります。時空点は x=(t,x)x = (t,\boldsymbol{x})、内積は p⋅x=p0t−p⋅xp\cdot x = p^0 t - \boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{x}、質量殻上のエネルギーは ωp=p2+m2\omega_{\boldsymbol{p}} = \sqrt{\boldsymbol{p}^2 + m^2} と書きます。□=∂μ∂μ=∂t2−∇2\Box = \partial_\mu\partial^\mu = \partial_t^2 - \nabla^2 です。

非相対論的量子力学は、次の二つを暗黙に仮定しています。破綻はどちらもここから来ます。

(A1) 粒子数の固定。 状態空間は HN=L2(R3N)\mathcal{H}_N = L^2(\mathbb{R}^{3N})(同種粒子なら対称化または反対称化した部分空間)です。ハミルトニアンは HN\mathcal{H}_N を HN\mathcal{H}_N に写すので、粒子数 NN は定義により保存します。保存則を証明したのではなく、保存しない状況を書けない空間を選んだだけです。

(A2) 時間と空間の非対称性。 位置 x^\hat{\boldsymbol{x}} は演算子ですが、時刻 tt は演算子ではなく単なるパラメータです。正準交換関係は [x^i,p^j]=iδij[\hat{x}^i, \hat{p}^j] = i\delta^{ij} であり、tt はここに現れません。ところが ローレンツ変換(ブーストの変換則(定理 6.1)[ローレンツ変換])は tt と x\boldsymbol{x} を混ぜます。「演算子である量」と「パラメータである量」が変換で混ざってしまうので、この区別はローレンツ不変ではありません。

次の注意は、「時間も演算子にすればよい」という自然な思いつきがうまくいかないことを確かめるものです。要点は、そのような演算子があるとエネルギーの値が全実数にわたってしまい、エネルギーに下限がある通常の系と食い違う、という点です。

注意 2.1(時間演算子を導入する道は塞がっている)

(A2) を直すには、tt を演算子に格上げすればよいと思うかもしれません。しかし [T^,H^]=i[\hat{T},\hat{H}] = i を満たす自己共役な T^\hat{T} が存在すると仮定すると、[T^,H^][\hat T,\hat H] が c 数なので Baker–Campbell–Hausdorff 展開は 1 次で止まり、

eiϵT^H^e−iϵT^=H^+iϵ[T^,H^]=H^−ϵe^{i\epsilon \hat T}\hat H e^{-i\epsilon \hat T} = \hat H + i\epsilon[\hat T,\hat H] = \hat H - \epsilon

となります。左辺はユニタリ変換ですからスペクトルを変えません。よって H^\hat H のスペクトルは任意の実数 ϵ\epsilon だけ平行移動しても不変、すなわち R\mathbb{R} 全体でなければなりません。エネルギーが下に有界な系ではこれは成り立ちません(パウリの議論)。したがって進むべき方向は逆で、x^\hat{\boldsymbol{x}} を演算子から降格させ、x=(t,x)x = (t,\boldsymbol{x}) をどちらも単なるラベルにします。演算子になるのは、各時空点に値をもつ場 ϕ(x)\phi(x) の方です。

3. 素朴な相対論化:クライン・ゴルドン方程式の二つの病

Section titled “3. 素朴な相対論化:クライン・ゴルドン方程式の二つの病”

非相対論では E=p2/2mE = \boldsymbol{p}^2/2m に E→i∂tE \to i\partial_t、p→−i∇\boldsymbol{p}\to -i\nabla を代入してシュレーディンガー方程式を得ました。相対論的な関係式 E2=p2+m2E^2 = \boldsymbol{p}^2 + m^2(相対論的力学 の エネルギー・運動量関係式(定理 4.4)[相対論的力学])に同じ置き換えを施します。

定義 3.1(クライン・ゴルドン方程式)↗

質量 m>0m > 0 の複素スカラー場(あるいは一粒子波動関数の候補)ϕ(t,x)\phi(t,\boldsymbol{x}) に対する方程式

(□+m2)ϕ=0,□=∂t2−∇2\left(\Box + m^2\right)\phi = 0, \qquad \Box = \partial_t^2 - \nabla^2

をクライン・ゴルドン方程式と呼びます。

病その 1:負エネルギー解は捨てられない

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平面波 ϕ=Ne−i(Et−p⋅x)\phi = N e^{-i(Et - \boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{x})} を代入すると −E2+p2+m2=0-E^2 + \boldsymbol{p}^2 + m^2 = 0、すなわち

E=± ωp=±p2+m2E = \pm\,\omega_{\boldsymbol{p}} = \pm\sqrt{\boldsymbol{p}^2 + m^2}

の二つの枝が出ます。負の枝は「エネルギーが下に有界でない」ことを意味し、系を摂動すればいくらでも低い状態へ落ち続けられます。

「負エネルギー解は非物理的だから捨てればよい」と言いたくなりますが、捨てられません。理由は初期値問題の構造にあります。クライン・ゴルドン方程式は時間について 2 階なので、Cauchy データは ϕ(0,x)\phi(0,\boldsymbol{x}) と ϕ˙(0,x)\dot\phi(0,\boldsymbol{x}) の二つの任意関数です。空間 Fourier 変換すると各 p\boldsymbol{p} について ϕ~¨=−ωp2ϕ~\ddot{\tilde\phi} = -\omega_{\boldsymbol p}^2\tilde\phi となり、一般解は

ϕ~(t,p)=a(p)e−iωpt+b(p)e+iωpt\tilde\phi(t,\boldsymbol{p}) = a(\boldsymbol{p})e^{-i\omega_{\boldsymbol p}t} + b(\boldsymbol{p})e^{+i\omega_{\boldsymbol p}t}

です。正振動数だけに制限する(b≡0b \equiv 0 とする)ことは、ϕ~˙(0,p)=−iωpϕ~(0,p)\dot{\tilde\phi}(0,\boldsymbol{p}) = -i\omega_{\boldsymbol{p}}\tilde\phi(0,\boldsymbol{p}) という拘束条件を課すことに他なりません。位置空間では ϕ˙(0,⋅)=−i−∇2+m2 ϕ(0,⋅)\dot\phi(0,\cdot) = -i\sqrt{-\nabla^2+m^2}\,\phi(0,\cdot) という非局所的な関係で、初期条件を局所的に自由に指定する権利を放棄したことになります。この非局所性が何を壊すかは 命題 5.1 で見ます。

病その 2:保存カレントの時間成分が負になる

Section titled “病その 2:保存カレントの時間成分が負になる”

シュレーディンガー方程式では ρ=∣ψ∣2≥0\rho = \lvert\psi\rvert^2 \ge 0 が連続の方程式を満たし(確率の連続の方程式(定理 4.2)[シュレーディンガー方程式と波動関数])、確率密度として読めました。クライン・ゴルドン方程式でも保存カレントは作れますが、正値性が失われます。

命題 3.2(クライン・ゴルドンのカレントとその非正値性)✓

ϕ\phi が 定義 3.1 の解であるとき、

jμ=i2m(ϕ∗∂μϕ−(∂μϕ∗)ϕ)j^\mu = \frac{i}{2m}\left(\phi^{*}\partial^\mu\phi - (\partial^\mu\phi^{*})\phi\right)

は ∂μjμ=0\partial_\mu j^\mu = 0 を満たす。さらに平面波解 ϕ=Ne−i(Et−p⋅x)\phi = Ne^{-i(Et-\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{x})}(E=±ωpE = \pm\omega_{\boldsymbol p})に対して

j0=Em∣N∣2j^0 = \frac{E}{m}\lvert N\rvert^2

となる。したがって負エネルギー解では j0<0j^0 < 0 であり、j0j^0 は確率密度として解釈できない。

証明(命題 3.2)

まず保存を確かめます。積の微分から

∂μjμ=i2m(∂μϕ∗∂μϕ+ϕ∗□ϕ−(□ϕ∗)ϕ−∂μϕ∗∂μϕ)=i2m(ϕ∗□ϕ−(□ϕ∗)ϕ).\partial_\mu j^\mu = \frac{i}{2m}\left(\partial_\mu\phi^{*}\partial^\mu\phi + \phi^{*}\Box\phi - (\Box\phi^{*})\phi - \partial_\mu\phi^{*}\partial^\mu\phi\right) = \frac{i}{2m}\left(\phi^{*}\Box\phi - (\Box\phi^{*})\phi\right).

第 1 項と第 4 項が相殺しました。ここで 定義 3.1 より □ϕ=−m2ϕ\Box\phi = -m^2\phi、複素共役を取って □ϕ∗=−m2ϕ∗\Box\phi^{*} = -m^2\phi^{*} ですから

∂μjμ=i2m(−m2ϕ∗ϕ+m2ϕ∗ϕ)=0\partial_\mu j^\mu = \frac{i}{2m}\left(-m^2\phi^{*}\phi + m^2\phi^{*}\phi\right) = 0

です。次に j0j^0 を計算します。計量の取り方から ∂0=η00∂0=∂t\partial^0 = \eta^{00}\partial_0 = \partial_t なので j0=i2m(ϕ∗ϕ˙−ϕ˙∗ϕ)j^0 = \frac{i}{2m}(\phi^{*}\dot\phi - \dot\phi^{*}\phi) です。平面波では ϕ˙=−iEϕ\dot\phi = -iE\phi、ϕ˙∗=+iEϕ∗\dot\phi^{*} = +iE\phi^{*} ですから

j0=i2m(∣N∣2(−iE)−(iE)∣N∣2)=i2m(−2iE∣N∣2)=Em∣N∣2.j^0 = \frac{i}{2m}\left(\lvert N\rvert^2(-iE) - (iE)\lvert N\rvert^2\right) = \frac{i}{2m}\left(-2iE\lvert N\rvert^2\right) = \frac{E}{m}\lvert N\rvert^2 .

E=−ωp<0E = -\omega_{\boldsymbol p} < 0 の枝では右辺は負です。密度が負になる量は確率密度ではありません。

例 3.3(非相対論極限では正しい確率密度に戻る)

j0j^0 が完全に無意味というわけではありません。静止エネルギーを取り出して ϕ(t,x)=e−imtψ(t,x)\phi(t,\boldsymbol{x}) = e^{-imt}\psi(t,\boldsymbol{x}) と書き、非相対論極限 ∣ψ˙∣≪m∣ψ∣\lvert\dot\psi\rvert \ll m\lvert\psi\rvert を仮定します。すると

ϕ˙=e−imt(ψ˙−imψ)≃−im e−imtψ\dot\phi = e^{-imt}\left(\dot\psi - im\psi\right) \simeq -im\,e^{-imt}\psi

なので、命題 3.2 の j0j^0 の表式に代入して

j0≃i2m(ψ∗(−imψ)−(imψ∗) ψ)=i2m(−2im∣ψ∣2)=∣ψ∣2j^0 \simeq \frac{i}{2m}\left(\psi^{*}(-im\psi) - (im\psi^{*})\,\psi\right) = \frac{i}{2m}\left(-2im\lvert\psi\rvert^2\right) = \lvert\psi\rvert^2

が得られます。シュレーディンガー方程式の確率密度に一致します。つまり j0j^0 は非相対論極限で確率密度に「見える」量であり、相対論的な領域で符号を変えるのです。

注意 3.4(病は解釈の誤りだった)

先回りして種を明かすと、jμj^\mu 自体は正しい保存量です。誤っていたのは「これは確率密度である」という読み方の方でした。場の量子論では e jμe\,j^\mu は電荷カレントであり、電荷は正にも負にもなります。j0<0j^0 < 0 の解は「確率が負の粒子」ではなく「反対符号の電荷をもつ粒子」、すなわち反粒子を表します。この読み替えは 1934 年にパウリとワイスコフがクライン・ゴルドン方程式を場として量子化して確立しました。詳しくは 定理 7.1 のあとで扱います。

4. ディラックの解決とその代償

Section titled “4. ディラックの解決とその代償”

ディラックは 1928 年、確率密度の非正値性の原因を「時間について 2 階であること」に求めました。1 階の方程式なら、シュレーディンガー方程式と同様に ρ=ψ†ψ≥0\rho = \psi^\dagger\psi \ge 0 が保存量になるはずです。

定義 4.1(ディラック方程式)↗

NN 成分の波動関数 ψ(t,x)∈CN\psi(t,\boldsymbol{x}) \in \mathbb{C}^N に対する 1 階の方程式

i ∂tψ=H^ψ,H^=α⋅p^+βmi\,\partial_t \psi = \hat H\psi, \qquad \hat H = \boldsymbol{\alpha}\cdot\hat{\boldsymbol{p}} + \beta m

をディラック方程式と呼びます。ここで α1,α2,α3,β\alpha^1,\alpha^2,\alpha^3,\beta は N×NN\times N のエルミート行列で、H^2=p^2+m2\hat H^2 = \hat{\boldsymbol{p}}^2 + m^2 が成り立つよう

{αi,αj}=2δij1,{αi,β}=0,β2=1\{\alpha^i,\alpha^j\} = 2\delta^{ij}\mathbb{1}, \qquad \{\alpha^i,\beta\} = 0, \qquad \beta^2 = \mathbb{1}

を満たすものとします。

この関係式が H^2=p^2+m2\hat H^2 = \hat{\boldsymbol{p}}^2 + m^2 と同値であることは、展開すれば見えます。なお {A,B}=AB+BA\{A,B\} = AB+BA を反交換子と呼びます。

H^2=αiαjp^ip^j+m(αiβ+βαi)p^i+β2m2=12{αi,αj}p^ip^j+m{αi,β}p^i+β2m2.\hat H^2 = \alpha^i\alpha^j \hat p_i\hat p_j + m\left(\alpha^i\beta + \beta\alpha^i\right)\hat p_i + \beta^2 m^2 = \tfrac{1}{2}\{\alpha^i,\alpha^j\}\hat p_i\hat p_j + m\{\alpha^i,\beta\}\hat p_i + \beta^2m^2 .

第 1 項で p^ip^j\hat p_i \hat p_j が i↔ji \leftrightarrow j について対称なので αiαj\alpha^i\alpha^j の対称部分だけが効き、それが反交換子の半分です。よって上の三条件のもとで H^2=δijp^ip^j+m2=p^2+m2\hat H^2 = \delta^{ij}\hat p_i\hat p_j + m^2 = \hat{\boldsymbol{p}}^2 + m^2 となります。

H^\hat H がエルミートなので、ρ=ψ†ψ\rho = \psi^\dagger\psi と j=ψ†αψ\boldsymbol{j} = \psi^\dagger\boldsymbol{\alpha}\psi が連続の方程式 ∂tρ+∇⋅j=0\partial_t\rho + \nabla\cdot\boldsymbol{j} = 0 を満たし、しかも ρ≥0\rho \ge 0 です。命題 3.2 の病その 2 は解決しました。ところが病その 1 は残ります。

次の定理は、行列の対角成分の和(トレース)を使って、正と負のエネルギーの固有値が同じ数ずつ現れることを示すものです。証明で使うトレースの巡回性とは、tr⁡(AB)=tr⁡(BA)\operatorname{tr}(AB) = \operatorname{tr}(BA) という性質のことです。

定理 4.2(ディラック・ハミルトニアンは下に有界でない)✓

定義 4.1 の条件を満たす N×NN\times N エルミート行列 αi,β\alpha^i,\beta が存在するとする。運動量固有値 p\boldsymbol{p} に対する行列 H(p)=α⋅p+βmH(\boldsymbol{p}) = \boldsymbol{\alpha}\cdot\boldsymbol{p} + \beta m について、次が成り立つ。

  1. tr⁡αi=0\operatorname{tr}\alpha^i = 0(i=1,2,3i=1,2,3)かつ tr⁡β=0\operatorname{tr}\beta = 0。したがって tr⁡H(p)=0\operatorname{tr}H(\boldsymbol{p}) = 0。
  2. H(p)H(\boldsymbol{p}) の固有値は +ωp+\omega_{\boldsymbol p} と −ωp-\omega_{\boldsymbol p} のみで、両者の重複度は等しく N/2N/2 である。特に NN は偶数で、H^\hat H のスペクトルは (−∞,−m]∪[m,∞)(-\infty,-m]\cup[m,\infty) となり下に有界でない。
証明(定理 4.2)

1 の証明。 {αi,β}=0\{\alpha^i,\beta\}=0 より βαi=−αiβ\beta\alpha^i = -\alpha^i\beta ですから、両辺に右から β\beta を掛けて β2=1\beta^2=\mathbb{1} を使うと

βαiβ=−αiβ2=−αi.\beta\alpha^i\beta = -\alpha^i\beta^2 = -\alpha^i .

両辺のトレースを取ります。左辺はトレースの巡回性から tr⁡(βαiβ)=tr⁡(αiβ2)=tr⁡αi\operatorname{tr}(\beta\alpha^i\beta) = \operatorname{tr}(\alpha^i\beta^2) = \operatorname{tr}\alpha^i です。よって tr⁡αi=−tr⁡αi\operatorname{tr}\alpha^i = -\operatorname{tr}\alpha^i、すなわち tr⁡αi=0\operatorname{tr}\alpha^i = 0。同様に (α1)2=1(\alpha^1)^2 = \mathbb{1} と {α1,β}=0\{\alpha^1,\beta\}=0 から α1βα1=−β(α1)2=−β\alpha^1\beta\alpha^1 = -\beta(\alpha^1)^2 = -\beta となり、トレースを取って tr⁡β=−tr⁡β=0\operatorname{tr}\beta = -\operatorname{tr}\beta = 0 を得ます。線形性より tr⁡H(p)=pitr⁡αi+mtr⁡β=0\operatorname{tr}H(\boldsymbol{p}) = p_i\operatorname{tr}\alpha^i + m\operatorname{tr}\beta = 0 です。

2 の証明。 定義 4.1 の直後で確かめたとおり H(p)2=(p2+m2)1=ωp21H(\boldsymbol{p})^2 = (\boldsymbol{p}^2+m^2)\mathbb{1} = \omega_{\boldsymbol p}^2\mathbb{1} です。H(p)H(\boldsymbol p) はエルミートなので対角化でき、固有値 λ\lambda は λ2=ωp2\lambda^2 = \omega_{\boldsymbol p}^2、すなわち λ=±ωp\lambda = \pm\omega_{\boldsymbol p} に限られます。重複度を n+,n−n_+,n_- とすると n++n−=Nn_++n_-=N であり、1 より

tr⁡H(p)=n+ωp−n−ωp=0.\operatorname{tr}H(\boldsymbol p) = n_+\omega_{\boldsymbol p} - n_-\omega_{\boldsymbol p} = 0 .

m>0m > 0 より ωp≥m>0\omega_{\boldsymbol p} \ge m > 0 ですから n+=n−=N/2n_+ = n_- = N/2 です。N≥1N \ge 1 なので n−≥1n_- \ge 1、つまり負の固有値は必ず存在します。p\boldsymbol{p} を全空間で動かせば −ωp-\omega_{\boldsymbol p} は −m-m から −∞-\infty まで連続的に値を取り、スペクトルは下に有界でありません。

つまり方程式を 1 階にしても負エネルギー解は消えません。定理 4.2 は、消えないどころかちょうど半分が負エネルギーであることを言っています。

例 4.3(ディラックの海とその代償)

ディラックの処方はこうです。電子はフェルミオンなのでパウリ排他律が働く。そこで真空を「すべての負エネルギー準位が電子で埋まった状態」と定義すると、正エネルギー電子は排他律により負エネルギー準位へ落ちられません。海に空いた穴(ホール)は電荷 +e+e、正エネルギーの粒子のようにふるまいます。これが 1932 年にアンダーソンが霧箱で発見した陽電子で、予言としては見事な成功でした。

しかし代償は大きいものです。

  1. 真空が無限個の電子を含み、電荷密度もエネルギー密度も発散します。観測量は「真空からの差」として定義し直さねばなりません。
  2. 排他律に依存するので、ボソンには使えません。スピン 0 のパイ中間子にも反粒子(π+\pi^+ と π−\pi^-)があることは実験事実です。
  3. 決定的なのは、これがもはや一粒子理論ではないことです。無限個の粒子を持ち込んだ時点で記述は多体理論になっており、この処方自身が「一粒子の相対論的量子力学は成り立たない」ことを認めています。

注意 4.4(スピンは相対論から出てくる)

定理 4.2 は NN が偶数であることも示しています。実は N=2N = 2 は不可能で、最小次元は 44 です(演習 9.2)。相対論的な 1 階方程式を書こうとしただけで波動関数が多成分にならざるを得ず、その内部自由度が 角運動量とスピン で導入した スピン角運動量(定義 5.1)[角運動量とスピン] の s=1/2s = 1/2 に対応します。スピンは相対論と量子力学を組み合わせた帰結です。

5. より深い病:一粒子理論では因果律が守れない

Section titled “5. より深い病:一粒子理論では因果律が守れない”

負エネルギー解の問題には、まだ「正振動数部分だけを取り出せばよい」という逃げ道が残っているように見えます。すなわち Hilbert 空間を正エネルギー解に制限し、ハミルトニアンとして

H=−∇2+m2H = \sqrt{-\nabla^2 + m^2}

を採用するのです。これは L2(R3)L^2(\mathbb{R}^3) 上の自己共役作用素でスペクトルは [m,∞)[m,\infty)、確かに下に有界で、定理 4.2 の困難は形式的に回避されます。しかしここでより深い病が現れます。相対論の核心である因果律が破れるのです。

5.1. コンパクトな台は瞬時に壊れる

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次の命題は、「有限の範囲に閉じ込めた粒子は、ほんの少し時間が経つだけで、どれほど遠くにも振幅が広がる」ことを述べています。証明は複素解析(整関数や分岐点)を使う技術的なものです。証明の方針は、局在していれば Fourier 変換がなめらかな関数に延びるのに、時間発展の因子 e−itωpe^{-it\omega_{\boldsymbol p}} にある平方根の分岐点がそれを許さない、という矛盾を導くことです。細部が追えなくても、結論の文だけを読んで次の例に進めます。

命題 5.1(正エネルギー粒子は局在を保てない)✓

m>0m > 0、H=−∇2+m2H = \sqrt{-\nabla^2+m^2}、ψt=e−itHψ0\psi_t = e^{-itH}\psi_0 とする。ψ0∈L2(R3)\psi_0 \in L^2(\mathbb{R}^3) がコンパクトな台をもち ψ0≠0\psi_0 \ne 0 ならば、t≠0t \ne 0 であるすべての時刻で ψt\psi_t はコンパクトな台をもたない。

証明(命題 5.1)

空間 Fourier 変換すると ψ^t(p)=e−itωpψ^0(p)\hat\psi_t(\boldsymbol{p}) = e^{-it\omega_{\boldsymbol p}}\hat\psi_0(\boldsymbol{p})、ωp=p2+m2\omega_{\boldsymbol p} = \sqrt{\boldsymbol{p}^2+m^2} です。

背理法で示します。ある t≠0t\ne 0 で ψt\psi_t もコンパクトな台をもったとします。Paley–Wiener–Schwartz の定理により、コンパクトな台をもつ L2L^2 関数の Fourier 変換は C3\mathbb{C}^3 上の整関数(指数型)に解析接続されます。よって ψ^0\hat\psi_0 と ψ^t\hat\psi_t はともに整関数 F0,FtF_0, F_t に延びます。

ψ0≠0\psi_0 \ne 0 より F0F_0 は恒等的にゼロではなく、F0F_0 は実点上で連続なので F0(p0)≠0F_0(\boldsymbol{p}_0)\ne 0 となる実ベクトル p0\boldsymbol{p}_0 が取れます。実単位ベクトル e\boldsymbol{e} を固定し、複素直線 p=p0+ze\boldsymbol{p} = \boldsymbol{p}_0 + z\boldsymbol{e}(z∈Cz\in\mathbb{C})に制限して f0(z)=F0(p0+ze)f_0(z) = F_0(\boldsymbol{p}_0+z\boldsymbol{e})、ft(z)=Ft(p0+ze)f_t(z) = F_t(\boldsymbol{p}_0+z\boldsymbol{e}) とおきます。どちらも zz の整関数で、f0(0)≠0f_0(0)\ne 0 です。

この直線上で

Q(z):=(p0+ze)2+m2=z2+2(p0⋅e)z+p02+m2Q(z) := (\boldsymbol{p}_0+z\boldsymbol{e})^2 + m^2 = z^2 + 2(\boldsymbol{p}_0\cdot\boldsymbol{e})z + \boldsymbol{p}_0^2 + m^2

です。判別式は 4(p0⋅e)2−4(p02+m2)4(\boldsymbol{p}_0\cdot\boldsymbol{e})^2 - 4(\boldsymbol{p}_0^2+m^2) で、Cauchy–Schwarz より (p0⋅e)2≤p02<p02+m2(\boldsymbol{p}_0\cdot\boldsymbol{e})^2 \le \boldsymbol{p}_0^2 < \boldsymbol{p}_0^2+m^2(ここで m>0m>0 を使いました)なので負です。よって QQ は相異なる二つの非実根 z±z_\pm をもち、Q(z)=(z−z+)(z−z−)\sqrt{Q(z)} = \sqrt{(z-z_+)(z-z_-)} は z±z_\pm に真の分岐点をもちます。

実軸上では ft(z)=g(z)f0(z)f_t(z) = g(z)f_0(z)、g(z)=e−itQ(z)g(z) = e^{-it\sqrt{Q(z)}} が成り立ちます。f0,ftf_0, f_t はともに整関数で f0≢0f_0\not\equiv 0 ですから、商 ft/f0f_t/f_0 は C\mathbb{C} 上の一価の有理型関数です。一方 gg を z+z_+ のまわりで 1 周解析接続すると Q\sqrt{Q} の符号が反転し、g→e+itQg \to e^{+it\sqrt{Q}} に移ります。t≠0t\ne 0 のとき e−2itQ(z)=1e^{-2it\sqrt{Q(z)}} = 1 となるのは Q(z)∈(π/t)Z\sqrt{Q(z)} \in (\pi/t)\mathbb{Z} を満たす孤立点だけなので、gg は z+z_+ の近傍で一価ではありません。一価な有理型関数と一価でない関数が実軸上で一致することはできず、矛盾します。

台がコンパクトでなくなるということは、初期時刻に有限領域に閉じ込められていた粒子が、任意に小さい t>0t > 0 の後には任意に遠い場所に非ゼロの振幅をもつということです。光速の制限が効いていません。次にその振幅の大きさを見積もります。

例 5.2(光円錐の外への伝播振幅)

時刻 00 に点 x\boldsymbol{x} にあった粒子が、時刻 tt に点 y\boldsymbol{y} に見出される振幅は

U(t,r)=⟨y ∣ e−iHt ∣ x⟩=∫d3p(2π)3  eip⋅(y−x) e−iωpt,r=∣y−x∣U(t,r) = \langle \boldsymbol{y}\,\lvert\, e^{-iHt}\,\rvert\,\boldsymbol{x}\rangle = \int\frac{d^3p}{(2\pi)^3}\;e^{i\boldsymbol{p}\cdot(\boldsymbol{y}-\boldsymbol{x})}\,e^{-i\omega_{\boldsymbol p}t}, \qquad r = \lvert\boldsymbol{y}-\boldsymbol{x}\rvert

です。角度積分を実行すると(∫dΩ eiprcos⁡θ=4πsin⁡(pr)/(pr)\int d\Omega\, e^{ipr\cos\theta} = 4\pi\sin(pr)/(pr))

U(t,r)=12π2r∫0∞dp  p sin⁡(pr) e−iωptU(t,r) = \frac{1}{2\pi^2 r}\int_0^\infty dp\;p\,\sin(pr)\,e^{-i\omega_p t}

となります。p2+m2\sqrt{p^2+m^2} の分岐点 p=±imp = \pm im のまわりに積分路を変形すると(計算は Appendix)、空間的隔たり r>t>0r > t > 0 に対して

U(t,r)=i2π2r∫m∞dρ  ρ e−ρr sinh⁡ ⁣(tρ2−m2)U(t,r) = \frac{i}{2\pi^2 r}\int_m^\infty d\rho\;\rho\,e^{-\rho r}\,\sinh\!\left(t\sqrt{\rho^2-m^2}\right)

という表式が得られます。積分区間の内部で被積分関数は厳密に正です(ρ>m\rho > m で sinh⁡(tρ2−m2)>0\sinh(t\sqrt{\rho^2-m^2}) > 0)。したがって U(t,r)≠0U(t,r) \ne 0 です。光円錐の外でも振幅は消えません。

大きさは、mr≫1mr \gg 1 かつ r≫tr \gg t のとき積分の下端 ρ≃m\rho\simeq m が支配することから読めます。ρ=m+u\rho = m+u とおいて ρ2−m2≃2mu\sqrt{\rho^2-m^2}\simeq\sqrt{2mu}、sinh⁡x≃x\sinh x\simeq x とし、∫0∞du u e−ur=π/(2r3/2)\int_0^\infty du\,\sqrt{u}\,e^{-ur} = \sqrt{\pi}/(2r^{3/2}) を使うと

∣U∣∼2π  m3/2 t4π2 r5/2 e−mr\lvert U\rvert \sim \frac{\sqrt{2\pi}\;m^{3/2}\,t}{4\pi^2\,r^{5/2}}\,e^{-mr}

です。より丁寧な鞍点評価では指数がローレンツ不変な形 e−mr2−t2e^{-m\sqrt{r^2-t^2}} になります。振幅はコンプトン波長 1/m1/m を超える距離で指数関数的に小さいものの、決してゼロではありません。

txO光円錐P空間的領域振幅 ≠ 0
原点の事象から空間的に隔たった点 P へも、一粒子の伝播振幅は指数関数的に小さいだけでゼロにならない。灰色は空間的領域。

5.2. 局在と因果的伝播は両立しない

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例 5.2 は具体的な計算でしたが、実はこれは H≥0H \ge 0 という条件だけから従う一般的な事実です。次の定理はヘーゲルフェルト(1974 年)によるものです。

次の定理は、前節の計算を特定の Hamiltonian に頼らずに言い直すものです。直感的には、「エネルギーが負にならない系で、ある時間のあいだ領域 AA に粒子がまったくいなければ、実はいつでもいない」という主張です。つまり、一瞬でも厳密に局在していれば、因果的な伝播とは両立しません。証明は、時間を複素数に拡げた正則関数が、ある区間でゼロなら全体でゼロになる、という一意性を使います。

定理 5.3(ヘーゲルフェルトの定理)✓

H\mathcal{H} を Hilbert 空間、HH を H\mathcal{H} 上の自己共役作用素で H≥0H \ge 0(スペクトルが [0,∞)[0,\infty) に含まれる)とする。ψ0∈H\psi_0\in\mathcal{H}、ψt=e−iHtψ0\psi_t = e^{-iHt}\psi_0 とし、AA を有界な正作用素(A≥0A \ge 0)とする。このとき、ある開区間 I⊂RI\subset\mathbb{R} 上で

⟨ψt,Aψt⟩=0(∀t∈I)\langle \psi_t, A\psi_t\rangle = 0 \quad (\forall t\in I)

が成り立つならば、すべての t∈Rt\in\mathbb{R} で ⟨ψt,Aψt⟩=0\langle\psi_t,A\psi_t\rangle = 0 である。

証明(定理 5.3)

A≥0A\ge 0 かつ有界なので、有界な平方根 A1/2≥0A^{1/2}\ge 0 が存在し ⟨ψt,Aψt⟩=∥A1/2ψt∥2\langle\psi_t,A\psi_t\rangle = \lVert A^{1/2}\psi_t\rVert^2 です。したがって仮定は「t∈It\in I に対し A1/2ψt=0A^{1/2}\psi_t = 0」と同値です。

任意に χ∈H\chi\in\mathcal{H} を固定し、下半平面 C−={z:Im⁡z<0}\mathbb{C}_- = \{z : \operatorname{Im}z < 0\} 上で

g(z)=⟨χ,  A1/2e−izHψ0⟩g(z) = \left\langle \chi,\; A^{1/2}e^{-izH}\psi_0\right\rangle

を考えます。HH のスペクトル測度を E(⋅)E(\cdot) とし、複素測度 μ(⋅)=⟨χ,A1/2E(⋅)ψ0⟩\mu(\cdot) = \langle \chi, A^{1/2}E(\cdot)\psi_0\rangle(全変動は ∥χ∥ ∥A1/2∥ ∥ψ0∥\lVert\chi\rVert\,\lVert A^{1/2}\rVert\,\lVert\psi_0\rVert 以下の有限値)を使うと

g(z)=∫[0,∞)e−izλ dμ(λ)g(z) = \int_{[0,\infty)} e^{-iz\lambda}\,d\mu(\lambda)

と書けます。H≥0H\ge 0 よりスペクトルは λ≥0\lambda\ge 0 に限られ、z=t−isz = t-is(s>0s>0)に対して ∣e−izλ∣=e−sλ≤1\lvert e^{-iz\lambda}\rvert = e^{-s\lambda}\le 1 です。よって gg は C−\mathbb{C}_- 上で有界であり、被積分関数が正則かつ一様可積分な優関数をもつことから、Fubini と Morera の定理により正則です。優収束定理により、境界値 g(t)=⟨χ,A1/2ψt⟩g(t) = \langle\chi, A^{1/2}\psi_t\rangle をもちます。

仮定より境界値は II 上で消えます。II は正の Lebesgue 測度をもつ集合です。半平面上の有界正則関数(Hardy 空間 H∞H^\infty の元)で、境界値が正測度の集合上で消えるものは恒等的に 00 である、という境界一意性定理(F. and M. Riesz–Privalov の定理)により g≡0g\equiv 0 を得ます。

χ\chi は任意でしたから、すべての実 tt で A1/2ψt=0A^{1/2}\psi_t = 0、すなわち ⟨ψt,Aψt⟩=∥A1/2ψt∥2=0\langle\psi_t,A\psi_t\rangle = \lVert A^{1/2}\psi_t\rVert^2 = 0 です。

系 5.4(厳密な局在と因果的伝播は両立しない)✓

H≥0H\ge 0 とし、有界開集合 W⊂R3W\subset\mathbb{R}^3 に対して「粒子が WW の中に見出される」ことを表す射影 PWP_W(W⊂W′W\subset W' ならば PW≤PW′P_W \le P_{W'})が与えられているとする。状態 ψ0\psi_0 が有界領域 VV に厳密に局在し、かつ伝播が因果的である、すなわち

dist⁡(W,V)>∣t∣  ⟹  ⟨ψt,PWψt⟩=0\operatorname{dist}(W,V) > \lvert t\rvert \;\Longrightarrow\; \langle\psi_t, P_W\psi_t\rangle = 0

が成り立つとする(c=1c=1)。このとき、VV から正の距離にある任意の有界開集合 WW について、すべての時刻 t∈Rt\in\mathbb{R} で ⟨ψt,PWψt⟩=0\langle\psi_t,P_W\psi_t\rangle = 0 である。

証明(系 5.4)

d=dist⁡(W,V)>0d = \operatorname{dist}(W,V) > 0 とおきます。因果的伝播の仮定より、開区間 I=(−d,d)I = (-d,d) 上で ⟨ψt,PWψt⟩=0\langle\psi_t,P_W\psi_t\rangle = 0 です。射影 PWP_W は有界かつ PW=PW2=PW†≥0P_W = P_W^2 = P_W^\dagger \ge 0 なので、定理 5.3 を A=PWA = P_W に適用でき、結論はすべての tt に拡張されます。

つまり粒子は永遠に Vˉ\bar V の外側では見出されないことになります。ところが H=−∇2+m2H=\sqrt{-\nabla^2+m^2} のスペクトルは絶対連続なので、RAGE の定理により任意の有界領域 KK で ∥PKψt∥→0\lVert P_K\psi_t\rVert \to 0(t→∞t\to\infty)、粒子は必ず広がります。矛盾です。

結論はこうです。「H≥0H\ge 0」「厳密な局在の概念」「因果的伝播」の三つは同時には成り立ちません。 H≥0H\ge 0 を捨てれば 定理 4.2 の困難に戻り、因果律を捨てれば相対論を捨てることになり、局在を捨てれば「粒子がどこにあるか」という問い自体が意味を失います。

6. 粒子数は保存しない:コンプトン波長というスケール

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ここまでは論理的な破綻でした。物理的にも、一粒子理論が成り立たない理由ははっきりしています。相対論では質量とエネルギーが交換可能であり(相対論的力学)、十分なエネルギーがあれば粒子は作られてしまうのです。

定義 6.1(換算コンプトン波長)↗

質量 mm の粒子に対して

λˉC=ℏmc\bar\lambda_C = \frac{\hbar}{mc}

を換算コンプトン波長と呼びます(2π2\pi を掛けたものがコンプトン波長 λC=h/mc\lambda_C = h/mc です)。

このスケールの意味は、ハイゼンベルクの不確定性原理(系 5.4)[演算子と物理量] から読めます。粒子を大きさ Δx\Delta x の領域に閉じ込めると Δp≳ℏ/Δx\Delta p \gtrsim \hbar/\Delta x の運動量の不定性が生じ、相対論的にはこれが

ΔE≳c Δp≳ℏcΔx\Delta E \gtrsim c\,\Delta p \gtrsim \frac{\hbar c}{\Delta x}

のエネルギーの不定性を意味します。Δx≲λˉC\Delta x \lesssim \bar\lambda_C になると ΔE≳mc2\Delta E \gtrsim mc^2 となり、粒子・反粒子対を作るのに十分なエネルギーが「借りられて」しまいます。

例 6.2(電子の場合の数値)

ℏ=1.055×10−34 J s\hbar = 1.055\times10^{-34}\ \mathrm{J\,s}、me=9.109×10−31 kgm_e = 9.109\times10^{-31}\ \mathrm{kg}、c=2.998×108 m/sc = 2.998\times10^{8}\ \mathrm{m/s} を使います。mec=2.731×10−22 kg m/sm_e c = 2.731\times10^{-22}\ \mathrm{kg\,m/s} なので

λˉC=1.055×10−342.731×10−22 m=3.86×10−13 m=386 fm\bar\lambda_C = \frac{1.055\times10^{-34}}{2.731\times10^{-22}}\ \mathrm{m} = 3.86\times10^{-13}\ \mathrm{m} = 386\ \mathrm{fm}

です。一方、対生成のしきい値は 2mec2=1.022 MeV2m_ec^2 = 1.022\ \mathrm{MeV} です。つまり電子を 400 fm400\ \mathrm{fm} 程度より狭い領域に押し込もうとすると、そのために注ぎ込むエネルギーで新しい電子・陽電子対ができてしまいます。「1 個の電子の波動関数」を λˉC\bar\lambda_C より細かい分解能で語ることに意味がなくなるのです。

これは 例 5.2 で見た振幅の減衰長 1/m1/m(自然単位系)と同じスケールです。因果律を破る振幅が効く距離と、対生成が始まる距離が一致するのは偶然ではありません。どちらも「一粒子描像が壊れる」という同じ事実の別の顔です。

ここまでの三つの破綻(負エネルギー、確率密度、因果律)と粒子数非保存を、一挙に解く処方があります。古典場を力学変数として正準量子化することです。

7.1. 自由場は独立な調和振動子の集まりである

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この節の発想は、場を「波の重ね合わせ」として、波の種類(モード)ごとにばねの付いたおもりが並んでいると見ることです。各ばねは量子力学の調和振動子として扱え、その励起の段数が、そのモードの粒子の個数に対応します。

出発点は ラグランジュ形式の力学 を場に拡張したものです(詳しくは 古典場の理論とラグランジアン で扱います)。実スカラー場 ϕ(t,x)\phi(t,\boldsymbol{x}) の最も簡単な Lagrangian は

L=∫d3x  L,L=12ϕ˙2−12(∇ϕ)2−12m2ϕ2L = \int d^3x\;\mathcal{L}, \qquad \mathcal{L} = \tfrac12\dot\phi^2 - \tfrac12(\nabla\phi)^2 - \tfrac12 m^2\phi^2

で、Euler–Lagrange 方程式はまさに 定義 3.1 のクライン・ゴルドン方程式です(古典場としての導出と分散関係(例 5.1)[古典場の理論とラグランジアン])。ここが決定的な視点の転換点です。クライン・ゴルドン方程式を「一粒子の波動関数の方程式」ではなく「古典場の運動方程式」として読み直すのです。

定理 7.1(自由スカラー場のモード分解と量子化)✓

一辺 LL の立方体(体積 V=L3V = L^3、周期境界条件)の中の実スカラー場 ϕ\phi が上の Lagrangian に従うとする。Fourier 展開

ϕ(t,x)=1V∑kqk(t) eik⋅x,k∈2πLZ3,q−k=qk‾\phi(t,\boldsymbol{x}) = \frac{1}{\sqrt{V}}\sum_{\boldsymbol{k}} q_{\boldsymbol{k}}(t)\,e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x}}, \qquad \boldsymbol{k}\in\frac{2\pi}{L}\mathbb{Z}^3, \qquad q_{-\boldsymbol{k}} = \overline{q_{\boldsymbol{k}}}

を代入すると

L=∑k12(∣q˙k∣2−ωk2 ∣qk∣2),ωk=k2+m2L = \sum_{\boldsymbol{k}}\frac12\left(\lvert\dot q_{\boldsymbol{k}}\rvert^2 - \omega_{\boldsymbol{k}}^2\,\lvert q_{\boldsymbol{k}}\rvert^2\right), \qquad \omega_{\boldsymbol{k}} = \sqrt{\boldsymbol{k}^2+m^2}

となる。すなわち自由場は、モードごとに角振動数 ωk\omega_{\boldsymbol{k}} をもつ独立な調和振動子の集まりと等価である。これを正準量子化すると、[a^k,a^k′†]=δkk′[\hat a_{\boldsymbol k},\hat a^\dagger_{\boldsymbol k'}] = \delta_{\boldsymbol{k}\boldsymbol{k}'}、他の交換子はゼロ、として

H^=∑kωk(a^k†a^k+12),P^=∑kk a^k†a^k\hat H = \sum_{\boldsymbol{k}}\omega_{\boldsymbol{k}}\left(\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}}\hat a_{\boldsymbol{k}} + \tfrac12\right), \qquad \hat{\boldsymbol{P}} = \sum_{\boldsymbol{k}}\boldsymbol{k}\,\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}}\hat a_{\boldsymbol{k}}

が得られ、エネルギー固有値は(零点エネルギーを除いて)∑knk ωk\sum_{\boldsymbol{k}} n_{\boldsymbol{k}}\,\omega_{\boldsymbol{k}}、nk∈{0,1,2,…}n_{\boldsymbol{k}}\in\{0,1,2,\ldots\} である。

証明(定理 7.1)

周期境界条件のもとで 1V∫Vd3x  ei(k+k′)⋅x=δk,−k′\frac{1}{V}\int_V d^3x\;e^{i(\boldsymbol{k}+\boldsymbol{k}')\cdot\boldsymbol{x}} = \delta_{\boldsymbol{k},-\boldsymbol{k}'} が成り立つことを繰り返し使います。まず

∫d3x  ϕ˙2=∑k,k′q˙kq˙k′ δk,−k′=∑kq˙kq˙−k=∑k∣q˙k∣2\int d^3x\;\dot\phi^2 = \sum_{\boldsymbol{k},\boldsymbol{k}'}\dot q_{\boldsymbol{k}}\dot q_{\boldsymbol{k}'}\,\delta_{\boldsymbol{k},-\boldsymbol{k}'} = \sum_{\boldsymbol{k}}\dot q_{\boldsymbol{k}}\dot q_{-\boldsymbol{k}} = \sum_{\boldsymbol{k}}\lvert\dot q_{\boldsymbol{k}}\rvert^2

です(最後で実数条件 q−k=qk‾q_{-\boldsymbol{k}}=\overline{q_{\boldsymbol{k}}} を使いました)。同様に ∇eik⋅x=ik eik⋅x\nabla e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x}} = i\boldsymbol{k}\,e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x}} より

∫d3x  (∇ϕ)2=∑k(ikqk)⋅(−ikq−k)=∑kk2∣qk∣2,∫d3x  ϕ2=∑k∣qk∣2.\int d^3x\;(\nabla\phi)^2 = \sum_{\boldsymbol{k}}(i\boldsymbol{k}q_{\boldsymbol{k}})\cdot(-i\boldsymbol{k}q_{-\boldsymbol{k}}) = \sum_{\boldsymbol{k}}\boldsymbol{k}^2\lvert q_{\boldsymbol{k}}\rvert^2, \qquad \int d^3x\;\phi^2 = \sum_{\boldsymbol{k}}\lvert q_{\boldsymbol{k}}\rvert^2 .

三つを合わせると主張の LL の表式になります。k2+m2=ωk2\boldsymbol{k}^2 + m^2 = \omega_{\boldsymbol{k}}^2 です。

次に、複素変数 qkq_{\boldsymbol{k}} は独立ではないので実の自由度に直します。k\boldsymbol{k} と −k-\boldsymbol{k} の一方だけを含む半分の集合 K+K_+ を取り、k∈K+\boldsymbol{k}\in K_+ に対して qk=(xk+iyk)/2q_{\boldsymbol{k}} = (x_{\boldsymbol{k}} + i y_{\boldsymbol{k}})/\sqrt2 と書きます。∣q−k∣=∣qk∣\lvert q_{-\boldsymbol{k}}\rvert = \lvert q_{\boldsymbol{k}}\rvert なので ±k\pm\boldsymbol{k} の寄与は等しく、

L=∑k∈K+12[(x˙k2+y˙k2)−ωk2(xk2+yk2)]+12(q˙02−m2q02)L = \sum_{\boldsymbol{k}\in K_+}\frac12\left[(\dot x_{\boldsymbol{k}}^2 + \dot y_{\boldsymbol{k}}^2) - \omega_{\boldsymbol{k}}^2(x_{\boldsymbol{k}}^2+y_{\boldsymbol{k}}^2)\right] + \frac12\left(\dot q_{\boldsymbol{0}}^2 - m^2 q_{\boldsymbol{0}}^2\right)

となります。これは質量 11、角振動数 ωk\omega_{\boldsymbol{k}} の実の調和振動子が k\boldsymbol{k} 1 個につき 1 個(K+K_+ の各元が 2 個ずつ、k=0\boldsymbol{k}=\boldsymbol{0} が 1 個)並んだものです。

各振動子を ハミルトン形式の力学 に移して [q^,p^]=i[\hat q,\hat p]=i を課し、標準的な生成消滅演算子を導入すると H^osc=ω(a^†a^+12)\hat H_{\text{osc}} = \omega(\hat a^\dagger\hat a + \tfrac12) を得ます(調和振動子のスペクトル(定理 5.3)[1次元の簡単な系])。xk,ykx_{\boldsymbol{k}},y_{\boldsymbol{k}} の組を複素の組み合わせに戻すと、a^k\hat a_{\boldsymbol{k}} と a^−k\hat a_{-\boldsymbol{k}} という運動量 ±k\pm\boldsymbol{k} のラベルをもつ演算子になり、全ハミルトニアンは主張の形にまとまります。運動量については、Noether の定理(対称性と保存則)から得られる P=−∫d3x ϕ˙ ∇ϕ\boldsymbol{P} = -\int d^3x\,\dot\phi\,\nabla\phi を同じ手順で書き直すと ∑kk a^k†a^k\sum_{\boldsymbol{k}}\boldsymbol{k}\,\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}}\hat a_{\boldsymbol{k}} になります(零点項は k→−k\boldsymbol{k}\to-\boldsymbol{k} の対称性で相殺します)。

固有状態は各モードの数状態の積で、固有値は ∑kωk(nk+12)\sum_{\boldsymbol{k}}\omega_{\boldsymbol{k}}(n_{\boldsymbol{k}}+\tfrac12) です。

この結果の読み方が、場の量子論そのものです。a^k†\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}} を真空 ∣0⟩\lvert 0\rangle に 1 回作用させた状態 a^k†∣0⟩\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}}\lvert 0\rangle は、定理 7.1 より

E=ωk=k2+m2,P=kE = \omega_{\boldsymbol{k}} = \sqrt{\boldsymbol{k}^2+m^2}, \qquad \boldsymbol{P} = \boldsymbol{k}

をもちます。これは質量 mm の相対論的な粒子 1 個のエネルギー・運動量そのものです。nn 回作用させれば nn 個の粒子です。粒子とは場の励起量子であるという描像が、計算の帰結として出てきました。

モード 1(ω が小さい)モード 2モード 3(ω が大きい)各モードが独立なばね(調和振動子)丸の段数 n = そのモードの粒子の個数n = 0n = 1n = 2
モードごとの調和振動子。横線は各モードのエネルギー準位で、丸の位置が励起の段数 n を表す。この例では 1 + 0 + 2 = 3 個の粒子がある状態。準位の間隔は角振動数 ω に比例し、モードごとに異なる。

定義 7.2(Fock 空間)↗

真空 ∣0⟩\lvert 0\rangle(すべての k\boldsymbol{k} で a^k∣0⟩=0\hat a_{\boldsymbol{k}}\lvert 0\rangle = 0)に生成演算子を作用させて得られる状態全体が張る空間

F=⨁n=0∞H(n),H(n)=span⁡{a^k1†⋯a^kn†∣0⟩}\mathcal{F} = \bigoplus_{n=0}^{\infty}\mathcal{H}^{(n)}, \qquad \mathcal{H}^{(n)} = \operatorname{span}\left\{\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}_1}\cdots \hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}_n}\lvert 0\rangle\right\}

を Fock 空間と呼びます。粒子数演算子は N^=∑ka^k†a^k\hat N = \sum_{\boldsymbol{k}}\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}}\hat a_{\boldsymbol{k}} です。

Fock 空間は粒子数の異なる部分空間の直和なので、粒子数を変える演算子が書けます。(A1) の制約が外れました。しかも状態は占有数 {nk}\{n_{\boldsymbol{k}}\} だけで決まるので、粒子の入れ替えに対する対称性は自動的に成り立ちます。同種粒子の対称化を手で課す必要がありません。

例 7.3(相互作用は粒子数を保存しない)

Lagrangian に −λ4!ϕ4-\frac{\lambda}{4!}\phi^4 を加えます。対応する相互作用ハミルトニアンは H^int=λ4!∫d3x  ϕ^4\hat H_{\text{int}} = \frac{\lambda}{4!}\int d^3x\;\hat\phi^4 です。場の演算子は生成部分と消滅部分の和 ϕ^∼a^+a^†\hat\phi \sim \hat a + \hat a^\dagger ですから、ϕ^4\hat\phi^4 を展開すると 24=162^4 = 16 個の項が出て、含まれる生成演算子の個数に応じて分類できます。

ϕ^4∼a^†a^†a^†a^†⏟ΔN=+4+a^†a^†a^†a^⏟ΔN=+2+a^†a^†a^a^⏟ΔN=0+a^†a^a^a^⏟ΔN=−2+a^a^a^a^⏟ΔN=−4\hat\phi^4 \sim \underbrace{\hat a^\dagger\hat a^\dagger\hat a^\dagger\hat a^\dagger}_{\Delta N = +4} + \underbrace{\hat a^\dagger\hat a^\dagger\hat a^\dagger\hat a}_{\Delta N=+2} + \underbrace{\hat a^\dagger\hat a^\dagger\hat a\hat a}_{\Delta N = 0} + \underbrace{\hat a^\dagger\hat a\hat a\hat a}_{\Delta N=-2} + \underbrace{\hat a\hat a\hat a\hat a}_{\Delta N=-4}

(各括弧は運動量の並び替えを含むすべての組み合わせを表します。)ΔN=±4,±2\Delta N = \pm 4, \pm 2 の項があるので [H^,N^]≠0[\hat H,\hat N]\ne 0、粒子数は保存しません。真空から 4 個の粒子が生まれる過程も、2 個が 2 個に散乱する過程も、同じ 1 個の項から出てきます。定義 7.2 の枠組みで初めて、こうした過程が記述できるようになりました。

7.2. 負エネルギーと負確率の解消

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定理 7.1 の H^\hat H から零点エネルギー ∑kωk/2\sum_{\boldsymbol{k}}\omega_{\boldsymbol{k}}/2(定数)を差し引くと H^=∑kωka^k†a^k≥0\hat H = \sum_{\boldsymbol{k}}\omega_{\boldsymbol{k}}\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}}\hat a_{\boldsymbol{k}} \ge 0 です。負エネルギーはどこへ行ったのでしょうか。答えは「解の負振動数部分 e+iωte^{+i\omega t} は、負エネルギー状態ではなく生成演算子の係数になった」です。モード展開では

ϕ^(x)  ∼  a^k e−iωkt⏟正振動数  +  a^k† e+iωkt⏟負振動数\hat\phi(x) \;\sim\; \underbrace{\hat a_{\boldsymbol{k}}\,e^{-i\omega_{\boldsymbol{k}}t}}_{\text{正振動数}} \;+\; \underbrace{\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}}\,e^{+i\omega_{\boldsymbol{k}}t}}_{\text{負振動数}}

という形で両方が現れますが、a^k†\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}} はエネルギーを +ωk+\omega_{\boldsymbol{k}} だけ増やす演算子です。同じ数式が、解釈を変えるだけで下に有界なスペクトルを与えます。

複素スカラー場では 命題 3.2 の jμj^\mu が電荷カレントになり、保存電荷は

Q^=∑k(a^k†a^k−b^k†b^k)\hat Q = \sum_{\boldsymbol{k}}\left(\hat a^\dagger_{\boldsymbol{k}}\hat a_{\boldsymbol{k}} - \hat b^\dagger_{\boldsymbol{k}}\hat b_{\boldsymbol{k}}\right)

の形になります。a^†\hat a^\dagger が作る粒子と b^†\hat b^\dagger が作る粒子は、質量が同じで電荷の符号が逆です。後者が反粒子です。j0<0j^0 < 0 は「負の確率」ではなく「反粒子の存在」だったのです(注意 3.4 で予告したとおりです)。

7.3. 因果律はミクロ因果律として回復する

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最後に残った因果律を見ます。場の量子論では、因果律は「振幅がゼロになること」ではなく「空間的に隔たった二点での場の演算子が可換であること」として実現されます。可換なら、一方の点での測定がもう一方の点での測定結果に影響しません。

定義 7.4(自由実スカラー場の演算子)↗

連続体極限(V→∞V\to\infty)では

ϕ^(x)=∫d3p(2π)3  12ωp(a^p e−ip⋅x+a^p† e+ip⋅x),p0=ωp\hat\phi(x) = \int\frac{d^3p}{(2\pi)^3}\;\frac{1}{\sqrt{2\omega_{\boldsymbol{p}}}}\left(\hat a_{\boldsymbol{p}}\,e^{-ip\cdot x} + \hat a^\dagger_{\boldsymbol{p}}\,e^{+ip\cdot x}\right), \qquad p^0 = \omega_{\boldsymbol{p}}

と書きます。交換関係は [a^p,a^q†]=(2π)3δ3(p−q)[\hat a_{\boldsymbol{p}},\hat a^\dagger_{\boldsymbol{q}}] = (2\pi)^3\delta^3(\boldsymbol{p}-\boldsymbol{q})、他はゼロです。

定理 7.5(ミクロ因果律)✓

定義 7.4 の場について、D(x):=∫d3p(2π)3 2ωpe−ip⋅xD(x) := \displaystyle\int\frac{d^3p}{(2\pi)^3\,2\omega_{\boldsymbol{p}}}e^{-ip\cdot x} とおくと

[ϕ^(x),ϕ^(y)]=D(x−y)−D(y−x)[\hat\phi(x),\hat\phi(y)] = D(x-y) - D(y-x)

であり、(x−y)2<0(x-y)^2 < 0(空間的隔たり)ならばこれは 00 である。

証明(定理 7.5)

第 1 段:交換子の表式。 定義 7.4 を代入すると、生き残るのは [a^p,a^q†][\hat a_{\boldsymbol{p}},\hat a^\dagger_{\boldsymbol{q}}] と [a^p†,a^q]=−(2π)3δ3(p−q)[\hat a^\dagger_{\boldsymbol{p}},\hat a_{\boldsymbol{q}}] = -(2\pi)^3\delta^3(\boldsymbol{p}-\boldsymbol{q}) を含む項だけです。

[ϕ^(x),ϕ^(y)]=∫d3p d3q(2π)64ωpωq([a^p,a^q†]e−ip⋅x+iq⋅y+[a^p†,a^q]eip⋅x−iq⋅y)[\hat\phi(x),\hat\phi(y)] = \int\frac{d^3p\,d^3q}{(2\pi)^6\sqrt{4\omega_{\boldsymbol{p}}\omega_{\boldsymbol{q}}}} \left([\hat a_{\boldsymbol{p}},\hat a^\dagger_{\boldsymbol{q}}]e^{-ip\cdot x + iq\cdot y} + [\hat a^\dagger_{\boldsymbol{p}},\hat a_{\boldsymbol{q}}]e^{ip\cdot x - iq\cdot y}\right)=∫d3p(2π)3 2ωp(e−ip⋅(x−y)−eip⋅(x−y))=D(x−y)−D(y−x).= \int\frac{d^3p}{(2\pi)^3\,2\omega_{\boldsymbol{p}}}\left(e^{-ip\cdot(x-y)} - e^{ip\cdot(x-y)}\right) = D(x-y) - D(y-x).

第 2 段:測度のローレンツ不変性。 δ(p2−m2)=δ ⁣((p0)2−ωp2)\delta(p^2-m^2) = \delta\!\left((p^0)^2 - \omega_{\boldsymbol{p}}^2\right) の零点は p0=±ωpp^0 = \pm\omega_{\boldsymbol{p}} で、そこでの微分の絶対値は 2ωp2\omega_{\boldsymbol{p}} ですから

δ(p2−m2)=12ωp[δ(p0−ωp)+δ(p0+ωp)].\delta(p^2-m^2) = \frac{1}{2\omega_{\boldsymbol{p}}}\left[\delta(p^0-\omega_{\boldsymbol{p}}) + \delta(p^0+\omega_{\boldsymbol{p}})\right].

したがって任意の関数 ff について

∫d4p(2π)3 δ(p2−m2) θ(p0) f(p)=∫d3p(2π)3 2ωpf(ωp,p)\int\frac{d^4p}{(2\pi)^3}\,\delta(p^2-m^2)\,\theta(p^0)\,f(p) = \int\frac{d^3p}{(2\pi)^3\,2\omega_{\boldsymbol{p}}}f(\omega_{\boldsymbol{p}},\boldsymbol{p})

が成り立ちます。左辺の d4pd^4p、δ(p2−m2)\delta(p^2-m^2) はローレンツ不変であり、θ(p0)\theta(p^0) も正質量殻上では固有直交ローレンツ変換 Λ∈SO+(1,3)\Lambda\in SO^+(1,3) で不変です(Λ\Lambda は p0p^0 の符号を保ちます)。よって D(Λx)=D(x)D(\Lambda x) = D(x) が任意の Λ∈SO+(1,3)\Lambda\in SO^+(1,3) について成り立ちます。

第 3 段:空間的ベクトルの反転。 z=x−yz = x-y が空間的、すなわち z2=(z0)2−∣z∣2<0z^2 = (z^0)^2 - \lvert\boldsymbol{z}\rvert^2 < 0 とします。すると ∣z∣>∣z0∣\lvert\boldsymbol{z}\rvert > \lvert z^0\rvert なので、v=z0/∣z∣v = z^0/\lvert\boldsymbol{z}\rvert は ∣v∣<1\lvert v\rvert < 1 を満たします。z^\hat{\boldsymbol{z}} 方向への速度 vv のブーストを施すと

z′0=γ(z0−v∣z∣)=0z'^0 = \gamma\left(z^0 - v\lvert\boldsymbol{z}\rvert\right) = 0

となり、z′=(0,z′)z' = (0,\boldsymbol{z}') という同時刻ベクトルになります。次に z′\boldsymbol{z}' に直交する軸のまわりの角度 π\pi の回転を行うと z′→−z′\boldsymbol{z}'\to-\boldsymbol{z}'、すなわち z′→−z′z'\to -z' です。ブーストも回転も SO+(1,3)SO^+(1,3) の元なので、これらの合成 Λ\Lambda は Λz=−z\Lambda z = -z を満たします。

第 2 段より D(z)=D(Λz)=D(−z)D(z) = D(\Lambda z) = D(-z) です。第 1 段に戻すと [ϕ^(x),ϕ^(y)]=D(z)−D(−z)=0[\hat\phi(x),\hat\phi(y)] = D(z)-D(-z) = 0 を得ます。

注意 7.6(因果律が反粒子を要求する)

定理 7.5 の証明で本質的だったのは、D(x−y)D(x-y) と D(y−x)D(y-x) という二つの項が引き算で現れたことです。実際 DD そのものは空間的隔たりでゼロになりません。同時刻 x−y=(0,r)x-y = (0,\boldsymbol{r}) では

D(0,r)=14π2r∫0∞dp  psin⁡(pr)p2+m2=m4π2rK1(mr)>0D(0,\boldsymbol{r}) = \frac{1}{4\pi^2 r}\int_0^\infty dp\;\frac{p\sin(pr)}{\sqrt{p^2+m^2}} = \frac{m}{4\pi^2 r}K_1(mr) > 0

(K1K_1 は第 2 種変形 Bessel 関数で、K1(u)∼π/2u e−uK_1(u) \sim \sqrt{\pi/2u}\,e^{-u})と、例 5.2 と同じ e−mre^{-mr} 型の裾をもちます。ゼロになるのは差だけです。

複素スカラー場ではこの差の意味がはっきりします。D(x−y)D(x-y) は「yy で生成された粒子が xx で消滅する振幅」、D(y−x)D(y-x) は「xx で生成された反粒子が yy で消滅する振幅」です。空間的隔たりでは二つの事象に不変な時間順序が付かないため両者は同じ大きさになり、ちょうど打ち消し合います。反粒子が無ければ打ち消しは起こらず因果律が破れます。反粒子の存在は、相対論・量子力学・因果律から強制される帰結です(演習 9.4)。

フェルミオンでは同じ打ち消しが反交換子で起こります。整数スピンは交換子、半整数スピンは反交換子で量子化しなければ因果律かエネルギーの正値性が壊れる、というのがスピン統計定理です。ディラックの海が必要としたパウリ排他律も、ここでは定理になります。

問題一粒子の相対論的量子力学場の量子論
負エネルギー解ハミルトニアンが下に有界でない(定理 4.2)負振動数の係数が生成演算子になり H^≥0\hat H\ge 0
密度の符号j0j^0 が負になる(命題 3.2)j0j^0 は電荷密度。両符号は粒子と反粒子
因果律空間的隔たりでも振幅が非ゼロ(例 5.2)空間的隔たりで交換子がゼロ(定理 7.5)
粒子数変える演算子を書けないFock 空間で自然に扱える(例 7.3)
同種粒子対称化・反対称化を手で課す同じ場の量子なので自動的に同一
スピンと統計独立な仮定スピン統計定理として導かれる

注意 7.7(「第二量子化」という呼び名について)

歴史的な事情から、この手続きは「第二量子化」と呼ばれます。もともとは多体量子力学を生成消滅演算子で書き直す操作を指す語で、のちに場を量子化する操作にも使われるようになりました。前者は非相対論的な多体系でも使える記法の変更にすぎず、新しい物理が入るのは相対論的な場を量子化したときです。

なおこの名前は誤解を招きます。量子化されているのは古典場 ϕ(x)\phi(x) であって、「一度量子化した波動関数をもう一度量子化した」わけではありません。量子化は一度きりです(ワインバーグはこの点を強調しています)。歴史的な用語として受け入れつつ、中身は「古典場の正準量子化」だと理解してください。

以降の章で、この記事で開いた扉の先を歩きます。

摂動論 の計算技法はそのまま基礎になります。例 7.3 の相互作用項を摂動として扱うのが Feynman 図の出発点です。

演習 9.1標準

自然単位系 ℏ=c=1\hbar=c=1、計量 ημν=diag(+1,−1,−1,−1)\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1) とし、ϕ\phi をクライン・ゴルドン方程式 (□+m2)ϕ=0(\Box+m^2)\phi=0 の複素解とします。

  1. カレント jμ=i2m(ϕ∗∂μϕ−(∂μϕ∗)ϕ)j^\mu = \frac{i}{2m}\left(\phi^{*}\partial^\mu\phi - (\partial^\mu\phi^{*})\phi\right) の空間成分 j\boldsymbol{j} を ϕ\phi と ∇ϕ\nabla\phi で書き下し、非相対論的な確率流 12mi(ψ∗∇ψ−ψ∇ψ∗)\frac{1}{2mi}(\psi^{*}\nabla\psi - \psi\nabla\psi^{*}) と同じ形であることを確かめてください。
  2. 重ね合わせ ϕ=N+e−iωt+N−e+iωt\phi = N_+e^{-i\omega t} + N_-e^{+i\omega t}(p=0\boldsymbol{p}=\boldsymbol{0}、ω=m\omega=m)に対して j0j^0 を計算し、∣N+∣=∣N−∣\lvert N_+\rvert = \lvert N_-\rvert のとき j0=0j^0 = 0 となることを示してください。これは何を意味しますか。
解答

1. ∂i=ηii∂i=−∂/∂xi\partial^i = \eta^{ii}\partial_i = -\partial/\partial x^i ですから(ii について和を取らない)、空間成分は

j=i2m(ϕ∗(−∇ϕ)−(−∇ϕ∗)ϕ)=−i2m(ϕ∗∇ϕ−(∇ϕ∗)ϕ)\boldsymbol{j} = \frac{i}{2m}\left(\phi^{*}(-\nabla\phi) - (-\nabla\phi^{*})\phi\right) = -\frac{i}{2m}\left(\phi^{*}\nabla\phi - (\nabla\phi^{*})\phi\right)

です。−i/(2m)=1/(2mi)-i/(2m) = 1/(2mi) なので

j=12mi(ϕ∗∇ϕ−ϕ∇ϕ∗)\boldsymbol{j} = \frac{1}{2mi}\left(\phi^{*}\nabla\phi - \phi\nabla\phi^{*}\right)

となり、非相対論的な確率流と同じ形です。相対論化で形が変わったのは時間成分だけだったことがわかります。

2. ω=m\omega = m とします。ϕ˙=−im(N+e−imt−N−e+imt)\dot\phi = -im\left(N_+e^{-imt} - N_-e^{+imt}\right) と ϕ∗=N+‾e+imt+N−‾e−imt\phi^{*} = \overline{N_+}e^{+imt} + \overline{N_-}e^{-imt} を掛け、w:=N−‾N+e−2imtw := \overline{N_-}N_+e^{-2imt}(このとき N+‾N−e2imt=wˉ\overline{N_+}N_-e^{2imt} = \bar w)とおくと

ϕ∗ϕ˙=−im[(∣N+∣2−∣N−∣2)+(w−wˉ)]=−im(∣N+∣2−∣N−∣2)+2mIm⁡w\phi^{*}\dot\phi = -im\left[\left(\lvert N_+\rvert^2-\lvert N_-\rvert^2\right) + (w-\bar w)\right] = -im\left(\lvert N_+\rvert^2-\lvert N_-\rvert^2\right) + 2m\operatorname{Im}w

です(w−wˉ=2iIm⁡ww-\bar w = 2i\operatorname{Im}w を使いました)。第 2 項は実数なので、ϕ˙∗ϕ=ϕ∗ϕ˙‾\dot\phi^{*}\phi = \overline{\phi^{*}\dot\phi} との差を取ると相殺し、

j0=i2m(ϕ∗ϕ˙−ϕ˙∗ϕ)=i2m⋅(−2im)(∣N+∣2−∣N−∣2)=∣N+∣2−∣N−∣2j^0 = \frac{i}{2m}\left(\phi^{*}\dot\phi - \dot\phi^{*}\phi\right) = \frac{i}{2m}\cdot\left(-2im\right)\left(\lvert N_+\rvert^2-\lvert N_-\rvert^2\right) = \lvert N_+\rvert^2 - \lvert N_-\rvert^2

が残ります。よって ∣N+∣=∣N−∣\lvert N_+\rvert=\lvert N_-\rvert のとき j0=0j^0 = 0 です。

意味:正エネルギー成分と負エネルギー成分が等量ある状態では、j0j^0 を「粒子がそこにいる確率密度」と読むと恒等的にゼロという不合理が生じます。注意 3.4 のとおり、j0j^0 は電荷密度であり、正電荷と負電荷が等量あって中性になっている、と読むのが正しい解釈です。

演習 9.2標準

α1,α2,α3,β\alpha^1,\alpha^2,\alpha^3,\beta をエルミートな N×NN\times N 行列で {αi,αj}=2δij1\{\alpha^i,\alpha^j\}=2\delta^{ij}\mathbb{1}、{αi,β}=0\{\alpha^i,\beta\}=0、β2=1\beta^2=\mathbb{1} を満たすものとします。

  1. NN が偶数であることを示してください。
  2. N=2N=2 が不可能であることを示し、最小次元が 44 であることを結論してください。
解答

1. 定理 4.2 で示したとおり tr⁡β=0\operatorname{tr}\beta = 0 です。一方 β2=1\beta^2=\mathbb{1} かつ β\beta はエルミートなので対角化でき、固有値は ±1\pm1 のみです。重複度を n±n_\pm とすると n++n−=Nn_++n_-=N かつ tr⁡β=n+−n−=0\operatorname{tr}\beta = n_+-n_-=0、よって n+=n−=N/2n_+=n_-=N/2 です。n±n_\pm は整数なので NN は偶数です。

2. N=2N=2 と仮定します。2×22\times2 のエルミート行列でトレースが 00 のものは、実係数で σ1,σ2,σ3\sigma^1,\sigma^2,\sigma^3 の線形結合として一意に書けます(この空間は実 3 次元)。定理 4.2 より αi\alpha^i も β\beta もトレースが 00 なので、実ベクトル a1,a2,a3,b∈R3\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\boldsymbol{a}_3,\boldsymbol{b}\in\mathbb{R}^3 を使って

αi=ai⋅σ,β=b⋅σ\alpha^i = \boldsymbol{a}_i\cdot\boldsymbol{\sigma},\qquad \beta = \boldsymbol{b}\cdot\boldsymbol{\sigma}

と書けます。パウリ行列の恒等式 (u⋅σ)(v⋅σ)=(u⋅v)1+i(u×v)⋅σ(\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{\sigma})(\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{\sigma}) = (\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{v})\mathbb{1} + i(\boldsymbol{u}\times\boldsymbol{v})\cdot\boldsymbol{\sigma} を使うと、u×v\boldsymbol{u}\times\boldsymbol{v} が反対称なので

{u⋅σ, v⋅σ}=2(u⋅v) 1\{\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{\sigma},\,\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{\sigma}\} = 2(\boldsymbol{u}\cdot\boldsymbol{v})\,\mathbb{1}

が成り立ちます。したがって仮定の三条件は、a1,a2,a3,b\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\boldsymbol{a}_3,\boldsymbol{b} が

ai⋅aj=δij,ai⋅b=0,b⋅b=1\boldsymbol{a}_i\cdot\boldsymbol{a}_j = \delta_{ij},\qquad \boldsymbol{a}_i\cdot\boldsymbol{b} = 0,\qquad \boldsymbol{b}\cdot\boldsymbol{b} = 1

を満たすこと、すなわち R3\mathbb{R}^3 の中に互いに直交する単位ベクトルが 4 本あることと同値です。R3\mathbb{R}^3 の次元は 33 なので、直交する非ゼロベクトルは高々 3 本しか取れません。矛盾します。よって N≠2N\ne 2。

1 より NN は偶数、いま N=2N=2 が排除され、N=0N=0 は行列として無意味ですから N≥4N\ge 4 です。そして N=4N=4 は実際に実現します(ディラック表現 αi=(0σiσi0)\alpha^i = \begin{pmatrix}0&\sigma^i\\\sigma^i&0\end{pmatrix}、β=(100−1)\beta=\begin{pmatrix}\mathbb{1}&0\\0&-\mathbb{1}\end{pmatrix} が三条件を満たすことは、{σi,σj}=2δij1\{\sigma^i,\sigma^j\}=2\delta^{ij}\mathbb{1} を使ってブロックごとに確かめられます)。よって最小次元は 44 です。

演習 9.3易

  1. 電子の換算コンプトン波長 λˉC=ℏ/(mec)\bar\lambda_C = \hbar/(m_ec) と Bohr 半径 a0=ℏ/(mecα)a_0 = \hbar/(m_ec\alpha) の比を求め、数値を出してください(α−1=137.04\alpha^{-1}=137.04)。
  2. 水素原子中の電子の典型的な速度と運動エネルギーを α\alpha と mec2=511 keVm_ec^2 = 511\ \mathrm{keV} で表し、非相対論的量子力学が良い近似である理由を述べてください。
  3. 電子を λˉC\bar\lambda_C 程度の領域に閉じ込めようとすると何が起こりますか。
解答

1. 定義から直ちに a0/λˉC=1/α=137.04a_0/\bar\lambda_C = 1/\alpha = 137.04 です。例 6.2 の λˉC=3.86×10−13 m\bar\lambda_C = 3.86\times10^{-13}\ \mathrm{m} を使うと

a0=137.04×3.86×10−13 m=5.29×10−11 ma_0 = 137.04\times 3.86\times10^{-13}\ \mathrm{m} = 5.29\times10^{-11}\ \mathrm{m}

で、既知の Bohr 半径に一致します。

2. 電子が a0a_0 程度の広がりに閉じ込められているので、不確定性関係から典型的な運動量は p∼ℏ/a0=α mecp\sim\hbar/a_0 = \alpha\, m_ec です。よって

vc∼α≃1137,Ekin∼p22me=12α2mec2=5.325×10−52×511 keV=13.6 eV.\frac{v}{c}\sim\alpha\simeq\frac{1}{137}, \qquad E_{\text{kin}}\sim\frac{p^2}{2m_e} = \frac{1}{2}\alpha^2 m_ec^2 = \frac{5.325\times10^{-5}}{2}\times 511\ \mathrm{keV} = 13.6\ \mathrm{eV}.

これは水素原子の Rydberg エネルギーそのものです。運動エネルギーは静止エネルギーの 2.7×10−52.7\times10^{-5} 倍にすぎず、相対論補正は (v/c)2∼α2(v/c)^2\sim\alpha^2 の相対精度、すなわち 10−510^{-5} 程度の効果です(これが微細構造の大きさです)。したがって非相対論的量子力学が良い近似になります。原子物理が量子力学だけでほぼ足りるのは、微細構造定数が小さいおかげです。

3. Δx∼λˉC\Delta x\sim\bar\lambda_C とすると Δp≳ℏ/λˉC=mec\Delta p\gtrsim\hbar/\bar\lambda_C = m_ec、よって ΔE≳mec2=511 keV\Delta E\gtrsim m_ec^2 = 511\ \mathrm{keV} です。対生成のしきい値 2mec2=1.022 MeV2m_ec^2 = 1.022\ \mathrm{MeV} と同じ桁なので、閉じ込めに使ったエネルギーで電子・陽電子対が生成されます。「もとの 1 個の電子」と「新しく生まれた電子」は区別できないため、一粒子の波動関数という記述そのものが破綻します。定義 7.2 のように粒子数の異なる状態を含む空間が必要になります。

演習 9.4難

複素スカラー場の演算子を

ϕ^(x)=∫d3p(2π)312ωp(a^pe−ip⋅x+b^p†e+ip⋅x)\hat\phi(x) = \int\frac{d^3p}{(2\pi)^3}\frac{1}{\sqrt{2\omega_{\boldsymbol{p}}}}\left(\hat a_{\boldsymbol{p}}e^{-ip\cdot x} + \hat b^\dagger_{\boldsymbol{p}}e^{+ip\cdot x}\right)

とします([a^p,a^q†]=[b^p,b^q†]=(2π)3δ3(p−q)[\hat a_{\boldsymbol{p}},\hat a^\dagger_{\boldsymbol{q}}] = [\hat b_{\boldsymbol{p}},\hat b^\dagger_{\boldsymbol{q}}] = (2\pi)^3\delta^3(\boldsymbol{p}-\boldsymbol{q})、a^\hat a 型と b^\hat b 型の間の交換子はすべてゼロ)。

  1. [ϕ^(x),ϕ^†(y)]=D(x−y)−D(y−x)[\hat\phi(x),\hat\phi^\dagger(y)] = D(x-y) - D(y-x) を示し、空間的隔たりでゼロになることを結論してください(DD は 定理 7.5 のもの)。
  2. D(x−y)D(x-y) と D(y−x)D(y-x) がそれぞれ物理的に何の振幅かを述べ、打ち消しの意味を説明してください。
  3. 反粒子が存在しない(b^†\hat b^\dagger の項が無い)と仮定すると何が壊れますか。
解答

1. ϕ^†(y)=∫d3q(2π)312ωq(a^q†e+iq⋅y+b^qe−iq⋅y)\hat\phi^\dagger(y) = \int\frac{d^3q}{(2\pi)^3}\frac{1}{\sqrt{2\omega_{\boldsymbol{q}}}}\left(\hat a^\dagger_{\boldsymbol{q}}e^{+iq\cdot y} + \hat b_{\boldsymbol{q}}e^{-iq\cdot y}\right) です。交換子を展開すると、a^\hat a 型と b^\hat b 型が交わる項はゼロなので

[ϕ^(x),ϕ^†(y)]=∫d3p d3q(2π)64ωpωq([a^p,a^q†]e−ip⋅x+iq⋅y+[b^p†,b^q]e+ip⋅x−iq⋅y)[\hat\phi(x),\hat\phi^\dagger(y)] = \int\frac{d^3p\,d^3q}{(2\pi)^6\sqrt{4\omega_{\boldsymbol{p}}\omega_{\boldsymbol{q}}}}\left([\hat a_{\boldsymbol{p}},\hat a^\dagger_{\boldsymbol{q}}]e^{-ip\cdot x+iq\cdot y} + [\hat b^\dagger_{\boldsymbol{p}},\hat b_{\boldsymbol{q}}]e^{+ip\cdot x - iq\cdot y}\right)=∫d3p(2π)32ωp(e−ip⋅(x−y)−e+ip⋅(x−y))=D(x−y)−D(y−x).= \int\frac{d^3p}{(2\pi)^3 2\omega_{\boldsymbol{p}}}\left(e^{-ip\cdot(x-y)} - e^{+ip\cdot(x-y)}\right) = D(x-y)-D(y-x).

第 2 項の符号は [b^p†,b^q]=−(2π)3δ3(p−q)[\hat b^\dagger_{\boldsymbol{p}},\hat b_{\boldsymbol{q}}] = -(2\pi)^3\delta^3(\boldsymbol{p}-\boldsymbol{q}) から来ています。あとは 定理 7.5 の第 2 段・第 3 段がそのまま使えます。(x−y)2<0(x-y)^2<0 ならば Λ(x−y)=−(x−y)\Lambda(x-y) = -(x-y) となる Λ∈SO+(1,3)\Lambda\in SO^+(1,3) が存在し、DD の不変性から D(x−y)=D(y−x)D(x-y)=D(y-x)、よって交換子はゼロです。

2. 真空期待値を取ると ⟨0∣ϕ^(x)ϕ^†(y)∣0⟩=D(x−y)\langle 0\rvert\hat\phi(x)\hat\phi^\dagger(y)\lvert 0\rangle = D(x-y) です。ϕ^†(y)\hat\phi^\dagger(y) は yy で粒子(a^\hat a 型)を 1 個生成し、ϕ^(x)\hat\phi(x) は xx でそれを消滅させますから、D(x−y)D(x-y) は「yy で生まれた粒子が xx で消える振幅」です。一方 ⟨0∣ϕ^†(y)ϕ^(x)∣0⟩=D(y−x)\langle 0\rvert\hat\phi^\dagger(y)\hat\phi(x)\lvert 0\rangle = D(y-x) で、ϕ^(x)\hat\phi(x) は xx で反粒子(b^\hat b 型)を生成し、ϕ^†(y)\hat\phi^\dagger(y) が yy でそれを消滅させます。すなわち「xx で生まれた反粒子が yy で消える振幅」です。

空間的に隔たった 2 点にはローレンツ不変な時間順序が付きません。「yy が先」と見る観測者には粒子が y→xy\to x と伝わったように見え、「xx が先」と見る観測者には反粒子が x→yx\to y と伝わったように見えます。二つの振幅は等しく、交換子では引き算されて消えます。観測可能な因果的影響が残らない仕組みです。

3. b^†\hat b^\dagger の項が無ければ ϕ^(x)=∫d3p(2π)32ωpa^pe−ip⋅x\hat\phi(x) = \int\frac{d^3p}{(2\pi)^3\sqrt{2\omega_{\boldsymbol p}}}\hat a_{\boldsymbol{p}}e^{-ip\cdot x} となり、[ϕ^(x),ϕ^†(y)]=D(x−y)[\hat\phi(x),\hat\phi^\dagger(y)] = D(x-y) です。注意 7.6 のとおり DD は空間的隔たりで m4π2rK1(mr)>0\frac{m}{4\pi^2r}K_1(mr)>0 となりゼロになりません。よってミクロ因果律が破れ、空間的に隔たった二つの観測が互いに影響し合うことになります。

つまり相対論的な局所場を作るには、消滅演算子と生成演算子の両方を同じ ϕ^(x)\hat\phi(x) に含めねばなりません。場が電荷をもつ(ϕ^≠ϕ^†\hat\phi\ne\hat\phi^\dagger)とき、後者は必然的に反対符号の電荷をもつ粒子、すなわち反粒子の生成演算子になります。中性の実スカラー場(定義 7.4)では b^=a^\hat b = \hat a で、粒子が自分自身の反粒子です。

  • M. E. Peskin and D. V. Schroeder, An Introduction to Quantum Field Theory, Addison-Wesley, 1995 — 第 1 章および §2.1(一粒子相対論的量子力学の破綻と光円錐外の伝播振幅)。
  • S. Weinberg, The Quantum Theory of Fields, Volume I: Foundations, Cambridge University Press, 1995 — 第 1 章(歴史的序説)、第 5 章(場の必然性とスピン統計)。
  • 坂本眞人『場の量子論 — 不変性と自由場を中心にして』裳華房、2014 — 第 1 章〜第 3 章(一粒子理論の困難、正準量子化)。
  • P. A. M. Dirac, “The Quantum Theory of the Electron”, Proceedings of the Royal Society A 117 (1928), 610–624. DOI: 10.1098/rspa.1928.0023
  • C. D. Anderson, “The Positive Electron”, Physical Review 43 (1933), 491–494. DOI: 10.1103/PhysRev.43.491
  • G. C. Hegerfeldt, “Remark on causality and particle localization”, Physical Review D 10 (1974), 3320–3321. DOI: 10.1103/PhysRevD.10.3320

Appendix: 光円錐外の伝播振幅の積分路変形

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例 5.2 で使った表式を導きます。出発点は

U(t,r)=12π2r∫0∞dp  p sin⁡(pr) e−iωpt,ωp=p2+m2U(t,r) = \frac{1}{2\pi^2 r}\int_0^\infty dp\;p\,\sin(pr)\,e^{-i\omega_p t}, \qquad \omega_p = \sqrt{p^2+m^2}

です。被積分関数のうち psin⁡(pr)p\sin(pr) と ωp\omega_p はどちらも pp の偶関数なので、積分区間を R\mathbb{R} 全体に広げて 12\frac12 を掛けられます。さらに sin⁡(pr)=(eipr−e−ipr)/(2i)\sin(pr) = (e^{ipr}-e^{-ipr})/(2i) とし、e−ipre^{-ipr} の項で p→−pp\to-p と置換すると eipre^{ipr} の項と同じものになるので、

U(t,r)=14π2i r∫−∞∞dp  p eipr e−ip2+m2 tU(t,r) = \frac{1}{4\pi^2 i\,r}\int_{-\infty}^{\infty}dp\;p\,e^{ipr}\,e^{-i\sqrt{p^2+m^2}\,t}

を得ます。ここで p2+m2\sqrt{p^2+m^2} を複素 pp 平面へ解析接続します。分岐点は p=±imp=\pm im で、切断を [im,i∞)[im, i\infty) と (−i∞,−im](-i\infty,-im] に取り、実軸上で p2+m2>0\sqrt{p^2+m^2}>0 となる枝を選びます。

r>0r>0 なので eipre^{ipr} は上半平面で減衰します。大きな半径 RR の上半円弧では ∣p∣→∞\lvert p\rvert\to\infty で p2+m2≃±p\sqrt{p^2+m^2}\simeq \pm p となり、被積分関数の指数部は ∣eip(r−t)∣=e−(r−t)Im⁡p\lvert e^{ip(r-t)}\rvert = e^{-(r-t)\operatorname{Im}p} のようにふるまいます。空間的隔たり r>t>0r>t>0 のときに限りこれは減衰し、円弧の寄与が消えます。ここが決定的で、時間的隔たり r<tr<t では以下の変形はできません。

積分路を上へ持ち上げると切断 [im,i∞)[im,i\infty) に引っかかります。結果として、切断の左側を i∞i\infty から imim まで下り、imim を回って右側を i∞i\infty まで上る積分路が残ります。p=iρp = i\rho(ρ>m\rho>m)とおくと dp=i dρdp = i\,d\rho、eipr=e−ρre^{ipr} = e^{-\rho r} です。p=ϵ+iρp=\epsilon+i\rho として p2+m2≃(m2−ρ2)+2iϵρp^2+m^2 \simeq (m^2-\rho^2) + 2i\epsilon\rho を見ると、ρ>m\rho>m で実部は負、虚部の符号は ϵ\epsilon の符号と同じです。よって s:=ρ2−m2s:=\sqrt{\rho^2-m^2} とおくと、切断の右側(ϵ>0\epsilon>0)では p2+m2=+is\sqrt{p^2+m^2} = +is、左側(ϵ<0\epsilon<0)では −is-is となります。したがって

e−ip2+m2 t={e+ts(右側)e−ts(左側)e^{-i\sqrt{p^2+m^2}\,t} = \begin{cases} e^{+ts} & (\text{右側}) \\ e^{-ts} & (\text{左側}) \end{cases}

です。左側(ρ:∞→m\rho:\infty\to m)と右側(ρ:m→∞\rho: m\to\infty)の寄与を足すと

∫−∞∞dp  p eipre−iωpt=∫∞m(iρ)e−ρre−ts i dρ+∫m∞(iρ)e−ρre+ts i dρ\int_{-\infty}^{\infty}dp\;p\,e^{ipr}e^{-i\omega_pt} = \int_{\infty}^{m}(i\rho)e^{-\rho r}e^{-ts}\,i\,d\rho + \int_{m}^{\infty}(i\rho)e^{-\rho r}e^{+ts}\,i\,d\rho =∫m∞dρ  ρ e−ρr(e−ts−e+ts)=−2∫m∞dρ  ρ e−ρrsinh⁡(ts).= \int_m^\infty d\rho\;\rho\,e^{-\rho r}\left(e^{-ts} - e^{+ts}\right) = -2\int_m^\infty d\rho\;\rho\,e^{-\rho r}\sinh(ts).

これを UU の表式に戻すと、−2/(4i)=i/2-2/(4i) = i/2 より

U(t,r)=i2π2r∫m∞dρ  ρ e−ρr sinh⁡ ⁣(tρ2−m2)U(t,r) = \frac{i}{2\pi^2 r}\int_m^\infty d\rho\;\rho\,e^{-\rho r}\,\sinh\!\left(t\sqrt{\rho^2-m^2}\right)

が得られます。ρ→∞\rho\to\infty で被積分関数は ρ e−(r−t)ρ/2\rho\,e^{-(r-t)\rho}/2 のようにふるまうので、r>tr>t で収束します。t>0t>0 のとき被積分関数は区間内で厳密に正なので、積分は正、すなわち U≠0U\ne 0 です。t→0t\to 0 では sinh⁡→0\sinh\to0 となり U→0U\to0 で、r>0r>0 における δ3(r)\delta^3(\boldsymbol{r}) の値と整合します。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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