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平成12年度 東大院 物理学専攻 修士 物理学 解答

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平成11年8月25日実施、4時間の試験です。純粋な計算問題は第1問・第2問・第3問・第6問に集まっており、残りの4問は測定原理や実験手法を言葉で説明させる問題が主体になっています。計算問題の側は素直な標準問題で、二重井戸の分裂幅や電離層の屈折率は結果を暗記していれば早く済みますが、「dd 依存性を議論せよ」「物理的意味を説明せよ」という指示に答えるには指数の中身まで自分で出す必要があります。実験系の4問は、図から数値を読み取って桁を出す作業(第4問3、第5問6)と、装置の設計理由を述べる作業(第4問1、第5問1)が配点の中心です。

問題分野主題
第1問量子力学対称二重井戸のパリティとトンネル分裂
第2問電磁気学電離層の電気伝導度、円偏光と磁場
第3問統計力学スピン系の断熱消磁と到達温度
第4問電磁気学・電気回路Kelvin 電気秤、ブリッジ法、太陽電池
第5問原子核・放射線計測NaI シンチレーターと光電子増倍管
第6問量子力学・固体物理2次元自由電子と弱い周期ポテンシャル
第7問原子分子・生物物理タンパク質の高次構造決定法
第8問原子分子分子の内部回転と回転異性体

8問から4問を選択する形式ですが、ここでは全問の解答を載せます。

第1問 対称二重井戸のパリティとトンネル分裂

Section titled “第1問 対称二重井戸のパリティとトンネル分裂”

1次元ポテンシャルは、x>d+a|x|>d+a\inftyd<x<d+ad<|x|<d+a00x<d|x|<dV0V_0 です。つまり幅 aa の井戸が左右に 1 つずつあり、その間に高さ V0V_0・幅 2d2d の障壁がはさまっていて、外側は無限に高い壁で閉じられています。質量 mm の粒子 1 個を入れ、ハミルトニアン

H=22md2dx2+V(x)H=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}+V(x)

の固有値を考えます。V(x)=V(x)V(-x)=V(x) なので HH はパリティ演算子と可換で、固有関数は偶パリティ Ψ(x)=Ψ(x)\Psi(-x)=\Psi(x) と奇パリティ Ψ(x)=Ψ(x)\Psi(-x)=-\Psi(x) に分類できます。以下

k=2mE,κ=2m(V0E)k=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar},\qquad \kappa=\frac{\sqrt{2m(V_0-E)}}{\hbar}

と置きます。E<V0E<V_0 なので k,κk,\kappa はともに実数です。

境界条件は Ψ(±(d+a))=0\Psi(\pm(d+a))=0(無限壁)と、x=d|x|=d での Ψ\PsiΨ\Psi' の連続です。x>0x>0 側の解は d<x<d+ad<x<d+a

Ψ(x)=Bsin(k(d+ax))\Psi(x)=B\sin\bigl(k(d+a-x)\bigr)

と書けば右端の条件が自動的に満たされます。障壁の中 x<d|x|<d では、偶パリティなら Ψ=Acosh(κx)\Psi=A\cosh(\kappa x)、奇パリティなら Ψ=Asinh(κx)\Psi=A\sinh(\kappa x) です。x=dx=d で対数微分 Ψ/Ψ\Psi'/\Psi をつなぐと、BBAA が消えて

偶パリティ:kcot(ka)=κtanh(κd),奇パリティ:kcot(ka)=κcoth(κd)\begin{aligned} \text{偶パリティ:}\quad & k\cot(ka)=-\kappa\tanh(\kappa d),\\ \text{奇パリティ:}\quad & k\cot(ka)=-\kappa\coth(\kappa d) \end{aligned}

を得ます。これが E<V0E<V_0 のときのエネルギー固有値を決める式です。k,κk,\kappaEE で書き直せば

Ecot ⁣(a2mE)=V0E×{tanh(κd)()coth(κd)()\sqrt{E}\,\cot\!\left(\frac{a\sqrt{2mE}}{\hbar}\right)=-\sqrt{V_0-E}\times \begin{cases}\tanh(\kappa d) & (\text{偶})\\ \coth(\kappa d) & (\text{奇})\end{cases}

です。右辺が負なので cot(ka)<0\cot(ka)<0、すなわち kaka(π/2,π)(\pi/2,\pi)(3π/2,2π)(3\pi/2,2\pi)、… の中にあります。左辺は各区間で 00 から -\infty へ単調減少し、右辺は EE の増加関数なので、各区間に解がちょうど 1 つあります。

tanh(κd)<1<coth(κd)\tanh(\kappa d)<1<\coth(\kappa d) より偶パリティの右辺は奇パリティの右辺より大きく、左辺が EE の減少関数であることから、同じ区間の解は偶パリティのほうが低いエネルギーになります。したがって基底状態は偶パリティ、第一励起状態は奇パリティです。

E1<V0E_1<V_0 なので Ψ0|\Psi_0\rangleΨ1|\Psi_1\rangle はどちらも障壁の中で指数的(cosh\cosh または sinh\sinh)にふるまいます。特徴は次の通りです。

Ψ0|\Psi_0\rangle(偶パリティ、節なし)は x=±(d+a)x=\pm(d+a)00、左右の井戸の中にそれぞれ 1 つの極大をもち、その間の障壁の中では cosh(κx)\cosh(\kappa x) に従って一度減って x=0x=0 で極小になります。極小値は 00 ではありません。全域で符号が変わらないので節は 1 つもありません。井戸の中では ka>π/2ka>\pi/2 なので、極大の位置は井戸の中央よりやや外壁側(x|x| の大きい側)に寄ります。

Ψ1|\Psi_1\rangle(奇パリティ、節 1 個)は x=±(d+a)x=\pm(d+a)00 に加えて x=0x=0 でも 00 になり、障壁の中では sinh(κx)\sinh(\kappa x) に従ってほぼ直線的に符号を変えて通過します。左右の井戸での振幅は等しく符号が逆です。井戸の中に節はありません。

V0V_0dd が大きいほど障壁内の値は小さくなり、両者は「左右の井戸に閉じ込められた同じ波の和と差」に近づきます。V0=82/(2ma2)V_0=8\,\hbar^2/(2ma^2)d=a/2d=a/2 の場合を実際に解いて描くと次のようになります(縦軸は各々の最大値で規格化)。

Psi_0Psi_1-(d+a)-d0dd+a

dd\to\infty では tanh(κd)1\tanh(\kappa d)\to1coth(κd)1\coth(\kappa d)\to1 となり、偶と奇の 2 つの式が同一のものに退化します。

kcot(ka)=κ,すなわちEcot ⁣(a2mE)=V0Ek\cot(ka)=-\kappa,\qquad\text{すなわち}\qquad \sqrt{\overline{E}}\,\cot\!\left(\frac{a\sqrt{2m\overline{E}}}{\hbar}\right)=-\sqrt{V_0-\overline{E}}

この式の最小の解が E0=E1E\overline{E_0}=\overline{E_1}\equiv\overline{E} です。すなわち dd\to\infty で基底状態と第一励起状態は 2 重に縮退します。ka(π/2,π)ka\in(\pi/2,\pi) という条件を付ければ解は一意に定まり、sin2(ka)=2k2/(2mV0)\sin^2(ka)=\hbar^2k^2/(2mV_0) かつ cot(ka)<0\cot(ka)<0 と書いても同じです。

物理的には、dd\to\infty で左右の井戸が完全に切り離され、「片側が無限壁、もう片側が高さ V0V_0 の階段」という幅 aa の井戸の基底状態が 2 つ独立に存在する状況になります。左の井戸だけに局在した状態と右の井戸だけに局在した状態が同じエネルギーをもつので縮退します。

dd が大きいが有限のときは tanh(κd)=12e2κd+O(e4κd)\tanh(\kappa d)=1-2e^{-2\kappa d}+O(e^{-4\kappa d})coth(κd)=1+2e2κd+O(e4κd)\coth(\kappa d)=1+2e^{-2\kappa d}+O(e^{-4\kappa d}) です。G(E)kcot(ka)+κG(E)\equiv k\cot(ka)+\kappa と置くと G(E)=0G(\overline{E})=0 で、設問1 の 2 式はそれぞれ

G(E0)=+2κe2κd,G(E1)=2κe2κdG(E_0)=+2\kappa e^{-2\kappa d},\qquad G(E_1)=-2\kappa e^{-2\kappa d}

となります。GGE\overline{E} の近傍で減少関数(G<0G'<0)なので E0<E<E1E_0<\overline{E}<E_1 で、E\overline{E} のまわりで 1 次まで展開すると

Δ=E1E0=4κe2κdG(E)\Delta=E_1-E_0=\frac{4\kappa e^{-2\kappa d}}{|G'(\overline{E})|}

です。GG' を計算します。dk/dE=m/(2k)dk/dE=m/(\hbar^2k)dκ/dE=m/(2κ)d\kappa/dE=-m/(\hbar^2\kappa)、および E\overline{E} 上で cot(ka)=κ/k\cot(ka)=-\kappa/ksin2(ka)=(k2+κ2)/k2\sin^{-2}(ka)=(k^2+\kappa^2)/k^2 を使うと

G(E)=m2(k2+κ2)(1+aκ)k2κ|G'(\overline{E})|=\frac{m}{\hbar^2}\,\frac{(k^2+\kappa^2)(1+a\kappa)}{k^2\kappa}

とまとまります。k2+κ2=2mV0/2k^2+\kappa^2=2mV_0/\hbar^2 を代入して整理すると、κ2m(V0E0)/\overline{\kappa}\equiv\sqrt{2m(V_0-\overline{E_0})}/\hbar として

Δ=8E0(V0E0)V0(1+aκ)  e2κd\Delta=\frac{8\,\overline{E_0}\,(V_0-\overline{E_0})}{V_0\,(1+a\overline{\kappa})}\;e^{-2\overline{\kappa}d}

を得ます。前係数はエネルギーの次元をもち(E0(V0E0)/V0\overline{E_0}(V_0-\overline{E_0})/V_0 がエネルギー、aκa\overline{\kappa} は無次元)、dd 依存性は指数関数 e2κde^{-2\overline{\kappa}d} に集約されます。すなわち lnΔ\ln\Deltadd の 1 次関数で、傾きは 2κ=22m(V0E0)/-2\overline{\kappa}=-2\sqrt{2m(V_0-\overline{E_0})}/\hbar です。障壁が厚くなる、あるいは V0E0V_0-\overline{E_0} が大きくなるほど分裂は指数的に速く消え、dd\to\infty で設問3 の縮退に連続的につながります。

指数の中身は障壁幅 2d2d に対する WKB 減衰因子 exp(ddκdx)=e2κd\exp\bigl(-\int_{-d}^{d}\overline{\kappa}\,dx\bigr)=e^{-2\overline{\kappa}d} そのもので、透過確率ではなく透過振幅の大きさになっています(透過確率は Δ2\Delta^2 の側、e4κde^{-4\overline{\kappa}d} に対応します)。数値でも確認できます。2/2m=1\hbar^2/2m=1a=1a=1V0=100V_0=100d=1d=1 の場合、上の 2 つの超越方程式を厳密に解くと E=8.135854\overline{E}=8.135854Δ=2.6724×108\Delta=2.6724\times10^{-8} で、上の閉じた式は 2.6724×1082.6724\times10^{-8} を与えます。

R|R\rangleL|L\rangle は互いに鏡像で、RR=LL=1\langle R|R\rangle=\langle L|L\rangle=1RL=0\langle R|L\rangle=0 です。パリティ演算子 PPPR=LP|R\rangle=|L\ranglePL=RP|L\rangle=|R\rangle と作用するので、PP の固有状態は (R±L)/2(|R\rangle\pm|L\rangle)/\sqrt2 です。Ψ0|\Psi_0\rangle が偶、Ψ1|\Psi_1\rangle が奇(設問1・設問2)なので

Ψ0=12(R+L),Ψ1=12(RL)|\Psi_0\rangle=\frac{1}{\sqrt2}\bigl(|R\rangle+|L\rangle\bigr),\qquad |\Psi_1\rangle=\frac{1}{\sqrt2}\bigl(|R\rangle-|L\rangle\bigr)

です(全体の位相は R|R\rangle が右の井戸で正になるようにとりました)。逆に R=(Ψ0+Ψ1)/2|R\rangle=(|\Psi_0\rangle+|\Psi_1\rangle)/\sqrt2L=(Ψ0Ψ1)/2|L\rangle=(|\Psi_0\rangle-|\Psi_1\rangle)/\sqrt2 です。

Ψ0|\Psi_0\rangleΨ1|\Psi_1\rangle 以外を無視するので、H=E0Ψ0Ψ0+E1Ψ1Ψ1H=E_0|\Psi_0\rangle\langle\Psi_0|+E_1|\Psi_1\rangle\langle\Psi_1| です。設問5 の関係を代入すると

RHR=LHL=E0+E12ε,RHL=LHR=E0E12=Δ2\begin{aligned} \langle R|H|R\rangle&=\langle L|H|L\rangle=\frac{E_0+E_1}{2}\equiv\varepsilon,\\ \langle R|H|L\rangle&=\langle L|H|R\rangle=\frac{E_0-E_1}{2}=-\frac{\Delta}{2} \end{aligned}

なので

H=(εΔ/2Δ/2ε)=ε(1001)Δ2(0110)H=\begin{pmatrix}\varepsilon & -\Delta/2\\ -\Delta/2 & \varepsilon\end{pmatrix} =\varepsilon\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}-\frac{\Delta}{2}\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}

です。対角成分は左右の井戸に局在した状態のエネルギー、非対角成分 Δ/2-\Delta/2 が障壁を通り抜ける行列要素(トンネル振幅)で、その大きさが分裂幅の半分になっています。

ψ(0)=R=(Ψ0+Ψ1)/2|\psi(0)\rangle=|R\rangle=(|\Psi_0\rangle+|\Psi_1\rangle)/\sqrt2 を時間発展させると

ψ(t)=12(eiE0t/Ψ0+eiE1t/Ψ1)|\psi(t)\rangle=\frac{1}{\sqrt2}\Bigl(e^{-iE_0t/\hbar}|\Psi_0\rangle+e^{-iE_1t/\hbar}|\Psi_1\rangle\Bigr)

で、LΨ0=1/2\langle L|\Psi_0\rangle=1/\sqrt2LΨ1=1/2\langle L|\Psi_1\rangle=-1/\sqrt2 より

Lψ(t)=12(eiE0t/eiE1t/)\langle L|\psi(t)\rangle=\frac{1}{2}\Bigl(e^{-iE_0t/\hbar}-e^{-iE_1t/\hbar}\Bigr)

したがって

PL(t)=Lψ(t)2=1cos(Δt/)2=sin2 ⁣(Δt2)P_L(t)=\bigl|\langle L|\psi(t)\rangle\bigr|^2=\frac{1-\cos(\Delta t/\hbar)}{2}=\sin^2\!\left(\frac{\Delta t}{2\hbar}\right)

です。PR(t)=cos2(Δt/2)P_R(t)=\cos^2(\Delta t/2\hbar) で和は 1 になり、規格化も保たれています。

物理的意味は次の通りです。粒子は左右の井戸の間を周期 T=2π/ΔT=2\pi\hbar/\Delta で往復し、t=π/Δt=\pi\hbar/\Delta で完全に左へ移ります。つまり分裂幅 Δ\Delta がトンネリングの速さを決める唯一の量で、トンネル時間は /Δ\hbar/\Delta の程度です。設問4 の結果 Δe2κd\Delta\propto e^{-2\overline{\kappa}d} を入れると

T=2πΔe+2κdT=\frac{2\pi\hbar}{\Delta}\propto e^{+2\overline{\kappa}d}

で、障壁が厚くなると往復時間は指数関数的に長くなります。Δ0\Delta\to0 の極限では R|R\rangle 自身が(縮退した)定常状態になり、粒子は左へ移りません。これは対称なハミルトニアンをもつ系でも、障壁が十分厚ければ左右非対称な局在状態が事実上安定に存在しうることを意味します。アンモニア分子の反転二重項(Δ/h24\Delta/h\simeq24 GHz)、キラル分子の光学異性体が実際には反転しないこと、二重井戸型強誘電体の分極の凍結などが同じ機構です。

第2問 電離層の電気伝導度と円偏光の伝搬

Section titled “第2問 電離層の電気伝導度と円偏光の伝搬”

電離層を、質量 mm、電荷 e-e、数密度 nn の電子が一様に分布した媒質とみなします。陽イオンは重いので動かず、電離層は全体として中性なので ρ=0\rho=0 です。電磁波の磁場による Lorentz 力は無視します。時間依存性を eiωte^{-i\omega t}、空間依存性を eikze^{ikz} にとり、以下 M.K.S. 系で書きます(C.G.S. 系での結果も併記します)。

電子の運動方程式は mdv/dt=eEm\,d\boldsymbol{v}/dt=-e\boldsymbol{E} です。veiωt\boldsymbol{v}\propto e^{-i\omega t} とすると iωmv=eE-i\omega m\boldsymbol{v}=-e\boldsymbol{E} より

v=iemωE\boldsymbol{v}=-\frac{ie}{m\omega}\boldsymbol{E}

電流密度は j=n(e)v\boldsymbol{j}=n(-e)\boldsymbol{v} なので

j=ine2mωEσ(ω)=ine2mω\boldsymbol{j}=\frac{ine^2}{m\omega}\boldsymbol{E} \qquad\Longrightarrow\qquad \sigma(\omega)=\frac{ine^2}{m\omega}

です。C.G.S. 系でも j=σE\boldsymbol{j}=\sigma\boldsymbol{E} の定義は同じなので式の形は変わりません。σ\sigma が純虚数であることが要点で、電流は電場と 9090^\circ 位相がずれており、Joule 損失 jE=12ReσE2=0\langle\boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{E}\rangle=\tfrac12\operatorname{Re}\sigma\,|E|^2=0 です。散乱(衝突)を入れていないので散逸がないという当然の帰結です。次元は、ne2/(mω)ne^2/(m\omega)C2m3/(kgs1)=S/m\mathrm{C^2m^{-3}}/(\mathrm{kg\,s^{-1}})=\mathrm{S/m} となり伝導度として正しいことで確認できます。

ρ=0\rho=0 なので E=0\nabla\cdot\boldsymbol{E}=0 で、Faraday の式の curl をとり Ampère–Maxwell の式を使うと

(E)2E=μ0ε02Et2μ0jt\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{E})-\nabla^2\boldsymbol{E}=-\mu_0\varepsilon_0\frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2}-\mu_0\frac{\partial\boldsymbol{j}}{\partial t}

平面波を代入すると k2=ω2/c2+iωμ0σk^2=\omega^2/c^2+i\omega\mu_0\sigma です。設問1 の σ\sigma を入れると iωμ0σ=μ0ne2/m=ωp2/c2i\omega\mu_0\sigma=-\mu_0ne^2/m=-\omega_p^2/c^2 となり

ω2=ωp2+c2k2,nckω=1ωp2ω2\omega^2=\omega_p^2+c^2k^2,\qquad n\equiv\frac{ck}{\omega}=\sqrt{1-\frac{\omega_p^2}{\omega^2}}

を得ます(C.G.S. 系では k2=ω2/c2+4πiωσ/c2k^2=\omega^2/c^2+4\pi i\omega\sigma/c^2 から同じ式になります)。ωωp\omega\gg\omega_pn1n\to1(真空と同じ)になることも確認できます。

ω<ωp\omega<\omega_p では n2<0n^2<0k=ikk=i|k| が純虚数になり、波は ekze^{-|k|z} で減衰するだけで伝搬しません。減衰長は c/ωp2ω2c/\sqrt{\omega_p^2-\omega^2} です。σ\sigma が純虚数で吸収がないことから、入射エネルギーは失われずすべて反射されます(全反射)。

物理的意味は、電子の集団振動の固有振動数が ωp\omega_p であることです。ω<ωp\omega<\omega_p では電子が電場に十分速く追随でき、誘導電流が変位電流を打ち消して電束の時間変化を消してしまいます。誘電関数 ε(ω)/ε0=1ωp2/ω2\varepsilon(\omega)/\varepsilon_0=1-\omega_p^2/\omega^2 が負になる、というのが同じ内容の言い換えです。実際、中波帯の電波が電離層で反射して遠距離通信ができるのはこのためで、逆に ω>ωp\omega>\omega_p の VHF 以上の電波や衛星通信の電波は電離層を突き抜けます。ω=ωp\omega=\omega_p が反射の境目(臨界周波数)で、これを測る装置がイオノゾンデです。

B0=B0z^\boldsymbol{B}_0=B_0\hat{\boldsymbol{z}} を加えると Lorentz 力の項が入り

mdvdt=e(E+v×B0)m\frac{d\boldsymbol{v}}{dt}=-e\bigl(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}_0\bigr)

円偏光の単位ベクトル e^±=(x^±iy^)/2\hat{\boldsymbol{e}}_\pm=(\hat{\boldsymbol{x}}\pm i\hat{\boldsymbol{y}})/\sqrt2

e^±×z^=±ie^±\hat{\boldsymbol{e}}_\pm\times\hat{\boldsymbol{z}}=\pm i\,\hat{\boldsymbol{e}}_\pm

を満たす(x^×z^=y^\hat{\boldsymbol{x}}\times\hat{\boldsymbol{z}}=-\hat{\boldsymbol{y}}y^×z^=x^\hat{\boldsymbol{y}}\times\hat{\boldsymbol{z}}=\hat{\boldsymbol{x}} から直接確かめられます)ので、E=Ee^±\boldsymbol{E}=E\hat{\boldsymbol{e}}_\pm に対して v=ve^±\boldsymbol{v}=v\hat{\boldsymbol{e}}_\pm と置けます。すると運動方程式は

iωmv=eEieB0vv=iem(ωωc)E-i\omega m v=-eE\mp i e B_0 v \qquad\Longrightarrow\qquad v=-\frac{ie}{m(\omega\mp\omega_c)}E

となり(ωc=eB0/m\omega_c=eB_0/m)、j=env\boldsymbol{j}=-en\boldsymbol{v} より

σ±=ine2m(ωωc)\sigma_\pm=\frac{ine^2}{m(\omega\mp\omega_c)}

を得ます。すなわち右回り(++)に対しては σ+=ine2/[m(ωωc)]\sigma_+=ine^2/[m(\omega-\omega_c)]、左回り(-)に対しては σ=ine2/[m(ω+ωc)]\sigma_-=ine^2/[m(\omega+\omega_c)] です。B00B_0\to0 で設問1 に戻ります。

σ+\sigma_+ω=ωc\omega=\omega_c で発散します。これは e^+\hat{\boldsymbol{e}}_+ の回転の向きが電子のサイクロトロン運動の向きと一致していて共鳴が起こるためです(電子は負電荷なので、B0+z^\boldsymbol{B}_0\parallel+\hat{\boldsymbol{z}} のもとで x^y^\hat{\boldsymbol{x}}\to\hat{\boldsymbol{y}} の向きに旋回し、これは eiωt(x^+iy^)e^{-i\omega t}(\hat{\boldsymbol{x}}+i\hat{\boldsymbol{y}}) の回転の向きと同じです)。左回りは逆向きなので共鳴せず、σ\sigma_- は全周波数で有限です。

設問2 と同じ計算で n±2=1+iσ±/(ε0ω)n_\pm^2=1+i\sigma_\pm/(\varepsilon_0\omega) なので

n±2=1ωp2ω(ωωc)n_\pm^2=1-\frac{\omega_p^2}{\omega(\omega\mp\omega_c)}

すなわち

n=1ωp2ω(ωωc),n=1ωp2ω(ω+ωc)n_{\text{右}}=\sqrt{1-\frac{\omega_p^2}{\omega(\omega-\omega_c)}},\qquad n_{\text{左}}=\sqrt{1-\frac{\omega_p^2}{\omega(\omega+\omega_c)}}

です。ωc0\omega_c\to0 で両者は設問2 の結果に一致します。

右回りについて ω<ωc\omega<\omega_c の領域を見ると ωωc<0\omega-\omega_c<0 なので

n2=1+ωp2ω(ωcω)>1n_{\text{右}}^2=1+\frac{\omega_p^2}{\omega(\omega_c-\omega)}>1

となり、ω\omega をいくら小さくしても(ωωp\omega\ll\omega_p でも)n2>0n_{\text{右}}^2>0 です。したがって右回り円偏光は 0<ω<ωc0<\omega<\omega_c の全域で電離層を伝搬できます。これが ω<ωp\omega<\omega_p でも伝搬できる電磁波で、電離層物理でホイスラー波(whistler)と呼ばれるものです。屈折率は ω0\omega\to0 で発散するので位相速度は非常に遅くなり、群速度も強く分散します。落雷で励起された広帯域のパルスが磁力線に沿って伝わると、高い周波数成分が先に届いて音に変換すると下降音(口笛)に聞こえる、という現象がその名の由来です。

念のため遮断(n2=0n^2=0)の位置を全部並べると、右回りは ωR=[ωc+ωc2+4ωp2]/2>ωp\omega_R=[\omega_c+\sqrt{\omega_c^2+4\omega_p^2}]/2>\omega_p、左回りは ωL=[ωc+ωc2+4ωp2]/2<ωp\omega_L=[-\omega_c+\sqrt{\omega_c^2+4\omega_p^2}]/2<\omega_p です。したがって右回りは 0<ω<ωc0<\omega<\omega_cω>ωR\omega>\omega_R で伝搬、左回りは ω>ωL\omega>\omega_L で伝搬します。左回りにも ωL<ω<ωp\omega_L<\omega<\omega_p という狭い伝搬帯がありますが、ωωp\omega\ll\omega_p の低周波側まで伝搬帯が伸びるのは右回りだけです。

なお n+nn_+\neq n_- なので、直線偏光(右回りと左回りの重ね合わせ)を入射すると偏光面が距離に比例して回転します。これが電離層や星間空間で観測される Faraday 回転で、回転角から磁場と電子密度の積を測ることができます。

結晶格子の各格子点に σi=±1\sigma_i=\pm1 のスピン変数があり、外部磁場 HH との相互作用が H1=μHiσi\mathcal{H}_1=-\mu H\sum_i\sigma_i で与えられます。設問1 から設問3 では格子点間の相互作用を無視します。以下 kk は Boltzmann 定数、xμH/kTx\equiv\mu H/kT と置きます。

相互作用がないので 1 格子点ごとに独立で、1 格子点の分配関数は

Z1=σ=±1eβμHσ=2coshμHkTZ_1=\sum_{\sigma=\pm1}e^{\beta\mu H\sigma}=2\cosh\frac{\mu H}{kT}

です。1 格子点当たりの自由エネルギーは

F=kTlnZ1=kTln ⁣(2coshμHkT)F=-kT\ln Z_1=-kT\ln\!\left(2\cosh\frac{\mu H}{kT}\right)

エントロピーは S=(F/T)HS=-(\partial F/\partial T)_H から

S=kln ⁣(2coshμHkT)μHTtanhμHkT=k[ln(2coshx)xtanhx]S=k\ln\!\left(2\cosh\frac{\mu H}{kT}\right)-\frac{\mu H}{T}\tanh\frac{\mu H}{kT} =k\Bigl[\ln(2\cosh x)-x\tanh x\Bigr]

です。H=0H=0x=0x=0)で S=kln2S=k\ln2xx\to\inftyS0S\to0 となり、高温・低温の両極限で正しい値を与えます。ここで重要な性質は、SSTTHH に別々に依存せず比 H/TH/T だけの関数になっていることです。相互作用のない 2 準位系では HH 以外にエネルギーの目安がないので、これは必然です。

S/k=ln(2coshx)xtanhxS/k=\ln(2\cosh x)-x\tanh xx=μH/kTx=\mu H/kT)の性質を押さえます。xx の増加関数として SS は単調減少で、S(0)=kln2S(0)=k\ln2(最大)、xx\to\inftyS0S\to0 です。漸近形は

Skln2k2(μHkT)2(kTμH),S2kμHkTe2μH/kT(kTμH)S\simeq k\ln2-\frac{k}{2}\left(\frac{\mu H}{kT}\right)^2\quad(kT\gg\mu H),\qquad S\simeq 2k\,\frac{\mu H}{kT}\,e^{-2\mu H/kT}\quad(kT\ll\mu H)

です。したがって TT の関数としてのグラフは次のようになります。

i) H=0H=0 のとき S=kln2S=k\ln2 で、すべての T>0T>0 に対して一定の水平線です。スピンは常に完全に無秩序で、温度を下げてもエントロピーは減りません。

ii) HH が有限で小さいとき、T=0T=0S=0S=0 から立ち上がり、単調増加して kTμHkT\gtrsim\mu Hkln2k\ln2 に飽和します。立ち上がりは T0T\to0e2μH/kTe^{-2\mu H/kT} の形なのですべての微分係数が 00 になり、グラフは横軸に接するように離れます。変曲点は x1.6x\simeq1.6、すなわち kT0.6μHkT\simeq0.6\,\mu H の付近にあります。

iii) HH が大きいときも曲線の形は ii) とまったく同じで、横軸方向に μH/k\mu H/k に比例して引き伸ばされるだけです。SSH/TH/T だけの関数だからで、飽和が始まる温度が HH に比例して高温側に移ります。

3 本の曲線はいずれも S=kln2S=k\ln2 を上限とし、HH が大きいほど右側(高温側)に寝た曲線になります。同じ温度で比べれば HH が大きいほど SS が小さく、H0H\to0 の極限で ii) の曲線は i) の水平線に近づきます。ただし H=0H=0 ちょうどの線と H0H\to0 の極限の曲線は T=0T=0 の 1 点でのみ食い違い、この特異性が設問4 の不合理の正体です。

熱浴から切り離してゆっくり磁場を下げる操作は準静的な断熱変化なので等エントロピー過程です。設問1 より SSH/TH/T だけの関数で、SS が一定なら H/TH/T が一定です。よって

HiTi=HfTfTf=TiHfHi\frac{H_i}{T_i}=\frac{H_f}{T_f} \qquad\Longrightarrow\qquad T_f=T_i\,\frac{H_f}{H_i}

磁場を下げた比率だけ温度が下がる、というのが断熱消磁の原理です。たとえば Hi=1H_i=1 T、Ti=1T_i=1 K から Hf=103H_f=10^{-3} T まで下げれば Tf=1T_f=1 mK になります。

Hf=0H_f=0 とすると Tf=0T_f=0、つまり 1 回の有限の操作で絶対零度に到達してしまいます。これは熱力学第三法則(絶対零度は有限回の操作では到達できない)に反します。

矛盾の中身をエントロピーで言うと次のようになります。過程の初期エントロピーは Si=S(Hi/Ti)<kln2S_i=S(H_i/T_i)<k\ln2 です。一方 H=0H=0 の等磁場線上ではすべての T>0T>0S=kln2S=k\ln2 なので、S=SiS=S_i を満たす点が Hf=0H_f=0 上に存在しません。(T,H)(T,H) 平面での等エントロピー線 H/T=constH/T=\text{const} は原点だけを通って H=0H=0 軸に到達し、しかもその原点でのモデルのエントロピーは kln2Sik\ln2\neq S_i です。つまり Hf0H_f\to0 の極限でエントロピー保存が破れており、この極限が特異になっています。T=0T=0H=0H=0 でスピンが完全に無秩序(残留エントロピー kln2k\ln2)のまま残るという結論そのものが、第三法則 S(T0)0S(T\to0)\to0 と両立しません。

原因は明らかで、スピン間相互作用を無視したためにスピン系にはエネルギーの目安が μH\mu H しかなく、H0H\to0 で系の特徴的エネルギーが 00 になってしまうことです。

現実の磁性体では最近接スピン間に強さ JJ の相互作用があり、H=0H=0 でも J|J| という固有のエネルギー目安が残ります。したがって H=0H=0 の等磁場線でも、kTJkT\gtrsim|J| の高温では Skln2S\simeq k\ln2 ですが、kTJkT\lesssim|J| になると強磁性や反強磁性の秩序が発達してエントロピーは急激に落ち、T0T\to0S0S\to0 になります。H=0H=0 上の S(T)S(T) は転移温度 TcJ/kT_c\sim|J|/k の付近で kln2k\ln2 から 00 へ落ちる階段状の曲線になります。

このため、初期状態のエントロピー Si<kln2S_i<k\ln2 をもつ等エントロピー線は H=0H=0 の曲線と有限の温度で交わります。交点の温度が到達温度 TfT_f で、SiS_ikln2k\ln2 に近ければ TfT_fTcT_c のすぐ下、SiS_i が小さければもっと低くなりますが、いずれにせよ

Tf>0,TfJk 程度T_f>0,\qquad T_f\sim\frac{|J|}{k}\ \text{程度}

にとどまり、00 にはなりません。断熱消磁で到達できる温度はスピン間相互作用の大きさ(磁気秩序化温度)で下限が決まる、というのが結論です。実際に断熱消磁用の常磁性塩は JJ を小さくするために磁性イオンどうしを遠ざけた構造(硝酸セリウムマグネシウムなど)を選び、そうしてもミリケルビンの手前で止まります。それより下は核スピンの断熱消磁(核磁気モーメントが小さいので JJ が桁違いに小さい)に頼ります。

与えられた自由エネルギー

F=kTln2(μH)2+J2z/22kTF=-kT\ln2-\frac{(\mu H)^2+J^2z/2}{2kT}

kTμH,  JzkT\gg\mu H,\;|J|\sqrt z での高温展開です。エントロピーは

S=(FT)H=kln2(μH)2+J2z/22kT2S=-\left(\frac{\partial F}{\partial T}\right)_H=k\ln2-\frac{(\mu H)^2+J^2z/2}{2kT^2}

断熱過程では SS が一定なので

(μHi)2+J2z/2Ti2=(μHf)2+J2z/2Tf2\frac{(\mu H_i)^2+J^2z/2}{T_i^2}=\frac{(\mu H_f)^2+J^2z/2}{T_f^2}

したがって

Tf=Ti(μHf)2+J2z/2(μHi)2+J2z/2T_f=T_i\sqrt{\frac{(\mu H_f)^2+J^2z/2}{(\mu H_i)^2+J^2z/2}}

です。仮定 μHiJz\mu H_i\gg|J|\sqrt z より分母は (μHi)2(\mu H_i)^2 で近似できるので

TfTiμHi(μHf)2+J2z2=Ti(HfHi)2+(HHi)2,μHJz2T_f\simeq\frac{T_i}{\mu H_i}\sqrt{(\mu H_f)^2+\frac{J^2z}{2}} =T_i\sqrt{\left(\frac{H_f}{H_i}\right)^2+\left(\frac{H_*}{H_i}\right)^2}, \qquad \mu H_*\equiv|J|\sqrt{\frac z2}

0HfHi0\le H_f\le H_i での図示は次のように確定します。TfT_fHfH_f の単調増加関数で、Hf=HiH_f=H_iTf=TiT_f=T_i(何もしていないので当然)、Hf=0H_f=0

Tf(0)=TiJz/2μHi  (>0)T_f(0)=T_i\,\frac{|J|\sqrt{z/2}}{\mu H_i}\;(>0)

という有限の最小値をとります。Hf=0H_f=0 での傾きは dTf/dHfHf/Hf2+H20dT_f/dH_f\propto H_f/\sqrt{H_f^2+H_*^2}\to0 なので、原点付近では水平な平坦部(プラトー)になります。HfHH_f\gg H_* では TfTiHf/HiT_f\simeq T_iH_f/H_i となり、設問3 の直線(原点を通る比例直線)に漸近します。全体としては、HfH_f 軸を横軸、TfT_f を縦軸にとったとき、漸近線 Tf=TiHf/HiT_f=T_iH_f/H_i をもち Hf=0H_f=0 で高さ Tf(0)T_f(0) の切片から水平に立ち上がる双曲線の枝になります。曲がり始めるのは HfH=Jz/2/μH_f\sim H_*=|J|\sqrt{z/2}/\mu の付近です。

これは設問5 の定性的議論の定量版で、到達温度は相互作用エネルギー Jz|J|\sqrt z で下から押さえられます。近似の整合性も確認できます。kTf(0)=kTiJz/2/(μHi)kT_f(0)=kT_i|J|\sqrt{z/2}/(\mu H_i) で、仮定 kTiμHikT_i\gg\mu H_i より kTf(0)Jz/2kT_f(0)\gg|J|\sqrt{z/2} なので、Hf=0H_f=0 でも高温展開の適用条件 kTJzkT\gg|J|\sqrt z は保たれています。逆に言えばこの計算は秩序化温度に到達する手前までしか記述しておらず、TfT_fJ/k|J|/k の程度まで下がると展開自体が破れます。

第4問 Kelvin 電気秤、ブリッジ法、太陽電池

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第4問は独立な 3 題です。1 は Kelvin の絶対電気秤(接地された可動電極 B を天秤の一端に吊り、固定電極 A に加えた電圧による静電引力を分銅 M と釣り合わせる)、2 は交流ブリッジによるインピーダンス測定、3 は太陽電池と太陽放射の見積りです。3 では図3(地球軌道上での単位面積・単位時間・1 MHz 幅当たりの太陽輻射光子数の周波数分布)と図4(太陽電池の量子効率の周波数依存性)を使います。

(a) 力の式をまず出します。A と B は面積 SS、間隔 dd の平行平板コンデンサーで、B は接地、A の電位は VV です。ガード電極 G のおかげで B の直下の電場は一様で E=V/dE=V/d、B の表面電荷面密度は ε0V/d\varepsilon_0V/d です。単位面積当たりの引力は Maxwell 応力 ε0E2/2\varepsilon_0E^2/2 なので

F=ε0SV22d2F=\frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d^2}

(エネルギー法でも同じです。C=ε0S/zC=\varepsilon_0S/z で電位一定なら Fz=+(12CV2)/z=ε0SV2/(2z2)F_z=+\partial(\tfrac12CV^2)/\partial z=-\varepsilon_0SV^2/(2z^2)、負符号は引力を意味します。)

測定手順は次のようにします。

(ア)B と G を接地し、A も接地して V=0V=0 にする。A と G の間隔 dd をマイクロメーターなどで測り、A・B・G の平行度を出しておく。B が G と同一平面にある位置を基準位置(ゼロ位置)と定め、指針と目盛(あるいは鏡と光てこ)でその位置を高感度に読めるようにする。

(イ)V=0V=0 のまま、分銅 MM を加減して天秤を基準位置に釣り合わせ、そのときの値 M0M_0 を記録する(風袋の較正)。振動が減衰するまで待つ。

(ウ)A を接地から切り離して未知電圧 VV を加える。B は下向きに引かれて天秤が傾く。

(エ)分銅を増やして指針が元とまったく同じ基準位置に戻るようにし、そのときの値 MM を記録する。これがゼロ位置法の要点で、BB が基準位置に戻っていれば極板間隔は必ず dd なので、FF の式に使う dd が測定中に変わりません。天秤自身の復元トルクや腕の長さの微小な狂いも、同じ位置で比較するかぎり効きません。

(オ)ΔM=MM0\Delta M=M-M_0 とし、支点から B の吊り点までの腕の長さを B\ell_B、分銅側を M\ell_M とすると、モーメントの釣り合いは FB=ΔMgMF\ell_B=\Delta M\,g\,\ell_M です。図のように等腕(B=M\ell_B=\ell_M)なら F=ΔMgF=\Delta M\,g で、

ε0SV22d2=ΔMgV=d2ΔMgε0S\frac{\varepsilon_0SV^2}{2d^2}=\Delta M\,g \qquad\Longrightarrow\qquad V=d\sqrt{\frac{2\,\Delta M\,g}{\varepsilon_0 S}}

これが求める式です。次元は ΔMg/(ε0S)\Delta Mg/(\varepsilon_0S)N/(C2N1m2m2)=(N/C)2=(V/m)2\mathrm{N}/(\mathrm{C^2N^{-1}m^{-2}\cdot m^2})=(\mathrm{N/C})^2=(\mathrm{V/m})^2 なので、dd を掛けてボルトになり正しいです。

(カ)確認としてやるべきこと。VV の極性を反転して同じ ΔM\Delta M が得られるか見る(力は V2V^2 に比例するので極性に依らない。差が出れば接触電位差や絶縁物への電荷蓄積が疑われる)。dd を変えて ΔMd2\Delta M\propto d^{-2} を確かめる。周囲の導体を接地して外来電場を遮蔽する。交流電圧なら力は V2\langle V^2\rangle に比例するので、この秤は実効値を与えます。

この測定は質量・長さ・重力加速度と ε0\varepsilon_0 だけから電圧を決めるので、他の電圧標準との比較を必要としない絶対測定です。問題文にあるように、逆に既知の VV を与えれば ε0\varepsilon_0 が測れます。弱点は FV2F\propto V^2 なので低電圧で感度が急激に落ちること、V2V^2 の分だけ相対誤差が 2 倍で伝わることです。

(b) ガード電極 G の意味は、B の縁での電場の広がり(フリンジング)を測定領域から追い出すことです。もし G がないと、B の周縁部では電気力線が外へ膨らみ、B 上の電荷は ε0VS/d\varepsilon_0VS/d より大きくなります。しかもその超過分は dd と縁の形状に依存し、F=ε0SV2/(2d2)F=\varepsilon_0SV^2/(2d^2) の「有効面積」が幾何学的な SS からずれて不定になってしまいます。G を B と同一平面・同電位(接地)に置くと、B の直下の電場は完全に一様な平行平板の場になり、電場の乱れは G の外縁に移ります。その結果、力は幾何学的な面積 SS(厳密には B の面積に B と G の隙間の半分を加えた面積)だけで書けて、絶対測定として意味をもつようになります。G が固定されていることも重要で、B が動いても縁の場の分布が変わりません。副次的な効果として、G は B を外来電場や漂遊電荷から静電遮蔽します。

(a) まず一般論です。4 つの腕を Z1Z_1(節点1–2)、Z2Z_2(節点2–3)、Z3Z_3(節点1–4)、ZxZ_x(節点4–3)とし、1–3 間に信号源、2–4 間に検出器を入れると、平衡(検出器の電圧が 0)の条件は

Z1Z2=Z3ZxZx=Z2Z3Z1\frac{Z_1}{Z_2}=\frac{Z_3}{Z_x} \qquad\Longleftrightarrow\qquad Z_x=\frac{Z_2Z_3}{Z_1}

です。ここで注意すべき点を先に述べます。理想的なコイルのインピーダンスは Zx=iωLxZ_x=i\omega L_x で純虚数ですが、Z1,Z2,Z3Z_1,Z_2,Z_3 がすべて純抵抗なら右辺 Z2Z3/Z1Z_2Z_3/Z_1 は実数なので、この等式は成立しません。より一般に、正の抵抗だけからなる回路網に 1 個のリアクタンス素子を入れた場合、検出器電圧は iωLxi\omega L_x の 1 次分数関数 (α+βiωLx)/(γ+δiωLx)(\alpha+\beta i\omega L_x)/(\gamma+\delta i\omega L_x)αδ\alpha\sim\delta は正の実数の組み合わせ)になるので、決してゼロにできません。虚部を打ち消すには別のリアクタンスが必要です。そこで以下では、既知の純抵抗 R1,R2,R3R_1,R_2,R_3 に加えて標準コンデンサー CC を 1 個使う Maxwell–Wien ブリッジを採用します(標準コンデンサーは損失がほとんどなく、標準インダクターより高精度に作れるので、実際の測定でもこれが標準的です)。

回路の構成は次の通りです。信号源の両端を節点 P と Q、検出器(高入力インピーダンスの交流電圧計またはヘッドホン)の両端を節点 M と N とします。

  • 腕1(P–M): 未知コイル。Z1=Rx+iωLxZ_1=R_x+i\omega L_x(理想コイルなら Rx=0R_x=0)。
  • 腕2(M–Q): 既知純抵抗 R2R_2
  • 腕3(P–N): 既知純抵抗 R3R_3
  • 腕4(N–Q): 標準コンデンサー CC と可変純抵抗 R1R_1 の並列接続。Z4=R1/(1+iωR1C)Z_4=R_1/(1+i\omega R_1C)

腕1 と腕4 が対角に向かい合う配置です。平衡条件 Z1Z4=Z2Z3Z_1Z_4=Z_2Z_3

(Rx+iωLx)R11+iωR1C=R2R3(R_x+i\omega L_x)\frac{R_1}{1+i\omega R_1C}=R_2R_3

すなわち (Rx+iωLx)R1=R2R3(1+iωR1C)(R_x+i\omega L_x)R_1=R_2R_3(1+i\omega R_1C) です。実部と虚部を分けると

Rx=R2R3R1,Lx=CR2R3R_x=\frac{R_2R_3}{R_1},\qquad L_x=C\,R_2R_3

を得ます。測定手順は、R1R_1 と(R2R_2 または R3R_3)を交互に調節して検出器の出力が最小になる点を探し、そこで上の 2 式に値を入れるだけです。R1R_1 が虚部に効かず R2R3R_2R_3 が実部と虚部の両方に効くので、2 つのつまみで独立に追い込めます。LxL_x の式に ω\omega が入らないことがこのブリッジの長所で、信号源の周波数が正確に分かっていなくても、また波形が正弦波でなくても平衡が取れます。理想的なコイル(Rx=0R_x=0)なら R1R_1\to\inftyR1R_1 を外す)で平衡し、Lx=CR2R3L_x=CR_2R_3 だけが残ります。

(b) 図2 の等価回路は、LiL_iCiC_i の並列回路に巻線抵抗 RiR_i を直列に付けたものです。そのインピーダンスは

Z=Ri+iωLi1ω2LiCiZ=R_i+\frac{i\omega L_i}{1-\omega^2L_iC_i}

なので、(a) のブリッジが読む「等価直列抵抗」と「等価直列インダクタンス」は

Reff=Ri,Leff(ω)=Li1ω2LiCiR_{\text{eff}}=R_i,\qquad L_{\text{eff}}(\omega)=\frac{L_i}{1-\omega^2L_iC_i}

です。したがって推定法は次のようになります。周波数を変えられる信号源を使い、いくつかの ω\omega でブリッジを平衡させて Leff(ω)L_{\text{eff}}(\omega) を求めます。上式を逆にすると

1Leff=1Liω2Ci\frac{1}{L_{\text{eff}}}=\frac{1}{L_i}-\omega^2C_i

なので、1/Leff1/L_{\text{eff}}ω2\omega^2 に対してプロットすれば直線になり、ω20\omega^2\to0 の切片から真のインダクタンス LiL_i、傾き Ci-C_i から分布容量 CiC_i が求まります。等価的には、LeffL_{\text{eff}} が発散する周波数(自己共振周波数)ω0=1/LiCi\omega_0=1/\sqrt{L_iC_i} を探し、Ci=1/(ω02Li)C_i=1/(\omega_0^2L_i) としてもよいです。ω0\omega_0 ではコイルのインピーダンスが純抵抗 RiR_i になり、ブリッジのリアクタンス側の平衡がとれなくなるので、実験的にもはっきり分かります。RiR_i は上のように平衡条件の実部 R2R3/R1R_2R_3/R_1 からそのまま読めます。直流ブリッジ(または四端子法)で測った直流抵抗と比べれば、表皮効果や近接効果による RiR_i の周波数依存性も分離できます。

実務上は、ωω0\omega\ll\omega_0 の領域で使えば LeffLi(1+ω2LiCi)L_{\text{eff}}\simeq L_i(1+\omega^2L_iC_i) と補正が小さく済みます。またコイルを外した状態(開放・短絡)でブリッジを平衡させ、測定治具自体の残留インピーダンスを差し引いておくべきです。

(a) プラス極になるのは p 型に接続した電極です。pn 接合の空乏層には、n 側に残った正のドナーイオンから p 側に残った負のアクセプターイオンに向かう内蔵電場(向きは n から p)があります。光で生じた電子・正孔対のうち、電子は電場と逆向き、つまり n 側へドリフトし、正孔は電場の向き、つまり p 側へドリフトします。その結果 p 側に正電荷、n 側に負電荷がたまり、p 側の電極が高電位になります。エネルギー帯で言えば、電子は伝導帯の低い方(n 側)へ、正孔は価電子帯の高い方(p 側)へ転がり落ちるので同じ結論です。回路として見れば光生成キャリアの流れは接合を順方向にバイアスする向きで、順方向とは p 側が正になるバイアスのことです。

(b) 太陽表面での放射強度は

I=σT4=5.7×108×(5.8×103)4=6.5×107W/m2I=\sigma T^4=5.7\times10^{-8}\times(5.8\times10^3)^4=6.5\times10^{7}\,\mathrm{W/m^2}

総輻射量は表面積 4πR2=4π(7.0×108)2=6.2×1018m24\pi R^2=4\pi(7.0\times10^8)^2=6.2\times10^{18}\,\mathrm{m^2} を掛けて

P0=4πR2σT44.0×1026WP_0=4\pi R^2\sigma T^4\simeq 4.0\times10^{26}\,\mathrm{W}

地球軌道では半径 D=1.5×1011D=1.5\times10^{11} m の球面に広がるので

I0=P04πD2=σT4(RD)2=6.5×107×(4.67×103)21.4×103W/m2I_0=\frac{P_0}{4\pi D^2}=\sigma T^4\left(\frac{R}{D}\right)^2 =6.5\times10^7\times(4.67\times10^{-3})^2\simeq1.4\times10^{3}\,\mathrm{W/m^2}

答えは P04×1026WP_0\simeq4\times10^{26}\,\mathrm{W}I01.4×103W/m2I_0\simeq1.4\times10^{3}\,\mathrm{W/m^2} です。太陽定数の実測値 1.37×103W/m21.37\times10^3\,\mathrm{W/m^2} とよく合っています。

(c) 短絡電流は、吸収されて集められる光子 1 個につき電荷 ee が流れるとして

Isc=eS0N(ν)η(ν)dνI_{sc}=e\,S\int_0^\infty N(\nu)\,\eta(\nu)\,d\nu

です。N(ν)N(\nu) は図3 の縦軸(m2s1\mathrm{m^{-2}s^{-1}}、幅 1 MHz 当たりの光子数)、η(ν)\eta(\nu) は図4 の量子効率、S=5×5cm2=2.5×103m2S=5\times5\,\mathrm{cm^2}=2.5\times10^{-3}\,\mathrm{m^2} です。2 つの図から読み取った値を並べます。

ν[1014Hz]\nu\,[10^{14}\,\mathrm{Hz}]3.03.54.04.55.05.56.07.08.0
N[1012MHz1m2s1]N\,[10^{12}\,\mathrm{MHz^{-1}m^{-2}s^{-1}}]12.511.19.47.86.35.03.92.41.3
η\eta0.420.760.880.900.900.860.800.620.49
Nη[1012MHz1m2s1]N\eta\,[10^{12}\,\mathrm{MHz^{-1}m^{-2}s^{-1}}]5.38.48.37.05.74.33.11.50.6

NηN\etaν3.54.0×1014\nu\simeq3.5\text{--}4.0\times10^{14} Hz で 8×10128\times10^{12} 程度の山を作り、ν<2.7×1014\nu<2.7\times10^{14} Hz では η=0\eta=0(バンドギャップより光子エネルギーが小さく吸収されない)、高周波側では光子数自体が減ります。台形則で積分すると

Nηdν24×1012MHz1m2s1×1014Hz=2.4×1021m2s1\int N\eta\,d\nu\simeq 24\times10^{12}\,\mathrm{MHz^{-1}m^{-2}s^{-1}}\times10^{14}\,\mathrm{Hz} =2.4\times10^{21}\,\mathrm{m^{-2}s^{-1}}

1012MHz1=106Hz110^{12}\,\mathrm{MHz^{-1}}=10^{6}\,\mathrm{Hz^{-1}} に注意します。ν>8×1014\nu>8\times10^{14} Hz の裾は全体の 5 % 程度で、η\eta を 0.4 程度に外挿して加えました。)よって

Isc=1.6×1019×2.4×1021×2.5×1031AI_{sc}=1.6\times10^{-19}\times2.4\times10^{21}\times2.5\times10^{-3}\simeq1\,\mathrm{A}

答えは約 1 A(電流密度で約 40mA/cm240\,\mathrm{mA/cm^2})です。桁の妥当性は次のように確認できます。図3 の全積分は 6.5×1021m2s16.5\times10^{21}\,\mathrm{m^{-2}s^{-1}} で、これに平均光子エネルギー 1.41.4 eV を掛けると 1.4×103W/m21.4\times10^3\,\mathrm{W/m^2} となり (b) の I0I_0 と一致します。利用できたのは全光子数の 37 % で、残りは赤外側(η=0\eta=0)と紫外側の損失です。なお図4 の立ち上がりは ν2.7×1014\nu\simeq2.7\times10^{14} Hz、つまり hν1.1h\nu\simeq1.1 eV にあり、これがシリコンの実際のバンドギャップに対応します(問題文冒頭の 0.6 eV ではなく、この図の閾値が利用可能な帯域を決めます)。

(d) 地表では大気による減衰があるためです。内訳は、(i) Rayleigh 散乱(散乱断面積が ν4\nu^4 に比例するので、量子効率の高い青から紫外の側が優先的に削られる)、(ii) 成層圏オゾンによる紫外の吸収、(iii) 水蒸気・二酸化炭素・酸素による近赤外の吸収帯、(iv) エアロゾルによる散乱・吸収です。太陽に正対させているので入射角の余弦因子は効きませんが、光路は大気 1 気圧分(天頂でも air mass 1、実際には 1.5 程度)を通ります。よく晴れた日の直達日射は 1.0×103W/m21.0\times10^3\,\mathrm{W/m^2} 程度で、大気圏外の 1.4×103W/m21.4\times10^3\,\mathrm{W/m^2} の約 70 % です。加えて散乱された光は太陽の方向から来ないため、正対させた電池には直達成分しか十分には入りません。太陽電池の感度帯が青寄りで Rayleigh 散乱の影響を強く受けることを考えれば、電流が見積りの 65 % になるのは妥当な値です(衛星用電池の設計で AM0 と AM1.5 を区別するのはまさにこの差のためです)。

第5問 NaI シンチレーターによる放射線検出

Section titled “第5問 NaI シンチレーターによる放射線検出”

NaI(Tl 添加)結晶は、荷電粒子が落としたエネルギーに比例した数の可視光光子を出します。その光を光電子増倍管(PMT)の光電面で光電子に変え、ダイノードで増倍してアノードから電流パルスとして取り出します。結晶の性質は、Na と I の質量数が 23 と 127、原子番号が 11 と 53、密度が 3.7g/cm33.7\,\mathrm{g/cm^3} です。

高電圧の供給。1 kV の電源 1 台から、抵抗分割(ブリーダー)で各電極の電位を作ります。光電面、10 段程度のダイノード、アノードを直列の抵抗列(たとえば 100kΩ100\,\mathrm{k\Omega} を 11 本)で結び、その両端に 1 kV を掛けて各タップをダイノードに配線します。1 段あたり約 90 V で、段間増倍率 3〜4、全体の利得は 10510^510610^6 の程度になります。光電面と第 1 ダイノードの間は集光効率を上げるため他より高め(あるいは集束電極を併用)にします。分割抵抗を流れる電流は平均アノード電流の 100 倍程度になるように選び(1 kV / 1 MΩ で 1 mA 程度)、利得が信号レートで変動しないようにします。さらに、大きなパルスの瞬間に電荷を供給できるように最後の 2〜3 段のダイノードとアースの間に nF 級のコンデンサーを入れます。極性の取り方は 2 通りで、光電面を 1-1 kV、アノードを接地電位にすると信号を直流結合で取り出せますが、光電面が高電位なので管壁と接地シールドの間の放電・発光に注意が必要です。逆に光電面を接地、アノードを +1+1 kV にすると管の扱いは楽ですが、信号は結合コンデンサーを通して取り出す必要があります。

信号処理。アノードのパルス電荷 Q=GNpeeQ=G\,N_{pe}\,e が入射エネルギーに比例するので、電荷を測ればよいことになります。アノードを負荷抵抗で受けるか電荷感応型プリアンプで積分して電荷に比例した電圧段差を作り、次に波形整形増幅器(CR-RC 型)で NaI の発光の減衰時間 230 ns の数倍、0.51μs0.5\text{--}1\,\mu\mathrm{s} 程度の整形時定数の単極性パルスにします。整形時定数が短すぎると発光を取りきれず、長すぎるとパルスが重なる(パイルアップ)ので、この兼ね合いで決めます。整形後の波高をピーク検出型 ADC でデジタル化し、マルチチャンネルアナライザーでヒストグラムにすれば波高スペクトルになります。エネルギー軸は既知の線源(137^{137}Cs の 662 keV、60^{60}Co の 1173/1332 keV など)で較正します。利得は GVkNG\propto V^{kN}k0.7k\simeq0.7NN は段数)なので高電圧の安定度が直接分解能に効き、0.10.1 % の変動で利得が約 0.7 % 動きます。ベースライン回復回路と極零補償を入れて計数率依存のずれを抑えることも実際上は重要です。

分解能を決めているのは、信号を担う「情報担体」の数の統計揺らぎです。1 MeV の電子が NaI(Tl) 中で全エネルギーを失うと 4×1044\times10^4 個程度のシンチレーション光子が出ますが、そのうち光電面に届くのは集光効率(50〜70 %)を掛けた分で、さらに光電面の量子効率(20〜25 %)を掛けた Npe2×103N_{pe}\sim2\times10^3 個だけが光電子になります。この段が最も担体数が少なく、Poisson 統計に従うので相対的な半値全幅は

FWHMpeak=2.35Npe\frac{\text{FWHM}}{\text{peak}}=\frac{2.35}{\sqrt{N_{pe}}}

です。逆に測定値 5 % から Npe=(2.35/0.05)22.2×103N_{pe}=(2.35/0.05)^2\simeq2.2\times10^3 個と読めて、上の見積りと整合します。つまり観測された 5 % はほぼこの項で説明できます。

これに加わる要因は次のものです。第 1 に電子増倍の揺らぎで、第 1 ダイノードの増倍率 δ1\delta_1 が小さいと過剰雑音因子 1+1/δ1+1+1/\delta_1+\cdots が乗り、δ14\delta_1\simeq4 なら 20〜30 % の悪化になります。第 2 に集光効率の位置依存性で、結晶のどこで発光したかによって光電面に届く光の量が変わるため、線源の入射位置や相互作用点の分布がそのままピークの幅になります。光電面の感度の場所むらも同じ効果です。第 3 に NaI(Tl) の発光量の非比例性(エネルギーに対する発光の非線形性)で、同じエネルギーでもエネルギー損失の分布の違いが光量の違いになります。第 4 に電子回路の雑音、増幅率のドリフト、高電圧の変動です。

電子線に固有の要因として、結晶表面での後方散乱(NaI は実効原子番号が高いので 1 MeV 電子の後方散乱確率が大きい)、制動放射光子が結晶外へ逃げること、二次電子(デルタ線)の逃げがあります。これらはガウス的な広がりではなくピークの低エネルギー側の裾を作るので、半値全幅で定義した分解能にはあまり効かないものの、スペクトル形状を非対称にします。入射窓や反射材でのエネルギー損失も同じ向きに働きます。

ガンマ線自身は電離作用をもたない中性の放射線ですが、物質中で光電効果、Compton 散乱、(1.022 MeV 以上で)電子対生成を起こして高速電子を作り、その電子が結晶を電離・励起して発光させます。したがって「ガンマ線を電子に変換してから測る」ことになります。NaI が優れているのは、I の原子番号が 53 と大きく(光電吸収断面積は Z45Z^{4\sim5} に比例)、密度も 3.7g/cm33.7\,\mathrm{g/cm^3} と高いので、数 cm の厚さで 1 MeV のガンマ線を十分な確率で相互作用させ、しかも生じた電子とその二次光子を結晶内に閉じ込めて全エネルギーを吸収できることです。1 MeV での NaI の減弱長は約 3 cm なので、5 cm 角の結晶なら 8 割程度が相互作用します。

期待される波高スペクトルは次の構造をもちます。横軸を波高(エネルギー)、縦軸を計数として、

(ア)全エネルギーピーク(光電ピーク)が 1.00 MeV に立ちます。1 回の光電吸収、あるいは Compton 散乱を数回繰り返した後に光電吸収されて全エネルギーが結晶内に落ちた事象です。幅は設問2 と同様の統計で決まり、1 MeV では 7〜8 % 程度になります。

(イ)Compton 連続部が 0 から 0.796 MeV まで広がります。ガンマ線が 1 回 Compton 散乱して散乱光子が結晶から逃げた事象で、上限(Compton 端)は 180180^\circ 散乱に対応する

Tmax=2E2mec2+2E=2×1.0020.511+2.00=0.796 MeVT_{\max}=\frac{2E^2}{m_ec^2+2E}=\frac{2\times1.00^2}{0.511+2.00}=0.796\ \mathrm{MeV}

です。端の直前でやや盛り上がり、そこで急に落ちる形になります。

(ウ)後方散乱ピークが 0.2040.204 MeV 付近に小さく現れます。結晶の外(遮蔽体や PMT、線源の台など)で 180180^\circ 散乱されたガンマ線が結晶に入る事象で、そのエネルギーは E/(1+2E/mec2)=0.204E/(1+2E/m_ec^2)=0.204 MeV です。

(エ)低エネルギー端には、ヨウ素の特性 X 線(約 30 keV)、環境ガンマ線、PMT の暗電流によるノイズの急な立ち上がりがあります。

1 MeV は電子対生成の閾値 1.022 MeV のすぐ下なので、消滅ガンマ線による 0.511 MeV の脱出ピークは現れません。全事象に対する光電ピークの割合(ピーク・トータル比)は 5 cm 角の結晶で 3〜4 割程度なので、Compton 連続部の高さは光電ピークと同程度の面積をもちます。

i) 1 MeV の電子。荷電粒子は連続的にエネルギーを失います。鉛中での衝突阻止能は 1.1MeVcm2/g1.1\,\mathrm{MeV\,cm^2/g} 程度(ρ=11.3g/cm3\rho=11.3\,\mathrm{g/cm^3} なので 12MeV/cm12\,\mathrm{MeV/cm})、飛程は 0.50.5 g/cm2^2 程度、すなわち約 0.5 mm です。したがって鉛板を厚くしていくと、

  • ピークの位置が低エネルギー側へほぼ厚さに比例して移動します(0.1 mm で 0.15 MeV 程度の減少)。
  • ピークの幅が広がります。エネルギー損失のストラグリングと、多重散乱による実効通過長のばらつきのためです。
  • ピークの高さ(面積)は、後方散乱と大角度散乱でビームから外れる分だけ徐々に減ります。
  • 厚さが飛程 0.5 mm を超えると電子は 1 個も出てこられず、ピークは消滅します。あとに残るのは鉛中で発生した制動放射光子による低エネルギー側の連続スペクトルだけで、これは厚さを増しても(自己吸収が効くまでは)ゆっくり変化します。

つまり「ピークが左へ動きながら潰れ、飛程で突然消える」という振る舞いです。

ii) 1 MeV のガンマ線。光子は 1 回の相互作用で「消える」か、まったく相互作用せずに素通りするかのどちらかで、少しずつエネルギーを失うということがありません。鉛の減弱係数は μ/ρ=0.070cm2/g\mu/\rho=0.070\,\mathrm{cm^2/g}μ=0.79cm1\mu=0.79\,\mathrm{cm^{-1}}(半価層 0.88 cm)です。したがって

  • ピークの位置はまったく変わりません(1.00 MeV のまま)。
  • ピークの面積(高さ)だけが eμte^{-\mu t} で指数関数的に減少します。片対数プロットで直線になり、その傾きから μ\mu が求まります。Compton 連続部も同じ因子で減るので、スペクトルの形は相似のまま縮みます。
  • 厳密には、板の中で小角 Compton 散乱を受けて少しエネルギーを失った光子が結晶に入る成分(ビルドアップ)が厚さとともに増え、光電ピークの低エネルギー側に緩やかな山を作ります。また鉛の蛍光 X 線(KαK_\alpha が 75〜85 keV)が低エネルギー端に現れます。

このように「エネルギーが下がるのは荷電粒子、強度だけが下がるのがガンマ線」という違いがはっきり出るので、この実験は入射放射線の種別判定にも使えます。

宇宙線 μ\mu 粒子は鉛を数 m 通り抜けるので、受動遮蔽だけでは除けません。有効な対策は逆同時計数(アンチコインシデンス)による能動遮蔽です。具体的には次のようにします。

(ア)NaI 結晶と PMT の全体を、プラスチックシンチレーターの板(それぞれ独立の PMT 付き)で上面と側面から囲みます。厚さ 1〜2 cm あれば μ\mu 粒子は必ず 10 MeV 以上を落とすので、確実に信号が出ます。ベト用シンチレーターの信号を弁別器に入れ、NaI の信号との同時計数(時間窓は数百 ns)をとり、両方に信号があった事象を記録から捨てます。μ\mu 粒子は NaI とベト板の両方を貫くので除去され、線源のガンマ線はベト板を(ほとんど)鳴らさないので残ります。ベト板の立体角被覆率を上げるほど除去率が上がります。

(イ)NaI の周りをベト層の内側で鉛(10 cm 程度)と銅で覆い、環境ガンマ線(40^{40}K、ウラン・トリウム系列)を減らします。鉛自身の 210^{210}Pb を避けるため古い鉛を使い、内側に無酸素銅を張って鉛の蛍光 X 線を止めます。

(ウ)波高による上限弁別。5 cm を貫く μ\mu 粒子は 4.5MeV/cm×5cm204.5\,\mathrm{MeV/cm}\times5\,\mathrm{cm}\simeq20 MeV 以上を落とすので、着目するガンマ線領域(数 MeV 以下)よりはるかに大きな波高になります。上限弁別器で切るだけでも大部分は除けます。ただし結晶の角をかすめた μ\mu や、μ\mu が作った二次電子・制動放射が関心領域に入り込むので、これだけでは不十分で(ア)が必要です。

(エ)可能なら地下(あるいは厚い天井の下)に測定系を置いて μ\mu 束自体を減らします。μ\mu の入射方向は天頂方向に集中するので、上方の遮蔽を厚くするのが効率的です。

(オ)線源を出し入れした測定を交互に行い、バックグラウンドスペクトルを差し引きます。線源が崩壊カスケードをもつなら、別の検出器との同時計数で目的のガンマ線だけを選ぶこともできます。

結晶中の電子数を数えます。体積 53=125cm35^3=125\,\mathrm{cm^3}、質量 125×3.7=4.6×102125\times3.7=4.6\times10^2 g、NaI の式量は 23+127=15023+127=150 なので物質量は 462.5/150=3.08462.5/150=3.08 mol です。NaI 1 分子あたりの電子数は 11+53=6411+53=64 個なので

Ne=3.08×6×1023×64=1.2×1026 個N_e=3.08\times6\times10^{23}\times64=1.2\times10^{26}\ \text{個}

相互作用の頻度は(結晶は薄いので減衰を無視して)

R=ΦσNeR=\Phi\,\sigma\,N_e

です。Φ=7×1010cm2s1\Phi=7\times10^{10}\,\mathrm{cm^{-2}s^{-1}}σ=1×1045cm2\sigma=1\times10^{-45}\,\mathrm{cm^2} を入れると

R=7×1010×1×1045×1.2×1026=8.3×109 s1R=7\times10^{10}\times1\times10^{-45}\times1.2\times10^{26}=8.3\times10^{-9}\ \mathrm{s^{-1}}

1 年 =3×107=3\times10^7 s を掛けて

R×3×1070.25 回/R\times3\times10^7\simeq0.25\ \text{回}/\text{年}

答えは 1 年に約 0.25 例、つまり 4 年に 1 回程度です。実際の測定は 1 秒あたり何十から何百カウントで行うので、太陽ニュートリノは測定の邪魔にまったくなりません。逆に言えば、この程度の断面積の相互作用を捉えるには数百トン級の標的と厳重なバックグラウンド遮蔽が必要で、それが太陽ニュートリノ観測装置が巨大になる理由です。

第6問 2次元電子系と弱い周期ポテンシャル

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質量 mm の電子が xyxy 面内だけを動く系を考えます。スピンと電子間相互作用は無視します。まず自由電子の波動関数と状態密度を求め、次に周期ポテンシャルを加えてバンド構造を調べます。

面内で自由なので V=0V=0 で、定常状態の Schrödinger 方程式は

22m(2x2+2y2)Ψ(x,y)=EΨ(x,y)-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}\right)\Psi(x,y)=E\,\Psi(x,y)

です。Ψ=X(x)Y(y)\Psi=X(x)Y(y) と変数分離すると X/X=kx2X''/X=-k_x^2Y/Y=ky2Y''/Y=-k_y^2kx,kyk_x,k_y は定数)となり、XeikxxX\propto e^{ik_xx}YeikyyY\propto e^{ik_yy} です。一辺 LL の周期的境界条件 Ψ(x+L,y)=Ψ(x,y)\Psi(x+L,y)=\Psi(x,y) 等を課すと kx=2πnx/Lk_x=2\pi n_x/Lky=2πny/Lk_y=2\pi n_y/Lnx,nyn_x,n_y は整数)に量子化されます。規格化して

Ψk(x,y)=1Lei(kxx+kyy),E(k)=2(kx2+ky2)2m\Psi_{\boldsymbol{k}}(x,y)=\frac{1}{L}e^{i(k_xx+k_yy)},\qquad E(\boldsymbol{k})=\frac{\hbar^2(k_x^2+k_y^2)}{2m}

これが平面波解で、k\boldsymbol{k} は運動量 k\hbar\boldsymbol{k} に対応する良い量子数です。

3 次元で辺の長さ LL、周期的境界条件のとき、許される k\boldsymbol{k} は間隔 2π/L2\pi/L の立方格子をなし、k\boldsymbol{k} 空間の単位体積あたり (L/2π)3(L/2\pi)^3 個の状態があります。エネルギーが EE 以下の状態は半径 k=2mE/k=\sqrt{2mE}/\hbar の球の内部なので

N(E)=(L2π)34πk33=V6π2(2mE2)3/2(V=L3)N(E)=\left(\frac{L}{2\pi}\right)^3\cdot\frac{4\pi k^3}{3}=\frac{V}{6\pi^2}\left(\frac{2mE}{\hbar^2}\right)^{3/2} \qquad(V=L^3)

これを微分して

D(E)=dNdE=V4π2(2m2)3/2E  ED(E)=\frac{dN}{dE}=\frac{V}{4\pi^2}\left(\frac{2m}{\hbar^2}\right)^{3/2}\sqrt{E}\ \propto\ \sqrt{E}

を得ます(スピンを考えるなら 2 倍)。E\sqrt{E} が出るのは、D(E)=(dN/dk)(dk/dE)D(E)=(dN/dk)(dk/dE)dN/dkk2dN/dk\propto k^2dk/dE1/kdk/dE\propto1/k なので DkED\propto k\propto\sqrt E となるためです。一般に dd 次元では Dkd1k1=kd2E(d2)/2D\propto k^{d-1}\cdot k^{-1}=k^{d-2}\propto E^{(d-2)/2} です。

2 次元では k\boldsymbol{k} 空間の単位面積あたり (L/2π)2(L/2\pi)^2 個の状態があり、エネルギー EE 以下は半径 kk の円の内部なので

N(E)=(L2π)2πk2=L24π2mE2=mL22π2EN(E)=\left(\frac{L}{2\pi}\right)^2\pi k^2=\frac{L^2}{4\pi}\cdot\frac{2mE}{\hbar^2}=\frac{mL^2}{2\pi\hbar^2}E

微分して

D(E)=mL22π2(E>0),D(E)=0(E<0)D(E)=\frac{mL^2}{2\pi\hbar^2}\qquad(E>0),\qquad D(E)=0\quad(E<0)

答えは D(E)=mL2/(2π2)D(E)=mL^2/(2\pi\hbar^2) で、エネルギーに依らない定数です(スピンを含めれば 2 倍)。上の一般式 DE(d2)/2D\propto E^{(d-2)/2}d=2d=2 とした結果と一致します。E=0E=0 で階段状に立ち上がるのが 2 次元系の特徴で、量子井戸の階段状状態密度や 2 次元電子ガスの物性(磁化率や比熱の温度依存性が 3 次元と異なること)の起源になります。次元も、mL2/2mL^2/\hbar^2(エネルギー)1(\text{エネルギー})^{-1} になっているので状態密度として正しいです。

ポテンシャルが格子ベクトル R=(ma,na)\boldsymbol{R}=(ma,na)m,nm,n は整数)だけ平行移動して不変なとき、並進演算子と HH が可換なので Bloch の定理が成り立ちます。すなわち固有関数は

Ψk(r)=eikruk(r),uk(r+R)=uk(r)\Psi_{\boldsymbol{k}}(\boldsymbol{r})=e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}}u_{\boldsymbol{k}}(\boldsymbol{r}), \qquad u_{\boldsymbol{k}}(\boldsymbol{r}+\boldsymbol{R})=u_{\boldsymbol{k}}(\boldsymbol{r})

という形(平面波に格子周期をもつ関数を掛けた形)をとります。同じことを Ψk(r+R)=eikRΨk(r)\Psi_{\boldsymbol{k}}(\boldsymbol{r}+\boldsymbol{R})=e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{R}}\Psi_{\boldsymbol{k}}(\boldsymbol{r}) と書いてもよく、また逆格子ベクトル G=(2π/a)(h,l)\boldsymbol{G}=(2\pi/a)(h,l) を使って

Ψk(r)=Gck+Gei(k+G)r\Psi_{\boldsymbol{k}}(\boldsymbol{r})=\sum_{\boldsymbol{G}}c_{\boldsymbol{k}+\boldsymbol{G}}\,e^{i(\boldsymbol{k}+\boldsymbol{G})\cdot\boldsymbol{r}}

と平面波を G\boldsymbol{G} だけずれた成分の和で展開した形にも書けます。k\boldsymbol{k}G\boldsymbol{G} の分だけの不定性があるので第一 Brillouin ゾーン(ここでは π/a<kx,kyπ/a-\pi/a<k_x,k_y\le\pi/a の正方形)に限ることができ、そのうえで離散的なバンド指数 nn が付きます。なお本問のポテンシャルは V(x,y)=V(x)+V(y)V(x,y)=V(x)+V(y) の形なので変数分離でき、Ψ=X(x)Y(y)\Psi=X(x)Y(y)XXYY がそれぞれ 1 次元の Bloch 関数になります。

V(x)=V0cos(2πx/a)=V02(eiGx+eiGx)V(x)=V_0\cos(2\pi x/a)=\frac{V_0}{2}(e^{iGx}+e^{-iGx})G2π/aG\equiv2\pi/a とします。無摂動状態を k=eikx/L|k\rangle=e^{ikx}/\sqrt Lε(k)=2k2/2m\varepsilon(k)=\hbar^2k^2/2m とすると、行列要素は

kVk=V02(δk,k+G+δk,kG)\langle k'|V|k\rangle=\frac{V_0}{2}\bigl(\delta_{k',k+G}+\delta_{k',k-G}\bigr)

だけです。対角要素がないので 1 次の補正は 00 で、2 次までとると

E(k)=ε(k)+V024[1ε(k)ε(k+G)+1ε(k)ε(kG)]=2k22m+mV022(4k2G2)E(k)=\varepsilon(k)+\frac{V_0^2}{4}\left[\frac{1}{\varepsilon(k)-\varepsilon(k+G)}+\frac{1}{\varepsilon(k)-\varepsilon(k-G)}\right] =\frac{\hbar^2k^2}{2m}+\frac{mV_0^2}{\hbar^2\,(4k^2-G^2)}

となります。k<G/2k<G/2 ではエネルギーが下がり、k>G/2k>G/2 では上がります。

この表式は k=±G/2=±π/ak=\pm G/2=\pm\pi/a(Brillouin ゾーン境界)で発散します。そこでは k=G/2|k=G/2\ranglekG=G/2|k-G=-G/2\rangle が縮退しており、縮退のある摂動論を使う必要があります。この 2 状態で張られる部分空間のハミルトニアンは

(ε(π/a)V0/2V0/2ε(π/a))\begin{pmatrix}\varepsilon(\pi/a) & V_0/2\\ V_0/2 & \varepsilon(\pi/a)\end{pmatrix}

なので固有値は

E±=22m(πa)2±V02E_\pm=\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\pi}{a}\right)^2\pm\frac{|V_0|}{2}

すなわちゾーン境界でエネルギーギャップ

Eg=V0E_g=|V_0|

が開きます。固有関数は (G/2±G/2)/2(|G/2\rangle\pm|-G/2\rangle)/\sqrt2、つまり cos(πx/a)\cos(\pi x/a)sin(πx/a)\sin(\pi x/a) の定在波で、前者はポテンシャルの谷に、後者は山に電子密度を集めます。

結論としてエネルギー・スペクトルは、自由電子の放物線 2k2/2m\hbar^2k^2/2mk=±π/ak=\pm\pi/a で幅 V0|V_0| に割れ、さらに k=±nπ/ak=\pm n\pi/a でも割れて、バンドとギャップの列(バンド構造)になります。V(x)V(x)G=±2π/aG=\pm2\pi/a のフーリエ成分しか持たないので、k=±π/ak=\pm\pi/a のギャップは V0V_0 の 1 次で V0|V_0| ですが、k=±2π/ak=\pm2\pi/a のギャップは 2 次の過程(±G\pm G を 2 回使う)で開くので O(V02/(2G2/2m))O(V_0^2/(\hbar^2G^2/2m)) と小さくなります。上の 2 次摂動の結果は、平面波基底での数値対角化と比較して確認しました(=m=1\hbar=m=1G=1G=1V0=0.05V_0=0.05k=0.25k=0.25 のとき、厳密値 0.0279490.027949 に対し上式は 0.0279170.027917、ゾーン境界のギャップは厳密値 0.0499690.049969 に対し V0=0.05|V_0|=0.05)。

(a) エネルギー・スペクトルは、第一 Brillouin ゾーン(π/a<kx,kyπ/a-\pi/a<k_x,k_y\le\pi/a の正方形)内の Bloch 波数(結晶運動量)k=(kx,ky)\boldsymbol{k}=(k_x,k_y) とバンド指数 nn の関数 En(kx,ky)E_n(k_x,k_y) として考えます。自由電子と違って k\hbar\boldsymbol{k} は真の運動量ではなく、逆格子ベクトルの分だけの不定性をもつ「結晶運動量」で、En(k+G)=En(k)E_n(\boldsymbol{k}+\boldsymbol{G})=E_n(\boldsymbol{k}) の周期性をもちます。本問のポテンシャルは変数分離できるので、1 次元のバンド εν(k)\varepsilon_\nu(k) を使って

Enxny(kx,ky)=εnx(kx)+εny(ky)E_{n_xn_y}(k_x,k_y)=\varepsilon_{n_x}(k_x)+\varepsilon_{n_y}(k_y)

と書けます。バンドの組 (nx,ny)(n_x,n_y) が 2 次元のバンド指数の役割をします。

(b) 定性的な特徴は次の通りです。第 1 に、ゾーン境界の線 kx=±π/ak_x=\pm\pi/a および ky=±π/ak_y=\pm\pi/a 上で、V0V_0 の 1 次のギャップ V0|V_0| が開きます。ゾーンの隅 (±π/a,±π/a)(\pm\pi/a,\pm\pi/a) では両方の効果が重なります。等エネルギー線(Fermi 面)は自由電子の円からゾーン境界の近くで外へ膨らむように歪み、境界を垂直に横切る形になります。

第 2 に、1 次元と違って 2 次元ではギャップが全体のギャップになるとは限りません。上の分離形から、(1,1)(1,1) バンドのエネルギー範囲は [2ε1min,2ε1max][2\varepsilon_1^{\min},2\varepsilon_1^{\max}](1,2)(1,2) バンドは [ε1min+ε2min, ε1max+ε2max][\varepsilon_1^{\min}+\varepsilon_2^{\min},\ \varepsilon_1^{\max}+\varepsilon_2^{\max}] です。両者が重ならない条件は

ε2minε1max>ε1maxε1min\varepsilon_2^{\min}-\varepsilon_1^{\max}>\varepsilon_1^{\max}-\varepsilon_1^{\min}

すなわち「1 次元のギャップが 1 次元のバンド幅より広いこと」です。弱い周期ポテンシャルではギャップ V0|V_0| はバンド幅 2(π/a)2/2m\hbar^2(\pi/a)^2/2m よりはるかに小さいので、この条件は満たされず、2 次元のバンドは互いに重なります。強い周期ポテンシャル(狭いバンド)でないと真のギャップは開きません。

第 3 に、状態密度が自由電子の一定値から変形します。各バンドは有限の幅をもつので D(E)D(E) はバンド端で階段状に立ち上がり、バンドの内部の鞍点(たとえばゾーン境界の中点)では 2 次元特有の対数発散(van Hove 特異性)を示します。バンドが重なる領域では複数のバンドの寄与が足し合わされます。

(c) 絶対零度で電子を詰めていくと、電子は下のバンドから順に埋まります。1 つのバンドは単位胞あたり 1 個の電子を収容します(スピンを考えれば 2 個)。

金属になるのは、最も上の占有バンドが部分的にしか埋まっていない場合です。このとき Fermi 準位はバンドの内部にあり、Fermi 面が存在して、いくらでも小さい励起エネルギーで電子を動かせるので有限の電気伝導度をもちます。単位胞あたりの電子数が整数でない場合は必ずこうなります。

絶縁体・半導体になるのは、電子数がちょうど整数個のバンドを完全に満たし、かつその上に真のエネルギーギャップがある場合です。満たされたバンドでは占有状態の合計の群速度が 00 で、電場をかけても電子の分布を変えられない(同じバンド内に空きがない)ので電流が流れません。ギャップが小さく(11 eV 程度以下)、有限温度で eEg/2kTe^{-E_g/2kT} の割合でキャリアが熱励起される、あるいは不純物ドープでキャリアを入れられる場合を半導体、ギャップが大きくてそれが実際上できない場合を絶縁体と呼びます。

ここで (b) の結論が効きます。単位胞あたりの電子数が偶数(スピンを含めた「詰め切り」)であっても、バンドが重なっていれば下のバンドの一部が空いたまま上のバンドに電子が入るので金属になります。弱い周期ポテンシャルの 2 次元系はまさにこの場合で、V0|V_0| がバンド幅を超えるほど強くならないかぎり絶縁体にはなりません。3 次元でも同じ事情で、2 価の元素(Mg、Ca など)が絶縁体でなく金属であるのはバンドの重なりのためです。

第7問 タンパク質の高次構造決定法

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タンパク質の高次構造決定法として、電子顕微鏡法、円偏光二色性(CD)、X 線結晶回折、核磁気共鳴法(NMR)、中性子散乱法が挙げられています。このうち CD 以外は各原子の座標を決められる方法です。各手法の原理と限界を問う問題です。

CD 法で決まるのは二次構造の含有率、すなわち α\alpha ヘリックス、β\beta シート、ランダムコイルがそれぞれ何 % あるかです(近紫外の CD からは芳香族側鎖の環境を通じて三次構造の変化も分かります)。

利用しているのはタンパク質のキラリティーです。構成アミノ酸が L 体だけであり、しかも二次構造そのものがキラル(α\alpha ヘリックスは右巻き、β\beta シートはねじれている)なので、左右の円偏光に対する吸光係数が異なります。遠紫外(190〜240 nm)でのペプチド結合の ππ\pi\to\pi^* 遷移と nπn\to\pi^* 遷移が、隣接するペプチド基との相互作用(励起子相互作用)を通じて二次構造ごとに特徴的な CD スペクトルを与えます。α\alpha ヘリックスは 222 nm と 208 nm に負の帯、192 nm に強い正の帯、β\beta シートは 218 nm 付近に負、195 nm 付近に正、ランダムコイルは 200 nm 付近に負の帯を示すので、実測スペクトルをこれらの基準スペクトルの線形結合に分解すれば含有率が出ます。

長所は次の点です。溶液のまま測れるので結晶を作る必要がない。試料量が少なく(μ\mug オーダー、希薄溶液)、非破壊で、測定が数分と速い。したがって温度・pH・変性剤・リガンド濃度を変えながら二次構造の変化をその場で追跡でき、熱変性曲線からの安定性評価や折りたたみ反応の速度論(ストップトフロー CD)に向いています。生理的条件下での構造変化を見る手段として、原子座標が出ないという欠点と引き換えに他にない使い勝手をもちます。

(a) 加速電圧 V=100V=100 kV で得る運動エネルギーは eVeV で、非相対論的に eV=p2/2meeV=p^2/2m_e とすると

p=2meeV=2×9.1×1031×1.6×1019×105=1.7×1022 kgm/sp=\sqrt{2m_eeV}=\sqrt{2\times9.1\times10^{-31}\times1.6\times10^{-19}\times10^{5}}=1.7\times10^{-22}\ \mathrm{kg\,m/s}

de Broglie 波長は

λ=hp=6.6×10341.7×1022=3.9×1012 m\lambda=\frac{h}{p}=\frac{6.6\times10^{-34}}{1.7\times10^{-22}}=3.9\times10^{-12}\ \mathrm{m}

有効数字 1 桁で λ4×1012\lambda\simeq4\times10^{-12} m(4 pm =0.004=0.004 nm)です。参考までに、eV=100eV=100 keV は mec2=511m_ec^2=511 keV の 20 % なので相対論補正は無視できないほどで、正しく計算すると 3.7×10123.7\times10^{-12} m になります(1 桁では同じ)。

(b) 光学顕微鏡の分解能は回折限界そのもので、d0.61λ/NAd\simeq0.61\lambda/\mathrm{NA} です。ガラスレンズは収差を良く補正できるので開口数を 1 前後(油浸で 1.4)まで大きくとれ、dλ/2d\simeq\lambda/2、つまり波長と同程度の 200 nm が実現します。

電子顕微鏡の分解能は回折限界ではなく、レンズの収差で決まっています。電子レンズ(磁界レンズ)は軸対称な場しか作れないため球面収差を原理的に消せず(光学系のように凹凸レンズの組み合わせで補正できない)、また加速電圧の変動と試料中での非弾性散乱によるエネルギー広がりから色収差も残ります。収差の効果は開口角 α\alpha が大きいほど激しいので、絞りを強く入れて α102\alpha\sim10^{-2} rad に制限せざるをえません。すると回折による広がりが λ/α0.4\sim\lambda/\alpha\simeq0.4 nm となり、球面収差係数 CsC_s による広がり Csα3\sim C_s\alpha^3 との和を最小にする最適点は

dmin0.7(Csλ3)1/4d_{\min}\simeq0.7\,(C_s\lambda^3)^{1/4}

で、Cs=1C_s=1 mm、λ=4\lambda=4 pm なら dmin0.3d_{\min}\simeq0.3 nm です。実測の 0.1〜0.3 nm はこれで説明できます。つまり波長は 0.004 nm と極端に短いのに、開口角を収差のせいで 10210^{-2} 程度に絞らねばならないため、実効的な「開口数」が光学顕微鏡より 2 桁小さく、分解能は波長の 100 倍近い値にとどまるのです。

生物試料ではさらに実用上の制約が加わります。電子線による放射線損傷のため照射量を抑えねばならず(低ドーズ)、そのため信号雑音比が悪い。試料は真空中で薄く(100 nm 以下に)しなければならず、多重散乱と厚み方向の投影が像をぼかす。染色や凍結の技法で構造が乱れることもある。これらのため、生体分子で 0.1 nm 級の情報を得るには多数の粒子像の平均化が必要になります。

(a) X 線は原子中の電子によって Thomson 散乱されます。単位胞内の原子の位置を rj\boldsymbol{r}_j、各原子の散乱因子を fjf_j とすると、逆格子点 G\boldsymbol{G} 方向の散乱振幅(結晶構造因子)は

F(G)=jfj(G)eiGrjF(\boldsymbol{G})=\sum_j f_j(\boldsymbol{G})\,e^{-i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{r}_j}

で、回折強度は I(G)=F(G)2I(\boldsymbol{G})=|F(\boldsymbol{G})|^2 です。fjf_j はその原子の電子密度分布のフーリエ変換で、小角では原子番号 ZZ にほぼ比例します。したがって強度は原子の種類(fjf_j を通じて)と配置(位相因子 eiGrje^{-i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{r}_j} を通じて)の両方を反映します。X 線の波長 0.1 nm 程度が原子間距離と同程度なので、干渉が実験可能な散乱角に現れることが前提条件です。等価な言い方をすれば、I(G)I(\boldsymbol{G}) は単位胞の電子密度 ρ(r)\rho(\boldsymbol{r}) のフーリエ係数の絶対値の 2 乗で、ρ\rho の極大が原子位置、その高さが原子番号を表します。

(b) 位相問題があるためです。測定できるのは強度 F(G)2|F(\boldsymbol{G})|^2 だけで、F(G)=FeiϕF(\boldsymbol{G})=|F|e^{i\phi} の位相 ϕ\phi が失われます。ところが電子密度を再構成するには

ρ(r)=1VGF(G)eiϕ(G)eiGr\rho(\boldsymbol{r})=\frac{1}{V}\sum_{\boldsymbol{G}}|F(\boldsymbol{G})|\,e^{i\phi(\boldsymbol{G})}\,e^{i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{r}}

の全項が必要で、位相を知らなければフーリエ合成ができません。しかも構造の情報の大半は位相側にあります。強度だけから作れるのは Patterson 関数(原子間ベクトルの自己相関)ですが、原子数 NN に対し N2N^2 本のピークが重なるので、小分子なら解けてもタンパク質のように NN が数千の場合は解読できません。

(c) 位相を実験的に補う方法をとります。代表的なものは次の 3 つです。第 1 に同形置換法で、結晶を水銀・白金・ウランなど重原子の化合物に浸し、格子をほとんど変えずに特定の部位に重原子を入れます。もとの結晶との強度差から差 Patterson 関数で重原子の位置を決め、その重原子だけの構造因子を基準にして各反射の位相を推定します(1 種類なら SIR、複数なら MIR)。第 2 に異常分散法で、シンクロトロン放射の波長可変性を利用し、含まれる重原子(セレノメチオニンの Se、結合金属、硫黄)の吸収端付近の複数波長で測定します。異常散乱項が Friedel 対の強度差を作り、そこから位相が決まります(MAD、SAD)。第 3 に分子置換法で、相同なタンパク質の既知構造を探索モデルとして回転・並進を最適化し、その計算位相を初期値にします(近年は予測構造をモデルにすることも一般的です)。

これらで得た初期位相から電子密度図を作り、モデルを組んで位相を改良し、また密度図を作るという反復(溶媒平坦化、非結晶学的対称の平均化、密度修正を併用)を行って、RR 因子が下がるまで精密化します。

(a) 共鳴周波数は磁気モーメントの大きさに比例します。核あるいは電子の磁気モーメントは gg 因子と磁子 μ=e/2M\mu=e\hbar/2MMM は質量)の積なので、共鳴周波数は g/Mg/M に比例します。よって

νp=νe×gpge×memp=28 GHz×5.62×1183643 MHz\nu_p=\nu_e\times\frac{g_p}{g_e}\times\frac{m_e}{m_p} =28\ \mathrm{GHz}\times\frac{5.6}{2}\times\frac{1}{1836} \simeq43\ \mathrm{MHz}

答えは約 4×1074\times10^7 Hz(43 MHz)です。実測値 42.58 MHz とよく合います。なお電子スピン共鳴の 28 GHz はマイクロ波帯ですが、陽子のこの周波数は短波帯の電波であって、問題文の「マイクロ波共鳴」は電子スピンの場合の言い方です。B=10B=10 T の超伝導磁石でも陽子は 430 MHz で、NMR が「何百 MHz」で呼ばれる理由がここにあります。

(b) 溶媒の水素の信号を消すためです。1^1H NMR で見たいのはタンパク質のプロトンですが、水溶液では溶媒である水のプロトンがタンパク質のプロトンより 3〜4 桁多く、その巨大な信号が受信系のダイナミックレンジを埋めてしまい、近傍の共鳴線を覆い隠します。重水 D2_2O では水素が重水素(スピン 1、gg 因子も異なるので共鳴周波数が大きく離れる)に置き換わっているため、1^1H のスペクトルに溶媒の信号が出ません。副次的な利点として、重水素の信号を磁場のロックに使えること、交換性プロトン(アミド NH)が D に置換されていく速さから水素結合や構造の揺らぎを調べられることがあります。逆にアミドプロトンを観測したい場合には 90 % H2_2O + 10 % D2_2O を使い、水信号を選択的に抑制するパルス列を併用します。

(c) 化学シフトのためです。核のまわりの電子は外部磁場によって誘導電流を生じ、核の位置に外部磁場と逆向きの局所磁場を作ります(遮蔽)。その大きさは局所的な電子密度と分布に依るので、実際に核が感じる磁場は B(1σ)B(1-\sigma) となり、共鳴周波数が σ\sigma に応じてずれます。σ\sigma は結合している原子の電気陰性度、混成状態、芳香環の環電流、水素結合の有無、そして立体構造による近傍基の配置で変わるので、タンパク質の異なる位置の水素原子は異なる周波数に現れます。これに加えて、結合を通したスピン–スピン結合(JJ 結合)が線を分裂させ、空間を通した双極子相互作用と核 Overhauser 効果(NOE)が核間距離(r6r^{-6} 依存)の情報を与えます。この化学シフトと結合の組み合わせを手がかりに各プロトンを同定・帰属し、NOE から得た距離拘束の集合を満たす立体構造を計算するのが NMR による構造決定です。

(d) 分解能の限界、すなわちスペクトルの混み合いと線幅の増大です。2 つの要因が同時に効きます。

第 1 に、分子量が大きくなるとプロトンの数は比例して増えるのに、1^1H の化学シフトの幅は約 10 ppm と決まっているので、共鳴線の密度が増して重なり合い、個々のプロトンを分離・帰属できなくなります。分子量 20,000 なら水素は 1,000 個以上あり、1 次元スペクトルではとうてい分離できません。

第 2 に、線幅が広がります。分子が大きいほど溶液中での回転が遅くなり、回転相関時間 τc\tau_c が分子量にほぼ比例して長くなります。ωτc1\omega\tau_c\gg1 の遅い運動の領域では双極子相互作用による横緩和が効率的になって T2T_2 が短くなり、線幅 1/(πT2)\sim1/(\pi T_2) が広がります。これは分離をさらに悪くするうえ、信号強度そのものも落とします。

この 2 つが重なって、1 次元・2 次元 1^1H NMR では分子量 20,000 程度が限界になります。対策としては、高磁場化(分散が磁場に比例して広がる)、多次元 NMR(13^{13}C、15^{15}N を標識した 3 次元・4 次元測定で重なりを別の軸へほどく)、重水素化と TROSY 法(緩和経路を減らし線幅を狭くする)があり、現在では 100,000 を超える系も扱えます。

タンパク質と核酸の複合体で、それぞれの部分がどこにどんな形で配置されているかを溶液中で決めたい場合に、中性子が有利です。理由は中性子の 3 つの特徴にあります。

第 1 に、中性子は原子核と相互作用するので散乱長が原子番号に単調に依らず、とくに水素と重水素で大きく異なります(bH=3.7b_\mathrm{H}=-3.7 fm と負、bD=+6.7b_\mathrm{D}=+6.7 fm と正)。したがって溶媒の H2_2O と D2_2O の比を変えると溶媒の平均散乱長密度を連続的に動かせ、タンパク質(約 40 % D2_2O で消える)と核酸(約 70 % D2_2O で消える)の「見えなくなる点」が違うことを利用して、片方だけを選択的に観測できます。片方の成分を重水素標識すればコントラストをさらに大きくできます。これがコントラスト変調法で、複合体中の各成分の慣性半径・形・相対配置をリボソーム、ヌクレオソーム、ウイルスなどで決めてきました。X 線は電子密度に比例するので、電子密度の近いタンパク質と核酸を区別する手段がなく(核酸のほうがやや高いだけで)、この使い分けができません。

第 2 に、水素原子を直接見られることです。X 線の散乱は電子数に比例するので水素はほとんど見えませんが、中性子結晶回折では水素・重水素の位置が決まり、水素結合のプロトンの位置、酵素活性中心の水素の帰属、結合水の配置が分かります。プロトン化状態が機能を決める酵素の場合はこれが決定的です。

第 3 に、中性子は電荷をもたず物質との相互作用が弱いため、放射線損傷を与えずに測定でき、厚い試料や低温・高圧などの試料環境を透過できます。生きた状態に近い溶液試料をそのまま扱える点も、電子線(真空・薄膜が必須で損傷が大きい)に対する利点です。

欠点は線源の輝度が低く、大きな試料と長い測定時間が必要なことで、原子座標の精密決定は X 線に任せ、中性子は上の 3 つの特徴が効く場合に選ぶことになります。

第8問 分子の内部回転と回転異性体

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前半は 1,1,1-トリクロロエタン CH3_3–CCl3_3 の C–C 単結合まわりの内部回転です。CCl3_3 基は慣性モーメントが大きいので静止しているとみなし、CH3_3 基の回転だけを扱います。後半は 1,2-ジクロロエタン CH2_2Cl–CH2_2Cl の回転異性体(トランス型とゴーシュ型)を、赤外吸収スペクトルと統計力学で調べます。

(a) C–C 軸まわりの慣性モーメントは、各原子の軸からの垂直距離の 2 乗に質量を掛けて足したものです。C 原子は軸上にあるので寄与せず、3 個の水素原子は C–H 距離 rr、C–H 結合と軸のなす角 θ\theta なので軸からの距離は rsinθr\sin\theta です。したがって

I=3m(rsinθ)2=3mr2sin2θI=3m(r\sin\theta)^2=3mr^2\sin^2\theta

(正四面体角 θ=109.5\theta=109.5^\circ なら sin2θ=8/9\sin^2\theta=8/9I=83mr2I=\frac{8}{3}mr^2 です。)

(b) 回転角を ϕ\phi とすると運動エネルギーは T=12Iϕ˙2T=\frac12I\dot\phi^2、自由回転なのでポテンシャルは 00 です。Lagrangian L=12Iϕ˙2L=\frac12I\dot\phi^2 から共役運動量は pϕ=L/ϕ˙=Iϕ˙p_\phi=\partial L/\partial\dot\phi=I\dot\phi で、ハミルトニアンは

H=pϕϕ˙L=pϕ22IH=p_\phi\dot\phi-L=\frac{p_\phi^2}{2I}

正準量子化 pϕi/ϕp_\phi\to-i\hbar\,\partial/\partial\phi により

H^=22Id2dϕ2\hat H=-\frac{\hbar^2}{2I}\frac{d^2}{d\phi^2}

Schrödinger 方程式 22IΨ=EΨ-\frac{\hbar^2}{2I}\Psi''=E\Psi の解は ΨeiMϕ\Psi\propto e^{iM\phi} で、波動関数の一価性 Ψ(ϕ+2π)=Ψ(ϕ)\Psi(\phi+2\pi)=\Psi(\phi) から MM は整数に制限されます。規格化して

ΨM(ϕ)=12πeiMϕ,EM=2M22I(M=0,±1,±2,)\Psi_M(\phi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{iM\phi},\qquad E_M=\frac{\hbar^2M^2}{2I}\quad(M=0,\pm1,\pm2,\dots)

です。M0M\neq0±M\pm M が同じエネルギーなので 2 重に縮退しています。準位間隔は MM が大きいほど広がり(EM+1EM=2(2M+1)/2IE_{M+1}-E_M=\hbar^2(2M+1)/2I)、B2/2IB\equiv\hbar^2/2I が内部回転定数です。

(c) V=V32(1cos3ϕ)V=\frac{V_3}{2}(1-\cos3\phi)ϕ=0\phi=0 のまわりで展開します。cos3ϕ=1(3ϕ)22+O(ϕ4)\cos3\phi=1-\frac{(3\phi)^2}{2}+O(\phi^4) なので

VV329ϕ22=9V34ϕ2V\simeq\frac{V_3}{2}\cdot\frac{9\phi^2}{2}=\frac{9V_3}{4}\phi^2

これは ϕ\phi の 2 次形式で、12Iω2ϕ2\frac12I\omega^2\phi^2 と比べると

12Iω2=9V34ω=3V32I\frac12 I\omega^2=\frac{9V_3}{4} \qquad\Longrightarrow\qquad \omega=3\sqrt{\frac{V_3}{2I}}

すなわち ϕ=0\phi=0 の近傍の運動は角振動数 ω=3V3/2I\omega=3\sqrt{V_3/2I} の調和振動子(ねじれ振動、トーション)になり、エネルギー準位は

En=ω(n+12)=3V32I(n+12)(n=0,1,2,)E_n=\hbar\omega\left(n+\frac12\right)=3\hbar\sqrt{\frac{V_3}{2I}}\left(n+\frac12\right) \qquad(n=0,1,2,\dots)

です。この近似が成り立つ条件は、準位が障壁より十分下にあって振幅が小さいこと、すなわち

ωV3V3922I\hbar\omega\ll V_3 \qquad\Longleftrightarrow\qquad V_3\gg\frac{9\hbar^2}{2I}

です。これが「V3V_3 が十分大きければ」の意味で、右辺は自由回転の準位間隔(2/2I\hbar^2/2I の程度)にほかなりません。逆の極限 V32/IV_3\ll\hbar^2/I では (b) の自由回転に戻ります。零点振動の振幅は ϕrms=/(2Iω)\phi_{\mathrm{rms}}=\sqrt{\hbar/(2I\omega)} で、これが極小間の間隔 2π/32\pi/3 よりずっと小さいことが同じ条件です。

なお極小は ϕ=0,±2π/3\phi=0,\pm2\pi/3 の 3 つあって等価なので、厳密には各振動準位はトンネル効果で 3 本(AA と 2 重縮退の EE)に分裂します。分裂幅は e(障壁の作用)e^{-\text{(障壁の作用)}} で抑えられ、V3V_3 が大きければ観測されるほど小さくなります。

(d) どちらも staggered 型(前後の結合が互い違い)で、違いは 2 つの Cl の二面角だけです。C–C 結合を紙面に垂直にとった Newman 投影図で、手前の炭素の 3 本の結合を中心から 9090^\circ210210^\circ330330^\circ の向きに、奥の炭素の 3 本を円周から 3030^\circ150150^\circ270270^\circ の向きに描きます。手前の Cl を 9090^\circ(真上)に置くと、奥の Cl が 270270^\circ(真下)にあるのがトランス型(アンチ型、Cl–C–C–Cl の二面角 ϕ=180\phi=180^\circ)、奥の Cl が 3030^\circ にあるのがゴーシュ型(ϕ=60\phi=60^\circ)です。ゴーシュ型は奥の Cl が 150150^\circ にある形(ϕ=60\phi=-60^\circ)とも書けて、この 2 つは互いに鏡像の等価な異性体なので統計的重みが 2 になります。残りの位置はすべて水素です。

ClHHHHClClHHClHHtrans (anti), 180 deggauche, 60 deg

(中心から円周へ伸びる 3 本が手前の炭素の結合、円周から外へ伸びる 3 本が奥の炭素の結合です。)

(e) 赤外吸収は、振動の基準座標 QQ に沿って分子の電気双極子モーメントが変化するとき(μ/Q0\partial\boldsymbol{\mu}/\partial Q\neq0)にのみ起こります。2 本の C–Cl 結合はほぼ同じ振動数をもつので互いに結合し、同位相で伸縮する対称振動と逆位相で伸縮する反対称振動という 2 つの基準振動を作ります。

トランス型は 2 つの C–Cl 結合が反平行で、分子は対称心をもちます(点群 C2hC_{2h})。対称心があると、振動は偶(gg)と奇(uu)に分かれ、赤外活性なのは uu のものだけです(赤外とラマンの相互排他則)。C–Cl 伸縮の対称振動は AgA_g で、2 つの結合双極子の変化がちょうど打ち消し合って全体の双極子モーメントが変わらないので赤外不活性(ラマン活性)です。反対称振動は BuB_u で双極子変化が足し合わされ、赤外活性です。したがって赤外では 1 本(709 cm1^{-1})しか見えません。

ゴーシュ型は二面角 6060^\circ で対称心がなく、C2C_2 軸だけをもちます(点群 C2C_2)。このとき 2 つの結合双極子の変化はどの位相の組み合わせでもベクトル和が 00 にならず、対称振動(AAC2C_2 軸方向の双極子変化)と反対称振動(BB、軸に垂直な双極子変化)の両方が赤外活性になります。よって 2 本(675 cm1^{-1} と 653 cm1^{-1})が観測されます。2 本の間隔 22 cm1^{-1} は 2 つの C–Cl 振動子の間の結合の強さを表します。

つまり見える本数の違いは分子の対称性(対称心の有無)の違いで、トランス型に隠れている対称伸縮はラマンスペクトルで観測できます。この赤外とラマンの補い合いは、対称心をもつ構造を実験的に決める標準的な手段です。

(f) 気体は 2 種の異性体の平衡混合物なので、モル分率の比は Boltzmann 分布に従います。ゴーシュ型は ±60\pm60^\circ の 2 つの等価な形があるので統計的重みが 2 で、

NgNt=2eΔE/kT(ΔE=EgEt)\frac{N_g}{N_t}=2\,e^{-\Delta E/kT}\qquad(\Delta E=E_g-E_t)

です。一方、各バンドの積分強度は対応する異性体の濃度に比例し、比例係数(積分吸収係数)AtA_tAgA_g は温度に依らないと考えてよいので It=AtNtI_t=A_tN_tIg=AgNgI_g=A_g N_g です。よって

lnIg(T)It(T)=ln2AgAtΔEkT\ln\frac{I_g(T)}{I_t(T)}=\ln\frac{2A_g}{A_t}-\frac{\Delta E}{kT}

したがって手順は次のようになります。いくつもの温度でスペクトルを測り、トランス型のバンド(709 cm1^{-1})とゴーシュ型のバンド(675 と 653 cm1^{-1} の両方を合わせる)の積分強度の比をとり、ln(Ig/It)\ln(I_g/I_t)1/T1/T に対してプロットします(van’t Hoff プロット)。直線の傾きが ΔE/k-\Delta E/k なので、そこから ΔE\Delta E が求まります。未知の比例係数の比 Ag/AtA_g/A_t と統計的重み 2 は切片にしか入らないので、ΔE\Delta E を出すのにそれらを知る必要がないのがこの方法の要点です。

実際の注意点としては、ピーク高さではなくバンドの面積を使う(温度で線幅が変わるため)、気体の密度変化とセル長の効果を補正する、バンドの重なりを分離する、異性化が測定時間内に平衡に達していることを確かめる、といったことが必要です。気体で測るのは溶媒の極性による安定性の逆転を避けるためです(極性溶媒中では双極子モーメントをもつゴーシュ型が安定化されます)。

(g) ϕ\phi を Cl–C–C–Cl の二面角とし、2 つの Cl が重なる(syn 型)位置を ϕ=0\phi=0 とします。曲線は ϕ\phi について偶関数で周期 360360^\circϕ=180\phi=180^\circ について対称です。極小と極大は次の通りです。

極小は 3 つで、ϕ=180\phi=180^\circ がトランス型(最安定、これを V=0V=0 の基準にとります)、ϕ=±60\phi=\pm60^\circ がゴーシュ型で、その高さは (g) の実験値から ΔE/hc=420\Delta E/hc=420 cm1^{-1} です。極小の底では設問1(c) と同様のねじれ振動をします。

極大は 3 つで、ϕ=±120\phi=\pm120^\circ(Cl と H が重なる eclipsed 配置)と ϕ=0\phi=0(Cl と Cl が重なる配置)です。トランス型からゴーシュ型へ移るには ±120\pm120^\circ の峠を越え、ゴーシュ型どうしが移り変わるには ϕ=0\phi=0 の峠を越えます。ϕ=0\phi=0 の峠のほうがはるかに高く、±120\pm120^\circ の障壁が 1300〜1600 cm1^{-1} 程度(454\sim5 kcal/mol)、ϕ=0\phi=0 の障壁は 3000 cm1^{-1} 程度(8108\sim10 kcal/mol)です。したがってグラフは、ϕ=0\phi=0 に一番高い山、±120\pm120^\circ にそれより低い 2 つの山、±60\pm60^\circ に浅い谷、180180^\circ に一番深い谷をもつ波形になります。

極大値を決める要因は 3 つです。第 1 に、エタン骨格に固有の 3 回対称のねじれ障壁(10001000 cm1^{-1} 程度)で、前後の結合が重なる配置が不利になる効果です。これは ϕ=0,±120\phi=0,\pm120^\circ の 3 か所すべてに同じように働きます。第 2 に、重なる置換基どうしの立体反発(van der Waals 反発)で、Cl は大きいので Cl···Cl が重なる ϕ=0\phi=0 でとくに大きくなります。第 3 に、2 本の C–Cl 結合双極子の静電反発で、2 つの双極子が平行になる ϕ=0\phi=0 で最大、反平行になる ϕ=180\phi=180^\circ で最小(引力的)になります。第 3 の効果は極大の高さだけでなく、気体でトランス型が安定である理由そのものでもあります。第 2・第 3 の効果が ϕ=0\phi=0 で重なるため、そこが最高点になります。

(h) ΔE/hc=420\Delta E/hc=420 cm1^{-1} =4.2×104=4.2\times10^4 m1^{-1} なので

ΔE=hc×4.2×104=6.6×1034×3×108×4.2×104=8.3×1021 J\Delta E=hc\times4.2\times10^4=6.6\times10^{-34}\times3\times10^{8}\times4.2\times10^{4}=8.3\times10^{-21}\ \mathrm{J}

T=290T=290 K で kT=1.4×1023×290=4.1×1021kT=1.4\times10^{-23}\times290=4.1\times10^{-21} J なので

ΔEkT=8.34.12.0\frac{\Delta E}{kT}=\frac{8.3}{4.1}\simeq2.0

ゴーシュ型が ±60\pm60^\circ の 2 つの等価な形をもつことを忘れずに入れると

NgNt=2eΔE/kT=2×2.72.0=27.3=0.27\frac{N_g}{N_t}=2\,e^{-\Delta E/kT}=2\times2.7^{-2.0}=\frac{2}{7.3}=0.27

したがって

トランス型=11+0.27=0.79,ゴーシュ型=0.271+0.27=0.21\text{トランス型}=\frac{1}{1+0.27}=0.79,\qquad \text{ゴーシュ型}=\frac{0.27}{1+0.27}=0.21

答えは気体状態で トランス型 : ゴーシュ型 79:21\simeq79:21(約 4 対 1)です。ΔE2kT\Delta E\simeq2kT なので Boltzmann 因子だけなら 1 : 0.14 ですが、縮退度 2 が効いて 1 : 0.27 になります。気体電子回折や赤外の実測でも室温でアンチ型が 7〜8 割で、この値と合います。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成12年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。

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