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群論入門:群の公理と、対称性を計算するための言葉

対象読者: 高校数学の集合・写像と、学部 1 年の線形代数(行列の積・逆行列)を学んだ人。群論や抽象代数の知識は仮定しません。

前提となる記事:数学の国語:集合と論理を正確に読み書きする、ベクトル空間と線形変換:8 つの公理から次元定理まで

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数や図形や行列など、素材はまったく違うのに、「何もしない操作」があり、「元に戻す操作」があり、操作を続けて行うことができる、という共通の仕組みが見つかります。群とは、この仕組みだけを取り出した考え方です。この記事では、正三角形を回したり裏返したりする操作を主な例にして、操作を続けて行うときの計算規則と、そこから導かれる基本的な性質を順に確かめます。読み終えると、群の定義を述べ、小さな群の演算表を自分で作れるようになります。

  • 群とは、集合とその上の二項演算(2 個の元から 1 個の元を作る規則。足し算や掛け算など)の組であって、結合法則・単位元の存在・逆元の存在という三つの条件(括弧の付け方によらないこと、何もしない元があること、各元を元に戻す元があること)だけを満たすものです。条件が三つしかないからこそ、整数の加法・行列の積・置換の合成・図形の対称操作が同じ言葉で扱えます。
  • この三つから、単位元と逆元の一意性、消約律(ax=ayax=ay なら x=yx=y と約分できること)、(ab)−1=b−1a−1(ab)^{-1} = b^{-1}a^{-1} が導かれます。有限群の演算表は各行・各列にすべての元がちょうど一度ずつ現れる「ラテン方陣」(各行・各列に同じ元が重ならない表)になります。
  • (Z,+)(\mathbb{Z}, +) や (R∖{0},×)(\mathbb{R}\setminus\{0\}, \times) は可換ですが、対称群 S3S_3 や一般線形群 GL(2,R)GL(2,\mathbb{R}) は可換ではありません。群論が豊かな理論になるのは、この非可換性のおかげです。
  • S3S_3 の 6 個の元は正三角形の 3 個の回転と 3 本の鏡映に一対一に対応します。演算表を最後まで書き下すと、非可換性が目で見える形になります。
  • 元 aa の位数とは an=ea^n = e となる最小の正整数 nn のことです。有限群ではすべての元が有限位数をもち、am=ea^m = e と「位数が mm を割る」ことは同値です。
  • 1 個の元で生成される群を巡回群といい、巡回群は必ずアーベル群です。逆は成り立たず、位数 4 のアーベル群には巡回群でないもの(クラインの四元群)が存在します。

1. 動機:方程式の「根の入れ替え」から抽象的な群へ

Section titled “1. 動機:方程式の「根の入れ替え」から抽象的な群へ”

2 次方程式 ax2+bx+c=0ax^2+bx+c=0 の解の公式は誰でも知っています。3 次・4 次にも(複雑ですが)解の公式があります。では 5 次は。この問いに 200 年以上かけて出た答えが「四則演算と冪根だけを使った一般解の公式は存在しない」でした。

この結論に至る決定的な発想の転換をしたのがラグランジュです。彼は 1770 年代に、方程式の根 α1,…,αn\alpha_1, \ldots, \alpha_n の有理式が、根を入れ替えたときに何個の値をとるかを調べました。たとえば α1+α2+α3\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3 はどう入れ替えても値が変わらず 1 個、α1α2+α3\alpha_1\alpha_2 + \alpha_3 は入れ替え方によって 3 個の値をとります。解の公式が作れるかどうかは、この「入れ替えに対する振る舞い」で決まる、というのがラグランジュの洞察でした。

ここで主役になっているのは、根そのものではなく根の入れ替え(置換)の全体です。置換は続けて行えばまた置換になり、逆向きの置換もあり、何もしない置換もあります。ルフィニとアーベルは 5 次方程式の代数的非可解性を示し、ガロアは 1830 年前後に、方程式に対して置換の集まり(彼はこれを groupe と呼びました)を対応させ、その集まりの構造が可解性を完全に決定することを見抜きました。詳しくは ガロア理論への招待 を参照してください。

その後ケイリーが 1854 年の論文で、置換という具体的な素材から離れ、「演算表が与えられた抽象的な集合」として群を定義しました。19 世紀末までに、現在教科書で見る公理の形に整理されます。抽象化の御利益は絶大でした。次の四つを見比べてください。

集合演算「何もしない」元「戻す」元
整数 Z\mathbb{Z}加法 ++00−a-a
00 でない実数乗法 ×\times111/a1/a
正三角形の対称操作続けて行う動かさない操作逆向きの操作
正則行列行列の積単位行列 II逆行列 A−1A^{-1}

素材はまったく違うのに、骨格が完全に一致しています。この骨格だけを取り出したものが群です。ですから「群を学ぶ」とは、この 4 行すべてに同時に通用する定理を証明することにほかなりません。この記事では公理と最初の例を固め、部分構造による分類は 部分群と剰余類、構造を保つ写像による分類は 群の準同型定理 に引き継ぎます。


集合と論理の記法は 数学の国語 - 集合と論理 の水準を仮定します。まず「演算」を写像として厳密に定義します。

定義 2.1(二項演算)↗

集合 GG 上の二項演算とは、写像

μ:G×G⟶G\mu : G \times G \longrightarrow G

のことをいいます。μ(a,b)\mu(a,b) を a⋅ba \cdot b、あるいは単に abab と書きます。

定義域が G×GG\times G で終域が GG である、と書いた時点で二つのことを要求しています。第一に、GG のどの 2 元に対しても値が定まること(部分的にしか定義されていない演算は二項演算ではありません)。第二に、その値が再び GG に属すること。この第二の条件を「GG は演算について閉じている」といいます。たとえば奇数全体は加法について閉じていません(1+1=21+1=2 は奇数でない)から、奇数全体の上に「加法」という二項演算は存在しません。

三つ以上の元を演算するには括弧が要ります。a⋅b⋅ca\cdot b\cdot c は (ab)c(ab)c とも a(bc)a(bc) とも読めますが、この二つが常に一致するとは限りません。たとえば実数の減法では (5−3)−1=1(5-3)-1 = 1、5−(3−1)=35-(3-1)=3 で一致しません。両者が常に一致することを結合法則といいます。結合法則を公理に入れるのは、単に便利だからではありません。群論の原型である「写像の合成」がこれを満たすからです。

命題 2.2(写像の合成の結合法則)✓

集合 XX から XX への写像 f,g,hf, g, h に対して、(f∘g)∘h=f∘(g∘h)(f\circ g)\circ h = f\circ (g\circ h) が成り立ちます。

証明(命題 2.2)

二つの写像が等しいとは、定義域のすべての元での値が等しいことです。任意の x∈Xx\in X をとると、合成の定義から

((f∘g)∘h)(x)=(f∘g)(h(x))=f(g(h(x)))\bigl((f\circ g)\circ h\bigr)(x) = (f\circ g)\bigl(h(x)\bigr) = f\Bigl(g\bigl(h(x)\bigr)\Bigr)

であり、また

(f∘(g∘h))(x)=f((g∘h)(x))=f(g(h(x)))\bigl(f\circ (g\circ h)\bigr)(x) = f\bigl((g\circ h)(x)\bigr) = f\Bigl(g\bigl(h(x)\bigr)\Bigr)

です。どちらも f(g(h(x)))f(g(h(x))) に等しいので、すべての xx で値が一致します。したがって二つの写像は等しくなります。

結合法則が成り立てば、a1a2⋯ana_1a_2\cdots a_n という積は括弧の付け方によらず定まります(nn に関する帰納法で示せます。証明の技術 の 完全帰納法(定理 4.3)[証明の技術] を使う典型例です)。以下ではこの事実を断りなく使い、括弧を省いて書きます。


定義 3.1(群・アーベル群)↗

集合 GG とその上の二項演算 ⋅\cdot の組 (G,⋅)(G, \cdot) が群であるとは、次の三つが成り立つことをいいます。

  • (G1) 結合法則:すべての a,b,c∈Ga, b, c \in G に対して (ab)c=a(bc)(ab)c = a(bc)。
  • (G2) 単位元の存在:ある e∈Ge \in G が存在して、すべての a∈Ga\in G に対して ea=ae=aea = ae = a。
  • (G3) 逆元の存在:(G2) の ee に対し、すべての a∈Ga\in G に対して、ある b∈Gb\in G が存在して ab=ba=eab = ba = e。

さらに

  • (G4) 可換法則:すべての a,b∈Ga,b\in G に対して ab=baab = ba

が成り立つとき、GG をアーベル群(可換群)といいます。GG が有限集合のとき GG を有限群といい、その元の個数 ∣G∣|G| を GG の位数と呼びます。

公理は三つだけです。「単位元は一意」「逆元は一意」を公理に書いていないことに注意してください。書く必要がないからです。

代数系の階層。条件を一つずつ足していくと群にたどり着く。

命題 3.2(群の基本性質)✓

(G,⋅)(G,\cdot) を群とします。このとき次が成り立ちます。

  1. 単位元は一意である。すなわち e,e′e, e' がともに (G2) を満たすなら e=e′e = e'。
  2. 各 a∈Ga\in G に対して (G3) を満たす bb は一意である。これを a−1a^{-1} と書く。
  3. (消約律)a,x,y∈Ga, x, y \in G について、ax=ayax = ay ならば x=yx = y であり、xa=yaxa = ya ならば x=yx=y。
  4. すべての a,b∈Ga, b\in G に対して (a−1)−1=a(a^{-1})^{-1} = a および (ab)−1=b−1a−1(ab)^{-1} = b^{-1}a^{-1}。
証明(命題 3.2)

(1) e,e′e, e' をともに単位元とします。e′e' が単位元であることを a=ea = e に適用すると ee′=ee e' = e。一方、ee が単位元であることを a=e′a = e' に適用すると ee′=e′e e' = e'。左辺が同じなので e=e′e = e' です。ここで使ったのは (G2) を両方の元について適用したことだけです。

(2) b,b′b, b' がともに ab=ba=eab = ba = e、ab′=b′a=eab' = b'a = e を満たすとします。すると

b=be=b(ab′)=(ba)b′=eb′=b′b = be = b(ab') = (ba)b' = eb' = b'

です。1 番目の等号は (G2)、2 番目は ab′=eab' = e、3 番目は結合法則 (G1)、4 番目は ba=eba = e、5 番目は再び (G2) を使いました。

(3) ax=ayax = ay とします。(2) により aa の逆元 a−1a^{-1} が確定しているので、両辺に左から掛けて

x=ex=(a−1a)x=a−1(ax)=a−1(ay)=(a−1a)y=ey=yx = ex = (a^{-1}a)x = a^{-1}(ax) = a^{-1}(ay) = (a^{-1}a)y = ey = y

を得ます。使ったのは (G2)、(G3)、(G1) です。xa=yaxa = ya のときは同様に右から a−1a^{-1} を掛けます。

(4) a−1a=aa−1=ea^{-1}a = a a^{-1} = e という等式は、そのまま「aa が a−1a^{-1} の逆元である」と読めます。逆元の一意性 (2) から (a−1)−1=a(a^{-1})^{-1} = a です。次に

(ab)(b−1a−1)=a(b(b−1a−1))=a((bb−1)a−1)=a(ea−1)=aa−1=e(ab)(b^{-1}a^{-1}) = a\bigl(b(b^{-1}a^{-1})\bigr) = a\bigl((bb^{-1})a^{-1}\bigr) = a(ea^{-1}) = aa^{-1} = e

であり((G1) を 2 回、(G3)、(G2) を使用)、同様に

(b−1a−1)(ab)=b−1((a−1a)b)=b−1(eb)=b−1b=e(b^{-1}a^{-1})(ab) = b^{-1}\bigl((a^{-1}a)b\bigr) = b^{-1}(eb) = b^{-1}b = e

です。よって b−1a−1b^{-1}a^{-1} は abab の逆元であり、一意性 (2) から (ab)−1=b−1a−1(ab)^{-1} = b^{-1}a^{-1} となります。

(4) の順序が入れ替わることは重要です。「靴下を履いてから靴を履く」の逆操作は「靴を脱いでから靴下を脱ぐ」であって、順序が反転します。

系 3.3(演算表はラテン方陣)✓

G={g1,…,gn}G = \{g_1, \ldots, g_n\} を有限群とし、(i,j)(i,j) 成分が gigjg_ig_j であるような n×nn\times n の表(演算表、ケイリー表)を作ります。このとき各行にも各列にも、GG のすべての元がちょうど一度ずつ現れます。

証明(系 3.3)

g∈Gg\in G を固定し、写像 λg:G→G\lambda_g : G\to G を λg(x)=gx\lambda_g(x) = gx で定めます。λg−1\lambda_{g^{-1}} との合成を計算すると、任意の xx について

λg−1(λg(x))=g−1(gx)=(g−1g)x=ex=x\lambda_{g^{-1}}\bigl(\lambda_g(x)\bigr) = g^{-1}(gx) = (g^{-1}g)x = ex = x

であり((G1)、(G3)、(G2) を使用)、同様に λg(λg−1(x))=x\lambda_g(\lambda_{g^{-1}}(x)) = x です。よって λg\lambda_g は全単射で、逆写像は λg−1\lambda_{g^{-1}} です。演算表の第 ii 行に並ぶ元は λgi(g1),…,λgi(gn)\lambda_{g_i}(g_1), \ldots, \lambda_{g_i}(g_n) ですから、全単射の像として GG の全元がちょうど一度ずつ現れます。列については ρg(x)=xg\rho_g(x) = xg に対して同じ議論をします。

この系は実用的です。群の演算表を作ったとき、同じ行に同じ元が 2 回現れたら、どこかで計算を間違えています。


4. 例のカタログ:可換な群、可換でない群

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公理だけ眺めていても群はわかりません。例と非例を並べます。

例 4.1(数の集合がつくる群と、群にならない例)

群になるもの。

  • (Z,+)(\mathbb{Z}, +)、(Q,+)(\mathbb{Q},+)、(R,+)(\mathbb{R},+)、(C,+)(\mathbb{C},+):単位元は 00、aa の逆元は −a-a。いずれもアーベル群です。
  • (Q∖{0},×)(\mathbb{Q}\setminus\{0\}, \times)、(R∖{0},×)(\mathbb{R}\setminus\{0\},\times)、(C∖{0},×)(\mathbb{C}\setminus\{0\},\times):単位元は 11、aa の逆元は 1/a1/a。00 を除いておかないと 00 の逆元がなく (G3) が破れます。アーベル群です。
  • (R>0,×)(\mathbb{R}_{>0}, \times):正の実数全体。積で閉じており、a>0a>0 なら 1/a>01/a>0 なので逆元も中に残ります。
  • 体 KK 上のベクトル空間 VV は、加法についてアーベル群です(ベクトル空間と線形変換 の ベクトル空間の定義(定義 3.1)[ベクトル空間と線形変換] のうち加法に関する部分が、そのまま (G1)〜(G4) です)。

群にならないもの。

  • (N,+)(\mathbb{N}, +)(N={1,2,…}\mathbb{N} = \{1,2,\ldots\}):単位元 00 が入っていません。00 を付け加えても、11 の逆元 −1-1 が入らないので (G3) が破れます。
  • (Z∖{0},×)(\mathbb{Z}\setminus\{0\}, \times):結合法則も単位元 11 もありますが、22 の逆元は 1/2∉Z1/2 \notin \mathbb{Z} なので存在しません。
  • (R,−)(\mathbb{R}, -)(減法):(5−3)−1=1≠3=5−(3−1)(5-3)-1 = 1 \ne 3 = 5-(3-1) なので (G1) が破れます。

次の例は、有限群の最も基本的な供給源です。同値関係と商集合の扱いは 関係と同値関係 に従います。

例の前半では、[a]+[b]=[a+b][a]+[b]=[a+b] という足し算の定義が、代表元(同じ仲間の中から選んだ 1 つ)の選び方で答えが変わらないことを最初に確かめます。これを確かめないと、同じ仲間どうしの足し算なのに答えが食い違うかもしれず、定義が意味をなさないからです。後半の乗法群では、ベズーの等式(gcd⁡(a,n)=1\gcd(a,n)=1 なら ax+ny=1ax+ny=1 となる整数 x,yx,y がある、という等式)を使います。

例 4.2(整数の合同がつくる群)

nn を正の整数とします。整数 a,ba, b が nn を法として合同であるとは n∣a−bn \mid a-b が成り立つことで、a≡b(modn)a\equiv b \pmod n と書きます。これは Z\mathbb{Z} 上の同値関係であり(法 n の合同は同値関係(命題 3.4)[関係と同値関係])、aa の同値類を [a]={a+kn:k∈Z}[a] = \{a + kn : k\in\mathbb{Z}\}、同値類全体を Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} と書きます。Z/nZ={[0],[1],…,[n−1]}\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} = \{[0],[1],\ldots,[n-1]\} で、元の個数は nn 個です。

加法の定義が意味をもつことの確認。 [a]+[b]:=[a+b][a]+[b] := [a+b] と定めたいのですが、[a][a] の代表元の取り方に答えが依存しては困ります。[a]=[a′][a]=[a'] かつ [b]=[b′][b]=[b'] とすると、n∣a−a′n \mid a-a' かつ n∣b−b′n\mid b-b' です。したがって

(a+b)−(a′+b′)=(a−a′)+(b−b′)(a+b)-(a'+b') = (a-a') + (b-b')

も nn で割り切れ、[a+b]=[a′+b′][a+b] = [a'+b'] が従います。これで加法が矛盾なく定義できました。

群であることの確認。 結合法則は ([a]+[b])+[c]=[(a+b)+c]=[a+(b+c)]=[a]+([b]+[c])([a]+[b])+[c] = [(a+b)+c] = [a+(b+c)] = [a]+([b]+[c]) で、整数の加法の結合法則に帰着します。単位元は [0][0]、[a][a] の逆元は [−a][-a] です。[a]+[b]=[a+b]=[b+a]=[b]+[a][a]+[b]=[a+b]=[b+a]=[b]+[a] なのでアーベル群です。位数 nn の有限アーベル群 (Z/nZ,+)(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}, +) が得られました。

乗法群。 乗法 [a][b]:=[ab][a][b] := [ab] も同じ議論で矛盾なく定義できます。ただし Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} 全体は乗法について群になりません([0][0] に逆元がない)。[a][a] が乗法逆元をもつのは gcd⁡(a,n)=1\gcd(a,n)=1 のとき、かつそのときに限ります。実際、gcd⁡(a,n)=1\gcd(a,n)=1 ならベズーの等式により ax+ny=1ax+ny=1 となる整数 x,yx,y があり、[a][x]=[1−ny]=[1][a][x]=[1-ny]=[1] です。逆に [a][x]=[1][a][x]=[1] なら ax−1=nyax-1 = ny と書けて、gcd⁡(a,n)\gcd(a,n) は ax−ny=1ax-ny=1 の左辺を割るので 11 です。そこで

(Z/nZ)×:={[a]:gcd⁡(a,n)=1}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times} := \{[a] : \gcd(a,n)=1\}

とおくと、これは乗法についてアーベル群になります(積で閉じることは、gcd⁡(a,n)=gcd⁡(b,n)=1\gcd(a,n)=\gcd(b,n)=1 なら gcd⁡(ab,n)=1\gcd(ab,n)=1 から従います)。たとえば n=8n=8 のとき (Z/8Z)×={[1],[3],[5],[7]}(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^\times = \{[1],[3],[5],[7]\} で位数は 4 です。

ここまではすべて可換でした。可換でない例に移ります。

例 4.3(一般線形群 GL(2,R))

22 次実正方行列で det⁡A≠0\det A \ne 0 となるもの全体を GL(2,R)GL(2,\mathbb{R}) と書き、演算を行列の積とします。

  • 閉じていること:det⁡(AB)=det⁡A⋅det⁡B\det(AB) = \det A \cdot \det B(行列式とその性質 の 積の定理(定理 6.1)[行列式とその性質])なので、det⁡A≠0\det A\ne 0 かつ det⁡B≠0\det B \ne 0 なら det⁡(AB)≠0\det(AB)\ne 0 です。
  • (G1):行列の積は線形写像の合成に対応する(行列と連立一次方程式 の 積は合成の表現行列(定理 4.2)[行列と連立一次方程式])ので、命題 2.2 から結合法則が従います。成分計算でも確認できます。
  • (G2):単位行列 II。
  • (G3):A=(pqrs)A = \begin{pmatrix} p & q \\ r & s\end{pmatrix}、det⁡A=ps−qr≠0\det A = ps-qr \ne 0 のとき A−1=1ps−qr(s−q−rp)A^{-1} = \frac{1}{ps-qr}\begin{pmatrix} s & -q \\ -r & p \end{pmatrix} が逆行列で、det⁡(A−1)=1/det⁡A≠0\det(A^{-1}) = 1/\det A \ne 0 なのでこれも GL(2,R)GL(2,\mathbb{R}) の元です。

可換でないこと。 A=(1101)A = \begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}、B=(1011)B = \begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix} とおくと(どちらも行列式は 11)、

AB=(1101)(1011)=(2111),BA=(1011)(1101)=(1112)AB = \begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}, \qquad BA = \begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}1&1\\1&2\end{pmatrix}

となり AB≠BAAB \ne BA です。したがって GL(2,R)GL(2,\mathbb{R}) はアーベル群ではありません。

なお、22 次実正方行列全体 M2(R)M_2(\mathbb{R}) は積について群になりません。零行列 OO は det⁡O=0\det O = 0 で、OX=IOX = I となる XX が存在しないからです。「正則なものだけを集める」という操作が (G3) を成立させています。

注意 4.4

可換な群だけを考えるなら、群論はかなり早く終わってしまいます(有限アーベル群は巡回群の直積に分解する、という定理でほぼ尽きます)。実際の数学に現れる対称性――方程式の根の置換、空間の回転、結晶の対称操作――はほとんど非可換です。回転と鏡映は順序を変えると結果が変わりますし、ルービックキューブの二つの操作も交換しません。非可換性は不都合な例外ではなく、群論が扱いたい本体です。


最後に、そして最も重要な例として、集合の「並べ替え」がつくる群を作ります。

定理 5.1(対称群)✓

XX を空でない集合とし、XX から XX への全単射全体の集合を Sym⁡(X)\operatorname{Sym}(X) と書きます。このとき Sym⁡(X)\operatorname{Sym}(X) は写像の合成 ∘\circ について群になります。

証明(定理 5.1)

演算が閉じていること。 f,g∈Sym⁡(X)f, g \in \operatorname{Sym}(X) とします。f∘gf\circ g が単射であることは、(f∘g)(x)=(f∘g)(y)(f\circ g)(x) = (f\circ g)(y) すなわち f(g(x))=f(g(y))f(g(x)) = f(g(y)) から、ff の単射性で g(x)=g(y)g(x)=g(y)、gg の単射性で x=yx = y と従います。全射であることは、任意の z∈Xz\in X に対し ff の全射性から f(y)=zf(y)=z なる yy が、gg の全射性から g(x)=yg(x)=y なる xx がとれて (f∘g)(x)=z(f\circ g)(x) = z となることからわかります。よって f∘g∈Sym⁡(X)f\circ g\in\operatorname{Sym}(X) です。

(G1):命題 2.2 がそのまま適用できます。

(G2):恒等写像 idX\mathrm{id}_X は全単射で、任意の ff と任意の xx について (idX∘f)(x)=f(x)(\mathrm{id}_X\circ f)(x) = f(x)、(f∘idX)(x)=f(x)(f\circ \mathrm{id}_X)(x) = f(x) なので idX∘f=f∘idX=f\mathrm{id}_X\circ f = f\circ\mathrm{id}_X = f です。

(G3):ff が全単射なら逆写像 f−1f^{-1} が存在し、これも全単射です(f−1f^{-1} の逆写像が ff だからです)。定義より f∘f−1=f−1∘f=idXf\circ f^{-1} = f^{-1}\circ f = \mathrm{id}_X です。

定義 5.2(置換と対称群)↗

X={1,2,…,n}X = \{1,2,\ldots,n\} のとき Sym⁡(X)\operatorname{Sym}(X) を nn 次対称群といい SnS_n と書きます。その元を置換と呼びます。置換 σ\sigma は

σ=(12⋯nσ(1)σ(2)⋯σ(n))\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n)\end{pmatrix}

と書くほか、i1↦i2↦⋯↦ik↦i1i_1 \mapsto i_2 \mapsto \cdots \mapsto i_k \mapsto i_1 と巡回し、他を動かさない置換を (i1 i2 ⋯ ik)(i_1\, i_2\, \cdots\, i_k) と書きます(巡回置換、長さ kk)。長さ 2 の巡回置換 (i j)(i\ j) を互換といいます。

次の定理の (1) は、SnS_n の元を「nn がどこへ送られるか」で nn 個のグループに分け、どのグループも同じ個数であることを使って数えます。同じ個数であることを言うために、nn の行き先を kk から nn にそろえる互換 (k n)(k\ n) をあとから施します。n=3n=3 なら 6 個の置換が、33 の行き先が 1,2,31,2,3 の 3 グループに 2 個ずつ分かれ、6=3×26 = 3\times 2 となります。

σ(3) = 1(2 3 1)(3 2 1)σ(3) = 2(1 3 2)(3 1 2)σ(3) = 3(1 2 3)(2 1 3)
S3 の 6 個の置換を、3 の行き先 σ(3) で分けたもの。各置換は (σ(1) σ(2) σ(3)) の順に並べて書いた。どのグループも 2 個で、3 × 2 = 6。

定理 5.3(対称群の位数と非可換性)✓

nn を正の整数とします。

  1. ∣Sn∣=n!|S_n| = n!。
  2. n≥3n \ge 3 ならば SnS_n はアーベル群ではない。
証明(定理 5.3)

(1) nn に関する帰納法で示します。n=1n=1 のとき S1S_1 は恒等写像だけからなり ∣S1∣=1=1!|S_1| = 1 = 1! です。n≥2n\ge 2 とし、∣Sn−1∣=(n−1)!|S_{n-1}| = (n-1)! を仮定します。SnS_n の元を σ(n)\sigma(n) の値で分類します。σ(n)\sigma(n) のとりうる値は 1,…,n1,\ldots,n の nn 通りです。kk を固定し、Ak={σ∈Sn:σ(n)=k}A_k = \{\sigma\in S_n : \sigma(n) = k\} とおきます。互換 τk=(k n)\tau_k = (k\ n)(k=nk=n のときは恒等写像)を用いて写像 Ak→AnA_k \to A_n、σ↦τkσ\sigma\mapsto \tau_k\sigma を作ると、(τkσ)(n)=τk(k)=n(\tau_k\sigma)(n) = \tau_k(k) = n なので確かに像は AnA_n に入ります。τkτk=id\tau_k\tau_k = \mathrm{id} なので、ρ↦τkρ\rho\mapsto\tau_k\rho がこの写像の逆写像を与え、AkA_k と AnA_n は同じ個数の元をもちます。一方 AnA_n は nn を固定する置換全体、すなわち {1,…,n−1}\{1,\ldots,n-1\} 上の全単射全体と同一視でき、帰納法の仮定から ∣An∣=(n−1)!|A_n| = (n-1)! です。A1,…,AnA_1,\ldots,A_n は互いに交わらず、その和集合は SnS_n 全体なので

∣Sn∣=∑k=1n∣Ak∣=n⋅(n−1)!=n!|S_n| = \sum_{k=1}^{n} |A_k| = n\cdot (n-1)! = n!

となります。

(2) n≥3n\ge 3 とし、σ=(1 2)\sigma = (1\ 2)、τ=(2 3)\tau = (2\ 3) を SnS_n の元と見ます(44 以上の数は動かしません)。すると

(στ)(1)=σ(τ(1))=σ(1)=2,(τσ)(1)=τ(σ(1))=τ(2)=3(\sigma\tau)(1) = \sigma(\tau(1)) = \sigma(1) = 2, \qquad (\tau\sigma)(1) = \tau(\sigma(1)) = \tau(2) = 3

です。11 での値が異なるので στ≠τσ\sigma\tau \ne \tau\sigma であり、(G4) は成り立ちません。

n=3n=3 の場合を完全に書き下します。定理 5.3 より ∣S3∣=3!=6|S_3| = 3! = 6 です。次のように名前を付けます。

e=id,r=(1 2 3),r2=(1 3 2),a=(2 3),b=(1 3),c=(1 2)e = \mathrm{id},\quad r = (1\,2\,3),\quad r^2 = (1\,3\,2),\quad a = (2\,3),\quad b = (1\,3),\quad c = (1\,2)

r2r^2 が (1 3 2)(1\,3\,2) であることは確認しておきます。rr は 1↦2↦3↦11\mapsto 2\mapsto 3\mapsto 1 なので、r2(1)=r(r(1))=r(2)=3r^2(1) = r(r(1)) = r(2) = 3、r2(3)=r(r(3))=r(1)=2r^2(3) = r(r(3)) = r(1) = 2、r2(2)=r(3)=1r^2(2) = r(3) = 1。つまり 1↦3↦2↦11\mapsto 3\mapsto 2\mapsto 1 で、これは (1 3 2)(1\,3\,2) です。同様に r3=er^3 = e が確かめられます。

合成は右の文字から先に施すので、下の計算では「先に施すもの」を矢印の左側に並べます。式を読む順番とは逆向きになるので、式と矢印の対応を一行ずつ確かめながら読んでください。

代表として rara を計算します。まず a=(2 3)a=(2\,3) を施し、次に rr を施します。

1↦ a 1↦ r 2,2↦ a 3↦ r 1,3↦ a 2↦ r 3.\begin{aligned} 1 &\xmapsto{\ a\ } 1 \xmapsto{\ r\ } 2, \\ 2 &\xmapsto{\ a\ } 3 \xmapsto{\ r\ } 1, \\ 3 &\xmapsto{\ a\ } 2 \xmapsto{\ r\ } 3. \end{aligned}

よって rara は 1↦21\mapsto 2、2↦12\mapsto 1、3↦33\mapsto 3、すなわち ra=(1 2)=cra = (1\,2) = c です。同じ要領で arar を計算すると、1↦r2↦a31\xmapsto{r}2\xmapsto{a}3、2↦r3↦a22\xmapsto{r}3\xmapsto{a}2、3↦r1↦a13\xmapsto{r}1\xmapsto{a}1 なので ar=(1 3)=bar = (1\,3) = b となります。ra=cra = c と ar=bar = b は異なるので、S3S_3 は可換ではありません。

例 5.4(3 次対称群の演算表)

すべての積を同じ手順で計算すると、次の表を得ます。(i,j)(i,j) 成分は「行の元 ⋅\cdot 列の元」(行の元をあとから施す)です。

⋅\cdoteerrr2r^2aabbcc
eeeerrr2r^2aabbcc
rrrrr2r^2eeccaabb
r2r^2r2r^2eerrbbccaa
aaaabbcceerrr2r^2
bbbbccaar2r^2eerr
ccccaabbrrr2r^2ee

検算。 系 3.3 の主張どおり、どの行にも、どの列にも e,r,r2,a,b,ce, r, r^2, a, b, c がちょうど一度ずつ現れています。たとえば第 bb 行は b,c,a,r2,e,rb, c, a, r^2, e, r で 6 元すべてが並び、第 aa 列は a,c,b,e,r2,ra, c, b, e, r^2, r でやはり 6 元すべてです。

非可換性の確認。 表は対角線に関して対称ではありません。(r,a)(r,a) 成分は cc、(a,r)(a,r) 成分は bb です。一般に {r,r2}\{r,r^2\} の元と {a,b,c}\{a,b,c\} の元は交換しません(単位元 ee はもちろんすべての元と交換します)。

部分的な可換性。 一方、左上の 3×33\times 3 の部分(e,r,r2e, r, r^2 どうしの積)は対称です。この 3 元は {e,r,r2}\{e, r, r^2\} の中で閉じており、それ自身が位数 3 の可換な群をなします。これが「部分群」の最初の例で、部分群と剰余類 で本格的に扱います。

5.2. 正三角形の対称性としての読み替え

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S3S_3 には幾何的な意味があります。正三角形の頂点に 1,2,31,2,3 と番号を振り、三角形を三角形に重ねる合同変換(対称操作)を考えます。対称操作は頂点集合の並べ替えを引き起こすので、S3S_3 の元が対応します。逆に、6 個の並べ替えはすべて実際の対称操作から来ています。

123r(2 3)(1 3)(1 2)
正三角形の対称性。3 本の破線はそれぞれ頂点 1、2、3 を通る鏡映軸で、互換 (2 3)、(1 3)、(1 2) に対応する。中央の矢印は 120 度回転 r = (1 2 3)。

対応は次のとおりです。

S3S_3 の元巡回置換幾何的な操作
ee—動かさない
rr(1 2 3)(1\,2\,3)中心のまわりに 120∘120^\circ 回転
r2r^2(1 3 2)(1\,3\,2)中心のまわりに 240∘240^\circ 回転
aa(2 3)(2\,3)頂点 1 を通る軸に関する鏡映
bb(1 3)(1\,3)頂点 2 を通る軸に関する鏡映
cc(1 2)(1\,2)頂点 3 を通る軸に関する鏡映

ra=cra = c という等式は、「頂点 1 の軸で裏返してから 120∘120^\circ 回す」と「頂点 3 の軸で裏返す」が同じ操作である、という幾何的事実を述べています。ar=bar = b は順序を変えると別の鏡映になることを示しています。抽象的な演算表と、手元で三角形を動かした結果が一致することを確かめてみてください。この群は正三角形の二面体群 D3D_3 とも呼ばれます。


群の元 aa を「何度も掛ける」ことを考えます。まず冪を定義します。a0:=ea^0 := e、n≥1n \ge 1 に対して an:=an−1aa^{n} := a^{n-1}a、そして a−n:=(a−1)na^{-n} := (a^{-1})^{n} と定めます。この定義のもとで、すべての整数 m,nm, n について

am+n=aman,(am)n=amna^{m+n} = a^m a^n, \qquad (a^m)^n = a^{mn}

が成り立ちます(m,n≥0m,n\ge 0 の場合は nn に関する帰納法、負の指数の場合は 命題 3.2 の (4) を使って場合分けします)。以下ではこれらを自由に使います。

定義 6.1(元の位数)↗

群 GG の元 aa に対し、an=ea^n = e を満たす正の整数 nn が存在するとき、そのような nn の最小値を aa の位数といい ord⁡(a)\operatorname{ord}(a) と書きます。そのような nn が存在しないとき、aa の位数は無限であるといい ord⁡(a)=∞\operatorname{ord}(a) = \infty と書きます。

ord⁡(a)=1\operatorname{ord}(a) = 1 となるのは a=ea = e のときだけです(a1=a=ea^1 = a = e だから)。位数 2 の元とは a≠ea \ne e かつ a2=ea^2 = e、すなわち a−1=aa^{-1} = a を満たす元のことです。S3S_3 の鏡映 a,b,ca, b, c がこれにあたります。

次の命題の証明の方針は、aa の冪 a,a2,a3,…a, a^2, a^3,\ldots を並べていくと、元の個数が有限なのでいつかは同じ元が 2 回現れる(N+1N+1 個のものを NN 個の箱に入れると、同じ箱に 2 個入るものがある、という鳩の巣原理)、というものです。同じ元が現れたところから、an=ea^n = e となる nn が見つかります。

命題 6.2(有限群の元は有限位数)✓

GG を有限群、a∈Ga\in G とします。このとき ord⁡(a)\operatorname{ord}(a) は有限であり、ord⁡(a)≤∣G∣\operatorname{ord}(a)\le |G| が成り立ちます。

証明(命題 6.2)

∣G∣=N|G| = N とおき、N+1N+1 個の元 a0,a1,a2,…,aNa^0, a^1, a^2, \ldots, a^{N} を考えます。これらはすべて GG の元ですが、GG の元は NN 個しかありません。鳩の巣原理により、0≤i<j≤N0\le i < j \le N となる添字で ai=aja^i = a^j となるものが存在します。両辺に (ai)−1=a−i(a^{i})^{-1} = a^{-i} を左から掛けると、指数法則から

e=a−iai=a−iaj=aj−ie = a^{-i}a^{i} = a^{-i}a^{j} = a^{j-i}

です(消約律 命題 3.2 の (3) を使ったと見ることもできます)。ここで 1≤j−i≤N1 \le j-i \le N ですから、an=ea^n = e となる正の整数が実際に存在し、その最小値 ord⁡(a)\operatorname{ord}(a) は j−i≤N=∣G∣j-i \le N = |G| 以下です。

定理 6.3(位数による冪の判定)✓

GG を群、a∈Ga\in G とし、ord⁡(a)=n\operatorname{ord}(a) = n が有限であるとします。このとき、整数 mm について

am=e  ⟺  n∣ma^m = e \iff n \mid m

が成り立ちます。

証明(定理 6.3)

(⇐\Leftarrow) n∣mn\mid m とすると m=nqm = nq となる整数 qq があり、指数法則から am=(an)q=eq=ea^m = (a^n)^q = e^q = e です(eq=ee^q = e は q≥0q\ge 0 なら帰納法で、q<0q<0 なら e−1=ee^{-1}=e から従います)。

(⇒\Rightarrow) am=ea^m = e とします。整数の除法定理により、m=qn+sm = qn + s、0≤s<n0\le s < n となる整数 q,sq, s が一意に存在します。すると

e=am=aqn+s=(an)qas=eqas=ase = a^m = a^{qn+s} = (a^n)^q a^s = e^q a^s = a^s

です。もし s>0s > 0 なら、as=ea^s = e かつ 0<s<n0 < s < n となり、n=ord⁡(a)n = \operatorname{ord}(a) が「ak=ea^k = e となる最小の正整数」であることに矛盾します。よって s=0s = 0、すなわち m=qnm = qn で n∣mn\mid m です。

この定理は「a100=ea^{100} = e かどうか」を「位数が 100100 を割るかどうか」という整数の問題に置き換えます。位数 6 の群では、あとで学ぶラグランジュの定理の系(元の位数は群の位数を割る(系 7.1)[部分群と剰余類])により元の位数は 1,2,3,61,2,3,6 のいずれかに限られ、計算が一気に楽になります。

定義 6.4(生成される部分群と巡回群)↗

群 GG の元 aa に対し

⟨a⟩:={ak:k∈Z}\langle a\rangle := \{a^k : k \in \mathbb{Z}\}

とおき、aa が生成する集合と呼びます。これは GG の演算について閉じており(aiaj=ai+ja^ia^j = a^{i+j})、e=a0e = a^0 を含み、aka^k の逆元 a−ka^{-k} を含むので、それ自身が群になります。ある元 aa について G=⟨a⟩G = \langle a\rangle となるとき、GG を巡回群といい、aa をその生成元といいます。

命題 6.5(巡回群の構造)✓

GG を群、a∈Ga\in G とします。

  1. ord⁡(a)=n\operatorname{ord}(a) = n が有限ならば ⟨a⟩={e,a,a2,…,an−1}\langle a\rangle = \{e, a, a^2, \ldots, a^{n-1}\} であり、これら nn 個の元は互いに異なる。とくに ∣⟨a⟩∣=ord⁡(a)|\langle a\rangle| = \operatorname{ord}(a)。
  2. ord⁡(a)=∞\operatorname{ord}(a) = \infty ならば、i≠ji \ne j なる整数に対して ai≠aja^i \ne a^j であり、⟨a⟩\langle a\rangle は無限集合である。
  3. 巡回群はアーベル群である。
証明(命題 6.5)

(1) 任意の整数 kk に対し、除法定理から k=qn+sk = qn+s、0≤s<n0\le s<n と書けます。すると 定理 6.3 の証明と同じ計算で ak=(an)qas=asa^k = (a^n)^qa^s = a^s です。したがって ⟨a⟩⊆{e,a,…,an−1}\langle a\rangle \subseteq \{e,a,\ldots,a^{n-1}\} です。逆の包含は、各 s=0,1,…,n−1s = 0,1,\ldots,n-1 に対して asa^s が定義の k=sk = s の場合そのものであることから従います。よって等号が成り立ちます。次に 0≤i<j≤n−10\le i<j\le n-1 で ai=aja^i = a^j と仮定すると、aj−i=ea^{j-i} = e かつ 0<j−i≤n−1<n0 < j-i \le n-1 < n となり、nn の最小性に矛盾します。よって nn 個の元は相異なります。

(2) i<ji<j で ai=aja^i = a^j となったとすると、aj−i=ea^{j-i} = e かつ j−i>0j-i>0 なので aa は有限位数をもち、仮定に反します。よってすべての冪は相異なり、⟨a⟩\langle a\rangle は Z\mathbb{Z} と同じ濃度の無限集合です。

(3) G=⟨a⟩G = \langle a\rangle とします。任意の 2 元は ai,aja^i, a^j と書けて、指数法則と整数の加法の可換性から

aiaj=ai+j=aj+i=ajaia^ia^j = a^{i+j} = a^{j+i} = a^ja^i

です。よって (G4) が成り立ちます。

次の例の後半の Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} では、位数が 12/gcd⁡(k,12)12/\gcd(k,12) になる理由を、割り算の同値変形を重ねて示します。要点は、1212 と kk の共通因子 dd をくくり出すと、mm に残る条件が「12/d12/d の倍数であること」だけになる、という点です。

対偶をとると、非可換な群は巡回群ではないとわかります。定理 5.3 より S3S_3 は非可換ですから、S3S_3 は巡回群ではありません。実際、S3S_3 のどの元をとっても、その冪だけで 6 元全部を作ることはできません。次の例で確認します。

例 6.6(位数の計算)

S3S_3 の場合。 例 5.4 の表を使って各元の位数を求めます。

  • ee:e1=ee^1 = e なので ord⁡(e)=1\operatorname{ord}(e) = 1。
  • rr:r2≠er^2 \ne e であり、r3=r2⋅rr^3 = r^2\cdot r で表の (r2,r)(r^2, r) 成分は ee です。よって ord⁡(r)=3\operatorname{ord}(r) = 3。同様に ord⁡(r2)=3\operatorname{ord}(r^2) = 3((r2)2=r(r^2)^2 = r、(r2)3=e(r^2)^3 = e)。
  • aa:表の (a,a)(a,a) 成分は ee なので a2=ea^2 = e、a≠ea\ne e より ord⁡(a)=2\operatorname{ord}(a) = 2。b,cb, c も同様に位数 2。

したがって位数は 1,3,3,2,2,21,3,3,2,2,2 です。最大でも 3 で、∣S3∣=6|S_3| = 6 に届きません。命題 6.5 の (1) より ∣⟨x⟩∣=ord⁡(x)≤3<6|\langle x\rangle| = \operatorname{ord}(x) \le 3 < 6 なので、どの xx をとっても ⟨x⟩≠S3\langle x\rangle \ne S_3、すなわち S3S_3 は巡回群ではありません。なお ⟨r⟩={e,r,r2}\langle r\rangle = \{e,r,r^2\}、⟨a⟩={e,a}\langle a\rangle = \{e,a\} です。

Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の場合。 加法群なので冪は m[k]=[mk]m[k] = [mk] と書きます。d=gcd⁡(k,12)d = \gcd(k,12) とおくと

ord⁡([k])=12d\operatorname{ord}([k]) = \frac{12}{d}

です。理由を書きます。m[k]=[0]m[k] = [0] は 12∣mk12 \mid mk と同値です。12=d⋅(12/d)12 = d\cdot(12/d)、k=d⋅(k/d)k = d\cdot(k/d) と書けるので、12∣mk12\mid mk は (12/d)∣m(k/d)(12/d) \mid m(k/d) と同値です。ここで gcd⁡(12/d,k/d)=1\gcd(12/d, k/d) = 1 ですから、これは (12/d)∣m(12/d)\mid m と同値になります。その最小の正整数 mm は 12/d12/d です。実際に計算すると次の表になります。

kk01234567891011
gcd⁡(k,12)\gcd(k,12)1212341614321
ord⁡([k])\operatorname{ord}([k])1126431221234612

位数 12 の元は [1],[5],[7],[11][1],[5],[7],[11] の 4 個で、これらが生成元です。たとえば ⟨[5]⟩\langle [5]\rangle は [5],[10],[3],[8],[1],[6],[11],[4],[9],[2],[7],[0][5],[10],[3],[8],[1],[6],[11],[4],[9],[2],[7],[0] と 12 個すべてを巡り、Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} 全体に一致します。生成元は 1212 と互いに素な kk に対応し、その個数はオイラー関数 φ(12)=4\varphi(12) = 4 です。

Z/12Z\mathbb{Z}/12\mathbb{Z} の元が 12 個の点をどう巡るかを動画で見ます。[5][5] は 12 手かけて全部の点を通り、[4][4] は 3 手で [0][0] に戻ってしまいます。

円周上の 12 点 0 から 11 を、k ずつ進む矢印でたどる動画。k = 5 では 12 手で全点を通って 0 に戻り、k = 2 では 6 手、k = 3 では 4 手、k = 4 では 3 手、k = 6 では 2 手で 0 に戻る。
12 個の点を円周に並べ、 ずつ進む。 の順に、 に戻るまでの手数(位数 )が変わる。

例 6.7(位数 4 の群:巡回群とクラインの四元群)

位数が同じでも群としては違う、という現象の最小の例を見ます。

Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}。 例 6.6 と同じ計算により、ord⁡([1])=4\operatorname{ord}([1]) = 4 です。よって ⟨[1]⟩\langle [1]\rangle は 4 個の元をもち、Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} 全体に一致します。これは巡回群です。

(Z/8Z)×={[1],[3],[5],[7]}(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^\times = \{[1],[3],[5],[7]\}。 例 4.2 で見たとおり、これは位数 4 の群です。各元の 2 乗を計算します。

32=9=8+1,52=25=3⋅8+1,72=49=6⋅8+13^2 = 9 = 8+1,\qquad 5^2 = 25 = 3\cdot 8 + 1, \qquad 7^2 = 49 = 6\cdot 8+1

なので、[3]2=[5]2=[7]2=[1][3]^2 = [5]^2 = [7]^2 = [1] です。つまり単位元以外の 3 元はすべて位数 2 で、位数 4 の元が存在しません。命題 6.5 の (1) により ∣⟨x⟩∣=ord⁡(x)≤2<4|\langle x\rangle| = \operatorname{ord}(x)\le 2 < 4 なので、この群は巡回群ではありません。この群をクラインの四元群といいます。演算表は次のとおりです。

⋅\cdot[1][1][3][3][5][5][7][7]
[1][1][1][1][3][3][5][5][7][7]
[3][3][3][3][1][1][7][7][5][5]
[5][5][5][5][7][7][1][1][3][3]
[7][7][7][7][5][5][3][3][1][1]

(たとえば 3⋅5=15=8+73\cdot 5 = 15 = 8+7 なので [3][5]=[7][3][5] = [7] です。表は対角線対称で、アーベル群であることが読み取れます。)

位数 4 のアーベル群が 2 種類あることになります。「2 種類ある」と言い切るには、Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} とクラインの四元群が本質的に違うことを定式化しなければなりません。それが同型の概念(同型写像と同型(定義 3.2)[群の準同型定理])で、群の準同型定理 の主題です。ここでは「位数 4 の元があるかないか」という、名前の付け替えでは変わらない性質が両者を区別している、と理解しておいてください。

注意 6.8

ここまでで、群の公理・基本性質・代表的な例・位数と巡回群がそろいました。次の段階では、群の中に含まれる小さな群(部分群)で全体を割る操作を学びます。部分群と剰余類 では「部分群の位数は全体の位数を割る」というラグランジュの定理を証明し、正規部分群と商群 では剰余類の集合自身に群構造を入れます(商群(定理 5.1)[正規部分群と商群])。さらに、演算を一つでなく二つ(加法と乗法)もつ対象を扱うと 環と体の基礎 に進みます。Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} が加法群としても乗法をもつ対象としても現れたのは、その予告です。


演習 7.1易

群 GG のすべての元 xx が x2=ex^2 = e を満たすとします。このとき GG はアーベル群であることを示してください。

解答

まず、任意の x∈Gx\in G について x2=ex^2 = e は xx=exx = e と書けるので、逆元の定義から x−1=xx^{-1} = x です(逆元の一意性 命題 3.2 の (2) により、xx 以外に逆元はありません)。

任意の a,b∈Ga,b\in G をとります。ab∈Gab\in G にもこの性質が適用できるので (ab)−1=ab(ab)^{-1} = ab です。一方 命題 3.2 の (4) から (ab)−1=b−1a−1(ab)^{-1} = b^{-1}a^{-1} であり、いま示したことから b−1=bb^{-1} = b、a−1=aa^{-1} = a です。よって

ab=(ab)−1=b−1a−1=baab = (ab)^{-1} = b^{-1}a^{-1} = ba

となり、(G4) が成り立ちます。したがって GG はアーベル群です。

(クラインの四元群 例 6.7 はこの条件を満たす例です。逆に Z/4Z\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} では [1]+[1]=[2]≠[0][1]+[1] = [2]\ne [0] なので条件を満たしません。)

演習 7.2標準

例 5.4 の演算表を使って、S3S_3 のすべての元 xx について xax−1xax^{-1} を計算してください(a=(2 3)a = (2\,3))。結果から何が言えますか。

解答

まず各元の逆元を表から読み取ります。e−1=ee^{-1}=e、r−1=r2r^{-1} = r^2(rr2=err^2 = e)、(r2)−1=r(r^2)^{-1} = r、a−1=aa^{-1}=a、b−1=bb^{-1}=b、c−1=cc^{-1}=c です。

  • x=ex = e:eae−1=aeae^{-1} = a。
  • x=rx = r:rar−1=(ra)r2rar^{-1} = (ra)r^2。表より ra=cra = c、続いて (c,r2)(c, r^2) 成分は bb なので、rar−1=brar^{-1} = b。
  • x=r2x = r^2:(r2)−1=r(r^2)^{-1} = r なので r2a(r2)−1=(r2a)rr^2a(r^2)^{-1} = (r^2a)r。表より r2a=br^2a = b、(b,r)(b,r) 成分は cc なので、r2a(r2)−1=cr^2a(r^2)^{-1} = c。
  • x=ax = a:aaa−1=aaaa^{-1} = a(aa=eaa = e より ea=aea = a)。
  • x=bx = b:bab−1=(ba)bbab^{-1} = (ba)b。表より ba=r2ba = r^2、(r2,b)(r^2, b) 成分は cc なので、bab−1=cbab^{-1} = c。
  • x=cx = c:cac−1=(ca)ccac^{-1} = (ca)c。表より ca=rca = r、(r,c)(r,c) 成分は bb なので、cac−1=bcac^{-1} = b。

結果は a,b,ca, b, c のいずれかで、{a,b,c}\{a,b,c\} の外には出ません。すなわち鏡映全体の集合 {a,b,c}\{a,b,c\} は「g↦xgx−1g \mapsto xgx^{-1}」という操作(共役)で閉じています。aa の位数は 2 でしたが、得られた b,cb, c の位数も 2 です。これは偶然ではなく、xax−1x a x^{-1} の kk 乗が (xax−1)k=xakx−1(xax^{-1})^k = xa^kx^{-1} となるため、共役は位数を保つからです。共役という操作は 正規部分群と商群 で中心的な役割を果たします。

演習 7.3標準

GL(2,R)GL(2,\mathbb{R}) の元

A=(0−110),B=(1101)A = \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix}, \qquad B = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}

について、ord⁡(A)\operatorname{ord}(A) と ord⁡(B)\operatorname{ord}(B) を求めてください。

解答

どちらも行列式が 11 なので GL(2,R)GL(2,\mathbb{R}) の元です。

AA について。 順に計算します。

A2=(0−110)(0−110)=(−100−1)=−IA^2 = \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & -1\end{pmatrix} = -I

です。よって A3=A2A=−A≠IA^3 = A^2A = -A \ne I、A4=(A2)2=(−I)2=IA^4 = (A^2)^2 = (-I)^2 = I です。A≠IA\ne I、A2=−I≠IA^2 = -I \ne I、A3=−A≠IA^3 = -A\ne I、A4=IA^4 = I なので ord⁡(A)=4\operatorname{ord}(A) = 4 です。(AA は原点まわりの 90∘90^\circ 回転を表す行列で、4 回まわすと元に戻る、という幾何的な意味と一致します。)

BB について。 すべての正の整数 nn について

Bn=(1n01)B^n = \begin{pmatrix} 1 & n \\ 0 & 1\end{pmatrix}

を nn に関する帰納法で示します。n=1n=1 は定義そのものです。BnB^n が上の形と仮定すると

Bn+1=BnB=(1n01)(1101)=(1n+101)B^{n+1} = B^nB = \begin{pmatrix}1 & n\\ 0 & 1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}1 & n+1 \\ 0 & 1\end{pmatrix}

となり、主張が従います。したがって n≥1n\ge 1 では (1,2)(1,2) 成分が n≠0n \ne 0 なので Bn≠IB^n \ne I です。よって ord⁡(B)=∞\operatorname{ord}(B) = \infty です。

この演習は、命題 6.2 の「有限群」という仮定が落とせないことを示しています。無限群 GL(2,R)GL(2,\mathbb{R}) の中には、有限位数の元と無限位数の元が同居しています。

次の演習の解答では、要素が有限個の集合では、自分自身への写像が単射なら全射にもなる、という性質を使います(NN 個の元が互いに異なる NN 個の元に送られるなら、すべての元が像になるからです)。

演習 7.4難

GG を空でない有限集合とし、GG 上に結合法則を満たす二項演算が与えられていて、さらに両側の消約律

ax=ay⇒x=y,xa=ya⇒x=y(a,x,y∈G)ax = ay \Rightarrow x = y, \qquad xa = ya \Rightarrow x = y \qquad (a,x,y\in G)

が成り立つとします。このとき GG は群であることを示してください。また、GG が無限集合ならこの主張が成り立たないことを、反例で示してください。

解答

単位元の存在。 a∈Ga\in G を一つ固定します。写像 λa:G→G\lambda_a : G\to G、λa(x)=ax\lambda_a(x) = ax は、左消約律よりただちに単射です。GG は有限集合で λa\lambda_a は GG から GG への写像ですから、単射なら全射でもあります。同様に ρa(x)=xa\rho_a(x) = xa も全単射です。

λa\lambda_a が全射なので、ae=aae = a となる e∈Ge\in G がとれます。この ee が右単位元であることを示します。任意の b∈Gb\in G に対し、ρa\rho_a が全射なので b=yab = ya となる y∈Gy\in G があります。すると結合法則から

be=(ya)e=y(ae)=ya=bbe = (ya)e = y(ae) = ya = b

です。よって ee はすべての元に対する右単位元です。同じ議論を ρa\rho_a の全射性から出発して行うと、e′a=ae'a = a なる e′e' がとれ、λa\lambda_a の全射性を使って e′b=be'b = b がすべての bb で成り立つとわかります。そこで b=eb = e とすると e′e=ee'e = e、一方 ee が右単位元であることを e′e' に適用すると e′e=e′e'e = e' です。よって e=e′e = e' となり、ee は両側単位元です。

逆元の存在。 a∈Ga\in G をとります。λa\lambda_a が全射なので ab=eab = e となる bb が、ρa\rho_a が全射なので ca=eca = e となる cc が存在します。すると

c=ce=c(ab)=(ca)b=eb=bc = ce = c(ab) = (ca)b = eb = b

です(1 番目は ee が右単位元、2 番目は ab=eab=e、3 番目は結合法則、4 番目は ca=eca=e、5 番目は ee が左単位元)。よって b=cb = c は aa の両側逆元です。結合法則は仮定にあるので、(G1)(G2)(G3) がそろい GG は群です。

無限の場合の反例。 N={1,2,3,…}\mathbb{N} = \{1,2,3,\ldots\} に加法を入れます。結合法則は成り立ち、a+x=a+ya+x = a+y からも x+a=y+ax+a = y+a からも x=yx=y が従うので両側消約律も成り立ちます。しかし n+e=nn + e = n となる e∈Ne\in\mathbb{N} は e=0e=0 しかなく、0∉N0\notin\mathbb{N} なので単位元が存在せず、N\mathbb{N} は群ではありません。証明のどこで有限性を使ったかを振り返ると、「単射なら全射」という一点だけです。無限集合ではこの推論が使えません(x↦x+1x\mapsto x+1 は N\mathbb{N} 上で単射ですが全射ではありません)。


  • 松坂和夫『代数系入門』岩波書店、1976 — 第 2 章「群」。群の公理から準同型定理までを、例を丁寧に添えて進める定番の入門書です。
  • 雪江明彦『代数学 1 群論入門』日本評論社、2010 — 第 1 章・第 2 章。対称群と具体的な有限群の計算が豊富です。
  • 桂利行『代数学 I 群と環』東京大学出版会、2004 — 第 1 章。簡潔で、線形代数との接続が明快です。
  • Michael Artin, Algebra, 2nd ed., Pearson, 2011 — Chapter 2 “Groups”。行列群と対称性を軸に群論を組み立てる構成で、GL(n,R)GL(n,\mathbb{R}) の扱いが充実しています。
  • Joseph J. Rotman, An Introduction to the Theory of Groups, 4th ed., Springer (GTM 148), 1995 — Chapter 1–2。置換群の詳細な取り扱いがあります。
  • Arthur Cayley, “On the theory of groups, as depending on the symbolic equation θn=1\theta^n = 1”, Philosophical Magazine (4th series) 7 (1854) — 抽象群の定義と演算表が初めて現れた原論文です。

Appendix: 群の公理はどこまで弱められるか

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片側だけの公理で十分か。 定義 3.1 では単位元にも逆元にも「両側」を要求しました。実はこれは冗長で、片側だけを仮定しても、それが左どうし(あるいは右どうし)でそろっていれば群になります。

命題 7.5(左単位元と左逆元だけで十分)✓

空でない集合 GG 上の二項演算が結合法則 (G1) を満たし、さらに

  • (G2’) ある e∈Ge\in G が存在して、すべての a∈Ga\in G に対し ea=aea = a(左単位元)
  • (G3’) 各 a∈Ga\in G に対し、ある a′∈Ga'\in G が存在して a′a=ea'a = e(左逆元)

を満たすとします。このとき (G,⋅)(G,\cdot) は群です。

証明の方針は、左逆元の左逆元 a′′a'' を持ち出して、まず aa′=eaa'=e(右逆元でもあること)を示し、次にそれを使って ae=aae=a(右単位元でもあること)を示す、という二段階です。

証明(命題 7.5)

a∈Ga\in G をとり、(G3’) により a′a=ea'a = e なる a′a' を、さらに a′a' に対して (G3’) を適用して a′′a′=ea''a' = e なる a′′a'' をとります。

まず aa′=eaa' = e を示します。

aa′=e(aa′)=(a′′a′)(aa′)=a′′((a′a)a′)=a′′(ea′)=a′′a′=eaa' = e(aa') = (a''a')(aa') = a''\bigl((a'a)a'\bigr) = a''(ea') = a''a' = e

です。1 番目の等号は (G2’)、2 番目は a′′a′=ea''a'=e、3 番目は結合法則 (G1) による括弧の付け替え、4 番目は a′a=ea'a = e、5 番目は (G2’)、6 番目は a′′a′=ea''a'=e です。これで a′a' は aa の右逆元でもあるとわかりました。

次に ae=aae = a を示します。いま示した aa′=eaa' = e と (G3’) の a′a=ea'a=e を使って

ae=a(a′a)=(aa′)a=ea=aae = a(a'a) = (aa')a = ea = a

です((G1) と (G2’) を使用)。よって ee は右単位元でもあります。以上で (G2)(G3) がそろい、GG は群です。

左右を混ぜてはいけません。 「左単位元 + 右逆元」に弱めると主張は崩れます。∣G∣≥2|G|\ge 2 の集合 GG に演算 x⋅y:=yx\cdot y := y(右側を返す)を入れてみます。結合法則は (xy)z=z(xy)z = z、x(yz)=zx(yz) = z で成立します。任意の u∈Gu\in G が左単位元です(u⋅x=xu\cdot x = x)。e∈Ge\in G を一つ固定すると、任意の aa に対し a⋅e=ea\cdot e = e なので、ee を左単位元と見れば各元は右逆元 ee をもちます。しかしこの GG は群ではありません。もし群なら消約律 命題 3.2 の (3) が成り立つはずですが、x≠yx \ne y なる 2 元をとると x⋅e=e=y⋅ex\cdot e = e = y\cdot e なのに x≠yx \ne y で、右消約律が破れています。公理を弱めるときは、単位元と逆元の「側」をそろえる必要があります。

なぜ教科書は両側で書くのか。 命題 7.5 があるにもかかわらず両側の形で定義するのは、具体的な群を扱うときに両側の等式をそのまま使いたいからです。定義を弱くすると、検証すべき項目は減りますが、使うときに毎回この命題を経由することになります。逆に、ある集合が群であることを証明する場面では、命題 7.5 によって手間が半分になります。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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