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自由電子気体:Drude 模型から Sommerfeld 理論、状態密度と電子比熱へ

対象読者: 本テーマ第 1 章(逆格子・周期境界条件での波数の数え方)と、量子統計(フェルミ分布・パウリの排他律)を学んだ人。固体物理の電子論は初めてで構いません。

前提となる記事:結晶構造と格子振動:逆格子・X 線回折・フォノンと固体の比熱、量子統計:不可弁別性から生まれるボース統計とフェルミ統計

生 Markdown

銅線に電流が流れ、銅の鍋が熱をよく通すのは、金属の中を自由に動き回れる電子がいるからです。この記事は、その電子を「金属の中を飛び回る粒の気体」とみなすと、電気の通りやすさや熱の通りやすさがどこまで説明できるのか、そしてどこで食い違うのかをたどります。読み終えると、金属の電気抵抗や比熱の大きさを、電子の数密度などから自分で見積もれるようになります。

  • Drude 模型は、金属の電子を「ときどき衝突する古典粒子の気体」とみなします。運動方程式 p˙=−p/τ+F\dot{\boldsymbol{p}}=-\boldsymbol{p}/\tau+\boldsymbol{F} だけから、Ohm の法則 σ=ne2τ/m\sigma=ne^2\tau/m、Hall 係数 RH=−1/(ne)R_H=-1/(ne)(磁場をかけたとき電流に垂直な向きに生じる電場の強さの係数)、交流応答とプラズマ周波数(金属が光を反射するか通すかの境目の振動数)が得られます。
  • 一方で Drude 模型は、電子比熱を古典値 32kB\tfrac32k_B と見積もるため、実測の約 100 分の 1 という小ささを説明できません。
  • 量子論の答えは、電子がフェルミ粒子であることです。周期境界条件のもとでは許される波数が kk 空間の格子点をなし、パウリの排他律によりフェルミ球の内側が埋まります。状態密度は D(ε)∝εD(\varepsilon)\propto\sqrt\varepsilon(3 次元)です。
  • 温度を上げても動けるのは εF\varepsilon_F の周り幅 kBTk_BT の電子だけなので、比熱は C=γTC=\gamma T と温度に比例し、γ=π23kB2D(εF)\gamma=\frac{\pi^2}{3}k_B^2D(\varepsilon_F) です。この関係は状態密度が自由電子的でなくても一般に成り立ちます。
  • Wiedemann–Franz 則(熱伝導率と電気伝導度の比 κ/σT\kappa/\sigma T が物質によらない)は、Drude 模型の誤差が偶然打ち消し合った値を与えていました。Sommerfeld の扱いで正しい値 π23(kB/e)2=2.44×10−8 W Ω K−2\frac{\pi^2}3(k_B/e)^2=2.44\times10^{-8}\ \mathrm{W\,\Omega\,K^{-2}} が出ます。
  • 自由電子気体の限界(Hall 係数の符号や、金属・絶縁体の区別)は、次のBloch の定理とバンド理論で結晶ポテンシャルを入れて解決します。

1. 動機:金属の伝導電子をどう扱うか

Section titled “1. 動機:金属の伝導電子をどう扱うか”

銅の原子は 29 個の電子をもちます。しかし固体銅の電気的・熱的な性質にかかわるのは、最外殻の 1 個の電子(4s 電子)だけです。この電子は、もはや特定のイオンに束縛されておらず、結晶全体を動き回る伝導電子になっています。残りの内殻電子は原子核とともにイオン芯(原子から価電子を除いた、動かない正電荷の部分)としてほぼ動かないので、金属は「正のイオン格子の中を電子の気体が動いている」と大胆に描けます。

この描像の最初の理論は、1900 年に P. Drude が作りました。電子の発見(1897)の直後で、量子力学が生まれる四半世紀前です。Drude は、電子を気体分子と同じ古典統計で扱い、電子がイオンに衝突する間隔を τ\tau と置いて、Ohm の法則と Wiedemann–Franz 則を説明しました。1928 年に Sommerfeld は、同じ描像の中で電子に Fermi–Dirac 統計を適用して、決定的な食い違い(比熱)を解消します。この記事では、この 2 段階を順に見ます。

前章の結晶構造と格子振動で作った道具、周期境界条件と「V/(2π)3V/(2\pi)^3 あたり 1 状態」という波数の数え方は、そのまま電子にも使います。

定義 2.1(Drude 模型)↗

伝導電子(電荷 −e-e、質量 mm、数密度 nn)の気体について、次を仮定する。

  1. 衝突と衝突の間、電子は他の電子やイオンの力を受けず、外力(電場・磁場)にだけ従って運動する(独立電子近似・自由電子近似)。
  2. 電子は単位時間あたり確率 1/τ1/\tau で衝突する。時間 dtdt のあいだに衝突する確率は dt/τdt/\tau である。τ\tau を緩和時間という。
  3. 衝突の直後、電子の速度は衝突前の速度と無関係で、方向はランダムである(平均すれば速度ゼロ)。

定理 2.2(Drude の電気伝導度)✓

一様な電場 E\boldsymbol{E} のもとで、定常状態の電流密度は j=σE\boldsymbol{j}=\sigma\boldsymbol{E}(Ohm の法則)で、

σ=ne2τm\sigma=\frac{ne^2\tau}{m}

である。より一般に、電子の平均運動量 p(t)\boldsymbol{p}(t) は dpdt=−pτ+F(t)\dfrac{d\boldsymbol{p}}{dt}=-\dfrac{\boldsymbol{p}}{\tau}+\boldsymbol{F}(t) に従う。

証明(定理 2.2)

時刻 tt に電子の平均運動量が p(t)\boldsymbol{p}(t) だったとします。次の dtdt のあいだに、確率 1−dt/τ1-dt/\tau で衝突せず、外力 F\boldsymbol{F} から運動量 Fdt\boldsymbol{F}dt をもらいます。確率 dt/τdt/\tau で衝突すると、衝突後の速度は方向がランダム(仮定 3)なので平均運動量への寄与は 00 です(衝突後に外力から得る O(dt2)O(dt^2) は無視)。したがって

p(t+dt)=(1−dtτ)(p(t)+Fdt)+O(dt2),\boldsymbol{p}(t+dt)=\left(1-\frac{dt}{\tau}\right)\left(\boldsymbol{p}(t)+\boldsymbol{F}dt\right)+O(dt^2),

これを整理して dt→0dt\to0 とすれば、dp/dt=−p/τ+Fd\boldsymbol{p}/dt=-\boldsymbol{p}/\tau+\boldsymbol{F} を得ます。電場中では F=−eE\boldsymbol{F}=-e\boldsymbol{E} で、定常状態は dp/dt=0d\boldsymbol{p}/dt=0 より p=−eEτ\boldsymbol{p}=-e\boldsymbol{E}\tau、平均速度 v=p/m=−eτE/m\boldsymbol{v}=\boldsymbol{p}/m=-e\tau\boldsymbol{E}/m。電流密度は j=−nev=ne2τmE\boldsymbol{j}=-ne\boldsymbol{v}=\dfrac{ne^2\tau}m\boldsymbol{E} です。

例 2.3(銅の緩和時間と平均自由行程)

室温の銅は、電気抵抗率 ρ=1/σ=1.7×10−8 Ω m\rho=1/\sigma=1.7\times10^{-8}\ \Omega\,\mathrm{m}、電子数密度 n=8.5×1028 m−3n=8.5\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}} です。定理 2.2 から

τ=mne2ρ=9.11×10−31(8.5×1028)(1.60×10−19)2(1.7×10−8)=2.5×10−14 s\tau=\frac{m}{ne^2\rho}=\frac{9.11\times10^{-31}}{(8.5\times10^{28})(1.60\times10^{-19})^2(1.7\times10^{-8})}=2.5\times10^{-14}\ \mathrm{s}

で、約 25 fs です。平均自由行程 ℓ=vτ\ell=v\tau は、Drude が仮定した古典的な熱速度 v∼3kBT/m≈1.2×105 m/sv\sim\sqrt{3k_BT/m}\approx1.2\times10^5\ \mathrm{m/s} なら ℓ≈3 nm\ell\approx3\ \mathrm{nm}(原子間隔 0.26 nm0.26\ \mathrm{nm} の約 10 倍)です。ところが後で見るように、実際の電子速度はフェルミ速度 vF=1.57×106 m/sv_F=1.57\times10^6\ \mathrm{m/s} で、ℓ=vFτ≈39 nm\ell=v_F\tau\approx39\ \mathrm{nm}、すなわち原子間隔の約 150 倍になります。電子は、衝突相手のイオンを次々に「すり抜けて」いるわけで、これは古典的な粒子の衝突では理解できず、波としての電子が周期的な結晶中を伝わる(次章)ことで説明されます。

電場が E(t)=E0e−iωt\boldsymbol{E}(t)=\boldsymbol{E}_0e^{-i\omega t} のとき、p(t)=p0e−iωt\boldsymbol{p}(t)=\boldsymbol{p}_0e^{-i\omega t} と置くと 定理 2.2 の運動方程式は (−iω+1/τ)p0=−eE0(-i\omega+1/\tau)\boldsymbol{p}_0=-e\boldsymbol{E}_0、したがって p0=−eτE0/(1−iωτ)\boldsymbol{p}_0=-e\tau\boldsymbol{E}_0/(1-i\omega\tau)、

σ(ω)=σ01−iωτ,σ0=ne2τm.\sigma(\omega)=\frac{\sigma_0}{1-i\omega\tau},\qquad\sigma_0=\frac{ne^2\tau}m .

電磁波に対する応答は、Maxwell 方程式(定義 3.1[マクスウェル方程式と電磁波])のアンペール・マクスウェルの法則で決まります。この法則は、磁場を作るものとして、電流と、電場の時間変化による変位電流の 2 つを数えます。ここでは電流 j=σE\boldsymbol{j}=\sigma\boldsymbol{E} と変位電流 ε0∂tE=−iωε0E\varepsilon_0\partial_t\boldsymbol{E}=-i\omega\varepsilon_0\boldsymbol{E} の和 −iω(ε0+iσ/ω)E-i\omega\left(\varepsilon_0+i\sigma/\omega\right)\boldsymbol{E} になります。そこで比誘電率

εr(ω)=1+iσ(ω)ε0ω\varepsilon_r(\omega)=1+\frac{i\sigma(\omega)}{\varepsilon_0\omega}

を定義できます。

命題 2.4(プラズマ周波数)✓

ωτ≫1\omega\tau\gg1 の領域で、Drude 模型の比誘電率は

εr(ω)=1−ωp2ω2,ωp=ne2ε0m\varepsilon_r(\omega)=1-\frac{\omega_p^2}{\omega^2},\qquad\omega_p=\sqrt{\frac{ne^2}{\varepsilon_0m}}

となる。ω<ωp\omega<\omega_p では εr<0\varepsilon_r<0 で電磁波は金属内に進入できず反射される。ω>ωp\omega>\omega_p では εr>0\varepsilon_r>0 で金属は透明になる。

証明(命題 2.4)

ωτ≫1\omega\tau\gg1 では σ(ω)≃σ0/(−iωτ)=i ne2/(mω)\sigma(\omega)\simeq\sigma_0/(-i\omega\tau)=i\,ne^2/(m\omega)。これを εr\varepsilon_r の式に入れると εr=1+iε0ω⋅ine2mω=1−ne2ε0mω2\varepsilon_r=1+\dfrac{i}{\varepsilon_0\omega}\cdot\dfrac{ine^2}{m\omega}=1-\dfrac{ne^2}{\varepsilon_0m\omega^2} です。屈折率は εr\sqrt{\varepsilon_r} で、εr<0\varepsilon_r<0 なら純虚数(波が指数関数的に減衰)、εr>0\varepsilon_r>0 なら実数(伝搬)です。

下の図は、ωτ≫1\omega\tau\gg1 での εr(ω)\varepsilon_r(\omega) を横軸 ω/ωp\omega/\omega_p に対して描いたものです。ωp\omega_p を境に符号が変わり、それより低い側が反射、高い側が透過の領域です。

ω_p0.5ω_p振動数 ωε_rε_r < 0:反射ε_r > 0:透過1 に近づく
Drude 模型の比誘電率 ε_r = 1 − (ω_p/ω)²。ω = ω_p でゼロになり、それより低い振動数では負(反射)、高い振動数では正(透過)。横軸は ω/ω_p = 0.5 から 2.5 までを示す。

例 2.5(ナトリウムの紫外透明性)

ナトリウムは n=2.65×1028 m−3n=2.65\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}} なので、ωp=ne2/ε0m=9.2×1015 rad/s\omega_p=\sqrt{ne^2/\varepsilon_0m}=9.2\times10^{15}\ \mathrm{rad/s}、ℏωp=6.0 eV\hbar\omega_p=6.0\ \mathrm{eV}(波長 λp=2πc/ωp≈205 nm\lambda_p=2\pi c/\omega_p\approx205\ \mathrm{nm})です。可視光(ℏω≈2\hbar\omega\approx2–3 eV3\ \mathrm{eV})は反射され、紫外(波長が約 210 nm210\ \mathrm{nm} より短い)は透過する、という予言は、実測のアルカリ金属の振る舞いとよく合います。ここまでは Drude 模型の成功です。

Drude 模型で、一様な磁束密度 B=Bz^\boldsymbol{B}=B\hat{z} を加えます。力は F=−e(E+v×B)\boldsymbol{F}=-e(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}) です。

命題 2.6(Drude 模型の Hall 係数)✓

定常状態で、xx 方向に電流 jxj_x を流し、yy 方向を開放(jy=0j_y=0)にしたとき、yy 方向に Hall 電場が生じ、

RH=EyjxB=−1ne,ρxx=Exjx=mne2τR_H=\frac{E_y}{j_xB}=-\frac1{ne},\qquad\rho_{xx}=\frac{E_x}{j_x}=\frac{m}{ne^2\tau}

となる。すなわち Hall 係数は電子数密度だけで決まり、符号は電荷の符号を表す。抵抗率 ρxx\rho_{xx} は磁場に依存しない。

証明(命題 2.6)

定常状態 dp/dt=0d\boldsymbol{p}/dt=0 で、定理 2.2 の式に磁場の力を加えると、0=−mvτ−e(E+v×B)0=-\dfrac{m\boldsymbol{v}}{\tau}-e(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B})。v=−j/(ne)\boldsymbol{v}=-\boldsymbol{j}/(ne) を代入して整理すると

E=mne2τj+1nej×B.\boldsymbol{E}=\frac{m}{ne^2\tau}\boldsymbol{j}+\frac{1}{ne}\boldsymbol{j}\times\boldsymbol{B} .

(j×B)x=jyB(\boldsymbol{j}\times\boldsymbol{B})_x=j_yB、(j×B)y=−jxB(\boldsymbol{j}\times\boldsymbol{B})_y=-j_xB なので、成分は Ex=ρ0jx+BnejyE_x=\rho_0j_x+\dfrac{B}{ne}j_y、Ey=ρ0jy−BnejxE_y=\rho_0j_y-\dfrac B{ne}j_x(ρ0=m/ne2τ\rho_0=m/ne^2\tau)です。jy=0j_y=0 とすれば Ex=ρ0jxE_x=\rho_0j_x、Ey=−BnejxE_y=-\dfrac{B}{ne}j_x で、主張を得ます。

Hall 係数を測れば、電子密度 nn とキャリアの符号が直接分かります。ナトリウム・カリウム・銅・銀・金などでは RH=−1/neR_H=-1/ne を数十パーセントの精度で再現します。しかし亜鉛・カドミウム・アルミニウムの Hall 係数は正で、まるで正電荷が動いているように見えます。この符号の食い違いは、Drude 模型にもその量子論版にも説明できず、結晶中のバンド構造(正孔、次章)を要します。

Drude は電子に古典的な等分配則を適用しました。電子 1 個あたりの熱エネルギーは 32kBT\tfrac32k_BT で、電子比熱は Cel=32nkBC_{\mathrm{el}}=\tfrac32nk_B のはずです。これだと、格子の Dulong–Petit の値 3nkB3nk_B(命題 7.1[結晶構造と格子振動])に、電子が加わって室温の全比熱が約 1.5 倍になるはずですが、実測ではそうなっていません。金属の室温のモル比熱は非金属とほぼ同じ 3R3R のままで、電子の寄与は 32R\tfrac32R の 1 % 程度しか見えないのです。

熱伝導については、熱を運ぶ主役が電子で、電気伝導と同じ τ\tau が熱輸送を決める、という描像が成り立ちます。次の補題は気体分子運動論の議論と同じです。方針は、温度の高い側から来た粒子ほど多くの熱エネルギーを持っているので、粒子が最後に衝突した場所(飛んできた向きに距離 vτv\tau ほど手前)の温度の差が熱の流れになる、というものです。向きの角 θ\theta についての平均は、空間が等方的だから出てくる因子(cos⁡2θ\cos^2\theta の平均が 1/31/3)にまとめられます。

補題 2.7(気体運動論による熱伝導率)✓

粒子の気体で、粒子 1 個あたりの熱エネルギーを ϵ(T)\epsilon(T)、数密度 nn、速さ vv、衝突間の時間 τ\tau とし、衝突直後に粒子はその場所の温度に応じた熱エネルギーをもつと仮定する。温度勾配 ∂xT\partial_xT があるとき、xx 方向の熱流密度は jq=−κ ∂xTj_q=-\kappa\,\partial_xT、

κ=13 c v2τ,c=ndϵdT\kappa=\frac13\,c\,v^2\tau,\qquad c=n\frac{d\epsilon}{dT}

(cc は体積あたりの熱容量)である。

証明(補題 2.7)

方向角 θ\theta(xx 軸との角)で飛んできた粒子は、最後の衝突を距離 vτcos⁡θv\tau\cos\theta だけ後ろ(x−vτcos⁡θx-v\tau\cos\theta)で起こしており、そこの温度に対応する熱エネルギー ϵ ⁣(T(x−vτcos⁡θ))≃ϵ(T(x))−dϵdT ∂xT vτcos⁡θ\epsilon\!\left(T(x-v\tau\cos\theta)\right)\simeq\epsilon(T(x))-\dfrac{d\epsilon}{dT}\,\partial_xT\,v\tau\cos\theta をもっています。xx 方向の熱流は、方向についての平均 ⟨⋅⟩\langle\cdot\rangle(等方的なので ⟨cos⁡θ⟩=0\langle\cos\theta\rangle=0、⟨cos⁡2θ⟩=1/3\langle\cos^2\theta\rangle=1/3)を使って

jq=n⟨vcos⁡θ ϵ ⁣(T(x−vτcos⁡θ))⟩=−ndϵdTv2τ ∂xT⟨cos⁡2θ⟩=−13cv2τ ∂xTj_q=n\left\langle v\cos\theta\ \epsilon\!\left(T(x-v\tau\cos\theta)\right)\right\rangle=-n\frac{d\epsilon}{dT}v^2\tau\,\partial_xT\left\langle\cos^2\theta\right\rangle=-\frac13cv^2\tau\,\partial_xT

です。

Drude は c=32nkBc=\tfrac32nk_B、v2=3kBT/mv^2=3k_BT/m を使い、κ=32nkB2Tτ/m\kappa=\tfrac32nk_B^2T\tau/m、したがって 定理 2.2 の σ\sigma との比(Lorenz 数)は

LDrude=κσT=32(kBe)2=1.11×10−8 W Ω K−2L_{\mathrm{Drude}}=\frac{\kappa}{\sigma T}=\frac32\left(\frac{k_B}e\right)^2=1.11\times10^{-8}\ \mathrm{W\,\Omega\,K^{-2}}

で、n,τ,mn,\tau,m が消えて物質によらない定数になります(Wiedemann–Franz 則、1853)。実測は約 2.4×10−82.4\times10^{-8} で、値は 2 倍違いますが、物質によらないという点は驚くほどよく成り立ちます(Drude 自身は計算に 2 倍の誤りがあり、実測に近い値を得たと伝えられています)。ただしこの一致は偶然に近いものでした。本当は、電子比熱が古典値より 2 桁ほど小さく、電子の速さが熱速度より 1 桁ほど大きいので、cc と v2v^2 の誤差が打ち消し合っていたのです。つまり、比熱を大きく見積もりすぎた分を、速さの二乗を小さく見積もりすぎた分が打ち消して、たまたま実測に近い値が出ていたのです。これは量子論では次のように必然に変わります。

定義 3.1(自由電子気体)↗

一辺 LL の立方体(体積 V=L3V=L^3)の中の NN 個の電子で、電子間相互作用と結晶ポテンシャルを無視し、1 粒子ハミルトニアン H=−ℏ22m∇2H=-\dfrac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 に周期境界条件 ψ(r+Lx^i)=ψ(r)\psi(\boldsymbol{r}+L\hat{x}_i)=\psi(\boldsymbol{r})(i=1,2,3i=1,2,3)を課したものを自由電子気体という。電子はスピン 1/2 のフェルミ粒子で、NN 体状態は 1 粒子状態への占有(排他律)で指定する。

命題 3.2(1 粒子状態と状態数)✓

1 粒子の固有関数は平面波 ψk(r)=eik⋅r/V\psi_{\boldsymbol{k}}(\boldsymbol{r})=e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}}/\sqrt V、固有エネルギーは ε(k)=ℏ2∣k∣2/2m\varepsilon(\boldsymbol{k})=\hbar^2|\boldsymbol{k}|^2/2m で、許される波数は

k=2πL(n1,n2,n3),ni∈Z\boldsymbol{k}=\frac{2\pi}L(n_1,n_2,n_3),\qquad n_i\in\mathbb{Z}

である。各 k\boldsymbol{k} にスピン上向き・下向きの 2 状態があり、kk 空間の領域 Ω\Omega に含まれる状態数は、V→∞V\to\infty で

#{状態∈Ω}≃2⋅V(2π)3 ∣Ω∣.\#\{\text{状態}\in\Omega\}\simeq2\cdot\frac{V}{(2\pi)^3}\,|\Omega| .
証明(命題 3.2)

−ℏ22m∇2eik⋅r=ℏ2k22meik⋅r-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}}=\frac{\hbar^2k^2}{2m}e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}} なので平面波は固有関数です。周期境界条件 eikiL=1e^{ik_iL}=1 から ki=2πni/Lk_i=2\pi n_i/L。kk 空間のこの格子点は、1 点あたり体積 (2π/L)3=(2π)3/V(2\pi/L)^3=(2\pi)^3/V を占めるので、有界領域 Ω\Omega の中の点の数は ∣Ω∣/((2π)3/V)|\Omega|/\left((2\pi)^3/V\right) に、V→∞V\to\infty で(Riemann 和として)漸近的に等しくなります。スピンで 2 倍します。

下の図は、kk 空間(2 次元断面)に許される波数が格子状に並ぶ様子と、基底状態を表すフェルミ球です。NN 個の電子を 1 つずつ、排他律を守りながらエネルギーの低い状態から詰めていくと、kk 空間の原点を中心とした球ができます。

k_Fフェルミ面k_xk_y格子点の間隔は 2π/L(1 点が占める面積は (2π/L)²)
k 空間の許される波数(格子点)。電子はエネルギー ħ²k²/2m が低い順に、スピン 2 つずつ詰まる。T = 0 の基底状態は半径 k_F の球(フェルミ球)の内側がすべて占有された状態で、球面がフェルミ面。

量子統計の章で、粒子数 NN から決まるフェルミエネルギー εF\varepsilon_F を導きました(定義 6.1[量子統計], 命題 6.2[量子統計])。ここでは kk 空間の描像で組み立て直し、物性を見るのに便利な形にまとめます。

命題 3.3(フェルミ波数・フェルミ速度)✓

数密度 n=N/Vn=N/V の 3 次元自由電子気体の基底状態は、半径

kF=(3π2n)1/3k_F=(3\pi^2n)^{1/3}

のフェルミ球の内側を満たしたもので、フェルミエネルギー εF=ℏ2kF2/2m\varepsilon_F=\hbar^2k_F^2/2m、フェルミ速度 vF=ℏkF/mv_F=\hbar k_F/m、フェルミ温度 TF=εF/kBT_F=\varepsilon_F/k_B である。

証明(命題 3.3)

半径 kFk_F の球の中の状態数は 命題 3.2 から 2⋅V(2π)3⋅4π3kF3=V3π2kF32\cdot\frac V{(2\pi)^3}\cdot\frac{4\pi}3k_F^3=\frac{V}{3\pi^2}k_F^3。これが NN に等しいとおけば kF3=3π2nk_F^3=3\pi^2n。エネルギーと速度は ε=ℏ2k2/2m\varepsilon=\hbar^2k^2/2m、v=ℏk/mv=\hbar k/m を k=kFk=k_F で評価したものです。この εF\varepsilon_F は 命題 6.2[量子統計] で g=2g=2 とおいたものと一致します。

例 3.4(いくつかの金属のフェルミ量)

自由電子的な金属の、価電子の数密度から計算した値です。

金属nn (1028 m−310^{28}\ \mathrm{m^{-3}})kFk_F (1010 m−110^{10}\ \mathrm{m^{-1}})vFv_F (106 m/s10^6\ \mathrm{m/s})εF\varepsilon_F (eV)TFT_F (104 K10^4\ \mathrm{K})
Na2.650.921.073.243.77
Cu8.51.361.577.08.2
Al18.11.752.0311.713.6

たとえばアルミニウムは 1 原子あたり 3 個の価電子を出し、kF=(3π2×1.81×1029)1/3=1.75×1010 m−1k_F=(3\pi^2\times1.81\times10^{29})^{1/3}=1.75\times10^{10}\ \mathrm{m^{-1}}、εF=ℏ2kF2/2m=1.87×10−18 J=11.7 eV\varepsilon_F=\hbar^2k_F^2/2m=1.87\times10^{-18}\ \mathrm{J}=11.7\ \mathrm{eV} です。フェルミ速度は光速の約 1 % で、室温の熱速度よりずっと大きいことに注意してください。電子は絶対零度でも激しく動いています(排他律のため)。

エネルギー ε\varepsilon の付近の「状態の込み具合」を表す量が状態密度です。

定義 3.5(状態密度)↗

エネルギーが ε\varepsilon 以下の(スピンを込めた)1 粒子状態の数を N(ε)\mathcal{N}(\varepsilon) とするとき、D(ε)=dN/dεD(\varepsilon)=d\mathcal{N}/d\varepsilon を状態密度という。ε\varepsilon から ε+dε\varepsilon+d\varepsilon のあいだの状態数が D(ε)dεD(\varepsilon)d\varepsilon である。

N(ε)\mathcal{N}(\varepsilon) はエネルギーが低い方から数えた状態の累計で、これを ε\varepsilon で微分した D(ε)D(\varepsilon) は、ε\varepsilon のまわりの単位エネルギー幅に何個の状態があるかを表します。次の定理は、kk 空間で「半径 kk の球(円、線分)の中の状態数」を数えて、ε\varepsilon で微分するだけです。

定理 3.6(自由電子気体の状態密度)✓

自由電子気体の状態密度は、3 次元・2 次元・1 次元でそれぞれ

D3(ε)=V2π2(2mℏ2)3/2 ⁣ε,D2(ε)=mAπℏ2,D1(ε)=Lπℏ2mε(ε>0)D_{3}(\varepsilon)=\frac{V}{2\pi^2}\left(\frac{2m}{\hbar^2}\right)^{3/2}\!\sqrt\varepsilon,\qquad D_{2}(\varepsilon)=\frac{mA}{\pi\hbar^2},\qquad D_{1}(\varepsilon)=\frac{L}{\pi\hbar}\sqrt{\frac{2m}{\varepsilon}}\qquad(\varepsilon>0)

である(AA は 2 次元系の面積、LL は 1 次元系の長さ)。3 次元ではフェルミエネルギーで D3(εF)=3N2εFD_3(\varepsilon_F)=\dfrac{3N}{2\varepsilon_F} である。

証明(定理 3.6)

3 次元:ε(k)≤ε\varepsilon(\boldsymbol{k})\le\varepsilon は半径 k=2mε/ℏk=\sqrt{2m\varepsilon}/\hbar の球で、命題 3.2 より N3(ε)=2V(2π)34π3k3=V3π2(2mεℏ2)3/2\mathcal{N}_3(\varepsilon)=2\frac V{(2\pi)^3}\frac{4\pi}3k^3=\frac V{3\pi^2}\left(\frac{2m\varepsilon}{\hbar^2}\right)^{3/2}。ε\varepsilon で微分して D3D_3 を得ます。εF\varepsilon_F で N3(εF)=N\mathcal{N}_3(\varepsilon_F)=N なので、N3∝ε3/2\mathcal{N}_3\propto\varepsilon^{3/2} から D3(εF)=32N3(εF)/εF=3N/2εFD_3(\varepsilon_F)=\frac32\mathcal{N}_3(\varepsilon_F)/\varepsilon_F=3N/2\varepsilon_F。

2 次元:円の面積 πk2\pi k^2 より N2=2A(2π)2πk2=A2π⋅2mεℏ2=mAπℏ2ε\mathcal{N}_2=2\frac A{(2\pi)^2}\pi k^2=\frac{A}{2\pi}\cdot\frac{2m\varepsilon}{\hbar^2}=\frac{mA}{\pi\hbar^2}\varepsilon。ε\varepsilon に比例するので D2D_2 は定数です。

1 次元:区間 ∣k′∣≤k|k'|\le k の長さ 2k2k より N1=2L2π2k=2Lπ2mεℏ\mathcal{N}_1=2\frac L{2\pi}2k=\frac{2L}\pi\frac{\sqrt{2m\varepsilon}}\hbar。ddε2mε=m/2ε\frac{d}{d\varepsilon}\sqrt{2m\varepsilon}=\sqrt{m/2\varepsilon} を使って微分すると D1=2Lπℏm2ε=Lπℏ2mεD_1=\frac{2L}{\pi\hbar}\sqrt{\frac{m}{2\varepsilon}}=\frac{L}{\pi\hbar}\sqrt{\frac{2m}{\varepsilon}} です(2/2=22/\sqrt2=\sqrt2)。

次元によって状態密度の形が変わること(3 次元 ε\sqrt\varepsilon、2 次元一定、1 次元 1/ε1/\sqrt\varepsilon)は、第 6 章で見る 2 次元電子系の量子 Hall 効果や、半導体の量子井戸・量子細線の物理の出発点になります。

4.1. 一般の状態密度に対する公式

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自由電子気体の T=0T=0 では εF\varepsilon_F までが埋まっています。有限温度 T≪TFT\ll T_F では、Fermi 分布 f(ε)=[e(ε−μ)/kBT+1]−1f(\varepsilon)=\left[e^{(\varepsilon-\mu)/k_BT}+1\right]^{-1} が階段から丸まる範囲、εF\varepsilon_F を中心にした幅 ∼kBT\sim k_BT の電子だけが励起されます(下の図)。

ε_F0エネルギー εD(ε)(破線:D、実線:D·f)有限温度の占有ε_F の上下 ~k_BT だけが変化T = 0 で満杯
状態密度 D(ε) ∝ √ε(破線)と、有限温度で占有されている状態 D(ε)f(ε)(実線)。T = 0 では ε_F まで満杯(色つきの面積)。温度が上がると ε_F の上下の薄い層だけで占有が入れ替わり、その層の中の電子数は D(ε_F)k_BT 程度。

温度を上げていくと、階段だった Fermi 分布がどう丸まるかを動画で見てみます。左が f(ε)f(\varepsilon)、右が D(ε)f(ε)D(\varepsilon)f(\varepsilon) で、電子数一定の条件から化学ポテンシャル μ\mu も計算し直しています。

温度を上げると Fermi 分布の階段がフェルミエネルギー付近から丸まり、状態密度との積の占有領域の角が削れていく動画。化学ポテンシャルは少しずつ下がる。
温度 T/T_F を 0.005 から 0.3 まで上げたときの Fermi 分布(左)と占有された状態(右)。変化するのは ε_F 付近の幅 k_BT 程度の層だけで、深い所は満杯のまま。電子数を一定に保つため μ は ε_F からわずかに下がる。

幅が kBTk_BT 程度なのは、熱が 1 個の電子に与えられるエネルギーが kBTk_BT 程度で、それより深い所の電子は、すぐ上の状態がすでに埋まっている(排他律)ので動けないからです。熱エネルギーを受け取れるのは層内の約 D(εF)kBTD(\varepsilon_F)k_BT 個の電子で、各電子の受け取るエネルギーは ∼kBT\sim k_BT。したがって U−U0∼D(εF)(kBT)2U-U_0\sim D(\varepsilon_F)(k_BT)^2、C∼D(εF)kB2TC\sim D(\varepsilon_F)k_B^2T だろう、という見積もりが立ちます。厳密にはこうなります。この証明では、定理 6.5[量子統計] の Sommerfeld 展開(階段に近い Fermi 分布をかけた積分を、温度 TT のべきで近似する公式)を使います。電子数が一定という条件から μ\mu のずれを決め、それを内部エネルギーに入れて TT で微分する、という流れです。

定理 4.1(電子比熱(一般の状態密度))✓

状態密度 D(ε)D(\varepsilon) が εF\varepsilon_F の近傍で滑らかで D(εF)>0D(\varepsilon_F)>0 とする。電子数 NN を固定して温度を T≪TFT\ll T_F に上げるとき、化学ポテンシャルと内部エネルギー、比熱は

μ=εF−π26(kBT)2D′(εF)D(εF)+O(T4),U=U0+π26(kBT)2D(εF)+O(T4),\mu=\varepsilon_F-\frac{\pi^2}{6}(k_BT)^2\frac{D'(\varepsilon_F)}{D(\varepsilon_F)}+O(T^4),\qquad U=U_0+\frac{\pi^2}6(k_BT)^2D(\varepsilon_F)+O(T^4),C=γT,γ=π23kB2 D(εF)C=\gamma T,\qquad\gamma=\frac{\pi^2}3k_B^2\,D(\varepsilon_F)

で与えられる。ここで U0U_0 は T=0T=0 の内部エネルギー。

証明(定理 4.1)

粒子数と内部エネルギーは N=∫D(ε)f(ε)dεN=\int D(\varepsilon)f(\varepsilon)d\varepsilon、U=∫εD(ε)f(ε)dεU=\int\varepsilon D(\varepsilon)f(\varepsilon)d\varepsilon です。Sommerfeld 展開(定理 6.5[量子統計])を H=DH=D と H=εDH=\varepsilon D に適用します(D(ε)=0D(\varepsilon)=0 for ε<0\varepsilon<0)。

N=∫0μD dε+π26(kBT)2D′(μ)+O(T4),U=∫0μεD dε+π26(kBT)2[D(μ)+μD′(μ)]+O(T4).N=\int_0^\mu D\,d\varepsilon+\frac{\pi^2}6(k_BT)^2D'(\mu)+O(T^4),\qquad U=\int_0^\mu\varepsilon D\,d\varepsilon+\frac{\pi^2}6(k_BT)^2\left[D(\mu)+\mu D'(\mu)\right]+O(T^4).

T=0T=0 で N=∫0εFD dεN=\int_0^{\varepsilon_F}D\,d\varepsilon です。δ=μ−εF\delta=\mu-\varepsilon_F とおくと、δ=O(T2)\delta=O(T^2) を仮定して(以下で自己無矛盾に確かめる)∫0μD=∫0εFD+D(εF)δ+O(δ2)\int_0^\mu D=\int_0^{\varepsilon_F}D+D(\varepsilon_F)\delta+O(\delta^2)、D′(μ)=D′(εF)+O(T2)D'(\mu)=D'(\varepsilon_F)+O(T^2)。NN の式から

0=D(εF)δ+π26(kBT)2D′(εF)+O(T4)⟹δ=−π26(kBT)2D′(εF)D(εF)+O(T4),0=D(\varepsilon_F)\delta+\frac{\pi^2}{6}(k_BT)^2D'(\varepsilon_F)+O(T^4)\quad\Longrightarrow\quad\delta=-\frac{\pi^2}6(k_BT)^2\frac{D'(\varepsilon_F)}{D(\varepsilon_F)}+O(T^4),

となり μ\mu の式が出ます。同様に ∫0μεD=∫0εFεD+εFD(εF)δ+O(δ2)\int_0^\mu\varepsilon D=\int_0^{\varepsilon_F}\varepsilon D+\varepsilon_FD(\varepsilon_F)\delta+O(\delta^2) で、U0=∫0εFεDU_0=\int_0^{\varepsilon_F}\varepsilon D とすると

U=U0+εFD(εF)δ+π26(kBT)2[D(εF)+εFD′(εF)]+O(T4).U=U_0+\varepsilon_FD(\varepsilon_F)\delta+\frac{\pi^2}6(k_BT)^2\left[D(\varepsilon_F)+\varepsilon_FD'(\varepsilon_F)\right]+O(T^4).

δ\delta の式を代入すると εFD′(εF)\varepsilon_FD'(\varepsilon_F) の項が打ち消し合って、U=U0+π26(kBT)2D(εF)U=U_0+\frac{\pi^2}6(k_BT)^2D(\varepsilon_F)。TT で微分して C=π23kB2D(εF)TC=\frac{\pi^2}3k_B^2D(\varepsilon_F)T。

重要なのは、γ\gamma がフェルミ面での状態密度だけで決まる点です。電子が自由電子的でなくても(次章のバンド理論でも、電子間相互作用があっても、実効的な D(εF)D(\varepsilon_F) を使えば)この形は保たれます。実験で比熱を測ることは、フェルミ面の状態密度を測ることにあたります。

系 4.2(自由電子気体の電子比熱係数)✓

3 次元自由電子気体では、定理 3.6 の D3(εF)=3N/2εFD_3(\varepsilon_F)=3N/2\varepsilon_F から

Cel=γT,γ=π22NkBTF=π22nkBTF V.C_{\mathrm{el}}=\gamma T,\qquad\gamma=\frac{\pi^2}{2}\frac{Nk_B}{T_F}=\frac{\pi^2}{2}\frac{nk_B}{T_F}\,V .

古典値 32NkB\tfrac32Nk_B との比は Cel/(32NkB)=π23TTFC_{\mathrm{el}}/\left(\tfrac32Nk_B\right)=\dfrac{\pi^2}{3}\dfrac T{T_F} で、T≪TFT\ll T_F のとき小さい。

証明(系 4.2)

定理 4.1 の γ=π23kB2D3(εF)=π23kB23N2εF=π22NkB2εF=π22NkBTF\gamma=\frac{\pi^2}3k_B^2D_3(\varepsilon_F)=\frac{\pi^2}3k_B^2\frac{3N}{2\varepsilon_F}=\frac{\pi^2}2\frac{Nk_B^2}{\varepsilon_F}=\frac{\pi^2}2\frac{Nk_B}{T_F}。これは 量子統計 の 命題 6.7[量子統計] の結果と一致します。古典値との比は π22TTF/32=π23TTF\frac{\pi^2}2\frac{T}{T_F}\Big/\frac32=\frac{\pi^2}3\frac T{T_F}。

銅(TF=8.2×104 KT_F=8.2\times10^4\ \mathrm{K})の室温では π233008.2×104=1.2×10−2\frac{\pi^2}3\frac{300}{8.2\times10^4}=1.2\times10^{-2}、すなわち古典値の約 1.2 %。これが Drude 模型の比熱の矛盾を解消します。電子の大部分は、排他律のために、熱エネルギーを受け取る余地がないのです。

金属の低温の全比熱は、電子とフォノンの和です。

C=γT+βT3,β=12π45NkBθD3C=\gamma T+\beta T^3,\qquad\beta=\frac{12\pi^4}{5}\frac{Nk_B}{\theta_D^3}

(後者は 前章の Debye の結果)。両辺を TT で割った C/T=γ+βT2C/T=\gamma+\beta T^2 を T2T^2 に対してプロットすると直線になり、切片が γ\gamma、傾きが β\beta(したがって θD\theta_D)を与えます。

0T²(K²)C/T切片 = γ(電子)傾き = β(フォノン)C/T = γ + βT²
金属の低温比熱の標準的な整理法(銅の値を例とした模式図)。C/T を T² に対してプロットすると直線になり、縦軸の切片が電子比熱係数 γ、傾きが格子比熱の係数 β を与える。

例 4.3(自由電子の予言と実測)

ナトリウムの TF=3.77×104 KT_F=3.77\times10^4\ \mathrm{K} から、1 モルあたり γ=π22RTF=4.935×8.3143.77×104=1.09 mJ mol−1K−2\gamma=\frac{\pi^2}2\frac R{T_F}=\frac{4.935\times8.314}{3.77\times10^4}=1.09\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-2}}(系 4.2)。実測は約 1.381.38 で、比は 1.31.3 です。銅は予言 0.500.50 に対して実測 0.690.69(比 1.41.4)。自由電子の予言は 3 割程度の精度で合います。比のずれは、結晶ポテンシャルと電子間相互作用による実効質量の補正で、m∗/mm^*/m と解釈されます(次章)。重い電子系と呼ばれる物質では、この比が数百になります。

Drude の古典的な計算と同じ 補題 2.7 を、Sommerfeld の描像に適用します。熱を運べるのは εF\varepsilon_F 近傍の電子だけで、その速さは vFv_F です。したがって c=γTc=\gamma T(体積あたり)、v=vFv=v_F とします。

命題 5.1(Wiedemann–Franz 則(緩和時間近似))✓

熱流と電流を運ぶ電子の緩和時間が同じ τ\tau であると仮定すると、自由電子気体の熱伝導率と電気伝導度の比は

L=κσT=π23(kBe)2=2.44×10−8 W Ω K−2L=\frac{\kappa}{\sigma T}=\frac{\pi^2}3\left(\frac{k_B}e\right)^2=2.44\times10^{-8}\ \mathrm{W\,\Omega\,K^{-2}}

で、物質によらない定数である。

証明(命題 5.1)

補題 2.7 に、体積あたりの電子比熱 c=π22nkBTTFc=\frac{\pi^2}2nk_B\frac{T}{T_F}(系 4.2)、v=vFv=v_F を代入します。kBTF=εF=12mvF2k_BT_F=\varepsilon_F=\frac12mv_F^2 なので

κ=13⋅π22nkBkBT12mvF2 vF2τ=π23nkB2Tτm.\kappa=\frac13\cdot\frac{\pi^2}2nk_B\frac{k_BT}{\tfrac12mv_F^2}\,v_F^2\tau=\frac{\pi^2}{3}\frac{nk_B^2T\tau}{m} .

定理 2.2 の σ=ne2τ/m\sigma=ne^2\tau/m で割れば κ/σT=π23(kB/e)2\kappa/\sigma T=\frac{\pi^2}3(k_B/e)^2 です。数値は π23×(8.617×10−5 V/K)2=2.44×10−8\frac{\pi^2}{3}\times(8.617\times10^{-5}\ \mathrm{V/K})^2=2.44\times10^{-8}。

仮定「熱と電気で同じ τ\tau」は、電子が格子欠陥などに弾性散乱される低温や、室温付近でほぼ成り立ちます。

例 5.2(銅の熱伝導率)

室温で銅の抵抗率 1.7×10−8 Ω m1.7\times10^{-8}\ \Omega\,\mathrm{m} から、命題 5.1 により κ=LT/ρ=2.44×10−8×3001.7×10−8=431 W m−1K−1\kappa=LT/\rho=\dfrac{2.44\times10^{-8}\times300}{1.7\times10^{-8}}=431\ \mathrm{W\,m^{-1}K^{-1}}。実測値は約 401401 で、約 7 % の差です。電気をよく通す金属は熱もよく通す、という日常の経験を、定量的に表した式です。

自由電子気体の理論の限界も整理しておきます。Hall 係数の符号(正孔)、金属と絶縁体の違い、実効質量、フェルミ面の形は、いずれも結晶ポテンシャルを取り込まないと説明できません。次章でそれを行います。

演習 6.1標準

面積 AA の 2 次元電子気体(電子数 NN、スピン縮重 2)について、(1) T=0T=0 のフェルミエネルギー εF\varepsilon_F を面密度 ns=N/An_s=N/A で表せ。(2) 有限温度での化学ポテンシャルが厳密に μ=kBTln⁡(eεF/kBT−1)\mu=k_BT\ln\left(e^{\varepsilon_F/k_BT}-1\right) で与えられることを示せ。

解答

(1) 定理 3.6 より D2=mA/πℏ2D_2=mA/\pi\hbar^2 は定数なので N=D2εFN=D_2\varepsilon_F、εF=πℏ2ns/m\varepsilon_F=\pi\hbar^2n_s/m。

(2) N=∫0∞D2f(ε)dε=D2∫0∞dεe(ε−μ)/kBT+1=D2kBTln⁡(1+eμ/kBT)N=\int_0^\infty D_2f(\varepsilon)d\varepsilon=D_2\int_0^\infty\dfrac{d\varepsilon}{e^{(\varepsilon-\mu)/k_BT}+1}=D_2k_BT\ln\left(1+e^{\mu/k_BT}\right)(∫dεe(ε−μ)/kT+1=−kTln⁡(1+e−(ε−μ)/kT)\int\frac{d\varepsilon}{e^{(\varepsilon-\mu)/kT}+1}=-kT\ln(1+e^{-(\varepsilon-\mu)/kT}) から)。N=D2εFN=D_2\varepsilon_F と等置して eεF/kBT=1+eμ/kBTe^{\varepsilon_F/k_BT}=1+e^{\mu/k_BT}、すなわち主張を得ます。T→0T\to0 で μ→εF\mu\to\varepsilon_F、化学ポテンシャルの温度変化は指数関数的に小さい O(e−εF/kBT)O(e^{-\varepsilon_F/k_BT}) で、Sommerfeld 展開の T2T^2 項(係数 D′(εF)=0D'(\varepsilon_F)=0)が消えることと整合します。

演習 6.2易

厚さ t=0.10 mmt=0.10\ \mathrm{mm} の銅箔(n=8.5×1028 m−3n=8.5\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}})に電流 I=1.0 AI=1.0\ \mathrm{A} を流し、箔面に垂直に B=1.0 TB=1.0\ \mathrm{T} をかけた。命題 2.6 を使って Hall 電圧の大きさを求めよ。

解答

電流密度 jx=I/(wt)j_x=I/(wt)(ww は幅)、Hall 電場 ∣Ey∣=∣RH∣jxB=jxBne|E_y|=|R_H|j_xB=\dfrac{j_xB}{ne}、Hall 電圧 VH=∣Ey∣w=IBnet=1.0×1.0(8.5×1028)(1.60×10−19)(1.0×10−4)=7.4×10−7 VV_H=|E_y|w=\dfrac{IB}{net}=\dfrac{1.0\times1.0}{(8.5\times10^{28})(1.60\times10^{-19})(1.0\times10^{-4})}=7.4\times10^{-7}\ \mathrm{V}。幅 ww によらず約 0.7 μV0.7\ \mu\mathrm{V} という小さな電圧です。金属の Hall 電圧が小さいのは nn が大きいからで、nn の小さい半導体では桁違いに大きくなり、磁場センサーに使われます。

演習 6.3標準

アルミニウム(1 原子あたり価電子 3 個、TF=1.36×105 KT_F=1.36\times10^5\ \mathrm{K})の、1 モルの原子あたりの電子比熱係数 γ\gamma の自由電子の予言値を 系 4.2 から求めよ。実測値は 1.35 mJ mol−1K−21.35\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-2}} である。比はいくつか。

解答

電子の数は 1 モルの原子あたり 3NA3N_A なので、γ=π223NAkBTF=π223RTF=4.935×3×8.3141.36×105=9.05×10−4 J mol−1K−2=0.905 mJ mol−1K−2\gamma=\frac{\pi^2}2\frac{3N_Ak_B}{T_F}=\frac{\pi^2}{2}\frac{3R}{T_F}=\frac{4.935\times3\times8.314}{1.36\times10^5}=9.05\times10^{-4}\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-2}}=0.905\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-2}}。実測との比は 1.35/0.905=1.491.35/0.905=1.49 で、実効的な状態密度が自由電子の約 1.5 倍であることを意味します。

演習 6.4易

室温のアルミニウムの抵抗率は 2.7×10−8 Ω m2.7\times10^{-8}\ \Omega\,\mathrm{m} である。命題 5.1 から熱伝導率を見積もれ(実測は約 237 W m−1K−1237\ \mathrm{W\,m^{-1}K^{-1}})。

解答

κ=LT/ρ=2.44×10−8×3002.7×10−8=271 W m−1K−1\kappa=LT/\rho=\dfrac{2.44\times10^{-8}\times300}{2.7\times10^{-8}}=271\ \mathrm{W\,m^{-1}K^{-1}}。実測より約 14 % 大きいですが、桁と傾向はよく合っています。室温ではフォノンによる電子の非弾性散乱で、熱と電気の緩和時間が厳密には一致しなくなる効果が、このずれの一因です。

  • C. キッテル『キッテル 固体物理学入門』(上・下)丸善出版 — 自由電子フェルミ気体、金属の電気伝導の各章。
  • N. W. Ashcroft and N. D. Mermin, Solid State Physics, Holt, Rinehart and Winston, 1976 — Chapters 1–2 (Drude theory, Sommerfeld theory of metals), Chapter 3 (failures of the free electron model).
  • S. H. Simon, The Oxford Solid State Basics, Oxford University Press, 2013 — 金属の電気伝導と Drude 理論、Sommerfeld 理論の各章。
  • P. Drude, “Zur Elektronentheorie der Metalle”, Annalen der Physik 306 (1900), 566–613.
  • A. Sommerfeld, “Zur Elektronentheorie der Metalle auf Grund der Fermischen Statistik”, Zeitschrift für Physik 47 (1928), 1–32.

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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