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結晶構造と格子振動:逆格子・X 線回折・フォノンと固体の比熱

対象読者: 学部の量子力学(無限井戸・調和振動子のエネルギー準位)と統計力学(カノニカル分布・分配関数)を学んだ人。結晶学や固体物理は初めてで構いません。

前提となる記事:1次元の簡単な系:無限井戸・トンネル効果・調和振動子、カノニカル集団:ボルツマン因子と分配関数から熱力学を組み立てる

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結晶は、原子が規則正しく並んだ固体です。この規則正しさのおかげで、X 線を当てると点状の模様ができ、温度を下げると比熱(物質を温めるのに必要な熱の量)が決まった形で小さくなります。この記事では、原子の並びを数学的に整理し、原子の振動を「粒子(フォノン)」として数えることで、この 2 つの現象を説明します。

  • 結晶は、格子点の集合(Bravais 格子)に「基底」と呼ぶ原子の組を 1 つずつ貼り付けたものです。格子の並進対称性が、固体の理論のほぼすべてを支配します。
  • 周期構造を見る道具が逆格子です。実空間の格子に対し、eiG⋅R=1e^{i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{R}}=1 をすべての格子ベクトル R\boldsymbol{R} について満たす波数ベクトル G\boldsymbol{G} の全体は、それ自身が格子になります。その Wigner–Seitz 胞(ある格子点に最も近い点の集まり)が第 1 Brillouin ゾーン(逆格子空間で原点に最も近い領域)です。
  • X 線回折の強い反射は、散乱ベクトルが逆格子ベクトルに一致するとき(Laue 条件)に限って起こります。これは「格子面での鏡面反射と光路差」の条件(Bragg 条件)と同値であることを証明します。
  • 結晶の原子の微小振動は、波数 k\boldsymbol{k} ごとの独立な調和振動子(基準振動)に分解され、量子化されたものがフォノンです。波数は第 1 Brillouin ゾーンの中だけで数えれば十分です。
  • 比熱は、フォノンを調和振動子の集まりとして数えれば求まります。高温では Dulong–Petit の値 3NkB3Nk_B に近づき、低温では Debye の T3T^3 則に従います。Einstein 模型は低温で指数関数的に小さくなってしまい、実験の T3T^3 に合いません。
  • この記事で作る逆格子・Brillouin ゾーン・周期境界条件のもとの波数の数え方は、以降の全章(自由電子、Bloch の定理、磁性、超伝導、トポロジカル相)の共通の土台です。

銅の針金に電気が流れ、ダイヤモンドは電気を通さず、シリコンは不純物を混ぜると電気が流れるようになり、ある種の鉛合金は極低温で電気抵抗が完全にゼロになります。元になる粒子はどれも原子核と電子で、法則は量子力学とクーロン力だけです。それでも物質ごとにまったく違う振る舞いが現れるのはなぜか。固体物理は、この問いに「周期性」と「多体系の統計」という 2 本の柱で答えようとする分野です。

このテーマは 6 つの章で、次の順に進みます。

  1. 結晶構造と格子振動(この記事)。原子の並びと、その振動(フォノン)を扱います。固体の比熱の大部分は、この振動で決まります。
  2. 自由電子気体。金属中の伝導電子を、結晶の影響を無視した理想気体として扱います。Drude 模型から Sommerfeld 理論へ進み、電子比熱と状態密度を計算します。
  3. Bloch の定理とバンド理論。結晶の周期ポテンシャルが電子の波動関数とエネルギーをどう変えるかを調べます。金属・絶縁体・半導体の区別はここで生まれます。
  4. 磁性。電子間の相互作用(交換相互作用)が磁気秩序を生む仕組みを、Heisenberg 模型と平均場理論、スピン波で見ます。
  5. 超伝導。電子間の弱い引力がフェルミ面を不安定にして対を作る Cooper 不安定性から BCS 理論へ進み、現象論として Ginzburg–Landau 理論を学びます。
  6. トポロジカル相。バンドの波動関数がもつ幾何学(Berry 曲率)が、量子 Hall 効果の厳密な量子化を説明します。

前提は量子力学(1 次元系の調和振動子まで)と統計力学(カノニカル集団)です。この第 1 章では、まず電子を脇に置き、原子の配列そのものと、その配列のまわりの集団的な振動だけを扱います。電子はあとの章で、この章で用意する格子・逆格子・Brillouin ゾーンという舞台に登場します。

理想的な結晶では、ある原子の配置が空間を一定の間隔で繰り返し埋め尽くしています。この「繰り返しの骨組み」だけを取り出したのが Bravais 格子です。

定義 2.1(Bravais 格子)↗

3 次元空間 R3\mathbb{R}^3 の 1 次独立なベクトル a1,a2,a3\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\boldsymbol{a}_3(基本並進ベクトル)に対し、

Λ={R=n1a1+n2a2+n3a3 | n1,n2,n3∈Z}\Lambda = \left\{ \boldsymbol{R} = n_1\boldsymbol{a}_1 + n_2\boldsymbol{a}_2 + n_3\boldsymbol{a}_3 \ \middle|\ n_1,n_2,n_3\in\mathbb{Z} \right\}

を Bravais 格子と呼び、R∈Λ\boldsymbol{R}\in\Lambda を格子ベクトルという。Λ\Lambda のどの点から見ても、周囲の点の配置は同じである。

結晶構造は、Bravais 格子の各点に同じ原子の組を貼ったものです。この原子の組を基底と呼び、格子点 R\boldsymbol{R} に対し基底の jj 番目の原子は R+dj\boldsymbol{R}+\boldsymbol{d}_j に置かれます。

結晶構造=Bravais 格子+基底.\text{結晶構造} = \text{Bravais 格子} + \text{基底}.

たとえばダイヤモンド構造は面心立方格子に 2 原子の基底を貼ったもので、格子点と原子の位置は一致しません。蜂の巣状の炭素シート(グラフェン)の原子配置も Bravais 格子にはならず、三角格子に 2 原子の基底を貼ったものです。

基本並進ベクトルの選び方は一意ではありません。たとえば a1,a2\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2 の代わりに a1,a2+a1\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2+\boldsymbol{a}_1 を使っても同じ Λ\Lambda が得られます。

定義 2.2(基本単位胞とWigner–Seitz 胞)↗

基本並進ベクトルがつくる平行六面体 {x1a1+x2a2+x3a3∣0≤xi<1}\{x_1\boldsymbol{a}_1+x_2\boldsymbol{a}_2+x_3\boldsymbol{a}_3 \mid 0\le x_i<1\} を基本単位胞といい、その体積は Vc=∣a1⋅(a2×a3)∣V_c = |\boldsymbol{a}_1\cdot(\boldsymbol{a}_2\times\boldsymbol{a}_3)| である。 一方、ある格子点 R0\boldsymbol{R}_0 に対し、R0\boldsymbol{R}_0 が他のどの格子点よりも近い(またはひとしく近い)点の全体

WS(R0)={r | ∣r−R0∣≤∣r−R∣  (∀R∈Λ)}\mathrm{WS}(\boldsymbol{R}_0) = \left\{ \boldsymbol{r} \ \middle|\ |\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0| \le |\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}|\ \ (\forall \boldsymbol{R}\in\Lambda) \right\}

を Wigner–Seitz 胞という。

基本単位胞は選び方で形が変わりますが、体積 VcV_c は選び方によらず格子だけで決まります(基本並進ベクトルの取り替えは整数係数で行列式 ±1\pm1 の変換で、体積を変えません)。Wigner–Seitz 胞は格子の対称性をすべて保つ形に自動で定まるので、物理ではこちらがよく使われます。下の図に三角格子の例を示します。

a₁a₂Rウィグナー・ザイツ胞(灰、六角形)基本単位胞(色つき、平行四辺形)
二次元三角格子。基本並進ベクトル a₁, a₂ がつくる平行四辺形(色つき)は基本単位胞、ある格子点 R を中心にした正六角形は Wigner–Seitz 胞である。形は違うが、面積は同じ。

3 次元の Bravais 格子は、対称性の違いによって全部で 14 種類(立方 3、正方 2、直方 4、単斜 2、三斜 1、三方 1、六方 1)に分類されます(Bravais 格子の分類)。この分類の証明は群論の仕事で本記事の範囲を超えるので、ここでは最もよく現れる 3 つの立方格子だけを覚えておいてください。

格子基本並進ベクトルの例(立方体の一辺 aa)VcV_c最近接数
単純立方 (sc)ax^, ay^, az^a\hat{x},\ a\hat{y},\ a\hat{z}a3a^36
体心立方 (bcc)a2(−1,1,1), a2(1,−1,1), a2(1,1,−1)\tfrac{a}{2}(-1,1,1),\ \tfrac{a}{2}(1,-1,1),\ \tfrac{a}{2}(1,1,-1)a3/2a^3/28
面心立方 (fcc)a2(0,1,1), a2(1,0,1), a2(1,1,0)\tfrac{a}{2}(0,1,1),\ \tfrac{a}{2}(1,0,1),\ \tfrac{a}{2}(1,1,0)a3/4a^3/412

銅・アルミニウム・金は fcc、鉄(室温)・ナトリウム・タングステンは bcc、塩化ナトリウム型結晶は fcc に 2 イオンの基底を貼った構造です。

周期的な構造を波で調べるとき、「その周期と干渉して消えない波」を知りたくなります。それが逆格子です。

定義 3.1(逆格子)↗

Bravais 格子 Λ\Lambda に対し、

Λ∗={G∈R3 | eiG⋅R=1  (∀R∈Λ)}={G | G⋅R∈2πZ  (∀R∈Λ)}\Lambda^{*} = \left\{ \boldsymbol{G}\in\mathbb{R}^3 \ \middle|\ e^{i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{R}} = 1\ \ (\forall \boldsymbol{R}\in\Lambda) \right\} = \left\{ \boldsymbol{G} \ \middle|\ \boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{R}\in 2\pi\mathbb{Z}\ \ (\forall \boldsymbol{R}\in\Lambda)\right\}

を逆格子と呼ぶ。

この定義は基本並進ベクトルに触れていません。次の命題が、Λ∗\Lambda^* もまた Bravais 格子であり、具体的に基本ベクトルが書けることを保証します。

命題 3.2(逆格子の基本ベクトル)✓

Λ\Lambda の基本並進ベクトルを a1,a2,a3\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\boldsymbol{a}_3、Vc=a1⋅(a2×a3) (≠0)V_c = \boldsymbol{a}_1\cdot(\boldsymbol{a}_2\times\boldsymbol{a}_3)\ (\ne0) とし、

b1=2πVc a2×a3,b2=2πVc a3×a1,b3=2πVc a1×a2\boldsymbol{b}_1 = \frac{2\pi}{V_c}\,\boldsymbol{a}_2\times\boldsymbol{a}_3,\quad \boldsymbol{b}_2 = \frac{2\pi}{V_c}\,\boldsymbol{a}_3\times\boldsymbol{a}_1,\quad \boldsymbol{b}_3 = \frac{2\pi}{V_c}\,\boldsymbol{a}_1\times\boldsymbol{a}_2

とおく。このとき次が成り立つ。

  1. bi⋅aj=2πδij\boldsymbol{b}_i\cdot\boldsymbol{a}_j = 2\pi\delta_{ij}。
  2. Λ∗={hb1+kb2+lb3∣h,k,l∈Z}\Lambda^{*} = \{ h\boldsymbol{b}_1+k\boldsymbol{b}_2+l\boldsymbol{b}_3 \mid h,k,l\in\mathbb{Z}\}。すなわち Λ∗\Lambda^* は b1,b2,b3\boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{b}_2,\boldsymbol{b}_3 を基本ベクトルとする Bravais 格子である。
  3. Λ∗\Lambda^* の基本単位胞の体積は (2π)3/Vc(2\pi)^3/V_c である。
  4. (Λ∗)∗=Λ(\Lambda^*)^* = \Lambda。
証明(命題 3.2)

(1) スカラー三重積の性質から a2×a3\boldsymbol{a}_2\times\boldsymbol{a}_3 は a2,a3\boldsymbol{a}_2,\boldsymbol{a}_3 と直交するので b1⋅a2=b1⋅a3=0\boldsymbol{b}_1\cdot\boldsymbol{a}_2=\boldsymbol{b}_1\cdot\boldsymbol{a}_3=0。また b1⋅a1=2πVca1⋅(a2×a3)=2π\boldsymbol{b}_1\cdot\boldsymbol{a}_1 = \frac{2\pi}{V_c}\boldsymbol{a}_1\cdot(\boldsymbol{a}_2\times\boldsymbol{a}_3)=2\pi。b2,b3\boldsymbol{b}_2,\boldsymbol{b}_3 も巡回的に同じです。

(2) a1,a2,a3\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\boldsymbol{a}_3 は R3\mathbb{R}^3 の基底なので、任意の G\boldsymbol{G} は G=hb1+kb2+lb3\boldsymbol{G}=h\boldsymbol{b}_1+k\boldsymbol{b}_2+l\boldsymbol{b}_3(h,k,l∈Rh,k,l\in\mathbb{R})と一意に書けます。b1,b2,b3\boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{b}_2,\boldsymbol{b}_3 も 1 次独立です((1) より aj\boldsymbol{a}_j との内積行列が 2πI2\pi I だから)。(1) を使うと G⋅a1=2πh\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{a}_1 = 2\pi h、同様に G⋅a2=2πk\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{a}_2=2\pi k、G⋅a3=2πl\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{a}_3=2\pi l です。G∈Λ∗\boldsymbol{G}\in\Lambda^* は、すべての R=∑niai\boldsymbol{R}=\sum n_i\boldsymbol{a}_i について G⋅R=2π(n1h+n2k+n3l)∈2πZ\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{R} = 2\pi(n_1h+n_2k+n_3l)\in2\pi\mathbb{Z} となること、すなわち((n1,n2,n3)(n_1,n_2,n_3) に単位ベクトルを選んで)h,k,l∈Zh,k,l\in\mathbb{Z} であることと同値です。

(3) b1⋅(b2×b3)\boldsymbol{b}_1\cdot(\boldsymbol{b}_2\times\boldsymbol{b}_3) を計算します。(a3×a1)×(a1×a2)=[(a3×a1)⋅a2] a1=Vca1(\boldsymbol{a}_3\times\boldsymbol{a}_1)\times(\boldsymbol{a}_1\times\boldsymbol{a}_2) = [(\boldsymbol{a}_3\times\boldsymbol{a}_1)\cdot\boldsymbol{a}_2]\,\boldsymbol{a}_1 = V_c\boldsymbol{a}_1(u×(v×w)\boldsymbol{u}\times(\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{w}) の公式で v=a1\boldsymbol{v}=\boldsymbol{a}_1 が両方に現れることを使う)なので

b1⋅(b2×b3)=(2π)3Vc3 (a2×a3)⋅Vca1=(2π)3Vc.\boldsymbol{b}_1\cdot(\boldsymbol{b}_2\times\boldsymbol{b}_3) = \frac{(2\pi)^3}{V_c^3}\,(\boldsymbol{a}_2\times\boldsymbol{a}_3)\cdot V_c\boldsymbol{a}_1 = \frac{(2\pi)^3}{V_c}.

(4) (2) を Λ∗\Lambda^* と bi\boldsymbol{b}_i に適用すると、(Λ∗)∗(\Lambda^*)^* の基本ベクトルは bi⋅cj=2πδij\boldsymbol{b}_i\cdot\boldsymbol{c}_j = 2\pi\delta_{ij} で決まる cj\boldsymbol{c}_j です。(1) より cj=aj\boldsymbol{c}_j=\boldsymbol{a}_j が解で、bi\boldsymbol{b}_i が基底なので一意です。よって (Λ∗)∗=Λ(\Lambda^*)^*=\Lambda。

(1) の関係 bi⋅aj=2πδij\boldsymbol{b}_i\cdot\boldsymbol{a}_j=2\pi\delta_{ij} を覚えておけば、bi\boldsymbol{b}_i の具体形は忘れても導けます。2 次元では a3=z^\boldsymbol{a}_3=\hat{z} と置いて b1,b2\boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{b}_2 だけを使えばよく、上の三角格子の逆格子を実際に計算すると、下の図のような「30∘30^\circ 回転した三角格子」になります。

例 3.3(fcc の逆格子は bcc)

fcc の基本ベクトル a1=a2(0,1,1)\boldsymbol{a}_1=\tfrac a2(0,1,1)、a2=a2(1,0,1)\boldsymbol{a}_2=\tfrac a2(1,0,1)、a3=a2(1,1,0)\boldsymbol{a}_3=\tfrac a2(1,1,0) では、Vc=a3/4V_c=a^3/4 で

a2×a3=a24(0⋅0−1⋅1, 1⋅1−1⋅0, 1⋅1−0⋅1)=a24(−1,1,1)\boldsymbol{a}_2\times\boldsymbol{a}_3 = \frac{a^2}{4}(0\cdot0-1\cdot1,\ 1\cdot1-1\cdot0,\ 1\cdot1-0\cdot1) = \frac{a^2}{4}(-1,1,1)

なので b1=2πa3/4⋅a24(−1,1,1)=2πa(−1,1,1)\boldsymbol{b}_1 = \dfrac{2\pi}{a^3/4}\cdot\dfrac{a^2}{4}(-1,1,1) = \dfrac{2\pi}{a}(-1,1,1)。巡回的に b2=2πa(1,−1,1)\boldsymbol{b}_2=\frac{2\pi}{a}(1,-1,1)、b3=2πa(1,1,−1)\boldsymbol{b}_3=\frac{2\pi}{a}(1,1,-1) です。これは一辺が 4π/a4\pi/a の立方体を単位とする bcc の基本ベクトル(上の表で a→4π/aa\to4\pi/a とおいたもの)ですから、fcc の逆格子は bcc です。同様に bcc の逆格子は fcc です。

最も簡単な 1 次元の場合を図に示します。間隔 aa で並ぶ格子に対し、b⋅a=2πb\cdot a=2\pi で決まる間隔 b=2π/ab=2\pi/a の格子が逆格子です。

ab = 2π/a実空間の格子逆格子
1 次元の格子と逆格子。実空間で間隔 a の格子に対し、逆格子の間隔は b = 2π/a(b·a = 2π)。a を大きくすると b は小さくなる。図の長さの比は目安である。

定義 3.4(第 1 Brillouin ゾーン)↗

逆格子 Λ∗\Lambda^* の Wigner–Seitz 胞を第 1 Brillouin ゾーン(BZ)という。

逆格子空間(k\boldsymbol{k} 空間)で原点 Γ\Gamma に最も近い領域が BZ です。BZ の境界は、原点と各逆格子ベクトル G\boldsymbol{G} を結ぶ線分の垂直二等分面(Bragg 面)でできています。次節では、Bragg 面の上でちょうど X 線が反射されることを見ます。三角格子の BZ は正六角形で、その特別な点に慣習的な名前 Γ\Gamma(中心)、M(辺の中点)、K(頂点)がついています。

ΓMKb₁b₂
三角格子の逆格子(黒い点)と第 1 Brillouin ゾーン(正六角形)。実空間の格子を 30° 回した三角格子になる。Γ はゾーン中心、M は辺の中点、K は頂点。b₁, b₂ は逆格子の基本ベクトル。

BZ の使い方は 2 つあります。

  • 周期関数の展開では、Λ\Lambda 周期の関数 f(r+R)=f(r)f(\boldsymbol{r}+\boldsymbol{R})=f(\boldsymbol{r}) は逆格子ベクトルで f(r)=∑G∈Λ∗fGeiG⋅rf(\boldsymbol{r}) = \sum_{\boldsymbol{G}\in\Lambda^*} f_{\boldsymbol{G}} e^{i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{r}} と Fourier 展開されます。eiG⋅re^{i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{r}} が Λ\Lambda 周期なのは、Λ∗\Lambda^* の定義そのものです。
  • 波数の「重複の整理」では、波数 k\boldsymbol{k} と k+G\boldsymbol{k}+\boldsymbol{G} が格子点上の波として区別できないため、k\boldsymbol{k} を BZ の中だけで考えれば足ります(§6.1)。

4. X 線回折:Laue 条件と Bragg 条件

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結晶に波数 k\boldsymbol{k} の平面波(X 線)を当て、波数 k′\boldsymbol{k}' の方向に散乱される強度を考えます。∣k′∣=∣k∣|\boldsymbol{k}'|=|\boldsymbol{k}| の弾性散乱を仮定し、Δk=k′−k\Delta\boldsymbol{k}=\boldsymbol{k}'-\boldsymbol{k}(散乱ベクトル)とおきます。各格子点にある散乱体(以下、「原子」)が球面波を出すと、遠方で観測する振幅は、位置 rj\boldsymbol{r}_j の散乱体からの寄与の和

A(Δk)∝∑jfj e−iΔk⋅rjA(\Delta\boldsymbol{k}) \propto \sum_{j} f_j\, e^{-i\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}_j}

です(運動学的近似:多重散乱と吸収を無視する)。fjf_j は原子ごとの散乱能です。この式は、入射波の位相 eik⋅rje^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}_j} と、rj\boldsymbol{r}_j から検出器までの位相のずれ e−ik′⋅rje^{-i\boldsymbol{k}'\cdot\boldsymbol{r}_j} の積です。ここで散乱ベクトルを考えるのは、各散乱体の位相が入射波と散乱波の波数の差 Δk\Delta\boldsymbol{k} だけで決まるからです。格子点すべてで位相がそろえば波は強め合い、そろわなければ打ち消し合います。この「そろう条件」を書き下したものが Laue 条件です。

まず基底が 1 原子の場合を考え、結晶を N1×N2×N3N_1\times N_2\times N_3 個の格子点 R=n1a1+n2a2+n3a3\boldsymbol{R}=n_1\boldsymbol{a}_1+n_2\boldsymbol{a}_2+n_3\boldsymbol{a}_3(0≤ni<Ni0\le n_i<N_i)の平行六面体とします。

補題 4.1(幾何級数の二乗)✓

実数 x∉2πZx\notin2\pi\mathbb{Z} に対し、∣∑n=0N−1einx∣2=sin⁡2(Nx/2)sin⁡2(x/2)\left|\sum_{n=0}^{N-1}e^{inx}\right|^2 = \dfrac{\sin^2(Nx/2)}{\sin^2(x/2)}。x∈2πZx\in2\pi\mathbb{Z} のときは左辺 =N2=N^2 である。また x∉2πZx\notin 2\pi\mathbb{Z} のとき左辺は 1/sin⁡2(x/2)1/\sin^2(x/2) 以下である。

証明(補題 4.1)

x∉2πZx\notin2\pi\mathbb{Z} なら等比級数の和で ∑n=0N−1einx=eiNx−1eix−1=ei(N−1)x/2sin⁡(Nx/2)sin⁡(x/2)\sum_{n=0}^{N-1}e^{inx}=\dfrac{e^{iNx}-1}{e^{ix}-1}=e^{i(N-1)x/2}\dfrac{\sin(Nx/2)}{\sin(x/2)}。絶対値の二乗をとれば主張の式で、sin⁡2(Nx/2)≤1\sin^2(Nx/2)\le1 から上界も従います。x∈2πZx\in2\pi\mathbb{Z} なら各項が 11 なので和は NN です。

定理 4.2(Laue の条件)✓

上の N1×N2×N3N_1\times N_2\times N_3 個の格子点からなる結晶について、散乱強度は

I(Δk)∝∏i=13sin⁡2 ⁣(Ni Δk⋅ai/2)sin⁡2 ⁣(Δk⋅ai/2)I(\Delta\boldsymbol{k}) \propto \prod_{i=1}^{3}\frac{\sin^2\!\left(N_i\,\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{a}_i/2\right)}{\sin^2\!\left(\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{a}_i/2\right)}

で与えられる。この強度の最大値 (N1N2N3)2(N_1N_2N_3)^2 に達するのは、Δk⋅ai∈2πZ\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{a}_i\in2\pi\mathbb{Z}(i=1,2,3i=1,2,3)となるとき、すなわち

Δk∈Λ∗\Delta\boldsymbol{k}\in\Lambda^{*}

のときに限る。それ以外の Δk\Delta\boldsymbol{k} では、NiN_i を大きくしても強度は各 ii について sin⁡−2\sin^{-2} で押さえられた値にとどまる。さらに弾性散乱 ∣k′∣=∣k∣|\boldsymbol{k}'|=|\boldsymbol{k}| の下では、Δk=G\Delta\boldsymbol{k}=\boldsymbol{G} は

2k⋅G+∣G∣2=02\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{G} + |\boldsymbol{G}|^2 = 0

と同値である。

証明(定理 4.2)

Δk⋅R=∑ini Δk⋅ai\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{R}=\sum_i n_i\,\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{a}_i なので、振幅は 3 つの幾何級数の積に分解します。

A∝∑n1,n2,n3e−i∑iniΔk⋅ai=∏i=13(∑ni=0Ni−1e−inixi),xi=Δk⋅ai.A \propto \sum_{n_1,n_2,n_3} e^{-i\sum_i n_i\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{a}_i} = \prod_{i=1}^3\left(\sum_{n_i=0}^{N_i-1}e^{-in_i x_i}\right),\qquad x_i=\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{a}_i .

各因子の絶対値の二乗を 補題 4.1 で書けば、強度の式が得られます。最大値は、各因子が Ni2N_i^2 をとるとき、つまり xi∈2πZx_i\in2\pi\mathbb{Z} のときで、それ以外の xix_i では因子は 1/sin⁡2(xi/2)<∞1/\sin^2(x_i/2)<\infty 以下です。条件 Δk⋅ai∈2πZ\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{a}_i\in2\pi\mathbb{Z} (i=1,2,3)(i=1,2,3) は、命題 3.2 の証明 (2) と同じ計算で Δk=hb1+kb2+lb3\Delta\boldsymbol{k}=h\boldsymbol{b}_1+k\boldsymbol{b}_2+l\boldsymbol{b}_3(h,k,l∈Zh,k,l\in\mathbb{Z})と同値です。

最後の同値は、k′=k+G\boldsymbol{k}'=\boldsymbol{k}+\boldsymbol{G} のとき ∣k′∣2=∣k∣2+2k⋅G+∣G∣2|\boldsymbol{k}'|^2=|\boldsymbol{k}|^2+2\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{G}+|\boldsymbol{G}|^2 なので、∣k′∣=∣k∣|\boldsymbol{k}'|=|\boldsymbol{k}| が 2k⋅G+∣G∣2=02\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{G}+|\boldsymbol{G}|^2=0 と同じだからです。

結晶が大きくなる(Ni→∞N_i\to\infty)と、強度のピークの幅は 1/Ni1/N_i の程度に細くなります。したがって、現実の結晶では「Δk\Delta\boldsymbol{k} が逆格子ベクトルに一致する方向にだけ鋭い反射が出る」と理解できます。これが X 線回折像が点の集まり(Laue 斑点)に見える理由です。

条件 2k⋅G+∣G∣2=02\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{G}+|\boldsymbol{G}|^2=0 を k⋅G^=−∣G∣/2\boldsymbol{k}\cdot\hat{\boldsymbol{G}}=-|\boldsymbol{G}|/2 と書き直すと、入射波数 k\boldsymbol{k} が Bragg 面(−G-\boldsymbol{G} の垂直二等分面)上にあるという意味になります。たとえば入射波が第 1 BZ の境界上にあるとき、ちょうど反射が起こります。波数をゾーン境界まで掃引していくと反射の「起きる瞬間」が見つかる、という視点は、第 3 章でバンドにギャップが開く場所を探すときにも再登場します。

Laue 条件は逆格子で書いた条件ですが、歴史的には W. H. Bragg と W. L. Bragg が、結晶を「格子面の積み重ね」とみなして鏡面反射の干渉条件を考えました。2 つが同じものであることを示します。

次の補題は、逆格子ベクトルの長さ ∣G0∣|\boldsymbol{G}_0| が格子面の間隔 dd の逆数に比例することを示すためのものです。これがあれば、Laue 条件を面間隔と角度の言葉に直せます。

補題 4.3(格子面と逆格子ベクトル)✓

G0∈Λ∗\boldsymbol{G}_0\in\Lambda^* が原始的(G0=hb1+kb2+lb3\boldsymbol{G}_0=h\boldsymbol{b}_1+k\boldsymbol{b}_2+l\boldsymbol{b}_3 の h,k,lh,k,l の最大公約数が 11、すなわち G0≠mG′\boldsymbol{G}_0\neq m\boldsymbol{G}'(m≥2m\ge2 の整数、G′∈Λ∗\boldsymbol{G}'\in\Lambda^*))とする。このとき平面 Pm={r∣G0⋅r=2πm}P_m=\{\boldsymbol{r}\mid\boldsymbol{G}_0\cdot\boldsymbol{r}=2\pi m\}(m∈Zm\in\mathbb{Z})の各々は格子点を含み、すべての格子点は、これらの平面のどれかの上にある。隣り合う平面の間隔は

d=2π∣G0∣d = \frac{2\pi}{|\boldsymbol{G}_0|}

である。

証明(補題 4.3)

R∈Λ\boldsymbol{R}\in\Lambda に対し G0⋅R∈2πZ\boldsymbol{G}_0\cdot\boldsymbol{R}\in2\pi\mathbb{Z}(Λ∗\Lambda^* の定義)なので、すべての格子点は何らかの PmP_m 上にあります。R=n1a1+n2a2+n3a3\boldsymbol{R}=n_1\boldsymbol{a}_1+n_2\boldsymbol{a}_2+n_3\boldsymbol{a}_3 に対し G0⋅R=2π(hn1+kn2+ln3)\boldsymbol{G}_0\cdot\boldsymbol{R}=2\pi(hn_1+kn_2+ln_3) です。gcd⁡(h,k,l)=1\gcd(h,k,l)=1 なので Bézout の等式により hn1+kn2+ln3=mhn_1+kn_2+ln_3=m を満たす整数 nin_i が任意の整数 mm について存在し、各 PmP_m は格子点を含みます。平面 PmP_m と Pm+1P_{m+1} は同じ法線 G0\boldsymbol{G}_0 をもつ平行な平面で、原点から測った距離は 2πm/∣G0∣2\pi m/|\boldsymbol{G}_0| と 2π(m+1)/∣G0∣2\pi(m+1)/|\boldsymbol{G}_0| です。間隔は 2π/∣G0∣2\pi/|\boldsymbol{G}_0|。

この PmP_m が「格子面」で、間隔 dd が面間隔です。ミラー指数 (hkl)(hkl) は、G0=hb1+kb2+lb3\boldsymbol{G}_0 = h\boldsymbol{b}_1+k\boldsymbol{b}_2+l\boldsymbol{b}_3 の係数のことです。

定理の証明の方針は、Laue 条件に G=nG0\boldsymbol{G}=n\boldsymbol{G}_0 を入れ、k\boldsymbol{k} と格子面のなす角 θ\theta を使って内積を書き直すことです。k\boldsymbol{k} が法線となす角は π/2−θ\pi/2-\theta(面に対して浅く入るほど法線からは遠い)で、cos⁡(π/2−θ)=sin⁡θ\cos(\pi/2-\theta)=\sin\theta となるため、sin⁡θ\sin\theta が現れます。

定理 4.4(Bragg の条件)✓

G=nG0\boldsymbol{G}=n\boldsymbol{G}_0(G0\boldsymbol{G}_0 は原始的、n≥1n\ge1 は整数)とする。X 線の波長を λ=2π/∣k∣\lambda=2\pi/|\boldsymbol{k}|、入射方向と格子面 PmP_m(法線 G0\boldsymbol{G}_0)がなす角(視射角)を θ\theta とする。このとき Laue 条件 2k⋅G+∣G∣2=02\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{G}+|\boldsymbol{G}|^2=0 は

2dsin⁡θ=nλ2d\sin\theta = n\lambda

と同値であり、散乱波は格子面について鏡面反射の方向に出る(k′\boldsymbol{k}' と面のなす角も θ\theta)。

証明(定理 4.4)

Laue 条件に G=nG0\boldsymbol{G}=n\boldsymbol{G}_0 を代入し、nn で割ると 2k⋅G0=−n∣G0∣22\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{G}_0=-n|\boldsymbol{G}_0|^2 です。右辺は負なので k⋅G0<0\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{G}_0<0、つまり k\boldsymbol{k} は格子面の法線 G0\boldsymbol{G}_0 に対して「向かってくる」向きです(n<0n<0 なら G0→−G0\boldsymbol{G}_0\to-\boldsymbol{G}_0 と読み替える)。格子面と k\boldsymbol{k} のなす角が θ\theta なら、k\boldsymbol{k} と法線のなす角は π/2−θ\pi/2-\theta なので k⋅G0=−∣k∣∣G0∣sin⁡θ\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{G}_0=-|\boldsymbol{k}||\boldsymbol{G}_0|\sin\theta。したがって

2∣k∣∣G0∣sin⁡θ=n∣G0∣2  ⟺  2∣k∣sin⁡θ=n∣G0∣.2|\boldsymbol{k}||\boldsymbol{G}_0|\sin\theta = n|\boldsymbol{G}_0|^2 \iff 2|\boldsymbol{k}|\sin\theta = n|\boldsymbol{G}_0| .

∣k∣=2π/λ|\boldsymbol{k}|=2\pi/\lambda、∣G0∣=2π/d|\boldsymbol{G}_0|=2\pi/d(補題 4.3)を代入すると 2⋅2πλsin⁡θ=n2πd2\cdot\frac{2\pi}{\lambda}\sin\theta=n\frac{2\pi}{d}、すなわち 2dsin⁡θ=nλ2d\sin\theta=n\lambda です。

鏡面反射は次のように分かります。k′=k+nG0\boldsymbol{k}'=\boldsymbol{k}+n\boldsymbol{G}_0 は k\boldsymbol{k} に面の法線方向のベクトルを足したものなので、面に平行な成分は k′\boldsymbol{k}' と k\boldsymbol{k} で等しく、法線成分は ∣k′∣=∣k∣|\boldsymbol{k}'|=|\boldsymbol{k}| から符号だけが反転します。これは鏡面反射です。

物理的な意味は、隣り合う格子面で反射した 2 本の波の光路差が 2dsin⁡θ2d\sin\theta で、それが波長の整数倍のときに強め合うということです(下の図)。Laue 条件はこの幾何学的議論を、格子面の取り方に依存しない形で書いたものです。

d入射 X 線反射 X 線θ格子面 P_m(間隔 d = 2π/|G₀|)
Bragg 反射。隣り合う格子面(間隔 d)で反射した 2 本の X 線の光路差は 2d sinθ。これが波長 λ の整数倍に等しいとき干渉して強め合う。

基底が複数原子(位置 dj\boldsymbol{d}_j、散乱能 fjf_j)なら、Laue 条件 Δk=G\Delta\boldsymbol{k}=\boldsymbol{G} で格子点の和がそろう点は変わらず、その点での振幅に基底による因子がかかります。

命題 4.5(構造因子)✓

基底をもつ結晶で、散乱ベクトルが逆格子ベクトル G\boldsymbol{G} に等しいとき、振幅は格子点の個数 NN に

SG=∑jfj e−iG⋅djS_{\boldsymbol{G}} = \sum_j f_j\,e^{-i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{d}_j}

をかけたものになる。SG=0S_{\boldsymbol{G}}=0 なら、Laue 条件が満たされていても反射は消える(消滅則)。

証明(命題 4.5)

原子位置は R+dj\boldsymbol{R}+\boldsymbol{d}_j なので、振幅は ∑R∑jfje−iΔk⋅(R+dj)=(∑Re−iΔk⋅R)(∑jfje−iΔk⋅dj)\sum_{\boldsymbol{R}}\sum_jf_je^{-i\Delta\boldsymbol{k}\cdot(\boldsymbol{R}+\boldsymbol{d}_j)} = \left(\sum_{\boldsymbol{R}}e^{-i\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{R}}\right)\left(\sum_jf_je^{-i\Delta\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{d}_j}\right) と因数分解します。第 1 因子は 定理 4.2 により Δk=G\Delta\boldsymbol{k}=\boldsymbol{G} で NN(各項が e−iG⋅R=1e^{-i\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{R}}=1)となり、第 2 因子は Δk=G\Delta\boldsymbol{k}=\boldsymbol{G} で SGS_{\boldsymbol{G}} です。

例 4.6(立方体の基本胞で見た bcc の消滅則)

bcc 結晶を、一辺 aa の単純立方格子に基底 d1=0\boldsymbol{d}_1=\boldsymbol{0}、d2=a2(1,1,1)\boldsymbol{d}_2=\tfrac a2(1,1,1) の 2 原子(同種で f1=f2=ff_1=f_2=f)を貼ったものとみなします。単純立方格子の逆格子は G=2πa(h,k,l)\boldsymbol{G}=\frac{2\pi}{a}(h,k,l)(h,k,l∈Zh,k,l\in\mathbb{Z})で、

SG=f(1+e−iπ(h+k+l))={2f(h+k+l が偶数)0(h+k+l が奇数)S_{\boldsymbol{G}} = f\left(1+e^{-i\pi(h+k+l)}\right) = \begin{cases} 2f & (h+k+l\ \text{が偶数})\\ 0 & (h+k+l\ \text{が奇数})\end{cases}

です。つまり (100)(100) や (111)(111) は消え、(110)(110) や (200)(200) が最初の反射として現れます。粉末 X 線回折でこの消滅則を調べれば、結晶が bcc か単純立方かを判定できます。また、fcc では h,k,lh,k,l がすべて偶数かすべて奇数のときだけ反射が出ます(演習)。

原子は格子点にじっとしているのではなく、有限温度ではまわりで振動しています。ここでは最も簡単な場合、質量 mm の原子が間隔 aa で 1 列に並び、隣り合う原子がばね定数 KK のばねで結ばれた鎖を考えます。nn 番目の原子のつり合い位置からの変位を unu_n とします。ポテンシャルエネルギーは、隣り合う原子の相対変位のみに依存する調和近似

U=K2∑n(un+1−un)2U = \frac{K}{2}\sum_{n}\left(u_{n+1}-u_n\right)^2

です。実在の原子間ポテンシャルは平衡点のまわりで (変位)2(\text{変位})^2 の項から始まるので、微小振動ではこの近似が成り立ちます(2 次より高次の項は非調和項と呼ばれ、熱膨張や熱伝導に関わりますが、本記事では扱いません)。運動方程式は

mu¨n=−∂U∂un=K(un+1+un−1−2un).m\ddot{u}_n = -\frac{\partial U}{\partial u_n} = K\left(u_{n+1}+u_{n-1}-2u_n\right) .

境界条件は、原子が NN 個の輪(周期境界条件)un+N=unu_{n+N}=u_n とします。これは Born–von Karman の周期境界条件と呼ばれる便法で、端の効果を消して並進対称性を保つためのものです。NN が大きければ、バルクの性質に影響しません。

定理 5.1(1 次元単原子鎖の基準振動)✓

上の鎖の運動方程式の解空間は、NN 個の基準振動

un(t)=A ei(kna−ωkt),k=2πjNa  (j=0,1,…,N−1 または −N2<j≤N2),u_n(t) = A\,e^{i(kna-\omega_kt)},\qquad k=\frac{2\pi j}{Na}\ \ (j=0,1,\ldots,N-1\ \text{または}\ -\tfrac N2<j\le\tfrac N2),ωk=2Km∣sin⁡ka2∣\omega_k = 2\sqrt{\frac{K}{m}}\left|\sin\frac{ka}{2}\right|

で張られる。波数 kk と k+2π/ak+2\pi/a は同じ振動を表すので、kk は第 1 Brillouin ゾーン −π/a<k≤π/a-\pi/a<k\le\pi/a の中だけで数えれば十分である。

証明(定理 5.1)

運動方程式は線形で係数が nn によらないので、un=Aei(kna−ωt)u_n=Ae^{i(kna-\omega t)} を試します。左辺は −mω2un-m\omega^2u_n、右辺は K(eika+e−ika−2)un=−2K(1−cos⁡ka)un=−4Ksin⁡2(ka/2) unK(e^{ika}+e^{-ika}-2)u_n=-2K(1-\cos ka)u_n=-4K\sin^2(ka/2)\,u_n です。よって

mω2=4Ksin⁡2ka2⟹ω=ωk=2Km∣sin⁡ka2∣.m\omega^2 = 4K\sin^2\frac{ka}{2}\quad\Longrightarrow\quad \omega=\omega_k = 2\sqrt{\frac Km}\left|\sin\frac{ka}2\right| .

周期境界条件 un+N=unu_{n+N}=u_n は eikNa=1e^{ikNa}=1、すなわち k=2πj/(Na)k=2\pi j/(Na) (j∈Zj\in\mathbb{Z}) を要求します。さらに k→k+2π/ak\to k+2\pi/a で eiknae^{ikna} は n∈Zn\in\mathbb{Z} について不変(e2πin=1e^{2\pi in}=1)なので、unu_n の値は同じです。jj と j+Nj+N が同じ振動を与えるので、独立な kk は jj の剰余類 NN 個、すなわち BZ 内の NN 個です。変位の自由度も NN 個で、異なる kk の空間パターン eiknae^{ikna} は互いに直交します(k≠k′k\neq k' で ∑nei(k−k′)na=0\sum_ne^{i(k-k')na}=0、幾何級数の和)から、NN 個の kk のパターンは NN 次元空間の基底をなし、任意の初期変位がこれらの重ね合わせで書けます。各 kk の時間依存は e∓iωkte^{\mp i\omega_kt} の 2 解(初期変位と初期速度に対応)です。

分散関係 ωk\omega_k は k→0k\to0 で ωk≃K/m a∣k∣\omega_k\simeq\sqrt{K/m}\,a|k| と線形になります。これは音波で、音速は v=aK/mv=a\sqrt{K/m} です。長波長の極限で振動は連続体の弾性波に一致します。ゾーン境界 k=±π/ak=\pm\pi/a では ωk\omega_k は最大値 2K/m2\sqrt{K/m} をとり、群速度 dω/dkd\omega/dk が 00 になります(定在波)。

5.2. 1 次元 2 原子鎖と光学モード

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基底が 2 原子のとき、新しい種類の振動が現れます。質量 m1,m2m_1,m_2 の原子が交互に並び、すべての隣接原子間のばね定数が KK、単位胞の長さが aa の鎖で、nn 番目の単位胞の 2 原子の変位を un,vnu_n,v_n とします。

ここでの方針は、単原子鎖と同じように波の形を仮定して運動方程式に代入し、振幅 A,BA,B についての連立 1 次方程式を作ることです。この方程式が A=B=0A=B=0 以外の解をもつ(実際に振動が起きる)ための条件から、ω\omega が決まります。

命題 5.2(2 原子鎖の分散関係)✓

2 原子鎖の基準振動の振動数は、各 kk について次の 2 本の枝をもつ。

ω±2(k)=Km1m2[(m1+m2)±(m1+m2)2−4m1m2sin⁡2ka2].\omega_{\pm}^2(k) = \frac{K}{m_1m_2}\left[(m_1+m_2)\pm\sqrt{(m_1+m_2)^2-4m_1m_2\sin^2\frac{ka}{2}}\right] .

ω−\omega_- は k→0k\to0 で 00 に近づく音響枝、ω+\omega_+ は k=0k=0 でも ω+(0)=2K(m1+m2)/(m1m2)\omega_+(0)=\sqrt{2K(m_1+m_2)/(m_1m_2)} と有限の値をとる光学枝である。m1≠m2m_1\neq m_2 のとき、ゾーン境界 k=π/ak=\pi/a で 2 つの枝の間にギャップ 2K/min⁡(m1,m2)−2K/max⁡(m1,m2)\sqrt{2K/\min(m_1,m_2)}-\sqrt{2K/\max(m_1,m_2)} が開く。

証明(命題 5.2)

運動方程式は

m1u¨n=K(vn+vn−1−2un),m2v¨n=K(un+1+un−2vn).m_1\ddot u_n = K(v_n+v_{n-1}-2u_n),\qquad m_2\ddot v_n=K(u_{n+1}+u_n-2v_n).

un=Aei(kna−ωt)u_n=Ae^{i(kna-\omega t)}、vn=Bei(kna−ωt)v_n=Be^{i(kna-\omega t)} を代入すると

(2K−m1ω2)A−K(1+e−ika)B=0,−K(1+eika)A+(2K−m2ω2)B=0.\begin{aligned} (2K-m_1\omega^2)A - K(1+e^{-ika})B &= 0,\\ -K(1+e^{ika})A + (2K-m_2\omega^2)B &= 0 . \end{aligned}

A,BA,B が自明でない解をもつ条件は係数行列の行列式がゼロ、すなわち (2K−m1ω2)(2K−m2ω2)=K2∣1+eika∣2=4K2cos⁡2(ka/2)(2K-m_1\omega^2)(2K-m_2\omega^2)=K^2|1+e^{ika}|^2=4K^2\cos^2(ka/2) です。展開して cos⁡2=1−sin⁡2\cos^2=1-\sin^2 を使うと

m1m2 ω4−2K(m1+m2) ω2+4K2sin⁡2ka2=0.m_1m_2\,\omega^4 - 2K(m_1+m_2)\,\omega^2 + 4K^2\sin^2\frac{ka}2 = 0 .

ω2\omega^2 についての 2 次方程式で、解の公式から ω±2\omega_\pm^2 の式が得られます。k=0k=0 では sin⁡=0\sin=0 なので、解は ω2=0\omega^2=0 と ω2=2K(m1+m2)/(m1m2)\omega^2=2K(m_1+m_2)/(m_1m_2)。ka=πka=\pi では根号の中が (m1+m2)2−4m1m2=(m1−m2)2(m_1+m_2)^2-4m_1m_2=(m_1-m_2)^2 となるので、ω±2=Km1m2[(m1+m2)±∣m1−m2∣]\omega_\pm^2=\frac{K}{m_1m_2}\left[(m_1+m_2)\pm|m_1-m_2|\right] で、ω+2=2K/min⁡(m1,m2)\omega_+^2=2K/\min(m_1,m_2)、ω−2=2K/max⁡(m1,m2)\omega_-^2=2K/\max(m_1,m_2) です。

−π/a0π/a−π/a0π/a波数 k波数 k(a) 1 種類の原子(b) 2 種類の原子ωω光学枝音響枝ギャップ
フォノンの分散関係。(a) 1 種類の原子:音響モードのみ。k→0 で傾きが音速になり、ゾーン境界で最大。(b) 質量比 1:2 の 2 種類の原子:音響枝(色つき)と光学枝(黒)に分かれ、ゾーン境界にギャップが開く。

光学モードでは、隣り合う 2 原子が逆向きに動きます。イオン結晶ではこれが電気双極子の振動になるため、赤外光と強く結合し、名前の由来になっています。一般に、基底に rr 個の原子がある 3 次元結晶には 3r3r 本の枝があり、そのうち 3 本が音響枝(k→0k\to0 で ω→0\omega\to0)、残り 3r−33r-3 本が光学枝です。この一般の主張(力定数行列の対角化)は、以下では使いません。

6. フォノン:調和振動子としての量子化

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古典的な基準振動を量子化します。NN 個の原子の鎖で、ハミルトニアンは

H=∑n=1Npn22m+K2∑n=1N(un+1−un)2,[un,pn′]=iℏδnn′.H=\sum_{n=1}^N\frac{p_n^2}{2m}+\frac K2\sum_{n=1}^N(u_{n+1}-u_n)^2,\qquad [u_n,p_{n'}]=i\hbar\delta_{nn'} .

波数の許される値の集合を BZN={2πj/(Na)}\mathrm{BZ}_N=\{2\pi j/(Na)\}(第 1 BZ の中の NN 個)として、Fourier 変換

Qk=1N∑nune−ikna,Pk=1N∑npne−iknaQ_k = \frac1{\sqrt N}\sum_n u_n e^{-ikna},\qquad P_k=\frac1{\sqrt N}\sum_n p_n e^{-ikna}

を定義します。un,pnu_n,p_n は実(エルミート)なので Qk†=Q−kQ_k^\dagger=Q_{-k}、Pk†=P−kP_k^\dagger=P_{-k} です。

この変換のねらいは、隣の原子と結びついた変位 unu_n を、波数ごとにばらばらに動く変数 QkQ_k に取り替えることです。そうすると HH は kk ごとの調和振動子の和になり、1 次元調和振動子の結果がそのまま使えます。次の定理の証明は、(i) HH を Qk,PkQ_k,P_k で書く、(ii) 交換関係を確かめる、(iii) 昇降演算子で書き直す、の順に進みます。

定理 6.1(フォノンへの量子化)✓

上のハミルトニアンは

H=∑k∈BZN(PkP−k2m+12mωk2QkQ−k)=∑k∈BZNℏωk(ak†ak+12)H=\sum_{k\in\mathrm{BZ}_N}\left(\frac{P_kP_{-k}}{2m}+\frac12m\omega_k^2Q_kQ_{-k}\right) =\sum_{k\in\mathrm{BZ}_N}\hbar\omega_k\left(a_k^\dagger a_k+\frac12\right)

と書ける。ここで ak=mωk2ℏ(Qk+iPkmωk)a_k=\sqrt{\dfrac{m\omega_k}{2\hbar}}\left(Q_k+\dfrac{iP_k}{m\omega_k}\right)(ωk≠0\omega_k\neq0 の kk)は交換関係 [ak,ak′†]=δkk′[a_k,a_{k'}^\dagger]=\delta_{kk'}、[ak,ak′]=0[a_k,a_{k'}]=0 を満たす。したがって HH の固有値は、非負整数の組 {nk}\{n_k\}(フォノンの占有数)により

E{nk}=∑kℏωk(nk+12)E\{n_k\}=\sum_k\hbar\omega_k\left(n_k+\frac12\right)

で与えられる。励起量子 ℏωk\hbar\omega_k をフォノンという。

証明(定理 6.1)

運動エネルギーは ∑npn2=∑kPkP−k\sum_np_n^2=\sum_kP_kP_{-k}(Parseval:∑ne−i(k+k′)na=Nδk+k′,0\sum_n e^{-i(k+k')na}=N\delta_{k+k',0} より)です。位置エネルギーは un+1−unu_{n+1}-u_n の Fourier 変換が (eika−1)Qk(e^{ika}-1)Q_k なので、同様に ∑n(un+1−un)2=∑k∣eika−1∣2QkQ−k\sum_n(u_{n+1}-u_n)^2=\sum_k|e^{ika}-1|^2Q_kQ_{-k} で、∣eika−1∣2=4sin⁡2(ka/2)|e^{ika}-1|^2=4\sin^2(ka/2)。よって K2⋅4sin⁡2ka2=12mωk2\frac K2\cdot4\sin^2\frac{ka}2=\frac12m\omega_k^2(定理 5.1)となり第 1 の等号が出ます。

交換関係は [Qk,Pk′]=1N∑niℏe−i(k+k′)na=iℏδk+k′,0[Q_k,P_{k'}]=\frac1N\sum_{n}i\hbar e^{-i(k+k')na}=i\hbar\delta_{k+k',0}(異なる原子の u,pu,p は可換)、[Qk,Qk′]=[Pk,Pk′]=0[Q_k,Q_{k'}]=[P_k,P_{k'}]=0 です。aka_k の定義から、ak†=mωk/2ℏ (Q−k−iP−k/(mωk))a_k^\dagger=\sqrt{m\omega_k/2\hbar}\,(Q_{-k}-iP_{-k}/(m\omega_k)) なので

[ak,ak′†]=mω2ℏ(−imω[Qk,P−k′]+imω[Pk,Q−k′])=12ℏ(ℏδkk′+ℏδkk′)=δkk′[a_k,a_{k'}^\dagger]=\frac{m\omega}{2\hbar}\left(-\frac{i}{m\omega}[Q_k,P_{-k'}]+\frac{i}{m\omega}[P_k,Q_{-k'}]\right) =\frac1{2\hbar}\left(\hbar\delta_{kk'}+\hbar\delta_{kk'}\right)=\delta_{kk'}

です([Qk,P−k′]=iℏδkk′[Q_k,P_{-k'}]=i\hbar\delta_{kk'}、[Pk,Q−k′]=−iℏδkk′[P_k,Q_{-k'}]=-i\hbar\delta_{kk'} を使いました)。[ak,ak′][a_k,a_{k'}] は、imω([Qk,Pk′]+[Pk,Qk′])\frac{i}{m\omega}\left([Q_k,P_{k'}]+[P_k,Q_{k'}]\right) に比例し、これは k′=−kk'=-k(ωk=ωk′\omega_k=\omega_{k'})の場合に imω(iℏ−iℏ)=0\frac{i}{m\omega}(i\hbar-i\hbar)=0 となって消えます。次に ak†aka_k^\dagger a_k を和 ∑k\sum_k の中で計算すると、

∑kℏωkak†ak=∑k[mωk22Q−kQk+P−kPk2m+iωk2(Q−kPk−P−kQk)]\sum_k\hbar\omega_k a_k^\dagger a_k=\sum_k\left[\frac{m\omega_k^2}2Q_{-k}Q_k+\frac{P_{-k}P_k}{2m}+\frac{i\omega_k}{2}\left(Q_{-k}P_k-P_{-k}Q_k\right)\right]

です。最後の括弧は、和の中で第 2 項の kk を −k-k に置き換える(ωk=ω−k\omega_k=\omega_{-k})と iωk2(Q−kPk−PkQ−k)=iωk2[Q−k,Pk]=iωk2 iℏ=−ℏωk2\frac{i\omega_k}2\left(Q_{-k}P_k-P_kQ_{-k}\right)=\frac{i\omega_k}2[Q_{-k},P_k]=\frac{i\omega_k}{2}\,i\hbar=-\frac{\hbar\omega_k}{2} になります。よって ∑kℏωk(ak†ak+12)\sum_k\hbar\omega_k(a_k^\dagger a_k+\tfrac12) は第 1 の表式に一致します。

各 kk の (ak,ak†)(a_k,a_k^\dagger) は 1 次元調和振動子の昇降演算子と同じ代数関係を満たし、異なる kk のものは互いに可換です。1 次元系の調和振動子のスペクトル(定理 5.3[1次元の簡単な系])と同じ議論により、各モードの固有値は ℏωk(nk+12)\hbar\omega_k(n_k+\tfrac12)(nk=0,1,2,…n_k=0,1,2,\ldots)で、全体の固有値はその和です。

注意 6.2

k=0k=0 のモードは ω0=0\omega_0=0 で、鎖全体の並進(重心運動)に対応します。ここでは重心を静止させ、k≠0k\neq0 のモードだけを数えます。熱力学的極限では 1 つのモードの違いは無視できます。

フォノンの描像では、結晶の励起状態は「波数 kk のフォノンが nkn_k 個ある」と指定されます。フォノンはボース粒子で、占有数 nkn_k に上限がありません。粒子数が保存せず、化学ポテンシャルがゼロに相当する点で、光子に似ています。3 次元結晶では、kk が BZ 内の NN 個、枝が 3r3r 本なので、フォノンのモードは全部で 3rN3rN 個、つまり原子の自由度の数 3×(原子数)3\times(\text{原子数}) に一致します。

熱力学的極限での和 ∑k\sum_{k} は、体積 V=Na3V=Na^3 の 3 次元結晶では ∑k∈BZ→V∫BZd3k(2π)3\sum_{\boldsymbol{k}\in\mathrm{BZ}}\to V\int_{\mathrm{BZ}}\frac{d^3k}{(2\pi)^3} と置き換えられます。周期境界条件で許される k\boldsymbol{k} は、kk 空間で体積 (2π)3/V(2\pi)^3/V あたり 1 点の密度で並ぶからです。この「V/(2π)3V/(2\pi)^3 あたり 1 状態」という数え方は、自由電子気体でも Bloch 電子でもそのまま使うので、頭に入れておいてください。

7.1. 一般論:フォノン気体の内部エネルギー

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フォノンのモードは互いに独立な調和振動子なので、カノニカル集団の分配関数は各モードの積に分解します(命題 4.5[カノニカル集団])。1 つの振動数 ω\omega の振動子の分配関数は Z1=∑n≥0e−βℏω(n+1/2)=e−βℏω/21−e−βℏωZ_1=\sum_{n\ge0}e^{-\beta\hbar\omega(n+1/2)}=\dfrac{e^{-\beta\hbar\omega/2}}{1-e^{-\beta\hbar\omega}} で、平均エネルギーは

⟨E1⟩=−∂ln⁡Z1∂β=ℏω(12+1eβℏω−1).\langle E_1\rangle=-\frac{\partial\ln Z_1}{\partial\beta}=\hbar\omega\left(\frac12+\frac1{e^{\beta\hbar\omega}-1}\right).

後半は Bose–Einstein 分布 ⟨n⟩=(eβℏω−1)−1\langle n\rangle=(e^{\beta\hbar\omega}-1)^{-1} で、量子統計の μ=0\mu=0 のボース粒子と同じ式です。零点エネルギー ∑ℏωk/2\sum\hbar\omega_k/2 は温度に依存しないので、比熱には効きません。全体の内部エネルギー(零点を除く)と比熱は

U(T)=∑モードℏωeℏω/kBT−1,C=∂U∂T=kB∑モード(ℏωkBT)2eℏω/kBT(eℏω/kBT−1)2.U(T)=\sum_{\text{モード}}\frac{\hbar\omega}{e^{\hbar\omega/k_BT}-1},\qquad C=\frac{\partial U}{\partial T} =k_B\sum_{\text{モード}}\left(\frac{\hbar\omega}{k_BT}\right)^2\frac{e^{\hbar\omega/k_BT}}{\left(e^{\hbar\omega/k_BT}-1\right)^2} .

後者は x=ℏω/kBTx=\hbar\omega/k_BT として ddTℏωex−1=kB x2ex(ex−1)2\dfrac{d}{dT}\dfrac{\hbar\omega}{e^{x}-1}=k_B\,x^2\dfrac{e^x}{(e^x-1)^2} から従います。

7.2. 古典極限:Dulong–Petit の法則

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命題 7.1(Dulong–Petit の法則)✓

3N3N 個のモードをもつ結晶(NN は原子数)で、すべてのモードの振動数が上に有界 ω≤ωmax⁡\omega\le\omega_{\max} であるとき、kBT≫ℏωmax⁡k_BT\gg\hbar\omega_{\max} で

C→3NkB,C≃3NkB[1−112⟨(ℏωkBT)2⟩+⋯ ]C\to3Nk_B,\qquad C\simeq3Nk_B\left[1-\frac{1}{12}\left\langle\left(\frac{\hbar\omega}{k_BT}\right)^2\right\rangle+\cdots\right]

となる。ここで ⟨⋅⟩\langle\cdot\rangle はモードについての平均。

証明(命題 7.1)

x→0x\to0 で x2ex/(ex−1)2=1−x2/12+O(x4)x^2e^x/(e^x-1)^2=1-x^2/12+O(x^4) です(ex/(ex−1)2=1/(4sinh⁡2(x/2))e^x/(e^x-1)^2=1/(4\sinh^2(x/2)) で、sinh⁡2(x/2)=x24(1+x212+⋯ )\sinh^2(x/2)=\frac{x^2}4\left(1+\frac{x^2}{12}+\cdots\right) だから x2/(4sinh⁡2(x/2))=1−x2/12+⋯x^2/(4\sinh^2(x/2))=1-x^2/12+\cdots)。モードごとの寄与 kB(1−x2/12+⋯ )k_B(1-x^2/12+\cdots) を 3N3N 個足せば主張を得ます。

これは古典統計の等分配則(3N3N 個の 2 次の自由度 ×2 で 3NkB3Nk_B)の結果と一致します。1819 年に Dulong と Petit が見つけた「固体のモル比熱はおよそ 3R≈25 J mol−1K−13R\approx25\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}」という経験則です。しかし室温でも、ダイヤモンドのモル比熱は約 6 J mol−1K−16\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}} で、3R3R を大きく下回ります。低温ではどの固体の比熱も 00 に向かいます。古典力学ではこれを説明できず、Einstein(1907)が量子論の最初の固体への応用として、これを解きました。

定義 7.2(Einstein 模型)↗

NN 個の原子の 3N3N 個の振動モードがすべて同じ振動数 ωE\omega_E をもつ、という近似を Einstein 模型といい、θE=ℏωE/kB\theta_E=\hbar\omega_E/k_B を Einstein 温度という。

定理 7.3(Einstein 模型の比熱)✓

Einstein 模型の比熱は

CE(T)=3NkB(θET)2eθE/T(eθE/T−1)2C_E(T)=3Nk_B\left(\frac{\theta_E}{T}\right)^2\frac{e^{\theta_E/T}}{\left(e^{\theta_E/T}-1\right)^2}

である。T≫θET\gg\theta_E で 3NkB3Nk_B に、T≪θET\ll\theta_E で 3NkB(θE/T)2e−θE/T3Nk_B(\theta_E/T)^2e^{-\theta_E/T} に近づく。

証明(定理 7.3)

§7.1 の比熱の式で 3N3N 個のモードがすべて ω=ωE\omega=\omega_E、x=θE/Tx=\theta_E/T なので、CE=3NkB x2ex/(ex−1)2C_E=3Nk_B\,x^2e^x/(e^x-1)^2。T≫θET\gg\theta_E(x→0x\to0)では 命題 7.1 の通り 3NkB3Nk_B。T≪θET\ll\theta_E(x→∞x\to\infty)では ex−1≃exe^x-1\simeq e^x なので x2ex/e2x=x2e−xx^2e^x/e^{2x}=x^2e^{-x}。

Einstein 模型は Dulong–Petit からのずれ(比熱が低温で減る)を定性的にも定量的にもよく再現し、量子論の正しさを示す重要な例になりました。ただし低温の振る舞いは実験と合いません。実測の比熱は、絶縁体では T3T^3 に従い、e−θE/Te^{-\theta_E/T} ほど急には減らないのです。原因は、実際のフォノンの振動数が 1 つではなく、ω→0\omega\to0 まで連続的に分布している(§5.1 の音響モード)からです。

Debye(1912)は、低振動数の音響モードを正しく取り入れる模型を作りました。

以下の計算の流れは、(i) モードについての和を kk 空間の積分に置き換える(§6.2 の数え方)、(ii) 積分の上限 kDk_D を「モードの総数が 3N3N に一致する」条件で決める、(iii) 変数を x=ℏvk/kBTx=\hbar vk/k_BT に取り替えて温度依存性を取り出す、の 3 段です。上限を決める (ii) は、無限に多い波数をそのまま足すと自由度の数 3N3N を超えてしまうための処置です。

定義 7.4(Debye 模型)↗

体積 VV、原子数 NN の等方的な固体で、3 本の音響枝すべてが同じ分散関係 ω=v∣k∣\omega=v|\boldsymbol{k}|(vv は音速)に従い、∣k∣≤kD|\boldsymbol{k}|\le k_D のモードだけが存在する、という近似を Debye 模型という。カットオフ kDk_D は、モードの総数が自由度の数 3N3N に一致する条件

3⋅V(2π)3⋅4π3kD3=3N⟺kD=(6π2NV)1/33\cdot\frac{V}{(2\pi)^3}\cdot\frac{4\pi}{3}k_D^3=3N\quad\Longleftrightarrow\quad k_D=\left(6\pi^2\frac NV\right)^{1/3}

で決める。ωD=vkD\omega_D=vk_D を Debye 振動数、θD=ℏωD/kB\theta_D=\hbar\omega_D/k_B を Debye 温度という。

定理 7.5(Debye の比熱)✓

Debye 模型の内部エネルギーと比熱は

U=9NkBT(TθD)3∫0θD/Tx3ex−1 dx,CD=9NkB(TθD)3∫0θD/Tx4ex(ex−1)2 dxU=9Nk_BT\left(\frac T{\theta_D}\right)^3\int_0^{\theta_D/T}\frac{x^3}{e^x-1}\,dx, \qquad C_D=9Nk_B\left(\frac T{\theta_D}\right)^3\int_0^{\theta_D/T}\frac{x^4e^x}{(e^x-1)^2}\,dx

である。極限は

CD→3NkB  (T≫θD),CD≃12π45NkB(TθD)3  (T≪θD)C_D\to3Nk_B\ \ (T\gg\theta_D),\qquad C_D\simeq\frac{12\pi^4}5Nk_B\left(\frac T{\theta_D}\right)^3\ \ (T\ll\theta_D)

である。

証明(定理 7.5)

§6.2 のとおり ∑k→V∫d3k/(2π)3\sum_{\boldsymbol{k}}\to V\int d^3k/(2\pi)^3 とし、3 本の枝の寄与は同じなので、§7.1 の UU は

U=3⋅V(2π)3∫0kDℏvkeℏvk/kBT−1 4πk2dk.U=3\cdot\frac V{(2\pi)^3}\int_0^{k_D}\frac{\hbar vk}{e^{\hbar vk/k_BT}-1}\,4\pi k^2dk .

x=ℏvk/kBTx=\hbar vk/k_BT と変数変換すると、k=kBTx/(ℏv)k=k_BTx/(\hbar v) で k3dk∝x3dxk^3dk\propto x^3dx、したがって

U=3V2π2(kBT)4(ℏv)3∫0θD/Tx3ex−1dx.U=\frac{3V}{2\pi^2}\frac{(k_BT)^4}{(\hbar v)^3}\int_0^{\theta_D/T}\frac{x^3}{e^x-1}dx .

kD3=6π2N/Vk_D^3=6\pi^2N/V から V/(2π2)=3N/kD3V/(2\pi^2)=3N/k_D^3 なので、

3V2π2(kBT)4(ℏv)3=9N(kBT)4(ℏvkD)3=9NkBT(TθD)3\frac{3V}{2\pi^2}\frac{(k_BT)^4}{(\hbar v)^3}=\frac{9N(k_BT)^4}{(\hbar vk_D)^3}=9Nk_BT\left(\frac{T}{\theta_D}\right)^3

となり、第 1 式を得ます。TT で微分すれば、積分の上端 θD/T\theta_D/T の依存を部分積分で処理して(あるいは §7.1 の比熱の式から直接)第 2 式が出ます。

高温 T≫θDT\gg\theta_D:積分範囲で x≤θD/T≪1x\le\theta_D/T\ll1 なので、x4ex/(ex−1)2=x2(1+O(x2))x^4e^x/(e^x-1)^2=x^2(1+O(x^2))。∫0θD/Tx2dx=13(θD/T)3\int_0^{\theta_D/T}x^2dx=\frac13(\theta_D/T)^3 を代入して CD→3NkBC_D\to3Nk_B です。

低温 T≪θDT\ll\theta_D:上端を ∞\infty に置き換えます(誤差は x≳θD/Tx\gtrsim\theta_D/T の指数的に小さい尾部だけ)。∫0∞x3/(ex−1) dx=π4/15\int_0^\infty x^3/(e^x-1)\,dx=\pi^4/15(量子論の誕生の黒体放射で Stefan–Boltzmann の法則を導くときに示した Γ(4)ζ(4)=6⋅π4/90\Gamma(4)\zeta(4)=6\cdot\pi^4/90 と同じ積分)なので、

U≃9NkBT(TθD)3π415=3π45NkBT4θD3,CD=dUdT=12π45NkB(TθD)3.U\simeq9Nk_BT\left(\frac T{\theta_D}\right)^3\frac{\pi^4}{15}=\frac{3\pi^4}{5}Nk_B\frac{T^4}{\theta_D^3},\qquad C_D=\frac{dU}{dT}=\frac{12\pi^4}5Nk_B\left(\frac T{\theta_D}\right)^3 .

低温の T3T^3 則は、光子気体の U∝T4U\propto T^4(Stefan–Boltzmann)と全く同じ構造です。違いは、光子の分散が ω=ck\omega=ck なのに対し、フォノンの分散が ω=vk\omega=vk である(音速に置き換わる)点だけです。低温で励起されるフォノンは ℏω∼kBT\hbar\omega\sim k_BT の長波長のものに限られ、その個数が kk 空間の体積 ∝T3\propto T^3 に比例するため、1 個あたり ∼kBT\sim k_BT のエネルギーを担って U∝T4U\propto T^4 になります。この低エネルギーの極限では、分散が音波として線形なことだけが効き、結晶の細かい構造には依存しません。

00.51.01.5T / θ(θ は θ_E または θ_D)3Nk_B0デュロン・プティ則Cデバイ模型(低温で T³)アインシュタイン模型(低温で指数的)
固体の比熱(縦軸は 3Nk_B で規格化、横軸は T/θ)。高温では両模型とも Dulong–Petit の値に近づく。低温では Debye 模型が T³ で緩やかに減るのに対し、Einstein 模型は指数関数的に急速に減る。

例 7.6(銅の低温比熱)

銅の Debye 温度は θD≈343 K\theta_D\approx343\ \mathrm{K} です。T=10 KT=10\ \mathrm{K} では T/θD=0.0292T/\theta_D=0.0292 で、定理 7.5 より

C3NkB=4π45(10343)3=77.9×2.48×10−5=1.93×10−3.\frac{C}{3Nk_B}=\frac{4\pi^4}5\left(\frac{10}{343}\right)^3=77.9\times2.48\times10^{-5}=1.93\times10^{-3} .

1 モルなら 3NAkB=3R=24.9 J mol−1K−13N_Ak_B=3R=24.9\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}} なので、格子比熱は約 48 mJ mol−1K−148\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-1}} です。実際の銅の低温比熱は、これに電子の寄与 γT (γ≈0.69 mJ mol−1K−2)\gamma T\ (\gamma\approx0.69\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-2}}) が加わって C=γT+βT3C=\gamma T+\beta T^3 の形になり、10 K10\ \mathrm{K} ではフォノンが約 4848、電子が約 77 (mJ mol−1K−1\mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-1}}) です。T→0T\to0 では TT の 1 次が優勢になるので、C/TC/T を T2T^2 に対してプロットすれば、直線の切片から電子比熱係数 γ\gamma が、傾きから θD\theta_D が読み取れます。電子比熱は次の章で計算します。

演習 8.1標準

fcc 結晶を、一辺 aa の単純立方格子に 4 原子の基底 d1=(0,0,0)\boldsymbol{d}_1=(0,0,0)、d2=a2(0,1,1)\boldsymbol{d}_2=\tfrac a2(0,1,1)、d3=a2(1,0,1)\boldsymbol{d}_3=\tfrac a2(1,0,1)、d4=a2(1,1,0)\boldsymbol{d}_4=\tfrac a2(1,1,0) を貼ったものとみなして、構造因子 SGS_{\boldsymbol{G}}(fj=ff_j=f)を求め、反射が現れる (hkl)(hkl) の条件を述べよ。

解答

G=2πa(h,k,l)\boldsymbol{G}=\frac{2\pi}a(h,k,l) とすると、G⋅d2=π(k+l)\boldsymbol{G}\cdot\boldsymbol{d}_2=\pi(k+l) などなので

SG=f[1+e−iπ(k+l)+e−iπ(h+l)+e−iπ(h+k)]=f[1+(−1)k+l+(−1)h+l+(−1)h+k].S_{\boldsymbol{G}}=f\left[1+e^{-i\pi(k+l)}+e^{-i\pi(h+l)}+e^{-i\pi(h+k)}\right]=f\left[1+(-1)^{k+l}+(-1)^{h+l}+(-1)^{h+k}\right] .

h,k,lh,k,l がすべて偶数ならすべての項が 11 で S=4fS=4f。すべて奇数なら k+l,h+l,h+kk+l,h+l,h+k がすべて偶数で同様に 4f4f。偶奇が混在するときは、たとえば hh のみ偶数なら (−1)k+l=+1(-1)^{k+l}=+1、残り 2 項が −1-1 で S=1+1−1−1=0S=1+1-1-1=0、hh のみ奇数でも同様に 00 です。したがって h,k,lh,k,l がすべて偶数かすべて奇数のときだけ反射が現れます。

演習 8.2易

立方晶で格子定数 a=0.543 nma=0.543\ \mathrm{nm} のシリコン(面心立方に基底 2 原子のダイヤモンド構造)に、波長 λ=0.154 nm\lambda=0.154\ \mathrm{nm} の Cu Kα\alpha X 線を当てる。単純立方の格子面 (hkl)(hkl) の間隔が d=a/h2+k2+l2d=a/\sqrt{h^2+k^2+l^2} であることを示し、(111)(111) 面の 1 次の Bragg 反射の視射角 θ\theta を求めよ。

解答

単純立方で G=2πa(h,k,l)\boldsymbol{G}=\frac{2\pi}a(h,k,l) なので ∣G∣=2πah2+k2+l2|\boldsymbol{G}|=\frac{2\pi}a\sqrt{h^2+k^2+l^2}。互いに素な (h,k,l)(h,k,l) では G\boldsymbol{G} は原始的で 補題 4.3 より d=2π/∣G∣=a/h2+k2+l2d=2\pi/|\boldsymbol{G}|=a/\sqrt{h^2+k^2+l^2}。(111)(111) では d=0.543/3=0.3135 nmd=0.543/\sqrt3=0.3135\ \mathrm{nm}。2dsin⁡θ=λ2d\sin\theta=\lambda より sin⁡θ=0.154/(2×0.3135)=0.2456\sin\theta=0.154/(2\times0.3135)=0.2456、θ≈14.2∘\theta\approx14.2^\circ です(検出器で測る散乱角は 2θ≈28.4∘2\theta\approx28.4^\circ。実測のシリコン (111) ピークも約 28.4∘28.4^\circ に現れる)。

演習 8.3標準

1 次元単原子鎖に、最近接のばね定数 K1K_1 に加えて次近接(間隔 2a2a)のばね定数 K2K_2 を入れる。分散関係が ωk2=2m[K1(1−cos⁡ka)+K2(1−cos⁡2ka)]\omega_k^2=\frac{2}{m}\left[K_1(1-\cos ka)+K_2(1-\cos2ka)\right] になることを示し、k→0k\to0 の音速 vv を求めよ。

解答

運動方程式は mu¨n=K1(un+1+un−1−2un)+K2(un+2+un−2−2un)m\ddot u_n=K_1(u_{n+1}+u_{n-1}-2u_n)+K_2(u_{n+2}+u_{n-2}-2u_n)。un=Aei(kna−ωt)u_n=Ae^{i(kna-\omega t)} を代入して −mω2=K1(2cos⁡ka−2)+K2(2cos⁡2ka−2)-m\omega^2=K_1(2\cos ka-2)+K_2(2\cos2ka-2)、よって主張の式を得ます。k→0k\to0 で 1−cos⁡ka≃(ka)2/21-\cos ka\simeq(ka)^2/2、1−cos⁡2ka≃2(ka)21-\cos2ka\simeq2(ka)^2 なので ωk2≃2m[12K1+2K2](ka)2=K1+4K2m(ka)2\omega_k^2\simeq\frac2m\left[\tfrac12K_1+2K_2\right](ka)^2=\frac{K_1+4K_2}m(ka)^2。音速は v=a(K1+4K2)/mv=a\sqrt{(K_1+4K_2)/m} です。

演習 8.4標準

Debye 温度 θD=105 K\theta_D=105\ \mathrm{K} の鉛について、T=2 KT=2\ \mathrm{K} での格子モル比熱を 定理 7.5 の低温式で求めよ。また、T=θDT=\theta_D にこの低温式をそのまま使うことが不適切である理由を、値の大きさから説明せよ。

解答

T/θD=2/105=0.01905T/\theta_D=2/105=0.01905、(T/θD)3=6.91×10−6(T/\theta_D)^3=6.91\times10^{-6}。C=4π45⋅3R⋅(T/θD)3 → 77.9×24.94×6.91×10−6=1.34×10−2 J mol−1K−1C=\frac{4\pi^4}{5}\cdot3R\cdot(T/\theta_D)^3\ \to\ 77.9\times24.94\times6.91\times10^{-6}=1.34\times10^{-2}\ \mathrm{J\,mol^{-1}K^{-1}}(約 13 mJ mol−1K−113\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-1}})。

T=θDT=\theta_D で低温式を使うと C/3NkB=4π45≈77.9C/3Nk_B=\frac{4\pi^4}5\approx77.9 になります。ところが比熱は 定理 7.5 の積分表式からわかるとおり 3NkB3Nk_B を超えません(各モードの寄与 x2ex/(ex−1)2x^2e^x/(e^x-1)^2 は 11 以下)。したがって低温式は T≪θDT\ll\theta_D でしか使えず、T∼θDT\sim\theta_D では積分の上端 θD/T\theta_D/T を有限のまま扱う必要があります。

  • C. キッテル『キッテル 固体物理学入門』(上・下)丸善出版 — 結晶構造、波の回折と逆格子、フォノンと結晶の熱的性質の各章。
  • N. W. Ashcroft and N. D. Mermin, Solid State Physics, Holt, Rinehart and Winston, 1976 — Chapters 4–6 (Bravais lattices, reciprocal lattice, X-ray diffraction), Chapters 22–23 (lattice vibrations, quantum theory of the harmonic crystal).
  • S. H. Simon, The Oxford Solid State Basics, Oxford University Press, 2013 — 比熱(Einstein・Debye 模型)と 1 次元鎖の振動の各章。
  • A. Einstein, “Die Plancksche Theorie der Strahlung und die Theorie der spezifischen Wärme”, Annalen der Physik 22 (1907), 180–190.
  • P. Debye, “Zur Theorie der spezifischen Wärmen”, Annalen der Physik 39 (1912), 789–839.

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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