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Thom 類と Poincaré 双対:交叉とカップ積、Euler 類

対象読者: 本テーマ第 2〜3 章の管状近傍・交点数と、de Rham コホモロジー・カップ積・Poincaré 双対を学んだ修士課程の人。Künneth の公式は記事内で使う形で説明します。

前提となる記事:交点数と写像度:Borsuk–Ulam の定理と Poincaré–Hopf の定理、管状近傍・カラー・イソトピーの拡張、コホモロジーと双対性:普遍係数定理・カップ積・de Rham の定理・Poincaré 双対を証明する

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曲面の中の 2 本の曲線が何点で交わるか、球面の上のベクトル場がどこで 0 になるか、写像がどこで動かない点を持つか。この記事は、こうした「ものを数える問題」を、すべて同じ形の積分に書き直す方法を示します。曲線や曲面のすぐ近くだけに値を持ち、全体の積分が 1 になる量を作っておくと、交点の数も零点の数も不動点の数も、その量を積分した値として計算できます。読み終えると、複素射影空間のコホモロジーと、平面曲線の穴の個数を与える公式 (d−1)(d−2)/2(d-1)(d-2)/2 が自分で導けるようになります。

  • 向き付きベクトル束 π ⁣:E→M\pi\colon E\to M(階数 rr)の上で、ファイバー方向に台がコンパクトな(底空間のコンパクトな部分の上では、ファイバー方向にも有界な範囲に収まる)微分形式をファイバーに沿って積分すると、次数を rr 下げる写像 π∗\pi_{*} が得られます。これはコホモロジーの同型 Hcvk+r(E)≅Hk(M)H^{k+r}_{cv}(E)\cong H^k(M) を与えます(Thom 同型)。1∈H0(M)1\in H^0(M) に対応する類 Φ(E)∈Hcvr(E)\Phi(E)\in H^r_{cv}(E) が Thom 類で、「各ファイバーの上で積分が 11」という条件で一意に決まります。
  • 向き付きの閉部分多様体 S⊂MS\subset M の Poincaré 双対 ηS\eta_S は、SS の法束(SS から見た「垂直方向」を集めたベクトル束)の Thom 類を管状近傍で MM に移したものです。したがって ηS\eta_S は SS のいくらでも近くに台を持つ形式で代表できます。
  • この局所化から、横断的な交わりは外積に(ηA∩B=ηA∧ηB\eta_{A\cap B}=\eta_A\wedge\eta_B)、交点数は積分に(I(A,B)=∫MηA∧ηBI(A,B)=\int_M\eta_A\wedge\eta_B)、横断的な逆像は引き戻しに(f∗ηZ=ηf−1Zf^{*}\eta_Z=\eta_{f^{-1}Z})対応します。
  • Thom 類を零切断で引き戻したものが Euler 類 e(E)e(E) で、一般の切断の零点集合の Poincaré 双対です。∫Me(TM)=χ(M)\int_Me(TM)=\chi(M) が成り立ちます。
  • 対角集合の Poincaré 双対を Künneth の公式(直積のコホモロジーを、因子のコホモロジーの積で表す公式)で分解すると、グラフとの交点数がコホモロジー上のトレースの交代和(Lefschetz 数)になります。
  • 球面束の Gysin 完全列(球面束と底空間のコホモロジーを結ぶ長完全列)から H∗(CPn)=R[x]/(xn+1)H^{*}(\mathbb{C}P^n)=\mathbb{R}[x]/(x^{n+1}) が従い、xx は超平面の Poincaré 双対です。次数 dd の滑らかな平面曲線の種数は (d−1)(d−2)/2(d-1)(d-2)/2 です。

交点数と写像度 では、部分多様体を一般の位置に動かして交点を数えました。一方 コホモロジーと双対性 では、微分形式の外積と積分で Poincaré 双対 Hk(M)≅Hn−k(M)∗H^k(M)\cong H^{n-k}(M)^{*} を作りました。この 2 つは同じものの別の顔で、幾何の側の「交わりを取る」が、解析の側の「外積を取る」に対応します。この記事の目的は、この対応を証明することです。

鍵は Thom 類です。直観的には、S⊂MS\subset M の Poincaré 双対は「SS に沿ったデルタ関数」で、SS の法方向にだけ集中した形式です。デルタ関数は滑らかな形式ではありませんが、法方向に少しぼかせば滑らかになります。ぼかし方を法束のファイバーごとに「積分が 11 のこぶ」として選んだものが Thom 類です。デルタ関数どうしの積は交わりのデルタ関数で、デルタ関数の引き戻しは逆像のデルタ関数です。この 2 つの素朴な計算が、Thom 類を使うと定理になります。

同じ形式が 3 つの場面に現れます。SS の法束の Thom 類を、(a) 別の部分多様体に制限して積分すれば交点数、(b) 切断で引き戻せば零点の個数、(c) 対角集合の法束について ff のグラフに制限すれば不動点の個数、です。

零切断 MThom 形式 Φ の台切断 s+1−1ファイバー
Thom 類は零切断に沿ったデルタ関数を滑らかにしたもの。写像で引き戻して積分すると、零切断との交わりを符号つきで数える。

多様体は滑らか・Hausdorff・第二可算で、断らない限り境界を持ちません。Hk(M)H^k(M) は de Rham コホモロジー(定義 2.1[de Rham コホモロジー])、Hck(M)H^k_c(M) は台がコンパクトな形式によるコホモロジーを表します。向き付けられた nn 次元多様体 MM の Poincaré 双対定理(定理 6.4[コホモロジーと双対性])は、[η]↦([ω]↦∫Mη∧ω)[\eta]\mapsto\bigl([\omega]\mapsto\int_M\eta\wedge\omega\bigr) が同型 Hn−k(M)→Hck(M)∗H^{n-k}(M)\to H^k_c(M)^{*} であることを述べます。

この記事で使う向きの規約をまとめます。

  • 向き付けられた多様体 MM の上の向き付きベクトル束 EE の全空間には、「底空間の正の基底、ファイバーの正の基底」の順で向きを入れる。
  • 向き付けられた MM の向き付けられた部分多様体 SS の法束 νS=TM∣S/TS\nu_S=TM|_S/TS には、「TzST_zS の正の基底、νS,z\nu_{S,z} の正の基底の持ち上げ」の順に並べたものが TzMT_zM の正の基底になるように向きを入れる。
  • 2 つの部分多様体の交点の符号 sign⁡p(A,B)\operatorname{sign}_p(A,B) と交点数 I(A,B)I(A,B) は 定義 3.1[交点数と写像度] のとおり(AA の基底、BB の基底の順)。

補題 2.1(閉多様体のコホモロジーは有限次元)✓

XX を閉多様体(コンパクトで境界なし)とする。各 kk で Hk(X)H^k(X) は有限次元である。XX が向き付けられた nn 次元多様体なら、H∗(X)=⨁kHk(X)H^{*}(X)=\bigoplus_kH^k(X) の斉次元からなる基底 {ωi}\{\omega_i\} に対し、斉次元からなる基底 {τj}\{\tau_j\} で ∫Xωi∧τj=δij\int_X\omega_i\wedge\tau_j=\delta_{ij} となるもの(双対基底)がただ 1 つ存在する。

証明(補題 2.1)

XX の特異ホモロジー群の階数 bkb_k は有限です(定理 7.3[Morse 理論])。普遍係数定理(定理 3.4[コホモロジーと双対性])から Hk(X;R)≅Hom⁡(Hk(X),R)H^k(X;\mathbb{R})\cong\operatorname{Hom}(H_k(X),\mathbb{R})(R\mathbb{R} は可除なので Ext⁡\operatorname{Ext} の項は消えます)で、その次元は bkb_k です。de Rham の定理(定理 5.4[コホモロジーと双対性])から dim⁡Hk(X)=bk\dim H^k(X)=b_k です。後半は、Poincaré 双対定理により双線形形式 Hk(X)×Hn−k(X)→RH^k(X)\times H^{n-k}(X)\to\mathbb{R}、(a,b)↦∫Xa∧b(a,b)\mapsto\int_Xa\wedge b が非退化であることから従います(有限次元の非退化な対に対する双対基底です)。

3. 鉛直方向にコンパクトな台とファイバーに沿った積分

Section titled “3. 鉛直方向にコンパクトな台とファイバーに沿った積分”

ファイバーに沿った積分とは、底空間の各点 xx の上にあるファイバー ExE_x(縦線)の上で形式を積分し、その値を xx に書き込む操作です。最も簡単な E=M×RE=M\times\mathbb{R} では、f(x,t) dtf(x,t)\,dt という形の 1 形式が、tt について積分した関数 x↦∫Rf(x,t) dtx\mapsto\int_{\mathbb{R}}f(x,t)\,dt に写されます。下の定義は、これを一般の次数とねじれたベクトル束に広げるための手順です。

定義 3.1(鉛直方向にコンパクトな台・ファイバーに沿った積分)↗

π ⁣:E→M\pi\colon E\to M を階数 rr の向き付きベクトル束とする。

  1. EE 上の微分形式 ω\omega が鉛直方向にコンパクトな台を持つとは、MM の任意のコンパクト集合 KK に対し supp⁡ω∩π−1(K)\operatorname{supp}\omega\cap\pi^{-1}(K) がコンパクトであることをいう。そのような kk 形式の全体を Ωcvk(E)\Omega^k_{cv}(E) と書く。外微分で閉じているので複体をなし、そのコホモロジーを Hcvk(E)H^k_{cv}(E) と書く。
  2. ω∈Ωcvk+r(E)\omega\in\Omega^{k+r}_{cv}(E)(k≥0k\ge0)に対し、MM 上の kk 形式 π∗ω\pi_{*}\omega を次で定める。x∈Mx\in M、v1,…,vk∈TxMv_1,\dots,v_k\in T_xM に対し、各点 e∈Exe\in E_x で dπ(v~i)=vid\pi(\tilde v_i)=v_i となる持ち上げ v~i∈TeE\tilde v_i\in T_eE を取り、ファイバー ExE_x 上の rr 形式 ωv\omega^{v} を ωev(w1,…,wr)=ωe(v~1,…,v~k,w1,…,wr)\omega^{v}_e(w_1,\dots,w_r)=\omega_e(\tilde v_1,\dots,\tilde v_k,w_1,\dots,w_r)(wj∈Te(Ex)w_j\in T_e(E_x))と定めて (π∗ω)x(v1,…,vk)=∫Exωv(\pi_{*}\omega)_x(v_1,\dots,v_k)=\int_{E_x}\omega^{v} とおく。k<0k<0 のときは π∗ω=0\pi_{*}\omega=0 とする。π∗\pi_{*} をファイバーに沿った積分という。

持ち上げを取り替えると v~i\tilde v_i は鉛直なベクトルだけ変わり、ω\omega に鉛直なベクトルを r+1r+1 個入れることになるので、次元の理由で ωv\omega^{v} は変わりません。MM がコンパクトなら Ωcv(E)=Ωc(E)\Omega_{cv}(E)=\Omega_c(E) です。

向きを保つ局所自明化 E∣U≅U×RrE|_U\cong U\times\mathbb{R}^r で、UU のチャート xx とファイバーの座標 t=(t1,…,tr)t=(t_1,\dots,t_r) を使うと、Ωcv(E∣U)\Omega_{cv}(E|_U) の形式は

(I)  π∗ϕ∧f(x,t) dt1∧⋯∧dtr,(II)  π∗ϕ∧f(x,t) dtj1∧⋯∧dtjs  (s<r)\text{(I)}\ \ \pi^{*}\phi\wedge f(x,t)\,dt_1\wedge\dots\wedge dt_r,\qquad\text{(II)}\ \ \pi^{*}\phi\wedge f(x,t)\,dt_{j_1}\wedge\dots\wedge dt_{j_s}\ \ (s<r)

の形の項(ϕ\phi は UU 上の形式、ff は tt について局所一様にコンパクトな台を持つ関数)の和です。定義から

π∗(π∗ϕ∧f dt1∧⋯∧dtr)=ϕ∫Rrf(x,t) dt,π∗((II) 型の項)=0\pi_{*}\bigl(\pi^{*}\phi\wedge f\,dt_1\wedge\dots\wedge dt_r\bigr)=\phi\int_{\mathbb{R}^r}f(x,t)\,dt,\qquad\pi_{*}(\text{(II) 型の項})=0

です。(II) 型では鉛直なベクトル rr 個を入れると 00 になるからです。この式から π∗ω\pi_{*}\omega は滑らかな形式です(積分記号下の微分。補題 3.6[ベクトル解析と積分定理])。

補題 3.2(ファイバーに沿った積分の性質)✓

π ⁣:E→M\pi\colon E\to M を階数 rr の向き付きベクトル束とする。

  1. π∗\pi_{*} は外微分と可換である。dπ∗ω=π∗dωd\pi_{*}\omega=\pi_{*}d\omega(ω∈Ωcv(E)\omega\in\Omega_{cv}(E))。したがって π∗ ⁣:Hcvk+r(E)→Hk(M)\pi_{*}\colon H^{k+r}_{cv}(E)\to H^k(M) が定まる。
  2. (射影公式)τ∈Ω(M)\tau\in\Omega(M)、ω∈Ωcv(E)\omega\in\Omega_{cv}(E) に対し π∗(π∗τ∧ω)=τ∧π∗ω\pi_{*}(\pi^{*}\tau\wedge\omega)=\tau\wedge\pi_{*}\omega。
  3. MM が向き付けられた nn 次元多様体のとき、τ∈Ωcn−k(M)\tau\in\Omega^{n-k}_c(M)、ω∈Ωcvk+r(E)\omega\in\Omega^{k+r}_{cv}(E) に対し ∫Eπ∗τ∧ω=∫Mτ∧π∗ω.\int_E\pi^{*}\tau\wedge\omega=\int_M\tau\wedge\pi_{*}\omega .
  4. f ⁣:N→Mf\colon N\to M を滑らかな写像、f~ ⁣:f∗E→E\tilde f\colon f^{*}E\to E を引き戻しの束写像、π′ ⁣:f∗E→N\pi'\colon f^{*}E\to N とすると、f~∗\tilde f^{*} は Ωcv(E)\Omega_{cv}(E) を Ωcv(f∗E)\Omega_{cv}(f^{*}E) に写し、π∗′f~∗=f∗π∗\pi'_{*}\tilde f^{*}=f^{*}\pi_{*}。
証明(補題 3.2)

1〜3 の両辺は ω\omega について線形で、MM の 1 の分割 {ρj}\{\rho_j\} で ω=∑j(π∗ρj)ω\omega=\sum_j(\pi^{*}\rho_j)\omega と分ければ、台が 1 つの自明化 U×RrU\times\mathbb{R}^r に入る場合に帰着します。

1。 (I) 型 ω=π∗ϕ∧f dt1⋯dtr\omega=\pi^{*}\phi\wedge f\,dt_1\cdots dt_r(ϕ\phi は jj 形式)では、dfdf のうち dtidt_i の項は dt1⋯dtrdt_1\cdots dt_r との積で消えるので

dω=π∗dϕ∧f dt1⋯dtr+(−1)j∑iπ∗(ϕ∧dxi)∧∂f∂xi dt1⋯dtrd\omega=\pi^{*}d\phi\wedge f\,dt_1\cdots dt_r+(-1)^j\sum_i\pi^{*}(\phi\wedge dx_i)\wedge\frac{\partial f}{\partial x_i}\,dt_1\cdots dt_r

で、π∗dω=dϕ∫f dt+(−1)j∑iϕ∧dxi∫∂xif dt=d(ϕ∫f dt)=dπ∗ω\pi_{*}d\omega=d\phi\int f\,dt+(-1)^j\sum_i\phi\wedge dx_i\int\partial_{x_i}f\,dt=d\bigl(\phi\int f\,dt\bigr)=d\pi_{*}\omega です。(II) 型 ω=π∗ϕ∧f dtJ\omega=\pi^{*}\phi\wedge f\,dt_J(∣J∣=s<r|J|=s<r)では π∗ω=0\pi_{*}\omega=0 です。dωd\omega の中で dtdt を rr 個含む項は、s=r−1s=r-1 のときの ±π∗ϕ∧∂tif dt1⋯dtr\pm\pi^{*}\phi\wedge\partial_{t_i}f\,dt_1\cdots dt_r(ii は JJ に欠けている番号)だけで、ff は tit_i についてコンパクトな台を持つので ∫∂tif dt=0\int\partial_{t_i}f\,dt=0 です。よって π∗dω=0\pi_{*}d\omega=0 です。

2。 (I) 型では π∗τ∧π∗ϕ∧f dt1⋯dtr↦τ∧ϕ∫f dt\pi^{*}\tau\wedge\pi^{*}\phi\wedge f\,dt_1\cdots dt_r\mapsto\tau\wedge\phi\int f\,dt、(II) 型では両辺 00 です。

3。 (II) 型と、(I) 型で ϕ\phi の次数が kk でない項では、両辺とも次数の理由で 00 です。(I) 型で τ∧ϕ=g dx1⋯dxn\tau\wedge\phi=g\,dx_1\cdots dx_n のとき、左辺は ∫U×Rrg(x)f(x,t) dx dt\int_{U\times\mathbb{R}^r}g(x)f(x,t)\,dx\,dt(向きは底空間、ファイバーの順)、右辺は ∫Ug(x)(∫f dt)dx\int_Ug(x)\bigl(\int f\,dt\bigr)dx で、Fubini の定理(定理 3.4[直積測度と Fubini–Tonelli の定理])から等しいです。

4。 f~\tilde f は各ファイバーの向きを保つ線形同型 (f∗E)y→Ef(y)(f^{*}E)_y\to E_{f(y)} です。NN のコンパクト集合 KK に対し f~−1(supp⁡ω)∩π′−1(K)\tilde f^{-1}(\operatorname{supp}\omega)\cap\pi'^{-1}(K) は、局所自明化で見ると {(y,t):y∈K, (f(y),t)∈supp⁡ω}\{(y,t):y\in K,\ (f(y),t)\in\operatorname{supp}\omega\} で、supp⁡ω∩π−1(f(K))\operatorname{supp}\omega\cap\pi^{-1}(f(K)) がコンパクトなのでコンパクトです。等式は、ファイバーの上の積分が向きを保つ微分同相で不変であることと、f~\tilde f による持ち上げの対応から、定義に戻って従います。

次の補題が Thom 同型の局所的な形です。

補題 3.3(鉛直コンパクト台の Poincaré の補題)✓

MM を多様体、E=M×RrE=M\times\mathbb{R}^r を自明束(Rr\mathbb{R}^r の標準の向き)とする。このとき π∗ ⁣:Hcvk+r(M×Rr)→Hk(M)\pi_{*}\colon H^{k+r}_{cv}(M\times\mathbb{R}^r)\to H^k(M) はすべての kk で同型である。

証明は、ファイバーの座標を 1 つずつ積分して減らしていく帰納法です。1 つの座標 tt については、Poincaré の補題と同じ型のホモトピー作用素 KK を作ります。∫−∞tβ\int_{-\infty}^t\beta だけでは tt が大きいところで台がコンパクトにならないので、全体の積分に E(t)E(t) を掛けた項を引いて、台をコンパクトに保っています。

証明(補題 3.3)

As=Ωcv(M×Rs)A_s=\Omega_{cv}(M\times\mathbb{R}^s)(MM 上の自明束として)とし、最後の座標 tt を忘れる射影 M×Rs→M×Rs−1M\times\mathbb{R}^s\to M\times\mathbb{R}^{s-1} に沿った積分 p∗ ⁣:Ask→As−1k−1p_{*}\colon A_s^k\to A_{s-1}^{k-1} を考えます。AsA_s の形式は、dtdt を含まない形式 α,β\alpha,\beta(係数は tt にも依存する)により ω=α+β∧dt\omega=\alpha+\beta\wedge dt と一意に書け、p∗ω=∫Rβ dtp_{*}\omega=\int_{\mathbb{R}}\beta\,dt です。p∗p_{*} を s=r,r−1,…,1s=r,r-1,\dots,1 と合成したものは、Fubini の定理から π∗\pi_{*} に一致します(dtrdt_r から順に右端の dtdt を積分するので符号は出ません)。したがって各 p∗p_{*} がコホモロジーの同型であることを示せば十分です。

∫Re(t) dt=1\int_{\mathbb{R}}e(t)\,dt=1 となるコンパクトな台の滑らかな関数 ee を取り、E(t)=∫−∞teE(t)=\int_{-\infty}^te とします。

e∗ ⁣:As−1k−1→Ask,e∗γ=γ∧e(t) dt,K ⁣:Ask→Ask−1,Kω=∫−∞tβ dt′−E(t)∫Rβ dt′e_{*}\colon A_{s-1}^{k-1}\to A_s^k,\quad e_{*}\gamma=\gamma\wedge e(t)\,dt,\qquad K\colon A_s^k\to A_s^{k-1},\quad K\omega=\int_{-\infty}^t\beta\,dt'-E(t)\int_{\mathbb{R}}\beta\,dt'

とおきます。KωK\omega は、tt が小さいとき両項とも 00、tt が大きいとき打ち消して 00 で、他の鉛直座標については β\beta と同じ範囲の外で 00 なので、AsA_s に入ります。p∗e∗=idp_{*}e_{*}=\mathrm{id} は明らかです。α\alpha は kk 形式、β\beta は (k−1)(k-1) 形式で、tt 以外の変数についての外微分を d′d' と書くと

dω=d′α+((−1)k∂tα+d′β)∧dtd\omega=d'\alpha+\bigl((-1)^k\partial_t\alpha+d'\beta\bigr)\wedge dt

です。p∗dω=∫R((−1)k∂tα+d′β)dt=d′∫Rβ dt=dp∗ωp_{*}d\omega=\int_{\mathbb{R}}\bigl((-1)^k\partial_t\alpha+d'\beta\bigr)dt=d'\int_{\mathbb{R}}\beta\,dt=dp_{*}\omega(α\alpha は tt についてコンパクトな台、p∗ωp_{*}\omega は tt によらない)なので p∗p_{*} は複体の写像で、e∗e_{*} も同様です。さらに

Kdω=(−1)kα+d′ ⁣∫−∞tβ−E(t) d′ ⁣∫Rβ,dKω=d′ ⁣∫−∞tβ−E(t) d′ ⁣∫Rβ+dt∧(β−e(t)∫Rβ)\begin{aligned} Kd\omega&=(-1)^k\alpha+d'\!\int_{-\infty}^t\beta-E(t)\,d'\!\int_{\mathbb{R}}\beta,\\ dK\omega&=d'\!\int_{-\infty}^t\beta-E(t)\,d'\!\int_{\mathbb{R}}\beta+dt\wedge\Bigl(\beta-e(t)\int_{\mathbb{R}}\beta\Bigr) \end{aligned}

で、dt∧β=(−1)k−1β∧dtdt\wedge\beta=(-1)^{k-1}\beta\wedge dt などから

dKω−Kdω=(−1)k−1(α+β∧dt−e∗p∗ω)=(−1)k−1(ω−e∗p∗ω)dK\omega-Kd\omega=(-1)^{k-1}\bigl(\alpha+\beta\wedge dt-e_{*}p_{*}\omega\bigr)=(-1)^{k-1}(\omega-e_{*}p_{*}\omega)

です。よって e∗p∗e_{*}p_{*} はコホモロジーの上で恒等写像で、p∗p_{*} は同型(逆は e∗e_{*})です。

定理 4.1(Thom 同型定理)✓

π ⁣:E→M\pi\colon E\to M を多様体 MM 上の階数 rr の向き付きベクトル束とする。ファイバーに沿った積分

π∗ ⁣:Hcvk+r(E)⟶Hk(M)\pi_{*}\colon H^{k+r}_{cv}(E)\longrightarrow H^k(M)

はすべての kk で同型である。

証明の方針は、局所から大域への貼り合わせです。自明なベクトル束の上では直前の補題がそのまま同型を与えます。そこで、自明化できる小さな開集合の上で同型を示し、2 つの開集合の和については、開集合の和・共通部分についての長完全列を比べて同型を引き継ぎます(Mayer–Vietoris 論法)。

証明(定理 4.1)

MM の開集合 UU についての性質 P(U)P(U) を「π∗ ⁣:Hcv∗+r(E∣U)→H∗(U)\pi_{*}\colon H^{*+r}_{cv}(E|_U)\to H^{*}(U) がすべての次数で同型」とし、Mayer–Vietoris 論法(補題 5.3[コホモロジーと双対性])を使います。B\mathfrak{B} を、EE が向きを保つ局所自明化を持つような開集合の全体とします。これは位相の基底で、有限個の共通部分で閉じています。

(a) U∈BU\in\mathfrak{B} のとき、自明化 E∣U≅U×RrE|_U\cong U\times\mathbb{R}^r はファイバーの向きを保つ線形同型なので π∗\pi_{*} と両立し(補題 3.2 (4) を恒等写像の上の束同型に使います)、補題 3.3 から P(U)P(U) です。P(∅)P(\varnothing) は自明です。

(b) U,VU,V を開集合とします。制限と差による列

0→Ωcv(E∣U∪V)→Ωcv(E∣U)⊕Ωcv(E∣V)→Ωcv(E∣U∩V)→00\to\Omega_{cv}(E|_{U\cup V})\to\Omega_{cv}(E|_U)\oplus\Omega_{cv}(E|_V)\to\Omega_{cv}(E|_{U\cap V})\to0

は完全です。全射性は、U∪VU\cup V 上の 1 の分割 ρU+ρV=1\rho_U+\rho_V=1 を使い、ξ∈Ωcv(E∣U∩V)\xi\in\Omega_{cv}(E|_{U\cap V}) を (−π∗ρV ξ, π∗ρU ξ)(-\pi^{*}\rho_V\,\xi,\ \pi^{*}\rho_U\,\xi) の像として書くことで分かります(補題 4.2[de Rham コホモロジー] と同じで、鉛直方向の台の条件は保たれます)。π∗\pi_{*} は制限と可換で外微分とも可換なので(補題 3.2 (1))、この短完全列から MM 側の短完全列(次数を rr ずらしたもの)への複体の写像を与え、長完全列(補題 4.1[de Rham コホモロジー])の間の可換図式が得られます。連結準同型は「持ち上げて dd を取り、引き戻す」と定義されているので、π∗\pi_{*} と可換です。P(U),P(V),P(U∩V)P(U),P(V),P(U\cap V) なら五項補題(補題 3.3[特異ホモロジー])から P(U∪V)P(U\cup V) です。

(c) 互いに交わらない開集合の族については、両辺とも直積に分かれ、π∗\pi_{*} は成分ごとに働くので、各成分で同型なら全体でも同型です。

以上から P(M)P(M) が成り立ちます。

定義 4.2(Thom 類)↗

定理 4.1 の同型で 1∈H0(M)1\in H^0(M) に対応する類

Φ(E)=π∗−1(1)∈Hcvr(E)\Phi(E)=\pi_{*}^{-1}(1)\in H^r_{cv}(E)

を EE の Thom 類という。Thom 類を代表する閉形式を Thom 形式と呼ぶ。

射影公式(補題 3.2 (2))から π∗(π∗τ∧Φ)=τ∧π∗Φ=τ\pi_{*}(\pi^{*}\tau\wedge\Phi)=\tau\wedge\pi_{*}\Phi=\tau なので、Thom 同型の逆写像は

Hk(M)→Hcvk+r(E),[τ]↦[π∗τ∧Φ]H^k(M)\to H^{k+r}_{cv}(E),\qquad[\tau]\mapsto[\pi^{*}\tau\wedge\Phi]

で与えられます。

命題 4.3(Thom 類の特徴づけと基本性質)✓

π ⁣:E→M\pi\colon E\to M を階数 rr の向き付きベクトル束とする。

  1. 閉形式 Φ′∈Ωcvr(E)\Phi'\in\Omega^r_{cv}(E) が Thom 形式であるためには、すべての x∈Mx\in M で ∫ExΦ′∣Ex=1\int_{E_x}\Phi'|_{E_x}=1 となることが必要十分である。
  2. (自然性)f ⁣:N→Mf\colon N\to M に対し f~∗Φ(E)=Φ(f∗E)\tilde f^{*}\Phi(E)=\Phi(f^{*}E)。
  3. (向き)ファイバーの向きを逆にした束 −E-E について Φ(−E)=−Φ(E)\Phi(-E)=-\Phi(E)。
  4. (Whitney 和)F→MF\to M を別の向き付きベクトル束とし、E⊕FE\oplus F に「EE、FF の順」の向きを入れる。射影を p1 ⁣:E⊕F→Ep_1\colon E\oplus F\to E、p2 ⁣:E⊕F→Fp_2\colon E\oplus F\to F とすると Φ(E⊕F)=p1∗Φ(E)∧p2∗Φ(F)\Phi(E\oplus F)=p_1^{*}\Phi(E)\wedge p_2^{*}\Phi(F)。
  5. (台の縮小)EE にファイバー計量を入れる。零切断を含む任意の開集合 OO に対し、台が OO に含まれる Thom 形式が存在する。MM がコンパクトで Φ′\Phi' が Thom 形式なら、定数 c>0c>0 による拡大 mc(v)=cvm_c(v)=cv について mc∗Φ′m_c^{*}\Phi' も Thom 形式で、supp⁡Φ′⊂{∣v∣≤R}\operatorname{supp}\Phi'\subset\{|v|\le R\} なら supp⁡mc∗Φ′⊂{∣v∣≤R/c}\operatorname{supp}m_c^{*}\Phi'\subset\{|v|\le R/c\} である。
証明(命題 4.3)
  1. k=0k=0 のときの定義から、π∗Φ′\pi_{*}\Phi' は関数 x↦∫ExΦ′x\mapsto\int_{E_x}\Phi' です。これが定数関数 11 であることと [π∗Φ′]=1∈H0(M)[\pi_{*}\Phi']=1\in H^0(M) は同じで、π∗\pi_{*} は単射なので(定理 4.1)、それは [Φ′]=Φ(E)[\Phi']=\Phi(E) と同値です。

  2. 補題 3.2 (4) から π∗′f~∗Φ=f∗π∗Φ=1\pi'_{*}\tilde f^{*}\Phi=f^{*}\pi_{*}\Phi=1 です。

  3. ファイバーの向きを逆にすると π∗\pi_{*} の符号が変わるので、−Φ(E)-\Phi(E) が −E-E について 1 の条件を満たします。

  4. p1∗ΦE∧p2∗ΦFp_1^{*}\Phi_E\wedge p_2^{*}\Phi_F は閉形式で、台は {(u,w):u∈supp⁡ΦE, w∈supp⁡ΦF}\{(u,w):u\in\operatorname{supp}\Phi_E,\ w\in\operatorname{supp}\Phi_F\} に含まれるので鉛直方向にコンパクトです。ファイバー Ex×FxE_x\times F_x の上では ΦE∣Ex\Phi_E|_{E_x} と ΦF∣Fx\Phi_F|_{F_x} の積なので、Fubini の定理から積分は 1⋅1=11\cdot1=1 で、1 から Thom 形式です。

  5. 正の滑らかな関数 cc に対し mc(v)=c(π(v))vm_c(v)=c(\pi(v))v は各ファイバーの向きを保つ微分同相で、mc∗Φ′m_c^{*}\Phi' は閉形式、台 mc−1(supp⁡Φ′)m_c^{-1}(\operatorname{supp}\Phi') は鉛直方向にコンパクト、ファイバー上の積分は変数変換で 11 のままなので、1 から Thom 形式です。cc が定数のときの台の評価は ∣mc(v)∣=c∣v∣|m_c(v)|=c|v| から従います。一般の OO については、補題 3.3[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] により滑らかな δ>0\delta>0 で {∣v∣<δ}⊂O\{|v|<\delta\}\subset O となるものを取ります。また Thom 形式 Φ′\Phi' を 1 つ取ると、コンパクト集合 KjK_j(内部が MM を覆う)ごとに supp⁡Φ′∩π−1(Kj)⊂{∣v∣<Rj}\operatorname{supp}\Phi'\cap\pi^{-1}(K_j)\subset\{|v|<R_j\} となる定数 RjR_j があり、従属する 1 の分割で R=∑jρjRjR=\sum_j\rho_jR_j とおくと、各点で R(x)R(x) は xx を含む KjK_j の RjR_j の最小値以上なので supp⁡Φ′⊂{∣v∣<R}\operatorname{supp}\Phi'\subset\{|v|<R\} です。c=2R/δc=2R/\delta とすれば supp⁡mc∗Φ′⊂{∣v∣<δ/2}⊂O\operatorname{supp}m_c^{*}\Phi'\subset\{|v|<\delta/2\}\subset O です。

1 が、動機で述べた「各ファイバーの上で積分が 11 のこぶ」の正確な意味です。自明束 M×RrM\times\mathbb{R}^r では、∫Rrρ=1\int_{\mathbb{R}^r}\rho=1 となるコンパクトな台の rr 形式 ρ\rho を第 2 成分への射影で引き戻したもの pr2∗ρ\mathrm{pr}_2^{*}\rho が Thom 形式です。

例 4.4(向き付けできない束では Thom 同型が破れる)

開いた Möbius の帯 B=(R×R)/((θ,s)∼(θ+π,−s))B=(\mathbb{R}\times\mathbb{R})/((\theta,s)\sim(\theta+\pi,-s)) は S1=R/πZS^1=\mathbb{R}/\pi\mathbb{Z} 上の階数 11 のベクトル束で、向き付けできません。Hcv1(B)=0H^1_{cv}(B)=0 であることを示します。H0(S1)=RH^0(S^1)=\mathbb{R} なので、Thom 同型は成り立ちません。

ω\omega を BB 上の鉛直方向にコンパクトな台を持つ閉 1 形式とし、円柱 C=(R/2πZ)×RC=(\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z})\times\mathbb{R} への引き戻しを ω~\tilde\omega とします。ω~\tilde\omega は σ(θ,s)=(θ+π,−s)\sigma(\theta,s)=(\theta+\pi,-s) で不変です。CC は自明束なので、補題 3.3 から ω~\tilde\omega の類は関数 π∗ω~\pi_{*}\tilde\omega(閉な 00 形式、すなわち定数 cc)で決まります。σ\sigma はファイバーの向きを逆にするので π∗ω~(θ+π)=−π∗ω~(θ)\pi_{*}\tilde\omega(\theta+\pi)=-\pi_{*}\tilde\omega(\theta)、よって c=−c=0c=-c=0 で、ω~=dg~\tilde\omega=d\tilde g となる鉛直方向にコンパクトな台の関数 g~\tilde g があります。そのような g~\tilde g は一意です(差は定数で台がコンパクトなので 00)。σ∗g~\sigma^{*}\tilde g も同じ条件を満たすので σ∗g~=g~\sigma^{*}\tilde g=\tilde g で、g~\tilde g は BB 上の関数 gg に落ち、ω=dg\omega=dg です。

定義 5.1(閉部分多様体の Poincaré 双対)↗

MM を向き付けられた nn 次元多様体とする。

  1. S⊂MS\subset M を、MM の閉集合であるような向き付けられた kk 次元部分多様体、ι ⁣:S→M\iota\colon S\to M を包含写像とする。すべての [ω]∈Hck(M)[\omega]\in H^k_c(M) に対し ∫Sι∗ω=∫Mω∧ηS\int_S\iota^{*}\omega=\int_M\omega\wedge\eta_S を満たすただ 1 つの類 ηS∈Hn−k(M)\eta_S\in H^{n-k}(M) を、SS の Poincaré 双対という。
  2. より一般に、コンパクトな向き付けられた境界のない kk 次元多様体 AA からの滑らかな写像 g ⁣:A→Mg\colon A\to M に対し、∫Ag∗ω=∫Mω∧ηg\int_Ag^{*}\omega=\int_M\omega\wedge\eta_g([ω]∈Hck(M)[\omega]\in H^k_c(M))で定まる類 ηg∈Hn−k(M)\eta_g\in H^{n-k}(M) を gg の Poincaré 双対という。

SS が閉集合なので ι∗ω\iota^{*}\omega の台はコンパクトで、左辺は定義され、ω\omega が台のコンパクトな形式の外微分なら Stokes の定理で 00 です。よって左辺は Hck(M)H^k_c(M) 上の線形形式で、Poincaré 双対定理により ∫Mη′∧ω\int_M\eta'\wedge\omega の形にただ一通りに書け、ηS=(−1)k(n−k)η′\eta_S=(-1)^{k(n-k)}\eta' が条件を満たします。2 も同じです。g0,g1g_0,g_1 がホモトピックなら、g0∗ωg_0^{*}\omega と g1∗ωg_1^{*}\omega は AA の上でコホモロガスなので(定理 3.2[de Rham コホモロジー])、ηg0=ηg1\eta_{g_0}=\eta_{g_1} です。Poincaré 双対は部分多様体のホモトピー類にしかよりません。

次の定理は、SS の Poincaré 双対が「SS の法方向にだけ集中した、積分 11 のこぶ」であるという §1 の直観の正確な形です。向きについての条件は符号を合わせるためのもので、証明の中心は、Thom 形式のファイバー上の積分が 11 であることです。

定理 5.2(Poincaré 双対は法束の Thom 類)✓

MM を向き付けられた nn 次元多様体、S⊂MS\subset M をコンパクトな向き付けられた kk 次元部分多様体とする。(νS,φ)(\nu_S,\varphi) を SS の管状近傍で、零切断での微分の誘導する νS,z→TzM/TzS\nu_{S,z}\to T_zM/T_zS が向きを保つもの(定理 3.4[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] の構成はこれを満たす)とし、T=φ(νS)T=\varphi(\nu_S) とおく。Φ\Phi を νS\nu_S の台がコンパクトな Thom 形式とすると、(φ−1)∗Φ(\varphi^{-1})^{*}\Phi を TT の外で 00 として延ばした MM 上の閉 (n−k)(n-k) 形式 ΦT\Phi_T は ηS\eta_S を代表する。

証明(定理 5.2)

φ(supp⁡Φ)\varphi(\operatorname{supp}\Phi) は TT のコンパクト集合なので、ΦT\Phi_T は滑らかな閉形式です。νS\nu_S の全空間には §2 の規約で向きを入れます。零切断の点で dφd\varphi は TzST_zS の上で恒等写像、νS,z\nu_{S,z} の上で法束の向きを保つので、法束の向きの規約から φ\varphi は零切断の点で向きを保ち、連結性から全空間で向きを保ちます。

ω∈Ωck(M)\omega\in\Omega^k_c(M) を閉形式とします。π ⁣:νS→S\pi\colon\nu_S\to S を射影、s0s_0 を零切断とすると、H(v,t)=tvH(v,t)=tv は s0∘πs_0\circ\pi と恒等写像を結ぶホモトピーなので、νS\nu_S の上で φ∗ω−π∗s0∗φ∗ω=dτ\varphi^{*}\omega-\pi^{*}s_0^{*}\varphi^{*}\omega=d\tau となる τ\tau があります(定理 3.2[de Rham コホモロジー])。φ∘s0=ι\varphi\circ s_0=\iota なので s0∗φ∗ω=ι∗ωs_0^{*}\varphi^{*}\omega=\iota^{*}\omega です。よって

∫Mω∧ΦT=∫νSφ∗ω∧Φ=∫νSπ∗(ι∗ω)∧Φ+∫νSd(τ∧Φ)\int_M\omega\wedge\Phi_T=\int_{\nu_S}\varphi^{*}\omega\wedge\Phi=\int_{\nu_S}\pi^{*}(\iota^{*}\omega)\wedge\Phi+\int_{\nu_S}d(\tau\wedge\Phi)

です(dΦ=0d\Phi=0)。τ∧Φ\tau\wedge\Phi の台はコンパクトなので最後の項は Stokes の定理(定理 6.1[ストークスの定理])で 00 です。補題 3.2 (3) から、残りは ∫Sι∗ω∧π∗Φ=∫Sι∗ω\int_S\iota^{*}\omega\wedge\pi_{*}\Phi=\int_S\iota^{*}\omega です。

系 5.3(局所化原理)✓

定理 5.2 の状況で、SS を含む MM の任意の開集合 OO に対し、ηS\eta_S は台が OO に含まれる閉形式で代表できる。

証明(系 5.3)

φ−1(O∩T)\varphi^{-1}(O\cap T) は νS\nu_S の零切断を含む開集合なので、命題 4.3 (5) により台がその中に入る Thom 形式 Φ\Phi があります。SS はコンパクトなので Φ\Phi の台はコンパクトで、定理 5.2 の ΦT\Phi_T の台は OO に入ります。

Poincaré 双対を別の多様体に引き戻して積分すると何が出るかを、1 つの補題にまとめます。以後の結果はすべてこの補題から出ます。

補題 5.4(指定した点の近くで積の形をした Thom 形式)✓

π ⁣:E→Z\pi\colon E\to Z をコンパクトな多様体 ZZ 上の階数 qq の向き付きベクトル束(ファイバー計量つき)、z1,…,zm∈Zz_1,\dots,z_m\in Z を相異なる点とし、互いに交わらない開近傍 Ui∋ziU_i\ni z_i の上に向きを保つ正規直交な自明化 E∣Ui≅Ui×RqE|_{U_i}\cong U_i\times\mathbb{R}^q が与えられているとする。ρ\rho を Rq\mathbb{R}^q 上の台がコンパクトな qq 形式で ∫ρ=1\int\rho=1 となるものとする。このとき ziz_i の開近傍 Ui′⊂UiU_i'\subset U_i と EE の Thom 形式 Φ\Phi で、各 E∣Ui′E|_{U_i'} の上で Φ=pr2∗ρ\Phi=\mathrm{pr}_2^{*}\rho となるものが存在する。さらに、定数 c≥1c\ge1 に対する Φc=mc∗Φ\Phi_c=m_c^{*}\Phi は Thom 形式で、E∣Ui′E|_{U_i'} の上で Φc=pr2∗(μc∗ρ)\Phi_c=\mathrm{pr}_2^{*}(\mu_c^{*}\rho)(μc\mu_c は Rq\mathbb{R}^q の cc 倍写像)、supp⁡Φ⊂{∣v∣≤R}\operatorname{supp}\Phi\subset\{|v|\le R\} なら supp⁡Φc⊂{∣v∣≤R/c}\operatorname{supp}\Phi_c\subset\{|v|\le R/c\} である。

証明(補題 5.4)

Thom 形式 Φ0\Phi_0 を 1 つ取ります。E∣UiE|_{U_i} の上で、Φ0\Phi_0 と pr2∗ρ\mathrm{pr}_2^{*}\rho はどちらも鉛直方向にコンパクトな台を持つ閉形式で、ファイバー上の積分が 11 なので、UiU_i 上の Thom 同型の単射性(定理 4.1)から Φ0−pr2∗ρ=dβi\Phi_0-\mathrm{pr}_2^{*}\rho=d\beta_i となる βi∈Ωcvq−1(E∣Ui)\beta_i\in\Omega^{q-1}_{cv}(E|_{U_i}) があります。ZZ 上の滑らかな関数 λi\lambda_i で、台が UiU_i に入り ziz_i の開近傍 Ui′U_i' の上で 11 となるものを取り、

Φ=Φ0−∑id((π∗λi)βi)\Phi=\Phi_0-\sum_id\bigl((\pi^{*}\lambda_i)\beta_i\bigr)

とおきます((π∗λi)βi(\pi^{*}\lambda_i)\beta_i は E∣UiE|_{U_i} の外で 00 として延ばします)。Φ\Phi は Φ0\Phi_0 とコホモロガスな Thom 形式で、E∣Ui′E|_{U_i'} の上では Φ0−dβi=pr2∗ρ\Phi_0-d\beta_i=\mathrm{pr}_2^{*}\rho です。後半は 命題 4.3 (5) と、線形な自明化のもとで mcm_c が id×μc\mathrm{id}\times\mu_c に対応することから従います。

補題 5.5(Thom 形式の引き戻しの積分は交わりを数える)✓

MM を向き付けられた nn 次元多様体、Z⊂MZ\subset M を余次元 qq のコンパクトな向き付けられた部分多様体、TT を ZZ の管状近傍(定理 5.2 のとおり)とする。DD を向き付けられた qq 次元の境界のない多様体、g ⁣:D→Mg\colon D\to M を滑らかな写像で、g⋔Zg\pitchfork Z であり、TT の任意のコンパクト集合 CC に対し g−1(C)g^{-1}(C) がコンパクトであるものとする(DD がコンパクトならこの条件は自動的に成り立つ)。このとき g−1(Z)g^{-1}(Z) は有限集合で、TT の中に台がコンパクトな、νZ\nu_Z の Thom 類を代表する任意の閉形式 Φ\Phi に対し

∫Dg∗Φ=∑x∈g−1(Z)εx,\int_Dg^{*}\Phi=\sum_{x\in g^{-1}(Z)}\varepsilon_x,

ただし εx=±1\varepsilon_x=\pm1 は、合成 TxD→dgxTzM→TzM/TzZ=νZ,zT_xD\xrightarrow{dg_x}T_zM\to T_zM/T_zZ=\nu_{Z,z}(z=g(x)z=g(x)。横断性から同型)が向きを保つとき +1+1、逆にするとき −1-1 である。定義 3.1[交点数と写像度] の符号とは

εx=(−1)q(n−q)sign⁡x(g,Z)\varepsilon_x=(-1)^{q(n-q)}\operatorname{sign}_x(g,Z)

の関係にある。

証明の方針は次のとおりです。Thom 形式の台を cc 倍写像で ZZ のすぐ近くまで絞ります。cc を大きくすると、g∗Φcg^{*}\Phi_c の台は g−1(Z)g^{-1}(Z) の各点のまわりの小さな近傍にしか残らず、そこでは変数変換で積分が ±1\pm1 と求まります。長く見えるのは、「cc が十分大きいなら台が近傍に収まる」ことをコンパクト性で確かめているためです。

証明(補題 5.5)

g−1(Z)g^{-1}(Z) は DD の 00 次元部分多様体で(定理 3.3[横断性])、Z⊂TZ\subset T がコンパクトなのでコンパクト、したがって有限です。εx=+1\varepsilon_x=+1 は「TzZT_zZ の正の基底、dgxdg_x による TxDT_xD の正の基底の像」が TzMT_zM の正の基底であることで、sign⁡x(g,Z)\operatorname{sign}_x(g,Z) は順序を逆にしたものなので、q(n−q)q(n-q) 回の互換の符号だけ異なります。

代表元によらないこと。 Φ,Φ′\Phi,\Phi' を 2 つの代表元とすると、ZZ がコンパクトなので Hcvq(νZ)=Hcq(νZ)H^q_{cv}(\nu_Z)=H^q_c(\nu_Z) で、Φ−Φ′=dβ\Phi-\Phi'=d\beta となる台が TT の中でコンパクトな β\beta があります。g∗βg^{*}\beta の台は g−1(supp⁡β)g^{-1}(\operatorname{supp}\beta) に入りコンパクトなので、Stokes の定理から ∫Dg∗(Φ−Φ′)=0\int_Dg^{*}(\Phi-\Phi')=0 です。

都合のよい代表元。 νZ\nu_Z にファイバー計量を入れ、g−1(Z)g^{-1}(Z) の点の像 z1,…,zmz_1,\dots,z_m(相異なるもの)のまわりに自明化を取り、補題 5.4 の Φ\Phi、Ui′U_i'、Φc\Phi_c を取ります。管状近傍の微分同相で TT と νZ\nu_Z を同一視します。各 x∈g−1(Z)x\in g^{-1}(Z)(g(x)=zig(x)=z_i)に対し、xx の近傍で κx=pr2∘g\kappa_x=\mathrm{pr}_2\circ g(Rq\mathbb{R}^q に値を持つ)を考えると、d(κx)xd(\kappa_x)_x は上の合成 TxD→νZ,zi≅RqT_xD\to\nu_{Z,z_i}\cong\mathbb{R}^q なので同型です。xx の連結な開近傍 DxD_x を、互いに交わらず、g(Dx)⊂νZ∣Ui′g(D_x)\subset\nu_Z|_{U_i'} で、κx\kappa_x が DxD_x から 00 の開近傍への微分同相になるように取ります。

Cc={∣v∣≤R/c}C_c=\{|v|\le R/c\} は c→∞c\to\infty で ZZ に減少するコンパクト集合で、g−1(Cc)g^{-1}(C_c) は減少するコンパクト集合、その共通部分は g−1(Z)⊂⋃xDxg^{-1}(Z)\subset\bigcup_xD_x です。コンパクト集合 g−1(Cc)∖⋃xDxg^{-1}(C_c)\setminus\bigcup_xD_x は減少して共通部分が空なので、ある cc から先で空です(命題 4.5[コンパクト性])。さらに cc を大きくして supp⁡μc∗ρ⊂κx(Dx)\operatorname{supp}\mu_c^{*}\rho\subset\kappa_x(D_x) とします。すると g∗Φcg^{*}\Phi_c の台は ⋃xDx\bigcup_xD_x に入り、DxD_x の上で g∗Φc=κx∗(μc∗ρ)g^{*}\Phi_c=\kappa_x^{*}(\mu_c^{*}\rho) なので、変数変換から

∫Dg∗Φc=∑x∫Dxκx∗(μc∗ρ)=∑xsign⁡det⁡d(κx)∫Rqμc∗ρ=∑xεx\int_Dg^{*}\Phi_c=\sum_x\int_{D_x}\kappa_x^{*}(\mu_c^{*}\rho)=\sum_x\operatorname{sign}\det d(\kappa_x)\int_{\mathbb{R}^q}\mu_c^{*}\rho=\sum_x\varepsilon_x

です。

系 5.6(交点数は Poincaré 双対の積の積分)✓

MM を向き付けられた nn 次元多様体、A,B⊂MA,B\subset M をコンパクトな向き付けられた部分多様体で dim⁡A+dim⁡B=n\dim A+\dim B=n となるものとする。このとき

I(A,B)=∫MηA∧ηBI(A,B)=\int_M\eta_A\wedge\eta_B

が成り立つ(右辺は台がコンパクトな代表元で計算する)。

証明(系 5.6)

a=dim⁡Aa=\dim A、b=dim⁡Bb=\dim B とします。包含 ιA\iota_A にホモトピックで BB に横断的な g ⁣:A→Mg\colon A\to M を取ると(定理 9.1[横断性])、定義から I(A,B)=∑xsign⁡x(g,B)I(A,B)=\sum_x\operatorname{sign}_x(g,B) です。BB の管状近傍と台がコンパクトな Thom 形式から作った ηB\eta_B の代表元 ΦB\Phi_B(定理 5.2)に 補題 5.5 を使うと(D=AD=A、q=aq=a)

∫Ag∗ΦB=∑xεx=(−1)abI(A,B)\int_Ag^{*}\Phi_B=\sum_x\varepsilon_x=(-1)^{ab}I(A,B)

です。一方、g∗ΦBg^{*}\Phi_B と ιA∗ΦB\iota_A^{*}\Phi_B は AA の上でコホモロガスで、ηA\eta_A の定義(ω=ΦB\omega=\Phi_B)から

∫Ag∗ΦB=∫AιA∗ΦB=∫MΦB∧ηA=(−1)ab∫MηA∧ΦB\int_Ag^{*}\Phi_B=\int_A\iota_A^{*}\Phi_B=\int_M\Phi_B\wedge\eta_A=(-1)^{ab}\int_M\eta_A\wedge\Phi_B

です(ΦB\Phi_B は aa 形式、ηA\eta_A は bb 形式)。2 つを比べて主張を得ます。

命題 5.7(横断的な逆像と引き戻し)✓

XX を向き付けられた閉多様体、MM を向き付けられた多様体、Z⊂MZ\subset M を余次元 qq のコンパクトな向き付けられた部分多様体、f ⁣:X→Mf\colon X\to M を f⋔Zf\pitchfork Z となる滑らかな写像とする。W=f−1(Z)W=f^{-1}(Z) の法束には、dfdf の誘導する同型 νW,x=TxX/TxW→νZ,f(x)\nu_{W,x}=T_xX/T_xW\to\nu_{Z,f(x)} で向きを移し、WW には「TxWT_xW の正の基底、νW,x\nu_{W,x} の正の基底の持ち上げ」が TxXT_xX の正の基底になるように向きを入れる。このとき

f∗ηZ=ηW∈Hq(X).f^{*}\eta_Z=\eta_W\in H^q(X).
証明(命題 5.7)

WW は XX のコンパクトな部分多様体です。WW が空なら、f(X)f(X) と交わらない ZZ の近傍に台を持つ代表元(系 5.3)を取れば f∗ηZ=0f^{*}\eta_Z=0 です。以下 W≠∅W\ne\varnothing とします。WW の管状近傍 TWT_W(射影 πW ⁣:TW→W\pi_W\colon T_W\to W、ファイバー Fx=πW−1(x)F_x=\pi_W^{-1}(x))と、ZZ の管状近傍 TZ≅νZT_Z\cong\nu_Z(ファイバー計量つき)を取ります。

Cc={∣v∣≤1/c}⊂TZC_c=\{|v|\le1/c\}\subset T_Z は ZZ に減少するコンパクト集合で、f−1(Cc)f^{-1}(C_c) は W⊂TWW\subset T_W に減少するコンパクト集合なので、補題 5.5 の証明と同じ議論で、ある c0c_0 について f−1(Cc0)⊂TWf^{-1}(C_{c_0})\subset T_W です。TZ′={∣v∣<1/c0}T_Z'=\{|v|<1/c_0\} も ZZ の管状近傍で、台が TZ′T_Z' の中でコンパクトな Thom 形式 Φ\Phi を取ると(命題 4.3 (5))、Φ\Phi は ηZ\eta_Z を代表し、f∗Φf^{*}\Phi は台が TWT_W の中でコンパクトな閉 qq 形式です。

WW はコンパクトなので、TW≅νWT_W\cong\nu_W の Thom 同型(定理 4.1)から、Hcq(TW)H^q_c(T_W) の中で [f∗Φ]=[πW∗m∧ΦW][f^{*}\Phi]=[\pi_W^{*}m\wedge\Phi_W] です。ここで ΦW\Phi_W は νW\nu_W の Thom 形式、m=(πW)∗f∗Φm=(\pi_W)_{*}f^{*}\Phi は WW 上の閉じた 00 形式(局所定数関数)で、m(x)=∫Fxf∗Φm(x)=\int_{F_x}f^{*}\Phi です。

m(x)m(x) を 補題 5.5 で計算します。D=FxD=F_x(νW,x\nu_{W,x} の向き)、g=f∣Fxg=f|_{F_x}、管状近傍 TZ′T_Z' とします。g−1(Z)=Fx∩W={x}g^{-1}(Z)=F_x\cap W=\{x\} です。TxX=TxW⊕TxFxT_xX=T_xW\oplus T_xF_x で dfx(TxW)⊂TzZdf_x(T_xW)\subset T_zZ なので、f⋔Zf\pitchfork Z から dfx(TxFx)+TzZ=TzMdf_x(T_xF_x)+T_zZ=T_zM、すなわち gg は xx で ZZ に横断的です。TZ′T_Z' のコンパクト集合 CC に対し、f−1(C)f^{-1}(C) は f−1(Cc0)⊂TWf^{-1}(C_{c_0})\subset T_W に入るコンパクト集合で、FxF_x は TWT_W の閉集合なので、g−1(C)=f−1(C)∩Fxg^{-1}(C)=f^{-1}(C)\cap F_x はコンパクトです。よって m(x)=εxm(x)=\varepsilon_x で、これは TxFx=νW,x→νZ,zT_xF_x=\nu_{W,x}\to\nu_{Z,z} が向きを保つかどうかの符号、すなわち WW の法束の向きの定め方から +1+1 です。

したがって [f∗Φ]=[ΦW]∈Hcq(TW)[f^{*}\Phi]=[\Phi_W]\in H^q_c(T_W) で、00 で延ばして Hq(X)H^q(X) で見ると、左辺は f∗ηZf^{*}\eta_Z、右辺は 定理 5.2 により ηW\eta_W です。

定理 5.8(横断的な交わりは外積)✓

MM を向き付けられた多様体、A,B⊂MA,B\subset M をコンパクトな向き付けられた部分多様体で、横断的に交わるものとする。C=A∩BC=A\cap B の法束 νC=νA∣C⊕νB∣C\nu_C=\nu_A|_C\oplus\nu_B|_C に「νA\nu_A、νB\nu_B の順」の向きを入れ、CC には「TpCT_pC、νC,p\nu_{C,p} の順」が TpMT_pM の向きになるように向きを入れる。このとき

ηA∩B=ηA∧ηB.\eta_{A\cap B}=\eta_A\wedge\eta_B .
証明(定理 5.8)

c=dim⁡Cc=\dim C とし、ω∈Ωcc(M)\omega\in\Omega^c_c(M) を閉形式とします。ηA\eta_A の代表元は閉形式なので ω∧ηA\omega\wedge\eta_A は台がコンパクトな閉形式で、ηB\eta_B の定義から

∫Mω∧ηA∧ηB=∫BιB∗ω∧ιB∗ηA\int_M\omega\wedge\eta_A\wedge\eta_B=\int_B\iota_B^{*}\omega\wedge\iota_B^{*}\eta_A

です。命題 5.7 を X=BX=B、f=ιBf=\iota_B、Z=AZ=A に使うと(ιB⋔A\iota_B\pitchfork A、ιB−1(A)=C\iota_B^{-1}(A)=C)、ιB∗ηA\iota_B^{*}\eta_A は BB の中での CC の Poincaré 双対 ηCB\eta^{B}_C です。ここで CC の向きは、BB の中の法束 TpB/TpC≅νA,pT_pB/T_pC\cong\nu_{A,p} について「TpCT_pC、νA\nu_A の順」が TpBT_pB の向き、というものです。BB の法束の向きの規約「TpBT_pB、νB\nu_B の順が TpMT_pM の向き」と合わせると「TpCT_pC、νA\nu_A、νB\nu_B の順が TpMT_pM の向き」で、定理の向きと一致します。よって右辺は ∫Cω\int_C\omega で、ηA∧ηB\eta_A\wedge\eta_B は ηC\eta_C の定義の条件を満たします。

例 5.9(トーラス上の閉曲線)

T2=(R/2πZ)2T^2=(\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z})^2(座標 θ1,θ2\theta_1,\theta_2、向き dθ1∧dθ2d\theta_1\wedge d\theta_2)の中で、A={θ2=0}A=\{\theta_2=0\}(θ1\theta_1 の増える向き)、B={θ1=0}B=\{\theta_1=0\}(θ2\theta_2 の増える向き)とします。H1(T2)H^1(T^2) は dθ1,dθ2d\theta_1,d\theta_2 で張られます。ω=a dθ1+b dθ2\omega=a\,d\theta_1+b\,d\theta_2 に対し ∫Aω=2πa\int_A\omega=2\pi a、∫Bω=2πb\int_B\omega=2\pi b です。η=c1 dθ1+c2 dθ2\eta=c_1\,d\theta_1+c_2\,d\theta_2 とすると ∫T2ω∧η=(2π)2(ac2−bc1)\int_{T^2}\omega\wedge\eta=(2\pi)^2(ac_2-bc_1) なので

ηA=dθ22π,ηB=−dθ12π,∫T2ηA∧ηB=∫T2dθ1∧dθ2(2π)2=1\eta_A=\frac{d\theta_2}{2\pi},\qquad\eta_B=-\frac{d\theta_1}{2\pi},\qquad\int_{T^2}\eta_A\wedge\eta_B=\int_{T^2}\frac{d\theta_1\wedge d\theta_2}{(2\pi)^2}=1

です。AA と BB は 1 点で横断的に交わり、(∂θ1,∂θ2)(\partial_{\theta_1},\partial_{\theta_2}) は正の基底なので I(A,B)=1I(A,B)=1 で、系 5.6 と合っています。ηA=dθ2/2π\eta_A=d\theta_2/2\pi は AA の法方向の座標 θ2\theta_2 だけに依存し、θ2\theta_2 のこぶ関数 ρ(θ2)dθ2\rho(\theta_2)d\theta_2(∫ρ=1\int\rho=1、台は 00 の近く)とコホモロガスです。これが AA の法束の Thom 形式です。ηA∧ηA=0\eta_A\wedge\eta_A=0 は、AA を平行にずらせば自分自身と交わらないこと(I(A,A)=0I(A,A)=0)に対応します。

定義 6.1(Euler 類)↗

π ⁣:E→M\pi\colon E\to M を階数 rr の向き付きベクトル束、s0 ⁣:M→Es_0\colon M\to E を零切断とする。

e(E)=s0∗Φ(E)∈Hr(M)e(E)=s_0^{*}\Phi(E)\in H^r(M)

を EE の Euler 類という。MM が向き付けられた rr 次元の閉多様体のとき、∫Me(E)\int_Me(E) を EE の Euler 数という。

任意の切断 ss は tsts により零切断にホモトピックなので、e(E)=s∗Φ(E)e(E)=s^{*}\Phi(E) でもあります(Φ(E)\Phi(E) を Hr(E)H^r(E) の類とみて 定理 3.2[de Rham コホモロジー] を使います)。

命題 6.2(Euler 類の性質)✓

E,FE,F を MM 上の向き付きベクトル束、EE の階数を rr とする。

  1. (自然性)f ⁣:N→Mf\colon N\to M に対し e(f∗E)=f∗e(E)e(f^{*}E)=f^{*}e(E)。
  2. (Whitney 和)e(E⊕F)=e(E)∧e(F)e(E\oplus F)=e(E)\wedge e(F)。
  3. (向き)e(−E)=−e(E)e(-E)=-e(E)。
  4. rr が奇数ならば e(E)=0e(E)=0 である。
証明(命題 6.2)
  1. f∗Ef^{*}E の零切断 s0′s_0' について f~∘s0′=s0∘f\tilde f\circ s_0'=s_0\circ f なので、命題 4.3 (2) から e(f∗E)=s0′∗f~∗Φ(E)=f∗s0∗Φ(E)e(f^{*}E)=s_0'^{*}\tilde f^{*}\Phi(E)=f^{*}s_0^{*}\Phi(E) です。

  2. E⊕FE\oplus F の零切断 s0′′s_0'' について p1∘s0′′p_1\circ s_0''、p2∘s0′′p_2\circ s_0'' は E,FE,F の零切断なので、同じ命題の (4) から e(E⊕F)=s0′′∗(p1∗ΦE∧p2∗ΦF)=e(E)∧e(F)e(E\oplus F)=s_0''^{*}(p_1^{*}\Phi_E\wedge p_2^{*}\Phi_F)=e(E)\wedge e(F) です。

  3. 同じ命題の (3) です。

  4. a ⁣:E→Ea\colon E\to E、a(v)=−va(v)=-v は、rr が奇数のとき各ファイバーの向きを逆にする微分同相です。Thom 形式 Φ′\Phi' に対し a∗Φ′a^{*}\Phi' は鉛直方向にコンパクトな台を持つ閉形式で、ファイバー上の積分は −1-1 なので、同じ命題の (1) から a∗Φ(E)=−Φ(E)a^{*}\Phi(E)=-\Phi(E) です。a∘s0=s0a\circ s_0=s_0 なので e(E)=s0∗a∗Φ(E)=−e(E)e(E)=s_0^{*}a^{*}\Phi(E)=-e(E) で、実係数では e(E)=0e(E)=0 です。

4 は整数係数では「2e=02e=0」という主張で、実係数(de Rham コホモロジー)では e=0e=0 になります。

系 6.3(零点のない切断があれば Euler 類は消える)✓

MM をコンパクトな多様体、E→ME\to M を向き付きベクトル束とする。どこでも 00 でない切断 ss が存在すれば e(E)=0e(E)=0 である。とくに自明束の Euler 類は 00 である。

証明(系 6.3)

EE にファイバー計量を入れます。MM はコンパクトなので ε=min⁡∣s∣>0\varepsilon=\min|s|>0 で、Thom 形式 Φ′\Phi' の台はコンパクトなので {∣v∣≤R}\{|v|\le R\} に入ります。c>R/εc>R/\varepsilon とすると、切断 cscs の像は supp⁡Φ′\operatorname{supp}\Phi' と交わらず、(cs)∗Φ′=0(cs)^{*}\Phi'=0 です。e(E)=(cs)∗Φ(E)e(E)=(cs)^{*}\Phi(E) なので e(E)=0e(E)=0 です。

コンパクトでない MM でも、cc を正の関数に取れば同じ証明が通ります。Euler 類は、零点のない切断が存在するための最初の障害です。

定理 6.4(Euler 類は切断の零点集合の Poincaré 双対)✓

MM を向き付けられた閉多様体、π ⁣:E→M\pi\colon E\to M を階数 rr の向き付きベクトル束、ss を零切断 M0=s0(M)M_0=s_0(M) に横断的な切断とする。零点集合 Z(s)=s−1(M0)Z(s)=s^{-1}(M_0) は余次元 rr のコンパクトな部分多様体で、dsds の鉛直成分の誘導する同型 νZ(s),x→Ex\nu_{Z(s),x}\to E_x で法束に向きを移し、命題 5.7 の規約で Z(s)Z(s) に向きを入れると

e(E)=ηZ(s)∈Hr(M)e(E)=\eta_{Z(s)}\in H^r(M)

が成り立つ。

証明(定理 6.4)

EE の全空間(§2 の向き)の中で、零切断 M0M_0 はコンパクトな向き付けられた部分多様体です。T0xE=TxM⊕ExT_{0_x}E=T_xM\oplus E_x なので法束は EE 自身で、「TxMT_xM、ExE_x の順」という全空間の向きは法束の向きの規約と合っています。恒等写像 E→EE\to E が M0M_0 の管状近傍なので、定理 5.2 から EE の中での M0M_0 の Poincaré 双対は Thom 類 Φ(E)\Phi(E)(を Hr(E)H^r(E) の類とみたもの)です。命題 5.7 を X=MX=M、f=sf=s、Z=M0Z=M_0 に使うと

e(E)=s∗Φ(E)=s∗ηM0=ηs−1(M0)=ηZ(s)e(E)=s^{*}\Phi(E)=s^{*}\eta_{M_0}=\eta_{s^{-1}(M_0)}=\eta_{Z(s)}

です。νZ(s),x→νM0,0x=Ex\nu_{Z(s),x}\to\nu_{M_0,0_x}=E_x は dsxds_x を T0xM0T_{0_x}M_0 で割ったもので、dsds の鉛直成分です。

定理 6.5(接束の Euler 数は Euler 標数)✓

MM を向き付けられた nn 次元の閉多様体とすると

∫Me(TM)=χ(M)\int_Me(TM)=\chi(M)

が成り立つ。より一般に、向き付けられた nn 次元閉多様体 MM 上の階数 nn の向き付きベクトル束 EE と、零切断に横断的な切断 ss について、∫Me(E)=∑s(x)=0εx\int_Me(E)=\sum_{s(x)=0}\varepsilon_x(εx\varepsilon_x は dsxds_x の鉛直成分 TxM→ExT_xM\to E_x が向きを保つかどうかの符号)である。

証明(定理 6.5)

後半から示します。補題 5.5 を、全空間 EE、部分多様体 M0M_0(余次元 nn、管状近傍は EE 全体)、D=MD=M、g=sg=s に使うと、∫Ms∗Φ′=∑xεx\int_Ms^{*}\Phi'=\sum_x\varepsilon_x(Φ′\Phi' は台がコンパクトな Thom 形式)で、左辺は ∫Me(E)\int_Me(E) です。

E=TME=TM とします。n=1n=1 のとき MM は円周の非交和で、TMTM は零点のない切断を持つので両辺 00 です(系 6.3)。n≥2n\ge2 とし、零点がすべて非退化なベクトル場 VV(Morse 関数の勾配。補題 7.5[交点数と写像度])を取ります。局所自明化で V=(x,v(x))V=(x,v(x)) と書くと、VV が零切断に横断的であることは零点で dvxdv_x が全射であること、すなわち非退化性と同じで、dVxdV_x の鉛直成分は dvxdv_x です。よって εx=sign⁡det⁡dvx=ind⁡x(V)\varepsilon_x=\operatorname{sign}\det dv_x=\operatorname{ind}_x(V)(命題 7.2[交点数と写像度])で、Poincaré–Hopf の定理(定理 7.6[交点数と写像度])から和は χ(M)\chi(M) です。

注意 6.6(曲率による Euler 類(Gauss–Bonnet–Chern の定理))

Chern–Weil 理論 では、計量と両立する接続の曲率 FF の Pfaffian により e(E)=[Pf⁡(F/2π)]e(E)=[\operatorname{Pf}(F/2\pi)] と定義しました(定義 3.3[Chern–Weil 理論と特性類]。階数が偶数の場合)。この類は、この記事の Thom 類による Euler 類に一致します。これと 定理 6.5 を合わせたもの、

∫MPf⁡(F2π)=χ(M)(dim⁡M=2m, F は TM の Levi-Civita 接続の曲率)\int_M\operatorname{Pf}\Bigl(\frac{F}{2\pi}\Bigr)=\chi(M)\qquad(\dim M=2m,\ F\text{ は }TM\text{ の Levi-Civita 接続の曲率})

が Gauss–Bonnet–Chern の定理です。2 つの定義の一致の証明(球面束の上で大域角形式を曲率から具体的に作る)はこの記事では行いません。S. S. Chern, “A simple intrinsic proof of the Gauss–Bonnet formula for closed Riemannian manifolds”, Annals of Mathematics 45 (1944)、Bott–Tu『Differential Forms in Algebraic Topology』§11 を見てください。

2 次元の場合は既出の結果で確かめられます。R3\mathbb{R}^3 の中の閉曲面 SS では、Pf⁡(F/2π)=K dA/2π\operatorname{Pf}(F/2\pi)=K\,dA/2\pi(例 3.4[Chern–Weil 理論と特性類])で、Gauss–Bonnet の定理(定理 6.3[曲線と曲面])から ∫SK dA/2π=χ(S)\int_SK\,dA/2\pi=\chi(S) です。一方 定理 6.5 から ∫Se(TS)=χ(S)\int_Se(TS)=\chi(S) で、H2(S)≅RH^2(S)\cong\mathbb{R} は積分で決まるので、2 つの類は一致します。

例 6.7(Euler 数の例)

(a) TS2TS^2 の Euler 数は χ(S2)=2\chi(S^2)=2 です。回転のベクトル場の 2 つの零点がそれぞれ +1+1 を与えます。TS2TS^2 には零点のない切断がなく、とくに自明束ではありません。

(b) CP1=S2\mathbb{C}P^1=S^2 上の同語反復的な複素直線束 L={(ℓ,v):v∈ℓ}⊂CP1×C2L=\{(\ell,v):v\in\ell\}\subset\mathbb{C}P^1\times\mathbb{C}^2(階数 22 の実ベクトル束、複素構造から向きを入れる)の双対 L∗L^{*} は、線形形式 z0z_0 の制限という切断 ss を持ちます。ss の零点は ℓ=[0:1]\ell=[0:1] の 1 点です。そのまわりの座標 w=z0/z1w=z_0/z_1 と自明化(ℓ\ell の基底 (w,1)(w,1) での値)で s=ws=w なので、dsds は複素線形な同型で向きを保ち、ε=+1\varepsilon=+1 です。よって L∗L^{*} の Euler 数は 11、命題 6.2 (3) と L≅L∗‾L\cong\overline{L^{*}}(Hermite 計量による同一視。実ベクトル束としては L∗L^{*} の向きを逆にしたもの)から LL の Euler 数は −1-1 です。LL の単位球面束が Hopf ファイブレーション S3→S2S^3\to S^2 です。

(c) 複素直線束 L∗⊗dL^{*\otimes d}(d≥1d\ge1。次数 dd の斉次多項式が切断を与える)の Euler 数は dd です。切断 z0d−z1dz_0^d-z_1^d は dd 個の相異なる零点 [ζ:1][\zeta:1](ζd=1\zeta^d=1)を持ち、それぞれで複素線形な同型(dζd−1≠0d\zeta^{d-1}\ne0)を微分に持つからです。TS2≅L∗⊗2TS^2\cong L^{*\otimes2} で、(a) と合っています。

定理 7.1(対角集合の Poincaré 双対と Lefschetz 数)✓

XX を向き付けられた nn 次元の閉多様体、{ωi}\{\omega_i\} を H∗(X)H^{*}(X) の斉次元からなる基底、{τi}\{\tau_i\} を双対基底(∫Xωi∧τj=δij\int_X\omega_i\wedge\tau_j=\delta_{ij}。補題 2.1)、π1,π2 ⁣:X×X→X\pi_1,\pi_2\colon X\times X\to X を射影とする。

  1. 対角集合 Δ⊂X×X\Delta\subset X\times X の Poincaré 双対は ηΔ=∑i(−1)deg⁡ωi π1∗ωi∧π2∗τi.\eta_\Delta=\sum_i(-1)^{\deg\omega_i}\,\pi_1^{*}\omega_i\wedge\pi_2^{*}\tau_i .
  2. 滑らかな写像 f ⁣:X→Xf\colon X\to X のグラフ Γf\Gamma_f について I(Γf,Δ)=∑k=0n(−1)ktr⁡(f∗ ⁣:Hk(X)→Hk(X)),I(Δ,Γf)=(−1)nI(Γf,Δ).I(\Gamma_f,\Delta)=\sum_{k=0}^n(-1)^k\operatorname{tr}\bigl(f^{*}\colon H^k(X)\to H^k(X)\bigr),\qquad I(\Delta,\Gamma_f)=(-1)^nI(\Gamma_f,\Delta).
  3. ff が Lefschetz 写像ならば ∑f(x)=xsign⁡det⁡(I−dfx)=∑k=0n(−1)ktr⁡(f∗∣Hk(X)).\sum_{f(x)=x}\operatorname{sign}\det(I-df_x)=\sum_{k=0}^n(-1)^k\operatorname{tr}\bigl(f^{*}|H^k(X)\bigr). 右辺が 00 でなければ ff は不動点を持つ。
証明(定理 7.1)

1。 Künneth の公式(系 5.7[コホモロジーと双対性]。補題 2.1 により有限次元)から、{π1∗ωi∧π2∗τj}\{\pi_1^{*}\omega_i\wedge\pi_2^{*}\tau_j\} は H∗(X×X)H^{*}(X\times X) の基底で、ηΔ=∑i,jcij π1∗ωi∧π2∗τj\eta_\Delta=\sum_{i,j}c_{ij}\,\pi_1^{*}\omega_i\wedge\pi_2^{*}\tau_j と書けます。θ=π1∗τk∧π2∗ωl\theta=\pi_1^{*}\tau_k\wedge\pi_2^{*}\omega_l で両辺を調べます。∣ω∣|\omega| で次数を表します。対角集合の上では

∫Δθ=∫Xτk∧ωl=(−1)∣τk∣∣ωl∣δkl\int_\Delta\theta=\int_X\tau_k\wedge\omega_l=(-1)^{|\tau_k||\omega_l|}\delta_{kl}

です。一方、積の向きと Fubini の定理から ∫X×Xπ1∗a∧π2∗b=∫Xa∫Xb\int_{X\times X}\pi_1^{*}a\wedge\pi_2^{*}b=\int_Xa\int_Xb なので

∫X×Xθ∧ηΔ=∑i,jcij(−1)∣ωl∣∣ωi∣∫Xτk∧ωi∫Xωl∧τj=ckl (−1)∣ωl∣∣ωk∣+∣τk∣∣ωk∣\int_{X\times X}\theta\wedge\eta_\Delta=\sum_{i,j}c_{ij}(-1)^{|\omega_l||\omega_i|}\int_X\tau_k\wedge\omega_i\int_X\omega_l\wedge\tau_j=c_{kl}\,(-1)^{|\omega_l||\omega_k|+|\tau_k||\omega_k|}

です(π2∗ωl\pi_2^{*}\omega_l と π1∗ωi\pi_1^{*}\omega_i を入れ替え、∫τk∧ωi=(−1)∣τk∣∣ωi∣δik\int\tau_k\wedge\omega_i=(-1)^{|\tau_k||\omega_i|}\delta_{ik} を使いました)。ηΔ\eta_\Delta の定義から 2 つは等しく、k≠lk\ne l なら ckl=0c_{kl}=0、k=lk=l なら ckk=(−1)∣ωk∣2=(−1)∣ωk∣c_{kk}=(-1)^{|\omega_k|^2}=(-1)^{|\omega_k|} です。

2。 系 5.6 と ηΓf\eta_{\Gamma_f} の定義(ω=ηΔ\omega=\eta_\Delta)から

I(Δ,Γf)=∫X×XηΔ∧ηΓf=∫ΓfηΔ=∫Xγf∗ηΔ=∑i(−1)∣ωi∣∫Xωi∧f∗τiI(\Delta,\Gamma_f)=\int_{X\times X}\eta_\Delta\wedge\eta_{\Gamma_f}=\int_{\Gamma_f}\eta_\Delta=\int_X\gamma_f^{*}\eta_\Delta=\sum_i(-1)^{|\omega_i|}\int_X\omega_i\wedge f^{*}\tau_i

です(γf(x)=(x,f(x))\gamma_f(x)=(x,f(x))、π1∘γf=id\pi_1\circ\gamma_f=\mathrm{id}、π2∘γf=f\pi_2\circ\gamma_f=f)。f∗τi=∑jajiτjf^{*}\tau_i=\sum_ja_{ji}\tau_j と書くと ∫Xωi∧f∗τi=aii\int_X\omega_i\wedge f^{*}\tau_i=a_{ii} です。∣ωi∣=k|\omega_i|=k となる ii について τi\tau_i は Hn−k(X)H^{n-k}(X) の基底をなすので、それらの aiia_{ii} の和は tr⁡(f∗∣Hn−k)\operatorname{tr}(f^{*}|H^{n-k}) です。よって

I(Δ,Γf)=∑k(−1)ktr⁡(f∗∣Hn−k)=(−1)n∑j(−1)jtr⁡(f∗∣Hj)I(\Delta,\Gamma_f)=\sum_k(-1)^k\operatorname{tr}(f^{*}|H^{n-k})=(-1)^n\sum_j(-1)^j\operatorname{tr}(f^{*}|H^j)

で、命題 3.5[交点数と写像度] から I(Γf,Δ)=(−1)n2I(Δ,Γf)I(\Gamma_f,\Delta)=(-1)^{n^2}I(\Delta,\Gamma_f) です。

3。 命題 8.5[交点数と写像度] から I(Δ,Γf)=∑xsign⁡det⁡(dfx−I)I(\Delta,\Gamma_f)=\sum_x\operatorname{sign}\det(df_x-I) で、det⁡(dfx−I)=(−1)ndet⁡(I−dfx)\det(df_x-I)=(-1)^n\det(I-df_x) なので 2 から従います。不動点がなければ左辺は空な和です。

de Rham の定理は滑らかな写像と可換な同型 Hk(X)≅Hk(X;R)H^k(X)\cong H^k(X;\mathbb{R}) を与え、後者は Hk(X)⊗RH_k(X)\otimes\mathbb{R} の双対で f∗f^{*} は f∗f_{*} の転置なので、3 の右辺は 定義 7.1[胞体ホモロジーと写像度] の Lefschetz 数 τ(f)\tau(f) です。したがって 3 は、Lefschetz の不動点定理(定理 7.2[胞体ホモロジーと写像度])の滑らかな場合の別証明であり、さらに不動点の個数を符号つきで与える精密化になっています。

系 7.2(対角集合の自己交点数は Euler 標数)✓

向き付けられた閉多様体 XX について I(Δ,Δ)=χ(X)I(\Delta,\Delta)=\chi(X) である。

証明(系 7.2)

定理 7.1 (2) で f=idf=\mathrm{id} とすると、Γid=Δ\Gamma_{\mathrm{id}}=\Delta、tr⁡(id∣Hk)=bk\operatorname{tr}(\mathrm{id}|H^k)=b_k なので I(Δ,Δ)=χ(X)I(\Delta,\Delta)=\chi(X) かつ I(Δ,Δ)=(−1)nχ(X)I(\Delta,\Delta)=(-1)^n\chi(X) です(nn が奇数なら両方から χ(X)=0\chi(X)=0)。

対角集合の法束は TXTX に同型((v,w)↦w−v(v,w)\mapsto w-v)なので、この系は ∫Xe(TX)=χ(X)\int_Xe(TX)=\chi(X)(定理 6.5)の言い換えでもあります。Euler 標数は「恒等写像の不動点の個数」を正しく数えたものです。

8. Gysin 完全列と CPn\mathbb{C}P^n のコホモロジー環

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π ⁣:E→M\pi\colon E\to M をファイバー計量を持つ階数 r≥2r\ge2 の向き付きベクトル束とし、単位球面束を S(E)={v∈E:∣v∣=1}S(E)=\{v\in E:|v|=1\}、p=π∣S(E) ⁣:S(E)→Mp=\pi|_{S(E)}\colon S(E)\to M とします。S(E)S(E) は ∣v∣2|v|^2 の正則値 11 の逆像なので EE の部分多様体で、pp はファイバー Sr−1S^{r-1} のファイバー束です。各ファイバー S(E)xS(E)_x には、単位球体 Dx⊂ExD_x\subset E_x の境界としての向きを入れます。

定義 8.1(大域角形式)↗

e0e_0 を Euler 類 e(E)e(E) を代表する閉 rr 形式とする。S(E)S(E) 上の (r−1)(r-1) 形式 ψ\psi で

dψ=−p∗e0,∫S(E)xψ=1(x∈M)d\psi=-p^{*}e_0,\qquad\int_{S(E)_x}\psi=1\quad(x\in M)

を満たすものを大域角形式という。

r=2r=2 で EE が自明なら、ψ=dθ/2π\psi=d\theta/2\pi(θ\theta はファイバーの角度)が大域角形式です。一般の束では角度 θ\theta は大域的に定義できず、dθ/2πd\theta/2\pi を貼り合わせた ψ\psi は閉形式にならず、そのずれが Euler 類です。

補題 8.2(大域角形式の存在)✓

上の状況で、台が開単位球体束 {∣v∣<1}\{|v|<1\} に含まれる Thom 形式 Φ′\Phi' を取り、e0=s0∗Φ′e_0=s_0^{*}\Phi' とおくと、この e0e_0 に対する大域角形式 ψ\psi が存在する。

証明(補題 8.2)

Φ′\Phi' は 命題 4.3 (5) により存在します。s0∘πs_0\circ\pi は恒等写像にホモトピックなので、Hr(E)H^r(E) の中で [π∗s0∗Φ′]=[Φ′][\pi^{*}s_0^{*}\Phi']=[\Phi'] で、Φ′−π∗e0=dσ\Phi'-\pi^{*}e_0=d\sigma となる σ∈Ωr−1(E)\sigma\in\Omega^{r-1}(E) があります。包含 j ⁣:S(E)→Ej\colon S(E)\to E で ψ=j∗σ\psi=j^{*}\sigma とおきます。S(E)S(E) の近傍で Φ′=0\Phi'=0 なので dψ=−j∗π∗e0=−p∗e0d\psi=-j^{*}\pi^{*}e_0=-p^{*}e_0 です。π∗e0\pi^{*}e_0 のファイバー ExE_x への制限は、定値写像による rr 形式の引き戻しなので 00 です。Stokes の定理(定理 6.1[ストークスの定理])から

∫S(E)xψ=∫Dxdσ=∫DxΦ′−∫Dxπ∗e0=1\int_{S(E)_x}\psi=\int_{D_x}d\sigma=\int_{D_x}\Phi'-\int_{D_x}\pi^{*}e_0=1

です。

定理 8.3(Gysin 完全列)✓

π ⁣:E→M\pi\colon E\to M をファイバー計量を持つ階数 r≥2r\ge2 の向き付きベクトル束、p ⁣:S(E)→Mp\colon S(E)\to M を単位球面束とする。次の長完全列が存在する。

⋯→Hk−r(M)→ ±∧e(E) Hk(M)→ p∗ Hk(S(E))→ p! Hk−r+1(M)→ ±∧e(E) Hk+1(M)→⋯\cdots\to H^{k-r}(M)\xrightarrow{\ \pm\wedge e(E)\ }H^k(M)\xrightarrow{\ p^{*}\ }H^k(S(E))\xrightarrow{\ p_{!}\ }H^{k-r+1}(M)\xrightarrow{\ \pm\wedge e(E)\ }H^{k+1}(M)\to\cdots

ここで p!p_{!} は、大域角形式 ψ\psi を使って類を p∗α+p∗β∧ψp^{*}\alpha+p^{*}\beta\wedge\psi の形に代表したときの [β][\beta] であり、符号 ±\pm は次数だけで決まる。

証明の動機を述べます。球面束 S(E)S(E) の形式は、底空間の形式 α,β\alpha,\beta を使って p∗α+p∗β∧ψp^{*}\alpha+p^{*}\beta\wedge\psi と書けるはずです(ファイバーの球面のコホモロジーが 11 と角度の類で張られるため)。ただし ψ\psi は閉形式でなく dψ=−p∗e0d\psi=-p^{*}e_0 なので、微分が dd そのままではなく、e0e_0 だけずれた複体 C(U)C(U) を定義します。このずれが、完全列の写像 ∧e(E)\wedge e(E) になります。局所的には Leray–Hirsch の定理(ファイバーのコホモロジーの基底が全体の類に延びるとき、全空間のコホモロジーが底空間とファイバーのコホモロジーの積になるという定理)が使えるので、あとは Thom 同型と同じ貼り合わせです。

証明(定理 8.3)

補題 8.2 の e0,ψe_0,\psi を固定します。

第 1 段:複体 C(U)C(U)。 開集合 U⊂MU\subset M に対し Ck(U)=Ωk(U)⊕Ωk−r+1(U)C^k(U)=\Omega^k(U)\oplus\Omega^{k-r+1}(U)、

D(α,β)=(dα−(−1)∣β∣β∧e0, dβ)D(\alpha,\beta)=\bigl(d\alpha-(-1)^{|\beta|}\beta\wedge e_0,\ d\beta\bigr)

とおきます(∣β∣|\beta| は β\beta の次数)。d(β∧e0)=dβ∧e0d(\beta\wedge e_0)=d\beta\wedge e_0 から D2(α,β)=(−(−1)∣β∣dβ∧e0−(−1)∣β∣+1dβ∧e0, 0)=0D^2(\alpha,\beta)=\bigl(-(-1)^{|\beta|}d\beta\wedge e_0-(-1)^{|\beta|+1}d\beta\wedge e_0,\ 0\bigr)=0 です。写像

ΘU ⁣:Ck(U)→Ωk(S(E)∣U),ΘU(α,β)=p∗α+p∗β∧ψ\Theta_U\colon C^k(U)\to\Omega^k(S(E)|_U),\qquad\Theta_U(\alpha,\beta)=p^{*}\alpha+p^{*}\beta\wedge\psi

は、d(p∗β∧ψ)=p∗dβ∧ψ+(−1)∣β∣p∗β∧dψ=p∗dβ∧ψ−(−1)∣β∣p∗(β∧e0)d(p^{*}\beta\wedge\psi)=p^{*}d\beta\wedge\psi+(-1)^{|\beta|}p^{*}\beta\wedge d\psi=p^{*}d\beta\wedge\psi-(-1)^{|\beta|}p^{*}(\beta\wedge e_0) から dΘU=ΘUDd\Theta_U=\Theta_UD を満たし、制限と可換です。

第 2 段:ΘU\Theta_U はコホモロジーの同型。 性質 P(U)P(U) を「ΘU\Theta_U がコホモロジーの同型を誘導する」とし、Mayer–Vietoris 論法(補題 5.3[コホモロジーと双対性])を使います。基底 B\mathfrak{B} は EE が向きを保つ自明化を持つ開集合の全体です。

(a) U∈BU\in\mathfrak{B} とします。自明束 U×RrU\times\mathbb{R}^r の Thom 形式 pr2∗ρ\mathrm{pr}_2^{*}\rho を零切断で引き戻すと、定値写像による rr 形式の引き戻しなので 00 です。よって e(E∣U)=0e(E|_U)=0 で、e0∣U=dϵe_0|_U=d\epsilon となる ϵ∈Ωr−1(U)\epsilon\in\Omega^{r-1}(U) があります。(α,β)↦(α−β∧ϵ,β)(\alpha,\beta)\mapsto(\alpha-\beta\wedge\epsilon,\beta) は、C(U)C(U) から、同じ空間に微分 d⊕dd\oplus d を入れた複体への同型です。実際 d(α−β∧ϵ)=dα−dβ∧ϵ−(−1)∣β∣β∧e0d(\alpha-\beta\wedge\epsilon)=d\alpha-d\beta\wedge\epsilon-(-1)^{|\beta|}\beta\wedge e_0 で、これは D(α,β)D(\alpha,\beta) の像の第 1 成分に一致します。したがって Hk(C(U))≅Hk(U)⊕Hk−r+1(U)H^k(C(U))\cong H^k(U)\oplus H^{k-r+1}(U) です。一方 ψ′=ψ+p∗ϵ\psi'=\psi+p^{*}\epsilon は S(E)∣US(E)|_U 上の閉形式で、各ファイバー Sr−1S^{r-1} の上の積分が 11 なので、11 と [ψ′][\psi'] の制限は H∗(Sr−1)H^{*}(S^{r-1}) の基底です(定理 5.1[de Rham コホモロジー]、系 5.2[de Rham コホモロジー])。Leray–Hirsch の定理(定理 5.6[コホモロジーと双対性])から、(α′,β)↦p∗α′+p∗β∧ψ′(\alpha',\beta)\mapsto p^{*}\alpha'+p^{*}\beta\wedge\psi' は同型 Hk(U)⊕Hk−r+1(U)→Hk(S(E)∣U)H^k(U)\oplus H^{k-r+1}(U)\to H^k(S(E)|_U) です。ΘU(α,β)=p∗(α−β∧ϵ)+p∗β∧ψ′\Theta_U(\alpha,\beta)=p^{*}(\alpha-\beta\wedge\epsilon)+p^{*}\beta\wedge\psi' なので、ΘU\Theta_U はこの 2 つの同型の合成を誘導し、P(U)P(U) です。

(b) C(U)C(U) は Ω(U)\Omega(U) の 2 つのコピー(次数をずらしたもの)の直和に制限と可換な微分を入れたものなので、補題 4.2[de Rham コホモロジー] から 0→C(U∪V)→C(U)⊕C(V)→C(U∩V)→00\to C(U\cup V)\to C(U)\oplus C(V)\to C(U\cap V)\to0 は完全で、Θ\Theta はこれを S(E)S(E) の開被覆 p−1(U),p−1(V)p^{-1}(U),p^{-1}(V) の Mayer–Vietoris の短完全列に写します。定理 4.1 の証明と同じく、長完全列の間の可換図式と五項補題(補題 3.3[特異ホモロジー])から P(U),P(V),P(U∩V)⇒P(U∪V)P(U),P(V),P(U\cap V)\Rightarrow P(U\cup V) です。(c) 非交和については両辺が直積に分かれます。

第 3 段:長完全列。 i(α)=(α,0)i(\alpha)=(\alpha,0)、q(α,β)=βq(\alpha,\beta)=\beta は複体の短完全列 0→Ω∗(M)→iC∗(M)→qΩ∗−r+1(M)→00\to\Omega^{*}(M)\xrightarrow{i}C^{*}(M)\xrightarrow{q}\Omega^{*-r+1}(M)\to0 を与えます。長完全列(補題 4.1[de Rham コホモロジー])の連結準同型は、閉形式 β\beta の持ち上げ (0,β)(0,\beta) に DD を施した (−(−1)∣β∣β∧e0,0)(-(-1)^{|\beta|}\beta\wedge e_0,0) から [β]↦−(−1)∣β∣[β]∧e(E)[\beta]\mapsto-(-1)^{|\beta|}[\beta]\wedge e(E) です。第 2 段の同型 Hk(C(M))≅Hk(S(E))H^k(C(M))\cong H^k(S(E)) で置き換えると、ii は p∗p^{*} に、qq は p!p_{!} になります。

CPn\mathbb{C}P^n 上の同語反復的な複素直線束を L={(ℓ,v)∈CPn×Cn+1:v∈ℓ}L=\{(\ell,v)\in\mathbb{C}P^n\times\mathbb{C}^{n+1}:v\in\ell\}、その双対を L∗L^{*}、dd 階のテンソル積を O(d)=(L∗)⊗d\mathcal{O}(d)=(L^{*})^{\otimes d} と書きます。次数 dd の斉次多項式 FF は、sF(ℓ)(v⊗d)=F(v)s_F(\ell)(v^{\otimes d})=F(v) により O(d)\mathcal{O}(d) の切断を定めます。複素ベクトル束とその全空間・底空間には、複素構造から決まる向きを入れます。複素部分多様体が横断的に交わるとき、交わりの符号はすべて正です(複素基底 (v1,…,vm)(v_1,\dots,v_m) から作った実基底 (v1,iv1,…,vm,ivm)(v_1,iv_1,\dots,v_m,iv_m) の向きは複素基底の取り方によらないからです)。

定理 8.4(複素射影空間のコホモロジー環)✓

n≥1n\ge1 とし、H⊂CPnH\subset\mathbb{C}P^n を超平面、x=ηH∈H2(CPn)x=\eta_H\in H^2(\mathbb{C}P^n) をその Poincaré 双対とする。このとき

H∗(CPn)=R[x]/(xn+1),∫CPnxn=1H^{*}(\mathbb{C}P^n)=\mathbb{R}[x]/(x^{n+1}),\qquad\int_{\mathbb{C}P^n}x^n=1

である。すなわち H2j(CPn)=RxjH^{2j}(\mathbb{C}P^n)=\mathbb{R}x^j(0≤j≤n0\le j\le n)で、他の次数のコホモロジーは 00 である。また x=e(L∗)=−e(L)x=e(L^{*})=-e(L) である。

証明(定理 8.4)

加法的な構造と積。 LL に Cn+1\mathbb{C}^{n+1} の Hermite 内積から計量を入れると、S(L)={(ℓ,v):v∈ℓ, ∣v∣=1}S(L)=\{(\ell,v):v\in\ell,\ |v|=1\} は (ℓ,v)↦v(\ell,v)\mapsto v により S2n+1S^{2n+1} に微分同相です(逆は v↦([v],v)v\mapsto([v],v))。定理 8.3(r=2r=2)の完全列

Hk−1(S2n+1)→Hk−2(CPn)→±∧e(L)Hk(CPn)→Hk(S2n+1)H^{k-1}(S^{2n+1})\to H^{k-2}(\mathbb{C}P^n)\xrightarrow{\pm\wedge e(L)}H^k(\mathbb{C}P^n)\to H^k(S^{2n+1})

で、1≤k≤2n1\le k\le2n のとき Hk(S2n+1)=0H^k(S^{2n+1})=0 です(定理 5.1[de Rham コホモロジー])。k=1k=1 では H−1=0H^{-1}=0 から H1(CPn)=0H^1(\mathbb{C}P^n)=0、2≤k≤2n2\le k\le2n では両端が 00 なので ∧e(L) ⁣:Hk−2(CPn)→Hk(CPn)\wedge e(L)\colon H^{k-2}(\mathbb{C}P^n)\to H^k(\mathbb{C}P^n) は同型です。CPn\mathbb{C}P^n は連結なので H0=RH^0=\mathbb{R} で、帰納的に H2j=R e(L)jH^{2j}=\mathbb{R}\,e(L)^j(0≤j≤n0\le j\le n)、奇数次は 00 です。2n2n を超える次数は次元の理由で 00 なので e(L)n+1=0e(L)^{n+1}=0 です。

生成元の同定。 H={z0=0}H=\{z_0=0\} は L∗L^{*} の切断 s=sz0s=s_{z_0} の零点集合です。zj≠0z_j\ne0(j≠0j\ne0)のチャート wi=zi/zjw_i=z_i/z_j と、ℓ\ell の基底 (w0,…,1,…,wn)(w_0,\dots,1,\dots,w_n) での値による自明化で s=w0s=w_0 なので、ss は零切断に横断的で、dsds の鉛直成分は複素線形です。定理 6.4 から e(L∗)=ηH=xe(L^{*})=\eta_H=x です(零点集合の向きは複素構造による向きに一致します)。Hermite 計量は複素直線束の同型 L∗≅LˉL^{*}\cong\bar L を与え、Lˉ\bar L は実ベクトル束としては LL の向きを逆にしたものなので、命題 6.2 (3) から x=−e(L)x=-e(L) です。よって xx も環を生成します。超平面は互いに線形変換のイソトピーで移り合うので、どの超平面の Poincaré 双対も xx です。

∫xn=1\int x^n=1。 超平面 Hi={zi=0}H_i=\{z_i=0\}(i=0,…,n−1i=0,\dots,n-1)は順に横断的に交わり(H0∩⋯∩HiH_0\cap\dots\cap H_{i} は線形部分空間 CPn−i−1\mathbb{C}P^{n-i-1})、全部の交わりは 1 点 p=[0:⋯:0:1]p=[0:\dots:0:1] です。定理 5.8 を繰り返すと xn=ηH0∧⋯∧ηHn−1=η{p}x^n=\eta_{H_0}\wedge\dots\wedge\eta_{H_{n-1}}=\eta_{\{p\}} で、pp の符号は複素構造から +1+1 です。η{p}\eta_{\{p\}} の定義で ω=1\omega=1 とすれば ∫CPnxn=1\int_{\mathbb{C}P^n}x^n=1 です。

補題 8.5(一般の切断)✓

E→ME\to M をコンパクトな多様体 MM 上の階数 r≥1r\ge1 のベクトル束、P⊂MP\subset M を有限集合とする。零切断に横断的で、PP の上で 00 にならない切断が存在する。

証明(補題 8.5)

MM を有限個の自明化の定義域 UiU_i で覆い、台が UiU_i に入る滑らかな関数 λi\lambda_i で、各点でどれかが正になるものを取ります。UiU_i 上の枠 (eai)(e^i_a) に λi\lambda_i を掛けて 00 で延ばした切断を σ1,…,σN\sigma_1,\dots,\sigma_N とすると、各点 xx で σj(x)\sigma_j(x) は ExE_x を張ります。F ⁣:M×RN→EF\colon M\times\mathbb{R}^N\to E、F(x,t)=∑jtjσj(x)F(x,t)=\sum_jt_j\sigma_j(x) とおくと、dF(x,t)dF_{(x,t)} の像は、{0}×RN\{0\}\times\mathbb{R}^N の像として鉛直な空間 ExE_x を含みます。鉛直な空間と零切断の接空間の和は全空間の接空間なので、FF と F∣P×RNF|_{P\times\mathbb{R}^N} はどちらも零切断 M0M_0 に横断的です。パラメータ付き横断性定理(定理 6.1[横断性])を MM と 00 次元多様体 PP に使うと、測度 00 の集合を除く tt について、FtF_t は M0M_0 に横断的で、Ft∣PF_t|_P も M0M_0 に横断的です。後者は、dim⁡P+dim⁡M0<dim⁡E\dim P+\dim M_0<\dim E なので、Ft(P)∩M0=∅F_t(P)\cap M_0=\varnothing を意味します。

補題 8.6(曲面上の複素直線束のテンソル積の Euler 数)✓

Σ\Sigma を向き付けられた閉曲面、L1,L2L_1,L_2 を Σ\Sigma 上の複素直線束とすると

∫Σe(L1⊗L2)=∫Σe(L1)+∫Σe(L2).\int_\Sigma e(L_1\otimes L_2)=\int_\Sigma e(L_1)+\int_\Sigma e(L_2).
証明(補題 8.6)

補題 8.5 により、零切断に横断的な L1L_1 の切断 s1s_1 を取ります。零点集合 Z(s1)Z(s_1) は有限です。次に、零切断に横断的で Z(s1)Z(s_1) の上で 00 にならない L2L_2 の切断 s2s_2 を取ります。s=s1⊗s2s=s_1\otimes s_2 の零点集合は Z(s1)⊔Z(s2)Z(s_1)\sqcup Z(s_2) です。p∈Z(s1)p\in Z(s_1) のまわりで複素直線束の自明化を取り、s1=v1s_1=v_1、s2=v2s_2=v_2(複素数値関数、v2(p)≠0v_2(p)\ne0)と書くと、s=v1v2s=v_1v_2 で d(v1v2)p=v2(p) d(v1)pd(v_1v_2)_p=v_2(p)\,d(v_1)_p です。00 でない複素数を掛ける写像は C=R2\mathbb{C}=\mathbb{R}^2 の向きを保つ同型なので、ss は pp で零切断に横断的で、定理 6.5 の符号 εp\varepsilon_p は s1s_1 のものと同じです。Z(s2)Z(s_2) の点でも同様です。同じ定理から ∫Σe(L1⊗L2)=∑Z(s1)εp(s1)+∑Z(s2)εp(s2)\int_\Sigma e(L_1\otimes L_2)=\sum_{Z(s_1)}\varepsilon_p(s_1)+\sum_{Z(s_2)}\varepsilon_p(s_2) で、右辺は ∫e(L1)+∫e(L2)\int e(L_1)+\int e(L_2) です。

系 8.7(平面曲線の次数と種数)✓

FF を 3 変数の dd 次斉次多項式(d≥1d\ge1)で、C={F=0}⊂CP2C=\{F=0\}\subset\mathbb{C}P^2 の各点で偏微分 (∂0F,∂1F,∂2F)(\partial_0F,\partial_1F,\partial_2F) が 00 にならないものとする。このとき CC はコンパクトな複素 1 次元(実 2 次元)の部分多様体で、

ηC=d x,χ(C)=d(3−d)\eta_C=d\,x,\qquad\chi(C)=d(3-d)

が成り立つ。したがって、CC が連結ならば種数 gg(χ(C)=2−2g\chi(C)=2-2g)は

g=(d−1)(d−2)2g=\frac{(d-1)(d-2)}2

である。

証明(系 8.7)

CC は零点集合。 CC は O(d)\mathcal{O}(d) の切断 sFs_F の零点集合です。z2≠0z_2\ne0 のチャート (w0,w1)(w_0,w_1) で sFs_F は ϕ(w)=F(w0,w1,1)\phi(w)=F(w_0,w_1,1) と表されます。Euler の関係式 ∑izi∂iF=dF\sum_iz_i\partial_iF=dF から、CC の点で ∂0F=∂1F=0\partial_0F=\partial_1F=0 なら ∂2F=0\partial_2F=0 となって仮定に反するので、CC の上で dϕ≠0d\phi\ne0、すなわち sFs_F は零切断に横断的です(他のチャートも同様)。定理 6.4 から CC は部分多様体で、ηC=e(O(d))\eta_C=e(\mathcal{O}(d))、νC≅O(d)∣C\nu_C\cong\mathcal{O}(d)|_C です。

ηC=dx\eta_C=dx。 H2(CP2)=RxH^2(\mathbb{C}P^2)=\mathbb{R}x なので e(O(d))=cxe(\mathcal{O}(d))=cx と書けます。直線 H′={z2=0}≅CP1H'=\{z_2=0\}\cong\mathbb{C}P^1 の上で cc を求めます。ηH′=x\eta_{H'}=x と ∫x2=1\int x^2=1(定理 8.4)から ∫H′e(O(d)∣H′)=∫CP2cx∧x=c\int_{H'}e(\mathcal{O}(d)|_{H'})=\int_{\mathbb{C}P^2}cx\wedge x=c です。O(d)∣H′\mathcal{O}(d)|_{H'} の切断 z0d−z1dz_0^d-z_1^d は dd 個の零点 [ζ:1:0][\zeta:1:0](ζd=1\zeta^d=1)を持ち、座標 w=z0/z1w=z_0/z_1 で wd−1w^d-1、その微分 dζd−1≠0d\zeta^{d-1}\ne0 は複素線形な同型なので、すべて横断的で符号 +1+1 です。定理 6.5 から c=dc=d です。

χ(C)\chi(C) の計算。 CP2\mathbb{C}P^2 の複素接束の 2 階外積 Λ=ΛC2TCP2\Lambda=\Lambda^2_{\mathbb{C}}T\mathbb{C}P^2 は複素直線束です。CP2\mathbb{C}P^2 のコンパクトな複素 1 次元部分多様体 SS の上で、Hermite 計量により複素ベクトル束として TCP2∣S≅TS⊕νST\mathbb{C}P^2|_S\cong TS\oplus\nu_S なので(補題 2.3[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] の直交補束を Hermite 計量で取ります)、Λ∣S≅TS⊗νS\Lambda|_S\cong TS\otimes\nu_S です。補題 8.6、定理 6.5、および e(νS)=ιS∗ηSe(\nu_S)=\iota_S^{*}\eta_S(定理 5.2 の代表元を零切断に制限したもの)から

∫Se(Λ∣S)=∫Se(TS)+∫SιS∗ηS=χ(S)+∫CP2ηS∧ηS\int_Se(\Lambda|_S)=\int_Se(TS)+\int_S\iota_S^{*}\eta_S=\chi(S)+\int_{\mathbb{C}P^2}\eta_S\wedge\eta_S

です。S=H′S=H' のとき右辺は χ(S2)+∫x2=3\chi(S^2)+\int x^2=3 なので、e(Λ)=c′xe(\Lambda)=c'x と書くと c′=∫H′e(Λ∣H′)=3c'=\int_{H'}e(\Lambda|_{H'})=3 です。S=CS=C のとき、左辺は ∫CP2e(Λ)∧ηC=3d\int_{\mathbb{C}P^2}e(\Lambda)\wedge\eta_C=3d、右辺は χ(C)+d2\chi(C)+d^2 です。よって χ(C)=3d−d2\chi(C)=3d-d^2 で、2−2g=3d−d22-2g=3d-d^2 から g=(d−1)(d−2)/2g=(d-1)(d-2)/2 です。

注意 8.8(随伴公式)

上の証明の等式 Λ2TCP2∣C≅TC⊗νC\Lambda^2T\mathbb{C}P^2|_C\cong TC\otimes\nu_C は随伴公式と呼ばれ、c1(TCP2)=3xc_1(T\mathbb{C}P^2)=3x、c1(νC)=dxc_1(\nu_C)=dx という第 1 Chern 類(複素直線束では Euler 類と同じもの)の言葉で c1(TC)=(3−d)x∣Cc_1(TC)=(3-d)x|_C と書けます。d=1,2d=1,2 では g=0g=0(直線と 2 次曲線は球面)、d=3d=3 では g=1g=1(3 次曲線はトーラス)、d=4d=4 では g=3g=3 です。種数 22 の曲面は滑らかな平面曲線として現れません。仮定を満たす CC は実際には常に連結であることが知られています(2 つの成分があれば、それぞれの Poincaré 双対が xx の正の倍数になり、演習 10.1 と同じ理由で交わらなければならない、という筋で示せます)。この事実は上の系では使っていません。

命題 9.1(交叉形式)✓

MM を向き付けられた 2m2m 次元の閉多様体とし、

Q ⁣:Hm(M)×Hm(M)→R,Q(a,b)=∫Ma∧bQ\colon H^m(M)\times H^m(M)\to\mathbb{R},\qquad Q(a,b)=\int_Ma\wedge b

とおく(交叉形式)。

  1. QQ は非退化な双線形形式で、mm が偶数なら対称、mm が奇数なら交代である。mm が奇数のとき dim⁡Hm(M)\dim H^m(M) は偶数である。
  2. A,B⊂MA,B\subset M がコンパクトな向き付けられた mm 次元部分多様体ならば Q(ηA,ηB)=I(A,B)Q(\eta_A,\eta_B)=I(A,B) である。
  3. MM の向きを逆にすると QQ は −Q-Q になる。
証明(命題 9.1)
  1. 非退化性は Poincaré 双対定理(定理 6.4[コホモロジーと双対性]。MM は閉なので Hc=HH_c=H)です。mm 形式どうしでは a∧b=(−1)m2b∧aa\wedge b=(-1)^{m^2}b\wedge a なので、mm が偶数なら対称、奇数なら交代です。基底に関する QQ の行列を GG(NN 次)とすると、交代のとき GT=−GG^{\mathsf T}=-G で det⁡G=(−1)Ndet⁡G\det G=(-1)^N\det G、非退化性から det⁡G≠0\det G\ne0 なので NN は偶数です。

  2. 系 5.6 です。3. 積分の符号が変わります。

m=2km=2k が偶数のとき、対称行列 GG の正の固有値の個数から負の固有値の個数を引いた数は基底の取り方によらず(Sylvester の慣性法則 定理 6.1[行列の分解と標準形])、これが符号数 σ(M)\sigma(M) です(定義 3.13[指数定理])。上の 3 から σ(−M)=−σ(M)\sigma(-M)=-\sigma(M) です。符号数は向き付けられた多様体の同境不変量で、Hirzebruch の符号数定理(定理 3.14[指数定理]。そこでは主張のみ)により Pontryagin 数で表されます。

例 9.2(4 次元多様体の交叉形式)

(a) CP2\mathbb{C}P^2:H2=RxH^2=\mathbb{R}x、Q(x,x)=∫x2=1Q(x,x)=\int x^2=1 なので Q=(1)Q=(1)、σ(CP2)=1\sigma(\mathbb{C}P^2)=1 です。向きを逆にした −CP2-\mathbb{C}P^2 では Q=(−1)Q=(-1)、σ=−1\sigma=-1 です。したがって CP2\mathbb{C}P^2 は向きを逆にする微分同相を持ちません(持てば QQ と −Q-Q が同型になります)。

(b) S2×S2S^2\times S^2:A=S2×{q}A=S^2\times\{q\}、B={q}×S2B=\{q\}\times S^2 とすると、Künneth の公式から H2H^2 は a=ηAa=\eta_A、b=ηBb=\eta_B で張られます。AA は S2×{q′}S^2\times\{q'\} にずらせるので I(A,A)=0I(A,A)=0、同様に I(B,B)=0I(B,B)=0、AA と BB は 1 点で横断的に交わり I(A,B)=1I(A,B)=1 です。よって

Q=(0110),σ(S2×S2)=0Q=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},\qquad\sigma(S^2\times S^2)=0

です(固有値は ±1\pm1)。

(c) 連結和では、次数 22 のコホモロジーと交叉形式が直和になります(Mayer–Vietoris 完全列から従います。ここでは結果だけを述べます)。CP2#CP2\mathbb{C}P^2\#\mathbb{C}P^2 の交叉形式は diag⁡(1,1)\operatorname{diag}(1,1) で正定値、CP2#(−CP2)\mathbb{C}P^2\#(-\mathbb{C}P^2) は diag⁡(1,−1)\operatorname{diag}(1,-1) で不定値、σ\sigma はそれぞれ 22 と 00 です。交叉形式は向きを保つホモトピー同値で不変なので、この 2 つは向きを保つホモトピー同値ではなく、diag⁡(1,1)\operatorname{diag}(1,1) と −diag⁡(1,−1)-\operatorname{diag}(1,-1) も同型でないので、向きを無視してもホモトピー同値ではありません。連結和が向きに依存することの例です(注意 6.5[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])。diag⁡(1,−1)\operatorname{diag}(1,-1) と (b) の形式は実数の上では同型ですが、整数の上では同型でなく((x,y)↦x2−y2(x,y)\mapsto x^2-y^2 は奇数の値を取り、2xy2xy は取りません)、CP2#(−CP2)\mathbb{C}P^2\#(-\mathbb{C}P^2) と S2×S2S^2\times S^2 も区別されます。整数係数の交叉形式はこのテーマの最終章で扱います。

演習 10.1標準

C,C′⊂CP2C,C'\subset\mathbb{C}P^2 を 系 8.7 の仮定を満たす次数 d,d′d,d' の曲線とし、横断的に交わるとする。交点の個数はちょうど dd′dd' であることを示せ(Bézout の定理の位相的な形)。とくに直線と 2 次曲線は、横断的なら 2 点で交わる。また、2 つの滑らかな平面曲線は必ず交わることを示せ。

解答

系 8.7 から ηC=dx\eta_C=dx、ηC′=d′x\eta_{C'}=d'x で、系 5.6 と ∫x2=1\int x^2=1 から I(C,C′)=∫dx∧d′x=dd′I(C,C')=\int dx\wedge d'x=dd' です。C,C′C,C' は複素部分多様体なので、横断的な交点の符号はすべて +1+1(§8.2 の冒頭)で、交点の個数は I(C,C′)=dd′I(C,C')=dd' に等しいです。

後半:C∩C′=∅C\cap C'=\varnothing なら、交わりは(自明に)横断的で I(C,C′)=0I(C,C')=0 ですが、dd′≥1dd'\ge1 なので矛盾です。C2\mathbb{C}^2 の中では平行な 2 直線は交わりませんが、CP2\mathbb{C}P^2 では無限遠直線の上の 1 点で交わります。

演習 10.2標準

m≥1m\ge1 とする。滑らかな写像 f ⁣:CP2m→CP2mf\colon\mathbb{C}P^{2m}\to\mathbb{C}P^{2m} は必ず不動点を持つことを示せ。CP1\mathbb{C}P^1 と CP3\mathbb{C}P^3 については不動点のない写像の例を挙げよ。

解答

定理 8.4 から f∗x=λxf^{*}x=\lambda x(λ∈R\lambda\in\mathbb{R})で、f∗f^{*} は環の準同型なので H2jH^{2j} の上で λj\lambda^j 倍です。定理 7.1 のトレースの交代和は

τ(f)=∑j=02mλj\tau(f)=\sum_{j=0}^{2m}\lambda^j

です。λ=1\lambda=1 なら 2m+1≠02m+1\ne0、λ≠1\lambda\ne1 なら (λ2m+1−1)/(λ−1)(\lambda^{2m+1}-1)/(\lambda-1) で、奇数乗 λ2m+1=1\lambda^{2m+1}=1 となる実数は λ=1\lambda=1 だけなので 00 ではありません。不動点がなければ Γf∩Δ=∅\Gamma_f\cap\Delta=\varnothing で I(Γf,Δ)=0I(\Gamma_f,\Delta)=0 となり、同じ定理の (2) の I(Γf,Δ)=τ(f)≠0I(\Gamma_f,\Delta)=\tau(f)\ne0 に反します。よって ff は不動点を持ちます。

CP1\mathbb{C}P^1 では [z0:z1]↦[−zˉ1:zˉ0][z_0:z_1]\mapsto[-\bar z_1:\bar z_0](S2S^2 の対蹠写像)が不動点を持ちません。[z0:z1]=[−zˉ1:zˉ0][z_0:z_1]=[-\bar z_1:\bar z_0] なら z0zˉ0=−z1zˉ1z_0\bar z_0=-z_1\bar z_1 となり、∣z0∣2+∣z1∣2=0|z_0|^2+|z_1|^2=0 で矛盾するからです。CP3\mathbb{C}P^3 では [z0:z1:z2:z3]↦[−zˉ1:zˉ0:−zˉ3:zˉ2][z_0:z_1:z_2:z_3]\mapsto[-\bar z_1:\bar z_0:-\bar z_3:\bar z_2] が同じ理由で不動点を持ちません(不動点なら比例定数 cc について z0=−czˉ1z_0=-c\bar z_1、z1=czˉ0z_1=c\bar z_0 から z0=−∣c∣2z0z_0=-|c|^2z_0)。これらの写像では λ=−1\lambda=-1 で、τ=∑j=02m+1(−1)j=0\tau=\sum_{j=0}^{2m+1}(-1)^j=0 です。

演習 10.3標準

S2×S2S^2\times S^2 の中で、対角集合 Δ\Delta と、対蹠写像 α\alpha のグラフ Γα\Gamma_\alpha の Poincaré 双対を 例 9.2 (b) の a,ba,b で表し、I(Δ,Δ)I(\Delta,\Delta)、I(Γα,Γα)I(\Gamma_\alpha,\Gamma_\alpha)、I(Δ,Γα)I(\Delta,\Gamma_\alpha) を求めよ。結果を 系 7.2 と 定理 7.1 で確かめよ。

解答

一般に写像 f ⁣:S2→S2f\colon S^2\to S^2 のグラフについて ηΓf=μa+νb\eta_{\Gamma_f}=\mu a+\nu b と書きます。Q(a,a)=Q(b,b)=0Q(a,a)=Q(b,b)=0、Q(a,b)=1Q(a,b)=1 なので I(Γf,A)=Q(μa+νb,a)=νI(\Gamma_f,A)=Q(\mu a+\nu b,a)=\nu、I(Γf,B)=μI(\Gamma_f,B)=\mu です。Γf∩B={(q,f(q))}\Gamma_f\cap B=\{(q,f(q))\} は 1 点で横断的に交わり、符号は TΓf⊕TB→T(S2×S2)T\Gamma_f\oplus TB\to T(S^2\times S^2) の行列 (I0dfI)\begin{pmatrix}I&0\\df&I\end{pmatrix} の行列式から +1+1、よって μ=1\mu=1 です。Γf∩A={(y,q):f(y)=q}\Gamma_f\cap A=\{(y,q):f(y)=q\} で、qq が正則値のとき各点の符号は (IIdf0)\begin{pmatrix}I&I\\df&0\end{pmatrix} の行列式 det⁡(−df)=det⁡df\det(-df)=\det df(2 次元)の符号なので、ν=deg⁡f\nu=\deg f です。したがって

ηΓf=a+(deg⁡f) b,ηΔ=a+b,ηΓα=a−b\eta_{\Gamma_f}=a+(\deg f)\,b,\qquad\eta_\Delta=a+b,\qquad\eta_{\Gamma_\alpha}=a-b

です(deg⁡α=−1\deg\alpha=-1)。Q(μa+νb,μ′a+ν′b)=μν′+νμ′Q(\mu a+\nu b,\mu'a+\nu'b)=\mu\nu'+\nu\mu' から

I(Δ,Δ)=2,I(Γα,Γα)=−2,I(Δ,Γα)=−1+1=0I(\Delta,\Delta)=2,\qquad I(\Gamma_\alpha,\Gamma_\alpha)=-2,\qquad I(\Delta,\Gamma_\alpha)=-1+1=0

です。I(Δ,Δ)=2=χ(S2)I(\Delta,\Delta)=2=\chi(S^2) は 系 7.2 と合います。α\alpha は不動点を持たないので I(Δ,Γα)=0I(\Delta,\Gamma_\alpha)=0 で、定理 7.1 の右辺も 1−0+(−1)=01-0+(-1)=0(H2H^2 の上で α∗=deg⁡α=−1\alpha^{*}=\deg\alpha=-1)です。

  • R. Bott, L. W. Tu, Differential Forms in Algebraic Topology, Graduate Texts in Mathematics 82, Springer, 1982 — §6(Thom 同型、Poincaré 双対と Thom 類、横断的な交わり)、§11(Euler 類、Hopf の指数定理、Lefschetz 数)、§12、§14(Gysin 完全列)。
  • V. Guillemin, A. Pollack, Differential Topology, Prentice-Hall, 1974 — Chapter 3(交点数と Lefschetz 不動点理論)、Chapter 4(積分と交点数)。
  • J. W. Milnor, J. D. Stasheff, Characteristic Classes, Annals of Mathematics Studies 76, Princeton University Press, 1974 — §9〜§12(Euler 類、Thom 同型、Gysin 完全列、障害類としての Euler 類)。
  • P. Griffiths, J. Harris, Principles of Algebraic Geometry, Wiley, 1978 — Chapter 1、Chapter 2(随伴公式と平面曲線の種数公式)。
  • S. S. Chern, “A simple intrinsic proof of the Gauss–Bonnet formula for closed Riemannian manifolds”, Annals of Mathematics 45 (1944), 747–752.
  • 服部晶夫『多様体のトポロジー』岩波書店 — 交叉形式と特性類。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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