横断性:パラメータ付き横断性定理と一般の位置
対象読者: 学部の多変数微分積分と多様体論の基礎(接空間・正則値定理・Sard の定理・1 の分割)を学んだ人。本テーマの前の章は仮定せず、位相空間の一般論は最小限で足ります。
前提となる記事:部分多様体と正則値定理:逆関数定理から 1 の分割・Sard・Whitney まで、ストークスの定理:微分と境界の双対性、接ベクトル空間と接バンドル:曲がった空間で「速度」を定義する三つの流儀
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”空間の中で 2 本の曲線や 2 枚の曲面が交わるとき、ぴったり重なったり接したりする特殊な場合を除けば、交わりの次元は次元の足し引きだけで決まります。この記事は、その「特殊でない交わり方」(横断性)を正確に定義し、どんな写像も少し動かせば特殊でない状況にできることを示します。読み終えると、写像の逆像がなめらかな図形になること、曲線の端点が偶数個になることを、証明つきで使えるようになります。
- 写像 が部分多様体 に横断的()とは、 となるすべての点で となることです。このとき は と同じ余次元の部分多様体で、接空間は です。 に境界があっても、 と の両方が横断的なら同じことが成り立ち、 です。
- コンパクトで連結な 1 次元多様体は円周か閉区間に微分同相です。したがってコンパクトな 1 次元多様体の境界の点は偶数個です。微分位相のホモトピー不変量は、ほとんどがこの事実 1 つから出ます。
- 横断性は安定です(コンパクトな定義域と閉な について、少し動かしても横断的なまま)。逆に、横断的でない写像は少し動かせば横断的にできます(横断性ホモトピー定理)。
- 後者の証明は「写像の族 を作って Sard の定理(部分多様体と正則値定理の記事にあります)を使う」という 1 つの型(パラメータ付き横断性定理)に集約されます。族を作るために、 の部分多様体 の近傍から への沈め込み(ε 近傍定理)を用意します。
- 系として、 なら を少し動かして と交わらなくできます(一般の位置)。同じ型の議論で、 次元多様体は にはめ込め、 に閉集合として埋め込めます。
の中の 2 本の曲線は、たまたま交わっていても、片方を少し動かせば交わらなくなります。2 枚の曲面は、少し動かしても交わりは消えませんが、接している場合は少し動かすと「曲線で交わる」か「交わらない」かのどちらかになります。平面上の 2 曲線が 1 点で十字に交わっているときは、少し動かしても十字のままです。
これらを支配しているのは次元の勘定です。 の中で 次元と 次元の部分多様体が「一般の位置」で交われば、交わりは 次元になり、この数が負なら交わりません。この「一般の位置」を正確に述べたものが横断性です。横断性には 2 つの面があります。
- 横断的なら、交わり(一般には逆像)は多様体になり、次元が勘定どおりになる。
- 横断的でない状況は例外的で、少し動かせば横断的になる。しかも横断的な状況は少し動かしても壊れない。
1 は正則値定理(定理 4.3[部分多様体と正則値定理])の言い換えで、2 は Sard の定理(定理 7.4[部分多様体と正則値定理])の言い換えです。この記事ではこの 2 つを、境界付き多様体まで含めて使える形に整えます。境界付きの場合が必要なのは、ホモトピー の逆像を考えるからです。逆像が 1 次元の境界付き多様体になれば、その境界の点( 側と 側の逆像の点)は偶数個で、これが交点数や写像度のホモトピー不変性になります(交点数と写像度)。
このテーマでは、多様体は断らない限り滑らか()・Hausdorff・第二可算とし、閉多様体はコンパクトで境界のないものを指します。写像は断らない限り滑らかです。
2.1. 部分多様体・余次元・境界付き多様体
Section titled “2.1. 部分多様体・余次元・境界付き多様体”を境界のない多様体とします。部分多様体 は、定義 4.1[部分多様体と正則値定理] の埋め込み部分多様体を指します( の閉集合であることは要求しません。要求するときは「閉部分多様体」と書きます)。包含写像 の微分は単射なので(命題 4.2[部分多様体と正則値定理])、 を の像と同一視して の部分空間とみなします。 を の余次元といいます。
に適合したスライスチャート 、(、)に対し、 の後ろ 成分を とおくと、
です。実際、 はチャートの成分なので は全射で、 から 、次元はどちらも です。この を の局所定義関数と呼びます。
境界付き多様体は 定義 4.1[ストークスの定理] のとおりで、 と は境界のない多様体です(命題 4.4[ストークスの定理])。境界点 でも接空間 は 次元で、 はその超平面です。 の開集合の上の滑らかな写像は、定義により の開集合への滑らかな拡張を持ち、境界点での微分は拡張の微分で定めます(拡張の取り方によりません。内点での微分の極限だからです)。写像 に対し と書きます。 です。
次の補題は、境界のない多様体で使い慣れている道具(直積、1 の分割、Riemann 計量)が、境界のある場合にもそのまま使えることの確認です。証明は、境界のない場合の証明を上半空間に読み替えるだけなので、元の証明の要所を引用しながら進めます。
を 次元の境界付き多様体、 を 次元の境界のない多様体とする。
- は 次元の境界付き多様体で、、 である。
- の任意の開被覆に従属する 1 の分割が存在する。閉集合 と開集合 に対し、滑らかな で 上 、 となるものがある。
- は Riemann 計量(各接空間の内積で、チャートでの成分が滑らかなもの)を持つ。
証明(補題 2.1)
-
のチャート と のチャート に対し、 は から の開集合への同相写像です。座標変換は で滑らかです。このチャートで最後の座標が になるのは のとき、すなわち のときなので、 です。接空間については、射影 の微分の組 が、包含 、 から作った を右逆に持ちます(定理 7.4[接ベクトル空間と接バンドル] と 、 定値、など)。両辺の次元は等しいので同型です。
-
定理 6.3[部分多様体と正則値定理] の証明が使うのは、コンパクト集合による枚挙(補題 6.2[部分多様体と正則値定理])と、点 の任意の近傍に台を持ち で正の滑らかな関数(補題 6.1[部分多様体と正則値定理] (3))の 2 つだけです。前者の証明は「各点がコンパクトな近傍を持つ・Hausdorff・第二可算」だけを使い、 の開集合でも各点は(閉球と の共通部分という)コンパクトな近傍を持ちます。後者は、 の関数 (同じ補題の (2))を平行移動・拡大して に制限し、チャートで に移して外側を で延ばせば得られます。よって同じ証明が通ります。後半は 系 6.4[部分多様体と正則値定理] と同じく、開被覆 に従属する 1 の分割 のうち、台が に入るものの和を とします。 上では残りの (台が に入る)が なので で、局所有限性から です。
-
チャート による開被覆に従属する 1 の分割 ()を取り、 とおきます( は の標準内積)。局所有限和なので成分は滑らかで、各点で、係数が非負で少なくとも 1 つが正の内積の和なので正定値です。
2.2. ホモトピー・固有写像・管の補題
Section titled “2.2. ホモトピー・固有写像・管の補題”- 滑らかな写像 が滑らかにホモトピックであるとは、滑らかな写像 で 、 となるものがあることをいう。 を滑らかなホモトピーといい、 と書く。
- ホモトピー の各 が埋め込みであるとき、 をイソトピーという。
- 連続写像 が固有であるとは、 の任意のコンパクト集合 に対し がコンパクトであることをいう。
に境界があるとき は角を持ちます。この記事でホモトピーの逆像を多様体として扱うのは に境界がない場合だけで、そのとき は 補題 2.1 (1) により境界 を持つ境界付き多様体です。
コンパクト性を使う議論を 1 つの補題にまとめておきます。
証明(補題 2.3)
各 に対し、積位相の定義から の開近傍 と の開近傍 で となるものがあります。 は の開被覆なので有限個 で が覆われます(定義 3.2[コンパクト性])。 は の開近傍で、 なら となる があり です。
3. 横断性と逆像
Section titled “3. 横断性と逆像”を境界付き多様体(境界は空でもよい)、 を境界のない多様体、 を境界のない部分多様体、 を滑らかな写像とする。
- 点 で が に横断的であるとは、 であるか、または が成り立つことをいう。すべての で横断的なとき は に横断的であるといい、 と書く。部分集合 の各点で横断的なとき「 の上で横断的」という。
- 部分多様体 が横断的に交わる()とは、包含写像 が に横断的なこと、すなわちすべての で となることをいう。
が 1 点のとき なので、 は が の正則値であること(定義 7.3[部分多様体と正則値定理])と同じです。横断性は正則値の概念の一般化です。また、 のときは なので、 は と同値です。
横断性を正則値の条件に直す次の補題が、この記事のすべての証明の入口です。
定義 3.1 の状況で、、 とし、 を のまわりの の局所定義関数とする。このとき、 が で に横断的であることと、 が全射であることは同値である。また である。
証明(補題 3.2)
連鎖律(定理 7.4[接ベクトル空間と接バンドル])より で、 は全射、 です(§2.1)。
横断的とします。 に対し となる を取り、(、)と書くと、 なので です。逆に が全射とします。 に対し となる を取ると、 なので です。核については、 は と同値です。
を境界のない多様体、 を余次元 の部分多様体、 を滑らかな写像とし、 とする。このとき は、空でなければ の余次元 の部分多様体であり、各 で
が成り立つ。 が の閉集合なら は の閉集合である。とくに、横断的に交わる部分多様体 の交わり は部分多様体で、、 である。
証明(定理 3.3)
、 とし、 のまわりの局所定義関数 を取ります。 は の開近傍で、 です。補題 3.2 により、この集合の各点 で は全射なので、 は の正則値です。正則値定理(定理 4.3[部分多様体と正則値定理])により は の 次元の部分多様体で、接空間は です。部分多様体であること(各点のまわりにスライスチャートがあること)は局所的な条件なので、 は の部分多様体です。閉集合であることは の連続性から従います。
後半は を包含写像 として前半を使います。 は の余次元 の部分多様体で、 のスライスチャートと合成すれば の部分多様体でもあり、 での余次元は です。接空間は です。
例 3.4(放物線と x 軸)
3.1. 境界付きの場合
Section titled “3.1. 境界付きの場合”に境界があるとき、 だけでは は境界付き多様体になりません。たとえば 、(値域 )、 では は沈め込みですが、 は境界に接する放物線で、 は原点の 点ですが、これは の境界になっていません(演習 11.4 も見てください)。 にも横断性を課す必要があります。
下の図の左は、この例で が上半平面の境界( 軸)に原点で接している様子です。放物線は原点の両側とも上半平面の内側にあり、端点を持ちません。右は、境界に横断的に交わる場合(たとえば )で、逆像は原点から始まる半直線になり、その端点が境界の点になります。
を 次元の境界付き多様体とする。部分集合 が 次元の境界付き部分多様体であるとは、各 に対し、 の における開近傍 と、 の開集合 からの同相写像 で、 が への写像として滑らかで各点の微分が単射であるものが存在することをいう。このような を のチャートとする。
証明(補題 3.6)
、 を 2 つのそのような写像とし、 とします。 が の近傍で滑らかであることを示せば十分です。 のまわりの のチャート を取り、 を の での開近傍に滑らかに延ばした写像を (値は )とします。 は単射なので、はめ込みの局所標準形(定理 3.3[部分多様体と正則値定理])により、 の近傍 と の近傍で定義された滑らかな写像 で、 上 となるものがあります(標準形 の左逆は最初の 成分への射影です)。 は同相写像の合成で連続なので、 の近傍の について で、 から
です。右辺は滑らかな写像の合成なので、 は の近傍で滑らかです。 は の部分空間なので Hausdorff かつ第二可算です。包含写像のチャート表示は そのものなので、滑らかで微分は単射です。
を境界のない 次元多様体、 を滑らかな関数とし、 が の正則値であるとする。このとき は のチャートの制限をチャートとして 次元の境界付き多様体になり、 である。
証明(補題 3.7)
の点のまわりでは、 が の開集合なので のチャートがそのまま使えます(像を平行移動して の内部に入れます)。 とします。 のまわりのチャート を取ると、 なので、ある で です。番号を付け替えて とします。写像 の Jacobi 行列式は で なので、逆関数定理(定理 2.1[部分多様体と正則値定理])により、これは の開近傍 上のチャート です。このチャートで は に写り、最後の座標が の点は の点です。これらのチャートはすべて の滑らかなチャートの制限なので、座標変換は滑らかです。
次の定理の証明の方針は、境界の近くで逆像を「局所定義関数の零点集合 を上半空間で切った部分」と見て、直前の補題を使うことです。補題を使うには、 上の最後の座標が を正則値に持つことが要るので、その確認に の横断性を使います。
定理 3.8(境界付き多様体からの横断的な写像による逆像)✓
を境界付き多様体、 を境界のない多様体、 を境界のない余次元 の部分多様体、 を滑らかな写像とし、 かつ とする。このとき は、空でなければ の 次元の境界付き部分多様体で、
が成り立つ。
証明(定理 3.8)
とします。 のまわりでは、 が境界のない多様体なので 定理 3.3 がそのまま使え、スライスチャートが 定義 3.5 のチャートを与えます(像は の内部に入れます)。
とします。 のまわりの局所定義関数 と、 のまわりのチャート ()を取り、 とおきます。 を の開集合 ( としてよい)上の滑らかな写像 に延ばします。 とすると、補題 3.2 と から は全射です。全射であること(ある 次小行列式が でないこと)は開いた条件なので、 を小さく取り直して 全体で が全射であるとしてよいです。すると は の境界のない 次元部分多様体で、 です(定理 4.3[部分多様体と正則値定理])。そして
です。
が の正則値であることを示します。、 とし、 と仮定します。 は の への制限なので、これは を意味します。一方、 は の点に対応するので、 と 補題 3.2( に適用)から、 の への制限は全射で、その核の次元は です。ところが仮定からこの核は 全体で、次元は です。これは矛盾です。
補題 3.7 により は境界 を持つ境界付き多様体で、そのチャートの逆写像と の合成は、 への滑らかで微分が単射な写像( のチャートの逆写像は へのはめ込みです)、かつ の開集合への同相写像です。よって は境界付き部分多様体で、境界点は の上の点です。接空間は、内点では 定理 3.3、境界点では と 補題 3.2 から です。
を境界付き多様体、 を境界のない多様体、 を滑らかな写像とする。 と の両方の正則値であるような点 の全体は、補集合が測度 であり、とくに で稠密である。そのような については、すべての で が全射で、 は空でなければ 次元の境界付き部分多様体、 である。
証明(系 3.9)
と は境界のない多様体です(命題 4.4[ストークスの定理])。Sard の定理(定理 7.4[部分多様体と正則値定理])により、 の臨界値の集合 と の臨界値の集合 はどちらも測度 です。測度 の集合 2 つの合併は測度 です(定義 7.1[部分多様体と正則値定理] で、それぞれを体積の和が 未満の立方体で覆います)。測度 の集合はチャートの中の開球を含まないので、補集合は稠密です。 とします。 が内点なら は全射で、境界点なら が全射なので も全射です。これは かつ ということなので、定理 3.8 を (余次元 )に使えます。
4. コンパクトな 1 次元多様体の分類
Section titled “4. コンパクトな 1 次元多様体の分類”のとき、逆像は 1 次元の境界付き多様体です。その形は完全に分かります。
を Riemann 計量 を持つ 1 次元の境界付き多様体とする。2 点以上を含む区間 (開・閉・半開のどれでもよい)からの滑らかな写像 が弧長パラメータ表示であるとは、 が の開集合 への同相写像で、すべての で となることをいう。
定義 4.1 の について次が成り立つ。
- 各点 は、ある弧長パラメータ表示の像になっている開近傍を持つ。
- 、 を弧長パラメータ表示とし、、 とおく。 は の、 は の開集合で、 は同相写像であり、 の各連結成分( の開集合であるような区間)の上で、ある と により と書ける。
証明(補題 4.2)
-
のまわりのチャート で、 が または の中の区間であるものを取り、、 とします。 は滑らかで なので、 から区間 への、逆も滑らかな全単射です(1 変数の逆関数定理)。 は同相写像で、()なので です。
-
は の開集合で、 は像への同相写像なので、 は開集合、 は同相写像です。 が滑らかであることを見ます。 とし、 のまわりのチャート を取ると、 は を含む開区間上の滑らかな関数に延び、 での微分は でないので、逆関数定理により滑らかな局所逆 を持ちます。 の近くで なので滑らかです。したがって は滑らかで、 上 を微分すると 、長さを比べて です。 の連結成分は区間で(定理 4.1[連結性])、 の開集合です(命題 9.7[連結性])。その上で連続関数 は値を にしか取らないので、中間値の定理(定理 6.1[連結性])により一定値 で、 です。
次の補題が分類の中身です。区間 の開いた端とは、 の上限または下限で、有限かつ に属さないものを指すことにします。 の開いた端は高々 2 つです。
この補題の狙いは、1 次元多様体を「弧長で測った区間」を貼り合わせて作ることです。2 本の弧が重なるとき、重なりの端がどこに行くかを調べると、貼り合わせた結果が 1 本の長い弧になるか、つなぎ目が 1 周して円になるかのどちらかに決まります。証明は 4 段で、第 1 段が重なりの端の位置、第 2 段がパラメータの向きとずれの調整、第 3 段が重なりが 1 か所の場合(長い弧)、第 4 段が 2 か所の場合(円)です。
を Riemann 計量を持つ連結な 1 次元の境界付き多様体、、 を弧長パラメータ表示とし、 とする。このとき次のどちらかが成り立つ。
- を像とする弧長パラメータ表示が存在する。
- であり、 は円周 に微分同相である。
証明(補題 4.3)
補題 4.2 (2) の を使います。 なら で、 が 1 を満たします。 なら が 1 を満たします。以下 、 とします。
第 1 段:成分の端は開いた端に行く。 を の連結成分とし、 上 とします。 は連結な の中で空でない開集合で 全体ではないので、 の閉集合ではなく(定義 2.1[連結性])、 の における閉包の点 があります。 は区間 の端点です。()のとき です。 と仮定すると、連続性から なので です。 は の開集合なので、 を含む の成分は の での近傍を含み、 と交わります。すると となり矛盾です。よって で、 は の点の極限なので の開いた端です。
の異なる成分 から同じ開いた端 が出ることはありません。 の場合、 と はどちらも上限が の の部分区間で、、、 とすると となり、 の単射性に反します(下限の場合も同じ)。 なので のどの成分も上の を持ち、したがって の成分は 1 つか 2 つです。同じ議論を にすると、 の各成分 の端で に入るものは、 の開いた端に対応します。
第 2 段:正規化。 成分 を 1 つ選び、 を (定義域は )に取り替えます。これも弧長パラメータ表示で像は同じです。取り替えたあとは 上 、すなわち かつ 上 です。第 1 段により、 は に属する端点 で の開いた端であるものと、 に属する端点 で の開いた端であるものを持ちます。、 なので です。必要なら のパラメータの符号を同時に変えて とします。すると 、 で、 です。
第 3 段:成分が 1 つの場合。 とします。 を 上 、 上 で定めます。 上で両者は一致するので定義でき、、 はどちらも区間 の開集合なので、 は滑らかで長さ の速度を持ち、開写像です。(、)なら から 、 なので は単射です。よって は を像とする弧長パラメータ表示で、1 が成り立ちます。
第 4 段:成分が 2 つの場合。 とします。第 1 段により は開いた端を 2 つ持つので有界な開区間 で、同様に です。 です。 は と交わらない の部分区間なので 、 です。 の に入る端点は、 の開いた端のうち が使っていない に対応し、 の に入る端点は の開いた端のうち残りの に対応します。したがって で、()、()、 で 、 で です。 は 上で増加なので 、 です。
を 上 、 上 で定めます(第 3 段と同じく矛盾なく定まり、滑らかで、局所微分同相です)。 のとき です。区間 の長さは で、 なので、 の各類は に代表元を 1 つか 2 つ持ち、2 つ持つときそれらは と ()です。よって 、 が定まり、局所微分同相で、像は です。 は単射です。実際 のとき、 がともに に(またはともに に)あれば (または )の単射性から 、、 なら で です。 はコンパクトなので、像はコンパクトで(定理 6.1[コンパクト性])、Hausdorff 空間 の閉集合です(定理 4.2[コンパクト性])。像は開集合でもあり、 は連結なので、像は 全体です。 は全単射な局所微分同相なので微分同相で、()です。2 が成り立ちます。
証明(定理 4.4)
補題 2.1 (3) により Riemann 計量を取ります。補題 4.2 (1) とコンパクト性から、 は有限個の弧長パラメータ表示 ()の像 で覆われます。、 から始めます。 である限り、 は連結な の空でない開集合なので閉集合ではなく、 の閉包の点 があります。 となる を取ると、 は の近傍なので 、かつ です。補題 4.3 を と に使うと、 であるか、または を像とする弧長パラメータ表示が得られます。後者なら と をそれに取り替えます。 に含まれない の個数は 1 回ごとに減るので、有限回で、 となるか となります。 のとき、 は全単射で も滑らかなので(補題 4.2 (2) の証明)、 は に微分同相です。 はコンパクトな区間で 2 点以上を含むので ()、これは に微分同相です。
証明(系 4.5)
多様体は局所連結なので連結成分は開集合で(命題 9.7[連結性])、 を覆うので、コンパクト性から有限個です。各成分はコンパクトで(開集合の合併の補集合として閉集合だからです。定理 4.1[コンパクト性])、定理 4.4 により か に微分同相です。微分同相は境界点を境界点に写すので(補題 4.2[ストークスの定理])、境界点は 型の成分に 個、 型の成分に 個です。
証明(系 4.6)
注意 4.7(Stokes の定理による証明との比較)
の場合は 定理 8.1[ストークスの定理] で、 の体積形式を で引き戻して Stokes の定理を使う証明を与えました。そこでは向きと積分が要りましたが、上の証明は向きを使わず、任意のコンパクトな境界付き多様体(Möbius の帯など)で通ります。どちらの証明も「境界になっているものは、境界のない不変量で見ると 」という同じ原理で、上の証明はその mod 2 版です。1 次元多様体の分類には、ここで述べた弧長による方法のほかに、Morse 関数(定理 4.1[Morse 理論])の臨界点で を単調な弧に切り分ける方法もあります(Guillemin–Pollack の付録)。臨界点が有限個であること(系 3.3[Morse 理論])から弧が有限本になる、という筋です。
5. 安定性
Section titled “5. 安定性”物理的に測れる性質は、わずかな摂動で失われないはずです。安定性はこの要請を定式化したものです。
をコンパクトな境界のない多様体、 を境界のない多様体とする。 から への滑らかな写像についての次の性質は安定である。
- 局所微分同相であること。
- はめ込みであること。
- 沈め込みであること。
- の閉部分多様体 に横断的であること。
- 埋め込みであること。
- 微分同相であること。
証明(定理 5.2)
をホモトピーとします。1〜5 は次の形で示します。「 の部分集合 で、 を含む開集合を含み、 なら が で問題の条件を満たすもの」を作れば、補題 2.3(、、)から となる が取れます。
2 と 3 と 1。 のまわりで、 のチャートと のまわりの のチャートを取ると、 のチャート表示の Jacobi 行列 は の連続関数です。 が単射(全射)であることは、 のある 次( 次)小行列式が でないことと同値で、同じ小行列式は の近傍で になりません。よって、 が単射(全射)である点 の全体は を含む開集合を含みます。1 は のときの 2 です(系 2.2[部分多様体と正則値定理])。
4。 なら、 が閉集合なので が の開近傍で、その上で横断性の条件は自明に成り立ちます。 なら、局所定義関数 を取ると、補題 3.2 により は全射で、2・3 と同じ議論から の近傍の で かつ は全射です。同じ補題から、そのような点で は に横断的です。
5。 を埋め込みとします。2 から、小さい で ははめ込みです。 はコンパクトなので、単射性を示せば 定理 5.3[部分多様体と正則値定理] (2) により埋め込みです。 の部分集合 を考え、 の各点が と交わらない開近傍を持つことを示します。 なら で、 は Hausdorff なので、 となる の全体は を含む開集合です。 のとき、、 を考えます。チャートで を 側まで滑らかに延ばすと、 での Jacobi 行列は
で、 が単射なのでこれも単射です。はめ込みの局所標準形(定理 3.3[部分多様体と正則値定理])により は の開近傍 で単射です。開集合 は を含み、 と交わりません( なら で だからです)。 はコンパクトなので(定理 6.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理])、補題 2.3 から が と交わらない があり、 で は単射です。
6。 を微分同相とします。1 と 5 から、小さい で は局所微分同相かつ埋め込みです。全射性を示します。 はコンパクトで、連結成分 は開かつ閉です。 の点 に対し、道 の像は連結で を含むので です(定理 5.1[連結性])。よって は空でなく、 は局所微分同相の像として開集合、コンパクト集合の像として閉集合なので、連結な の中で です。したがって は全単射な局所微分同相、すなわち微分同相です。
例 5.3(安定でない性質と、コンパクト性が要る理由)
(a) 例 3.4 の は 軸に横断的でなく、「横断的でない」という性質は でただちに失われます。また「 軸とちょうど 1 点で交わる」という性質も安定ではありません。
(b) がコンパクトでないと定理は成り立ちません。 を で 、 で となる滑らかな関数とし、、 とします。 は微分同相ですが、 では で となり、 ははめ込みでも単射でもありません。 で壊れる場所が無限遠へ逃げていくので、どの も取れません。
(c) が閉集合でないと 4 は成り立ちません。、、、 とすると、 の像は と交わらない( となるのは で、そのとき )ので です。 では で 、そこでの速度は なので横断的ではありません。
定理 5.2 は径数が 1 つのホモトピーについて述べましたが、径数が多様体を動く族でも同じことが成り立ちます。定理 9.1 の族 の中で「埋め込みのまま横断的にする」ときに使います。
をコンパクトな境界のない多様体、 を境界のない多様体、 を滑らかな写像とし、、 とする。 が 定理 5.2 の 1〜6 の性質のどれか(4 では は の閉部分多様体)を満たすならば、 の開近傍 で、すべての について が同じ性質を満たすものが存在する。
証明(系 5.4)
定理 5.2 の証明で、径数の空間 を に、点 を に置き換えます。
1〜4: のまわりで 、、 のチャートを取ると、 のチャート表示の Jacobi 行列(4 では のもの)は の連続関数なので、問題の条件が成り立つ点 の全体は を含む開集合を含みます(4 で のときは を使います)。補題 2.3(、、)から が取れます。
5: とします。 なら、 が Hausdorff なので は と交わらない開近傍を持ちます。 のときは 、 の での Jacobi 行列が ( は の Jacobi 行列で単射)なので、 は の開近傍 の上で単射で(定理 3.3[部分多様体と正則値定理])、 が と交わらない開近傍です。補題 2.3()から、 の近傍の で は単射で、2 と合わせて埋め込みです(定理 5.3[部分多様体と正則値定理] (2))。
6:1 と 5 の を、 のまわりのチャートの開球の中に取り直して連結にします。 に対し は連結で を含むので(定理 5.1[連結性])、定理 5.2 の 6 の証明と同じく、 は の各連結成分と交わる開かつ閉な集合で、 は全射です。
6. パラメータ付き横断性定理
Section titled “6. パラメータ付き横断性定理”横断的でない写像を横断的に直すには、写像を 1 つだけ動かすのではなく、十分に多くの方向へ動かす族を作ります。族全体が横断的なら、族のほとんどすべての元が横断的になります。
を境界付き多様体(境界は空でもよい)、 を境界のない多様体、 を境界のない部分多様体とし、 を滑らかな写像、 とする。 かつ ならば、測度 の集合を除くすべての について かつ である。
証明(定理 6.1)
とします。 が空なら示すことはありません。補題 2.1 (1) と 定理 3.8 により、 は の境界付き部分多様体で、、()です。射影の制限 、 を考えます。
主張。 が と の両方の正則値ならば、 かつ である。
これを示せば、系 3.9 によりそのような の補集合は測度 なので定理が従います。
、すなわち とし、 を任意に取ります。 と から、 で
となるものがあります。系 3.9 の後半から、 が上の意味で正則値なら は全射です。 は第 2 成分への射影なので、 となる があり、 の記述から です。 とおくと、()と連鎖律から なので
です。よって で、 です。
については、同じ議論を にします。 で、 は境界のない多様体なので (定理 3.3)、 は の正則値です。上の計算で を 、 を に置き換えれば を得ます。
注意 6.2(「ほとんどすべて」と「稠密」)
測度 の集合の補集合は稠密です。したがって定理は「横断的になる が のどの開集合にもある」ことを含みます。 が閉集合で がコンパクトなら、定理 5.2 の 4 の証明から、横断的になる の全体は の開集合でもあります。可算個の部分多様体 に同時に横断的にしたいときは、測度 の集合の可算合併が測度 であることを使うか、あるいは稠密な開集合の可算個の共通部分が稠密であること(Baire のカテゴリー定理 定理 5.1[距離空間])を使います。「一般の(generic な) について成り立つ」という言い方は、このどちらかの意味です。
写像そのものの空間 に Whitney の 位相を入れ、「 に横断的な写像の全体は稠密な開集合の可算共通部分である」と述べる形(Thom の横断性定理、およびその拡張であるジェット横断性定理)もあります。この記事では関数空間の位相を使わず、有限次元のパラメータの族だけで済ませます。関数空間による定式化は M. W. Hirsch『Differential Topology』第 2・3 章、M. Golubitsky, V. Guillemin『Stable Mappings and Their Singularities』第 II 章にあります。
7. 法束と ε 近傍定理
Section titled “7. 法束と ε 近傍定理”定理 6.1 を使うには、与えられた を含む「十分に動く」族が要ります。 なら平行移動 で済みます( について沈め込みなので、どんな にも横断的です)。一般の では、 を に入れ、平行移動してから に戻します。戻す写像を作るのがこの節です。
直感的には、曲面 の各点から曲面に垂直な方向に短い線分を生やしたものが法束で、 に十分近い点は、そのどれかの線分の上にちょうど 1 つ乗っています。そこで、近くの点を「それが乗っている線分の根元」へ送る写像が、 の近傍から への沈め込みになります。これが ε 近傍定理で、「動かしてから に戻す」ための写像を与えます。
を 次元の境界のない部分多様体、 とする。 は の 次元部分多様体で、 は沈め込みである。さらに、 の各点は での開近傍 と沈め込み で、 かつ
が微分同相になるものを持つ。
証明(補題 7.2)
§2.1 の局所定義関数を とします。 で です。 なので の像は に入り、 が全射なので は単射、像の次元は です。よって は同型で、 は全単射です。 は滑らかで、 上の滑らかな写像
( は が全射なので正則)は を満たします。したがって は単射で、 は像への同相写像(逆が の制限で連続)、すなわち埋め込みです。定理 5.3[部分多様体と正則値定理] (1) により、像 は 次元の部分多様体で、 は像への微分同相です。部分多様体であることは局所的な条件なので は部分多様体です。 は第 1 成分への射影なので、 は沈め込みです。
を境界のない部分多様体とし、、 とする。
- 連続関数 で、 が から の開集合 への微分同相になるものが存在する。
- は沈め込みで、 に対し である。
- がコンパクトなら を定数に取れる。このとき で、 は の点のうち に最も近いただ 1 つの点である。
証明(定理 7.3)
第 1 段:零切断の近くで局所微分同相。 とし、補題 7.2 の を取ります。 の での微分は、 では に掛かる行列の 微分が効かないので
です。これは同型です。系 2.2[部分多様体と正則値定理] により、 の での開近傍で、 がそこから の開集合への微分同相になるものがあります。
第 2 段:半径の関数。 、 に対し とおき、
と定めます。 の位相は の相対位相なので、第 1 段の近傍は小さい について を含み、 です。条件を満たす より小さい も条件を満たします。 から で、 を入れ替えて 、すなわち は連続です。 とおきます。
第 3 段: 上で単射な局所微分同相。 は、 となる について に入るので、 は の各点の近傍で局所微分同相です。、 とし、 とします。、、 なので、 に十分近い について 2 点とも に入ります。 は 上で単射なので です。単射な局所微分同相は開集合への微分同相なので 1 が成り立ちます( が連続なので は の開集合です)。
2。 は微分同相 と沈め込み (補題 7.2)の合成なので沈め込みで、 から です。
3。 がコンパクトなら連続関数 は正の最小値 を取ります(系 6.2[コンパクト性])。定数 について、第 3 段の議論はそのまま通ります。 なら です。逆に とします。 上の連続関数 は最小値を取るので、最も近い点 があり です。 を速度とする 内の曲線 ()に対し、 は で最小なので
です。よって で 、 です。最も近い点が にもあれば、同じ計算で 、 となり、 の単射性から です。
証明(補題 7.4)
台がコンパクトな関数からなる 1 の分割 を取り(定理 6.3[部分多様体と正則値定理])、(系 6.2[コンパクト性])、 とおきます。局所有限和なので滑らかです。 となる については なので 、また少なくとも 1 つの が正なので です。
8. Whitney のはめ込み定理と埋め込み定理
Section titled “8. Whitney のはめ込み定理と埋め込み定理”一般の に 定理 7.3 を使うには、 が の部分多様体として実現できていなければなりません。コンパクトな場合は 定理 8.2[部分多様体と正則値定理] で済んでいます。ここではコンパクトでない場合を含めて証明します。証明は「族を作って Sard の定理を使う」型の最も素朴な例で、族は射影の方向です。
証明(補題 8.1)
が閉写像であることを示せば、 は連続な全単射かつ閉写像なので同相写像で、 は閉集合です。 を閉集合、 を の閉包の点とします。 を中心とする半径 の閉球 はコンパクトで、 は固有なので はコンパクト、 もコンパクトです(定理 4.1[コンパクト性])。その像 はコンパクトなので閉集合です(定理 6.1[コンパクト性]、定理 4.2[コンパクト性])。 は の近傍なので は の閉包に入り、したがって です。
を 次元の境界のない多様体、 を滑らかな写像、 を開集合とする。 に対し、 を直交射影とする。
- がはめ込みで ならば、測度 の集合を除くすべての について ははめ込みである。
- が単射なはめ込みで ならば、測度 の集合を除くすべての について は単射なはめ込みである。
証明(補題 8.2)
、 と、、 を考えます。どちらも滑らかです( はチャートで 。 は 次元多様体です。定理 8.2[接ベクトル空間と接バンドル])。定義域の次元は と で、値域の次元 より小さいとき、微分はどの点でも全射になれないので、像は臨界値だけからなり、Sard の定理(定理 7.4[部分多様体と正則値定理])により測度 です。
- 、 とします。 なら となる があり、 なら となって矛盾するので 、、 がはめ込みなので です。
- さらに とします。、 なら で、 なら となって矛盾するので 、、単射性から です。
証明(定理 8.3)
第 1 段:固有な関数。 コンパクト集合の増大列 、、 を取り(補題 6.2[部分多様体と正則値定理])、()とします。滑らかな で 上 、 となるものを取り(系 6.4[部分多様体と正則値定理])、 とおきます。 の上では の項が なので局所有限和で、 は滑らかです。 なら 、 なら について なので です。とくに ()なので は固有です。また、 とおくと 、 です。
第 2 段:層ごとの単射なはめ込み。 (コンパクト)、(開集合)とおきます。 で、 です。各 について、滑らかな と開集合 ()で、 かつ が単射なはめ込みであるものを作ります。
ごとに、チャート ()と、滑らかな で、台がコンパクトで に含まれ、 の開近傍 の上で となるものを取ります(補題 6.1[部分多様体と正則値定理] (2) の をチャートで移します)。 を有限個の で覆い、対応する から
を作ります( は の外で とします)。 とおきます。 の近くで なので は 上ではめ込みです。、、 なら から 、 なので です。 なら 補題 8.2 (2) を繰り返し使い( を線形同型で と同一視します)、線形写像 で が単射なはめ込みであるものを得ます。 なら を座標の埋め込みとします。 とおくと、 は線形なので です。
第 3 段:貼り合わせ。 に対し とおきます。和に現れる の台は互いに交わらない開集合 に入り、 は局所有限( と交わる は のものだけ)なので は滑らかで、 の上では です。
は単射なはめ込みです。実際、 とすると で、その近傍で がはめ込みです。、、 とすると、 から で、 です。 と の単射性から です。
第 4 段: への単射なはめ込み。 補題 8.2 (2) を として繰り返し使い、単射なはめ込み を得ます。
第 5 段:固有にする。 とおきます。 は から開単位球への微分同相(逆は )なので、 は単射なはめ込みで です。 も単射なはめ込みです。補題 8.2 (2) により、( は最後の座標方向。直線 は測度 )で が単射なはめ込みになるものが取れます。 とします。
が固有であることを示します。 に対し で、 なので、最後の成分を見て
です。、 なので で、 なら です。 は固有なので、 によるコンパクト集合の逆像は、コンパクト集合 の閉部分集合としてコンパクトです。 と同一視すれば、 は固有で単射なはめ込みで、補題 8.1 により閉集合を像とする埋め込みです。像が部分多様体であることは 定理 5.3[部分多様体と正則値定理] (1) です。
注意 8.5(次元をさらに下げられるか)
射影の議論では、単射性に 、はめ込みに が要ります。Whitney は 1944 年に、自己交叉を対にして消す技巧(Whitney の技巧)を使って、 次元多様体が に埋め込め、 なら にはめ込めることを示しました。これらは射影の議論では届かず、この記事では証明しません(埋め込みは H. Whitney, “The self-intersections of a smooth n-manifold in 2n-space”、はめ込みは同じ著者の “The singularities of a smooth n-manifold in (2n−1)-space”。どちらも Annals of Mathematics 45 (1944))。 が に埋め込めないことから、 は一般には下げられません。
9. 横断性ホモトピー定理・拡張定理・一般の位置
Section titled “9. 横断性ホモトピー定理・拡張定理・一般の位置”を境界付き多様体(境界は空でもよい)、 を境界のない多様体、 を境界のない部分多様体、 を滑らかな写像とする。このとき、 に滑らかにホモトピックな滑らかな写像 で、 かつ となるものが存在する。さらに、 を の閉部分多様体として実現しておくと、 がコンパクトなら、任意の に対し を となるように取れる。
証明(定理 9.1)
定理 8.3 により を の閉部分多様体とみなします。定理 7.3 の開集合 と沈め込み を取ります。 に対し は正の連続関数なので、補題 7.4 により滑らかな 、 が取れます。 を の開単位球とし、
と定めます。 なので中身は に入り、 は滑らかで、 です。
を固定すると、 は から開球への微分同相で、 は沈め込みなので、 は沈め込みです。したがって は に制限しても全射で、 も も沈め込み、とくにどんな にも横断的です。定理 6.1 により、測度 の集合を除く について は かつ を満たします。そのような を 1 つ取り とします。 は となる ( を含む開区間)で定義された滑らかな写像で、、 なので、 と は滑らかにホモトピックです。
がコンパクトとします。 は を含む開集合なので、補題 2.3 により があって、 ならすべての で です。測度 の集合は球 を含まないので、上の を の中から取れます。
次の定理は、すでに横断的になっている部分を動かさずに済ませるためのものです。ホモトピーの両端で横断的な写像を、途中も横断的なホモトピーでつなぐときに使います。
証明(補題 9.2)
補題 2.1 (2) により、滑らかな で 上 、 となるものがあります。()、()は滑らかなので(補題 6.1[部分多様体と正則値定理] (1))、 は滑らかで(分母は常に正)、 で 、 で です。 とおくと、開集合 の上で 、 の上で です。
を境界付き多様体、 を境界のない多様体、 を境界のない閉部分多様体、 を閉集合とする。滑らかな写像 が、 の上で に横断的で、 が の上で に横断的であるとする。このとき、滑らかな写像 で、、 であり、 のある開近傍の上で となるものが存在する。 は に、 のその近傍の上で動かないホモトピーで結べる。
証明(定理 9.3)
第 1 段: の近傍で横断的。 が で に横断的( のときは も で横断的)であるような点 の全体は、 を含む開集合 を含みます。実際、 とすると、 なら が閉集合なので が求める近傍です。 なら、局所定義関数 について が全射( なら への制限も全射)で、これは小行列式の条件なので の近傍で保たれ、補題 3.2 によりその近傍の点で横断的です。
第 2 段:族を作る。 補題 9.2 の を取り、 とおきます。定理 9.1 の証明の を使い、
と定めます( なので )。 かつ を示します。 とします。
のとき、 は から開球への微分同相で、 は沈め込みなので、 は で沈め込みです。よって は に制限しても全射で、 と はこの点で横断的です。
のとき、 の微分は で、 かつ なので です。したがって
です()。 なので ( の外では )で、、 は で横断的なので、 の像 と の和は です。 のときは に限っても、 の横断性から同じことが成り立ちます。
第 3 段。 定理 6.1 により、ある で は 、 を満たします。 となる の開近傍の上では です。 が求めるホモトピーで、同じ近傍の上では です。
証明(系 9.4)
(閉集合)とします。 で が横断的なら、 なので も で横断的です。定理 9.3 の は の近傍で に一致します。
をコンパクトな境界のない多様体、 を境界のない多様体、 を境界のない部分多様体、 を滑らかな写像とし、 とする。このとき に滑らかにホモトピックで、いくらでも近い(定理 9.1 の意味で)滑らかな写像 で、 となるものが存在する。 がコンパクトでなくても、 にホモトピックなそのような は存在する。
証明(系 9.5)
定理 9.1 の を取ります。 となる があったとすると、 で、横断性に反します。
「一般の位置にある」という言葉は、考えている有限個の写像と部分多様体が互いに横断的であることを指して使います。系 9.5 はその最も単純な帰結で、次元の和が足りなければ一般の位置では交わらない、ということです。
例 10.1(空間の中の曲線と曲面)
(a) の 2 本の閉曲線 、。 なので、系 9.5 により をいくらでも小さく動かして と交わらなくできます。具体的には平行移動で足ります。 は沈め込みなので、ほとんどすべての で は と交わりません。交わる の全体は 、すなわち 2 次元の の像で、たしかに測度 です。
(b) の 2 枚の曲面は、横断的なら交わりが 次元、すなわち曲線になります(定理 3.3)。単位球面 と平面 では、 のとき交点で球面の接平面(法線 )と平面(法線 )が異なるので横断的で、交わりは円です。 では接平面が一致して横断的でなく、交わりは 1 点です。
(c) の曲線と曲面は、横断的なら 次元、すなわち離散的な点で交わります。交点の個数の偶奇が動かしても変わらないことを 交点数と写像度 で示します。
例 10.2(直交群と対称行列の空間の交わり)
の中で、( 次元の部分多様体。例 7.8[接ベクトル空間と接バンドル])と対称行列の空間 ( 次元の線形部分空間)を考えます。次元の和は なので、横断的なら交わりは 次元です。 は 、 を満たし、直交行列 で と書けます。
、 です。次元の和が なので、 は と同値です。 が対称である条件は 、すなわち です。 として と書くと
なので、条件は 、 で、( 行列)は自由です。よって で、横断的なのは 、すなわち のときだけです。実際 は交わりの孤立点です。 の成分 は 次元部分空間( 固有空間)全体の Grassmann 多様体と同一視でき、次元は です。横断的でない交わりは、勘定より大きな次元を持ちえます。 に限ると、 が偶数の成分だけが残ります。
例 10.3(階数 r の行列の集合の余次元)
実行列のうち階数がちょうど のものの全体 は、 の余次元 の部分多様体です。左上の ブロック が正則な行列 の全体(開集合)の上で、行基本変形により
なので、階数が であることは と同値です。写像 は 方向の微分が恒等写像なので沈め込みで、 はこの開集合の上で正則値 の逆像です。一般の点では行と列を並べ替えて同じ議論をします。
行列に値を持つ写像 が に横断的なら、 の余次元は です(定理 3.3)。たとえば写像 の微分がつぶれる点( の階数が の点)は、 行列で として余次元 、すなわち孤立点になることが期待されます。 では 行列で 、余次元 なので、一般にははめ込みになることが期待されます。ただし は自由に選べる行列値関数ではないので、この期待を定理にするにはジェット横断性定理(注意 6.2)が要ります。はめ込みについては 補題 8.2 の証明が同じ次元勘定( の次元 と値域の次元の比較)を直接実行しています。
11. 演習
Section titled “11. 演習”演習 11.1標準
演習 11.2標準
を境界のない多様体、 を滑らかな写像、 を対角集合、 を のグラフとする。 は、 のすべての不動点 で が固有値 を持たないことと同値であることを示せ。
解答
の点は不動点 に対する です。(グラフは埋め込み の像)、 で、どちらも 次元、全体は 次元です。よって和が全体であることは共通部分が であることと同値です。 は 、 と同値なので、共通部分は と同型です。したがって横断的であることは が正則であること、すなわち が の固有値でないことと同値です。このような不動点を Lefschetz 不動点と呼び、交点数と写像度 で符号を付けて数えます。
をコンパクトな境界のない部分多様体とする。測度 の集合を除くすべての について、半径 の球面 は と横断的に交わることを示せ。 が単位円 を 方向に だけ平行移動したもののとき、横断的でない をすべて求めよ。
解答
、 とします。 で、 は余次元 なので、 は と同値です。一方 なので、 は 、すなわち が の臨界点であることと同値です。よって は が の正則値であることと同値で、Sard の定理(定理 7.4[部分多様体と正則値定理])により臨界値は測度 、 は の微分同相なので、横断的でない も測度 です(補題 7.2[部分多様体と正則値定理])。
後半: で 、 は で 、臨界値は と です。横断的でないのは と で、このとき球面は円に外側・内側から接します。 では 2 点で横断的に交わり、それ以外では交わりません。
演習 11.4標準
(閉単位円板)、、()とする。 について、 かつ となる をすべて求め、そのとき の形と境界の点の個数を述べよ。
- V. Guillemin, A. Pollack, Differential Topology, Prentice-Hall, 1974 — Chapter 1(§5 横断性、§6 安定性、§8 Whitney の定理)、Chapter 2(§1〜§3 境界、1 次元多様体、横断性ホモトピー定理と拡張定理)。
- J. W. Milnor, Topology from the Differentiable Viewpoint, University Press of Virginia, 1965 — §2、および付録(1 次元多様体の分類。弧長パラメータによる証明)。
- M. W. Hirsch, Differential Topology, Graduate Texts in Mathematics 33, Springer, 1976 — Chapter 2(関数空間の位相)、Chapter 3(横断性)。
- M. Golubitsky, V. Guillemin, Stable Mappings and Their Singularities, Graduate Texts in Mathematics 14, Springer, 1973 — Chapter II(ジェット横断性定理)。
- H. Whitney, “The self-intersections of a smooth n-manifold in 2n-space”, Annals of Mathematics 45 (1944), 220–246.
- 田村一郎『微分位相幾何学』岩波書店 — 横断正則性と一般の位置。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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