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部分多様体と正則値定理:逆関数定理から 1 の分割・Sard・Whitney まで

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章(多様体、接空間、写像の微分)と、学部の解析学(多変数の逆関数定理の主張、縮小写像)、位相のコンパクト性を学んだ人。測度論は初歩のみ仮定します。

前提となる記事:接ベクトル空間と接バンドル:曲がった空間で「速度」を定義する三つの流儀、コンパクト性:有限部分被覆で捉える「有界閉集合」の一般化

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たとえば方程式 x2+y2+z2=1x^2+y^2+z^2=1 の解の集まりは球面になりますが、どんな方程式でもなめらかな曲面になるわけではありません(平面上の方程式 xy=0xy=0 の解は十字形で、交点でなめらかな曲線になりません)。この記事は、解の集まりがなめらかな曲面になる条件を微分で判定する方法と、その土台になる道具を順に作ります。さらに逆向きに、抽象的に定義した曲面が、ふつうの空間 RN\mathbb{R}^N の中の曲面として実現できることも示します。

  • 多様体論の局所的な議論はすべて逆関数定理に帰着します。この記事では Rn\mathbb{R}^n での逆関数定理を縮小写像の議論で証明し(定理 2.1)、それを多様体上に持ち上げます。
  • 微分 dFpdF_p が全射なら、チャートをうまく選んで FF を座標の射影 (x1,…,xm)↦(x1,…,xn)(x^1,\dots,x^m)\mapsto(x^1,\dots,x^n) にできます(沈め込み。次元を落とす射影のような写像)。単射なら x↦(x,0)x\mapsto(x,0) にできます(はめ込み。低次元の空間を高次元の空間に入れる写像)。これが 定理 3.2 と 定理 3.3 です。
  • 正則値定理(定理 4.3)は沈め込みの局所標準形からただちに出ます。リー群とリー環 で証明を省いた定理の証明がここで与えられます。
  • はめ込みだけでは部分多様体になりません。像の位相が相対位相と一致する埋め込みであれば、像は埋め込み部分多様体です(定理 5.3)。コンパクトなら単射はめ込みは埋め込みです。
  • 1 の分割は、局所的に作った滑らかな対象を大域的に貼り合わせる道具です(定理 6.3)。ストークスの定理の積分の定義で使われたものの存在証明をここで与えます。
  • Sard の定理は、臨界値全体が測度 00(体積がいくらでも小さい立方体の和で覆えるほど「小さい」こと)であることを述べます(定理 7.4)。正則値は十分多く、これが 定理 8.1(コンパクト多様体の RN\mathbb{R}^N への埋め込み)と、その次元を 2m+12m+1 まで下げる議論(定理 8.2)を支えます。

多様体の定義 では、空間そのものが局所的に Rn\mathbb{R}^n に見えることを要求しました。ところが実際に出会う多様体の多くは、はじめから何かの中に入った形で現れます。球面 Sn⊂Rn+1S^n\subset\mathbb{R}^{n+1} は方程式 ∣x∣2=1|x|^2=1 の解集合ですし、直交群 O(n)O(n) は行列の空間 Mn(R)M_n(\mathbb{R}) の中で ATA=IA^{\mathsf T}A=I の解集合です。方程式の解集合がいつ多様体になるのか、そのとき接空間は何か、という問いに答えるのが正則値定理です。

逆向きの問いもあります。抽象的に定義した多様体は、RN\mathbb{R}^N の中に実現できるのでしょうか。できるなら抽象的な定義と具体的な曲面論は同じものを見ていることになります。これが Whitney の埋め込み定理です。

この二つの問いは、同じ道具で答えられます。

  1. 逆関数定理(局所的に可逆な写像は微分同相)。
  2. 1 の分割(局所の構成を大域に貼り合わせる)。
  3. Sard の定理(「例外」は測度 00 にしかならない)。

この記事はこの順に道具を作り、最後に組み合わせます。ストークスの定理の記事で積分を定義するときに「1 の分割を取る」と言い、リー群の記事で「SL(n,R)SL(n,\mathbb{R}) は正則値定理により部分多様体」と言いました。この記事は、それらの前提の穴を埋める位置にあります。

2. 準備:Rn\mathbb{R}^n の逆関数定理

Section titled “2. 準備:Rn\mathbb{R}^nRn の逆関数定理”

以下、Rn\mathbb{R}^n のノルムはユークリッドノルム ∣⋅∣|\cdot|、行列(線形写像)のノルムは作用素ノルム ∥⋅∥\|\cdot\|(ベクトルを最大で何倍に伸ばすか)とします。写像 FF が CkC^k 級とは kk 回連続微分可能なことで、k=∞k=\infty も許します。

定理 2.1(逆関数定理)✓

U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n を開集合、F ⁣:U→RnF\colon U\to\mathbb{R}^n を CkC^k 級写像(1≤k≤∞1\le k\le\infty)、a∈Ua\in U とし、ヤコビ行列 DF(a)DF(a) が可逆であるとする。このとき aa の開近傍 V⊂UV\subset U と F(a)F(a) の開近傍 WW が存在して、F∣V ⁣:V→WF|_V\colon V\to W は全単射であり、逆写像 H ⁣:W→VH\colon W\to V も CkC^k 級である。

証明の方針は次のとおりです。FF を aa の近くで恒等写像に近いものに正規化すると、FF との差 GG は縮小写像になります。方程式 F(x)=yF(x)=y はその不動点の問題に直り、反復で解けます(第 2 段)。第 3 段で行列 DF(x)=I−DG(x)DF(x)=I-DG(x) が可逆になることは、等比級数 1+r+r2+⋯1+r+r^2+\cdots の行列版(ノイマン級数)で確かめます。

証明(定理 2.1)

第 0 段:正規化。 FF を A∘(F(a+⋅)−F(a))A\circ\bigl(F(a+\cdot)-F(a)\bigr)(A=DF(a)−1A=DF(a)^{-1})に取り替えても、主張は変わりません。したがって a=0a=0、F(0)=0F(0)=0、DF(0)=IDF(0)=I としてよいです。G(x)=x−F(x)G(x)=x-F(x) とおくと DG(0)=0DG(0)=0 です。DGDG は連続なので、閉球 B‾r={∣x∣≤r}⊂U\overline{B}_r=\{|x|\le r\}\subset U で ∥DG(x)∥≤12\|DG(x)\|\le\tfrac12 となる r>0r>0 が取れます。B‾r\overline B_r は凸なので、x,x′∈B‾rx,x'\in\overline B_r に対し

G(x)−G(x′)=∫01DG(x′+s(x−x′))(x−x′) dsG(x)-G(x')=\int_0^1 DG\bigl(x'+s(x-x')\bigr)(x-x')\,ds

より ∣G(x)−G(x′)∣≤12∣x−x′∣|G(x)-G(x')|\le\tfrac12|x-x'| です。

第 1 段:単射性と逆写像のリプシッツ性。 x,x′∈B‾rx,x'\in\overline B_r に対し、x−x′=(F(x)−F(x′))+(G(x)−G(x′))x-x'=(F(x)-F(x'))+(G(x)-G(x')) なので

∣x−x′∣≤∣F(x)−F(x′)∣+12∣x−x′∣,すなわち∣x−x′∣≤2∣F(x)−F(x′)∣.(∗)|x-x'|\le|F(x)-F(x')|+\tfrac12|x-x'|,\qquad\text{すなわち}\qquad |x-x'|\le 2|F(x)-F(x')|. \tag{$*$}

とくに FF は B‾r\overline B_r 上で単射です。

第 2 段:Br/2B_{r/2} への全射性。 ∣y∣<r/2|y|<r/2 とし、T(x)=y+G(x)T(x)=y+G(x) とおきます。x∈B‾rx\in\overline B_r なら ∣T(x)∣≤∣y∣+∣G(x)−G(0)∣<r/2+r/2=r|T(x)|\le|y|+|G(x)-G(0)|<r/2+r/2=r なので TT は B‾r\overline B_r を BrB_r(開球)に写し、第 0 段より ∣T(x)−T(x′)∣≤12∣x−x′∣|T(x)-T(x')|\le\tfrac12|x-x'| です。x0=0x_0=0、xj+1=T(xj)x_{j+1}=T(x_j) とすると ∣xj+1−xj∣≤2−j∣x1−x0∣|x_{j+1}-x_j|\le2^{-j}|x_1-x_0| なので (xj)(x_j) はコーシー列で、閉球の完備性から極限 x∈B‾rx\in\overline B_r を持ちます。TT は連続なので x=T(x)=y+x−F(x)x=T(x)=y+x-F(x)、すなわち F(x)=yF(x)=y です。しかも ∣x∣=∣T(x)∣<r|x|=|T(x)|<r です。そこで W=Br/2W=B_{r/2}、V=Br∩F−1(W)V=B_r\cap F^{-1}(W)(開集合)とすれば、F∣V ⁣:V→WF|_V\colon V\to W は全単射です。

第 3 段:逆写像の微分可能性。 x∈B‾rx\in\overline B_r で DF(x)=I−DG(x)DF(x)=I-DG(x) の形をしており ∥DG(x)∥≤12\|DG(x)\|\le\tfrac12 なので、ノイマン級数 ∑jDG(x)j\sum_j DG(x)^j が収束して DF(x)DF(x) は可逆、∥DF(x)−1∥≤2\|DF(x)^{-1}\|\le2 です。H=(F∣V)−1H=(F|_V)^{-1} とします。y,y′∈Wy,y'\in W、x=H(y)x=H(y)、x′=H(y′)x'=H(y') に対し、(∗)(*) から ∣x′−x∣≤2∣y′−y∣|x'-x|\le2|y'-y| なので HH は連続です。FF の微分可能性より y′−y=F(x′)−F(x)=DF(x)(x′−x)+ϵ(x′)∣x′−x∣y'-y=F(x')-F(x)=DF(x)(x'-x)+\epsilon(x')|x'-x|(x′→xx'\to x で ϵ→0\epsilon\to0)ですから

H(y′)−H(y)−DF(x)−1(y′−y)=−DF(x)−1ϵ(x′) ∣x′−x∣H(y')-H(y)-DF(x)^{-1}(y'-y)=-DF(x)^{-1}\epsilon(x')\,|x'-x|

で、右辺の大きさは 2⋅∣ϵ(x′)∣⋅2∣y′−y∣=o(∣y′−y∣)2\cdot|\epsilon(x')|\cdot2|y'-y|=o(|y'-y|) です。よって HH は微分可能で DH(y)=DF(H(y))−1DH(y)=DF(H(y))^{-1} です。

第 4 段:CkC^k 級性。 行列の逆を取る写像 GLn(R)→GLn(R)GL_n(\mathbb{R})\to GL_n(\mathbb{R}) は、クラメルの公式により成分の有理式なので C∞C^\infty 級です。HH が CjC^j 級(j<kj<k)なら、DH=Inv∘DF∘HDH=\mathrm{Inv}\circ DF\circ H は CjC^j 級の写像の合成なので CjC^j 級、よって HH は Cj+1C^{j+1} 級です。HH は C1C^1 級(DHDH は連続)なので、帰納法で HH は CkC^k 級です。

C1C^1 級に対する逆関数定理は 逆関数定理と陰関数定理 の 定理 4.1[逆関数定理・陰関数定理と条件付き極値] にもあります。ここでは CkC^k 級(k≤∞k\le\infty)まで込めた形を、縮小写像の議論で自己完結に示しました。

多様体 M,NM,N の間の滑らかな写像 FF について、dFp ⁣:TpM→TF(p)NdF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}N がチャート表示のヤコビ行列で表されること(命題 7.6[接ベクトル空間と接バンドル])に注意すると、次が従います。

系 2.2(多様体上の逆関数定理)✓

F ⁣:M→NF\colon M\to N を滑らかな写像、dim⁡M=dim⁡N\dim M=\dim N、p∈Mp\in M とし、dFpdF_p が同型であるとする。このとき pp の開近傍 VV と F(p)F(p) の開近傍 WW で、F∣V ⁣:V→WF|_V\colon V\to W が微分同相になるものが存在する。

証明(系 2.2)

pp と F(p)F(p) のチャート (U,φ)(U,\varphi)、(U′,ψ)(U',\psi) を F(U)⊂U′F(U)\subset U' となるように取ります(定義 6.3[微分可能多様体の定義] による)。チャート表示 F^=ψ∘F∘φ−1\hat F=\psi\circ F\circ\varphi^{-1} のヤコビ行列は dFpdF_p の行列表示なので可逆です。定理 2.1 を F^\hat F に適用し、得られた局所逆写像をチャートで引き戻せばよいです。

3. 沈め込み・はめ込みと局所標準形

Section titled “3. 沈め込み・はめ込みと局所標準形”

定義 3.1(はめ込み・沈め込み・埋め込み)↗

F ⁣:M→NF\colon M\to N を滑らかな写像とする。

  1. すべての p∈Mp\in M で dFpdF_p が単射のとき、FF をはめ込み(immersion)という。
  2. すべての p∈Mp\in M で dFpdF_p が全射のとき、FF を沈め込み(submersion)という。
  3. FF がはめ込みであり、さらに F ⁣:M→F(M)F\colon M\to F(M) が F(M)F(M) に NN からの相対位相を入れたものへの同相写像であるとき、FF を埋め込み(embedding)という。

はめ込みは「局所的にだけ」単射であることに注意してください。局所標準形は次の二つです。

定理 3.2(沈め込みの局所標準形)✓

dim⁡M=m\dim M=m、dim⁡N=n\dim N=n、F ⁣:M→NF\colon M\to N を滑らかな写像とし、p∈Mp\in M で dFpdF_p が全射であるとする(m≥nm\ge n)。このとき pp を中心とするチャート (U,φ)(U,\varphi) と F(p)F(p) を中心とするチャート (V,ψ)(V,\psi) で、F(U)⊂VF(U)\subset V かつ

ψ∘F∘φ−1(x1,…,xm)=(x1,…,xn)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(x^1,\dots,x^m)=(x^1,\dots,x^n)

となるものが存在する。

証明(定理 3.2)

任意のチャートから出発して F^=ψ∘F∘φ−1\hat F=\psi\circ F\circ\varphi^{-1} を作ります。φ(p)=0\varphi(p)=0、ψ(F(p))=0\psi(F(p))=0 としてよく、DF^(0)D\hat F(0) は階数 nn の n×mn\times m 行列です。変数の番号を入れ替えて、左側の n×nn\times n 小行列 (∂F^i/∂xj(0))i,j≤n\bigl(\partial\hat F^i/\partial x^j(0)\bigr)_{i,j\le n} が可逆としてよいです。写像

Φ(x)=(F^1(x),…,F^n(x), xn+1,…,xm)\Phi(x)=\bigl(\hat F^1(x),\dots,\hat F^n(x),\,x^{n+1},\dots,x^m\bigr)

を 00 の近傍で考えると、DΦ(0)=(AB0I)D\Phi(0)=\begin{pmatrix}A&B\\0&I\end{pmatrix}(AA は上の小行列)で det⁡DΦ(0)=det⁡A≠0\det D\Phi(0)=\det A\ne0 です。定理 2.1 により Φ\Phi は 00 の近傍で微分同相です。Φ∘φ\Phi\circ\varphi は pp の近傍で(アトラスの極大性により)チャートを与え、その座標 u=Φ(x)u=\Phi(x) で F^∘Φ−1(u)=(u1,…,un)\hat F\circ\Phi^{-1}(u)=(u^1,\dots,u^n) です。F^(x)\hat F(x) は Φ(x)\Phi(x) の最初の nn 成分だからです。

定理 3.3(はめ込みの局所標準形)✓

dim⁡M=m\dim M=m、dim⁡N=n\dim N=n、F ⁣:M→NF\colon M\to N を滑らかな写像とし、p∈Mp\in M で dFpdF_p が単射であるとする(m≤nm\le n)。このとき pp を中心とするチャート (U,φ)(U,\varphi) と F(p)F(p) を中心とするチャート (V,ψ)(V,\psi) で、F(U)⊂VF(U)\subset V かつ

ψ∘F∘φ−1(x1,…,xm)=(x1,…,xm,0,…,0)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(x^1,\dots,x^m)=(x^1,\dots,x^m,0,\dots,0)

となるものが存在する。

証明(定理 3.3)

同様に F^=ψ∘F∘φ−1\hat F=\psi\circ F\circ\varphi^{-1}、φ(p)=0\varphi(p)=0、ψ(F(p))=0\psi(F(p))=0 とします。DF^(0)D\hat F(0) は階数 mm の n×mn\times m 行列なので、Rn\mathbb{R}^n の座標の番号を入れ替えて、上の m×mm\times m 小行列 AA が可逆としてよいです。0∈Rm×Rn−m0\in\mathbb{R}^m\times\mathbb{R}^{n-m} の近傍で

Ψ(x,z)=F^(x)+(0,z)\Psi(x,z)=\hat F(x)+(0,z)

と定めます。DΨ(0,0)=(A0BI)D\Psi(0,0)=\begin{pmatrix}A&0\\B&I\end{pmatrix} は可逆なので、Ψ\Psi は 00 の近傍で微分同相です。Ψ(x,0)=F^(x)\Psi(x,0)=\hat F(x) ですから、ψ′=Ψ−1∘ψ\psi'=\Psi^{-1}\circ\psi を F(p)F(p) のまわりの新しいチャートとすれば ψ′∘F∘φ−1(x)=Ψ−1(F^(x))=(x,0)\psi'\circ F\circ\varphi^{-1}(x)=\Psi^{-1}(\hat F(x))=(x,0) です(xx が十分小さいとき)。

沈め込み:平面 → 直線はめ込み:直線 → 平面
局所標準形。左は沈め込み (x¹, x²) ↦ x¹(平面から直線への射影)、右ははめ込み x ↦ (x, 0)(直線を平面の座標軸の上に入れる)。

二つの標準形は、微分の階数が一定である写像についての次の定理にまとめられます。沈め込み(階数 nn)とはめ込み(階数 mm)は、階数が最大の場合です。

定理 3.4(階数定理(定階数定理))✓

dim⁡M=m\dim M=m、dim⁡N=n\dim N=n、F ⁣:M→NF\colon M\to N を滑らかな写像とし、pp のある近傍のすべての点で dFdF の階数が rr であるとする。このとき pp を中心とするチャート (U,φ)(U,\varphi) と F(p)F(p) を中心とするチャート (V,ψ)(V,\psi) で、F(U)⊂VF(U)\subset V かつ

ψ∘F∘φ−1(x1,…,xm)=(x1,…,xr,0,…,0)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(x^1,\dots,x^m)=(x^1,\dots,x^r,0,\dots,0)

となるものが存在する。

証明の方針は三つの段に分かれます。まず定義域の座標を取り替えて、FF の最初の rr 成分をそのまま座標にします。次に、階数が rr のままであるという仮定から、残りの成分が残りの座標によらないことを導きます。最後に値域の座標を取り替えて、残りの成分を 00 にします。

証明(定理 3.4)

任意のチャートで F^=ψ∘F∘φ−1\hat F=\psi\circ F\circ\varphi^{-1}、φ(p)=0\varphi(p)=0、ψ(F(p))=0\psi(F(p))=0 とし、F^=(Q,R)\hat F=(Q,R)(QQ は最初の rr 成分)、x=(x′,x′′)∈Rr×Rm−rx=(x',x'')\in\mathbb{R}^r\times\mathbb{R}^{m-r} と書きます。DF^(0)D\hat F(0) の階数は rr なので、定義域と値域の座標の番号を入れ替えて、∂Q/∂x′(0)\partial Q/\partial x'(0)(r×rr\times r)が可逆としてよいです。

定義域の座標. Φ(x)=(Q(x),x′′)\Phi(x)=(Q(x),x'') は DΦ(0)=(∂Q/∂x′∂Q/∂x′′0I)D\Phi(0)=\begin{pmatrix}\partial Q/\partial x'&\partial Q/\partial x''\\0&I\end{pmatrix} が可逆なので、定理 2.1 により 00 の近傍で微分同相です。Φ−1\Phi^{-1} の定義域を、00 を中心とする開立方体 C=C′×C′′C=C'\times C'' に縮めます。Φ(x)\Phi(x) の最初の rr 成分が Q(x)Q(x) なので、F^∘Φ−1(u,v)=(u,R~(u,v))\hat F\circ\Phi^{-1}(u,v)=(u,\tilde R(u,v)) と書けます。

R~\tilde R は vv によらない. F^∘Φ−1\hat F\circ\Phi^{-1} のヤコビ行列は

(I0∂R~/∂u∂R~/∂v)\begin{pmatrix}I&0\\ \partial\tilde R/\partial u&\partial\tilde R/\partial v\end{pmatrix}

で、Φ−1\Phi^{-1} は微分同相なので、その階数は DF^D\hat F の階数 rr に等しくなります(CC を小さく取り、そこで dFdF の階数が rr とする)。左上の II だけで階数が rr なので ∂R~/∂v=0\partial\tilde R/\partial v=0 です(そうでなければ 00 でない成分を含む列を加えて階数が r+1r+1 以上になる)。C′′C'' は凸なので、各 uu について v↦R~(u,v)v\mapsto\tilde R(u,v) は定数で、S(u)=R~(u,0)S(u)=\tilde R(u,0) と置くと F^∘Φ−1(u,v)=(u,S(u))\hat F\circ\Phi^{-1}(u,v)=(u,S(u)) です。

値域の座標. T(w,z)=(w,z−S(w))T(w,z)=(w,z-S(w)) は C′×Rn−rC'\times\mathbb{R}^{n-r} の微分同相(逆は (w,z)↦(w,z+S(w))(w,z)\mapsto(w,z+S(w)))で、T∘F^∘Φ−1(u,v)=(u,0)T\circ\hat F\circ\Phi^{-1}(u,v)=(u,0) です。φ1=Φ∘φ\varphi_1=\Phi\circ\varphi(定義域を φ−1(Φ−1(C))\varphi^{-1}(\Phi^{-1}(C)) に制限)と、ψ1=T∘ψ\psi_1=T\circ\psi(定義域を ψ−1(C′×Rn−r)\psi^{-1}(C'\times\mathbb{R}^{n-r}) に制限)はアトラスの極大性によりチャートで、FF の像は ψ1\psi_1 の定義域に入り(F^∘Φ−1(C)⊆C′×Rn−r\hat F\circ\Phi^{-1}(C)\subseteq C'\times\mathbb{R}^{n-r})、ψ1∘F∘φ1−1(u,v)=(u,0)\psi_1\circ F\circ\varphi_1^{-1}(u,v)=(u,0) です。最後に座標の番号の入れ替えを元に戻します。

たとえば F(x,y)=(x+y)2F(x,y)=(x+y)^2(R2→R\mathbb{R}^2\to\mathbb{R})は x+y≠0x+y\ne0 では階数 11 ですが、直線 x+y=0x+y=0 上で階数 00 になり、そこでは階数一定の仮定が崩れて標準形は得られません(FF の値は 00 の片側にしか出ない)。

4. 埋め込み部分多様体と正則値定理

Section titled “4. 埋め込み部分多様体と正則値定理”

定義 4.1(埋め込み部分多様体)↗

MM を mm 次元多様体とする。部分集合 S⊂MS\subset M が kk 次元埋め込み部分多様体であるとは、すべての p∈Sp\in S に対して MM のチャート (U,φ)(U,\varphi) で p∈Up\in U かつ

φ(U∩S)=φ(U)∩(Rk×{0})\varphi(U\cap S)=\varphi(U)\cap\bigl(\mathbb{R}^k\times\{0\}\bigr)

となるものがある、ということである。このようなチャートを SS に適合したスライスチャートという。

M の中の SφR^k × {0}
スライスチャート。曲線 S のまわりでチャートを選ぶと、S は座標軸の上にまっすぐ伸びる。

命題 4.2(部分多様体は多様体である)✓

S⊂MS\subset M を kk 次元埋め込み部分多様体とする。SS に MM からの相対位相を入れ、スライスチャート (U,φ)(U,\varphi) に対し φ∣U∩S\varphi|_{U\cap S} の最初の kk 成分を取って得られる写像を SS のチャートとすると、SS は kk 次元の滑らかな多様体になる。包含写像 ι ⁣:S→M\iota\colon S\to M は埋め込みであり、dιpd\iota_p は単射である。

証明(命題 4.2)

MM が Hausdorff かつ第二可算なので、その部分空間 SS も同じです。二つのスライスチャート (U,φ)(U,\varphi)、(U′,φ′)(U',\varphi') に対し、SS のチャート φS,φS′\varphi_S,\varphi'_S(最初の kk 成分)の座標変換 φS′∘φS−1\varphi'_S\circ\varphi_S^{-1} は、x∈φS(U∩U′∩S)x\in\varphi_S(U\cap U'\cap S) に対し φ′∘φ−1(x,0)\varphi'\circ\varphi^{-1}(x,0) の最初の kk 成分を返す写像です。x↦(x,0)x\mapsto(x,0) と成分の取り出しは滑らか(線形)で、φ′∘φ−1\varphi'\circ\varphi^{-1} も滑らかですから、合成は滑らかです。以上で SS の滑らかなアトラスが得られます。

ι\iota のチャート表示は x↦(x,0)x\mapsto(x,0) で、微分は単射です。ι\iota は相対位相を入れているので位相的な埋め込みです。

こうして、TpST_pS を dιpd\iota_p により TpMT_pM の kk 次元部分空間とみなせます。

定理 4.3(正則値定理)✓

M,NM,N を滑らかな多様体(dim⁡M=m\dim M=m、dim⁡N=n\dim N=n)、F ⁣:M→NF\colon M\to N を滑らかな写像とする。点 c∈Nc\in N が FF の正則値、すなわちすべての p∈F−1(c)p\in F^{-1}(c) で dFpdF_p が全射であるとき、F−1(c)F^{-1}(c) が空でなければ F−1(c)F^{-1}(c) は MM の閉な (m−n)(m-n) 次元埋め込み部分多様体であり、各 p∈F−1(c)p\in F^{-1}(c) で

TpF−1(c)=ker⁡dFpT_pF^{-1}(c)=\ker dF_p

が成り立つ。

証明(定理 4.3)

p∈F−1(c)p\in F^{-1}(c) とします。dFpdF_p が全射なので 定理 3.2 のチャート (U,φ)(U,\varphi)、(V,ψ)(V,\psi) が取れ、ψ(c)=0\psi(c)=0 です。UU 上で F(q)=cF(q)=c となる条件は ψ(F(q))=(φ1(q),…,φn(q))=0\psi(F(q))=(\varphi^1(q),\dots,\varphi^n(q))=0 です。座標の順序を (xn+1,…,xm,x1,…,xn)(x^{n+1},\dots,x^m,x^1,\dots,x^n) に入れ替えたチャートは、F−1(c)∩UF^{-1}(c)\cap U に適合したスライスチャートです。これは F−1(c)F^{-1}(c) が (m−n)(m-n) 次元埋め込み部分多様体であることを示します。F−1(c)F^{-1}(c) は閉集合 {c}\{c\} の逆像なので閉です。

接空間について。包含写像を ι\iota とすると F∘ιF\circ\iota は定値写像なので dFp∘dιp=0dF_p\circ d\iota_p=0、すなわち dιp(TpF−1(c))⊂ker⁡dFpd\iota_p(T_pF^{-1}(c))\subset\ker dF_p です。左辺の次元は m−nm-n、右辺の次元は dFpdF_p が全射であることから m−nm-n で、等しいです。

注意 4.4

リー群とリー環 の 定理 4.1[リー群とリー環] は同じ主張で、そこでは証明を階数定理に譲りました。ここで示した証明は階数定理を使わず、逆関数定理だけに依っています。SL(n,R)SL(n,\mathbb{R}) や O(n)O(n) が部分多様体であること(例 4.3[リー群とリー環]、例 4.4[リー群とリー環])は、この定理がそのまま保証します。

例 4.5(球面と双曲面)

F ⁣:Rn+1→RF\colon\mathbb{R}^{n+1}\to\mathbb{R}、F(x)=∣x∣2F(x)=|x|^2 とします。dFx(v)=2⟨x,v⟩dF_x(v)=2\langle x,v\rangle は x≠0x\ne0 なら全射なので、c>0c>0 は正則値で、F−1(c)F^{-1}(c) は半径 c\sqrt c の球面、nn 次元の部分多様体です。接空間は ker⁡dFx={v:⟨x,v⟩=0}=x⊥\ker dF_x=\{v:\langle x,v\rangle=0\}=x^\perp で、球面の接平面は半径に直交するという幾何学的事実と一致します。

G(x,y,z)=x2+y2−z2G(x,y,z)=x^2+y^2-z^2 は dG=(2x,2y,−2z)dG=(2x,2y,-2z) が 00 になるのが原点だけなので、c≠0c\ne0 は正則値です。c=1c=1 は一葉双曲面、c=−1c=-1 は二葉双曲面で、どちらも 2 次元部分多様体です。c=0c=0 の円錐は原点で dG=0dG=0 となり、正則値の仮定を満たしません(実際、原点では部分多様体にもなりません)。

次の例のねらいは、十字形が原点で 1 次元の曲線にならないことを、原点を除いたときの連結成分の個数で示すことです。曲線なら原点の近くから原点を除くと 2 個に分かれるはずですが、十字形では 4 個に分かれます。

例 4.6(正則値でないとき:十字形)

F(x,y)=xyF(x,y)=xy の零点集合 S=F−1(0)S=F^{-1}(0) は、両座標軸を合わせた十字形です。(0,0)(0,0) で dF=0dF=0 なので 00 は正則値ではなく、実際 SS は原点で 1 次元部分多様体になりません。

もしなるなら、SS の相対位相で原点の開近傍 NN と同相写像 h ⁣:I→Nh\colon I\to N(II は開区間)が取れます。hh は連続なので、h−1(0)h^{-1}(0) を含む小さな開区間 I′I' で J=h(I′)J=h(I') が原点中心の開円板に含まれるものが取れ、JJ は NN の中で開なので SS の中でも開です。J∖{0}J\setminus\{0\} は I′I' から 1 点を除いたものと同相なので、連結成分はちょうど 2 個です(系 5.2[連結性]:連結性は位相不変)。

一方、S∖{0}S\setminus\{0\} は 4 本の腕の非交和で、各腕は S∖{0}S\setminus\{0\} の開集合です。連結集合は 1 本の腕の中に入ります。JJ は SS の開集合なので、原点を中心とする小円板 DD で D∩S⊂JD\cap S\subset J となるものがあり、(D∩S)∖{0}(D\cap S)\setminus\{0\} は 4 本の腕すべてと交わります。よって J∖{0}J\setminus\{0\} は少なくとも 4 個の連結成分を持ち、矛盾です。

はめ込みの像は一般には部分多様体になりません。次の二つの例を見てください。

例 5.1(単射なはめ込みが埋め込みでない例)

β ⁣:(−π,π)→R2\beta\colon(-\pi,\pi)\to\mathbb{R}^2、β(t)=(sin⁡2t, sin⁡t)\beta(t)=(\sin2t,\ \sin t) を考えます。β′(t)=(2cos⁡2t,cos⁡t)\beta'(t)=(2\cos2t,\cos t) で、cos⁡t=0\cos t=0 のとき cos⁡2t=2cos⁡2t−1=−1≠0\cos2t=2\cos^2t-1=-1\ne0 なので β′(t)≠0\beta'(t)\ne0、はめ込みです。単射性は、sin⁡t\sin t と sin⁡2t=2sin⁡tcos⁡t\sin2t=2\sin t\cos t が等しいとき sin⁡t\sin t が等しく、sin⁡t≠0\sin t\ne 0 なら cos⁡t\cos t も等しくなること(t∈(−π,π)t\in(-\pi,\pi) では sin⁡t=0\sin t=0 となるのは t=0t=0 だけ)から従います。ところが t→±πt\to\pm\pi のとき β(t)→(0,0)=β(0)\beta(t)\to(0,0)=\beta(0) です。したがって、β(0)\beta(0) の像の側の近傍は t=0t=0 の近くの弧だけでなく t=±πt=\pm\pi の近くの弧も含み、β−1\beta^{-1} は β(0)\beta(0) で連続ではありません。像の 8 の字は、交点で部分多様体にもなりません(例 4.6 と同じ議論)。

t を -π から π まで動かした曲線 β(t) = (sin 2t, sin t)。t = ±π の端が原点に近づくので、単射なはめ込みだが埋め込みではない。

例 5.2(トーラス上の無理数傾きの直線)

R2/Z2\mathbb{R}^2/\mathbb{Z}^2 に t↦[(t,2 t)]t\mapsto[(t,\sqrt2\,t)] を考えると、これは単射なはめ込みですが埋め込みではありません(演習 9.4)。像がトーラスの中で稠密になるからです。

定理 5.3(埋め込みの像は部分多様体である)✓

F ⁣:M→NF\colon M\to N を埋め込みとし、dim⁡M=m\dim M=m とする。

  1. F(M)F(M) は NN の mm 次元埋め込み部分多様体であり、F ⁣:M→F(M)F\colon M\to F(M) は微分同相である。
  2. FF が単射なはめ込みで MM がコンパクトならば、FF は埋め込みである。
証明(定理 5.3)

(1) p∈Mp\in M とし、定理 3.3 のチャート (U,φ)(U,\varphi)、(V,ψ)(V,\psi) を取ります。FF は MM から F(M)F(M)(相対位相)への同相なので、F(U)F(U) は F(M)F(M) の中で開集合です。したがって NN の開集合 W⊂NW\subset N で F(U)=F(M)∩WF(U)=F(M)\cap W となるものがあります。W∩VW\cap V を改めて WW とおいても、F(U)⊂VF(U)\subset V なので F(U)=F(M)∩WF(U)=F(M)\cap W のままです。さらに

W′=W∩ψ−1(φ(U)×Rn−m)W'=W\cap\psi^{-1}\bigl(\varphi(U)\times\mathbb{R}^{n-m}\bigr)

とおくと、これは開集合で、ψ(F(U))=φ(U)×{0}\psi(F(U))=\varphi(U)\times\{0\} より F(U)⊂W′F(U)\subset W' です。よって F(M)∩W′=F(U)F(M)\cap W'=F(U) であり、ψ(F(M)∩W′)=φ(U)×{0}\psi(F(M)\cap W')=\varphi(U)\times\{0\} です。一方 ψ(W′)⊂φ(U)×Rn−m\psi(W')\subset\varphi(U)\times\mathbb{R}^{n-m} なので ψ(W′)∩(Rm×{0})⊂φ(U)×{0}\psi(W')\cap(\mathbb{R}^m\times\{0\})\subset\varphi(U)\times\{0\} であり、逆の包含は F(U)⊂W′F(U)\subset W' から従います。ゆえに

ψ(F(M)∩W′)=ψ(W′)∩(Rm×{0})\psi\bigl(F(M)\cap W'\bigr)=\psi(W')\cap\bigl(\mathbb{R}^m\times\{0\}\bigr)

で、(W′,ψ∣W′)(W',\psi|_{W'}) は F(M)F(M) に適合したスライスチャートです。FF のチャート表示は x↦(x,0)x\mapsto(x,0) で、命題 4.2 で与えた F(M)F(M) のチャートでは恒等写像になります。したがって F ⁣:M→F(M)F\colon M\to F(M) は微分同相です。

(2) FF は連続な全単射 M→F(M)M\to F(M) で、MM はコンパクト、F(M)⊂NF(M)\subset N は Hausdorff です。系 6.5[コンパクト性] により F ⁣:M→F(M)F\colon M\to F(M) は同相写像です。

これで、正則値定理と合わせて、部分多様体は「方程式の解集合」としても「埋め込みの像」としても現れることが分かりました。

多様体の上で、局所的に作った関数を大域的に貼り合わせるには、台がコンパクトな滑らかな関数が十分に豊富にあることを知る必要があります。最も基本的な関数から始めます。

補題 6.1(台の小さな滑らかな関数)✓

  1. f(t)=e−1/tf(t)=e^{-1/t} (t>0)(t>0)、f(t)=0f(t)=0 (t≤0)(t\le0) は R\mathbb{R} 上で C∞C^\infty 級である。
  2. Rn\mathbb{R}^n 上に、C∞C^\infty 級関数 β ⁣:Rn→[0,1]\beta\colon\mathbb{R}^n\to[0,1] で、∣x∣≤1|x|\le1 のとき β(x)=1\beta(x)=1、∣x∣≥2|x|\ge2 のとき β(x)=0\beta(x)=0 となるものがある。
  3. MM を滑らかな多様体、p∈Mp\in M、UU を pp の開近傍とするとき、MM 上の滑らかな関数 ψ ⁣:M→[0,1]\psi\colon M\to[0,1] で、ψ(p)>0\psi(p)>0 かつ supp⁡ψ\operatorname{supp}\psi がコンパクトで UU に含まれるものがある。
証明(補題 6.1)

(1) t>0t>0 では f(j)(t)=pj(1/t)e−1/tf^{(j)}(t)=p_j(1/t)e^{-1/t}(pjp_j は多項式)が帰納法で分かります。s=1/ts=1/t とおくと ∣pj(s)∣e−s→0|p_j(s)|e^{-s}\to0(s→∞s\to\infty、es≥sN+1/(N+1)!e^s\ge s^{N+1}/(N+1)! による)ので、f(j)(t)→0f^{(j)}(t)\to0(t→0+t\to0+)です。これから f(j)(0)=0f^{(j)}(0)=0 が帰納的に出ます:f(j)(0)=0f^{(j)}(0)=0 なら、差分商 f(j)(t)/t=pj(1/t)e−1/t/t→0f^{(j)}(t)/t=p_j(1/t)e^{-1/t}/t\to0 だからです。

(2) g(t)=f(2−t)f(2−t)+f(t−1)g(t)=\dfrac{f(2-t)}{f(2-t)+f(t-1)} とおきます。分母は常に正です(t≤1t\le 1 なら第 1 項、t≥2t\ge 2 なら第 2 項が正)。gg は滑らかで [0,1][0,1] に値を取り、t≤1t\le1 で 11、t≥2t\ge2 で 00 です。β(x)=g(∣x∣)\beta(x)=g(|x|) は、∣x∣≤1|x|\le1 で定数 11 なので原点でも滑らかで、他の点では ∣x∣|x| が滑らかなので滑らかです。

(3) pp を含むチャート (U′,φ)(U',\varphi) を U′⊂UU'\subset U となるように取り、φ(p)=0\varphi(p)=0 とします。閉球 B‾(0,2r)⊂φ(U′)\overline B(0,2r)\subset\varphi(U') となる r>0r>0 を取り、ψ=β(φ(⋅)/r)\psi=\beta(\varphi(\cdot)/r) を U′U' 上で定め、U′U' の外では 00 とします。supp⁡ψ⊂φ−1(B‾(0,2r))\operatorname{supp}\psi\subset\varphi^{-1}(\overline B(0,2r)) はコンパクト(連続写像による像)で、Hausdorff 空間 MM の閉集合です。したがって ψ\psi は U′U' と M∖supp⁡ψM\setminus\operatorname{supp}\psi の上で滑らかで、この二つの開集合が MM を覆うので MM 上で滑らかです。ψ(p)=1\psi(p)=1 です。

補題 6.2(コンパクト集合による枚挙)✓

滑らかな多様体 MM に対し、コンパクト集合の増大列 K1⊂K2⊂⋯K_1\subset K_2\subset\cdots で、Ki⊂int⁡Ki+1K_i\subset\operatorname{int}K_{i+1} かつ ⋃iKi=M\bigcup_iK_i=M となるものが存在する。

証明(補題 6.2)

各点にはチャートの閉球の逆像というコンパクトな近傍があります。MM の第二可算性から可算基底 {Bj}\{B_j\} が取れ、コンパクトな閉包を持つ BjB_j だけを集めてもまだ基底です(点 xx と開近傍 OO に対し、コンパクトな閉包を持つ xx の近傍 NN をとり、x∈Bj⊂O∩Nx\in B_j\subset O\cap N となる基底元 BjB_j を取れば、Bj‾⊂N‾\overline{B_j}\subset\overline N は Hausdorff 空間のコンパクト集合の閉部分集合なのでコンパクトです)。この基底を改めて {Bj}\{B_j\} と書きます。K1=B1‾K_1=\overline{B_1} とし、KiK_i が定まったら、KiK_i がコンパクトなので Ki⊂B1∪⋯∪BmK_i\subset B_1\cup\cdots\cup B_{m} となる m≥i+1m\ge i+1 が取れます。Ki+1=B1‾∪⋯∪Bm‾K_{i+1}=\overline{B_1}\cup\cdots\cup\overline{B_m} とすれば、Ki+1K_{i+1} はコンパクトで Ki⊂B1∪⋯∪Bm⊂int⁡Ki+1K_i\subset B_1\cup\dots\cup B_m\subset\operatorname{int}K_{i+1}、また Bi+1⊂Ki+1B_{i+1}\subset K_{i+1} です。したがって ⋃Ki⊃⋃Bj=M\bigcup K_i\supset\bigcup B_j=M です。

定理 6.3(1 の分割の存在)✓

MM を滑らかな多様体、{Uα}α∈A\{U_\alpha\}_{\alpha\in A} を MM の開被覆とする。このとき、滑らかな関数の可算族 {ρj}j≥1\{\rho_j\}_{j\ge1}、ρj ⁣:M→[0,1]\rho_j\colon M\to[0,1]、で次を満たすものが存在する。

  1. 各 supp⁡ρj\operatorname{supp}\rho_j はコンパクトで、ある Uα(j)U_{\alpha(j)} に含まれる。
  2. 局所有限:各点 x∈Mx\in M に、有限個の jj についてしか supp⁡ρj\operatorname{supp}\rho_j と交わらない近傍がある。
  3. ∑jρj(x)=1\sum_j\rho_j(x)=1(各点で有限和)。

これを被覆 {Uα}\{U_\alpha\} に従属する 1 の分割という。

証明の考え方は次のとおりです。MM を、コンパクト集合を少しずつ大きくした列 K1⊂K2⊂⋯K_1\subset K_2\subset\cdots で内側から埋め尽くします。KiK_i から Ki−1K_{i-1} の内部を除いた部分を「第 ii 層」CiC_i と呼び、各層を有限個の山形の関数(補題 6.1)で覆います。第 ii 層の関数の台は Ki−2K_{i-2} の外側に収めるので、どの点の近くでも関わる層は有限個だけで、和が取れます(局所有限)。最後に全部の和で割って、合計を 1 にします。

証明(定理 6.3)

補題 6.2 の KiK_i を取り、K0=K−1=∅K_0=K_{-1}=\varnothing とします。i≥1i\ge1 に対し、コンパクト集合 Ci=Ki∖int⁡Ki−1C_i=K_i\setminus\operatorname{int}K_{i-1} と開集合 Oi=int⁡Ki+1∖Ki−2O_i=\operatorname{int}K_{i+1}\setminus K_{i-2} を考えます。Ki−1⊂int⁡KiK_{i-1}\subset\operatorname{int}K_i などから Ci⊂OiC_i\subset O_i であり、⋃iCi=M\bigcup_iC_i=M です(x∈Ki∖Ki−1x\in K_i\setminus K_{i-1} となる最小の ii について x∈Cix\in C_i)。

各 p∈Cip\in C_i に対し、p∈Uαp\in U_\alpha となる α\alpha を一つ選び、補題 6.1 (3) で ψp ⁣:M→[0,1]\psi_p\colon M\to[0,1]、ψp(p)>0\psi_p(p)>0、supp⁡ψp\operatorname{supp}\psi_p はコンパクトで Uα∩OiU_\alpha\cap O_i に含まれるもの、を取ります。開集合 {ψp>0}\{\psi_p>0\} たちは CiC_i を覆うので、コンパクト性から有限個 ψi,1,…,ψi,ri\psi_{i,1},\dots,\psi_{i,r_i} で CiC_i が覆われます。すべての ii に対するこれらを並べて可算族 {ψj}\{\psi_j\} とします。

局所有限性:x∈Mx\in M に対し、x∈int⁡Klx\in\operatorname{int}K_l となる ll があります。i≥l+2i\ge l+2 のとき、第 ii 層の関数の台は Oi⊂M∖Ki−2⊂M∖KlO_i\subset M\setminus K_{i-2}\subset M\setminus K_l に入るので int⁡Kl\operatorname{int}K_l と交わりません。したがって int⁡Kl\operatorname{int}K_l と交わる台を持つのは第 1,…,l+11,\dots,l+1 層の有限個だけです。

Ψ=∑jψj\Psi=\sum_j\psi_j は局所有限和なので滑らかで、各 x∈Cix\in C_i では第 ii 層の関数のどれかが正なので Ψ>0\Psi>0 です。ρj=ψj/Ψ\rho_j=\psi_j/\Psi とおけば、1〜3 が成り立ちます。

系 6.4(滑らかなウリゾーンの補題)✓

A⊂MA\subset M を閉集合、U⊃AU\supset A を開集合とすると、滑らかな関数 f ⁣:M→[0,1]f\colon M\to[0,1] で、AA 上で f=1f=1、supp⁡f⊂U\operatorname{supp}f\subset U となるものがある。

証明(系 6.4)

開被覆 {U, M∖A}\{U,\ M\setminus A\} に従属する 1 の分割 {ρj}\{\rho_j\} を取り、J={j:supp⁡ρj⊂U}J=\{j:\operatorname{supp}\rho_j\subset U\} に対して f=∑j∈Jρjf=\sum_{j\in J}\rho_j とします。局所有限和なので滑らかで、台は局所有限な閉集合族の和集合なので閉で UU に含まれます。x∈Ax\in A のとき、ρj(x)>0\rho_j(x)>0 ならば x∈supp⁡ρjx\in\operatorname{supp}\rho_j で、supp⁡ρj⊂M∖A\operatorname{supp}\rho_j\subset M\setminus A とはなり得ないので j∈Jj\in J です。よって f(x)=∑jρj(x)=1f(x)=\sum_j\rho_j(x)=1 です。

ストークスの定理 の積分の定義で使われた「被覆に従属する 1 の分割」の存在は 定理 6.3 が保証します。第二可算性の仮定がここで効いていることに注意してください。なお、局所コンパクト Hausdorff 空間上の連続関数に対する 1 の分割は 局所コンパクト空間 の 定理 6.1[局所コンパクト空間] にあります。ここで必要なのは滑らかな関数による分割なので、チャートと 補題 6.1 を使って一から作りました。第二可算でない(例えば長い直線のような)多様体には 1 の分割が存在しない場合があります。

次に、正則値が「十分多い」ことを述べる Sard の定理を証明します。「十分多い」を測度で表します。

定義 7.1(測度 0 の集合)↗

A⊂RnA\subset\mathbb{R}^n が測度 00 であるとは、任意の ε>0\varepsilon>0 に対し、AA が可算個の閉立方体で覆われ、それらの体積の和が ε\varepsilon 未満であることをいう(ルベーグ測度 の零集合と同じ)。多様体 MM の部分集合 AA が測度 00 であるとは、すべてのチャート (U,φ)(U,\varphi) について φ(A∩U)\varphi(A\cap U) が Rn\mathbb{R}^n で測度 00 になることをいう。

補題 7.2(C¹ 写像は零集合を零集合に写す)✓

U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n を開集合、f ⁣:U→Rnf\colon U\to\mathbb{R}^n を C1C^1 級、A⊂UA\subset U を測度 00 とすると、f(A)f(A) は測度 00 である。

証明(補題 7.2)

UU は可算個の閉立方体 QQ の和集合なので、各 QQ について f(A∩Q)f(A\cap Q) が測度 00 を示せば足ります。DfDf は QQ 上で有界なので、∥Df∥≤L\|Df\|\le L とします。QQ の部分凸集合上で ∣f(x)−f(y)∣≤L∣x−y∣|f(x)-f(y)|\le L|x-y| です(定理 2.1 の第 0 段と同じ積分の議論)。ε>0\varepsilon>0 を取り、A∩QA\cap Q を辺長 sjs_j の閉立方体 CjC_j で ∑sjn<ε\sum s_j^n<\varepsilon となるよう覆います。Cj∩QC_j\cap Q は凸で直径が n sj\sqrt n\,s_j 以下なので、f(A∩Q∩Cj)f(A\cap Q\cap C_j) は ff の値の一つを中心とする半径 Ln sjL\sqrt n\,s_j の球に含まれ、したがって辺長 2Ln sj2L\sqrt n\,s_j の閉立方体に含まれます。この立方体の体積は (2Ln)nsjn(2L\sqrt n)^ns_j^n で、和は (2Ln)nε(2L\sqrt n)^n\varepsilon 以下です。ε\varepsilon は任意なので、f(A∩Q)f(A\cap Q) は測度 00 です。

この補題により、「測度 00」の定義はチャートの取り方によりません(チャート変換は微分同相)。また、測度 00 の集合の可算和は測度 00 です。さらに、MM の空でない開集合は測度 00 ではありません(チャートに移すと Rn\mathbb{R}^n の空でない開集合で、正の体積を持つ)。

定義 7.3(臨界点・臨界値・正則値)↗

F ⁣:M→NF\colon M\to N を滑らかな写像とする。dFpdF_p が全射でない点 p∈Mp\in M を臨界点、臨界点の像を臨界値という。NN の点で臨界値でないもの(FF の像に入っていない点を含む)を正則値という。

定理 7.4(Sard の定理)✓

U⊂RmU\subset\mathbb{R}^m を開集合、f ⁣:U→Rnf\colon U\to\mathbb{R}^n を C∞C^\infty 級写像(n≥1n\ge1)、C={x∈U:rank⁡Df(x)<n}C=\{x\in U:\operatorname{rank}Df(x)<n\} を臨界点の集合とする。このとき f(C)⊂Rnf(C)\subset\mathbb{R}^n は測度 00 である。

したがって、滑らかな多様体の間の滑らかな写像 F ⁣:M→NF\colon M\to N の臨界値全体は NN で測度 00 であり、正則値全体は NN で稠密である。

証明の全体像は次のとおりです。次元 mm に関する帰納法で、臨界点の集合を微分が 00 にどこまで近いかで三つに分けます。(a) 偏微分が一つでも 00 でない臨界点では、座標を取り替えて次元を一つ下げ、帰納法に持ち込みます。(b) 1 階から ii 階までの偏導関数がすべて 00 で、i+1i+1 階に 00 でないものがある点では、その偏導関数の零点集合(次元が一つ低い超曲面)に制限して帰納法に持ち込みます。(c) 十分高い階数まで微分が 00 の点では、ff がほとんど動かないことを使い、像の体積を直接見積もります。

証明(定理 7.4)

mm に関する帰納法で示します。m=0m=0 のときは UU は点で、像は高々 1 点なので自明です。m≥1m\ge1 とし、次元 m−1m-1 の定義域に対して(任意の目標次元で)定理が成り立つと仮定します。

臨界点の部分集合を

Ci={x∈U: f の 1 階から i 階までのすべての偏導関数が x で 0}(i≥1)C_i=\{x\in U:\ f\text{ の 1 階から }i\text{ 階までのすべての偏導関数が }x\text{ で }0\}\qquad(i\ge1)

で定めます。C⊃C1⊃C2⊃⋯C\supset C_1\supset C_2\supset\cdots です。n=1n=1 のときは、臨界点とは Df=0Df=0 の点のことなので C=C1C=C_1 です。次の三つを示します。

(a) f(C∖C1)f(C\setminus C_1) は測度 00。 n=1n=1 では C∖C1=∅C\setminus C_1=\varnothing なので n≥2n\ge2 とします。x∈C∖C1x\in C\setminus C_1 とすると、偏微分 ∂fr/∂xs(x)≠0\partial f^r/\partial x^s(x)\ne0 となる r,sr,s があります。番号を入れ替えて r=s=1r=s=1 とします。h(y)=(f1(y),y2,…,ym)h(y)=(f^1(y),y^2,\dots,y^m) は Dh(x)Dh(x) が可逆なので、定理 2.1 により xx の開近傍 VV 上で開集合 V′V' への微分同相です。g=f∘h−1 ⁣:V′→Rng=f\circ h^{-1}\colon V'\to\mathbb{R}^n は g(t,z)=(t,g~(t,z))g(t,z)=(t,\tilde g(t,z))(g~ ⁣:V′→Rn−1\tilde g\colon V'\to\mathbb{R}^{n-1})の形で、

Dg(t,z)=(10∗Dzg~(t,z))Dg(t,z)=\begin{pmatrix}1&0\\ *&D_z\tilde g(t,z)\end{pmatrix}

です。よって (t,z)(t,z) が gg の臨界点であることと、zz が g~(t,⋅) ⁣:Vt′→Rn−1\tilde g(t,\cdot)\colon V'_t\to\mathbb{R}^{n-1}(Vt′={z:(t,z)∈V′}V'_t=\{z:(t,z)\in V'\} は Rm−1\mathbb{R}^{m-1} の開集合)の臨界点であることは同値です。hh は微分同相なので h(C∩V)h(C\cap V) は gg の臨界点全体と一致します。帰納法の仮定(次元 m−1m-1 から Rn−1\mathbb{R}^{n-1} への写像)により、各 tt で g~(t,⋅)\tilde g(t,\cdot) の臨界値は Rn−1\mathbb{R}^{n-1} で測度 00、すなわち g(h(C∩V))∩({t}×Rn−1)g(h(C\cap V))\cap(\{t\}\times\mathbb{R}^{n-1}) はその切り口で測度 00 です。gg の臨界点集合は V′V' の閉集合で、σ\sigma コンパクトなので、その像 g(h(C∩V))g(h(C\cap V)) も σ\sigma コンパクト、とくにボレル集合です。切り口がすべて測度 00 のボレル集合は測度 00 です(ボレル集合の指示関数に Tonelli の定理(定理 3.3)[直積測度と Fubini–Tonelli の定理] を R×Rn−1\mathbb{R}\times\mathbb{R}^{n-1} で適用すると、全体の測度は切り口の測度 00 の tt に関する積分になる)ので、f(C∩V)=g(h(C∩V))f(C\cap V)=g(h(C\cap V)) は測度 00 です。Rm\mathbb{R}^m は第二可算なので、C∖C1C\setminus C_1 は可算個のこのような VV で覆えます。

(b) 各 i≥1i\ge1 で f(Ci∖Ci+1)f(C_i\setminus C_{i+1}) は測度 00。 x∈Ci∖Ci+1x\in C_i\setminus C_{i+1} とすると、ii 階の偏導関数 w=∂ifr/∂xs1⋯∂xsiw=\partial^if^r/\partial x^{s_1}\cdots\partial x^{s_i} で ∂w/∂xs(x)≠0\partial w/\partial x^s(x)\ne0 となるものがあります。x∈Cix\in C_i なので w(x)=0w(x)=0 です。番号を入れ替えて s=1s=1 とし、h(y)=(w(y),y2,…,ym)h(y)=(w(y),y^2,\dots,y^m) とすると、hh は xx の近傍 VV から開集合 V′V' への微分同相で、h(Ci∩V)⊂{0}×Rm−1h(C_i\cap V)\subset\{0\}\times\mathbb{R}^{m-1} です。fˉ=f∘h−1\bar f=f\circ h^{-1} を超平面 V′∩({0}×Rm−1)V'\cap(\{0\}\times\mathbb{R}^{m-1}) に制限したものを gˉ\bar g とします。z∈h(Ci∩V)z\in h(C_i\cap V) では Df(h−1(z))=0Df(h^{-1}(z))=0(i≥1i\ge1)なので Dgˉ(z)=0D\bar g(z)=0 で、zz は gˉ\bar g の臨界点です。帰納法の仮定により gˉ\bar g の臨界値は測度 00 で、f(Ci∩V)f(C_i\cap V) はその部分集合です。可算個の VV で覆えます。

(c) k>m/n−1k>m/n-1 ならば f(Ck)f(C_k) は測度 00。 UU に含まれる辺長 δ\delta の閉立方体 QQ について f(Ck∩Q)f(C_k\cap Q) が測度 00 を示せば、UU が可算個のそのような立方体で覆えるので十分です。x∈Ck∩Qx\in C_k\cap Q、x+h∈Qx+h\in Q とし、γ(s)=fr(x+sh)\gamma(s)=f^r(x+sh) にテイラーの定理(定理 5.3[平均値の定理とテイラーの定理])を適用します。x∈Ckx\in C_k から γ(j)(0)=0\gamma^{(j)}(0)=0(1≤j≤k1\le j\le k)で、QQ 上の k+1k+1 階偏導関数の上界から ∣γ(k+1)∣≤c0∣h∣k+1|\gamma^{(k+1)}|\le c_0|h|^{k+1} なので、

∣f(x+h)−f(x)∣≤c ∣h∣k+1|f(x+h)-f(x)|\le c\,|h|^{k+1}

(cc は f,Qf,Q だけで決まる)です。QQ を辺長 δ/ℓ\delta/\ell の ℓm\ell^m 個の小立方体に分けます。小立方体が CkC_k の点 xx を含むなら、その像は f(x)f(x) を中心とする半径 c(mδ/ℓ)k+1c(\sqrt m\delta/\ell)^{k+1} の球に入ります。この球の体積は a ℓ−n(k+1)a\,\ell^{-n(k+1)}(aa は定数)以下です。CkC_k と交わる小立方体は高々 ℓm\ell^m 個なので、f(Ck∩Q)f(C_k\cap Q) の外測度は a ℓm−n(k+1)a\,\ell^{m-n(k+1)} 以下で、n(k+1)>mn(k+1)>m から ℓ→∞\ell\to\infty で 00 に収束します。

結論。 k>m/n−1k>m/n-1 となる kk を取れば、

C=(C∖C1)∪⋃i=1k−1(Ci∖Ci+1)∪CkC=(C\setminus C_1)\cup\bigcup_{i=1}^{k-1}(C_i\setminus C_{i+1})\cup C_k

なので、(a)〜(c) から f(C)f(C) は測度 00 の集合の有限和で、測度 00 です。

多様体版:M,NM,N を第二可算なので、可算個のチャート (Ua,φa)(U_a,\varphi_a)、(Vb,ψb)(V_b,\psi_b) で覆えます。各 (a,b)(a,b) で、ψb∘F∘φa−1\psi_b\circ F\circ\varphi_a^{-1} を開集合 φa(Ua∩F−1(Vb))\varphi_a(U_a\cap F^{-1}(V_b)) 上で考えると、その臨界点は FF の臨界点に対応します。上の結果と 補題 7.2 により ψb(F(C)∩Vb)\psi_b(F(C)\cap V_b) は可算個の測度 00 集合の和で、測度 00 です。最後に、測度 00 の集合は空でない開集合を含まないので、補集合である正則値全体は稠密です。

とくに m<nm<n のとき、すべての点が臨界点なので F(M)F(M) が測度 00 になります。滑らかな写像で低次元の多様体が高次元の多様体を覆い尽くすことはできません(連続写像ならばペアノ曲線が存在するので、滑らかさが本質的に効いています)。

注意 7.5

Sard の定理で C∞C^\infty は必要以上に強い仮定で、CkC^k 級で k≥max⁡(m−n+1,1)k\ge\max(m-n+1,1) であれば成立します。この境界は最良です:Whitney(1935)は、m≥2m\ge2 に対し Cm−1C^{m-1} 級の関数 f ⁣:Rm→Rf\colon\mathbb{R}^m\to\mathbb{R} で、臨界値の集合が区間を含むもの(連結な臨界点集合の上で ff が定数でないもの)を構成しました。

定理 8.1(Whitney の埋め込み定理(コンパクト・易しい版))✓

MM をコンパクトな mm 次元滑らかな多様体とする。ある NN と埋め込み F ⁣:M→RNF\colon M\to\mathbb{R}^N が存在する。

証明(定理 8.1)

各 p∈Mp\in M に対し、チャート (U,φ)(U,\varphi) と、φ(p)\varphi(p) を中心とする開球 BB で B‾⊂φ(U)\overline B\subset\varphi(U) となるものを取り、W=φ−1(B)W=\varphi^{-1}(B) とします。B‾\overline B は φ(U)\varphi(U) に含まれるコンパクト集合なので、φ−1(B‾)\varphi^{-1}(\overline B) はコンパクトで閉であり、W‾⊂φ−1(B‾)⊂U\overline W\subset\varphi^{-1}(\overline B)\subset U です。MM のコンパクト性から、有限個のそのような (Ui,φi,Wi)(U_i,\varphi_i,W_i)、i=1,…,ki=1,\dots,k で ⋃Wi=M\bigcup W_i=M となるものが取れます。

系 6.4 を閉集合 Wi‾\overline{W_i} と開集合 UiU_i に適用し、滑らかな ρi ⁣:M→[0,1]\rho_i\colon M\to[0,1]、Wi‾\overline{W_i} 上で ρi=1\rho_i=1、supp⁡ρi⊂Ui\operatorname{supp}\rho_i\subset U_i を取ります。ρiφi ⁣:M→Rm\rho_i\varphi_i\colon M\to\mathbb{R}^m を、UiU_i の外で 00 として定義します(UiU_i と M∖supp⁡ρiM\setminus\operatorname{supp}\rho_i の上でそれぞれ滑らかなので、MM 上で滑らか)。

F=(ρ1φ1,…,ρkφk,ρ1,…,ρk) ⁣:M→Rk(m+1)F=(\rho_1\varphi_1,\dots,\rho_k\varphi_k,\rho_1,\dots,\rho_k)\colon M\to\mathbb{R}^{k(m+1)}

とします。

はめ込み。 p∈Mp\in M に対し p∈Wip\in W_i となる ii が取れます。WiW_i 上で ρi≡1\rho_i\equiv1 なので、成分 ρiφi\rho_i\varphi_i は WiW_i 上で φi\varphi_i に等しく、その微分は単射です。したがって dFpdF_p も単射です。

単射。 F(p)=F(q)F(p)=F(q) とします。p∈Wip\in W_i となる ii を取ると ρi(p)=1\rho_i(p)=1、成分の一致から ρi(q)=1\rho_i(q)=1 なので q∈supp⁡ρi⊂Uiq\in\operatorname{supp}\rho_i\subset U_i です。このとき ρiφi(p)=ρiφi(q)\rho_i\varphi_i(p)=\rho_i\varphi_i(q) は φi(p)=φi(q)\varphi_i(p)=\varphi_i(q) を意味し、φi\varphi_i は UiU_i 上で単射なので p=qp=q です。

MM はコンパクトなので、定理 5.3 (2) により FF は埋め込みです。

像 F(M)F(M) は、定理 5.3 (1) により RN\mathbb{R}^N の部分多様体です。次元 N=k(m+1)N=k(m+1) は被覆の個数に依存して大きいですが、次の議論で 2m+12m+1 まで下げられます。

定理 8.2(埋め込み次元の削減)✓

MM をコンパクトな mm 次元滑らかな多様体とする。MM は R2m+1\mathbb{R}^{2m+1} に埋め込める。

証明の考え方は次のとおりです。RN\mathbb{R}^N の中の MM を、向き vv に沿って vv に直交する超平面へ押しつぶす(射影する)ことを考えます。押しつぶした結果が単射なはめ込みでなくなる向き vv は、方向全体 SN−1S^{N-1} の中で測度 00 しかなく、それ以外の向きを選べば次元が一つ下がります。後半に出てくる TMTM は、各点の接ベクトルをすべて集めた多様体(接バンドル)です。

証明(定理 8.2)

定理 8.1 により埋め込み F ⁣:M→RNF\colon M\to\mathbb{R}^N があります。N>2m+1N>2m+1 なら、RN−1\mathbb{R}^{N-1} への埋め込みが作れることを示せば、帰納的に N=2m+1N=2m+1 まで下がります。

単位ベクトル v∈SN−1v\in S^{N-1} に対し、Pv ⁣:RN→v⊥≅RN−1P_v\colon\mathbb{R}^N\to v^\perp\cong\mathbb{R}^{N-1} を直交射影とします。Pv∘FP_v\circ F が単射であることと、はめ込みであることは、それぞれ次と同値です。

  • p≠qp\ne q ならば F(p)−F(q)∉RvF(p)-F(q)\notin\mathbb{R}v。
  • p∈Mp\in M、0≠w∈TpM0\ne w\in T_pM ならば dFp(w)∉RvdF_p(w)\notin\mathbb{R}v。

そこで次の二つの写像を考えます。

A ⁣:(M×M)∖Δ→SN−1,A(p,q)=F(p)−F(q)∣F(p)−F(q)∣,B ⁣:TM∖0→SN−1,B(p,w)=dFp(w)∣dFp(w)∣.A\colon(M\times M)\setminus\Delta\to S^{N-1},\quad A(p,q)=\frac{F(p)-F(q)}{|F(p)-F(q)|},\qquad B\colon TM\setminus0\to S^{N-1},\quad B(p,w)=\frac{dF_p(w)}{|dF_p(w)|}.

FF は単射なので AA は定義され、FF ははめ込みなので BB は定義されます。定義域はどちらも次元 2m2m の滑らかな多様体(第二可算で、TMTM については 定理 8.2[接ベクトル空間と接バンドル])で、2m<N−12m<N-1 なので、どの点も臨界点です。定理 7.4 により A,BA,B の像は SN−1S^{N-1} で測度 00 です。A(q,p)=−A(p,q)A(q,p)=-A(p,q) なので、im⁡A∪im⁡B∪(−im⁡B)\operatorname{im}A\cup\operatorname{im}B\cup(-\operatorname{im}B) も測度 00 で、SN−1S^{N-1} 全体ではありません。この集合に入らない vv を取れば、Pv∘FP_v\circ F は単射なはめ込みで、MM がコンパクトなので 定理 5.3 (2) により RN−1\mathbb{R}^{N-1} への埋め込みです。

さらに強く、任意の(コンパクトでなくてもよい)mm 次元滑らかな多様体は R2m\mathbb{R}^{2m} に埋め込めます(Whitney の強い埋め込み定理)。証明は交点の扱いが繊細で、この記事の範囲を超えます。

演習 9.1易

f(x)=x3−3xf(x)=x^3-3x を R→R\mathbb{R}\to\mathbb{R} の写像とみなす。臨界値をすべて求め、各 c∈Rc\in\mathbb{R} について f−1(c)f^{-1}(c) の点の個数を答えよ。正則値 cc では f−1(c)f^{-1}(c) が 0 次元の部分多様体(離散集合)であることを確かめよ。

解答

f′(x)=3x2−3=0f'(x)=3x^2-3=0 から臨界点は x=±1x=\pm1、臨界値は f(1)=−2f(1)=-2、f(−1)=2f(-1)=2 です。c≠±2c\ne\pm2 が正則値です。f(x)=cf(x)=c の実数解の個数は、∣c∣>2|c|>2 のとき 1 個、∣c∣<2|c|<2 のとき 3 個、c=±2c=\pm2 のとき 2 個(例えば c=2c=2 では x=−1x=-1(重解)と x=2x=2)です。正則値 cc では、定理 4.3 の m−n=0m-n=0 の場合により f−1(c)f^{-1}(c) は 0 次元の埋め込み部分多様体、すなわち各点が f−1(c)f^{-1}(c) の中で孤立した点です。実際、f′≠0f'\ne0 の点の近傍で ff は単調なので、そこに f−1(c)f^{-1}(c) の点は 1 個しかありません。個数が 11 から 33 に変わるのは臨界値 c=±2c=\pm2 をまたぐときだけで、ここに臨界値の役割が現れています。

演習 9.2標準

F ⁣:M→NF\colon M\to N を単射なはめ込みとする。FF が固有(コンパクト集合の逆像がコンパクト)ならば、FF は埋め込みであることを示せ。

解答

FF が閉写像であることを示せば、単射な連続閉写像は F(M)F(M) への同相写像なので十分です。C⊂MC\subset M を閉集合、y∈F(C)‾y\in\overline{F(C)} とします。yy の(コンパクトな)閉近傍 KK を取ると、F−1(K)F^{-1}(K) はコンパクトです。点列 yn=F(xn)→yy_n=F(x_n)\to y で xn∈Cx_n\in C、yn∈Ky_n\in K を取ると、xn∈F−1(K)∩Cx_n\in F^{-1}(K)\cap C です。多様体のコンパクト部分集合は第一可算なので点列コンパクトで、部分列 xnj→x∈Cx_{n_j}\to x\in C(CC は閉)が取れます。FF の連続性から F(x)=lim⁡ynj=yF(x)=\lim y_{n_j}=y なので y∈F(C)y\in F(C) です。ゆえに F(C)F(C) は閉です。

演習 9.3標準

MM を空でないコンパクトな mm 次元滑らかな多様体、m≥1m\ge1 とする。任意の滑らかな写像 F ⁣:M→RmF\colon M\to\mathbb{R}^m は臨界点を持つことを示せ。

解答

臨界点が無いとすると、すべての pp で dFp ⁣:TpM→TF(p)RmdF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}\mathbb{R}^m は(次元が等しいので全射と同型は同値)同型です。系 2.2 により FF は各点の近傍を開集合に写すので、開写像です。よって F(M)F(M) は Rm\mathbb{R}^m の開集合です。一方 MM がコンパクトなので F(M)F(M) はコンパクトで、とくに閉集合です。Rm\mathbb{R}^m は連結で F(M)≠∅F(M)\ne\varnothing なので F(M)=RmF(M)=\mathbb{R}^m となりますが、これは F(M)F(M) が有界であることに反します。

演習 9.4難

γ ⁣:R→T2=R2/Z2\gamma\colon\mathbb{R}\to T^2=\mathbb{R}^2/\mathbb{Z}^2、γ(t)=[(t,2 t)]\gamma(t)=[(t,\sqrt2\,t)] は単射なはめ込みだが埋め込みではないことを示せ。

解答

はめ込み:チャート表示は恒等写像の R→R2\mathbb{R}\to\mathbb{R}^2 で、微分 (1,2)≠0(1,\sqrt2)\ne0 です。単射:γ(t)=γ(s)\gamma(t)=\gamma(s) なら t−s∈Zt-s\in\mathbb{Z} かつ 2(t−s)∈Z\sqrt2(t-s)\in\mathbb{Z} で、t−s=a∈Zt-s=a\in\mathbb{Z} とすると 2a∈Z\sqrt2a\in\mathbb{Z} なので、2\sqrt2 が無理数であることから a=0a=0 です。

埋め込みでないこと:γ\gamma が埋め込みなら 定理 5.3 (1) より像 S=γ(R)S=\gamma(\mathbb{R}) は 1 次元埋め込み部分多様体です。スライスチャート (U,φ)(U,\varphi) で S∩U=φ−1(φ(U)∩(R×{0}))S\cap U=\varphi^{-1}(\varphi(U)\cap(\mathbb{R}\times\{0\})) は UU の中で閉です。ところが SS は T2T^2 で稠密です(下記)ので、S∩US\cap U は UU で稠密、したがって UU に等しく、UU が 2 次元であることに矛盾します。

稠密性:まず {k2 mod 1}k∈Z\{k\sqrt2\bmod1\}_{k\in\mathbb{Z}} が R/Z\mathbb{R}/\mathbb{Z} で稠密であることを示します。NN を自然数とし、N+1N+1 個の数 0,2,…,N20,\sqrt2,\dots,N\sqrt2 の小数部分を [0,1)[0,1) に置くと、鳩の巣原理により二つは距離 1/N1/N 未満にあります。その差を取ると、整数 0<q≤N0<q\le N で δ=dist⁡(q2,Z)<1/N\delta=\operatorname{dist}(q\sqrt2,\mathbb{Z})<1/N となるものがあり、2\sqrt2 が無理数なので δ>0\delta>0 です。q2 mod 1q\sqrt2\bmod1 は 00 から符号つきで ±δ\pm\delta だけずれた点なので、jj を動かすと jq2 mod 1jq\sqrt2\bmod1 は一方向に刻み幅 δ\delta で円周を一周します。したがってどの長さ 1/N1/N 以上の弧にも点が入ります。NN は任意なので稠密です。

次に任意の a∈Ra\in\mathbb{R} と k∈Zk\in\mathbb{Z} で γ(a+k)=[(a, 2a+k2)]\gamma(a+k)=[(a,\ \sqrt2a+k\sqrt2)] なので、γ(R)\gamma(\mathbb{R}) は各縦円周 {[a]}×S1\{[a]\}\times S^1 と稠密な部分集合で交わります。よって γ(R)\gamma(\mathbb{R}) は T2T^2 で稠密です。

  • John M. Lee『Introduction to Smooth Manifolds』(第 2 版)Springer、2013 — 第 4 章(沈め込み・はめ込み・埋め込み)、第 5 章(部分多様体)、第 6 章(Sard の定理・Whitney の埋め込み)、第 2 章(1 の分割)。
  • John W. Milnor『Topology from the Differentiable Viewpoint』University Press of Virginia、1965 — 第 2 章(Sard の定理の証明)。
  • Victor Guillemin, Alan Pollack『Differential Topology』Prentice-Hall、1974 — 第 1 章(正則値定理、Whitney の埋め込み)。
  • 松本幸夫『多様体の基礎』東京大学出版会、1988 — 逆関数定理・正則値定理・1 の分割に関する章。
  • 坪井俊『幾何学 I 多様体入門』東京大学出版会、2005 — 部分多様体・正則値の章。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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