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逆関数定理・陰関数定理と条件付き極値:縮小写像で「方程式を解く」

対象読者: 本テーマ第 1〜7 章の多変数の微分(ヤコビ行列・全微分)、平均値の定理、重積分を学び、線形代数の正則行列を知っている人。縮小写像の原理は未習でもかまいません。

前提となる記事:多変数関数の微分と偏微分:微分とは「一次近似」のことである、平均値の定理とテイラーの定理:微分から関数の姿を復元する

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連立方程式を「解けるか、解けるなら一通りか」と問われたとき、式が一次式なら行列を調べれば答えが出ます。式が曲がっていても、一点のすぐ近くだけなら、その点での一次近似(接線や接平面の考え方)で同じことが言えるのではないか、というのがこの記事の話です。読み終えると、方程式を実際に解かなくても、どの点の近くで「ある変数を別の変数の関数として表せるか」を微分で判定でき、制約付きの最大・最小を求める乗数法の理由も分かります。

  • 逆関数定理: C1C^1 級写像 F:Rn⊃U→RnF:\mathbb{R}^n \supset U \to \mathbb{R}^n の点 aa でのヤコビ行列 DF(a)DF(a) が正則なら、FF は aa の近くで C1C^1 級の逆写像を持ちます。「一次近似が可逆なら、元の写像も局所的に可逆」という主張です。
  • 証明は縮小写像の原理で行います。方程式 F(x)=yF(x)=y を「x=Φy(x)x=\Phi_y(x) という不動点問題」に書き換えると、yy が F(a)F(a) に近い限り Φy\Phi_y が縮小写像になり、解が存在して一意に決まります。
  • 陰関数定理は逆関数定理の言い換えです。F(x,y)=0F(x,y)=0 で ∂F/∂y\partial F/\partial y が可逆なら、その点の近くで yy を xx の C1C^1 級関数として解け、Dg=−(Fy)−1FxDg=-(F_y)^{-1}F_x が成り立ちます。
  • ラグランジュの乗数法は陰関数定理の応用です。制約 g=0g=0 の下での極値点では ∇f=∑λi∇gi\nabla f=\sum \lambda_i \nabla g_i が成り立ちます。ただし ∇gi\nabla g_i が一次独立という仮定を落とすと反例があります。
  • 導関数が連続でない例 x+2x2sin⁡(1/x)x+2x^2\sin(1/x) は、f′(0)=1≠0f'(0)=1\neq 0 なのに 00 の近傍で単射になりません。C1C^1 級という仮定は本質的です。

1. 動機:「方程式は解けるか」を微分で判定する

Section titled “1. 動機:「方程式は解けるか」を微分で判定する”

連立方程式 F(x)=yF(x)=y を考えます。FF が線形、F(x)=AxF(x)=Ax なら、答えは行列式で決まります。det⁡A≠0\det A\ne 0 なら任意の yy に対して x=A−1yx=A^{-1}y と一意に解け、det⁡A=0\det A=0 なら解けない yy や解が一意でない yy が出ます。

非線形の FF ではどうでしょう。円 x2+y2=1x^2+y^2=1 を「yy について解く」ことを考えます。点 (0,1)(0,1) の近くでは y=1−x2y=\sqrt{1-x^2} と解けますが、円全体を 1 つの関数 y=g(x)y=g(x) で表すことはできません。また点 (1,0)(1,0) の近くでは、xx を決めても y=±1−x2y=\pm\sqrt{1-x^2} の 2 つの値があり、そもそも yy を xx の関数として書けません。解ける場所と解けない場所を、方程式を実際に解かずに見分けたい、というのがこの記事の出発点です。

答えは 1 次近似にあります。円の式 F(x,y)=x2+y2−1F(x,y)=x^2+y^2-1 では ∂F/∂y=2y\partial F/\partial y=2y で、これが 00 でない点(y≠0y\ne0)では局所的に yy について解け、00 になる点((±1,0)(\pm1,0))では解けません。1 次近似(線形写像)が可逆なら、元の非線形方程式も局所的には同様に解ける。これが逆関数定理・陰関数定理の中身です。

用途は広く、曲面や多様体を方程式 g=0g=0 で定義したときに、それが局所的に「なめらかな図形」であること(多様体入門 の出発点)や、制約付き最適化のラグランジュの乗数法の根拠になります。この記事では、これら 3 つの定理を、縮小写像の原理という 1 つの道具から順に証明します。

2. 準備:ノルム、ヤコビ行列、平均値不等式

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Rn\mathbb{R}^n の元を列ベクトルとし、∥x∥=x12+⋯+xn2\|x\|=\sqrt{x_1^2+\cdots+x_n^2} をユークリッドノルムとします。m×nm\times n 行列 A=(aij)A=(a_{ij}) に対して

∥A∥=(∑i,jaij2)1/2\|A\| = \Bigl(\sum_{i,j} a_{ij}^2\Bigr)^{1/2}

とおきます(フロベニウスノルム)。コーシー・シュワルツの不等式(定理 4.2[内積空間とグラム・シュミット直交化])を各行に適用すると (Ax)i(Ax)_i の絶対値が第 ii 行のノルムと ∥x∥\|x\| の積以下になることが分かります。これを 2 乗して ii について足せば

∥Ax∥≤∥A∥ ∥x∥,∥AB∥≤∥A∥ ∥B∥\|Ax\|\le \|A\|\,\|x\|, \qquad \|AB\|\le \|A\|\,\|B\|

が得られます(2 つ目は ABAB の各列に 1 つ目を使う)。以後、行列のノルムとはこれを指します。

定義 2.1(ヤコビ行列と C1C^1 級写像)↗

U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n を開集合、F=(F1,…,Fm):U→RmF=(F_1,\dots,F_m):U\to\mathbb{R}^m とします。ある m×nm\times n 行列 AA が存在して

lim⁡h→0∥F(a+h)−F(a)−Ah∥∥h∥=0\lim_{h\to 0}\frac{\|F(a+h)-F(a)-Ah\|}{\|h\|}=0

が成り立つとき、FF は aa で微分可能といい、AA を DF(a)DF(a) と書きます。このとき DF(a)DF(a) の (i,j)(i,j) 成分は偏微分係数 ∂Fi/∂xj(a)\partial F_i/\partial x_j(a) です。すべての偏導関数が UU 上で存在して連続なとき、FF は C1C^1 級であるといいます。

2 変数の場合の議論(定義 9.1[多変数関数の微分と偏微分] と 定理 9.3[多変数関数の微分と偏微分])は、変数の個数にも成分の個数にも依らずそのまま通ります。以下では、次の 3 つを nn 変数・ベクトル値の場合にも成り立つ事実として使います。

  1. C1C^1 級ならば各点で微分可能で、x↦DF(x)x\mapsto DF(x) は(行列成分の連続関数として)連続である。
  2. 連鎖律(定理 9.4[多変数関数の微分と偏微分]): FF が aa で、GG が F(a)F(a) で微分可能なら D(G∘F)(a)=DG(F(a)) DF(a)D(G\circ F)(a)=DG(F(a))\,DF(a)。
  3. 微分可能な FF について、偏微分係数の行列 DF(a)DF(a) は一意に定まる。

次の補題は、1 変数の平均値の定理 定理 3.3[平均値の定理とテイラーの定理] をベクトル値に拡張したものです。ベクトル値関数では「F(y)−F(x)=DF(c)(y−x)F(y)-F(x)=DF(c)(y-x) となる cc」は一般に存在しませんが、不等式の形なら成り立ちます。

補題 2.2(ベクトル値関数の平均値不等式)✓

U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n を開集合、F:U→RmF:U\to\mathbb{R}^m を C1C^1 級とし、x,y∈Ux,y\in U を結ぶ線分 {x+t(y−x):0≤t≤1}\{x+t(y-x):0\le t\le1\} が UU に含まれるとします。この線分上のすべての点 zz で ∥DF(z)∥≤M\|DF(z)\|\le M ならば

∥F(y)−F(x)∥≤M∥y−x∥\|F(y)-F(x)\|\le M\|y-x\|

です。

証明(補題 2.2)

d=y−xd=y-x、v=F(y)−F(x)v=F(y)-F(x) とおき、v≠0v\neq0 としてよい(v=0v=0 なら自明)。スカラー関数 φ(t)=⟨v,F(x+td)⟩\varphi(t)=\langle v, F(x+td)\rangle(0≤t≤10\le t\le1)を考えます。連鎖律より φ\varphi は微分可能で φ′(t)=⟨v,DF(x+td) d⟩\varphi'(t)=\langle v, DF(x+td)\,d\rangle、そして φ′\varphi' は連続です。平均値の定理(定理 3.3[平均値の定理とテイラーの定理])から、ある θ∈(0,1)\theta\in(0,1) で

∥v∥2=⟨v,F(y)−F(x)⟩=φ(1)−φ(0)=φ′(θ)=⟨v,DF(x+θd) d⟩\|v\|^2=\langle v,F(y)-F(x)\rangle=\varphi(1)-\varphi(0)=\varphi'(\theta)=\langle v,DF(x+\theta d)\,d\rangle

です。コーシー・シュワルツの不等式と上のノルム不等式から右辺は ∥v∥ ∥DF(x+θd)∥ ∥d∥≤∥v∥ M ∥d∥\|v\|\,\|DF(x+\theta d)\|\,\|d\|\le \|v\|\,M\,\|d\| 以下です。∥v∥>0\|v\|>0 で割れば ∥v∥≤M∥d∥\|v\|\le M\|d\| を得ます。

方程式を解く道具として、次の原理を使います。1 次近似で解いた近似解を「補正して」何度も当てはめれば、真の解に収束する、という発想を定理にしたものです。

定義 3.1(縮小写像)↗

X⊂RnX\subset\mathbb{R}^n とします。写像 T:X→XT:X\to X が、ある定数 q∈[0,1)q\in[0,1) について

∥T(x)−T(x′)∥≤q ∥x−x′∥(x,x′∈X)\|T(x)-T(x')\|\le q\,\|x-x'\| \qquad (x,x'\in X)

を満たすとき、TT を縮小写像(縮小率 qq)といいます。

定理 3.2(縮小写像の原理(バナッハの不動点定理))✓

X⊂RnX\subset\mathbb{R}^n を空でない閉集合、T:X→XT:X\to X を縮小率 q<1q<1 の縮小写像とします。このとき T(x∗)=x∗T(x^*)=x^* となる点 x∗∈Xx^*\in X がただ 1 つ存在します。さらに任意の x0∈Xx_0\in X から xk+1=T(xk)x_{k+1}=T(x_k) で定めた列は x∗x^* に収束し、∥xk−x∗∥≤qk1−q∥x1−x0∥\|x_k-x^*\|\le \dfrac{q^k}{1-q}\|x_1-x_0\| が成り立ちます。

証明(定理 3.2)

列がコーシー列になること。 ∥xk+1−xk∥=∥T(xk)−T(xk−1)∥≤q∥xk−xk−1∥\|x_{k+1}-x_k\|=\|T(x_k)-T(x_{k-1})\|\le q\|x_k-x_{k-1}\| を繰り返すと ∥xk+1−xk∥≤qk∥x1−x0∥\|x_{k+1}-x_k\|\le q^k\|x_1-x_0\| です。l>kl>k に対して三角不等式と等比級数の和から

∥xl−xk∥≤∑j=kl−1qj∥x1−x0∥≤qk1−q∥x1−x0∥→k→∞0\|x_l-x_k\|\le\sum_{j=k}^{l-1}q^j\|x_1-x_0\|\le \frac{q^k}{1-q}\|x_1-x_0\|\xrightarrow[k\to\infty]{}0

となります。したがって (xk)(x_k) はコーシー列で、各成分は実数のコーシー列です。実数の完備性(定理 7.3[実数の完備性とコーシー列])により各成分が収束し、xk→x∗∈Rnx_k\to x^*\in\mathbb{R}^n です。XX は閉集合なので x∗∈Xx^*\in X です。

不動点であること。 TT は ∥T(x)−T(x′)∥≤q∥x−x′∥\|T(x)-T(x')\|\le q\|x-x'\| より連続です。xk+1=T(xk)x_{k+1}=T(x_k) の両辺で k→∞k\to\infty とすれば x∗=T(x∗)x^*=T(x^*) です。上の不等式で l→∞l\to\infty とすれば誤差評価も得られます。

一意性。 x∗,x∗∗x^*,x^{**} がともに不動点なら ∥x∗−x∗∗∥=∥T(x∗)−T(x∗∗)∥≤q∥x∗−x∗∗∥\|x^*-x^{**}\|=\|T(x^*)-T(x^{**})\|\le q\|x^*-x^{**}\| で、q<1q<1 より ∥x∗−x∗∗∥=0\|x^*-x^{**}\|=0 です。

注意すべきは、q<1q<1 と「TT が XX を XX に写す」の 2 つが両方必要なことです。T(x)=x/2T(x)=x/2 は X=(0,1]X=(0,1] 上の縮小写像ですが不動点がなく、XX が閉でないために定理が使えません。逆関数定理の証明では、この 2 つの確認が議論の大半を占めます。

定理 4.1(逆関数定理)✓

U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n を開集合、F:U→RnF:U\to\mathbb{R}^n を C1C^1 級写像とし、a∈Ua\in U で DF(a)DF(a) が正則(det⁡DF(a)≠0\det DF(a)\ne0)であるとします。このとき aa の開近傍 V⊂UV\subset U と b=F(a)b=F(a) の開近傍 WW が存在して、F∣V:V→WF|_V:V\to W は全単射であり、その逆写像 G:W→VG:W\to V も C1C^1 級です。さらに

DG(y)=(DF(G(y)))−1(y∈W)DG(y)=\bigl(DF(G(y))\bigr)^{-1}\qquad (y\in W)

が成り立ちます。

方程式 F(x)=yF(x)=y を x=x−A−1(F(x)−y)x=x-A^{-1}(F(x)-y) と書き換えるのが証明の鍵です。A=DF(a)A=DF(a) とおくと、右辺の xx の写像 Φy\Phi_y は F=yF=y の解のところで不動点を持ち、その微分は I−A−1DF(x)I-A^{-1}DF(x) です。x=ax=a で 00 ですから、aa の近くで小さく、縮小写像になります。

証明は 7 つのステップに分かれますが、役割は 3 つです。ステップ 1〜4 は「aa の近くで、yy ごとに解 xx がただ 1 つ見つかる」ことを示します。ステップ 1 は、微分が AA に近い範囲(閉球の半径 rr)を決める作業です。DFDF が連続なので、aa の近くでは DF(x)DF(x) が AA にいくらでも近く、条件を満たす rr がとれます。ステップ 3 の ss は、Φy(a)\Phi_y(a) が aa から r/2r/2 より動かないように yy の範囲を決めたもので、縮小の分の r/2r/2 と合わせて、ちょうど rr 以内に収まります。ステップ 5 は、yy が少し動いても解 xx が大きくは動かないこと、ステップ 6・7 は、その逆写像が微分可能で、導関数が連続であることを示します。

証明(定理 4.1)

A=DF(a)A=DF(a)、b=F(a)b=F(a) とおきます。

ステップ 1: rr の選択。 x↦DF(x)x\mapsto DF(x) は連続で det⁡\det は成分の多項式ですから、十分小さな r>0r>0 をとって閉球 Bˉ={x:∥x−a∥≤r}⊂U\bar B=\{x:\|x-a\|\le r\}\subset U とし、次の 2 条件を満たすようにできます。

  • すべての x∈Bˉx\in\bar B で ∥A−1∥ ∥DF(x)−A∥≤12\|A^{-1}\|\,\|DF(x)-A\|\le\tfrac12。
  • すべての x∈Bˉx\in\bar B で det⁡DF(x)≠0\det DF(x)\ne0。

ステップ 2: 縮小写像の構成。 y∈Rny\in\mathbb{R}^n に対し Φy(x)=x−A−1(F(x)−y)\Phi_y(x)=x-A^{-1}(F(x)-y) とおきます。Φy(x)=x\Phi_y(x)=x は F(x)=yF(x)=y と同値です。微分は DΦy(x)=I−A−1DF(x)=A−1(A−DF(x))D\Phi_y(x)=I-A^{-1}DF(x)=A^{-1}(A-DF(x)) なので、上のノルム不等式から ∥DΦy(x)∥≤12\|D\Phi_y(x)\|\le\frac12(x∈Bˉx\in\bar B)です。Bˉ\bar B は凸ですから、補題 2.2 より

∥Φy(x)−Φy(x′)∥≤12∥x−x′∥(x,x′∈Bˉ)\|\Phi_y(x)-\Phi_y(x')\|\le\tfrac12\|x-x'\|\qquad(x,x'\in\bar B)

です。

ステップ 3: Φy\Phi_y が Bˉ\bar B を Bˉ\bar B に写す。 s=r/(2∥A−1∥)s=r/(2\|A^{-1}\|) とし、∥y−b∥<s\|y-b\|<s とします。Φy(a)=a−A−1(b−y)\Phi_y(a)=a-A^{-1}(b-y) ですから ∥Φy(a)−a∥≤∥A−1∥∥y−b∥<r/2\|\Phi_y(a)-a\|\le\|A^{-1}\|\|y-b\|<r/2 です。x∈Bˉx\in\bar B に対し

∥Φy(x)−a∥≤∥Φy(x)−Φy(a)∥+∥Φy(a)−a∥<12r+12r=r\|\Phi_y(x)-a\|\le\|\Phi_y(x)-\Phi_y(a)\|+\|\Phi_y(a)-a\|<\tfrac12 r+\tfrac12 r=r

となります。ゆえに Φy(x)\Phi_y(x) は開球 B(a,r)B(a,r) に入り、とくに Bˉ\bar B に入ります。

ステップ 4: 存在と一意性。 Bˉ\bar B は空でない閉集合ですから、縮小写像の原理(定理 3.2)により、∥y−b∥<s\|y-b\|<s を満たす各 yy に対して F(x)=yF(x)=y の解 x∈Bˉx\in\bar B がただ 1 つ存在し、しかもステップ 3 から x∈B(a,r)x\in B(a,r) です。そこで W=B(b,s)W=B(b,s)、V=B(a,r)∩F−1(W)V=B(a,r)\cap F^{-1}(W) とおきます。FF は連続ですから VV は開集合です。各 y∈Wy\in W に対し Bˉ\bar B 内の解 xx は B(a,r)B(a,r) にあり F(x)=y∈WF(x)=y\in W ですから x∈Vx\in V です。よって F∣V:V→WF|_V:V\to W は全単射で、逆写像 G:W→VG:W\to V が定まります。

ステップ 5: GG はリプシッツ連続。 x1,x2∈Vx_1,x_2\in V に対し yi=F(xi)y_i=F(x_i) とおくと xi=Φyi(xi)x_i=\Phi_{y_i}(x_i) ですが、同じ yy で比べるため Φ0\Phi_0 を使います(Φ0(x)=x−A−1F(x)\Phi_0(x)=x-A^{-1}F(x) で、ステップ 2 の評価は yy に依らない)。x1−x2=Φ0(x1)−Φ0(x2)+A−1(F(x1)−F(x2))x_1-x_2=\Phi_0(x_1)-\Phi_0(x_2)+A^{-1}(F(x_1)-F(x_2)) なので

∥x1−x2∥≤12∥x1−x2∥+∥A−1∥ ∥F(x1)−F(x2)∥,\|x_1-x_2\|\le\tfrac12\|x_1-x_2\|+\|A^{-1}\|\,\|F(x_1)-F(x_2)\|,

すなわち ∥x1−x2∥≤2∥A−1∥ ∥F(x1)−F(x2)∥\|x_1-x_2\|\le2\|A^{-1}\|\,\|F(x_1)-F(x_2)\| です。したがって ∥G(y1)−G(y2)∥≤2∥A−1∥ ∥y1−y2∥\|G(y_1)-G(y_2)\|\le 2\|A^{-1}\|\,\|y_1-y_2\| で、とくに GG は連続です。

ステップ 6: GG は微分可能。 y0∈Wy_0\in W、x0=G(y0)∈Vx_0=G(y_0)\in V とし、B0=DF(x0)B_0=DF(x_0) とおきます(ステップ 1 より正則)。FF の微分可能性から F(x)=F(x0)+B0(x−x0)+ε(x)F(x)=F(x_0)+B_0(x-x_0)+\varepsilon(x)、∥ε(x)∥/∥x−x0∥→0\|\varepsilon(x)\|/\|x-x_0\|\to0(x→x0x\to x_0)です。y∈Wy\in W、x=G(y)x=G(y) に対し

G(y)−G(y0)−B0−1(y−y0)=(x−x0)−B0−1(F(x)−F(x0))=−B0−1ε(x)G(y)-G(y_0)-B_0^{-1}(y-y_0)=(x-x_0)-B_0^{-1}\bigl(F(x)-F(x_0)\bigr)=-B_0^{-1}\varepsilon(x)

です。ステップ 5 より ∥x−x0∥≤2∥A−1∥∥y−y0∥\|x-x_0\|\le2\|A^{-1}\|\|y-y_0\|、また y→y0y\to y_0 のとき x→x0x\to x_0(GG の連続性)ですから

∥G(y)−G(y0)−B0−1(y−y0)∥∥y−y0∥≤∥B0−1∥⋅2∥A−1∥⋅∥ε(x)∥∥x−x0∥→0\frac{\|G(y)-G(y_0)-B_0^{-1}(y-y_0)\|}{\|y-y_0\|}\le\|B_0^{-1}\|\cdot2\|A^{-1}\|\cdot\frac{\|\varepsilon(x)\|}{\|x-x_0\|}\to0

となります(y≠y0y\ne y_0 なら x≠x0x\ne x_0)。したがって GG は y0y_0 で微分可能で DG(y0)=B0−1=DF(G(y0))−1DG(y_0)=B_0^{-1}=DF(G(y_0))^{-1} です。

ステップ 7: C1C^1 級。 行列の逆行列は余因子行列と行列式で書けます(命題 5.4[行列式とその性質])。すなわち B−1=(det⁡B)−1adj BB^{-1}=(\det B)^{-1}\mathrm{adj}\,B で、成分は BB の成分の多項式を det⁡B≠0\det B\ne0 で割った形ですから、正則行列の集合上で連続です。DG=(DF∘G)−1DG=(DF\circ G)^{-1} は連続関数 GG、DFDF と逆行列の合成ですから連続です。よって GG は C1C^1 級です。

例 4.2(極座標写像)

F(r,θ)=(rcos⁡θ, rsin⁡θ)F(r,\theta)=(r\cos\theta,\ r\sin\theta) は R2\mathbb{R}^2 上の C∞C^\infty 級写像で

DF(r,θ)=(cos⁡θ−rsin⁡θsin⁡θrcos⁡θ),det⁡DF=rDF(r,\theta)=\begin{pmatrix}\cos\theta&-r\sin\theta\\ \sin\theta&r\cos\theta\end{pmatrix},\qquad \det DF=r

です。r≠0r\ne0 の各点で 定理 4.1 が使え、FF は局所的に C1C^1 級の逆写像を持ちます。しかし FF は大域的には単射でなく(θ\theta に 2π2\pi を足しても同じ点)、r=0r=0 では det⁡DF=0\det DF=0 で局所的にも単射ではありません({0}×R\{0\}\times\mathbb{R} 全体が原点に潰れる)。逆関数定理は局所的な主張であり、大域的な可逆性を保証しないことを、この例が示しています。なお、重積分の変数変換公式(定理 6.7[重積分と累次積分])が仮定する「全単射で det⁡JΦ≠0\det J_\Phi\neq0」を極座標が満たすのは、r>0r>0、0<θ<2π0<\theta<2\pi のように定義域を制限したときです。

注意 4.3(C1C^1 級という仮定を外すと何が壊れるか)

f(x)=x+2x2sin⁡(1/x)f(x)=x+2x^2\sin(1/x)(x≠0x\ne0)、f(0)=0f(0)=0 とします。ff は R\mathbb{R} 上で微分可能で、f′(0)=lim⁡h→0(1+2hsin⁡(1/h))=1f'(0)=\lim_{h\to0}(1+2h\sin(1/h))=1 です。しかし x≠0x\ne0 では

f′(x)=1+4xsin⁡1x−2cos⁡1xf'(x)=1+4x\sin\frac1x-2\cos\frac1x

で、xk=1/(2πk)x_k=1/(2\pi k) では sin⁡(1/xk)=0\sin(1/x_k)=0、cos⁡(1/xk)=1\cos(1/x_k)=1 より f′(xk)=−1<0f'(x_k)=-1<0 です。f′f' は x≠0x\ne0 で連続ですから xkx_k の近くで ff は狭義減少です。xk→0x_k\to0 なので、00 のどんな近傍でも ff は単調でなく、単射でもありません。f′(0)≠0f'(0)\ne0 で 1 次近似は可逆なのに、局所逆写像が存在しない例です。ステップ 1 で DF(x)DF(x) が aa の近くで AA に近いことを使ったように、証明は DFDF の連続性に依存しています。

定理 5.1(陰関数定理)✓

Ω⊂Rn×Rm\Omega\subset\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m を開集合とし、点を (x,y)(x,y)(x∈Rn, y∈Rmx\in\mathbb{R}^n,\ y\in\mathbb{R}^m)と書きます。F:Ω→RmF:\Omega\to\mathbb{R}^m を C1C^1 級、(a,b)∈Ω(a,b)\in\Omega で F(a,b)=0F(a,b)=0 とし、yy に関する偏微分のなす m×mm\times m 行列 DyF(a,b)=(∂Fi/∂yj(a,b))D_yF(a,b)=\bigl(\partial F_i/\partial y_j(a,b)\bigr) が正則であるとします。このとき aa の開近傍 XX、bb の開近傍 YY と C1C^1 級写像 g:X→Yg:X\to Y が存在して、X×Y⊂ΩX\times Y\subset\Omega であり

{(x,y)∈X×Y:F(x,y)=0}={(x,g(x)):x∈X}\{(x,y)\in X\times Y:F(x,y)=0\}=\{(x,g(x)):x\in X\}

が成り立ちます。さらに g(a)=bg(a)=b であり、DxFD_xF を xx に関する偏微分のなす m×nm\times n 行列として

Dg(x)=−(DyF(x,g(x)))−1DxF(x,g(x))Dg(x)=-\bigl(D_yF(x,g(x))\bigr)^{-1}D_xF(x,g(x))

です。

証明の方針は、xx をそのまま残して FF の値だけを新しい座標にする写像 Ψ(x,y)=(x,F(x,y))\Psi(x,y)=(x,F(x,y)) を作ることです。Ψ\Psi は入力と出力の次元が等しいので逆関数定理が使え、その逆写像を使って「F=0F=0 となる yy」を xx の関数として読み取れます。

証明(定理 5.1)

Ψ:Ω→Rn×Rm\Psi:\Omega\to\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m を Ψ(x,y)=(x,F(x,y))\Psi(x,y)=(x,F(x,y)) と定めます。Ψ\Psi は C1C^1 級で、ヤコビ行列はブロック行列

DΨ(x,y)=(In0DxFDyF)D\Psi(x,y)=\begin{pmatrix}I_n&0\\ D_xF&D_yF\end{pmatrix}

です。ブロック三角行列の行列式は対角ブロックの行列式の積ですから det⁡DΨ=det⁡DyF\det D\Psi=\det D_yF で、(a,b)(a,b) で ≠0\ne0 です。逆関数定理(定理 4.1)により、(a,b)(a,b) の開近傍 V⊂ΩV\subset\Omega と Ψ(a,b)=(a,0)\Psi(a,b)=(a,0) の開近傍 WW が存在して、Ψ:V→W\Psi:V\to W は全単射で、逆写像 Ψ−1\Psi^{-1} は C1C^1 級です。

Ψ\Psi は第 1 成分を変えないので、Ψ−1(x,z)=(x,H(x,z))\Psi^{-1}(x,z)=(x,H(x,z)) の形で、HH は C1C^1 級です。WW は (a,0)(a,0) の近傍ですから、aa の開近傍 XX と 00 の開近傍 ZZ で X×Z⊂WX\times Z\subset W となるものがあります。g(x)=H(x,0)g(x)=H(x,0)(x∈Xx\in X)とおくと、Ψ(x,g(x))=(x,0)\Psi(x,g(x))=(x,0) すなわち F(x,g(x))=0F(x,g(x))=0 で、gg は C1C^1 級、g(a)=bg(a)=b です。

一意性を示します。VV の点 (x,y)(x,y) で x∈Xx\in X、F(x,y)=0F(x,y)=0 なら Ψ(x,y)=(x,0)=Ψ(x,g(x))\Psi(x,y)=(x,0)=\Psi(x,g(x)) ですから、Ψ\Psi の単射性から y=g(x)y=g(x) です。そこで YY を bb の開近傍で、XX を必要なら縮めて X×Y⊂VX\times Y\subset V かつ g(X)⊂Yg(X)\subset Y となるように選べば(gg の連続性と VV の開性より可能)、主張の集合の等式が成り立ちます。

最後に導関数です。恒等式 F(x,g(x))=0F(x,g(x))=0 の両辺を連鎖律(定理 9.4[多変数関数の微分と偏微分])で微分して DxF+DyF Dg=0D_xF+D_yF\,Dg=0 を得ます。DyF(x,g(x))D_yF(x,g(x)) が正則であることは、XX を縮めて det⁡DyF≠0\det D_yF\neq0 となるようにとってあれば成り立つので、両辺に逆行列を掛けて公式を得ます。

定理の内容を円で図にすると次のようになります。点 (a,b)(a,b) のまわりを長方形 X×YX\times Y で切り取ると、その中では曲線 F=0F=0 が xx の関数 y=g(x)y=g(x) のグラフだけになります。

(a, b)XYy = g(x)
円 x²+y²=1 の上の点 (a,b)=(0,1) のまわりを長方形 X×Y で切り取る。長方形の中では曲線が y=g(x) のグラフ(1 本の曲線)になる

例 5.2(円と陰関数定理)

F(x,y)=x2+y2−1F(x,y)=x^2+y^2-1 では DxF=2xD_xF=2x、DyF=2yD_yF=2y です。(a,b)=(0,1)(a,b)=(0,1) では DyF=2≠0D_yF=2\ne0 なので、定理 5.1 により y=g(x)y=g(x) と解けます。実際 g(x)=1−x2g(x)=\sqrt{1-x^2} で、公式は g′(x)=−2x/(2g(x))=−x/1−x2g'(x)=-2x/(2g(x))=-x/\sqrt{1-x^2} を与え、直接の微分と一致します。(a,b)=(1,0)(a,b)=(1,0) では DyF=0D_yF=0 で定理は使えず、実際 x=1x=1 の近くで yy は一意に決まりません。ただし DxF=2≠0D_xF=2\neq 0 ですから、役割を入れ替えて x=1−y2x=\sqrt{1-y^2} と**xx を yy の関数として**解くことはできます。条件は「どの変数について解くか」ごとに判定します。

例 5.3(デカルトの葉線)

F(x,y)=x3+y3−3xyF(x,y)=x^3+y^3-3xy とすると DxF=3x2−3yD_xF=3x^2-3y、DyF=3y2−3xD_yF=3y^2-3x です。点 (3/2,3/2)(3/2,3/2) は F=0F=0 を満たし(27/8⋅2−27/4=027/8\cdot 2-27/4=0)、DyF=9/4≠0D_yF=9/4\ne0 ですから、その近くで y=g(x)y=g(x) と解けます。g′(3/2)=−DxF/DyF=−(9/4)/(9/4)=−1g'(3/2)=-D_xF/D_yF=-(9/4)/(9/4)=-1 です。原点では DxF=DyF=0D_xF=D_yF=0 で、どちらの変数についても解けません。実際、葉線は原点で自分自身と交わる点(結節点)を持ちます。

6. 条件付き極値とラグランジュの乗数法

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関数 ff の極値を、制約 g(x)=0g(x)=0 を満たす点の中でだけ調べる問題を考えます。たとえば「周の長さが一定の長方形のうち面積が最大のもの」です。制約が陰関数定理で解けるなら、mm 個の変数を消去して、変数が n−mn-m 個の通常の極値問題に帰着できます。ただし解くのが面倒なとき、解を陽に求めずに同じ結論を出せるのがラグランジュの乗数法です。

定義 6.1(条件付き極値)↗

U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n を開集合、f:U→Rf:U\to\mathbb{R}、g=(g1,…,gm):U→Rmg=(g_1,\dots,g_m):U\to\mathbb{R}^m(m<nm<n)とし、M={x∈U:g(x)=0}M=\{x\in U:g(x)=0\} とおく。点 a∈Ma\in M が f∣Mf|_M の極大点であるとは、aa のある近傍 NN が存在して f(x)≤f(a)f(x)\le f(a)(x∈M∩Nx\in M\cap N)が成り立つことをいう。極小点も同様で、あわせて条件付き極値点(制約 g=0g=0 の下での極値点)と呼ぶ。

定理 6.2(ラグランジュの乗数法)✓

U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n を開集合、f:U→Rf:U\to\mathbb{R} と g=(g1,…,gm):U→Rmg=(g_1,\dots,g_m):U\to\mathbb{R}^m(m<nm<n)を C1C^1 級とします。a∈M={g=0}a\in M=\{g=0\} が f∣Mf|_M の条件付き極値点であり、かつ Dg(a)Dg(a) の階数が mm(すなわち ∇g1(a),…,∇gm(a)\nabla g_1(a),\dots,\nabla g_m(a) が一次独立)ならば、実数 λ1,…,λm\lambda_1,\dots,\lambda_m が存在して

∇f(a)=∑i=1mλi∇gi(a)\nabla f(a)=\sum_{i=1}^m\lambda_i\nabla g_i(a)

が成り立ちます。この λi\lambda_i をラグランジュ乗数といいます。

証明(定理 6.2)

座標の入れ替え。 Dg(a)Dg(a) は階数 mm の m×nm\times n 行列ですから、一次独立な mm 個の列があり、それを取り出した m×mm\times m 行列は正則です(定理 7.1[行列式とその性質])。座標の番号を付け替えて、これが最後の mm 個の列であるとしてよい。x=(x′,y)x=(x',y)(x′∈Rn−mx'\in\mathbb{R}^{n-m}、y∈Rmy\in\mathbb{R}^m)、a=(a′,b)a=(a',b) と書くと、Dyg(a)D_yg(a) が正則です。

制約を解く。 陰関数定理(定理 5.1)により、a′a' の開近傍 XX、bb の開近傍 YY と C1C^1 級写像 φ:X→Y\varphi:X\to Y が存在し、X×YX\times Y 内では M={(x′,φ(x′))}M=\{(x',\varphi(x'))\} で、φ(a′)=b\varphi(a')=b、Dφ=−(Dyg)−1Dx′gD\varphi=-(D_yg)^{-1}D_{x'}g です。

自由な n−mn-m 変数の通常の極値問題に帰着。 h(x′)=f(x′,φ(x′))h(x')=f(x',\varphi(x'))(x′∈Xx'\in X)とおきます。(x′,φ(x′))∈M(x',\varphi(x'))\in M ですから、aa が f∣Mf|_M の極値点であることから、a′a' は hh の(通常の)極値点です。hh は C1C^1 級で、各 jj について t↦h(a′+tej)t\mapsto h(a'+te_j) は t=0t=0 で極値をとる微分可能な関数ですから、フェルマーの補題(補題 2.5[平均値の定理とテイラーの定理])により ∂h/∂xj′(a′)=0\partial h/\partial x'_j(a')=0 です。連鎖律で書けば

0=∇x′h(a′)=∇x′f(a)+Dφ(a′)T∇yf(a)=∇x′f(a)−Dx′g(a)T(Dyg(a)T)−1∇yf(a).0=\nabla_{x'}h(a')=\nabla_{x'}f(a)+D\varphi(a')^{\mathsf T}\nabla_yf(a)=\nabla_{x'}f(a)-D_{x'}g(a)^{\mathsf T}\bigl(D_yg(a)^{\mathsf T}\bigr)^{-1}\nabla_yf(a).

乗数の定義。 λ=(Dyg(a)T)−1∇yf(a)∈Rm\lambda=(D_yg(a)^{\mathsf T})^{-1}\nabla_yf(a)\in\mathbb{R}^m とおきます。定義より ∇yf(a)=Dyg(a)Tλ\nabla_yf(a)=D_yg(a)^{\mathsf T}\lambda で、上の式から ∇x′f(a)=Dx′g(a)Tλ\nabla_{x'}f(a)=D_{x'}g(a)^{\mathsf T}\lambda です。2 つをまとめると ∇f(a)=Dg(a)Tλ=∑iλi∇gi(a)\nabla f(a)=Dg(a)^{\mathsf T}\lambda=\sum_i\lambda_i\nabla g_i(a) です。

幾何的な意味を確認します。m=1m=1 なら、∇f(a)\nabla f(a) と ∇g(a)\nabla g(a) が平行、すなわち ff の等位線が制約曲線 g=0g=0 に接する、という条件です。制約曲線に沿って動いて ff が増減するなら、その点は極値ではありません。曲線に沿った増減が 0 になるのは、∇f\nabla f が曲線の接線方向と直交する(=法線方向 ∇g\nabla g と平行になる)ときです。

∇f ∥ ∇gf = √2f = 0f = −√2xy
単位円 x²+y²=1 上で f=x+y を最大化する。等位線 x+y=c が円に接する点で f は極値をとり、そこで ∇f と ∇g が平行になる

例 6.3(円周上の x+yx+y の最大・最小)

f=x+yf=x+y、g=x2+y2−1g=x^2+y^2-1 とします。MM は円周でコンパクトですから、連続関数 ff は MM 上で最大値と最小値をとります(系 6.2[コンパクト性])。それらの点では ∇g=(2x,2y)≠0\nabla g=(2x,2y)\ne0 ですから 定理 6.2 が使え、(1,1)=λ(2x,2y)(1,1)=\lambda(2x,2y)、つまり x=y=1/(2λ)x=y=1/(2\lambda) です。g=0g=0 に代入して x=y=±1/2x=y=\pm1/\sqrt2。値は f=±2f=\pm\sqrt2 で、最大値は 2\sqrt2、最小値は −2-\sqrt2 です。

例 6.4(3 変数の相加相乗平均の不等式)

x,y,z≥0x,y,z\ge0、x+y+z=3x+y+z=3 のもとで f=xyzf=xyz の最大値を求めます。この集合は有界閉集合(三角形)ですから最大値が存在します。境界(xx、yy、zz のどれかが 00)では f=0f=0 ですから、最大点は x,y,z>0x,y,z>0 の内部にあります。内部で制約 g=x+y+z−3g=x+y+z-3 について ∇g=(1,1,1)≠0\nabla g=(1,1,1)\neq0 ですから 定理 6.2 が使え、(yz,xz,xy)=λ(1,1,1)(yz,xz,xy)=\lambda(1,1,1) です。x,y,z>0x,y,z>0 より xyz=λx=λy=λzxyz=\lambda x=\lambda y=\lambda z で、λ≠0\lambda\neq 0 なので x=y=z=1x=y=z=1、最大値は 11 です。よって x+y+z=3x+y+z=3 のとき xyz≤1xyz\le1 で、任意の u,v,w>0u,v,w>0 に対し x=3u/sx=3u/s などと正規化すれば uvw≤((u+v+w)/3)3uvw\le((u+v+w)/3)^3 を得ます。

注意 6.5(階数の仮定が必要な理由)

f(x,y)=xf(x,y)=x、g(x,y)=y2−x3g(x,y)=y^2-x^3 とします。M={y2=x3}M=\{y^2=x^3\} は尖点をもつ曲線で、MM 上では x=y2/3≥0x=y^{2/3}\ge0 ですから、f∣Mf|_M は原点で最小値 00 をとります。しかし ∇g(0,0)=(0,0)\nabla g(0,0)=(0,0) で、∇f=(1,0)\nabla f=(1,0) はそのスカラー倍になりません。階数条件 rank Dg(a)=m\mathrm{rank}\,Dg(a)=m が落ちる点では、定理 5.1 が使えず、制約集合 MM が曲線として解けないため、結論が成り立たなくなります。ラグランジュの乗数法を使うときは、候補点に加えて**∇g=0\nabla g=0 となる点**も別に調べる必要があります。

演習 7.1標準

F(x,y)=(excos⁡y, exsin⁡y)F(x,y)=(e^x\cos y,\ e^x\sin y) について、すべての点で DFDF が正則であることを示し、点 (0,0)(0,0) の近傍での逆写像 G=F−1G=F^{-1} のヤコビ行列 DG(1,0)DG(1,0) を求めよ。また、FF が R2\mathbb{R}^2 全体では単射でないことを示せ。

解答

DF=(excos⁡y−exsin⁡yexsin⁡yexcos⁡y)DF=\begin{pmatrix}e^x\cos y&-e^x\sin y\\ e^x\sin y&e^x\cos y\end{pmatrix}、det⁡DF=e2x≠0\det DF=e^{2x}\ne0 です。F(0,0)=(1,0)F(0,0)=(1,0) で DF(0,0)=IDF(0,0)=I ですから、定理 4.1 により (0,0)(0,0) の近傍で逆写像 GG が存在し、DG(1,0)=DF(0,0)−1=IDG(1,0)=DF(0,0)^{-1}=I です。また F(x,y+2π)=F(x,y)F(x,y+2\pi)=F(x,y) ですから FF は単射ではありません。逆関数定理は局所的な主張だと再確認できます。

演習 7.2標準

方程式 x2+xy+y3=3x^2+xy+y^3=3 は点 (1,1)(1,1) を通る。この点の近くで yy を xx の関数 y=g(x)y=g(x) として解けることを示し、g′(1)g'(1) と g′′(1)g''(1) を求めよ。

解答

F=x2+xy+y3−3F=x^2+xy+y^3-3 とすると F(1,1)=0F(1,1)=0、Fy=x+3y2=4≠0F_y=x+3y^2=4\ne0 ですから 定理 5.1 により解けます。Fx=2x+y=3F_x=2x+y=3 で g′(1)=−3/4g'(1)=-3/4 です。恒等式 x2+xg+g3=3x^2+xg+g^3=3 を xx で 2 回微分すると、1 回目は 2x+g+xg′+3g2g′=02x+g+xg'+3g^2g'=0、2 回目は 2+2g′+xg′′+6g(g′)2+3g2g′′=02+2g'+xg''+6g(g')^2+3g^2g''=0 です。x=1x=1、g=1g=1、g′=−3/4g'=-3/4 を代入して 2−3/2+g′′+6⋅9/16+3g′′=02-3/2+g''+6\cdot9/16+3g''=0、すなわち 4g′′=−(1/2+27/8)=−31/84g''=-(1/2+27/8)=-31/8 より g′′(1)=−31/32g''(1)=-31/32 です。

演習 7.3標準

平面 x+2y+3z=14x+2y+3z=14 上の点のうち、原点に最も近い点とその距離を、ラグランジュの乗数法で求めよ。

解答

f=x2+y2+z2f=x^2+y^2+z^2、g=x+2y+3z−14g=x+2y+3z-14 とおきます。∇g=(1,2,3)≠0\nabla g=(1,2,3)\ne0 で、∇f=λ∇g\nabla f=\lambda\nabla g から (2x,2y,2z)=λ(1,2,3)(2x,2y,2z)=\lambda(1,2,3)、つまり (x,y,z)=λ2(1,2,3)(x,y,z)=\tfrac{\lambda}{2}(1,2,3) です。g=0g=0 に代入して λ2⋅14=14\tfrac\lambda2\cdot14=14 より λ=2\lambda=2、点は (1,2,3)(1,2,3) で、f=14f=14、距離は 14\sqrt{14} です。最小値の存在は、ff が平面上で ∥x∥→∞\|x\|\to\infty のとき ∞\infty に発散するため、十分大きな球と平面の共通部分(コンパクト)で最小をとることから分かります。したがって候補が 1 つだけなので、それが最小点です。

演習 7.4易

次の写像が縮小写像の原理(定理 3.2)の仮定のうちどれを満たさないか述べ、不動点の有無を答えよ。(1) X=RX=\mathbb{R}、T(x)=x+1T(x)=x+1。(2) X=(0,1]X=(0,1]、T(x)=x/2T(x)=x/2。(3) X=[0,∞)X=[0,\infty)、T(x)=x2+1T(x)=\sqrt{x^2+1}。

解答

(1) ∣T(x)−T(x′)∣=∣x−x′∣|T(x)-T(x')|=|x-x'| で縮小率が 11(q<1q<1 を満たさない)。不動点なし。(2) XX が閉集合でない(0∉X0\notin X)。不動点なし(候補 00 は XX の外)。(3) T′(x)=x/x2+1<1T'(x)=x/\sqrt{x^2+1}<1 で、平均値の定理から ∣T(x)−T(x′)∣<∣x−x′∣|T(x)-T(x')|<|x-x'| ですが、sup⁡T′=1\sup T'=1 で一様な q<1q<1 は取れません。不動点の方程式 x=x2+1x=\sqrt{x^2+1} は解を持ちません。つまり「各点で縮小」では不十分で、定数 q<1q<1 が要ります。

  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980。
  • 杉浦光夫『解析入門 II』東京大学出版会、1985。
  • 松坂和夫『解析入門 中』岩波書店、1968。
  • W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 9(逆関数定理と陰関数定理)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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