コンテンツにスキップ

有界作用素と共役作用素:ユニタリ・射影・部分等長と作用素の位相

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章の Hilbert 空間と Banach 空間の基本定理、および複素関数論の正則関数とリウヴィルの定理を学んだ人。作用素環の知識は仮定しません。

前提となる記事:Banach 空間の基本定理:Hahn–Banach・一様有界性・開写像・閉グラフ

生 Markdown

行列には、転置して複素共役をとる操作や、固有値、成分ごとの収束といった考え方があります。この記事は、それらが無限次元の空間の上ではどう一般化されるか、そしてどこで有限次元とは様子が変わるかを調べます。読み終えると、作用素の共役やユニタリ・射影といった種類を使い分け、「作用素が収束する」ことの 3 通りの意味の違いと、スペクトルが何を測っているかを、片側シフトという 1 つの例で確かめられるようになります。

  • Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の有界作用素 AA には、⟨A∗x,y⟩=⟨x,Ay⟩\langle A^*x, y\rangle = \langle x, Ay\rangle で決まる共役 A∗A^* がただ 1 つあります。存在は Riesz の表現定理から出ます。そして ∥A∗A∥=∥A∥2\|A^*A\| = \|A\|^2 という等式(C*-恒等式。A∗AA^*A のノルムが AA のノルムの 2 乗に等しい、という式)が成り立ちます。
  • 自己共役・正・正規・ユニタリ・直交射影・部分等長は、すべて A∗A^* を使った代数的な等式で特徴づけられます。直交射影(ベクトルを閉部分空間に落とす作用素)は P=P2=P∗P = P^2 = P^*、部分等長は「V∗VV^*V が射影」です。任意の有界作用素は部分等長と正作用素の積 A=V∣A∣A = V|A| に分解されます(極分解)。
  • 作用素の列の収束にはノルム収束・強収束・弱収束の 3 種があり、無限次元では互いに異なります。片側シフト SS について、SnS^n は弱収束するが強収束せず、(S∗)n(S^*)^n は強収束するがノルム収束しません。
  • 複素 Banach 空間上の有界作用素のスペクトルは空でないコンパクト集合で、スペクトル半径は r(A)=lim⁡n∥An∥1/nr(A) = \lim_n \|A^n\|^{1/n} で与えられます。証明の鍵はノイマン級数・レゾルベントの解析性・Liouville の定理です。
  • 自己共役作用素のスペクトルは実数で、∥A∥=r(A)\|A\| = r(A) が成り立ちます。シフトや Volterra 作用素は、正規性を外すとこれらが崩れることを示す反例です。

量子力学の観測量は Hilbert 空間上の自己共役作用素で、時間発展はユニタリ作用素、観測による状態の射影は直交射影で表されます。位置や運動量のような本物の観測量は非有界作用素ですが、それを扱う道具(レゾルベント (A−z)−1(A-z)^{-1}、ユニタリ群 e−itHe^{-itH}、スペクトル射影)はすべて有界作用素です。非有界作用素の理論は、有界作用素の理論に持ち込んで解く、という形で組み立てられています。ですから、有界作用素の代数的な構造と位相的な構造を正確に押さえておくことが、後の章すべての前提になります。

有限次元では、作用素は行列であり、共役は共役転置、スペクトルは固有値の集合、収束は成分ごとの収束で尽きています(スペクトル定理 を参照してください)。無限次元に移ると、次の 3 つが新しく起こります。

  1. 等長でもユニタリとは限らない。 内積を保つのに全射でない作用素(シフト)が存在します。
  2. 収束の意味が分裂する。 各ベクトルに作用させて収束するか、一様に収束するかが異なります。量子力学で現れる極限(e−itHe^{-itH} の t→0t\to 0、近似射影の極限)は、ほとんどが強収束でありノルム収束ではありません。
  3. スペクトルが固有値だけでは尽きない。 固有値をまったく持たないのにスペクトルが閉円板全体になる作用素があります。

この章では、これら 3 点を定義と証明で確認していきます。

この章を通じて H\mathcal{H} は複素 Hilbert 空間で、内積 ⟨⋅,⋅⟩\langle\cdot,\cdot\rangle は第 1 変数について共役線形、第 2 変数について線形とします。X,YX, Y は複素 Banach 空間です。有界線形作用素 A:X→YA: X\to Y の全体を B(X,Y)\mathcal{B}(X,Y)、B(X)=B(X,X)\mathcal{B}(X) = \mathcal{B}(X,X) と書き、作用素ノルムを

∥A∥=sup⁡∥x∥≤1∥Ax∥\|A\| = \sup_{\|x\|\le 1}\|Ax\|

とします。B(X,Y)\mathcal{B}(X,Y) はこのノルムで Banach 空間であり、∥AB∥≤∥A∥∥B∥\|AB\|\le\|A\|\|B\| が成り立ちます。恒等作用素を 11 と書き、A−zA - z は A−z1A - z1 の略です。

Hilbert 空間について次の 2 つを使います(Hilbert 空間の基礎 を参照してください)。

  • 射影定理: 閉部分空間 M⊂HM\subset\mathcal{H} に対し、各 x∈Hx\in\mathcal{H} は x=u+vx = u + v(u∈Mu\in M, v∈M⊥v\in M^\perp)とただ一通りに分解される。
  • Riesz の表現定理: 有界線形汎関数 f:H→Cf:\mathcal{H}\to\mathbb{C} に対し、f(y)=⟨z,y⟩f(y) = \langle z, y\rangle となる z∈Hz\in\mathcal{H} がただ 1 つあり、∥z∥=∥f∥\|z\| = \|f\|。

Banach 空間については、一様有界性原理(Banach–Steinhaus)・開写像定理・Hahn–Banach の定理を使います(Banach 空間の基本定理 を参照してください)。

もう 1 つ、複素 Hilbert 空間に特有の道具として偏極恒等式を確認しておきます。A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) と q(u)=⟨u,Au⟩q(u) = \langle u, Au\rangle に対し、q(y+cx)q(y + cx)(∣c∣=1|c| = 1)を展開して c∈{1,i,−1,−i}c\in\{1, i, -1, -i\} について cc を掛けて足すと、⟨y,Ay⟩\langle y,Ay\rangle・⟨y,Ax⟩\langle y,Ax\rangle・⟨x,Ax⟩\langle x,Ax\rangle の項は打ち消し合い、

⟨x,Ay⟩=14∑k=03ik q(y+ikx)\langle x, Ay\rangle = \frac14\sum_{k=0}^{3} i^{k}\, q\bigl(y + i^{k}x\bigr)

が得られます。とくに、すべての uu で ⟨u,Au⟩=0\langle u, Au\rangle = 0 なら A=0A = 0 です。これは実 Hilbert 空間では偽です(R2\mathbb{R}^2 の 90∘90^\circ 回転 RR は ⟨u,Ru⟩=0\langle u, Ru\rangle = 0 を満たしますが R≠0R\neq 0 です)。この章で複素数体を仮定する理由の 1 つがここにあります。以後の証明では、⟨u,Bu⟩=0\langle u, Bu\rangle = 0 がすべての uu で成り立つことを示せば B=0B = 0 が出る、という形でこの結論を使います。

命題 3.1(共役作用素の存在と一意性)✓

A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) とする。すべての x,y∈Hx, y\in\mathcal{H} に対して

⟨A∗x,y⟩=⟨x,Ay⟩\langle A^*x, y\rangle = \langle x, Ay\rangle

を満たす写像 A∗:H→HA^*:\mathcal{H}\to\mathcal{H} がただ 1 つ存在し、A∗∈B(H)A^*\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) である。

証明(命題 3.1)

xx を固定し fx(y)=⟨x,Ay⟩f_x(y) = \langle x, Ay\rangle と置くと、fxf_x は yy について線形で、∣fx(y)∣≤∥x∥∥A∥∥y∥|f_x(y)|\le\|x\|\|A\|\|y\| より有界です。Riesz の表現定理から fx(y)=⟨zx,y⟩f_x(y) = \langle z_x, y\rangle となる zxz_x がただ 1 つあるので、A∗x=zxA^*x = z_x と定めます。一意性は Riesz の表現の一意性そのものです。線形性: ⟨A∗(αx+βx′),y⟩=⟨αx+βx′,Ay⟩=αˉ⟨x,Ay⟩+βˉ⟨x′,Ay⟩=⟨αA∗x+βA∗x′,y⟩\langle A^*(\alpha x + \beta x'), y\rangle = \langle \alpha x + \beta x', Ay\rangle = \bar\alpha\langle x,Ay\rangle + \bar\beta\langle x', Ay\rangle = \langle \alpha A^*x + \beta A^*x', y\rangle が全 yy で成り立つので A∗(αx+βx′)=αA∗x+βA∗x′A^*(\alpha x+\beta x') = \alpha A^*x + \beta A^*x' です(第 1 変数の共役線形性を 2 回使いました)。有界性: ∥A∗x∥=∥fx∥≤∥A∥∥x∥\|A^*x\| = \|f_x\|\le\|A\|\|x\|。

定義 3.2(共役作用素)↗

命題 3.1 の A∗A^* を AA の共役作用素(随伴作用素)という。

命題 3.3(共役の基本性質)✓

A,B∈B(H)A, B\in\mathcal{B}(\mathcal{H})、α∈C\alpha\in\mathbb{C} とする。

  1. (A+B)∗=A∗+B∗(A + B)^* = A^* + B^*、(αA)∗=αˉA∗(\alpha A)^* = \bar\alpha A^*、(AB)∗=B∗A∗(AB)^* = B^*A^*、A∗∗=AA^{**} = A。
  2. ∥A∗∥=∥A∥\|A^*\| = \|A\|。
  3. Ker(A∗)=Ran(A)⊥\mathrm{Ker}(A^*) = \mathrm{Ran}(A)^\perp、および Ran(A)‾=Ker(A∗)⊥\overline{\mathrm{Ran}(A)} = \mathrm{Ker}(A^*)^\perp。
  4. AA が有界な逆 A−1∈B(H)A^{-1}\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) を持てば A∗A^* も持ち、(A∗)−1=(A−1)∗(A^*)^{-1} = (A^{-1})^*。
証明(命題 3.3)

(1) いずれも定義式で確かめます。たとえば ⟨(AB)∗x,y⟩=⟨x,ABy⟩=⟨A∗x,By⟩=⟨B∗A∗x,y⟩\langle (AB)^*x, y\rangle = \langle x, ABy\rangle = \langle A^*x, By\rangle = \langle B^*A^*x, y\rangle。A∗∗=AA^{**}=A は ⟨Ax,y⟩=⟨y,Ax⟩‾=⟨A∗y,x⟩‾=⟨x,A∗y⟩\langle A x, y\rangle = \overline{\langle y, Ax\rangle} = \overline{\langle A^*y, x\rangle} = \langle x, A^*y\rangle から、AA が A∗A^* の共役の定義式を満たすことによります。

(2) ∥A∗x∥2=⟨A∗x,A∗x⟩=⟨x,AA∗x⟩≤∥x∥∥A∥∥A∗x∥\|A^*x\|^2 = \langle A^*x, A^*x\rangle = \langle x, AA^*x\rangle\le\|x\|\|A\|\|A^*x\| より ∥A∗x∥≤∥A∥∥x∥\|A^*x\|\le\|A\|\|x\|、すなわち ∥A∗∥≤∥A∥\|A^*\|\le\|A\|。これを A∗A^* に適用し (1) の A∗∗=AA^{**}=A を使えば逆向きの不等式が出ます。

(3) x∈Ker(A∗)x\in\mathrm{Ker}(A^*)   ⟺  \iff 全 yy で ⟨A∗x,y⟩=0\langle A^*x, y\rangle = 0   ⟺  \iff 全 yy で ⟨x,Ay⟩=0\langle x, Ay\rangle = 0   ⟺  \iff x∈Ran(A)⊥x\in\mathrm{Ran}(A)^\perp。後半は、閉部分空間 MM について M⊥⊥=MM^{\perp\perp} = M(射影定理の帰結)を M=Ran(A)‾M = \overline{\mathrm{Ran}(A)} に用いれば Ran(A)‾=Ran(A)⊥⊥=Ker(A∗)⊥\overline{\mathrm{Ran}(A)} = \mathrm{Ran}(A)^{\perp\perp} = \mathrm{Ker}(A^*)^\perp です。

(4) AA−1=A−1A=1AA^{-1} = A^{-1}A = 1 の共役をとり (1) を使うと (A−1)∗A∗=A∗(A−1)∗=1∗=1(A^{-1})^*A^* = A^*(A^{-1})^* = 1^* = 1。

次の等式は、有界作用素の代数 B(H)\mathcal{B}(\mathcal{H}) を C*-環たらしめる性質で、後のスペクトル半径の議論(系 6.8)で効いてきます。

定理 3.4(C*-恒等式)✓

A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) に対して ∥A∗A∥=∥A∥2\|A^*A\| = \|A\|^2 である。

証明(定理 3.4)

∥x∥≤1\|x\|\le1 のとき ∥Ax∥2=⟨Ax,Ax⟩=⟨x,A∗Ax⟩≤∥A∗A∥\|Ax\|^2 = \langle Ax, Ax\rangle = \langle x, A^*Ax\rangle\le\|A^*A\| なので ∥A∥2≤∥A∗A∥\|A\|^2\le\|A^*A\|。逆に ∥A∗A∥≤∥A∗∥∥A∥=∥A∥2\|A^*A\|\le\|A^*\|\|A\| = \|A\|^2(命題 3.3 の (2))。

例 3.5(掛け算作用素)

(X,μ)(X,\mu) を測度空間、φ\varphi を有界可測関数とし、L2(X,μ)L^2(X,\mu) 上で (Mφf)(x)=φ(x)f(x)(M_\varphi f)(x) = \varphi(x)f(x) と置きます。∥Mφf∥≤∥φ∥∞∥f∥\|M_\varphi f\|\le\|\varphi\|_\infty\|f\| なので MφM_\varphi は有界で、

⟨Mφˉg,f⟩=∫Xφˉg‾ f dμ=∫Xgˉ φf dμ=⟨g,Mφf⟩\langle M_{\bar\varphi}g, f\rangle = \int_X \overline{\bar\varphi g}\, f\,d\mu = \int_X \bar g\,\varphi f\,d\mu = \langle g, M_\varphi f\rangle

より Mφ∗=MφˉM_\varphi^* = M_{\bar\varphi} です。とくに φ\varphi が実数値なら MφM_\varphi は自己共役、∣φ∣=1|\varphi| = 1 ならユニタリです(次節の定義)。後の章で示すスペクトル定理は、「自己共役作用素はすべて、適当な L2L^2 空間上の実数値の掛け算作用素とユニタリ同値である」と主張します。

定義 4.1(自己共役・正・正規・等長・ユニタリ)↗

A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) について次のように呼ぶ。

  • 自己共役: A∗=AA^* = A。
  • 正(A≥0A\ge0 と書く): すべての xx で ⟨x,Ax⟩≥0\langle x, Ax\rangle\ge 0。A≥BA\ge B は A−B≥0A - B\ge0 の意味とする。
  • 正規: A∗A=AA∗A^*A = AA^*。
  • 等長: すべての xx で ∥Ax∥=∥x∥\|Ax\| = \|x\|。
  • ユニタリ: A∗A=AA∗=1A^*A = AA^* = 1。

命題 4.2(自己共役性と 2 次形式)✓

H\mathcal{H} を複素 Hilbert 空間、A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) とする。AA が自己共役であるための必要十分条件は、すべての x∈Hx\in\mathcal{H} で ⟨x,Ax⟩∈R\langle x, Ax\rangle\in\mathbb{R} となることである。とくに正作用素は自己共役である。

証明(命題 4.2)

A∗=AA^* = A なら ⟨x,Ax⟩‾=⟨Ax,x⟩=⟨x,A∗x⟩=⟨x,Ax⟩\overline{\langle x, Ax\rangle} = \langle Ax, x\rangle = \langle x, A^*x\rangle = \langle x, Ax\rangle です。逆に q(u)=⟨u,Au⟩q(u) = \langle u, Au\rangle が実数値とします。B=A−A∗B = A - A^* と置くと ⟨u,Bu⟩=q(u)−⟨Au,u⟩=q(u)−q(u)‾=0\langle u, Bu\rangle = q(u) - \langle Au, u\rangle = q(u) - \overline{q(u)} = 0 がすべての uu で成り立つので、§2 の偏極恒等式から B=0B = 0 です。

実 Hilbert 空間では、§2 の回転 RR が ⟨u,Ru⟩=0≥0\langle u, Ru\rangle = 0\ge0 を満たすのに RT=−R≠RR^{\mathsf T} = -R\ne R なので、「正 ⇒ 自己共役」は成り立ちません。

命題 4.3(等長作用素とユニタリ作用素)✓

U∈B(H)U\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) について次が成り立つ。

  1. UU が等長   ⟺  \iff U∗U=1U^*U = 1   ⟺  \iff すべての x,yx, y で ⟨Ux,Uy⟩=⟨x,y⟩\langle Ux, Uy\rangle = \langle x, y\rangle。
  2. UU がユニタリ   ⟺  \iff UU は等長かつ全射。
証明(命題 4.3)

(1) U∗U=1U^*U = 1 なら ⟨Ux,Uy⟩=⟨x,U∗Uy⟩=⟨x,y⟩\langle Ux, Uy\rangle = \langle x, U^*Uy\rangle = \langle x, y\rangle、とくに ∥Ux∥=∥x∥\|Ux\| = \|x\|。逆に等長なら ⟨u,(U∗U−1)u⟩=∥Uu∥2−∥u∥2=0\langle u, (U^*U - 1)u\rangle = \|Uu\|^2 - \|u\|^2 = 0 が全 uu で成り立ち、偏極恒等式から U∗U=1U^*U = 1 です。

(2) ユニタリなら UU∗=1UU^* = 1 より全射、U∗U=1U^*U=1 より等長。逆に等長かつ全射なら、等長性から単射でもあるので全単射で、U∗U=1U^*U = 1 の右から U−1U^{-1} を掛けて U∗=U−1U^* = U^{-1}、よって UU∗=1UU^* = 1。

定義 4.4(直交射影)↗

MM を H\mathcal{H} の閉部分空間とする。射影定理による分解 x=u+vx = u + v(u∈Mu\in M, v∈M⊥v\in M^\perp)で PMx=uP_Mx = u と定めた作用素 PMP_M を、MM への直交射影という。

定理 4.5(直交射影の特徴づけ)✓

P∈B(H)P\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) について次は同値である。

  1. ある閉部分空間 MM について P=PMP = P_M。
  2. P2=PP^2 = P かつ P∗=PP^* = P。

このとき M=Ran(P)=Ker(1−P)M = \mathrm{Ran}(P) = \mathrm{Ker}(1 - P) であり、1−P=PM⊥1 - P = P_{M^\perp}、P≥0P\ge0、P≠0P\ne0 なら ∥P∥=1\|P\| = 1 である。

証明(定理 4.5)

(1 ⇒ 2) PMx∈MP_Mx\in M なので PM(PMx)=PMxP_M(P_Mx) = P_Mx、すなわち PM2=PMP_M^2 = P_M。x=u+vx = u + v, y=u′+v′y = u' + v' と分解すると、M⊥M⊥M\perp M^\perp より ⟨PMx,y⟩=⟨u,u′+v′⟩=⟨u,u′⟩=⟨u+v,u′⟩=⟨x,PMy⟩\langle P_Mx, y\rangle = \langle u, u' + v'\rangle = \langle u, u'\rangle = \langle u + v, u'\rangle = \langle x, P_My\rangle なので PM∗=PMP_M^* = P_M。

(2 ⇒ 1) M=Ran(P)M = \mathrm{Ran}(P) と置きます。P2=PP^2 = P より y∈My\in M なら Py=yPy = y で、逆に Py=yPy = y なら y∈My\in M ですから M=Ker(1−P)M = \mathrm{Ker}(1 - P) であり、有界作用素の核なので閉です。任意の xx を x=Px+(1−P)xx = Px + (1-P)x と書くと Px∈MPx\in M で、(1−P)x∈M⊥(1-P)x\in M^\perp です。実際、⟨(1−P)x,Py⟩=⟨P∗(1−P)x,y⟩=⟨(P−P2)x,y⟩=0\langle (1-P)x, Py\rangle = \langle P^*(1-P)x, y\rangle = \langle (P - P^2)x, y\rangle = 0(P∗=PP^* = P と P2=PP^2 = P を使いました)。射影定理の分解の一意性から Px=PMxPx = P_Mx です。

残りの主張: x=Px+(1−P)xx = Px + (1 - P)x は M⊥M^\perp への分解でもあるので 1−P=PM⊥1 - P = P_{M^\perp}。⟨x,Px⟩=⟨x,P2x⟩=⟨Px,Px⟩≥0\langle x, Px\rangle = \langle x, P^2x\rangle = \langle Px, Px\rangle\ge0。ピタゴラスの定理 ∥x∥2=∥Px∥2+∥(1−P)x∥2\|x\|^2 = \|Px\|^2 + \|(1-P)x\|^2 から ∥P∥≤1\|P\|\le1 で、M≠{0}M\ne\{0\} の元 uu では Pu=uPu = u なので ∥P∥=1\|P\| = 1 です。

例 4.6(自己共役でない冪等作用素)

P2=PP^2 = P だけでは直交射影になりません。C2\mathbb{C}^2 上で t∈C∖{0}t\in\mathbb{C}\setminus\{0\} に対し

P=(1t00)P = \begin{pmatrix} 1 & t \\ 0 & 0\end{pmatrix}

と置くと P2=PP^2 = P ですが、Ran(P)=Ce1\mathrm{Ran}(P) = \mathbb{C}e_1 と Ker(P)=C(−t,1)\mathrm{Ker}(P) = \mathbb{C}(-t, 1) は直交しません(内積は −t≠0-t\ne0)。作用素ノルムは第 1 行のノルム 1+∣t∣2>1\sqrt{1 + |t|^2} > 1 で、定理 4.5 の ∥P∥=1\|P\| = 1 が崩れます。実は逆に、冪等で ∥P∥≤1\|P\|\le1 なら PP は直交射影になることが知られており、「自己共役」は「ノルムを増やさない」と言い換えられます。

定義 4.7(部分等長作用素)↗

V∈B(H)V\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) が部分等長であるとは、すべての x∈Ker(V)⊥x\in\mathrm{Ker}(V)^\perp で ∥Vx∥=∥x∥\|Vx\| = \|x\| となることをいう。Ker(V)⊥\mathrm{Ker}(V)^\perp を始空間、Ran(V)\mathrm{Ran}(V) を終空間という。

命題 4.8(部分等長の特徴づけ)✓

V∈B(H)V\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) について次は同値である。

  1. VV は部分等長。
  2. V∗VV^*V は直交射影。

このとき V∗VV^*V は始空間への直交射影、VV∗VV^* は終空間への直交射影であり、終空間は閉で、V=VV∗VV = VV^*V、V∗V^* も部分等長である。

証明(命題 4.8)

(1 ⇒ 2) M=Ker(V)⊥M = \mathrm{Ker}(V)^\perp、P=PMP = P_M とします。(1−P)x∈Ker(V)(1-P)x\in\mathrm{Ker}(V) なので Vx=VPxVx = VPx、よって ∥Vx∥=∥Px∥\|Vx\| = \|Px\| です。すると ⟨x,V∗Vx⟩=∥Vx∥2=∥Px∥2=⟨x,Px⟩\langle x, V^*Vx\rangle = \|Vx\|^2 = \|Px\|^2 = \langle x, Px\rangle が全 xx で成り立ち、偏極恒等式から V∗V=PV^*V = P。

(2 ⇒ 1) V∗V=PV^*V = P が直交射影なら ∥Vx∥2=⟨x,Px⟩=∥Px∥2\|Vx\|^2 = \langle x, Px\rangle = \|Px\|^2 です。よって Ker(V)=Ker(P)=Ran(P)⊥\mathrm{Ker}(V) = \mathrm{Ker}(P) = \mathrm{Ran}(P)^\perp、したがって Ker(V)⊥=Ran(P)\mathrm{Ker}(V)^\perp = \mathrm{Ran}(P)(閉)で、この上で ∥Vx∥=∥Px∥=∥x∥\|Vx\| = \|Px\| = \|x\|。

残り: Ker(V)=Ker(P)\mathrm{Ker}(V) = \mathrm{Ker}(P) より V(1−P)=0V(1 - P) = 0、すなわち V=VP=VV∗VV = VP = VV^*V。すると (VV∗)2=V(V∗V)V∗=VPV∗=VV∗(VV^*)^2 = V(V^*V)V^* = VPV^* = VV^* で、VV∗VV^* は明らかに自己共役なので 定理 4.5 により直交射影です。Ran(VV∗)⊂Ran(V)\mathrm{Ran}(VV^*)\subset\mathrm{Ran}(V) と、V=VV∗VV = VV^*V からくる Ran(V)⊂Ran(VV∗)\mathrm{Ran}(V)\subset\mathrm{Ran}(VV^*) から Ran(VV∗)=Ran(V)\mathrm{Ran}(VV^*) = \mathrm{Ran}(V) で、これは射影の値域として閉です。最後に (V∗)∗V∗=VV∗(V^*)^*V^* = VV^* が射影なので、(2 ⇒ 1) を V∗V^* に適用できます。

極分解は、複素数の z=eiθ∣z∣z = e^{i\theta}|z| の作用素版です。そのためには正作用素の平方根が必要です。次の補題は、A≥0A\ge0 に対して B2=AB^2 = A となる B≥0B\ge0 を実際に作る話です。証明の方針は、1−t\sqrt{1-t} の冪級数 1−∑n≥1cntn1-\sum_{n\ge1}c_nt^n の tt を作用素 1−A1-A に置き換えて和をとることです。係数 cnc_n の漸化式は、この級数を 2 乗したときに 1−t1-t に戻るための条件として決まっています。

補題 4.9(正作用素の平方根)✓

A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H})、A≥0A\ge0 とする。B≥0B\ge0 かつ B2=AB^2 = A を満たす B∈B(H)B\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) がただ 1 つ存在する。さらに BB は、AA と可換なすべての有界作用素と可換である。この BB を A1/2A^{1/2} と書く。

証明(補題 4.9)

準備(正作用素の Cauchy–Schwarz)。 P≥0P\ge0 なら [x,y]=⟨x,Py⟩[x,y]=\langle x,Py\rangle は半正定値なエルミート形式なので、Cauchy–Schwarz の不等式の通常の証明([x+ty,x+ty]≥0[x+ty,x+ty]\ge0 の判別式)がそのまま通り、∣⟨x,Py⟩∣2≤⟨x,Px⟩⟨y,Py⟩|\langle x,Py\rangle|^2\le\langle x,Px\rangle\langle y,Py\rangle です。二つの帰結を使います。(i) ⟨y,Py⟩=0\langle y,Py\rangle=0 なら Py=0Py=0(x=Pyx=Py と取る)。(ii) さらに全 yy で ⟨y,Py⟩≤∥y∥2\langle y,Py\rangle\le\|y\|^2 なら、x=Pyx=Py と取って ∥Py∥4≤⟨y,Py⟩⟨Py,P2y⟩≤∥y∥2∥Py∥2\|Py\|^4\le\langle y,Py\rangle\langle Py,P^2y\rangle\le\|y\|^2\|Py\|^2 となり、∥P∥≤1\|P\|\le1。

係数。 c1=12c_1=\frac12、n≥2n\ge2 について cn=12∑k=1n−1ckcn−kc_n=\frac12\sum_{k=1}^{n-1}c_kc_{n-k} と定めます。帰納的にすべて cn>0c_n>0 です。sN=∑n≤Ncns_N=\sum_{n\le N}c_n とおき、漸化式を n=2,…,N+1n=2,\ldots,N+1 について足すと

2(sN+1−c1)=∑n=2N+1∑k=1n−1ckcn−k≤sN22(s_{N+1}-c_1)=\sum_{n=2}^{N+1}\sum_{k=1}^{n-1}c_kc_{n-k}\le s_N^2

(右辺の展開に左辺の項がすべて現れる)なので sN+1≤12+12sN2s_{N+1}\le\frac12+\frac12s_N^2。s1=12s_1=\frac12 から帰納的に sN≤1s_N\le1 で、∑ncn≤1\sum_nc_n\le1 です。

存在。 A=0A=0 なら B=0B=0 です。A≠0A\ne0 なら A/∥A∥A/\|A\| の平方根に ∥A∥1/2\|A\|^{1/2} を掛ければよいので、∥A∥≤1\|A\|\le1 とします。T=1−AT=1-A は自己共役で、⟨x,Ax⟩≤∥A∥∥x∥2≤∥x∥2\langle x,Ax\rangle\le\|A\|\|x\|^2\le\|x\|^2 から 0≤⟨x,Tx⟩≤∥x∥20\le\langle x,Tx\rangle\le\|x\|^2、(ii) より ∥T∥≤1\|T\|\le1 です。∥Tn∥≤1\|T^n\|\le1 と ∑cn<∞\sum c_n<\infty から

B=1−∑n≥1cnTnB=1-\sum_{n\ge1}c_nT^n

は B(H)\mathcal{B}(\mathcal{H}) でノルム絶対収束します。絶対収束級数のコーシー積から

(∑n≥1cnTn)2=∑m≥2(∑k=1m−1ckcm−k)Tm=∑m≥22cmTm\Bigl(\sum_{n\ge1}c_nT^n\Bigr)^2=\sum_{m\ge2}\Bigl(\sum_{k=1}^{m-1}c_kc_{m-k}\Bigr)T^m=\sum_{m\ge2}2c_mT^m

なので B2=1−2∑n≥1cnTn+∑m≥22cmTm=1−2c1T=1−T=AB^2=1-2\sum_{n\ge1}c_nT^n+\sum_{m\ge2}2c_mT^m=1-2c_1T=1-T=A です。TT が自己共役なので BB も自己共役で、∣⟨x,Tnx⟩∣≤∥x∥2|\langle x,T^nx\rangle|\le\|x\|^2 から ⟨x,Bx⟩≥∥x∥2(1−∑ncn)≥0\langle x,Bx\rangle\ge\|x\|^2(1-\sum_nc_n)\ge0、すなわち B≥0B\ge0 です。CC が AA と可換なら TT、各 TnT^n、そのノルム極限 BB とも可換です。

一意性。 C≥0C\ge0、C2=AC^2=A とします。CA=C3=ACCA=C^3=AC なので、いま示したことから CB=BCCB=BC です。D=B−CD=B-C(自己共役)とおくと (B+C)D=B2−C2=0(B+C)D=B^2-C^2=0 なので ⟨Dx,BDx⟩+⟨Dx,CDx⟩=⟨x,D(B+C)Dx⟩=0\langle Dx,BDx\rangle+\langle Dx,CDx\rangle=\langle x,D(B+C)Dx\rangle=0 で、両項は 00 以上なのでともに 00 です。(i) から BDx=CDx=0BDx=CDx=0、よって D2x=(B−C)Dx=0D^2x=(B-C)Dx=0 がすべての xx で成り立ち、∥Dx∥2=⟨x,D2x⟩=0\|Dx\|^2=\langle x,D^2x\rangle=0 から D=0D=0、すなわち C=BC=B です。

注意 4.10(平方根の補題の証明の所在)

上の証明は Reed–Simon I の第 VI 章(平方根の補題)の方針に従っています。筋道をまとめると次のとおりです。∥A∥≤1\|A\|\le1 と正規化し、1−t=1−∑n≥1cntn\sqrt{1 - t} = 1 - \sum_{n\ge1}c_nt^n(cn≥0c_n\ge0, ∑cn=1\sum c_n = 1)が ∣t∣≤1|t|\le1 で絶対収束することを使って、B=1−∑ncn(1−A)nB = 1 - \sum_n c_n(1 - A)^n をノルム収束級数として定義します。0≤1−A≤10\le 1 - A\le 1 から ∥1−A∥≤1\|1-A\|\le1 となり級数は収束し、B2=AB^2 = A は級数の積の計算、B≥0B\ge0 は各項の評価、可換性は AA の多項式の極限であることから出ます。一意性は、別の平方根 CC が A=C2A = C^2 と可換であることから BB と可換になり、(B−C)(B - C) を B+CB + C で挟む計算で B=CB = C を導きます。連続関数計算(スペクトル定理)を使えば A1/2=f(A)A^{1/2} = f(A), f(t)=tf(t) = \sqrt t と一行で済みます。

定理 4.11(極分解)✓

A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) とし、∣A∣=(A∗A)1/2|A| = (A^*A)^{1/2} と置く(補題 4.9。A∗A≥0A^*A\ge0 は ⟨x,A∗Ax⟩=∥Ax∥2\langle x, A^*Ax\rangle = \|Ax\|^2 による)。このとき

A=V∣A∣,Ker(V)=Ker(A)A = V|A|,\qquad \mathrm{Ker}(V) = \mathrm{Ker}(A)

を満たす部分等長 VV がただ 1 つ存在する。VV の始空間は Ker(A)⊥=Ran(∣A∣)‾\mathrm{Ker}(A)^\perp = \overline{\mathrm{Ran}(|A|)}、終空間は Ran(A)‾\overline{\mathrm{Ran}(A)} であり、V∗A=∣A∣V^*A = |A| が成り立つ。

証明(定理 4.11)

等式 ∥∣A∣x∥=∥Ax∥\||A|x\| = \|Ax\|。 ∥∣A∣x∥2=⟨x,∣A∣2x⟩=⟨x,A∗Ax⟩=∥Ax∥2\||A|x\|^2 = \langle x, |A|^2x\rangle = \langle x, A^*Ax\rangle = \|Ax\|^2。とくに Ker(∣A∣)=Ker(A)\mathrm{Ker}(|A|) = \mathrm{Ker}(A) で、∣A∣|A| は自己共役なので 命題 3.3 の (3) より Ran(∣A∣)‾=Ker(∣A∣)⊥=Ker(A)⊥\overline{\mathrm{Ran}(|A|)} = \mathrm{Ker}(|A|)^\perp = \mathrm{Ker}(A)^\perp。

VV の構成。 Ran(∣A∣)\mathrm{Ran}(|A|) 上で V0(∣A∣x)=AxV_0(|A|x) = Ax と定めます。∣A∣x=∣A∣x′|A|x = |A|x' なら ∥Ax−Ax′∥=∥∣A∣(x−x′)∥=0\|Ax - Ax'\| = \||A|(x-x')\| = 0 なので矛盾なく定義され、上の等式から等長です。等長な線形写像は閉包 Ran(∣A∣)‾\overline{\mathrm{Ran}(|A|)} へ等長に一意拡張でき(Cauchy 列を Cauchy 列に写すため)、その値域は Ran(A)‾\overline{\mathrm{Ran}(A)} です。Ker(A)=Ran(∣A∣)‾⊥\mathrm{Ker}(A) = \overline{\mathrm{Ran}(|A|)}^\perp 上では V=0V = 0 と定めれば、VV は始空間 Ker(A)⊥\mathrm{Ker}(A)^\perp の部分等長で A=V∣A∣A = V|A| を満たします。

一意性。 A=W∣A∣A = W|A|, Ker(W)=Ker(A)\mathrm{Ker}(W) = \mathrm{Ker}(A) なら、WW と VV は Ran(∣A∣)\mathrm{Ran}(|A|) 上で一致し、連続性でその閉包上でも一致し、直交補空間 Ker(A)\mathrm{Ker}(A) 上ではともに 00 です。

V∗A=∣A∣V^*A = |A|。 命題 4.8 より V∗VV^*V は Ran(∣A∣)‾\overline{\mathrm{Ran}(|A|)} への射影なので V∗A=V∗V∣A∣=∣A∣V^*A = V^*V|A| = |A|。

有限次元の正方行列なら VV を拡張してユニタリにとれますが、無限次元ではそうはいきません(例 6.12)。

この節では、作用素の列 AnA_n が AA に近づく、ということの 3 通りの意味を区別します。ノルム収束はすべてのベクトルに対して一様に近づくこと、強収束はベクトル xx を 1 つ決めるごとに AnxA_nx が AxAx に近づくこと、弱収束は内積 ⟨y,Anx⟩\langle y, A_nx\rangle が ⟨y,Ax⟩\langle y, Ax\rangle に近づくことです。次の定義にある「局所凸位相」は、この 3 つの収束を与えるための言い方なので、まず下の収束の意味を読めば足ります。具体例は、この節の片側シフトの例で見られます。

定義 5.1(ノルム位相・強位相・弱位相)↗

B(H)\mathcal{B}(\mathcal{H}) 上に次の 3 つの位相を考える。

  • ノルム位相(一様位相): 作用素ノルム ∥A∥\|A\| による距離位相。
  • 強作用素位相: 半ノルムの族 {A↦∥Ax∥:x∈H}\{A\mapsto\|Ax\| : x\in\mathcal{H}\} が定める局所凸位相。
  • 弱作用素位相: 半ノルムの族 {A↦∣⟨y,Ax⟩∣:x,y∈H}\{A\mapsto|\langle y, Ax\rangle| : x, y\in\mathcal{H}\} が定める局所凸位相。

ネット (Aα)(A_\alpha) が AA に収束することは、それぞれ ∥Aα−A∥→0\|A_\alpha - A\|\to0、全 xx で ∥(Aα−A)x∥→0\|(A_\alpha - A)x\|\to0、全 x,yx, y で ⟨y,(Aα−A)x⟩→0\langle y, (A_\alpha - A)x\rangle\to0 を意味する。強・弱位相での極限を s-lim\mathrm{s\text{-}lim}, w-lim\mathrm{w\text{-}lim} と書く。

命題 5.2(3 つの位相の強弱)✓

ノルム位相は強作用素位相より強く、強作用素位相は弱作用素位相より強い。すなわちノルム収束 ⇒ 強収束 ⇒ 弱収束。H\mathcal{H} が有限次元なら 3 つの位相は一致し、無限次元なら包含はすべて真である。

証明(命題 5.2)

∥(Aα−A)x∥≤∥Aα−A∥∥x∥\|(A_\alpha - A)x\|\le\|A_\alpha - A\|\|x\| と ∣⟨y,(Aα−A)x⟩∣≤∥y∥∥(Aα−A)x∥|\langle y, (A_\alpha - A)x\rangle|\le\|y\|\|(A_\alpha - A)x\| から包含が出ます。dim⁡H=d<∞\dim\mathcal{H} = d < \infty で正規直交基底 e1,…,ede_1,\dots,e_d をとると、∥B∥≤∑j,k∣⟨ej,Bek⟩∣\|B\|\le\sum_{j,k}|\langle e_j, Be_k\rangle|(Bx=∑j,k⟨ej,Bek⟩⟨ek,x⟩ejBx = \sum_{j,k}\langle e_j, Be_k\rangle\langle e_k, x\rangle e_j を評価)なので弱収束からノルム収束が出ます。

無限次元で包含が真であることを示します。正規直交系 (ek)k≥1(e_k)_{k\ge1} を 1 つとり、n≥1n\ge1 について

Tnx=∑k≥1⟨ek+n,x⟩ek,Wnx=∑k≥1⟨ek,x⟩ek+nT_nx = \sum_{k\ge1}\langle e_{k+n}, x\rangle e_k,\qquad W_nx = \sum_{k\ge1}\langle e_k, x\rangle e_{k+n}

と置きます(Bessel の不等式によりどちらも収束し、∥Tn∥,∥Wn∥≤1\|T_n\|, \|W_n\|\le1)。∥Tnx∥2=∑k>n∣⟨ek,x⟩∣2→0\|T_nx\|^2 = \sum_{k > n}|\langle e_k, x\rangle|^2\to0 なので Tn→0T_n\to0(強)ですが、Tnen+1=e1T_ne_{n+1} = e_1 なので ∥Tn∥≥1\|T_n\|\ge1 で、ノルム収束しません。また ∣⟨y,Wnx⟩∣=∣∑k⟨ek,x⟩⟨y,ek+n⟩∣≤∥x∥(∑k>n∣⟨ek,y⟩∣2)1/2→0|\langle y, W_nx\rangle| = |\sum_k\langle e_k, x\rangle\langle y, e_{k+n}\rangle|\le\|x\|\bigl(\sum_{k > n}|\langle e_k, y\rangle|^2\bigr)^{1/2}\to0 なので Wn→0W_n\to0(弱)ですが、強収束するならその極限は弱極限 00 に等しいはずなのに ∥Wne1∥=∥e1+n∥=1\|W_ne_1\| = \|e_{1+n}\| = 1 なので、強収束しません。よって強収束と弱収束、ノルム収束と強収束はそれぞれ異なる位相を与えます。可分な ℓ2(N)\ell^2(\mathbb{N}) で標準基底をとると、Tn=(S∗)nT_n = (S^*)^n、Wn=SnW_n = S^n は次の例の片側シフト SS のべきです。

例 5.3(片側シフトと 3 つの収束)

H=ℓ2(N)\mathcal{H} = \ell^2(\mathbb{N})、標準基底 (en)n≥1(e_n)_{n\ge1} とし、片側シフト Sen=en+1Se_n = e_{n+1} を考えます。S(x1,x2,… )=(0,x1,x2,… )S(x_1, x_2, \dots) = (0, x_1, x_2, \dots) で SS は等長、共役は S∗(x1,x2,… )=(x2,x3,… )S^*(x_1, x_2, \dots) = (x_2, x_3, \dots) です(⟨S∗em,en⟩=⟨em,en+1⟩\langle S^*e_{m}, e_n\rangle = \langle e_m, e_{n+1}\rangle から確認できます)。S∗S=1S^*S = 1 ですが SS∗=1−PCe1≠1SS^* = 1 - P_{\mathbb{C}e_1}\ne1 なので、SS は等長でもユニタリではありません。

  • (S∗)n→0(S^*)^n\to0 は強収束だがノルム収束ではない。 ∥(S∗)nx∥2=∑k>n∣xk∣2→0\|(S^*)^nx\|^2 = \sum_{k > n}|x_k|^2\to0。一方 (S∗)nen+1=e1(S^*)^ne_{n+1} = e_1 より ∥(S∗)n∥=1\|(S^*)^n\| = 1。
  • Sn→0S^n\to0 は弱収束だが強収束ではない。 強極限があれば弱極限と一致して 00 のはずですが、∥Snx∥=∥x∥\|S^nx\| = \|x\| なので強収束しません。一方 Cauchy–Schwarz より
∣⟨y,Snx⟩∣=∣∑k≥1yˉk+nxk∣≤∥x∥(∑k>n∣yk∣2)1/2→0.|\langle y, S^nx\rangle| = \Bigl|\sum_{k\ge1}\bar y_{k+n}x_k\Bigr|\le\|x\|\Bigl(\sum_{k > n}|y_k|^2\Bigr)^{1/2}\to0.
  • 共役をとる操作は強位相で連続でない。 (S∗)n→0(S^*)^n\to0(強)なのに、その共役 SnS^n は強収束しません。
  • 積は弱位相で連続でない。 Sn→0S^n\to0, (S∗)n→0(S^*)^n\to0(ともに弱)なのに、(S∗)nSn=1(S^*)^nS^n = 1 です。

同じ理由で、PnP_n を span{e1,…,en}\mathrm{span}\{e_1,\dots,e_n\} への射影とすると Pn→1P_n\to1(強)ですが ∥1−Pn∥=1\|1 - P_n\| = 1 です。量子力学で「有限次元近似が収束する」と言うとき、ほとんどがこの意味の強収束です。

命題 5.4(強極限の有界性)✓

X,YX, Y を Banach 空間、An∈B(X,Y)A_n\in\mathcal{B}(X,Y) とし、各 x∈Xx\in X で lim⁡nAnx\lim_nA_nx が存在するとする。このとき Ax=lim⁡nAnxAx = \lim_nA_nx は A∈B(X,Y)A\in\mathcal{B}(X,Y) を定め、sup⁡n∥An∥<∞\sup_n\|A_n\| < \infty かつ ∥A∥≤lim inf⁡n∥An∥\|A\|\le\liminf_n\|A_n\| である。

証明(命題 5.4)

AA の線形性は極限の線形性から出ます。各 xx で (Anx)(A_nx) は収束列なので有界、すなわち sup⁡n∥Anx∥<∞\sup_n\|A_nx\| < \infty。XX が完備なので一様有界性原理が使え、C=sup⁡n∥An∥<∞C = \sup_n\|A_n\| < \infty です。すると ∥Ax∥=lim⁡n∥Anx∥≤lim inf⁡n∥An∥∥x∥\|Ax\| = \lim_n\|A_nx\|\le\liminf_n\|A_n\|\|x\|。

列についてのこの主張は、ネット(列を一般化した収束の概念)に対しては成り立ちません。一様有界性原理そのものは任意の族について成り立ちますが、「収束するので各点で有界」という最初の段階が列に特有だからです(収束するネットの初めのほうの項は有界とは限らない)。また XX の完備性は外せません。有限個の成分だけが 00 でない数列の空間 c00c_{00} に sup⁡\sup ノルムを入れ、Anx=∑k≤nkxkA_nx = \sum_{k\le n}kx_k と置くと、各 AnA_n は有界(∥An∥≤n2\|A_n\|\le n^2)で各 xx で AnxA_nx は収束しますが、極限 x↦∑kkxkx\mapsto\sum_kkx_k は Aek=kA e_k = k より非有界です。

この節では XX を {0}\{0\} でない複素 Banach 空間とします。

定理 6.1(ノイマン級数)✓

T∈B(X)T\in\mathcal{B}(X)、∥T∥<1\|T\| < 1 とする。このとき 1−T1 - T は B(X)\mathcal{B}(X) で可逆で、

(1−T)−1=∑n=0∞Tn(ノルム収束),∥(1−T)−1∥≤11−∥T∥.(1 - T)^{-1} = \sum_{n=0}^{\infty}T^n\quad(\text{ノルム収束}),\qquad \|(1 - T)^{-1}\|\le\frac{1}{1 - \|T\|}.
証明(定理 6.1)

∥Tn∥≤∥T∥n\|T^n\|\le\|T\|^n なので ∑n∥Tn∥≤∑n∥T∥n=(1−∥T∥)−1<∞\sum_n\|T^n\|\le\sum_n\|T\|^n = (1 - \|T\|)^{-1} < \infty。B(X)\mathcal{B}(X) は完備なので絶対収束級数は収束し、和 S=∑nTnS = \sum_nT^n のノルムは同じ値で抑えられます。部分和 SN=∑n=0NTnS_N = \sum_{n=0}^{N}T^n について (1−T)SN=SN(1−T)=1−TN+1(1 - T)S_N = S_N(1 - T) = 1 - T^{N+1} で、∥TN+1∥→0\|T^{N+1}\|\to0 なので N→∞N\to\infty として (1−T)S=S(1−T)=1(1 - T)S = S(1 - T) = 1。

系 6.2(可逆元の集合は開)✓

A∈B(X)A\in\mathcal{B}(X) が可逆(有界な逆をもつ)で ∥B−A∥<∥A−1∥−1\|B - A\| < \|A^{-1}\|^{-1} なら BB も可逆で、

∥B−1−A−1∥≤∥A−1∥2∥B−A∥1−∥A−1∥∥B−A∥.\|B^{-1} - A^{-1}\|\le\frac{\|A^{-1}\|^2\|B - A\|}{1 - \|A^{-1}\|\|B - A\|}.

とくに可逆元の集合は B(X)\mathcal{B}(X) の開集合で、A↦A−1A\mapsto A^{-1} はその上で連続である。

証明(系 6.2)

B=A(1−A−1(A−B))B = A\bigl(1 - A^{-1}(A - B)\bigr) で ∥A−1(A−B)∥<1\|A^{-1}(A - B)\| < 1 なので、定理 6.1 から括弧内は可逆、B−1=∑n≥0(A−1(A−B))nA−1B^{-1} = \sum_{n\ge0}\bigl(A^{-1}(A - B)\bigr)^nA^{-1} です。B−1−A−1B^{-1} - A^{-1} は n≥1n\ge1 の項の和で、ノルムは ∑n≥1(∥A−1∥∥B−A∥)n∥A−1∥\sum_{n\ge1}(\|A^{-1}\|\|B - A\|)^n\|A^{-1}\| で抑えられます。

定義 6.3(レゾルベント集合とスペクトル)↗

A∈B(X)A\in\mathcal{B}(X) に対し、A−zA - z が全単射となる z∈Cz\in\mathbb{C} の集合をレゾルベント集合 ρ(A)\rho(A)、その補集合 σ(A)=C∖ρ(A)\sigma(A) = \mathbb{C}\setminus\rho(A) をスペクトルという。z∈ρ(A)z\in\rho(A) に対し (A−z)−1(A - z)^{-1} をレゾルベントという。σ(A)\sigma(A) のうち A−zA - z が単射でないもの(固有値)の集合を点スペクトルという。σ(A)≠∅\sigma(A)\neq\emptyset のとき r(A)=sup⁡{∣λ∣:λ∈σ(A)}r(A) = \sup\{|\lambda| : \lambda\in\sigma(A)\} をスペクトル半径という。

A−zA - z が全単射なら、その逆は開写像定理により自動的に有界です。したがって z∈ρ(A)z\in\rho(A) は「A−zA - z が B(X)\mathcal{B}(X) で可逆」と同じことです。有限次元ではスペクトルは固有値の集合ですが、無限次元では単射でも全射でない場合があり、点スペクトルはスペクトルの一部にすぎません。

定理 6.4(レゾルベント恒等式)✓

A∈B(X)A\in\mathcal{B}(X)、z,w∈ρ(A)z, w\in\rho(A) とし R(z)=(A−z)−1R(z) = (A - z)^{-1} と置く。このとき

R(z)−R(w)=(z−w)R(z)R(w),R(z) - R(w) = (z - w)R(z)R(w),

および R(z)R(w)=R(w)R(z)R(z)R(w) = R(w)R(z) が成り立つ。

証明(定理 6.4)

(A−w)−(A−z)=z−w(A - w) - (A - z) = z - w の左から R(z)R(z)、右から R(w)R(w) を掛けると R(z)−R(w)=(z−w)R(z)R(w)R(z) - R(w) = (z - w)R(z)R(w)。zz と ww を入れ替えた式 R(w)−R(z)=(w−z)R(w)R(z)R(w) - R(z) = (w - z)R(w)R(z) と比べれば、z≠wz\ne w のとき R(z)R(w)=R(w)R(z)R(z)R(w) = R(w)R(z) です(z=wz = w なら自明)。

命題 6.5(レゾルベントの解析性)✓

A∈B(X)A\in\mathcal{B}(X) とする。ρ(A)\rho(A) は開集合で、z0∈ρ(A)z_0\in\rho(A) と ∣z−z0∣<∥R(z0)∥−1|z - z_0| < \|R(z_0)\|^{-1} に対して

R(z)=∑n=0∞(z−z0)nR(z0)n+1(ノルム収束)R(z) = \sum_{n=0}^{\infty}(z - z_0)^nR(z_0)^{n+1}\quad(\text{ノルム収束})

が成り立つ。また ∣z∣>∥A∥|z| > \|A\| なら z∈ρ(A)z\in\rho(A) で、R(z)=−∑n=0∞z−n−1AnR(z) = -\sum_{n=0}^{\infty}z^{-n-1}A^n、∥R(z)∥≤(∣z∣−∥A∥)−1\|R(z)\|\le(|z| - \|A\|)^{-1} である。

証明(命題 6.5)

A−z=(A−z0)−(z−z0)=(A−z0)(1−(z−z0)R(z0))A - z = (A - z_0) - (z - z_0) = (A - z_0)\bigl(1 - (z - z_0)R(z_0)\bigr) で、∥(z−z0)R(z0)∥<1\|(z - z_0)R(z_0)\| < 1 なので 定理 6.1 より可逆、逆は ∑n(z−z0)nR(z0)n⋅R(z0)\sum_n(z - z_0)^nR(z_0)^n\cdot R(z_0) です。後半は A−z=−z(1−A/z)A - z = -z(1 - A/z) に ∥A/z∥<1\|A/z\| < 1 でノイマン級数を適用し、ノルムの評価は ∣z∣−1(1−∥A∥/∣z∣)−1|z|^{-1}(1 - \|A\|/|z|)^{-1} です。

定理 6.6(スペクトルは空でないコンパクト集合)✓

X≠{0}X\ne\{0\} を複素 Banach 空間、A∈B(X)A\in\mathcal{B}(X) とする。σ(A)\sigma(A) は {∣z∣≤∥A∥}\{|z|\le\|A\|\} に含まれる空でないコンパクト集合である。

証明(定理 6.6)

命題 6.5 より ρ(A)\rho(A) は開で {∣z∣>∥A∥}\{|z| > \|A\|\} を含むので、σ(A)\sigma(A) は閉かつ有界、すなわちコンパクトです。

空でないことを示します。σ(A)=∅\sigma(A) = \emptyset と仮定し、ℓ\ell を Banach 空間 B(X)\mathcal{B}(X) 上の任意の有界線形汎関数として f(z)=ℓ(R(z))f(z) = \ell(R(z)) と置きます。命題 6.5 の展開に ℓ\ell を作用させると ff は各点の近傍で収束冪級数で表されるので、ff は C\mathbb{C} 全体で正則です。また ∣z∣>2∥A∥|z| > 2\|A\| では ∣f(z)∣≤∥ℓ∥(∣z∣−∥A∥)−1→0|f(z)|\le\|\ell\|(|z| - \|A\|)^{-1}\to0 なので ff は有界で、Liouville の定理から定数、さらに無限遠で 00 なので f≡0f\equiv0。Hahn–Banach の定理から有界線形汎関数は B(X)\mathcal{B}(X) の点を分離するので、R(z)=0R(z) = 0 です。しかし R(z)R(z) は可逆で X≠{0}X\ne\{0\} なので R(z)≠0R(z)\ne0。矛盾です。

次の公式は、スペクトルの大きさ r(A)r(A) を、冪のノルム ∥An∥\|A^n\| だけから読み取れることを述べます。証明は 2 段で、(i) λ∈σ(A)\lambda\in\sigma(A) なら λn∈σ(An)\lambda^n\in\sigma(A^n) となることから r(A)r(A) を ∥An∥1/n\|A^n\|^{1/n} で上から押さえ、(ii) レゾルベントの冪級数展開が収束する範囲を調べて逆向きの不等式を示します。

定理 6.7(スペクトル半径公式(Gelfand))✓

X≠{0}X\ne\{0\} を複素 Banach 空間、A∈B(X)A\in\mathcal{B}(X) とする。極限 lim⁡n→∞∥An∥1/n\lim_{n\to\infty}\|A^n\|^{1/n} は存在し、

r(A)=lim⁡n→∞∥An∥1/n=inf⁡n≥1∥An∥1/nr(A) = \lim_{n\to\infty}\|A^n\|^{1/n} = \inf_{n\ge1}\|A^n\|^{1/n}

が成り立つ。とくに r(A)≤∥A∥r(A)\le\|A\|。

証明(定理 6.7)

(i) r(A)≤inf⁡n∥An∥1/nr(A)\le\inf_n\|A^n\|^{1/n}。 λ∈σ(A)\lambda\in\sigma(A) とします。Q=∑k=0n−1λn−1−kAkQ = \sum_{k=0}^{n-1}\lambda^{n-1-k}A^k と置くと An−λn=(A−λ)Q=Q(A−λ)A^n - \lambda^n = (A - \lambda)Q = Q(A - \lambda) です。もし An−λnA^n - \lambda^n が可逆で逆が TT なら、(A−λ)(QT)=1(A - \lambda)(QT) = 1 かつ (TQ)(A−λ)=1(TQ)(A - \lambda) = 1 となり、A−λA - \lambda が可逆になって矛盾します。よって λn∈σ(An)\lambda^n\in\sigma(A^n) で、定理 6.6 から ∣λ∣n≤∥An∥|\lambda|^n\le\|A^n\|。

(ii) lim sup⁡n∥An∥1/n≤r(A)\limsup_n\|A^n\|^{1/n}\le r(A)。 ∣z∣>r(A)|z| > r(A) を固定します。ℓ∈B(X)∗\ell\in\mathcal{B}(X)^* に対し f(z)=ℓ(R(z))f(z) = \ell(R(z)) は {∣z∣>r(A)}\{|z| > r(A)\} で正則で、命題 6.5 より ∣z∣>∥A∥|z| > \|A\| では f(z)=−∑nℓ(An)z−n−1f(z) = -\sum_n\ell(A^n)z^{-n-1} です。円環領域 {∣z∣>r(A)}\{|z| > r(A)\} で正則な関数の Laurent 展開は一意で、その領域全体で収束するので、この級数は ∣z∣>r(A)|z| > r(A) のすべての zz で収束します。とくに項は有界で、sup⁡n∣ℓ(Anz−n−1)∣<∞\sup_n|\ell(A^nz^{-n-1})| < \infty が全 ℓ\ell について成り立ちます。B(X)\mathcal{B}(X) を(Hahn–Banach により等長な)標準埋め込みで双対の双対に入れて一様有界性原理を使うと、Cz=sup⁡n∥An∥∣z∣−n−1<∞C_z = \sup_n\|A^n\||z|^{-n-1} < \infty。よって ∥An∥1/n≤(Cz∣z∣)1/n∣z∣→∣z∣\|A^n\|^{1/n}\le(C_z|z|)^{1/n}|z|\to|z| で、lim sup⁡n∥An∥1/n≤∣z∣\limsup_n\|A^n\|^{1/n}\le|z|。∣z∣↓r(A)|z|\downarrow r(A) とすれば主張を得ます。

(i) と (ii) より lim sup⁡≤r(A)≤inf⁡≤lim inf⁡\limsup\le r(A)\le\inf\le\liminf なので極限が存在し、すべて等しくなります。

この公式は、スペクトルという代数的な量が、ノルムという解析的な量だけで決まることを述べています。r(A)<1r(A) < 1 なら ∑nAn\sum_n A^n が収束する(ノルムが 11 以上でも)という形で、反復法や摂動級数の収束判定に使われます。

系 6.8(正規作用素のスペクトル半径)✓

H≠{0}\mathcal{H}\ne\{0\} とする。A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) が正規なら r(A)=∥A∥r(A) = \|A\|。とくに自己共役作用素とユニタリ作用素で成り立つ。

証明(系 6.8)

まず自己共役な BB について、定理 3.4 から ∥B2∥=∥B∗B∥=∥B∥2\|B^2\| = \|B^*B\| = \|B\|^2。AA が正規なら A∗AA^*A は自己共役で、正規性より (A2)∗A2=A∗A∗AA=(A∗A)(A∗A)(A^2)^*A^2 = A^*A^*AA = (A^*A)(A^*A) なので

∥A2∥2=∥(A2)∗A2∥=∥(A∗A)2∥=∥A∗A∥2=∥A∥4,\|A^2\|^2 = \|(A^2)^*A^2\| = \|(A^*A)^2\| = \|A^*A\|^2 = \|A\|^4,

すなわち ∥A2∥=∥A∥2\|A^2\| = \|A\|^2。A2A^2 も正規なので帰納的に ∥A2k∥=∥A∥2k\|A^{2^k}\| = \|A\|^{2^k} で、定理 6.7 の極限を部分列 n=2kn = 2^k に沿ってとれば r(A)=∥A∥r(A) = \|A\|。

命題 6.9(共役のスペクトル)✓

A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) に対して σ(A∗)={zˉ:z∈σ(A)}\sigma(A^*) = \{\bar z : z\in\sigma(A)\}。UU がユニタリなら σ(U)⊂{∣z∣=1}\sigma(U)\subset\{|z| = 1\}。

証明(命題 6.9)

命題 3.3 の (4) と (A−z)∗=A∗−zˉ(A - z)^* = A^* - \bar z より、A−zA - z が可逆なら A∗−zˉA^* - \bar z も可逆で、A∗∗=AA^{**} = A から逆も成り立ちます。ユニタリなら ∥U∥=∥U−1∥=1\|U\| = \|U^{-1}\| = 1 なので ∣z∣>1|z| > 1 は ρ(U)\rho(U) に属し、0<∣z∣<10 < |z| < 1 では U−z=U(1−zU−1)U - z = U(1 - zU^{-1}) がノイマン級数で可逆、z=0z = 0 では UU 自身が可逆です。

次の定理は、自己共役作用素のスペクトルが実数の区間 [m,M][m, M] に入り、その両端が実際にスペクトルに属することを述べます。証明ではまず、有界作用素 TT が可逆になるための十分条件(下からの評価と Ker(T∗)={0}\mathrm{Ker}(T^*)=\{0\} であること)を用意し、それを各場合に当てはめていきます。

定理 6.10(自己共役作用素のスペクトル)✓

H≠{0}\mathcal{H}\ne\{0\}、A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) を自己共役とし、

m=inf⁡∥x∥=1⟨x,Ax⟩,M=sup⁡∥x∥=1⟨x,Ax⟩m = \inf_{\|x\| = 1}\langle x, Ax\rangle,\qquad M = \sup_{\|x\| = 1}\langle x, Ax\rangle

と置く。このとき σ(A)⊂[m,M]⊂R\sigma(A)\subset[m, M]\subset\mathbb{R}、m,M∈σ(A)m, M\in\sigma(A) であり、z∉Rz\notin\mathbb{R} に対して ∥(A−z)−1∥≤∣Im z∣−1\|(A - z)^{-1}\|\le|\mathrm{Im}\,z|^{-1}。さらに ∥A∥=max⁡(∣m∣,∣M∣)\|A\| = \max(|m|, |M|) である。

証明(定理 6.10)

下からの評価による可逆性。 T∈B(H)T\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) が、ある c>0c > 0 についてすべての xx で ∥Tx∥≥c∥x∥\|Tx\|\ge c\|x\| を満たし、かつ Ker(T∗)={0}\mathrm{Ker}(T^*) = \{0\} なら、TT は可逆です。実際、TT は単射で、Txn→yTx_n\to y なら ∥xn−xm∥≤c−1∥Txn−Txm∥\|x_n - x_m\|\le c^{-1}\|Tx_n - Tx_m\| より (xn)(x_n) は Cauchy 列、その極限 xx は Tx=yTx = y を満たすので値域は閉です。さらに 命題 3.3 の (3) より Ran(T)⊥=Ker(T∗)={0}\mathrm{Ran}(T)^\perp = \mathrm{Ker}(T^*) = \{0\} なので全射です。

非実数。 z=a+ibz = a + ib, b≠0b\ne0 とします。A−aA - a が自己共役なので ⟨(A−a)x,x⟩\langle (A - a)x, x\rangle は実数で、

∥(A−z)x∥2=∥(A−a)x∥2+b2∥x∥2−ib⟨(A−a)x,x⟩+ib⟨x,(A−a)x⟩=∥(A−a)x∥2+b2∥x∥2.\|(A - z)x\|^2 = \|(A - a)x\|^2 + b^2\|x\|^2 - ib\langle (A-a)x, x\rangle + ib\langle x, (A-a)x\rangle = \|(A - a)x\|^2 + b^2\|x\|^2.

よって ∥(A−z)x∥≥∣b∣∥x∥\|(A - z)x\|\ge|b|\|x\|、同様に ∥(A−zˉ)x∥≥∣b∣∥x∥\|(A - \bar z)x\|\ge|b|\|x\| で、後者から Ker((A−z)∗)=Ker(A−zˉ)={0}\mathrm{Ker}((A - z)^*) = \mathrm{Ker}(A - \bar z) = \{0\}。上の議論で A−zA - z は可逆で、∥(A−z)−1∥≤∣b∣−1\|(A - z)^{-1}\|\le|b|^{-1} です。

[m,M][m, M] の外の実数。 λ>M\lambda > M なら ⟨x,(λ−A)x⟩≥(λ−M)∥x∥2\langle x, (\lambda - A)x\rangle\ge(\lambda - M)\|x\|^2 と Cauchy–Schwarz から ∥(A−λ)x∥≥(λ−M)∥x∥\|(A - \lambda)x\|\ge(\lambda - M)\|x\| で、A−λA - \lambda は自己共役なので Ker((A−λ)∗)=Ker(A−λ)={0}\mathrm{Ker}((A-\lambda)^*) = \mathrm{Ker}(A - \lambda) = \{0\} となり、上の議論で可逆。λ<m\lambda < m も同様です。

M∈σ(A)M\in\sigma(A)。 B=M−A≥0B = M - A\ge0 と置きます。正作用素の 2 次形式 (x,y)↦⟨x,By⟩(x, y)\mapsto\langle x, By\rangle は半正定値なので Cauchy–Schwarz の不等式 ∣⟨y,Bx⟩∣2≤⟨y,By⟩⟨x,Bx⟩|\langle y, Bx\rangle|^2\le\langle y, By\rangle\langle x, Bx\rangle が成り立ち、y=Bxy = Bx とすると

∥Bx∥4≤⟨Bx,B2x⟩⟨x,Bx⟩≤∥B∥3∥x∥2⟨x,Bx⟩.\|Bx\|^4\le\langle Bx, B^2x\rangle\langle x, Bx\rangle\le\|B\|^3\|x\|^2\langle x, Bx\rangle.

∥xn∥=1\|x_n\| = 1, ⟨xn,Axn⟩→M\langle x_n, Ax_n\rangle\to M となる列をとれば ⟨xn,Bxn⟩→0\langle x_n, Bx_n\rangle\to0 なので ∥Bxn∥→0\|Bx_n\|\to0。もし BB が可逆なら 1=∥xn∥≤∥B−1∥∥Bxn∥→01 = \|x_n\|\le\|B^{-1}\|\|Bx_n\|\to0 で矛盾するので、M∈σ(A)M\in\sigma(A)。mm についても A−m≥0A - m\ge0 で同様です。

ノルム。 系 6.8 より ∥A∥=r(A)\|A\| = r(A) で、σ(A)⊂[m,M]\sigma(A)\subset[m, M] かつ m,M∈σ(A)m, M\in\sigma(A) なので r(A)=max⁡(∣m∣,∣M∣)r(A) = \max(|m|, |M|)。

例 6.11(シフトのスペクトルは閉円板)

例 5.3 の片側シフト SS について σ(S)=σ(S∗)={∣z∣≤1}\sigma(S) = \sigma(S^*) = \{|z|\le1\} です。∣λ∣<1|\lambda| < 1 に対し xλ=∑n≥1λn−1en∈ℓ2x_\lambda = \sum_{n\ge1}\lambda^{n-1}e_n\in\ell^2 は S∗xλ=λxλS^*x_\lambda = \lambda x_\lambda を満たすので、開円板は S∗S^* の点スペクトルに含まれます。命題 6.9 から開円板の共役、すなわち開円板自身が σ(S)\sigma(S) に含まれ、スペクトルは閉で ∥S∥=1\|S\| = 1 なので σ(S)={∣z∣≤1}\sigma(S) = \{|z|\le1\}。一方 SS は固有値をもちません(Sx=λxSx = \lambda x を成分で書くと λx1=0\lambda x_1 = 0, λxn+1=xn\lambda x_{n+1} = x_n から x=0x = 0)。

等長作用素なのにスペクトルが単位円に乗らないのは、SS がユニタリでない(全射でない)ためです。命題 6.9 のユニタリについての主張は、全射性を外すと成り立ちません。

例 6.12(極分解の V はユニタリにとれない)

S∗S=1S^*S = 1 なので ∣S∣=1|S| = 1、定理 4.11 の VV は SS 自身です。S=U∣S∣S = U|S| を満たす作用素は U=SU = S しかないので、極分解の部分等長をユニタリに取り替えることはできません。有限次元では dim⁡Ker(A)=dim⁡Ran(A)⊥\dim\mathrm{Ker}(A) = \dim\mathrm{Ran}(A)^\perp が自動的に成り立つので VV をユニタリに延長できますが、SS では Ker(S)={0}\mathrm{Ker}(S) = \{0\}, Ran(S)⊥=Ce1\mathrm{Ran}(S)^\perp = \mathbb{C}e_1 で次元が合いません。

例 6.13(正規でない作用素:Volterra 作用素)

L2([0,1])L^2([0,1]) 上で (Kf)(x)=∫0xf(t) dt(Kf)(x) = \int_0^xf(t)\,dt と置きます。帰納法で

(Knf)(x)=∫0x(x−t)n−1(n−1)!f(t) dt(K^nf)(x) = \int_0^x\frac{(x - t)^{n-1}}{(n-1)!}f(t)\,dt

が確かめられ、核が 1/(n−1)!1/(n-1)! 以下なので Cauchy–Schwarz から ∥Kn∥≤1/(n−1)!\|K^n\|\le1/(n-1)!。よって ∥Kn∥1/n→0\|K^n\|^{1/n}\to0 で、定理 6.7 と 定理 6.6 から σ(K)={0}\sigma(K) = \{0\}。ところが K≠0K\ne0 なので r(K)=0<∥K∥r(K) = 0 < \|K\| です。系 6.8 は正規性を外すと成り立たず、スペクトルだけからノルムは分かりません。

また、スペクトルの非空性(定理 6.6)は複素数体であることに依存しています。実 Banach 空間 R2\mathbb{R}^2 上の 90∘90^\circ 回転は実数の範囲に固有値をもたず、R−λR - \lambda はすべての実数 λ\lambda で可逆です。

演習 7.1標準

φ∈C([0,1])\varphi\in C([0,1])(複素数値)とし、L2([0,1])L^2([0,1]) 上の掛け算作用素 MφM_\varphi を考える(例 3.5)。∥Mφ∥=max⁡∣φ∣\|M_\varphi\| = \max|\varphi| と σ(Mφ)=φ([0,1])\sigma(M_\varphi) = \varphi([0,1]) を示せ。また MφM_\varphi が正規であることを確かめよ。

解答

∥Mφ∥≤max⁡∣φ∣\|M_\varphi\|\le\max|\varphi| は明らかです。∣φ∣|\varphi| が最大値をとる点 x0x_0 と ε>0\varepsilon > 0 について、連続性から x0x_0 を含む正の長さの区間 II 上で ∣φ∣≥max⁡∣φ∣−ε|\varphi|\ge\max|\varphi| - \varepsilon。f=χI/∣I∣f = \chi_I/\sqrt{|I|} とすると ∥Mφf∥≥max⁡∣φ∣−ε\|M_\varphi f\|\ge\max|\varphi| - \varepsilon なので等号が成り立ちます。

z∉φ([0,1])z\notin\varphi([0,1]) なら、φ([0,1])\varphi([0,1]) はコンパクトなので δ=min⁡∣φ−z∣>0\delta = \min|\varphi - z| > 0 で、1/(φ−z)1/(\varphi - z) は有界連続、M1/(φ−z)M_{1/(\varphi - z)} が Mφ−zM_\varphi - z の有界な逆です。z=φ(x0)z = \varphi(x_0) なら、上と同様に x0x_0 の近くの区間 InI_n で ∣φ−z∣≤1/n|\varphi - z|\le1/n とし fn=χIn/∣In∣f_n = \chi_{I_n}/\sqrt{|I_n|} とおくと ∥fn∥=1\|f_n\| = 1, ∥(Mφ−z)fn∥≤1/n\|(M_\varphi - z)f_n\|\le1/n なので、Mφ−zM_\varphi - z は有界な逆をもちません(もてば 1≤∥(Mφ−z)−1∥/n→01\le\|(M_\varphi - z)^{-1}\|/n\to0)。

Mφ∗=MφˉM_\varphi^* = M_{\bar\varphi} なので Mφ∗Mφ=M∣φ∣2=MφMφ∗M_\varphi^*M_\varphi = M_{|\varphi|^2} = M_\varphi M_\varphi^*。正規なので 系 6.8 と整合して r(Mφ)=max⁡∣φ∣=∥Mφ∥r(M_\varphi) = \max|\varphi| = \|M_\varphi\| です。

演習 7.2標準

An,Bn∈B(H)A_n, B_n\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) が An→AA_n\to A、Bn→BB_n\to B(ともに強収束、列)とする。AnBn→ABA_nB_n\to AB(強収束)を示せ。例 5.3 で弱収束について同じ主張が崩れたのはなぜか。

解答

命題 5.4 より C=sup⁡n∥An∥<∞C = \sup_n\|A_n\| < \infty。x∈Hx\in\mathcal{H} に対し

∥(AnBn−AB)x∥≤∥An∥∥(Bn−B)x∥+∥(An−A)Bx∥≤C∥(Bn−B)x∥+∥(An−A)(Bx)∥\|(A_nB_n - AB)x\|\le\|A_n\|\|(B_n - B)x\| + \|(A_n - A)Bx\|\le C\|(B_n - B)x\| + \|(A_n - A)(Bx)\|

で、右辺の 2 項はともに 00 に収束します(第 2 項は強収束をベクトル BxBx に適用)。弱収束の場合は、第 1 項に相当する ⟨y,An(Bn−B)x⟩\langle y, A_n(B_n - B)x\rangle を抑えるのに (Bn−B)x(B_n - B)x のノルムの収束が必要ですが、弱収束はそれを保証しません。実際 (S∗)nSn=1(S^*)^nS^n = 1 では SnxS^nx のノルムが減りません。なお、片方だけが強収束していれば十分であることも上の評価から読み取れます(Bn→BB_n\to B が強、An→AA_n\to A が弱なら AnBn→ABA_nB_n\to AB は弱。弱収束する列も一様有界性原理を 2 回使えば sup⁡n∥An∥<∞\sup_n\|A_n\| < \infty となるので、同じ評価が使えます)。

演習 7.3易

片側シフト SS について、S∗S^* の極分解 S∗=V∣S∗∣S^* = V|S^*| を求め、VV の始空間と終空間を答えよ。

解答

(S∗)∗S∗=SS∗=1−P1(S^*)^*S^* = SS^* = 1 - P_1(P1P_1 は Ce1\mathbb{C}e_1 への射影)は直交射影なので、その平方根は自分自身で ∣S∗∣=1−P1|S^*| = 1 - P_1 です(射影 QQ は Q≥0Q\ge0, Q2=QQ^2 = Q を満たすので 補題 4.9 の一意性から Q1/2=QQ^{1/2} = Q)。S∗(1−P1)=S∗S^*(1 - P_1) = S^*(S∗e1=0S^*e_1 = 0 より)なので V=S∗V = S^* で、Ker(S∗)=Ce1=Ker(V)\mathrm{Ker}(S^*) = \mathbb{C}e_1 = \mathrm{Ker}(V) も満たします。始空間は {e1}⊥\{e_1\}^\perp、終空間は Ran(S∗)=H\mathrm{Ran}(S^*) = \mathcal{H} です。命題 4.8 と照らすと V∗V=SS∗=1−P1V^*V = SS^* = 1 - P_1、VV∗=S∗S=1VV^* = S^*S = 1 で、確かにそれぞれ始空間・終空間への射影になっています。

演習 7.4難

A∈B(H)A\in\mathcal{B}(\mathcal{H}) を自己共役、z∈ρ(A)z\in\rho(A) とする。∥(A−z)−1∥=1/dist(z,σ(A))\|(A - z)^{-1}\| = 1/\mathrm{dist}(z, \sigma(A)) を示せ。

解答

R=(A−z)−1R = (A - z)^{-1} と置きます。命題 3.3 の (4) より R∗=(A−zˉ)−1R^* = (A - \bar z)^{-1} で、定理 6.4 から RR と R∗R^* は可換、すなわち RR は正規です。系 6.8 より ∥R∥=r(R)\|R\| = r(R) なので、σ(R)\sigma(R) を求めれば十分です。

RR は可逆(逆は A−zA - z)なので 0∉σ(R)0\notin\sigma(R)。μ≠0\mu\ne0 について

R−μ=R(1−μ(A−z))=−μR(A−z−μ−1)R - \mu = R\bigl(1 - \mu(A - z)\bigr) = -\mu R\bigl(A - z - \mu^{-1}\bigr)

で、RR と −μ-\mu は可逆なので、R−μR - \mu が可逆   ⟺  \iff A−(z+μ−1)A - (z + \mu^{-1}) が可逆。よって μ∈σ(R)\mu\in\sigma(R)   ⟺  \iff z+μ−1∈σ(A)z + \mu^{-1}\in\sigma(A)、すなわち σ(R)={(λ−z)−1:λ∈σ(A)}\sigma(R) = \{(\lambda - z)^{-1} : \lambda\in\sigma(A)\}。したがって r(R)=sup⁡λ∈σ(A)∣λ−z∣−1=1/dist(z,σ(A))r(R) = \sup_{\lambda\in\sigma(A)}|\lambda - z|^{-1} = 1/\mathrm{dist}(z, \sigma(A))(σ(A)\sigma(A) はコンパクトで空でないので距離は正の値として達成されます)。z∉Rz\notin\mathbb{R} なら dist(z,σ(A))≥∣Im z∣\mathrm{dist}(z, \sigma(A))\ge|\mathrm{Im}\,z| なので、定理 6.10 の評価の精密化になっています。

  • M. Reed and B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised and enlarged edition, Academic Press, 1980 — 第 VI 章(有界作用素、作用素の位相、平方根の補題と極分解、スペクトル)。
  • J. B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Springer (GTM 96), 1990 — 第 II 章(Hilbert 空間上の作用素)、第 VII 章(Banach 環とスペクトル半径)。
  • T. Kato, Perturbation Theory for Linear Operators, Springer, 1966(再版 1995) — 第 I・III 章(レゾルベントとその解析性)。
  • 黒田成俊『関数解析』共立出版、1980 — 有界作用素とスペクトルの章。
  • 新井朝雄『ヒルベルト空間と量子力学』共立出版、1997 — 有界作用素と射影・ユニタリ作用素の章。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。