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形式和・単調収束定理・Trotter–加藤の積公式:二次形式で作用素の和と極限を扱う

対象読者: 本テーマの自己共役性の判定 I・II と作用素の収束の章を学び、二次形式の閉性・半群の基本を知っている人。形式和は本文で初めて定義します。

前提となる記事:自己共役性の判定:Kato–Rellich・KLMN・Friedrichs 拡大・Nelson の可換子定理、自己共役性の判定 II:Kato の不等式・Faris–Lavine の定理・Carleman の条件・閉形式の単調収束、作用素の収束と摂動:レゾルベント収束・解析摂動・ミニマックス原理

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2 つの「エネルギー」を表す作用素を足すとき、普通の足し算では、うまく定まらないことがあります。この記事では、作用素そのものではなく、それが決めるエネルギーの式(二次形式)を足すことで、いつでも意味のある和を作ります。さらに、その和が、小さな時間の変化を交互に繰り返す近似から実際に得られることを示します。読み終えると、定義域が合わない作用素の和を扱い、その時間発展を近似の極限として求められるようになります。

  • 下に有界な自己共役作用素 A,BA,B の和は、作用素として D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) の上で考えると自己共役になるとは限りません。これに対し二次形式の和 a+ba+b は Q(A)∩Q(B)Q(A)\cap Q(B) の上の閉形式としていつでも意味をもち、定義域の閉包 K\mathcal{K} の上の自己共役作用素 A∔BA\dotplus B(形式和)を定めます。K≠H\mathcal{K}\ne\mathcal{H} となる例もあります。
  • 作用素の列の極限は、形式の言葉で判定できます。閉形式 qnq_n と qq が「弱収束列に沿った下極限の不等式」と「回復列の存在」の 2 条件を満たせば、(Hn+1)−1Pn→(H+1)−1P(H_n+1)^{-1}P_n\to(H+1)^{-1}P が強収束します。証明はレゾルベントの変分原理 1 本です。
  • この判定法から、減少列の単調収束定理(極限の形式が閉包可能なら、その閉包の作用素へ強レゾルベント収束する。Kato)が出ます。増大列の場合は前章で示しました。
  • Trotter–加藤の積公式: A,BA,B が下に有界なら、和の本質的自己共役性を仮定せずに、t>0t>0 で (e−tA/ne−tB/n)n→e−t(A∔B)P(e^{-tA/n}e^{-tB/n})^n\to e^{-t(A\dotplus B)}P(強収束)が成り立ちます。対称化した積 e−sA/2e−sBe−sA/2e^{-sA/2}e^{-sB}e^{-sA/2} が自己共役で 00 と 11 の間にあることを使うと、Chernoff の n\sqrt n 評価の代わりに O(1/n)O(1/n) のノルム評価が使え、問題は形式の収束に帰着します。
  • 一様に下に有界な自己共役作用素の列について、半群 e−tHne^{-tH_n} が強収束すれば、極限は e−tHPe^{-tH}P の形で、HnH_n は HH へ(射影 PP つきの意味で)強レゾルベント収束します。強収束は「交差項 ⟨e−tHnψ,e−tHmψ⟩\langle e^{-tH_n}\psi,e^{-tH_m}\psi\rangle の収束」だけで判定できます。
  • これらは構成的場の量子論で、紫外切断つきハミルトニアン H0∔VκH_0\dotplus V_\kappa を定め、Feynman–Kac–Nelson 公式を導き、切断を外す極限を取るための関数解析の部分にあたります。

2 次元時空の P(ϕ)2P(\phi)_2 模型では、Gauss 測度の空間 L2(μ0)L^2(\mu_0) の上で、自由ハミルトニアン H0≥0H_0\ge0 に掛け算作用素の相互作用 VV を足します(P(ϕ)2P(\phi)_2 模型)。紫外切断を入れた相互作用 VκV_\kappa は下に有界で、すべての LpL^p に入りますが、下界は切断 κ\kappa とともに −∞-\infty へ落ちていきます。切断を外した VV はもはや下に有界ではありません。ここで次の 3 つの問いが生じます。

  1. 和をどう定義するか。 VκV_\kappa は H0H_0 に比べて小さくないので、Kato–Rellich の定理 は使えません。前章 の Kato の不等式による議論は −Δ-\Delta に特有の構造を使います。H0+VκH_0+V_\kappa が D(H0)∩D(Vκ)D(H_0)\cap D(V_\kappa) の上で本質的自己共役かどうかは、一般には分かりません。
  2. 積公式が使えるか。 Feynman–Kac–Nelson 公式は e−t(H0+Vκ)e^{-t(H_0+V_\kappa)} を e−tH0/Ne^{-tH_0/N} と e−tVκ/Ne^{-tV_\kappa/N} の交互の積で近似して導きます。1 径数群の章 の Trotter 積公式は、和の本質的自己共役性を仮定していました。
  3. 極限をどう取るか。 VκV_\kappa は κ\kappa について単調ではないので、前章 の単調収束定理はそのままでは使えません。

1 への答えが形式和です。作用素の和の代わりに二次形式の和を取れば、閉性は自動的に成り立ちます。2 への答えが Kato(1978)の Trotter–加藤の積公式 で、形式和に対しては何の追加の仮定もなく積公式が成り立ちます。3 については、形式の収束による判定法と、半群の収束から極限の作用素を組み立てる定理を用意します。本章の結果はどれも、「作用素を直接比べる代わりに、形式とレゾルベントと半群を比べる」という一つの考え方の表れです。

閉形式の弱下半連続性レゾルベントの変分原理形式の収束による強レゾルベント収束減少列の単調収束定理Trotter–加藤の積公式(形式和)半群の極限と生成子の構成強収束の判定・グラフ極限切断つき H₀∔V_κ と切断を外す極限
本章の定理の関係。左の 2 つの準備(形式の弱下半連続性とレゾルベントの変分原理)から、形式の収束による判定法を示す。減少列の単調収束定理と Trotter–加藤の積公式はその応用である。右の列は半群の極限から生成子を組み立てる道具で、切断を外す極限に使う。

2. 準備:定義域が稠密とは限らない閉形式

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以下 H\mathcal{H} は Hilbert 空間です。部分空間 Q(q)⊂HQ(q)\subset\mathcal{H} 上の非負対称形式 qq は、Q(q)Q(q) の外で q[ψ]=+∞q[\psi]=+\infty とおいて H\mathcal{H} 上の [0,∞][0,\infty] 値関数とみなします(q[ψ]=q(ψ,ψ)q[\psi]=q(\psi,\psi))。qq が閉であるとは、∥ψ∥+12=q[ψ]+∥ψ∥2\|\psi\|_{+1}^2=q[\psi]+\|\psi\|^2 について Q(q)Q(q) が完備であることで、この定義(定義 4.1[自己共役性の判定])は Q(q)Q(q) の稠密性を使いません。閉であることは、[0,∞][0,\infty] 値関数 qq が H\mathcal{H} 上で下半連続であることと同値です(補題 7.1[自己共役性の判定 II])。下に有界な形式 q≥−αq\ge-\alpha は、q+α∥⋅∥2q+\alpha\|\cdot\|^2 が非負閉であるとき閉といいます。

定義 2.1(閉形式に対応する部分空間上の作用素)↗

qq を q≥−αq\ge-\alpha を満たす閉形式とし、Kq=Q(q)‾\mathcal{K}_q=\overline{Q(q)}、PqP_q を Kq\mathcal{K}_q への直交射影とする。qq を Hilbert 空間 Kq\mathcal{K}_q の稠密な部分空間 Q(q)Q(q) 上の閉形式とみて、定理 4.2[自己共役性の判定] により得られる Kq\mathcal{K}_q 上の自己共役作用素 Hq≥−αH_q\ge-\alpha を、qq に対応する作用素という。Kq\mathcal{K}_q 上の有界作用素 f(Hq)f(H_q) は、Kq⊥\mathcal{K}_q^\perp 上で 00 とおいて H\mathcal{H} 上の作用素 f(Hq)Pqf(H_q)P_q とみなす。

∥⋅∥+1\|\cdot\|_{+1} は Kq\mathcal{K}_q で計っても H\mathcal{H} で計っても同じなので、qq は Kq\mathcal{K}_q の中でも閉です。Q(q)Q(q) が稠密なら Kq=H\mathcal{K}_q=\mathcal{H}、Pq=1P_q=1 で、これは表現定理の作用素そのものです。

自己共役作用素 AA が A≥−αA\ge-\alpha を満たすとき、s(λ)=(λ+α)+1/2s(\lambda)=(\lambda+\alpha)_+^{1/2} として (A+α)1/2=s(A)(A+\alpha)^{1/2}=s(A) とおき、

Q(A)=D((A+α)1/2),a(φ,ψ)=⟨(A+α)1/2φ,(A+α)1/2ψ⟩−α⟨φ,ψ⟩Q(A)=D\bigl((A+\alpha)^{1/2}\bigr),\qquad a(\varphi,\psi)=\bigl\langle(A+\alpha)^{1/2}\varphi,(A+\alpha)^{1/2}\psi\bigr\rangle-\alpha\langle\varphi,\psi\rangle

を AA の形式と呼びます。表現定理の後半により aa は閉形式です。μψ\mu_\psi を AA のスペクトル測度に関する ψ\psi の測度(μψ(B)=⟨ψ,EA(B)ψ⟩\mu_\psi(B)=\langle\psi,E_A(B)\psi\rangle)とします。

次の補題のねらいは、作用素 AA から作った形式に表現定理を当てると、もとの AA が戻ってくることの確認です。証明の細かい定義域の議論は、スペクトル積分の定義域が正しく噛み合うことを一つずつ確かめているだけです。

補題 2.2(自己共役作用素の形式)✓

A≥−αA\ge-\alpha を自己共役作用素、aa をその形式とする。

  1. μψ((−∞,−α))=0\mu_\psi((-\infty,-\alpha))=0 であり、Q(A)={ψ:∫∣λ∣ dμψ<∞}Q(A)=\{\psi:\int|\lambda|\,d\mu_\psi<\infty\}、a[ψ]=∫λ dμψ(λ)a[\psi]=\int\lambda\,d\mu_\psi(\lambda)。Q(A)Q(A) の外では ∫λ dμψ=+∞\int\lambda\,d\mu_\psi=+\infty で、a[ψ]=+∞a[\psi]=+\infty の規約と合う。
  2. D(A)⊂Q(A)D(A)\subset Q(A) で、φ∈Q(A)\varphi\in Q(A)、ψ∈D(A)\psi\in D(A) について a(φ,ψ)=⟨φ,Aψ⟩a(\varphi,\psi)=\langle\varphi,A\psi\rangle。
  3. aa に対応する作用素は AA 自身である。
証明(補題 2.2)

I(f)=∫f dEAI(f)=\int f\,dE_A と書きます(定義 4.2[スペクトル定理と関数計算])。

  1. Bn=[−n,−α−1/n]B_n=[-n,-\alpha-1/n] とし、ψ∈Ran EA(Bn)\psi\in\mathrm{Ran}\,E_A(B_n) とします。命題 4.1[スペクトル定理と関数計算] の 3 から μψ\mu_\psi は BnB_n に集中するので、ψ∈D(A)\psi\in D(A) で、Aψ=I(λ1Bn)ψA\psi=I(\lambda\mathbf{1}_{B_n})\psi、⟨ψ,Aψ⟩=∫Bnλ dμψ≤(−α−1/n)∥ψ∥2\langle\psi,A\psi\rangle=\int_{B_n}\lambda\,d\mu_\psi\le(-\alpha-1/n)\|\psi\|^2 です。A≥−αA\ge-\alpha と比べて ψ=0\psi=0。よって EA(Bn)=0E_A(B_n)=0 で、n→∞n\to\infty として EA((−∞,−α))=0E_A((-\infty,-\alpha))=0 です。定理 4.3[スペクトル定理と関数計算] の 1 から Q(A)=Ds={∫(λ+α) dμψ<∞}Q(A)=D_s=\{\int(\lambda+\alpha)\,d\mu_\psi<\infty\}、∥(A+α)1/2ψ∥2=∫(λ+α) dμψ\|(A+\alpha)^{1/2}\psi\|^2=\int(\lambda+\alpha)\,d\mu_\psi で、μψ\mu_\psi が [−α,∞)[-\alpha,\infty) に集中することから残りの主張が出ます。

  2. ψ∈D(A)\psi\in D(A) なら ∫λ2dμψ<∞\int\lambda^2d\mu_\psi<\infty なので ∫(λ+α)dμψ<∞\int(\lambda+\alpha)d\mu_\psi<\infty、すなわち ψ∈Q(A)\psi\in Q(A)。sn=s1{s≤n}s_n=s\mathbf{1}_{\{s\le n\}} とおくと s sn=s21{s2≤n2}s\,s_n=s^2\mathbf{1}_{\{s^2\le n^2\}} は有界で、I(s)I(sn)⊂I(s sn)I(s)I(s_n)\subset I(s\,s_n) かつ D(I(s)I(sn))=Ds sn=HD(I(s)I(s_n))=D_{s\,s_n}=\mathcal{H}(定理 4.3[スペクトル定理と関数計算] の 3)。よって I(sn)ψ∈D(I(s))I(s_n)\psi\in D(I(s)) かつ I(s)I(sn)ψ=I(s21{s2≤n2})ψI(s)I(s_n)\psi=I(s^2\mathbf{1}_{\{s^2\le n^2\}})\psi で、n→∞n\to\infty のとき左辺の I(sn)ψI(s_n)\psi は I(s)ψI(s)\psi に、右辺は非有界関数のスペクトル積分の定義により I(s2)ψI(s^2)\psi に収束します。I(s)I(s) は閉なので I(s)ψ∈D(I(s))I(s)\psi\in D(I(s))、I(s)I(s)ψ=I(s2)ψ=(A+α)ψI(s)I(s)\psi=I(s^2)\psi=(A+\alpha)\psi(s2=λ+αs^2=\lambda+\alpha が μψ\mu_\psi-a.e. に成り立ち、定義の極限を比べればよい)。I(s)I(s) は自己共役なので、φ∈Q(A)\varphi\in Q(A) について ⟨I(s)φ,I(s)ψ⟩=⟨φ,(A+α)ψ⟩\langle I(s)\varphi,I(s)\psi\rangle=\langle\varphi,(A+\alpha)\psi\rangle で、α⟨φ,ψ⟩\alpha\langle\varphi,\psi\rangle を引けば主張です。

  3. HH を aa に対応する作用素とします。2 と表現定理の 3 から、ψ∈D(A)\psi\in D(A) は ψ∈D(H)\psi\in D(H)、Hψ=AψH\psi=A\psi を満たします。A⊂HA\subset H でどちらも自己共役なので、命題 3.4[対称作用素と自己共役拡大] により A=HA=H です。

次の補題が本章の議論の土台です。前章の 補題 7.1[自己共役性の判定 II] はノルム収束に沿った下半連続性でしたが、ここでは弱収束に沿った形が必要です。直感的には、形式の値は、ベクトルが弱い意味で極限に近づくとき、極限で急に小さくなることはあっても大きくなることはない、ということです。

補題 2.3(閉形式の弱下半連続性)✓

qq を非負閉形式(定義域は稠密でなくてよい)とする。ψk⇀ψ\psi_k\rightharpoonup\psi(弱収束)ならば q[ψ]≤lim inf⁡kq[ψk]q[\psi]\le\liminf_kq[\psi_k] である。特に右辺が有限なら ψ∈Q(q)\psi\in Q(q)。

証明(補題 2.3)

L=lim inf⁡kq[ψk]<∞L=\liminf_kq[\psi_k]<\infty としてよく、部分列に移って q[ψk]→Lq[\psi_k]\to L、すべての kk で ψk∈Q(q)\psi_k\in Q(q) とします。弱収束列は有界なので(系 5.4[Banach 空間の基本定理])、(ψk)(\psi_k) は Hilbert 空間 H+1=(Q(q),∥⋅∥+1)\mathcal{H}_{+1}=(Q(q),\|\cdot\|_{+1}) の有界列です。系 5.6[Hilbert 空間の基礎] により、さらに部分列が H+1\mathcal{H}_{+1} で χ\chi に弱収束します。f∈Hf\in\mathcal{H} について φ↦⟨f,φ⟩\varphi\mapsto\langle f,\varphi\rangle は ∣⟨f,φ⟩∣≤∥f∥∥φ∥+1|\langle f,\varphi\rangle|\le\|f\|\|\varphi\|_{+1} から H+1\mathcal{H}_{+1} 上の有界線形汎関数なので、Riesz の表現定理(定理 4.2[Hilbert 空間の基礎])により H+1\mathcal{H}_{+1} の内積で書けて、⟨f,ψk⟩→⟨f,χ⟩\langle f,\psi_k\rangle\to\langle f,\chi\rangle。一方 ⟨f,ψk⟩→⟨f,ψ⟩\langle f,\psi_k\rangle\to\langle f,\psi\rangle なので χ=ψ\chi=\psi、特に ψ∈Q(q)\psi\in Q(q) です。さて

q[ψk]=q[ψ]+2 Re q(ψ,ψk−ψ)+q[ψk−ψ]≥q[ψ]+2 Re q(ψ,ψk−ψ)q[\psi_k]=q[\psi]+2\,\mathrm{Re}\,q(\psi,\psi_k-\psi)+q[\psi_k-\psi]\ge q[\psi]+2\,\mathrm{Re}\,q(\psi,\psi_k-\psi)

で、χ′↦q(ψ,χ′)\chi'\mapsto q(\psi,\chi') は ∣q(ψ,χ′)∣≤∥ψ∥+1∥χ′∥+1|q(\psi,\chi')|\le\|\psi\|_{+1}\|\chi'\|_{+1} から H+1\mathcal{H}_{+1} 上の有界線形汎関数です。同じく Riesz の表現定理から q(ψ,ψk−ψ)→0q(\psi,\psi_k-\psi)\to0 で、L≥q[ψ]L\ge q[\psi] を得ます。

補題 2.4(レゾルベントの変分原理(射影つき))✓

qq を非負閉形式、H=HqH=H_q を K=Kq\mathcal{K}=\mathcal{K}_q 上の対応する作用素、P=PqP=P_q とする。f∈Hf\in\mathcal{H} について

Ff(ψ)=q[ψ]+∥ψ∥2−2 Re⟨f,ψ⟩∈(−∞,∞]F_f(\psi)=q[\psi]+\|\psi\|^2-2\,\mathrm{Re}\langle f,\psi\rangle\in(-\infty,\infty]

とおき、u=(H+1)−1Pfu=(H+1)^{-1}Pf とする。このとき u∈Q(q)u\in Q(q)、q[u]+∥u∥2=⟨f,u⟩q[u]+\|u\|^2=\langle f,u\rangle(実数)であり、すべての ψ∈Q(q)\psi\in Q(q) について

Ff(ψ)=Ff(u)+q[ψ−u]+∥ψ−u∥2,Ff(u)=−⟨f,u⟩.F_f(\psi)=F_f(u)+q[\psi-u]+\|\psi-u\|^2,\qquad F_f(u)=-\langle f,u\rangle .

特に uu は FfF_f の唯一の最小点である。

証明(補題 2.4)

u∈D(H)⊂Q(q)u\in D(H)\subset Q(q) です。表現定理(定理 4.2[自己共役性の判定])の 1 を K\mathcal{K} で使うと、φ∈Q(q)\varphi\in Q(q) について q(φ,u)+⟨φ,u⟩=⟨φ,(H+1)u⟩=⟨φ,Pf⟩=⟨φ,f⟩q(\varphi,u)+\langle\varphi,u\rangle=\langle\varphi,(H+1)u\rangle=\langle\varphi,Pf\rangle=\langle\varphi,f\rangle(φ∈K\varphi\in\mathcal{K} だから)。q1=q+⟨⋅,⋅⟩q_1=q+\langle\cdot,\cdot\rangle と書くと、φ=u\varphi=u として q1[u]=⟨u,f⟩q_1[u]=\langle u,f\rangle は実数で ⟨f,u⟩\langle f,u\rangle に等しく、

q1[ψ−u]=q1[ψ]−2 Re q1(ψ,u)+q1[u]=q1[ψ]−2 Re⟨f,ψ⟩+⟨f,u⟩.q_1[\psi-u]=q_1[\psi]-2\,\mathrm{Re}\,q_1(\psi,u)+q_1[u]=q_1[\psi]-2\,\mathrm{Re}\langle f,\psi\rangle+\langle f,u\rangle .

これを書き直したものが主張です。ψ≠u\psi\ne u なら q[ψ−u]+∥ψ−u∥2>0q[\psi-u]+\|\psi-u\|^2>0 なので最小点は一意です。

次の補題は、レゾルベントの強収束から半群などの強収束を引き出す道具です。前章までの強レゾルベント収束は全空間の作用素どうしの話でしたが、ここでは極限が部分空間 K\mathcal{K} にしか住まない場合も扱います(解析的摂動論 II の一般化強レゾルベント収束とは、射影が近似列の側にあるか極限の側にあるかが逆です)。

補題 2.5(レゾルベントの強収束から関数の強収束へ)✓

  1. Rn,RR_n,R を有界な自己共役作用素で σ(Rn),σ(R)⊂[0,1]\sigma(R_n),\sigma(R)\subset[0,1] とし、Rn→RR_n\to R が強収束するとする。このとき任意の ϕ∈C([0,1])\phi\in C([0,1])(複素数値)について ϕ(Rn)→ϕ(R)\phi(R_n)\to\phi(R) が強収束する。
  2. H≥0H\ge0 を閉部分空間 K\mathcal{K} 上の自己共役作用素、PP を K\mathcal{K} への射影とし、R=(H+1)−1PR=(H+1)^{-1}P、g(x)=(1+x)−1g(x)=(1+x)^{-1} とおく。このとき σ(R)⊂[0,1]\sigma(R)\subset[0,1] で、ϕ(0)=0\phi(0)=0 を満たす ϕ∈C([0,1])\phi\in C([0,1]) について ϕ(R)=(ϕ∘g)(H)P\phi(R)=(\phi\circ g)(H)P。特に λ∈C∖(−∞,0]\lambda\in\mathbb{C}\setminus(-\infty,0] と t>0t>0 について
ϕλ(y)=y1+(λ−1)y,ηt(y)=exp⁡(−t(1y−1)) (y>0),ηt(0)=0\phi_\lambda(y)=\frac{y}{1+(\lambda-1)y},\qquad \eta_t(y)=\exp\Bigl(-t\Bigl(\frac1y-1\Bigr)\Bigr)\ (y>0),\quad \eta_t(0)=0

は [0,1][0,1] 上連続で、ϕλ(R)=(H+λ)−1P\phi_\lambda(R)=(H+\lambda)^{-1}P、ηt(R)=e−tHP\eta_t(R)=e^{-tH}P。

証明(補題 2.5)
  1. 単項式について、Rnk−Rk=∑j=0k−1Rnj(Rn−R)Rk−1−jR_n^k-R^k=\sum_{j=0}^{k-1}R_n^{j}(R_n-R)R^{k-1-j} と ∥Rn∥≤1\|R_n\|\le1 から ∥(Rnk−Rk)ψ∥≤∑j∥(Rn−R)Rk−1−jψ∥→0\|(R_n^k-R^k)\psi\|\le\sum_j\|(R_n-R)R^{k-1-j}\psi\|\to0 です。よって多項式 pp について p(Rn)→p(R)p(R_n)\to p(R) が強収束します。ϕ\phi の実部と虚部に Weierstrass の多項式近似定理(系 4.4[Arzelà–Ascoli と Stone–Weierstrass])を使い、sup⁡[0,1]∣ϕ−p∣<ε\sup_{[0,1]}|\phi-p|<\varepsilon となる多項式 pp を取ると、定理 6.2[スペクトル定理と関数計算] の 2 から ∥ϕ(Rn)−p(Rn)∥≤ε\|\phi(R_n)-p(R_n)\|\le\varepsilon、∥ϕ(R)−p(R)∥≤ε\|\phi(R)-p(R)\|\le\varepsilon なので
∥(ϕ(Rn)−ϕ(R))ψ∥≤2ε∥ψ∥+∥(p(Rn)−p(R))ψ∥\|(\phi(R_n)-\phi(R))\psi\|\le2\varepsilon\|\psi\|+\|(p(R_n)-p(R))\psi\|

で、lim sup⁡n\limsup_n は 2ε∥ψ∥2\varepsilon\|\psi\| 以下です。

  1. ψ=ψ1+ψ2\psi=\psi_1+\psi_2(ψ1∈K\psi_1\in\mathcal{K}、ψ2∈K⊥\psi_2\in\mathcal{K}^\perp)と分けると ⟨ψ,Rψ⟩=⟨ψ1,g(H)ψ1⟩\langle\psi,R\psi\rangle=\langle\psi_1,g(H)\psi_1\rangle で、0<g≤10<g\le1 と関数計算から 0≤⟨ψ,Rψ⟩≤∥ψ∥20\le\langle\psi,R\psi\rangle\le\|\psi\|^2。RR は自己共役なので 定理 6.10[有界作用素と共役作用素] により σ(R)⊂[0,1]\sigma(R)\subset[0,1]。RR は PP と可換で RP=RRP=R なので、k≥1k\ge1 について Rk=g(H)kP=(gk)(H)PR^k=g(H)^kP=(g^k)(H)P(定理 6.2[スペクトル定理と関数計算] の 1)、したがって p(0)=0p(0)=0 の多項式について p(R)=(p∘g)(H)Pp(R)=(p\circ g)(H)P です。ϕ(0)=0\phi(0)=0 の ϕ\phi に一様収束する多項式 pjp_j を取り、pj−pj(0)p_j-p_j(0) に置き換えても(pj(0)→ϕ(0)=0p_j(0)\to\phi(0)=0 なので)一様収束します。gg の値は (0,1](0,1] にあるので、関数計算のノルム評価から (pj∘g)(H)→(ϕ∘g)(H)(p_j\circ g)(H)\to(\phi\circ g)(H)、pj(R)→ϕ(R)p_j(R)\to\phi(R) がともにノルム収束し、ϕ(R)=(ϕ∘g)(H)P\phi(R)=(\phi\circ g)(H)P。λ∉(−∞,0]\lambda\notin(-\infty,0] なら 1+(λ−1)y1+(\lambda-1)y は [0,1][0,1] 上で 00 にならず(y∈(0,1]y\in(0,1] で 00 になるのは λ=1−1/y≤0\lambda=1-1/y\le0 のときだけ)、ϕλ(g(x))=(x+λ)−1\phi_\lambda(g(x))=(x+\lambda)^{-1}。ηt\eta_t は y↓0y\downarrow0 で 00 に近づくので連続で、ηt(g(x))=e−tx\eta_t(g(x))=e^{-tx} です。

構成的場の量子論で現れる相互作用は、L2(M,μ)L^2(M,\mu) 上の掛け算作用素です。その関数計算を確認しておきます。

補題 2.6(掛け算作用素の関数計算)✓

(M,Σ,μ)(M,\Sigma,\mu) を σ\sigma 有限な測度空間、VV を実数値可測関数とし、L2(M,μ)L^2(M,\mu) 上の掛け算作用素 MVM_V を D(MV)={ψ:Vψ∈L2}D(M_V)=\{\psi:V\psi\in L^2\}、MVψ=VψM_V\psi=V\psi で定める。

  1. MVM_V は自己共役で、そのスペクトル測度は E(B)=M1V−1(B)E(B)=M_{\mathbf{1}_{V^{-1}(B)}} である。任意のボレル関数 ff について f(MV)=Mf∘Vf(M_V)=M_{f\circ V}(定義域を含めて)。
  2. V≥−cV\ge-c ならば MV≥−cM_V\ge-c、Q(MV)={ψ:∫∣V∣∣ψ∣2dμ<∞}Q(M_V)=\{\psi:\int|V||\psi|^2d\mu<\infty\}、形式は ∫V∣ψ∣2dμ\int V|\psi|^2d\mu で、e−tMV=Me−tVe^{-tM_V}=M_{e^{-tV}}、∥e−tMV∥≤ect\|e^{-tM_V}\|\le e^{ct}(t≥0t\ge0)。
証明(補題 2.6)
  1. E(B)E(B) は直交射影で、E(∅)=0E(\emptyset)=0、E(R)=1E(\mathbb{R})=1。互いに素な BjB_j について ∥E(⋃jBj)ψ−∑j≤NE(Bj)ψ∥2=∫V−1(⋃j>NBj)∣ψ∣2dμ→0\|E(\bigcup_jB_j)\psi-\sum_{j\le N}E(B_j)\psi\|^2=\int_{V^{-1}(\bigcup_{j>N}B_j)}|\psi|^2d\mu\to0(優収束定理 定理 7.3[ルベーグ積分の定義と収束定理])なので、EE は射影値測度です。⟨φ,E(B)ψ⟩=∫V−1(B)φˉψ dμ\langle\varphi,E(B)\psi\rangle=\int_{V^{-1}(B)}\bar\varphi\psi\,d\mu なので、有界ボレル関数 ff について ∫f dμφ,ψ=∫(f∘V)φˉψ dμ\int f\,d\mu_{\varphi,\psi}=\int(f\circ V)\bar\varphi\psi\,d\mu が、指示関数から単関数へ線形性で、有界関数へ一様近似で成り立ちます。命題 4.1[スペクトル定理と関数計算] の 2 から ∫f dE=Mf∘V\int f\,dE=M_{f\circ V} です。一般のボレル関数 ff では、同じ式を ∣f∣2|f|^2 の切り落としに使って単調収束定理で極限を取ると ∫∣f∣2dμψ=∫∣f∘V∣2∣ψ∣2dμ\int|f|^2d\mu_\psi=\int|f\circ V|^2|\psi|^2d\mu なので、スペクトル積分の定義域は D(Mf∘V)D(M_{f\circ V}) に一致し、fn=f1{∣f∣≤n}f_n=f\mathbf{1}_{\{|f|\le n\}} について Mfn∘Vψ→Mf∘VψM_{f_n\circ V}\psi\to M_{f\circ V}\psi(L2L^2 での優収束)から ∫f dE=Mf∘V\int f\,dE=M_{f\circ V}。f(λ)=λf(\lambda)=\lambda とすると ∫λ dE=MV\int\lambda\,dE=M_V で、これは 定理 4.3[スペクトル定理と関数計算] の 2 により自己共役です。定理 5.5[スペクトル定理と関数計算] の一意性から EE は MVM_V のスペクトル測度で、f(MV)=∫f dE=Mf∘Vf(M_V)=\int f\,dE=M_{f\circ V}。

  2. ⟨ψ,(MV+c)ψ⟩=∫(V+c)∣ψ∣2≥0\langle\psi,(M_V+c)\psi\rangle=\int(V+c)|\psi|^2\ge0。Q(MV)=D((MV+c)1/2)=D(M(V+c)1/2)Q(M_V)=D((M_V+c)^{1/2})=D(M_{(V+c)^{1/2}})(1 による)は ∫(V+c)∣ψ∣2<∞\int(V+c)|\psi|^2<\infty と同値で、各点で ∣V∣≤V+2c|V|\le V+2c、V+c≤∣V∣+cV+c\le|V|+c が成り立ち ψ∈L2\psi\in L^2 なので、これは ∫∣V∣∣ψ∣2<∞\int|V||\psi|^2<\infty と同値です。形式の値は 補題 2.2 の 1 と、1 の測度の計算 μψ=V∗(∣ψ∣2μ)\mu_\psi=V_*(|\psi|^2\mu) から ∫λ dμψ=∫V∣ψ∣2dμ\int\lambda\,d\mu_\psi=\int V|\psi|^2d\mu。e−tMV=Me−tVe^{-tM_V}=M_{e^{-tV}} は 1 で、e−tV≤ecte^{-tV}\le e^{ct} です。

定義 3.1(形式和)↗

A≥−αA\ge-\alpha、B≥−βB\ge-\beta を自己共役作用素、a,ba,b をそれらの形式とする。

h(φ,ψ)=a(φ,ψ)+b(φ,ψ),Q(h)=Q(A)∩Q(B)h(\varphi,\psi)=a(\varphi,\psi)+b(\varphi,\psi),\qquad Q(h)=Q(A)\cap Q(B)

は(下の命題により)閉形式である。K=Q(A)∩Q(B)‾\mathcal{K}=\overline{Q(A)\cap Q(B)}、PP をその射影とし、hh に対応する K\mathcal{K} 上の自己共役作用素(定義 2.1)を A∔BA\dotplus B と書いて、AA と BB の形式和という。

命題 3.2(形式和の基本性質)✓

定義 3.1 の記号で次が成り立つ。

  1. hh は閉で h≥−(α+β)h\ge-(\alpha+\beta)。A∔BA\dotplus B は K\mathcal{K} 上の自己共役作用素で A∔B≥−(α+β)A\dotplus B\ge-(\alpha+\beta)。
  2. D(A)∩D(B)⊂D(A∔B)D(A)\cap D(B)\subset D(A\dotplus B) で、ψ∈D(A)∩D(B)\psi\in D(A)\cap D(B) について (A∔B)ψ=P(Aψ+Bψ)(A\dotplus B)\psi=P(A\psi+B\psi)。特に D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) が稠密なら K=H\mathcal{K}=\mathcal{H} で、A∔BA\dotplus B は (A+B)∣D(A)∩D(B)(A+B)|_{D(A)\cap D(B)} の自己共役拡大である。
  3. A+BA+B が D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) 上で本質的自己共役なら、A∔BA\dotplus B はその閉包に等しい。
  4. 実数 γ,δ\gamma,\delta について (A+γ)∔(B+δ)=A∔B+γ+δ(A+\gamma)\dotplus(B+\delta)=A\dotplus B+\gamma+\delta。
証明(命題 3.2)
  1. 補題 2.2 の 1 から a+α∥⋅∥2=∫(λ+α)dμψA≥0a+\alpha\|\cdot\|^2=\int(\lambda+\alpha)d\mu^A_\psi\ge0 で、これは非負の閉形式(A+α≥0A+\alpha\ge0 の形式)です。[0,∞][0,\infty] 値関数として h+(α+β)∥⋅∥2=(a+α∥⋅∥2)+(b+β∥⋅∥2)h+(\alpha+\beta)\|\cdot\|^2=(a+\alpha\|\cdot\|^2)+(b+\beta\|\cdot\|^2) で、右辺の 2 項は 補題 7.1[自己共役性の判定 II] により下半連続、その和も下半連続なので、同じ補題から閉です。作用素の下界は表現定理の 2 によります。

  2. ψ∈D(A)∩D(B)\psi\in D(A)\cap D(B) は Q(h)Q(h) に属し、φ∈Q(h)\varphi\in Q(h) について 補題 2.2 の 2 から h(φ,ψ)=⟨φ,Aψ+Bψ⟩=⟨φ,P(Aψ+Bψ)⟩h(\varphi,\psi)=\langle\varphi,A\psi+B\psi\rangle=\langle\varphi,P(A\psi+B\psi)\rangle(φ∈K\varphi\in\mathcal{K})。表現定理の 3 を K\mathcal{K} で使えば ψ∈D(A∔B)\psi\in D(A\dotplus B)、(A∔B)ψ=P(A+B)ψ(A\dotplus B)\psi=P(A+B)\psi。後半は P=1P=1 の場合です。

  3. 閉包 CC は自己共役で、2 から A∔BA\dotplus B は (A+B)∣D(A)∩D(B)(A+B)|_{D(A)\cap D(B)} の自己共役拡大です。A∔BA\dotplus B は閉なので C⊂A∔BC\subset A\dotplus B で、命題 3.4[対称作用素と自己共役拡大] により等号です。

  4. A+γA+\gamma の形式は a+γ∥⋅∥2a+\gamma\|\cdot\|^2 で、定義域は Q(A)Q(A) のままです(補題 2.2 の 1)。したがって左辺の形式は h+(γ+δ)∥⋅∥2h+(\gamma+\delta)\|\cdot\|^2 で定義域は Q(h)Q(h) です。A∔B+γ+δA\dotplus B+\gamma+\delta はこの形式について表現定理の 1 を満たすので、2 の証明と同じく表現定理の 3 と自己共役作用素の極大性から、これが対応する作用素です。

2 は「形式和は、作用素の和が意味をもつところでは作用素の和と一致する」ことを述べています。ただし D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) が D(A∔B)D(A\dotplus B) の芯であるとは限らず、それがまさに作用素の和の本質的自己共役性です。3 から、本質的自己共役性が分かっている場合には、形式和は新しい作用素を作りません。

例 3.3(特異なポテンシャルをもつ Schrödinger 作用素)

H=L2(Rd)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R}^d)、A=−ΔA=-\Delta(Q(A)=H1(Rd)Q(A)=H^1(\mathbb{R}^d))、0≤V∈Lloc1(Rd)0\le V\in L^1_{\mathrm{loc}}(\mathbb{R}^d) とします。補題 2.6 から Q(V)={∫V∣ψ∣2<∞}Q(V)=\{\int V|\psi|^2<\infty\} で、Cc∞(Rd)⊂Q(A)∩Q(V)C_c^\infty(\mathbb{R}^d)\subset Q(A)\cap Q(V) なので K=H\mathcal{K}=\mathcal{H} です。形式和 −Δ∔V-\Delta\dotplus V は、前章の 例 7.5[自己共役性の判定 II] で min⁡(V,n)\min(V,n) の極限として得た作用素と同じものです(形式が同じなので)。V∈Lloc2V\in L^2_{\mathrm{loc}} でなければ VψV\psi が L2L^2 に入らない ψ∈Cc∞\psi\in C_c^\infty があり、作用素の和 −Δ+V-\Delta+V を Cc∞C_c^\infty 上で考えることすらできませんが、形式和は問題なく定まります。たとえば d=3d=3、V(x)=∣x∣−5/2V(x)=|x|^{-5/2} は Lloc1L^1_{\mathrm{loc}} に入るが Lloc2L^2_{\mathrm{loc}} に入りません。

次の例のねらいは、形式定義域の共通部分が {0}\{0\} だけになる、つまり K\mathcal{K} が H\mathcal{H} よりずっと小さくなる現象が実際に起きることを見せることです。有理数の位置に強い吸い込み点を稠密に置くと、どんな関数も吸い込みを避けられません。

例 3.4(形式定義域の共通部分が 0 になる例)

H=L2(R)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R})、A=−d2/dx2A=-d^2/dx^2 とし、有理数を q1,q2,…q_1,q_2,\dots と並べて

V(x)=∑j=1∞2−j∣x−qj∣−1V(x)=\sum_{j=1}^\infty2^{-j}|x-q_j|^{-1}

とおきます。{2−j∣x−qj∣−1>2−j/2}={∣x−qj∣<2−j/2}\{2^{-j}|x-q_j|^{-1}>2^{-j/2}\}=\{|x-q_j|\lt2^{-j/2}\} の測度の和は有限なので、Borel–Cantelli の論法でほとんどすべての xx はこれらの集合の有限個にしか属さず、そこで級数は ∑j2−j/2\sum_j2^{-j/2} と比べて収束します。よって VV は a.e. で有限な非負可測関数で(級数が発散する零集合の上では V=0V=0 とおき直します)、補題 2.6 により MVM_V は自己共役です。一方 ψ∈H1(R)\psi\in H^1(\mathbb{R}) は連続な代表元をもつので、ψ≠0\psi\ne0 ならある有理数 qjq_j の近くで ∣ψ∣≥δ>0|\psi|\ge\delta>0 となり、∫V∣ψ∣2≥2−jδ2∫∣x−qj∣<r∣x−qj∣−1dx=∞\int V|\psi|^2\ge2^{-j}\delta^2\int_{|x-q_j|\lt r}|x-q_j|^{-1}dx=\infty。したがって Q(A)∩Q(V)={0}Q(A)\cap Q(V)=\{0\}、K={0}\mathcal{K}=\{0\} で、A∔VA\dotplus V は零空間上の作用素です。後で見る Trotter–加藤の積公式は、この場合 (e−tA/ne−tV/n)n→0(e^{-tA/n}e^{-tV/n})^n\to0(強収束)を主張します。拡散で広がろうとする関数が、稠密に置かれた強い吸収点に吸い込まれて消える、という描像です。

構成的場の量子論で使うのは、次の状況です。Gauss 測度の空間では、自由ハミルトニアンの半群が L∞L^\infty を L∞L^\infty に縮小的に写す(Markov 性)ので、有界関数を経由して D(H0)∩D(V)D(H_0)\cap D(V) の稠密性が示せます。

命題 3.5(Markov 的な半群と掛け算作用素の形式和)✓

(M,Σ,μ)(M,\Sigma,\mu) を有限測度空間、H0≥0H_0\ge0 を L2(M,μ)L^2(M,\mu) 上の自己共役作用素とし、すべての t≥0t\ge0 と ψ∈L∞(μ)\psi\in L^\infty(\mu) について ∥e−tH0ψ∥∞≤∥ψ∥∞\|e^{-tH_0}\psi\|_\infty\le\|\psi\|_\infty とする。VV を実数値可測関数で、V≥−cV\ge-c かつ V∈L2(μ)V\in L^2(\mu) とし、掛け算作用素 MVM_V を VV と書く。このとき

  1. D(H0)∩L∞(μ)⊂D(H0)∩D(V)D(H_0)\cap L^\infty(\mu)\subset D(H_0)\cap D(V) であり、D(H0)∩L∞(μ)D(H_0)\cap L^\infty(\mu) は L2(μ)L^2(\mu) で稠密である。
  2. Q(H0)∩Q(V)Q(H_0)\cap Q(V) は稠密で、H0∔VH_0\dotplus V は L2(μ)L^2(\mu) 上の自己共役作用素、H0∔V≥−cH_0\dotplus V\ge-c であり、D(H0)∩D(V)D(H_0)\cap D(V) 上で H0+VH_0+V に一致する。
証明(命題 3.5)
  1. ψ∈D(H0)∩L∞\psi\in D(H_0)\cap L^\infty なら ∣Vψ∣≤∥ψ∥∞∣V∣∈L2|V\psi|\le\|\psi\|_\infty|V|\in L^2 なので ψ∈D(V)\psi\in D(V)。稠密性: ψ∈L∞\psi\in L^\infty と t>0t>0 について ψt=e−tH0ψ\psi_t=e^{-tH_0}\psi とおきます。λe−tλ\lambda e^{-t\lambda} は [0,∞)[0,\infty) 上有界なので、定理 4.3[スペクトル定理と関数計算] の 3(f(λ)=λf(\lambda)=\lambda、g(λ)=e−tλg(\lambda)=e^{-t\lambda}、H0≥0H_0\ge0 のスペクトル測度は [0,∞)[0,\infty) に集中する)から ψt∈D(H0)\psi_t\in D(H_0) で、仮定から ∥ψt∥∞≤∥ψ∥∞\|\psi_t\|_\infty\le\|\psi\|_\infty。t↓0t\downarrow0 で ψt→ψ\psi_t\to\psi(系 4.7[1 径数ユニタリ群と強連続半群] の強連続性)。μ\mu は有限なので L∞⊂L2L^\infty\subset L^2 で、ψ∈L2\psi\in L^2 に対し ψ1{∣ψ∣≤n}→ψ\psi\mathbf{1}_{\{|\psi|\le n\}}\to\psi(優収束定理)から L∞L^\infty は L2L^2 で稠密です。よって D(H0)∩L∞D(H_0)\cap L^\infty は稠密です。

  2. D(H0)∩D(V)⊂Q(H0)∩Q(V)D(H_0)\cap D(V)\subset Q(H_0)\cap Q(V)(補題 2.2 の 2)と 1 から稠密性が従い、残りは 命題 3.2 の 1・2 と 補題 2.6 の 2 です。

V∈L2V\in L^2 と下に有界であることだけでは、H0+VH_0+V が D(H0)∩D(V)D(H_0)\cap D(V) 上で本質的自己共役かどうかは分かりません。しかし形式和はいつでも自己共役で、次節以降の積公式と極限定理はすべて形式和について成り立ちます。

4. 形式の収束と強レゾルベント収束

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作用素の列 HnH_n の極限を調べるとき、定義域が nn ごとに違うので作用素どうしを直接比べることはできません。形式は [0,∞][0,\infty] 値関数として全空間で比べられます。次の判定法の条件 (a)(b) の役割は次のとおりです。(a) は、近似の形式の値が極限の形式の値を下から押さえること、(b) は、極限の形式の値が、強収束する近似列によって実際に達成されることを表します。両方がそろって初めて、近似の値が極限の値に合います。次の判定法は、「形式の下からの評価は弱収束に沿って保たれ(下極限の不等式)、上からの評価は少なくとも 1 本の近似列で達成される(回復列)」ならレゾルベントが収束する、というものです。

定理 4.1(形式の収束による強レゾルベント収束の判定)✓

qnq_n(n∈Nn\in\mathbb{N})と qq を非負閉形式(定義域は稠密でなくてよい)とし、Hn,HH_n,H を対応する作用素、Pn,PP_n,P を Q(qn)‾,Q(q)‾\overline{Q(q_n)},\overline{Q(q)} への射影とする(定義 2.1)。次の 2 条件を仮定する。

  • (a)(下極限の不等式)任意の部分列 (nk)(n_k) と弱収束する列 ψk⇀ψ\psi_k\rightharpoonup\psi について q[ψ]≤lim inf⁡kqnk[ψk]q[\psi]\le\liminf_kq_{n_k}[\psi_k]。
  • (b)(回復列)任意の ψ∈Q(q)\psi\in Q(q) に対し、ψn→ψ\psi_n\to\psi(強収束)かつ lim sup⁡nqn[ψn]≤q[ψ]\limsup_nq_n[\psi_n]\le q[\psi] を満たす列 (ψn)(\psi_n) がある。

このとき (Hn+1)−1Pn→(H+1)−1P(H_n+1)^{-1}P_n\to(H+1)^{-1}P が強収束する。さらに λ∈C∖(−∞,0]\lambda\in\mathbb{C}\setminus(-\infty,0] と t>0t>0 について (Hn+λ)−1Pn→(H+λ)−1P(H_n+\lambda)^{-1}P_n\to(H+\lambda)^{-1}P、e−tHnPn→e−tHPe^{-tH_n}P_n\to e^{-tH}P が強収束する。

証明(定理 4.1)

f∈Hf\in\mathcal{H} を固定し、un=(Hn+1)−1Pnfu_n=(H_n+1)^{-1}P_nf、u=(H+1)−1Pfu=(H+1)^{-1}Pf、Fn=Ff(n)F_n=F_f^{(n)}、F=FfF=F_f を 補題 2.4 の汎関数(qnq_n、qq について)とします。∥(Hn+1)−1∥≤1\|(H_n+1)^{-1}\|\le1 から ∥un∥≤∥f∥\|u_n\|\le\|f\| です。任意の部分列を取り、系 5.6[Hilbert 空間の基礎] によりさらに部分列 unk⇀vu_{n_k}\rightharpoonup v を取ります。この部分列が uu に強収束することを示せば、もとの列全体が uu に強収束します(どの部分列も uu に強収束する部分列を含むので)。

段階 1(v=uv=u). (a) と、ノルムの弱下半連続性(命題 5.3[Hilbert 空間の基礎] の 2)と、⟨f,unk⟩→⟨f,v⟩\langle f,u_{n_k}\rangle\to\langle f,v\rangle から

F(v)≤lim inf⁡kFnk(unk).F(v)\le\liminf_kF_{n_k}(u_{n_k}).

φ∈Q(q)\varphi\in Q(q) を任意に取り、(b) の列 φn\varphi_n を取ります。unu_n は FnF_n の最小点なので Fn(un)≤Fn(φn)F_n(u_n)\le F_n(\varphi_n) で、φn→φ\varphi_n\to\varphi が強収束することから lim sup⁡nFn(φn)≤q[φ]+∥φ∥2−2 Re⟨f,φ⟩=F(φ)\limsup_nF_n(\varphi_n)\le q[\varphi]+\|\varphi\|^2-2\,\mathrm{Re}\langle f,\varphi\rangle=F(\varphi)。よって

F(v)≤lim inf⁡kFnk(unk)≤lim sup⁡kFnk(unk)≤F(φ)(φ∈Q(q)).F(v)\le\liminf_kF_{n_k}(u_{n_k})\le\limsup_kF_{n_k}(u_{n_k})\le F(\varphi)\qquad(\varphi\in Q(q)).

φ=u\varphi=u とすると F(v)≤F(u)<∞F(v)\le F(u)<\infty なので v∈Q(q)v\in Q(q) で、補題 2.4 の等式 F(v)=F(u)+q[v−u]+∥v−u∥2F(v)=F(u)+q[v-u]+\|v-u\|^2 から v=uv=u。同時に Fnk(unk)→F(u)F_{n_k}(u_{n_k})\to F(u) も分かります。

段階 2(強収束). 補題 2.4 から qn[un]+∥un∥2=⟨f,un⟩q_n[u_n]+\|u_n\|^2=\langle f,u_n\rangle で、右辺は ⟨f,u⟩=q[u]+∥u∥2\langle f,u\rangle=q[u]+\|u\|^2 に収束します(部分列 nkn_k に沿って)。(a) から lim inf⁡kqnk[unk]≥q[u]\liminf_kq_{n_k}[u_{n_k}]\ge q[u] なので

lim sup⁡k∥unk∥2≤lim⁡k(qnk[unk]+∥unk∥2)−lim inf⁡kqnk[unk]≤∥u∥2.\limsup_k\|u_{n_k}\|^2\le\lim_k\bigl(q_{n_k}[u_{n_k}]+\|u_{n_k}\|^2\bigr)-\liminf_kq_{n_k}[u_{n_k}]\le\|u\|^2 .

ノルムの弱下半連続性と合わせて ∥unk∥→∥u∥\|u_{n_k}\|\to\|u\| で、命題 5.3[Hilbert 空間の基礎] の 3 から unk→uu_{n_k}\to u が強収束します。

後半. Rn=(Hn+1)−1PnR_n=(H_n+1)^{-1}P_n、R=(H+1)−1PR=(H+1)^{-1}P は 補題 2.5 の 2 によりスペクトルが [0,1][0,1] に入る自己共役作用素で、いま Rn→RR_n\to R が強収束することを示しました。同じ補題の 1 と 2 を関数 ϕλ,ηt\phi_\lambda,\eta_t に使えばよい。

Pn=P=1P_n=P=1 のとき、後半の λ\lambda を −z-z(z∈C∖Rz\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{R})と取れば、これは 定義 3.1[作用素の収束と摂動] の強レゾルベント収束です。2 条件 (a)(b) は変分法で Mosco 収束と呼ばれるもので、逆に強レゾルベント収束から (a)(b) が出ることも知られています(Mosco 1994)。(a) で弱収束を要求していることが要点で、強収束に沿った下極限の不等式だけでは足りません。証明の段階 1 で unu_n について分かるのは有界性だけで、取り出せるのは弱収束する部分列だけだからです。

前章の 定理 7.3[自己共役性の判定 II] は増大列の場合でした。減少列では、極限の形式が閉とは限らず、閉包可能でないことさえあります。閉包可能な場合が Kato の定理です。

定理 4.2(閉形式の単調収束定理(減少列))✓

qnq_n を稠密な定義域をもつ非負閉形式の列とし、Q(qn)⊂Q(qn+1)Q(q_n)\subset Q(q_{n+1}) かつ ψ∈Q(qn)\psi\in Q(q_n) で qn+1[ψ]≤qn[ψ]q_{n+1}[\psi]\le q_n[\psi] とする。HnH_n を対応する自己共役作用素とし、

Q∞=⋃nQ(qn),q∞[ψ]=lim⁡n→∞qn[ψ](ψ∈Q∞)Q_\infty=\bigcup_nQ(q_n),\qquad q_\infty[\psi]=\lim_{n\to\infty}q_n[\psi]\quad(\psi\in Q_\infty)

とおく。q∞q_\infty が閉包可能ならば、その閉包 qˉ∞\bar q_\infty に対応する自己共役作用素 H∞H_\infty について、HnH_n は H∞H_\infty に強レゾルベント収束し、t>0t>0 で e−tHn→e−tH∞e^{-tH_n}\to e^{-tH_\infty} が強収束する。

証明(定理 4.2)

ψ∈Q(qN)\psi\in Q(q_N) なら n≥Nn\ge N で qn[ψ]q_n[\psi] は非増加かつ非負なので、極限 q∞[ψ]q_\infty[\psi] が存在します。Q∞Q_\infty は増大列の和なので部分空間で、偏極恒等式の各項が収束するので q∞q_\infty は Q∞Q_\infty 上の非負対称形式です。Q∞⊃Q(q1)Q_\infty\supset Q(q_1) は稠密なので、qˉ∞\bar q_\infty の定義域も稠密で、射影はすべて 11 です。定理 4.1 の (a)(b) を q=qˉ∞q=\bar q_\infty について確かめます。

(a) ψk⇀ψ\psi_k\rightharpoonup\psi と部分列 nkn_k を取ります。ψk∈Q(qnk)\psi_k\in Q(q_{n_k}) なら ψk∈Q∞\psi_k\in Q_\infty で、閉包は q∞q_\infty の拡張なので qˉ∞[ψk]=q∞[ψk]≤qnk[ψk]\bar q_\infty[\psi_k]=q_\infty[\psi_k]\le q_{n_k}[\psi_k]。ψk∉Q(qnk)\psi_k\notin Q(q_{n_k}) なら右辺は +∞+\infty。いずれにせよ qˉ∞[ψk]≤qnk[ψk]\bar q_\infty[\psi_k]\le q_{n_k}[\psi_k] で、qˉ∞\bar q_\infty は閉なので 補題 2.3 から qˉ∞[ψ]≤lim inf⁡kqˉ∞[ψk]≤lim inf⁡kqnk[ψk]\bar q_\infty[\psi]\le\liminf_k\bar q_\infty[\psi_k]\le\liminf_kq_{n_k}[\psi_k]。

(b) ψ∈Q(qˉ∞)\psi\in Q(\bar q_\infty) とします。閉包の定義から、qˉ∞\bar q_\infty の形式ノルムで ψ\psi に収束する ψ(j)∈Q∞\psi^{(j)}\in Q_\infty があり、ψ(j)→ψ\psi^{(j)}\to\psi、q∞[ψ(j)]=qˉ∞[ψ(j)]→qˉ∞[ψ]q_\infty[\psi^{(j)}]=\bar q_\infty[\psi^{(j)}]\to\bar q_\infty[\psi] です。各 jj について、n≥Njn\ge N_j なら ψ(j)∈Q(qn)\psi^{(j)}\in Q(q_n) かつ qn[ψ(j)]≤q∞[ψ(j)]+1/jq_n[\psi^{(j)}]\le q_\infty[\psi^{(j)}]+1/j となる NjN_j があり、N1<N2<⋯N_1<N_2<\cdots と取れます。n<N1n<N_1 では ψn=0\psi_n=0、Nj≤n<Nj+1N_j\le n<N_{j+1} では ψn=ψ(j)\psi_n=\psi^{(j)} とおくと、ψn→ψ\psi_n\to\psi かつ lim sup⁡nqn[ψn]≤lim⁡j(q∞[ψ(j)]+1/j)=qˉ∞[ψ]\limsup_nq_n[\psi_n]\le\lim_j(q_\infty[\psi^{(j)}]+1/j)=\bar q_\infty[\psi]。

定理 4.1 から λ∉(−∞,0]\lambda\notin(-\infty,0] で (Hn+λ)−1→(H∞+λ)−1(H_n+\lambda)^{-1}\to(H_\infty+\lambda)^{-1}、e−tHn→e−tH∞e^{-tH_n}\to e^{-tH_\infty} が強収束します。z∈C∖Rz\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{R} について λ=−z\lambda=-z と取れば、強レゾルベント収束の定義(定義 3.1[作用素の収束と摂動])の条件です。

例 4.3(閉じ込めポテンシャルを無限遠へ押し出す)

0≤V∈Lloc1(Rd)0\le V\in L^1_{\mathrm{loc}}(\mathbb{R}^d) とし、Vn=V1{∣x∣>n}V_n=V\mathbf{1}_{\{|x|>n\}}、qn[ψ]=∥∇ψ∥2+∫Vn∣ψ∣2q_n[\psi]=\|\nabla\psi\|^2+\int V_n|\psi|^2(Q(qn)=H1∩Q(Vn)Q(q_n)=H^1\cap Q(V_n))とします。命題 3.2 により qnq_n は閉で、Cc∞C_c^\infty を含むので稠密、対応する作用素は Hn=−Δ∔VnH_n=-\Delta\dotplus V_n です。Vn+1≤VnV_{n+1}\le V_n なので Q(qn)⊂Q(qn+1)Q(q_n)\subset Q(q_{n+1}) で形式は減少します。ψ∈Q(qN)\psi\in Q(q_N) なら優収束定理で ∫Vn∣ψ∣2→0\int V_n|\psi|^2\to0 なので、q∞[ψ]=∥∇ψ∥2q_\infty[\psi]=\|\nabla\psi\|^2 です。これは H1H^1 上の閉形式 ∥∇ψ∥2\|\nabla\psi\|^2 の制限なので閉包可能で、Q∞⊃Cc∞Q_\infty\supset C_c^\infty はその形式芯なので、閉包は H1H^1 上の ∥∇ψ∥2\|\nabla\psi\|^2、対応する作用素は −Δ-\Delta です。定理 4.2 から Hn→−ΔH_n\to-\Delta は強レゾルベント収束します。

たとえば V(x)=∣x∣2V(x)=|x|^2 なら、HnH_n は半径 nn の球の外側に調和振動子の壁がある作用素で、粒子は球の中に閉じ込められています。極限の −Δ-\Delta のスペクトルは [0,∞)[0,\infty) で、固有値をもちません。強レゾルベント収束ではスペクトルは下半連続にしか振る舞わず(定理 4.1[作用素の収束と摂動])、近似の作用素の固有値が極限で連続スペクトルを埋めつくす、という形で収束します。

注意 4.4(増大列と、閉包可能でない減少列)

前章の増大列の単調収束定理も 定理 4.1 から出ます。(a) は、qm≤qnq_m\le q_n(m≤nm\le n)から qm[ψ]≤lim inf⁡kqnk[ψk]q_m[\psi]\le\liminf_kq_{n_k}[\psi_k] を 補題 2.3 で示し m→∞m\to\infty とすればよく、(b) は定数列 ψn=ψ\psi_n=\psi で足ります。減少列で q∞q_\infty が閉包可能でない場合、Simon(1978)は q∞q_\infty を「閉包可能な部分(正則部分)」と残りに標準的に分解し、HnH_n が正則部分の閉包に対応する作用素へ強レゾルベント収束することを示しました。たとえば qn[ψ]=n−1∥ψ′∥2+∣ψ(0)∣2q_n[\psi]=n^{-1}\|\psi'\|^2+|\psi(0)|^2(L2(R)L^2(\mathbb{R})、Q=H1Q=H^1)は減少し、極限 ∣ψ(0)∣2|\psi(0)|^2 は閉包可能ではありません(演習 7.2)。この場合の極限の作用素は 00 です。本章ではこの一般化は使いません。

この節の主定理は、A,BA,B が下に有界でさえあれば、和について何も仮定せずに積公式が成り立つ、というものです。証明の鍵は二つあります。第一に、対称化した積 F(s)=e−sA/2e−sBe−sA/2F(s)=e^{-sA/2}e^{-sB}e^{-sA/2} は自己共役で 0≤F(s)≤10\le F(s)\le1 を満たすので、F(s)nF(s)^n と e−ns Sse^{-ns\,S_s}(Ss=s−1(1−F(s))S_s=s^{-1}(1-F(s)))の差がノルムで O(1/n)O(1/n) になります(Chernoff の積公式 定理 7.2[Banach 空間の強連続半群] の n\sqrt n 評価より良い)。第二に、SsS_s の形式は二つの非負の項に分かれ、s↓0s\downarrow0 でそれぞれ AA と BB の形式に下から近づくので、定理 4.1 の 2 条件がそのまま確かめられます。

補題 5.1(自己共役な縮小の冪と指数の比較)✓

TT を有界な自己共役作用素で 0≤T≤10\le T\le1 とする。m≥2m\ge2 について

∥(1−T)m−e−mT∥≤2me2(m−1)2.\bigl\|(1-T)^m-e^{-mT}\bigr\|\le\frac{2m}{e^2(m-1)^2}.
証明(補題 5.1)

定理 6.10[有界作用素と共役作用素] により σ(T)⊂[0,1]\sigma(T)\subset[0,1] なので、定理 6.2[スペクトル定理と関数計算] の 2 から左辺は sup⁡0≤u≤1∣(1−u)m−e−mu∣\sup_{0\le u\le1}|(1-u)^m-e^{-mu}| 以下です。0≤1−u≤e−u≤10\le1-u\le e^{-u}\le1 と、0≤b≤a≤10\le b\le a\le1 での am−bm=(a−b)∑jajbm−1−j≤m(a−b)am−1a^m-b^m=(a-b)\sum_ja^jb^{m-1-j}\le m(a-b)a^{m-1}、および e−u−(1−u)≤u2/2e^{-u}-(1-u)\le u^2/2(u≥0u\ge0)から

0≤e−mu−(1−u)m≤m2u2e−(m−1)u≤m2⋅4e2(m−1)20\le e^{-mu}-(1-u)^m\le\frac m2u^2e^{-(m-1)u}\le\frac m2\cdot\frac{4}{e^2(m-1)^2}

です(u2e−(m−1)uu^2e^{-(m-1)u} は u=2/(m−1)u=2/(m-1) で最大)。

定理 5.2(Trotter–加藤の積公式)✓

A≥−αA\ge-\alpha、B≥−βB\ge-\beta を Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の自己共役作用素とし、K=Q(A)∩Q(B)‾\mathcal{K}=\overline{Q(A)\cap Q(B)}、PP をその射影、A∔BA\dotplus B を形式和(定義 3.1)とする。このとき、すべての t>0t>0 と ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について

lim⁡n→∞(e−tA/ne−tB/n)nψ=lim⁡n→∞(e−tB/ne−tA/n)nψ=lim⁡n→∞(e−tA/2ne−tB/ne−tA/2n)nψ=e−t(A∔B)Pψ.\lim_{n\to\infty}\bigl(e^{-tA/n}e^{-tB/n}\bigr)^n\psi=\lim_{n\to\infty}\bigl(e^{-tB/n}e^{-tA/n}\bigr)^n\psi=\lim_{n\to\infty}\bigl(e^{-tA/2n}e^{-tB/n}e^{-tA/2n}\bigr)^n\psi=e^{-t(A\dotplus B)}P\psi .
証明(定理 5.2)

段階 0(A,B≥0A,B\ge0 への帰着). A′=A+αA'=A+\alpha、B′=B+βB'=B+\beta とおくと e−tA/n=etα/ne−tA′/ne^{-tA/n}=e^{t\alpha/n}e^{-tA'/n} などから、3 つの積はそれぞれ A′,B′A',B' の積の et(α+β)e^{t(\alpha+\beta)} 倍です。命題 3.2 の 4 から e−t(A′∔B′)=e−t(α+β)e−t(A∔B)e^{-t(A'\dotplus B')}=e^{-t(\alpha+\beta)}e^{-t(A\dotplus B)}(K\mathcal{K} は同じ)なので、A,B≥0A,B\ge0 の場合に示せば十分です。以下 A,B≥0A,B\ge0 とし、H=A∔BH=A\dotplus B、h=a+bh=a+b をその形式とします。

段階 1(SsS_s の形式の分解). s>0s>0 について Xs=e−sA/2X_s=e^{-sA/2}、F(s)=Xse−sBXsF(s)=X_se^{-sB}X_s、Ss=s−1(1−F(s))S_s=s^{-1}(1-F(s)) とおきます。φ=Xsψ\varphi=X_s\psi と書くと ⟨ψ,F(s)ψ⟩=⟨φ,e−sBφ⟩∈[0,∥φ∥2]\langle\psi,F(s)\psi\rangle=\langle\varphi,e^{-sB}\varphi\rangle\in[0,\|\varphi\|^2]、∥φ∥≤∥ψ∥\|\varphi\|\le\|\psi\| なので 0≤F(s)≤10\le F(s)\le1 です。∥ψ∥2−∥φ∥2=⟨ψ,(1−e−sA)ψ⟩\|\psi\|^2-\|\varphi\|^2=\langle\psi,(1-e^{-sA})\psi\rangle から

⟨ψ,Ssψ⟩=⟨ψ,ks(A)ψ⟩+⟨Xsψ,ks(B)Xsψ⟩,ks(λ)=1−e−sλs(λ≥0).\langle\psi,S_s\psi\rangle=\langle\psi,k_s(A)\psi\rangle+\langle X_s\psi,k_s(B)X_s\psi\rangle,\qquad k_s(\lambda)=\frac{1-e^{-s\lambda}}{s}\quad(\lambda\ge0).

ks(λ)=λ∫01e−sλvdvk_s(\lambda)=\lambda\int_0^1e^{-s\lambda v}dv なので、λ≥0\lambda\ge0 を固定すると ks(λ)k_s(\lambda) は ss について非増加で、s↓0s\downarrow0 で λ\lambda に増加して近づき、0≤ks(λ)≤min⁡(λ,1/s)0\le k_s(\lambda)\le\min(\lambda,1/s) です。

段階 2(形式の収束). sn↓0s_n\downarrow0 を任意の列とし、有界な形式 qn[ψ]=⟨ψ,Ssnψ⟩q_n[\psi]=\langle\psi,S_{s_n}\psi\rangle(定義域 H\mathcal{H})と q=hq=h に 定理 4.1 を使います。qnq_n に対応する作用素は SsnS_{s_n} 自身です(補題 2.2 の 3)。

(a) 部分列 nkn_k と ψk⇀ψ\psi_k\rightharpoonup\psi を取ります。σ>0\sigma>0 を固定すると、kk が大きければ snk≤σs_{n_k}\le\sigma で、段階 1 の単調性から

qnk[ψk]≥⟨ψk,kσ(A)ψk⟩+⟨φk,kσ(B)φk⟩,φk=Xsnkψk.q_{n_k}[\psi_k]\ge\langle\psi_k,k_\sigma(A)\psi_k\rangle+\langle\varphi_k,k_\sigma(B)\varphi_k\rangle,\qquad\varphi_k=X_{s_{n_k}}\psi_k .

φk⇀ψ\varphi_k\rightharpoonup\psi です。実際 η∈H\eta\in\mathcal{H} について ⟨η,φk⟩=⟨Xsnkη,ψk⟩\langle\eta,\varphi_k\rangle=\langle X_{s_{n_k}}\eta,\psi_k\rangle で、Xsη→ηX_s\eta\to\eta(系 4.7[1 径数ユニタリ群と強連続半群])と sup⁡k∥ψk∥<∞\sup_k\|\psi_k\|<\infty(系 5.4[Banach 空間の基本定理])から ⟨η,φk⟩→⟨η,ψ⟩\langle\eta,\varphi_k\rangle\to\langle\eta,\psi\rangle。有界な T≥0T\ge0 について χ↦⟨χ,Tχ⟩=∥T1/2χ∥2\chi\mapsto\langle\chi,T\chi\rangle=\|T^{1/2}\chi\|^2 は弱下半連続です(T1/2χk⇀T1/2χT^{1/2}\chi_k\rightharpoonup T^{1/2}\chi とノルムの弱下半連続性 命題 5.3[Hilbert 空間の基礎])。よって

lim inf⁡kqnk[ψk]≥∫kσ dμψA+∫kσ dμψB.\liminf_kq_{n_k}[\psi_k]\ge\int k_\sigma\,d\mu^A_\psi+\int k_\sigma\,d\mu^B_\psi .

σ↓0\sigma\downarrow0 とすると単調収束定理から右辺は ∫λ dμψA+∫λ dμψB\int\lambda\,d\mu^A_\psi+\int\lambda\,d\mu^B_\psi に増加し、これは 補題 2.2 の 1 により a[ψ]+b[ψ]=h[ψ]a[\psi]+b[\psi]=h[\psi](どちらかが +∞+\infty なら +∞+\infty)です。

(b) ψ∈Q(h)\psi\in Q(h) について定数列 ψn=ψ\psi_n=\psi を取ります。ks(λ)≤λk_s(\lambda)\le\lambda から第 1 項は a[ψ]a[\psi] 以下です。第 2 項は、∥ks(B)1/2∥≤s−1/2\|k_s(B)^{1/2}\|\le s^{-1/2} を使って

∥ks(B)1/2Xsψ∥≤∥ks(B)1/2ψ∥+s−1/2∥(1−Xs)ψ∥≤b[ψ]1/2+(∫(1−e−sλ/2)2s dμψA(λ))1/2.\|k_s(B)^{1/2}X_s\psi\|\le\|k_s(B)^{1/2}\psi\|+s^{-1/2}\|(1-X_s)\psi\|\le b[\psi]^{1/2}+\Bigl(\int\frac{(1-e^{-s\lambda/2})^2}{s}\,d\mu^A_\psi(\lambda)\Bigr)^{1/2}.

1−e−u≤min⁡(u,1)1-e^{-u}\le\min(u,1) から被積分関数は λ2min⁡(sλ2,1)\frac{\lambda}{2}\min(\frac{s\lambda}2,1) 以下で、λ/2\lambda/2 で押さえられ(∫λ dμψA=a[ψ]<∞\int\lambda\,d\mu^A_\psi=a[\psi]<\infty)、s→0s\to0 で各点で 00 に近づきます。優収束定理により最後の積分は 00 に収束し、lim sup⁡nqn[ψ]≤a[ψ]+b[ψ]=h[ψ]\limsup_nq_n[\psi]\le a[\psi]+b[\psi]=h[\psi]。

定理 4.1 から、すべての t>0t>0 で e−tSsn→e−tHPe^{-tS_{s_n}}\to e^{-tH}P が強収束します。

段階 3(対称化した積). t>0t>0 を固定し、s=t/ns=t/n、m∈{n−1,n}m\in\{n-1,n\}(n≥3n\ge3)とします。補題 5.1 を T=sSs=1−F(s)T=sS_s=1-F(s) に使うと ∥F(s)m−e−msSs∥≤2m/(e2(m−1)2)→0\|F(s)^m-e^{-msS_s}\|\le2m/(e^2(m-1)^2)\to0。また t′=ms∈[t(1−1/n),t]t'=ms\in[t(1-1/n),t] について、関数計算のノルム評価から

∥e−t′Ss−e−tSs∥≤sup⁡x≥0e−t′x(1−e−(t−t′)x)≤sup⁡x≥0e−t′x(t−t′)x=t−t′e t′≤1e(n−1).\|e^{-t'S_s}-e^{-tS_s}\|\le\sup_{x\ge0}e^{-t'x}\bigl(1-e^{-(t-t')x}\bigr)\le\sup_{x\ge0}e^{-t'x}(t-t')x=\frac{t-t'}{e\,t'}\le\frac{1}{e(n-1)} .

段階 2 を sn=t/ns_n=t/n に使えば e−tSt/n→e−tHPe^{-tS_{t/n}}\to e^{-tH}P なので、F(t/n)nF(t/n)^{n} と F(t/n)n−1F(t/n)^{n-1} はともに e−tHPe^{-tH}P に強収束します。m=nm=n の場合が主張の 3 番目の積です。

段階 4(非対称な積). Ys=e−sBY_s=e^{-sB} と書くと e−sA=Xs2e^{-sA}=X_s^2 で、

(Xs2Ys)n=Xs F(s)n−1 XsYs,(YsXs2)n=YsXs F(s)n−1 Xs(X_s^2Y_s)^n=X_s\,F(s)^{n-1}\,X_sY_s,\qquad(Y_sX_s^2)^n=Y_sX_s\,F(s)^{n-1}\,X_s

です(n=1n=1 で両辺が一致し、nn を 1 増やすと右辺に XsYsXsX_sY_sX_s が 1 個増える)。s=t/n→0s=t/n\to0 で Xs,Ys→1X_s,Y_s\to1 は強収束し、ノルムは 11 以下です。一般に ∥Un∥,∥Wn∥,∥Mn∥≤1\|U_n\|,\|W_n\|,\|M_n\|\le1、Un,Wn→1U_n,W_n\to1、Mn→MM_n\to M(強収束)なら

∥UnMnWnψ−Mψ∥≤∥Wnψ−ψ∥+∥Mnψ−Mψ∥+∥UnMψ−Mψ∥→0\|U_nM_nW_n\psi-M\psi\|\le\|W_n\psi-\psi\|+\|M_n\psi-M\psi\|+\|U_nM\psi-M\psi\|\to0

なので、段階 3 の Mn=F(t/n)n−1M_n=F(t/n)^{n-1} と Wn=XsYsW_n=X_sY_s(∥Wnψ−ψ∥≤∥Ysψ−ψ∥+∥Xsψ−ψ∥\|W_n\psi-\psi\|\le\|Y_s\psi-\psi\|+\|X_s\psi-\psi\|)、Un=XsU_n=X_s などに使えば、2 つの非対称な積も e−tHPe^{-tH}P に強収束します。

注意 5.3(既出の Trotter 積公式との関係)

A+BA+B が D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) 上で本質的自己共役なら、命題 3.2 の 3 により A∔BA\dotplus B はその閉包 CC で、P=1P=1 なので、上の定理は 1 径数群の章 の 定理 6.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群] の 2 を含みます。形式和への拡張は Kato(1978)によるものです。ここでは、対称化した積の自己共役性(補題 5.1)と形式の収束の判定法(定理 4.1)を組み合わせて示しました。ユニタリ群 (eitA/neitB/n)n(e^{itA/n}e^{itB/n})^n については、SsS_s に当たる作用素が自己共役にも非負にもならないので、この方法は使えません。t=0t=0 では左辺は 11 で右辺は PP なので、K≠H\mathcal{K}\ne\mathcal{H} なら t↓0t\downarrow0 で連続ではありません。

積の各因子が正値性を保てば、極限も正値性を保ちます。L2(M,μ)L^2(M,\mu) の作用素 TT が正値性を保つとは、ψ≥0\psi\ge0(a.e.)なら Tψ≥0T\psi\ge0 となることでした(定義 7.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群])。

系 5.4(形式和の半群の正値性)✓

(M,Σ,μ)(M,\Sigma,\mu) を σ\sigma 有限な測度空間、A≥−αA\ge-\alpha、B≥−βB\ge-\beta を L2(M,μ)L^2(M,\mu) 上の自己共役作用素とし、すべての t>0t>0 で e−tAe^{-tA} と e−tBe^{-tB} が正値性を保つとする。このとき t>0t>0 で e−t(A∔B)Pe^{-t(A\dotplus B)}P は正値性を保つ。

証明(系 5.4)

正値性を保つ作用素の積は正値性を保つので、ψ≥0\psi\ge0 なら Tnψ=(e−tA/ne−tB/n)nψ≥0T_n\psi=(e^{-tA/n}e^{-tB/n})^n\psi\ge0。定理 5.2 から Tnψ→e−t(A∔B)Pψ=:χT_n\psi\to e^{-t(A\dotplus B)}P\psi=:\chi(L2L^2)。μ(E)<∞\mu(E)<\infty の可測集合 EE について ∫Eχ dμ=lim⁡∫ETnψ dμ≥0\int_E\chi\,d\mu=\lim\int_ET_n\psi\,d\mu\ge0(1E∈L2\mathbf{1}_E\in L^2 との内積の極限)なので、∫Eχ\int_E\chi は実数で非負です。σ\sigma 有限性から、これがすべての有限測度の EE で成り立てば Im χ=0\mathrm{Im}\,\chi=0 かつ χ≥0\chi\ge0 が a.e. に成り立ちます(E={Reχ<−ε}∩MjE=\{\mathrm{Re}\chi\lt-\varepsilon\}\cap M_j や {Imχ>ε}∩Mj\{\mathrm{Im}\chi>\varepsilon\}\cap M_j を入れる。Mj↑MM_j\uparrow M は有限測度の集合)。

系 5.5(掛け算作用素との積公式)✓

命題 3.5 の仮定の下で、すべての t>0t>0 と ψ∈L2(μ)\psi\in L^2(\mu) について

e−t(H0∔V)ψ=lim⁡n→∞(e−tH0/n Me−tV/n)nψe^{-t(H_0\dotplus V)}\psi=\lim_{n\to\infty}\bigl(e^{-tH_0/n}\,M_{e^{-tV/n}}\bigr)^n\psi

が成り立つ。ここで Me−tV/nM_{e^{-tV/n}} は有界関数 e−tV/n≤etc/ne^{-tV/n}\le e^{tc/n} を掛ける作用素である。さらに e−tH0e^{-tH_0} がすべての t>0t>0 で正値性を保つなら、e−t(H0∔V)e^{-t(H_0\dotplus V)} も正値性を保つ。

証明(系 5.5)

命題 3.5 の 2 から K=L2(μ)\mathcal{K}=L^2(\mu)、P=1P=1 です。補題 2.6 の 2 から e−sV=Me−sVe^{-sV}=M_{e^{-sV}} で、定理 5.2 がそのまま使えます。掛け算作用素 Me−sVM_{e^{-sV}} は正の関数を掛けるので正値性を保ち、後半は 系 5.4 です。

これが Feynman–Kac–Nelson 公式の導出の第一歩で使う形です。D(H0)∩D(V)D(H_0)\cap D(V) 上での本質的自己共役性は要りません。

例 5.6(特異なポテンシャルの Feynman–Kac 公式へ)

例 3.3 の H=−Δ∔VH=-\Delta\dotplus V(0≤V∈Lloc10\le V\in L^1_{\mathrm{loc}})について、定理 5.2 から e−tH=s-limn(etΔ/ne−tV/n)ne^{-tH}=\mathrm{s\text{-}lim}_n(e^{t\Delta/n}e^{-tV/n})^n です。熱半群 etΔe^{t\Delta} は Gauss 核の積分作用素で正値性を保つので(命題 5.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群])、系 5.4 から e−tHe^{-tH} も正値性を保ちます。熱核の積を nn 個の中間点についての積分として書き、n→∞n\to\infty とする議論は、Feynman–Kac 公式の章 で有界な VV について行ったものと同じです。積公式が形式和について成り立つので、VV が局所可積分でありさえすれば同じ道筋が使えます。一方 例 3.4 の VV では、同じ積が 00 に強収束します。

6. 半群の極限から生成子を組み立てる

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切断を外す極限 κ→∞\kappa\to\infty では、近似の作用素 HκH_\kappa は単調でも形式で比べやすくもありません。代わりに手に入るのは、Euclid 側の確率論的な評価から来る半群の行列要素の収束と、一様な下界です。この節では、そこから極限の作用素を組み立て、レゾルベントの収束まで導きます。作用素の収束の章 の 定理 3.4[作用素の収束と摂動] がユニタリ群について述べたことの、半群版にあたります。

定理 6.1(一様に下に有界な作用素の半群の極限)✓

HnH_n を H\mathcal{H} 上の自己共役作用素とし、nn によらない c≥0c\ge0 について Hn≥−cH_n\ge-c とする。次の 2 条件は同値である。

  1. すべての t>0t>0 と ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について e−tHnψe^{-tH_n}\psi が収束する。
  2. ある λ0>c\lambda_0>c について、すべての ψ\psi で (Hn+λ0)−1ψ(H_n+\lambda_0)^{-1}\psi が収束する。

このとき、閉部分空間 K\mathcal{K} と K\mathcal{K} 上の自己共役作用素 H≥−cH\ge-c がただ一つあって、PP を K\mathcal{K} への射影とすると、すべての λ>c\lambda>c と t>0t>0 について

(Hn+λ)−1→(H+λ)−1P,e−tHn→e−tHP(強収束)(H_n+\lambda)^{-1}\to(H+\lambda)^{-1}P,\qquad e^{-tH_n}\to e^{-tH}P\qquad(\text{強収束})

となる。K=H\mathcal{K}=\mathcal{H} であるための必要十分条件は、極限 T(t)=s-limne−tHnT(t)=\mathrm{s\text{-}lim}_ne^{-tH_n} が t↓0t\downarrow0 で強収束の意味で 11 に近づくことである。

証明(定理 6.1)

Hn′=Hn+c≥0H_n'=H_n+c\ge0 と置き換えれば c=0c=0 としてよいので(e−tHn=ecte−tHn′e^{-tH_n}=e^{ct}e^{-tH_n'})、以下 Hn≥0H_n\ge0 とします。

1 ⇒ 2. λ>0\lambda>0 と ψ\psi を固定します。スペクトル測度 μψ(n)\mu^{(n)}_\psi は [0,∞)[0,\infty) に集中し(補題 2.2 の 1)、有界関数 ff について ⟨ψ,f(Hn)ψ⟩=∫f dμψ(n)\langle\psi,f(H_n)\psi\rangle=\int f\,d\mu^{(n)}_\psi(命題 4.1[スペクトル定理と関数計算] の 2)なので、Tonelli の定理(定理 3.3[直積測度と Fubini–Tonelli の定理])から

⟨ψ,(Hn+λ)−1ψ⟩=∫ ⁣ ⁣∫0∞e−λte−tx dt dμψ(n)(x)=∫0∞e−λt⟨ψ,e−tHnψ⟩ dt,\langle\psi,(H_n+\lambda)^{-1}\psi\rangle=\int\!\!\int_0^\infty e^{-\lambda t}e^{-tx}\,dt\,d\mu^{(n)}_\psi(x)=\int_0^\infty e^{-\lambda t}\langle\psi,e^{-tH_n}\psi\rangle\,dt ,

偏極により ⟨φ,(Hn+λ)−1ψ⟩=∫0∞e−λt⟨φ,e−tHnψ⟩ dt\langle\varphi,(H_n+\lambda)^{-1}\psi\rangle=\int_0^\infty e^{-\lambda t}\langle\varphi,e^{-tH_n}\psi\rangle\,dt です。したがって

∥(Hn+λ)−1ψ−(Hm+λ)−1ψ∥=sup⁡∥φ∥≤1∣∫0∞e−λt⟨φ,(e−tHn−e−tHm)ψ⟩dt∣≤∫0∞e−λtgn,m(t) dt,\|(H_n+\lambda)^{-1}\psi-(H_m+\lambda)^{-1}\psi\|=\sup_{\|\varphi\|\le1}\Bigl|\int_0^\infty e^{-\lambda t}\langle\varphi,(e^{-tH_n}-e^{-tH_m})\psi\rangle dt\Bigr|\le\int_0^\infty e^{-\lambda t}g_{n,m}(t)\,dt ,

gn,m(t)=∥(e−tHn−e−tHm)ψ∥g_{n,m}(t)=\|(e^{-tH_n}-e^{-tH_m})\psi\| は tt について連続(系 4.7[1 径数ユニタリ群と強連続半群])、2∥ψ∥2\|\psi\| 以下で、仮定から各 tt で n,m→∞n,m\to\infty のとき 00 に近づきます。右辺が 00 に近づかないとすると、ε>0\varepsilon>0 と nk,mk→∞n_k,m_k\to\infty で積分が ε\varepsilon 以上のものが取れますが、これは優収束定理(定理 7.3[ルベーグ積分の定義と収束定理])に反します。よって (Hn+λ)−1ψ(H_n+\lambda)^{-1}\psi は Cauchy 列で収束します。

2 ⇒ 1 と極限の構成. Rn=λ0(Hn+λ0)−1R_n=\lambda_0(H_n+\lambda_0)^{-1} とおくと、関数計算から 0≤Rn≤10\le R_n\le1 で、仮定から強極限 RR が存在し、RR は自己共役で 0≤R≤10\le R\le1 です(⟨φ,Rψ⟩=lim⁡⟨Rnφ,ψ⟩=⟨Rφ,ψ⟩\langle\varphi,R\psi\rangle=\lim\langle R_n\varphi,\psi\rangle=\langle R\varphi,\psi\rangle、⟨ψ,Rψ⟩=lim⁡⟨ψ,Rnψ⟩∈[0,∥ψ∥2]\langle\psi,R\psi\rangle=\lim\langle\psi,R_n\psi\rangle\in[0,\|\psi\|^2])。K=(Ker R)⊥\mathcal{K}=(\mathrm{Ker}\,R)^\perp、PP をその射影とします。RR は自己共役なので Ran R⊂K\mathrm{Ran}\,R\subset\mathcal{K} で、RK=R∣KR_{\mathcal{K}}=R|_{\mathcal{K}} は K\mathcal{K} 上の単射な有界自己共役作用素です。その値域は K\mathcal{K} で稠密です(K\mathcal{K} の中での直交補空間は Ker RK={0}\mathrm{Ker}\,R_{\mathcal{K}}=\{0\})。

RK−1R_{\mathcal{K}}^{-1}(定義域 Ran RK\mathrm{Ran}\,R_{\mathcal{K}})は自己共役です。実際 U(x,y)=(y,x)U(x,y)=(y,x) とすると G(RK−1)=UG(RK)\mathcal{G}(R_{\mathcal{K}}^{-1})=U\mathcal{G}(R_{\mathcal{K}}) で、補題 5.3[非有界作用素] の V(x,y)=(−y,x)V(x,y)=(-y,x) について VU=−UVVU=-UV、UU はユニタリなので

G((RK−1)∗)=(VUG(RK))⊥=U(VG(RK))⊥=UG(RK∗)=G(RK−1).\mathcal{G}\bigl((R_{\mathcal{K}}^{-1})^*\bigr)=\bigl(VU\mathcal{G}(R_{\mathcal{K}})\bigr)^\perp=U\bigl(V\mathcal{G}(R_{\mathcal{K}})\bigr)^\perp=U\mathcal{G}(R_{\mathcal{K}}^*)=\mathcal{G}(R_{\mathcal{K}}^{-1}) .

そこで H=λ0RK−1−λ0H=\lambda_0R_{\mathcal{K}}^{-1}-\lambda_0 とおくと、HH は K\mathcal{K} 上の自己共役作用素で (H+λ0)−1=λ0−1RK(H+\lambda_0)^{-1}=\lambda_0^{-1}R_{\mathcal{K}}、すなわち (Hn+λ0)−1→(H+λ0)−1P(H_n+\lambda_0)^{-1}\to(H+\lambda_0)^{-1}P です。ψ=RKη∈D(H)\psi=R_{\mathcal{K}}\eta\in D(H) について、0≤R≤10\le R\le1 と関数計算から R2≤RR^2\le R なので ⟨ψ,Hψ⟩=λ0⟨Rη,η⟩−λ0∥Rη∥2≥0\langle\psi,H\psi\rangle=\lambda_0\langle R\eta,\eta\rangle-\lambda_0\|R\eta\|^2\ge0、すなわち H≥0H\ge0。

補題 2.5 を λ0−1Hn\lambda_0^{-1}H_n、λ0−1H\lambda_0^{-1}H に使います(λ0−1Hn+1\lambda_0^{-1}H_n+1 のレゾルベントが RnR_n)。同じ補題の 1・2 から、λ∉(−∞,0]\lambda\notin(-\infty,0]、t>0t>0 について (Hn+λ)−1→(H+λ)−1P(H_n+\lambda)^{-1}\to(H+\lambda)^{-1}P、e−tHn→e−tHPe^{-tH_n}\to e^{-tH}P が強収束します(λ,t\lambda,t は λ0\lambda_0 倍に読み替える)。特に 1 が成り立ちます。

一意性. K′\mathcal{K}'、H′H' も同じ収束を満たせば (H+λ0)−1P=(H′+λ0)−1P′(H+\lambda_0)^{-1}P=(H'+\lambda_0)^{-1}P' で、核を比べて K=K′\mathcal{K}=\mathcal{K}'、逆を取って H=H′H=H'。

K=H\mathcal{K}=\mathcal{H} の判定. T(t)=e−tHPT(t)=e^{-tH}P で、t↓0t\downarrow0 のとき e−tHPψ→Pψe^{-tH}P\psi\to P\psi です(系 4.7[1 径数ユニタリ群と強連続半群] を K\mathcal{K} で使う)。これが ψ\psi に等しいことがすべての ψ\psi で成り立つのは P=1P=1 のときだけです。

Hn=nQH_n=nQ(QQ は射影)では e−tHn→1−Qe^{-tH_n}\to1-Q(t>0t>0)で、極限の半群は t=0t=0 で不連続になります(演習 7.3)。このように、半群の強収束だけでは極限が全空間に住むとは限りません。K=H\mathcal{K}=\mathcal{H} を保証するのが次のグラフ極限です。

補題 6.2(強グラフ極限)✓

定理 6.1 の状況で、ψn∈D(Hn)\psi_n\in D(H_n) が ψn→ψ\psi_n\to\psi、Hnψn→ηH_n\psi_n\to\eta を満たすとする。このとき ψ∈D(H)\psi\in D(H)(特に ψ∈K\psi\in\mathcal{K})かつ Hψ=PηH\psi=P\eta。

証明(補題 6.2)

λ>c\lambda>c を取り、ζn=(Hn+λ)ψn→ζ=η+λψ\zeta_n=(H_n+\lambda)\psi_n\to\zeta=\eta+\lambda\psi とおきます。ψn=(Hn+λ)−1ζn\psi_n=(H_n+\lambda)^{-1}\zeta_n で、∥(Hn+λ)−1∥≤(λ−c)−1\|(H_n+\lambda)^{-1}\|\le(\lambda-c)^{-1} と強収束から

∥(Hn+λ)−1ζn−(H+λ)−1Pζ∥≤(λ−c)−1∥ζn−ζ∥+∥((Hn+λ)−1−(H+λ)−1P)ζ∥→0.\|(H_n+\lambda)^{-1}\zeta_n-(H+\lambda)^{-1}P\zeta\|\le(\lambda-c)^{-1}\|\zeta_n-\zeta\|+\|((H_n+\lambda)^{-1}-(H+\lambda)^{-1}P)\zeta\|\to0 .

よって ψ=(H+λ)−1Pζ∈D(H)\psi=(H+\lambda)^{-1}P\zeta\in D(H) で、(H+λ)ψ=Pη+λPψ=Pη+λψ(H+\lambda)\psi=P\eta+\lambda P\psi=P\eta+\lambda\psi(ψ∈K\psi\in\mathcal{K})、すなわち Hψ=PηH\psi=P\eta。

系 6.3(極限の作用素は極限の和を拡張する)✓

定理 6.1 の状況で、稠密な部分空間 D\mathcal{D} があって、各 ψ∈D\psi\in\mathcal{D} について nn が大きければ ψ∈D(Hn)\psi\in D(H_n) で、HnψH_n\psi が収束するとし、その極限を SψS\psi とする。このとき K=H\mathcal{K}=\mathcal{H}、H⊃SH\supset S で、HnH_n は HH に強レゾルベント収束する。さらに SS が本質的自己共役なら H=SˉH=\bar S である。

証明(系 6.3)

ψ∈D\psi\in\mathcal{D} に 補題 6.2 を定数列 ψn=ψ\psi_n=\psi で使うと ψ∈K\psi\in\mathcal{K} で、D\mathcal{D} は稠密、K\mathcal{K} は閉なので K=H\mathcal{K}=\mathcal{H}、P=1P=1、Hψ=SψH\psi=S\psi。定理 6.1 の (Hn+λ)−1→(H+λ)−1(H_n+\lambda)^{-1}\to(H+\lambda)^{-1}(λ>c\lambda>c)は 1 点 z=−λz=-\lambda での収束で、補題 2.5 の 2 の関数 ϕλ\phi_\lambda を複素数 λ\lambda に使えば(Hn+cH_n+c、H+cH+c について)すべての非実数 zz で収束するので強レゾルベント収束です。最後に SS が本質的自己共役なら Sˉ\bar S は自己共役で、HH は閉なので Sˉ⊂H\bar S\subset H、命題 3.4[対称作用素と自己共役拡大] から H=SˉH=\bar S。

実際の応用で確かめやすいのは、半群そのものの強収束より「行列要素の収束」です。次の補題は、交差項さえ収束すれば強収束が従うことを述べます。

補題 6.4(交差項による強収束の判定)✓

Hn≥−cH_n\ge-c を自己共役作用素、t>0t>0 とし、稠密な部分集合 D\mathcal{D} の各元 ψ\psi について、2 重の極限

L(ψ)=lim⁡n,m→∞⟨e−tHnψ, e−tHmψ⟩L(\psi)=\lim_{n,m\to\infty}\bigl\langle e^{-tH_n}\psi,\,e^{-tH_m}\psi\bigr\rangle

が存在するとする(n,mn,m を独立に大きくしたときの極限)。このとき、すべての ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について e−tHnψe^{-tH_n}\psi は収束する。

証明(補題 6.4)

ψ∈D\psi\in\mathcal{D} について

∥(e−tHn−e−tHm)ψ∥2=⟨e−tHnψ,e−tHnψ⟩+⟨e−tHmψ,e−tHmψ⟩−2 Re⟨e−tHnψ,e−tHmψ⟩→L+L−2L=0\|(e^{-tH_n}-e^{-tH_m})\psi\|^2=\langle e^{-tH_n}\psi,e^{-tH_n}\psi\rangle+\langle e^{-tH_m}\psi,e^{-tH_m}\psi\rangle-2\,\mathrm{Re}\langle e^{-tH_n}\psi,e^{-tH_m}\psi\rangle\to L+L-2L=0

(L(ψ)L(\psi) は対角 n=mn=m の極限として非負の実数)なので、e−tHnψe^{-tH_n}\psi は Cauchy 列です。∥e−tHn∥≤ect\|e^{-tH_n}\|\le e^{ct} が nn によらないので、一般の ψ\psi は ψ′∈D\psi'\in\mathcal{D} で近似して ∥(e−tHn−e−tHm)ψ∥≤2ect∥ψ−ψ′∥+∥(e−tHn−e−tHm)ψ′∥\|(e^{-tH_n}-e^{-tH_m})\psi\|\le2e^{ct}\|\psi-\psi'\|+\|(e^{-tH_n}-e^{-tH_m})\psi'\| とすればよい。

注意 6.5(P(φ)₂ 模型での使い方)

P(ϕ)2P(\phi)_2 模型 の有限体積ハミルトニアンに当てはめると、次の形になります。切断つき相互作用 VκV_\kappa は L2(μ0)L^2(\mu_0) に入り下に有界で、自由場の半群は L∞L^\infty で縮小的なので、命題 3.5 から Hκ=H0∔VκH_\kappa=H_0\dotplus V_\kappa は自己共役で、系 5.5 の積公式が使えます。これが切断つきの Feynman–Kac–Nelson 公式の出発点です。次に、交差項 ⟨e−tHκF,e−tHκ′F⟩\langle e^{-tH_\kappa}F,e^{-tH_{\kappa'}}F\rangle(F∈L∞F\in L^\infty)は、切断つきの公式を 2 つの切断で使うと、Euclid 時間の区間 [0,t][0,t] と [t,2t][t,2t] に異なる切断を置いた Euclid 積分で表せます。こうして κ,κ′→∞\kappa,\kappa'\to\infty の 2 重極限の存在は、切断に一様な可積分性の評価の問題に帰着します。その評価と一様な下界 Hκ≥−cH_\kappa\ge-c が Euclid 側から得られれば、補題 6.4 と 定理 6.1 から極限の作用素 HH と強レゾルベント収束が得られ、ψ∈D(H0)∩L∞\psi\in D(H_0)\cap L^\infty では Vκψ→VψV_\kappa\psi\to V\psi(L2L^2)なので 系 6.3 から H⊃(H0+V)∣D(H0)∩L∞H\supset(H_0+V)|_{D(H_0)\cap L^\infty} です。残るのは、この部分空間(または D(H0)∩D(V)D(H_0)\cap D(V))が HH の芯であること、すなわち本質的自己共役性で、これは超縮小性を使う別の議論(Segal の定理)に属します。

演習 7.1易

A≥−αA\ge-\alpha を自己共役作用素、BB を有界な自己共役作用素とする。A∔B=A+BA\dotplus B=A+B(定義域 D(A)D(A))を示せ。

解答

D(A)∩D(B)=D(A)D(A)\cap D(B)=D(A) は稠密です。∥Bψ∥≤∥B∥∥ψ∥\|B\psi\|\le\|B\|\|\psi\| なので BB の AA に関する相対限界は 00 で、Kato–Rellich の定理(定理 3.2[自己共役性の判定])から A+BA+B は D(A)D(A) 上で自己共役です。とくに本質的自己共役なので、命題 3.2 の 3 から A∔BA\dotplus B は A+BA+B の閉包、すなわち A+BA+B 自身です。B≥−∥B∥B\ge-\|B\| なので形式和の定義の仮定も満たされています。

演習 7.2標準

H=L2(R)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R})、Q(q)=H1(R)Q(q)=H^1(\mathbb{R})、q[ψ]=∣ψ(0)∣2q[\psi]=|\psi(0)|^2 とする(H1H^1 の元は連続な代表元をもつ)。(1) qq が閉包可能でないことを示せ。(2) qn[ψ]=n−1∥ψ′∥2+∣ψ(0)∣2q_n[\psi]=n^{-1}\|\psi'\|^2+|\psi(0)|^2(Q(qn)=H1Q(q_n)=H^1)は閉形式の減少列で、その極限が qq であることを確かめ、定理 4.2 が使えない理由を述べよ。

解答

(1) ψk(x)=max⁡(0,1−k∣x∣)\psi_k(x)=\max(0,1-k|x|) とおくと ψk∈H1\psi_k\in H^1、∥ψk∥2=2/(3k)→0\|\psi_k\|^2=2/(3k)\to0 です。形式ノルム ∥ψ∥+12=∣ψ(0)∣2+∥ψ∥2\|\psi\|_{+1}^2=|\psi(0)|^2+\|\psi\|^2 について ∥ψk−ψj∥+12=∥ψk−ψj∥2→0\|\psi_k-\psi_j\|_{+1}^2=\|\psi_k-\psi_j\|^2\to0(ψk(0)=ψj(0)=1\psi_k(0)=\psi_j(0)=1)なので Cauchy 列ですが、q[ψk]=1q[\psi_k]=1 は 00 に近づきません。閉包 qˉ\bar q があれば、ψk\psi_k は qˉ\bar q の形式ノルムで H\mathcal{H} での極限 00 に収束するはずで、qˉ[ψk]=q[ψk]→qˉ[0]=0\bar q[\psi_k]=q[\psi_k]\to\bar q[0]=0 となって矛盾します。 (2) qnq_n は 1n∥ψ′∥2\frac1n\|\psi'\|^2(−1nd2/dx2-\frac1n d^2/dx^2 の形式)と ∣ψ(0)∣2|\psi(0)|^2 の和です。後者の形式限界は 00(例 5.3[自己共役性の判定] の評価を εn−1\varepsilon n^{-1} で使う)なので、KLMN の定理(定理 5.2[自己共役性の判定])から qnq_n は閉です。qn+1≤qnq_{n+1}\le q_n で定義域は共通、qn[ψ]→∣ψ(0)∣2q_n[\psi]\to|\psi(0)|^2。極限が (1) により閉包可能でないので、定理の仮定が満たされません。

演習 7.3標準

QQ を H\mathcal{H} 上の直交射影(Q≠0Q\ne0)とし、Hn=nQH_n=nQ とおく。(1) t>0t>0 で e−tHn→1−Qe^{-tH_n}\to1-Q が強収束することを示し、定理 6.1 の K\mathcal{K} と HH を求めよ。(2) 同じ結果を 定理 4.1 から導け。

解答

(1) e−tnQ=(1−Q)+e−tnQ→1−Qe^{-tnQ}=(1-Q)+e^{-tn}Q\to1-Q(ノルム収束)。(Hn+λ)−1=λ−1(1−Q)+(n+λ)−1Q→λ−1(1−Q)(H_n+\lambda)^{-1}=\lambda^{-1}(1-Q)+(n+\lambda)^{-1}Q\to\lambda^{-1}(1-Q) なので、K=Ran(1−Q)\mathcal{K}=\mathrm{Ran}(1-Q)、H=0H=0(K\mathcal{K} 上)、P=1−QP=1-Q です。T(t)=1−QT(t)=1-Q は t↓0t\downarrow0 で 11 に近づかず、K≠H\mathcal{K}\ne\mathcal{H} と整合します。 (2) qn[ψ]=n∥Qψ∥2q_n[\psi]=n\|Q\psi\|^2、q[ψ]=0q[\psi]=0(Qψ=0Q\psi=0 のとき)、+∞+\infty(それ以外)とします。qq は Ran(1−Q)\mathrm{Ran}(1-Q) 上の零形式で閉、対応する作用素は K=Ran(1−Q)\mathcal{K}=\mathrm{Ran}(1-Q) 上の 00 です。(a): ψk⇀ψ\psi_k\rightharpoonup\psi で lim inf⁡nk∥Qψk∥2<∞\liminf n_k\|Q\psi_k\|^2<\infty なら、部分列で ∥Qψk∥→0\|Q\psi_k\|\to0、Qψk⇀QψQ\psi_k\rightharpoonup Q\psi とノルムの弱下半連続性から Qψ=0Q\psi=0、すなわち q[ψ]=0≤lim inf⁡q[\psi]=0\le\liminf。Qψ≠0Q\psi\ne0 なら上の議論から lim inf⁡=∞\liminf=\infty。(b): ψ∈Ran(1−Q)\psi\in\mathrm{Ran}(1-Q) には定数列で qn[ψ]=0q_n[\psi]=0。よって (Hn+1)−1→(H+1)−1P=1−Q(H_n+1)^{-1}\to(H+1)^{-1}P=1-Q で (1) と一致します。

演習 7.4標準

A≥0A\ge0 を L2(M,μ)L^2(M,\mu) 上の自己共役作用素とし、すべての t>0t>0 で e−tAe^{-tA} が正値性改良(定義 7.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群])であるとする。VV を有界な実数値可測関数とするとき、e−t(A+V)e^{-t(A+V)}(t>0t>0)も正値性改良であることを示せ。

解答

演習 7.1 から A∔V=A+VA\dotplus V=A+V で、P=1P=1 です。M=∥V∥∞M=\|V\|_\infty とします。正値性を保つ作用素 TT は順序を保つ(ψ≤χ\psi\le\chi なら Tψ≤TχT\psi\le T\chi)ことに注意すると、ψ≥0\psi\ge0 について e−sVψ≥e−sMψe^{-sV}\psi\ge e^{-sM}\psi から、帰納的に

(e−tA/ne−tV/n)nψ≥e−tM(e−tA/n)nψ=e−tMe−tAψ.\bigl(e^{-tA/n}e^{-tV/n}\bigr)^n\psi\ge e^{-tM}\bigl(e^{-tA/n}\bigr)^n\psi=e^{-tM}e^{-tA}\psi .

定理 5.2 から左辺は e−t(A+V)ψe^{-t(A+V)}\psi に L2L^2 収束し、差 左辺−e−tMe−tAψ≥0\text{左辺}-e^{-tM}e^{-tA}\psi\ge0 の極限も(系 5.4 の証明と同じ理由で)a.e. に非負です。よって e−t(A+V)ψ≥e−tMe−tAψe^{-t(A+V)}\psi\ge e^{-tM}e^{-tA}\psi で、ψ≠0\psi\ne0 なら右辺は a.e. で正です。

  • T. Kato, Perturbation Theory for Linear Operators, 2nd ed., Springer, 1976 — 第 VI 章(二次形式、表現定理、形式和)、第 VIII 章 §3(形式の単調収束)、第 IX 章(半群とその摂動)。
  • T. Kato, “Trotter’s product formula for an arbitrary pair of self-adjoint contraction semigroups”, in: Topics in Functional Analysis(Advances in Mathematics Supplementary Studies 3), Academic Press, 1978.
  • B. Simon, Quantum Mechanics for Hamiltonians Defined as Quadratic Forms, Princeton University Press, 1971 — 形式和と特異なポテンシャル。
  • B. Simon, “A canonical decomposition for quadratic forms with applications to monotone convergence theorems”, Journal of Functional Analysis 28 (1978), 377–385.
  • U. Mosco, “Composite media and asymptotic Dirichlet forms”, Journal of Functional Analysis 123 (1994), 368–421 — 形式の収束(Mosco 収束)と強レゾルベント収束。
  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis(revised and enlarged edition, 1980)および II: Fourier Analysis, Self-Adjointness(1975), Academic Press — 第 VIII 章(レゾルベント収束と形式)、第 X 章(形式和、Trotter 積公式、超縮小半群)。
  • J. Glimm, A. Jaffe, Quantum Physics: A Functional Integral Point of View, 2nd ed., Springer, 1987 — 有限体積ハミルトニアンと Feynman–Kac–Nelson 公式。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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