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スペクトルの多重度:Hahn–Hellinger の定理と多重度関数

対象読者: 本テーマのスペクトル定理(射影値測度・関数計算・掛け算作用素版)とスペクトルの分類、および Radon–Nikodym の定理を学んだ人。多重度の理論は仮定しません。

前提となる記事:スペクトル定理と関数計算:非有界自己共役作用素を射影値測度で対角化する、スペクトルの分類:点・連続・本質スペクトルと Weyl の判定法

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和音を周波数ごとに分けると、どの高さの音が鳴っているかがわかります。量子力学の観測量や微分方程式に現れる作用素も、同じように「値ごと」に分けて調べます。このとき大事なのは、どの値が現れるか(スペクトル)だけではありません。同じ値に互いに独立な状態がいくつ乗っているか、という「重なりの数」も、作用素の正体を決める情報です。

有限次元では、重なりの数は固有空間の次元です。対称行列は、固有値と、それぞれの固有値が何重に現れるかを指定すれば、直交変換を除いて決まります。無限次元の自己共役作用素では、固有値が 1 つも無いのにスペクトルが区間を埋め尽くすことがあり、「1 点の上の次元」は意味を失います。それでも、たとえば直線上の自由粒子では各エネルギーに右向きと左向きの 2 つの運動があり、3 次元の自由粒子ではあらゆる方向の運動があります。この「2 つ」「無限個」を測度の言葉で正確に数えるのが多重度の理論で、100 年以上前に無限個の変数の 2 次形式の研究から生まれました。

この記事では、自己共役作用素をユニタリ同値(量子力学では「同じ物理を表す座標の取り替え」)を除いて完全に分類する Hahn–Hellinger の定理を証明し、多重度を表す関数(多重度関数)を定義します。さらに、有限個のベクトルの「スペクトルの重なり具合」を並べた行列の階数から多重度を読み取る方法を用意します。これは、散乱理論や時間作用素の理論で、具体的な作用素の多重度を確かめるときの道具になります。要点は次のとおりです。

  • 巡回部分空間(1 つのベクトルに HH の関数を作用させて得られる部分空間)の上では、自己共役作用素 HH は L2(R,μ)L^2(\mathbb{R},\mu) 上の λ\lambda の掛け算になります。可分な空間は互いに直交する巡回部分空間の可算直和に分解できます。
  • 最大スペクトル型: ある 1 つのベクトル ψ0\psi_0 のスペクトル測度が、すべてのベクトルのスペクトル測度を絶対連続に支配します。その零集合はちょうど EH(B)=0E_H(B)=0 となる集合です。
  • Hahn–Hellinger の定理: HH は、μ1≫μ2≫⋯\mu_1\gg\mu_2\gg\cdots と減少する有限測度の列について ⨁kL2(R,μk)\bigoplus_k L^2(\mathbb{R},\mu_k) 上の λ\lambda の掛け算にユニタリ同値で、測度の列は同値類として一意です。純絶対連続なら、Lebesgue 可測集合の減少列 E1⊇E2⊇⋯E_1\supseteq E_2\supseteq\cdots によって H≅⨁kλ∣L2(Ek)H\cong\bigoplus_k\lambda|_{L^2(E_k)} と書け、多重度関数 m(λ)=#{k:λ∈Ek}m(\lambda)=\#\{k:\lambda\in E_k\} がほとんど至る所で一意に決まります。
  • Gram 行列による読み取り: 稠密な列 {ψn}\{\psi_n\} の相互スペクトル密度を並べた行列 GN(λ)G_N(\lambda) の階数は m(λ)m(\lambda) を超えず、N→∞N\to\infty の上限は m(λ)m(\lambda) に一致します。一意性の証明もこの事実から出ます。
  • 連続な行列値関数の階数は下半連続です。太った Cantor 集合(閉で内点を持たないのに測度が正の集合)を構成し、多重度関数の例に使います。

L2(0,1)L^2(0,1) 上の変数 λ\lambda の掛け算作用素 H1H_1 と、L2(0,1)⊕L2(0,1)L^2(0,1)\oplus L^2(0,1) 上で両方の成分に λ\lambda を掛ける作用素 H2H_2 を比べてみます。どちらもスペクトルは [0,1][0,1] で、固有値は無く、スペクトルは純絶対連続です(定義 4.1[スペクトルの分類])。スペクトルの集合も型も同じですが、H1H_1 と H2H_2 はユニタリ同値ではありません。H1H_1 と可換な有界作用素はすべて互いに可換ですが(L∞L^\infty の掛け算作用素だけです。系 6.4[von Neumann 環と二重可換子定理])、H2H_2 と可換な作用素には 2×22\times2 の定数行列が含まれ、互いに可換ではないからです。違いは「[0,1][0,1] の各点が何重に現れるか」にあります。

有限次元では、この情報は固有空間の次元そのものです。無限次元では、1 点の「次元」は意味を持たないので(H1H_1 の固有空間はすべて {0}\{0\} です)、点ごとの次元を測度論的に定義し直さなければなりません。Hellinger(1907 年の学位論文と 1909 年の論文)と Hahn(1912)は、有界な 2 次形式の対角化の問題として、この定義と分類を与えました。現代的には、スペクトル定理(定理 5.7[スペクトル定理と関数計算])の「掛け算作用素への書き直し」を、測度の選び方まで込めて一意にしたものが Hahn–Hellinger の定理です。

この記事の後半の Gram 行列による読み取りは、分類の一意性を示す道具であると同時に、具体的な作用素の多重度を「有限個のベクトルのスペクトル測度」から計算する方法でもあります。たとえば、時間作用素の理論で、ある種の作用素が存在するための条件が多重度関数の下半連続性の言葉で書けますが、その証明はこの読み取りと、連続な行列の階数の下半連続性を組み合わせて行います。

1.1. 歴史:無限個の変数の 2 次形式から Hilbert 空間の作用素へ

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多重度の理論は、Hilbert の積分方程式の研究から始まりました。Hilbert は 1904 年から 1910 年にかけての一連の論文で、積分方程式を無限個の変数の 2 次形式 ∑j,kajkxjxk\sum_{j,k}a_{jk}x_jx_k の問題に書き直し、それを直交変換で標準形に直すことを考えました。有限個の変数なら標準形は固有値の並びだけで決まります。ところが無限個の変数では、固有値(Hilbert の言葉で点スペクトル)のほかに、線分の上に広がる連続スペクトル(Streckenspektrum)が現れます。連続スペクトルの部分では、直交変換で変わらない量(直交不変量)は何か、という問いが残りました。

Hilbert の学生だった Hellinger は、1907 年の学位論文でこの問いに取り組みました。彼は、連続スペクトルの部分の不変量を、のちに Hellinger 積分と呼ばれる ∫(dρ)2/dσ\int(\mathrm{d}\rho)^2/\mathrm{d}\sigma の形の積分(2 つの測度の「比」を測る積分)で記述し、1909 年の Crelle 誌の論文で理論をまとめ直しました。Hellinger 自身はこの積分を Lebesgue 積分に直せないと考えていましたが、Hahn は 1912 年の論文で、それが Lebesgue 積分に帰着できることを示し、直交不変量の系を測度論の言葉で与えました。この記事の「測度の同値類の減少列」(定理 7.1)は、Hahn の答えを現代の言葉で書いたものです。

1920 年代の終わりに、von Neumann が量子力学の数学的基礎として抽象的な Hilbert 空間を導入し、非有界な自己共役作用素のスペクトル定理を証明すると(1929 年)、2 次形式の理論は作用素の理論として読み直されました。Stone の 1932 年の著書 Linear Transformations in Hilbert Space は、自己共役作用素のユニタリ同値による分類を扱っています。Halmos の 1951 年の本は、この分類を射影値測度と測度の同値類の言葉で整理した教科書で、この記事の述べ方もその流れに沿っています。

1906Hilbert連続スペクトル1909HellingerHellinger 積分1929von Neumannスペクトル定理1951Halmos多重度の教科書1983Schmüdgen交換関係の表現1907Hellinger学位論文1912Hahn直交不変量1932Stone作用素の分類1957Kato, Rosenblum散乱と ac 部分
多重度の理論とその応用の年表(本文で触れた出来事だけを並べた。間隔は年数に比例しない)。

多重度は、スペクトルの集合と型(点・絶対連続・特異連続)だけでは区別できない作用素を区別します。§1 の冒頭の H1H_1 と H2H_2 はその最小の例でした。量子力学の言葉で言えば、ユニタリ同値な 2 つのハミルトニアンは同じ物理を表すので、Hahn–Hellinger の定理は「スペクトルの型と多重度関数が、ハミルトニアンの持つ情報のすべてである」と言っています。固有値の多重度は縮退度(同じエネルギーを持つ独立な状態の数)で、連続スペクトルの多重度は、同じエネルギーで散乱できる「通り道」の数(運動の向きや内部状態の数。散乱理論ではチャネルと呼びます)にあたります。直線上の自由粒子では右向きと左向きの 2 つ、d≥2d\ge2 次元では全方向の可算無限個です(例 9.2)。

驚くべき点もあります。多重度関数は「ほとんど至る所」でしか決まらず、多重度が 22 になる点の集合は、内点を持たないのに測度が正の集合(太った Cantor 集合)でもかまいません(例 9.3)。区間 [0,1][0,1] の上の純絶対連続な作用素で、スペクトルを見る限りどこにも「重なり」の兆候が無いのに、測度の半分の上で 2 重になっている、ということが起こります。

多重度は数理物理の外でも中心的な不変量です。測度を保つ変換 SS から f↦f∘Sf\mapsto f\circ S で定まるユニタリ作用素(Koopman 作用素)のスペクトル型と多重度は、エルゴード理論の基本的な不変量で、たとえば「定数関数の直交補空間の上で、最大スペクトル型が円周の Lebesgue 測度と同値で多重度が 11(単純な Lebesgue スペクトル)になる変換はあるか」という Banach に帰される問いは、未解決として知られています(この記事の道具は自己共役作用素のためのものですが、ユニタリ作用素の多重度理論も同じ形をしています)。

1.3. 分類が分かると何が嬉しいか:応用

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  • 散乱理論: 波動作用素は、自由なハミルトニアン H0H_0 と相互作用のあるハミルトニアン HH の絶対連続部分を結ぶユニタリ同値を与えます(完全性があれば。完全性と絶対連続部分のユニタリ同値)。Kato と Rosenblum(1957)の定理(Kato–Rosenblum の定理)によれば、トレース類の摂動では絶対連続部分がユニタリ同値のまま保たれます。どちらも、Hahn–Hellinger の定理を通して「摂動で多重度関数が変わらない」と読めます。逆に、多重度関数が違えば波動作用素は完全になりえない、という障害として使えます。
  • 1 次元の作用素と逆問題: 半直線上の Jacobi 行列は最初の基底ベクトルを巡回ベクトルに持つので多重度が 11 で、そのスペクトル測度だけで作用素がユニタリ同値を除いて決まります(Jacobi 行列とモーメント問題)。スペクトル測度から係数を復元する逆スペクトル問題が意味を持つのは、多重度が 11 だからです。直線全体の 1 次元 Schrödinger 作用素では、多重度は 22 以下です。
  • 時間作用素: エネルギーと正準共役な「時間の観測量」の最も強い形(強時間作用素)が存在するかどうかは、多重度関数が下半連続関数にとれるかどうかで決まります。これは Schmüdgen(1983)と Dorfmeister–Dorfmeister(1984)が交換関係の表現の研究で得た分類です(強時間作用素の存在)。この判定の証明には、§6 の Gram 行列による読み取りと §8 の下半連続性をそのまま使います。
  • 具体的な計算: Gram 行列による読み取り(命題 7.4)は、多重度を「有限個のベクトルのスペクトル測度」から下から評価する方法です。全体の分解を書き下さなくても、うまく選んだ数本のベクトルで多重度の下限が分かります。

Hahn–Hellinger の定理と多重度関数は、Halmos・Conway・Birman–Solomyak の教科書に書かれている古典的な結果で、この記事に新しい定理はありません。証明は巡回分解・最大スペクトル型・測度の同値類の並べ替えという標準的な道筋をたどります。一方、相互スペクトル密度の Gram 行列による多重度の読み取りと、連続な行列の階数の下半連続性を独立した命題として整えておくのは、時間作用素の分類のような、多重度を「連続性」と結びつける応用に使うためです。

記号. H\mathcal{H} は複素 Hilbert 空間で、内積は第 1 変数について共役線形です。HH は H\mathcal{H} 上の自己共役作用素、EHE_H はそのスペクトル測度、μφ,ψ(B)=⟨φ,EH(B)ψ⟩\mu_{\varphi,\psi}(B)=\langle\varphi,E_H(B)\psi\rangle は複素スペクトル測度、μψ=μψ,ψ\mu_\psi=\mu_{\psi,\psi} です(命題 3.2[スペクトル定理と関数計算])。Bb(R)\mathcal{B}_b(\mathbb{R}) は有界ボレル関数全体、1B\mathbf{1}_B は集合 BB の定義関数、∣B∣|B| は Lebesgue 測度です。N={1,2,…}\mathbb{N}=\{1,2,\ldots\} とし、多重度は {0,1,2,…}∪{∞}\{0,1,2,\ldots\}\cup\{\infty\} に値をとります。2 つの測度 μ,ν\mu,\nu が同値 μ∼ν\mu\sim\nu であるとは、μ≪ν\mu\ll\nu かつ ν≪μ\nu\ll\mu、すなわち零集合が一致することです。ボレル測度 μ\mu が局所有限であるとは、有界なボレル集合の測度がすべて有限であることです(有限測度と Lebesgue 測度はどちらも局所有限で、局所有限な測度は σ\sigma-有限です)。

定義 2.1(掛け算模型とユニタリ同値)↗

μ1,μ2,…\mu_1,\mu_2,\ldots を R\mathbb{R} 上の局所有限なボレル測度(00 も許す)とし、

M=⨁k∈NL2(R,μk)={g=(gk)k: ∥g∥2=∑k∫∣gk∣2 dμk<∞}\mathcal{M}=\bigoplus_{k\in\mathbb{N}}L^2(\mathbb{R},\mu_k)=\Bigl\{g=(g_k)_k:\ \|g\|^2=\sum_k\int|g_k|^2\,\mathrm{d}\mu_k<\infty\Bigr\}

とおく。M\mathcal{M} 上の掛け算作用素 MλM_\lambda を

D(Mλ)={g∈M:∑k∫λ2∣gk∣2 dμk<∞},(Mλg)k(λ)=λgk(λ)D(M_\lambda)=\Bigl\{g\in\mathcal{M}:\sum_k\int\lambda^2|g_k|^2\,\mathrm{d}\mu_k<\infty\Bigr\},\qquad (M_\lambda g)_k(\lambda)=\lambda g_k(\lambda)

で定め、ボレル集合 BB について P(B)g=(1Bgk)kP(B)g=(\mathbf{1}_Bg_k)_k とおく。組 (M,Mλ)(\mathcal{M},M_\lambda) を掛け算模型という。μ\mu が局所有限でボレル集合 E⊂RE\subset\mathbb{R} を取るとき、L2(E,μ)L^2(E,\mu) は L2(R,1Eμ)L^2(\mathbb{R},\mathbf{1}_E\mu)、すなわち EE の外で 00 になる L2(μ)L^2(\mu) の元の空間と同一視する。

自己共役作用素 HH(空間 H\mathcal{H})と KK(空間 K\mathcal{K})がユニタリ同値であるとは、ユニタリ作用素 W:H→KW:\mathcal{H}\to\mathcal{K} で WD(H)=D(K)WD(H)=D(K) かつ WHW−1=KWHW^{-1}=K となるものが存在することをいい、H≅KH\cong K と書く。

模型は、スペクトル定理の掛け算作用素版を「直線の可算個のコピー」の上で書いたものです。次の補題は、模型ではスペクトル測度が素直に「1B\mathbf{1}_B を掛けること」になり、ユニタリ同値がスペクトル測度を運ぶことを確かめます。

補題 2.2(掛け算模型のスペクトル測度)✓

(M,Mλ)(\mathcal{M},M_\lambda) を掛け算模型とする。

  1. PP は M\mathcal{M} 上の射影値測度で、MλM_\lambda は自己共役であり、そのスペクトル測度は PP である。f∈Bb(R)f\in\mathcal{B}_b(\mathbb{R}) について f(Mλ)f(M_\lambda) は各成分に ff を掛ける作用素で、g,h∈Mg,h\in\mathcal{M} の複素スペクトル測度は μg,h=∑kgk‾hk μk\mu_{g,h}=\sum_k\overline{g_k}h_k\,\mu_k である(右辺は全変動の意味で絶対収束する複素測度の和)。
  2. HH を H\mathcal{H} 上の自己共役作用素、W:H→MW:\mathcal{H}\to\mathcal{M} をユニタリ作用素とする。WHW−1=MλWHW^{-1}=M_\lambda(定義域を含む)であることと、すべてのボレル集合 BB で WEH(B)W−1=P(B)WE_H(B)W^{-1}=P(B) であることは同値である。このとき φ,ψ∈H\varphi,\psi\in\mathcal{H} について μφ,ψH=μWφ,Wψ\mu^H_{\varphi,\psi}=\mu_{W\varphi,W\psi}、f∈Bb(R)f\in\mathcal{B}_b(\mathbb{R}) について Wf(H)W−1=f(Mλ)Wf(H)W^{-1}=f(M_\lambda) である。
証明(補題 2.2)
  1. P(B)P(B) が直交射影であること、P(∅)=0P(\emptyset)=0、P(R)=1P(\mathbb{R})=1 は定義から明らかです。互いに素な B1,B2,…B_1,B_2,\ldots と B=⋃nBnB=\bigcup_nB_n について
∥P(B)g−∑n≤NP(Bn)g∥2=∑k∫1⋃n>NBn∣gk∣2 dμk\Bigl\|P(B)g-\sum_{n\le N}P(B_n)g\Bigr\|^2=\sum_k\int\mathbf{1}_{\bigcup_{n\gt N}B_n}|g_k|^2\,\mathrm{d}\mu_k

で、被積分関数は ∣gk∣2|g_k|^2 で抑えられ各点で 00 に収束するので、N×R\mathbb{N}\times\mathbb{R} 上の測度 ∑kδk⊗μk\sum_k\delta_k\otimes\mu_k に関する優収束定理で右辺は 00 に収束します。よって PP は射影値測度(定義 3.1[スペクトル定理と関数計算])で、μgP(B)=∥P(B)g∥2=∑k∫B∣gk∣2 dμk\mu^P_g(B)=\|P(B)g\|^2=\sum_k\int_B|g_k|^2\,\mathrm{d}\mu_k です。

単関数 s=∑jcj1Bjs=\sum_jc_j\mathbf{1}_{B_j} の積分 ∑jcjP(Bj)\sum_jc_jP(B_j) は ss を掛ける作用素です。有界ボレル関数 ff は単関数 sns_n で一様近似でき、sns_n を掛ける作用素は作用素ノルムで ff を掛ける作用素に収束するので(∥(sn−f)g∥≤∥sn−f∥∞∥g∥\|(s_n-f)g\|\le\|s_n-f\|_\infty\|g\|)、∫f dP\int f\,\mathrm{d}P は ff を掛ける作用素です。次に λ\lambda の積分 I(λ)I(\lambda) を 定義 4.2[スペクトル定理と関数計算] に従って調べます。μgP\mu^P_g は ∑k∣gk∣2μk\sum_k|g_k|^2\mu_k に等しいので、単関数から単調収束定理で ∫λ2 dμgP=∑k∫λ2∣gk∣2 dμk\int\lambda^2\,\mathrm{d}\mu^P_g=\sum_k\int\lambda^2|g_k|^2\,\mathrm{d}\mu_k となり、I(λ)I(\lambda) の定義域は D(Mλ)D(M_\lambda) に一致します。g∈D(Mλ)g\in D(M_\lambda) なら I(λ)g=lim⁡n(λ1∣λ∣≤ngk)kI(\lambda)g=\lim_n(\lambda\mathbf{1}_{|\lambda|\le n}g_k)_k で、優収束定理によりこの極限は (λgk)k=Mλg(\lambda g_k)_k=M_\lambda g です。よって Mλ=∫λ dPM_\lambda=\int\lambda\,\mathrm{d}P は 定理 4.3[スペクトル定理と関数計算] の 2 により自己共役で、定理 5.5[スペクトル定理と関数計算] の一意性からそのスペクトル測度は PP です。f(Mλ)=∫f dPf(M_\lambda)=\int f\,\mathrm{d}P は上で見たとおり ff を掛ける作用素です。

複素スペクトル測度は μg,h(B)=⟨g,P(B)h⟩=∑k∫Bgk‾hk dμk\mu_{g,h}(B)=\langle g,P(B)h\rangle=\sum_k\int_B\overline{g_k}h_k\,\mathrm{d}\mu_k です。Cauchy–Schwarz の不等式で ∑k∫∣gk‾hk∣ dμk≤∥g∥∥h∥\sum_k\int|\overline{g_k}h_k|\,\mathrm{d}\mu_k\le\|g\|\|h\| なので、和は全変動の意味で絶対収束します。

  1. F(B):=W−1P(B)WF(B):=W^{-1}P(B)W は H\mathcal{H} 上の射影値測度で、μψF=μWψP\mu^F_\psi=\mu^P_{W\psi} です。定義 4.2[スペクトル定理と関数計算] の定義(定義域と極限)は WW で運ばれるので、∫λ dF=W−1(∫λ dP)W=W−1MλW\int\lambda\,\mathrm{d}F=W^{-1}\bigl(\int\lambda\,\mathrm{d}P\bigr)W=W^{-1}M_\lambda W です(定義域を含む)。

WHW−1=MλWHW^{-1}=M_\lambda を仮定すると、H=W−1MλW=∫λ dFH=W^{-1}M_\lambda W=\int\lambda\,\mathrm{d}F なので、定理 5.5[スペクトル定理と関数計算] の一意性から EH=FE_H=F、すなわち WEH(B)W−1=P(B)WE_H(B)W^{-1}=P(B) です。逆に WEH(B)W−1=P(B)WE_H(B)W^{-1}=P(B) がすべての BB で成り立てば EH=FE_H=F で、H=∫λ dEH=W−1MλWH=\int\lambda\,\mathrm{d}E_H=W^{-1}M_\lambda W です。このとき μφ,ψH(B)=⟨Wφ,P(B)Wψ⟩=μWφ,Wψ(B)\mu^H_{\varphi,\psi}(B)=\langle W\varphi,P(B)W\psi\rangle=\mu_{W\varphi,W\psi}(B)、また f(H)=∫f dF=W−1f(Mλ)Wf(H)=\int f\,\mathrm{d}F=W^{-1}f(M_\lambda)W です。

定義 3.1(巡回部分空間・巡回ベクトル)↗

ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について、閉部分空間

Hψ={f(H)ψ: f∈Bb(R)}‾\mathcal{H}_\psi=\overline{\{f(H)\psi:\ f\in\mathcal{B}_b(\mathbb{R})\}}

を ψ\psi が生成する HH の巡回部分空間という。Hψ=H\mathcal{H}_\psi=\mathcal{H} のとき、ψ\psi を HH の巡回ベクトルという。

有限次元の対称行列なら、巡回ベクトルが存在することと固有値がすべて単純であることは同値です(関数 ff で固有値の上の値を自由に指定できるので、f(H)ψf(H)\psi は各固有空間への ψ\psi の成分を自由に伸び縮みさせたものになります)。この意味で、巡回部分空間は「多重度 1 の部分」の無限次元版です。

命題 3.2(可分空間の巡回分解)✓

H\mathcal{H} を可分とする。このとき零でないベクトルの(有限または可算の)族 {ψn}n∈N\{\psi_n\}_{n\in N}(N⊂NN\subset\mathbb{N})で、Hψn\mathcal{H}_{\psi_n} が互いに直交し H=⨁n∈NHψn\mathcal{H}=\bigoplus_{n\in N}\mathcal{H}_{\psi_n} となるものが存在する。さらに、ユニタリ作用素

W:H→⨁n∈NL2(R,μψn),W(f(H)ψn)=(0,…,0,fn,0,…)(f∈Bb(R))W:\mathcal{H}\to\bigoplus_{n\in N}L^2(\mathbb{R},\mu_{\psi_n}),\qquad W\bigl(f(H)\psi_n\bigr)=(0,\ldots,0,\underset{n}{f},0,\ldots)\quad(f\in\mathcal{B}_b(\mathbb{R}))

が存在して WHW−1=MλWHW^{-1}=M_\lambda となる。各 μψn\mu_{\psi_n} は全質量 ∥ψn∥2\|\psi_n\|^2 の有限測度である。

証明(命題 3.2)

1 つの巡回部分空間. 命題 4.1[スペクトル定理と関数計算] の 2 から ∥f(H)ψ∥2=∫∣f∣2 dμψ\|f(H)\psi\|^2=\int|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi です。よって f↦f(H)ψf\mapsto f(H)\psi は L2(μψ)L^2(\mu_\psi) の中の Bb(R)\mathcal{B}_b(\mathbb{R}) の像(μψ\mu_\psi-a.e. で等しい関数は同じ像を持ちます)から Hψ\mathcal{H}_\psi への等長写像で、像は Hψ\mathcal{H}_\psi で稠密、定義域は L2(μψ)L^2(\mu_\psi) で稠密(単関数は L2L^2 で稠密)です。したがってユニタリ作用素 Vψ:L2(μψ)→HψV_\psi:L^2(\mu_\psi)\to\mathcal{H}_\psi に延長されます。g∈Bb(R)g\in\mathcal{B}_b(\mathbb{R}) について、定理 6.2[スペクトル定理と関数計算] の 1 から g(H)f(H)ψ=(gf)(H)ψg(H)f(H)\psi=(gf)(H)\psi なので、g(H)Hψ⊂Hψg(H)\mathcal{H}_\psi\subset\mathcal{H}_\psi かつ Vψ−1g(H)VψV_\psi^{-1}g(H)V_\psi は gg を掛ける作用素です(稠密な集合上で一致し、両辺有界)。g(H)∗=gˉ(H)g(H)^*=\bar g(H) なので、直交補空間 Hψ⊥\mathcal{H}_\psi^\perp も g(H)g(H) で不変です。

分解. {χj}j∈N\{\chi_j\}_{j\in\mathbb{N}} を H\mathcal{H} の可算稠密集合とします。帰納的に、K0={0}\mathcal{K}_0=\{0\}、Kn=Hψ1⊕⋯⊕Hψn\mathcal{K}_n=\mathcal{H}_{\psi_1}\oplus\cdots\oplus\mathcal{H}_{\psi_n} とし、Kn\mathcal{K}_n に属さない χj\chi_j のうち添字が最小のものを χj(n+1)\chi_{j(n+1)}、QnQ_n を Kn⊥\mathcal{K}_n^\perp への直交射影として ψn+1=Qnχj(n+1)≠0\psi_{n+1}=Q_n\chi_{j(n+1)}\ne0 とおきます(そのような χj\chi_j が無くなれば止めます)。Kn⊥\mathcal{K}_n^\perp は各 Hψi⊥\mathcal{H}_{\psi_i}^\perp の共通部分なので g(H)g(H) で不変で、ψn+1∈Kn⊥\psi_{n+1}\in\mathcal{K}_n^\perp から Hψn+1⊂Kn⊥\mathcal{H}_{\psi_{n+1}}\subset\mathcal{K}_n^\perp です。よって Hψn\mathcal{H}_{\psi_n} は互いに直交し、Kn\mathcal{K}_n は閉部分空間の有限直和として閉です。また χj(n+1)=(1−Qn)χj(n+1)+ψn+1∈Kn+1\chi_{j(n+1)}=(1-Q_n)\chi_{j(n+1)}+\psi_{n+1}\in\mathcal{K}_{n+1} なので、どの χj\chi_j も有限回の段階の後に Kn\mathcal{K}_n に入ります(添字の小さい順に取り込まれるからです)。したがって ⨁nHψn\bigoplus_n\mathcal{H}_{\psi_n} は稠密集合 {χj}\{\chi_j\} を含む閉部分空間で、H\mathcal{H} に一致します。

ユニタリ作用素. W=⨁nVψn−1W=\bigoplus_nV_{\psi_n}^{-1} はユニタリで、最初の段落から Wg(H)W−1Wg(H)W^{-1} は各成分に gg を掛ける作用素です。とくに WEH(B)W−1=P(B)WE_H(B)W^{-1}=P(B) なので、補題 2.2 の 2 により WHW−1=MλWHW^{-1}=M_\lambda です。

これは 定理 5.7[スペクトル定理と関数計算] と同じ内容を、巡回部分空間を明示して述べ直したものです。ただし分解の仕方は一意ではありません。たとえば ψ1\psi_1 の選び方で μψ1\mu_{\psi_1} は大きく変わります。Hahn–Hellinger の定理は、測度の列に「減少する」という条件を課すことで、この任意性を同値類の範囲まで取り除きます。

命題 4.1(最大スペクトル型の存在)✓

H\mathcal{H} を可分とする。このとき ψ0∈H\psi_0\in\mathcal{H} で、すべての φ∈H\varphi\in\mathcal{H} について μφ≪μψ0\mu_\varphi\ll\mu_{\psi_0} となるものが存在する。さらに、ボレル集合 BB について μψ0(B)=0\mu_{\psi_0}(B)=0 と EH(B)=0E_H(B)=0 は同値であり、この性質を持つ 2 つのベクトル ψ0,ψ0′\psi_0,\psi_0' について μψ0∼μψ0′\mu_{\psi_0}\sim\mu_{\psi_0'} である。

証明(命題 4.1)

命題 3.2 の {ψn}\{\psi_n\} と WW を取り、cn=2−n/∥ψn∥c_n=2^{-n}/\|\psi_n\|、ψ0=∑ncnψn\psi_0=\sum_nc_n\psi_n とおきます(直交する項の和で ∑ncn2∥ψn∥2≤1\sum_nc_n^2\|\psi_n\|^2\le1 なので収束します)。Wψ0W\psi_0 は第 nn 成分が定数 cnc_n のベクトルなので、補題 2.2 の 1 と 2 から μψ0=∑ncn2μψn\mu_{\psi_0}=\sum_nc_n^2\mu_{\psi_n}、また任意の φ\varphi について μφ=∑n∣(Wφ)n∣2μψn\mu_\varphi=\sum_n|(W\varphi)_n|^2\mu_{\psi_n} です。μψ0(B)=0\mu_{\psi_0}(B)=0 なら各 μψn(B)=0\mu_{\psi_n}(B)=0 で、したがって μφ(B)=0\mu_\varphi(B)=0 です。

EH(B)=0E_H(B)=0 ならもちろん μψ0(B)=∥EH(B)ψ0∥2=0\mu_{\psi_0}(B)=\|E_H(B)\psi_0\|^2=0 です。逆に μψ0(B)=0\mu_{\psi_0}(B)=0 なら、いま示したことからすべての φ\varphi で ∥EH(B)φ∥2=μφ(B)=0\|E_H(B)\varphi\|^2=\mu_\varphi(B)=0、すなわち EH(B)=0E_H(B)=0 です。最後の主張は、μψ0\mu_{\psi_0} と μψ0′\mu_{\psi_0'} の零集合がどちらも {B:EH(B)=0}\{B:E_H(B)=0\} に一致することから従います。

定義 4.2(最大スペクトル型)↗

命題 4.1 の μψ0\mu_{\psi_0} の同値類を HH の最大スペクトル型という。その零集合は {B:EH(B)=0}\{B:E_H(B)=0\} である。

HH が純絶対連続であることは、最大スペクトル型が Lebesgue 測度に関して絶対連続であることと同値です(μφ≪μψ0≪dλ\mu_\varphi\ll\mu_{\psi_0}\ll\mathrm{d}\lambda)。また HH のスペクトル σ(H)\sigma(H) は最大スペクトル型の(任意の代表の)台です(命題 5.6[スペクトル定理と関数計算] と上の零集合の一致による)。最大スペクトル型は「どこにスペクトルがあるか」を測度の精度で記録しますが、「何重にあるか」は記録しません。§1 の H1H_1 と H2H_2 の最大スペクトル型はどちらも [0,1][0,1] 上の Lebesgue 測度です。

巡回分解では、成分ごとに別々の測度 μψn\mu_{\psi_n} が現れます。これらを 1 つの基準の測度 μ\mu に揃え、測度の違いを「どの集合の上に載っているか」という違いに置き換えるのがこの節の作業です。以下で使う写像はすべて「点 λ\lambda ごとに働く」ので、λ\lambda の掛け算と可換です。この性質を次のように呼びます。

2 つの掛け算模型 M,M′\mathcal{M},\mathcal{M}' の間のユニタリ作用素 VV が λ\lambda と両立するとは、任意のボレル関数 f:R→Cf:\mathbb{R}\to\mathbb{C} と g∈Mg\in\mathcal{M} について、「fg∈Mfg\in\mathcal{M} と f Vg∈M′f\,Vg\in\mathcal{M}' が同値で、そのとき V(fg)=f VgV(fg)=f\,Vg」が成り立つことをいいます(fgfg は成分ごとに ff を掛けたもの)。f(λ)=λf(\lambda)=\lambda と取れば VD(Mλ)=D(Mλ′)VD(M_\lambda)=D(M'_\lambda)、VMλV−1=Mλ′VM_\lambda V^{-1}=M'_\lambda です。両立する写像の合成と直和も両立します。

補題 5.1(密度による書き換え)✓

μ\mu を R\mathbb{R} 上の局所有限なボレル測度、ν\nu を ν≪μ\nu\ll\mu を満たす有限なボレル測度とし、h=dν/dμh=\mathrm{d}\nu/\mathrm{d}\mu、S={h>0}S=\{h\gt0\} とおく。このとき ν∼1Sμ\nu\sim\mathbf{1}_S\mu であり、Ug=h gUg=\sqrt{h}\,g はユニタリ作用素 U:L2(R,ν)→L2(S,μ)U:L^2(\mathbb{R},\nu)\to L^2(S,\mu) を定め、λ\lambda と両立する。

証明(補題 5.1)

μ\mu は局所有限なので σ\sigma-有限で、定理 4.3[符号付き測度と Radon–Nikodym の定理] により h≥0h\ge0 が存在します。非負の可測関数 uu について ∫u dν=∫uh dμ\int u\,\mathrm{d}\nu=\int uh\,\mathrm{d}\mu が成り立ちます(uu が定義関数なら ν\nu の定義そのもので、単関数の単調近似と単調収束定理で一般の uu に移ります)。

ν(B)=∫Bh dμ=0\nu(B)=\int_Bh\,\mathrm{d}\mu=0 と μ(B∩S)=0\mu(B\cap S)=0 は同値なので(hh は SS の上で正、SS の外で 00)、ν∼1Sμ\nu\sim\mathbf{1}_S\mu です。g∈L2(ν)g\in L^2(\nu) について ∫∣hg∣2 dμ=∫∣g∣2 dν\int|\sqrt hg|^2\,\mathrm{d}\mu=\int|g|^2\,\mathrm{d}\nu なので UU は等長で、hg\sqrt hg は SS の外で 00 です。全射であることは、u∈L2(S,μ)u\in L^2(S,\mu) に対し SS の上で g=u/hg=u/\sqrt h、SS の外で g=0g=0 とおけば ∫∣g∣2 dν=∫S∣u∣2 dμ\int|g|^2\,\mathrm{d}\nu=\int_S|u|^2\,\mathrm{d}\mu かつ Ug=uUg=u となることからわかります(ν(R∖S)=0\nu(\mathbb{R}\setminus S)=0 なので SS の外での値は効きません)。ボレル関数 ff について ∫∣fg∣2 dν=∫∣f Ug∣2 dμ\int|fg|^2\,\mathrm{d}\nu=\int|f\,Ug|^2\,\mathrm{d}\mu([0,∞][0,\infty] の値として)なので、fg∈L2(ν)fg\in L^2(\nu) と f Ug∈L2(μ)f\,Ug\in L^2(\mu) は同値で、そのとき U(fg)=hfg=f UgU(fg)=\sqrt hfg=f\,Ug です。

補題 5.2(成分の並べ替え)✓

μ\mu を局所有限なボレル測度、S1,S2,…S_1,S_2,\ldots をボレル集合(空集合も許す)とし、m(λ)=∑n1Sn(λ)∈{0,1,…,∞}m(\lambda)=\sum_n\mathbf{1}_{S_n}(\lambda)\in\{0,1,\ldots,\infty\}、Ek={λ:m(λ)≥k}E_k=\{\lambda:m(\lambda)\ge k\} とおく。このとき E1⊇E2⊇⋯E_1\supseteq E_2\supseteq\cdots はボレル集合で、λ\lambda と両立するユニタリ作用素

R:⨁nL2(Sn,μ)→⨁kL2(Ek,μ)R:\bigoplus_nL^2(S_n,\mu)\to\bigoplus_kL^2(E_k,\mu)

が存在する。

証明(補題 5.2)

λ∈Ek\lambda\in E_k のとき、λ∈Sn\lambda\in S_n となる添字 nn を小さい順に並べた kk 番目を nk(λ)n_k(\lambda) とします。集合

An,k={λ∈Sn: #{j<n:λ∈Sj}=k−1}A_{n,k}=\Bigl\{\lambda\in S_n:\ \#\{j\lt n:\lambda\in S_j\}=k-1\Bigr\}

は有限個の SjS_j とその補集合の共通部分の有限和なのでボレル集合で、λ∈An,k\lambda\in A_{n,k} と「λ∈Ek\lambda\in E_k かつ nk(λ)=nn_k(\lambda)=n」は同値です。したがって、nn を固定すると {An,k}k\{A_{n,k}\}_k は SnS_n の分割で、kk を固定すると {An,k}n\{A_{n,k}\}_n は EkE_k の分割です。mm は可測関数の可算和なので可測で、EkE_k はボレル集合です。

g=(gn)∈⨁nL2(Sn,μ)g=(g_n)\in\bigoplus_nL^2(S_n,\mu)(gng_n は SnS_n の外で 00 の代表を取ります)に対し

(Rg)k=∑n1An,kgn,(R′u)n=∑k1An,kuk(Rg)_k=\sum_n\mathbf{1}_{A_{n,k}}g_n,\qquad (R'u)_n=\sum_k\mathbf{1}_{A_{n,k}}u_k

とおきます。各点でどちらの和も高々 1 項しか 00 でありません。{An,k}\{A_{n,k}\} の 2 通りの分割の性質から、各点で

∑k∣(Rg)k(λ)∣2=∑k∑n1An,k(λ)∣gn(λ)∣2=∑n1Sn(λ)∣gn(λ)∣2\sum_k|(Rg)_k(\lambda)|^2=\sum_k\sum_n\mathbf{1}_{A_{n,k}}(\lambda)|g_n(\lambda)|^2=\sum_n\mathbf{1}_{S_n}(\lambda)|g_n(\lambda)|^2

で、μ\mu で積分すると(単調収束定理で和と積分を交換)∥Rg∥=∥g∥\|Rg\|=\|g\| です。同じく R′R' も等長で、(RR′u)k=∑n1An,kuk=1Ekuk=uk(RR'u)_k=\sum_n\mathbf{1}_{A_{n,k}}u_k=\mathbf{1}_{E_k}u_k=u_k、(R′Rg)n=1Sngn=gn(R'Rg)_n=\mathbf{1}_{S_n}g_n=g_n なので RR はユニタリで R−1=R′R^{-1}=R' です。RR は各点で成分を入れ替えるだけなので、ボレル関数 ff について上の等式を fgfg に適用すれば ∥f Rg∥=∥fg∥\|f\,Rg\|=\|fg\|([0,∞][0,\infty] の値として)と R(fg)=f RgR(fg)=f\,Rg が出ます。よって RR は λ\lambda と両立します。

補題 5.3(減少する測度の列を集合の列に直す)✓

μ\mu を局所有限なボレル測度、μ1,μ2,…\mu_1,\mu_2,\ldots を有限なボレル測度で、μ1≪μ\mu_1\ll\mu かつ μk+1≪μk\mu_{k+1}\ll\mu_k(k∈Nk\in\mathbb{N})を満たすものとする。このとき、ボレル集合 E1⊇E2⊇⋯E_1\supseteq E_2\supseteq\cdots で μk∼1Ekμ\mu_k\sim\mathbf{1}_{E_k}\mu(k∈Nk\in\mathbb{N})となるものと、λ\lambda と両立するユニタリ作用素 V:⨁kL2(R,μk)→⨁kL2(Ek,μ)V:\bigoplus_kL^2(\mathbb{R},\mu_k)\to\bigoplus_kL^2(E_k,\mu) が存在する。

証明(補題 5.3)

μk≪μk−1≪⋯≪μ1≪μ\mu_k\ll\mu_{k-1}\ll\cdots\ll\mu_1\ll\mu なので、補題 5.1 を各 μk\mu_k に使い、hk=dμk/dμh_k=\mathrm{d}\mu_k/\mathrm{d}\mu、Sk={hk>0}S_k=\{h_k\gt0\} とおきます。Ek=S1∩⋯∩SkE_k=S_1\cap\cdots\cap S_k とすると EkE_k は減少します。j≤kj\le k について μk≪μj\mu_k\ll\mu_j かつ μj(R∖Sj)=∫{hj=0}hj dμ=0\mu_j(\mathbb{R}\setminus S_j)=\int_{\{h_j=0\}}h_j\,\mathrm{d}\mu=0 なので μk(R∖Sj)=0\mu_k(\mathbb{R}\setminus S_j)=0、したがって μk(R∖Ek)=∫R∖Ekhk dμ=0\mu_k(\mathbb{R}\setminus E_k)=\int_{\mathbb{R}\setminus E_k}h_k\,\mathrm{d}\mu=0 です。hkh_k は Sk∖EkS_k\setminus E_k の上で正なので μ(Sk∖Ek)=0\mu(S_k\setminus E_k)=0、すなわち SkS_k と EkE_k は μ\mu-零集合を除いて一致します。よって L2(Sk,μ)=L2(Ek,μ)L^2(S_k,\mu)=L^2(E_k,\mu)、1Skμ=1Ekμ\mathbf{1}_{S_k}\mu=\mathbf{1}_{E_k}\mu で、補題 5.1 から μk∼1Ekμ\mu_k\sim\mathbf{1}_{E_k}\mu です。補題 5.1 のユニタリ作用素 Uk:L2(μk)→L2(Ek,μ)U_k:L^2(\mu_k)\to L^2(E_k,\mu) の直和 V=⨁kUkV=\bigoplus_kU_k が求めるものです。

集合の減少列 E1⊇E2⊇⋯E_1\supseteq E_2\supseteq\cdots で書いた模型では、点 λ\lambda に「その点で生きている成分の空間」が付随します。これをファイバーと呼び、多重度はファイバーの次元として読めます。

定義 6.1(ファイバー)↗

μ\mu を局所有限なボレル測度、E1⊇E2⊇⋯E_1\supseteq E_2\supseteq\cdots をボレル集合とし、M=⨁kL2(Ek,μ)\mathcal{M}=\bigoplus_kL^2(E_k,\mu)、m=∑k1Ekm=\sum_k\mathbf{1}_{E_k} とおく。λ∈Ek\lambda\in E_k と k≤m(λ)k\le m(\lambda) は同値である。λ∈R\lambda\in\mathbb{R} について

Kλ={v∈ℓ2(N): vk=0 (k>m(λ))}\mathcal{K}_\lambda=\{v\in\ell^2(\mathbb{N}):\ v_k=0\ (k\gt m(\lambda))\}

を λ\lambda におけるファイバーという(dim⁡Kλ=m(λ)\dim\mathcal{K}_\lambda=m(\lambda))。g∈Mg\in\mathcal{M} について、EkE_k の外で 00 になる代表 gkg_k を取り、g^(λ)=(gk(λ))k∈N\hat g(\lambda)=(g_k(\lambda))_{k\in\mathbb{N}} とおく。

単調収束定理により ∫∑k∣gk∣2 dμ=∥g∥2<∞\int\sum_k|g_k|^2\,\mathrm{d}\mu=\|g\|^2\lt\infty なので、μ\mu-a.e. の λ\lambda で g^(λ)∈ℓ2(N)\hat g(\lambda)\in\ell^2(\mathbb{N}) であり、代表の取り方から g^(λ)∈Kλ\hat g(\lambda)\in\mathcal{K}_\lambda です。さらに ⟨g,h⟩=∫⟨g^(λ),h^(λ)⟩ℓ2 dμ(λ)\langle g,h\rangle=\int\langle\hat g(\lambda),\hat h(\lambda)\rangle_{\ell^2}\,\mathrm{d}\mu(\lambda) が成り立ちます。

補題 6.2(Gram 行列の階数)✓

v1,…,vNv_1,\ldots,v_N を Hilbert 空間の元とし、G=(⟨vi,vj⟩)i,j=1NG=(\langle v_i,v_j\rangle)_{i,j=1}^N とおく。このとき GG は半正定値エルミート行列で、rank G=dim⁡span{v1,…,vN}\mathrm{rank}\,G=\dim\mathrm{span}\{v_1,\ldots,v_N\} である。

証明(補題 6.2)

c∈CNc\in\mathbb{C}^N を Vc=∑jcjvjVc=\sum_jc_jv_j に写す線形写像を VV とします。cˉTGc=∑i,jcˉicj⟨vi,vj⟩=∥Vc∥2≥0\bar c^{\mathsf T}Gc=\sum_{i,j}\bar c_ic_j\langle v_i,v_j\rangle=\|Vc\|^2\ge0 で、GG は ⟨vi,vj⟩‾=⟨vj,vi⟩\overline{\langle v_i,v_j\rangle}=\langle v_j,v_i\rangle からエルミートです。Gc=0Gc=0 なら ∥Vc∥2=cˉTGc=0\|Vc\|^2=\bar c^{\mathsf T}Gc=0 で Vc=0Vc=0、逆に Vc=0Vc=0 なら (Gc)i=⟨vi,Vc⟩=0(Gc)_i=\langle v_i,Vc\rangle=0 です。よって Ker G=Ker V\mathrm{Ker}\,G=\mathrm{Ker}\,V で、次元定理から rank G=N−dim⁡Ker V=dim⁡Ran V=dim⁡span{vj}\mathrm{rank}\,G=N-\dim\mathrm{Ker}\,V=\dim\mathrm{Ran}\,V=\dim\mathrm{span}\{v_j\} です。

補題 6.3(稠密な列はほとんどすべてのファイバーを張る)✓

定義 6.1 の状況で、{g(n)}n∈N\{g^{(n)}\}_{n\in\mathbb{N}} を M\mathcal{M} の稠密な部分集合とする。このとき μ\mu-a.e. の λ\lambda について

span‾ {g^(n)(λ):n∈N}=Kλ\overline{\mathrm{span}}\,\{\hat g^{(n)}(\lambda):n\in\mathbb{N}\}=\mathcal{K}_\lambda

が成り立つ。

証明(補題 6.3)

k,R∈Nk,R\in\mathbb{N} を固定し、第 kk 成分が 1Ek∩[−R,R]\mathbf{1}_{E_k\cap[-R,R]} で他の成分が 00 のベクトルを ee とします。μ\mu は局所有限なので ∥e∥2=μ(Ek∩[−R,R])<∞\|e\|^2=\mu(E_k\cap[-R,R])\lt\infty で、e∈Me\in\mathcal{M} です。稠密性から ∥g(nj)−e∥2<4−j\|g^{(n_j)}-e\|^2\lt4^{-j} となる部分列が取れ、単調収束定理により

∫∑j∥g^(nj)(λ)−e^(λ)∥2 dμ(λ)=∑j∥g(nj)−e∥2<∞\int\sum_j\|\hat g^{(n_j)}(\lambda)-\hat e(\lambda)\|^2\,\mathrm{d}\mu(\lambda)=\sum_j\|g^{(n_j)}-e\|^2\lt\infty

です。よって μ\mu-a.e. の λ\lambda で被積分関数は有限で、g^(nj)(λ)→e^(λ)\hat g^{(n_j)}(\lambda)\to\hat e(\lambda) です。λ∈Ek∩[−R,R]\lambda\in E_k\cap[-R,R] なら e^(λ)\hat e(\lambda) は第 kk 単位ベクトル δk\delta_k なので、μ\mu-零集合 Zk,RZ_{k,R} を除いて「λ∈Ek∩[−R,R]\lambda\in E_k\cap[-R,R] なら δk∈span‾{g^(n)(λ)}\delta_k\in\overline{\mathrm{span}}\{\hat g^{(n)}(\lambda)\}」が成り立ちます。

g^(n)(λ)∈Kλ\hat g^{(n)}(\lambda)\in\mathcal{K}_\lambda が成り立たない μ\mu-零集合(各 nn ごとに 1 つ)と、すべての Zk,RZ_{k,R} の合併 ZZ は可算個の零集合の和なので零集合です。λ∉Z\lambda\notin Z を取ります。k≤m(λ)k\le m(\lambda) なら λ∈Ek\lambda\in E_k で、R≥∣λ∣R\ge|\lambda| とすれば δk\delta_k は左辺の閉部分空間に入ります。{δk:k≤m(λ)}\{\delta_k:k\le m(\lambda)\} は Kλ\mathcal{K}_\lambda の正規直交基底なので、左辺は Kλ\mathcal{K}_\lambda を含みます。逆の包含は各 g^(n)(λ)∈Kλ\hat g^{(n)}(\lambda)\in\mathcal{K}_\lambda から従います。

これで、スペクトル測度だけから多重度を読み取る準備が整いました。複素測度 ν\nu が μ\mu に関して絶対連続なとき、実部と虚部に 系 4.4[符号付き測度と Radon–Nikodym の定理] を使って、密度 dν/dμ∈L1(μ)\mathrm{d}\nu/\mathrm{d}\mu\in L^1(\mu) が μ\mu-a.e. で一意に定まります。

命題 6.4(Gram 行列による多重度の読み取り(一般形))✓

HH を可分な Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の自己共役作用素とし、局所有限なボレル測度 μ\mu、ボレル集合の減少列 E1⊇E2⊇⋯E_1\supseteq E_2\supseteq\cdots、ユニタリ作用素 W:H→⨁kL2(Ek,μ)W:\mathcal{H}\to\bigoplus_kL^2(E_k,\mu) で WHW−1=MλWHW^{-1}=M_\lambda となるものがあるとする。m=∑k1Ekm=\sum_k\mathbf{1}_{E_k} とおく。

  1. 任意の φ,ψ∈H\varphi,\psi\in\mathcal{H} について μφ,ψ≪μ\mu_{\varphi,\psi}\ll\mu であり、μ\mu-a.e. で dμφ,ψdμ(λ)=⟨Wφ^(λ),Wψ^(λ)⟩\dfrac{\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi}}{\mathrm{d}\mu}(\lambda)=\langle\widehat{W\varphi}(\lambda),\widehat{W\psi}(\lambda)\rangle。
  2. 任意の列 ψ1,ψ2,…∈H\psi_1,\psi_2,\ldots\in\mathcal{H} について GN(λ)=(dμψi,ψjdμ(λ))i,j=1NG_N(\lambda)=\Bigl(\dfrac{\mathrm{d}\mu_{\psi_i,\psi_j}}{\mathrm{d}\mu}(\lambda)\Bigr)_{i,j=1}^N とおくと、μ\mu-a.e. の λ\lambda ですべての NN について GN(λ)G_N(\lambda) は半正定値で rank GN(λ)≤m(λ)\mathrm{rank}\,G_N(\lambda)\le m(\lambda)。
  3. さらに {ψn}\{\psi_n\} が H\mathcal{H} で稠密なら、μ\mu-a.e. で sup⁡Nrank GN(λ)=m(λ)\sup_N\mathrm{rank}\,G_N(\lambda)=m(\lambda)。
証明(命題 6.4)
  1. 補題 2.2 の 2 と 1 から、g=Wφg=W\varphi、h=Wψh=W\psi について μφ,ψ=μg,h=∑kgk‾hk 1Ekμ\mu_{\varphi,\psi}=\mu_{g,h}=\sum_k\overline{g_k}h_k\,\mathbf{1}_{E_k}\mu です。∑k∫∣gk‾hk∣ dμ≤∥g∥∥h∥\sum_k\int|\overline{g_k}h_k|\,\mathrm{d}\mu\le\|g\|\|h\| なので、優収束定理により右辺は密度 ∑kgk‾hk=⟨g^,h^⟩\sum_k\overline{g_k}h_k=\langle\hat g,\hat h\rangle を持つ μ\mu に関して絶対連続な複素測度です。

  2. 1 から、可算個の μ\mu-零集合を除いて、すべての i,ji,j で GN(λ)ij=⟨g^i(λ),g^j(λ)⟩G_N(\lambda)_{ij}=\langle\hat g_i(\lambda),\hat g_j(\lambda)\rangle(gi=Wψig_i=W\psi_i)です。補題 6.2 により GN(λ)G_N(\lambda) は半正定値で、階数は span{g^1(λ),…,g^N(λ)}\mathrm{span}\{\hat g_1(\lambda),\ldots,\hat g_N(\lambda)\} の次元に等しく、この空間は Kλ\mathcal{K}_\lambda に含まれるので m(λ)m(\lambda) 以下です。

  3. WW はユニタリなので {gn}\{g_n\} は模型の稠密な部分集合で、補題 6.3 により a.e. の λ\lambda で span‾{g^n(λ)}=Kλ\overline{\mathrm{span}}\{\hat g_n(\lambda)\}=\mathcal{K}_\lambda です。2 の等式も成り立つ点 λ\lambda を取り、代数的な線形包 Sλ=⋃Nspan{g^1(λ),…,g^N(λ)}S_\lambda=\bigcup_N\mathrm{span}\{\hat g_1(\lambda),\ldots,\hat g_N(\lambda)\} を考えます。rank GN(λ)\mathrm{rank}\,G_N(\lambda) は NN について単調増加で、上限は dim⁡Sλ\dim S_\lambda です。SλS_\lambda が有限次元なら閉なので Sλ=Sλ‾=KλS_\lambda=\overline{S_\lambda}=\mathcal{K}_\lambda で上限は m(λ)m(\lambda)、SλS_\lambda が無限次元なら上限は ∞\infty で、Kλ⊇Sλ\mathcal{K}_\lambda\supseteq S_\lambda も無限次元なので m(λ)=∞m(\lambda)=\infty です。

この命題の要点は、左辺の GNG_N がスペクトル測度 μψi,ψj\mu_{\psi_i,\psi_j} と基準の測度 μ\mu だけで決まり、模型 WW の選び方によらないことです。したがって右辺の mm も、μ\mu-零集合を除いて HH と μ\mu だけで決まります。これが次の節の一意性の核心です。

7. Hahn–Hellinger の定理と多重度関数

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定理 7.1(Hahn–Hellinger の定理)✓

HH を可分な Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の自己共役作用素とする。

  1. (存在)R\mathbb{R} 上の有限なボレル測度の列 μ1,μ2,…\mu_1,\mu_2,\ldots(00 も許す)で μ1≫μ2≫⋯\mu_1\gg\mu_2\gg\cdots(すなわち μk+1≪μk\mu_{k+1}\ll\mu_k)を満たすものと、ユニタリ作用素 W:H→⨁kL2(R,μk)W:\mathcal{H}\to\bigoplus_kL^2(\mathbb{R},\mu_k) で WHW−1=MλWHW^{-1}=M_\lambda となるものが存在する。
  2. (一意性)ν1≫ν2≫⋯\nu_1\gg\nu_2\gg\cdots も有限なボレル測度の列で、ユニタリ作用素 W′:H→⨁kL2(R,νk)W':\mathcal{H}\to\bigoplus_kL^2(\mathbb{R},\nu_k) について W′HW′−1=MλW'HW'^{-1}=M_\lambda ならば、すべての kk で μk∼νk\mu_k\sim\nu_k である。
  3. μ1\mu_1 は HH の最大スペクトル型に属する。
証明(定理 7.1)

存在. 命題 3.2 により、零でない有限測度 νn=μψn\nu_n=\mu_{\psi_n}(n∈Nn\in N)とユニタリ作用素 W0:H→⨁nL2(R,νn)W_0:\mathcal{H}\to\bigoplus_nL^2(\mathbb{R},\nu_n) で W0HW0−1=MλW_0HW_0^{-1}=M_\lambda となるものがあります。μ=∑n2−nνn/νn(R)\mu=\sum_n2^{-n}\nu_n/\nu_n(\mathbb{R}) は全質量 11 以下の有限測度で、各 νn≪μ\nu_n\ll\mu です。補題 5.1 で Sn={dνn/dμ>0}S_n=\{\mathrm{d}\nu_n/\mathrm{d}\mu\gt0\} とし、λ\lambda と両立するユニタリ作用素 U=⨁nUn:⨁nL2(νn)→⨁nL2(Sn,μ)U=\bigoplus_nU_n:\bigoplus_nL^2(\nu_n)\to\bigoplus_nL^2(S_n,\mu) を得ます。続けて 補題 5.2 の RR で ⨁kL2(Ek,μ)\bigoplus_kL^2(E_k,\mu)(Ek={∑n1Sn≥k}E_k=\{\sum_n\mathbf{1}_{S_n}\ge k\})に移します。μk=1Ekμ\mu_k=\mathbf{1}_{E_k}\mu とおけば L2(Ek,μ)=L2(R,μk)L^2(E_k,\mu)=L^2(\mathbb{R},\mu_k)、μk\mu_k は有限で、Ek+1⊂EkE_{k+1}\subset E_k から μk+1≪μk\mu_{k+1}\ll\mu_k です。W=RUW0W=RUW_0 はユニタリで、RURU が λ\lambda と両立するので WHW−1=RUMλ(RU)−1=MλWHW^{-1}=RUM_\lambda(RU)^{-1}=M_\lambda です。

3. 補題 2.2 の 2 から EH(B)=W−1P(B)WE_H(B)=W^{-1}P(B)W で、P(B)=0P(B)=0 はすべての kk で μk(B)=0\mu_k(B)=0 であること、すなわち(μk≪μ1\mu_k\ll\mu_1 なので)μ1(B)=0\mu_1(B)=0 と同値です。よって μ1\mu_1 の零集合は {B:EH(B)=0}\{B:E_H(B)=0\} に一致し、命題 4.1 と 定義 4.2 から μ1\mu_1 は最大スペクトル型に属します。

一意性. 3 を 2 つの表示に使うと μ1∼ν1\mu_1\sim\nu_1 です。μ:=μ1\mu:=\mu_1 を基準の測度に取ると、μ1≪μ\mu_1\ll\mu かつ ν1≪μ\nu_1\ll\mu なので、補題 5.3 により、ボレル集合の減少列 EkE_k、FkF_k で μk∼1Ekμ\mu_k\sim\mathbf{1}_{E_k}\mu、νk∼1Fkμ\nu_k\sim\mathbf{1}_{F_k}\mu となるものと、λ\lambda と両立するユニタリ作用素 V,V′V,V' があります。VWVW と V′W′V'W' はそれぞれ H\mathcal{H} から ⨁kL2(Ek,μ)\bigoplus_kL^2(E_k,\mu)、⨁kL2(Fk,μ)\bigoplus_kL^2(F_k,\mu) へのユニタリ作用素で、HH を MλM_\lambda に移します。H\mathcal{H} は可分なので稠密な列 {ψn}\{\psi_n\} が取れます。GN(λ)=(dμψi,ψj/dμ)i,j≤NG_N(\lambda)=(\mathrm{d}\mu_{\psi_i,\psi_j}/\mathrm{d}\mu)_{i,j\le N} は HH と μ\mu だけで決まるので、命題 6.4 の 3 を 2 つの表示に適用すると、μ\mu-a.e. で

∑k1Ek=sup⁡Nrank GN=∑k1Fk\sum_k\mathbf{1}_{E_k}=\sup_N\mathrm{rank}\,G_N=\sum_k\mathbf{1}_{F_k}

です。Ek={∑j1Ej≥k}E_k=\{\sum_j\mathbf{1}_{E_j}\ge k\}(減少列だから)と FkF_k についての同じ等式から、EkE_k と FkF_k は μ\mu-零集合を除いて一致し、μk∼1Ekμ=1Fkμ∼νk\mu_k\sim\mathbf{1}_{E_k}\mu=\mathbf{1}_{F_k}\mu\sim\nu_k です(零集合だけ異なる集合の定義関数を掛けた測度は等しい)。

測度 μk\mu_k そのものは一意ではありません。正のボレル関数 wkw_k で ∫wk dμk<∞\int w_k\,\mathrm{d}\mu_k\lt\infty なるものを掛けて wkμkw_k\mu_k に替えても、補題 5.1 のユニタリ作用素で同じ形の表示が得られます。一意なのは同値類の列 [μ1]⊇[μ2]⊇⋯[\mu_1]\supseteq[\mu_2]\supseteq\cdots です。直観的には、[μk][\mu_k] は「多重度が kk 以上の部分のスペクトル型」です。

純絶対連続なら基準の測度に Lebesgue 測度を取れるので、測度の同値類は Lebesgue 測度に関する集合の同値類(零集合を除いた集合)に置き換わります。

定理 7.2(Hahn–Hellinger の定理(純絶対連続の場合))✓

HH を可分な Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の純絶対連続な自己共役作用素とする(Hac(H)=H\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}(H)=\mathcal{H})。このとき Lebesgue 可測集合(ボレル集合に取れる)の減少列 E1⊇E2⊇⋯E_1\supseteq E_2\supseteq\cdots と、ユニタリ作用素 W:H→⨁kL2(Ek,dλ)W:\mathcal{H}\to\bigoplus_kL^2(E_k,\mathrm{d}\lambda) で WHW−1=MλWHW^{-1}=M_\lambda となるもの、すなわち

H≅⨁k≥1λ∣L2(Ek)H\cong\bigoplus_{k\ge1}\lambda\big|_{L^2(E_k)}

が存在する。F1⊇F2⊇⋯F_1\supseteq F_2\supseteq\cdots も同じ性質を持つなら、すべての kk で ∣Ek△Fk∣=0|E_k\triangle F_k|=0 である。

証明(定理 7.2)

存在. 定理 7.1 の μk\mu_k と W1W_1 を取ります。μ1\mu_1 は、第 1 成分が定数 11 で他が 00 のベクトル uu に対し、W1−1uW_1^{-1}u のスペクトル測度です(補題 2.2 の 1・2 より μW1−1u=∣1∣2μ1\mu_{W_1^{-1}u}=|1|^2\mu_1)。HH は純絶対連続なので μ1≪dλ\mu_1\ll\mathrm{d}\lambda です(定義 4.1[スペクトルの分類])。Lebesgue 測度は局所有限なので 補題 5.3 が使え、ボレル集合の減少列 EkE_k と λ\lambda と両立するユニタリ作用素 VV が得られます。W=VW1W=VW_1 が求めるものです。

一意性. WW と W′W'(集合 FkF_k)を 2 つの表示とします。H\mathcal{H} の稠密な列 {ψn}\{\psi_n\} を取り、命題 6.4 の 3 を μ=dλ\mu=\mathrm{d}\lambda として両方に適用すると、Lebesgue-a.e. で ∑k1Ek=sup⁡Nrank GN=∑k1Fk\sum_k\mathbf{1}_{E_k}=\sup_N\mathrm{rank}\,G_N=\sum_k\mathbf{1}_{F_k} です。減少列なので Ek={∑j1Ej≥k}E_k=\{\sum_j\mathbf{1}_{E_j}\ge k\}、FkF_k も同様で、∣Ek△Fk∣=0|E_k\triangle F_k|=0 です。

定義 7.3(多重度関数)↗

HH を可分な Hilbert 空間上の純絶対連続な自己共役作用素とし、E1⊇E2⊇⋯E_1\supseteq E_2\supseteq\cdots を 定理 7.2 の集合とする。

mH(λ)=#{k∈N:λ∈Ek}∈{0,1,2,…}∪{∞}m_H(\lambda)=\#\{k\in\mathbb{N}:\lambda\in E_k\}\in\{0,1,2,\ldots\}\cup\{\infty\}

を HH の多重度関数という。定理 7.2 の一意性により、mHm_H は Lebesgue-a.e. で一意に定まる。逆に Ek={mH≥k}E_k=\{m_H\ge k\} である。

S₁S₂E₁E₂m012312
2 つの区間の上の掛け算作用素 λ|L²(0,2) ⊕ λ|L²(1,3) の分解。上の 2 本が元の成分、中の 2 本が並べ替えた減少列 E₁ ⊇ E₂、下が多重度関数 m。

命題 7.4(Gram 行列による多重度関数の読み取り)✓

HH を可分な Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の純絶対連続な自己共役作用素、{ψn}n∈N\{\psi_n\}_{n\in\mathbb{N}} を H\mathcal{H} の稠密な部分集合をなす列とする。このとき各 i,ji,j について μψi,ψj\mu_{\psi_i,\psi_j} は Lebesgue 測度に関して絶対連続で、密度 ρψi,ψj=dμψi,ψj/dλ∈L1(R)\rho_{\psi_i,\psi_j}=\mathrm{d}\mu_{\psi_i,\psi_j}/\mathrm{d}\lambda\in L^1(\mathbb{R}) を持つ。GN(λ)=(ρψi,ψj(λ))i,j=1NG_N(\lambda)=(\rho_{\psi_i,\psi_j}(\lambda))_{i,j=1}^N とおくと、Lebesgue-a.e. の λ\lambda で

  1. すべての NN について GN(λ)G_N(\lambda) は半正定値で、rank GN(λ)≤mH(λ)\mathrm{rank}\,G_N(\lambda)\le m_H(\lambda)、
  2. sup⁡Nrank GN(λ)=mH(λ)\sup_N\mathrm{rank}\,G_N(\lambda)=m_H(\lambda)

が成り立つ。1 は {ψn}\{\psi_n\} が稠密でなくても成り立つ。

証明(命題 7.4)

定理 7.2 の EkE_k と WW を取ると、定義 7.3 により mH=∑k1Ekm_H=\sum_k\mathbf{1}_{E_k} です。Lebesgue 測度は局所有限なので、命題 6.4 を μ=dλ\mu=\mathrm{d}\lambda として適用できます。その 1 から μψi,ψj≪dλ\mu_{\psi_i,\psi_j}\ll\mathrm{d}\lambda(密度は L1L^1)、その 2 と 3 から主張の 1 と 2 が出ます。

rank GN≤mH\mathrm{rank}\,G_N\le m_H は「NN 本のベクトルから見えるのは、高々ファイバーの次元だけ」という当たり前の事実で、sup⁡N\sup_N の等号は「十分たくさんのベクトルを見れば、ファイバー全体が見える」ことを言っています。有限個のベクトルで上限に達するとは限らず、また GNG_N の成分は a.e. でしか定義されないので、各点の値に意味を持たせるには密度の良い版(たとえば連続な版)が要ります。それが次の節の主題です。

8. 下半連続性と太った Cantor 集合

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定義 8.1(下半連続関数)↗

XX を位相空間とする。関数 f:X→[−∞,∞]f:X\to[-\infty,\infty] が下半連続であるとは、すべての a∈Ra\in\mathbb{R} について {x∈X:f(x)>a}\{x\in X:f(x)\gt a\} が開集合であることをいう。

X=RX=\mathbb{R} なら、下半連続は「xn→xx_n\to x なら f(x)≤lim inf⁡nf(xn)f(x)\le\liminf_nf(x_n)」と同値です。値が飛ぶとしても、近づいた先で値が上に跳ねることはあっても下に落ちることはありません。開集合 UU の定義関数 1U\mathbf{1}_U は下半連続で、閉集合 C≠∅,RC\ne\emptyset,\mathbb{R} の定義関数は下半連続ではありません(CC の境界点で値が 11 に上がるので、{1C>1/2}=C\{\mathbf{1}_C\gt1/2\}=C が開でない)。

補題 8.2(階数の下半連続性)✓

XX を位相空間とする。

  1. G:X→MN(C)G:X\to M_N(\mathbb{C}) が連続(各成分が連続)なら、x↦rank G(x)x\mapsto\mathrm{rank}\,G(x) は下半連続である。
  2. 下半連続関数の任意の族 {fi}i∈I\{f_i\}_{i\in I} について、sup⁡ifi\sup_if_i は下半連続である。
  3. 値が [0,∞][0,\infty] の下半連続関数 f1,f2,…f_1,f_2,\ldots について、∑nfn\sum_nf_n は下半連続である。
証明(補題 8.2)
  1. 階数は整数値なので、a∈Ra\in\mathbb{R} について {rank G>a}={rank G≥r}\{\mathrm{rank}\,G\gt a\}=\{\mathrm{rank}\,G\ge r\}(rr は aa より大きい最小の整数)です。x0x_0 で rank G(x0)=s≥r\mathrm{rank}\,G(x_0)=s\ge r とします。G(x0)G(x_0) の線形独立な ss 本の列を選ぶと、それらを並べた N×sN\times s 行列は列階数 ss を持つので、行階数も ss で(系 3.6[双対空間と商空間])、線形独立な ss 本の行を選べます。こうして得た s×ss\times s の小行列 A(x0)A(x_0) は正則で、det⁡A(x0)≠0\det A(x_0)\ne0 です(定理 7.1[行列式とその性質])。行列式は成分の多項式なので x↦det⁡A(x)x\mapsto\det A(x) は連続で、x0x_0 の近傍 UU で det⁡A(x)≠0\det A(x)\ne0 です。x∈Ux\in U では A(x)A(x) が正則なので、選んだ ss 本の列は G(x)G(x) の中で線形独立で、rank G(x)≥s≥r\mathrm{rank}\,G(x)\ge s\ge r です。よって {rank G≥r}\{\mathrm{rank}\,G\ge r\} は開集合です。

  2. {sup⁡ifi>a}=⋃i{fi>a}\{\sup_if_i\gt a\}=\bigcup_i\{f_i\gt a\} は開集合の和です(上限が aa を超えるのは、ある fif_i が aa を超えるときに限ります)。

  3. まず f,g≥0f,g\ge0 が下半連続なら f+gf+g も下半連続です。実際 f(x)+g(x)>af(x)+g(x)\gt a なら、有理数 qq で f(x)>qf(x)\gt q かつ g(x)>a−qg(x)\gt a-q となるものがあり(f(x)=∞f(x)=\infty や g(x)=∞g(x)=\infty の場合も含めて)、逆に f(x)>qf(x)\gt q、g(x)>a−qg(x)\gt a-q なら f(x)+g(x)>af(x)+g(x)\gt a なので、{f+g>a}=⋃q∈Q{f>q}∩{g>a−q}\{f+g\gt a\}=\bigcup_{q\in\mathbb{Q}}\{f\gt q\}\cap\{g\gt a-q\} は開集合です。帰納法で部分和 ∑n≤Nfn\sum_{n\le N}f_n は下半連続で、fn≥0f_n\ge0 なので ∑nfn=sup⁡N∑n≤Nfn\sum_nf_n=\sup_N\sum_{n\le N}f_n は 2 により下半連続です。

1 の様子を具体例で見ます。H=λ∣L2(0,1)⊕λ∣L2(0,1)H=\lambda|_{L^2(0,1)}\oplus\lambda|_{L^2(0,1)} で ψ1=(1,λ)\psi_1=(1,\lambda)、ψ2=(λ,1/2)\psi_2=(\lambda,1/2) とすると、相互スペクトル密度の Gram 行列は (0,1)(0,1) の上で連続で、det⁡G2(λ)=(λ2−1/2)2\det G_2(\lambda)=(\lambda^2-1/2)^2 です。下の図では、階数が下がるのが孤立した 1 点だけで、そのまわりでは階数が高いほうに保たれていることを見てください({rank G2≥2}\{\mathrm{rank}\,G_2\ge2\} は開集合です)。

00.10.2G(λ) の小さいほうの固有値λ = 1/√200.250.50.751012rank G(λ)1 点だけ 1 に下がるλ
連続な Gram 行列の階数は、点で下に落ちることはあっても、近くの点で下がり続けることはない(numpy で計算)。

命題 7.4 と組み合わせると、次のことがわかります。ρψi,ψj\rho_{\psi_i,\psi_j} がすべて連続な版を持てば、GNG_N は連続、その階数は下半連続、上限 sup⁡Nrank GN\sup_N\mathrm{rank}\,G_N も下半連続で、これが a.e. で mHm_H に等しくなります。すなわち、相互スペクトル密度が連続になるような稠密な列があれば、多重度関数は下半連続関数と a.e. で一致します。この観察は、時間作用素の理論で多重度に条件が付く理由になります。

多重度関数の例を作るとき、開集合や区間の和とは性質の違う集合として「閉で内点を持たないのに測度が正の集合」がよく使われます。通常の Cantor 集合は測度 00 なので、この役には立ちません(例 5.2[可測集合とルベーグ測度])。取り除く区間を速く小さくすれば、測度を残せます。

命題 8.3(太った Cantor 集合の存在)✓

閉集合 C⊂[0,1]C\subset[0,1] で、内点を持たず(CC は区間を含まない)、Lebesgue 測度が ∣C∣=1/2|C|=1/2 となるものが存在する。

証明(命題 8.3)

C0=[0,1]C_0=[0,1] とし、帰納的に CnC_n が長さ ℓn\ell_n の互いに素な閉区間 2n2^n 個の和で、ℓn>4−(n+1)\ell_n\gt4^{-(n+1)} を満たすとします(ℓ0=1\ell_0=1)。CnC_n の各区間から、中央の長さ 4−(n+1)4^{-(n+1)} の開区間を取り除いたものを Cn+1C_{n+1} とします。Cn+1C_{n+1} は長さ ℓn+1=(ℓn−4−(n+1))/2\ell_{n+1}=(\ell_n-4^{-(n+1)})/2 の互いに素な閉区間 2n+12^{n+1} 個の和で、区間の測度(命題 3.5[可測集合とルベーグ測度])と加法性から

∣Cn+1∣=∣Cn∣−2n⋅4−(n+1)=∣Cn∣−2−n−2,∣Cn∣=1−∑j=0n−12−j−2=12+2−n−1|C_{n+1}|=|C_n|-2^n\cdot4^{-(n+1)}=|C_n|-2^{-n-2},\qquad |C_n|=1-\sum_{j=0}^{n-1}2^{-j-2}=\frac12+2^{-n-1}

です。よって ℓn=∣Cn∣/2n=2−n−1+2−2n−1>2−2n−2=4−(n+1)\ell_n=|C_n|/2^n=2^{-n-1}+2^{-2n-1}\gt2^{-2n-2}=4^{-(n+1)} となり、帰納法の仮定が次の段でも保たれます。

C=⋂nCnC=\bigcap_nC_n は閉集合の共通部分なので閉で、C⊂[0,1]C\subset[0,1] です。CnC_n は減少列で ∣C0∣=1<∞|C_0|=1\lt\infty なので、上からの連続性(命題 2.3[測度空間と Carathéodory の拡張定理] の 4)により ∣C∣=lim⁡n∣Cn∣=1/2|C|=\lim_n|C_n|=1/2 です。CC が区間 JJ を含むとすると、各 nn で J⊂CnJ\subset C_n で、JJ は連結なので CnC_n の 2n2^n 個の区間のどれか 1 つに含まれ、∣J∣≤ℓn≤2−n|J|\le\ell_n\le2^{-n} です。n→∞n\to\infty として ∣J∣=0|J|=0 なので、CC は(長さが正の)区間を含まず、内点を持ちません。

CC の補集合 [0,1]∖C[0,1]\setminus C は取り除いた開区間の和で、[0,1][0,1] で稠密です(CC が内点を持たないので)。稠密な開集合なのに測度が 1/21/2 しかないという点で、[0,1]∖C[0,1]\setminus C は直観に反する集合です。

構成の進み方を動画で見ます。上段の青い帯が CnC_n、灰色の帯が中央の 1/31/3 を除いていく通常の Cantor 集合で、下段のグラフで測度 ∣Cn∣|C_n| の行き先(1/21/2 と 00)の違いを見てください。

区間 [0,1] の帯の各区間の中央から、段ごとに長さ 4 の −(n+1) 乗の開区間を除いていくアニメーション。下に並べた通常の Cantor 集合は中央の 1/3 を除くので帯がすぐに細い線の集まりになるが、太った Cantor 集合は細かい隙間が増えても帯の大部分が残る。下段のグラフでは太った方の測度が 1/2 + 2 の −(n+1) 乗に沿って 1/2 へ、通常の方が (2/3) の n 乗に沿って 0 へ減っていく
太った Cantor 集合 C_n の構成。除く区間の長さ 4⁻⁽ⁿ⁺¹⁾ が区間の長さより速く小さくなるので、隙間は至る所にできるのに測度は 1/2 に残る。

例 9.1(重なった 2 つの区間)

H=λ∣L2(0,2)⊕λ∣L2(1,3)H=\lambda|_{L^2(0,2)}\oplus\lambda|_{L^2(1,3)} とします。これは S1=(0,2)S_1=(0,2)、S2=(1,3)S_2=(1,3)、μ=dλ\mu=\mathrm{d}\lambda の模型そのものなので、補題 5.2 により m=1S1+1S2m=\mathbf{1}_{S_1}+\mathbf{1}_{S_2}、E1={m≥1}=(0,3)E_1=\{m\ge1\}=(0,3)、E2={m≥2}=(1,2)E_2=\{m\ge2\}=(1,2) で、H≅λ∣L2(0,3)⊕λ∣L2(1,2)H\cong\lambda|_{L^2(0,3)}\oplus\lambda|_{L^2(1,2)} です(上の図)。λ∈(1,2)\lambda\in(1,2) では第 1 の成分の値を E1E_1 の成分へ、第 2 の成分の値を E2E_2 の成分へ送り、λ∈(2,3)\lambda\in(2,3) では第 2 の成分の値を E1E_1 の成分へ送ります。多重度関数 mH=1(0,3)+1(1,2)m_H=\mathbf{1}_{(0,3)}+\mathbf{1}_{(1,2)} は開集合の定義関数の和なので、補題 8.2 の 3 により下半連続です。

例 9.2(自由ラプラシアンの多重度)

Rd\mathbb{R}^d 上の −Δ-\Delta は、Fourier 変換で ∣k∣2|k|^2 の掛け算に移ります。d=1d=1 では L2(R,dk)=L2(0,∞)⊕L2(−∞,0)L^2(\mathbb{R},\mathrm{d}k)=L^2(0,\infty)\oplus L^2(-\infty,0) と分け、各半直線で λ=k2\lambda=k^2 を新しい変数とする変換 f↦(2λ)−1/2f(±λ)f\mapsto(2\sqrt\lambda)^{-1/2}f(\pm\sqrt\lambda) を使うと、−Δ≅λ∣L2(0,∞)⊕λ∣L2(0,∞)-\Delta\cong\lambda|_{L^2(0,\infty)}\oplus\lambda|_{L^2(0,\infty)} で、m=2⋅1(0,∞)m=2\cdot\mathbf{1}_{(0,\infty)} です(右向きと左向きの平面波の 2 つ)。d≥2d\ge2 では極座標 k=rωk=r\omega で L2(Rd)≅L2((0,∞),rd−1dr;L2(Sd−1))L^2(\mathbb{R}^d)\cong L^2((0,\infty),r^{d-1}\mathrm{d}r;L^2(S^{d-1})) となり、L2(Sd−1)L^2(S^{d-1}) の正規直交基底を使えば、各成分が λ∣L2(0,∞)\lambda|_{L^2(0,\infty)} の可算無限個の直和になります。よって m=∞⋅1(0,∞)m=\infty\cdot\mathbf{1}_{(0,\infty)} です(各エネルギーに、すべての方向の平面波がある)。どちらの場合も mm は下半連続です。

例 9.3(太った Cantor 集合の上の多重度)

CC を 命題 8.3 の集合とし、H=λ∣L2(0,1)⊕λ∣L2(C)H=\lambda|_{L^2(0,1)}\oplus\lambda|_{L^2(C)} とします。補題 5.2 により mH=1(0,1)+1Cm_H=\mathbf{1}_{(0,1)}+\mathbf{1}_C で、E1=(0,1)E_1=(0,1)、E2=CE_2=C(零集合を除いて)です。HH は純絶対連続で σ(H)=[0,1]\sigma(H)=[0,1] ですが、多重度が 22 になる点の集合は内点を持たず、それでも測度が 1/21/2 あります。スペクトルの集合や型(区間 [0,1][0,1]、純絶対連続)だけを見ると λ∣L2(0,1)\lambda|_{L^2(0,1)} と区別がつきませんが、多重度関数は測度が正の集合の上で異なるので、定理 7.2 の一意性により両者はユニタリ同値ではありません。

例 9.4(純点スペクトルの場合)

H\mathcal{H} の正規直交基底 {ej}\{e_j\} と実数 λj\lambda_j で Hej=λjejHe_j=\lambda_je_j となる場合(λj\lambda_j には重複を許す)、異なる固有値 λ\lambda ごとに固有空間の次元を d(λ)∈{1,2,…,∞}d(\lambda)\in\{1,2,\ldots,\infty\} とすると、定理 7.1 の測度は μk=∑λ:d(λ)≥kcλδλ\mu_k=\sum_{\lambda:d(\lambda)\ge k}c_\lambda\delta_\lambda(cλ>0c_\lambda\gt0 は総和が有限になるように選ぶ)に取れます。各固有空間を Cd(λ)\mathbb{C}^{d(\lambda)} と同一視し、その第 kk 座標を L2(μk)L^2(\mu_k) の点 λ\lambda での値に対応させればよいからです。この場合の多重度は、基準の測度 μ1\mu_1 に関して μ1\mu_1-a.e. で d(λ)d(\lambda) に等しく、Lebesgue 測度に関しては意味を持ちません(μ1\mu_1 が Lebesgue 測度と互いに特異だから)。多重度関数を Lebesgue 測度に関して定義したのは純絶対連続の場合だけで、一般の場合は基準の測度を最大スペクトル型に取ります。

演習 10.1標準

可分な Hilbert 空間上の自己共役作用素 HH について、HH が巡回ベクトルを持つことと、定理 7.1 の測度の列で μ2=0\mu_2=0 であることが同値であることを示せ。また、§1 の H2=λ∣L2(0,1)⊕λ∣L2(0,1)H_2=\lambda|_{L^2(0,1)}\oplus\lambda|_{L^2(0,1)} が巡回ベクトルを持たないことを結論せよ。

解答

μ2=0\mu_2=0 なら(μk≪μ2\mu_k\ll\mu_2 なので k≥2k\ge2 ですべて 00)H≅λ∣L2(μ1)H\cong\lambda|_{L^2(\mu_1)} です。μ1\mu_1 は有限なので定数関数 11 は L2(μ1)L^2(\mu_1) の元で、補題 2.2 から f(Mλ)1=ff(M_\lambda)1=f です。有界ボレル関数は L2(μ1)L^2(\mu_1) で稠密なので、11 に対応するベクトルは巡回ベクトルです。逆に ψ\psi が巡回ベクトルなら、命題 3.2 の証明の最初の段落により H≅λ∣L2(μψ)H\cong\lambda|_{L^2(\mu_\psi)} で、これは μ1=μψ\mu_1=\mu_\psi、μk=0\mu_k=0(k≥2k\ge2)の表示です。定理 7.1 の一意性から、どの表示でも μ2∼0\mu_2\sim0、すなわち μ2=0\mu_2=0 です。H2H_2 は 定理 7.2 の表示 E1=E2=(0,1)E_1=E_2=(0,1) を持つので、一般の表示でも μ2∼1(0,1)dλ≠0\mu_2\sim\mathbf{1}_{(0,1)}\mathrm{d}\lambda\ne0 となり、巡回ベクトルを持ちません。

演習 10.2易

H=λ∣L2(0,1)⊕λ∣L2(0,1)H=\lambda|_{L^2(0,1)}\oplus\lambda|_{L^2(0,1)}、ψ1=(1,λ)\psi_1=(1,\lambda)、ψ2=(λ,λ2)\psi_2=(\lambda,\lambda^2)、ψ3=(0,1)\psi_3=(0,1) とする。(a) G2(λ)G_2(\lambda) を計算し、階数が (0,1)(0,1) の上で至る所 11 であることを示せ。(b) G3(λ)G_3(\lambda) の階数が (0,1)(0,1) 上で 22 であることを示し、命題 7.4 と比べよ。

解答

補題 2.2 の 1 から、ψ=(a,b)\psi=(a,b)、φ=(c,d)\varphi=(c,d) の相互スペクトル密度は (0,1)(0,1) の上で aˉc+bˉd\bar ac+\bar bd です。(a) ρ11=1+λ2\rho_{11}=1+\lambda^2、ρ12=λ+λ3=λ(1+λ2)\rho_{12}=\lambda+\lambda^3=\lambda(1+\lambda^2)、ρ22=λ2+λ4=λ2(1+λ2)\rho_{22}=\lambda^2+\lambda^4=\lambda^2(1+\lambda^2) なので det⁡G2=λ2(1+λ2)2−λ2(1+λ2)2=0\det G_2=\lambda^2(1+\lambda^2)^2-\lambda^2(1+\lambda^2)^2=0 で、G2≠0G_2\ne0 だから階数は 11 です。ψ2=Hψ1\psi_2=H\psi_1 なので、各点で ψ^2(λ)=λψ^1(λ)\hat\psi_2(\lambda)=\lambda\hat\psi_1(\lambda) はファイバーの中で平行です。(b) ρ13=λ\rho_{13}=\lambda、ρ23=λ2\rho_{23}=\lambda^2、ρ33=1\rho_{33}=1 を加えると、ψ^1(λ)=(1,λ)\hat\psi_1(\lambda)=(1,\lambda) と ψ^3(λ)=(0,1)\hat\psi_3(\lambda)=(0,1) は線形独立なので、補題 6.2 から rank G3(λ)=2\mathrm{rank}\,G_3(\lambda)=2 です。これは mH=2⋅1(0,1)m_H=2\cdot\mathbf{1}_{(0,1)} に等しく、上限に有限の N=3N=3 で達しています。N=2N=2 では上限に届かないことが (a) からわかります。

演習 10.3標準

HH を可分な Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の純絶対連続な自己共役作用素、n∈Nn\in\mathbb{N} とし、H⊕n=H⊕⋯⊕H\mathcal{H}^{\oplus n}=\mathcal{H}\oplus\cdots\oplus\mathcal{H}(nn 個)の上の H⊕n=H⊕⋯⊕HH^{\oplus n}=H\oplus\cdots\oplus H を考える。H⊕nH^{\oplus n} も純絶対連続で、mH⊕n=n mHm_{H^{\oplus n}}=n\,m_H(a.e.、n⋅∞=∞n\cdot\infty=\infty)であることを示せ。とくに、mHm_H が有限値なら HH と H⊕2H^{\oplus2} はユニタリ同値でないことを結論せよ。

解答

H⊕n\mathcal{H}^{\oplus n} のベクトル (φ1,…,φn)(\varphi_1,\ldots,\varphi_n) のスペクトル測度は ∑jμφj\sum_j\mu_{\varphi_j} なので(EH⊕n(B)=EH(B)⊕nE_{H^{\oplus n}}(B)=E_H(B)^{\oplus n} は直和の射影値測度で、定理 5.5[スペクトル定理と関数計算] の一意性からスペクトル測度です)、絶対連続です。定理 7.2 の W:H→⨁kL2(Ek)W:\mathcal{H}\to\bigoplus_kL^2(E_k) の nn 個の直和で、H⊕nH^{\oplus n} は集合の族 {Ek}k∈N\{E_k\}_{k\in\mathbb{N}} を nn 回ずつ並べた族 {Sl}\{S_l\} の模型 ⨁lL2(Sl)\bigoplus_lL^2(S_l) に移ります。補題 5.2 により mH⊕n=∑l1Sl=n∑k1Ek=n mHm_{H^{\oplus n}}=\sum_l\mathbf{1}_{S_l}=n\sum_k\mathbf{1}_{E_k}=n\,m_H です。mHm_H が有限値で HH が {0}\{0\} でない空間上にあれば、mH>0m_H\gt0 となる正測度の集合の上で 2mH≠mH2m_H\ne m_H なので、定理 7.2 の一意性から H≇H⊕2H\not\cong H^{\oplus2} です。逆に mH=∞⋅1Um_H=\infty\cdot\mathbf{1}_U の形(たとえば d≥2d\ge2 の自由ラプラシアン)なら H≅H⊕2H\cong H^{\oplus2} です。

  • P. R. Halmos, Introduction to Hilbert Space and the Theory of Spectral Multiplicity, Chelsea, 1951 — 多重度理論の古典的な教科書。
  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised ed., Academic Press, 1980 — 第 VII 章(スペクトル定理と掛け算作用素表示)。
  • J. B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Springer, 1990 — 第 IX 章(正規作用素の多重度理論)。
  • M. Sh. Birman, M. Z. Solomyak, Spectral Theory of Self-Adjoint Operators in Hilbert Space, D. Reidel, 1987 — スペクトル型と多重度。
  • E. Hellinger, “Neue Begründung der Theorie quadratischer Formen von unendlichvielen Veränderlichen”, Journal für die reine und angewandte Mathematik 136 (1909), 210–271 — Hellinger 積分による直交不変量。
  • H. Hahn, “Über die Integrale des Herrn Hellinger und die Orthogonalinvarianten der quadratischen Formen von unendlich vielen Veränderlichen”, Monatshefte für Mathematik und Physik 23 (1912) — Hellinger 積分の Lebesgue 積分への帰着。
  • M. H. Stone, Linear Transformations in Hilbert Space and Their Applications to Analysis, American Mathematical Society Colloquium Publications 15, 1932 — 自己共役作用素のユニタリ不変量。
  • B. R. Gelbaum, J. M. H. Olmsted, Counterexamples in Analysis, Holden-Day, 1964 — 測度が正の Cantor 型集合。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-17

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