測度空間と Carathéodory の拡張定理:前測度から測度を作り、一意性を示す
対象読者: 本テーマのルベーグ測度とルベーグ積分の章を学び、σ-加法族と外測度の構成を一度追った人。一般の測度空間は初めてでも読めるようにします。
前提となる記事:可測集合とルベーグ測度:外測度とカラテオドリ条件から測度を作る、ルベーグ積分の定義と収束定理:値域を分割して極限と積分を交換する
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”区間の長さのように、ごく単純な図形に対してだけ「大きさ」が決まっているとき、それをもっと複雑な集合の大きさにまで、矛盾なく広げていけるでしょうか。また、広げ方は一通りしかないのでしょうか。この記事は、この二つの素朴な問いに答える一般論です。読み終えると、確率分布が分布関数だけで決まる理由や、曲線やフラクタルの「大きさ」を測る道具の作り方が分かります。
- 測度論の出発点は、集合の「大きさ」を測る関数 の公理(可算加法性)です。しかし、実際の対象(区間、直積集合、無限回のコイン投げ)で最初に与えられるのは、ごく単純な集合族の上の大きさだけです。それを σ-加法族全体に拡張する一般論が、Carathéodory の拡張定理です。
- 拡張の方法は、ルベーグ測度で見た外測度の構成の一般化です。外測度 を作り、Carathéodory の条件を満たす集合全体 が σ-加法族になり、そこで が測度になる、というのが 定理 3.2 です。距離空間で離れた集合に加法的な外測度(距離外測度)ではボレル集合がすべて可測になり、その代表例が Hausdorff 測度と Hausdorff 次元です(3.1 節)。
- 代数 上の前測度(可算加法的なもの)は、 から生成される σ-加法族上の測度にまで拡張できます(定理 4.2)。拡張が一意であるのは、-有限のときで、その証明に Dynkin の - 定理を使います。
- 最大の応用が Lebesgue–Stieltjes 測度で、 上の右連続な単調増加関数 に対し、 を満たすボレル測度がただ一つ存在します。 ならルベーグ測度、 が確率変数の分布関数なら確率分布、 が階段関数ならディラック測度(一点だけに大きさ をもつ測度)の和になります。
- σ-有限性は一意性の本質的な仮定で、外すと反例があります。
1. 動機 — 「区間の長さ」だけが与えられているとき
Section titled “1. 動機 — 「区間の長さ」だけが与えられているとき”可測集合とルベーグ測度 では、区間の長さから出発して、外測度 、カラテオドリの条件、可測集合の σ-加法族 、完全加法的なルベーグ測度 を作りました。その議論を振り返ると、重要な箇所の多くで「」や「長さ」の中身を使っていません。実際、定理 4.5[可測集合とルベーグ測度] の証明は、外測度の三つの性質(空集合で 、単調性、可算劣加法性)だけを使います。
ここから二つの自然な問いが生まれます。
- 一般化できるか。 長さ の代わりに、別の「重み」 を区間に与えたとき(たとえば確率分布)、同じ構成が通るか。さらに でない空間(コイン投げの空間、関数空間)でも通るか。
- 一意か。 区間だけで値を指定したとき、σ-加法族上の測度は一通りに決まるか。ルベーグ測度は「区間の長さを とする」という条件だけで決まるのか。
確率論では、この二つが決定的に重要です。確率変数 の分布 という情報(分布関数)だけから、 をすべてのボレル集合 について決めたい。つまり分布関数が分布を決めることの根拠が、この記事の定理です。この記事のあとの 直積測度と Fubini–Tonelli の定理 や 符号付き測度と Radon–Nikodym の定理 は、すべてここでの構成と一意性の上に立っています。
2. 測度空間 — 定義の確認
Section titled “2. 測度空間 — 定義の確認”2.1. σ-加法族と測度
Section titled “2.1. σ-加法族と測度”を集合とします。
の部分集合族 が代数(有限加法族)であるとは、(1) 、(2) ならば 、(3) ならば 、を満たすことをいう。(3) を可算和へ強めて「 ならば 」としたものを σ-加法族という(定義の詳細は 確率空間とコルモゴロフの公理 の 定義 3.1[確率空間とコルモゴロフの公理] にもある)。族 を含む最小の σ-加法族を と書き、 で生成される σ-加法族という(存在は 命題 3.4[確率空間とコルモゴロフの公理])。 の開集合全体で生成される σ-加法族をボレル集合族 という。
代数は補集合と有限和で閉じ、したがって 、有限交叉、差集合でも閉じます(ド・モルガンの法則)。
を σ-加法族とする。写像 が測度であるとは、 かつ、互いに素な に対して を満たすことをいう(可算加法性)。組 を測度空間という。
が代数にすぎないときは、写像 が と次の性質を満たすとき前測度(premeasure)という:互いに素な で となるものについて 。
測度 が -有限であるとは、 かつ となる が存在することをいう。前測度についても同様に定める。
前測度の可算加法性には、「合併がまた に属する」という前提がつきます。代数では可算和が に入るとは限らないからです。
証明(命題 2.3)
(1) と有限加法性(可算加法性で残りを とすれば従う)から 。
(2) 、 とおくと、 は互いに素で 、。(1) と可算加法性から 。
(3) は 命題 2.1[ルベーグ積分の定義と収束定理] と同じ。差 ()が互いに素で、その和が であることから従う。
(4) は増加列で 。(3) により 。 なので引き算ができ、(4) を得る。
(4) の は外せません。 のルベーグ測度はすべて ですが、 の測度は です。
2.2. 代数から σ-加法族へ — 何が問題か
Section titled “2.2. 代数から σ-加法族へ — 何が問題か”が代数で が前測度のとき、 上の測度 で となるものが存在するでしょうか。素朴には、 を の集合の可算和や可算共通部分の極限で近似して、 の極限として を定義することを考えます。しかし、そのような近似の仕方が一意に定まるか、また極限が近似の仕方によらないかを確かめるのは面倒です。外測度の構成は、この問題を下限を取ることで一挙に処理します。近似の仕方を一つ選ぶ代わりに、 の集合による可算個の被覆すべてを考えて、その値の総和の下限を の大きさとして採用する、という発想です。「どの近似が正しいか」を選ぶ必要がなくなるので、一意性の問題が消えます。
3. 外測度と Carathéodory の定理
Section titled “3. 外測度と Carathéodory の定理”定義 3.1(外測度と Carathéodory 可測性)↗
上の外測度とは、写像 で、(1) 、(2) ならば 、(3) 、を満たすものをいう。部分集合 が -可測(Carathéodory の条件を満たす)であるとは、すべての に対して
が成り立つことをいう。-可測集合全体を と書く。
劣加法性 (3) から は常に成り立つので、可測性とは「 が成り立つ」ことです。ルベーグ測度の場合の 定義 4.1[可測集合とルベーグ測度] と同じ条件です。
定理 3.2(Carathéodory の定理(外測度から測度へ))✓
を 上の外測度とする。このとき は の σ-加法族であり、 を に制限したものは測度である。さらに、 なる任意の は に属する(この測度は完備である)。
この定理が言いたいのは、外測度は劣加法性しかもたなくても、Carathéodory の条件で「ちょうど加法的に振る舞う集合」だけを選び出せば、そこでは本物の測度になる、ということです。完備とは、測度 の集合の部分集合がすべて可測になっていることです。次の証明は長いですが、(a) 補集合と有限交叉で閉じる、(b) 互いに素な集合では測る量が足し算になる、(c) その足し算を可算個へ延ばして可算和で閉じる、(d) 測度の可算加法性を得る、(e) 完備性、という順に進みます。式変形のたびに使うのは、試験集合 を の内と外に分ける操作と、劣加法性( の向き)の二つだけです。
証明(定理 3.2)
と書く。
(a) 代数であること。 は明らか()。条件が と について対称だから、 ならば 。 とし、任意の をとる。 で、次に で分けて
最後の三項の集合の和集合は だから、劣加法性により三項の和は 以上。よって となり 。補集合と有限交叉で閉じるから、有限和でも閉じる。
(b) 有限加法性。 が互いに素ならば、任意の で 。実際 を試験集合として を で分けると、 と から従う。帰納法で、互いに素な について 。
(c) 可算和で閉じること。 まず互いに素な について を示す。((a))とする。任意の に対し、 と から、(b) を使って
として (最後は可算劣加法性)。よって 。一般の については、、((a))は互いに素で だから、上により 。以上で は σ-加法族。
(d) 可算加法性。 が互いに素、 とする。(c) の不等式で とすると 。逆向きは劣加法性。よって 。
(e) 完備性。 とする。任意の で (単調性)、 だから 。逆向きは常に成り立つので 。
注意 3.3(ルベーグ測度は特別な場合)
定理 3.2 を 、外測度 (定義 3.1[可測集合とルベーグ測度])に適用したものが、ルベーグ測度の構成(定理 4.5[可測集合とルベーグ測度] と 系 4.7[可測集合とルベーグ測度])です。その記事の証明が の具体形を使わなかったのは、この一般論が背後にあったからです。ルベーグ可測集合の族が完備(零集合の部分集合がすべて可測)なのも、(e) の帰結です。
3.1. 距離外測度と Hausdorff 測度
Section titled “3.1. 距離外測度と Hausdorff 測度”定理 3.2 はどんな外測度にも使えますが、可測集合がどれだけあるかは何も教えてくれません。距離空間では、離れた 2 つの集合に対して加法的であれば、ボレル集合がすべて可測になります。これを使って、曲線の長さや曲面の面積、さらにフラクタルの「 次元の大きさ」を測る Hausdorff 測度を作ります。以下 を距離空間とし、、 と書きます。
証明の方針を先に述べます。閉集合 の外側の集合 を、 からの距離が より大きい部分 で内側から近似します。 と は離れているので距離外測度の加法性が使えます。残りの「 のすぐ近くの薄い層」 が、 を大きくすると無視できることを示すのが山場です。層 は隣り合うものどうしは離れていませんが、1 つおき(偶数番どうし、奇数番どうし)なら離れているので、偶数番だけ・奇数番だけを分けて加法性を使います。
証明(定理 3.5)
は σ-加法族なので(定理 3.2)、閉集合 がすべて可測であることを示せば、開集合(閉集合の補集合)も可測になり、開集合が生成する σ-加法族であるボレル集合族が に含まれます。
を閉集合、 とし、 を示します。 なら明らかなので とします。 と置くと なので、距離外測度の性質と単調性から
あとは を示せば十分です。 が閉なので なら で、(増大列)です。 と置きます。、、 なら から なので、 です。距離外測度の性質を繰り返し使うと、各 で
なので です。 と劣加法性から
右辺の和は で に近づくので、 です。
次の定義の直観を述べます。 なら は小さな集合の直径の総和で長さの見積もり、 なら直径の 2 乗の総和で面積の見積もりにあたります。被覆を直径 未満の細かい集合に限るのは、粗い被覆では曲がった図形の大きさを実際より大きく見積もってしまうからで、 を小さくしていく極限を取ることで、その見積もりを精密にします。 をどう選ぶと有限で正の値になるかが、図形の「次元」を決めます。
定義 3.6(Hausdorff 測度と Hausdorff 次元)↗
、、 に対し
と置く( とし、 では空でない について とする)。 を小さくすると被覆の候補が減るので は について単調減少で、
を の 次元 Hausdorff 測度という。また を の Hausdorff 次元という。
とする。
- は距離外測度である。とくにボレル集合はすべて -可測で、 はボレル集合族の上の測度である。
- は数え上げ測度である( は の元の個数、無限集合なら )。
- を距離空間、 を ()をみたす写像とすると、。とくに等長写像は を保ち、 では ()。
- とする。 ならば である。したがって ならば であり、 が成り立つ( が空なら と読む)。
証明(定理 3.7)
1. まず が外測度であることを見ます。空集合は空集合 1 つで覆えるので 、単調性は被覆の候補の包含から出ます。可算劣加法性: として を取り、各 を となる の集合で覆えば、それらを全部合わせたものは の被覆なので です。 についても、 で とすれば劣加法性が出て、外測度です。
距離外測度であること: とし、 を取ります。 の の被覆 の各 は、 と の両方と交わることはありません(交われば )。 と交わるものは の被覆、 と交わるものは の被覆なので 、下限を取って です。 として が、劣加法性から が出ます。後半は 定理 3.5 です。
2. は「 を覆うのに要る、直径 未満の空でない集合の個数」の下限です。 が 点集合なら、 をその 2 点間の距離の最小値より小さく取ると、直径 未満の集合は の点を 1 つしか含めないので 、よって です。 が無限集合なら、任意の について 点の部分集合を含むので、単調性から です。
3. 、 なら で、 です( では空でない集合の個数が増えないことを使う)。よって 、被覆について下限を取って 、 で主張です。等長写像はその逆写像とともに で、 とその逆はそれぞれ , なので等号が出ます。
4. について、 の被覆 で 、 となるものを取ると
です( のときも空でない について なので同じ)。 として です。後半はこの対偶と、 が「ある値までは 、それを越えると 」という形をしていることの言い換えです。
では、 次元 Hausdorff 測度とルベーグ測度は定数倍の範囲で一致します。ここでは定数を気にしない比較だけを示します。 と書きます。
証明(命題 3.8)
第 1 の不等式. 直径 の空でない集合 は、その任意の点 について に含まれます。 なら、空でない について を選ぶと なので、測度の単調性・劣加法性(命題 2.3)と、並進不変性・相似(補題 3.1[ℝ^d の変数変換公式と極座標]、系 3.5[ℝ^d の変数変換公式と極座標])による から です。被覆について下限を取り 。
第 2 の不等式. まず が開集合の場合です。補題 2.3[ℝ^d の変数変換公式と極座標] により は互いに素な 2 進立方体 (一辺 )の可算和です。 を与え、各 を一辺 の 個の 2 進立方体に分け、 となるように を取ります。一辺 の立方体の直径は なので、補題 2.2[ℝ^d の変数変換公式と極座標] から
で、 として です。一般のボレル集合 については、ルベーグ測度の外正則性 (命題 5.4[Radon 測度と Riesz–Markov–角谷の表現定理])と の単調性から出ます。
最後の主張: 空でない開集合 は正の測度の球を含むので 、よって で、定理 3.7 の 4 から で です。一方 は有界な開集合 の可算和で、それぞれ なので、4 から で 、劣加法性から です。よって です。
例 3.9(カントール集合の Hausdorff 次元の上からの評価)
カントール集合 (例 5.2[可測集合とルベーグ測度])は、各 で長さ の閉区間 個で覆えます。()とすると、 なら なので 、定理 3.7 の 4 から です。実際には も示せて ですが、下からの評価には「どんな被覆も効率がよくない」ことを示す別の議論(質量分布の原理)が要るので、ここでは扱いません(K. Falconer, Fractal Geometry, 第 2–4 章)。ルベーグ測度は でも(例 5.2[可測集合とルベーグ測度])、 次元の大きさは正で有限、というのが Hausdorff 測度の見せる新しい情報です。
注意 3.10(正規化と面積公式)
の幾何的測度論では、 に定数 ()を掛けて正規化することが多く、そうすると が成り立ちます。証明には等直径不等式(直径 の集合の測度は半径 の球の測度以下)が要ります。さらに、Lipschitz 写像 ()について が成り立つという面積公式、 の場合の余面積公式が、曲面積分と Fubini の定理の一般化を与えます。この記事ではこれらを証明しません(L. C. Evans–R. F. Gariepy, Measure Theory and Fine Properties of Functions, 第 2–3 章)。
4. 代数上の前測度の拡張と一意性
Section titled “4. 代数上の前測度の拡張と一意性”4.1. 拡張定理(存在)
Section titled “4.1. 拡張定理(存在)”代数 上の前測度 に対して、
と定めます(区間の長さの総和の下限としたルベーグ外測度の一般化です)。
を代数 上の有限加法的な非負関数( で、互いに素な有限個の元について和が成り立つもの。前測度は特にそうである)とする。 について、 ならば 、 ならば 。
証明(補題 4.1)
から単調性。後半は 、(互いに素)とおくと、 だから 。
定理 4.2(Carathéodory の拡張定理(一般形))✓
を の代数、 を 上の前測度とし、 を上のように定める。このとき
- は外測度であり、 で 。
- 。したがって であり、 は 上の測度で を満たす。
すなわち、前測度は 上の測度に拡張できる。
証明(定理 4.2)
4.2. Dynkin の - 定理と一意性
Section titled “4.2. Dynkin の π\piπ-λ\lambdaλ 定理と一意性”存在が示せたので、一意性です。直観的には、 上で一致する二つの測度は、 で生成される σ-加法族上でも一致するはずですが、証明には少し工夫が要ります。「一致する集合の全体」が σ-加法族になるとは限らないが、もっと弱い構造をもつ、というのがポイントです。
の部分集合族 が π-系であるとは、有限交叉で閉じること()をいう。族 が λ-系であるとは、(1) 、(2) ならば 、(3) 互いに素な ならば 、を満たすことをいう。
なお、次の定理の証明は、補助的な集合族 、 を作る議論が続きます。目標は一つで、「 を含む最小の λ-系 が、実は交叉で閉じている(π-系でもある)」ことを示し、それを下の注意で σ-加法族につなげることです。
σ-加法族は λ-系です。逆に、π-系でもある λ-系は σ-加法族です。補集合と有限交叉で閉じるので有限和でも閉じ、可算和は を使って互いに素な和に直せるからです。
証明(定理 4.4)
を を含むすべての λ-系の共通部分とする。これは を含む最小の λ-系で、。 が π-系であることを示せば、上の注意から σ-加法族となり を得る。
に対し とおく。 ならば は λ-系である。(1) 。(2) のとき、 で、 と は互いに素な の元だから、その和も補集合も に属する。(3) が互いに素なら 。
(ア) とする。 は π-系だから、 なら 、つまり 。 は λ-系だから、 の最小性から 。すなわち、 かつ ならば 。
(イ) とする。(ア) は「任意の に対し 」を意味する。すなわち 。 は λ-系だから、再び 。つまり 、 ならば 。ゆえに は π-系である。
を の π-系とし、 を 上の測度とする。次を仮定する:
- すべての で 。
- 、、、かつ各 で となる列 が存在する。
このとき が 上で成り立つ。特に、 で のとき(2 は とすれば満たされる)、有限測度は π-系上の値で決まる。
証明(定理 4.5)
例 4.7(σ-有限性を外すと一意性が壊れる)
、 を有限個の半開区間 ( は実数、無限端点も許す)の互いに素な合併全体とし、()、 と定める。空でない の元はすべて無限個の点を含み、前測度の条件は で満たされる。 上の二つの測度、数え上げ測度 と、()、 は、どちらも の拡張だが、 である。 は -有限でないので 系 4.6 は適用できない。
5. Lebesgue–Stieltjes 測度
Section titled “5. Lebesgue–Stieltjes 測度”最も重要な応用です。長さ を、増加関数による重み に置き換えます。
証明の道筋は、区間で定義した「長さ」 が前測度であることを確かめれば、あとは存在と一意性の定理に任せられる、というものです。証明には、(i) 代数を準備して前測度を定義し、(ii) その可算加法性を示し、(iii) 定理 4.2 と 定理 4.5 を使います。(ii) が実質的な仕事で、ここで右連続性とコンパクト性(ハイネ・ボレル)が働きます。
証明(定理 5.2)
(i) 代数と前測度。 に対し、 を( なら と読んで)h-区間と呼ぶ。h-区間の共通部分は h-区間か空集合で、h-区間の補集合は のように高々 2 個の互いに素な h-区間の和になる。 を、有限個の互いに素な h-区間の和集合の全体(空集合を含む)とする。 のとき、交叉 は に入り、 は の元の有限交叉だから に入り、 も の元である。よって は代数である。 が生成する σ-加法族は に等しい(h-区間は閉集合と開集合の共通部分としてボレル集合であり、開集合は有理数端点の h-区間の可算和)。
h-区間 に と定める( の極限値を使う)。 と拡張する。これが分解の仕方によらないことは、次のようにわかる:h-区間 が互いに素な有限個の h-区間 の和であれば、左端の順に並べて となるから、 は望遠鏡和で 。一般の二つの分解には、交叉をとった共通の細分があるので、どちらも細分の値に等しい。こうして は 上の有限加法的な関数となる。補題 4.1 は有限加法性だけで成り立つので、以下 に使える。
(ii) は前測度である。 が互いに素な の可算和であるとする。 と各 を h-区間に分解すれば、有限加法性により、 を h-区間、( は互いに素な h-区間)の場合に帰着できる。この場合に を示す。
「」:任意の で だから、有限加法性と単調性(補題 4.1 の前半の議論)により 。。
「」:まず で が有限とし、すべての の端点も有限とする。 をとる。 の右連続性から、 を となるようにとれる。同様に各 で、 を となるようにとる。すると閉区間 は に含まれ、これは開集合による被覆だから、ハイネ・ボレルの定理(定理 5.2[コンパクト性])により有限個 で となる。したがって であり、補題 4.1 の劣加法性により
よって 。 で「」を得る。
次に一般の h-区間 の場合。有限端点 で となるものに対し、(空でない項だけ残す)は端点がすべて有限な場合だから、。ここで ( なら )とし、 は が有限ならば に固定、 ならば とする( が有限のとき と近づけると、 が で跳ぶ場合に左極限 にしか届かないので、 をとる必要がある)。 の右連続性(および 、 の定義)により だから、「」が従う。
(iii) 結論。 (ii) により は前測度。 の値が有限だから、 は で 、すなわち は -有限である。定理 4.2 と 系 4.6 により、 を拡張する 上の測度 がただ一つ存在する。有限端点の に対する を満たす測度の一意性(そうした測度は有限端点の区間の値で決まる)は、h-区間の全体が π-系で が仮定 2 を満たすことから 定理 4.5 でも従う。
例 5.3(Lebesgue–Stieltjes 測度の例)
(a) :ルベーグ測度。 ルベーグ測度 をボレル集合に制限したものは、定理 5.1[可測集合とルベーグ測度] によりボレル集合族上の測度で、(命題 3.5[可測集合とルベーグ測度])を満たす。定理 5.2 の一意性から、これは にほかならない。ルベーグ測度は「区間の長さが である」という性質でボレル集合上に一意に決まる。
(b) :ディラック測度。 は右連続で増加。 となるのは のときだけで、( は なら 、そうでなければ )。階段関数 なら である。
(c) 確率変数の分布関数。 が確率変数で なら、 は増加・右連続(確率測度の連続性)で 。 は の分布 に等しい。したがって、分布関数が分布を決める(命題 3.6[確率変数と期待値] の主張の根拠)。
(d) カントール測度。 カントール関数 ( 上で連続・単調増加・、 で、カントール集合 の補集合の各区間上では定数、 で 、 で とする)に対する を考える。 は可算個の開区間の和で、各区間で が定数だから は零。したがって 。一方 のルベーグ測度は である(例 5.2[可測集合とルベーグ測度])。 は連続だから は 1 点に質量をもたないのに、ルベーグ測度とは全く異なる(互いに特異な)測度になる。この現象は 符号付き測度と Radon–Nikodym の定理 の Lebesgue 分解で扱います。
注意 5.4(逆向きの対応)
演習 6.1標準
を σ-加法族、 を有限加法的()とする。、 なるすべての列で が成り立つならば、 は可算加法的であることを示せ。
解答
を互いに素とし、 とする。 は減少列で だから、仮定により 。有限加法性から 。 で 。
演習 6.2標準
()、()に対する Lebesgue–Stieltjes 測度 について、、、 を求めよ。また のとき と を求めよ。
解答
は右連続で増加。。 で減少列、命題 2.3 (4) から ( は連続)。。後半:(、左極限 )、。ルベーグ測度に点 の質量 を加えたものになっている。
- G. B. Folland, Real Analysis: Modern Techniques and Their Applications, 2nd ed., Wiley, 1999 — Chapter 1(測度、外測度、Carathéodory の定理、Lebesgue–Stieltjes 測度)。
- W. Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw–Hill, 1987 — Chapter 1–2(測度の構成)。
- P. Billingsley, Probability and Measure, 3rd ed., Wiley, 1995 — §2–§3(π-λ 定理、拡張定理)。
- 伊藤清三『ルベーグ積分入門』裳華房、1963 — 測度の拡張と完備化を扱う章。
- 志賀浩二『ルベーグ積分30講』朝倉書店、1990。
執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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