Jacobi 行列とモーメント問題:直交多項式・Carleman の条件・Simon–Wolff の判定
対象読者: 自己共役性の判定と直交多項式の三項漸化式を学び、スペクトル測度を知っている大学院生。Jacobi 行列やモーメント問題は仮定しません。
前提となる記事:自己共役性の判定 II:Kato の不等式・Faris–Lavine の定理・Carleman の条件・閉形式の単調収束、直交多項式:三項漸化式・Christoffel–Darboux・零点の交互性・Gauss 求積と古典直交多項式
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”Jacobi 行列とは、一列に並んだ点 の上で、隣り合う点どうしにだけ値を渡す行列です。たとえば 4 点を取ると、対角線とその両隣にしか 0 でない成分がない形になります。この記事では、この行列が多項式の列(直交多項式)と測度の問題(モーメント問題)の両方と同じ内容を表していることを見ます。読み終えると、モーメントの列から測度が一意に決まるかどうかを、行列の自己共役性の問題として判定できるようになります。
- Jacobi 行列 (三重対角、)について、 の解は直交多項式 の定数倍に限られます。したがって が本質的自己共役であることと が同値で、不足指数(自己共役にするために足りない分の次元)は か です。1 次元 Schrödinger 作用素の極限点・極限円の離散版です。
- 自己共役な Jacobi 行列 にとって は巡回ベクトル( を繰り返し掛けてできるベクトルの張る空間が稠密、という性質)で、 が から ( は のスペクトル測度)へのユニタリ写像になり、 は の掛け算に移ります。「Jacobi 行列」「直交多項式」「スペクトル測度」は同じものの三つの顔です。
- Hamburger のモーメント問題:実数列 が の形に書ける(有限個の点に集中しない)測度 が存在するための必要十分条件は Hankel 行列の正定値性で、 が一意であることと の本質的自己共役性が同値です。Carleman の条件 は一意性の十分条件です。対数正規分布は一意性が破れる例です。
- Simon–Wolff の判定:階数 1 摂動( 方向だけに 倍の補正を足す摂動) について、 が Borel 集合 のほとんど至る所で有限なら、ほとんどすべての で 上のスペクトルは純点です。証明は前章のスペクトル平均と、Borel 変換( の形の関数)の境界値による測度の密度の評価の組み合わせです。
Jacobi 行列は、半直線の格子 上の最近接ホッピングとポテンシャルからなる「離散 Schrödinger 作用素」です。一方でそれは、直交多項式の三項漸化式(直交多項式)の係数行列でもあり、さらに Hamburger のモーメント問題を解く道具でもあります。数列 が与えられたとき、 となる測度 はあるか、あるなら一つか、という古典的な問題は、19 世紀末の Stieltjes の連分数の研究に始まり、Hamburger, Nevanlinna, Riesz らによって作用素論の言葉に移されました。
自己共役性の判定(続)では Carleman の条件 による本質的自己共役性を示しました。この章では、それをモーメント問題の一意性へつなぎ、さらにスペクトル理論の現代的な道具であるスペクトル平均(前章の 補題 5.1[1 次元散乱と Jost 関数])を Jacobi 行列に適用して、Anderson 局在の証明の骨格となる Simon–Wolff の判定を導きます。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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