スペクトル・散乱理論
波動作用素と漸近完全性、トレースクラス摂動、Mourre 理論と極限吸収原理、共鳴、多体系の HVZ 定理、シュレーディンガー作用素の束縛状態と Lieb–Thirring 不等式、
想定読者: 研究者・博士課程以上(数理物理)
前提テーマ:関数解析と作用素論、量子力学、フーリエ解析と超関数、偏微分方程式
目次
- 第 1 章波動作用素と漸近完全性本波動作用素を強極限として定義し、部分等長性と絡み関係を示す。Cook の方法で短距離ポテンシャルの波動作用素の存在を証明し、漸近完全性と散乱作用素のユニタリ性の関係、Coulomb 型の長距離ポテンシャルでの破綻と Dollard 修正を扱う。
- 第 2 章トレースクラス摂動と Kato–Rosenblum の定理本トレースクラス摂動で波動作用素が存在し完全になる Kato–Rosenblum の定理と、レゾルベント差の版である Birman–Kuroda の定理を扱う。Weyl–von Neumann の定理との対比で絶対連続スペクトルの安定性の限界を示し、スペクトルシフト関数と Krein のトレース公式を述べる。
- 第 3 章Mourre 評価と極限吸収原理本共役作用素 A に対する Mourre 評価を定義し、Virial 定理を証明して固有値の有限性を導く。Mourre の定理(特異連続スペクトルの不在と極限吸収原理)を述べて微分不等式による証明の筋道を示し、Kato の平滑性を経て局所減衰と漸近完全性へつなぐ。
- 第 4 章共鳴:複素変形・Fermi の黄金律・崩壊本複素スケーリングで本質スペクトルを回転させ共鳴を複素固有値として捉え、Fermi の黄金律と指数崩壊からのずれ(Zeno 効果・べき崩壊)を示す。可解な Friedrichs 模型で自己エネルギー、共鳴極、van Hove 極限を厳密に計算する。
- 第 5 章多体系と HVZ 定理本N 体シュレーディンガー作用素の重心分離とクラスター分解を定義し、本質スペクトルの下端が 2 クラスターしきい値で決まる HVZ 定理を Ruelle–Simon の分割と IMS 局所化で証明する。H⁻ の束縛状態、Zhislin の定理、Efimov 効果も扱う。
- 第 6 章シュレーディンガー作用素の自己共役性と束縛状態本Hardy の不等式、Kato クラスと形式有界性、Lᵖ+L^∞ ポテンシャルの自己共役性を証明し、Birman–Schwinger 原理で束縛状態を数える。1・2 次元では弱い引力でも束縛状態があり 3 次元ではないこと、Kato の不等式と反磁性不等式も扱う。
- 第 7 章Lieb–Thirring 不等式と物質の安定性本Schrödinger 作用素の負の固有値のモーメントを ∫V₋^(γ+d/2) で抑える Lieb–Thirring 不等式を、Rumin の方法による運動エネルギー版と Aizenman–Lieb の持ち上げで証明し、Lieb–Oxford 不等式と合わせて Coulomb 系の第 2 種の安定性 E ≥ −C(N+K) を導く。
- 第 8 章時間作用素と Weyl 関係本ハミルトニアン H に正準共役な時間作用素を、Weyl 対・強時間作用素(弱 Weyl 関係)・時間作用素・弱時間作用素の階層として定義し、Pauli の定理を証明する。強時間作用素があれば H は純絶対連続であること、生存確率の減衰と時間–エネルギー不確定性関係、自由粒子の Aharonov–Bohm 時間作用素を扱う。
- 第 9 章場の量子論の模型の散乱理論本漸近場 a_±(f) を定義し、有質量 Nelson 模型での存在を Cook の方法で示す。漸近 Fock 表現と漸近完全性(Dereziński–Gérard の定理)、質量ギャップを使う Haag–Ruelle 散乱理論、質量ゼロでの赤外問題と infraparticle を扱う。
- 第 10 章正則性クラスと抽象共役作用素法本共役作用素 A に対する正則性クラス C¹(A)・C²(A)・C^{1,1}(A) を定義し、Helffer–Sjöstrand 公式で関数計算の交換子を制御する。Mourre の微分不等式法で重み ⟨A⟩^{-s}(s>1/2)の極限吸収原理を完全に証明し、Fermi の黄金律による埋め込み固有値の不安定性と局所減衰を導く。
- 第 11 章固有関数とレゾルベントの指数減衰本Schrödinger 作用素のレゾルベントの積分核がスペクトルから離れたエネルギーで指数減衰すること(Combes–Thomas 評価)と、固有関数が Agmon 距離で測って減衰すること(Agmon 評価)を証明する。本質スペクトルの下端の Persson の公式、x²y² ポテンシャルの離散スペクトル、格子版の明示的な評価も扱う。
- 第 12 章1 次元散乱と Jost 関数本半直線上の Sturm–Liouville 作用素について Weyl の極限点・極限円の交代定理を証明し、Jost 解と Jost 関数で束縛状態と位相のずれを記述して Levinson の定理を導く。Krein のトレース公式をスペクトル平均で完全に証明し、1 次元で Birman–Krein 公式 S = e^{−2πiξ} を確かめる。
- 第 13 章Jacobi 行列とモーメント問題本Jacobi 行列の本質的自己共役性を多項式解の 2 乗可和性で判定し、スペクトル測度と直交多項式の対応から Hamburger のモーメント問題の存在と一意性(Carleman の条件)を証明する。スペクトル平均を使って、階数 1 摂動のほとんどすべての結合定数で純点スペクトルになる Simon–Wolff の判定を導く。
- 第 14 章場の模型の Mourre 理論と漸近完全性本ボソン Fock 空間で 1 粒子の膨張生成子の第二量子化 dΓ(a) を共役作用素にとり、有質量の自由場と閉じ込められた系との結合系について、しきい値 e_j + nm を避けた Mourre 評価を証明する。弱結合での固有値の不在と絶対連続性、伝播評価、Dereziński–Gérard と Fröhlich–Griesemer–Schlein の漸近完全性の骨格を述べる。
- 第 15 章Harper 模型とほぼ Mathieu 作用素本磁場中の 2 次元格子電子を Landau ゲージで Harper 方程式に帰着し、有理磁束での帯構造(Chambers の公式)、Aubry 双対性、Herman の下界 L(E) ≥ log λ を証明し、Ishii–Pastur の定理で λ>1 では絶対連続スペクトルが無いことを示す。
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