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時間作用素と Weyl 関係:Pauli の定理・強時間作用素・生存確率の減衰

対象読者: 本テーマ第 1〜7 章を学び、自己共役作用素のユニタリ群と正準交換関係を知っている大学院生。時間作用素は仮定しません。

前提となる記事:Lieb–Thirring 不等式と物質の安定性:負の固有値の和から Coulomb 系の線形下界へ

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位置 xx と運動量 pp は [x,p]=i[x,p]=i で結ばれた組ですが、時間はエネルギーと組になる観測量ではなく、外から与えられる目盛りとして扱われます。もし時計の針のように「エネルギーと対になる時間の観測量」を作れたら何が言えるか、というのがこの記事の問いです。作り方の条件を厳しくしすぎると作れなくなり(Pauli の定理)、少し緩めると作れて、しかもエネルギーのスペクトルの型や、状態が元のままである確率の減り方がわかります。下の箇条書きに出てくる用語は、§3 以降で一つずつ定義します。

  • 自己共役作用素 HH の時間作用素とは、正準交換関係 [H,T]=−i[H,T]=-i(同値に [T,H]=i[T,H]=i)を何らかの意味で満たす対称作用素 TT です。「何らかの意味」の強さに応じて、Weyl 対 ⇒\Rightarrow 強時間作用素(弱 Weyl 関係 Te−itHψ=e−itH(T+t)ψTe^{-itH}\psi=e^{-itH}(T+t)\psi)⇒\Rightarrow 時間作用素(稠密な部分空間上の交換関係)⇒\Rightarrow 弱時間作用素(2 次形式としての交換関係)という階層があり、各段の逆は成り立ちません。
  • Pauli の定理: σ(H)≠R\sigma(H)\ne\mathbb{R}(特に HH が下に有界)なら、eitHTe−itH=T+te^{itH}Te^{-itH}=T+t を満たす自己共役な TT は存在しません。TT を対称作用素に弱めると存在しえて、そのとき TT は本質的自己共役ではありません。
  • 強時間作用素が存在すれば、HH のスペクトルは純絶対連続です(宮本の定理)。証明は「t⟨φ,e−itHψ⟩t\langle\varphi,e^{-itH}\psi\rangle が有界」という 1 行の恒等式と、Fourier 変換が L2L^2 に入る測度は絶対連続という事実だけで済みます。逆に HH の絶対連続なスペクトル表現が開区間の上に載っていれば、強時間作用素を構成できます。
  • 同じ恒等式から、ψ∈D(Tn)\psi\in D(T^n) の生存確率は ∣⟨ψ,e−itHψ⟩∣2=O(t−2n)|\langle\psi,e^{-itH}\psi\rangle|^2=O(t^{-2n}) で減衰し、ψ∈D(T)∩D(H)\psi\in D(T)\cap D(H) では ΔT ΔH≥1/2\Delta T\,\Delta H\ge1/2 が成り立ちます。時間作用素を使わない時間–エネルギー不確定性関係として、Mandelstam–Tamm の不等式 Pψ(t)≥cos⁡2(ΔH t)P_\psi(t)\ge\cos^2(\Delta H\,t) も証明します。
  • 自由粒子 H0=p2/(2m)H_0=p^2/(2m) の Aharonov–Bohm 時間作用素 TAB=m2(xp−1+p−1x)T_{\mathrm{AB}}=\frac m2(xp^{-1}+p^{-1}x) は強時間作用素であり、不足指数(自己共役な拡張が作れるかを判定する一組の整数)は (0,2)(0,2) で、自己共役拡大を持ちません。

量子力学では位置と運動量が [x,p]=i[x,p]=i で結ばれるのに、時間はパラメータとして外から与えられ、エネルギーに正準共役な「時間の観測量」はありません。Pauli は 1933 年の量子力学の総説で、[H,T]=−i[H,T]=-i を満たす自己共役な TT があれば e−iεTe^{-i\varepsilon T} がエネルギーを ε\varepsilon だけずらすので、HH のスペクトルが実数全体になってしまい、下に有界なハミルトニアンと両立しない、と論じました。この議論は時間–エネルギー不確定性関係の地位をめぐる長い論争の出発点となりました。

Pauli の議論は、交換関係を Weyl 形式で読んだときにだけ厳密です。その厳密な形は既にフォック空間のテーマで 命題 4.3[CCR の表現] として示しました。そこでの注意(注意 4.4[CCR の表現])のとおり、Heisenberg 関係と Weyl 関係の間には何段階もの弱い形があり、弱い形なら下に有界な HH にも時間作用素が存在しえます。本章は、新井朝雄・宮本学らが 2000 年代に整備したこの階層を定義から組み立て、各段で何が言えて何が言えないかを確定させます。

スペクトル理論の側から見ると、時間作用素の存在は HH のスペクトルの型についての情報を与えます。強時間作用素は HH が純絶対連続であることの十分条件であり、生存確率の減衰率を定量的に与えます。これは前章までの散乱理論(波動作用素の存在には絶対連続部分が要る)や、次章以降の共鳴・崩壊する状態(共鳴:複素変形・Fermi の黄金律・崩壊、Friedrichs 模型と崩壊する状態)と直接つながります。

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執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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