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スペクトル定理と関数計算:非有界自己共役作用素を射影値測度で対角化する

対象読者: 本テーマ第 6 章までの自己共役作用素と不足指数の理論、およびルベーグ測度・ボレル集合の基本を学んだ人。射影値測度は本文で初めて定義します。

前提となる記事:対称作用素と自己共役拡大:不足指数と von Neumann の拡大理論

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行列は、適切な基底を選べば対角行列になり、そのおかげで行列の指数関数や平方根のような「行列の関数」を自由に作れます。微分作用素のような無限次元の作用素では、固有ベクトルが足りず、そのままでは同じことができません。この記事では、和を積分に置き換えることで、そのような作用素も「対角化」できることを示します。読み終えると、作用素 AA に対して eitAe^{itA} や (A−z)−1(A-z)^{-1} を一つの方法で定義でき、量子力学のエネルギーや運動量を表す作用素を扱う土台が得られます。

  • 有限次元のスペクトル分解 A=∑jλjPjA=\sum_j \lambda_j P_j の「固有射影の族」を、実数直線のボレル集合で添字づけた射影値測度 E(⋅)E(\cdot) に置き換えると、固有ベクトルを持たない作用素も A=∫Rλ dE(λ)A=\int_{\mathbb{R}}\lambda\,\mathrm{d}E(\lambda) と「対角化」できます。
  • スペクトル積分 ∫f dE\int f\,\mathrm{d}E は、有界な ff なら有界作用素、非有界な ff なら定義域 {ψ:∫∣f∣2 d⟨ψ,Eψ⟩<∞}\{\psi:\int|f|^2\,\mathrm{d}\langle\psi,E\psi\rangle<\infty\} をもつ閉作用素で、共役は fˉ\bar f の積分です。実数値なら自己共役になります。
  • スペクトル定理: 自己共役作用素 AA にはただ一つの射影値測度が対応し、σ(A)\sigma(A) はその台です。可分なら AA は L2L^2 上の実数値関数の掛け算作用素とユニタリ同値です。証明はケーリー変換で有界なユニタリ作用素に帰着させます。
  • 関数計算 f(A)=∫f dEf(A)=\int f\,\mathrm{d}E により eitAe^{itA}、(A−z)−1(A-z)^{-1}、A\sqrt{A} などが一つの枠で定義され、有界ボレル関数については ∗*-準同型になります。
  • 2 つの自己共役作用素が「可換」であるとは、スペクトル射影どうしが可換であることと定義します。共通の不変な稠密部分空間の上で AB=BAAB=BA が成り立つだけでは足りません(Nelson の反例)。

量子力学の運動量作用素 P=−i d/dxP=-i\,\mathrm{d}/\mathrm{d}x を L2(R)L^2(\mathbb{R}) で考えると、eikxe^{ikx} は PP の「固有関数」のように振る舞いますが、二乗可積分ではないので固有ベクトルではありません。実際 PP には固有値が一つもありません。それでも Fourier 変換 F\mathcal{F} を通すと PP は kk を掛ける作用素に変わり、FPF−1\mathcal{F}P\mathcal{F}^{-1} は「対角行列の連続版」に見えます。

有限次元で A=∑jλjPjA=\sum_j\lambda_jP_j と書けることの価値は、f(A)=∑jf(λj)Pjf(A)=\sum_j f(\lambda_j)P_j によって AA の関数を自由に作れることでした(スペクトル定理)。無限次元で同じことをするには、次の 2 つを片づける必要があります。

  1. 固有ベクトルがなくても使える「固有射影」の一般化。和 ∑j\sum_j を積分に、点 λj\lambda_j をボレル集合に置き換えます。これが射影値測度です。
  2. 定義域の問題。AA が非有界なら f(λ)=λf(\lambda)=\lambda のような非有界関数の積分は全空間では定義できません。どのベクトルの上で積分が収束するかを、測度 ⟨ψ,E(⋅)ψ⟩\langle\psi,E(\cdot)\psi\rangle の言葉で正確に書く必要があります。

この記事では 1 と 2 を順に整え、自己共役拡大 で扱った「自己共役」という条件が、ちょうどスペクトル分解を持つための条件であることを示します。対称なだけの作用素ではこれが成り立たないことも例で確かめます。

H\mathcal{H} は複素 Hilbert 空間で、内積は第 1 変数について共役線形、第 2 変数について線形とします。B(R)\mathcal{B}(\mathbb{R}) は R\mathbb{R} のボレル集合族、B(H)B(\mathcal{H}) は H\mathcal{H} 上の有界作用素全体です。1B\mathbf{1}_B は集合 BB の定義関数です。

作用素 AA の定義域を D(A)D(A)、値域を Ran(A)\mathrm{Ran}(A)、核を Ker(A)\mathrm{Ker}(A)、共役を A∗A^* と書きます。非有界作用素 と 自己共役拡大 で示した次の事実を使います。

  • 閉作用素 TT について、z∈Cz\in\mathbb{C} がレゾルベント集合 ρ(T)\rho(T) に属するとは、T−z:D(T)→HT-z:D(T)\to\mathcal{H} が全単射であることです(このとき閉グラフ定理により (T−z)−1∈B(H)(T-z)^{-1}\in B(\mathcal{H}))。σ(T)=C∖ρ(T)\sigma(T)=\mathbb{C}\setminus\rho(T) です。
  • 稠密に定義された AA が自己共役 A=A∗A=A^* であることと、AA が対称かつ Ran(A+i)=Ran(A−i)=H\mathrm{Ran}(A+i)=\mathrm{Ran}(A-i)=\mathcal{H} であることは同値です。
  • 対称作用素 AA について ∥(A±i)ψ∥2=∥Aψ∥2+∥ψ∥2\|(A\pm i)\psi\|^2=\|A\psi\|^2+\|\psi\|^2 が成り立ちます(展開すると交差項 ±i⟨Aψ,ψ⟩∓i⟨ψ,Aψ⟩\pm i\langle A\psi,\psi\rangle\mp i\langle\psi,A\psi\rangle が対称性で消えます)。
  • 自己共役作用素は真の対称拡大を持ちません。A⊂TA\subset T で TT が対称なら T⊂T∗⊂A∗=AT\subset T^*\subset A^*=A となるからです。

定義 3.1(射影値測度(スペクトル測度))↗

(X,A)(X,\mathcal{A}) を可測空間とする。写像 E:A→B(H)E:\mathcal{A}\to B(\mathcal{H}) が次の 3 条件を満たすとき、EE を H\mathcal{H} 上の射影値測度(スペクトル測度)という。

  1. 各 B∈AB\in\mathcal{A} について E(B)E(B) は直交射影である: E(B)2=E(B)=E(B)∗E(B)^2=E(B)=E(B)^*。
  2. E(∅)=0E(\emptyset)=0、E(X)=1E(X)=1。
  3. (強可算加法性)互いに素な B1,B2,…∈AB_1,B_2,\ldots\in\mathcal{A} と任意の ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について
E(⋃n=1∞Bn)ψ=∑n=1∞E(Bn)ψ(H のノルムで収束)E\Bigl(\bigcup_{n=1}^{\infty}B_n\Bigr)\psi=\sum_{n=1}^{\infty}E(B_n)\psi \quad(\mathcal{H}\text{ のノルムで収束})

X=RX=\mathbb{R} または Rn\mathbb{R}^n で A\mathcal{A} がボレル集合族のとき、EE の台 supp E\mathrm{supp}\,E を、E(U)≠0E(U)\neq0 となる開近傍 UU しか持たない点全体と定める。

条件 3 は作用素ノルムでの収束ではありません。「強収束」とは、ベクトル ψ\psi を一つ固定するごとに、部分和を ψ\psi に作用させた結果が収束することです。作用素ノルムでの収束は、すべての単位ベクトルに対して一様に近づくことを要求するので、はるかに強い条件です。たとえば ℓ2\ell^2 で E({n})E(\{n\}) を第 nn 座標への射影とすると、∑nE({n})\sum_n E(\{n\}) は強収束しますが、部分和と 11 の差のノルムは常に 11 です。

命題 3.2(射影値測度の基本性質)✓

EE を (X,A)(X,\mathcal{A}) 上の射影値測度とする。

  1. 任意の B,C∈AB,C\in\mathcal{A} について E(B)E(C)=E(B∩C)E(B)E(C)=E(B\cap C)。とくにスペクトル射影は互いに可換である。
  2. 各 ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について μψ(B):=⟨ψ,E(B)ψ⟩=∥E(B)ψ∥2\mu_\psi(B):=\langle\psi,E(B)\psi\rangle=\|E(B)\psi\|^2 は全質量 ∥ψ∥2\|\psi\|^2 の有限正測度である。
  3. 各 φ,ψ∈H\varphi,\psi\in\mathcal{H} について μφ,ψ(B):=⟨φ,E(B)ψ⟩\mu_{\varphi,\psi}(B):=\langle\varphi,E(B)\psi\rangle は複素測度であり、偏極恒等式 μφ,ψ=14∑k=03i−kμφ+ikψ\mu_{\varphi,\psi}=\frac14\sum_{k=0}^{3}i^{-k}\mu_{\varphi+i^k\psi} と、全変動の評価 ∣μφ,ψ∣(B)≤μφ(B)1/2μψ(B)1/2|\mu_{\varphi,\psi}|(B)\le\mu_\varphi(B)^{1/2}\mu_\psi(B)^{1/2} が成り立つ。
証明(命題 3.2)
  1. まず B∩C=∅B\cap C=\emptyset の場合を示します。条件 3(有限個の場合)より P=E(B)P=E(B)、Q=E(C)Q=E(C) について P+Q=E(B∪C)P+Q=E(B\cup C) は射影なので、(P+Q)2=P+Q(P+Q)^2=P+Q を展開して PQ+QP=0PQ+QP=0 です。左から PP を掛けると PQ+PQP=0PQ+PQP=0、右から PP を掛けると PQP+QP=0PQP+QP=0 で、両者を比べて PQ=QPPQ=QP、したがって 2PQ=02PQ=0 です。一般の場合は B=(B∖C)∪(B∩C)B=(B\setminus C)\cup(B\cap C)、C=(C∖B)∪(B∩C)C=(C\setminus B)\cup(B\cap C) と互いに素な集合に分け、
E(B)E(C)=(E(B∖C)+E(B∩C))(E(C∖B)+E(B∩C))=E(B∩C)E(B)E(C)=\bigl(E(B\setminus C)+E(B\cap C)\bigr)\bigl(E(C\setminus B)+E(B\cap C)\bigr)=E(B\cap C)

を得ます。展開した 4 項のうち、互いに素な集合の積は先の結果で 00 になり、残るのは E(B∩C)2=E(B∩C)E(B\cap C)^2=E(B\cap C) だけです。

  1. ⟨ψ,E(B)ψ⟩=⟨E(B)ψ,E(B)ψ⟩≥0\langle\psi,E(B)\psi\rangle=\langle E(B)\psi,E(B)\psi\rangle\ge0 は射影の性質 E(B)=E(B)∗E(B)E(B)=E(B)^*E(B) から従います。可算加法性は条件 3 の両辺と ψ\psi の内積を取り、内積の連続性で和と交換すれば得られます。全質量は μψ(X)=⟨ψ,ψ⟩\mu_\psi(X)=\langle\psi,\psi\rangle です。

  2. 偏極恒等式は第 2 変数について線形な内積の一般的な恒等式で、各項が測度なので μφ,ψ\mu_{\varphi,\psi} も複素測度です。全変動の評価は、BB の可測分割 {Bj}\{B_j\} について Cauchy–Schwarz 不等式を 2 回使えば

∑j∣⟨E(Bj)φ,E(Bj)ψ⟩∣≤∑jμφ(Bj)1/2μψ(Bj)1/2≤μφ(B)1/2μψ(B)1/2\sum_j|\langle E(B_j)\varphi,E(B_j)\psi\rangle|\le\sum_j\mu_\varphi(B_j)^{1/2}\mu_\psi(B_j)^{1/2}\le\mu_\varphi(B)^{1/2}\mu_\psi(B)^{1/2}

となり、分割について上限を取って得られます。

例 3.3(掛け算型と離散型の射影値測度)

(a) μ\mu を R\mathbb{R} 上の σ\sigma-有限ボレル測度、H=L2(R,μ)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R},\mu) とし、E(B)E(B) を 1B\mathbf{1}_B を掛ける作用素とします。条件 1, 2 は明らかで、条件 3 は ∣1∪n≤NBng−1∪Bng∣2≤∣g∣2|\mathbf{1}_{\cup_{n\le N}B_n}g-\mathbf{1}_{\cup B_n}g|^2\le|g|^2 に優収束定理を使えば出ます。このとき μg(B)=∫B∣g∣2 dμ\mu_g(B)=\int_B|g|^2\,\mathrm{d}\mu です。

(b) {en}\{e_n\} を H\mathcal{H} の正規直交基底、λn∈R\lambda_n\in\mathbb{R} とし、E(B)=∑n:λn∈B⟨en,⋅⟩enE(B)=\sum_{n:\lambda_n\in B}\langle e_n,\cdot\rangle e_n と置くと射影値測度になり、μψ=∑n∣⟨en,ψ⟩∣2δλn\mu_\psi=\sum_n|\langle e_n,\psi\rangle|^2\delta_{\lambda_n} です。台は {λn}\{\lambda_n\} の閉包です。λn\lambda_n が [0,1][0,1] の有理数を重複なく並べたものなら、どの点も原子ではない無理数 λ\lambda も台に含まれます。

Bb(X)\mathcal{B}_b(X) を XX 上の有界な可測関数 X→CX\to\mathbb{C} 全体とし、上限ノルム ∥f∥∞=sup⁡x∣f(x)∣\|f\|_\infty=\sup_x|f(x)| を入れます。単関数 s=∑j=1mcj1Bjs=\sum_{j=1}^m c_j\mathbf{1}_{B_j}(BjB_j は互いに素)に対して I(s)=∑jcjE(Bj)I(s)=\sum_j c_jE(B_j) と置くと、命題 3.2 の 1 により

∥I(s)ψ∥2=∑j∣cj∣2∥E(Bj)ψ∥2=∫X∣s∣2 dμψ≤∥s∥∞2∥ψ∥2\|I(s)\psi\|^2=\sum_j|c_j|^2\|E(B_j)\psi\|^2=\int_X|s|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi\le\|s\|_\infty^2\|\psi\|^2

です。有界可測関数は単関数で一様近似できるので、II は ∥I(f)∥≤∥f∥∞\|I(f)\|\le\|f\|_\infty を保って Bb(X)\mathcal{B}_b(X) 全体に一意に延長できます。この I(f)I(f) を ∫Xf dE\int_X f\,\mathrm{d}E と書きます。

命題 4.1(有界関数のスペクトル積分)✓

f,g∈Bb(X)f,g\in\mathcal{B}_b(X)、φ,ψ∈H\varphi,\psi\in\mathcal{H} について次が成り立つ。

  1. I(fg)=I(f)I(g)I(fg)=I(f)I(g)、I(fˉ)=I(f)∗I(\bar f)=I(f)^*、I(1)=1I(1)=1、II は線形。
  2. ⟨φ,I(f)ψ⟩=∫Xf dμφ,ψ\langle\varphi,I(f)\psi\rangle=\int_X f\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi}、∥I(f)ψ∥2=∫X∣f∣2 dμψ\|I(f)\psi\|^2=\int_X|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi。
  3. μI(g)ψ(B)=∫B∣g∣2 dμψ\mu_{I(g)\psi}(B)=\int_B|g|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi。
  4. fn∈Bb(X)f_n\in\mathcal{B}_b(X) が各点で ff に収束し sup⁡n∥fn∥∞<∞\sup_n\|f_n\|_\infty<\infty ならば、I(fn)→I(f)I(f_n)\to I(f) は強収束する。
証明(命題 4.1)

1 と 2 は単関数について 命題 3.2 から直接計算でき、両辺とも ∥⋅∥∞\|\cdot\|_\infty について連続なので一般の場合に移ります。たとえば積については E(B)E(C)=E(B∩C)E(B)E(C)=E(B\cap C) から I(s)I(t)=I(st)I(s)I(t)=I(st) がわかります。3 は 1 と 2 から μI(g)ψ(B)=∥I(1B)I(g)ψ∥2=∥I(1Bg)ψ∥2=∫B∣g∣2 dμψ\mu_{I(g)\psi}(B)=\|I(\mathbf{1}_B)I(g)\psi\|^2=\|I(\mathbf{1}_Bg)\psi\|^2=\int_B|g|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi です。4 は 2 により ∥(I(fn)−I(f))ψ∥2=∫∣fn−f∣2 dμψ\|(I(f_n)-I(f))\psi\|^2=\int|f_n-f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi で、被積分関数は有界な定数で抑えられ μψ\mu_\psi は有限測度なので、優収束定理で 00 に収束します。

非有界な関数 ff をそのまま積分することはできないので、ここでは ∣f∣≤n|f|\le n の部分だけを残した有界な関数 fnf_n で近似し、n→∞n\to\infty とした極限で ff の積分を定めます。極限が存在するベクトルの全体が、次に現れる定義域 DfD_f です。

定義 4.2(非有界関数のスペクトル積分)↗

f:X→Cf:X\to\mathbb{C} を可測関数とし、

Df={ψ∈H:∫X∣f∣2 dμψ<∞}D_f=\Bigl\{\psi\in\mathcal{H}:\int_X|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi<\infty\Bigr\}

と置く。Bn={x:∣f(x)∣≤n}B_n=\{x:|f(x)|\le n\}、fn=f1Bn∈Bb(X)f_n=f\mathbf{1}_{B_n}\in\mathcal{B}_b(X) とし、ψ∈Df\psi\in D_f に対して

I(f)ψ=∫Xf dE ψ:=lim⁡n→∞I(fn)ψI(f)\psi=\int_X f\,\mathrm{d}E\,\psi:=\lim_{n\to\infty}I(f_n)\psi

と定める。

極限が存在することは 命題 4.1 の 2 からわかります。m<nm\lt n なら ∥I(fn)ψ−I(fm)ψ∥2=∫Bn∖Bm∣f∣2 dμψ\|I(f_n)\psi-I(f_m)\psi\|^2=\int_{B_n\setminus B_m}|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi で、∫∣f∣2 dμψ<∞\int|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi<\infty なので Cauchy 列です。同じ計算から ∥I(f)ψ∥2=∫∣f∣2 dμψ\|I(f)\psi\|^2=\int|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi が成り立ちます。

定理 4.3(スペクトル積分の基本定理)✓

EE を (X,A)(X,\mathcal{A}) 上の射影値測度、f:X→Cf:X\to\mathbb{C} を可測関数とする。I(f)I(f) を 定義 4.2 のとおり定めると次が成り立つ。

  1. D(I(f))=DfD(I(f))=D_f は H\mathcal{H} で稠密であり、∥I(f)ψ∥2=∫X∣f∣2 dμψ\|I(f)\psi\|^2=\int_X|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi(ψ∈Df\psi\in D_f)。
  2. I(f)∗=I(fˉ)I(f)^*=I(\bar f)。とくに I(f)I(f) は閉作用素であり、ff が実数値なら I(f)I(f) は自己共役である。
  3. g∈Bb(X)g\in\mathcal{B}_b(X) ならば I(f)I(g)⊂I(fg)I(f)I(g)\subset I(fg) かつ I(g)I(f)⊂I(gf)I(g)I(f)\subset I(gf) であり、D(I(f)I(g))=DfgD(I(f)I(g))=D_{fg} である。
  4. ff が Bb(X)\mathcal{B}_b(X) に属するなら、この I(f)I(f) は 4.1 節のものと一致する。
証明(定理 4.3)

記号は 定義 4.2 のもの(BnB_n, fnf_n)を使い、En=E(Bn)E_n=E(B_n) と置きます。

1. 任意の ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について、EnψE_n\psi は DfD_f に属します。実際 命題 4.1 の 3 で g=1Bng=\mathbf{1}_{B_n} とすると μEnψ=1Bnμψ\mu_{E_n\psi}=\mathbf{1}_{B_n}\mu_\psi なので ∫∣f∣2 dμEnψ≤n2∥ψ∥2\int|f|^2\,\mathrm{d}\mu_{E_n\psi}\le n^2\|\psi\|^2 です。Bn↑XB_n\uparrow X なので強可算加法性から Enψ→ψE_n\psi\to\psi となり、DfD_f は稠密です。ノルムの等式は定義の直後に示しました。

2. まず I(fˉ)⊂I(f)∗I(\bar f)\subset I(f)^* を示します。φ,ψ∈Df\varphi,\psi\in D_f(Dfˉ=DfD_{\bar f}=D_f に注意)について、有界な場合の I(fˉn)=I(fn)∗I(\bar f_n)=I(f_n)^* から

⟨I(fˉ)φ,ψ⟩=lim⁡n⟨I(fˉn)φ,ψ⟩=lim⁡n⟨φ,I(fn)ψ⟩=⟨φ,I(f)ψ⟩\langle I(\bar f)\varphi,\psi\rangle=\lim_n\langle I(\bar f_n)\varphi,\psi\rangle=\lim_n\langle\varphi,I(f_n)\psi\rangle=\langle\varphi,I(f)\psi\rangle

です。次に逆の包含を示します。φ∈D(I(f)∗)\varphi\in D(I(f)^*) と ψ∈H\psi\in\mathcal{H} を取ります。Enψ∈DfE_n\psi\in D_f で I(f)Enψ=I(fn)ψI(f)E_n\psi=I(f_n)\psi です(下の 3 を g=1Bng=\mathbf{1}_{B_n} として使います。3 の証明は 1 と 4.1 節の性質だけを使うので、循環はありません)。したがって

⟨EnI(f)∗φ,ψ⟩=⟨I(f)∗φ,Enψ⟩=⟨φ,I(fn)ψ⟩=⟨I(fˉn)φ,ψ⟩\langle E_nI(f)^*\varphi,\psi\rangle=\langle I(f)^*\varphi,E_n\psi\rangle=\langle\varphi,I(f_n)\psi\rangle=\langle I(\bar f_n)\varphi,\psi\rangle

となり、EnI(f)∗φ=I(fˉn)φE_nI(f)^*\varphi=I(\bar f_n)\varphi を得ます。よって

∫Bn∣f∣2 dμφ=∥I(fˉn)φ∥2=∥EnI(f)∗φ∥2≤∥I(f)∗φ∥2\int_{B_n}|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\varphi=\|I(\bar f_n)\varphi\|^2=\|E_nI(f)^*\varphi\|^2\le\|I(f)^*\varphi\|^2

で、単調収束定理から ∫∣f∣2 dμφ<∞\int|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\varphi<\infty、すなわち φ∈Df\varphi\in D_f です。さらに I(fˉ)φ=lim⁡nI(fˉn)φ=lim⁡nEnI(f)∗φ=I(f)∗φI(\bar f)\varphi=\lim_nI(\bar f_n)\varphi=\lim_nE_nI(f)^*\varphi=I(f)^*\varphi です。以上で I(f)∗=I(fˉ)I(f)^*=I(\bar f) が示せました。

共役作用素は常に閉なので、I(f)=I(fˉˉ)=I(fˉ)∗I(f)=I(\bar{\bar f})=I(\bar f)^* は閉です。ff が実数値なら I(f)∗=I(fˉ)=I(f)I(f)^*=I(\bar f)=I(f) です。

3. ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について、命題 4.1 の 3 から ∫∣f∣2 dμI(g)ψ=∫∣fg∣2 dμψ\int|f|^2\,\mathrm{d}\mu_{I(g)\psi}=\int|fg|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi なので、I(g)ψ∈DfI(g)\psi\in D_f と ψ∈Dfg\psi\in D_{fg} は同値です。このとき I(f)I(g)ψ=lim⁡nI(fn)I(g)ψ=lim⁡nI(fng)ψ=I(fg)ψI(f)I(g)\psi=\lim_nI(f_n)I(g)\psi=\lim_nI(f_ng)\psi=I(fg)\psi です(最後の等号は fgfg の切断 (fg)1{∣fg∣≤n}(fg)\mathbf{1}_{\{|fg|\le n\}} と fngf_ng がともに μψ\mu_\psi-二乗可積分な fgfg に L2(μψ)L^2(\mu_\psi) で収束することから従います)。I(g)I(f)⊂I(gf)I(g)I(f)\subset I(gf) は ψ∈Df\psi\in D_f で I(g)I(fn)ψ=I(gfn)ψI(g)I(f_n)\psi=I(gf_n)\psi の極限を取れば得られます。

4. ff が有界なら Df=HD_f=\mathcal{H} で、命題 4.1 の 4 により I(fn)→I(f)I(f_n)\to I(f) が強収束するので一致します。

この定理の 2 は、スペクトル積分で書ける作用素が自動的に閉であり、実数値関数なら自己共役であることを言っています。逆に言えば、自己共役でない作用素はこの形には書けません。

例 4.4(対称だが射影値測度を持たない作用素)

H=L2(0,∞)\mathcal{H}=L^2(0,\infty) で、P0=−i d/dxP_0=-i\,\mathrm{d}/\mathrm{d}x を定義域 {u∈H1(0,∞):u(0)=0}\{u\in H^1(0,\infty):u(0)=0\} で考えます。P0P_0 は閉対称作用素で、P0∗P_0^* は境界条件なしの H1(0,∞)H^1(0,\infty) 上の −i d/dx-i\,\mathrm{d}/\mathrm{d}x です。−iu′=iu-iu'=iu の解 e−xe^{-x} は L2L^2 に入りますが、−iu′=−iu-iu'=-iu の解 exe^x は入らないので、不足指数は (1,0)(1,0) です。したがって P0P_0 は自己共役拡大を持ちません。

もし実数直線上の射影値測度 EE で P0=∫λ dE(λ)P_0=\int\lambda\,\mathrm{d}E(\lambda) と書けたなら、定理 4.3 の 2 から P0P_0 は自己共役になるはずです。よって P0P_0 にはどんな射影値測度も対応しません。「対称」は「固有値が実数」という有限次元の条件の無限次元版としては弱すぎ、スペクトル分解を保証するのは「自己共役」だけです。

補題 5.1(ケーリー変換)✓

AA を H\mathcal{H} 上の自己共役作用素とする。U=(A−i)(A+i)−1U=(A-i)(A+i)^{-1} はユニタリ作用素であり、U=1−2i(A+i)−1U=1-2i(A+i)^{-1}、1∉σp(U)1\notin\sigma_{\mathrm{p}}(U)(すなわち Ker(U−1)={0}\mathrm{Ker}(U-1)=\{0\})を満たす。さらに D(A)=Ran(1−U)D(A)=\mathrm{Ran}(1-U) で、ψ=(1−U)φ\psi=(1-U)\varphi に対して Aψ=i(1+U)φA\psi=i(1+U)\varphi である。

証明(補題 5.1)

§2 で確認したとおり A±i:D(A)→HA\pm i:D(A)\to\mathcal{H} は全射で、∥(A±i)ψ∥2=∥Aψ∥2+∥ψ∥2\|(A\pm i)\psi\|^2=\|A\psi\|^2+\|\psi\|^2 から単射でもあります。よって UU は H\mathcal{H} から H\mathcal{H} への全単射で、ψ∈D(A)\psi\in D(A) に対し U(A+i)ψ=(A−i)ψU(A+i)\psi=(A-i)\psi ですから ∥U(A+i)ψ∥=∥(A+i)ψ∥\|U(A+i)\psi\|=\|(A+i)\psi\|、すなわち UU は等長です。全射な等長作用素はユニタリです。

(A−i)(A+i)−1=(A+i−2i)(A+i)−1=1−2i(A+i)−1(A-i)(A+i)^{-1}=(A+i-2i)(A+i)^{-1}=1-2i(A+i)^{-1} です。Uφ=φU\varphi=\varphi なら (A+i)−1φ=0(A+i)^{-1}\varphi=0 なので φ=0\varphi=0 です。最後に φ∈H\varphi\in\mathcal{H} に対して ψ=(A+i)−1φ\psi=(A+i)^{-1}\varphi と置くと (1−U)φ=2iψ(1-U)\varphi=2i\psi、(1+U)φ=2φ−2iψ=2Aψ(1+U)\varphi=2\varphi-2i\psi=2A\psi なので、(1−U)φ(1-U)\varphi を改めて ψ\psi と書けば Aψ=i(1+U)φA\psi=i(1+U)\varphi です。(A+i)−1(A+i)^{-1} の値域は D(A)D(A) なので D(A)=Ran(1−U)D(A)=\mathrm{Ran}(1-U) です。

ケーリー変換は実数直線を単位円から 1 点を除いたものに写す一次分数変換 λ↦(λ−i)/(λ+i)\lambda\mapsto(\lambda-i)/(\lambda+i) の作用素版で、逆写像は z↦κ(z)=i(1+z)/(1−z)z\mapsto\kappa(z)=i(1+z)/(1-z) です。非有界な AA の問題を、有界なユニタリ作用素の問題に移すのがこの補題の役割です。

−101−∞+∞ℝ ⊃ σ(A)i(λ = −1)−1(λ = 0)−i(λ = 1)1(λ → ±∞)単位円 ⊃ σ(U)
ケーリー変換 λ ↦ (λ − i)/(λ + i) による実数直線と単位円の対応。0 は −1 に、1 は −i に、−1 は i に写り、λ → ±∞ はどちらも除かれた点 1 に近づく。A が非有界であることは、U のスペクトルが点 1 に集積することに対応する。

非有界な AA のスペクトル定理は、次の 5.2 節でこの UU のスペクトル定理に帰着させます。そこで先に、有界なユニタリ作用素の場合を証明しておきます。T={z∈C:∣z∣=1}\mathbb{T}=\{z\in\mathbb{C}:|z|=1\} は単位円で、C(T)C(\mathbb{T}) は T\mathbb{T} 上の複素数値連続関数の全体に上限ノルムを入れたものです。まず、T\mathbb{T} 上の測度が連続関数の積分で決まることを確認します。

補題 5.2(単位円上の測度は連続関数の積分で決まる)✓

ν,ν′\nu,\nu' を T\mathbb{T} 上の複素数値ボレル測度で、それぞれ有限個の有限な正のボレル測度の複素係数の一次結合として書けるものとする。すべての f∈C(T)f\in C(\mathbb{T}) について ∫Tf dν=∫Tf dν′\int_{\mathbb{T}}f\,\mathrm{d}\nu=\int_{\mathbb{T}}f\,\mathrm{d}\nu' ならば ν=ν′\nu=\nu' である。

証明(補題 5.2)

ν−ν′\nu-\nu' の実部は、有限な正の測度の実係数の一次結合なので、係数の正負で分けて α−β\alpha-\beta(α,β\alpha,\beta は有限な正のボレル測度)と書けます。実数値の f∈C(T)f\in C(\mathbb{T}) について仮定の等式の実部を取ると ∫f dα=∫f dβ\int f\,\mathrm{d}\alpha=\int f\,\mathrm{d}\beta です。T\mathbb{T} は第二可算なコンパクト Hausdorff 空間なので、定理 5.3[Radon 測度と Riesz–Markov–角谷の表現定理] により α,β\alpha,\beta はともに Radon 測度で、f↦∫f dαf\mapsto\int f\,\mathrm{d}\alpha は C(T)C(\mathbb{T}) 上の正の線形汎関数です。定理 4.1[Radon 測度と Riesz–Markov–角谷の表現定理] の一意性から α=β\alpha=\beta です。虚部についても同じで、ν=ν′\nu=\nu' を得ます。

次の定理の証明は長いので、流れを先に述べます。(1) 三角多項式 p(z)p(z) に UU を代入して p(U)p(U) を作り、(2) それを連続関数に延ばし、(3) 各ベクトルに対して f↦⟨ψ,f(U)ψ⟩f\mapsto\langle\psi,f(U)\psi\rangle を測度で表し、(4) その測度から有界ボレル関数、さらに射影値測度 FF を組み立て、(5) FF が一意であることを確かめます。各段の冒頭が、この 5 つのどれにあたるかを見ながら読んでください。

定理 5.3(ユニタリ作用素のスペクトル定理)✓

UU を Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上のユニタリ作用素とする。

  1. T\mathbb{T} のボレル集合族上の射影値測度 FF がただ一つ存在して U=∫Tz dF(z)U=\int_{\mathbb{T}}z\,\mathrm{d}F(z) が成り立つ。
  2. 有界作用素 CC について、CC がすべての F(B)F(B) と可換であることと、CC が UU および U∗U^* と可換であることは同値である。
証明(定理 5.3)

第 1 段:三角多項式の代入. P\mathcal{P} を T\mathbb{T} 上の関数 p(z)=∑∣k∣≤nckzkp(z)=\sum_{|k|\le n}c_kz^k(ck∈Cc_k\in\mathbb{C})の全体とします。係数は ck=12π∫02πp(eiθ)e−ikθ dθc_k=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}p(e^{i\theta})e^{-ik\theta}\,\mathrm{d}\theta で pp から決まるので、p(U):=∑kckUkp(U):=\sum_kc_kU^k(U−k=(U∗)kU^{-k}=(U^*)^k)は矛盾なく定まります。UjUk=Uj+kU^jU^k=U^{j+k} から (pq)(U)=p(U)q(U)(pq)(U)=p(U)q(U)、T\mathbb{T} 上で zˉ=z−1\bar z=z^{-1} なので pˉ(z)=∑kcˉkz−k\bar p(z)=\sum_k\bar c_kz^{-k} で pˉ(U)=p(U)∗\bar p(U)=p(U)^* です。

p∈Pp\in\mathcal{P} について ∥p(U)∥≤∥p∥∞\|p(U)\|\le\|p\|_\infty を示します。r:=∥p∥∞2−pˉpr:=\|p\|_\infty^2-\bar pp は P\mathcal{P} に属し T\mathbb{T} 上で 00 以上なので、定理 4.1[Toeplitz 作用素と Szegő の極限定理] により多項式 qq で r=qˉqr=\bar qq(T\mathbb{T} 上)となるものがあります。よって

∥p∥∞2∥ψ∥2−∥p(U)ψ∥2=⟨ψ,r(U)ψ⟩=⟨ψ,q(U)∗q(U)ψ⟩=∥q(U)ψ∥2≥0\|p\|_\infty^2\|\psi\|^2-\|p(U)\psi\|^2=\langle\psi,r(U)\psi\rangle=\langle\psi,q(U)^*q(U)\psi\rangle=\|q(U)\psi\|^2\ge0

です。

第 2 段:連続関数への延長. P\mathcal{P} は定数を含み、積と複素共役で閉じ、zz が T\mathbb{T} の点を分離するので、定理 4.7[Arzelà–Ascoli と Stone–Weierstrass] により C(T)C(\mathbb{T}) で稠密です。第 1 段の評価から p↦p(U)p\mapsto p(U) は ∥Φ0(f)∥≤∥f∥∞\|\Phi_0(f)\|\le\|f\|_\infty を満たす線形写像 Φ0:C(T)→B(H)\Phi_0:C(\mathbb{T})\to B(\mathcal{H}) に一意に延長され、極限を取れば Φ0(fg)=Φ0(f)Φ0(g)\Phi_0(fg)=\Phi_0(f)\Phi_0(g)、Φ0(fˉ)=Φ0(f)∗\Phi_0(\bar f)=\Phi_0(f)^*、Φ0(1)=1\Phi_0(1)=1、Φ0(z)=U\Phi_0(z)=U が成り立ちます。とくに実数値の ff について Φ0(f)\Phi_0(f) は自己共役で、f≥0f\ge0 なら g=f∈C(T)g=\sqrt f\in C(\mathbb{T}) について ⟨ψ,Φ0(f)ψ⟩=∥Φ0(g)ψ∥2≥0\langle\psi,\Phi_0(f)\psi\rangle=\|\Phi_0(g)\psi\|^2\ge0 です。

第 3 段:測度. ψ∈H\psi\in\mathcal{H} を固定すると、実数値の f∈C(T)f\in C(\mathbb{T}) に ⟨ψ,Φ0(f)ψ⟩∈R\langle\psi,\Phi_0(f)\psi\rangle\in\mathbb{R} を対応させる写像は正の線形汎関数です。定理 4.1[Radon 測度と Riesz–Markov–角谷の表現定理](T\mathbb{T} はコンパクトなので Cc(T)=C(T)C_c(\mathbb{T})=C(\mathbb{T}))により、有限な正のボレル測度 μψ\mu_\psi で ⟨ψ,Φ0(f)ψ⟩=∫f dμψ\langle\psi,\Phi_0(f)\psi\rangle=\int f\,\mathrm{d}\mu_\psi となるものがあり、複素数値の ff にも線形性でこの等式が延びます。μψ(T)=∥ψ∥2\mu_\psi(\mathbb{T})=\|\psi\|^2 です。偏極して

μφ,ψ:=14∑k=03i−kμφ+ikψ\mu_{\varphi,\psi}:=\frac14\sum_{k=0}^{3}i^{-k}\mu_{\varphi+i^k\psi}

と置くと、内積が第 2 変数について線形であることから ∫f dμφ,ψ=⟨φ,Φ0(f)ψ⟩\int f\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi}=\langle\varphi,\Phi_0(f)\psi\rangle です(⟨φ+ikψ,T(φ+ikψ)⟩\langle\varphi+i^k\psi,T(\varphi+i^k\psi)\rangle に i−ki^{-k} を掛けて kk について和を取ると 4⟨φ,Tψ⟩4\langle\varphi,T\psi\rangle だけが残ります)。φ=ψ\varphi=\psi では μψ,ψ=μψ\mu_{\psi,\psi}=\mu_\psi です。補題 5.2 により、次の 3 つの等式は連続関数の積分を比べるだけで確かめられます(どの測度も有限な正の測度の一次結合です)。

  • μφ,ψ\mu_{\varphi,\psi} は ψ\psi について線形、φ\varphi について共役線形である。
  • μψ,φ=μφ,ψ‾\mu_{\psi,\varphi}=\overline{\mu_{\varphi,\psi}}(∫f dμψ,φ=⟨ψ,Φ0(f)φ⟩=⟨φ,Φ0(fˉ)ψ⟩‾=∫fˉ dμφ,ψ‾\int f\,\mathrm{d}\mu_{\psi,\varphi}=\langle\psi,\Phi_0(f)\varphi\rangle=\overline{\langle\varphi,\Phi_0(\bar f)\psi\rangle}=\overline{\int\bar f\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi}} による)。
  • g∈C(T)g\in C(\mathbb{T}) について μφ,Φ0(g)ψ=g μφ,ψ\mu_{\varphi,\Phi_0(g)\psi}=g\,\mu_{\varphi,\psi}。ここで g μg\,\mu は B↦∫Bg dμB\mapsto\int_Bg\,\mathrm{d}\mu を表す(∫f dμφ,Φ0(g)ψ=⟨φ,Φ0(fg)ψ⟩=∫fg dμφ,ψ\int f\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\Phi_0(g)\psi}=\langle\varphi,\Phi_0(fg)\psi\rangle=\int fg\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi} による)。

第 4 段:有界ボレル関数への延長. hh を T\mathbb{T} 上の有界ボレル関数とします。bh(φ,ψ):=∫h dμφ,ψb_h(\varphi,\psi):=\int h\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi} は第 3 段の 1 つ目により半双線形で、偏極の式から ∣bh(φ,ψ)∣≤14∥h∥∞∑k∥φ+ikψ∥2=∥h∥∞(∥φ∥2+∥ψ∥2)|b_h(\varphi,\psi)|\le\frac14\|h\|_\infty\sum_k\|\varphi+i^k\psi\|^2=\|h\|_\infty(\|\varphi\|^2+\|\psi\|^2) です。∥φ∥,∥ψ∥≤1\|\varphi\|,\|\psi\|\le1 では ∣bh∣≤2∥h∥∞|b_h|\le2\|h\|_\infty なので、ψ\psi を固定するごとに φ↦bh(φ,ψ)‾\varphi\mapsto\overline{b_h(\varphi,\psi)} はノルム 2∥h∥∞∥ψ∥2\|h\|_\infty\|\psi\| 以下の有界線形汎関数です。定理 4.2[Hilbert 空間の基礎] により bh(φ,ψ)‾=⟨η,φ⟩\overline{b_h(\varphi,\psi)}=\langle\eta,\varphi\rangle(すべての φ\varphi)となる η\eta がただ一つあるので、Φ(h)ψ:=η\Phi(h)\psi:=\eta と置けば ⟨φ,Φ(h)ψ⟩=bh(φ,ψ)\langle\varphi,\Phi(h)\psi\rangle=b_h(\varphi,\psi) です。一意性と bhb_h の ψ\psi についての線形性から Φ(h)\Phi(h) は線形で、∥Φ(h)ψ∥≤2∥h∥∞∥ψ∥\|\Phi(h)\psi\|\le2\|h\|_\infty\|\psi\| なので有界作用素です。hh が連続なら Φ(h)=Φ0(h)\Phi(h)=\Phi_0(h) です。Φ\Phi は線形で、第 3 段の 2 つ目から Φ(hˉ)=Φ(h)∗\Phi(\bar h)=\Phi(h)^* です。

乗法性を示します。第 3 段の 3 つ目から、g∈C(T)g\in C(\mathbb{T}) について

⟨φ,Φ(h)Φ0(g)ψ⟩=∫h dμφ,Φ0(g)ψ=∫hg dμφ,ψ=⟨φ,Φ(hg)ψ⟩\langle\varphi,\Phi(h)\Phi_0(g)\psi\rangle=\int h\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\Phi_0(g)\psi}=\int hg\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi}=\langle\varphi,\Phi(hg)\psi\rangle

で、Φ(h)Φ0(g)=Φ(hg)\Phi(h)\Phi_0(g)=\Phi(hg) です。これを使うと、g∈C(T)g\in C(\mathbb{T}) について ∫g dμΦ(hˉ)φ,ψ=⟨Φ(h)∗φ,Φ0(g)ψ⟩=⟨φ,Φ(hg)ψ⟩=∫gh dμφ,ψ\int g\,\mathrm{d}\mu_{\Phi(\bar h)\varphi,\psi}=\langle\Phi(h)^*\varphi,\Phi_0(g)\psi\rangle=\langle\varphi,\Phi(hg)\psi\rangle=\int gh\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi} なので、補題 5.2 により μΦ(hˉ)φ,ψ=h μφ,ψ\mu_{\Phi(\bar h)\varphi,\psi}=h\,\mu_{\varphi,\psi} です(hh は 4 つの非負有界ボレル関数の一次結合なので右辺も条件を満たします)。よって有界ボレル関数 kk について

⟨φ,Φ(h)Φ(k)ψ⟩=⟨Φ(hˉ)φ,Φ(k)ψ⟩=∫k dμΦ(hˉ)φ,ψ=∫kh dμφ,ψ=⟨φ,Φ(hk)ψ⟩\langle\varphi,\Phi(h)\Phi(k)\psi\rangle=\langle\Phi(\bar h)\varphi,\Phi(k)\psi\rangle=\int k\,\mathrm{d}\mu_{\Phi(\bar h)\varphi,\psi}=\int kh\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi}=\langle\varphi,\Phi(hk)\psi\rangle

となり、Φ(hk)=Φ(h)Φ(k)\Phi(hk)=\Phi(h)\Phi(k) です。とくに ∥Φ(h)ψ∥2=⟨ψ,Φ(∣h∣2)ψ⟩=∫∣h∣2 dμψ≤∥h∥∞2∥ψ∥2\|\Phi(h)\psi\|^2=\langle\psi,\Phi(|h|^2)\psi\rangle=\int|h|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi\le\|h\|_\infty^2\|\psi\|^2 です。

第 5 段:射影値測度. F(B):=Φ(1B)F(B):=\Phi(\mathbf{1}_B) と置きます。乗法性と Φ(hˉ)=Φ(h)∗\Phi(\bar h)=\Phi(h)^* から F(B)2=F(B)=F(B)∗F(B)^2=F(B)=F(B)^*、また F(∅)=0F(\emptyset)=0、F(T)=Φ0(1)=1F(\mathbb{T})=\Phi_0(1)=1 です。B=⨆nBnB=\bigsqcup_nB_n なら、RN=⋃n>NBnR_N=\bigcup_{n\gt N}B_n について Φ\Phi の線形性から F(B)−∑n≤NF(Bn)=F(RN)F(B)-\sum_{n\le N}F(B_n)=F(R_N) で、

∥F(RN)ψ∥2=⟨ψ,F(RN)ψ⟩=μψ(RN)→0(N→∞)\|F(R_N)\psi\|^2=\langle\psi,F(R_N)\psi\rangle=\mu_\psi(R_N)\to0\quad(N\to\infty)

です(μψ\mu_\psi は有限測度で RN↓∅R_N\downarrow\emptyset)。よって FF は射影値測度です。単関数 ss については Φ\Phi の線形性から ∫s dF=Φ(s)\int s\,\mathrm{d}F=\Phi(s) で、両辺とも ∥⋅∥∞\|\cdot\|_\infty について連続(4.1 節と第 4 段の評価)、有界ボレル関数は単関数の一様極限なので、すべての有界ボレル関数 hh で ∫h dF=Φ(h)\int h\,\mathrm{d}F=\Phi(h) です。とくに ∫z dF(z)=Φ0(z)=U\int z\,\mathrm{d}F(z)=\Phi_0(z)=U です。

第 6 段:一意性. F′F' を ∫z dF′=U\int z\,\mathrm{d}F'=U を満たす T\mathbb{T} 上の射影値測度とし、I′I' をその積分とします。命題 4.1 の 1 より I′I' は ∗*-準同型なので、zˉ=z−1\bar z=z^{-1} と合わせて I′(zk)=UkI'(z^k)=U^k(k∈Zk\in\mathbb{Z})、したがって I′(p)=p(U)I'(p)=p(U)(p∈Pp\in\mathcal{P})です。∥I′(f)∥≤∥f∥∞\|I'(f)\|\le\|f\|_\infty と第 2 段の稠密性から I′(f)=Φ0(f)I'(f)=\Phi_0(f)(f∈C(T)f\in C(\mathbb{T}))です。命題 4.1 の 2 より ∫f d⟨ψ,F′(⋅)ψ⟩=⟨ψ,Φ0(f)ψ⟩=∫f dμψ\int f\,\mathrm{d}\langle\psi,F'(\cdot)\psi\rangle=\langle\psi,\Phi_0(f)\psi\rangle=\int f\,\mathrm{d}\mu_\psi なので、補題 5.2 により ⟨ψ,F′(B)ψ⟩=μψ(B)=⟨ψ,F(B)ψ⟩\langle\psi,F'(B)\psi\rangle=\mu_\psi(B)=\langle\psi,F(B)\psi\rangle がすべての ψ\psi で成り立ち、偏極により F′(B)=F(B)F'(B)=F(B) です。

2 の証明. CC が UU と U∗U^* と可換なら、すべての p(U)p(U) と可換で、ノルム極限によりすべての Φ0(f)\Phi_0(f) と可換です。すると f∈C(T)f\in C(\mathbb{T}) について ∫f dμφ,Cψ=⟨φ,CΦ0(f)ψ⟩=∫f dμC∗φ,ψ\int f\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,C\psi}=\langle\varphi,C\Phi_0(f)\psi\rangle=\int f\,\mathrm{d}\mu_{C^*\varphi,\psi} なので、補題 5.2 により μφ,Cψ=μC∗φ,ψ\mu_{\varphi,C\psi}=\mu_{C^*\varphi,\psi} です。BB で評価すると ⟨φ,F(B)Cψ⟩=⟨φ,CF(B)ψ⟩\langle\varphi,F(B)C\psi\rangle=\langle\varphi,CF(B)\psi\rangle で、CF(B)=F(B)CCF(B)=F(B)C です。逆に CC がすべての F(B)F(B) と可換なら、単関数の積分と、その一様極限である ∫z dF=U\int z\,\mathrm{d}F=U、∫zˉ dF=U∗\int\bar z\,\mathrm{d}F=U^* とも可換です。

注意 5.4(ユニタリの場合の証明の筋道と一般化)

定理 5.3 の証明は、三角多項式の代入(第 1 段)を連続関数へ延ばし(連続関数計算)、Riesz–Markov の表現定理で測度を作り、偏極と有界ボレル関数への延長で射影値測度を組み立てる、という筋道でした。正値性の鍵は Fejér–Riesz の定理で、T\mathbb{T} 上で非負の三角多項式が多項式の絶対値の 2 乗に書けることが、p(U)p(U) のノルムが ∥p∥∞\|p\|_\infty を超えないことを保証しています。同じ議論は有界な正規作用素一般に通用し、その場合は連続関数計算を C∗C^*-代数の理論(C*-代数の基礎)から取ります。有界な正規作用素の場合は Reed–Simon 第 I 巻第 VII 章、Schmüdgen 第 4 章にあります。

定理 5.5(スペクトル定理(射影値測度版))✓

AA を Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の自己共役作用素とする。このとき B(R)\mathcal{B}(\mathbb{R}) 上の射影値測度 EAE_A がただ一つ存在して

A=∫Rλ dEA(λ),D(A)={ψ∈H:∫Rλ2 d⟨ψ,EA(λ)ψ⟩<∞}A=\int_{\mathbb{R}}\lambda\,\mathrm{d}E_A(\lambda),\qquad D(A)=\Bigl\{\psi\in\mathcal{H}:\int_{\mathbb{R}}\lambda^2\,\mathrm{d}\langle\psi,E_A(\lambda)\psi\rangle<\infty\Bigr\}

が成り立つ。EAE_A を AA のスペクトル測度という。

証明(定理 5.5)

存在. 補題 5.1 の UU に 定理 5.3 の 1 を適用し、T\mathbb{T} 上の射影値測度 FF を得ます。F({1})F(\{1\}) は固有値 11 の固有空間への射影です(∥(U−1)ψ∥2=∫∣z−1∣2 dμψF\|(U-1)\psi\|^2=\int|z-1|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi^F が 00 になるのは μψF\mu_\psi^F が {1}\{1\} に集中するときだけだからです)。補題 5.1 より 11 は固有値でないので F({1})=0F(\{1\})=0 です。そこで κ:T∖{1}→R\kappa:\mathbb{T}\setminus\{1\}\to\mathbb{R}、κ(z)=i(1+z)/(1−z)\kappa(z)=i(1+z)/(1-z) を使い

EA(B)=F(κ−1(B))(B∈B(R))E_A(B)=F(\kappa^{-1}(B))\qquad(B\in\mathcal{B}(\mathbb{R}))

と置くと、F({1})=0F(\{1\})=0 と κ\kappa が同相写像であることから EAE_A は R\mathbb{R} 上の射影値測度です。単関数で近似すれば変数変換 ∫Rh dEA=∫Th∘κ dF\int_{\mathbb{R}}h\,\mathrm{d}E_A=\int_{\mathbb{T}}h\circ\kappa\,\mathrm{d}F が任意の可測関数 hh について(定義域も込めて)成り立つので、T:=∫λ dEA=∫κ dFT:=\int\lambda\,\mathrm{d}E_A=\int\kappa\,\mathrm{d}F が AA に等しいことを示せば十分です。

κ\kappa は実数値なので、定理 4.3 の 2 より TT は自己共役です。A⊂TA\subset T を示します。ψ∈D(A)\psi\in D(A) を取り、補題 5.1 により ψ=(1−U)φ\psi=(1-U)\varphi と書きます。g(z)=1−zg(z)=1-z は有界で、κg=i(1+z)\kappa g=i(1+z) も有界なので、定理 4.3 の 3 により ψ=I(g)φ∈D(I(κ))\psi=I(g)\varphi\in D(I(\kappa)) かつ

Tψ=I(κ)I(g)φ=I(κg)φ=i(1+U)φ=AψT\psi=I(\kappa)I(g)\varphi=I(\kappa g)\varphi=i(1+U)\varphi=A\psi

です。よって A⊂TA\subset T で、自己共役作用素は真の対称拡大を持たないので(§2)A=TA=T です。定義域の記述は 定理 4.3 の 1 そのものです。

一意性. E′E' を A=∫λ dE′A=\int\lambda\,\mathrm{d}E' を満たす別の射影値測度とします。定理 4.3 の 3 を f(λ)=λ+if(\lambda)=\lambda+i、g(λ)=(λ+i)−1g(\lambda)=(\lambda+i)^{-1} に適用すると I′(f)I′(g)=I′(1)=1I'(f)I'(g)=I'(1)=1 ですから、I′(g)=(A+i)−1I'(g)=(A+i)^{-1} です。したがって ∫λ−iλ+i dE′(λ)=1−2i(A+i)−1=U\int\frac{\lambda-i}{\lambda+i}\,\mathrm{d}E'(\lambda)=1-2i(A+i)^{-1}=U で、E′E' を λ↦(λ−i)/(λ+i)\lambda\mapsto(\lambda-i)/(\lambda+i) で T\mathbb{T} に押し出した射影値測度は UU を表します。定理 5.3 の 1 の一意性からそれは FF に等しく、E′(B)=F(κ−1(B))=EA(B)E'(B)=F(\kappa^{-1}(B))=E_A(B) です。

命題 5.6(スペクトルはスペクトル測度の台)✓

AA を自己共役作用素、EAE_A をそのスペクトル測度とする。このとき σ(A)=supp EA⊂R\sigma(A)=\mathrm{supp}\,E_A\subset\mathbb{R} であり、EA(R∖σ(A))=0E_A(\mathbb{R}\setminus\sigma(A))=0 である。さらに λ0∈R\lambda_0\in\mathbb{R} について次は同値である。

  1. λ0∈σ(A)\lambda_0\in\sigma(A)。
  2. 任意の ε>0\varepsilon>0 について EA((λ0−ε,λ0+ε))≠0E_A((\lambda_0-\varepsilon,\lambda_0+\varepsilon))\neq0。
  3. ψn∈D(A)\psi_n\in D(A)、∥ψn∥=1\|\psi_n\|=1、∥(A−λ0)ψn∥→0\|(A-\lambda_0)\psi_n\|\to0 を満たす列が存在する。
証明(命題 5.6)

z∈Cz\in\mathbb{C} が supp EA\mathrm{supp}\,E_A から正の距離 dd にあるとします(z∉Rz\notin\mathbb{R} なら d≥∣Im z∣>0d\ge|\mathrm{Im}\,z|>0 です)。R∖supp EA\mathbb{R}\setminus\mathrm{supp}\,E_A は開集合で、各点が EAE_A-零の開区間を持つので、Lindelöf 性により可算個のそのような区間で覆えて EA(R∖supp EA)=0E_A(\mathbb{R}\setminus\mathrm{supp}\,E_A)=0 です。よって h(λ)=(λ−z)−1h(\lambda)=(\lambda-z)^{-1} は EAE_A-ほとんど至る所で ∣h∣≤1/d|h|\le 1/d を満たし、hh を台の外で 00 に置き換えた有界関数について 定理 4.3 の 3 から (A−z)I(h)=1(A-z)I(h)=1、I(h)(A−z)⊂1I(h)(A-z)\subset1 です。よって z∈ρ(A)z\in\rho(A)。これで σ(A)⊂supp EA⊂R\sigma(A)\subset\mathrm{supp}\,E_A\subset\mathbb{R} と 1 ⇒ 2 が出ます。

2 ⇒ 3: ε=1/n\varepsilon=1/n として EA((λ0−1/n,λ0+1/n))E_A((\lambda_0-1/n,\lambda_0+1/n)) の値域から単位ベクトル ψn\psi_n を取ります。μψn\mu_{\psi_n} は (λ0−1/n,λ0+1/n)(\lambda_0-1/n,\lambda_0+1/n) に集中するので ψn∈D(A)\psi_n\in D(A) で

∥(A−λ0)ψn∥2=∫∣λ−λ0∣2 dμψn(λ)≤1n2\|(A-\lambda_0)\psi_n\|^2=\int|\lambda-\lambda_0|^2\,\mathrm{d}\mu_{\psi_n}(\lambda)\le\frac{1}{n^2}

です。3 ⇒ 1: λ0∈ρ(A)\lambda_0\in\rho(A) なら 1=∥ψn∥≤∥(A−λ0)−1∥ ∥(A−λ0)ψn∥→01=\|\psi_n\|\le\|(A-\lambda_0)^{-1}\|\,\|(A-\lambda_0)\psi_n\|\to0 となり矛盾します。以上で σ(A)∩R=supp EA\sigma(A)\cap\mathbb{R}=\mathrm{supp}\,E_A が示せました。

3 の列は次の記事 スペクトルの分類 で Weyl 列と呼び、本質スペクトルの判定に使います。

この定理は、固有ベクトルによる基底の代わりに「巡回部分空間」で空間を分解する、という発想の定理です。ベクトル ψ\psi に EAE_A による関数の積分を作用させて得られるベクトル全体の閉包が巡回部分空間で、その上では AA は L2L^2 空間の掛け算作用素になります。Gram–Schmidt 法のように、すでに得た部分空間に入らない成分を順に取り出していくと、空間全体が互いに直交する巡回部分空間の直和になります。

定理 5.7(スペクトル定理(掛け算作用素版))✓

AA を可分な Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の自己共役作用素とする。このとき有限測度空間 (M,Σ,μ)(M,\Sigma,\mu)、可測な実数値関数 a:M→Ra:M\to\mathbb{R}、ユニタリ作用素 W:H→L2(M,μ)W:\mathcal{H}\to L^2(M,\mu) が存在して

WD(A)={g∈L2(M,μ):ag∈L2(M,μ)},(WAW−1g)(m)=a(m)g(m)W D(A)=\{g\in L^2(M,\mu):ag\in L^2(M,\mu)\},\qquad (WAW^{-1}g)(m)=a(m)g(m)

が成り立つ。MM は N×R\mathbb{N}\times\mathbb{R} の部分集合に取れ、a(n,λ)=λa(n,\lambda)=\lambda とできる。

証明(定理 5.7)

ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について巡回部分空間 Hψ={I(h)ψ:h∈Bb(R)}‾\mathcal{H}_\psi=\overline{\{I(h)\psi:h\in\mathcal{B}_b(\mathbb{R})\}} を考えます(II は EAE_A による積分)。命題 4.1 の 2 より ∥I(h)ψ∥=∥h∥L2(μψ)\|I(h)\psi\|=\|h\|_{L^2(\mu_\psi)} なので、I(h)ψ↦hI(h)\psi\mapsto h は Hψ\mathcal{H}_\psi から L2(R,μψ)L^2(\mathbb{R},\mu_\psi) へのユニタリ作用素 WψW_\psi に延長されます(有界ボレル関数は L2(μψ)L^2(\mu_\psi) で稠密なので全射です)。Hψ\mathcal{H}_\psi はすべての EA(B)E_A(B) で不変なので、その直交補空間も不変です。

{χk}\{\chi_k\} を H\mathcal{H} の可算稠密集合とし、Gram–Schmidt 法と同じ要領で、ψ1=χ1\psi_1=\chi_1、ψn\psi_{n} を「Hψ1⊕⋯⊕Hψn−1\mathcal{H}_{\psi_1}\oplus\cdots\oplus\mathcal{H}_{\psi_{n-1}} に入らない最初の χk\chi_k」の直交補空間への射影とすることで、互いに直交する巡回部分空間 Hψn\mathcal{H}_{\psi_n} の直和が H\mathcal{H} に一致するようにできます。∥ψn∥=2−n\|\psi_n\|=2^{-n} と正規化すれば μ=∑nδn⊗μψn\mu=\sum_n\delta_n\otimes\mu_{\psi_n} は M=N×RM=\mathbb{N}\times\mathbb{R} 上の有限測度で、W=⨁nWψnW=\bigoplus_nW_{\psi_n} はユニタリです。

h∈Bb(R)h\in\mathcal{B}_b(\mathbb{R}) について WψI(h)Wψ−1W_\psi I(h)W_\psi^{-1} は hh を掛ける作用素です(WψI(h)I(k)ψ=hkW_\psi I(h)I(k)\psi=hk による)。λ\lambda 自身については、定理 4.3 の 1 と 命題 4.1 の 3 から ϕ∈Hψ\phi\in\mathcal{H}_\psi について ∫λ2 dμϕ=∫λ2∣Wψϕ∣2 dμψ\int\lambda^2\,\mathrm{d}\mu_\phi=\int\lambda^2|W_\psi\phi|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi なので、定義域が {g:λg∈L2(μψ)}\{g:\lambda g\in L^2(\mu_\psi)\} に写り、作用が λ\lambda を掛けることになります。各成分で成り立つので、a(n,λ)=λa(n,\lambda)=\lambda として主張を得ます。

可分性は MM を可算個の直線の和に取るために使っています。可分でない場合も MM を非可算個の直線の非交和にすれば同じ形が得られますが、μ\mu は σ\sigma-有限でなくなります。

定義 6.1(関数計算)↗

AA を自己共役作用素、EAE_A をそのスペクトル測度とする。ボレル可測関数 f:R→Cf:\mathbb{R}\to\mathbb{C} に対して

f(A):=∫Rf(λ) dEA(λ),D(f(A))={ψ:∫∣f(λ)∣2 d⟨ψ,EA(λ)ψ⟩<∞}f(A):=\int_{\mathbb{R}}f(\lambda)\,\mathrm{d}E_A(\lambda),\qquad D(f(A))=\Bigl\{\psi:\int|f(\lambda)|^2\,\mathrm{d}\langle\psi,E_A(\lambda)\psi\rangle<\infty\Bigr\}

と定める。

ff が多項式なら f(A)f(A) は代数的に定義した AnA^n の線形結合と一致します。1B(A)=EA(B)\mathbf{1}_B(A)=E_A(B) であり、1{λ0}(A)\mathbf{1}_{\{\lambda_0\}}(A) は固有値 λ0\lambda_0 の固有空間への射影です。

定理 6.2(有界ボレル関数計算)✓

AA を自己共役作用素とする。写像 Bb(R)∋f↦f(A)∈B(H)\mathcal{B}_b(\mathbb{R})\ni f\mapsto f(A)\in B(\mathcal{H}) は次の性質を持つ。

  1. ∗*-準同型である: (αf+βg)(A)=αf(A)+βg(A)(\alpha f+\beta g)(A)=\alpha f(A)+\beta g(A)、(fg)(A)=f(A)g(A)(fg)(A)=f(A)g(A)、fˉ(A)=f(A)∗\bar f(A)=f(A)^*、1(A)=11(A)=1。
  2. ∥f(A)∥≤sup⁡λ∈σ(A)∣f(λ)∣\|f(A)\|\le\sup_{\lambda\in\sigma(A)}|f(\lambda)| であり、ff が σ(A)\sigma(A) 上で連続なら等号が成り立つ。
  3. fn→ff_n\to f が各点収束し sup⁡n∥fn∥∞<∞\sup_n\|f_n\|_\infty<\infty ならば、fn(A)→f(A)f_n(A)\to f(A) は強収束する。
  4. ψ∈D(A)\psi\in D(A) ならば f(A)ψ∈D(A)f(A)\psi\in D(A) かつ Af(A)ψ=f(A)AψAf(A)\psi=f(A)A\psi。
  5. 有界作用素 CC が CA⊂ACCA\subset AC を満たすならば、CC はすべての EA(B)E_A(B) およびすべての f(A)f(A) と可換である。
証明(定理 6.2)

1 と 3 は 命題 4.1 の言い換えです。2 は、命題 5.6 の EA(R∖σ(A))=0E_A(\mathbb{R}\setminus\sigma(A))=0 から ∥f(A)ψ∥2=∫σ(A)∣f∣2 dμψ≤sup⁡σ(A)∣f∣2∥ψ∥2\|f(A)\psi\|^2=\int_{\sigma(A)}|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi\le\sup_{\sigma(A)}|f|^2\|\psi\|^2 です。等号について、ff が σ(A)\sigma(A) 上で連続で λ0∈σ(A)\lambda_0\in\sigma(A)、∣f(λ0)∣>c|f(\lambda_0)|\gt c とすると、連続性から λ0\lambda_0 のある近傍 JJ 上の σ(A)\sigma(A) の点で ∣f∣>c|f|\gt c です。命題 5.6 より EA(J)≠0E_A(J)\neq0 なので、その値域の単位ベクトル ψ\psi について ∥f(A)ψ∥2=∫J∩σ(A)∣f∣2 dμψ≥c2\|f(A)\psi\|^2=\int_{J\cap\sigma(A)}|f|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi\ge c^2 です。

4 は 定理 4.3 の 3 を λ\lambda と ff に使えば、f(A)ψ∈D(A)f(A)\psi\in D(A) と Af(A)ψ=(λf)(A)ψ=f(A)AψAf(A)\psi=(\lambda f)(A)\psi=f(A)A\psi が出ます(ψ∈D(A)=Dλ\psi\in D(A)=D_\lambda のとき λf\lambda f も二乗可積分です)。

  1. まず C(A±i)−1=(A±i)−1CC(A\pm i)^{-1}=(A\pm i)^{-1}C を示します。φ∈H\varphi\in\mathcal{H} に対し ψ=(A±i)−1φ∈D(A)\psi=(A\pm i)^{-1}\varphi\in D(A) と置くと、仮定 CA⊂ACCA\subset AC より Cψ∈D(A)C\psi\in D(A) かつ (A±i)Cψ=C(A±i)ψ=Cφ(A\pm i)C\psi=C(A\pm i)\psi=C\varphi です。両辺に (A±i)−1(A\pm i)^{-1} を掛けて C(A±i)−1φ=(A±i)−1CφC(A\pm i)^{-1}\varphi=(A\pm i)^{-1}C\varphi を得ます。よって CC はケーリー変換 U=1−2i(A+i)−1U=1-2i(A+i)^{-1} とその共役 U∗=1+2i(A−i)−1U^*=1+2i(A-i)^{-1} と可換で、定理 5.3 の 2 により UU の射影値測度 FF の値すべてと可換です。EA(B)=F(κ−1(B))E_A(B)=F(\kappa^{-1}(B)) なので CC は EA(B)E_A(B) と可換で、単関数の一様極限として f(A)f(A) とも可換です。

非有界な ff については、定理 4.3 がそのまま関数計算の規則になります。f(A)∗=fˉ(A)f(A)^*=\bar f(A)、f(A)+g(A)⊂(f+g)(A)f(A)+g(A)\subset(f+g)(A)、f(A)g(A)⊂(fg)(A)f(A)g(A)\subset(fg)(A) で、包含は一般に等号になりません。たとえば f(λ)=λf(\lambda)=\lambda、g(λ)=−λg(\lambda)=-\lambda なら f(A)+g(A)f(A)+g(A) は D(A)D(A) 上の 00 ですが、(f+g)(A)(f+g)(A) は全空間上の 00 です。

定理 6.3(ユニタリ群とレゾルベントの表示)✓

AA を自己共役作用素、EAE_A をそのスペクトル測度とする。

  1. U(t)=eitA:=∫eitλ dEA(λ)U(t)=e^{itA}:=\int e^{it\lambda}\,\mathrm{d}E_A(\lambda)(t∈Rt\in\mathbb{R})はユニタリ作用素の族で、U(t+s)=U(t)U(s)U(t+s)=U(t)U(s)、U(0)=1U(0)=1 を満たし、t↦U(t)ψt\mapsto U(t)\psi は各 ψ\psi について連続である。
  2. ψ∈D(A)\psi\in D(A) ならば t↦U(t)ψt\mapsto U(t)\psi は微分可能で、ddtU(t)ψ=iAU(t)ψ=iU(t)Aψ\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}U(t)\psi=iAU(t)\psi=iU(t)A\psi。
  3. z∈ρ(A)z\in\rho(A) ならば (A−z)−1=∫(λ−z)−1 dEA(λ)(A-z)^{-1}=\int(\lambda-z)^{-1}\,\mathrm{d}E_A(\lambda) であり、∥(A−z)−1∥=1/dist(z,σ(A))\|(A-z)^{-1}\|=1/\mathrm{dist}(z,\sigma(A))。とくに z∉Rz\notin\mathbb{R} なら ∥(A−z)−1∥≤1/∣Im z∣\|(A-z)^{-1}\|\le1/|\mathrm{Im}\,z|。
証明(定理 6.3)

1. ∣eitλ∣=1|e^{it\lambda}|=1 なので 定理 6.2 の 1 から U(t)∗U(t)=U(t)U(t)∗=1U(t)^*U(t)=U(t)U(t)^*=1、指数法則 ei(t+s)λ=eitλeisλe^{i(t+s)\lambda}=e^{it\lambda}e^{is\lambda} から群の性質が出ます。連続性は ∥(U(t)−U(s))ψ∥2=∫∣eitλ−eisλ∣2 dμψ\|(U(t)-U(s))\psi\|^2=\int|e^{it\lambda}-e^{is\lambda}|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi で、被積分関数は 44 で抑えられ t→st\to s で各点 00 に収束するので、優収束定理によります。

2. U(t)U(t) のユニタリ性と群の性質から t=0t=0 で示せば十分です。h≠0h\ne0 について

∥U(h)ψ−ψh−iAψ∥2=∫∣eihλ−1h−iλ∣2dμψ(λ)\Bigl\|\frac{U(h)\psi-\psi}{h}-iA\psi\Bigr\|^2=\int\Bigl|\frac{e^{ih\lambda}-1}{h}-i\lambda\Bigr|^2\mathrm{d}\mu_\psi(\lambda)

です。∣eihλ−1∣≤∣hλ∣|e^{ih\lambda}-1|\le|h\lambda| なので被積分関数は 4λ24\lambda^2 で抑えられ、ψ∈D(A)\psi\in D(A) よりこれは μψ\mu_\psi-可積分です。各点で 00 に収束するので優収束定理から左辺は 00 に収束します。AU(t)=U(t)AAU(t)=U(t)A(D(A)D(A) 上)は 定理 6.2 の 4 です。

3. z∈ρ(A)z\in\rho(A) なら d=dist(z,σ(A))>0d=\mathrm{dist}(z,\sigma(A))>0 で、命題 5.6 の証明と同じく h(λ)=(λ−z)−1h(\lambda)=(\lambda-z)^{-1} は σ(A)\sigma(A) 上で ∣h∣≤1/d|h|\le1/d、かつ (A−z)h(A)=1(A-z)h(A)=1、h(A)(A−z)⊂1h(A)(A-z)\subset1 です。ノルムは 定理 6.2 の 2(hh は σ(A)\sigma(A) 上連続)で sup⁡σ(A)∣λ−z∣−1=1/d\sup_{\sigma(A)}|\lambda-z|^{-1}=1/d です。σ(A)⊂R\sigma(A)\subset\mathbb{R} なので d≥∣Im z∣d\ge|\mathrm{Im}\,z| です。

2 の逆、すなわち「U(t)ψU(t)\psi が t=0t=0 で微分可能なら ψ∈D(A)\psi\in D(A)」も成り立ち、これと合わせると強連続 1 径数ユニタリ群と自己共役作用素が一対一に対応します(Stone の定理)。証明は 1 径数ユニタリ群と強連続半群 で扱います。

例 6.4(運動量作用素の関数計算)

H=L2(R)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R})、(Fψ)(k)=(2π)−1/2∫e−ikxψ(x) dx(\mathcal{F}\psi)(k)=(2\pi)^{-1/2}\int e^{-ikx}\psi(x)\,\mathrm{d}x とし、P=F−1kFP=\mathcal{F}^{-1}k\mathcal{F}(定義域 {ψ:kψ^∈L2}=H1(R)\{\psi:k\hat\psi\in L^2\}=H^1(\mathbb{R}))と置きます。これは −i d/dx-i\,\mathrm{d}/\mathrm{d}x の自己共役な実現で、定理 5.7 の形がはじめから得られています。

  • スペクトル測度は EP(B)=F−11B(k)FE_P(B)=\mathcal{F}^{-1}\mathbf{1}_B(k)\mathcal{F} で、σ(P)=R\sigma(P)=\mathbb{R}、固有値はありません。
  • eitP=F−1eitkFe^{itP}=\mathcal{F}^{-1}e^{itk}\mathcal{F} は平行移動 (eitPψ)(x)=ψ(x+t)(e^{itP}\psi)(x)=\psi(x+t) です。eitkψ^(k)e^{itk}\hat\psi(k) が ψ(⋅+t)\psi(\cdot+t) の Fourier 変換であることから確かめられます。
  • Im z>0\mathrm{Im}\,z>0 のとき、(P−z)−1(P-z)^{-1} は積分作用素 ((P−z)−1ψ)(x)=i∫−∞xeiz(x−y)ψ(y) dy((P-z)^{-1}\psi)(x)=i\int_{-\infty}^{x}e^{iz(x-y)}\psi(y)\,\mathrm{d}y です。実際 uu をこの右辺とすると u′=izu+iψu'=izu+i\psi、すなわち −iu′−zu=ψ-iu'-zu=\psi で、∣eiz(x−y)∣=e−Im z (x−y)|e^{iz(x-y)}|=e^{-\mathrm{Im}\,z\,(x-y)} が x>yx\gt y で減衰するので u∈L2u\in L^2 です。

例 6.5(固有ベクトルの完全系を持つ場合)

AA が正規直交基底 {en}\{e_n\} と実数 λn\lambda_n によって Aen=λnenAe_n=\lambda_ne_n と対角化されている(D(A)={ψ:∑nλn2∣⟨en,ψ⟩∣2<∞}D(A)=\{\psi:\sum_n\lambda_n^2|\langle e_n,\psi\rangle|^2<\infty\})とき、スペクトル測度は 例 3.3 (b) のもので、

f(A)ψ=∑nf(λn)⟨en,ψ⟩en,D(f(A))={ψ:∑n∣f(λn)∣2∣⟨en,ψ⟩∣2<∞}f(A)\psi=\sum_nf(\lambda_n)\langle e_n,\psi\rangle e_n,\qquad D(f(A))=\Bigl\{\psi:\sum_n|f(\lambda_n)|^2|\langle e_n,\psi\rangle|^2<\infty\Bigr\}

です。調和振動子 H=∑n≥0(n+12)⟨en,⋅⟩enH=\sum_{n\ge0}(n+\tfrac12)\langle e_n,\cdot\rangle e_n(基底の番号を 00 から振る)なら、β>0\beta>0 について e−βHe^{-\beta H} はトレースクラスで Tr e−βH=∑n≥0e−β(n+1/2)=(2sinh⁡(β/2))−1\mathrm{Tr}\,e^{-\beta H}=\sum_{n\ge0}e^{-\beta(n+1/2)}=(2\sinh(\beta/2))^{-1} となり、分配関数がこの関数計算で書けます。

7. 可換な自己共役作用素と結合スペクトル測度

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有界作用素なら「可換」は AB=BAAB=BA で十分ですが、非有界作用素では ABAB と BABA の定義域が一致する保証がなく、AB=BAAB=BA を文字どおり要求するのは強すぎ、共通の部分空間上で要求するのは弱すぎます。正しい定義はスペクトル測度で与えます。

定義 7.1(自己共役作用素の(強)可換性)↗

自己共役作用素 A,BA,B が可換(強可換)であるとは、そのスペクトル測度について

EA(S)EB(T)=EB(T)EA(S)(S,T∈B(R))E_A(S)E_B(T)=E_B(T)E_A(S)\qquad(S,T\in\mathcal{B}(\mathbb{R}))

が成り立つことをいう。

命題 7.2(可換性の同値な言い換え)✓

自己共役作用素 A,BA,B について次は同値である。

  1. AA と BB は可換(定義 7.1)。
  2. ある z∈ρ(A)z\in\rho(A) と w∈ρ(B)w\in\rho(B) について、(A−z)−1(B−w)−1=(B−w)−1(A−z)−1(A-z)^{-1}(B-w)^{-1}=(B-w)^{-1}(A-z)^{-1}。
  3. すべての s,t∈Rs,t\in\mathbb{R} について eisAeitB=eitBeisAe^{isA}e^{itB}=e^{itB}e^{isA}。

さらに BB が有界なら、これらは BA⊂ABBA\subset AB と同値である。

証明(命題 7.2)

1 ⇒ 2, 3: EB(T)E_B(T) はすべての EA(S)E_A(S) と可換なので、単関数の極限としてすべての f(A)f(A)(ff は有界ボレル)と可換です。対称に、f(A)f(A) と可換な EB(T)E_B(T) の全体から、f(A)f(A) はすべての g(B)g(B) と可換です。(λ−z)−1(\lambda-z)^{-1} と eisλe^{is\lambda} は有界なので 2 と 3 が出ます。

2 ⇒ 1: 鍵は次の観察です。有界作用素 CC が (A−z)−1(A-z)^{-1} と可換なら CA⊂ACCA\subset AC である。 実際 ψ∈D(A)\psi\in D(A) を ψ=(A−z)−1φ\psi=(A-z)^{-1}\varphi と書くと Cψ=(A−z)−1Cφ∈D(A)C\psi=(A-z)^{-1}C\varphi\in D(A) で、(A−z)Cψ=Cφ=C(A−z)ψ(A-z)C\psi=C\varphi=C(A-z)\psi、すなわち ACψ=CAψAC\psi=CA\psi です。これを C=(B−w)−1C=(B-w)^{-1} に使い、定理 6.2 の 5 を適用すると、(B−w)−1(B-w)^{-1} はすべての EA(S)E_A(S) と可換です。次に C=EA(S)C=E_A(S) に同じ観察を BB について使うと EA(S)B⊂BEA(S)E_A(S)B\subset BE_A(S) で、再び 定理 6.2 の 5 により EA(S)E_A(S) はすべての EB(T)E_B(T) と可換です。

3 ⇒ 1: Im z>0\mathrm{Im}\,z\gt0 のとき ∫0∞e−is(λ−z) ds=1i(λ−z)\int_0^\infty e^{-is(\lambda-z)}\,\mathrm{d}s=\frac{1}{i(\lambda-z)}(被積分関数の絶対値は e−s Im ze^{-s\,\mathrm{Im}\,z})なので、⟨φ,⋅ ψ⟩\langle\varphi,\cdot\,\psi\rangle を取って Fubini の定理を使えば、強積分の表示

(A−z)−1ψ=i∫0∞eisze−isAψ ds(A-z)^{-1}\psi=i\int_0^\infty e^{isz}e^{-isA}\psi\,\mathrm{d}s

が得られます。BB についても同様で、e−isAe^{-isA} と e−itBe^{-itB} が可換なので積分どうしも可換になり、z=w=iz=w=i として 2 に帰着します。

最後に BB が有界な場合を考えます。BA⊂ABBA\subset AB なら 定理 6.2 の 5 で BB はすべての EA(S)E_A(S) と可換です。すると各 EA(S)E_A(S) は有界自己共役作用素 BB と可換なので、再び同じ主張(BB について)から EA(S)E_A(S) はすべての EB(T)E_B(T) と可換で、1 が成り立ちます。逆に 1 を仮定すると、B=∫λ dEBB=\int\lambda\,\mathrm{d}E_B は EBE_B の単関数の一様極限なのですべての EA(S)E_A(S) と可換です。ψ∈D(A)\psi\in D(A) について ∥EA(S)Bψ∥2=∥BEA(S)ψ∥2≤∥B∥2∥EA(S)ψ∥2\|E_A(S)B\psi\|^2=\|BE_A(S)\psi\|^2\le\|B\|^2\|E_A(S)\psi\|^2 から ∫λ2 dμBψA≤∥B∥2∫λ2 dμψA<∞\int\lambda^2\,\mathrm{d}\mu^A_{B\psi}\le\|B\|^2\int\lambda^2\,\mathrm{d}\mu^A_\psi\lt\infty、すなわち Bψ∈D(A)B\psi\in D(A) です。有界作用素 An=(λ1[−n,n])(A)A_n=(\lambda\mathbf{1}_{[-n,n]})(A) は BB と可換で、Anϕ→AϕA_n\phi\to A\phi(ϕ∈D(A)\phi\in D(A))なので、ABψ=lim⁡nAnBψ=lim⁡nBAnψ=BAψAB\psi=\lim_nA_nB\psi=\lim_nBA_n\psi=BA\psi です。

次の定理は、互いに可換な自己共役作用素を同時に対角化できることを言っています。有限次元で可換な対称行列が共通の固有ベクトルで同時対角化できることの連続版です。証明は、座標ごとの射影値測度の積から Rn\mathbb{R}^n 上の測度を作る、という筋道で進みます。

定理 7.3(結合スペクトル測度と同時対角化)✓

A1,…,AnA_1,\ldots,A_n を互いに可換な自己共役作用素とする。このとき B(Rn)\mathcal{B}(\mathbb{R}^n) 上の射影値測度 EE がただ一つ存在して、

E(S1×⋯×Sn)=EA1(S1)⋯EAn(Sn)(Sj∈B(R))E(S_1\times\cdots\times S_n)=E_{A_1}(S_1)\cdots E_{A_n}(S_n)\qquad(S_j\in\mathcal{B}(\mathbb{R}))

を満たす。EE を結合スペクトル測度といい、各 jj について Aj=∫Rnλj dE(λ)A_j=\int_{\mathbb{R}^n}\lambda_j\,\mathrm{d}E(\lambda) が成り立つ。H\mathcal{H} が可分なら、有限測度空間 (M,μ)(M,\mu)、実数値可測関数 a1,…,ana_1,\ldots,a_n、ユニタリ W:H→L2(M,μ)W:\mathcal{H}\to L^2(M,\mu) が存在して、すべての jj について WAjW−1WA_jW^{-1} は aja_j を掛ける作用素(定義域は {g:ajg∈L2}\{g:a_jg\in L^2\})になる。

証明(定理 7.3)

Ej=EAjE_j=E_{A_j} と書きます。仮定(定義 7.1)から、どの Ej(S)E_j(S) と Ek(T)E_k(T) も可換です。

ステップ 1:箱と射影。 −∞≤a<b≤∞-\infty\le a<b\le\infty について (a,b](a,b](b=∞b=\infty なら (a,∞)(a,\infty))の形の区間の直積を箱と呼び、箱 I=I1×⋯×InI=I_1\times\cdots\times I_n に PI=E1(I1)⋯En(In)P_I=E_1(I_1)\cdots E_n(I_n) を対応させます。可換な直交射影の積なので PIP_I は直交射影です。箱の有限個の非交和全体 A\mathcal{A} は代数で、σ(A)=B(Rn)\sigma(\mathcal{A})=\mathcal{B}(\mathbb{R}^n) です。箱 II が有限個の互いに素な箱 I1,…,ImI^1,\ldots,I^m に分割されているとき、各座標で現れる端点すべてで IjI_j を小区間 JJ に分けると Ej(Ij)=∑JEj(J)E_j(I_j)=\sum_JE_j(J) で、積を展開すると PIP_I は「格子の小箱」の射影の和になります。異なる小箱はある座標で交わらない区間をもつので(命題 3.2 の 1)、それらの射影は互いに直交します。各 IkI^k も小箱の和なので PI=∑kPIkP_I=\sum_kP_{I^k} です。したがって A=⨆kIk∈AA=\bigsqcup_kI^k\in\mathcal{A} に PA=∑kPIkP_A=\sum_kP_{I^k} を対応させると、分割の取り方によらず(共通の細分と比べる)直交射影が定まり、互いに素な A,A′∈AA,A'\in\mathcal{A} で PA⊔A′=PA+PA′P_{A\sqcup A'}=P_A+P_{A'}、PRn=1P_{\mathbb{R}^n}=1 です。

ステップ 2:前測度。 ψ∈H\psi\in\mathcal{H} を固定し νψ(A)=∥PAψ∥2\nu_\psi(A)=\|P_A\psi\|^2 とおくと、νψ\nu_\psi は A\mathcal{A} 上で有限加法的です。可算加法性は、箱 II が互いに素な箱の可算和 ⨆kIk\bigsqcup_kI^k であるときに νψ(I)=∑kνψ(Ik)\nu_\psi(I)=\sum_k\nu_\psi(I^k) を示せば十分です(A\mathcal{A} の元は箱に分ければよい)。≥\ge は有限加法性と単調性(補題 4.1[測度空間と Carathéodory の拡張定理])から出ます。≤\le を示します。ε>0\varepsilon>0 とします。

  • 各座標で aj<aj′<bj′≤bja_j<a'_j<b'_j\le b_j、bj′<∞b'_j<\infty を取って I′=∏j(aj′,bj′]I'=\prod_j(a'_j,b'_j] とおくと、閉包 K=∏j[aj′,bj′]K=\prod_j[a'_j,b'_j] はコンパクトで II に含まれます。aj′↓aja'_j\downarrow a_j、bj′↑bjb'_j\uparrow b_j のとき強可算加法性から Ej((aj′,bj′])→Ej(Ij)E_j((a'_j,b'_j])\to E_j(I_j) が強収束し、一様有界な作用素の強収束列の積は強収束するので、νψ(I′)≥νψ(I)−ε\nu_\psi(I')\ge\nu_\psi(I)-\varepsilon と取れます。
  • 同様に、Ik=∏j(ajk,bjk]I^k=\prod_j(a^k_j,b^k_j] の有限な右端 bjkb^k_j を bjk+δkb^k_j+\delta_k に延ばした箱 I~k\tilde I^k で νψ(I~k)≤νψ(Ik)+ε2−k\nu_\psi(\tilde I^k)\le\nu_\psi(I^k)+\varepsilon2^{-k} となるものが取れます(δk↓0\delta_k\downarrow0 で Ej((a,b+δ])→Ej((a,b])E_j((a,b+\delta])\to E_j((a,b]) が強収束するため)。I~k\tilde I^k の内部は IkI^k を含みます。

KK はこれらの内部で覆われるので有限個 k≤Nk\le N で覆われ、I′⊂⋃k≤NI~kI'\subset\bigcup_{k\le N}\tilde I^k です。補題 4.1[測度空間と Carathéodory の拡張定理] から

νψ(I)−ε≤νψ(I′)≤∑k≤Nνψ(I~k)≤∑kνψ(Ik)+ε.\nu_\psi(I)-\varepsilon\le\nu_\psi(I')\le\sum_{k\le N}\nu_\psi(\tilde I^k)\le\sum_k\nu_\psi(I^k)+\varepsilon .

よって νψ\nu_\psi は前測度で、定理 4.2[測度空間と Carathéodory の拡張定理] により B(Rn)\mathcal{B}(\mathbb{R}^n) 上の全質量 ∥ψ∥2\|\psi\|^2 の測度に拡張されます(同じ記号 νψ\nu_\psi で書きます)。

ステップ 3:射影値測度。 D\mathcal{D} を、直交射影 QQ で全 ψ\psi について ⟨ψ,Qψ⟩=νψ(S)\langle\psi,Q\psi\rangle=\nu_\psi(S) となるものが存在するボレル集合 SS の全体とします(QQ は偏極恒等式により一意です)。A⊂D\mathcal{A}\subset\mathcal{D}(Q=PAQ=P_A)、Rn∈D\mathbb{R}^n\in\mathcal{D}、S∈DS\in\mathcal{D} なら Rn∖S∈D\mathbb{R}^n\setminus S\in\mathcal{D}(QQ を 1−Q1-Q に)です。互いに素な Sk∈DS_k\in\mathcal{D} と対応する QkQ_k について、k≠lk\ne l なら ⟨ψ,(Qk+Ql)ψ⟩=νψ(Sk⊔Sl)≤∥ψ∥2\langle\psi,(Q_k+Q_l)\psi\rangle=\nu_\psi(S_k\sqcup S_l)\le\|\psi\|^2 なので、ψ=Qkψ\psi=Q_k\psi と取ると ∥Qlψ∥2=⟨ψ,Qlψ⟩≤0\|Q_l\psi\|^2=\langle\psi,Q_l\psi\rangle\le0、すなわち QlQk=0Q_lQ_k=0 です。互いに直交する射影の和 ∑kQk\sum_kQ_k は強収束して直交射影 QQ になり、⟨ψ,Qψ⟩=∑kνψ(Sk)=νψ(⨆kSk)\langle\psi,Q\psi\rangle=\sum_k\nu_\psi(S_k)=\nu_\psi(\bigsqcup_kS_k) です。よって D\mathcal{D} は λ-系で、π-系 A\mathcal{A} を含むので、定理 4.4[測度空間と Carathéodory の拡張定理] から D=B(Rn)\mathcal{D}=\mathcal{B}(\mathbb{R}^n) です。E(S)E(S) を対応する QQ と定めると、いま示したことは EE の強可算加法性そのもので、E(Rn)=1E(\mathbb{R}^n)=1、E(∅)=0E(\emptyset)=0 なので EE は射影値測度(定義 3.1)で、箱 II では E(I)=PIE(I)=P_I です。

ステップ 4:積の公式。 箱 I2×⋯×InI_2\times\cdots\times I_n を固定し、E(S1×I2×⋯×In)=E1(S1)E2(I2)⋯En(In)E(S_1\times I_2\times\cdots\times I_n)=E_1(S_1)E_2(I_2)\cdots E_n(I_n) となるボレル集合 S1S_1 の全体を考えると、両辺とも S1S_1 について強可算加法的で補集合についても整合するので λ-系であり、π-系 {(a,b]}\{(a,b]\} を含むので全ボレル集合です。次に S1S_1 をボレル集合のまま第 2 座標に同じ議論を行い、これを nn 回繰り返せば主張の積の公式を得ます。とくに SjS_j 以外を R\mathbb{R} とすると E(πj−1(S))=Ej(S)E(\pi_j^{-1}(S))=E_j(S)(πj\pi_j は第 jj 座標)です。

ステップ 5:Aj=∫λj dEA_j=\int\lambda_j\,\mathrm{d}E。 像の射影値測度 S↦E(πj−1(S))S\mapsto E(\pi_j^{-1}(S)) は EjE_j に等しいので、μψE∘πj−1=μψEj\mu^E_\psi\circ\pi_j^{-1}=\mu^{E_j}_\psi です。有界ボレル関数 gg について ∫g∘πj dE=∫g dEj\int g\circ\pi_j\,\mathrm{d}E=\int g\,\mathrm{d}E_j は単関数で明らかで、一様極限で一般の gg に移ります。非有界な g(λ)=λg(\lambda)=\lambda についても、定義 4.2 の切断集合が {∣λj∣≤m}=πj−1({∣λ∣≤m})\{|\lambda_j|\le m\}=\pi_j^{-1}(\{|\lambda|\le m\}) と対応し、定義域の条件 ∫∣λj∣2 dμψE=∫λ2 dμψEj\int|\lambda_j|^2\,\mathrm{d}\mu^E_\psi=\int\lambda^2\,\mathrm{d}\mu^{E_j}_\psi も一致するので、∫λj dE(λ)=∫λ dEj(λ)=Aj\int\lambda_j\,\mathrm{d}E(\lambda)=\int\lambda\,\mathrm{d}E_j(\lambda)=A_j です(定理 5.5)。

ステップ 6:一意性。 積の公式を満たす射影値測度 E′E' は箱の上で EE と一致します。箱全体は π-系で Rn\mathbb{R}^n 自身も箱なので、各 ψ\psi について有限測度 ⟨ψ,E(⋅)ψ⟩\langle\psi,E(\cdot)\psi\rangle と ⟨ψ,E′(⋅)ψ⟩\langle\psi,E'(\cdot)\psi\rangle は一致し(定理 4.5[測度空間と Carathéodory の拡張定理])、偏極恒等式から E=E′E=E' です。

ステップ 7:掛け算作用素版。 定理 5.7 の証明を、EAE_A を EE に、R\mathbb{R} を Rn\mathbb{R}^n に、λ\lambda を各座標 λj\lambda_j に置き換えてそのまま繰り返します。巡回部分空間 Hψ={I(h)ψ:h∈Bb(Rn)}‾\mathcal{H}_\psi=\overline{\{I(h)\psi:h\in\mathcal{B}_b(\mathbb{R}^n)\}} はすべての E(S)E(S) で不変で、I(h)ψ↦hI(h)\psi\mapsto h が L2(Rn,νψ)L^2(\mathbb{R}^n,\nu_\psi) へのユニタリを与え、可分性から H\mathcal{H} は可算個の互いに直交する巡回部分空間の直和になります。M=N×RnM=\mathbb{N}\times\mathbb{R}^n、μ=∑kδk⊗νψk\mu=\sum_k\delta_k\otimes\nu_{\psi_k}(∥ψk∥=2−k\|\psi_k\|=2^{-k})、aj(k,λ)=λja_j(k,\lambda)=\lambda_j と取れば、ステップ 5 と同じ定義域の計算により WAjW−1WA_jW^{-1} は aja_j を掛ける作用素です。

注意 7.4(結合スペクトル測度の構成)

上の証明の筋道をまとめると次のとおりです(Schmüdgen 第 5 章、Reed–Simon 第 I 巻 VIII.5 節も参照)。各 ψ\psi について、直方体の有限非交和からなる集合代数の上で νψ(S1×⋯×Sn)=∥EA1(S1)⋯EAn(Sn)ψ∥2\nu_\psi(S_1\times\cdots\times S_n)=\|E_{A_1}(S_1)\cdots E_{A_n}(S_n)\psi\|^2 と置くと、射影が互いに可換なので積 EA1(S1)⋯EAn(Sn)E_{A_1}(S_1)\cdots E_{A_n}(S_n) は射影であり、νψ\nu_\psi は有限加法的です。各因子の強可算加法性から νψ\nu_\psi は可算加法的になり、Carathéodory の拡張定理で B(Rn)\mathcal{B}(\mathbb{R}^n) 上の測度に延長されます。偏極で νφ,ψ\nu_{\varphi,\psi} を作り ⟨φ,E(S)ψ⟩=νφ,ψ(S)\langle\varphi,E(S)\psi\rangle=\nu_{\varphi,\psi}(S) で E(S)E(S) を定め、射影であることは直方体で成り立つ性質が単調族定理で伝わることから示します。一意性は直方体が B(Rn)\mathcal{B}(\mathbb{R}^n) を生成する π\pi-系であることによります。掛け算作用素版は 定理 5.7 の証明を Rn\mathbb{R}^n 上の EE で繰り返せば得られます。

場の量子論では、運動量 P1,P2,P3P_1,P_2,P_3 とハミルトニアン HH の結合スペクトル測度が「エネルギー運動量スペクトル」で、その台が前方光錐に含まれることがスペクトル条件です。

次の例の直感は、平らな紙の上なら「右へ動いてから上へ」と「上へ動いてから右へ」で同じ点に着くのに、原点の周りで 2 枚の紙が貼り合わさった面では、原点を一周する経路になるため別の葉に着いてしまう、ということです。局所的には ∂x\partial_x と ∂y\partial_y が交換しても、大域的な平行移動は交換しません。

例 7.5(Nelson の反例:定義域上で可換でも可換でない)

次の性質を持つ自己共役作用素 A,BA,B と稠密部分空間 D\mathcal{D} が存在します(Nelson 1959)。

  • D⊂D(A)∩D(B)\mathcal{D}\subset D(A)\cap D(B)、AD⊂DA\mathcal{D}\subset\mathcal{D}、BD⊂DB\mathcal{D}\subset\mathcal{D}。
  • すべての ψ∈D\psi\in\mathcal{D} について ABψ=BAψAB\psi=BA\psi。
  • A∣DA|_{\mathcal{D}} と B∣DB|_{\mathcal{D}} はそれぞれ本質的自己共役で、閉包が AA, BB である。
  • それでも eisAe^{isA} と eitBe^{itB} は可換でない。したがって AA と BB は 定義 7.1 の意味で可換でない。

構成は次のとおりです。MM を z\sqrt{z} のリーマン面(原点を除いた 2 葉の被覆面)とし、射影 M→C∖{0}M\to\mathbb{C}\setminus\{0\} で平面の Lebesgue 測度を引き戻して H=L2(M)\mathcal{H}=L^2(M) と置きます。MM は局所的に平面と同じ座標 (x,y)(x,y) を持つので、D=Cc∞(M)\mathcal{D}=C_c^\infty(M) 上で A=−i∂xA=-i\partial_x、B=−i∂yB=-i\partial_y が定義でき、偏微分が交換するので D\mathcal{D} 上で AB=BAAB=BA です。

一方 eisAe^{isA} は「面に沿って xx 方向に ss だけずらす」平行移動、eitBe^{itB} は yy 方向の平行移動です(分岐点を通る測度 00 の線を除いて定義され、ユニタリです)。射影が (1,1)(1,1) の近くにある第 1 葉の点の小さな近傍に台を持つ ψ\psi を取ります。(e2iAψ)(p)=ψ(p+2ex)(e^{2iA}\psi)(p)=\psi(p+2e_x) のように台は負の向きに動くので、e2iAe2iBψe^{2iA}e^{2iB}\psi と e2iBe2iAψe^{2iB}e^{2iA}\psi はどちらも台の射影が (−1,−1)(-1,-1) の近くにある関数です。ところが台を運ぶ 2 つの経路(先に yy 方向、次に xx 方向、とその逆)は合わせて原点を一周する正方形の周をなすので、到着する葉が異なります。よって 2 つの関数の台は交わらず、e2iAe2iBψ≠e2iBe2iAψe^{2iA}e^{2iB}\psi\neq e^{2iB}e^{2iA}\psi です。

この例で壊れているのは、定義域 D\mathcal{D} 上の代数的な関係から「大域的な」平行移動の関係を復元できるという期待です。D\mathcal{D} 上で可換かつ (A2+B2)∣D(A^2+B^2)|_{\mathcal{D}} が本質的自己共役なら AA と BB は可換になる、というのが Nelson の判定法で、自己共役性の判定 で扱います。この例では (A2+B2)∣D(A^2+B^2)|_{\mathcal{D}}、すなわち分岐点を除いた面上のラプラシアンが、2 次元で 1 点を除いたときと同様に分岐点での境界条件の選び方を残し、本質的自己共役になりません。

注意 7.6(Nelson の反例の文献)

本質的自己共役性の確認と平行移動群の厳密な構成は Nelson の原論文と Reed–Simon 第 I 巻 VIII.5 節、Schmüdgen 第 5 章の例にあります。要点は、D\mathcal{D} の関数が分岐点から離れた所に台を持つので、各直線 y=consty=\mathrm{const} に沿った 1 次元の問題(−i d/dx-i\,\mathrm{d}/\mathrm{d}x の本質的自己共役性)に帰着できることです。

演習 8.1易

AA を自己共役作用素、z=a+ibz=a+ib(b≠0b\ne0)とする。スペクトル定理を使わずに ∥(A−z)ψ∥2=∥(A−a)ψ∥2+b2∥ψ∥2\|(A-z)\psi\|^2=\|(A-a)\psi\|^2+b^2\|\psi\|^2(ψ∈D(A)\psi\in D(A))を示し、∥(A−z)−1∥≤1/∣b∣\|(A-z)^{-1}\|\le1/|b| を導け。さらに A=0A=0(H=C\mathcal{H}=\mathbb{C})の例で、等号 ∥(A−z)−1∥=1/dist(z,σ(A))\|(A-z)^{-1}\|=1/\mathrm{dist}(z,\sigma(A)) が一般には 1/∣Im z∣1/|\mathrm{Im}\,z| より小さいことを確かめよ。

解答

(A−z)ψ=(A−a)ψ−ibψ(A-z)\psi=(A-a)\psi-ib\psi なので

∥(A−z)ψ∥2=∥(A−a)ψ∥2+b2∥ψ∥2−ib⟨(A−a)ψ,ψ⟩+ib⟨ψ,(A−a)ψ⟩\|(A-z)\psi\|^2=\|(A-a)\psi\|^2+b^2\|\psi\|^2-ib\langle(A-a)\psi,\psi\rangle+ib\langle\psi,(A-a)\psi\rangle

で、A−aA-a が対称なので最後の 2 項は打ち消します。よって ∥(A−z)ψ∥≥∣b∣∥ψ∥\|(A-z)\psi\|\ge|b|\|\psi\| で、z∈ρ(A)z\in\rho(A)(定理 6.3 の 3)と合わせ、φ=(A−z)ψ\varphi=(A-z)\psi と置けば ∥(A−z)−1φ∥≤∥φ∥/∣b∣\|(A-z)^{-1}\varphi\|\le\|\varphi\|/|b| です。A=0A=0 なら σ(A)={0}\sigma(A)=\{0\}、(A−z)−1=−1/z(A-z)^{-1}=-1/z でノルムは 1/∣z∣=1/a2+b21/|z|=1/\sqrt{a^2+b^2} です。a≠0a\ne0 ならこれは 1/∣b∣1/|b| より真に小さく、dist(z,{0})=∣z∣\mathrm{dist}(z,\{0\})=|z| と一致します。

演習 8.2標準

自己共役作用素 AA について、⟨ψ,Aψ⟩≥0\langle\psi,A\psi\rangle\ge0(すべての ψ∈D(A)\psi\in D(A))と σ(A)⊂[0,∞)\sigma(A)\subset[0,\infty) が同値であることを示せ。また、このとき A:=∫λ dEA(λ)\sqrt{A}:=\int\sqrt{\lambda}\,\mathrm{d}E_A(\lambda) が D(A)⊂D(A)D(A)\subset D(\sqrt A) と (A)2=A(\sqrt A)^2=A を満たす自己共役作用素であることを示せ。

解答

ψ∈D(A)\psi\in D(A) について、定理 4.3 の 3 と 命題 4.1 の 2 の極限から ⟨ψ,Aψ⟩=∫λ dμψ(λ)\langle\psi,A\psi\rangle=\int\lambda\,\mathrm{d}\mu_\psi(\lambda) です(λ\lambda は μψ\mu_\psi-可積分です。∣λ∣≤1+λ2|\lambda|\le1+\lambda^2 だからです)。σ(A)⊂[0,∞)\sigma(A)\subset[0,\infty) なら 命題 5.6 により μψ\mu_\psi は [0,∞)[0,\infty) に集中し、積分は非負です。逆に λ0<0\lambda_0\lt0 が σ(A)\sigma(A) に属すとすると、ε=∣λ0∣/2\varepsilon=|\lambda_0|/2 として EA((λ0−ε,λ0+ε))≠0E_A((\lambda_0-\varepsilon,\lambda_0+\varepsilon))\ne0 なので、その値域の単位ベクトル ψ\psi は D(A)D(A) に属し ⟨ψ,Aψ⟩≤λ0+ε=λ0/2<0\langle\psi,A\psi\rangle\le\lambda_0+\varepsilon=\lambda_0/2\lt0 となって矛盾します。

後半: λ\sqrt\lambda は [0,∞)[0,\infty) 上の実数値関数なので(負の部分は EAE_A-零集合)、定理 4.3 の 2 により A\sqrt A は自己共役です。λ≤12(1+λ2)\lambda\le\frac12(1+\lambda^2) から D(A)⊂D(A)D(A)\subset D(\sqrt A) です。AA⊂A\sqrt A\sqrt A\subset A は 定理 4.3 の 3 の議論(f=g=λf=g=\sqrt\lambda を切断して極限を取る)から得られ、定義域は {ψ∈D(A):Aψ∈D(A)}\{\psi\in D(\sqrt A):\sqrt A\psi\in D(\sqrt A)\} ですが、命題 4.1 の 3 を切断関数に使うと ∫λ dμAψ=∫λ2 dμψ\int\lambda\,\mathrm{d}\mu_{\sqrt A\psi}=\int\lambda^2\,\mathrm{d}\mu_\psi なので、これは D(A)D(A) に一致します。よって (A)2=A(\sqrt A)^2=A です。

演習 8.3標準

例 6.4 の PP について、t>0t\gt0 のとき

(e−tP2ψ)(x)=14πt∫Re−(x−y)2/(4t)ψ(y) dy(ψ∈L1∩L2)(e^{-tP^2}\psi)(x)=\frac{1}{\sqrt{4\pi t}}\int_{\mathbb{R}}e^{-(x-y)^2/(4t)}\psi(y)\,\mathrm{d}y\qquad(\psi\in L^1\cap L^2)

を示せ。また、∥e−tP2∥=1\|e^{-tP^2}\|=1 であり、t→0t\to0 で e−tP2→1e^{-tP^2}\to1 は強収束するがノルム収束しないことを示せ。

解答

関数計算は Fourier 変換で掛け算に移るので(例 6.4)、e−tP2=F−1e−tk2Fe^{-tP^2}=\mathcal{F}^{-1}e^{-tk^2}\mathcal{F} です。Gauss 積分 12π∫eik(x−y)e−tk2 dk=14πte−(x−y)2/(4t)\frac{1}{2\pi}\int e^{ik(x-y)}e^{-tk^2}\,\mathrm{d}k=\frac{1}{\sqrt{4\pi t}}e^{-(x-y)^2/(4t)} と Fubini の定理(ψ∈L1\psi\in L^1 なので被積分関数は可積分)から、F−1(e−tk2ψ^)\mathcal{F}^{-1}(e^{-tk^2}\hat\psi) は右辺の畳み込みです。

ノルムは 定理 6.2 の 2 で sup⁡λ∈σ(P)e−tλ2=1\sup_{\lambda\in\sigma(P)}e^{-t\lambda^2}=1 です(σ(P)=R\sigma(P)=\mathbb{R})。強収束は 定理 6.2 の 3(e−tλ2→1e^{-t\lambda^2}\to1 が各点収束、上限は 1)からです。ノルム収束しないことは、同じく 2 により ∥e−tP2−1∥=sup⁡λ∣e−tλ2−1∣=1\|e^{-tP^2}-1\|=\sup_\lambda|e^{-t\lambda^2}-1|=1 がどの t>0t\gt0 でも成り立つことからわかります。

演習 8.4標準

例 6.4 の PP のケーリー変換 U=(P−i)(P+i)−1U=(P-i)(P+i)^{-1} を Fourier 変換の下で掛け算作用素として書き、1∉σp(U)1\notin\sigma_{\mathrm{p}}(U) だが 1∈σ(U)1\in\sigma(U) であることを確かめよ。これが 定理 5.5 の証明で F({1})=0F(\{1\})=0 を使ったこととどう対応するか説明せよ。

解答

FUF−1\mathcal{F}U\mathcal{F}^{-1} は u(k)=(k−i)/(k+i)u(k)=(k-i)/(k+i) を掛ける作用素で、∣u(k)∣=1|u(k)|=1 です。u(k)=1u(k)=1 となる kk は存在しないので(k−i=k+ik-i=k+i は不可能)、(U−1)g=0(U-1)g=0 なら g=0g=0 a.e. で、11 は固有値ではありません。一方 k→±∞k\to\pm\infty で u(k)→1u(k)\to1 なので、11 は uu の本質的値域(任意の近傍の逆像が正測度になる値の全体)に属し、σ(U)\sigma(U) に含まれます。F({1})=0F(\{1\})=0 は「11 に原子がない」という条件で、11 がスペクトルに入ること(AA が非有界であること)とは両立します。κ\kappa が 11 の近傍を R\mathbb{R} の無限遠の近傍に写すので、1∈σ(U)1\in\sigma(U) は σ(P)\sigma(P) が非有界であることに対応します。

  • M. Reed and B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised ed., Academic Press, 1980 — 第 VII 章(有界作用素のスペクトル定理)、第 VIII 章(非有界作用素、スペクトル定理、VIII.5 節の可換性)。
  • K. Schmüdgen, Unbounded Self-adjoint Operators on Hilbert Space, Graduate Texts in Mathematics 265, Springer, 2012 — 第 4 章(射影値測度とスペクトル積分)、第 5 章(スペクトル分解と強可換性)。
  • G. Teschl, Mathematical Methods in Quantum Mechanics, Graduate Studies in Mathematics 99, American Mathematical Society, 2009 — 第 3 章(スペクトル定理)。
  • 新井朝雄・江沢洋『量子力学の数学的構造 I』朝倉書店、1999 — 作用素のスペクトル理論の章。
  • E. Nelson, “Analytic vectors”, Annals of Mathematics 70 (1959), 572–615.

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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