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解析的摂動論 II:Kato の変換関数・Puiseux 展開・Rellich の定理・Temple の下界

対象読者: 本テーマの作用素の収束と摂動の章(レゾルベント、リース射影、レイリー–シュレーディンガー級数)を学んだ人。多変数でなく 1 変数の解析関数を使えれば十分です。

前提となる記事:作用素の収束と摂動:レゾルベント収束・解析摂動・ミニマックス原理

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ある量子系にわずかな外力を加えると、エネルギーの値(固有値)はどう変わるでしょうか。固有値が一つだけなら、外力の大きさの冪級数で追えます。ところが同じ値の固有値が複数重なっている場合は、外力を入れた途端に分かれたり、κ\sqrt{\kappa} のように動いたりしえます。この記事では、そうした分かれ方を有限の大きさの行列の問題に直して調べ、自己共役な場合には分岐が起こらないことを示します。最後に、近似値から本当の固有値を上下から挟む方法も扱います。

  • 固有射影 P(κ)P(\kappa) が κ\kappa について解析的なとき、微分方程式 U′=[P′,P]UU'=[P',P]U の解 U(κ)U(\kappa)(Kato の変換関数)は P(κ)U(κ)=U(κ)P(0)P(\kappa)U(\kappa)=U(\kappa)P(0) を満たし、実の κ\kappa ではユニタリです。これで κ\kappa ごとに動く固有空間を固定した空間に引き戻し、縮退した固有値の問題を m×mm\times m 行列の解析族に縮約できます。
  • 解析的な係数をもつ多項式の根は、0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho では長さ pp の巡回をなし、各巡回は κ1/p\kappa^{1/p} のべき級数で表されます(Puiseux 展開)。固有値が分岐する(κ\sqrt{\kappa} のように振る舞う)のは、この巡回の長さが 22 以上のときです。
  • 実の κ\kappa で自己共役な族では巡回の長さは必ず 11 で、固有値と固有射影は交差を含めて解析的に選べます(Rellich の定理)。
  • 単純固有値の Rayleigh–Schrödinger 級数は、簡約レゾルベント SS を使った漸化式 En=⟨Bφ0,χn−1⟩E_n=\langle B\varphi_0,\chi_{n-1}\rangle、χn=S(−Bχn−1+∑k=1n−1Ekχn−k)\chi_n=S(-B\chi_{n-1}+\sum_{k=1}^{n-1}E_k\chi_{n-k}) で全次数が決まり、収束半径の下界も具体的に書けます。Hellmann–Feynman の定理 E′(κ)=⟨ψ(κ),Bψ(κ)⟩E'(\kappa)=\langle\psi(\kappa),B\psi(\kappa)\rangle は、固有ベクトルが連続でありさえすれば成り立ちます。
  • 試行関数 ψ\psi の 2 次のずれ ε2=∥(A−η)ψ∥2\varepsilon^2=\|(A-\eta)\psi\|^2 から、固有値を上下から挟む Kato–Temple の不等式が得られます。部分空間の上の作用素で全空間の作用素を近似する一般化強レゾルベント収束では、スペクトルは極限で消えません。

作用素の収束と摂動 の §5 では、自己共役作用素 AA の孤立した有限多重度の固有値 E0E_0 が相対有界な摂動 Aκ=A+κBA_\kappa=A+\kappa B のもとでどう動くかを調べ、リース射影 P(κ)P(\kappa) の解析性、単純固有値の解析性、Rayleigh–Schrödinger 級数の 2 次までを示しました。そこで残った問いが三つあります。

一つ目は縮退した固有値です。E0E_0 の多重度が m≥2m\ge 2 だと、P(κ)P(\kappa) は解析的でも、その値域の中で mm 個の固有値が個別にどう動くかは分かりません。非対称な 2×22\times 2 行列 (01κ0)\begin{pmatrix}0&1\\\kappa&0\end{pmatrix} の固有値 ±κ\pm\sqrt\kappa のように、固有値は一般には κ\kappa の解析関数になりません。どのような分岐が起こりうるのか(Puiseux 展開)、自己共役性がそれをどう禁じるのか(Rellich の定理)が本記事の前半の主題です。

二つ目は級数の高次です。量子力学の教科書の摂動論は 2 次や 3 次で止まりますが、定理として扱うには全次数の係数と収束半径が必要です。

三つ目は数値的な検証です。変分法(Rayleigh–Ritz)は固有値の上界しか与えません。計算機で得た近似固有値を定理の一部として使うには下界も必要で、それを与えるのが Temple と Kato の不等式です。また、有限の箱で計算した結果を全空間の作用素と比べるには、異なる Hilbert 空間上の作用素の収束を定式化する必要があります。

以下 H\mathcal{H} は複素 Hilbert 空間です。Banach 空間(とくに B(H)B(\mathcal{H}))に値をとる関数 FF が円板 ∣κ∣<ρ|\kappa|<\rho 上で解析的であるとは、各点の近くでノルム収束するべき級数に展開できることをいいます。積・和・ノルム収束する一様な極限・径路積分は解析性を保ち、⟨φ,F(κ)ψ⟩\langle\varphi,F(\kappa)\psi\rangle を考えれば、一致の定理や Cauchy の積分公式は複素関数の場合に帰着します。

本記事を通じて、作用素の収束と摂動 の設定と記号を使います。

  • AA は自己共役、BB は対称で D(A)⊂D(B)D(A)\subset D(B)、∥Bφ∥≤a∥Aφ∥+b∥φ∥\|B\varphi\|\le a\|A\varphi\|+b\|\varphi\|。Aκ=A+κBA_\kappa=A+\kappa B(D(Aκ)=D(A)D(A_\kappa)=D(A))。
  • E0E_0 は AA の孤立固有値で多重度 m<∞m<\infty、d=dist(E0,σ(A)∖{E0})d=\mathrm{dist}(E_0,\sigma(A)\setminus\{E_0\})、Γ={∣z−E0∣=r}\Gamma=\{|z-E_0|=r\}(0<r<d0<r<d)、δ=min⁡(r,d−r)\delta=\min(r,d-r)、M=sup⁡z∈Γ∥B(A−z)−1∥M=\sup_{z\in\Gamma}\|B(A-z)^{-1}\|、κ0=min⁡(1/M,1/a)\kappa_0=\min(1/M,1/a)。
  • P(κ)=−12πi∮Γ(Aκ−z)−1dzP(\kappa)=-\frac{1}{2\pi i}\oint_\Gamma(A_\kappa-z)^{-1}dz はリース射影(定義 5.1[作用素の収束と摂動])。

定理 5.4[作用素の収束と摂動] により、実の ∣κ∣<κ0|\kappa|<\kappa_0 では P(κ)P(\kappa) は階数 mm の直交射影で AκA_\kappa のスペクトル射影です。その定理は ∣κ∣<κ0|\kappa|<\kappa_0 で述べられていますが、証明の級数 (Aκ−z)−1=(A−z)−1∑k≥0(−κ)k(B(A−z)−1)k(A_\kappa-z)^{-1}=(A-z)^{-1}\sum_{k\ge0}(-\kappa)^k(B(A-z)^{-1})^k は ∣κ∣<1/M|\kappa|<1/M で z∈Γz\in\Gamma について一様にノルム収束し、D(A)D(A) 上で Aκ−z=(1+κB(A−z)−1)(A−z)A_\kappa-z=(1+\kappa B(A-z)^{-1})(A-z) なので Γ⊂ρ(Aκ)\Gamma\subset\rho(A_\kappa) です(ここでは aa による制限は不要で、1/a1/a は実の κ\kappa での自己共役性にだけ使われます)。したがって ∣κ∣<1/M|\kappa|<1/M で P(κ)P(\kappa) は解析的で、P(κ)=∑kκkPkP(\kappa)=\sum_k\kappa^kP_k、∥Pk∥≤rMk/δ\|P_k\|\le rM^k/\delta が成り立ちます。これに加えて、作用素 AA を掛けても解析性が保たれることを確認します。次の補題は、AA が非有界でも、AP(κ)AP(\kappa) を有界作用素として扱えるようにするためのものです(グラフノルムは、∥φ∥+∥Aφ∥\|\varphi\|+\|A\varphi\| で測るノルムのことです)。

補題 2.1(グラフノルムでの解析性)✓

∣κ∣<1/M|\kappa|<1/M のとき、AP(κ)AP(\kappa) と AκP(κ)=−12πi∮Γz(Aκ−z)−1dzA_\kappa P(\kappa)=-\frac{1}{2\pi i}\oint_\Gamma z(A_\kappa-z)^{-1}dz は H\mathcal{H} 上の有界作用素で、κ\kappa について解析的である。特に P(κ)P(\kappa) は D(A)D(A) に値をとり、κ↦P(κ)ψ\kappa\mapsto P(\kappa)\psi は D(A)D(A) のグラフノルムについて解析的である。

証明(補題 2.1)

既出の定理の証明により、z∈Γz\in\Gamma で (Aκ−z)−1=(A−z)−1∑k≥0(−κ)k(B(A−z)−1)k(A_\kappa-z)^{-1}=(A-z)^{-1}\sum_{k\ge 0}(-\kappa)^k(B(A-z)^{-1})^k が zz について一様にノルム収束する。左から AA を掛けると、∥A(A−z)−1∥≤1+(∣E0∣+r)/δ\|A(A-z)^{-1}\|\le 1+(|E_0|+r)/\delta は z∈Γz\in\Gamma で一様に有界なので、A(Aκ−z)−1A(A_\kappa-z)^{-1} も同じ級数で一様に収束する解析的な関数である。これを Γ\Gamma 上で積分すれば AP(κ)AP(\kappa) が解析的で、AA が閉なので積分と AA は交換する。Aκ(Aκ−z)−1=1+z(Aκ−z)−1A_\kappa(A_\kappa-z)^{-1}=1+z(A_\kappa-z)^{-1} と ∮Γdz=0\oint_\Gamma dz=0 から AκP(κ)A_\kappa P(\kappa) の表示が出る。

縮退した固有値を扱う最初の障害は、固有空間 Ran P(κ)\mathrm{Ran}\,P(\kappa) が κ\kappa とともに動くことです。基底を κ\kappa について解析的に選べれば、AκA_\kappa を Ran P(κ)\mathrm{Ran}\,P(\kappa) に制限したものを m×mm\times m 行列として書けます。そのための道具が変換関数です。この節では、P(κ)P(\kappa) は円板 ∣κ∣<ρ|\kappa|<\rho 上の解析的な有界作用素の族で、各 κ\kappa で P(κ)2=P(κ)P(\kappa)^2=P(\kappa)(冪等)を満たすとします。′' は κ\kappa についての微分です。

補題 3.1(冪等族の微分)✓

PP′P=0PP'P=0 が成り立つ。さらに Q=P′P−PP′Q=P'P-PP' とおくと P′=QP−PQP'=QP-PQ である。

証明(補題 3.1)

P2=PP^2=P を微分して P′P+PP′=P′P'P+PP'=P'。左右から PP を掛けると PP′P+PP′P=PP′PPP'P+PP'P=PP'P なので PP′P=0PP'P=0。これを使うと QP=P′P−PP′P=P′PQP=P'P-PP'P=P'P、PQ=PP′P−PP′=−PP′PQ=PP'P-PP'=-PP' なので、QP−PQ=P′P+PP′=P′QP-PQ=P'P+PP'=P'。

定理 3.2(Kato の変換関数)✓

円板 ∣κ∣<ρ|\kappa|<\rho 上の解析的な冪等族 P(κ)P(\kappa) に対し、Q=P′P−PP′Q=P'P-PP' として初期値問題

U′(κ)=Q(κ)U(κ),U(0)=1U'(\kappa)=Q(\kappa)U(\kappa),\qquad U(0)=1

の解 U(κ)U(\kappa) が円板全体で解析的に存在する。U(κ)U(\kappa) は可逆で、すべての κ\kappa について

P(κ)U(κ)=U(κ)P(0)P(\kappa)U(\kappa)=U(\kappa)P(0)

が成り立つ。さらに実の κ∈(−ρ,ρ)\kappa\in(-\rho,\rho) で P(κ)P(\kappa) が直交射影なら、そこで U(κ)U(\kappa) はユニタリである。

証明(定理 3.2)

存在。 0<ρ′<ρ0<\rho'<\rho を固定し、q=sup⁡∣κ∣≤ρ′∥Q(κ)∥q=\sup_{|\kappa|\le\rho'}\|Q(\kappa)\| とする。U0=1U_0=1、Un+1(κ)=1+∫0κQ(ζ)Un(ζ) dζU_{n+1}(\kappa)=1+\int_0^\kappa Q(\zeta)U_n(\zeta)\,d\zeta(線分に沿う積分)と定めると、帰納法で ∥Un+1(κ)−Un(κ)∥≤(q∣κ∣)n+1/(n+1)!\|U_{n+1}(\kappa)-U_n(\kappa)\|\le(q|\kappa|)^{n+1}/(n+1)! が成り立つ(∣ζ∣≤∣κ∣|\zeta|\le|\kappa| 上で前段の評価を積分する)。円板上の解析関数の原始関数は解析的なので各 UnU_n は解析的で、UnU_n は ∣κ∣≤ρ′|\kappa|\le\rho' で一様収束する。極限 UU は解析的で U(κ)=1+∫0κQU dζU(\kappa)=1+\int_0^\kappa QU\,d\zeta を満たし、微分して U′=QUU'=QU。ρ′\rho' は任意である。

一意性。 解析的な WW が W′=QWW'=QW(あるいは後で使う W′=[Q,W]W'=[Q,W] や W′=−WQW'=-WQ)を満たすなら、両辺を κ=0\kappa=0 で nn 回微分した Leibniz の公式から W(n+1)(0)W^{(n+1)}(0) は W(0),…,W(n)(0)W(0),\dots,W^{(n)}(0) と QQ の微分係数で決まる。したがって W(0)W(0) が同じなら Taylor 係数がすべて一致し、解は一致する。

可逆性。 同様に V′=−VQV'=-VQ、V(0)=1V(0)=1 の解析的な解 VV を取る。(VU)′=−VQU+VQU=0(VU)'=-VQU+VQU=0 なので VU=1VU=1。W=UVW=UV は W′=QUV−UVQ=[Q,W]W'=QUV-UVQ=[Q,W]、W(0)=1W(0)=1 を満たし、定数 11 も同じ方程式の解なので、一意性から UV=1UV=1。よって U−1=VU^{-1}=V。

PU=UP(0)PU=UP(0)。 X=VPUX=VPU とおくと、補題 3.1 の P′=QP−PQP'=QP-PQ を使って

X′=−VQPU+V(QP−PQ)U+VPQU=0X'=-VQPU+V(QP-PQ)U+VPQU=0

なので X(κ)=P(0)X(\kappa)=P(0)、すなわち P(κ)U(κ)=U(κ)P(0)P(\kappa)U(\kappa)=U(\kappa)P(0)。

ユニタリ性。 実の κ\kappa で P(κ)∗=P(κ)P(\kappa)^*=P(\kappa) なら、実軸に沿った微分も自己共役で P′∗=P′P'^*=P'、したがって Q∗=PP′−P′P=−QQ^*=PP'-P'P=-Q。実軸上で (U∗U)′=U∗Q∗U+U∗QU=0(U^*U)'=U^*Q^*U+U^*QU=0 なので U∗U=1U^*U=1。UU は可逆なので U∗=U−1U^*=U^{-1}。

U(κ)U(\kappa) は「Ran P(0)\mathrm{Ran}\,P(0) を Ran P(κ)\mathrm{Ran}\,P(\kappa) へ最短距離で回す」作用素です。生成子 QQ は Ran P\mathrm{Ran}\,P と Ran(1−P)\mathrm{Ran}(1-P) を入れ替える成分だけをもつので(PQP=0PQP=0、(1−P)Q(1−P)=0(1-P)Q(1-P)=0 が 補題 3.1 から従う)、Ran P(κ)\mathrm{Ran}\,P(\kappa) の内部で余計な回転を起こしません。物理では断熱定理の「断熱的な時間発展」がこの UU です。

系 3.3(縮退固有値の有限行列への縮約)✓

§2 の設定で、∣κ∣<1/M|\kappa|<1/M において U(κ)U(\kappa) を P(κ)P(\kappa) の変換関数とし、M=Ran P(0)=Ker(A−E0)\mathcal{M}=\mathrm{Ran}\,P(0)=\mathrm{Ker}(A-E_0)(mm 次元)上の作用素

T(κ)=U(κ)−1AκP(κ)U(κ)∣MT(\kappa)=U(\kappa)^{-1}A_\kappa P(\kappa)U(\kappa)\big|_{\mathcal{M}}

を考える。T(κ)T(\kappa) は M\mathcal{M} を M\mathcal{M} に写し、M\mathcal{M} の正規直交基底で表した m×mm\times m 行列は κ\kappa について解析的である。実の ∣κ∣<κ0|\kappa|<\kappa_0 では T(κ)T(\kappa) は自己共役で、その固有値(重複度込み)は σ(Aκ)∩(E0−r,E0+r)\sigma(A_\kappa)\cap(E_0-r,E_0+r) の固有値(重複度込み)に一致する。さらに φ∈M\varphi\in\mathcal{M} について AκU(κ)φ=U(κ)T(κ)φA_\kappa U(\kappa)\varphi=U(\kappa)T(\kappa)\varphi である。

証明(系 3.3)

補題 2.1 から AκP(κ)A_\kappa P(\kappa) は有界解析的で、U,U−1U,U^{-1} も解析的なので T(κ)T(\kappa) は解析的である。UU は M\mathcal{M} を Ran P(κ)\mathrm{Ran}\,P(\kappa) の上に写し(定理 3.2)、AκP(κ)A_\kappa P(\kappa) は P(κ)P(\kappa) と可換なので Ran P(κ)\mathrm{Ran}\,P(\kappa) を保ち、U−1U^{-1} は Ran P(κ)\mathrm{Ran}\,P(\kappa) を M\mathcal{M} に戻す。実の κ\kappa では UU はユニタリ、AκP(κ)A_\kappa P(\kappa) は自己共役(P(κ)P(\kappa) は AκA_\kappa のスペクトル射影)なので T(κ)T(\kappa) は自己共役で、Aκ∣RanP(κ)A_\kappa|_{\mathrm{Ran}P(\kappa)} とユニタリ同値である。後者の固有値が σ(Aκ)∩(E0−r,E0+r)\sigma(A_\kappa)\cap(E_0-r,E_0+r) であることは既出の定理の 3 による。最後の等式は UU−1=1UU^{-1}=1 と AκP(κ)=AκA_\kappa P(\kappa)=A_\kappa(Ran P(κ)\mathrm{Ran}\,P(\kappa) 上)から従う。

こうして無限次元の問題は、解析的な行列族の固有値の問題に帰着しました。次の 2 節ではこの有限次元の問題を解きます。

行列 T(κ)T(\kappa) の固有値は特性多項式 det⁡(λ−T(κ))\det(\lambda-T(\kappa)) の根なので、問題は「係数が κ\kappa の解析関数であるモニック多項式の根が κ\kappa にどう依存するか」です。κ\kappa の関数としての根の振る舞いは、根が重なる点(分岐点)を除けば解析的で、分岐点のまわりを一周すると根が入れ替わります。この入れ替わりの巡回の長さが分岐の次数になります。

この節の証明は長く、代数(多項式環)と位相(被覆空間)の道具を使います。定理の主張と、その後の例だけを読んでも、次の節以降の流れは追えます。補題 重根の除去 は、重根があると根の追跡が難しくなるので、重根のない多項式に取り替えておくためのものです。定理の証明は、根を κ\kappa の周りで一周ずつ追いかけ、一周したあとの根の入れ替わり方(置換)を調べる、という方針で進みます。

補題 4.1(根の大きさの評価)✓

λm+c1λm−1+⋯+cm=0\lambda^m+c_1\lambda^{m-1}+\dots+c_m=0 の根は ∣λ∣≤max⁡{1,∑j∣cj∣}|\lambda|\le\max\{1,\sum_j|c_j|\} を満たす。

証明(補題 4.1)

∣λ∣>1|\lambda|>1 なら ∣λ∣m=∣∑jcjλm−j∣≤∑j∣cj∣∣λ∣m−1|\lambda|^m=|\sum_jc_j\lambda^{m-j}|\le\sum_j|c_j||\lambda|^{m-1} なので ∣λ∣≤∑j∣cj∣|\lambda|\le\sum_j|c_j|。

補題 4.2(重根の除去)✓

p(κ,λ)=λm+c1(κ)λm−1+⋯+cm(κ)p(\kappa,\lambda)=\lambda^m+c_1(\kappa)\lambda^{m-1}+\dots+c_m(\kappa) の係数が κ=0\kappa=0 の近くで解析的とする。このとき ρ>0\rho>0 と、係数が ∣κ∣<ρ|\kappa|<\rho で解析的なモニック多項式 r(κ,λ)r(\kappa,\lambda) があり、0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho の各 κ\kappa で、r(κ,⋅)r(\kappa,\cdot) の根はすべて単根で、その集合は p(κ,⋅)p(\kappa,\cdot) の根の集合に一致する。さらに p=∏iqieip=\prod_iq_i^{e_i}、r=∏iqir=\prod_iq_i と分解でき、qiq_i たちは 0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho で共通根をもたない。

証明(補題 4.2)

κ=0\kappa=0 で収束するべき級数の環 R=C{κ}R=\mathbb{C}\{\kappa\} は、零でない元が κku\kappa^ku(uu は定数項が 00 でない単元)と一意に書けるので一意分解整域で、その分数体を KK とする。pp を K[λ]K[\lambda] でモニックな既約因子の積 ∏iqiei\prod_iq_i^{e_i}(qiq_i は互いに異なる)に分解すると、Gauss の補題(定理 3.4[多項式環と体の拡大])により各因子は R[λ]R[\lambda] のモニック多項式に取れる(最高次係数の積が 11 なので単元で割ってモニックにできる)。r=∏iqir=\prod_iq_i とおく。KK の標数は 00 なので既約多項式 qiq_i は自分の導関数と互いに素で、異なる qi,qjq_i,q_j も互いに素だから、rr と ∂λr\partial_\lambda r は K[λ]K[\lambda] で互いに素である。Euclid の互除法により αr+β ∂λr=1\alpha r+\beta\,\partial_\lambda r=1 となる α,β∈K[λ]\alpha,\beta\in K[\lambda] があり、分母を払うと

α~(κ,λ) r(κ,λ)+β~(κ,λ) ∂λr(κ,λ)=c(κ),c∈R, c≠0\tilde\alpha(\kappa,\lambda)\,r(\kappa,\lambda)+\tilde\beta(\kappa,\lambda)\,\partial_\lambda r(\kappa,\lambda)=c(\kappa),\qquad c\in R,\ c\ne 0

となる α~,β~∈R[λ]\tilde\alpha,\tilde\beta\in R[\lambda] がある。現れる有限個の級数がすべて収束し、かつ cc が κ=0\kappa=0 以外で零点をもたない(零点の孤立性)ような ρ\rho を取れば、0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho で r(κ,⋅)r(\kappa,\cdot) と ∂λr(κ,⋅)\partial_\lambda r(\kappa,\cdot) は共通根をもたず、r(κ,⋅)r(\kappa,\cdot) の根はすべて単根である。pp と rr の根の集合が一致するのは因子分解から明らかで、qiq_i と qjq_j の共通根は rr の重根になるので存在しない。

定理 4.3(Puiseux 展開)✓

p(κ,λ)p(\kappa,\lambda) を 補題 4.2 と同じモニック多項式とする。このとき ρ>0\rho>0、正の整数 p1,…,psp_1,\dots,p_s、および ∣t∣<ρ1/pj|t|<\rho^{1/p_j} で解析的な関数 f1,…,fsf_1,\dots,f_s があって、0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho と κ\kappa の pjp_j 乗根の一つ κ1/pj\kappa^{1/p_j} について、

{λ: p(κ,λ)=0}={fj(ωκ1/pj): 1≤j≤s, ωpj=1}\{\lambda:\ p(\kappa,\lambda)=0\}=\bigl\{f_j(\omega\kappa^{1/p_j}):\ 1\le j\le s,\ \omega^{p_j}=1\bigr\}

が成り立ち、すべての fj(ωκ1/pj)f_j(\omega\kappa^{1/p_j}) は互いに異なる。すなわち p(κ,⋅)p(\kappa,\cdot) の根は、κ1/pj\kappa^{1/p_j} のべき級数 ∑k≥0aj,kκk/pj\sum_{k\ge 0}a_{j,k}\kappa^{k/p_j}(Puiseux 級数)の pjp_j 個の値の組(巡回)に分かれる。

証明(定理 4.3)

補題 4.2 の ρ\rho と rr を取り(必要なら ρ\rho を小さくして係数が閉円板 ∣κ∣≤ρ|\kappa|\le\rho で有界になるようにする)、n=deg⁡rn=\deg r とする。半平面 Ω={s∈C:Re s<log⁡ρ}\Omega=\{s\in\mathbb{C}:\mathrm{Re}\,s<\log\rho\} は s↦ess\mapsto e^s で穴あき円板 0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho に写る。

段階 1(根の局所的な解析性)。 s1∈Ωs_1\in\Omega で r(es1,⋅)r(e^{s_1},\cdot) の nn 個の単根を λ1,…,λn\lambda_1,\dots,\lambda_n とし、互いに交わらない円板 Dj=D(λj,ε)D_j=D(\lambda_j,\varepsilon) を取る。根の連続性(定理 7.3[偏角の原理と Rouché の定理])から、s1s_1 の円板近傍 WW があって、s∈Ws\in W では各 DjD_j に r(es,⋅)r(e^s,\cdot) の根がちょうど一つ μj(s)\mu_j(s) あり、他に根はない。単根 μj\mu_j での z ∂λr/rz\,\partial_\lambda r/r の留数は μj\mu_j なので

μj(s)=12πi∮∂Djz ∂λr(es,z)r(es,z) dz\mu_j(s)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{\partial D_j}\frac{z\,\partial_\lambda r(e^s,z)}{r(e^s,z)}\,dz

で、被積分関数は ss について解析的(∂Dj\partial D_j 上で分母は 00 にならない)だから μj\mu_j は WW 上で解析的である。

段階 2(大域的な根の関数)。 X={(s,λ)∈Ω×C:r(es,λ)=0}X=\{(s,\lambda)\in\Omega\times\mathbb{C}: r(e^s,\lambda)=0\} と射影 π(s,λ)=s\pi(s,\lambda)=s を考える。段階 1 から π−1(W)\pi^{-1}(W) は互いに交わらない開集合 {(s,μj(s)):s∈W}\{(s,\mu_j(s)):s\in W\}(=X∩(W×Dj)=X\cap(W\times D_j))の合併で、それぞれ π\pi で WW と同相なので、π\pi は被覆写像である(定義 3.1[基本群と被覆空間])。Ω\Omega は凸なので単連結かつ局所道連結であり、持ち上げ定理(定理 5.1[基本群と被覆空間])を恒等写像 Ω→Ω\Omega\to\Omega に適用すると、基点 s0s_0 の上の各点 (s0,λj)(s_0,\lambda_j) を通る連続な切断 s↦(s,νj(s))s\mapsto(s,\nu_j(s)) がある。WW 上では切断は一つの層に入る(WW は連結)ので、νj\nu_j は局所的に段階 1 の μk\mu_k に一致し、解析的である。二つの切断が一点で一致すれば全体で一致する(補題 3.5[基本群と被覆空間])ので、ν1(s),…,νn(s)\nu_1(s),\dots,\nu_n(s) は各 ss で互いに異なり、r(es,⋅)r(e^s,\cdot) の根のすべてである。

段階 3(一周による置換)。 s↦νj(s+2πi)s\mapsto\nu_j(s+2\pi i) も根の連続な切断なので、一意性からある σ(j)\sigma(j) について νσ(j)\nu_{\sigma(j)} に一致する。σ\sigma は {1,…,n}\{1,\dots,n\} の置換である。σ\sigma の長さ pp の巡回 j,σ(j),…,σp−1(j)j,\sigma(j),\dots,\sigma^{p-1}(j) を一つ取り、0<∣t∣<ρ1/p0<|t|<\rho^{1/p} で

f(t)=νj(plog⁡t)f(t)=\nu_j(p\log t)

とおく。log⁡t\log t の分枝を 2πiℓ2\pi i\ell だけ取り替えると plog⁡tp\log t は 2πipℓ2\pi ip\ell ずれるが、νj(s+2πipℓ)=νσpℓ(j)(s)=νj(s)\nu_j(s+2\pi ip\ell)=\nu_{\sigma^{p\ell}(j)}(s)=\nu_j(s) なので ff は一価の解析関数である。eplog⁡t=tpe^{p\log t}=t^p だから f(t)f(t) は r(tp,⋅)r(t^p,\cdot) の根で、補題 4.1 から ff は有界である。リーマンの除去可能特異点定理(命題 6.3[正則関数の強力な性質])により ff は ∣t∣<ρ1/p|t|<\rho^{1/p} で解析的に延びる。κ=es\kappa=e^s と κ1/p=es/p\kappa^{1/p}=e^{s/p} について f(e2πiℓ/pκ1/p)=νj(s+2πiℓ)=νσℓ(j)(s)f(e^{2\pi i\ell/p}\kappa^{1/p})=\nu_j(s+2\pi i\ell)=\nu_{\sigma^\ell(j)}(s) なので、この巡回の根は f(ωκ1/p)f(\omega\kappa^{1/p})(ωp=1\omega^p=1)で尽くされる。すべての巡回についてこれを行えば主張を得る。

pj=1p_j=1 の巡回は κ=0\kappa=0 で解析的な根です。pj≥2p_j\ge 2 の巡回では、κ=0\kappa=0 のまわりを一周すると pjp_j 個の根が巡回的に入れ替わり、根は κ1/pj\kappa^{1/p_j} 程度の速さで分かれます。既出の例 5.6[作用素の収束と摂動] は p=2p=2 の巡回です。pjp_j は κ=0\kappa=0 での根の重複度を超えません。

例 4.4(例外点と PT 対称な 2 準位系)

T(κ)=(iκκ−i)T(\kappa)=\begin{pmatrix}i&\kappa\\\kappa&-i\end{pmatrix} の固有値は λ=±κ2−1\lambda=\pm\sqrt{\kappa^2-1} である。T(κ)T(\kappa) は(複素)対称行列だが、Hermite 行列ではない。κ=±1\kappa=\pm1 で二つの固有値は 00 に合流し、T(±1)T(\pm1) は対角化できない(T(1)2=0T(1)^2=0、T(1)≠0T(1)\ne 0)。κ=1\kappa=1 のまわりで κ−1=h\kappa-1=h とおくと λ=±2h (1+h/2)1/2=±2 h1/2(1+h4+O(h2))\lambda=\pm\sqrt{2h}\,(1+h/2)^{1/2}=\pm\sqrt2\,h^{1/2}\bigl(1+\tfrac{h}{4}+O(h^2)\bigr) で、長さ 22 の巡回の Puiseux 級数になっている。実の κ\kappa では、∣κ∣<1|\kappa|<1 で固有値は純虚数、∣κ∣>1|\kappa|>1 で実数で、例外点 κ=±1\kappa=\pm1 がその境目である(PT 対称性の破れ)。κ=0\kappa=0 の近くでは固有値 ±i1−κ2\pm i\sqrt{1-\kappa^2} は解析的で、分岐は起こらない。

注意 4.5(作用素への適用)

定理 3.2 は冪等族について述べたもので、自己共役性を使っていない。AA が閉作用素で E0E_0 が代数的多重度有限の孤立固有値のときも、リース射影は(直交とは限らない)冪等な有限階数作用素で、系 3.3 と同じ縮約により固有値の群は有限行列の固有値になる。したがって、非自己共役な解析族(共鳴の複素変形など)でも、孤立固有値から出る固有値の群は Puiseux 級数の巡回に分かれる。閉作用素のリース射影の性質の証明は Kato の教科書第 III 章 §6 にある。

自己共役な族では、実の κ\kappa に対して固有値がすべて実数であることが、分岐を禁じます。以下の証明では、Puiseux 展開の各巡回について、実の κ\kappa で値がすべて実数という条件を課すと巡回の長さが 11 に限られる、という順で進めます。

定理 5.1(Rellich の定理(行列版))✓

T(κ)T(\kappa) を ∣κ∣<ρ0|\kappa|<\rho_0 で解析的な m×mm\times m 行列の族とし、実の κ\kappa では Hermite 行列であるとする。このとき ρ>0\rho>0 と、∣κ∣<ρ|\kappa|<\rho で解析的な関数 μ1,…,μs\mu_1,\dots,\mu_s(互いに異なる関数)、および解析的な行列値関数 P1,…,PsP_1,\dots,P_s があって、次が成り立つ。

  1. 実の κ∈(−ρ,ρ)\kappa\in(-\rho,\rho) で μj(κ)\mu_j(\kappa) は実数、Pj(κ)P_j(\kappa) は直交射影で、PjPk=δjkPjP_jP_k=\delta_{jk}P_j、∑jPj=1\sum_jP_j=1。
  2. T(κ)=∑jμj(κ)Pj(κ)T(\kappa)=\sum_j\mu_j(\kappa)P_j(\kappa) がすべての ∣κ∣<ρ|\kappa|<\rho で成り立つ。PjP_j の階数は κ\kappa によらない。
証明(定理 5.1)

固有値の解析性。 特性多項式 det⁡(λ−T(κ))\det(\lambda-T(\kappa)) に 定理 4.3 を適用し、一つの巡回 (p,f)(p,f) を取る。実の κ>0\kappa>0 に対して κ1/p\kappa^{1/p} を正の実数 tt に取ると、f(ωt)f(\omega t)(ωp=1\omega^p=1)はすべて Hermite 行列 T(κ)T(\kappa) の固有値なので実数である。κ<0\kappa<0 に対しては κ1/p=eiπ/p∣κ∣1/p\kappa^{1/p}=e^{i\pi/p}|\kappa|^{1/p} と取れるので、f(ωeiπ/pt)f(\omega e^{i\pi/p}t) も実数である。f(t)=∑kaktkf(t)=\sum_ka_kt^k と展開する。t>0t>0 で f(t)f(t) が実数なので、実変数の実数値関数としての Taylor 係数 aka_k は実数である。t>0t>0 で f(eiπ/pt)=∑kakeiπk/ptkf(e^{i\pi/p}t)=\sum_ka_ke^{i\pi k/p}t^k も実数なので akeiπk/pa_ke^{i\pi k/p} も実数で、ak≠0a_k\ne 0 なら eiπk/p=±1e^{i\pi k/p}=\pm1、すなわち p∣kp\mid k。よって f(t)=h(tp)f(t)=h(t^p)(hh は解析的)で、巡回の pp 個の根 f(ωκ1/p)=h(κ)f(\omega\kappa^{1/p})=h(\kappa) はすべて等しい。巡回の根は互いに異なるので p=1p=1 である。したがって 0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho の根はすべて κ=0\kappa=0 で解析的な関数 μ1,…,μs\mu_1,\dots,\mu_s の値で、補題 4.2 から各 μj\mu_j の重複度は κ≠0\kappa\ne 0 で一定である。μj\mu_j は実軸上で実数である。

射影の解析性。 μj−μk\mu_j-\mu_k(j≠kj\ne k)は恒等的に 00 でない解析関数なので、ρ\rho を小さくすれば 0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho では零点をもたない。そこで

Pj(κ)=∏k≠jT(κ)−μk(κ)μj(κ)−μk(κ)P_j(\kappa)=\prod_{k\ne j}\frac{T(\kappa)-\mu_k(\kappa)}{\mu_j(\kappa)-\mu_k(\kappa)}

は 0<∣κ∣<ρ0<|\kappa|<\rho で解析的である。実の κ≠0\kappa\ne 0 では T(κ)T(\kappa) は相異なる固有値 μ1(κ),…,μs(κ)\mu_1(\kappa),\dots,\mu_s(\kappa) をもつ Hermite 行列なので、固有空間分解して各固有ベクトルに作用させれば、Pj(κ)P_j(\kappa) は固有値 μj(κ)\mu_j(\kappa) の固有空間への直交射影であり、特に ∥Pj(κ)∥≤1\|P_j(\kappa)\|\le 1。PjP_j の各成分は解析関数の商なので、κ=0\kappa=0 は高々極である。極であるとすると、Laurent 展開の最低次 κ−NC−N\kappa^{-N}C_{-N}(N≥1N\ge 1、C−N≠0C_{-N}\ne 0)から実軸上で ∥κNPj(κ)∥→∥C−N∥≠0\|\kappa^NP_j(\kappa)\|\to\|C_{-N}\|\ne 0 となるが、左辺は ∣κ∣N|\kappa|^N 以下なので 00 に収束し、矛盾する。よって PjP_j は ∣κ∣<ρ|\kappa|<\rho で解析的である。等式 PjPk=δjkPjP_jP_k=\delta_{jk}P_j、∑Pj=1\sum P_j=1、T=∑μjPjT=\sum\mu_jP_j は実の κ≠0\kappa\ne 0 で成り立つので、一致の定理により円板全体で成り立つ。実の κ=0\kappa=0 でも直交射影であることは連続性による。冪等行列の階数はトレースに等しく、トレースは κ\kappa の連続な整数値関数なので一定である。

証明の要は、「f(t)f(t) が 2p2p 本の半直線の上で実数値をとる」ことから tpt^p の関数であることを導く部分です。非 Hermite な例 4.4 では、実の κ\kappa でも固有値が純虚数になりうるので、この議論が使えません。

定理 5.2(Rellich の定理(作用素版))✓

§2 の設定で、E0E_0 の多重度を mm とする。κ1>0\kappa_1>0 と、(−κ1,κ1)(-\kappa_1,\kappa_1) 上の実解析関数 E1(κ),…,Em(κ)E_1(\kappa),\dots,E_m(\kappa)(Ej(0)=E0E_j(0)=E_0、重複を許す)、および各実 κ\kappa で正規直交な ψ1(κ),…,ψm(κ)∈D(A)\psi_1(\kappa),\dots,\psi_m(\kappa)\in D(A) があり、κ↦ψj(κ)\kappa\mapsto\psi_j(\kappa) は D(A)D(A) のグラフノルムについて実解析的で、

Aκψj(κ)=Ej(κ)ψj(κ),σ(Aκ)∩(E0−r,E0+r)={E1(κ),…,Em(κ)}A_\kappa\psi_j(\kappa)=E_j(\kappa)\psi_j(\kappa),\qquad \sigma(A_\kappa)\cap(E_0-r,E_0+r)=\{E_1(\kappa),\dots,E_m(\kappa)\}

が成り立つ。

証明(定理 5.2)

系 3.3 の T(κ)T(\kappa) に 定理 5.1 を適用し、μj\mu_j、PjP_j を得る。Pj(κ)P_j(\kappa) は M\mathcal{M} 上の解析的な冪等族で実軸上で直交射影なので、定理 3.2 を M\mathcal{M} の中で適用した変換関数 Uj(κ)U_j(\kappa) は実軸上でユニタリで、Pj(κ)Uj(κ)=Uj(κ)Pj(0)P_j(\kappa)U_j(\kappa)=U_j(\kappa)P_j(0)。Ran Pj(0)\mathrm{Ran}\,P_j(0) の正規直交基底 ee に対し U(κ)Uj(κ)eU(\kappa)U_j(\kappa)e を考え、すべての jj についてまとめて ψ1,…,ψm\psi_1,\dots,\psi_m と番号を付け直し、対応する μj\mu_j を E1,…,EmE_1,\dots,E_m とする。U(κ)U(\kappa) と Uj(κ)U_j(\kappa) は実軸上でユニタリなので ψk(κ)\psi_k(\kappa) は正規直交で、系 3.3 の最後の等式から Aκψk=U T Uje=μjU Uje=EkψkA_\kappa\psi_k=U\,T\,U_je=\mu_jU\,U_je=E_k\psi_k。グラフノルムでの解析性は、ψk=P(κ)ψk\psi_k=P(\kappa)\psi_k と 補題 2.1 による。κ1\kappa_1 は 1/M1/M、κ0\kappa_0 と 定理 5.1 の ρ\rho の最小値に取ればよい。

例 5.3(交差する固有値と順序づけた固有値)

T(κ)=(κκκ−κ)T(\kappa)=\begin{pmatrix}\kappa&\kappa\\\kappa&-\kappa\end{pmatrix} の固有値は ±2 κ\pm\sqrt2\,\kappa で、κ=0\kappa=0 で交差する。Rellich の定理が与える解析的な枝は 2κ\sqrt2\kappa と −2κ-\sqrt2\kappa であり、大きさの順に並べた固有値 2∣κ∣\sqrt2|\kappa|、−2∣κ∣-\sqrt2|\kappa| は κ=0\kappa=0 で微分可能でさえない。固有値を「下から nn 番目」と番号づけると解析性が失われるので、Rellich の定理は番号づけを取り替えることを許した主張である。

κλHermite:交差κRe λ非 Hermite:分岐
左:Hermite な族では、固有値は交差しても解析的な枝(直線)として続く(Rellich)。右:非 Hermite な族 [[0,1],[κ,0]] では、実の κ に対する固有値 ±√κ が κ = 0 で分岐し、κ < 0 では実軸を離れる(破線は実部 0 を表す)。

注意 5.4(2 径数では交差は円錐になる)

Rellich の定理は 1 径数の族に特有である。2 径数の Hermite 族 (κ1κ2κ2−κ1)\begin{pmatrix}\kappa_1&\kappa_2\\\kappa_2&-\kappa_1\end{pmatrix} の固有値 ±(κ12+κ22)1/2\pm(\kappa_1^2+\kappa_2^2)^{1/2} は原点で円錐状の交差(Dirac 錐)をなし、どのように枝を選んでも原点で解析的にならない。一般の実対称行列の族では、固有値の交差が起こるのは余次元 2 の集合の上であり(von Neumann–Wigner)、1 径数の族では交差は「たまたま」しか起こらない(回避交差)。

6. Rayleigh–Schrödinger 級数の全次数と Hellmann–Feynman の定理

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この節では m=1m=1 とし、φ0\varphi_0 を E0E_0 の単位固有ベクトル、Q0=1−⟨φ0,⋅⟩φ0Q_0=1-\langle\varphi_0,\cdot\rangle\varphi_0、S=∫σ(A)∖{E0}(λ−E0)−1dEA(λ)S=\int_{\sigma(A)\setminus\{E_0\}}(\lambda-E_0)^{-1}dE_A(\lambda) を簡約レゾルベントとします(命題 5.5[作用素の収束と摂動] と同じ記号)。関数計算から ∥S∥≤1/d\|S\|\le 1/d、Sφ0=0S\varphi_0=0、ψ∈D(A)\psi\in D(A) について S(A−E0)ψ=Q0ψS(A-E_0)\psi=Q_0\psi です。また r=d/2r=d/2 と取り、対応する MM を使います(このとき δ=d/2\delta=d/2)。

定理 6.1(Rayleigh–Schrödinger 級数(全次数))✓

∣κ∣<1/(2M)|\kappa|<1/(2M) で n(κ)=⟨φ0,P(κ)φ0⟩≠0n(\kappa)=\langle\varphi_0,P(\kappa)\varphi_0\rangle\ne 0 であり、

χ(κ)=P(κ)φ0n(κ),E(κ)=⟨φ0,AκP(κ)φ0⟩n(κ)\chi(\kappa)=\frac{P(\kappa)\varphi_0}{n(\kappa)},\qquad E(\kappa)=\frac{\langle\varphi_0,A_\kappa P(\kappa)\varphi_0\rangle}{n(\kappa)}

はそれぞれ D(A)D(A)(グラフノルム)と C\mathbb{C} に値をとる解析関数である。実の ∣κ∣<min⁡{κ0,1/(2M)}|\kappa|<\min\{\kappa_0,1/(2M)\} では E(κ)E(\kappa) は AκA_\kappa の (E0−r,E0+r)(E_0-r,E_0+r) 内の唯一の固有値で、χ(κ)\chi(\kappa) は ⟨φ0,χ(κ)⟩=1\langle\varphi_0,\chi(\kappa)\rangle=1 と正規化された固有ベクトルである。べき級数 E(κ)=∑n≥0EnκnE(\kappa)=\sum_{n\ge 0}E_n\kappa^n、χ(κ)=∑n≥0χnκn\chi(\kappa)=\sum_{n\ge 0}\chi_n\kappa^n の係数は、χ0=φ0\chi_0=\varphi_0 と漸化式

En=⟨Bφ0,χn−1⟩,χn=S(−Bχn−1+∑k=1n−1Ekχn−k)(n≥1)E_n=\langle B\varphi_0,\chi_{n-1}\rangle,\qquad \chi_n=S\Bigl(-B\chi_{n-1}+\sum_{k=1}^{n-1}E_k\chi_{n-k}\Bigr)\qquad(n\ge 1)

で定まり、これらの級数は ∣κ∣<1/(2M)|\kappa|<1/(2M) で収束する。

証明(定理 6.1)

∥Pk∥≤rMk/δ=Mk\|P_k\|\le rM^k/\delta=M^k から ∥P(κ)−P(0)∥≤∑k≥1(∣κ∣M)k=∣κ∣M/(1−∣κ∣M)\|P(\kappa)-P(0)\|\le\sum_{k\ge1}(|\kappa|M)^k=|\kappa|M/(1-|\kappa|M) で、∣κ∣M<1/2|\kappa|M<1/2 ならこれは 11 未満である。P(0)φ0=φ0P(0)\varphi_0=\varphi_0 なので ∣n(κ)−1∣<1|n(\kappa)-1|<1、特に n(κ)≠0n(\kappa)\ne 0。補題 2.1 から χ\chi はグラフノルムで、EE は複素数値として解析的である。

実の小さな κ\kappa では P(κ)P(\kappa) は AκA_\kappa の階数 1 のスペクトル射影なので、Aκχ(κ)=E′χ(κ)A_\kappa\chi(\kappa)=E'\chi(\kappa) となる固有値 E′E' があり、⟨φ0,χ⟩=1\langle\varphi_0,\chi\rangle=1 から E′=⟨φ0,Aκχ⟩=E(κ)E'=\langle\varphi_0,A_\kappa\chi\rangle=E(\kappa) である。等式 Aκχ(κ)=E(κ)χ(κ)A_\kappa\chi(\kappa)=E(\kappa)\chi(\kappa) の両辺は κ\kappa について解析的(AχA\chi は 補題 2.1 により、BχB\chi は BB がグラフノルムについて有界なので解析的)なので、一致の定理により ∣κ∣<1/(2M)|\kappa|<1/(2M) 全体で成り立つ。級数 χ=∑κnχn\chi=\sum\kappa^n\chi_n はグラフノルムで収束するので、κn\kappa^n の係数を比べて

(A−E0)χn=−Bχn−1+∑k=1nEkχn−k(n≥1).(A-E_0)\chi_n=-B\chi_{n-1}+\sum_{k=1}^{n}E_k\chi_{n-k}\qquad(n\ge 1).

⟨φ0,χ(κ)⟩=1\langle\varphi_0,\chi(\kappa)\rangle=1 から ⟨φ0,χn⟩=δn0\langle\varphi_0,\chi_n\rangle=\delta_{n0}。上式と φ0\varphi_0 の内積を取ると、左辺は ⟨(A−E0)φ0,χn⟩=0\langle(A-E_0)\varphi_0,\chi_n\rangle=0、右辺の和は k=nk=n の項だけが残るので En=⟨φ0,Bχn−1⟩=⟨Bφ0,χn−1⟩E_n=\langle\varphi_0,B\chi_{n-1}\rangle=\langle B\varphi_0,\chi_{n-1}\rangle(BB の対称性)。次に上式に SS を作用させると、S(A−E0)χn=Q0χn=χnS(A-E_0)\chi_n=Q_0\chi_n=\chi_n(n≥1n\ge1)と Sχ0=Sφ0=0S\chi_0=S\varphi_0=0 から χn\chi_n の漸化式を得る。

低次を書き下すと E1=⟨φ0,Bφ0⟩E_1=\langle\varphi_0,B\varphi_0\rangle、χ1=−SBφ0\chi_1=-SB\varphi_0、E2=−⟨Bφ0,SBφ0⟩E_2=-\langle B\varphi_0,SB\varphi_0\rangle、

χ2=SBSBφ0−E1S2Bφ0,E3=⟨Bφ0,SBSBφ0⟩−E1⟨Bφ0,S2Bφ0⟩\chi_2=SBSB\varphi_0-E_1S^2B\varphi_0,\qquad E_3=\langle B\varphi_0,SBSB\varphi_0\rangle-E_1\langle B\varphi_0,S^2B\varphi_0\rangle

です。2 次までは既出の命題と一致します。収束半径の下界 1/(2M)1/(2M) は、摂動が AA のスペクトルの隙間 dd に比べてどれだけ小さいかで決まり、BB が有界なら M≤∥B∥/δ=2∥B∥/dM\le\|B\|/\delta=2\|B\|/d なので、∣κ∣∥B∥<d/4|\kappa|\|B\|<d/4 で級数が収束します。

次の定理は、固有値の微分が摂動の期待値に等しいことを述べます。量子化学で原子核に働く力を計算するときに使われる式です。

定理 6.2(Hellmann–Feynman の定理)✓

II を実区間、E(κ)E(\kappa)(κ∈I\kappa\in I)を AκA_\kappa の固有値、ψ(κ)∈D(A)\psi(\kappa)\in D(A) を対応する単位固有ベクトルとし、κ↦ψ(κ)\kappa\mapsto\psi(\kappa) は H\mathcal{H} のノルムで連続とする。このとき EE は II で微分可能で

E′(κ)=⟨ψ(κ),Bψ(κ)⟩.E'(\kappa)=\langle\psi(\kappa),B\psi(\kappa)\rangle .
証明(定理 6.2)

κ,κ′∈I\kappa,\kappa'\in I について、Aκ′=Aκ+(κ′−κ)BA_{\kappa'}=A_\kappa+(\kappa'-\kappa)B と AκA_\kappa、BB の対称性から

E(κ′)⟨ψ(κ),ψ(κ′)⟩=⟨ψ(κ),Aκ′ψ(κ′)⟩=E(κ)⟨ψ(κ),ψ(κ′)⟩+(κ′−κ)⟨Bψ(κ),ψ(κ′)⟩.E(\kappa')\langle\psi(\kappa),\psi(\kappa')\rangle=\langle\psi(\kappa),A_{\kappa'}\psi(\kappa')\rangle=E(\kappa)\langle\psi(\kappa),\psi(\kappa')\rangle+(\kappa'-\kappa)\langle B\psi(\kappa),\psi(\kappa')\rangle .

よって κ′≠κ\kappa'\ne\kappa で

E(κ′)−E(κ)κ′−κ ⟨ψ(κ),ψ(κ′)⟩=⟨Bψ(κ),ψ(κ′)⟩.\frac{E(\kappa')-E(\kappa)}{\kappa'-\kappa}\,\langle\psi(\kappa),\psi(\kappa')\rangle=\langle B\psi(\kappa),\psi(\kappa')\rangle .

κ′→κ\kappa'\to\kappa で ⟨ψ(κ),ψ(κ′)⟩→1\langle\psi(\kappa),\psi(\kappa')\rangle\to 1、右辺は ⟨Bψ(κ),ψ(κ)⟩\langle B\psi(\kappa),\psi(\kappa)\rangle に収束するので主張を得る。

固有ベクトルの微分可能性も、Bψ(κ′)B\psi(\kappa') の連続性も使っていないことに注意してください。Bψ(κ)B\psi(\kappa) は固定したベクトルで、動くのは ψ(κ′)\psi(\kappa') だけです。単純固有値なら ψ(κ)=P(κ)φ0/∥P(κ)φ0∥\psi(\kappa)=P(\kappa)\varphi_0/\|P(\kappa)\varphi_0\| は連続なので仮定は満たされます。縮退がある場合は、Rellich の枝に沿って同じことが言えます。

系 6.3(縮退した固有値の 1 次摂動)✓

定理 5.2 の記号で、E1′(0),…,Em′(0)E_1'(0),\dots,E_m'(0) は P(0)BP(0)P(0)BP(0) を Ker(A−E0)\mathrm{Ker}(A-E_0) に制限した Hermite 作用素の固有値(重複度込み)であり、ψj(0)\psi_j(0) はその固有ベクトルである。

証明(系 6.3)

実の κ≠0\kappa\ne 0 で (A−E0)ψj(κ)+κBψj(κ)−(Ej(κ)−E0)ψj(κ)=0(A-E_0)\psi_j(\kappa)+\kappa B\psi_j(\kappa)-(E_j(\kappa)-E_0)\psi_j(\kappa)=0。P0=P(0)P_0=P(0) は AA のスペクトル射影なので ψ∈D(A)\psi\in D(A) について P0(A−E0)ψ=(A−E0)P0ψ=0P_0(A-E_0)\psi=(A-E_0)P_0\psi=0。P0P_0 を作用させて κ\kappa で割ると

P0Bψj(κ)=Ej(κ)−E0κ P0ψj(κ).P_0B\psi_j(\kappa)=\frac{E_j(\kappa)-E_0}{\kappa}\,P_0\psi_j(\kappa).

ψj\psi_j はグラフノルムで連続なので Bψj(κ)→Bψj(0)B\psi_j(\kappa)\to B\psi_j(0)(相対有界性)。κ→0\kappa\to 0 として P0Bψj(0)=Ej′(0)ψj(0)P_0B\psi_j(0)=E_j'(0)\psi_j(0)。ψ1(0),…,ψm(0)\psi_1(0),\dots,\psi_m(0) は mm 次元空間 Ker(A−E0)\mathrm{Ker}(A-E_0) の正規直交基底なので主張が従う。

物理の教科書で「縮退のある摂動論では、まず摂動を縮退空間で対角化する」と教える手順の根拠がこの系です。P0BP0P_0BP_0 の固有値が重なっている場合には、1 次では枝が分かれず、2 次以降で(χ\chi の漸化式に相当する縮約で)分かれます。

Rayleigh–Ritz の方法(系 6.4[作用素の収束と摂動])は固有値の上界を与えます。下界を得るには、試行関数がどれだけ固有ベクトルに近いかを測る量 ε\varepsilon と、スペクトルの隙間についての事前情報が必要です。以下、ψ∈D(A)\psi\in D(A)、∥ψ∥=1\|\psi\|=1 とし、

η=⟨ψ,Aψ⟩,ε=∥(A−η)ψ∥,ε2=∥Aψ∥2−η2\eta=\langle\psi,A\psi\rangle,\qquad \varepsilon=\|(A-\eta)\psi\|,\qquad \varepsilon^2=\|A\psi\|^2-\eta^2

とおきます。μψ=⟨ψ,EA(⋅)ψ⟩\mu_\psi=\langle\psi,E_A(\cdot)\psi\rangle は確率測度で、∫t dμψ=η\int t\,d\mu_\psi=\eta、∫(t−η)2dμψ=ε2\int(t-\eta)^2d\mu_\psi=\varepsilon^2 です。

補題 7.1(Weinstein の評価)✓

dist(η,σ(A))≤ε\mathrm{dist}(\eta,\sigma(A))\le\varepsilon である。

証明(補題 7.1)

D=dist(η,σ(A))D=\mathrm{dist}(\eta,\sigma(A)) とすると、μψ\mu_\psi は σ(A)\sigma(A) に台をもつので ε2=∫(t−η)2dμψ≥D2\varepsilon^2=\int(t-\eta)^2d\mu_\psi\ge D^2。

これは誤差 ε\varepsilon について 1 次の評価です。スペクトルの隙間が分かれば 2 次に改良できます。次の定理が述べる内容は、数直線の上に、固有値 λ\lambda の左右にスペクトルの無い区間 (α,λ)(\alpha,\lambda) と (λ,β)(\lambda,\beta) があるとき、近似値 η\eta の周りの区間に λ\lambda が入る、ということです。下の図はその配置の模式図です。

定理 7.2(Kato–Temple の不等式)✓

α<η<β\alpha<\eta<\beta で、σ(A)∩(α,β)={λ}\sigma(A)\cap(\alpha,\beta)=\{\lambda\}(1 点)とする。このとき

η−ε2β−η ≤ λ ≤ η+ε2η−α.\eta-\frac{\varepsilon^2}{\beta-\eta}\ \le\ \lambda\ \le\ \eta+\frac{\varepsilon^2}{\eta-\alpha}.
証明(定理 7.2)

t∈σ(A)t\in\sigma(A) なら t≤αt\le\alpha、t=λt=\lambda、t≥βt\ge\beta のいずれかである。g(t)=(t−α)(t−λ)g(t)=(t-\alpha)(t-\lambda) は、t≤αt\le\alpha では二つの因子がともに 00 以下(λ>α\lambda>\alpha)、t≥βt\ge\beta ではともに正(λ<β\lambda<\beta)、t=λt=\lambda では 00 なので、σ(A)\sigma(A) 上で g≥0g\ge 0。t−α=(t−η)+(η−α)t-\alpha=(t-\eta)+(\eta-\alpha)、t−λ=(t−η)+(η−λ)t-\lambda=(t-\eta)+(\eta-\lambda) と ∫(t−η)dμψ=0\int(t-\eta)d\mu_\psi=0 から

0≤∫g dμψ=ε2+(η−α)(η−λ),0\le\int g\,d\mu_\psi=\varepsilon^2+(\eta-\alpha)(\eta-\lambda),

すなわち λ≤η+ε2/(η−α)\lambda\le\eta+\varepsilon^2/(\eta-\alpha)。同様に h(t)=(t−β)(t−λ)h(t)=(t-\beta)(t-\lambda) も σ(A)\sigma(A) 上で非負で、0≤∫h dμψ=ε2+(η−β)(η−λ)0\le\int h\,d\mu_\psi=\varepsilon^2+(\eta-\beta)(\eta-\lambda) から λ≥η−ε2/(β−η)\lambda\ge\eta-\varepsilon^2/(\beta-\eta)。積分 ∫t2dμψ=∥Aψ∥2\int t^2d\mu_\psi=\|A\psi\|^2 が有限なのは ψ∈D(A)\psi\in D(A) による。

αβηλσ(A)σ(A)
Kato–Temple の不等式の配置(模式図)。スペクトルは α 以下、λ の 1 点、β 以上にあり、近似値 η と、λ を含む区間(太線)を示す。

系 7.3(Temple の不等式)✓

λ0=inf⁡σ(A)\lambda_0=\inf\sigma(A) が孤立固有値で、σ(A)∖{λ0}⊂[β,∞)\sigma(A)\setminus\{\lambda_0\}\subset[\beta,\infty)、η<β\eta<\beta とする。このとき

η−ε2β−η ≤ λ0 ≤ η.\eta-\frac{\varepsilon^2}{\beta-\eta}\ \le\ \lambda_0\ \le\ \eta .
証明(系 7.3)

上界は λ0=inf⁡σ(A)≤∫t dμψ=η\lambda_0=\inf\sigma(A)\le\int t\,d\mu_\psi=\eta による。下界は 定理 7.2 を α<min⁡{λ0,η}\alpha<\min\{\lambda_0,\eta\} として適用すればよい(λ0≤η\lambda_0\le\eta なので α<λ0\alpha<\lambda_0 と取れば十分)。

例 7.4(調和振動子の基底エネルギーの下界)

A=−d2/dx2+x2A=-d^2/dx^2+x^2 の固有値は 1,3,5,…1,3,5,\dots である。試行関数 ψa(x)=(a/π)1/4e−ax2/2\psi_a(x)=(a/\pi)^{1/4}e^{-ax^2/2}(a>0a>0)について、ψa′′=(a2x2−a)ψa\psi_a''=(a^2x^2-a)\psi_a から Aψa=(a+(1−a2)x2)ψaA\psi_a=(a+(1-a^2)x^2)\psi_a。Gauss 積分 ⟨x2⟩=1/(2a)\langle x^2\rangle=1/(2a)、⟨x4⟩=3/(4a2)\langle x^4\rangle=3/(4a^2) を使うと

η=a2+12a,∥Aψa∥2=1+3(1−a2)24a2,ε2=(a2−1)22a2.\eta=\frac{a^2+1}{2a},\qquad \|A\psi_a\|^2=1+\frac{3(1-a^2)^2}{4a^2},\qquad \varepsilon^2=\frac{(a^2-1)^2}{2a^2}.

a=2a=2 では η=5/4\eta=5/4、ε2=9/8\varepsilon^2=9/8 で、β=3\beta=3 とした 系 7.3 は 17/28≤λ0≤5/417/28\le\lambda_0\le 5/4 を与える。ところが ψa\psi_a は偶関数なので、偶関数の部分空間(AA を簡約する)で考えれば次の固有値は 55 で、β=5\beta=5 として 19/20≤λ0≤5/419/20\le\lambda_0\le 5/4 に改良される。真の値は 11 である。対称性で隙間を広げることが、Temple の不等式を実用的にする典型的な工夫である。

有限の箱の中で計算した作用素は、全空間の作用素とは別の Hilbert 空間に住んでいます。部分空間の上の作用素で近似する状況を扱うために、強レゾルベント収束(定義 3.1[作用素の収束と摂動])を拡張します。

定義 8.1(一般化強レゾルベント収束)↗

Hn⊂H\mathcal{H}_n\subset\mathcal{H} を閉部分空間、PnP_n をその上への直交射影、HnH_n を Hn\mathcal{H}_n の上の自己共役作用素、HH を H\mathcal{H} の上の自己共役作用素とする。すべての z∈C∖Rz\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{R} について (Hn−z)−1Pn→(H−z)−1(H_n-z)^{-1}P_n\to(H-z)^{-1} が H\mathcal{H} 上で強収束するとき、HnH_n は HH に一般化強レゾルベント収束するという。f(Hn)Pnf(H_n)P_n は Hn⊥\mathcal{H}_n^\perp 上で 00 とおいた H\mathcal{H} 上の作用素と考える。

補題 8.2(芯による判定)✓

DD を HH の芯とし、各 φ∈D\varphi\in D について、ある n0n_0 以降 φ∈D(Hn)\varphi\in D(H_n) かつ Hnφ→HφH_n\varphi\to H\varphi となるとする。このとき HnH_n は HH に一般化強レゾルベント収束し、Pn→1P_n\to 1 は強収束する。

証明(補題 8.2)

z∈C∖Rz\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{R} を固定し、Rn=(Hn−z)−1PnR_n=(H_n-z)^{-1}P_n、R=(H−z)−1R=(H-z)^{-1} とおく。∥Rn∥≤1/∣Im z∣\|R_n\|\le 1/|\mathrm{Im}\,z|。φ∈D\varphi\in D、n≥n0n\ge n_0 なら (Hn−z)φ∈Hn(H_n-z)\varphi\in\mathcal{H}_n なので Rn(Hn−z)φ=φR_n(H_n-z)\varphi=\varphi、したがって

Rn(H−z)φ−R(H−z)φ=Rn(H−z)φ−Rn(Hn−z)φ=Rn(Hφ−Hnφ)→0.R_n(H-z)\varphi-R(H-z)\varphi=R_n(H-z)\varphi-R_n(H_n-z)\varphi=R_n(H\varphi-H_n\varphi)\to 0 .

DD は HH の芯なので (H−z)D(H-z)D は H\mathcal{H} で稠密である((H−z)−1(H-z)^{-1} は有界で、DD はグラフノルムで D(H)D(H) に稠密)。RnR_n が一様有界なので、稠密集合上の収束から全体での強収束が従う。また φ∈D\varphi\in D なら n≥n0n\ge n_0 で Pnφ=φP_n\varphi=\varphi で、DD は稠密、∥Pn∥≤1\|P_n\|\le 1 なので Pn→1P_n\to 1 も強収束する。

定理 8.3(一般化強レゾルベント収束とスペクトル)✓

HnH_n が HH に一般化強レゾルベント収束するとする。

  1. f∈C0(R)f\in C_0(\mathbb{R}) なら f(Hn)Pn→f(H)f(H_n)P_n\to f(H) は強収束する。
  2. λ∈σ(H)\lambda\in\sigma(H) なら、任意の ε>0\varepsilon>0 に対して NN があり、n≥Nn\ge N で σ(Hn)∩(λ−ε,λ+ε)≠∅\sigma(H_n)\cap(\lambda-\varepsilon,\lambda+\varepsilon)\ne\emptyset。
証明(定理 8.3)

(1) A\mathcal{A} を (t−i)−1(t-i)^{-1}、(t+i)−1(t+i)^{-1} が生成する多項式の代数とすると、命題 3.3[作用素の収束と摂動] の証明のとおり A\mathcal{A} は C0(R)C_0(\mathbb{R}) で一様ノルムについて稠密である。PnP_n は HnH_n のレゾルベントと可換で Pn2=PnP_n^2=P_n なので、g∈Ag\in\mathcal{A} に対し g(Hn)Png(H_n)P_n は (Hn∓i)−1Pn(H_n\mp i)^{-1}P_n の積の有限和であり、各因子はノルム 11 以下で強収束するから g(Hn)Pn→g(H)g(H_n)P_n\to g(H) は強収束する。∥f(Hn)Pn−g(Hn)Pn∥≤∥f−g∥∞\|f(H_n)P_n-g(H_n)P_n\|\le\|f-g\|_\infty と ε/3\varepsilon/3 論法で一般の ff に及ぶ。

(2) 否定すると、ε>0\varepsilon>0 と部分列で σ(Hnk)∩(λ−ε,λ+ε)=∅\sigma(H_{n_k})\cap(\lambda-\varepsilon,\lambda+\varepsilon)=\emptyset。0≤f≤10\le f\le 1、台が (λ−ε,λ+ε)(\lambda-\varepsilon,\lambda+\varepsilon) に含まれ、I=(λ−ε/2,λ+ε/2)I=(\lambda-\varepsilon/2,\lambda+\varepsilon/2) で f=1f=1 となる連続関数を取ると f(Hnk)=0f(H_{n_k})=0 で、(1) から f(H)=0f(H)=0。一方 f(H)EH(I)=EH(I)≠0f(H)E_H(I)=E_H(I)\ne 0(λ∈σ(H)\lambda\in\sigma(H))で矛盾する。

例 8.4(箱への制限)

H=L2(R)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R})、Hn=L2(−n,n)\mathcal{H}_n=L^2(-n,n)(外側を 00 として埋め込む)、HnH_n を (−n,n)(-n,n) 上の Dirichlet ラプラシアン(定義域 H2(−n,n)∩H01(−n,n)H^2(-n,n)\cap H^1_0(-n,n))、H=−d2/dx2H=-d^2/dx^2(定義域 H2(R)H^2(\mathbb{R}))とする。D=Cc∞(R)D=C_c^\infty(\mathbb{R}) は HH の芯で、φ∈D\varphi\in D の台が (−n,n)(-n,n) に入れば φ∈D(Hn)\varphi\in D(H_n)、Hnφ=−φ′′=HφH_n\varphi=-\varphi''=H\varphi。補題 8.2 から Hn→HH_n\to H は一般化強レゾルベント収束である。σ(Hn)={(kπ/2n)2:k≥1}\sigma(H_n)=\{(k\pi/2n)^2:k\ge 1\} は n→∞n\to\infty で [0,∞)=σ(H)[0,\infty)=\sigma(H) を埋めつくし、定理 8.3 (2) と整合している。

注意 8.5

自己共役性の判定 II の閉形式の単調収束定理(定理 7.3[自己共役性の判定 II])では逆向きの状況、すなわち全空間の作用素の列が部分空間 K\mathcal{K} の上の作用素に (Hn+1)−1→(H∞+1)−1P(H_n+1)^{-1}\to(H_\infty+1)^{-1}P の形で収束する場合が現れた。どちらの向きでも、スペクトルについて言えるのは下半連続性(極限のスペクトルの点が近似される)だけで、近似列に余分なスペクトル(スペクトル汚染)が現れないことは別に示す必要がある。下に有界な作用素の離散固有値については、ミニマックス原理と組み合わせて固有値の収束まで示せることが多い(演習 9.3)。

演習 9.1標準

A=−d2/dx2+x2A=-d^2/dx^2+x^2、B=xB=x とし、E0=1E_0=1(固有ベクトル h0h_0)について 定理 6.1 の漸化式で E1,E2,E3E_1,E_2,E_3 を計算せよ。また x2+κx=(x+κ/2)2−κ2/4x^2+\kappa x=(x+\kappa/2)^2-\kappa^2/4 を使って厳密な E(κ)E(\kappa) を求め、比較せよ。Hermite 関数について xhn=(n+1)/2 hn+1+n/2 hn−1xh_n=\sqrt{(n+1)/2}\,h_{n+1}+\sqrt{n/2}\,h_{n-1}、Ahn=(2n+1)hnAh_n=(2n+1)h_n を使ってよい。

解答

Shn=hn/(2n)Sh_n=h_n/(2n)(n≥1n\ge1)、Sh0=0Sh_0=0 である。E1=⟨h0,xh0⟩=0E_1=\langle h_0,xh_0\rangle=0。Bh0=h1/2Bh_0=h_1/\sqrt2 なので χ1=−SBh0=−h1/(22)\chi_1=-SBh_0=-h_1/(2\sqrt2)、E2=⟨Bh0,χ1⟩=−1/4E_2=\langle Bh_0,\chi_1\rangle=-1/4。Bχ1=−(h2+h0/2)/(22)B\chi_1=-(h_2+h_0/\sqrt2)/(2\sqrt2) なので χ2=S(−Bχ1+E1χ1)=h2/(82)\chi_2=S(-B\chi_1+E_1\chi_1)=h_2/(8\sqrt2)、E3=⟨h1/2,h2/(82)⟩=0E_3=\langle h_1/\sqrt2,h_2/(8\sqrt2)\rangle=0。厳密には平行移動 x↦x+κ/2x\mapsto x+\kappa/2 がユニタリなので E(κ)=1−κ2/4E(\kappa)=1-\kappa^2/4 で、E2=−1/4E_2=-1/4、他の En=0E_n=0(n≠0,2n\ne 0,2)と一致する。B=xB=x は AA 有界(∥xψ∥2≤⟨ψ,Aψ⟩≤∥Aψ∥∥ψ∥\|x\psi\|^2\le\langle\psi,A\psi\rangle\le\|A\psi\|\|\psi\| から相対限界 00)なので定理の仮定を満たす。

演習 9.2標準

例 7.4 の AA について、奇関数の試行関数 ψ(x)=c xe−x2\psi(x)=c\,xe^{-x^2}(a=2a=2、cc は正規化定数)を取る。η=15/4\eta=15/4、ε2=27/8\varepsilon^2=27/8 を確かめ、(a) 全空間で α=1\alpha=1、β=5\beta=5 とした Kato–Temple の不等式、(b) 奇関数の部分空間での Temple の不等式から、固有値 33 の評価を求めよ。

解答

aa を一般にして ψ=c xe−ax2/2\psi=c\,xe^{-ax^2/2} とすると ψ′′=(a2x3−3ax)ce−ax2/2\psi''=(a^2x^3-3ax)ce^{-ax^2/2} なので Aψ=(3a+(1−a2)x2)ψA\psi=(3a+(1-a^2)x^2)\psi。重み x2e−ax2x^2e^{-ax^2} に関する平均で ⟨x2⟩=3/(2a)\langle x^2\rangle=3/(2a)、⟨x4⟩=15/(4a2)\langle x^4\rangle=15/(4a^2) だから η=3a+(1−a2)⋅3/(2a)=3(a2+1)/(2a)\eta=3a+(1-a^2)\cdot 3/(2a)=3(a^2+1)/(2a)、∥Aψ∥2=9a2+9(1−a2)+15(1−a2)2/(4a2)\|A\psi\|^2=9a^2+9(1-a^2)+15(1-a^2)^2/(4a^2)、ε2=3(a2−1)2/(2a2)\varepsilon^2=3(a^2-1)^2/(2a^2)。a=2a=2 で η=15/4\eta=15/4、ε2=27/8\varepsilon^2=27/8。(a) 1.05=15/4−(27/8)/(5/4)≤3≤15/4+(27/8)/(11/4)=15/4+27/22≈4.981.05=15/4-(27/8)/(5/4)\le 3\le 15/4+(27/8)/(11/4)=15/4+27/22\approx 4.98。(b) 奇関数の部分空間(AA を簡約する)では最小固有値が 33、次が 77 なので、β=7\beta=7 で 141/52≈2.71≤3≤15/4141/52\approx 2.71\le 3\le 15/4。対称性で隙間を広げると評価が大きく改善する。

演習 9.3難

VV を R\mathbb{R} 上の有界連続関数で lim⁡∣x∣→∞V(x)=0\lim_{|x|\to\infty}V(x)=0、H=−d2/dx2+VH=-d^2/dx^2+V が負の固有値 λ1<0\lambda_1<0 を最小固有値にもつとする。HnH_n を (−n,n)(-n,n) 上の Dirichlet 境界条件の −d2/dx2+V-d^2/dx^2+V とする。λ1(Hn)=inf⁡σ(Hn)\lambda_1(H_n)=\inf\sigma(H_n) について λ1(Hn)≥λ1\lambda_1(H_n)\ge\lambda_1 かつ λ1(Hn)→λ1\lambda_1(H_n)\to\lambda_1 を示せ。(HH の形式定義域は H1(R)H^1(\mathbb{R})、HnH_n のそれは H01(−n,n)H^1_0(-n,n) で、後者は外側を 00 として前者に含まれることを使ってよい。)

解答

下に有界な自己共役作用素 TT とその形式 qq について inf⁡σ(T)=inf⁡{q[ψ]:ψ∈Q(q), ∥ψ∥=1}\inf\sigma(T)=\inf\{q[\psi]:\psi\in Q(q),\ \|\psi\|=1\} である。実際、表現定理(定理 4.2[自己共役性の判定] (2))から q[ψ]=∫t dμψ(t)≥inf⁡σ(T)∥ψ∥2q[\psi]=\int t\,d\mu_\psi(t)\ge\inf\sigma(T)\|\psi\|^2 で、逆向きは D(T)⊂Q(q)D(T)\subset Q(q) とミニマックス原理 定理 6.3[作用素の収束と摂動] の μ1(T)=inf⁡σ(T)\mu_1(T)=\inf\sigma(T) による。H01(−n,n)⊂H1(R)H^1_0(-n,n)\subset H^1(\mathbb{R}) で、そこでは二つの形式が一致するので、下限の比較から λ1(Hn)≥λ1\lambda_1(H_n)\ge\lambda_1。また H01(−n,n)⊂H01(−n−1,n+1)H^1_0(-n,n)\subset H^1_0(-n-1,n+1) から λ1(Hn)\lambda_1(H_n) は非増加である。逆向きには、HH の正規化固有関数 uu と ∥u−φ∥H1\|u-\varphi\|_{H^1} が小さい φ∈Cc∞\varphi\in C_c^\infty を取れば、形式が H1H^1 ノルムについて連続なので q[φ]/∥φ∥2q[\varphi]/\|\varphi\|^2 は λ1\lambda_1 に近く、φ\varphi の台が (−n,n)(-n,n) に入る nn では λ1(Hn)≤q[φ]/∥φ∥2\lambda_1(H_n)\le q[\varphi]/\|\varphi\|^2。よって λ1(Hn)→λ1\lambda_1(H_n)\to\lambda_1。(定理 8.3 だけからは、λ1\lambda_1 の近くに σ(Hn)\sigma(H_n) の点があることしか分からない。最小値であることの比較が、ミニマックス原理から来る部分である。)

  • T. Kato, Perturbation Theory for Linear Operators, 2nd ed., Springer, 1976 — 第 II 章(有限次元の摂動論:Puiseux 級数、変換関数、Rellich の定理)、第 VII 章(解析族)。
  • F. Rellich, Perturbation Theory of Eigenvalue Problems, Gordon and Breach, 1969.
  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics IV: Analysis of Operators, Academic Press, 1978 — 第 XII 章(解析摂動、Rayleigh–Schrödinger 級数)。
  • T. Kato, “On the upper and lower bounds of eigenvalues”, Journal of the Physical Society of Japan 4 (1949), 334–339.
  • G. Temple, “The theory of Rayleigh’s principle as applied to continuous systems”, Proceedings of the Royal Society of London A 119 (1928), 276–293.
  • J. Weidmann, Lineare Operatoren in Hilberträumen, Teil I: Grundlagen, Teubner, 2000 — レゾルベント収束(一般化強レゾルベント収束を含む)の章。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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