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非有界作用素:閉作用素・閉包・共役作用素と Hellinger–Toeplitz の定理

対象読者: 本テーマ第 1〜4 章の Hilbert 空間、有界作用素、コンパクト作用素を学び、量子力学の位置・運動量作用素の定義を見たことがある人。非有界作用素は初めてで構いません。

前提となる記事:コンパクト作用素・Hilbert–Schmidt 作用素・トレースクラス:特異値で測る作用素の大きさ

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行列は、どんなベクトルにも掛けることができます。ところが量子力学の位置や運動量にあたる作用素は、値がいくらでも大きくなるため、すべてのベクトルには作用させられません。そこで「どのベクトルに作用させてよいか」まで作用素の一部として扱います。この記事では、その扱い方と、そうした作用素を調べる基本の道具を説明します。

  • 量子力学の位置・運動量は正準交換関係 [Q,P]=i[Q,P]=i を満たします。有界作用素ではこの関係は実現できない(Wintner–Wielandt)ので、非有界作用素を避けることはできません。
  • 非有界作用素は「写像 TT」ではなく「定義域 D(T)D(T) と写像の組」です。定義域が違えば別の作用素であり、和・積・共役のたびに定義域を追跡します。
  • 有界性の代わりに使う正則性が閉性(グラフ G(T)\mathcal{G}(T) が H⊕H\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} の閉部分空間)です。閉拡大を持つ作用素を可閉といい、最小の閉拡大が閉包 Tˉ\bar{T} です。
  • 稠密に定義された TT の共役 T∗T^* は常に閉で、TT が可閉   ⟺  \iff D(T∗)D(T^*) が稠密、そのとき T∗∗=TˉT^{**}=\bar{T} が成り立ちます。証明はすべて「グラフの直交補空間」という 1 つの補題から出ます。
  • Hellinger–Toeplitz の定理: 至る所で定義された対称作用素は有界です。したがって非有界な観測量は、必ず真部分空間の上でしか定義できません。
  • 非有界作用素のスペクトルは空集合にも C\mathbb{C} 全体にもなりえます。レゾルベント集合が空でない作用素は閉で、閉作用素では「T−zT-z が全単射」だけで z∈ρ(T)z\in\rho(T) が従います。

有限次元の行列 A,BA, B では tr(AB−BA)=0\mathrm{tr}(AB-BA)=0 なので、AB−BA=i 1AB-BA=i\,1 は決して成り立ちません。無限次元ではトレースが使えないので、この議論はそのままでは通りません。しかし有界作用素に限れば、ノルムを使った別の議論で同じ結論が出ます(定理 7.3)。量子力学の Heisenberg の交換関係 QP−PQ=iQP-PQ=i を Hilbert 空間で実現しようとすると、QQ と PP の少なくとも一方は非有界でなければなりません。

非有界作用素は H\mathcal{H} 全体では定義できない、という点も避けられません。QQ も PP も対称(物理量として実の期待値を持つ)であってほしいのですが、至る所で定義された対称作用素は自動的に有界になります(定理 7.2)。こうして「定義域を持つ線形作用素」という概念が必要になります。

定義域を持ち出した途端、有限次元の線形代数で当たり前だったことが崩れます。TT と SS の和の定義域は D(T)∩D(S)D(T)\cap D(S) で、これが {0}\{0\} になることもあります。共役作用素 T∗T^* は D(T)D(T) が稠密でなければ定義できず、定義できても D(T∗)={0}D(T^*)=\{0\} になりえます。同じ微分の式 −i d/dx-i\,d/dx でも、定義域の取り方次第でスペクトルが空集合にも C\mathbb{C} 全体にもなります(例 8.4・例 8.5)。

この記事では、こうした現象を整理する道具として閉性・閉包・共役を導入し、その基本定理を証明します。次の章 対称作用素と自己共役拡大 で扱う自己共役性は、すべてこの記事の言葉で書かれます。

H\mathcal{H} は複素 Hilbert 空間で、内積 ⟨⋅,⋅⟩\langle\cdot,\cdot\rangle は第 1 変数について共役線形、第 2 変数について線形とします。ノルムは ∥x∥=⟨x,x⟩1/2\|x\|=\langle x,x\rangle^{1/2} です。有界作用素の共役・閉グラフ定理・Riesz の表現定理は既知とします(有界作用素と共役作用素、Banach 空間の基本定理)。H\mathcal{H} の部分集合 MM の直交補空間を M⊥M^{\perp} と書き、閉部分空間 MM について M⊥⊥=MM^{\perp\perp}=M、一般の部分空間 MM について M⊥⊥=MˉM^{\perp\perp}=\bar{M} を使います。

直和 H⊕H\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} には内積 ⟨(x1,y1),(x2,y2)⟩=⟨x1,x2⟩+⟨y1,y2⟩\langle (x_1,y_1),(x_2,y_2)\rangle=\langle x_1,x_2\rangle+\langle y_1,y_2\rangle を入れます。これも Hilbert 空間です。

関数空間について次の事実を使います(実解析の標準的な事実で、L^p 空間 の続きにあたります)。

  • H1(a,b)H^1(a,b)(−∞<a<b<∞-\infty<a<b<\infty)は、[a,b][a,b] 上の絶対連続関数 ff で f′∈L2(a,b)f'\in L^2(a,b) となるもの全体です。端点の値 f(a),f(b)f(a), f(b) が意味を持ち、f,g∈H1(a,b)f,g\in H^1(a,b) について部分積分 ∫abf′ˉg dx=fˉ(b)g(b)−fˉ(a)g(a)−∫abfˉg′ dx\int_a^b \bar{f'}g\,dx=\bar f(b)g(b)-\bar f(a)g(a)-\int_a^b\bar f g'\,dx が成り立ちます。
  • H1(R)H^1(\mathbb{R}) は、各有界区間上で絶対連続な f∈L2(R)f\in L^2(\mathbb{R}) で f′∈L2(R)f'\in L^2(\mathbb{R}) となるもの全体です。f∈H1(R)f\in H^1(\mathbb{R}) なら f(x)→0f(x)\to 0(∣x∣→∞|x|\to\infty)です。
  • g∈L2g\in L^2 の超関数微分が L2L^2 に属するなら、gg は(a.e. で等しい関数を取り直せば)上の意味で H1H^1 に属し、超関数微分は通常の微分 g′g' と一致します。
  • Fourier 変換 F\mathcal{F} は L2(R)L^2(\mathbb{R}) のユニタリ作用素で、f∈H1(R)f\in H^1(\mathbb{R})   ⟺  \iff kf^(k)∈L2(R)k\hat f(k)\in L^2(\mathbb{R})、そのとき f′^(k)=ikf^(k)\widehat{f'}(k)=ik\hat f(k) です。

定義 3.1(定義域を持つ線形作用素)↗

H\mathcal{H} の部分空間 D(T)D(T) と線形写像 T ⁣:D(T)→HT\colon D(T)\to\mathcal{H} の組を、H\mathcal{H} における線形作用素といい、単に TT と書く。D(T)D(T) を定義域、Ran(T)={Tx:x∈D(T)}\mathrm{Ran}(T)=\{Tx: x\in D(T)\} を値域、Ker(T)={x∈D(T):Tx=0}\mathrm{Ker}(T)=\{x\in D(T): Tx=0\} を核という。D(T)D(T) が H\mathcal{H} で稠密なとき、TT は稠密に定義されているという。

2 つの作用素が等しいとは、定義域が等しく、その上で値が一致することです。式が同じでも定義域が違えば別の作用素です。

定義 3.2(作用素の和・スカラー倍・積・逆)↗

H\mathcal{H} における線形作用素 S,TS,T と α∈C\alpha\in\mathbb{C} について、

  • D(S+T)=D(S)∩D(T)D(S+T)=D(S)\cap D(T)、(S+T)x=Sx+Tx(S+T)x=Sx+Tx
  • D(αT)=D(T)D(\alpha T)=D(T)、(αT)x=α(Tx)(\alpha T)x=\alpha(Tx)
  • D(ST)={x∈D(T):Tx∈D(S)}D(ST)=\{x\in D(T): Tx\in D(S)\}、(ST)x=S(Tx)(ST)x=S(Tx)
  • TT が単射のとき、D(T−1)=Ran(T)D(T^{-1})=\mathrm{Ran}(T)、T−1(Tx)=xT^{-1}(Tx)=x

と定める。z∈Cz\in\mathbb{C} について T−zT-z は T−z1T-z1 を意味し、D(T−z)=D(T)D(T-z)=D(T) である。

定義 3.3(グラフと拡大)↗

線形作用素 TT のグラフを

G(T)={(x,Tx):x∈D(T)}⊂H⊕H\mathcal{G}(T)=\{(x,Tx): x\in D(T)\}\subset\mathcal{H}\oplus\mathcal{H}

と定める。これは H⊕H\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} の部分空間である。線形作用素 SS について G(T)⊂G(S)\mathcal{G}(T)\subset\mathcal{G}(S) が成り立つとき、すなわち D(T)⊂D(S)D(T)\subset D(S) かつ x∈D(T)x\in D(T) で Sx=TxSx=Tx のとき、SS を TT の拡大といい T⊂ST\subset S と書く。

グラフで考える利点は、作用素の比較が部分空間の包含になり、閉性・共役が部分空間の閉包・直交補空間で言い換えられることです。H⊕H\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} の部分空間 G\mathcal{G} がある作用素のグラフであるための条件は、「(0,y)∈G(0,y)\in\mathcal{G} なら y=0y=0」です。実際この条件があれば、(x,y)∈G(x,y)\in\mathcal{G} の yy は xx から一意に決まり、x↦yx\mapsto y は線形です。

定義 4.1(閉作用素)↗

線形作用素 TT のグラフ G(T)\mathcal{G}(T) が H⊕H\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} の閉部分空間であるとき、TT を閉作用素という。

命題 4.2(閉性の言い換え)✓

TT を H\mathcal{H} における線形作用素とする。次は同値である。

  1. TT は閉である。
  2. xn∈D(T)x_n\in D(T)、xn→xx_n\to x、Txn→yTx_n\to y ならば、x∈D(T)x\in D(T) かつ Tx=yTx=y である。
  3. D(T)D(T) はグラフ内積 ⟨x,y⟩T=⟨x,y⟩+⟨Tx,Ty⟩\langle x,y\rangle_T=\langle x,y\rangle+\langle Tx,Ty\rangle について Hilbert 空間である。
証明(命題 4.2)

(1)  ⟺  \iff(2): H⊕H\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} は距離空間なので、閉であることは点列で閉じていることと同値です。(xn,Txn)→(x,y)(x_n,Tx_n)\to(x,y) は xn→xx_n\to x かつ Txn→yTx_n\to y と同値で、(x,y)∈G(T)(x,y)\in\mathcal{G}(T) は x∈D(T)x\in D(T) かつ Tx=yTx=y と同値です。

(1)  ⟺  \iff(3): 写像 J ⁣:D(T)→G(T)J\colon D(T)\to\mathcal{G}(T)、Jx=(x,Tx)Jx=(x,Tx) は線形な全単射で、⟨Jx,Jy⟩H⊕H=⟨x,y⟩T\langle Jx,Jy\rangle_{\mathcal{H}\oplus\mathcal{H}}=\langle x,y\rangle_T を満たします。したがって (D(T),⟨⋅,⋅⟩T)(D(T),\langle\cdot,\cdot\rangle_T) が完備であることと、G(T)\mathcal{G}(T) が H⊕H\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} の部分空間として完備であることは同値です。完備な距離空間の部分集合が完備であることと閉であることは同値なので、これは (1) と同値です。

(3) のノルム ∥x∥T=(∥x∥2+∥Tx∥2)1/2\|x\|_T=(\|x\|^2+\|Tx\|^2)^{1/2} をグラフノルムといいます。閉作用素 TT は、(D(T),∥⋅∥T)(D(T),\|\cdot\|_T) から H\mathcal{H} への有界作用素とみなせます。「非有界な閉作用素」は、定義域の位相を取り替えれば有界作用素になる、ということです。

閉性と有界性の関係を確認しておきます。至る所で定義された作用素については、閉グラフ定理が両者を結びます。

定理 4.3(閉グラフ定理(Hilbert 空間版))✓

TT を H\mathcal{H} における線形作用素で D(T)=HD(T)=\mathcal{H} を満たすものとする。TT が閉ならば、TT は有界である。逆に、D(T)D(T) が閉部分空間で TT が有界ならば TT は閉である。

証明(定理 4.3)

前半: H\mathcal{H} は Banach 空間で、TT は H\mathcal{H} 全体で定義され、閉であることはグラフが H×H\mathcal{H}\times\mathcal{H} で閉であることにほかなりません。したがって Banach 空間の基本定理 の 定理 6.5[Banach 空間の基本定理] により TT は有界です。

後半: xn∈D(T)x_n\in D(T)、xn→xx_n\to x、Txn→yTx_n\to y とします。D(T)D(T) は閉なので x∈D(T)x\in D(T) で、有界性から ∥Txn−Tx∥≤∥T∥∥xn−x∥→0\|Tx_n-Tx\|\le\|T\|\|x_n-x\|\to0、極限の一意性から y=Txy=Tx です。よってグラフは閉です。

注意 4.4

前半は Banach 空間の閉グラフ定理そのものです(Banach 空間の基本定理)。証明の筋道: G(T)\mathcal{G}(T) は Banach 空間で、射影 (x,Tx)↦x(x,Tx)\mapsto x は G(T)\mathcal{G}(T) から H\mathcal{H} への有界な全単射です。開写像定理によりその逆 x↦(x,Tx)x\mapsto(x,Tx) も有界になり、∥Tx∥≤C∥x∥\|Tx\|\le C\|x\| が出ます。後半は直接示せます: xn→xx_n\to x、Txn→yTx_n\to y なら D(T)D(T) が閉なので x∈D(T)x\in D(T)、有界性から Txn→TxTx_n\to Tx で y=Txy=Tx です。

定義 4.5(可閉作用素と閉包)↗

線形作用素 TT が閉な拡大を持つとき、TT を可閉という。可閉な TT について、G(T)‾\overline{\mathcal{G}(T)} をグラフとする作用素を TT の閉包といい Tˉ\bar{T} と書く。閉作用素 TT について、D0⊂D(T)D_0\subset D(T) が T∣D0T|_{D_0} の閉包が TT に等しいような部分空間であるとき、D0D_0 を TT の芯(core)という。

芯とは、定義域を小さな部分空間 D0D_0 に制限して閉包を取ると、元の TT が全体として復元できるような D0D_0 のことです。計算は扱いやすい D0D_0 の上で行い、結論は TT について述べるときに使います。

閉包の定義が意味を持つことを確かめます。

命題 4.6(可閉性の判定)✓

線形作用素 TT について次は同値である。

  1. TT は可閉である。
  2. G(T)‾\overline{\mathcal{G}(T)} はある作用素のグラフである。
  3. xn∈D(T)x_n\in D(T)、xn→0x_n\to 0、Txn→yTx_n\to y ならば y=0y=0 である。

このとき Tˉ\bar{T} は TT の閉拡大のうち最小のもの(任意の閉拡大 SS について Tˉ⊂S\bar{T}\subset S)である。

証明(命題 4.6)

(1)⇒\Rightarrow(3): SS を TT の閉拡大とします。xn→0x_n\to0、Txn→yTx_n\to y なら (xn,Sxn)=(xn,Txn)→(0,y)(x_n,Sx_n)=(x_n,Tx_n)\to(0,y) で、G(S)\mathcal{G}(S) は閉なので (0,y)∈G(S)(0,y)\in\mathcal{G}(S)、すなわち y=S0=0y=S0=0 です。

(3)⇒\Rightarrow(2): §3 の末尾で見たとおり、(0,y)∈G(T)‾(0,y)\in\overline{\mathcal{G}(T)} なら y=0y=0 を示せば十分です。(0,y)∈G(T)‾(0,y)\in\overline{\mathcal{G}(T)} なら、(xn,Txn)→(0,y)(x_n,Tx_n)\to(0,y) となる xn∈D(T)x_n\in D(T) があります。(3) より y=0y=0 です。

(2)⇒\Rightarrow(1): G(T)‾\overline{\mathcal{G}(T)} をグラフとする作用素は閉で、TT を拡大しています。

最小性: SS が TT の閉拡大なら G(T)⊂G(S)\mathcal{G}(T)\subset\mathcal{G}(S) で、右辺は閉なので G(T)‾⊂G(S)\overline{\mathcal{G}(T)}\subset\mathcal{G}(S)、すなわち Tˉ⊂S\bar T\subset S です。

すべての作用素が可閉なわけではありません。条件 (3) が破れる典型例を挙げます。

例 4.7(可閉でない作用素)

H=L2(R)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R})、h∈Hh\in\mathcal{H} を h≠0h\ne0 とし、D(T)=Cc(R)D(T)=C_c(\mathbb{R})(コンパクト台の連続関数)、Tf=f(0) hTf=f(0)\,h と定める。fn(x)=max⁡(0,1−n∣x∣)f_n(x)=\max(0,1-n|x|) とおくと fn∈D(T)f_n\in D(T)、∥fn∥2=2/(3n)→0\|f_n\|^2=2/(3n)\to0 だが、Tfn=hTf_n=h はすべての nn で hh に等しい。したがって 命題 4.6 の (3) が破れ、TT は可閉でない。実際 G(T)‾\overline{\mathcal{G}(T)} は (0,h)(0,h) を含むので、どんな作用素のグラフにもなれない。

原因は、f↦f(0)f\mapsto f(0) が L2L^2 ノルムについて連続でないことです。「点での値」は L2L^2 の元に対して意味を持たない量であり、それを作用素の中に入れると閉包が取れなくなります。

有界作用素の共役は ⟨x,Ty⟩=⟨T∗x,y⟩\langle x,Ty\rangle=\langle T^*x,y\rangle で定義しました。非有界の場合は、この等式が成り立つ xx だけを T∗T^* の定義域に集めます。

定義 5.1(共役作用素)↗

TT を H\mathcal{H} において稠密に定義された線形作用素とする。

D(T∗)={y∈H:ある z∈H が存在して、すべての x∈D(T) について ⟨y,Tx⟩=⟨z,x⟩}D(T^*)=\{y\in\mathcal{H}: \text{ある } z\in\mathcal{H} \text{ が存在して、すべての } x\in D(T) \text{ について } \langle y,Tx\rangle=\langle z,x\rangle\}

とおき、y∈D(T∗)y\in D(T^*) に対して T∗y=zT^*y=z と定める。T∗T^* を TT の共役作用素という。

注意 5.2(稠密性が必要な理由)

zz が yy から一意に決まるのは D(T)D(T) が稠密だからです。z,z′z,z' がともに条件を満たせば、すべての x∈D(T)x\in D(T) について ⟨z−z′,x⟩=0\langle z-z',x\rangle=0 なので z−z′∈D(T)⊥={0}z-z'\in D(T)^{\perp}=\{0\} です。D(T)D(T) が稠密でなければ zz に D(T)⊥D(T)^{\perp} の元を足す自由が残り、T∗T^* は写像になりません。また y∈D(T∗)y\in D(T^*) は「x↦⟨y,Tx⟩x\mapsto\langle y,Tx\rangle が D(T)D(T) 上で(H\mathcal{H} のノルムについて)有界な線形汎関数である」ことと同値です。有界なら Riesz の表現定理と稠密性から zz が得られ、逆は Cauchy–Schwarz から従います。T∗T^* が線形であることは、条件が yy について共役線形に入ることから確かめられます。

共役作用素の基本性質はすべて、グラフの言葉で書いた次の補題から出ます。H⊕H\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} 上のユニタリ作用素

V(x,y)=(−y,x)V(x,y)=(-y,x)

を使います。V2=−1V^2=-1 で、VV は閉部分空間を閉部分空間に写し、直交補空間と可換です(V(M⊥)=(VM)⊥V(M^{\perp})=(VM)^{\perp})。

補題 5.3(共役のグラフ)✓

TT が稠密に定義されているとき、

G(T∗)=(VG(T))⊥.\mathcal{G}(T^*)=\bigl(V\mathcal{G}(T)\bigr)^{\perp}.
証明(補題 5.3)

(y,z)∈H⊕H(y,z)\in\mathcal{H}\oplus\mathcal{H} が (VG(T))⊥(V\mathcal{G}(T))^{\perp} に属することは、すべての x∈D(T)x\in D(T) について

⟨(y,z),(−Tx,x)⟩=−⟨y,Tx⟩+⟨z,x⟩=0\langle (y,z),(-Tx,x)\rangle=-\langle y,Tx\rangle+\langle z,x\rangle=0

が成り立つことです。これは 定義 5.1 により y∈D(T∗)y\in D(T^*) かつ T∗y=zT^*y=z であること、すなわち (y,z)∈G(T∗)(y,z)\in\mathcal{G}(T^*) と同値です。

定理 5.4(共役作用素は閉)✓

TT が稠密に定義されているとき、T∗T^* は閉作用素である。

証明(定理 5.4)

補題 5.3 より G(T∗)\mathcal{G}(T^*) はある集合の直交補空間です。直交補空間は内積の連続性により常に閉です。

TT 自身が閉でなくても、可閉でなくても、T∗T^* は閉になります。例 4.7 の作用素でも T∗T^* は閉です(例 5.7)。

定理 5.5(可閉性と共役の稠密性)✓

TT を H\mathcal{H} において稠密に定義された線形作用素とする。

  1. TT が可閉であることと、D(T∗)D(T^*) が稠密であることは同値である。
  2. TT が可閉ならば T∗∗=TˉT^{**}=\bar{T} である。
  3. TT が可閉ならば (Tˉ)∗=T∗(\bar T)^*=T^* である。

証明の方針: まず G(T)‾\overline{\mathcal{G}(T)} が G(T∗)\mathcal{G}(T^*) を VV で回して直交補空間を取ったものに等しいことを示します。すると T∗T^* の共役 T∗∗T^{**} のグラフと比べるだけで、可閉性と閉包の両方が読み取れます。

証明(定理 5.5)

補題 5.3 と、VV がユニタリで V2=−1V^2=-1 であることを使います。部分空間 MM について (−M)=M(-M)=M なので、VV を 2 回かけると集合としては元に戻ります。

まず

G(T)‾=G(T)⊥⊥=(V2G(T))⊥⊥=(V(VG(T))⊥)⊥=(VG(T∗))⊥\overline{\mathcal{G}(T)}=\mathcal{G}(T)^{\perp\perp}=\bigl(V^2\mathcal{G}(T)\bigr)^{\perp\perp}=\Bigl(V\bigl(V\mathcal{G}(T)\bigr)^{\perp}\Bigr)^{\perp}=\bigl(V\mathcal{G}(T^*)\bigr)^{\perp}

が成り立ちます。2 つ目の等号は V2G(T)=−G(T)=G(T)V^2\mathcal{G}(T)=-\mathcal{G}(T)=\mathcal{G}(T)、3 つ目は VV と直交補空間の可換性、4 つ目は 補題 5.3 です。

(1) D(T∗)D(T^*) が稠密だとします。すると T∗∗T^{**} が定義でき、補題 5.3 を T∗T^* に適用すると G(T∗∗)=(VG(T∗))⊥=G(T)‾\mathcal{G}(T^{**})=(V\mathcal{G}(T^*))^{\perp}=\overline{\mathcal{G}(T)} です。したがって G(T)‾\overline{\mathcal{G}(T)} は作用素 T∗∗T^{**} のグラフで、命題 4.6 により TT は可閉、かつ Tˉ=T∗∗\bar T=T^{**} です。これで (1) の「⇐\Leftarrow」と、D(T∗)D(T^*) 稠密の仮定のもとでの (2) が示されました。

逆に D(T∗)D(T^*) が稠密でないとします。0≠w∈D(T∗)⊥0\ne w\in D(T^*)^{\perp} を取ると、すべての y∈D(T∗)y\in D(T^*) について ⟨(0,w),(−T∗y,y)⟩=⟨w,y⟩=0\langle (0,w),(-T^*y,y)\rangle=\langle w,y\rangle=0 なので (0,w)∈(VG(T∗))⊥=G(T)‾(0,w)\in(V\mathcal{G}(T^*))^{\perp}=\overline{\mathcal{G}(T)} です。w≠0w\ne0 なので G(T)‾\overline{\mathcal{G}(T)} はグラフでなく、命題 4.6 により TT は可閉ではありません。これで (1) の「⇒\Rightarrow」が示され、(2) も (1) と合わせて従います。

(3) 補題 5.3 より G((Tˉ)∗)=(VG(T)‾)⊥\mathcal{G}((\bar T)^*)=(V\overline{\mathcal{G}(T)})^{\perp} です。VV はユニタリなので VG(T)‾=VG(T)‾V\overline{\mathcal{G}(T)}=\overline{V\mathcal{G}(T)} で、集合とその閉包の直交補空間は等しいので、右辺は (VG(T))⊥=G(T∗)(V\mathcal{G}(T))^{\perp}=\mathcal{G}(T^*) です。

特に、TT が稠密に定義された閉作用素なら D(T∗)D(T^*) は稠密で T∗∗=TT^{**}=T です。有界作用素の T∗∗=TT^{**}=T は、この定理の特別な場合です。

命題 5.6(共役の基本性質)✓

S,TS,T を H\mathcal{H} において稠密に定義された線形作用素とする。

  1. S⊂TS\subset T ならば T∗⊂S∗T^*\subset S^*。
  2. Ker(T∗)=Ran(T)⊥\mathrm{Ker}(T^*)=\mathrm{Ran}(T)^{\perp}。
  3. BB が H\mathcal{H} 上の有界作用素(D(B)=HD(B)=\mathcal{H})ならば (T+B)∗=T∗+B∗(T+B)^*=T^*+B^*。
証明(命題 5.6)

(1) y∈D(T∗)y\in D(T^*) なら、すべての x∈D(T)x\in D(T) について ⟨y,Tx⟩=⟨T∗y,x⟩\langle y,Tx\rangle=\langle T^*y,x\rangle です。D(S)⊂D(T)D(S)\subset D(T) で D(S)D(S) 上 S=TS=T なので、すべての x∈D(S)x\in D(S) について ⟨y,Sx⟩=⟨T∗y,x⟩\langle y,Sx\rangle=\langle T^*y,x\rangle が成り立ち、y∈D(S∗)y\in D(S^*)、S∗y=T∗yS^*y=T^*y です。

(2) y∈Ran(T)⊥y\in\mathrm{Ran}(T)^{\perp}   ⟺  \iff すべての x∈D(T)x\in D(T) で ⟨y,Tx⟩=0=⟨0,x⟩\langle y,Tx\rangle=0=\langle 0,x\rangle   ⟺  \iff y∈D(T∗)y\in D(T^*) かつ T∗y=0T^*y=0 です。

(3) D(T+B)=D(T)D(T+B)=D(T) は稠密です。y∈Hy\in\mathcal{H} と x∈D(T)x\in D(T) について ⟨y,(T+B)x⟩=⟨y,Tx⟩+⟨B∗y,x⟩\langle y,(T+B)x\rangle=\langle y,Tx\rangle+\langle B^*y,x\rangle です。第 2 項は xx について常に有界なので、x↦⟨y,(T+B)x⟩x\mapsto\langle y,(T+B)x\rangle が有界であることと x↦⟨y,Tx⟩x\mapsto\langle y,Tx\rangle が有界であることは同値です。よって D((T+B)∗)=D(T∗)D((T+B)^*)=D(T^*) で、そのとき (T+B)∗y=T∗y+B∗y(T+B)^*y=T^*y+B^*y です。

例 5.7(共役の定義域が稠密でない例)

例 4.7 の TT(D(T)=Cc(R)D(T)=C_c(\mathbb{R})、Tf=f(0)hTf=f(0)h)の共役を求める。g∈L2(R)g\in L^2(\mathbb{R}) について ⟨g,Tf⟩=f(0)⟨g,h⟩\langle g,Tf\rangle=f(0)\langle g,h\rangle である。⟨g,h⟩≠0\langle g,h\rangle\ne0 なら、fnf_n を 例 4.7 のものとして ∣⟨g,Tfn⟩∣=∣⟨g,h⟩∣|\langle g,Tf_n\rangle|=|\langle g,h\rangle| だが ∥fn∥→0\|f_n\|\to0 なので、この汎関数は有界でない。⟨g,h⟩=0\langle g,h\rangle=0 なら汎関数は 00 である。したがって

D(T∗)={h}⊥,T∗g=0(g∈{h}⊥).D(T^*)=\{h\}^{\perp},\qquad T^*g=0\quad(g\in\{h\}^{\perp}).

{h}⊥\{h\}^{\perp} は余次元 1 の閉部分空間で稠密でない。これは 定理 5.5 の (1) と整合する。一方 T∗T^* は(00 作用素の制限なので)閉であり、定理 5.4 とも整合する。

量子力学の 2 つの基本的な作用素、位置と運動量を、定義域まで込めて調べます。どちらも結論は「共役が自分自身に等しい」ですが、示し方が対照的です。掛け算作用素は直接、微分作用素は Fourier 変換で掛け算作用素に帰着させます。

定義 6.1(掛け算作用素)↗

φ ⁣:Rd→C\varphi\colon\mathbb{R}^d\to\mathbb{C} を Lebesgue 可測関数とする。L2(Rd)L^2(\mathbb{R}^d) における作用素 MφM_\varphi を

D(Mφ)={f∈L2(Rd):φf∈L2(Rd)},(Mφf)(x)=φ(x)f(x)D(M_\varphi)=\{f\in L^2(\mathbb{R}^d): \varphi f\in L^2(\mathbb{R}^d)\},\qquad (M_\varphi f)(x)=\varphi(x)f(x)

で定める。d=1d=1、φ(x)=x\varphi(x)=x のとき Q=MxQ=M_x を位置作用素という。

命題 6.2(掛け算作用素の共役)✓

φ\varphi を Rd\mathbb{R}^d 上の Lebesgue 可測関数とする。MφM_\varphi は稠密に定義され、Mφ∗=MφˉM_\varphi^*=M_{\bar\varphi} が成り立つ。とくに MφM_\varphi は閉であり、φ\varphi が実数値なら Mφ∗=MφM_\varphi^*=M_\varphi である。MφM_\varphi が有界であることと φ\varphi が本質的有界であることは同値である。

証明(命題 6.2)

χn\chi_n を集合 {x:∣φ(x)∣≤n}\{x:|\varphi(x)|\le n\} の定義関数とします。

稠密性: f∈L2f\in L^2 について χnf∈D(Mφ)\chi_nf\in D(M_\varphi)(∣φχnf∣≤n∣f∣|\varphi\chi_nf|\le n|f|)で、φ\varphi は有限値なので χn→1\chi_n\to1 が各点で成り立ちます。∣f−χnf∣2≤∣f∣2|f-\chi_nf|^2\le|f|^2 と優収束定理から χnf→f\chi_nf\to f です。

Mφˉ⊂Mφ∗M_{\bar\varphi}\subset M_\varphi^*: g∈D(Mφˉ)g\in D(M_{\bar\varphi})、f∈D(Mφ)f\in D(M_\varphi) なら ⟨g,φf⟩=∫gˉφf dx=⟨φˉg,f⟩\langle g,\varphi f\rangle=\int\bar g\varphi f\,dx=\langle\bar\varphi g,f\rangle です(両辺の被積分関数は L2L^2 の元の積なので可積分)。

Mφ∗⊂MφˉM_\varphi^*\subset M_{\bar\varphi}: g∈D(Mφ∗)g\in D(M_\varphi^*)、h=Mφ∗gh=M_\varphi^*g とします。任意の u∈L2u\in L^2 について χnu∈D(Mφ)\chi_nu\in D(M_\varphi) なので

⟨h,χnu⟩=⟨g,φχnu⟩,すなわち⟨χnh−χnφˉg,u⟩=0\langle h,\chi_nu\rangle=\langle g,\varphi\chi_nu\rangle,\quad\text{すなわち}\quad\langle\chi_nh-\chi_n\bar\varphi g,u\rangle=0

です(χnφˉg∈L2\chi_n\bar\varphi g\in L^2 に注意)。uu は任意なので χnh=χnφˉg\chi_nh=\chi_n\bar\varphi g a.e. が各 nn で成り立ち、n→∞n\to\infty として h=φˉgh=\bar\varphi g a.e. を得ます。よって φˉg=h∈L2\bar\varphi g=h\in L^2、つまり g∈D(Mφˉ)g\in D(M_{\bar\varphi}) かつ Mφ∗g=MφˉgM_\varphi^*g=M_{\bar\varphi}g です。

閉性: Mφ=Mφˉˉ=(Mφˉ)∗M_\varphi=M_{\bar{\bar\varphi}}=(M_{\bar\varphi})^* で、定理 5.4 により閉です。

有界性: ∥φ∥∞<∞\|\varphi\|_\infty<\infty なら ∥Mφf∥≤∥φ∥∞∥f∥\|M_\varphi f\|\le\|\varphi\|_\infty\|f\| です。逆に φ\varphi が本質的有界でないとします。各 nn について {∣φ∣>n}\{|\varphi|>n\} は正測度なので、その中に測度が正で有限な集合 AnA_n が取れます。fn=χAn/μ(An)1/2f_n=\chi_{A_n}/\mu(A_n)^{1/2} とおけば ∥fn∥=1\|f_n\|=1、∥Mφfn∥≥n\|M_\varphi f_n\|\ge n で、MφM_\varphi は有界ではありません。

運動量作用素は Fourier 変換で定義するのが最も見通しがよいでしょう。

定義 6.3(運動量作用素)↗

L2(R)L^2(\mathbb{R}) において、P=F−1MkFP=\mathcal{F}^{-1}M_k\mathcal{F}、すなわち

D(P)={f∈L2(R):kf^(k)∈L2(R)},Pf^(k)=kf^(k)D(P)=\{f\in L^2(\mathbb{R}): k\hat f(k)\in L^2(\mathbb{R})\},\qquad \widehat{Pf}(k)=k\hat f(k)

と定める。§2 の事実により D(P)=H1(R)D(P)=H^1(\mathbb{R})、Pf=−if′Pf=-if' である。また P0P_0 を D(P0)=Cc∞(R)D(P_0)=C_c^\infty(\mathbb{R})、P0f=−if′P_0f=-if' で定める。

命題 6.4(運動量作用素の閉包と共役)✓

L2(R)L^2(\mathbb{R}) において次が成り立つ。

  1. PP は閉で、P∗=PP^*=P である。
  2. P0P_0 は稠密に定義され、P0∗=PP_0^*=P である。
  3. P0P_0 は可閉で P0ˉ=P\bar{P_0}=P である。すなわち Cc∞(R)C_c^\infty(\mathbb{R}) は PP の芯である。
  4. P0P_0 は閉ではない。
証明(命題 6.4)

(1) F\mathcal{F} はユニタリなので、U=FU=\mathcal{F} として P=U−1MkUP=U^{-1}M_kU です。ユニタリ作用素による変換は共役と可換です: y∈D(P∗)y\in D(P^*)   ⟺  \iff x↦⟨y,U−1MkUx⟩=⟨Uy,MkUx⟩x\mapsto\langle y,U^{-1}M_kUx\rangle=\langle Uy,M_kUx\rangle が有界   ⟺  \iff Uy∈D(Mk∗)Uy\in D(M_k^*) で、P∗=U−1Mk∗UP^*=U^{-1}M_k^*U です。命題 6.2 より Mk∗=MkM_k^*=M_k なので P∗=PP^*=P、また PP は P∗P^* として閉です。

(2) Cc∞(R)C_c^\infty(\mathbb{R}) は L2(R)L^2(\mathbb{R}) で稠密です。P0⊂PP_0\subset P なので 命題 5.6 の (1) と (1) より P=P∗⊂P0∗P=P^*\subset P_0^* です。逆に g∈D(P0∗)g\in D(P_0^*)、h=P0∗gh=P_0^*g とします。すべての f∈Cc∞(R)f\in C_c^\infty(\mathbb{R}) について

∫gˉ (−if′) dx=∫hˉf dx\int\bar g\,(-if')\,dx=\int\bar h f\,dx

です。複素共役を取り、φ=fˉ\varphi=\bar f(これも Cc∞C_c^\infty を動く)と書けば ∫gφ′ dx=−∫(ih)φ dx\int g\varphi'\,dx=-\int(ih)\varphi\,dx です。これは gg の超関数微分が ih∈L2ih\in L^2 であることを意味します。§2 の事実より g∈H1(R)=D(P)g\in H^1(\mathbb{R})=D(P) で g′=ihg'=ih、すなわち h=−ig′=Pgh=-ig'=Pg です。よって P0∗⊂PP_0^*\subset P です。

(3) D(P0∗)=D(P)D(P_0^*)=D(P) は(Cc∞C_c^\infty を含むので)稠密です。定理 5.5 より P0P_0 は可閉で、P0ˉ=P0∗∗=P∗=P\bar{P_0}=P_0^{**}=P^*=P です。

(4) f(x)=e−∣x∣f(x)=e^{-|x|} は H1(R)=D(P0ˉ)H^1(\mathbb{R})=D(\bar{P_0}) に属しますが、x=0x=0 で微分可能でないので Cc∞C_c^\infty に属しません。よって P0≠P0ˉP_0\ne\bar{P_0} です。

この命題は「同じ式 −i d/dx-i\,d/dx でも、定義域を小さく取ると閉性が失われるが、閉包を取れば正しい作用素に戻る」ことを示しています。R\mathbb{R} 上ではどの「自然な」定義域から出発しても閉包は PP に落ち着きます。ところが半直線や区間では事情がまったく違い、閉包の共役が元の作用素より真に大きくなります。これが次の章の主題です(対称作用素と自己共役拡大)。

定義 7.1(対称作用素)↗

H\mathcal{H} において稠密に定義された線形作用素 TT が、すべての x,y∈D(T)x,y\in D(T) について ⟨x,Ty⟩=⟨Tx,y⟩\langle x,Ty\rangle=\langle Tx,y\rangle を満たすとき、TT を対称作用素という。これは T⊂T∗T\subset T^* と同値である。

T⊂T∗T\subset T^* との同値は、定義 5.1 で y∈D(T)y\in D(T) に対して z=Tyz=Ty が条件を満たすことから出ます。命題 6.2 の実数値 φ\varphi に対する MφM_\varphi、PP、P0P_0 はいずれも対称です。対称作用素は T⊂T∗T\subset T^* で T∗T^* が閉なので、自動的に可閉です。

定理 7.2(Hellinger–Toeplitz の定理)✓

TT を H\mathcal{H} における線形作用素で、D(T)=HD(T)=\mathcal{H} かつすべての x,y∈Hx,y\in\mathcal{H} について ⟨x,Ty⟩=⟨Tx,y⟩\langle x,Ty\rangle=\langle Tx,y\rangle を満たすものとする。このとき TT は有界である。

証明(定理 7.2)

定理 4.3 により、TT が閉であることを示せば十分です。命題 4.2 の (2) を確かめます。xn→xx_n\to x、Txn→yTx_n\to y とします。任意の z∈Hz\in\mathcal{H} について、対称性と内積の連続性から

⟨z,y⟩=lim⁡n→∞⟨z,Txn⟩=lim⁡n→∞⟨Tz,xn⟩=⟨Tz,x⟩=⟨z,Tx⟩\langle z,y\rangle=\lim_{n\to\infty}\langle z,Tx_n\rangle=\lim_{n\to\infty}\langle Tz,x_n\rangle=\langle Tz,x\rangle=\langle z,Tx\rangle

です。zz は任意なので y=Txy=Tx です。(D(T)=HD(T)=\mathcal{H} なので x∈D(T)x\in D(T) は自動的に成り立ちます。)

別の見方をすると、TT は対称なので T⊂T∗T\subset T^*、D(T)=HD(T)=\mathcal{H} なので T=T∗T=T^* で、定理 5.4 により閉です。どちらの証明でも、有界性を生むのは閉グラフ定理、すなわち H\mathcal{H} の完備性です。

定理 7.3(Wintner–Wielandt の定理)✓

H≠{0}\mathcal{H}\ne\{0\} とする。H\mathcal{H} 上の有界作用素 Q,PQ,P(D(Q)=D(P)=HD(Q)=D(P)=\mathcal{H})で QP−PQ=i 1QP-PQ=i\,1 を満たすものは存在しない。

証明(定理 7.3)

存在したと仮定します。PQ−QP=−i 1PQ-QP=-i\,1 です。まず、すべての n≥1n\ge1 について

PnQ−QPn=−in Pn−1P^nQ-QP^n=-in\,P^{n-1}

を帰納法で示します(P0=1P^0=1)。n=1n=1 は仮定そのものです。nn で成り立てば

Pn+1Q−QPn+1=P(PnQ−QPn)+(PQ−QP)Pn=−inPn−iPn=−i(n+1)PnP^{n+1}Q-QP^{n+1}=P(P^nQ-QP^n)+(PQ-QP)P^n=-inP^n-iP^n=-i(n+1)P^n

です。

次に、すべての nn で Pn≠0P^n\ne0 であることを示します。ある m≥1m\ge1 で Pm=0P^m=0 となったとし、mm を最小に取ります。上の式で n=mn=m とすると −imPm−1=PmQ−QPm=0-imP^{m-1}=P^mQ-QP^m=0 なので Pm−1=0P^{m-1}=0 です。m=1m=1 なら P0=1=0P^0=1=0 となり H≠{0}\mathcal{H}\ne\{0\} に反し、m≥2m\ge2 なら mm の最小性に反します。

最後にノルムを評価します。

n∥Pn−1∥=∥PnQ−QPn∥≤2∥Pn∥∥Q∥≤2∥P∥∥Q∥∥Pn−1∥n\|P^{n-1}\|=\|P^nQ-QP^n\|\le2\|P^n\|\|Q\|\le2\|P\|\|Q\|\|P^{n-1}\|

で、∥Pn−1∥≠0\|P^{n-1}\|\ne0 なので n≤2∥P∥∥Q∥n\le2\|P\|\|Q\| がすべての nn で成り立ちます。これは不可能です。

2 つの定理を合わせると、量子力学で非有界作用素が不可避である理由がはっきりします。

  • 正準交換関係 [Q,P]=i[Q,P]=i を満たす対 (Q,P)(Q,P) は、定理 7.3 により少なくとも一方が非有界です。(実際 D(Q)∩D(P)D(Q)\cap D(P) 上の f∈Cc∞f\in C_c^\infty では (QP−PQ)f=x(−if′)+i(xf)′=if(QP-PQ)f=x(-if')+i(xf)'=if が成り立ち、QQ も PP も非有界です。)
  • 観測量は対称作用素で表されるので、非有界なものは 定理 7.2 により H\mathcal{H} 全体では定義できません。

つまり、物理量を作用素で表す限り、定義域の問題から逃げることはできません。定義域を固定したうえでどの対称作用素が「正しい観測量」かを決めるのが、次の章の自己共役性の理論です。

定理の仮定をそれぞれ外すと、結論は成り立たなくなります。

次の例は、対称性を外すと Hellinger–Toeplitz の定理の結論が崩れることを示します。Hamel 基底とは、無限和を使わず、有限個の線形結合だけで空間全体を作れる基底のことです。基底の各ベクトルに好きな値を割り当てると線形汎関数が作れる、という有限次元と同じ発想を無限次元に持ち込んでいます。

例 7.4(至る所で定義された非有界作用素(対称性を外す))

H\mathcal{H} を無限次元とする。選択公理により H\mathcal{H} の Hamel 基底(代数的な基底){eλ}λ∈Λ\{e_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda} を ∥eλ∥=1\|e_\lambda\|=1 となるように取れる。可算個の相異なる添字 λ1,λ2,…\lambda_1,\lambda_2,\ldots を選び、線形汎関数 ℓ\ell を ℓ(eλn)=n\ell(e_{\lambda_n})=n、それ以外の基底で 00 と定めて線形に拡張する。0≠h∈H0\ne h\in\mathcal{H} を固定し Tx=ℓ(x)hTx=\ell(x)h とおくと、D(T)=HD(T)=\mathcal{H} で、∥Teλn∥=n∥h∥\|Te_{\lambda_n}\|=n\|h\| なので TT は有界でない。定理 4.3 により TT は閉でもなく、定理 7.2 により対称でもない。

例 7.5(稠密に定義された非有界対称作用素(定義域の全体性を外す))

命題 6.4 の P0P_0 は対称で、D(P0)=Cc∞(R)D(P_0)=C_c^\infty(\mathbb{R}) は稠密だが H\mathcal{H} 全体ではない。0≠χ∈Cc∞(R)0\ne\chi\in C_c^\infty(\mathbb{R}) を固定し fn(x)=χ(x)einxf_n(x)=\chi(x)e^{inx} とおくと、∥fn∥=∥χ∥\|f_n\|=\|\chi\| は nn によらず、P0fn=(nχ−iχ′)einxP_0f_n=(n\chi-i\chi')e^{inx} から ∥P0fn∥≥n∥χ∥−∥χ′∥→∞\|P_0f_n\|\ge n\|\chi\|-\|\chi'\|\to\infty となる。よって P0P_0 は非有界で、Hellinger–Toeplitz の定理の「至る所で定義」という仮定は外せない。

8. レゾルベント集合とスペクトル

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非有界作用素のスペクトルは、有界の場合と同じ形で定義しますが、「逆が有界」という条件を明示的に入れておくのが安全です。

定義 8.1(レゾルベント集合とスペクトル)↗

TT を H\mathcal{H} における線形作用素とする。z∈Cz\in\mathbb{C} について、T−z ⁣:D(T)→HT-z\colon D(T)\to\mathcal{H} が全単射で、逆 (T−z)−1(T-z)^{-1} が(H\mathcal{H} 全体で定義された)有界作用素であるとき、zz を TT のレゾルベント集合 ρ(T)\rho(T) の元という。σ(T)=C∖ρ(T)\sigma(T)=\mathbb{C}\setminus\rho(T) をスペクトル、z∈ρ(T)z\in\rho(T) に対する R(z)=(T−z)−1R(z)=(T-z)^{-1} をレゾルベントという。T−zT-z が単射でない zz の集合を点スペクトル σp(T)\sigma_{\mathrm{p}}(T) という。

定理 8.2(レゾルベントと閉性)✓

TT を H\mathcal{H} における線形作用素とする。

  1. ρ(T)≠∅\rho(T)\ne\emptyset ならば TT は閉である。したがって、閉でない作用素では σ(T)=C\sigma(T)=\mathbb{C} である。
  2. TT が閉ならば、z∈ρ(T)z\in\rho(T) であることと T−z ⁣:D(T)→HT-z\colon D(T)\to\mathcal{H} が全単射であることは同値である。
証明(定理 8.2)

単射な作用素 SS について、G(S−1)\mathcal{G}(S^{-1}) は G(S)\mathcal{G}(S) を成分の入れ替え (x,y)↦(y,x)(x,y)\mapsto(y,x) で写したものです。入れ替えはユニタリなので、SS が閉   ⟺  \iff S−1S^{-1} が閉です。また閉作用素 SS に H\mathcal{H} 上の有界作用素を足したものは閉です(命題 4.2 の (2) を直接確かめられます: xn→xx_n\to x、(S+B)xn→y(S+B)x_n\to y なら Sxn→y−BxSx_n\to y-Bx で、SS の閉性から x∈D(S)x\in D(S)、Sx=y−BxSx=y-Bx)。

(1) z∈ρ(T)z\in\rho(T) なら (T−z)−1(T-z)^{-1} は至る所で定義された有界作用素なので、定理 4.3 の後半により閉です。よって T−zT-z は閉で、T=(T−z)+zT=(T-z)+z も閉です。

(2) 「⇒\Rightarrow」は定義そのものです。「⇐\Leftarrow」: TT が閉なら T−zT-z も閉で、その逆 (T−z)−1(T-z)^{-1} も閉です。T−zT-z が全射なので D((T−z)−1)=HD((T-z)^{-1})=\mathcal{H} で、定理 4.3 の前半により (T−z)−1(T-z)^{-1} は有界です。

定理 8.3(レゾルベント集合は開集合)✓

TT を H\mathcal{H} における閉作用素とする。ρ(T)\rho(T) は C\mathbb{C} の開集合で、σ(T)\sigma(T) は閉集合である。より詳しく、z∈ρ(T)z\in\rho(T) かつ ∣w−z∣<∥R(z)∥−1|w-z|\lt\|R(z)\|^{-1} ならば w∈ρ(T)w\in\rho(T) で

R(w)=∑n=0∞(w−z)nR(z)n+1R(w)=\sum_{n=0}^{\infty}(w-z)^nR(z)^{n+1}

(ノルム収束)が成り立つ。さらに z,w∈ρ(T)z,w\in\rho(T) についてレゾルベント等式 R(z)−R(w)=(z−w)R(z)R(w)R(z)-R(w)=(z-w)R(z)R(w) が成り立ち、R(z)R(z) と R(w)R(w) は可換である。

証明(定理 8.3)

∣w−z∣ ∥R(z)∥<1|w-z|\,\|R(z)\|\lt1 なので、Neumann 級数により A=1−(w−z)R(z)A=1-(w-z)R(z) は有界な逆 A−1=∑n≥0(w−z)nR(z)nA^{-1}=\sum_{n\ge0}(w-z)^nR(z)^n を持ちます。x∈D(T)x\in D(T) について

A(T−z)x=(T−z)x−(w−z)x=(T−w)xA(T-z)x=(T-z)x-(w-z)x=(T-w)x

なので T−w=A(T−z)T-w=A(T-z)(定義域 D(T)D(T) 上)です。T−z ⁣:D(T)→HT-z\colon D(T)\to\mathcal{H} と A ⁣:H→HA\colon\mathcal{H}\to\mathcal{H} はともに全単射なので T−wT-w も全単射で、逆は R(z)A−1R(z)A^{-1}、これは有界です。R(z)R(z) と A−1A^{-1} は可換なので級数の形が出ます。

レゾルベント等式: x∈Hx\in\mathcal{H} に対し R(w)x∈D(T)R(w)x\in D(T) なので

R(z)x=R(z)(T−w)R(w)x=R(z)((T−z)+(z−w))R(w)x=R(w)x+(z−w)R(z)R(w)xR(z)x=R(z)(T-w)R(w)x=R(z)\bigl((T-z)+(z-w)\bigr)R(w)x=R(w)x+(z-w)R(z)R(w)x

です。zz と ww を入れ替えて辺々比べると R(z)R(w)=R(w)R(z)R(z)R(w)=R(w)R(z) も出ます。

有界作用素のスペクトルは空でないコンパクト集合でした。非有界作用素では、空でないことも有界であることも失われます。区間 (0,1)(0,1) 上の −i d/dx-i\,d/dx で、定義域の取り方だけを変えた 2 つの例を見ます。

例 8.4(スペクトルが空集合になる閉作用素)

H=L2(0,1)\mathcal{H}=L^2(0,1) で D(T)={f∈H1(0,1):f(0)=0}D(T)=\{f\in H^1(0,1): f(0)=0\}、Tf=−if′Tf=-if' とする。z∈Cz\in\mathbb{C} と g∈L2(0,1)g\in L^2(0,1) に対して

f(x)=i∫0xeiz(x−t)g(t) dtf(x)=i\int_0^x e^{iz(x-t)}g(t)\,dt

とおくと、ff は絶対連続で f(0)=0f(0)=0、f′=izf+ig∈L2f'=izf+ig\in L^2 なので f∈D(T)f\in D(T) かつ (T−z)f=−if′−zf=g(T-z)f=-if'-zf=g である。また (T−z)f=0(T-z)f=0、f(0)=0f(0)=0 なら f′=izff'=izf から f(x)=f(0)eizx=0f(x)=f(0)e^{izx}=0 で、T−zT-z は単射である。逆 (T−z)−1(T-z)^{-1} は核 i eiz(x−t)1t<xi\,e^{iz(x-t)}\mathbf{1}_{t\lt x} を持つ積分作用素で、核が L2((0,1)2)L^2((0,1)^2) に属するので Hilbert–Schmidt、特に有界である。したがってすべての z∈Cz\in\mathbb{C} が ρ(T)\rho(T) に属し、σ(T)=∅\sigma(T)=\emptyset。定理 8.2 により TT は閉である。

例 8.5(スペクトルが C 全体になる閉作用素)

H=L2(0,1)\mathcal{H}=L^2(0,1) で D(Tmax⁡)=H1(0,1)D(T_{\max})=H^1(0,1)(境界条件なし)、Tmax⁡f=−if′T_{\max}f=-if' とする。任意の z∈Cz\in\mathbb{C} について ez(x)=eizxe_z(x)=e^{izx} は H1(0,1)H^1(0,1) に属し Tmax⁡ez=zezT_{\max}e_z=ze_z なので、σp(Tmax⁡)=σ(Tmax⁡)=C\sigma_{\mathrm{p}}(T_{\max})=\sigma(T_{\max})=\mathbb{C}。Tmax⁡T_{\max} が閉であることは演習で確かめる(演習 9.3)。

2 つの作用素はどちらも閉で、違いは境界条件 1 本だけです。境界条件を課さないと作用素が大きくなりすぎて固有値が溢れ、片側だけ課すと逆が積分で書けてスペクトルが消えます。両端を「ちょうどよく」結ぶと何が起こるかは、次の章の 例 6.2[対称作用素と自己共役拡大] で扱います。

最後に、掛け算作用素のスペクトルを求めておきます。これは後でスペクトル定理(スペクトル定理と関数計算)を通じて、すべての自己共役作用素のスペクトルの雛形になります。

命題 8.6(掛け算作用素のスペクトル)✓

φ\varphi を Rd\mathbb{R}^d 上の Lebesgue 可測関数とする。σ(Mφ)\sigma(M_\varphi) は φ\varphi の本質的値域

ess ran φ={z∈C:すべての ε>0 について ∣{x:∣φ(x)−z∣<ε}∣>0}\mathrm{ess\,ran}\,\varphi=\{z\in\mathbb{C}: \text{すべての } \varepsilon>0 \text{ について } |\{x: |\varphi(x)-z|\lt\varepsilon\}|>0\}

に等しい(∣⋅∣|\cdot| は Lebesgue 測度)。特に σ(Q)=R\sigma(Q)=\mathbb{R}、σ(P)=R\sigma(P)=\mathbb{R} である。

証明(命題 8.6)

z∉ess ran φz\notin\mathrm{ess\,ran}\,\varphi なら、ある ε>0\varepsilon>0 で ∣φ−z∣≥ε|\varphi-z|\ge\varepsilon a.e. です。ψ=1/(φ−z)\psi=1/(\varphi-z) は ∣ψ∣≤1/ε|\psi|\le1/\varepsilon a.e. を満たし、MψM_\psi は有界です。f∈L2f\in L^2 について φMψf=f+zMψf∈L2\varphi M_\psi f=f+zM_\psi f\in L^2 なので Mψf∈D(Mφ)M_\psi f\in D(M_\varphi)、(Mφ−z)Mψf=f(M_\varphi-z)M_\psi f=f で、f∈D(Mφ)f\in D(M_\varphi) について Mψ(Mφ−z)f=fM_\psi(M_\varphi-z)f=f です。よって z∈ρ(Mφ)z\in\rho(M_\varphi)。

z∈ess ran φz\in\mathrm{ess\,ran}\,\varphi なら、各 nn について {∣φ−z∣<1/n}\{|\varphi-z|\lt1/n\} は正測度で、その中に測度が正で有限な集合 AnA_n が取れます。fn=χAn/∣An∣1/2f_n=\chi_{A_n}/|A_n|^{1/2} は D(Mφ)D(M_\varphi) に属し、∥fn∥=1\|f_n\|=1、∥(Mφ−z)fn∥≤1/n\|(M_\varphi-z)f_n\|\le1/n です。もし z∈ρ(Mφ)z\in\rho(M_\varphi) なら 1=∥fn∥≤∥R(z)∥ ∥(Mφ−z)fn∥≤∥R(z)∥/n1=\|f_n\|\le\|R(z)\|\,\|(M_\varphi-z)f_n\|\le\|R(z)\|/n がすべての nn で成り立ち矛盾します。

φ(x)=x\varphi(x)=x の本質的値域は R\mathbb{R} なので σ(Q)=R\sigma(Q)=\mathbb{R} です。P=F−1MkFP=\mathcal{F}^{-1}M_k\mathcal{F} で、ユニタリ同値はスペクトルを保つ((P−z)−1=F−1(Mk−z)−1F(P-z)^{-1}=\mathcal{F}^{-1}(M_k-z)^{-1}\mathcal{F})ので σ(P)=σ(Mk)=R\sigma(P)=\sigma(M_k)=\mathbb{R} です。

QQ も PP も固有値を持たないことに注意してください(xf(x)=zf(x)xf(x)=zf(x) a.e. なら f=0f=0 a.e.)。スペクトルは固有値の集まりとは限らず、「近似固有ベクトル」fnf_n の存在で捉えられます。この見方は スペクトルの分類 で Weyl の判定法として整理されます。

演習 9.1易

TT を H\mathcal{H} における閉作用素、BB を H\mathcal{H} 上の有界作用素とする。T+BT+B(定義域 D(T)D(T))は閉であることを示せ。さらに TT が可閉なら T+BT+B も可閉で T+B‾=Tˉ+B\overline{T+B}=\bar T+B であることを示せ。

解答

閉性: xn∈D(T)x_n\in D(T)、xn→xx_n\to x、(T+B)xn→y(T+B)x_n\to y とします。BB は連続なので Bxn→BxBx_n\to Bx、したがって Txn=(T+B)xn−Bxn→y−BxTx_n=(T+B)x_n-Bx_n\to y-Bx です。TT は閉なので(命題 4.2)x∈D(T)x\in D(T)、Tx=y−BxTx=y-Bx、すなわち (T+B)x=y(T+B)x=y です。

可閉性: Tˉ+B\bar T+B は前半により閉で、T+B⊂Tˉ+BT+B\subset\bar T+B なので T+BT+B は可閉で T+B‾⊂Tˉ+B\overline{T+B}\subset\bar T+B です。逆に、可閉な作用素 S=T+BS=T+B と有界作用素 −B-B に同じ議論を使うと、T=S+(−B)T=S+(-B) について Tˉ⊂Sˉ−B\bar T\subset\bar S-B です。両辺に BB を足すと(定義域は変わらないので)Tˉ+B⊂Sˉ=T+B‾\bar T+B\subset\bar S=\overline{T+B} です。

演習 9.2標準

TT を H\mathcal{H} において稠密に定義された閉作用素とする。Ker(T)=Ran(T∗)⊥\mathrm{Ker}(T)=\mathrm{Ran}(T^*)^{\perp} を示し、Ker(T)\mathrm{Ker}(T) が閉部分空間であることを導け。また、TT が閉でないとき Ker(T)\mathrm{Ker}(T) は閉とは限らないことを例で示せ。

解答

定理 5.5 より D(T∗)D(T^*) は稠密で T∗∗=Tˉ=TT^{**}=\bar T=T です。命題 5.6 の (2) を T∗T^* に適用すると Ker(T∗∗)=Ran(T∗)⊥\mathrm{Ker}(T^{**})=\mathrm{Ran}(T^*)^{\perp}、すなわち Ker(T)=Ran(T∗)⊥\mathrm{Ker}(T)=\mathrm{Ran}(T^*)^{\perp} です。直交補空間は閉なので Ker(T)\mathrm{Ker}(T) は閉です。

例: 例 4.7 の TT(D(T)=Cc(R)D(T)=C_c(\mathbb{R})、Tf=f(0)hTf=f(0)h)では Ker(T)={f∈Cc(R):f(0)=0}\mathrm{Ker}(T)=\{f\in C_c(\mathbb{R}): f(0)=0\} です。これは L2(R)L^2(\mathbb{R}) で稠密(f∈Ccf\in C_c を f(1−fn)f(1-f_n) で近似できる。fnf_n は 例 4.7 のもの)ですが L2L^2 全体ではないので閉ではありません。可閉な作用素でも、たとえば D=Cc∞(R)D=C_c^\infty(\mathbb{R}) 上の 00 作用素では核 Cc∞C_c^\infty は閉ではありません。

演習 9.3標準

H=L2(0,1)\mathcal{H}=L^2(0,1) で、T0T_0 を D(T0)={f∈H1(0,1):f(0)=f(1)=0}D(T_0)=\{f\in H^1(0,1): f(0)=f(1)=0\}、T0f=−if′T_0f=-if' とする。T0∗=Tmax⁡T_0^*=T_{\max}(例 8.5 の作用素)であることを示し、Tmax⁡T_{\max} が閉であることを導け。必要なら、{f′:f∈D(T0)}={1}⊥\{f': f\in D(T_0)\}=\{1\}^{\perp}(定数関数 11 の直交補空間)であることを使ってよい。

解答

Tmax⁡⊂T0∗T_{\max}\subset T_0^*: g∈H1(0,1)g\in H^1(0,1)、f∈D(T0)f\in D(T_0) について、部分積分(§2)と f(0)=f(1)=0f(0)=f(1)=0 から

⟨g,−if′⟩=−i∫01gˉf′ dx=i∫01g′‾f dx=⟨−ig′,f⟩.\langle g,-if'\rangle=-i\int_0^1\bar gf'\,dx=i\int_0^1\overline{g'}f\,dx=\langle -ig',f\rangle.

よって g∈D(T0∗)g\in D(T_0^*)、T0∗g=−ig′T_0^*g=-ig' です。

T0∗⊂Tmax⁡T_0^*\subset T_{\max}: g∈D(T0∗)g\in D(T_0^*)、h=T0∗gh=T_0^*g とし、H(x)=∫0xh dtH(x)=\int_0^xh\,dt とおきます。HH は絶対連続で H′=hH'=h なので H∈H1(0,1)H\in H^1(0,1) です。f∈D(T0)f\in D(T_0) について部分積分と f(0)=f(1)=0f(0)=f(1)=0 から ⟨h,f⟩=∫01H′‾f dx=−∫01Hˉf′ dx\langle h,f\rangle=\int_0^1\overline{H'}f\,dx=-\int_0^1\bar Hf'\,dx です。一方 ⟨g,−if′⟩=∫01ig‾ f′ dx\langle g,-if'\rangle=\int_0^1\overline{ig}\,f'\,dx です。⟨g,−if′⟩=⟨h,f⟩\langle g,-if'\rangle=\langle h,f\rangle なので

∫01(ig+H)‾ f′ dx=0(f∈D(T0)).\int_0^1\overline{(ig+H)}\,f'\,dx=0\qquad(f\in D(T_0)).

ヒントにより f′f' は {1}⊥\{1\}^{\perp} 全体を動くので、ig+H∈{1}⊥⊥ig+H\in\{1\}^{\perp\perp}、すなわち ig+H=cig+H=c(定数)です。よって g=−i(c−H)g=-i(c-H) は H1(0,1)H^1(0,1) に属し、微分すると ig′+h=0ig'+h=0、すなわち h=−ig′h=-ig' です。したがって g∈D(Tmax⁡)g\in D(T_{\max})、T0∗g=Tmax⁡gT_0^*g=T_{\max}g です。

ヒントの確認: f∈D(T0)f\in D(T_0) なら ∫01f′ dx=f(1)−f(0)=0\int_0^1f'\,dx=f(1)-f(0)=0 です。逆に u∈{1}⊥u\in\{1\}^{\perp} なら U(x)=∫0xu dtU(x)=\int_0^xu\,dt は U(0)=0U(0)=0、U(1)=∫01u dt=0U(1)=\int_0^1u\,dt=0 を満たし、U∈D(T0)U\in D(T_0)、U′=uU'=u です。

閉性: Tmax⁡=T0∗T_{\max}=T_0^* なので 定理 5.4 により閉です。

  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised and enlarged edition, Academic Press, 1980 — Chapter VIII(非有界作用素・共役・レゾルベント)。
  • T. Kato, Perturbation Theory for Linear Operators, 2nd edition, Springer, 1976 — Chapter III(閉作用素・共役)。
  • K. Schmüdgen, Unbounded Self-adjoint Operators on Hilbert Space, Graduate Texts in Mathematics 265, Springer, 2012 — Chapters 1–2。
  • 新井朝雄『ヒルベルト空間と量子力学』改訂増補版、共立出版、2014 — 非有界作用素の章。
  • H. Wielandt, “Über die Unbeschränktheit der Operatoren der Quantenmechanik”, Mathematische Annalen 121 (1949)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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