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1 径数ユニタリ群と強連続半群:Stone・Hille–吉田・Trotter 積公式

対象読者: 本テーマ第 9 章までの自己共役性の判定とスペクトル定理による関数計算を学んだ人。指数関数 e^{itA} の定義や半群は本文で説明します。

前提となる記事:自己共役性の判定:Kato–Rellich・KLMN・Friedrichs 拡大・Nelson の可換子定理

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量子力学では、系の状態が時間とともにどう変わるかを、時間 tt ごとの変換の族として表します。この記事は、そのような「時間発展」を生み出す作用素にはどんな条件が要るのか、また二つの作用素の和が生み出す時間発展を、それぞれの時間発展を細かく交互に繰り返すことでどう近似できるのかを扱います。読み終えると、時間発展がノルムを保つことと生成する作用素が自己共役であることの対応、熱の拡散と波の伝播の違い、基底状態が一つに決まる理由が説明できるようになります。

  • 強連続(各ベクトル ψ\psi について t↦U(t)ψt\mapsto U(t)\psi が連続)な 1 径数ユニタリ群 U(t)U(t) と自己共役作用素 AA は、U(t)=eitAU(t)=e^{itA} によって 1 対 1 に対応します(Stone の定理)。量子力学で「時間発展がユニタリであること」と「ハミルトニアンが自己共役であること」は同じ主張です。
  • 群を半群に、ユニタリを縮小に弱めると、生成子は「(0,∞)(0,\infty) がレゾルベント集合(λ−L\lambda-L が有界な逆をもつ λ\lambda の集まり)に入り ∥(λ−L)−1∥≤1/λ\|(\lambda-L)^{-1}\|\le 1/\lambda」で特徴づけられます(Hille–吉田の定理)。Hilbert 空間では「消散的(Re ⟨ψ,Lψ⟩≤0\mathrm{Re}\,\langle\psi,L\psi\rangle\le 0、つまりノルムが増えない向きの条件)かつ Ran(λ0−L)\mathrm{Ran}(\lambda_0-L) が全体」と言い換えられます(Lumer–Phillips の定理)。
  • A+BA+B が D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) 上で本質的自己共役(閉包をとると自己共役になる)なら、eit(A+B)=s-limn(eitA/neitB/n)ne^{it(A+B)} = \mathrm{s\text{-}lim}_{n}(e^{itA/n}e^{itB/n})^n が成り立ちます(Trotter 積公式)。経路積分や Feynman–Kac 公式の作用素論的な出発点です。
  • L2L^2 上の半群 e−tHe^{-tH} が正の関数を正の関数に、さらに「至るところ正」に移すなら、HH の基底状態(エネルギーが最低の状態)は(存在すれば)一意で、正の関数に取れます(Perron–Frobenius 型定理)。ボソン系の基底状態の一意性はこの形で示されます。
  • 具体例として熱半群 etΔe^{t\Delta} の Gauss 核と、自由 Schrödinger 群 eitΔe^{it\Delta} の振動する積分核 (4πit)−d/2ei∣x−y∣2/(4t)(4\pi it)^{-d/2}e^{i|x-y|^2/(4t)} を導きます。

有限次元で ψ˙=iAψ\dot{\psi}=iA\psi の解は ψ(t)=eitAψ(0)\psi(t)=e^{itA}\psi(0) で、指数関数は級数で定義できます。Schrödinger 方程式 i∂tψ=Hψi\partial_t\psi = H\psi や熱方程式 ∂tu=Δu\partial_t u = \Delta u でも同じことをしたいのですが、HH も Δ\Delta も非有界なので級数 ∑n(tH)n/n!\sum_n (tH)^n/n! は一般に収束しません。そこで発想を逆にし、「時間発展の族 U(t)U(t) がまずあって、その t=0t=0 での微分として生成子が決まる」と考えます。

このとき問うべきことは二つあります。どんな作用素が時間発展を生成するのか(生成子の特徴づけ)と、生成子が和 A+BA+B のときに時間発展を AA と BB の時間発展から組み立てられるか(積公式)です。前者に答えるのが Stone の定理と Hille–吉田の定理、後者が Trotter 積公式です。さらに、半群の積分核の正値性からスペクトルの情報(基底状態の一意性)を引き出す Perron–Frobenius 型定理は、構成的場の理論で真空の一意性を示すときにも使われます。

前の章 自己共役性の判定 で自己共役性を確かめる方法を学びました。本章はその結論が「何の役に立つのか」に答える章でもあります。

H\mathcal{H} は複素 Hilbert 空間で、内積は第 1 変数について共役線形とします。自己共役作用素 AA と Borel 関数 ff に対する f(A)f(A) は スペクトル定理と関数計算 の意味で定め、ψ\psi のスペクトル測度を μψ\mu_\psi と書きます(⟨ψ,f(A)ψ⟩=∫f dμψ\langle\psi,f(A)\psi\rangle = \int f\,d\mu_\psi、μψ(R)=∥ψ∥2\mu_\psi(\mathbb{R})=\|\psi\|^2)。

定義 2.1(強連続 1 径数ユニタリ群と生成子)↗

写像 U:R→B(H)U:\mathbb{R}\to\mathcal{B}(\mathcal{H}) が次を満たすとき、強連続 1 径数ユニタリ群という。

  1. 各 U(t)U(t) はユニタリ作用素で、U(0)=1U(0)=1、U(t+s)=U(t)U(s)U(t+s)=U(t)U(s)(s,t∈Rs,t\in\mathbb{R})。
  2. 各 ψ∈H\psi\in\mathcal{H} について t↦U(t)ψt\mapsto U(t)\psi は連続。

その生成子 AA を

D(A)={ψ∈H:lim⁡t→0U(t)ψ−ψt が存在する},iAψ=lim⁡t→0U(t)ψ−ψtD(A) = \Bigl\{\psi\in\mathcal{H} : \lim_{t\to 0}\frac{U(t)\psi-\psi}{t}\ \text{が存在する}\Bigr\},\qquad iA\psi = \lim_{t\to 0}\frac{U(t)\psi-\psi}{t}

で定める。

物理の慣習ではハミルトニアン HH に対して U(t)=e−itHU(t)=e^{-itH} と書くので、H=−AH=-A と読み替えてください。

命題 2.2(自己共役作用素が定めるユニタリ群)✓

AA を自己共役作用素とし、U(t)=eitAU(t)=e^{itA} を関数計算で定める。このとき UU は強連続 1 径数ユニタリ群であり、その生成子は AA に一致する(定義域も含めて)。

証明(命題 2.2)

∣eitx∣=1|e^{itx}|=1、ei(t+s)x=eitxeisxe^{i(t+s)x}=e^{itx}e^{isx} と関数計算の準同型性から U(t)U(t) はユニタリで群の性質をもつ。強連続性は ∥U(t)ψ−ψ∥2=∫∣eitx−1∣2dμψ(x)\|U(t)\psi-\psi\|^2 = \int|e^{itx}-1|^2d\mu_\psi(x) に優収束定理(被積分関数は 44 以下で各点で 00 に収束)を適用すればよい。ψ∈D(A)\psi\in D(A) なら

∥U(t)ψ−ψt−iAψ∥2=∫∣eitx−1t−ix∣2dμψ(x)\Bigl\|\frac{U(t)\psi-\psi}{t}-iA\psi\Bigr\|^2 = \int\Bigl|\frac{e^{itx}-1}{t}-ix\Bigr|^2d\mu_\psi(x)

で、∣(eitx−1)/t∣≤∣x∣|(e^{itx}-1)/t|\le|x| より被積分関数は 4x24x^2 で押さえられ、∫x2dμψ<∞\int x^2d\mu_\psi<\infty なので優収束定理から 00 に収束する。逆に極限が存在すれば ∫∣(eitx−1)/t∣2dμψ\int|(e^{itx}-1)/t|^2d\mu_\psi は t→0t\to 0 で有界であり、Fatou の補題から ∫x2dμψ<∞\int x^2d\mu_\psi<\infty、すなわち ψ∈D(A)\psi\in D(A)。

定理 3.1(Stone の定理)✓

UU を強連続 1 径数ユニタリ群とし、AA をその生成子とする。このとき AA は自己共役であり、すべての t∈Rt\in\mathbb{R} について U(t)=eitAU(t)=e^{itA} が成り立つ。したがって 命題 2.2 とあわせて、強連続 1 径数ユニタリ群と自己共役作用素は U(t)=eitAU(t)=e^{itA} によって 1 対 1 に対応する。

証明の方針を先に述べます。生成子 AA が自己共役であることを、定義域が稠密で不変であること (a)、対称であること (b)、A∗φ=±iφA^*\varphi=\pm i\varphi が自明な解しかもたないこと (c)、閉であること (d) の順に確かめます。最後の (e) で、関数計算で作った eitAe^{itA} が元の U(t)U(t) と一致することを示します。(a) の ψf\psi_f は、U(t)ψU(t)\psi を滑らかな重み ff で時間平均したものです。平均すると微分できるようになるので、任意の ψ\psi を D(A)D(A) の元で近似できます。(c) で ±i\pm i だけを調べるのは、前章の判定法(対称作用素が本質的自己共役になるのは A∗φ=±iφA^*\varphi=\pm i\varphi が φ=0\varphi=0 しか解にもたないとき)によります。

証明(定理 3.1)

(a) D(A)D(A) は稠密で、U(t)U(t) で不変。 f∈Cc∞(R)f\in C_c^\infty(\mathbb{R}) と ψ∈H\psi\in\mathcal{H} に対し ψf=∫f(t)U(t)ψ dt\psi_f=\int f(t)U(t)\psi\,dt(連続関数の Riemann 積分)とおく。U(s)ψf=∫f(t−s)U(t)ψ dtU(s)\psi_f = \int f(t-s)U(t)\psi\,dt なので

U(s)ψf−ψfs=∫f(t−s)−f(t)sU(t)ψ dt→−∫f′(t)U(t)ψ dt(s→0)\frac{U(s)\psi_f-\psi_f}{s} = \int\frac{f(t-s)-f(t)}{s}U(t)\psi\,dt \to -\int f'(t)U(t)\psi\,dt\quad(s\to 0)

(差分商は f′f' に一様収束し、台は一様に有界)。よって ψf∈D(A)\psi_f\in D(A)。ff を ∫f=1\int f=1 の非負関数で台が [−ε,ε][-\varepsilon,\varepsilon] に入るものとすると ∥ψf−ψ∥≤sup⁡∣t∣≤ε∥U(t)ψ−ψ∥→0\|\psi_f-\psi\|\le\sup_{|t|\le\varepsilon}\|U(t)\psi-\psi\|\to 0 なので、D(A)D(A) は稠密。また ψ∈D(A)\psi\in D(A) なら (U(s)U(t)ψ−U(t)ψ)/s=U(t)(U(s)ψ−ψ)/s(U(s)U(t)\psi-U(t)\psi)/s = U(t)(U(s)\psi-\psi)/s から U(t)ψ∈D(A)U(t)\psi\in D(A)、AU(t)ψ=U(t)AψAU(t)\psi=U(t)A\psi で、ddtU(t)ψ=iAU(t)ψ\frac{d}{dt}U(t)\psi = iAU(t)\psi が成り立つ。

(b) AA は対称。 φ,ψ∈D(A)\varphi,\psi\in D(A) について、U(t)∗=U(−t)U(t)^*=U(-t) を使い

i⟨φ,Aψ⟩=lim⁡t→0⟨φ,U(t)ψ−ψt⟩=lim⁡t→0⟨U(−t)φ−φt,ψ⟩=⟨−iAφ,ψ⟩=i⟨Aφ,ψ⟩.i\langle\varphi,A\psi\rangle = \lim_{t\to 0}\Bigl\langle\varphi,\frac{U(t)\psi-\psi}{t}\Bigr\rangle = \lim_{t\to 0}\Bigl\langle\frac{U(-t)\varphi-\varphi}{t},\psi\Bigr\rangle = \langle -iA\varphi,\psi\rangle = i\langle A\varphi,\psi\rangle.

(c) AA は本質的自己共役。 A∗φ=iφA^*\varphi=i\varphi とする。ψ∈D(A)\psi\in D(A) を取り g(t)=⟨φ,U(t)ψ⟩g(t)=\langle\varphi,U(t)\psi\rangle とおくと、(a) から

g′(t)=⟨φ,iAU(t)ψ⟩=i⟨A∗φ,U(t)ψ⟩=i⟨iφ,U(t)ψ⟩=g(t).g'(t) = \langle\varphi,iAU(t)\psi\rangle = i\langle A^*\varphi,U(t)\psi\rangle = i\langle i\varphi,U(t)\psi\rangle = g(t).

よって g(t)=etg(0)g(t)=e^tg(0)。一方 ∣g(t)∣≤∥φ∥∥ψ∥|g(t)|\le\|\varphi\|\|\psi\| は有界なので g(0)=⟨φ,ψ⟩=0g(0)=\langle\varphi,\psi\rangle=0。D(A)D(A) の稠密性から φ=0\varphi=0。A∗φ=−iφA^*\varphi=-i\varphi の場合は g′=−gg'=-g となり、t→−∞t\to-\infty を見て同様に φ=0\varphi=0。命題 2.2[自己共役性の判定] (3) により AA は本質的自己共役である。

(d) AA は閉。 ψn∈D(A)\psi_n\in D(A)、ψn→ψ\psi_n\to\psi、Aψn→ηA\psi_n\to\eta とする。(a) から U(t)ψn−ψn=∫0tU(s)iAψn dsU(t)\psi_n-\psi_n=\int_0^tU(s)iA\psi_n\,ds で、n→∞n\to\infty として U(t)ψ−ψ=∫0tU(s)iη dsU(t)\psi-\psi=\int_0^tU(s)i\eta\,ds。両辺を tt で割って t→0t\to 0 とすると、被積分関数の連続性から極限は iηi\eta。よって ψ∈D(A)\psi\in D(A)、Aψ=ηA\psi=\eta。(c) と合わせて AA は自己共役。

(e) U(t)=eitAU(t)=e^{itA}。 V(t)=eitAV(t)=e^{itA} とおき、ψ∈D(A)\psi\in D(A) に対して w(t)=U(t)ψ−V(t)ψw(t)=U(t)\psi-V(t)\psi とする。(a) と 命題 2.2 から w(t)∈D(A)w(t)\in D(A)、w′(t)=iAw(t)w'(t)=iAw(t) であり、

ddt∥w(t)∥2=⟨iAw,w⟩+⟨w,iAw⟩=−i⟨Aw,w⟩+i⟨w,Aw⟩=0.\frac{d}{dt}\|w(t)\|^2 = \langle iAw,w\rangle+\langle w,iAw\rangle = -i\langle Aw,w\rangle + i\langle w,Aw\rangle = 0.

w(0)=0w(0)=0 なので w≡0w\equiv 0。D(A)D(A) の稠密性と U(t),V(t)U(t),V(t) の有界性から U(t)=V(t)U(t)=V(t)。

Stone の定理は「時間発展がユニタリで連続なら、生成子は自動的に自己共役」とも読めます。自己共役でない対称作用素を「ハミルトニアン」として採用すると、ユニタリな時間発展は得られません。次の例は、群の代わりに半群しかないと何が起こるかを示します。

例 3.2(平行移動群と運動量作用素)

H=L2(R)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R}) で (U(t)ψ)(x)=ψ(x+t)(U(t)\psi)(x)=\psi(x+t) とする。Cc(R)C_c(\mathbb{R}) の稠密性と一様連続性から UU は強連続 1 径数ユニタリ群である。Fourier 変換すると U(t)U(t) は eitke^{itk} を掛ける作用素なので、命題 2.2 から生成子は pψ^(k)=kψ^(k)\widehat{p\psi}(k)=k\hat\psi(k)、すなわち p=−i d/dxp=-i\,d/dx で、D(p)=H1(R)D(p)=H^1(\mathbb{R})。Stone の定理から、pp が H1(R)H^1(\mathbb{R}) 上で自己共役であることが改めて分かる。

例 3.3(反例:半直線上のシフトは群にならない)

H=L2(0,∞)\mathcal{H}=L^2(0,\infty) で、t≥0t\ge 0 に対し (S(t)ψ)(x)=ψ(x−t)(S(t)\psi)(x)=\psi(x-t)(x>tx>t)、=0=0(0<x≤t0<x\le t)とする。S(t)S(t) は等長作用素で S(t+s)=S(t)S(s)S(t+s)=S(t)S(s)、強連続であるが、t>0t>0 では全射でない(値域の元は (0,t)(0,t) で 00)ので、ユニタリ群に延長できない。S(t)=eitAS(t)=e^{itA} の形に書こうとすると、生成子は iAψ=−ψ′iA\psi=-\psi'、D(A)={ψ∈H1(0,∞):ψ(0)=0}D(A)=\{\psi\in H^1(0,\infty):\psi(0)=0\} で、A=i d/dxA=i\,d/dx は対称だが自己共役でない。実際 A∗=i d/dxA^* = i\,d/dx(D(A∗)=H1(0,∞)D(A^*)=H^1(0,\infty))について A∗φ=−iφA^*\varphi=-i\varphi の解 φ(x)=e−x\varphi(x)=e^{-x} が L2L^2 に入る。Stone の定理の証明 (c) で t→−∞t\to-\infty を使った箇所が、半群では使えないことに対応している。

注意 3.4

強連続性の仮定はかなり弱められる。H\mathcal{H} が可分なら、ユニタリ群 UU について各 φ,ψ\varphi,\psi で t↦⟨φ,U(t)ψ⟩t\mapsto\langle\varphi,U(t)\psi\rangle が Lebesgue 可測でありさえすれば、UU は自動的に強連続になる(von Neumann の定理、Reed–Simon I 第 VIII 章)。一方、可測性まで外すと、選択公理で作った R\mathbb{R} の非可測な加法的指標 χ\chi について U(t)=χ(t)⋅1U(t)=\chi(t)\cdot 1 はユニタリ群であるが、どの意味でも生成子をもたない。Stone の定理の「連続性」は、物理的には「短い時間では状態がほとんど変わらない」という最低限の要請であり、それだけで生成子の自己共役性まで決まってしまうところにこの定理の強さがある。

Stone の定理を量子力学の言葉で読み直しておきます。ハミルトニアン HH が自己共役なら、U(t)=e−itHU(t)=e^{-itH} はすべての初期状態 ψ∈H\psi\in\mathcal{H} に対して時間発展を与え、ψ∈D(H)\psi\in D(H) のときに限って t↦U(t)ψt\mapsto U(t)\psi は微分可能で Schrödinger 方程式 iddtU(t)ψ=HU(t)ψi\frac{d}{dt}U(t)\psi=HU(t)\psi を満たします。D(H)D(H) の外の初期状態に対しても U(t)ψU(t)\psi は意味をもち、方程式の「弱解」として扱われます。逆に、ノルム(確率)を保存する連続な時間発展があれば、それを生み出すハミルトニアンは一意で、自己共役です。自己共役性の判定 で −Δ−1/∣x∣-\Delta-1/|x| の自己共役性を示したことは、水素原子の時間発展が一意に決まることを示したのと同じです。

4. 強連続半群と Hille–吉田の定理

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拡散や散逸のある系では時間発展は可逆でなく、ノルムも保存されません。この節では XX を複素 Banach 空間とします。

定義 4.1(強連続半群と生成子)↗

写像 T:[0,∞)→B(X)T:[0,\infty)\to\mathcal{B}(X) が T(0)=1T(0)=1、T(t+s)=T(t)T(s)T(t+s)=T(t)T(s)(s,t≥0s,t\ge 0)を満たし、各 x∈Xx\in X について t↦T(t)xt\mapsto T(t)x が [0,∞)[0,\infty) 上連続であるとき、強連続半群(C0C_0 半群)という。すべての tt で ∥T(t)∥≤1\|T(t)\|\le 1 なら縮小半群という。生成子 LL を

D(L)={x:lim⁡t↓0T(t)x−xt が存在},Lx=lim⁡t↓0T(t)x−xtD(L)=\Bigl\{x : \lim_{t\downarrow 0}\frac{T(t)x-x}{t}\ \text{が存在}\Bigr\},\qquad Lx=\lim_{t\downarrow 0}\frac{T(t)x-x}{t}

で定め、T(t)=etLT(t)=e^{tL} と書く。

命題 4.2(強連続半群の基本性質)✓

TT を強連続半群、LL をその生成子とする。

  1. 定数 M≥1M\ge 1、ω∈R\omega\in\mathbb{R} があって ∥T(t)∥≤Meωt\|T(t)\|\le Me^{\omega t}。
  2. D(L)D(L) は稠密で LL は閉作用素。x∈D(L)x\in D(L) なら T(t)x∈D(L)T(t)x\in D(L)、ddtT(t)x=LT(t)x=T(t)Lx\frac{d}{dt}T(t)x = LT(t)x=T(t)Lx、T(t)x−x=∫0tT(s)Lx dsT(t)x-x=\int_0^tT(s)Lx\,ds。
  3. Re λ>ω\mathrm{Re}\,\lambda>\omega なら λ\lambda は LL のレゾルベント集合に属し、(λ−L)−1x=∫0∞e−λtT(t)x dt(\lambda-L)^{-1}x=\int_0^\infty e^{-\lambda t}T(t)x\,dt。
証明(命題 4.2)

(1) ある δ>0\delta>0 で sup⁡0≤t≤δ∥T(t)∥<∞\sup_{0\le t\le\delta}\|T(t)\|<\infty である。そうでなければ tn↓0t_n\downarrow 0 で ∥T(tn)∥→∞\|T(t_n)\|\to\infty となるが、各 xx で T(tn)x→xT(t_n)x\to x は有界なので一様有界性原理に反する。この上限を MM とすれば、t=kδ+rt=k\delta+r(0≤r<δ0\le r<\delta)と分けて ∥T(t)∥≤Mk+1≤Meωt\|T(t)\|\le M^{k+1}\le Me^{\omega t}、ω=δ−1log⁡M\omega=\delta^{-1}\log M。

(2) 稠密性と不変性・微分公式は 定理 3.1 の (a) と同じ議論(ψf\psi_f の代わりに xh=h−1∫0hT(s)x dsx_h = h^{-1}\int_0^hT(s)x\,ds を使い、(T(t)xh−xh)/t→(T(h)x−x)/h(T(t)x_h-x_h)/t\to(T(h)x-x)/h)で示せる。閉性も Stone の定理の (d) と同じである。

(3) (1) から積分は絶対収束し、RλxR_\lambda x と書くと ∥Rλ∥≤M/(Re λ−ω)\|R_\lambda\|\le M/(\mathrm{Re}\,\lambda-\omega)。h>0h>0 について

T(h)−1hRλx=eλh−1h∫h∞e−λtT(t)x dt−1h∫0he−λtT(t)x dt→λRλx−x\frac{T(h)-1}{h}R_\lambda x = \frac{e^{\lambda h}-1}{h}\int_h^\infty e^{-\lambda t}T(t)x\,dt - \frac{1}{h}\int_0^he^{-\lambda t}T(t)x\,dt \to \lambda R_\lambda x - x

なので Rλx∈D(L)R_\lambda x\in D(L)、(λ−L)Rλx=x(\lambda-L)R_\lambda x=x。x∈D(L)x\in D(L) なら (2) から RλLx=LRλxR_\lambda Lx = LR_\lambda x なので Rλ(λ−L)x=xR_\lambda(\lambda-L)x=x。よって Rλ=(λ−L)−1R_\lambda=(\lambda-L)^{-1}。

定理 4.3(Hille–吉田の定理)✓

XX を Banach 空間、LL を XX 上の稠密な定義域をもつ閉作用素とする。LL が縮小半群の生成子であるための必要十分条件は、すべての λ>0\lambda>0 が LL のレゾルベント集合に属し、

∥(λ−L)−1∥≤1λ(λ>0)\|(\lambda-L)^{-1}\|\le\frac{1}{\lambda}\qquad(\lambda>0)

が成り立つことである。

この定理の証明は別の記事にあり、次の証明ではそこで示された同値性の特別な場合として位置づけます。証明の考え方(吉田近似)は、直後の注意にあらすじがあります。

証明(定理 4.3)

Banach 空間の強連続半群 の 定理 3.1[Banach 空間の強連続半群] は、「LL が縮小半群の生成子である」ことと「LL が稠密に定義された閉作用素で (0,∞)⊂ρ(L)(0,\infty)\subset\rho(L)、∥R(λ,L)∥≤1/λ\|R(\lambda,L)\|\le1/\lambda(λ>0\lambda>0)」の同値性を証明しています。R(λ,L)=(λ−L)−1R(\lambda,L)=(\lambda-L)^{-1} なので、本定理(LL が稠密に定義された閉作用素であることを最初から仮定した形)はその特別な場合です。

注意 4.4

必要性は 命題 4.2 (3) で M=1M=1、ω=0\omega=0 とした場合である。十分性の証明(Hille と吉田耕作、1948 年)は吉田の近似を使う。Lλ=λL(λ−L)−1=λ2(λ−L)−1−λL_\lambda = \lambda L(\lambda-L)^{-1}=\lambda^2(\lambda-L)^{-1}-\lambda は有界作用素で、∥etLλ∥≤e−λteλ2t∥(λ−L)−1∥≤1\|e^{tL_\lambda}\|\le e^{-\lambda t}e^{\lambda^2t\|(\lambda-L)^{-1}\|}\le 1。x∈D(L)x\in D(L) では λ→∞\lambda\to\infty で Lλx→LxL_\lambda x\to Lx となり、∥etLλx−etLμx∥≤t∥Lλx−Lμx∥\|e^{tL_\lambda}x-e^{tL_\mu}x\|\le t\|L_\lambda x-L_\mu x\| から etLλxe^{tL_\lambda}x は Cauchy である。その極限 T(t)xT(t)x が求める縮小半群で、生成子が LL であることを確かめる。詳細は Pazy の教科書第 1 章、Engel–Nagel 第 II 章にある。完全な証明は 定理 3.1[Banach 空間の強連続半群] に置いた。

Hille–吉田の条件は、半群を Laplace 変換したものがレゾルベントであること(命題 4.2 (3))を逆にたどったものです。ただし実際の偏微分方程式に適用するとき、すべての λ>0\lambda>0 でレゾルベントのノルムを評価するのは簡単ではありません。Hilbert 空間では、この評価は次の「消散性」という条件に置き換えられ、ずっと確かめやすくなります。

定義 4.5(消散作用素)↗

Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の作用素 LL が消散的であるとは、すべての ψ∈D(L)\psi\in D(L) について Re ⟨ψ,Lψ⟩≤0\mathrm{Re}\,\langle\psi,L\psi\rangle\le 0 となることをいう。

定理 4.6(Lumer–Phillips の定理(Hilbert 空間版))✓

LL を Hilbert 空間 H\mathcal{H} 上の稠密な定義域をもつ消散作用素とし、ある λ0>0\lambda_0>0 で Ran(λ0−L)=H\mathrm{Ran}(\lambda_0-L)=\mathcal{H} とする。このとき LL は閉で、縮小半群を生成する。

証明(定理 4.6)

λ>0\lambda>0、ψ∈D(L)\psi\in D(L) について、消散性と Cauchy–Schwarz の不等式から

∥(λ−L)ψ∥∥ψ∥≥Re ⟨ψ,(λ−L)ψ⟩≥λ∥ψ∥2,\|(\lambda-L)\psi\|\|\psi\|\ge\mathrm{Re}\,\langle\psi,(\lambda-L)\psi\rangle\ge\lambda\|\psi\|^2,

すなわち ∥(λ−L)ψ∥≥λ∥ψ∥\|(\lambda-L)\psi\|\ge\lambda\|\psi\|。よって λ0−L\lambda_0-L は単射で、仮定から全射なので、逆 (λ0−L)−1(\lambda_0-L)^{-1} はノルム 1/λ01/\lambda_0 以下の有界作用素である。有界作用素の逆として λ0−L\lambda_0-L、したがって LL は閉である。次に Λ={λ>0:Ran(λ−L)=H}\Lambda=\{\lambda>0:\mathrm{Ran}(\lambda-L)=\mathcal{H}\} とおく。λ∈Λ\lambda\in\Lambda なら ∥(λ−L)−1∥≤1/λ\|(\lambda-L)^{-1}\|\le 1/\lambda なので、∣μ−λ∣<λ|\mu-\lambda|<\lambda を満たす μ>0\mu>0 について Neumann 級数 (μ−L)−1=∑k≥0(λ−μ)k(λ−L)−k−1(\mu-L)^{-1}=\sum_{k\ge 0}(\lambda-\mu)^k(\lambda-L)^{-k-1} が収束し、μ∈Λ\mu\in\Lambda。これで Λ\Lambda は (0,∞)(0,\infty) の開集合であり、λ∈Λ\lambda\in\Lambda なら (0,2λ)⊂Λ(0,2\lambda)\subset\Lambda となる。λ0∈Λ\lambda_0\in\Lambda から帰納的に Λ=(0,∞)\Lambda=(0,\infty)。評価 ∥(λ−L)−1∥≤1/λ\|(\lambda-L)^{-1}\|\le 1/\lambda と合わせて 定理 4.3 が適用できる。

消散性 Re ⟨ψ,Lψ⟩≤0\mathrm{Re}\,\langle\psi,L\psi\rangle\le 0 は、ddt∥T(t)ψ∥2=2 Re ⟨T(t)ψ,LT(t)ψ⟩≤0\frac{d}{dt}\|T(t)\psi\|^2 = 2\,\mathrm{Re}\,\langle T(t)\psi,LT(t)\psi\rangle\le 0 という「エネルギーが増えない」ことの微分形です。値域の条件 Ran(λ0−L)=H\mathrm{Ran}(\lambda_0-L)=\mathcal{H} は、Stone の定理における「対称」と「自己共役」の差と同じ役割を果たし、境界条件を正しく課したかどうかを判定します。実際、例 3.3 の L=−d/dxL=-d/dx(ψ(0)=0\psi(0)=0)は消散的で値域条件も満たすので縮小半群を生成しますが、−L-L は消散的でも値域条件を満たさないので、逆向きの時間発展は作れません。

系 4.7(自己共役作用素が生成する半群)✓

HH を下に有界な自己共役作用素とし H≥−mH\ge -m とする。このとき −H-H は強連続半群 e−tHe^{-tH} を生成し、∥e−tH∥≤emt\|e^{-tH}\|\le e^{mt} である。H≥0H\ge 0 なら縮小半群である。また任意の自己共役作用素 AA について iAiA は縮小半群(実はユニタリ群)eitAe^{itA} を生成する。

証明(系 4.7)

H+m≥0H+m\ge 0 なので L=−(H+m)L=-(H+m) は消散的で、Ran(1+H+m)=H\mathrm{Ran}(1+H+m)=\mathcal{H}(−1−m-1-m は σ(H)⊂[−m,∞)\sigma(H)\subset[-m,\infty) の外)。定理 4.6 から e−t(H+m)e^{-t(H+m)} は縮小半群で、e−tH=emte−t(H+m)e^{-tH}=e^{mt}e^{-t(H+m)}。半群は関数計算の e−tHe^{-tH} と一致する(命題 2.2 と同様に、関数計算の e−tHe^{-tH} の生成子が −H-H であることを確かめ、生成子が同じ半群は一致することを 定理 3.1 (e) の議論で示す)。iAiA については Re ⟨ψ,iAψ⟩=0\mathrm{Re}\,\langle\psi,iA\psi\rangle=0 と Ran(1−iA)=H\mathrm{Ran}(1-iA)=\mathcal{H} からよい。

5. 熱半群と自由 Schrödinger 群の積分核

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H=L2(Rd)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R}^d)、Fourier 変換を ψ^(k)=(2π)−d/2∫e−ik⋅xψ(x) dx\hat\psi(k)=(2\pi)^{-d/2}\int e^{-ik\cdot x}\psi(x)\,dx とし、H0=−ΔH_0=-\Delta(D(H0)=H2(Rd)D(H_0)=H^2(\mathbb{R}^d))とします。関数計算により e−zH0e^{-zH_0}(Re z≥0\mathrm{Re}\,z\ge 0)は Fourier 側で e−z∣k∣2e^{-z|k|^2} を掛ける作用素です。t>0t>0 について Gauss 核を pt(x)=(4πt)−d/2exp⁡(−∣x∣2/(4t))p_t(x)=(4\pi t)^{-d/2}\exp(-|x|^2/(4t)) と書きます。

命題 5.1(熱半群の積分核)✓

t>0t>0 とする。

  1. すべての z∈Rdz\in\mathbb{R}^d について (2π)−d∫Rdeik⋅ze−t∣k∣2 dk=pt(z)(2\pi)^{-d}\int_{\mathbb{R}^d}e^{ik\cdot z}e^{-t|k|^2}\,dk=p_t(z)。
  2. すべての ψ∈L2(Rd)\psi\in L^2(\mathbb{R}^d) について、(pt∗ψ)(x)=∫pt(x−y)ψ(y) dy(p_t*\psi)(x)=\int p_t(x-y)\psi(y)\,dy は各 xx で絶対収束し、e−tH0ψ=pt∗ψe^{-tH_0}\psi=p_t*\psi が成り立つ。
証明(命題 5.1)

1. 命題 3.1[ℝⁿ 上のフーリエ変換] を ε2=2t\varepsilon^2=2t として使います。そこでの Gε(x)=(2π)−d/2ε−de−∣x∣2/(2ε2)G_\varepsilon(x)=(2\pi)^{-d/2}\varepsilon^{-d}e^{-|x|^2/(2\varepsilon^2)} は ptp_t に等しく、φε(k)=e−t∣k∣2\varphi_\varepsilon(k)=e^{-t|k|^2} について ∫e−ik⋅zφε(k) dk=(2π)dpt(z)\int e^{-ik\cdot z}\varphi_\varepsilon(k)\,dk=(2\pi)^dp_t(z) です。ptp_t は偶関数なので zz を −z-z に替えて主張を得ます。

2. pt∈L2p_t\in L^2 なので、Cauchy–Schwarz の不等式から積分は各 xx で絶対収束します。まず ψ∈L1∩L2\psi\in L^1\cap L^2 とします。この節の規約の Fourier 変換は 命題 2.2[ℝⁿ 上のフーリエ変換] の規約 Ff(k)=∫e−ik⋅xf(x) dx\mathcal{F}f(k)=\int e^{-ik\cdot x}f(x)\,dx の (2π)−d/2(2\pi)^{-d/2} 倍で、同命題の 2 と、1 と同じ ε2=2t\varepsilon^2=2t で 命題 3.1[ℝⁿ 上のフーリエ変換] から得られる Fpt(k)=Gε^(k)=e−t∣k∣2\mathcal{F}p_t(k)=\widehat{G_\varepsilon}(k)=e^{-t|k|^2} から F(pt∗ψ)=e−t∣k∣2Fψ\mathcal{F}(p_t*\psi)=e^{-t|k|^2}\mathcal{F}\psi、したがって pt∗ψ^=e−t∣k∣2ψ^=e−tH0ψ^\widehat{p_t*\psi}=e^{-t|k|^2}\hat\psi=\widehat{e^{-tH_0}\psi} です。定理 4.1[ℝⁿ 上のフーリエ変換] により Fourier 変換は L2L^2 上で単射なので、pt∗ψ=e−tH0ψp_t*\psi=e^{-tH_0}\psi です。一般の ψ∈L2\psi\in L^2 については、定理 5.1[ℝⁿ 上のフーリエ変換](p=1p=1、q=r=2q=r=2)から ∥pt∗ψ∥2≤∥pt∥1∥ψ∥2=∥ψ∥2\|p_t*\psi\|_2\le\|p_t\|_1\|\psi\|_2=\|\psi\|_2 で、ψ↦pt∗ψ\psi\mapsto p_t*\psi と e−tH0e^{-tH_0} はともに L2L^2 上の有界作用素であり、稠密な L1∩L2L^1\cap L^2 上で一致するので、全体で一致します。

例 5.2(熱半群と Gauss 核)

t>0t>0 について、命題 5.1 により

(etΔψ)(x)=∫Rdpt(x−y)ψ(y) dy,pt(x)=(4πt)−d/2exp⁡(−∣x∣24t).(e^{t\Delta}\psi)(x) = \int_{\mathbb{R}^d}p_t(x-y)\psi(y)\,dy,\qquad p_t(x)=(4\pi t)^{-d/2}\exp\Bigl(-\frac{|x|^2}{4t}\Bigr).

計算の要点を書くと、Gauss 積分から (2π)−d/2∫eik⋅xe−t∣k∣2dk=(2t)−d/2e−∣x∣2/(4t)(2\pi)^{-d/2}\int e^{ik\cdot x}e^{-t|k|^2}dk=(2t)^{-d/2}e^{-|x|^2/(4t)} で、この規約の畳み込み定理 (f∗g)∧=(2π)d/2f^g^(f*g)^\wedge=(2\pi)^{d/2}\hat{f}\hat{g} から係数がそろう。pt>0p_t>0、∫pt=1\int p_t=1 なので、etΔe^{t\Delta} は正の関数を至るところ正の関数に移し、Young の不等式から各 LpL^p(1≤p≤∞1\le p\le\infty)上の縮小作用素になる。etΔe^{t\Delta} は 系 4.7 の縮小半群 e−tH0e^{-tH_0} そのものである。

次の例の導出は、熱核の式で時間 t>0t>0 を複素数 z=ε+itz=\varepsilon+it に置き換え、ε↓0\varepsilon\downarrow 0 とすることで、虚数の時間 itit に対する式を得る、という方針です。

例 5.3(自由 Schrödinger 群の積分核)

t≠0t\neq 0、ψ∈L1(Rd)∩L2(Rd)\psi\in L^1(\mathbb{R}^d)\cap L^2(\mathbb{R}^d) について、ほとんどすべての xx で

(eitΔψ)(x)=(4πit)−d/2∫Rdexp⁡(i∣x−y∣24t)ψ(y) dy(e^{it\Delta}\psi)(x) = (4\pi it)^{-d/2}\int_{\mathbb{R}^d}\exp\Bigl(\frac{i|x-y|^2}{4t}\Bigr)\psi(y)\,dy

が成り立つ。ここで (4πit)−d/2=(4π∣t∣)−d/2e−iπd sgn(t)/4(4\pi it)^{-d/2}=(4\pi|t|)^{-d/2}e^{-i\pi d\,\mathrm{sgn}(t)/4}(主枝)。

導出: z=ε+itz=\varepsilon+it(ε>0\varepsilon>0)とする。z>0z>0 では熱核の式が成り立ち、両辺は Re z>0\mathrm{Re}\,z>0 で zz の正則関数なので、一致の定理から e−zH0e^{-zH_0} の核は (4πz)−d/2e−∣x−y∣2/(4z)(4\pi z)^{-d/2}e^{-|x-y|^2/(4z)}(主枝)である。ε↓0\varepsilon\downarrow 0 のとき、Fourier 側の優収束定理から e−zH0ψ→e−itH0ψ=eitΔψe^{-zH_0}\psi\to e^{-itH_0}\psi=e^{it\Delta}\psi が L2L^2 で成り立つ。他方、Re(1/z)=ε/∣z∣2>0\mathrm{Re}(1/z)=\varepsilon/|z|^2>0 より核の絶対値は (4π∣t∣)−d/2(4\pi|t|)^{-d/2} 以下で、ψ∈L1\psi\in L^1 なので各 xx で優収束定理が使え、積分は右辺に収束する。L2L^2 収束列の部分列は概収束するので、両者は一致する。

この式から分散評価 ∥eitΔψ∥∞≤(4π∣t∣)−d/2∥ψ∥1\|e^{it\Delta}\psi\|_\infty\le(4\pi|t|)^{-d/2}\|\psi\|_1 が直ちに出る。ユニタリ性で L2L^2 ノルムは保存されるが、波束は広がって最大値は ∣t∣−d/2|t|^{-d/2} で減衰する。熱核と違い、この核は正値でも可積分でもない。

二つの例を並べると、同じ Δ\Delta から生じる時間発展でも性質が大きく異なることが分かります。

熱半群 etΔe^{t\Delta}自由 Schrödinger 群 eitΔe^{it\Delta}
時間の向きt≥0t\ge 0 のみ(半群)t∈Rt\in\mathbb{R}(群)
ノルム縮小(LpL^p すべてで)L2L^2 でユニタリ、L1→L∞L^1\to L^\infty で ∣t∣−d/2\lvert t\rvert^{-d/2} 減衰
積分核正、可積分、平滑化振動、絶対値一定、平滑化しない
生成子の条件−Δ≥0-\Delta\ge 0(消散性)−Δ-\Delta の自己共役性

熱半群の平滑化(t>0t>0 で etΔψe^{t\Delta}\psi は C∞C^\infty になる)と正値性は、後の節の Perron–Frobenius 型定理の鍵になります。Schrödinger 群は情報を失わない代わりに、正値性も平滑化ももたず、空間的な広がりによる減衰(分散)だけをもちます。

定理 6.1(Trotter 積公式)✓

A,BA, B を自己共役作用素とし、A+BA+B が D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) 上で本質的自己共役であるとする。その閉包を CC とする。

  1. すべての ψ∈H\psi\in\mathcal{H}、t∈Rt\in\mathbb{R} について eitCψ=lim⁡n→∞(eitA/neitB/n)nψ.e^{itC}\psi = \lim_{n\to\infty}\bigl(e^{itA/n}e^{itB/n}\bigr)^n\psi.
  2. さらに A,BA, B が下に有界なら CC も下に有界で、すべての ψ∈H\psi\in\mathcal{H}、t≥0t\ge 0 について e−tCψ=lim⁡n→∞(e−tA/ne−tB/n)nψe^{-tC}\psi=\lim_{n\to\infty}(e^{-tA/n}e^{-tB/n})^n\psi。

証明の方針は次のとおりです。(eisAeisB)n\bigl(e^{isA}e^{isB}\bigr)^n と eitC=(eisC)ne^{itC}=\bigl(e^{isC}\bigr)^n(s=t/ns=t/n)の差を、隣り合う項どうしの差の和(望遠鏡和)に分けます。各項の誤差は s→0s\to 0 で ss より速く小さくなりますが、その速さが一様であることを、定義域に入れたグラフノルム ∥φ∥+∥Cφ∥\|\varphi\|+\|C\varphi\| と一様有界性原理で保証します。

証明(定理 6.1)

まず A+BA+B が D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) 上ですでに自己共役(C=A+BC=A+B)の場合に直接証明し、一般の場合は最後に後の章の Chernoff の積公式から導く。

(1) s≠0s\neq 0 に対し K(s)=s−1(eisAeisB−eisC)K(s) = s^{-1}(e^{isA}e^{isB}-e^{isC}) とおく。D(C)=D(A)∩D(B)D(C)=D(A)\cap D(B) にグラフノルム ∥φ∥C=∥φ∥+∥Cφ∥\|\varphi\|_C=\|\varphi\|+\|C\varphi\| を入れると、CC が閉なので Banach 空間になり、各 K(s)K(s) はそこから H\mathcal{H} への有界作用素である。φ∈D(C)\varphi\in D(C) なら

K(s)φ=eisAeisBφ−φs+eisAφ−φs−eisCφ−φs→iBφ+iAφ−iCφ=0(s→0).K(s)\varphi = e^{isA}\frac{e^{isB}\varphi-\varphi}{s}+\frac{e^{isA}\varphi-\varphi}{s}-\frac{e^{isC}\varphi-\varphi}{s}\to iB\varphi+iA\varphi-iC\varphi=0\quad(s\to 0).

第 1 項では eisA→1e^{isA}\to 1 が強収束で ∥eisA∥=1\|e^{isA}\|=1 であることを使った(命題 2.2)。したがって 0<∣s∣≤10<|s|\le 1 で sup⁡s∥K(s)φ∥<∞\sup_s\|K(s)\varphi\|<\infty が各 φ\varphi について成り立ち、一様有界性原理から sup⁡s∥K(s)∥D(C)→H<∞\sup_s\|K(s)\|_{D(C)\to\mathcal{H}}<\infty。同程度連続な族が各点収束するので、K(s)φ→0K(s)\varphi\to 0 は D(C)D(C) のコンパクト集合上で一様である。

ψ∈D(C)\psi\in D(C) と tt を固定し、s=t/ns=t/n、X=eisAeisBX=e^{isA}e^{isB}、Y=eisCY=e^{isC} とおく。Xn−Yn=∑k=0n−1Xk(X−Y)Yn−1−kX^n-Y^n=\sum_{k=0}^{n-1}X^k(X-Y)Y^{n-1-k} と ∥X∥≤1\|X\|\le 1 から

∥(Xn−Yn)ψ∥≤n∣s∣sup⁡∣u∣≤∣t∣∥K(s)eiuCψ∥=∣t∣sup⁡∣u∣≤∣t∣∥K(t/n)eiuCψ∥.\|(X^n-Y^n)\psi\| \le n|s|\sup_{|u|\le|t|}\|K(s)e^{iuC}\psi\| = |t|\sup_{|u|\le|t|}\|K(t/n)e^{iuC}\psi\|.

u↦eiuCψu\mapsto e^{iuC}\psi は D(C)D(C) のグラフノルムで連続(CeiuCψ=eiuCCψCe^{iuC}\psi=e^{iuC}C\psi)なので {eiuCψ:∣u∣≤∣t∣}\{e^{iuC}\psi:|u|\le|t|\} はコンパクトで、右辺は n→∞n\to\infty で 00 に収束する。D(C)D(C) は稠密で、Xn,YnX^n, Y^n のノルムは 11 以下なので、ε/3\varepsilon/3 論法で任意の ψ\psi に拡張できる。

(2) A≥−aA\ge -a、B≥−bB\ge -b なら D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) 上で A+B≥−(a+b)A+B\ge-(a+b) で、閉包でも保たれる。K(s)=s−1(e−sAe−sB−e−sC)K(s)=s^{-1}(e^{-sA}e^{-sB}-e^{-sC})(s>0s>0)として同じ議論をすればよい。違いは ∥e−sAe−sB∥≤es(a+b)\|e^{-sA}e^{-sB}\|\le e^{s(a+b)} となる点だけで、望遠鏡和の評価に因子 et(a+b)e^{t(a+b)} が掛かる。

一般の場合(A+BA+B が D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) 上で本質的自己共役なだけのとき)。1 は 系 7.4[Banach 空間の強連続半群] そのものである。2 は、A′=A+a≥0A'=A+a\ge0、B′=B+b≥0B'=B+b\ge0 と置くと、系 4.7 により −A′-A'、−B′-B' は縮小半群を生成し、(−A′−B′)∣D(A)∩D(B)(-A'-B')|_{D(A)\cap D(B)} の閉包 −(C+a+b)-(C+a+b) も(C+a+b≥0C+a+b\ge0 は自己共役なので)縮小半群を生成する。系 7.3[Banach 空間の強連続半群] から (e−tA′/ne−tB′/n)nψ→e−t(C+a+b)ψ(e^{-tA'/n}e^{-tB'/n})^n\psi\to e^{-t(C+a+b)}\psi で、両辺に et(a+b)e^{t(a+b)} を掛ければ主張を得る(e−tA′/n=e−ta/ne−tA/ne^{-tA'/n}=e^{-ta/n}e^{-tA/n} である)。

注意 6.2

A+BA+B が D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) 上で本質的自己共役でしかない場合、eiuCψe^{iuC}\psi が D(A)∩D(B)D(A)\cap D(B) に留まらないので上の議論はそのままでは使えない。この場合は Chernoff の定理を使う: F(s)F(s) が縮小作用素の族で F(0)=1F(0)=1、芯 DD 上で s−1(F(s)φ−φ)→iCφs^{-1}(F(s)\varphi-\varphi)\to iC\varphi なら F(t/n)n→eitCF(t/n)^n\to e^{itC} が強収束で成り立つ。証明は、∥(Fn−en(F−1))φ∥≤n∥(F−1)φ∥\|(F^n-e^{n(F-1)})\varphi\|\le\sqrt{n}\|(F-1)\varphi\| という評価と、生成子が芯の上で収束すれば半群も収束するという Trotter–加藤の近似定理を組み合わせる(Chernoff, 1968 年。Engel–Nagel 第 III 章)。F(s)=eisAeisBF(s)=e^{isA}e^{isB} は上の計算から D=D(A)∩D(B)D=D(A)\cap D(B) 上でこの仮定を満たす。半群の場合、さらに形式和に拡張したものは加藤の定理(1978 年)として知られている。Chernoff の定理とこの場合の Trotter 積公式の証明は 定理 7.2[Banach 空間の強連続半群] と 系 7.4[Banach 空間の強連続半群] にある。

Trotter 積公式は、e−tHe^{-tH}(H=−Δ+VH=-\Delta+V)を「自由な拡散 etΔ/ne^{t\Delta/n}」と「ポテンシャルによる重み e−tV/ne^{-tV/n}」の交互の積で近似します。熱核の積を書き下すと nn 個の中間点についての積分になり、n→∞n\to\infty の極限が Brown 運動の経路積分、すなわち Feynman–Kac 公式です。ユニタリ群の場合に同じことをすると、振動する核 例 5.3 の積が現れ、これが Feynman の経路積分の形式的な導出になります。ただし振動核の極限は測度として収束しないので、数学的に厳密な形になるのは虚時間(半群)の側です。

数値計算の立場では、Trotter 積公式は「解ける部分に分けて交互に解く」分解法(operator splitting)の正当化です。AA が Fourier 空間で、BB が位置空間で対角なら、各ステップを高速 Fourier 変換と掛け算だけで計算できます。A,BA, B が有界なら誤差は O(t2/n)O(t^2/n) で(演習 8.3)、対称化した積 eisA/2eisBeisA/2e^{isA/2}e^{isB}e^{isA/2} を使えば O(t3/n2)O(t^3/n^2) に改善されます(Strang 分解、鈴木の高次分解)。非有界な場合には収束の速さは一般に保証されず、定理 6.1 が与えるのは強収束だけである点に注意してください。

7. 正値性を保つ半群と Perron–Frobenius 型定理

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この節では (M,μ)(M,\mu) を σ\sigma 有限測度空間とし、H=L2(M,μ)\mathcal{H}=L^2(M,\mu) とします。ψ≥0\psi\ge 0 はほとんど至るところ実数で非負であることを、ψ>0\psi>0 はほとんど至るところ正であることを表します。

定義 7.1(正値性を保つ作用素と正値性改良作用素)↗

H=L2(M,μ)\mathcal{H}=L^2(M,\mu) 上の有界作用素 TT が正値性を保つとは、ψ≥0\psi\ge 0 ならば Tψ≥0T\psi\ge 0 となることをいう。ψ≥0\psi\ge 0 かつ ψ≠0\psi\neq 0 ならば Tψ>0T\psi>0 となるとき、TT は正値性改良であるという。

正値性を保つ TT は実数値関数を実数値関数に移し(ψ=ψ+−ψ−\psi=\psi_+-\psi_- と分ける)、実数値の ψ\psi について各点で ∣Tψ∣≤T∣ψ∣|T\psi|\le T|\psi| を満たします(T∣ψ∣±Tψ=T(∣ψ∣±ψ)≥0T|\psi|\pm T\psi=T(|\psi|\pm\psi)\ge 0 から)。

補題 7.2(正値性改良作用素の最大固有値)✓

TT を H=L2(M,μ)\mathcal{H}=L^2(M,\mu) 上の有界自己共役作用素で T≥0T\ge 0 かつ正値性改良とし、λ=∥T∥\lambda=\|T\| が TT の固有値であるとする。このとき λ\lambda の固有空間は 1 次元で、ψ>0\psi>0 を満たす固有ベクトルで張られる。

この補題の直感は次のとおりです。固有ベクトル ψ\psi の代わりに ∣ψ∣|\psi| を考えても、固有値 λ\lambda に対する内積 ⟨ψ,Tψ⟩\langle\psi,T\psi\rangle は小さくならず、上限 λ\lambda を超えることもできません。そのため不等式の連鎖はすべて等号になり、∣ψ∣|\psi| も固有ベクトルになります。そこへ正値性改良性を使うと、∣ψ∣|\psi| がほとんど至るところ正であることが従います。

証明(補題 7.2)

T≥0T\ge 0 より λ=max⁡σ(T)=sup⁡∥φ∥=1⟨φ,Tφ⟩\lambda=\max\sigma(T)=\sup_{\|\varphi\|=1}\langle\varphi,T\varphi\rangle である。TT は実数値関数を実数値関数に移すので、固有ベクトル ψ\psi の実部と虚部はそれぞれ(00 でなければ)固有ベクトルである。よって実数値の固有ベクトル ψ\psi を考えればよい。上の注意から

λ∥ψ∥2=⟨ψ,Tψ⟩≤∫∣ψ∣ ∣Tψ∣ dμ≤∫∣ψ∣ T∣ψ∣ dμ=⟨∣ψ∣,T∣ψ∣⟩≤λ∥∣ψ∣∥2=λ∥ψ∥2.\lambda\|\psi\|^2 = \langle\psi,T\psi\rangle\le\int|\psi|\,|T\psi|\,d\mu\le\int|\psi|\,T|\psi|\,d\mu = \langle|\psi|,T|\psi|\rangle\le\lambda\||\psi|\|^2 = \lambda\|\psi\|^2.

すべて等号なので φ=∣ψ∣\varphi=|\psi| は ⟨φ,(λ−T)φ⟩=0\langle\varphi,(\lambda-T)\varphi\rangle=0 を満たし、λ−T≥0\lambda-T\ge 0 から ∥(λ−T)1/2φ∥2=0\|(\lambda-T)^{1/2}\varphi\|^2=0、すなわち T∣ψ∣=λ∣ψ∣T|\psi|=\lambda|\psi|。正値性改良性から ∣ψ∣=λ−1T∣ψ∣>0|\psi|=\lambda^{-1}T|\psi|>0(λ>0\lambda>0 は T≠0T\neq 0 から)。次に ψ±=(∣ψ∣±ψ)/2≥0\psi_\pm=(|\psi|\pm\psi)/2\ge 0 も固有ベクトルか 00 であり、00 でなければ同じ議論で ψ±>0\psi_\pm>0 となる。しかし各点で ψ+ψ−=0\psi_+\psi_-=0 なので両方が 00 でないことはありえず、ψ=∣ψ∣>0\psi=|\psi|>0 か ψ=−∣ψ∣\psi=-|\psi| である。最後に、実数値の固有ベクトル ψ1,ψ2\psi_1,\psi_2 が直交したとすると、符号を取り替えて ψ1,ψ2>0\psi_1,\psi_2>0 とでき ⟨ψ1,ψ2⟩>0\langle\psi_1,\psi_2\rangle>0 となって矛盾する。よって実の固有空間は 1 次元で、複素の固有空間も 1 次元である。

定理 7.3(基底状態の一意性と正値性(Perron–Frobenius 型定理))✓

HH を H=L2(M,μ)\mathcal{H}=L^2(M,\mu) 上の下に有界な自己共役作用素とし、E=inf⁡σ(H)E=\inf\sigma(H) が HH の固有値であるとする。ある t0>0t_0>0 について e−t0He^{-t_0H} が正値性改良であるならば、EE は単純固有値で、その固有ベクトルは ψ>0\psi>0 を満たすように取れる。

証明(定理 7.3)

T=e−t0HT=e^{-t_0H} は関数計算により有界自己共役で T≥0T\ge 0、∥T∥=sup⁡x∈σ(H)e−t0x=e−t0E\|T\|=\sup_{x\in\sigma(H)}e^{-t_0x}=e^{-t_0E}。x↦e−t0xx\mapsto e^{-t_0x} は単射なので、スペクトル定理から Ker(T−e−t0E)=Ker(H−E)\mathrm{Ker}(T-e^{-t_0E})=\mathrm{Ker}(H-E)。特に ∥T∥\|T\| は TT の固有値で、固有空間は HH の基底状態の空間に一致する。補題 7.2 を適用すればよい。

注意 7.4

仮定は弱められる。e−tHe^{-tH} がすべての t>0t>0 で正値性を保ち、E=inf⁡σ(H)E=\inf\sigma(H) が固有値であるとき、「EE が単純で固有ベクトルが正に取れる」ことは、e−tHe^{-tH} がエルゴード的であること(00 でない任意の f,g≥0f,g\ge 0 に対し、ある t>0t>0 で ⟨f,e−tHg⟩>0\langle f,e^{-tH}g\rangle>0)と同値であり、L∞L^\infty の掛け算作用素と e−tHe^{-tH} を合わせた作用素族が既約であることとも同値である(Faris の定理。Reed–Simon IV 第 XIII 章)。正値性改良はエルゴード性の十分条件である。有限次元では、正の成分をもつ行列の最大固有値が単純で正の固有ベクトルをもつという古典的な Perron–Frobenius の定理に当たる。

この定理が強力なのは、HH のスペクトルについて何も計算せずに、半群の積分核が正であるという「定性的な」情報だけから基底状態の一意性が出るところです。積分核の正値性は、次の例のように Trotter 積公式を通して、自由な部分の正値性から受け継がせるのが典型的な使い方です。

例 7.5(有界ポテンシャルをもつ Schrödinger 作用素)

V∈L∞(Rd)V\in L^\infty(\mathbb{R}^d) を実数値とし、H=−Δ+VH=-\Delta+V とする。有界な VV の −Δ-\Delta に関する相対限界は 00 なので、定理 3.2[自己共役性の判定] から HH は H2(Rd)=D(−Δ)∩D(V)H^2(\mathbb{R}^d)=D(-\Delta)\cap D(V) 上で自己共役で、H≥−∥V∥∞H\ge-\|V\|_\infty。定理 6.1 (2) を A=−ΔA=-\Delta、B=VB=V に適用すると、t>0t>0 で e−tH=s-limn(etΔ/ne−tV/n)ne^{-tH}=\mathrm{s\text{-}lim}_n(e^{t\Delta/n}e^{-tV/n})^n。ψ≥0\psi\ge 0 に対し e−sVψ≥e−s∥V∥∞ψe^{-sV}\psi\ge e^{-s\|V\|_\infty}\psi で、esΔe^{s\Delta} は正値性を保つので順序を保ち、

(etΔ/ne−tV/n)nψ≥e−t∥V∥∞ etΔψ.\bigl(e^{t\Delta/n}e^{-tV/n}\bigr)^n\psi \ge e^{-t\|V\|_\infty}\,e^{t\Delta}\psi.

L2L^2 収束列の部分列は概収束するので極限でも不等式が保たれ、例 5.2 から ψ≠0\psi\neq 0 なら右辺は >0>0。よって e−tHe^{-tH} は正値性改良で、定理 7.3 により、HH が inf⁡σ(H)\inf\sigma(H) に固有値をもてば(たとえば VV が十分深い井戸型ポテンシャルのとき)基底状態は一意で正の関数に取れる。水素原子のように VV が非有界な場合も、VV を切断して近似する議論で同じ結論が得られる(Reed–Simon IV 第 XIII 章)。

例 7.6(反例:正値性改良でないと基底状態は縮退しうる)

Ω=(0,1)∪(2,3)\Omega=(0,1)\cup(2,3) 上の Dirichlet ラプラシアン HH を考える。L2(Ω)=L2(0,1)⊕L2(2,3)L^2(\Omega)=L^2(0,1)\oplus L^2(2,3) と分解し、HH は各区間の Dirichlet ラプラシアンの直和である。e−tHe^{-tH} は各成分で正値性を保つが、(0,1)(0,1) に台をもつ ψ≥0\psi\ge 0 を (2,3)(2,3) 上では 00 のままにするので、正値性改良ではない。実際、最小固有値 π2\pi^2 の固有空間は sin⁡(πx)1(0,1)\sin(\pi x)1_{(0,1)} と sin⁡(π(x−2))1(2,3)\sin(\pi(x-2))1_{(2,3)} で張られる 2 次元空間で、一意性が破れる。同様に、フェルミオン系(反対称な波動関数の空間)では正値性の概念そのものが成り立たないので、この定理は基底状態の一意性について何も言わない。

演習 8.1易

(M,μ)(M,\mu) を σ\sigma 有限測度空間、ff を実数値可測関数とし、L2(M,μ)L^2(M,\mu) 上で (U(t)ψ)(x)=eitf(x)ψ(x)(U(t)\psi)(x)=e^{itf(x)}\psi(x) とする。UU が強連続 1 径数ユニタリ群であることと、その生成子が最大定義域 {ψ:fψ∈L2}\{\psi: f\psi\in L^2\} 上の掛け算作用素 ff であることを示せ。

解答

ユニタリ性と群の性質は ∣eitf∣=1|e^{itf}|=1、ei(t+s)f=eitfeisfe^{i(t+s)f}=e^{itf}e^{isf} から。∥U(t)ψ−ψ∥2=∫∣eitf−1∣2∣ψ∣2dμ\|U(t)\psi-\psi\|^2=\int|e^{itf}-1|^2|\psi|^2d\mu は被積分関数が 4∣ψ∣24|\psi|^2 で押さえられ各点で 00 に収束するので、優収束定理から 00 に収束する。fψ∈L2f\psi\in L^2 なら ∣(eitf−1)/t−if∣2∣ψ∣2≤4∣f∣2∣ψ∣2|(e^{itf}-1)/t-if|^2|\psi|^2\le 4|f|^2|\psi|^2 で再び優収束定理により差分商は ifψif\psi に収束する。逆に差分商が L2L^2 で収束すれば、部分列が概収束し極限は ifψif\psi、Fatou の補題から ∫∣f∣2∣ψ∣2≤lim inf⁡∫∣(eitf−1)/t∣2∣ψ∣2<∞\int|f|^2|\psi|^2\le\liminf\int|(e^{itf}-1)/t|^2|\psi|^2<\infty。よって生成子は最大定義域上の ff である(これは 命題 2.2 の特別な場合でもある)。

演習 8.2標準

縮小半群 TT とその生成子 LL について、λ>0\lambda>0 で Rλx=∫0∞e−λtT(t)x dtR_\lambda x=\int_0^\infty e^{-\lambda t}T(t)x\,dt が ∥Rλ∥≤1/λ\|R_\lambda\|\le 1/\lambda を満たすことを示し、熱半群(例 5.2、d=1d=1)の場合に RλR_\lambda の積分核が (2λ)−1e−λ∣x−y∣(2\sqrt{\lambda})^{-1}e^{-\sqrt{\lambda}|x-y|} であることを確かめよ。

解答

∥Rλx∥≤∫0∞e−λt∥x∥dt=∥x∥/λ\|R_\lambda x\|\le\int_0^\infty e^{-\lambda t}\|x\|dt=\|x\|/\lambda。熱半群では Fubini の定理から核は ∫0∞e−λt(4πt)−1/2e−r2/(4t)dt\int_0^\infty e^{-\lambda t}(4\pi t)^{-1/2}e^{-r^2/(4t)}dt(r=∣x−y∣r=|x-y|)。Fourier 側では RλR_\lambda は (λ+k2)−1(\lambda+k^2)^{-1} を掛ける作用素で、(2π)−1/2∫eikr(λ+k2)−1dk=(2π)−1/2πe−λr/λ(2\pi)^{-1/2}\int e^{ikr}(\lambda+k^2)^{-1}dk = (2\pi)^{-1/2}\pi e^{-\sqrt{\lambda}r}/\sqrt{\lambda}(留数計算)。畳み込みの係数 (2π)−1/2(2\pi)^{-1/2} を掛けると核は (2λ)−1e−λr(2\sqrt{\lambda})^{-1}e^{-\sqrt{\lambda}r}。

演習 8.3標準

A,BA, B を有界な自己共役作用素とする。s∈Rs\in\mathbb{R} について ∥eisAeisB−eis(A+B)∥≤s22∥[A,B]∥\|e^{isA}e^{isB}-e^{is(A+B)}\|\le\frac{s^2}{2}\|[A,B]\| を示し、∥(eitA/neitB/n)n−eit(A+B)∥≤t22n∥[A,B]∥\|(e^{itA/n}e^{itB/n})^n-e^{it(A+B)}\|\le\frac{t^2}{2n}\|[A,B]\| を導け。

解答

s≥0s\ge 0 とし(s<0s<0 も同様)、f(s)=e−is(A+B)eisAeisBf(s)=e^{-is(A+B)}e^{isA}e^{isB} とおく。微分すると

f′(s)=ie−is(A+B)(eisABe−isA−B)eisAeisB.f'(s) = ie^{-is(A+B)}\bigl(e^{isA}Be^{-isA}-B\bigr)e^{isA}e^{isB}.

g(u)=eiuABe−iuAg(u)=e^{iuA}Be^{-iuA} は g′(u)=ieiuA[A,B]e−iuAg'(u)=ie^{iuA}[A,B]e^{-iuA} を満たすので ∥eisABe−isA−B∥≤s∥[A,B]∥\|e^{isA}Be^{-isA}-B\|\le s\|[A,B]\|。よって ∥f(s)−1∥≤∫0su∥[A,B]∥du=s22∥[A,B]∥\|f(s)-1\|\le\int_0^su\|[A,B]\|du=\frac{s^2}{2}\|[A,B]\| で、eis(A+B)e^{is(A+B)} を左から掛けても(ユニタリなので)ノルムは変わらない。後半は 定理 6.1 の証明と同じ望遠鏡和で、nn 個の項それぞれが (t/n)22∥[A,B]∥\frac{(t/n)^2}{2}\|[A,B]\| 以下になることから従う。

演習 8.4易

H=−d2/dx2+x2H=-d^2/dx^2+x^2 の基底状態 ψ0(x)=π−1/4e−x2/2\psi_0(x)=\pi^{-1/4}e^{-x^2/2}(固有値 11)が正の関数であることは、定理 7.3 の結論と整合している。このとき第 1 励起状態の固有関数は必ず符号を変えることを、同じ定理の結論から説明せよ。

解答

第 1 励起状態の固有関数 ψ1\psi_1 は異なる固有値に属するので ⟨ψ0,ψ1⟩=0\langle\psi_0,\psi_1\rangle=0。ψ1\psi_1 は実数値に取れ、もし ψ1≥0\psi_1\ge 0(または ≤0\le 0)なら ψ0>0\psi_0>0 との内積は 00 にならない(ψ1≠0\psi_1\neq 0 のとき ∫ψ0ψ1 dx>0\int\psi_0\psi_1\,dx>0)。よって ψ1\psi_1 は正の部分と負の部分をともにもつ。実際 ψ1(x)∝xe−x2/2\psi_1(x)\propto xe^{-x^2/2} である。

  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised ed., Academic Press, 1980 — 第 VIII 章(Stone の定理、Trotter 積公式)。
  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics IV: Analysis of Operators, Academic Press, 1978 — 第 XIII 章(正値性改良半群と基底状態の一意性)。
  • A. Pazy, Semigroups of Linear Operators and Applications to Partial Differential Equations, Springer, 1983 — 第 1 章(Hille–吉田、Lumer–Phillips)。
  • K.-J. Engel, R. Nagel, One-Parameter Semigroups for Linear Evolution Equations, Springer, 2000 — 第 II 章・第 III 章。
  • K. Yosida, Functional Analysis, 6th ed., Springer, 1980 — 第 IX 章(半群の理論)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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