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対称作用素と自己共役拡大:不足指数と von Neumann の拡大理論

対象読者: 本テーマ第 5 章までの閉作用素・共役作用素・グラフの扱いを学んだ人。微分作用素の定義域を意識した経験があるとよいですが、拡大理論は仮定しません。

前提となる記事:非有界作用素:閉作用素・閉包・共役作用素と Hellinger–Toeplitz の定理

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量子力学では、粒子の運動を表す微分演算子(たとえば −i d/dx-i\,d/dx)に「どの関数を入力として許すか」を決めて初めて、時間発展が一意に定まります。区間の端でのふるまい(境界条件)の選び方が何通りあるのか、そもそも選べるのかを、不足指数という数の組で完全に判定するのがこの記事の話です。読み終えると、与えられた対称作用素に自己共役な拡張があるか、あるなら何通りあるかを、微分方程式の L2L^2 解の個数を数えて答えられるようになります。

  • 稠密に定義された TT が対称なのは T⊂T∗T\subset T^*、自己共役なのは T=T∗T=T^*、本質的自己共役なのは閉包 Tˉ\bar T が自己共役のときです。有界作用素ではこの 3 つは一致しますが、非有界では一致しません。
  • 対称作用素 TT について、TT が自己共役   ⟺  \iff Ran(T±i)=H\mathrm{Ran}(T\pm i)=\mathcal{H}   ⟺  \iff TT が閉かつ Ker(T∗±i)={0}\mathrm{Ker}(T^*\pm i)=\{0\} です。±\pm の両方が必要です。
  • 閉対称作用素 TT の不足部分空間 K±=Ker(T∗∓i)\mathcal{K}_\pm=\mathrm{Ker}(T^*\mp i) と不足指数 n±=dim⁡K±n_\pm=\dim\mathcal{K}_\pm が、自己共役からの「ずれ」を測ります。D(T∗)=D(T)∔K+∔K−D(T^*)=D(T)\dotplus\mathcal{K}_+\dotplus\mathcal{K}_- が成り立ちます。
  • von Neumann の定理: TT の自己共役拡大は、ユニタリ写像 U ⁣:K+→K−U\colon\mathcal{K}_+\to\mathcal{K}_- と 1 対 1 に対応します。したがって自己共役拡大が存在する   ⟺  \iff n+=n−n_+=n_- です。
  • 区間 [0,1][0,1] 上の −i d/dx-i\,d/dx は n±=1n_\pm=1 で、自己共役拡大は境界条件 ψ(1)=eiθψ(0)\psi(1)=e^{i\theta}\psi(0) で分類されます。半直線上の −i d/dx-i\,d/dx は (n+,n−)=(1,0)(n_+,n_-)=(1,0) で、自己共役拡大を持ちません。
  • 物理的には、自己共役でない作用素では時間発展(ユニタリ群)が決まりません。境界条件の選択は「境界で確率がどう出入りするか」の指定です。

量子力学の時間発展は Schrödinger 方程式 i ∂tψ=Hψi\,\partial_t\psi=H\psi で与えられ、解は ψ(t)=e−itHψ(0)\psi(t)=e^{-itH}\psi(0) と書かれます。この e−itHe^{-itH} がユニタリ群として意味を持つのは、Stone の定理(自己共役作用素とユニタリ群を結ぶ定理)によれば HH が自己共役のときであり、そのときに限ります(1 径数ユニタリ群と強連続半群)。対称性 ⟨ψ,Hϕ⟩=⟨Hψ,ϕ⟩\langle\psi,H\phi\rangle=\langle H\psi,\phi\rangle は期待値が実数であることを保証しますが、時間発展を決めるには足りません。

最も簡単な例で見ます。区間 [0,1][0,1] 上の粒子に、運動量 p=−i d/dxp=-i\,d/dx をハミルトニアンとして与えると、方程式 ∂tψ=−∂xψ\partial_t\psi=-\partial_x\psi の解は波形が右へ速さ 11 で流れていくものです。右端 x=1x=1 に達した波はどうなるでしょうか。消えるなら確率が保存されず、ユニタリになりません。左端から戻ってくるなら、どんな位相で戻るかを決めなければなりません。微分作用素の「式」だけではこの情報が欠けていて、それを補うのが境界条件、すなわち定義域の選択です。

前の章 非有界作用素 で、同じ式 −i d/dx-i\,d/dx でも定義域の選択でスペクトルが空にも C\mathbb{C} 全体にもなることを見ました(例 8.4[非有界作用素]、例 8.5[非有界作用素])。この記事では、その間にある「ちょうどよい」定義域、すなわち自己共役になる定義域がいつ存在し、何通りあるかを決定します。答えは von Neumann による不足指数の理論で、1929 年頃に量子力学の数学的基礎づけの一部として作られました。

前の章の記法と結果をそのまま使います。H\mathcal{H} は複素 Hilbert 空間で、内積は第 1 変数について共役線形です。特に次を使います。

  • 稠密に定義された TT の共役 T∗T^* は閉(定理 5.4[非有界作用素])。
  • TT が可閉   ⟺  \iff D(T∗)D(T^*) が稠密、そのとき T∗∗=TˉT^{**}=\bar T、(Tˉ)∗=T∗(\bar T)^*=T^*(定理 5.5[非有界作用素])。
  • S⊂TS\subset T なら T∗⊂S∗T^*\subset S^*、Ker(T∗)=Ran(T)⊥\mathrm{Ker}(T^*)=\mathrm{Ran}(T)^{\perp}、有界な BB について (T+B)∗=T∗+B∗(T+B)^*=T^*+B^*(命題 5.6[非有界作用素])。
  • 対称作用素の定義(定義 7.1[非有界作用素]): 稠密に定義され T⊂T∗T\subset T^*。

関数空間については前の章 §2 の事実に加えて、半直線について次を使います。ここで「絶対連続」は、積分で書ける連続関数(部分積分ができる関数)のこと、「超関数微分」は、積分と掛けて部分積分で移した形で定める、通常の微分の一般化のことです。H1H^1 は、関数とその(弱い意味の)微分がともに L2L^2 に入る関数の空間です。H1(0,∞)H^1(0,\infty) は、各有界区間 [0,b][0,b] 上で絶対連続な f∈L2(0,∞)f\in L^2(0,\infty) で f′∈L2(0,∞)f'\in L^2(0,\infty) となるもの全体です。f∈H1(0,∞)f\in H^1(0,\infty) なら f(0)f(0) が意味を持ち、f(x)→0f(x)\to0(x→∞x\to\infty)で、f,g∈H1(0,∞)f,g\in H^1(0,\infty) について ∫0∞g‾f′ dx=−g(0)‾f(0)−∫0∞g′‾f dx\int_0^\infty\overline{g}f'\,dx=-\overline{g(0)}f(0)-\int_0^\infty\overline{g'}f\,dx が成り立ちます。また g∈L2(0,∞)g\in L^2(0,\infty) の超関数微分が L2(0,∞)L^2(0,\infty) に属すれば g∈H1(0,∞)g\in H^1(0,\infty) です。

3. 対称・自己共役・本質的自己共役

Section titled “3. 対称・自己共役・本質的自己共役”

定義 3.1(自己共役作用素)↗

H\mathcal{H} において稠密に定義された線形作用素 AA が A=A∗A=A^*(定義域を含めて等しい)を満たすとき、AA を自己共役作用素という。

定義 3.2(本質的自己共役作用素)↗

対称作用素 TT の閉包 Tˉ\bar T が自己共役であるとき、TT を本質的自己共役という。

対称作用素は T⊂T∗T\subset T^* で T∗T^* が閉なので可閉です(命題 4.6[非有界作用素])。したがって閉包が常に取れ、上の定義は意味を持ちます。

命題 3.3(対称作用素の包含の鎖)✓

TT を対称作用素とする。このとき

T⊂Tˉ=T∗∗⊂T∗=(Tˉ)∗T\subset\bar T=T^{**}\subset T^*=(\bar T)^*

が成り立ち、Tˉ\bar T は閉な対称作用素である。さらに次は同値である。

  1. TT は本質的自己共役である。
  2. T∗T^* は対称である。
  3. Tˉ=T∗\bar T=T^* である。
証明(命題 3.3)

T⊂T∗T\subset T^* より D(T∗)⊃D(T)D(T^*)\supset D(T) は稠密なので、定理 5.5[非有界作用素] により Tˉ=T∗∗\bar T=T^{**}、(Tˉ)∗=T∗(\bar T)^*=T^* です。T⊂T∗T\subset T^* に 命題 5.6[非有界作用素] の (1) を適用すると T∗∗⊂T∗T^{**}\subset T^* です。よって Tˉ⊂T∗=(Tˉ)∗\bar T\subset T^*=(\bar T)^* で、Tˉ\bar T は対称です。

(1)  ⟺  \iff(3): Tˉ\bar T が自己共役   ⟺  \iff Tˉ=(Tˉ)∗=T∗\bar T=(\bar T)^*=T^*。

(3)⇒\Rightarrow(2): T∗=TˉT^*=\bar T は対称です。(2)⇒\Rightarrow(3): T∗T^* が対称なら T∗⊂T∗∗=TˉT^*\subset T^{**}=\bar T で、鎖の Tˉ⊂T∗\bar T\subset T^* と合わせて Tˉ=T∗\bar T=T^* です。

命題 3.4(自己共役作用素の極大性)✓

AA を自己共役作用素、SS を対称作用素とし、A⊂SA\subset S とする。このとき A=SA=S である。とくに、本質的自己共役な TT の自己共役拡大は Tˉ\bar T ただ 1 つである。

証明(命題 3.4)

A⊂SA\subset S から S∗⊂A∗S^*\subset A^* です。SS が対称なので S⊂S∗⊂A∗=A⊂SS\subset S^*\subset A^*=A\subset S で、すべて等号です。

後半: AA を TT の自己共役拡大とします。A=A∗A=A^* は閉(定理 5.4[非有界作用素])なので、閉包の最小性(命題 4.6[非有界作用素])から Tˉ⊂A\bar T\subset A です。Tˉ\bar T は自己共役で AA は対称なので、前半から Tˉ=A\bar T=A です。

自己共役作用素はそれ以上対称に拡大できない、ということです。拡大すると共役が縮み、T⊂T∗T\subset T^* の「隙間」がちょうど閉じた状態が自己共役です。本質的自己共役であることは、物理的には「定義域を小さく取っても力学が一意に決まる」ことを意味し、実用上はこれを示すのが目標になります(具体的な判定法は 自己共役性の判定 で扱います)。

例 3.5(3 つの概念の違い)

前の章の作用素で整理する。

  • R\mathbb{R} 上: P0=−i d/dxP_0=-i\,d/dx(D(P0)=Cc∞(R)D(P_0)=C_c^\infty(\mathbb{R}))は対称で、P0∗=PP_0^*=P かつ P0ˉ=P\bar{P_0}=P だった(命題 6.4[非有界作用素])。よって P0P_0 は本質的自己共役で自己共役ではなく、PP は自己共役である。
  • 区間上: T0=−i d/dxT_0=-i\,d/dx(D(T0)={f∈H1(0,1):f(0)=f(1)=0}D(T_0)=\{f\in H^1(0,1): f(0)=f(1)=0\})は閉な対称作用素だが、T0∗=Tmax⁡T_0^*=T_{\max}(D=H1(0,1)D=H^1(0,1))は T0T_0 より真に大きい(補題 6.1)。T0T_0 は本質的自己共役でもない。

対称作用素について T−zT-z(Im z≠0\mathrm{Im}\,z\ne0)を調べるのが基本の手法です。鍵は次の単純な等式です。

補題 4.1(対称作用素の基本評価)✓

TT を対称作用素、z=a+ibz=a+ib(a,b∈Ra,b\in\mathbb{R})とする。すべての x∈D(T)x\in D(T) について

∥(T−z)x∥2=∥(T−a)x∥2+b2∥x∥2≥b2∥x∥2\|(T-z)x\|^2=\|(T-a)x\|^2+b^2\|x\|^2\ge b^2\|x\|^2

が成り立つ。したがって b≠0b\ne0 なら T−zT-z は単射であり、TT が閉ならば Ran(T−z)\mathrm{Ran}(T-z) は閉部分空間である。

証明(補題 4.1)

∥(T−a)x−ibx∥2=∥(T−a)x∥2+b2∥x∥2+2 Re ⟨(T−a)x,−ibx⟩\|(T-a)x-ibx\|^2=\|(T-a)x\|^2+b^2\|x\|^2+2\,\mathrm{Re}\,\langle(T-a)x,-ibx\rangle です。TT が対称で aa が実数なので ⟨(T−a)x,x⟩=⟨x,(T−a)x⟩\langle(T-a)x,x\rangle=\langle x,(T-a)x\rangle は実数、したがって ⟨(T−a)x,−ibx⟩=−ib⟨(T−a)x,x⟩\langle(T-a)x,-ibx\rangle=-ib\langle(T-a)x,x\rangle は純虚数で、実部は 00 です。

値域の閉性: TT を閉とし、yn=(T−z)xn→yy_n=(T-z)x_n\to y とします。評価から ∥xn−xm∥≤∣b∣−1∥yn−ym∥\|x_n-x_m\|\le|b|^{-1}\|y_n-y_m\| なので (xn)(x_n) は Cauchy 列で、ある xx に収束します。すると Txn=yn+zxn→y+zxTx_n=y_n+zx_n\to y+zx で、TT の閉性(命題 4.2[非有界作用素])から x∈D(T)x\in D(T)、Tx=y+zxTx=y+zx、すなわち y=(T−z)x∈Ran(T−z)y=(T-z)x\in\mathrm{Ran}(T-z) です。

補題 4.2(値域と核の双対性)✓

TT を稠密に定義された作用素、z∈Cz\in\mathbb{C} とする。Ran(T−z)⊥=Ker(T∗−zˉ)\mathrm{Ran}(T-z)^{\perp}=\mathrm{Ker}(T^*-\bar z) である。

証明(補題 4.2)

命題 5.6[非有界作用素] の (3) より (T−z)∗=T∗−zˉ(T-z)^*=T^*-\bar z で、同じ命題の (2) を T−zT-z に適用すると Ran(T−z)⊥=Ker((T−z)∗)=Ker(T∗−zˉ)\mathrm{Ran}(T-z)^{\perp}=\mathrm{Ker}((T-z)^*)=\mathrm{Ker}(T^*-\bar z) です。

定理 4.3(自己共役性の基本判定)✓

TT を H\mathcal{H} における対称作用素とする。次は同値である。

  1. TT は自己共役である。
  2. TT は閉で、Ker(T∗−i)=Ker(T∗+i)={0}\mathrm{Ker}(T^*-i)=\mathrm{Ker}(T^*+i)=\{0\} である。
  3. Ran(T−i)=Ran(T+i)=H\mathrm{Ran}(T-i)=\mathrm{Ran}(T+i)=\mathcal{H} である。

とくに TT が閉な対称作用素ならば、TT が自己共役   ⟺  \iff Ran(T±i)=H\mathrm{Ran}(T\pm i)=\mathcal{H}   ⟺  \iff Ker(T∗±i)={0}\mathrm{Ker}(T^*\pm i)=\{0\} である。

証明(定理 4.3)

(1)⇒\Rightarrow(2): T=T∗T=T^* は閉です。T∗x=ixT^*x=ix なら x∈D(T∗)=D(T)x\in D(T^*)=D(T) で Tx=ixTx=ix なので、補題 4.1(z=iz=i)から 0=∥(T−i)x∥≥∥x∥0=\|(T-i)x\|\ge\|x\|、すなわち x=0x=0 です。T∗x=−ixT^*x=-ix も同様です。

(2)⇒\Rightarrow(3): TT が閉なので、補題 4.1 により Ran(T∓i)\mathrm{Ran}(T\mp i) は閉です。補題 4.2 より Ran(T∓i)⊥=Ker(T∗±i)={0}\mathrm{Ran}(T\mp i)^{\perp}=\mathrm{Ker}(T^*\pm i)=\{0\} です。閉部分空間で直交補空間が {0}\{0\} なので Ran(T∓i)=H\mathrm{Ran}(T\mp i)=\mathcal{H} です。

(3)⇒\Rightarrow(1): T⊂T∗T\subset T^* なので D(T∗)⊂D(T)D(T^*)\subset D(T) を示せば十分です。y∈D(T∗)y\in D(T^*) とします。Ran(T−i)=H\mathrm{Ran}(T-i)=\mathcal{H} なので、(T−i)x=(T∗−i)y(T-i)x=(T^*-i)y となる x∈D(T)x\in D(T) があります。T⊂T∗T\subset T^* より (T∗−i)x=(T−i)x(T^*-i)x=(T-i)x なので (T∗−i)(y−x)=0(T^*-i)(y-x)=0 です。補題 4.2 より Ker(T∗−i)=Ran(T+i)⊥=H⊥={0}\mathrm{Ker}(T^*-i)=\mathrm{Ran}(T+i)^{\perp}=\mathcal{H}^{\perp}=\{0\} なので y=x∈D(T)y=x\in D(T) です。

最後の主張は、TT が閉なら (2) の「閉」が自動的に満たされることから従います。

証明の (3)⇒\Rightarrow(1) で、Ran(T−i)=H\mathrm{Ran}(T-i)=\mathcal{H} は「xx を見つける」ために、Ran(T+i)=H\mathrm{Ran}(T+i)=\mathcal{H} は「見つけた xx が yy に一致する」ために使われています。片方だけでは足りないことは 例 6.4 で確かめます。±i\pm i を Im z>0\mathrm{Im}\,z\gt0 と Im z<0\mathrm{Im}\,z\lt0 の任意の組 z,zˉz,\bar z に替えても、同じ証明が通ります。

系 4.4(本質的自己共役性の判定)✓

TT を対称作用素とする。次は同値である。

  1. TT は本質的自己共役である。
  2. Ker(T∗−i)=Ker(T∗+i)={0}\mathrm{Ker}(T^*-i)=\mathrm{Ker}(T^*+i)=\{0\} である。
  3. Ran(T−i)\mathrm{Ran}(T-i) と Ran(T+i)\mathrm{Ran}(T+i) はともに H\mathcal{H} で稠密である。
証明(系 4.4)

定理 4.3 を閉対称作用素 Tˉ\bar T(命題 3.3)に適用します。(Tˉ)∗=T∗(\bar T)^*=T^* なので (1)  ⟺  \iff(2) が出ます。(2)  ⟺  \iff(3) は 補題 4.2 から Ran(T∓i)⊥=Ker(T∗±i)\mathrm{Ran}(T\mp i)^{\perp}=\mathrm{Ker}(T^*\pm i) で、部分空間が稠密   ⟺  \iff 直交補空間が {0}\{0\} であることから従います。

例 4.5(判定 (2) から閉性を外すと)

R\mathbb{R} 上の P0P_0(D=Cc∞(R)D=C_c^\infty(\mathbb{R}))では P0∗=PP_0^*=P で、Pf=±ifPf=\pm if は Fourier 変換すると (k∓i)f^=0(k\mp i)\hat f=0 なので f=0f=0。よって Ker(P0∗∓i)={0}\mathrm{Ker}(P_0^*\mp i)=\{0\} だが、P0P_0 は閉でないので自己共役ではない(系 4.4 により本質的自己共役である)。定理 4.3 の (2) で「閉」を外すことはできない。

5. 不足指数と von Neumann の拡大定理

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定義 5.1(不足部分空間と不足指数)↗

TT を閉な対称作用素とする。

K+=Ker(T∗−i),K−=Ker(T∗+i)\mathcal{K}_+=\mathrm{Ker}(T^*-i),\qquad\mathcal{K}_-=\mathrm{Ker}(T^*+i)

を TT の不足部分空間、その(Hilbert 空間としての)次元 n±=dim⁡K±∈{0,1,2,…}∪{∞}n_\pm=\dim\mathcal{K}_\pm\in\{0,1,2,\ldots\}\cup\{\infty\} を不足指数といい、組 (n+,n−)(n_+,n_-) で表す。

T∗T^* は閉なので K±\mathcal{K}_\pm は閉部分空間です(閉作用素の核が閉であることは 命題 4.2[非有界作用素] の (2) から直接わかります)。補題 4.2 より K±=Ran(T±i)⊥\mathcal{K}_\pm=\mathrm{Ran}(T\pm i)^{\perp} で、K±\mathcal{K}_\pm は値域 Ran(T±i)\mathrm{Ran}(T\pm i) が H\mathcal{H} に「足りない」部分です。定理 4.3 は、TT が自己共役   ⟺  \iff n+=n−=0n_+=n_-=0 と言い換えられます。

D(T∗)D(T^*) に T∗T^* のグラフ内積 ⟨a,b⟩T∗=⟨a,b⟩+⟨T∗a,T∗b⟩\langle a,b\rangle_{T^*}=\langle a,b\rangle+\langle T^*a,T^*b\rangle を入れます。T∗T^* は閉なので、これは Hilbert 空間です。

次の補題のねらいは、D(T∗)D(T^*) を「もとの D(T)D(T)」と「足りない部分 K±\mathcal{K}_\pm」の グラフ内積で互いに直交する 3 つの方向に分けることです。D(T∗)D(T^*) が D(T)D(T) よりどれだけ大きいかが K±\mathcal{K}_\pm に集約されるので、以後の議論はこの 3 方向の座標で書けます。証明は、直交性の確認、D(T)D(T) が閉であることの確認、残りが K±\mathcal{K}_\pm に入ることの確認の 3 段です。

補題 5.2(von Neumann の第 1 公式)✓

TT を閉な対称作用素とする。D(T∗)D(T^*) はグラフ内積 ⟨⋅,⋅⟩T∗\langle\cdot,\cdot\rangle_{T^*} について直交直和

D(T∗)=D(T)⊕K+⊕K−D(T^*)=D(T)\oplus\mathcal{K}_+\oplus\mathcal{K}_-

に分解され、x∈D(T)x\in D(T)、u±∈K±u_\pm\in\mathcal{K}_\pm について T∗(x+u++u−)=Tx+iu+−iu−T^*(x+u_++u_-)=Tx+iu_+-iu_- が成り立つ。

証明(補題 5.2)

作用の式は T⊂T∗T\subset T^* と K±\mathcal{K}_\pm の定義からただちに出ます。

直交性: x∈D(T)x\in D(T)、u∈K+u\in\mathcal{K}_+ について、u∈D(T∗)u\in D(T^*) なので ⟨Tx,u⟩=⟨u,Tx⟩‾=⟨T∗u,x⟩‾=⟨x,T∗u⟩=i⟨x,u⟩\langle Tx,u\rangle=\overline{\langle u,Tx\rangle}=\overline{\langle T^*u,x\rangle}=\langle x,T^*u\rangle=i\langle x,u\rangle です。よって

⟨x,u⟩T∗=⟨x,u⟩+⟨Tx,iu⟩=⟨x,u⟩+i⋅i⟨x,u⟩=0.\langle x,u\rangle_{T^*}=\langle x,u\rangle+\langle Tx,iu\rangle=\langle x,u\rangle+i\cdot i\langle x,u\rangle=0.

K−\mathcal{K}_- との直交も同様です。u±∈K±u_\pm\in\mathcal{K}_\pm については ⟨u+,u−⟩T∗=⟨u+,u−⟩+⟨iu+,−iu−⟩=⟨u+,u−⟩+(−i)(−i)⟨u+,u−⟩=0\langle u_+,u_-\rangle_{T^*}=\langle u_+,u_-\rangle+\langle iu_+,-iu_-\rangle=\langle u_+,u_-\rangle+(-i)(-i)\langle u_+,u_-\rangle=0 です。

D(T)D(T) の閉性: D(T)D(T) 上では T∗T^* のグラフ内積と TT のグラフ内積は一致し、TT は閉なので D(T)D(T) はこの内積について完備、よって D(T∗)D(T^*) の閉部分空間です。K±\mathcal{K}_\pm も、その上でグラフノルムが ∥u∥T∗2=2∥u∥2\|u\|_{T^*}^2=2\|u\|^2 となるので閉です。

分解: D(T)D(T) のグラフ内積に関する直交補空間が K+⊕K−\mathcal{K}_+\oplus\mathcal{K}_- に含まれることを示します。y∈D(T∗)y\in D(T^*) がすべての x∈D(T)x\in D(T) について ⟨y,x⟩+⟨T∗y,Tx⟩=0\langle y,x\rangle+\langle T^*y,Tx\rangle=0 を満たすとします。これは ⟨T∗y,Tx⟩=⟨−y,x⟩\langle T^*y,Tx\rangle=\langle -y,x\rangle を意味し、共役の定義から T∗y∈D(T∗)T^*y\in D(T^*) かつ T∗T∗y=−yT^*T^*y=-y です。そこで w+=(T∗+i)yw_+=(T^*+i)y、w−=(T∗−i)yw_-=(T^*-i)y とおくと

(T∗−i)w+=T∗T∗y+y=0,(T∗+i)w−=T∗T∗y+y=0(T^*-i)w_+=T^*T^*y+y=0,\qquad(T^*+i)w_-=T^*T^*y+y=0

なので w±∈K±w_\pm\in\mathcal{K}_\pm で、y=(w+−w−)/(2i)∈K++K−y=(w_+-w_-)/(2i)\in\mathcal{K}_++\mathcal{K}_- です。Hilbert 空間 D(T∗)D(T^*) は閉部分空間 D(T)D(T) とその直交補空間の直和なので、分解が得られます。

次の境界形式は、T∗T^* が対称になっているかどうかのずれ ⟨T∗a,b⟩−⟨a,T∗b⟩\langle T^*a,b\rangle-\langle a,T^*b\rangle を、K±\mathcal{K}_\pm 成分だけで書く公式です。拡大の定義域が対称になる条件を、成分の内積の等式に直すために使います。証明は T∗T^* の作用を代入して 4 つの項を比べるだけで、交差項が打ち消し合うのがポイントです。

補題 5.3(境界形式)✓

TT を閉な対称作用素とし、a=x+u++u−a=x+u_++u_-、b=y+v++v−b=y+v_++v_-(x,y∈D(T)x,y\in D(T)、u±,v±∈K±u_\pm,v_\pm\in\mathcal{K}_\pm)を D(T∗)D(T^*) の元とする。このとき

⟨T∗a,b⟩−⟨a,T∗b⟩=2i(⟨u−,v−⟩−⟨u+,v+⟩).\langle T^*a,b\rangle-\langle a,T^*b\rangle=2i\bigl(\langle u_-,v_-\rangle-\langle u_+,v_+\rangle\bigr).
証明(補題 5.3)

左辺を [a,b][a,b] と書きます。[a,b][a,b] は aa について共役線形、bb について線形です。x∈D(T)x\in D(T)、c∈D(T∗)c\in D(T^*) なら、共役の定義から ⟨c,Tx⟩=⟨T∗c,x⟩\langle c,Tx\rangle=\langle T^*c,x\rangle、複素共役を取って ⟨Tx,c⟩=⟨x,T∗c⟩\langle Tx,c\rangle=\langle x,T^*c\rangle なので [x,c]=0[x,c]=0、同様に [c,x]=0[c,x]=0 です。したがって [a,b]=[u++u−,v++v−][a,b]=[u_++u_-,v_++v_-] です。T∗u±=±iu±T^*u_\pm=\pm iu_\pm、T∗v±=±iv±T^*v_\pm=\pm iv_\pm を代入すると

⟨iu+−iu−,v++v−⟩=−i⟨u+,v+⟩−i⟨u+,v−⟩+i⟨u−,v+⟩+i⟨u−,v−⟩,⟨u++u−,iv+−iv−⟩=i⟨u+,v+⟩−i⟨u+,v−⟩+i⟨u−,v+⟩−i⟨u−,v−⟩\begin{aligned} \langle iu_+-iu_-,v_++v_-\rangle&=-i\langle u_+,v_+\rangle-i\langle u_+,v_-\rangle+i\langle u_-,v_+\rangle+i\langle u_-,v_-\rangle,\\ \langle u_++u_-,iv_+-iv_-\rangle&=i\langle u_+,v_+\rangle-i\langle u_+,v_-\rangle+i\langle u_-,v_+\rangle-i\langle u_-,v_-\rangle \end{aligned}

で、差を取ると交差項が消えて主張を得ます。

次が主定理です。直感的には、対称拡大とは「D(T)D(T) に K+\mathcal{K}_+ の一部とその等長な像 K−\mathcal{K}_- の一部を貼り合わせて定義域を広げたもの」で、貼り合わせ方が等長写像 UU です。自己共役になるのは貼り合わせが K+\mathcal{K}_+ と K−\mathcal{K}_- の全体にわたるとき、つまり UU がユニタリのときです。証明は、まず対称拡大が T∗T^* の制限であることを使って (I,U)(\mathcal{I},U) との対応を作り、次に共役 TU∗T_U^* の定義域を境界形式で調べます。

定理 5.4(von Neumann の拡大定理)✓

TT を H\mathcal{H} における閉な対称作用素とし、K±\mathcal{K}_\pm をその不足部分空間とする。

  1. K+\mathcal{K}_+ の部分空間 I\mathcal{I} と線形な等長写像 U ⁣:I→K−U\colon\mathcal{I}\to\mathcal{K}_- の組に対し、
D(TU)={x+u+Uu:x∈D(T), u∈I},TU(x+u+Uu)=Tx+iu−iUuD(T_U)=\{x+u+Uu: x\in D(T),\ u\in\mathcal{I}\},\qquad T_U(x+u+Uu)=Tx+iu-iUu

で定まる TUT_U は TT の対称拡大である。逆に、TT の対称拡大はすべて、ちょうど 1 つの組 (I,U)(\mathcal{I},U) によってこの形に書ける。TUT_U が閉であることと I\mathcal{I} が閉であることは同値である。 2. TUT_U が自己共役であることと、I=K+\mathcal{I}=\mathcal{K}_+ かつ U(K+)=K−U(\mathcal{K}_+)=\mathcal{K}_-(UU が K+\mathcal{K}_+ から K−\mathcal{K}_- へのユニタリ写像)であることは同値である。 3. したがって TT が自己共役拡大を持つことと n+=n−n_+=n_- は同値であり、そのとき TT の自己共役拡大全体はユニタリ写像 U ⁣:K+→K−U\colon\mathcal{K}_+\to\mathcal{K}_- 全体と 1 対 1 に対応する。

証明(定理 5.4)

対称拡大は T∗T^* の制限である。 SS を TT の対称拡大とすると T⊂S⊂S∗⊂T∗T\subset S\subset S^*\subset T^* です(最後の包含は 命題 5.6[非有界作用素] の (1))。よって SS は T∗T^* を D(T)⊂D(S)⊂D(T∗)D(T)\subset D(S)\subset D(T^*) なる部分空間に制限したものです。逆に、そのような部分空間 DD への T∗T^* の制限 SS が対称であることは、すべての a,b∈Da,b\in D について [a,b]=0[a,b]=0、すなわち 補題 5.3 により

⟨u+,v+⟩=⟨u−,v−⟩(a,b∈D)\langle u_+,v_+\rangle=\langle u_-,v_-\rangle\qquad(a,b\in D)

と同値です(記号は 補題 5.3 のもの)。

(1) TUT_U について: D(TU)D(T_U) は D(T)D(T) を含む部分空間で、作用は 補題 5.2 より T∗T^* の制限です。a=x+u+Uua=x+u+Uu、b=y+v+Uvb=y+v+Uv なら ⟨Uu,Uv⟩=⟨u,v⟩\langle Uu,Uv\rangle=\langle u,v\rangle(等長写像は内積を保つ: 偏極恒等式)なので上の条件が成り立ち、TUT_U は対称です。

逆に SS を対称拡大とします。補題 5.2 の分解は直和なので、a∈D(S)a\in D(S) の成分 u±(a)u_\pm(a) は一意に決まり、D(T)⊂D(S)D(T)\subset D(S) から u+(a)+u−(a)=a−x∈D(S)u_+(a)+u_-(a)=a-x\in D(S) です。I={u+(a):a∈D(S)}\mathcal{I}=\{u_+(a): a\in D(S)\} とおきます。条件で a=ba=b とすると ∥u+(a)∥=∥u−(a)∥\|u_+(a)\|=\|u_-(a)\| なので、u+(a)=0u_+(a)=0 なら u−(a)=0u_-(a)=0 です。したがって U(u+(a))=u−(a)U(u_+(a))=u_-(a) は well-defined な線形写像 I→K−\mathcal{I}\to\mathcal{K}_- で、等長です。D(S)=D(TU)D(S)=D(T_U) で、作用はどちらも T∗T^* の制限なので S=TUS=T_U です。(I,U)(\mathcal{I},U) が SS から一意に決まることも、分解の一意性から従います。

閉性: TUT_U は T∗T^* の制限なので、TUT_U のグラフノルムは D(TU)D(T_U) 上で ∥⋅∥T∗\|\cdot\|_{T^*} に一致します。よって TUT_U が閉   ⟺  \iff D(TU)D(T_U) が Hilbert 空間 (D(T∗),⟨⋅,⋅⟩T∗)(D(T^*),\langle\cdot,\cdot\rangle_{T^*}) の閉部分空間、です。直交分解により D(TU)=D(T)⊕{u+Uu:u∈I}D(T_U)=D(T)\oplus\{u+Uu: u\in\mathcal{I}\} で、∥u+Uu∥T∗2=2∥u∥2+2∥Uu∥2=4∥u∥2\|u+Uu\|_{T^*}^2=2\|u\|^2+2\|Uu\|^2=4\|u\|^2 です。写像 u↦u+Uuu\mapsto u+Uu は定数倍を除いて等長なので、その像が閉   ⟺  \iff I\mathcal{I} が完備   ⟺  \iff I\mathcal{I} が閉、です。

(2) T⊂TUT\subset T_U より TU∗⊂T∗T_U^*\subset T^* です。b=y+v++v−∈D(T∗)b=y+v_++v_-\in D(T^*) が D(TU∗)D(T_U^*) に属することは、すべての a∈D(TU)a\in D(T_U) について ⟨b,T∗a⟩=⟨T∗b,a⟩\langle b,T^*a\rangle=\langle T^*b,a\rangle、すなわち [b,a]=0[b,a]=0 と同値です。補題 5.3 により、これは

⟨v+,u⟩=⟨v−,Uu⟩(u∈I)\langle v_+,u\rangle=\langle v_-,Uu\rangle\qquad(u\in\mathcal{I})

と同値です。

I=K+\mathcal{I}=\mathcal{K}_+、U(K+)=K−U(\mathcal{K}_+)=\mathcal{K}_- とします。UU はユニタリなので ⟨v−,Uu⟩=⟨U−1v−,u⟩\langle v_-,Uu\rangle=\langle U^{-1}v_-,u\rangle で、条件は「すべての u∈K+u\in\mathcal{K}_+ について ⟨v+−U−1v−,u⟩=0\langle v_+-U^{-1}v_-,u\rangle=0」、すなわち v−=Uv+v_-=Uv_+ です。よって b∈D(TU)b\in D(T_U) で、D(TU∗)⊂D(TU)D(T_U^*)\subset D(T_U) です。TUT_U は対称なので TU=TU∗T_U=T_U^* です。

逆に I≠K+\mathcal{I}\ne\mathcal{K}_+ とします。TUT_U が自己共役なら閉なので (1) より I\mathcal{I} は閉で、0≠v+∈K+⊖I0\ne v_+\in\mathcal{K}_+\ominus\mathcal{I} が取れます。b=v+b=v_+(y=0y=0、v−=0v_-=0)は条件を満たすので b∈D(TU∗)b\in D(T_U^*) ですが、b∈D(TU)b\in D(T_U) なら分解の一意性から v+∈Iv_+\in\mathcal{I} となり矛盾します。U(I)≠K−U(\mathcal{I})\ne\mathcal{K}_- の場合も、U(I)U(\mathcal{I}) は(等長写像の閉部分空間上の像なので)閉で、0≠v−∈K−⊖U(I)0\ne v_-\in\mathcal{K}_-\ominus U(\mathcal{I}) を取れば b=v−b=v_- が同様に D(TU∗)∖D(TU)D(T_U^*)\setminus D(T_U) に属します。いずれの場合も TUT_U は自己共役ではありません。

(3) 自己共役拡大は対称拡大なので (1) によりある TUT_U に等しく、(2) により UU は K+\mathcal{K}_+ から K−\mathcal{K}_- へのユニタリです。K+\mathcal{K}_+ から K−\mathcal{K}_- へのユニタリ写像が存在することは、正規直交基底の濃度が等しいこと、すなわち n+=n−n_+=n_- と同値です。

注意 5.5

同じ定理は Cayley 変換 V=(T−i)(T+i)−1V=(T-i)(T+i)^{-1} を使っても証明できます。VV は Ran(T+i)\mathrm{Ran}(T+i) から Ran(T−i)\mathrm{Ran}(T-i) への等長写像で、対称拡大は VV の等長拡大に、自己共役拡大はユニタリ拡大に対応します。不足部分空間は VV の定義域と値域の直交補空間です。von Neumann の原論文はこの道筋です(Reed–Simon II の X.1 節、Schmüdgen の Cayley 変換の章を参照してください)。

系 5.6(不足指数による分類)✓

TT を閉な対称作用素とする。

  1. n+=n−=0n_+=n_-=0   ⟺  \iff TT は自己共役。
  2. n+=n−=n≥1n_+=n_-=n\ge1 のとき、TT の自己共役拡大は無限個あり、n<∞n\lt\infty ならユニタリ群 U(n)\mathrm{U}(n) でパラメータ付けられる。
  3. n+≠n−n_+\ne n_- のとき、TT は自己共役拡大を持たない。さらに n+=0n_+=0 または n−=0n_-=0 なら、TT は自分自身以外に対称拡大を持たない(極大対称)。
証明(系 5.6)

(1) は 定理 4.3、(2) と (3) の前半は 定理 5.4 の (3) です。(3) の後半: n−=0n_-=0 なら等長写像 U ⁣:I→{0}U\colon\mathcal{I}\to\{0\} は I={0}\mathcal{I}=\{0\} でしかありえず、対称拡大は TU=TT_U=T だけです。n+=0n_+=0 なら I⊂K+={0}\mathcal{I}\subset\mathcal{K}_+=\{0\} です。

不足指数が等しいことを、計算せずに保証する便利な十分条件があります。

反ユニタリな共役とは、複素共役 f↦fˉf\mapsto\bar f のように、スカラー倍で共役を取り、2 回かけると元に戻る写像のことです。次の命題は、作用素がこのような共役と可換なら、K+\mathcal{K}_+ と K−\mathcal{K}_- が共役で互いに写り合うので次元が等しい、という考え方です。

命題 5.7(von Neumann の共役判定)✓

TT を閉な対称作用素とし、反ユニタリな共役 CC(CC は共役線形な全単射で C2=1C^2=1、⟨Cx,Cy⟩=⟨y,x⟩\langle Cx,Cy\rangle=\langle y,x\rangle)が CD(T)⊂D(T)CD(T)\subset D(T) かつ x∈D(T)x\in D(T) で TCx=CTxTCx=CTx を満たすとする。このとき n+=n−n_+=n_- であり、TT は自己共役拡大を持つ。

証明(命題 5.7)

まず CC が T∗T^* とも可換であることを示します。y∈D(T∗)y\in D(T^*)、x∈D(T)x\in D(T) とします。Cx∈D(T)Cx\in D(T) なので、反ユニタリ性 ⟨Ca,Cb⟩=⟨b,a⟩\langle Ca,Cb\rangle=\langle b,a\rangle を使って

⟨Cy,Tx⟩=⟨Cy,C(TCx)⟩=⟨TCx,y⟩=⟨y,T(Cx)⟩‾=⟨T∗y,Cx⟩‾=⟨Cx,T∗y⟩=⟨CT∗y,x⟩\langle Cy,Tx\rangle=\langle Cy,C(TCx)\rangle=\langle TCx,y\rangle=\overline{\langle y,T(Cx)\rangle}=\overline{\langle T^*y,Cx\rangle}=\langle Cx,T^*y\rangle=\langle CT^*y,x\rangle

です(最初の等号は Tx=C2Tx=C(CTx)=C(TCx)Tx=C^2Tx=C(CTx)=C(TCx)、最後の等号は再び反ユニタリ性と C2=1C^2=1)。よって Cy∈D(T∗)Cy\in D(T^*)、T∗Cy=CT∗yT^*Cy=CT^*y です。

u∈K+u\in\mathcal{K}_+ なら T∗Cu=C(iu)=−iCuT^*Cu=C(iu)=-iCu なので Cu∈K−Cu\in\mathcal{K}_- です。同様に CK−⊂K+C\mathcal{K}_-\subset\mathcal{K}_+ で、C2=1C^2=1 から CC は K+\mathcal{K}_+ から K−\mathcal{K}_- への全単射です。CC は内積の絶対値を保つ共役線形写像なので正規直交基底を正規直交基底に写し、n+=n−n_+=n_- です。後半は 定理 5.4 の (3) です。

たとえば L2(Rd)L^2(\mathbb{R}^d) 上で実数値ポテンシャル V∈Lloc2(Rd)V\in L^2_{\mathrm{loc}}(\mathbb{R}^d) を持つ Schrödinger 作用素 −Δ+V-\Delta+V(D=Cc∞D=C_c^\infty。V∈Lloc2V\in L^2_{\mathrm{loc}} は VCc∞⊂L2VC_c^\infty\subset L^2 のために要る)は複素共役 Cf=fˉCf=\bar f と可換なので、閉包は常に自己共役拡大を持ちます。拡大が一意か(本質的自己共役か)は別問題で、それが 自己共役性の判定 の主題です。

6. 例:区間と半直線上の運動量

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補題 6.1(区間上の最小・最大作用素)✓

H=L2(0,1)\mathcal{H}=L^2(0,1) で、T0f=−if′T_0f=-if'(D(T0)={f∈H1(0,1):f(0)=f(1)=0}D(T_0)=\{f\in H^1(0,1): f(0)=f(1)=0\})、Tmax⁡f=−if′T_{\max}f=-if'(D(Tmax⁡)=H1(0,1)D(T_{\max})=H^1(0,1))とする。このとき T0∗=Tmax⁡T_0^*=T_{\max}、Tmax⁡∗=T0T_{\max}^*=T_0 であり、T0T_0 は閉な対称作用素である。

証明(補題 6.1)

T0∗=Tmax⁡T_0^*=T_{\max}。(前の章の演習 非有界作用素 の内容を、ここで証明しておきます。)H1(0,1)H^1(0,1) の関数は絶対連続なので部分積分が使えます。

Tmax⁡⊂T0∗T_{\max}\subset T_0^*: g∈H1(0,1)g\in H^1(0,1)、f∈D(T0)f\in D(T_0) について、部分積分と f(0)=f(1)=0f(0)=f(1)=0 から ⟨g,−if′⟩=−i∫01gˉf′ dx=i∫01g′‾f dx=⟨−ig′,f⟩\langle g,-if'\rangle=-i\int_0^1\bar gf'\,dx=i\int_0^1\overline{g'}f\,dx=\langle -ig',f\rangle なので、g∈D(T0∗)g\in D(T_0^*)、T0∗g=−ig′T_0^*g=-ig' です。

T0∗⊂Tmax⁡T_0^*\subset T_{\max}: まず {f′:f∈D(T0)}={1}⊥\{f':f\in D(T_0)\}=\{1\}^{\perp} を確かめます。f∈D(T0)f\in D(T_0) なら ∫01f′ dx=f(1)−f(0)=0\int_0^1f'\,dx=f(1)-f(0)=0 です。逆に u∈{1}⊥u\in\{1\}^{\perp} なら U(x)=∫0xu dtU(x)=\int_0^xu\,dt は絶対連続で U′=u∈L2U'=u\in L^2、U(0)=0U(0)=0、U(1)=∫01u dt=0U(1)=\int_0^1u\,dt=0 なので U∈D(T0)U\in D(T_0) です。次に g∈D(T0∗)g\in D(T_0^*)、h=T0∗gh=T_0^*g とし、H(x)=∫0xh dtH(x)=\int_0^xh\,dt と置くと H∈H1(0,1)H\in H^1(0,1)、H′=hH'=h です。f∈D(T0)f\in D(T_0) について部分積分から ⟨h,f⟩=∫01H′‾f dx=−∫01Hˉf′ dx\langle h,f\rangle=\int_0^1\overline{H'}f\,dx=-\int_0^1\bar Hf'\,dx、一方 ⟨g,−if′⟩=∫01ig‾ f′ dx\langle g,-if'\rangle=\int_0^1\overline{ig}\,f'\,dx で、両者は等しいので ∫01(ig+H)‾ f′ dx=0\int_0^1\overline{(ig+H)}\,f'\,dx=0 です。f′f' は {1}⊥\{1\}^{\perp} 全体を動くので ig+H∈{1}⊥⊥ig+H\in\{1\}^{\perp\perp}、すなわち ig+H=cig+H=c(定数)です。よって g=−i(c−H)∈H1(0,1)g=-i(c-H)\in H^1(0,1) で、微分して h=−ig′h=-ig'、すなわち g∈D(Tmax⁡)g\in D(T_{\max})、T0∗g=Tmax⁡gT_0^*g=T_{\max}g です。

Tmax⁡∗=T0T_{\max}^*=T_0。 T0⊂Tmax⁡T_0\subset T_{\max} から Tmax⁡∗⊂T0∗=Tmax⁡T_{\max}^*\subset T_0^*=T_{\max} なので、g∈D(Tmax⁡∗)g\in D(T_{\max}^*) は H1(0,1)H^1(0,1) に属し Tmax⁡∗g=−ig′T_{\max}^*g=-ig' です。すべての f∈H1(0,1)f\in H^1(0,1) について部分積分から

⟨g,−if′⟩−⟨−ig′,f⟩=−i(g(1)‾f(1)−g(0)‾f(0))\langle g,-if'\rangle-\langle -ig',f\rangle=-i\bigl(\overline{g(1)}f(1)-\overline{g(0)}f(0)\bigr)

で、これが 00 でなければなりません。f(x)=xf(x)=x と f(x)=1−xf(x)=1-x を代入すると g(1)=g(0)=0g(1)=g(0)=0 です。逆に g(0)=g(1)=0g(0)=g(1)=0 なら右辺は 00 です。よって Tmax⁡∗=T0T_{\max}^*=T_0 で、T0T_0 は共役として閉、T0⊂Tmax⁡=T0∗T_0\subset T_{\max}=T_0^* なので対称です。

例 6.2(区間上の -i d/dx の自己共役拡大)

補題 6.1 の T0T_0 の不足部分空間を求める。K+=Ker(Tmax⁡−i)\mathcal{K}_+=\mathrm{Ker}(T_{\max}-i) の元は −if′=if-if'=if、すなわち f′=−ff'=-f を満たす H1H^1 関数で、K+=Ce−x\mathcal{K}_+=\mathbb{C}e^{-x}。同様に K−=Cex\mathcal{K}_-=\mathbb{C}e^{x}。よって (n+,n−)=(1,1)(n_+,n_-)=(1,1) で、自己共役拡大は存在する。

∥e−x∥2=(1−e−2)/2=∥ex−1∥2\|e^{-x}\|^2=(1-e^{-2})/2=\|e^{x-1}\|^2 なので、ユニタリ U ⁣:K+→K−U\colon\mathcal{K}_+\to\mathcal{K}_- は Ue−x=λex−1Ue^{-x}=\lambda e^{x-1}(∣λ∣=1|\lambda|=1)で尽くされる。定理 5.4 より、対応する拡大の定義域は D(T0)+CgλD(T_0)+\mathbb{C}g_\lambda、gλ(x)=e−x+λex−1g_\lambda(x)=e^{-x}+\lambda e^{x-1} である。gλ(0)=1+λe−1g_\lambda(0)=1+\lambda e^{-1}、gλ(1)=e−1+λg_\lambda(1)=e^{-1}+\lambda で、

eiθ=λ+e−11+e−1λe^{i\theta}=\frac{\lambda+e^{-1}}{1+e^{-1}\lambda}

とおくと ∣eiθ∣=1|e^{i\theta}|=1(分子は λ\lambda と分母の複素共役の積の絶対値に等しい)であり、λ↦eiθ\lambda\mapsto e^{i\theta} は単位円周の全単射(円板の自己同型の境界値)である。

この拡大の定義域が {h∈H1(0,1):h(1)=eiθh(0)}\{h\in H^1(0,1): h(1)=e^{i\theta}h(0)\} に等しいことを確かめる。D(T0)D(T_0) の元と gλg_\lambda はこの条件を満たすので「⊂\subset」が成り立つ。逆に hh がこの条件を満たすとき、gλ(0)≠0g_\lambda(0)\ne0(∣λe−1∣<1|\lambda e^{-1}|\lt1)なので c=h(0)/gλ(0)c=h(0)/g_\lambda(0) とおくと、h−cgλh-cg_\lambda は x=0x=0 で 00、x=1x=1 で eiθh(0)−c eiθgλ(0)=0e^{i\theta}h(0)-c\,e^{i\theta}g_\lambda(0)=0 となり、D(T0)D(T_0) に属する。

以上より、T0T_0 の自己共役拡大は

D(Aθ)={h∈H1(0,1):h(1)=eiθh(0)},Aθh=−ih′(θ∈[0,2π))D(A_\theta)=\{h\in H^1(0,1): h(1)=e^{i\theta}h(0)\},\qquad A_\theta h=-ih'\qquad(\theta\in[0,2\pi))

ですべてであり、θ\theta が異なれば異なる拡大である。 AθA_\theta の固有関数は en(x)=ei(θ+2πn)xe_n(x)=e^{i(\theta+2\pi n)x}(n∈Zn\in\mathbb{Z})で、固有値は θ+2πn\theta+2\pi n。{en}\{e_n\} は Fourier 基底 {e2πinx}\{e^{2\pi inx}\} にユニタリな掛け算 eiθxe^{i\theta x} を施したものなので正規直交基底であり、σ(Aθ)={θ+2πn:n∈Z}\sigma(A_\theta)=\{\theta+2\pi n: n\in\mathbb{Z}\} となる。スペクトルが拡大の選び方に依存することに注意してほしい。

補題 6.3(半直線上の最小・最大作用素)✓

H=L2(0,∞)\mathcal{H}=L^2(0,\infty) で、Thf=−if′T_hf=-if'(D(Th)={f∈H1(0,∞):f(0)=0}D(T_h)=\{f\in H^1(0,\infty): f(0)=0\})、Th,max⁡f=−if′T_{h,\max}f=-if'(D(Th,max⁡)=H1(0,∞)D(T_{h,\max})=H^1(0,\infty))とする。このとき Th∗=Th,max⁡T_h^*=T_{h,\max}、Th,max⁡∗=ThT_{h,\max}^*=T_h であり、ThT_h は閉な対称作用素である。

証明(補題 6.3)

Th,max⁡⊂Th∗T_{h,\max}\subset T_h^*: g∈H1(0,∞)g\in H^1(0,\infty)、f∈D(Th)f\in D(T_h) について §2 の部分積分から ⟨g,−if′⟩−⟨−ig′,f⟩=i g(0)‾f(0)=0\langle g,-if'\rangle-\langle -ig',f\rangle=i\,\overline{g(0)}f(0)=0 です。

Th∗⊂Th,max⁡T_h^*\subset T_{h,\max}: g∈D(Th∗)g\in D(T_h^*)、h=Th∗gh=T_h^*g とします。Cc∞(0,∞)⊂D(Th)C_c^\infty(0,\infty)\subset D(T_h) なので、前の章の 命題 6.4[非有界作用素] の (2) と同じ計算で gg の超関数微分は ih∈L2(0,∞)ih\in L^2(0,\infty) です。よって g∈H1(0,∞)g\in H^1(0,\infty)、h=−ig′h=-ig' です。

Th,max⁡∗=ThT_{h,\max}^*=T_h: Th⊂Th,max⁡T_h\subset T_{h,\max} から Th,max⁡∗⊂Th∗=Th,max⁡T_{h,\max}^*\subset T_h^*=T_{h,\max} で、g∈D(Th,max⁡∗)g\in D(T_{h,\max}^*) は H1(0,∞)H^1(0,\infty) に属します。すべての f∈H1(0,∞)f\in H^1(0,\infty) について i g(0)‾f(0)=0i\,\overline{g(0)}f(0)=0 でなければならず、f(x)=e−xf(x)=e^{-x} を取って g(0)=0g(0)=0 です。逆も同じ式から従います。ThT_h は共役として閉で、Th⊂Th,max⁡=Th∗T_h\subset T_{h,\max}=T_h^* なので対称です。

例 6.4(半直線上の -i d/dx は自己共役拡大を持たない)

補題 6.3 の ThT_h について、K+\mathcal{K}_+ は f′=−ff'=-f の H1(0,∞)H^1(0,\infty) 解で K+=Ce−x\mathcal{K}_+=\mathbb{C}e^{-x}、K−\mathcal{K}_- は f′=ff'=f の解 cexce^{x} のうち L2(0,∞)L^2(0,\infty) に属するもので K−={0}\mathcal{K}_-=\{0\}。よって (n+,n−)=(1,0)(n_+,n_-)=(1,0) であり、系 5.6 により ThT_h は自己共役拡大を持たず、しかも極大対称である。

この例は 定理 4.3 の ±\pm が両方必要なことも示す。補題 4.1 と 補題 4.2 により Ran(Th−i)\mathrm{Ran}(T_h-i) は閉で直交補空間 K−={0}\mathcal{K}_-=\{0\} を持つから Ran(Th−i)=H\mathrm{Ran}(T_h-i)=\mathcal{H} だが、Ran(Th+i)=(Ce−x)⊥≠H\mathrm{Ran}(T_h+i)=(\mathbb{C}e^{-x})^{\perp}\ne\mathcal{H} である。片側の値域条件だけでは自己共役は従わない。

対照的に、R\mathbb{R} 上では e±xe^{\pm x} はどちらも L2(R)L^2(\mathbb{R}) に属さないので n+=n−=0n_+=n_-=0 で、これは PP の自己共役性(命題 6.4[非有界作用素])と整合する。不足指数は「微分方程式 T∗f=±ifT^*f=\pm if の解のうち L2L^2 に入るものの数」であり、端点がいくつあり、そこで解が二乗可積分かどうかで決まる。

7. 物理的意味:時間発展の一意性

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Schrödinger 方程式 iψ′(t)=Hψ(t)i\psi'(t)=H\psi(t) の解の一意性と存在は、作用素の対称性と自己共役性にそれぞれ対応しています。

命題 7.1(対称作用素による時間発展の一意性)✓

SS を対称作用素とし、ψ ⁣:R→H\psi\colon\mathbb{R}\to\mathcal{H} が微分可能で、すべての tt で ψ(t)∈D(S)\psi(t)\in D(S)、iψ′(t)=Sψ(t)i\psi'(t)=S\psi(t) を満たすとする。このとき ∥ψ(t)∥\|\psi(t)\| は tt によらない。特に、同じ初期値を持つこのような解は高々 1 つである。

証明(命題 7.1)

ddt∥ψ(t)∥2=⟨ψ′,ψ⟩+⟨ψ,ψ′⟩=2 Re ⟨ψ,ψ′⟩\frac{d}{dt}\|\psi(t)\|^2=\langle\psi',\psi\rangle+\langle\psi,\psi'\rangle=2\,\mathrm{Re}\,\langle\psi,\psi'\rangle です。ψ′=−iSψ\psi'=-iS\psi なので ⟨ψ,ψ′⟩=−i⟨ψ,Sψ⟩\langle\psi,\psi'\rangle=-i\langle\psi,S\psi\rangle で、SS が対称なので ⟨ψ,Sψ⟩\langle\psi,S\psi\rangle は実数、よって実部は 00 です。一意性は、2 つの解の差も同じ方程式を満たし初期値 00 を持つことから従います。

この命題はどの定義域で方程式を解くかを固定したうえでの一意性です。微分作用素の「式」だけで方程式を書くことは、最大作用素 T∗T^* で書くことに相当し、T∗T^* は一般に対称ではありません。区間の例で何が起こるかを見ます。

例 7.2(区間上の時間発展は境界条件ごとに異なる)

θ∈[0,2π)\theta\in[0,2\pi) を固定し、f∈L2(0,1)f\in L^2(0,1) を f~(x+1)=eiθf~(x)\tilde f(x+1)=e^{i\theta}\tilde f(x) を満たす R\mathbb{R} 上の関数 f~\tilde f に拡張して、(Wθ(t)f)(x)=f~(x−t)(W_\theta(t)f)(x)=\tilde f(x-t)(x∈(0,1)x\in(0,1))とおく。∣f~∣|\tilde f| は周期 11 なので Wθ(t)W_\theta(t) はユニタリで、Wθ(t+s)=Wθ(t)Wθ(s)W_\theta(t+s)=W_\theta(t)W_\theta(s) を満たす。f∈D(Aθ)f\in D(A_\theta) なら f~\tilde f は R\mathbb{R} 上で局所的に H1H^1 で、ψ(t)=Wθ(t)f\psi(t)=W_\theta(t)f は D(Aθ)D(A_\theta) にとどまり iψ′(t)=−i∂xψ=Aθψ(t)i\psi'(t)=-i\partial_x\psi=A_\theta\psi(t) を満たす。Wθ(t)=e−itAθW_\theta(t)=e^{-itA_\theta} である(固有関数 ene_n に対して両辺が e−it(θ+2πn)ene^{-it(\theta+2\pi n)}e_n を与えることから確かめられる)。

右端から出た波は、位相 e−iθe^{-i\theta} を掛けられて左端から戻る。θ≠θ′\theta\ne\theta' なら Wθ(t)≠Wθ′(t)W_\theta(t)\ne W_{\theta'}(t)(t∈(0,1)t\in(0,1))だが、どちらも内部では同じ方程式 ∂tψ=−∂xψ\partial_t\psi=-\partial_x\psi の解を与える。たとえば f∈Cc∞(0,1)f\in C_c^\infty(0,1) を初期値とすると、波が端に届くまでの時間は 2 つの解は一致し、その後で分かれる。T0∗=Tmax⁡T_0^*=T_{\max} は対称でない(補題 6.1)ので、命題 7.1 は使えず、実際に一意性が破れている。

境界条件 ∣h(1)∣=∣h(0)∣|h(1)|=|h(0)| は、右端から出ていく確率流と左端から入ってくる確率流が等しいという保存則で、位相 θ\theta はそのときに残る自由度です。θ\theta は物理的には環を貫く磁束(Aharonov–Bohm 位相。磁場のない領域でも波動関数に付く位相)や、周期系の Bloch 準運動量(結晶の周期性から決まる運動量の目安)として観測可能な量になります。

半直線では、右へ流れる波が x=0x=0 から何が入ってくるかを指定しなければなりません。「何も入ってこない」(f(0)=0f(0)=0 に対応)とすると、右シフト (Stf)(x)=f(x−t)1x>t(S_tf)(x)=f(x-t)\mathbf{1}_{x\gt t}(t≥0t\ge0)が得られますが、これは等長であってもユニタリではなく(値域が [0,t][0,t] で 00 になる関数に限られる)、時間を逆向きに進めることができません。不足指数 (1,0)(1,0) の非対称性は、この「流入口はあるが流出口がない」構造を正確に反映しています。逆に、自己共役作用素 AA に対しては Stone の定理によって e−itAe^{-itA} がすべての t∈Rt\in\mathbb{R} とすべての初期値に対して定まります(1 径数ユニタリ群と強連続半群、スペクトル定理による構成は スペクトル定理と関数計算)。対称性は一意性を、自己共役性は存在と一意性の両方を保証する、とまとめられます。

演習 8.1易

TT を対称作用素とし、D(T)D(T) に含まれる H\mathcal{H} の正規直交基底 {en}\{e_n\} で Ten=λnenTe_n=\lambda_ne_n となるものがあるとする。TT は本質的自己共役であることを示せ。

解答

TT は対称なので λn=⟨en,Ten⟩\lambda_n=\langle e_n,Te_n\rangle は実数で、λn±i≠0\lambda_n\pm i\ne0 です。(T±i)((λn±i)−1en)=en(T\pm i)\bigl((\lambda_n\pm i)^{-1}e_n\bigr)=e_n なので、すべての ene_n は Ran(T±i)\mathrm{Ran}(T\pm i) に属します。{en}\{e_n\} の線形包は稠密なので Ran(T±i)\mathrm{Ran}(T\pm i) は稠密で、系 4.4 により TT は本質的自己共役です。

演習 8.2標準

補題 6.1 の T0T_0 について、(Cf)(x)=f(1−x)‾(Cf)(x)=\overline{f(1-x)} で定まる CC が 命題 5.7 の仮定を満たすことを確かめ、n+=n−n_+=n_- を(不足部分空間を計算せずに)導け。また CC が K+=Ce−x\mathcal{K}_+=\mathbb{C}e^{-x} を K−=Cex\mathcal{K}_-=\mathbb{C}e^{x} に写すことを直接確かめよ。

解答

CC は共役線形で C2f(x)=f(1−(1−x))‾‾=f(x)C^2f(x)=\overline{\overline{f(1-(1-x))}}=f(x)、また ⟨Cf,Cg⟩=∫01f(1−x)g(1−x)‾ dx=∫01gˉf dx=⟨g,f⟩\langle Cf,Cg\rangle=\int_0^1f(1-x)\overline{g(1-x)}\,dx=\int_0^1\bar g f\,dx=\langle g,f\rangle なので反ユニタリな共役です。f∈D(T0)f\in D(T_0) なら CfCf も H1(0,1)H^1(0,1) に属し、(Cf)(0)=f(1)‾=0(Cf)(0)=\overline{f(1)}=0、(Cf)(1)=f(0)‾=0(Cf)(1)=\overline{f(0)}=0 なので Cf∈D(T0)Cf\in D(T_0) です。さらに

T0Cf(x)=−iddxf(1−x)‾=i f′(1−x)‾,CT0f(x)=−if′(1−x)‾=i f′(1−x)‾T_0Cf(x)=-i\frac{d}{dx}\overline{f(1-x)}=i\,\overline{f'(1-x)},\qquad CT_0f(x)=\overline{-if'(1-x)}=i\,\overline{f'(1-x)}

で一致します。命題 5.7 により n+=n−n_+=n_- です。直接には C(e−x)=e−(1−x)‾=e−1ex∈K−C(e^{-x})=\overline{e^{-(1-x)}}=e^{-1}e^{x}\in\mathcal{K}_- です。

演習 8.3標準

補題 6.3 の ThT_h が極大対称であること、すなわち Th⊂ST_h\subset S を満たす対称作用素 SS は S=ThS=T_h に限ることを、定理 5.4 を使って示せ。さらに −Th-T_h の不足指数を求め、−Th-T_h も自己共役拡大を持たないことを確かめよ。

解答

SS を ThT_h の対称拡大とすると、定理 5.4 の (1) により、ある部分空間 I⊂K+\mathcal{I}\subset\mathcal{K}_+ と等長写像 U ⁣:I→K−U\colon\mathcal{I}\to\mathcal{K}_- で S=TUS=T_U と書けます。K−={0}\mathcal{K}_-=\{0\}(例 6.4)なので Uu=0Uu=0、等長性から u=0u=0、よって I={0}\mathcal{I}=\{0\} で S=ThS=T_h です。

(−Th)∗=−Th∗(-T_h)^*=-T_h^* なので Ker((−Th)∗−i)=Ker(Th∗+i)=K−(Th)={0}\mathrm{Ker}((-T_h)^*-i)=\mathrm{Ker}(T_h^*+i)=\mathcal{K}_-(T_h)=\{0\}、Ker((−Th)∗+i)=K+(Th)=Ce−x\mathrm{Ker}((-T_h)^*+i)=\mathcal{K}_+(T_h)=\mathbb{C}e^{-x} です。よって −Th-T_h の不足指数は (0,1)(0,1) で、n+≠n−n_+\ne n_- なので自己共役拡大を持ちません。物理的には、左へ流れる波は x=0x=0 から出ていくだけで、戻り口がありません。

演習 8.4標準

H=L2(0,∞)\mathcal{H}=L^2(0,\infty) で T=−d2/dx2T=-d^2/dx^2、D(T)=Cc∞(0,∞)D(T)=C_c^\infty(0,\infty) とする。T∗T^* は D(T∗)={f∈L2(0,∞):f′′∈L2(0,∞)}D(T^*)=\{f\in L^2(0,\infty): f''\in L^2(0,\infty)\}(超関数微分の意味)上の −f′′-f'' であることを認めて、Tˉ\bar T の不足指数を求めよ。また TT が本質的自己共役でないことを結論せよ。

解答

命題 3.3 により (Tˉ)∗=T∗(\bar T)^*=T^* なので、K±=Ker(T∗∓i)\mathcal{K}_\pm=\mathrm{Ker}(T^*\mp i) を求めます。−f′′=if-f''=if の解は f=ekxf=e^{kx}、k2=−ik^2=-i、すなわち k=±e−iπ/4=±(1−i)/2k=\pm e^{-i\pi/4}=\pm(1-i)/\sqrt2 です。L2(0,∞)L^2(0,\infty) に属するのは実部が負の k=−(1−i)/2k=-(1-i)/\sqrt2 の解だけなので、n+=1n_+=1 です。−f′′=−if-f''=-if では k2=ik^2=i、k=±(1+i)/2k=\pm(1+i)/\sqrt2 で、減衰するのは k=−(1+i)/2k=-(1+i)/\sqrt2 の解だけなので n−=1n_-=1 です。不足指数は (1,1)(1,1) で、Tˉ\bar T は自己共役でない(系 5.6)ので、TT は本質的自己共役ではありません。自己共役拡大は U(1)\mathrm{U}(1) でパラメータ付けられ、具体的には Dirichlet 条件 f(0)=0f(0)=0 と Robin 条件 f′(0)=αf(0)f'(0)=\alpha f(0)(α∈R\alpha\in\mathbb{R})がそれに当たります。

  • J. von Neumann, “Allgemeine Eigenwerttheorie Hermitescher Funktionaloperatoren”, Mathematische Annalen 102 (1930)。
  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised and enlarged edition, Academic Press, 1980 — Chapter VIII(自己共役性の基本判定)。
  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics II: Fourier Analysis, Self-Adjointness, Academic Press, 1975 — Chapter X(不足指数と von Neumann の理論)。
  • K. Schmüdgen, Unbounded Self-adjoint Operators on Hilbert Space, Graduate Texts in Mathematics 265, Springer, 2012 — Cayley 変換と自己共役拡大の章。
  • G. Bonneau, J. Faraut, G. Valent, “Self-adjoint extensions of operators and the teaching of quantum mechanics”, American Journal of Physics 69 (2001)。arXiv:quant-ph/0103153
  • 新井朝雄『ヒルベルト空間と量子力学』改訂増補版、共立出版、2014。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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