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スペクトルの分類:点・連続・本質スペクトルと Weyl の判定法

対象読者: 本テーマ第 7 章までのスペクトル定理と関数計算、およびルベーグ分解(絶対連続・特異)を含む測度論の基本を学んだ人。水素原子の知識があると理解しやすいです。

前提となる記事:スペクトル定理と関数計算:非有界自己共役作用素を射影値測度で対角化する

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水素原子の電子には、原子核に捕まっている状態と、遠くへ飛び去ってしまう状態があります。量子力学ではこれらを作用素の「スペクトル」(とりうるエネルギーの集まり)で表しますが、無限次元ではスペクトルの中身が一様ではなく、とびとびの値の部分と、区間を埋める部分が混ざります。この記事では、スペクトルをいくつかの観点で仕分ける方法と、仕分けが摂動(作用素を少し変えること)に対してどれだけ安定か、そして仕分けが時間発展での「捕まる・飛び去る」にどう対応するかを説明します。読み終えると、水素原子のような作用素のスペクトルのどの部分が壊れにくいのかを言えるようになります。

以下の箇条書きには専門用語が並びますが、第 1 節以降で順に定義します。ここでは「3 通りの仕分けがある」という全体像だけをつかんでください。

  • 閉作用素(定義域の上でグラフが閉じている作用素)のスペクトルは、T−zT-z が単射でない点(点スペクトル)、単射で値域が稠密だが全射でない点(連続スペクトル)、単射で値域が稠密でない点(剰余スペクトル)に分かれます。自己共役作用素には剰余スペクトルがありません。
  • 自己共役作用素では、スペクトル測度 μψ\mu_\psi のルベーグ分解に従って H=Hpp⊕Hac⊕Hsc\mathcal{H}=\mathcal{H}_{\mathrm{pp}}\oplus\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}\oplus\mathcal{H}_{\mathrm{sc}} と分解でき、それぞれに純点・絶対連続・特異連続スペクトルが対応します。この分類は上の「連続スペクトル」とは別物です。
  • 孤立した有限多重度の固有値を離散スペクトル、残りを本質スペクトルと呼びます。λ\lambda が本質スペクトルに属することは、弱収束して 00 になる近似固有ベクトルの列(Weyl 列)が存在することと同値です。
  • Weyl の定理: 相対コンパクトな対称摂動で本質スペクトルは変わりません。−Δ+V-\Delta+V(VV が無限遠で減衰)の本質スペクトルが [0,∞)[0,\infty) であるのはこのためです。
  • RAGE の定理: 純点部分のベクトルは時間発展しても有界領域にとどまり、連続部分のベクトルは時間平均の意味で任意の有界領域から出ていきます。束縛状態と散乱状態の区別がスペクトルの型で書けます。

水素原子のハミルトニアン H=−Δ−1/∣x∣H=-\Delta-1/|x| のスペクトルは、−1/(4n2)-1/(4n^2)(n=1,2,…n=1,2,\ldots)の固有値と [0,∞)[0,\infty) の連続部分からなります。固有値は 0 に集積し、[0,∞)[0,\infty) には固有値がありません。物理的には、負のエネルギーの状態は電子が陽子に束縛された状態、正のエネルギーの状態は電子が無限遠に飛び去る散乱状態です。

0n = 1n = 2束縛状態(固有値)散乱状態(連続部分)
水素原子のスペクトルの概形。負の側の点は固有値 −1/(4n²)(n = 1, 2, …)で 0 に集積し、0 以上は区間全体がスペクトルです。横軸の縮尺は目安です。

有限次元ではスペクトルは固有値の有限集合で、それ以上の区別はありません。無限次元では、少なくとも次の 3 つの問いが別々に現れます。

  1. λ\lambda は固有値か、それとも「近似的な固有値」にすぎないか。
  2. スペクトル測度は点に集中しているか、Lebesgue 測度に対して絶対連続か、そのどちらでもないか。
  3. λ\lambda の近くのスペクトル部分空間は有限次元か、無限次元か。

1 は作用素 A−λA-\lambda の単射性・値域の問題、2 は 前章 のスペクトル測度の測度論的な型、3 は摂動に対する安定性に関わります。この記事ではこの 3 つを定義し、互いの関係を整理し、3 について Weyl の判定法と Weyl の定理を、2 について時間発展との関係(RAGE の定理)を示します。

H\mathcal{H} は複素 Hilbert 空間、内積は第 1 変数について共役線形です。自己共役作用素 AA のスペクトル測度を EAE_A、ψ∈H\psi\in\mathcal{H} に対する測度を μψ(B)=⟨ψ,EA(B)ψ⟩\mu_\psi(B)=\langle\psi,E_A(B)\psi\rangle と書きます。前章の次の結果を使います。

コンパクト作用素については コンパクト作用素 の定義を使い、必要な性質は本文中で証明します。

有限次元では、T−zT-z が可逆でないことは「(T−z)v=0(T-z)v=0 となる v≠0v\neq0 がある」ことと同じです。無限次元では、単射でも全射にならない場合があり、その様子で zz を仕分けるのがこの節の目的です。値域が稠密かどうかを調べるときは、値域の直交補空間が {0}\{0\} かどうかを見ます。この直交補空間は共役作用素の核に等しく、証明と例の両方でこの事実を使います。

定義 3.1(点・連続・剰余スペクトル)↗

TT を H\mathcal{H} 上の稠密に定義された閉作用素とする。z∈σ(T)z\in\sigma(T) を次のように分類する。

  • 点スペクトル σp(T)\sigma_{\mathrm{p}}(T): Ker(T−z)≠{0}\mathrm{Ker}(T-z)\neq\{0\}。zz を固有値という。
  • 連続スペクトル σc(T)\sigma_{\mathrm{c}}(T): T−zT-z は単射で Ran(T−z)\mathrm{Ran}(T-z) は稠密だが、Ran(T−z)≠H\mathrm{Ran}(T-z)\neq\mathcal{H}。
  • 剰余スペクトル σr(T)\sigma_{\mathrm{r}}(T): T−zT-z は単射で Ran(T−z)\mathrm{Ran}(T-z) は稠密でない。

TT が閉なので、単射かつ全射なら閉グラフ定理により逆は有界であり、σ(T)=σp(T)⊔σc(T)⊔σr(T)\sigma(T)=\sigma_{\mathrm{p}}(T)\sqcup\sigma_{\mathrm{c}}(T)\sqcup\sigma_{\mathrm{r}}(T) は互いに素な和である。

定理 3.2(自己共役作用素には剰余スペクトルがない)✓

AA を自己共役作用素とする。このとき σ(A)⊂R\sigma(A)\subset\mathbb{R} かつ σr(A)=∅\sigma_{\mathrm{r}}(A)=\emptyset である。さらに λ∈R\lambda\in\mathbb{R} について、λ∈σc(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{c}}(A) であることと、λ∈σ(A)\lambda\in\sigma(A) かつ λ\lambda が固有値でないことは同値である。

証明(定理 3.2)

z=a+ibz=a+ib、b≠0b\neq0 とします。ψ∈D(A)\psi\in D(A) について ∥(A−z)ψ∥2=∥(A−a)ψ∥2+b2∥ψ∥2≥b2∥ψ∥2\|(A-z)\psi\|^2=\|(A-a)\psi\|^2+b^2\|\psi\|^2\ge b^2\|\psi\|^2 です(A−aA-a が対称なので交差項が消えます)。よって A−zA-z は単射で、閉作用素なので値域は閉です((A−z)ψn(A-z)\psi_n が Cauchy なら ψn\psi_n も Cauchy で、閉性から極限は値域に入ります)。値域の直交補空間は一般に Ran(A−z)⊥=Ker((A−z)∗)=Ker(A−zˉ)\mathrm{Ran}(A-z)^\perp=\mathrm{Ker}((A-z)^*)=\mathrm{Ker}(A-\bar z) で、同じ評価から Ker(A−zˉ)={0}\mathrm{Ker}(A-\bar z)=\{0\} です。よって A−zA-z は全単射で z∈ρ(A)z\in\rho(A) です。

次に λ∈R\lambda\in\mathbb{R} で A−λA-\lambda が単射とします。Ran(A−λ)⊥=Ker(A−λ)={0}\mathrm{Ran}(A-\lambda)^\perp=\mathrm{Ker}(A-\lambda)=\{0\}(λˉ=λ\bar\lambda=\lambda)なので、値域は稠密です。よって λ\lambda は剰余スペクトルに属さず、λ∈σ(A)\lambda\in\sigma(A) なら連続スペクトルに属します。

剰余スペクトルの有無は、作用素がその共役とどれだけずれているかを測っています。上の証明で使ったのは A∗=AA^*=A という 1 点だけです。

次の例は、A∗=AA^*=A が成り立たない対称作用素では実際に剰余スペクトルが現れる、という確認です。P0∗P_0^* の核に入る関数は eizˉxe^{i\bar zx} の定数倍だけで、これが L2(0,∞)L^2(0,\infty) に入るかどうかは、x→∞x\to\infty で ∣eizˉx∣=ebx|e^{i\bar zx}|=e^{bx} が小さくなるか(b<0b\lt0)だけで決まります。

例 3.3(対称作用素の剰余スペクトル)

前章 例 4.4[スペクトル定理と関数計算] の P0=−i d/dxP_0=-i\,\mathrm{d}/\mathrm{d}x(L2(0,∞)L^2(0,\infty)、境界条件 u(0)=0u(0)=0)を考えます。z=a+ibz=a+ib とします。

  • Ker(P0−z)\mathrm{Ker}(P_0-z): −iu′=zu-iu'=zu の解は u=ceizxu=ce^{izx} で u(0)=cu(0)=c なので、境界条件から c=0c=0 です。P0P_0 には固有値がありません。
  • Ran(P0−z)⊥=Ker(P0∗−zˉ)\mathrm{Ran}(P_0-z)^\perp=\mathrm{Ker}(P_0^*-\bar z): P0∗P_0^* は境界条件なしの −i d/dx-i\,\mathrm{d}/\mathrm{d}x なので、解 eizˉxe^{i\bar zx} が L2(0,∞)L^2(0,\infty) に入るか、すなわち ∣eizˉx∣=ebx|e^{i\bar zx}|=e^{bx} が減衰するか、で決まります。b<0b\lt0 なら入ります。

よって Im z<0\mathrm{Im}\,z\lt0 の zz はすべて剰余スペクトルに属します。Im z>0\mathrm{Im}\,z\gt0 なら値域は閉かつ稠密で z∈ρ(P0)z\in\rho(P_0) です。実軸は閉集合 σ(P0)\sigma(P_0) の境界なので σ(P0)\sigma(P_0) に含まれ、b=0b=0 では ∣eizˉx∣=1|e^{i\bar zx}|=1 が L2(0,∞)L^2(0,\infty) に入らないので値域は稠密、固有値もないので連続スペクトルになります。こうしてσ(P0)={Im z≤0}\sigma(P_0)=\{\mathrm{Im}\,z\le0\}、σr(P0)={Im z<0}\sigma_{\mathrm{r}}(P_0)=\{\mathrm{Im}\,z\lt0\} です。対称性だけでは 定理 3.2 は成り立ちません。

4. スペクトル測度のルベーグ分解

Section titled “4. スペクトル測度のルベーグ分解”

この節では、各ベクトル ψ\psi に付くスペクトル測度 μψ\mu_\psi を、点に集中する部分・ルベーグ測度に絶対連続な部分・その残りの 3 つに分け、その分け方に合わせて空間そのものを 3 つの直交する部分空間に分けます。下の定理の証明は、ベクトルごとの測度の分解を、空間の分解に移す作業です。「簡約する」とは、部分空間とその直交補空間のそれぞれが作用素で自分自身に移る(作用素が 2 つの部分に独立に作用する)ことです。

以下、AA は自己共役作用素です。R\mathbb{R} 上の有限ボレル測度 ν\nu は、Lebesgue 測度 ∣⋅∣|\cdot| に関して一意に

ν=νpp+νac+νsc\nu=\nu_{\mathrm{pp}}+\nu_{\mathrm{ac}}+\nu_{\mathrm{sc}}

と分解されます。νpp\nu_{\mathrm{pp}} は可算集合に集中する測度(純点測度)、νac\nu_{\mathrm{ac}} は Lebesgue 測度に関して絶対連続、νsc\nu_{\mathrm{sc}} は原子を持たず Lebesgue 零集合に集中する測度(特異連続)です(ルベーグ測度 の Lebesgue 分解と、特異部分から原子を取り除く操作の組み合わせです)。

定義 4.1(純点・絶対連続・特異連続部分空間)↗

自己共役作用素 AA について

Hpp={ψ∈H:μψ は純点測度},Hac={ψ∈H:μψ は Lebesgue 測度に関して絶対連続},Hsc={ψ∈H:μψ は特異連続}\begin{aligned} \mathcal{H}_{\mathrm{pp}}&=\{\psi\in\mathcal{H}:\mu_\psi\text{ は純点測度}\},\\ \mathcal{H}_{\mathrm{ac}}&=\{\psi\in\mathcal{H}:\mu_\psi\text{ は Lebesgue 測度に関して絶対連続}\},\\ \mathcal{H}_{\mathrm{sc}}&=\{\psi\in\mathcal{H}:\mu_\psi\text{ は特異連続}\} \end{aligned}

と定める。また Hc={ψ:μψ は原子を持たない}\mathcal{H}_{\mathrm{c}}=\{\psi:\mu_\psi\text{ は原子を持たない}\} を連続部分空間という。

定理 4.2(スペクトル部分空間への直和分解)✓

AA を自己共役作用素とする。

  1. Hpp\mathcal{H}_{\mathrm{pp}}、Hac\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}、Hsc\mathcal{H}_{\mathrm{sc}} は互いに直交する閉部分空間で、H=Hpp⊕Hac⊕Hsc\mathcal{H}=\mathcal{H}_{\mathrm{pp}}\oplus\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}\oplus\mathcal{H}_{\mathrm{sc}}、Hc=Hac⊕Hsc\mathcal{H}_{\mathrm{c}}=\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}\oplus\mathcal{H}_{\mathrm{sc}} である。
  2. 各部分空間はすべての EA(B)E_A(B) で不変であり、したがって AA を簡約する。すなわち A=App⊕Aac⊕AscA=A_{\mathrm{pp}}\oplus A_{\mathrm{ac}}\oplus A_{\mathrm{sc}}(A∙=A∣D(A)∩H∙A_\bullet=A|_{D(A)\cap\mathcal{H}_\bullet} は H∙\mathcal{H}_\bullet 上の自己共役作用素)と分解する。
  3. Hpp\mathcal{H}_{\mathrm{pp}} は AA の固有ベクトル全体が張る閉部分空間に等しい。
証明(定理 4.2)

部分空間であること. BB が Borel 集合なら μψ+φ(B)=∥EA(B)(ψ+φ)∥2≤2μψ(B)+2μφ(B)\mu_{\psi+\varphi}(B)=\|E_A(B)(\psi+\varphi)\|^2\le2\mu_\psi(B)+2\mu_\varphi(B) です。ψ,φ∈Hac\psi,\varphi\in\mathcal{H}_{\mathrm{ac}} なら Lebesgue 零集合 NN で右辺が 00 なので ψ+φ∈Hac\psi+\varphi\in\mathcal{H}_{\mathrm{ac}} です。ψ,φ∈Hpp\psi,\varphi\in\mathcal{H}_{\mathrm{pp}} なら、両者が集中する可算集合 C1,C2C_1,C_2 について μψ+φ(R∖(C1∪C2))=0\mu_{\psi+\varphi}(\mathbb{R}\setminus(C_1\cup C_2))=0 です。特異連続については、原子がないことは 1 点集合 B={λ}B=\{\lambda\} で、Lebesgue 零集合への集中は零集合の和を取って、同じ不等式から保たれます。スカラー倍は明らかです。

閉であること. μψ(B)1/2=∥EA(B)ψ∥\mu_\psi(B)^{1/2}=\|E_A(B)\psi\| なので ∣μψn(B)1/2−μψ(B)1/2∣≤∥ψn−ψ∥|\mu_{\psi_n}(B)^{1/2}-\mu_\psi(B)^{1/2}|\le\|\psi_n-\psi\| です。ψn∈Hac\psi_n\in\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}、ψn→ψ\psi_n\to\psi なら、零集合 NN で μψ(N)=lim⁡μψn(N)=0\mu_\psi(N)=\lim\mu_{\psi_n}(N)=0 です。Hpp\mathcal{H}_{\mathrm{pp}} なら ψn\psi_n の集中する可算集合の和 CC を取って μψ(R∖C)=0\mu_\psi(\mathbb{R}\setminus C)=0、Hsc\mathcal{H}_{\mathrm{sc}} も同様です。

直交性. ψ∈Hpp\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{pp}}、φ∈Hc\varphi\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}} とし、μψ\mu_\psi が集中する可算集合を CC とします。∥EA(R∖C)ψ∥2=0\|E_A(\mathbb{R}\setminus C)\psi\|^2=0 より EA(C)ψ=ψE_A(C)\psi=\psi、μφ\mu_\varphi は原子を持たないので μφ(C)=0\mu_\varphi(C)=0、すなわち EA(C)φ=0E_A(C)\varphi=0 です。よって ⟨ψ,φ⟩=⟨EA(C)ψ,φ⟩=⟨ψ,EA(C)φ⟩=0\langle\psi,\varphi\rangle=\langle E_A(C)\psi,\varphi\rangle=\langle\psi,E_A(C)\varphi\rangle=0。Hac⊥Hsc\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}\perp\mathcal{H}_{\mathrm{sc}} も、Hsc\mathcal{H}_{\mathrm{sc}} のベクトルが集中する Lebesgue 零集合 NN について同じ議論をすれば得られます。

分解. ψ∈H\psi\in\mathcal{H} を取り、μψ=νpp+νac+νsc\mu_\psi=\nu_{\mathrm{pp}}+\nu_{\mathrm{ac}}+\nu_{\mathrm{sc}} と分解します。互いに素な Borel 集合 SppS_{\mathrm{pp}}(可算、νpp\nu_{\mathrm{pp}} が集中)、SscS_{\mathrm{sc}}(Lebesgue 零、νsc\nu_{\mathrm{sc}} が集中)を取り、Sac=R∖(Spp∪Ssc)S_{\mathrm{ac}}=\mathbb{R}\setminus(S_{\mathrm{pp}}\cup S_{\mathrm{sc}}) と置きます。νac\nu_{\mathrm{ac}} は零集合 Spp∪SscS_{\mathrm{pp}}\cup S_{\mathrm{sc}} に質量を持たず、νsc\nu_{\mathrm{sc}} は原子がないので SppS_{\mathrm{pp}} に質量を持たないことに注意すると、μψ\mu_\psi の S∙S_\bullet への制限は ν∙\nu_\bullet です。§2 の μEA(S)ψ=μψ(⋅∩S)\mu_{E_A(S)\psi}=\mu_\psi(\cdot\cap S) より ψ∙=EA(S∙)ψ\psi_\bullet=E_A(S_\bullet)\psi は H∙\mathcal{H}_\bullet に属し、ψ=ψpp+ψac+ψsc\psi=\psi_{\mathrm{pp}}+\psi_{\mathrm{ac}}+\psi_{\mathrm{sc}} です。Hc\mathcal{H}_{\mathrm{c}} についても同様です。

2. ψ∈H∙\psi\in\mathcal{H}_\bullet なら μEA(B)ψ=μψ(⋅∩B)\mu_{E_A(B)\psi}=\mu_\psi(\cdot\cap B) は μψ\mu_\psi に関して絶対連続なので、同じ型に属します。よって各部分空間は EA(B)E_A(B) で不変で、その直交射影 P∙P_\bullet は EA(B)E_A(B) と可換です。P∙P_\bullet は AA のすべてのスペクトル射影と可換なので P∙A⊂AP∙P_\bullet A\subset AP_\bullet(命題 7.2[スペクトル定理と関数計算] の最後の主張)であり、AA を簡約します。

3. Aψ=λψA\psi=\lambda\psi と μψ\mu_\psi が {λ}\{\lambda\} に集中することは、∥(A−λ)ψ∥2=∫∣t−λ∣2 dμψ(t)\|(A-\lambda)\psi\|^2=\int|t-\lambda|^2\,\mathrm{d}\mu_\psi(t) により同値です。よって固有ベクトルは Hpp\mathcal{H}_{\mathrm{pp}} に属し、閉部分空間なので固有ベクトルの張る閉部分空間も含まれます。逆に ψ∈Hpp\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{pp}} が可算集合 C={c1,c2,…}C=\{c_1,c_2,\ldots\} に集中するなら、強可算加法性で ψ=EA(C)ψ=∑kEA({ck})ψ\psi=E_A(C)\psi=\sum_kE_A(\{c_k\})\psi で、各項は(00 でなければ)固有値 ckc_k の固有ベクトルです。

定義 4.3(純点・絶対連続・特異連続スペクトル)↗

自己共役作用素 AA について、σpp(A)=σ(App)\sigma_{\mathrm{pp}}(A)=\sigma(A_{\mathrm{pp}})、σac(A)=σ(Aac)\sigma_{\mathrm{ac}}(A)=\sigma(A_{\mathrm{ac}})、σsc(A)=σ(Asc)\sigma_{\mathrm{sc}}(A)=\sigma(A_{\mathrm{sc}})、σcont(A)=σ(A∣Hc)\sigma_{\mathrm{cont}}(A)=\sigma(A|_{\mathcal{H}_{\mathrm{c}}}) と定める(部分空間が {0}\{0\} ならそのスペクトルは空集合とする)。

系 4.4(スペクトルの合併表示)✓

σ(A)=σpp(A)∪σac(A)∪σsc(A)\sigma(A)=\sigma_{\mathrm{pp}}(A)\cup\sigma_{\mathrm{ac}}(A)\cup\sigma_{\mathrm{sc}}(A) であり、σpp(A)=σp(A)‾\sigma_{\mathrm{pp}}(A)=\overline{\sigma_{\mathrm{p}}(A)}(固有値全体の閉包)である。

この系の証明の方針は次のとおりです。前半は、直和に分けた作用素のレゾルベント((A−z)−1(A-z)^{-1})が成分ごとに作れることを使います。後半は、固有ベクトルの基底の上で (A−z)−1(A-z)^{-1} を対角的に書き下し、それが zz と固有値の距離が正のときに有界作用素として働くことを確かめます。途中の部分和と閉性の議論は、その無限和が定義域に入ることを示すためのものです。

証明(系 4.4)

A=A1⊕A2A=A_1\oplus A_2(自己共役作用素の直和)なら (A−z)−1=(A1−z)−1⊕(A2−z)−1(A-z)^{-1}=(A_1-z)^{-1}\oplus(A_2-z)^{-1} で、右辺が有界であることと両成分が有界であることは同値です(直和のノルムは成分のノルムの最大値)。よって ρ(A)=ρ(A1)∩ρ(A2)\rho(A)=\rho(A_1)\cap\rho(A_2)、すなわち σ(A)=σ(A1)∪σ(A2)\sigma(A)=\sigma(A_1)\cup\sigma(A_2) です。定理 4.2 の 2 にこれを 2 回使えば第 1 の主張を得ます。後半: AppA_{\mathrm{pp}} は固有ベクトルからなる正規直交基底 {en}n∈J\{e_n\}_{n\in J}(Appen=λnenA_{\mathrm{pp}}e_n=\lambda_ne_n。H\mathcal{H} が可分でなければ添字集合 JJ は非可算でもよい)を持ちます(定理 4.2 の 3)。固有値はスペクトルに属し、スペクトルは閉なので {λn}‾⊂σ(App)\overline{\{\lambda_n\}}\subset\sigma(A_{\mathrm{pp}}) です。逆に zz と {λn}\{\lambda_n\} の距離 dd が正なら、R=∑n∈J(λn−z)−1⟨en,⋅⟩enR=\sum_{n\in J}(\lambda_n-z)^{-1}\langle e_n,\cdot\rangle e_n は ∥R∥≤1/d\|R\|\le1/d の有界作用素です。ψ∈D(App)\psi\in D(A_{\mathrm{pp}}) について、自己共役性から ⟨en,(App−z)ψ⟩=(λn−z)⟨en,ψ⟩\langle e_n,(A_{\mathrm{pp}}-z)\psi\rangle=(\lambda_n-z)\langle e_n,\psi\rangle なので R(App−z)ψ=ψR(A_{\mathrm{pp}}-z)\psi=\psi です。また φ\varphi を固定すると ⟨en,φ⟩≠0\langle e_n,\varphi\rangle\ne0 となる nn は高々可算個なので、それを n1,n2,…n_1,n_2,\ldots と並べると、部分和 RNφ=∑j≤N(λnj−z)−1⟨enj,φ⟩enjR_N\varphi=\sum_{j\le N}(\lambda_{n_j}-z)^{-1}\langle e_{n_j},\varphi\rangle e_{n_j} は D(App)D(A_{\mathrm{pp}}) に属し、(App−z)RNφ=∑j≤N⟨enj,φ⟩enj→φ(A_{\mathrm{pp}}-z)R_N\varphi=\sum_{j\le N}\langle e_{n_j},\varphi\rangle e_{n_j}\to\varphi、RNφ→RφR_N\varphi\to R\varphi なので、AppA_{\mathrm{pp}} が閉であることから Rφ∈D(App)R\varphi\in D(A_{\mathrm{pp}})、(App−z)Rφ=φ(A_{\mathrm{pp}}-z)R\varphi=\varphi です。よって z∈ρ(App)z\in\rho(A_{\mathrm{pp}}) で、σ(App)={λn}‾\sigma(A_{\mathrm{pp}})=\overline{\{\lambda_n\}} です。AA の固有値と AppA_{\mathrm{pp}} の固有値は一致します。

この和集合は一般に互いに素ではありません。たとえば σac=[0,1]\sigma_{\mathrm{ac}}=[0,1] の作用素に [0,1][0,1] 内の固有値を埋め込むことができます。

例 4.5(稠密な点スペクトル:二つの「連続スペクトル」の違い)

{qn}\{q_n\} を [0,1][0,1] の有理数を重複なく並べたものとし、ℓ2(N)\ell^2(\mathbb{N}) 上で Aen=qnenAe_n=q_ne_n と置きます。AA は有界自己共役で、H=Hpp\mathcal{H}=\mathcal{H}_{\mathrm{pp}}、Hc={0}\mathcal{H}_{\mathrm{c}}=\{0\} です。一方 σ(A)=σpp(A)=[0,1]\sigma(A)=\sigma_{\mathrm{pp}}(A)=[0,1] で、無理数 λ∈[0,1]\lambda\in[0,1] は固有値ではないので 定理 3.2 より λ∈σc(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{c}}(A) です。

つまり σc(A)=[0,1]∖Q\sigma_{\mathrm{c}}(A)=[0,1]\setminus\mathbb{Q} は空でないのに、連続部分空間は {0}\{0\} で σcont(A)=∅\sigma_{\mathrm{cont}}(A)=\emptyset です。定義 3.1 の「連続スペクトル」と 定義 4.3 の σcont\sigma_{\mathrm{cont}} は別の概念で、文献によってどちらを「連続スペクトル」と呼ぶかが違うので、読むときに定義を確かめてください。

例 4.6(掛け算作用素とスペクトルの型)

ν\nu を R\mathbb{R} 上の有限ボレル測度とし、L2(R,ν)L^2(\mathbb{R},\nu) 上で (Ag)(λ)=λg(λ)(Ag)(\lambda)=\lambda g(\lambda) とします。μg=∣g∣2ν\mu_g=|g|^2\nu なので、ν=νpp+νac+νsc\nu=\nu_{\mathrm{pp}}+\nu_{\mathrm{ac}}+\nu_{\mathrm{sc}} の 3 成分の台に対応して空間が分かれ、σ∙(A)=supp ν∙\sigma_\bullet(A)=\mathrm{supp}\,\nu_\bullet です。たとえば ν\nu を [0,1][0,1] 上の Lebesgue 測度、δ2\delta_2、[3,4][3,4] に平行移動した Cantor 測度の和とすると、σac=[0,1]\sigma_{\mathrm{ac}}=[0,1]、σpp={2}\sigma_{\mathrm{pp}}=\{2\}、σsc=3+K\sigma_{\mathrm{sc}}=3+K(KK は Cantor 集合)です。

例 4.7(ラプラシアンは純粋に絶対連続)

H=L2(Rd)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R}^d) の −Δ-\Delta(定義域 H2(Rd)H^2(\mathbb{R}^d))は Fourier 変換で ∣k∣2|k|^2 を掛ける作用素になります。μψ(B)=∫{∣k∣2∈B}∣ψ^(k)∣2 dk\mu_\psi(B)=\int_{\{|k|^2\in B\}}|\hat\psi(k)|^2\,\mathrm{d}k で、Lebesgue 零集合 N⊂[0,∞)N\subset[0,\infty) について {k:∣k∣2∈N}\{k:|k|^2\in N\} は(極座標で動径方向が零集合なので)Rd\mathbb{R}^d の零集合です。よって H=Hac\mathcal{H}=\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}、σ(−Δ)=σac(−Δ)=[0,∞)\sigma(-\Delta)=\sigma_{\mathrm{ac}}(-\Delta)=[0,\infty) です。

5. 離散スペクトルと本質スペクトル

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定義 5.1(離散スペクトルと本質スペクトル)↗

自己共役作用素 AA について、λ∈σ(A)\lambda\in\sigma(A) が σ(A)\sigma(A) の孤立点であり、かつ dim⁡Ran EA({λ})<∞\dim\mathrm{Ran}\,E_A(\{\lambda\})\lt\infty であるとき、λ\lambda は離散スペクトル σdisc(A)\sigma_{\mathrm{disc}}(A) に属するという。σess(A)=σ(A)∖σdisc(A)\sigma_{\mathrm{ess}}(A)=\sigma(A)\setminus\sigma_{\mathrm{disc}}(A) を本質スペクトルという。

孤立点 λ\lambda では EA({λ})=EA((λ−ε,λ+ε))≠0E_A(\{\lambda\})=E_A((\lambda-\varepsilon,\lambda+\varepsilon))\neq0(命題 5.6[スペクトル定理と関数計算])なので、離散スペクトルの点は有限多重度の固有値です。

命題 5.2(本質スペクトルのスペクトル射影による特徴づけ)✓

自己共役作用素 AA と λ∈R\lambda\in\mathbb{R} について、λ∈σess(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{ess}}(A) であることと、任意の ε>0\varepsilon\gt0 について dim⁡Ran EA((λ−ε,λ+ε))=∞\dim\mathrm{Ran}\,E_A((\lambda-\varepsilon,\lambda+\varepsilon))=\infty であることは同値である。とくに σess(A)\sigma_{\mathrm{ess}}(A) は閉集合である。

証明(命題 5.2)

ある ε>0\varepsilon\gt0 について J=(λ−ε,λ+ε)J=(\lambda-\varepsilon,\lambda+\varepsilon)、K=Ran EA(J)\mathcal{K}=\mathrm{Ran}\,E_A(J) が有限次元とします。K\mathcal{K} は AA を簡約し、A∣KA|_{\mathcal{K}} は有限次元の自己共役作用素なので固有値 λ1,…,λm∈J\lambda_1,\ldots,\lambda_m\in J と固有ベクトルの正規直交基底を持ちます。EA(J∖{λ1,…,λm})E_A(J\setminus\{\lambda_1,\ldots,\lambda_m\}) の値域は K\mathcal{K} に含まれ、K\mathcal{K} の基底ベクトルに 00 を与えるので 00 です。よって 命題 5.6[スペクトル定理と関数計算] から σ(A)∩J⊂{λ1,…,λm}\sigma(A)\cap J\subset\{\lambda_1,\ldots,\lambda_m\} で、λ\lambda は σ(A)\sigma(A) に属さないか、孤立点で EA({λ})E_A(\{\lambda\}) の値域が K\mathcal{K} に含まれ有限次元です。いずれにせよ λ∉σess(A)\lambda\notin\sigma_{\mathrm{ess}}(A)。

逆に λ∉σess(A)\lambda\notin\sigma_{\mathrm{ess}}(A) とします。λ∉σ(A)\lambda\notin\sigma(A) なら、ある JJ について EA(J)=0E_A(J)=0 です。λ∈σdisc(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{disc}}(A) なら σ(A)∩J={λ}\sigma(A)\cap J=\{\lambda\} となる JJ が取れ、EA(J∖{λ})=0E_A(J\setminus\{\lambda\})=0(EA(R∖σ(A))=0E_A(\mathbb{R}\setminus\sigma(A))=0 による)なので EA(J)=EA({λ})E_A(J)=E_A(\{\lambda\}) は有限階です。

閉集合であること: 補集合の点 λ\lambda で dim⁡Ran EA((λ−ε,λ+ε))<∞\dim\mathrm{Ran}\,E_A((\lambda-\varepsilon,\lambda+\varepsilon))\lt\infty なら、∣μ−λ∣<ε/2|\mu-\lambda|\lt\varepsilon/2 の μ\mu について (μ−ε/2,μ+ε/2)(\mu-\varepsilon/2,\mu+\varepsilon/2) はその区間に含まれ、命題 3.2[スペクトル定理と関数計算] の 1 から射影の値域も含まれるので有限次元です。

定義 5.3(Weyl 列)↗

自己共役作用素 AA と λ∈R\lambda\in\mathbb{R} について、ψn∈D(A)\psi_n\in D(A)、∥ψn∥=1\|\psi_n\|=1、∥(A−λ)ψn∥→0\|(A-\lambda)\psi_n\|\to0 を満たす列を λ\lambda における AA の Weyl 列という。さらに ψn\psi_n が 00 に弱収束するとき、特異 Weyl 列という。

定理 5.4(Weyl の判定法)✓

AA を自己共役作用素、λ∈R\lambda\in\mathbb{R} とする。

  1. λ∈σ(A)\lambda\in\sigma(A) であるための必要十分条件は、λ\lambda における Weyl 列が存在することである。
  2. λ∈σess(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{ess}}(A) であるための必要十分条件は、λ\lambda における特異 Weyl 列が存在することである。さらにこのとき、Weyl 列を正規直交系に取れる。
証明(定理 5.4)

1. 前章 命題 5.6[スペクトル定理と関数計算] の 1 ⇔ 3 そのものです。

2. 必要性: λ∈σess(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{ess}}(A) とし、Jn=(λ−1/n,λ+1/n)J_n=(\lambda-1/n,\lambda+1/n) と置きます。命題 5.2 より各 Ran EA(Jn)\mathrm{Ran}\,E_A(J_n) は無限次元なので、帰納的に ψn∈Ran EA(Jn)\psi_n\in\mathrm{Ran}\,E_A(J_n) を ∥ψn∥=1\|\psi_n\|=1 かつ ψ1,…,ψn−1\psi_1,\ldots,\psi_{n-1} に直交するように取れます(無限次元空間と有限個のベクトルの直交補空間の共通部分は {0}\{0\} でありません)。μψn\mu_{\psi_n} は JnJ_n に集中するので ψn∈D(A)\psi_n\in D(A) で

∥(A−λ)ψn∥2=∫Jn∣t−λ∣2 dμψn(t)≤1n2\|(A-\lambda)\psi_n\|^2=\int_{J_n}|t-\lambda|^2\,\mathrm{d}\mu_{\psi_n}(t)\le\frac{1}{n^2}

です。正規直交系は Bessel の不等式 ∑n∣⟨φ,ψn⟩∣2≤∥φ∥2\sum_n|\langle\varphi,\psi_n\rangle|^2\le\|\varphi\|^2 により 00 に弱収束します。

十分性: 特異 Weyl 列 ψn\psi_n があるのに λ∉σess(A)\lambda\notin\sigma_{\mathrm{ess}}(A) だとします。1 により λ∈σ(A)\lambda\in\sigma(A) なので λ∈σdisc(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{disc}}(A) で、P=EA({λ})P=E_A(\{\lambda\}) は有限階、ある ε>0\varepsilon\gt0 について EA(J∖{λ})=0E_A(J\setminus\{\lambda\})=0(J=(λ−ε,λ+ε)J=(\lambda-\varepsilon,\lambda+\varepsilon))です。PP の値域の正規直交基底 e1,…,eme_1,\ldots,e_m について Pψn=∑j⟨ej,ψn⟩ejP\psi_n=\sum_j\langle e_j,\psi_n\rangle e_j で、弱収束から ∥Pψn∥→0\|P\psi_n\|\to0 です。一方 1−P=EA(R∖J)1-P=E_A(\mathbb{R}\setminus J) なので

∥(A−λ)ψn∥2≥∫R∖J∣t−λ∣2 dμψn(t)≥ε2∥(1−P)ψn∥2\|(A-\lambda)\psi_n\|^2\ge\int_{\mathbb{R}\setminus J}|t-\lambda|^2\,\mathrm{d}\mu_{\psi_n}(t)\ge\varepsilon^2\|(1-P)\psi_n\|^2

で、左辺が 00 に収束するので ∥(1−P)ψn∥→0\|(1-P)\psi_n\|\to0 です。合わせて ∥ψn∥→0\|\psi_n\|\to0 となり、∥ψn∥=1\|\psi_n\|=1 に矛盾します。

Weyl の判定法の価値は、スペクトル射影を計算せずに、具体的な試験関数を作るだけで本質スペクトルの点を検出できることにあります。

ここまでに 3 通りの分類が出てきたので、関係を表にまとめておきます。どの分類も自己共役作用素 AA のスペクトル σ(A)\sigma(A) を覆いますが、切り口が違うので互いに独立です。

分類何で決まるか摂動に対する性質
点・連続(・剰余)A−λA-\lambda の単射性と値域固有値は階数 1 の摂動でも動く
純点・絶対連続・特異連続スペクトル測度 μψ\mu_\psi の測度論的な型絶対連続部分はトレースクラス摂動で保たれるが、コンパクト摂動では保たれない
離散・本質スペクトル部分空間の次元と孤立性本質スペクトルは相対コンパクト摂動で保たれる

たとえば固有値でも、無限多重度なら本質スペクトルに属します。逆に本質スペクトルの点が固有値でないとは限らず、例 4.5 のように本質スペクトル [0,1][0,1] が稠密な固有値で埋め尽くされることもあります。量子力学で重要なのは「孤立した有限多重度の固有値(安定な束縛状態)」と「本質スペクトル(粒子が無限遠に行ける閾値以上のエネルギー)」の区別で、その境界の位置は次節の Weyl の定理で摂動に対して安定です。

例 5.5(ラプラシアンの Weyl 列)

χ∈Cc∞(Rd)\chi\in C_c^\infty(\mathbb{R}^d)、∥χ∥=1\|\chi\|=1 を固定し、λ≥0\lambda\ge0、∣k∣2=λ|k|^2=\lambda として

ψn(x)=n−d/2χ(x/n)eik⋅x\psi_n(x)=n^{-d/2}\chi(x/n)e^{ik\cdot x}

と置きます。変数変換で ∥ψn∥=∥χ∥=1\|\psi_n\|=\|\chi\|=1 です。微分を計算すると

(−Δ−λ)ψn(x)=n−d/2eik⋅x(−n−2(Δχ)(x/n)−2in−1k⋅(∇χ)(x/n))(-\Delta-\lambda)\psi_n(x)=n^{-d/2}e^{ik\cdot x}\Bigl(-n^{-2}(\Delta\chi)(x/n)-2in^{-1}k\cdot(\nabla\chi)(x/n)\Bigr)

なので ∥(−Δ−λ)ψn∥≤n−2∥Δχ∥+2∣k∣n−1∥∇χ∥→0\|(-\Delta-\lambda)\psi_n\|\le n^{-2}\|\Delta\chi\|+2|k|n^{-1}\|\nabla\chi\|\to0 です。また φ∈Cc(Rd)\varphi\in C_c(\mathbb{R}^d) について ∣⟨φ,ψn⟩∣≤n−d/2∥χ∥∞∥φ∥L1→0|\langle\varphi,\psi_n\rangle|\le n^{-d/2}\|\chi\|_\infty\|\varphi\|_{L^1}\to0 で、CcC_c の稠密性と ∥ψn∥=1\|\psi_n\|=1 から ψn⇀0\psi_n\rightharpoonup0 です。よって [0,∞)⊂σess(−Δ)[0,\infty)\subset\sigma_{\mathrm{ess}}(-\Delta) で、例 4.7 と合わせて σess(−Δ)=[0,∞)\sigma_{\mathrm{ess}}(-\Delta)=[0,\infty) です。波束を広げていくと運動量 kk の平面波に近づく、という物理的な描像がそのまま証明になっています。

6. Weyl の定理:本質スペクトルの摂動に対する安定性

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この節の主張は、「AA に AA-コンパクトな対称項 VV を足しても(和が自己共役なら)、本質スペクトルは動かない」というものです。水素原子では、クーロン力は遠方で弱くなるので、自由な電子(−Δ-\Delta)と本質スペクトルが同じ [0,∞)[0,\infty) になります。証明の道具は、Weyl の判定法の特異 Weyl 列と、コンパクト作用素が弱収束をノルム収束に変える性質(次の補題)の 2 つです。

補題 6.1(コンパクト作用素は弱収束を強収束に変える)✓

KK を H\mathcal{H} 上のコンパクト作用素とする。ψn⇀ψ\psi_n\rightharpoonup\psi(弱収束)ならば ∥Kψn−Kψ∥→0\|K\psi_n-K\psi\|\to0 である。

証明(補題 6.1)

弱収束列は一様有界性原理により有界です。KK は有界なので ⟨φ,Kψn⟩=⟨K∗φ,ψn⟩→⟨φ,Kψ⟩\langle\varphi,K\psi_n\rangle=\langle K^*\varphi,\psi_n\rangle\to\langle\varphi,K\psi\rangle、すなわち Kψn⇀KψK\psi_n\rightharpoonup K\psi です。結論が成り立たないとすると、部分列と δ>0\delta\gt0 で ∥Kψnj−Kψ∥≥δ\|K\psi_{n_j}-K\psi\|\ge\delta となります。KK のコンパクト性から、さらに部分列を取って KψnjK\psi_{n_j} がある η\eta にノルム収束するとしてよく、弱極限の一意性から η=Kψ\eta=K\psi です。これは ∥Kψnj−Kψ∥≥δ\|K\psi_{n_j}-K\psi\|\ge\delta に矛盾します。

定義 6.2(相対コンパクト)↗

AA を自己共役作用素とする。作用素 VV が AA-コンパクト(AA に関して相対コンパクト)であるとは、D(A)⊂D(V)D(A)\subset D(V) かつある z∈ρ(A)z\in\rho(A) について V(A−z)−1V(A-z)^{-1} がコンパクトであることをいう。

この条件は zz の選び方によりません。レゾルベント方程式 (A−w)−1=(A−z)−1+(w−z)(A−z)−1(A−w)−1(A-w)^{-1}=(A-z)^{-1}+(w-z)(A-z)^{-1}(A-w)^{-1} から V(A−w)−1=V(A−z)−1(1+(w−z)(A−w)−1)V(A-w)^{-1}=V(A-z)^{-1}\bigl(1+(w-z)(A-w)^{-1}\bigr) で、コンパクト作用素と有界作用素の積はコンパクトだからです。有界な VV がコンパクトなら、V(A−z)−1V(A-z)^{-1} はコンパクトなので AA-コンパクトです。

定理 6.3(Weyl の定理)✓

AA を自己共役作用素、VV を D(A)⊂D(V)D(A)\subset D(V) を満たす対称作用素とし、VV は AA-コンパクトで、A+VA+V(定義域 D(A)D(A))は自己共役であるとする。このとき

σess(A+V)=σess(A)\sigma_{\mathrm{ess}}(A+V)=\sigma_{\mathrm{ess}}(A)

である。とくに VV がコンパクトな自己共役作用素なら、σess(A+V)=σess(A)\sigma_{\mathrm{ess}}(A+V)=\sigma_{\mathrm{ess}}(A) が成り立つ。

証明は 2 つの包含に分かれます。前半は特異 Weyl 列がそのまま A+VA+V の特異 Weyl 列にもなることを見るだけです。後半は、AA を A+VA+V に −V-V を足したものと見て前半と同じ議論を使うので、−V-V が A+VA+V に関して相対コンパクトであることを確かめる必要があります。そのために (A−i)(B−i)−1(A-i)(B-i)^{-1} という作用素を持ち出して、V(B−i)−1V(B-i)^{-1} を V(A−i)−1V(A-i)^{-1} との積に書き換えます。

証明(定理 6.3)

σess(A)⊂σess(A+V)\sigma_{\mathrm{ess}}(A)\subset\sigma_{\mathrm{ess}}(A+V). λ∈σess(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{ess}}(A) とし、定理 5.4 の 2 により特異 Weyl 列 ψn\psi_n を取ります。φn=(A−i)ψn=(A−λ)ψn+(λ−i)ψn\varphi_n=(A-i)\psi_n=(A-\lambda)\psi_n+(\lambda-i)\psi_n は、第 1 項がノルムで 00 に、第 2 項が弱く 00 に収束するので、φn⇀0\varphi_n\rightharpoonup0 です。V(A−i)−1V(A-i)^{-1} はコンパクトなので(定義 6.2 の直後の注意)、補題 6.1 から

∥Vψn∥=∥V(A−i)−1φn∥→0\|V\psi_n\|=\|V(A-i)^{-1}\varphi_n\|\to0

です。よって ∥(A+V−λ)ψn∥≤∥(A−λ)ψn∥+∥Vψn∥→0\|(A+V-\lambda)\psi_n\|\le\|(A-\lambda)\psi_n\|+\|V\psi_n\|\to0 で、ψn\psi_n は A+VA+V の特異 Weyl 列です。定理 5.4 の 2 より λ∈σess(A+V)\lambda\in\sigma_{\mathrm{ess}}(A+V)。

逆の包含. B=A+VB=A+V と置くと A=B+(−V)A=B+(-V) で、−V-V は対称、D(B)=D(A)⊂D(V)D(B)=D(A)\subset D(V) です。−V-V が BB-コンパクトであることを示せば、上の議論を BB と −V-V に適用して σess(B)⊂σess(A)\sigma_{\mathrm{ess}}(B)\subset\sigma_{\mathrm{ess}}(A) が得られます。

C=(A−i)(B−i)−1C=(A-i)(B-i)^{-1} を考えます。(B−i)−1(B-i)^{-1} の値域は D(B)=D(A)D(B)=D(A) なので CC は H\mathcal{H} 全体で定義されています。CC は閉です。実際 φn→φ\varphi_n\to\varphi、Cφn→ηC\varphi_n\to\eta なら (B−i)−1φn→(B−i)−1φ(B-i)^{-1}\varphi_n\to(B-i)^{-1}\varphi で、A−iA-i が閉なので (A−i)(B−i)−1φ=η(A-i)(B-i)^{-1}\varphi=\eta です。閉グラフ定理から CC は有界です。よって

V(B−i)−1=V(A−i)−1⋅(A−i)(B−i)−1=V(A−i)−1CV(B-i)^{-1}=V(A-i)^{-1}\cdot(A-i)(B-i)^{-1}=V(A-i)^{-1}C

はコンパクト作用素と有界作用素の積でコンパクトです。

最後の主張: VV が有界な自己共役作用素なら A+VA+V は D(A)D(A) 上で自己共役です((A+V)∗=A∗+V∗(A+V)^*=A^*+V^* は有界な VV について成り立ちます)。コンパクトなら AA-コンパクトなので、前半を適用できます。

注意 6.4(自己共役性の仮定について)

VV が対称かつ AA-コンパクトなら、VV は AA-有界で相対限界 00 を持つことが示せ、Kato–Rellich の定理から A+VA+V は自己共役になります。したがって定理の自己共役性の仮定は実際には自動的に満たされます。この部分は 自己共役性の判定 で扱うので、ここでは仮定として置きました。証明は Reed–Simon 第 IV 巻の第 XIII 章 4 節にあります。

例 6.5(減衰するポテンシャルを持つシュレーディンガー作用素)

H=L2(R3)\mathcal{H}=L^2(\mathbb{R}^3) で、実数値関数 V=V1+V2V=V_1+V_2、V1∈L2(R3)V_1\in L^2(\mathbb{R}^3)、V2∈L∞(R3)V_2\in L^\infty(\mathbb{R}^3) かつ ∣x∣→∞|x|\to\infty で V2(x)→0V_2(x)\to0 とします。

V1(−Δ+1)−1V_1(-\Delta+1)^{-1} は積分核 V1(x)G(x−y)V_1(x)G(x-y)、G(x)=e−∣x∣/(4π∣x∣)G(x)=e^{-|x|}/(4\pi|x|) を持ちます。G∈L2(R3)G\in L^2(\mathbb{R}^3)(原点付近の ∣x∣−2|x|^{-2} は 3 次元で可積分)なので、核の L2(R3×R3)L^2(\mathbb{R}^3\times\mathbb{R}^3) ノルムは ∥V1∥∥G∥\|V_1\|\|G\| で有限、すなわち Hilbert–Schmidt 作用素でコンパクトです。V2V_2 については V21{∣x∣≤R}∈L2V_2\mathbf{1}_{\{|x|\le R\}}\in L^2 なので同じ理由で V21{∣x∣≤R}(−Δ+1)−1V_2\mathbf{1}_{\{|x|\le R\}}(-\Delta+1)^{-1} はコンパクトで、これは R→∞R\to\infty で V2(−Δ+1)−1V_2(-\Delta+1)^{-1} にノルム収束します(差のノルムは sup⁡∣x∣>R∣V2∣\sup_{|x|\gt R}|V_2| 以下)。コンパクト作用素のノルム極限はコンパクトなので、VV は (−Δ)(-\Delta)-コンパクトです。

−Δ+V-\Delta+V が H2(R3)H^2(\mathbb{R}^3) 上で自己共役であることは Kato–Rellich の定理から従います(注意 6.4)。定理 6.3 と 例 5.5 から σess(−Δ+V)=[0,∞)\sigma_{\mathrm{ess}}(-\Delta+V)=[0,\infty) で、負のスペクトルは有限多重度の孤立固有値だけからなり、集積するとすれば 00 にだけです。クーロンポテンシャル −1/∣x∣=−1{∣x∣≤1}/∣x∣−1{∣x∣>1}/∣x∣-1/|x|=-\mathbf{1}_{\{|x|\le1\}}/|x|-\mathbf{1}_{\{|x|\gt1\}}/|x| はこの形なので、水素原子の本質スペクトルは [0,∞)[0,\infty) です。

例 6.6(仮定を外すと壊れること)

(a) コンパクトでない摂動. V=cV=c(定数 c>0c\gt0)は有界ですがコンパクトではなく、σess(−Δ+c)=[c,∞)\sigma_{\mathrm{ess}}(-\Delta+c)=[c,\infty) と本質スペクトルがずれます。無限階の射影 QQ で余次元も無限のものを取ると、σess(0)={0}\sigma_{\mathrm{ess}}(0)=\{0\} に対して σess(0+Q)={0,1}\sigma_{\mathrm{ess}}(0+Q)=\{0,1\} です。

(b) 離散スペクトルは安定でない. H=C⊕K\mathcal{H}=\mathbb{C}\oplus\mathcal{K}、A=0⊕A′A=0\oplus A' とすると、階数 1 の摂動 V=1⊕0V=1\oplus0 で固有値 00 が 11 に動きます。コンパクト摂動で保たれるのは本質スペクトルだけで、離散スペクトルは自由に動いたり生まれたり消えたりします。

(c) 絶対連続スペクトルはコンパクト摂動で保たれない. Weyl–von Neumann の定理により、可分な Hilbert 空間上の任意の自己共役作用素 AA と任意の ε>0\varepsilon\gt0 に対して、Hilbert–Schmidt ノルムが ε\varepsilon 未満の自己共役作用素 KK が存在し、A+KA+K は純点スペクトルを持ちます(Kato 第 X 章)。たとえば −Δ-\Delta の絶対連続スペクトルは、任意に小さいコンパクト摂動で「固有値の稠密な集まり」に変わり得ます。σess\sigma_{\mathrm{ess}} は集合としては保たれますが、スペクトルの型は保たれません。型を保つにはトレースクラス摂動が必要です(Kato–Rosenblum の定理、作用素の収束と摂動 の範囲です)。

自己共役作用素 HH をハミルトニアンとし、時間発展を e−itHe^{-itH} とします。

命題 7.1(絶対連続部分の相関の減衰)✓

ψ∈Hac(H)\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}(H) ならば、任意の φ∈H\varphi\in\mathcal{H} について ⟨φ,e−itHψ⟩→0\langle\varphi,e^{-itH}\psi\rangle\to0(∣t∣→∞|t|\to\infty)である。一方 ψ\psi が固有値 EE の固有ベクトルなら ∣⟨ψ,e−itHψ⟩∣=∥ψ∥2|\langle\psi,e^{-itH}\psi\rangle|=\|\psi\|^2 はすべての tt で一定である。

証明(命題 7.1)

前章の関数計算から ⟨φ,e−itHψ⟩=∫e−itλ dμφ,ψ(λ)\langle\varphi,e^{-itH}\psi\rangle=\int e^{-it\lambda}\,\mathrm{d}\mu_{\varphi,\psi}(\lambda) です。命題 3.2[スペクトル定理と関数計算] の 3 の評価 ∣μφ,ψ∣(B)≤μφ(B)1/2μψ(B)1/2|\mu_{\varphi,\psi}|(B)\le\mu_\varphi(B)^{1/2}\mu_\psi(B)^{1/2} から、Lebesgue 零集合 BB では μψ(B)=0\mu_\psi(B)=0 なので ∣μφ,ψ∣(B)=0|\mu_{\varphi,\psi}|(B)=0、すなわち μφ,ψ\mu_{\varphi,\psi} は絶対連続で、密度 ρ∈L1(R)\rho\in L^1(\mathbb{R}) を持ちます。Riemann–Lebesgue の補題により ∫e−itλρ(λ) dλ→0\int e^{-it\lambda}\rho(\lambda)\,\mathrm{d}\lambda\to0 です。固有ベクトルなら e−itHψ=e−itEψe^{-itH}\psi=e^{-itE}\psi です(定理 6.2[スペクトル定理と関数計算] で μψ=∥ψ∥2δE\mu_\psi=\|\psi\|^2\delta_E)。

例 7.2(特異連続部分では相関が減衰しないことがある)

例 4.6 の掛け算作用素で、ν\nu を [0,1][0,1] 上の Cantor 測度(3 進展開の各桁が 00 か 22 を確率 1/21/2 で取る確率変数の分布)とし、ψ=1\psi=1 とします。⟨ψ,e−itAψ⟩=ν^(t):=∫e−itλ dν\langle\psi,e^{-itA}\psi\rangle=\hat\nu(t):=\int e^{-it\lambda}\,\mathrm{d}\nu で、各桁の独立性から

ν^(t)=∏k=1∞1+e−2it/3k2=e−it/2∏k=1∞cos⁡t3k\hat\nu(t)=\prod_{k=1}^\infty\frac{1+e^{-2it/3^k}}{2}=e^{-it/2}\prod_{k=1}^\infty\cos\frac{t}{3^k}

です。tm=3mπt_m=3^m\pi では k≤mk\le m の因子が cos⁡(3m−kπ)=−1\cos(3^{m-k}\pi)=-1 なので ∣ν^(tm)∣=∏j=1∞cos⁡(π/3j)=:c|\hat\nu(t_m)|=\prod_{j=1}^\infty\cos(\pi/3^j)=:c で、各因子が正で ∑j(1−cos⁡(π/3j))<∞\sum_j(1-\cos(\pi/3^j))\lt\infty なので c>0c\gt0 です。よって ν^(t)\hat\nu(t) は t→∞t\to\infty で 00 に収束しません。命題 7.1 を Hc\mathcal{H}_{\mathrm{c}} に拡げることはできず、連続部分について言えるのは次の時間平均の主張です。

定理 7.3(RAGE の定理)✓

HH を自己共役作用素、{FR}R>0\{F_R\}_{R\gt0} を有界作用素の族で 0≤FR≤10\le F_R\le1、R→∞R\to\infty で FR→1F_R\to1 が強収束し、各 RR について FR(H+i)−1F_R(H+i)^{-1} がコンパクトであるものとする(典型例は L2(Rd)L^2(\mathbb{R}^d) で FR=1{∣x∣≤R}F_R=\mathbf{1}_{\{|x|\le R\}}、H=−Δ+VH=-\Delta+V)。このとき

Hpp(H)={ψ:lim⁡R→∞sup⁡t∈R∥(1−FR)e−itHψ∥=0},Hc(H)={ψ:lim⁡T→∞1T∫0T∥FRe−itHψ∥2 dt=0 がすべての R で成り立つ}\begin{aligned} \mathcal{H}_{\mathrm{pp}}(H)&=\Bigl\{\psi:\lim_{R\to\infty}\sup_{t\in\mathbb{R}}\|(1-F_R)e^{-itH}\psi\|=0\Bigr\},\\ \mathcal{H}_{\mathrm{c}}(H)&=\Bigl\{\psi:\lim_{T\to\infty}\frac1T\int_0^T\|F_Re^{-itH}\psi\|^2\,\mathrm{d}t=0\ \text{がすべての }R\text{ で成り立つ}\Bigr\} \end{aligned}

が成り立つ。

この定理は、束縛状態は時間が経っても有界領域にほとんど残り、散乱状態は時間平均では有界領域にいなくなる、ということをスペクトルの型で言い切るものです。証明の方針は、まず連続部分のベクトルについて、時間平均を Wiener の定理(原子を持たない測度では平均が 00 になる)で 00 に落とし(ステップ 1)、それを有限階作用素、次にコンパクト作用素へ広げ(ステップ 2、3)、純点部分は固有ベクトルの和で直接調べます(ステップ 4)。最後に、2 つの集合が一致することを、空間の直交分解を使って確かめます(ステップ 5)。

証明(定理 7.3)

⟨f(t)⟩T=1T∫0Tf(t) dt\langle f(t)\rangle_T=\frac1T\int_0^Tf(t)\,\mathrm{d}t と書きます。0≤1−FR≤10\le1-F_R\le1 なので 定理 6.10[有界作用素と共役作用素] から ∥FR∥≤1\|F_R\|\le1、∥1−FR∥≤1\|1-F_R\|\le1 です。右辺の二つの集合をそれぞれ MppM_{\mathrm{pp}}、McM_{\mathrm{c}} と書きます。

ステップ 1(Wiener 型の平均)。 ψ∈Hc\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}}、φ∈H\varphi\in\mathcal{H} なら ⟨∣⟨φ,e−itHψ⟩∣2⟩T→0\langle|\langle\varphi,e^{-itH}\psi\rangle|^2\rangle_T\to0 です。実際 μ=μφ,ψ\mu=\mu_{\varphi,\psi} とおくと ⟨φ,e−itHψ⟩=∫e−itλ dμ(λ)\langle\varphi,e^{-itH}\psi\rangle=\int e^{-it\lambda}\,\mathrm{d}\mu(\lambda) で、Fubini の定理(∣μ∣⊗∣μ∣|\mu|\otimes|\mu| は有限測度、被積分関数は有界)から

⟨∣⟨φ,e−itHψ⟩∣2⟩T=∬kT(λ−λ′) dμ(λ) dμˉ(λ′),kT(u)=1T∫0Te−itu dt.\bigl\langle|\langle\varphi,e^{-itH}\psi\rangle|^2\bigr\rangle_T=\iint k_T(\lambda-\lambda')\,\mathrm{d}\mu(\lambda)\,\mathrm{d}\bar\mu(\lambda'),\qquad k_T(u)=\frac1T\int_0^Te^{-itu}\,\mathrm{d}t .

∣kT∣≤1|k_T|\le1 で、T→∞T\to\infty のとき kT(u)→1{u=0}k_T(u)\to\mathbf 1_{\{u=0\}} なので、優収束定理により右辺は (μ⊗μˉ)({λ=λ′})(\mu\otimes\bar\mu)(\{\lambda=\lambda'\}) に収束し、その絶対値は ∫∣μ∣({λ′}) d∣μ∣(λ′)\int|\mu|(\{\lambda'\})\,\mathrm{d}|\mu|(\lambda') 以下です。命題 3.2[スペクトル定理と関数計算] の 3 から ∣μ∣({λ})≤μφ({λ})1/2μψ({λ})1/2=0|\mu|(\{\lambda\})\le\mu_\varphi(\{\lambda\})^{1/2}\mu_\psi(\{\lambda\})^{1/2}=0 なので極限は 00 です(正の測度に対する同じ計算が 命題 8.1[ℝⁿ 上のフーリエ変換] です)。

ステップ 2(コンパクト作用素)。 ψ∈Hc\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}}、CC がコンパクトなら ⟨∥Ce−itHψ∥2⟩T→0\langle\|Ce^{-itH}\psi\|^2\rangle_T\to0 です。C=∑k=1m⟨φk,⋅⟩ηkC=\sum_{k=1}^m\langle\varphi_k,\cdot\rangle\eta_k が有限ランクなら ∥Ce−itHψ∥2≤m∑k∥ηk∥2∣⟨φk,e−itHψ⟩∣2\|Ce^{-itH}\psi\|^2\le m\sum_k\|\eta_k\|^2|\langle\varphi_k,e^{-itH}\psi\rangle|^2 でステップ 1 から従います。一般の CC は、ε>0\varepsilon>0 に対し ∥C−F∥<ε\|C-F\|<\varepsilon となる有限ランク FF(定理 3.4[コンパクト作用素・Hilbert–Schmidt 作用素・トレースクラス])を取ると ∥Ce−itHψ∥2≤2∥Fe−itHψ∥2+2ε2∥ψ∥2\|Ce^{-itH}\psi\|^2\le2\|Fe^{-itH}\psi\|^2+2\varepsilon^2\|\psi\|^2 なので、lim sup⁡T⟨∥Ce−itHψ∥2⟩T≤2ε2∥ψ∥2\limsup_T\langle\|Ce^{-itH}\psi\|^2\rangle_T\le2\varepsilon^2\|\psi\|^2 です。

ステップ 3(Hc⊂Mc\mathcal{H}_{\mathrm{c}}\subset M_{\mathrm{c}})。 ψ∈Hc∩D(H)\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}}\cap D(H) なら χ=(H+i)ψ\chi=(H+i)\psi について μχ=∣λ+i∣2μψ\mu_\chi=|\lambda+i|^2\mu_\psi は原子をもたないので χ∈Hc\chi\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}} で、FRe−itHψ=FR(H+i)−1e−itHχF_Re^{-itH}\psi=F_R(H+i)^{-1}e^{-itH}\chi です。FR(H+i)−1F_R(H+i)^{-1} はコンパクトなのでステップ 2 から ⟨∥FRe−itHψ∥2⟩T→0\langle\|F_Re^{-itH}\psi\|^2\rangle_T\to0。一般の ψ∈Hc\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}} は ψm=EH([−m,m])ψ∈Hc∩D(H)\psi_m=E_H([-m,m])\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}}\cap D(H) で近似し(定理 4.2 の 2)、∥FRe−itHψ∥2≤2∥FRe−itHψm∥2+2∥ψ−ψm∥2\|F_Re^{-itH}\psi\|^2\le2\|F_Re^{-itH}\psi_m\|^2+2\|\psi-\psi_m\|^2 を使います。

ステップ 4(Hpp⊂Mpp\mathcal{H}_{\mathrm{pp}}\subset M_{\mathrm{pp}})。 ψ∈Hpp\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{pp}} は固有ベクトルの和 ψ=∑kψk\psi=\sum_k\psi_k(Hψk=EkψkH\psi_k=E_k\psi_k)に展開できます(定理 4.2 の 3 の証明)。ε>0\varepsilon>0 に対し ∥ψ−∑k≤Nψk∥<ε\|\psi-\sum_{k\le N}\psi_k\|<\varepsilon と取ると、e−itHψk=e−itEkψke^{-itH}\psi_k=e^{-itE_k}\psi_k から

sup⁡t∥(1−FR)e−itHψ∥≤∑k≤N∥(1−FR)ψk∥+ε→R→∞ε.\sup_t\|(1-F_R)e^{-itH}\psi\|\le\sum_{k\le N}\|(1-F_R)\psi_k\|+\varepsilon\xrightarrow{R\to\infty}\varepsilon .

ステップ 5(逆の包含)。 MppM_{\mathrm{pp}}、McM_{\mathrm{c}} は線形部分空間です(ノルムの三角不等式と ∥a+b∥2≤2∥a∥2+2∥b∥2\|a+b\|^2\le2\|a\|^2+2\|b\|^2)。ψ∈Mc\psi\in M_{\mathrm{c}} とし、ψ=ψpp+ψc\psi=\psi_{\mathrm{pp}}+\psi_{\mathrm{c}} と分解します(定理 4.2)。ステップ 3 から ψpp=ψ−ψc∈Mc\psi_{\mathrm{pp}}=\psi-\psi_{\mathrm{c}}\in M_{\mathrm{c}}、ステップ 4 から ψpp∈Mpp\psi_{\mathrm{pp}}\in M_{\mathrm{pp}} です。ψpp≠0\psi_{\mathrm{pp}}\ne0 とすると、RR を sup⁡t∥(1−FR)e−itHψpp∥≤∥ψpp∥/2\sup_t\|(1-F_R)e^{-itH}\psi_{\mathrm{pp}}\|\le\|\psi_{\mathrm{pp}}\|/2 と取れて、∥FRe−itHψpp∥≥∥e−itHψpp∥−∥ψpp∥/2=∥ψpp∥/2\|F_Re^{-itH}\psi_{\mathrm{pp}}\|\ge\|e^{-itH}\psi_{\mathrm{pp}}\|-\|\psi_{\mathrm{pp}}\|/2=\|\psi_{\mathrm{pp}}\|/2 が全 tt で成り立ち、時間平均が 00 に収束しません。よって ψ=ψc∈Hc\psi=\psi_{\mathrm{c}}\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}}。同様に ψ∈Mpp\psi\in M_{\mathrm{pp}} なら ψc=ψ−ψpp∈Mpp∩Mc\psi_{\mathrm{c}}=\psi-\psi_{\mathrm{pp}}\in M_{\mathrm{pp}}\cap M_{\mathrm{c}} で、同じ議論から ψc=0\psi_{\mathrm{c}}=0、すなわち ψ∈Hpp\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{pp}} です。

注意 7.4(RAGE の定理の証明の筋道)

Ruelle、Amrein–Georgescu、Enss による定理で、Teschl 第 5 章、Cycon–Froese–Kirsch–Simon 第 5 章にも証明があります。上の証明の筋道をまとめると次のとおりです。(i) 核となるのは Wiener の定理 lim⁡T→∞1T∫0T∣μ^(t)∣2 dt=∑λ∣μ({λ})∣2\lim_{T\to\infty}\frac1T\int_0^T|\hat\mu(t)|^2\,\mathrm{d}t=\sum_\lambda|\mu(\{\lambda\})|^2 で、これを μφ,ψ\mu_{\varphi,\psi} に適用すると、ψ∈Hc\psi\in\mathcal{H}_{\mathrm{c}} なら階数 1 の作用素 C=⟨φ,⋅⟩ηC=\langle\varphi,\cdot\rangle\eta について ∥Ce−itHψ∥2\|Ce^{-itH}\psi\|^2 の時間平均が 00 になります。(ii) 有限階作用素へ、次にノルム近似でコンパクト作用素 CC へ拡げます。(iii) ψ∈D(H)\psi\in D(H) について FRe−itHψ=FR(H+i)−1e−itH(H+i)ψF_Re^{-itH}\psi=F_R(H+i)^{-1}e^{-itH}(H+i)\psi と書いてコンパクト作用素の場合に帰着し、稠密性で一般の ψ\psi に拡げます。(iv) Hpp\mathcal{H}_{\mathrm{pp}} 側は、固有ベクトルの有限一次結合 ψ\psi では e−itHψe^{-itH}\psi が有限次元空間の中を動くので FR→1F_R\to1 が tt について一様になることと、近似によります。

物理的には、純点部分のベクトル(束縛状態)は時間発展しても確率のほとんどが有界領域に残り、連続部分のベクトル(散乱状態)はどの有界領域に見いだされる確率も時間平均で 00 になる、ということです。例 7.2 が示すように、特異連続部分では瞬間ごとの確率は戻ってくることがありますが、平均すれば領域から出ていきます。

演習 8.1標準

ℓ2(N)\ell^2(\mathbb{N}) の後退シフト S∗(x1,x2,x3,…)=(x2,x3,…)S^*(x_1,x_2,x_3,\ldots)=(x_2,x_3,\ldots) について、σp(S∗)\sigma_{\mathrm{p}}(S^*)、σc(S∗)\sigma_{\mathrm{c}}(S^*)、σr(S∗)\sigma_{\mathrm{r}}(S^*) を求めよ。

解答

∥S∗∥=1\|S^*\|=1 なので ∣z∣>1|z|\gt1 は ρ(S∗)\rho(S^*) に属します(Neumann 級数)。∣z∣<1|z|\lt1 なら x=(1,z,z2,…)∈ℓ2x=(1,z,z^2,\ldots)\in\ell^2 が S∗x=zxS^*x=zx を満たすので σp(S∗)⊃{∣z∣<1}\sigma_{\mathrm{p}}(S^*)\supset\{|z|\lt1\} です。∣z∣≥1|z|\ge1 なら S∗x=zxS^*x=zx の解は xn=zn−1x1x_n=z^{n-1}x_1 で、ℓ2\ell^2 に入るのは x1=0x_1=0 のときだけなので固有値ではありません。∣z∣=1|z|=1 のとき、Ran(S∗−z)⊥=Ker(S−zˉ)\mathrm{Ran}(S^*-z)^\perp=\mathrm{Ker}(S-\bar z) で、前進シフト SS は Sx=zˉxSx=\bar zx から zˉx1=0\bar zx_1=0、xn=zˉxn+1x_{n}=\bar zx_{n+1} が出て x=0x=0 となるので、値域は稠密です。スペクトルは閉集合で開円板を含むので単位円も含み、σc(S∗)={∣z∣=1}\sigma_{\mathrm{c}}(S^*)=\{|z|=1\}、σp(S∗)={∣z∣<1}\sigma_{\mathrm{p}}(S^*)=\{|z|\lt1\}、σr(S∗)=∅\sigma_{\mathrm{r}}(S^*)=\emptyset です。(前進シフト SS では逆に σr(S)={∣z∣<1}\sigma_{\mathrm{r}}(S)=\{|z|\lt1\} となります。)

演習 8.2易

L2(R)L^2(\mathbb{R}) 上の掛け算作用素 (Ag)(x)=xg(x)(Ag)(x)=xg(x) について、λ∈R\lambda\in\mathbb{R} と ψn=n 1[λ,λ+1/n]\psi_n=\sqrt n\,\mathbf{1}_{[\lambda,\lambda+1/n]} が特異 Weyl 列であることを確かめ、σess(A)=R\sigma_{\mathrm{ess}}(A)=\mathbb{R} を示せ。

解答

∥ψn∥2=n⋅1n=1\|\psi_n\|^2=n\cdot\frac1n=1、∥(A−λ)ψn∥2=n∫01/ns2 ds=13n2→0\|(A-\lambda)\psi_n\|^2=n\int_0^{1/n}s^2\,\mathrm{d}s=\frac{1}{3n^2}\to0 です。φ∈L2\varphi\in L^2 について Cauchy–Schwarz の不等式から ∣⟨φ,ψn⟩∣≤n∫λλ+1/n∣φ∣≤∥φ1[λ,λ+1/n]∥→0|\langle\varphi,\psi_n\rangle|\le\sqrt n\int_\lambda^{\lambda+1/n}|\varphi|\le\|\varphi\mathbf{1}_{[\lambda,\lambda+1/n]}\|\to0(優収束定理)なので ψn⇀0\psi_n\rightharpoonup0 です。定理 5.4 の 2 より λ∈σess(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{ess}}(A) で、λ\lambda は任意です。

演習 8.3難

自己共役作用素 AA について、σess(A)=∅\sigma_{\mathrm{ess}}(A)=\emptyset であることと (A−i)−1(A-i)^{-1} がコンパクトであることが同値であることを示せ。

解答

(A−i)−1(A-i)^{-1} がコンパクトとし、λ∈σess(A)\lambda\in\sigma_{\mathrm{ess}}(A) に特異 Weyl 列 ψn\psi_n があるとします。恒等式

(A−i)−1ψn−(λ−i)−1ψn=(λ−i)−1(A−i)−1(λ−A)ψn(A-i)^{-1}\psi_n-(\lambda-i)^{-1}\psi_n=(\lambda-i)^{-1}(A-i)^{-1}(\lambda-A)\psi_n

(両辺に (A−i)(A-i) を掛けて確かめられます)の右辺はノルムで 00 に収束します。補題 6.1 より (A−i)−1ψn→0(A-i)^{-1}\psi_n\to0 なので ∥ψn∥→0\|\psi_n\|\to0 となり矛盾します。

逆に σess(A)=∅\sigma_{\mathrm{ess}}(A)=\emptyset とします。有界区間 [−n,n][-n,n] に σ(A)\sigma(A) の点が無限個あれば集積点が σ(A)\sigma(A) の非孤立点となり本質スペクトルに入るので、σ(A)\sigma(A) は各有界区間に有限個の点しか持たない可算集合 {λk}\{\lambda_k\} で、各点は有限多重度の固有値です。EA(R∖σ(A))=0E_A(\mathbb{R}\setminus\sigma(A))=0 と強可算加法性から 1=∑kEA({λk})1=\sum_kE_A(\{\lambda_k\}) で、関数計算から

(A−i)−1=∑k(λk−i)−1EA({λk})(A-i)^{-1}=\sum_k(\lambda_k-i)^{-1}E_A(\{\lambda_k\})

です。∣λk∣→∞|\lambda_k|\to\infty(無限個のとき)なので、∣λk∣≤N|\lambda_k|\le N の部分和(有限階)との差のノルムは sup⁡∣λk∣>N∣λk−i∣−1→0\sup_{|\lambda_k|\gt N}|\lambda_k-i|^{-1}\to0 で、ノルム極限としてコンパクトです。

演習 8.4易

例 4.6 の作用素(ν\nu = [0,1][0,1] 上の Lebesgue 測度 + δ2\delta_2 + [3,4][3,4] の Cantor 測度)について、σdisc\sigma_{\mathrm{disc}} と σess\sigma_{\mathrm{ess}} を求めよ。また、22 が固有値であることを Weyl 列ではなく固有ベクトルで示せ。

解答

g=1{2}g=\mathbf{1}_{\{2\}} は ν({2})=1\nu(\{2\})=1 なので L2(ν)L^2(\nu) の非零元で、Ag=2gAg=2g です。EA({2})E_A(\{2\}) は 1{2}\mathbf{1}_{\{2\}} を掛ける射影で値域は 1 次元、22 は σ(A)=[0,1]∪{2}∪(3+K)\sigma(A)=[0,1]\cup\{2\}\cup(3+K) の孤立点なので 2∈σdisc(A)2\in\sigma_{\mathrm{disc}}(A) です。[0,1][0,1] の点の近傍には Lebesgue 部分による無限次元のスペクトル部分空間があり、3+K3+K の点の近傍 JJ では ν(J∩(3+K))>0\nu(J\cap(3+K))\gt0 で原子がないので L2(ν∣J)L^2(\nu|_J) は無限次元です(互いに素な正測度集合を無限個取れます)。命題 5.2 より σess(A)=[0,1]∪(3+K)\sigma_{\mathrm{ess}}(A)=[0,1]\cup(3+K)、σdisc(A)={2}\sigma_{\mathrm{disc}}(A)=\{2\} です。

  • M. Reed and B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised ed., Academic Press, 1980 — 第 VII 章(スペクトル測度の分解)。
  • M. Reed and B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics IV: Analysis of Operators, Academic Press, 1978 — 第 XIII 章(本質スペクトルと Weyl の定理)。
  • G. Teschl, Mathematical Methods in Quantum Mechanics, Graduate Studies in Mathematics 99, American Mathematical Society, 2009 — 第 3 章(スペクトルの型)、第 5 章(RAGE の定理)、第 6 章(Weyl の定理)。
  • H. L. Cycon, R. G. Froese, W. Kirsch and B. Simon, Schrödinger Operators with Application to Quantum Mechanics and Global Geometry, Springer, 1987 — 第 5 章(RAGE の定理)。
  • T. Kato, Perturbation Theory for Linear Operators, 2nd ed., Springer, 1976 — 第 X 章(Weyl–von Neumann の定理と散乱理論)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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