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局所凸空間と弱位相:分離定理・Banach–Alaoglu・Krein–Milman・不動点定理

対象読者: 本テーマ第 2 章の Banach 空間の基本定理と、位相空間のコンパクト性・積位相・Tychonoff の定理を学んだ人。局所凸空間は初めてで構いません。

前提となる記事:Banach 空間の基本定理:Hahn–Banach・一様有界性・開写像・閉グラフ、積位相・商位相と Tychonoff の定理:ネットと超フィルターで見るコンパクト性

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ベクトルの「大きさ」を測る物差しを 1 本ではなく何本も同時に使うと、関数の空間のように 1 本のノルムでは扱いにくい空間にも、近い・遠いの感覚を入れることができます。この記事は、そうして得られる空間で、図形を直線で分ける定理、無限次元でも有限次元のように「集まりがコンパクトになる」場面、方程式の解の存在を保証する不動点の定理を証明します。

  • ノルムを半ノルムの族に置き換えると、局所凸空間が得られます。C(R)C(\mathbb{R}) の広義一様収束、正則関数の空間、弱位相・弱 * 位相はどれもこの枠に入り、可算個の半ノルムで完備なものが Fréchet 空間です。
  • Hahn–Banach の定理の幾何形(分離定理)を局所凸空間で証明します。凸集合を閉超平面で分けられることが、以下のすべての議論の土台です。局所凸性を外すと双対空間が {0}\{0\} になる例(0<p<10<p<1 の LpL^p)も示します。
  • 弱位相 σ(X,Y)\sigma(X,Y) で連続な線形汎関数はちょうど YY の元です。凸集合ではノルム閉と弱閉が一致します(Mazur)。
  • Banach–Alaoglu の定理(双対空間の閉単位球は弱 * コンパクト)を Tychonoff の定理から証明し、可分なら点列コンパクトであること、可分性を外すと点列版が破れることを示します。
  • Krein–Milman の定理(コンパクト凸集合は端点の閉凸包)を証明し、c0c_0 がどんなノルム空間の双対とも等長同型でないことを導きます。最後に Markov–角谷と Schauder–Tychonoff の不動点定理を証明し、Banach 極限と Peano の存在定理に応用します。

Banach 空間の基本定理 では、弱位相と弱 * 位相を定義し、双対空間の閉単位球が弱 * コンパクトであること(Banach–Alaoglu)と、凸集合の分離定理を、証明の筋道だけ示して先に進みました。これらはノルムでは記述できない位相についての主張なので、ノルム空間の枠の中では証明が書きにくいのです。

ノルム空間の位相は 1 つのノルム ∥x∥\|x\| で決まります。弱位相では「すべての F∈X∗F\in X^* について ∣F(x)∣|F(x)| が小さい」ことが近さの基準で、使う量は無限個の半ノルム x↦∣F(x)∣x\mapsto|F(x)| です。同じ状況は解析のいたるところに現れます。R\mathbb{R} 上の連続関数の広義一様収束は、各コンパクト集合上の最大値という可算個の半ノルムで決まり、超関数論の Schwartz 空間は導関数の重み付き最大値という可算個の半ノルムで決まります。

そこでこの記事では、半ノルムの族が定める位相(局所凸位相)を出発点に取り、分離定理・弱位相の双対・Banach–Alaoglu・Krein–Milman を証明します。後半の 2 つの不動点定理は、コンパクト凸集合という同じ舞台の上で働く道具です。量子統計力学では、状態の空間(C*-環の双対の正規化された正の元の集合)が弱 * コンパクト凸集合で、その端点が純粋状態です。状態と GNS 表現 で使われるこの描像の背後にあるのが、この記事の定理です。

係数体 K\mathbb{K} は R\mathbb{R} または C\mathbb{C} とします。半ノルム(三角不等式と斉次性を満たし、p(x)=0p(x)=0 から x=0x=0 が出るとは限らない関数)は Banach 空間の基本定理 の 定義 2.1[Banach 空間の基本定理] のとおりです。

一般の位相空間では点列では足りず、ネット(有向集合で添字づけられた族)を使います。定義は 定義 5.1[積位相・商位相と Tychonoff の定理] を参照してください。閉包と連続性がネットで特徴づけられること(定理 5.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理])、積空間での収束が座標ごとの収束であること(定理 5.3[積位相・商位相と Tychonoff の定理])、コンパクト空間の積がコンパクトであること(Tychonoff の定理(定理 6.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理]))を使います。

ベクトル空間 XX の部分集合 CC について、x,y∈Cx,y\in C、0≤t≤10\le t\le1 で tx+(1−t)y∈Ctx+(1-t)y\in C となるとき凸、∣α∣≤1|\alpha|\le1 で αC⊂C\alpha C\subset C となるとき均衡といいます。

ベクトル空間の演算と位相が両立している、という最も弱い枠組みに名前を付けておきます。

定義 2.1(位相線形空間)↗

K\mathbb{K} 上のベクトル空間 XX に位相 τ\tau が入っていて、加法 X×X→XX\times X\to X, (x,y)↦x+y(x,y)\mapsto x+y とスカラー倍 K×X→X\mathbb{K}\times X\to X, (α,x)↦αx(\alpha,x)\mapsto\alpha x がともに連続(積位相について)であるとき、(X,τ)(X,\tau) を位相線形空間(位相ベクトル空間)という。位相線形空間 XX 上の連続な線形汎関数の全体を X∗X^* と書き、XX の(連続)双対という。

位相線形空間では平行移動 y↦x+yy\mapsto x+y と 00 でないスカラー倍が同相写像なので、位相は 00 の近傍の族だけで決まります。ノルム空間は位相線形空間です。次の節で定義する局所凸空間も位相線形空間であり(命題 3.2 の 1)、局所凸性とは「00 の近傍として凸なものが十分たくさんある」という追加の条件です。例 3.8 の LpL^p(0<p<10<p<1)は、局所凸でない位相線形空間の例になっています。

定義 3.1(局所凸空間)↗

XX を K\mathbb{K} 上のベクトル空間、P\mathcal{P} を XX 上の半ノルムの族とする。x∈Xx\in X、p1,…,pn∈Pp_1,\ldots,p_n\in\mathcal{P}、ε>0\varepsilon>0 に対し

U(x;p1,…,pn;ε)={y∈X:max⁡1≤i≤npi(y−x)<ε}U(x;p_1,\ldots,p_n;\varepsilon)=\bigl\{y\in X:\max_{1\le i\le n}p_i(y-x)<\varepsilon\bigr\}

と置く。XX の部分集合 UU が、各 x∈Ux\in U についてある U(x;p1,…,pn;ε)⊂UU(x;p_1,\ldots,p_n;\varepsilon)\subset U をもつとき開集合と定める。この位相 τP\tau_{\mathcal{P}} を入れた XX を局所凸空間という。P\mathcal{P} が分離的であるとは、各 x≠0x\neq0 に対し p(x)≠0p(x)\neq0 となる p∈Pp\in\mathcal{P} があることをいう。

P\mathcal{P} が 1 つのノルムだけからなるとき、これはノルム空間の位相です。以下、P\mathcal{P} の有限個の元の最大値 max⁡ipi\max_ip_i を「P\mathcal{P} から作った半ノルム」と呼びます。

命題 3.2(局所凸位相の基本性質)✓

(X,τP)(X,\tau_{\mathcal{P}}) を局所凸空間とする。

  1. 集合 U(x;p1,…,pn;ε)U(x;p_1,\ldots,p_n;\varepsilon) は開かつ凸であり、加法 X×X→XX\times X\to X とスカラー倍 K×X→X\mathbb{K}\times X\to X は連続である。
  2. ネット (xλ)(x_\lambda) が xx に収束することと、すべての p∈Pp\in\mathcal{P} で p(xλ−x)→0p(x_\lambda-x)\to0 となることは同値である。とくに各 p∈Pp\in\mathcal{P} は連続である。
  3. τP\tau_{\mathcal{P}} が Hausdorff であることと、P\mathcal{P} が分離的であることは同値である。
証明(命題 3.2)

(1) y∈U(x;p1,…,pn;ε)y\in U(x;p_1,\ldots,p_n;\varepsilon) なら δ=ε−max⁡ipi(y−x)>0\delta=\varepsilon-\max_ip_i(y-x)>0 で、三角不等式から U(y;p1,…,pn;δ)⊂U(x;p1,…,pn;ε)U(y;p_1,\ldots,p_n;\delta)\subset U(x;p_1,\ldots,p_n;\varepsilon) なので開です。凸性は pi(tz+(1−t)w−x)≤tpi(z−x)+(1−t)pi(w−x)p_i(tz+(1-t)w-x)\le tp_i(z-x)+(1-t)p_i(w-x) から出ます。加法の連続性は p(x+y−x0−y0)≤p(x−x0)+p(y−y0)p(x+y-x_0-y_0)\le p(x-x_0)+p(y-y_0)、スカラー倍は

p(αx−α0x0)≤∣α−α0∣(p(x0)+p(x−x0))+∣α0∣ p(x−x0)p(\alpha x-\alpha_0x_0)\le|\alpha-\alpha_0|\bigl(p(x_0)+p(x-x_0)\bigr)+|\alpha_0|\,p(x-x_0)

から出ます。(2) は定義そのものです。連続性は ∣p(y)−p(x)∣≤p(y−x)|p(y)-p(x)|\le p(y-x) と (2)、定理 5.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理] の 2 からわかります。(3) P\mathcal{P} が分離的で x≠yx\neq y なら、p(x−y)=2ε>0p(x-y)=2\varepsilon>0 となる pp について U(x;p;ε)U(x;p;\varepsilon) と U(y;p;ε)U(y;p;\varepsilon) は交わりません。逆に x≠0x\neq0 がすべての pp で p(x)=0p(x)=0 なら、00 のどの近傍も xx を含むので、00 と xx は分離できません。

命題 3.3(連続線形写像の判定)✓

(X,τP)(X,\tau_{\mathcal{P}}), (Y,τQ)(Y,\tau_{\mathcal{Q}}) を局所凸空間、T:X→YT:X\to Y を線形写像とする。TT が連続であるための必要十分条件は、各 q∈Qq\in\mathcal{Q} に対し p1,…,pn∈Pp_1,\ldots,p_n\in\mathcal{P} と C≥0C\ge0 があって、全 x∈Xx\in X で q(Tx)≤Cmax⁡ipi(x)q(Tx)\le C\max_ip_i(x) となることである。とくに線形汎関数 ff が連続であることは、∣f(x)∣≤Cmax⁡ipi(x)|f(x)|\le C\max_ip_i(x) となる pip_i と CC があることと同値である。

証明(命題 3.3)

十分性: q(Tx−Tx0)≤Cmax⁡ipi(x−x0)q(Tx-Tx_0)\le C\max_ip_i(x-x_0) と 命題 3.2 の 2 から TT は各点で連続です。必要性: TT は 00 で連続なので、{y:q(y)<1}\{y:q(y)<1\} の逆像はある U(0;p1,…,pn;ε)U(0;p_1,\ldots,p_n;\varepsilon) を含みます。m(x)=max⁡ipi(x)m(x)=\max_ip_i(x) と置きます。m(x)>0m(x)>0 なら x′=εx/(2m(x))x'=\varepsilon x/(2m(x)) は U(0;p1,…,pn;ε)U(0;p_1,\ldots,p_n;\varepsilon) に入るので q(Tx′)<1q(Tx')<1、すなわち q(Tx)<(2/ε)m(x)q(Tx)<(2/\varepsilon)m(x) です。m(x)=0m(x)=0 なら全 t>0t>0 で txtx がその近傍に入るので q(Tx)<1/tq(Tx)<1/t、よって q(Tx)=0q(Tx)=0 です。C=2/εC=2/\varepsilon と取れます。

分離定理の証明では、凸な開集合を半ノルムに似た関数に変換する道具を使います。00 を含む凸な開集合 CC を「単位球」とみなして、各点が CC の何倍で収まるかを測るのがこの関数で、ノルムの球からノルムを復元する操作の一般化です。

補題 3.4(Minkowski 汎関数)✓

XX を局所凸空間、C⊂XC\subset X を 00 を含む凸な開集合とし、pC(x)=inf⁡{t>0:x∈tC}p_C(x)=\inf\{t>0:x\in tC\} と置く。このとき pCp_C は有限値で、全 x,yx,y と s≥0s\ge0 について pC(x+y)≤pC(x)+pC(y)p_C(x+y)\le p_C(x)+p_C(y), pC(sx)=spC(x)p_C(sx)=sp_C(x) を満たし(劣線形)、連続で、C={x:pC(x)<1}C=\{x:p_C(x)<1\} である。

証明(補題 3.4)

CC は 00 の近傍なので U(0;p1,…,pn;ε)⊂CU(0;p_1,\ldots,p_n;\varepsilon)\subset C となる pip_i, ε\varepsilon があります。m=max⁡ipim=\max_ip_i と置くと、m(x)<εtm(x)<\varepsilon t なら x/t∈Cx/t\in C なので、pC(x)≤m(x)/εp_C(x)\le m(x)/\varepsilon です(m(x)=0m(x)=0 なら pC(x)=0p_C(x)=0)。とくに pCp_C は有限です。斉次性は x∈tC  ⟺  sx∈stCx\in tC\iff sx\in stC から出ます。劣線形性: δ>0\delta>0 を取り、x∈aCx\in aC, y∈bCy\in bC(a<pC(x)+δa<p_C(x)+\delta, b<pC(y)+δb<p_C(y)+\delta)とすると、凸性から

x+y=(a+b)(aa+b⋅xa+ba+b⋅yb)∈(a+b)Cx+y=(a+b)\Bigl(\frac{a}{a+b}\cdot\frac{x}{a}+\frac{b}{a+b}\cdot\frac{y}{b}\Bigr)\in(a+b)C

なので pC(x+y)≤pC(x)+pC(y)+2δp_C(x+y)\le p_C(x)+p_C(y)+2\delta です。連続性は ∣pC(x)−pC(y)∣≤max⁡(pC(x−y),pC(y−x))≤m(x−y)/ε|p_C(x)-p_C(y)|\le\max(p_C(x-y),p_C(y-x))\le m(x-y)/\varepsilon から出ます(mm は P\mathcal{P} から作った半ノルムなので m(y−x)=m(x−y)m(y-x)=m(x-y))。最後に、x∈Cx\in C なら CC が開なので x+sx∈Cx+sx\in C となる s>0s>0 があり、pC(x)≤(1+s)−1<1p_C(x)\le(1+s)^{-1}<1。逆に pC(x)<1p_C(x)<1 なら x∈tCx\in tC(t<1t<1)で、x=t(x/t)+(1−t)0∈Cx=t(x/t)+(1-t)0\in C です。

定義 3.5(Fréchet 空間)↗

局所凸空間 (X,τP)(X,\tau_{\mathcal{P}}) で、P={p1,p2,…}\mathcal{P}=\{p_1,p_2,\ldots\} が可算で分離的であり、距離

d(x,y)=∑k=1∞2−kmin⁡(1,pk(x−y))d(x,y)=\sum_{k=1}^\infty2^{-k}\min\bigl(1,p_k(x-y)\bigr)

について完備であるものを Fréchet 空間という。

命題 3.6

P={pk}k∈N\mathcal{P}=\{p_k\}_{k\in\mathbb{N}} が可算で分離的なら、上の dd は平行移動不変な距離で、その距離位相は τP\tau_{\mathcal{P}} と一致する。dd についてのコーシー列とは、各 pkp_k についてコーシー列であるものにほかならない。

証明(命題 3.6)

min⁡(1,a+b)≤min⁡(1,a)+min⁡(1,b)\min(1,a+b)\le\min(1,a)+\min(1,b)(a,b≥0a,b\ge0)から三角不等式が、分離性から d(x,y)=0⇒x=yd(x,y)=0\Rightarrow x=y が出ます。平行移動不変性は明らかです。位相の一致: d(x,0)<2−kmin⁡(1,ε)d(x,0)<2^{-k}\min(1,\varepsilon) なら min⁡(1,pk(x))<min⁡(1,ε)\min(1,p_k(x))<\min(1,\varepsilon) なので pk(x)<εp_k(x)<\varepsilon。よって dd の球は U(0;pk;ε)U(0;p_k;\varepsilon) に含まれます。逆に r>0r>0 に対し 2−N<r/22^{-N}<r/2 となる NN と ε=r/2\varepsilon=r/2 を取ると、U(0;p1,…,pN;ε)U(0;p_1,\ldots,p_N;\varepsilon) の点 xx は d(x,0)≤∑k≤N2−kε+2−N<rd(x,0)\le\sum_{k\le N}2^{-k}\varepsilon+2^{-N}<r を満たします。コーシー列の主張も同じ評価から出ます。

例 3.7(Fréchet 空間の例)

(1) Banach 空間は P={∥⋅∥}\mathcal{P}=\{\|\cdot\|\} の Fréchet 空間です。

(2) C(R)C(\mathbb{R}) に pk(f)=max⁡∣t∣≤k∣f(t)∣p_k(f)=\max_{|t|\le k}|f(t)| を入れると、収束は広義一様収束です。各 pkp_k についてコーシーな列は各 [−k,k][-k,k] 上で一様収束し、一様収束極限は連続なので(関数列と一様収束)、完備です。

(3) 単位円板 D\mathbb{D} 上の正則関数全体 O(D)\mathcal{O}(\mathbb{D}) に pk(f)=max⁡∣z∣≤1−1/k∣f(z)∣p_k(f)=\max_{|z|\le1-1/k}|f(z)| を入れると Fréchet 空間です。完備性は「正則関数の広義一様収束極限は正則」(Weierstrass の定理)によります。

(4) C∞([0,1])C^\infty([0,1]) に pk(f)=∑j≤kmax⁡∣f(j)∣p_k(f)=\sum_{j\le k}\max|f^{(j)}| を入れると Fréchet 空間です。Schwartz 空間 S(Rn)\mathcal{S}(\mathbb{R}^n) も同じ型で、超関数論の出発点になります。

次の例は、局所凸でない完備距離線形空間では、双対空間が {0}\{0\} になりうることを示します。後で示す分離定理には局所凸性が欠かせません。証明の考え方は、連続な線形汎関数 Λ\Lambda が 11 以上の値をとる関数 ff を、半分ずつに切って値が大きいほうを 2 倍する操作をくり返すことです。0<p<10<p<1 では 2 倍しても距離が半分より小さくなるので、距離は 00 に近づくのに Λ\Lambda の値は 11 以上のままで、連続性に反します。

例 3.8(0 < p < 1 の LpL^p は双対が自明)

0<p<10<p<1 とし、Lp=Lp([0,1])L^p=L^p([0,1]) に d(f,g)=∫01∣f−g∣p dtd(f,g)=\int_0^1|f-g|^p\,dt を入れます。∣a+b∣p≤∣a∣p+∣b∣p|a+b|^p\le|a|^p+|b|^p から dd は平行移動不変な距離で、加法とスカラー倍はこの距離について連続です。Λ:Lp→K\Lambda:L^p\to\mathbb{K} を dd について連続な線形汎関数とし、Λ≠0\Lambda\neq0 と仮定して矛盾を導きます。

Λf≠0\Lambda f\neq0 となる ff を取り、定数倍して ∣Λf∣≥1|\Lambda f|\ge1 とします。F(x)=∫0x∣f∣pF(x)=\int_0^x|f|^p は連続で F(0)=0F(0)=0, F(1)=d(f,0)F(1)=d(f,0) なので、F(x0)=d(f,0)/2F(x_0)=d(f,0)/2 となる x0x_0 があります。g=f1[0,x0]g=f\mathbf{1}_{[0,x_0]}, h=f1(x0,1]h=f\mathbf{1}_{(x_0,1]} とすると f=g+hf=g+h で、∣Λg∣|\Lambda g|, ∣Λh∣|\Lambda h| の一方は 1/21/2 以上です。それを uu とし f1=2uf_1=2u と置くと、∣Λf1∣≥1|\Lambda f_1|\ge1 かつ

d(f1,0)=2p⋅d(f,0)2=2p−1d(f,0).d(f_1,0)=2^p\cdot\frac{d(f,0)}{2}=2^{p-1}d(f,0).

これを繰り返すと ∣Λfn∣≥1|\Lambda f_n|\ge1, d(fn,0)=2n(p−1)d(f,0)→0d(f_n,0)=2^{n(p-1)}d(f,0)\to0 となる列が得られ、Λ\Lambda の連続性に反します。よって (Lp)∗={0}(L^p)^*=\{0\} です。

定理 4.1(分離定理(開凸集合))✓

XX を局所凸空間、A,B⊂XA,B\subset X を空でなく互いに交わらない凸集合とし、AA は開であるとする。このとき連続な線形汎関数 FF と γ∈R\gamma\in\mathbb{R} が存在して、全 a∈Aa\in A, b∈Bb\in B で

Re F(a)<γ≤Re F(b)\mathrm{Re}\,F(a)<\gamma\le\mathrm{Re}\,F(b)

となる。

証明の方針: 2 つの集合を分けるには、差の集合 A−BA-B が 00 を含まないことを使います。これを平行移動した開凸集合 CC を作ると、点 z0z_0 が CC の外にあることと AA, BB が交わらないことが対応します。あとは、開凸集合 CC と外の点 z0z_0 を分ける問題になり、Minkowski 汎関数と Hahn–Banach の定理で解けます。

証明(定理 4.1)

実の場合. a0∈Aa_0\in A, b0∈Bb_0\in B を取り、z0=b0−a0z_0=b_0-a_0, C=A−B+z0={a−b+z0:a∈A,b∈B}C=A-B+z_0=\{a-b+z_0:a\in A,b\in B\} と置きます。CC は開集合 AA の平行移動の和なので開、凸で、0=a0−b0+z0∈C0=a_0-b_0+z_0\in C です。z0∈Cz_0\in C なら a−b=0a-b=0 となる a∈Aa\in A, b∈Bb\in B があることになるので z0∉Cz_0\notin C、補題 3.4 より pC(z0)≥1p_C(z_0)\ge1 です。

Rz0\mathbb{R}z_0 上に f(sz0)=sf(sz_0)=s と定めると、s≥0s\ge0 で f(sz0)=s≤spC(z0)=pC(sz0)f(sz_0)=s\le sp_C(z_0)=p_C(sz_0)、s<0s<0 で f(sz0)<0≤pC(sz0)f(sz_0)<0\le p_C(sz_0) なので f≤pCf\le p_C です。定理 3.2[Banach 空間の基本定理] により、線形汎関数 F:X→RF:X\to\mathbb{R} で F(z0)=1F(z_0)=1, F≤pCF\le p_C となるものがあります。W=C∩(−C)W=C\cap(-C) は 00 の開近傍で、x∈εWx\in\varepsilon W なら F(x)≤pC(x)<εF(x)\le p_C(x)<\varepsilon, −F(x)=F(−x)<ε-F(x)=F(-x)<\varepsilon なので、FF は 00 で、したがって全体で連続です。

a∈Aa\in A, b∈Bb\in B について a−b+z0∈Ca-b+z_0\in C なので F(a)−F(b)+1=F(a−b+z0)<1F(a)-F(b)+1=F(a-b+z_0)<1、すなわち F(a)<F(b)F(a)<F(b) です。γ=inf⁡BF\gamma=\inf_BF と置けば F≤γF\le\gamma on AA です。さらに a∈Aa\in A について、AA が開なので小さい t>0t>0 で a+tz0∈Aa+tz_0\in A となり、F(a)<F(a)+t=F(a+tz0)≤γF(a)<F(a)+t=F(a+tz_0)\le\gamma です。

複素の場合. XX を実ベクトル空間とみて実の場合の FRF_{\mathbb{R}} を得たら、F(x)=FR(x)−iFR(ix)F(x)=F_{\mathbb{R}}(x)-iF_{\mathbb{R}}(ix) は連続な複素線形汎関数で Re F=FR\mathrm{Re}\,F=F_{\mathbb{R}} です(定理 3.3[Banach 空間の基本定理] の証明と同じ計算)。

A(開)BRe F = γRe F < γRe F ≥ γ
分離定理の幾何。開凸集合 A と凸集合 B を、閉超平面 Re F = γ が分ける。A は開半空間 Re F < γ に、B は閉半空間 Re F ≥ γ に入る。

補題 4.2(コンパクト集合と閉集合のすき間)✓

XX を局所凸空間、K⊂XK\subset X をコンパクト、F⊂XF\subset X を閉で K∩F=∅K\cap F=\emptyset とする。このとき P\mathcal{P} から作った半ノルム pp と r>0r>0 があって、V={v:p(v)<r}V=\{v:p(v)<r\} について (K+V)∩F=∅(K+V)\cap F=\emptyset となる。

証明(補題 4.2)

各 x∈Kx\in K について、X∖FX\setminus F は xx を含む開集合なので、P\mathcal{P} から作った半ノルム pxp_x と rx>0r_x>0 で {y:px(y−x)<2rx}∩F=∅\{y:p_x(y-x)<2r_x\}\cap F=\emptyset となるものがあります。KK はコンパクトなので K⊂⋃i=1n{y:pxi(y−xi)<rxi}K\subset\bigcup_{i=1}^n\{y:p_{x_i}(y-x_i)<r_{x_i}\} と有限個で覆えます。p=max⁡ipxip=\max_ip_{x_i}, r=min⁡irxir=\min_ir_{x_i} と置きます。k∈Kk\in K, p(v)<rp(v)<r とし、kk を含む ii番目の集合を選ぶと

pxi(k+v−xi)≤pxi(k−xi)+pxi(v)<rxi+r≤2rxip_{x_i}(k+v-x_i)\le p_{x_i}(k-x_i)+p_{x_i}(v)<r_{x_i}+r\le2r_{x_i}

なので k+v∉Fk+v\notin F です。

定理 4.3(分離定理(コンパクト凸集合と閉凸集合))✓

XX を局所凸空間、A⊂XA\subset X を空でないコンパクト凸集合、B⊂XB\subset X を空でない閉凸集合とし、A∩B=∅A\cap B=\emptyset とする。このとき連続な線形汎関数 FF と γ1<γ2\gamma_1<\gamma_2 が存在して、全 a∈Aa\in A, b∈Bb\in B で Re F(a)<γ1<γ2<Re F(b)\mathrm{Re}\,F(a)<\gamma_1<\gamma_2<\mathrm{Re}\,F(b) となる。

証明(定理 4.3)

補題 4.2 の VV を取ると、A+VA+V は開集合 VV の平行移動の和なので開、凸集合の和なので凸で、BB と交わりません。定理 4.1 から Re F<γ≤Re F(b)\mathrm{Re}\,F<\gamma\le\mathrm{Re}\,F(b) on A+VA+V となる FF, γ\gamma を得ます。Re F\mathrm{Re}\,F は連続で AA はコンパクトなので、AA 上の最大値 γ0\gamma_0 が達成され(系 6.2[コンパクト性])、γ0<γ\gamma_0<\gamma です。γ1=(γ0+γ)/2\gamma_1=(\gamma_0+\gamma)/2 と、γ2\gamma_2 として γ1\gamma_1 と γ\gamma の中点を取ればよいです。

ノルム空間は 1 つの半ノルムの局所凸空間なので、この 2 つの定理は 定理 3.5[Banach 空間の基本定理] の証明になっています。

系 4.4(双対空間は点を分離する)✓

XX を Hausdorff な局所凸空間とする。x≠yx\neq y なら Re F(x)≠Re F(y)\mathrm{Re}\,F(x)\neq\mathrm{Re}\,F(y)(とくに F(x)≠F(y)F(x)\neq F(y))となる連続な線形汎関数 FF がある。また、XX の閉凸集合は、それを含む閉半空間 {x:Re F(x)≥γ}\{x:\mathrm{Re}\,F(x)\ge\gamma\} 全体の共通部分に等しい。

証明(系 4.4)

Hausdorff 空間では 1 点は閉かつコンパクトなので、定理 4.3 を A={x}A=\{x\}, B={y}B=\{y\} に適用します。後半: 閉凸集合 BB の外の点 xx について、同じ定理を A={x}A=\{x\} と BB に適用すれば、BB を含み xx を含まない閉半空間が得られます。

例 3.8 の LpL^p は Hausdorff ですが、連続な線形汎関数は 00 しかありません。系 4.4 が成り立たないので、LpL^p(0<p<10<p<1)はどんな半ノルムの族で位相を定めても局所凸空間にはなりません。

定義 5.1(弱位相 σ(X, Y))↗

XX をベクトル空間、YY を XX 上の線形汎関数からなるベクトル空間で、XX の点を分離する(x≠0x\neq0 なら y(x)≠0y(x)\neq0 となる y∈Yy\in Y がある)ものとする。半ノルムの族 {x↦∣y(x)∣:y∈Y}\{x\mapsto|y(x)|:y\in Y\} が定める局所凸位相を σ(X,Y)\sigma(X,Y) と書く。XX が局所凸空間で Y=X∗Y=X^*(連続な線形汎関数全体)のとき σ(X,X∗)\sigma(X,X^*) を弱位相、X∗X^* 上で Y={F↦F(x):x∈X}Y=\{F\mapsto F(x):x\in X\} と取った σ(X∗,X)\sigma(X^*,X) を弱 * 位相という。

YY が点を分離するので 命題 3.2 の 3 により σ(X,Y)\sigma(X,Y) は Hausdorff です。ノルム空間 XX の場合、これは 定義 7.1[Banach 空間の基本定理] の弱位相・弱 * 位相と同じものです(Hahn–Banach により X∗X^* は XX の点を分離します)。

補題 5.2(核の包含と線形従属)✓

f,f1,…,fnf,f_1,\ldots,f_n をベクトル空間 XX 上の線形汎関数とし、⋂iKer fi⊂Ker f\bigcap_i\mathrm{Ker}\,f_i\subset\mathrm{Ker}\,f とする。このとき f=∑icifif=\sum_ic_if_i となるスカラー cic_i がある。

証明(補題 5.2)

Φ:X→Kn\Phi:X\to\mathbb{K}^n, Φ(x)=(f1(x),…,fn(x))\Phi(x)=(f_1(x),\ldots,f_n(x)) と置きます。Φ(x)=Φ(x′)\Phi(x)=\Phi(x') なら x−x′∈⋂iKer fi⊂Ker fx-x'\in\bigcap_i\mathrm{Ker}\,f_i\subset\mathrm{Ker}\,f なので、g(Φ(x))=f(x)g(\Phi(x))=f(x) は部分空間 Φ(X)⊂Kn\Phi(X)\subset\mathbb{K}^n 上の線形汎関数として矛盾なく定まります。有限次元なので gg は Kn\mathbb{K}^n 上の線形汎関数 g(ξ)=∑iciξig(\xi)=\sum_ic_i\xi_i に拡張でき、f(x)=∑icifi(x)f(x)=\sum_ic_if_i(x) です。

定理 5.3(弱位相の双対)✓

YY を 定義 5.1 のとおりとする。(X,σ(X,Y))(X,\sigma(X,Y)) 上の連続な線形汎関数は、ちょうど YY の元である。とくにノルム空間 XX について、(X∗,σ(X∗,X))(X^*,\sigma(X^*,X)) 上の連続な線形汎関数は F↦F(x)F\mapsto F(x)(x∈Xx\in X)の形のものに限る。

証明(定理 5.3)

y∈Yy\in Y は ∣y(x)∣|y(x)| が族の半ノルムそのものなので連続です。逆に ff が連続なら、命題 3.3 より ∣f(x)∣≤Cmax⁡i∣yi(x)∣|f(x)|\le C\max_i|y_i(x)| となる y1,…,yn∈Yy_1,\ldots,y_n\in Y があり、⋂Ker yi⊂Ker f\bigcap\mathrm{Ker}\,y_i\subset\mathrm{Ker}\,f です。補題 5.2 から f=∑ciyi∈Yf=\sum c_iy_i\in Y です。

無限次元では弱位相はノルム位相より真に弱く、しかも驚くほど粗い位相です。

命題 5.4(単位球面の弱閉包)✓

XX を無限次元のノルム空間とする。00 の弱近傍はすべて有限余次元の部分空間を含む。とくに単位球面 S={∥x∥=1}S=\{\|x\|=1\} の弱閉包は閉単位球 B={∥x∥≤1}B=\{\|x\|\le1\} であり、開単位球は弱位相で開ではない。

証明(命題 5.4)

基本近傍 U(0;∣F1∣,…,∣Fn∣;ε)U(0;|F_1|,\ldots,|F_n|;\varepsilon) は部分空間 N=⋂iKer FiN=\bigcap_i\mathrm{Ker}\,F_i を含みます。NN は線形写像 X→KnX\to\mathbb{K}^n, x↦(Fi(x))ix\mapsto(F_i(x))_i の核なので余次元は nn 以下で、XX が無限次元だから N≠{0}N\neq\{0\} です。

B=⋂∥F∥≤1{x:∣F(x)∣≤1}B=\bigcap_{\|F\|\le1}\{x:|F(x)|\le1\} です(⊃\supset は 系 3.4[Banach 空間の基本定理] による)。右辺は弱閉集合の共通部分なので、BB は弱閉で、SS の弱閉包は BB に含まれます。逆に ∥x∥<1\|x\|<1 と、xx の基本弱近傍 x+U(0;∣F1∣,…,∣Fn∣;ε)x+U(0;|F_1|,\ldots,|F_n|;\varepsilon) を取ります。上の NN から z≠0z\neq0 を選ぶと、t↦∥x+tz∥t\mapsto\|x+tz\| は連続で t=0t=0 で 11 未満、t→∞t\to\infty で ∞\infty なので、∥x+tz∥=1\|x+tz\|=1 となる tt があります。x+tzx+tz はこの近傍に入る SS の点なので、xx は SS の弱閉包に属します。開単位球が弱開なら、00 の弱近傍として 00 でない部分空間を含むことになり、矛盾します。

弱位相は粗いのに、凸集合に限ればノルム位相と同じ閉集合を与えます。

定理 5.5(Mazur の定理)✓

XX をノルム空間、C⊂XC\subset X を凸集合とする。CC がノルム位相で閉であることと、弱位相で閉であることは同値である。

証明(定理 5.5)

弱位相はノルム位相より弱いので、弱閉ならノルム閉です。逆に CC をノルム閉凸集合、x0∉Cx_0\notin C とします。{x0}\{x_0\} はコンパクト凸なので、定理 4.3 から Re F(x0)<γ1<Re F(c)\mathrm{Re}\,F(x_0)<\gamma_1<\mathrm{Re}\,F(c)(全 c∈Cc\in C)となる F∈X∗F\in X^* があります。{x:Re F(x)<γ1}\{x:\mathrm{Re}\,F(x)<\gamma_1\} は x0x_0 の弱開近傍で CC と交わらないので、X∖CX\setminus C は弱開です。

系 5.6(弱収束列の凸結合)✓

ノルム空間 XX で xn⇀xx_n\rightharpoonup x(弱収束)なら、各 kk について {xn:n≥k}\{x_n:n\ge k\} の凸結合 yky_k を、∥yk−x∥→0\|y_k-x\|\to0 となるように選べる。

証明(系 5.6)

CkC_k を {xn:n≥k}\{x_n:n\ge k\} の凸包のノルム閉包とすると、閉凸なので 定理 5.5 により弱閉です。xx は CkC_k の点列 (xn)n≥k(x_n)_{n\ge k} の弱極限なので x∈Ckx\in C_k です。ノルム閉包の定義から、凸包の元 yky_k で ∥yk−x∥<1/k\|y_k-x\|<1/k となるものがあります。

次の定理の証明の方針は、V∘V^\circ の各元 FF を、各点 xx での値 F(x)F(x) を並べた無限個の数の組と同一視することです。値は有界な範囲に収まるので、そうした組の全体は積空間の中の集合になり、Tychonoff の定理でコンパクトです。あとは V∘V^\circ に対応する部分がこの積空間の閉集合であることを確かめれば、コンパクト性が引き継がれます。

定理 6.1(Banach–Alaoglu の定理)✓

XX を局所凸空間、VV を 00 の近傍とする。VV の極集合

V∘={F∈X∗:全 x∈V で ∣F(x)∣≤1}V^\circ=\{F\in X^*:\text{全 }x\in V\text{ で }|F(x)|\le1\}

は弱 * 位相 σ(X∗,X)\sigma(X^*,X) についてコンパクトである。とくに XX がノルム空間なら、X∗X^* の閉単位球 B∗={F:∥F∥≤1}B^*=\{F:\|F\|\le1\} は弱 * コンパクトである。

証明(定理 6.1)

補題 3.4 の証明と同じく、VV は 00 の近傍なので各 xx について x∈tVx\in tV となる t>0t>0 があり、cx=inf⁡{t>0:x∈tV}<∞c_x=\inf\{t>0:x\in tV\}<\infty です。F∈V∘F\in V^\circ, x∈tVx\in tV なら ∣F(x)∣=t∣F(x/t)∣≤t|F(x)|=t|F(x/t)|\le t なので ∣F(x)∣≤cx|F(x)|\le c_x です。

Dx={z∈K:∣z∣≤cx}D_x=\{z\in\mathbb{K}:|z|\le c_x\} はコンパクトなので、積空間 P=∏x∈XDxP=\prod_{x\in X}D_x は Tychonoff の定理(定理 6.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理])によりコンパクトです。Φ:V∘→P\Phi:V^\circ\to P, Φ(F)=(F(x))x∈X\Phi(F)=(F(x))_{x\in X} は単射です。ネット FλF_\lambda が FF に弱 * 収束することは、全 xx で Fλ(x)→F(x)F_\lambda(x)\to F(x) となることで(命題 3.2 の 2)、これは 定理 5.3[積位相・商位相と Tychonoff の定理] により Φ(Fλ)→Φ(F)\Phi(F_\lambda)\to\Phi(F) と同値です。定理 5.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理] の 2 から、Φ\Phi は V∘V^\circ と像 Φ(V∘)\Phi(V^\circ) の間の同相写像です。

像が閉であることを示します。ξ∈Φ(V∘)‾\xi\in\overline{\Phi(V^\circ)} とし、Φ(Fλ)→ξ\Phi(F_\lambda)\to\xi となるネットを取ります(定理 5.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理] の 1)。座標ごとの収束から

ξx+y=lim⁡Fλ(x+y)=ξx+ξy,ξαx=α ξx\xi_{x+y}=\lim F_\lambda(x+y)=\xi_x+\xi_y,\qquad\xi_{\alpha x}=\alpha\,\xi_x

なので F(x)=ξxF(x)=\xi_x は線形で、x∈Vx\in V では ∣F(x)∣=lim⁡∣Fλ(x)∣≤1|F(x)|=\lim|F_\lambda(x)|\le1 です。∣F∣≤1|F|\le1 on VV から、εV\varepsilon V 上で ∣F∣≤ε|F|\le\varepsilon なので FF は 00 で連続、したがって F∈V∘F\in V^\circ で ξ=Φ(F)\xi=\Phi(F) です。コンパクト空間 PP の閉部分集合 Φ(V∘)\Phi(V^\circ) はコンパクト(定理 4.1[コンパクト性])なので、V∘V^\circ もコンパクトです。

ノルム空間では V={∥x∥<1}V=\{\|x\|<1\} と取ると、V∘V^\circ は sup⁡∥x∥<1∣F(x)∣≤1\sup_{\|x\|<1}|F(x)|\le1、すなわち ∥F∥≤1\|F\|\le1 となる FF の全体です。

定理 6.2(可分な場合の点列版)✓

XX を可分なノルム空間とする。B∗B^* 上の弱 * 位相は距離づけ可能であり、X∗X^* の任意の有界列は弱 * 収束する部分列をもつ。

証明(定理 6.2)

(xk)(x_k) を XX の稠密な列とし、B∗B^* 上で

d(F,G)=∑k=1∞2−k∣F(xk)−G(xk)∣1+∥xk∥d(F,G)=\sum_{k=1}^\infty2^{-k}\frac{|F(x_k)-G(x_k)|}{1+\|x_k\|}

と置きます。各項は 21−k2^{1-k} 以下なので級数は収束し、三角不等式は各項から従います。d(F,G)=0d(F,G)=0 なら FF と GG は稠密集合上で一致し、連続なので F=GF=G です。

恒等写像 (B∗,弱∗)→(B∗,d)(B^*,\text{弱}^*)\to(B^*,d) が連続であることを示します。Fλ→FF_\lambda\to F(弱 *)とし ε>0\varepsilon>0 を取ります。∑k>N21−k<ε/2\sum_{k>N}2^{1-k}<\varepsilon/2 となる NN を取り、有限個の k≤Nk\le N について ∣Fλ(xk)−F(xk)∣|F_\lambda(x_k)-F(x_k)| を小さくすれば d(Fλ,F)<εd(F_\lambda,F)<\varepsilon です。(B∗,弱∗)(B^*,\text{弱}^*) は 定理 6.1 によりコンパクト、(B∗,d)(B^*,d) は Hausdorff なので、この連続な全単射は同相写像です(系 6.5[コンパクト性])。よって B∗B^* はコンパクト距離空間で、点列コンパクトです(定理 4.3[距離空間])。有界列はスカラー倍で B∗B^* に入れればよいです。

例 6.3(可分性を外すと点列版は破れる)

X=ℓ∞X=\ell^\infty(可分でない)とし、Fn∈(ℓ∞)∗F_n\in(\ell^\infty)^* を Fn(x)=xnF_n(x)=x_n で定めます。∥Fn∥=1\|F_n\|=1 です。任意の部分列 (Fnk)(F_{n_k}) に対し、xnk=(−1)kx_{n_k}=(-1)^k、それ以外の成分を 00 とした x∈ℓ∞x\in\ell^\infty を取ると Fnk(x)=(−1)kF_{n_k}(x)=(-1)^k は収束しません。よって (Fn)(F_n) は弱 * 収束する部分列をもちません。B∗B^* は 定理 6.1 により弱 * コンパクトですが、点列コンパクトではないのです。コンパクト性を使うときにネットが必要になる典型例です。

系 6.4(回帰的空間の単位球)✓

ノルム空間 XX の標準埋め込み J:X→X∗∗J:X\to X^{**}, (Jx)(F)=F(x)(Jx)(F)=F(x) が全射(XX が回帰的)なら、XX の閉単位球は弱コンパクトである。

証明(系 6.4)

系 3.4[Banach 空間の基本定理] から ∥Jx∥=∥x∥\|Jx\|=\|x\| で、JJ は閉単位球を X∗∗X^{**} の閉単位球に全単射に写します。ネット xλx_\lambda について、xλ⇀xx_\lambda\rightharpoonup x は全 F∈X∗F\in X^* で F(xλ)→F(x)F(x_\lambda)\to F(x) のことで、これは Jxλ→JxJx_\lambda\to Jx が σ(X∗∗,X∗)\sigma(X^{**},X^*) で成り立つことと同じです。よって JJ は (X,σ(X,X∗))(X,\sigma(X,X^*)) から (X∗∗,σ(X∗∗,X∗))(X^{**},\sigma(X^{**},X^*)) への同相写像です。ノルム空間 X∗X^* に 定理 6.1 を使うと X∗∗X^{**} の閉単位球は σ(X∗∗,X∗)\sigma(X^{**},X^*) コンパクトなので、その JJ による逆像である XX の閉単位球は弱コンパクトです。

Hilbert 空間はリースの表現定理により回帰的なので、系 6.4 と 定理 6.2 を合わせると、定理 5.5[Hilbert 空間の基礎] が再び得られます。逆に「閉単位球が弱コンパクトなら回帰的」(角谷の定理)や、弱コンパクトと弱点列コンパクトの同値性(Eberlein–Šmulian の定理)も成り立ちますが、ここでは扱いません。

定義 7.1(端点と端部分集合)↗

KK を凸集合とする。空でない S⊂KS\subset K が KK の端部分集合であるとは、x,y∈Kx,y\in K, 0<t<10<t<1 で tx+(1−t)y∈Stx+(1-t)y\in S ならば x,y∈Sx,y\in S となることをいう。1 点からなる端部分集合 {e}\{e\} の ee を KK の端点といい、端点の全体を ext K\mathrm{ext}\,K と書く。

ee が端点であるとは、ee を KK の 2 点の真の凸結合として書けないことです。正方形の端点は 4 頂点、閉円板の端点は境界の円周全体です。

K端点端点
正方形の端点(4 頂点)。4 頂点の凸包が正方形全体になるので、端点の凸包の閉包で元の集合が復元される。

定理 7.2(Krein–Milman の定理)✓

XX を Hausdorff な局所凸空間、K⊂XK\subset X を空でないコンパクト凸集合とする。このとき ext K≠∅\mathrm{ext}\,K\neq\emptyset であり、KK は ext K\mathrm{ext}\,K の凸包の閉包に等しい。

証明の方針: まず、コンパクトな端部分集合の中で Zorn の補題を使って極小なものを取り、それが 1 点(端点)になることを示します。極小なものが 2 点以上を含むと、分離定理で得た汎関数の最大値の集合でさらに小さくできてしまうからです。最後に、端点の凸包の閉包が KK より小さいと仮定して、残った点を分離定理で分けて矛盾を導きます。

証明(定理 7.2)

S\mathcal{S} を KK のコンパクトな端部分集合全体とします(K∈SK\in\mathcal{S})。

ステップ 1(最大値の集合). FF を連続な線形汎関数、f=Re Ff=\mathrm{Re}\,F、S∈SS\in\mathcal{S} とし、Sf={x∈S:f(x)=max⁡Sf}S_f=\{x\in S:f(x)=\max_Sf\} と置きます。SS はコンパクトなので最大値は達成され Sf≠∅S_f\neq\emptyset、SfS_f は SS の閉部分集合なのでコンパクトです。x,y∈Kx,y\in K, 0<t<10<t<1, tx+(1−t)y∈Sftx+(1-t)y\in S_f なら、SS が端部分集合なので x,y∈Sx,y\in S、さらに f(x),f(y)≤max⁡Sff(x),f(y)\le\max_Sf で tf(x)+(1−t)f(y)=max⁡Sftf(x)+(1-t)f(y)=\max_Sf だから f(x)=f(y)=max⁡Sff(x)=f(y)=\max_Sf、すなわち x,y∈Sfx,y\in S_f です。よって Sf∈SS_f\in\mathcal{S} です。

ステップ 2(極小元は 1 点). S∈SS\in\mathcal{S} を固定し、{T∈S:T⊂S}\{T\in\mathcal{S}:T\subset S\} を包含の逆順で順序づけます。全順序部分族 {Tα}\{T_\alpha\} の共通部分は、閉集合族が有限交叉性をもつのでコンパクト空間 KK の中で空でなく(命題 4.5[コンパクト性])、コンパクトで、端部分集合の条件は各 TαT_\alpha から従います。Zorn の補題(定理 5.1[選択公理と Zorn の補題])により、SS に含まれる極小な M∈SM\in\mathcal{S} があります。MM が異なる 2 点 x,yx,y を含むなら、系 4.4 により Re F(x)≠Re F(y)\mathrm{Re}\,F(x)\neq\mathrm{Re}\,F(y) となる FF があり、ステップ 1 の MfM_f は MM の真部分集合で S\mathcal{S} に属し、極小性に反します。よって M={e}M=\{e\} で、ee は KK の端点です。こうして任意の S∈SS\in\mathcal{S} は KK の端点を含みます。S=KS=K として ext K≠∅\mathrm{ext}\,K\neq\emptyset です。

ステップ 3. K′K' を ext K\mathrm{ext}\,K の凸包の閉包とします。KK は閉凸なので K′⊂KK'\subset K で、K′K' はコンパクト空間の閉部分集合なのでコンパクト凸です。x0∈K∖K′x_0\in K\setminus K' があったとすると、定理 4.3 を A=K′A=K', B={x0}B=\{x_0\} に適用して、f=Re Ff=\mathrm{Re}\,F が sup⁡K′f<f(x0)\sup_{K'}f<f(x_0) を満たすようにできます。ステップ 1 の KfK_f では f=max⁡Kf≥f(x0)f=\max_Kf\ge f(x_0) なので Kf∩K′=∅K_f\cap K'=\emptyset です。しかしステップ 2 から KfK_f は KK の端点を含み、それは K′K' に属します。矛盾です。

例 7.3(c₀ は双対空間ではない)

c0c_0 の閉単位球 BB には端点がありません。実際 x∈Bx\in B なら xn→0x_n\to0 なので ∣xN∣<1/2|x_N|<1/2 となる NN があり、eNe_N を NN 番目の単位ベクトルとして x±12eN∈Bx\pm\frac12e_N\in B、x=12(x+12eN)+12(x−12eN)x=\frac12(x+\frac12e_N)+\frac12(x-\frac12e_N) と書けます。

もし c0c_0 があるノルム空間 YY の双対 Y∗Y^* と等長同型なら、その同型で BB は Y∗Y^* の閉単位球に写り、定理 6.1 によって弱 * コンパクトな凸集合になります。定理 7.2 から端点をもつはずで、矛盾します。同じ議論で L1([0,1])L^1([0,1]) も双対空間ではありません(演習 9.2)。一方 ℓ1=(c0)∗\ell^1=(c_0)^* の閉単位球には端点が豊富にあります(演習 9.1)。この例は、Krein–Milman の定理でコンパクト性を外せないことも示しています(c0c_0 の閉単位球は有界閉凸ですが、端点がありません)。

注意 7.4(状態空間と純粋状態)

コンパクト Hausdorff 空間 Ω\Omega 上の C(Ω)C(\Omega) の正規化された正の線形汎関数(状態)の全体は、定理 6.1 により弱 * コンパクト凸集合です。その端点は点 ω∈Ω\omega\in\Omega での値の評価 f↦f(ω)f\mapsto f(\omega) にほかなりません。Krein–Milman の定理は「すべての状態は純粋状態の凸結合の極限」と言っていますが、極限を取らずに端点上の確率測度として表す精密化が Choquet 理論です。非可換な C*-環でも同じ構図が成り立ち、状態と GNS 表現 で純粋状態と既約表現が対応します。

定理 8.1(Markov–角谷の不動点定理)✓

XX を Hausdorff な局所凸空間、K⊂XK\subset X を空でないコンパクト凸集合、T\mathcal{T} を KK から KK への連続なアフィン写像(T(tx+(1−t)y)=tTx+(1−t)TyT(tx+(1-t)y)=tTx+(1-t)Ty)からなる可換な族とする。このとき全 T∈TT\in\mathcal{T} について Tx=xTx=x となる x∈Kx\in K がある。

証明(定理 8.1)

T∈TT\in\mathcal{T}, n∈Nn\in\mathbb{N} について T(n)=1n(1+T+⋯+Tn−1)T_{(n)}=\frac1n(1+T+\cdots+T^{n-1}) と置きます(11 は恒等写像)。KK は凸で TT はアフィンなので T(n)T_{(n)} は KK から KK への連続なアフィン写像で、T\mathcal{T} の元どうしが可換なので、T(n)T_{(n)} たちも互いに可換です。T(n)(K)T_{(n)}(K) はコンパクト集合の連続像なのでコンパクト、とくに閉です。

{T(n)(K)}\{T_{(n)}(K)\} は有限交叉性をもちます。実際、S=T(n1)1⋯T(nm)mS=T^{1}_{(n_1)}\cdots T^{m}_{(n_m)} と置くと、可換性から各 jj について S=T(nj)j∘(残りの合成)S=T^{j}_{(n_j)}\circ(\text{残りの合成}) と書けるので、S(K)⊂T(nj)j(K)S(K)\subset T^{j}_{(n_j)}(K)、よって ⋂jT(nj)j(K)⊃S(K)≠∅\bigcap_jT^{j}_{(n_j)}(K)\supset S(K)\neq\emptyset です。KK のコンパクト性から、すべての T(n)(K)T_{(n)}(K) に属する xx があります。

T∈TT\in\mathcal{T}, nn を固定し x=T(n)yx=T_{(n)}y(y∈Ky\in K)と書くと、

Tx−x=1n(Tny−y)∈1n(K−K).Tx-x=\frac1n\bigl(T^ny-y\bigr)\in\frac1n(K-K).

K−KK-K はコンパクト集合 K×KK\times K の連続像でコンパクトなので、各 p∈Pp\in\mathcal{P} は K−KK-K 上で有界です。よって p(Tx−x)≤n−1sup⁡K−Kpp(Tx-x)\le n^{-1}\sup_{K-K}p が全 nn で成り立ち、p(Tx−x)=0p(Tx-x)=0。P\mathcal{P} は分離的なので(命題 3.2 の 3)Tx=xTx=x です。

例 8.2(Banach 極限)

実数値の有界数列の空間 ℓR∞\ell^\infty_{\mathbb{R}} と、左シフト (Sx)n=xn+1(Sx)_n=x_{n+1} を考えます。K={φ∈(ℓR∞)∗:x≥0⇒φ(x)≥0, φ(1)=1}K=\{\varphi\in(\ell^\infty_{\mathbb{R}})^*:x\ge0\Rightarrow\varphi(x)\ge0,\ \varphi(\mathbf{1})=1\}(1=(1,1,…)\mathbf{1}=(1,1,\ldots))と置きます。φ∈K\varphi\in K なら −∥x∥1≤x≤∥x∥1-\|x\|\mathbf{1}\le x\le\|x\|\mathbf{1} から ∣φ(x)∣≤∥x∥|\varphi(x)|\le\|x\| なので K⊂B∗K\subset B^* で、KK の条件は各点での不等式・等式なので弱 * 閉です。定理 6.1 から KK は弱 * コンパクト凸で、φ(x)=x1\varphi(x)=x_1 を含むので空でありません。φ↦φ∘S\varphi\mapsto\varphi\circ S は KK を KK に写す線形写像で、弱 * 連続です(φλ(Sx)→φ(Sx)\varphi_\lambda(Sx)\to\varphi(Sx))。定理 8.1 により φ∘S=φ\varphi\circ S=\varphi となる φ∈K\varphi\in K があります。

この φ\varphi(Banach 極限)は lim inf⁡nxn≤φ(x)≤lim sup⁡nxn\liminf_nx_n\le\varphi(x)\le\limsup_nx_n を満たし、とくに収束列では φ(x)=lim⁡xn\varphi(x)=\lim x_n です。実際、φ(x)=φ(Skx)\varphi(x)=\varphi(S^kx) で Skx≥(inf⁡n>kxn)1S^kx\ge(\inf_{n>k}x_n)\mathbf{1} なので φ(x)≥inf⁡n>kxn\varphi(x)\ge\inf_{n>k}x_n、k→∞k\to\infty として下からの不等式が出ます(上からも同様)。(0,1,0,1,…)(0,1,0,1,\ldots) の Banach 極限は 1/21/2 です(x+Sx=1x+Sx=\mathbf{1} に φ\varphi を作用させる)。

Markov–角谷はアフィン写像に限られますが、非線形の連続写像には有限次元の Brouwer の不動点定理(定理 6.1[胞体ホモロジーと写像度])を近似で持ち上げます。

補題 8.3(単体上の不動点)✓

Δ={α∈Rn:αi≥0, ∑iαi=1}\Delta=\{\alpha\in\mathbb{R}^n:\alpha_i\ge0,\ \sum_i\alpha_i=1\} とする。連続写像 h:Δ→Δh:\Delta\to\Delta は不動点をもつ。

証明(補題 8.3)

Δ\Delta はユークリッド空間 Rn\mathbb{R}^n のコンパクト凸集合です。各 x∈Rnx\in\mathbb{R}^n に対し Δ\Delta 上で ∣x−α∣|x-\alpha| を最小にする点 r(x)r(x) が存在し(コンパクト性)、補題 3.3[Hilbert 空間の基礎] により ⟨x−r(x),β−r(x)⟩≤0\langle x-r(x),\beta-r(x)\rangle\le0(全 β∈Δ\beta\in\Delta)で特徴づけられます。この不等式を xx と yy について書き、β=r(y)\beta=r(y), β=r(x)\beta=r(x) を代入して足すと

∣r(x)−r(y)∣2≤⟨x−y,r(x)−r(y)⟩≤∣x−y∣ ∣r(x)−r(y)∣|r(x)-r(y)|^2\le\langle x-y,r(x)-r(y)\rangle\le|x-y|\,|r(x)-r(y)|

なので、rr は 1-リプシッツ(とくに最小点は一意で rr は連続)、Δ\Delta 上で恒等写像です。Δ\Delta を含む閉球 DD を取ると、h∘r:D→Δ⊂Dh\circ r:D\to\Delta\subset D は連続で、DD は DnD^n と同相なので Brouwer の定理から不動点 α=h(r(α))\alpha=h(r(\alpha)) をもちます。α∈Δ\alpha\in\Delta なので r(α)=αr(\alpha)=\alpha、すなわち h(α)=αh(\alpha)=\alpha です。

定理 8.4(Schauder–Tychonoff の不動点定理)✓

XX を Hausdorff な局所凸空間、K⊂XK\subset X を空でないコンパクト凸集合、f:K→Kf:K\to K を連続写像とする。このとき f(x)=xf(x)=x となる x∈Kx\in K がある。

証明(定理 8.4)

ステップ 1(近似不動点). pp を P\mathcal{P} から作った半ノルム、ε>0\varepsilon>0 とします。KK はコンパクトなので K⊂⋃i=1n{y:p(y−xi)<ε}K\subset\bigcup_{i=1}^n\{y:p(y-x_i)<\varepsilon\} となる x1,…,xn∈Kx_1,\ldots,x_n\in K があります。ψi(y)=max⁡(0,ε−p(y−xi))\psi_i(y)=\max(0,\varepsilon-p(y-x_i)) は連続で、y∈Ky\in K では ∑iψi(y)>0\sum_i\psi_i(y)>0 なので、ϕi=ψi/∑jψj\phi_i=\psi_i/\sum_j\psi_j は KK 上の連続関数で ∑iϕi=1\sum_i\phi_i=1 です。P(y)=∑iϕi(y)xiP(y)=\sum_i\phi_i(y)x_i と置くと、ϕi(y)>0\phi_i(y)>0 のときだけ p(y−xi)<εp(y-x_i)<\varepsilon なので

p(P(y)−y)≤∑iϕi(y) p(xi−y)<ε(y∈K).p(P(y)-y)\le\sum_i\phi_i(y)\,p(x_i-y)<\varepsilon\qquad(y\in K).

h:Δ→Δh:\Delta\to\Delta を h(α)i=ϕi(f(∑jαjxj))h(\alpha)_i=\phi_i\bigl(f(\textstyle\sum_j\alpha_jx_j)\bigr) で定めます(∑jαjxj∈K\sum_j\alpha_jx_j\in K は KK の凸性による)。α↦∑jαjxj\alpha\mapsto\sum_j\alpha_jx_j は連続なので hh は連続で、補題 8.3 から不動点 α\alpha をもちます。xε=∑jαjxjx_\varepsilon=\sum_j\alpha_jx_j と置けば xε=P(f(xε))x_\varepsilon=P(f(x_\varepsilon)) なので、p(f(xε)−xε)=p(f(xε)−P(f(xε)))<εp(f(x_\varepsilon)-x_\varepsilon)=p(f(x_\varepsilon)-P(f(x_\varepsilon)))<\varepsilon です。

ステップ 2(コンパクト性). F(p,ε)={x∈K:p(f(x)−x)≤ε}F(p,\varepsilon)=\{x\in K:p(f(x)-x)\le\varepsilon\} はステップ 1 から空でなく、ff と pp の連続性から閉です。F(p1,ε1)∩⋯∩F(pm,εm)⊃F(max⁡jpj,min⁡jεj)≠∅F(p_1,\varepsilon_1)\cap\cdots\cap F(p_m,\varepsilon_m)\supset F(\max_jp_j,\min_j\varepsilon_j)\neq\emptyset なので有限交叉性があり、KK のコンパクト性からすべての F(p,ε)F(p,\varepsilon) に属する xx があります。全 p∈Pp\in\mathcal{P} で p(f(x)−x)=0p(f(x)-x)=0 なので、P\mathcal{P} の分離性から f(x)=xf(x)=x です。

XX が Banach 空間の場合が Schauder の不動点定理です。典型的な使い方は、積分方程式の解作用素が Arzelà–Ascoli の定理でコンパクトな凸集合を保つことを示し、不動点として解を得るものです。

例 8.5(Peano の存在定理)

f:[0,T]×Rn→Rnf:[0,T]\times\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n を連続で ∣f∣≤M|f|\le M とし、x0∈Rnx_0\in\mathbb{R}^n とします。X=C([0,T];Rn)X=C([0,T];\mathbb{R}^n)(最大値ノルム)の部分集合

K={u∈X:u(0)=x0, ∣u(t)−u(s)∣≤M∣t−s∣}K=\bigl\{u\in X:u(0)=x_0,\ |u(t)-u(s)|\le M|t-s|\bigr\}

は凸で、一様有界(∣u(t)−x0∣≤MT|u(t)-x_0|\le MT)かつ同程度連続な閉集合なので、Arzelà–Ascoli の定理(定理 3.3[Arzelà–Ascoli と Stone–Weierstrass])によりコンパクトです。(Φu)(t)=x0+∫0tf(s,u(s)) ds(\Phi u)(t)=x_0+\int_0^tf(s,u(s))\,ds は KK を KK に写し、ff がコンパクト集合 [0,T]×{∣x−x0∣≤MT}[0,T]\times\{|x-x_0|\le MT\} 上で一様連続なので Φ\Phi は連続です。定理 8.4 により不動点 u=Φuu=\Phi u、すなわち u′=f(t,u)u'=f(t,u), u(0)=x0u(0)=x_0 の解が存在します。Lipschitz 条件を課していないので一意性は保証されません(u′=2∣u∣u'=2\sqrt{|u|}, u(0)=0u(0)=0 は u=0u=0 と u=t2u=t^2 の 2 つの解をもちます)。縮小写像の原理による 解の存在と一意性 と比べると、不動点定理が一意性の情報を持たないことがわかります。

演習 9.1易

ℓ1\ell^1 の閉単位球 BB の端点は、∣α∣=1|\alpha|=1 のスカラー α\alpha と単位ベクトル ene_n による αen\alpha e_n の全体であることを示してください。

解答

αen\alpha e_n は端点. αen=tx+(1−t)y\alpha e_n=tx+(1-t)y(x,y∈Bx,y\in B, 0<t<10<t<1)とします。1=∥αen∥≤t∥x∥+(1−t)∥y∥≤11=\|\alpha e_n\|\le t\|x\|+(1-t)\|y\|\le1 なので ∥x∥=∥y∥=1\|x\|=\|y\|=1。nn 成分は α=txn+(1−t)yn\alpha=tx_n+(1-t)y_n で ∣xn∣,∣yn∣≤1|x_n|,|y_n|\le1 なので、複素数の三角不等式の等号条件から xn=yn=αx_n=y_n=\alpha。すると ∥x∥=1\|x\|=1 から xx の他の成分は 00 で x=αenx=\alpha e_n、同様に y=αeny=\alpha e_n です。

他に端点はない. ∥x∥<1\|x\|<1 なら x=12(x+δe1)+12(x−δe1)x=\frac12(x+\delta e_1)+\frac12(x-\delta e_1)(δ=1−∥x∥\delta=1-\|x\|)。∥x∥=1\|x\|=1 で 00 でない成分が 2 つ以上あるなら、x=u+vx=u+v(uu は 1 つの成分 xmx_m だけ、vv は残り、どちらも 00 でない)と分けると、x=∥u∥u∥u∥+∥v∥v∥v∥x=\|u\|\frac{u}{\|u\|}+\|v\|\frac{v}{\|v\|} は単位ベクトルの真の凸結合で、u/∥u∥≠v/∥v∥u/\|u\|\neq v/\|v\| です。

演習 9.2標準

L1([0,1])L^1([0,1]) の閉単位球には端点がないことを示し、L1([0,1])L^1([0,1]) がどんなノルム空間の双対とも等長同型でないことを結論してください。

解答

∥f∥1<1\|f\|_1<1 なら 演習 9.1 の解答と同じく端点ではありません。∥f∥1=1\|f\|_1=1 とし、F(x)=∫0x∣f∣F(x)=\int_0^x|f| は連続で F(0)=0F(0)=0, F(1)=1F(1)=1 なので F(x0)=1/2F(x_0)=1/2 となる x0x_0 があります。g=2f1[0,x0]g=2f\mathbf{1}_{[0,x_0]}, h=2f1(x0,1]h=2f\mathbf{1}_{(x_0,1]} と置くと ∥g∥1=∥h∥1=1\|g\|_1=\|h\|_1=1, f=12g+12hf=\frac12g+\frac12h, g≠hg\neq h なので ff は端点ではありません。後半は 例 7.3 と同じで、双対空間の閉単位球は 定理 6.1 と 定理 7.2 により端点をもつからです。

演習 9.3標準

例 3.7 の (2) の C(R)C(\mathbb{R}) の位相は、どんなノルムからも得られないことを示してください。

解答

ノルム ∥⋅∥\|\cdot\| がこの位相を与えるとすると、開単位球 U={∥f∥<1}U=\{\|f\|<1\} は 00 の近傍なので、ある kk と ε\varepsilon で {f:pk(f)<ε}⊂U\{f:p_k(f)<\varepsilon\}\subset U となります(p1≤p2≤⋯p_1\le p_2\le\cdots なので有限個の最大は 1 つの pkp_k で置き換えられます)。00 でない連続関数 gg で台が (k,k+1)(k,k+1) に含まれるものを取ると、全 tt で pk(tg)=0p_k(tg)=0 なので tg∈Utg\in U、すなわち ∣t∣ ∥g∥<1|t|\,\|g\|<1 が全 t∈Rt\in\mathbb{R} で成り立ち、∥g∥=0\|g\|=0 となって g≠0g\neq0 に矛盾します。局所凸空間では「00 の有界な近傍がある」ことが正規化可能性の条件になる(Kolmogorov の判定法)ことの一例です。

演習 9.4標準

例 8.2 の Banach 極限 φ\varphi は、a∈ℓ1a\in\ell^1 による x↦∑nanxnx\mapsto\sum_na_nx_n の形には書けないことを示してください。これから、ℓ1\ell^1 の標準埋め込みは (ℓ∞)∗(\ell^\infty)^* の真部分空間であることがわかります。

解答

φ(x)=∑nanxn\varphi(x)=\sum_na_nx_n と書けたとします。eke_k を単位ベクトルとすると Sek+1=ekSe_{k+1}=e_k なので ak=φ(ek)=φ(Sek+1)=φ(ek+1)=ak+1a_k=\varphi(e_k)=\varphi(Se_{k+1})=\varphi(e_{k+1})=a_{k+1}、すなわち aa は定数列です。a∈ℓ1a\in\ell^1 なので a=0a=0、よって φ=0\varphi=0 ですが、φ(1)=1\varphi(\mathbf{1})=1 に矛盾します。

  • W. Rudin, Functional Analysis, 2nd edition, McGraw-Hill, 1991 — Chapter 1(位相線形空間)、Chapter 3(分離定理、弱位相、Banach–Alaoglu、Krein–Milman)、Chapter 5(Markov–角谷)。
  • M. Reed, B. Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised and enlarged edition, Academic Press, 1980 — Chapter IV(弱位相)、Chapter V(局所凸空間、Fréchet 空間、Schauder–Tychonoff)。
  • J. B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd edition, Springer (GTM 96), 1990 — Chapters IV, V。
  • H. H. Schaefer, M. P. Wolff, Topological Vector Spaces, 2nd edition, Springer (GTM 3), 1999 — Chapters II, IV。
  • A. Granas, J. Dugundji, Fixed Point Theory, Springer, 2003 — Schauder–Tychonoff の不動点定理の章。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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