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胞体ホモロジーと写像度:CW 複体で計算し、Brouwer の不動点定理と Lefschetz の不動点定理を証明する

対象読者: 本テーマ第 2 章の特異ホモロジー(ホモトピー不変性・Mayer–Vietoris 完全列)と、線形代数のトレースを学んだ人。CW 複体は仮定しません。

前提となる記事:特異ホモロジー:連続写像の単体で穴を数え、ホモトピー不変性・切除・Mayer–Vietoris を証明する、ベクトル空間と線形変換:8 つの公理から次元定理まで

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立方体の頂点は 8 個、辺は 12 本、面は 6 枚で、8−12+6=2 になります。ドーナツ形の面に網目を描いて同じように数えると 0 になります。この記事は、図形を点・線・面などの部品に分けて個数を数えるだけで、図形の穴の様子が分かる、という話です。読み終えると、球面や射影空間の穴を部品の個数から計算でき、円板から円板への連続な写像には必ず動かない点があることまで示せるようになります。

  • CW 複体は、点・線分・円板・……を次元の低い順に貼り合わせてできる空間です。多くの空間が、少数の胞体で表せます。
  • CW 複体の特異ホモロジーは、各次元の胞体を基底とする胞体鎖複体のホモロジーとして計算できます(定理 3.4)。球面や複素射影空間が一瞬で片付きます。
  • 胞体の個数の交代和は、ホモロジーのランクの交代和に等しく、空間にだけ依存します。これが Euler 標数です。証明は、鎖複体のトレース公式(Hopf のトレース公式、定理 4.1)の特別な場合です。
  • 球面の自己写像 f:Sn→Snf:S^n\to S^n には、HnH_n への作用として整数 deg⁡f\deg f が付きます(写像度。球面が球面に何重に巻き付くかを表す整数)。ホモトピー不変で、反射は −1-1、対心写像は (−1)n+1(-1)^{n+1}。逆像の点の局所写像度の和が全体の写像度になります(定理 5.4)。
  • 応用として Brouwer の不動点定理(定理 6.1)、毛玉の定理(定理 6.3)、そして単体複体上の Lefschetz の不動点定理(定理 7.2)を証明します。

1. 動機:ホモロジーを「計算できる」道具に

Section titled “1. 動機:ホモロジーを「計算できる」道具に”

特異ホモロジーは強力ですが、定義から直接計算することはほぼ不可能です。特異単体が非可算個あるからです。前の記事では、切除と Mayer–Vietoris で球面を計算しました。しかしトーラスや射影空間のたびにこのような議論を繰り返すのは大変です。

そこで、空間を次元の低い順に貼り合わせて作る、という見方を採用します。円板 DnD^n を境界 Sn−1S^{n-1} に沿って貼り付けると、そのたびにホモロジーは「nn 次元の穴が 1 個増えるか、(n−1)(n-1) 次元の穴が 1 個消える」というように変わります。この変化をぜんぶ記録した有限生成の鎖複体が胞体鎖複体で、各次元の胞体の個数だけの生成元しか持ちません。

写像度は同じ「貼り合わせ」の言葉の続きで、貼り付ける境界の写像 Sn−1→Xn−1S^{n-1}\to X^{n-1} が低次元でどれだけ巻き付くかを表す整数です。巻き付きを整数で数える技術は、後で Brouwer の不動点定理や、方程式の解の個数の議論(解を符号つきで数える)で効きます。

DnD^n を閉単位円板、Sn−1=∂DnS^{n-1}=\partial D^n とし、D0D^0 は一点、S−1=∅S^{-1}=\varnothing とします。

定義 2.1(有限 CW 複体)↗

空間 XX が有限 CW 複体であるとは、部分空間の列 ∅=X−1⊆X0⊆X1⊆⋯⊆XN=X\varnothing=X^{-1}\subseteq X^0\subseteq X^1\subseteq\cdots\subseteq X^N=X で、各 nn について XnX^n が Xn−1X^{n-1} から次のように得られるものが存在することをいう: 有限個の連続写像 φα:Sn−1→Xn−1\varphi_\alpha:S^{n-1}\to X^{n-1} (α∈An\alpha\in A_n) を取り、

Xn=(Xn−1⊔⨆α∈AnDαn)/(x∼φα(x) (x∈Sαn−1))X^n=\Bigl(X^{n-1}\sqcup\bigsqcup_{\alpha\in A_n}D^n_\alpha\Bigr)\Big/\bigl(x\sim\varphi_\alpha(x)\ (x\in S^{n-1}_\alpha)\bigr)

(商位相)。XnX^n を nn 骨格、DαnD^n_\alpha から来る部分を nn 胞体、Φα:Dαn→Xn\Phi_\alpha:D^n_\alpha\to X^n を特性写像、φα\varphi_\alpha を接着写像という。nn 胞体の個数を cn=∣An∣c_n=|A_n| とする。

D²X¹φ
1 次元の胞体(円周)に 2 胞体を接着する。円板 D² の境界 S¹ が接着写像 φ によって円周 X¹ へ貼り付けられる(概念図。たとえば φ(z)=z² なら境界は X¹ を 2 周して貼られる)。

Xn−1X^{n-1} は XnX^n の閉集合で、Φα\Phi_\alpha は開円板 int⁡Dαn\operatorname{int}D^n_\alpha を Xn∖Xn−1X^n\setminus X^{n-1} の開集合へ同相に写し、Xn∖Xn−1X^n\setminus X^{n-1} はこれらの互いに素な合併です(商位相の定義から従う)。

例 2.2(CW 複体の例)

(a) SnS^n (n≥1n\ge1): 0 胞体 1 個と nn 胞体 1 個(接着写像は一点への定値写像)。c0=cn=1c_0=c_n=1。 (b) 複素射影空間 CPn\mathbb{C}P^n: 各偶数次元 0,2,…,2n0,2,\dots,2n に胞体 1 個(CPn=CPn−1∪φD2n\mathbb{C}P^n=\mathbb{C}P^{n-1}\cup_{\varphi}D^{2n}, φ:S2n−1→CPn−1\varphi:S^{2n-1}\to\mathbb{C}P^{n-1} は S2n−1⊂CnS^{2n-1}\subset\mathbb{C}^n から商への射影)。 (c) 実射影空間 RPn=RPn−1∪φDn\mathbb{R}P^n=\mathbb{R}P^{n-1}\cup_{\varphi}D^n(φ:Sn−1→RPn−1\varphi:S^{n-1}\to\mathbb{R}P^{n-1} は 2 重被覆)。各次元 0,…,n0,\dots,n に胞体 1 個。 (d) 種数 g≥1g\ge1 の向き付け可能閉曲面 Σg\Sigma_g: 4g4g 角形の辺を a1b1a1−1b1−1⋯agbgag−1bg−1a_1b_1a_1^{-1}b_1^{-1}\cdots a_gb_ga_g^{-1}b_g^{-1} の順に貼り合わせたもの。頂点 1 個、辺 2g2g 本、面 1 個。

XX を有限 CW 複体とします。以下 H∗H_* は特異ホモロジーです。

次の補題が言っているのは、(n−1)(n-1) 骨格に nn 胞体を貼り付けて nn 骨格を作ったとき、その差(相対ホモロジー)は貼り付けた円板の個数だけの Z\mathbb{Z} で表される、ということです。証明は、円板の中心の点を除くと境界の円周に縮められること、そして切除で円板の内側だけを取り出せることを使って、相対ホモロジーを円板そのものの相対ホモロジーに移します。

補題 3.1(骨格の相対ホモロジー)✓

各 n≥0n\ge0 について

Hk(Xn,Xn−1)≅{Zcn(k=n)0(k≠n)H_k(X^n,X^{n-1})\cong\begin{cases}\mathbb{Z}^{c_n}&(k=n)\\0&(k\ne n)\end{cases}

であり、k=nk=n の同型は ⨁αHn(Dαn,Sαn−1)→(Φα)∗Hn(Xn,Xn−1)\bigoplus_\alpha H_n(D^n_\alpha,S^{n-1}_\alpha)\xrightarrow{(\Phi_\alpha)_*}H_n(X^n,X^{n-1}) で与えられる。

証明(補題 3.1)

n=0n=0 は Hk(X0)H_k(X^0) が点の直和であることから明らか。n≥1n\ge1 とします。pα∈Dαnp_\alpha\in D^n_\alpha を中心として Y=Xn∖{Φα(pα)}αY=X^n\setminus\{\Phi_\alpha(p_\alpha)\}_\alpha、Φ=⨆Φα:(⨆Dα,⨆Sα)→(Xn,Xn−1)\Phi=\bigsqcup\Phi_\alpha:(\bigsqcup D_\alpha,\bigsqcup S_\alpha)\to(X^n,X^{n-1}) とします。YY は開集合で、Dn∖{p}D^n\setminus\{p\} が Sn−1S^{n-1} に変位レトラクトする(半径方向)ことを貼り合わせて、YY は Xn−1X^{n-1} に変位レトラクトします。次の可換図式を考えます:

Hk(⨆D,⨆S)→(1)Hk(⨆D,⨆(D∖p))←(2)Hk(⨆int⁡D,⨆(int⁡D∖p))↓Φ∗↓↓Φ∗Hk(Xn,Xn−1)→(3)Hk(Xn,Y)←(4)Hk(Xn∖Xn−1,Y∖Xn−1)\begin{matrix} H_k(\bigsqcup D,\bigsqcup S)&\xrightarrow{(1)}&H_k(\bigsqcup D,\bigsqcup(D\setminus p))&\xleftarrow{(2)}&H_k(\bigsqcup\operatorname{int}D,\bigsqcup(\operatorname{int}D\setminus p))\\ \downarrow\Phi_*&&\downarrow&&\downarrow\Phi_*\\ H_k(X^n,X^{n-1})&\xrightarrow{(3)}&H_k(X^n,Y)&\xleftarrow{(4)}&H_k(X^n\setminus X^{n-1},Y\setminus X^{n-1}) \end{matrix}

(1) と (3) は、対の長完全列(系 3.2[特異ホモロジー])の間の射に五項補題 補題 3.3[特異ホモロジー] を適用して同型(H∗(S)→H∗(D∖p)H_*(S)\to H_*(D\setminus p), H∗(Xn−1)→H∗(Y)H_*(X^{n-1})\to H_*(Y) が 系 4.2[特異ホモロジー] により同型)。(2) は ⨆S\bigsqcup S の切除、(4) は Xn−1X^{n-1} の切除(どちらも切除する閉集合が相手の開集合に含まれる: 定理 5.3[特異ホモロジー])で同型。右の縦の写像は Φ\Phi が開円板の対から (Xn∖Xn−1,Y∖Xn−1)(X^n\setminus X^{n-1},Y\setminus X^{n-1}) への同相写像の合併だから同型。したがって左の縦の写像 Φ∗\Phi_* も同型です。最後に Hk(⨆Dα,⨆Sα)=⨁αHk(Dn,Sn−1)H_k(\bigsqcup D_\alpha,\bigsqcup S_\alpha)=\bigoplus_\alpha H_k(D^n,S^{n-1}) と 補題 8.2[特異ホモロジー] から結論を得ます。

補題 3.2(骨格のホモロジー)✓

XX を NN 次元の有限 CW 複体とする。

  1. k>nk>n なら Hk(Xn)=0H_k(X^n)=0。
  2. k≠n−1,nk\ne n-1,n なら包含 Hk(Xn−1)→Hk(Xn)H_k(X^{n-1})\to H_k(X^n) は同型。特に Hk(Xn)→Hk(X)H_k(X^{n})\to H_k(X) は k<nk<n で同型で、Hk(X)=Hk(Xk+1)H_k(X)=H_k(X^{k+1})。
証明(補題 3.2)

(Xn,Xn−1)(X^n,X^{n-1}) の長完全列

Hk+1(Xn,Xn−1)→Hk(Xn−1)→Hk(Xn)→Hk(Xn,Xn−1)H_{k+1}(X^n,X^{n-1})\to H_k(X^{n-1})\to H_k(X^n)\to H_k(X^n,X^{n-1})

と 補題 3.1 を使う。(2): k≠n, k+1≠nk\ne n,\ k+1\ne n なら両端が 00 なので中央の写像は同型。(1): nn に関する帰納法。Hk(X−1)=0H_k(X^{-1})=0 で、k>nk>n のとき Hk(Xn−1)=0H_k(X^{n-1})=0 かつ Hk(Xn,Xn−1)=0H_k(X^n,X^{n-1})=0 だから Hk(Xn)=0H_k(X^n)=0。後半: Hk(Xm)→Hk(Xm+1)H_k(X^m)\to H_k(X^{m+1}) は k≠m,m+1k\ne m,m+1 で同型だから、m≥k+1m\ge k+1 で同型が続き Hk(Xk+1)≅Hk(XN)=Hk(X)H_k(X^{k+1})\cong H_k(X^N)=H_k(X)。

定義 3.3(胞体鎖複体)↗

Cncell(X)=Hn(Xn,Xn−1)≅ZcnC^{\mathrm{cell}}_n(X)=H_n(X^n,X^{n-1})\cong\mathbb{Z}^{c_n} とし、dn:Cncell→Cn−1celld_n:C^{\mathrm{cell}}_n\to C^{\mathrm{cell}}_{n-1} を合成

Hn(Xn,Xn−1)→ ∂ Hn−1(Xn−1)→ j Hn−1(Xn−1,Xn−2)H_n(X^n,X^{n-1})\xrightarrow{\ \partial\ }H_{n-1}(X^{n-1})\xrightarrow{\ j\ }H_{n-1}(X^{n-1},X^{n-2})

で定める。dn−1dn=j ∂ j ∂=0d_{n-1}d_n=j\,\partial\,j\,\partial=0(∂j=0\partial j=0: 長完全列の隣り合う 2 つの写像の合成)なので、(C∗cell,d)(C^{\mathrm{cell}}_*,d) は鎖複体になる。

次の定理の証明は、長完全列の中で隣り合う群が 00 になる箇所を一つずつ拾っていく作業です。上の二つの補題から、Hn(X)H_n(X) は Hn(Xn+1)H_n(X^{n+1}) に等しく、さらに nn 骨格の側で ker⁡dn\ker d_n と im⁡dn+1\operatorname{im}d_{n+1} の商として書けることが分かります。

定理 3.4(胞体ホモロジー定理)✓

有限 CW 複体 XX に対し Hn(X)≅Hn(C∗cell(X),d)H_n(X)\cong H_n(C^{\mathrm{cell}}_*(X),d) である。

証明(定理 3.4)

補題 3.2 より Hn(X)≅Hn(Xn+1)H_n(X)\cong H_n(X^{n+1})。長完全列

Hn+1(Xn+1,Xn)→∂n+1Hn(Xn)→Hn(Xn+1)→Hn(Xn+1,Xn)=0H_{n+1}(X^{n+1},X^n)\xrightarrow{\partial_{n+1}}H_n(X^n)\to H_n(X^{n+1})\to H_n(X^{n+1},X^n)=0

より Hn(Xn+1)≅Hn(Xn)/im⁡∂n+1H_n(X^{n+1})\cong H_n(X^n)/\operatorname{im}\partial_{n+1}。次に、(Xn,Xn−1)(X^n,X^{n-1}) の長完全列で Hn(Xn−1)=0H_n(X^{n-1})=0(補題 3.2 1)だから jn:Hn(Xn)→Hn(Xn,Xn−1)=Cncellj_n:H_n(X^n)\to H_n(X^n,X^{n-1})=C_n^{\mathrm{cell}} は単射で、その像は ker⁡∂n\ker\partial_n です。また (Xn−1,Xn−2)(X^{n-1},X^{n-2}) の長完全列で Hn−1(Xn−2)=0H_{n-1}(X^{n-2})=0 だから jn−1:Hn−1(Xn−1)→Cn−1cellj_{n-1}:H_{n-1}(X^{n-1})\to C^{\mathrm{cell}}_{n-1} も単射、よって ker⁡dn=ker⁡(jn−1∂n)=ker⁡∂n=im⁡jn\ker d_n=\ker(j_{n-1}\partial_n)=\ker\partial_n=\operatorname{im}j_n。したがって jnj_n は Hn(Xn)≅ker⁡dnH_n(X^n)\cong\ker d_n を与えます。この同型で im⁡∂n+1\operatorname{im}\partial_{n+1} は jn∂n+1=dn+1j_n\partial_{n+1}=d_{n+1} の像 im⁡dn+1\operatorname{im}d_{n+1} に移るので(dn+1=jn∂n+1d_{n+1}=j_n\partial_{n+1})、

Hn(X)≅Hn(Xn)/im⁡∂n+1≅ker⁡dn/im⁡dn+1.H_n(X)\cong H_n(X^n)/\operatorname{im}\partial_{n+1}\cong\ker d_n/\operatorname{im}d_{n+1}.

例 3.5(球面と複素射影空間)

(a) SnS^n (n≥2n\ge2): 胞体は次元 0,n0,n だけなので、d=0d=0。H0=Hn=ZH_0=H_n=\mathbb{Z}、他は 00(定理 6.1[特異ホモロジー] と一致)。 (b) CPn\mathbb{C}P^n: 胞体は偶数次元だけなので、dk:Ck→Ck−1d_k:C_k\to C_{k-1} の一方は必ず 00 群で、すべて d=0d=0。したがって Hk(CPn)=ZH_k(\mathbb{C}P^n)=\mathbb{Z} (k=0,2,…,2nk=0,2,\dots,2n)、他は 00。

例 3.6(実射影平面)

RP2=RP1∪φD2\mathbb{R}P^2=\mathbb{R}P^1\cup_\varphi D^2、RP1≅S1\mathbb{R}P^1\cong S^1 で φ:S1→S1\varphi:S^1\to S^1 は z↦z2z\mapsto z^2。胞体は各次元に 1 個: C2=C1=C0=ZC_2=C_1=C_0=\mathbb{Z}。d1=0d_1=0(X1=S1X^1=S^1 の 0 胞体は 1 個で、H1(X1,X0)H_1(X^1,X^0) の生成元の境界は始点と終点の差 00)。d2=j ∂d_2=j\,\partial は次のように計算できます。特性写像 Φ:(D2,S1)→(X2,X1)\Phi:(D^2,S^1)\to(X^2,X^1) に対し ∂Φ∗=φ∗∂\partial\Phi_*=\varphi_*\partial で、∂:H2(D2,S1)→H1(S1)\partial:H_2(D^2,S^1)\to H_1(S^1) は同型、j:H1(X1)→H1(X1,X0)j:H_1(X^1)\to H_1(X^1,X^0) も同型(系 3.2[特異ホモロジー])。よって d2d_2 は φ∗:H1(S1)→H1(S1)\varphi_*:H_1(S^1)\to H_1(S^1) の倍率、つまり φ\varphi の写像度(例 5.5)±2\pm2 です。よって H0=ZH_0=\mathbb{Z}, H1=Z/2H_1=\mathbb{Z}/2, H2=ker⁡(±2)=0H_2=\ker(\pm2)=0。2 次元の穴はなく、1 次元の穴は位数 2 の torsion として現れます。

鎖複体 C∗C_* が有限型であるとは、各 CnC_n が有限生成自由アーベル群で、有限個を除き Cn=0C_n=0 のことです。有限型の鎖複体のホモロジーは有限生成アーベル群です(CnC_n の部分商)。有限生成アーベル群 GG に対し G⊗QG\otimes\mathbb{Q} は有限次元 Q\mathbb{Q} ベクトル空間で、rank⁡G=dim⁡QG⊗Q\operatorname{rank}G=\dim_\mathbb{Q}G\otimes\mathbb{Q} とします。鎖準同型 φ:C∗→C∗\varphi:C_*\to C_* は Q\mathbb{Q} 上の線形写像を誘導し、そのトレース tr⁡(φ∣Cn)\operatorname{tr}(\varphi|C_n) が定まります。Hn(C)⊗QH_n(C)\otimes\mathbb{Q} 上の作用のトレースを tr⁡(φ∗∣Hn)\operatorname{tr}(\varphi_*|H_n) と書きます(Q\mathbb{Q} との積は完全関手なので、Hn(C⊗Q)=Hn(C)⊗QH_n(C\otimes\mathbb{Q})=H_n(C)\otimes\mathbb{Q})。

この節の目標は、胞体の個数の交代和が空間だけで決まることを示すことです。そのために、鎖複体の各次元のトレースの交代和が、ホモロジー上のトレースの交代和に等しいという一般の公式を先に示します。方針は、各 CnC_n を「境界を取ると 00 になる部分」と、その商空間に分け、トレースが部分と商で足し算になることを使って、境界の部分の寄与が隣り合う次元で打ち消し合うのを見ることです。

定理 4.1(Hopf のトレース公式)✓

有限型の鎖複体 C∗C_* と鎖準同型 φ:C∗→C∗\varphi:C_*\to C_* に対し

∑n(−1)ntr⁡(φ∣Cn)=∑n(−1)ntr⁡(φ∗∣Hn(C)).\sum_n(-1)^n\operatorname{tr}(\varphi|C_n)=\sum_n(-1)^n\operatorname{tr}(\varphi_*|H_n(C)).
証明(定理 4.1)

Q\mathbb{Q} 係数の有限次元ベクトル空間の鎖複体として考え、Zn=ker⁡∂nZ_n=\ker\partial_n, Bn=im⁡∂n+1B_n=\operatorname{im}\partial_{n+1} とおきます。φ\varphi は Zn,BnZ_n,B_n を保ちます。線形代数のトレースの加法性(部分空間と商空間のトレースの和が全体のトレース)を使います。∂\partial は Cn/ZnC_n/Z_n から Bn−1B_{n-1} への、φ\varphi と可換な同型なので tr⁡(φ∣Cn/Zn)=tr⁡(φ∣Bn−1)\operatorname{tr}(\varphi|C_n/Z_n)=\operatorname{tr}(\varphi|B_{n-1})。よって

tr⁡(φ∣Cn)=tr⁡(φ∣Zn)+tr⁡(φ∣Bn−1)=tr⁡(φ∣Bn)+tr⁡(φ∗∣Hn)+tr⁡(φ∣Bn−1).\operatorname{tr}(\varphi|C_n)=\operatorname{tr}(\varphi|Z_n)+\operatorname{tr}(\varphi|B_{n-1})=\operatorname{tr}(\varphi|B_n)+\operatorname{tr}(\varphi_*|H_n)+\operatorname{tr}(\varphi|B_{n-1}).

交代和を取ると BB の項が望遠鏡的に消えて(∑(−1)n(tr⁡Bn+tr⁡Bn−1)=0\sum(-1)^n(\operatorname{tr}B_n+\operatorname{tr}B_{n-1})=0)主張を得ます。

定義 4.2(Euler 標数)↗

有限 CW 複体 XX の Euler 標数を χ(X)=∑n(−1)ncn\chi(X)=\sum_n(-1)^nc_n と定める。

系 4.3(Euler 標数のホモロジー表示)✓

χ(X)=∑n(−1)nrank⁡Hn(X)\chi(X)=\sum_n(-1)^n\operatorname{rank}H_n(X)。特に χ(X)\chi(X) は胞体分割の取り方によらず、ホモトピー同値で不変である。

証明(系 4.3)

定理 4.1 を胞体鎖複体と φ=id\varphi=\mathrm{id} に適用すると、トレースは階数になり、左辺は ∑(−1)ncn\sum(-1)^nc_n、右辺は 定理 3.4 により ∑(−1)nrank⁡Hn(X)\sum(-1)^n\operatorname{rank}H_n(X)。ホモトピー不変性は 系 4.2[特異ホモロジー] から。

例 4.4(Euler 標数の例)

χ(Sn)=1+(−1)n\chi(S^n)=1+(-1)^n。χ(CPn)=n+1\chi(\mathbb{C}P^n)=n+1。χ(Σg)=1−2g+1=2−2g\chi(\Sigma_g)=1-2g+1=2-2g(例 2.2 (d))。特にトーラス Σ1\Sigma_1 では 00、S2=Σ0S^2=\Sigma_0 では 22。凸多面体の表面は S2S^2 と同相で、頂点・辺・面で胞体分割できるので、頂点数 VV、辺数 EE、面数 FF に対し V−E+F=2V-E+F=2 が従います(Euler の多面体公式)。

n≥1n\ge1 とします。定理 6.1[特異ホモロジー] から Hn(Sn)≅ZH_n(S^n)\cong\mathbb{Z} です。

定義 5.1(写像度)↗

連続写像 f:Sn→Snf:S^n\to S^n に対し、f∗:Hn(Sn)→Hn(Sn)f_*:H_n(S^n)\to H_n(S^n) は整数倍写像で、その倍率を ff の写像度といい deg⁡f\deg f と書く。

命題 5.2(写像度の基本性質)✓

  1. deg⁡(id)=1\deg(\mathrm{id})=1, deg⁡(g∘f)=deg⁡g⋅deg⁡f\deg(g\circ f)=\deg g\cdot\deg f。同相写像の写像度は ±1\pm1。
  2. f≃gf\simeq g なら deg⁡f=deg⁡g\deg f=\deg g。定値写像の写像度は 00。
  3. 座標 1 つの符号を反転する反射 rr の写像度は −1-1。
  4. 対心写像 a(x)=−xa(x)=-x の写像度は (−1)n+1(-1)^{n+1}。
  5. すべての xx で f(x)≠xf(x)\ne x なら deg⁡f=(−1)n+1\deg f=(-1)^{n+1}。すべての xx で f(x)≠−xf(x)\ne-x なら deg⁡f=1\deg f=1。
証明(命題 5.2)

(1), (2) は f∗f_* の関手性と 定理 4.1[特異ホモロジー]、定値写像は Hn(pt)=0H_n(\mathrm{pt})=0 を経由することから。

(3) 反射 rn(x1,…,xn+1)=(−x1,x2,…,xn+1)r_n(x_1,\dots,x_{n+1})=(-x_1,x_2,\dots,x_{n+1}) を Sn⊂Rn+1S^n\subset\mathbb{R}^{n+1} 上で考え、nn に関する帰納法で deg⁡rn=−1\deg r_n=-1 を示す。n=0n=0: S0={±1}S^0=\{\pm1\} で、r0r_0 は 2 点を入れ替える。H~0(S0)=ker⁡(ε:Z{p,q}→Z)=Z(p−q)\tilde H_0(S^0)=\ker(\varepsilon:\mathbb{Z}\{p,q\}\to\mathbb{Z})=\mathbb{Z}(p-q) で r0(p−q)=q−pr_0(p-q)=q-p だから −1-1。n≥1n\ge1 のとき、定理 6.1[特異ホモロジー] の証明の開集合 A,BA,B(極 ±en+1\pm e_{n+1} を除いたもの)は rnr_n で保たれ、A∩BA\cap B の赤道 Sn−1S^{n-1} への変位レトラクトも rnr_n と可換で、rnr_n は赤道に rn−1r_{n-1} として作用する。Mayer–Vietoris の短完全列は rnr_n の誘導する鎖準同型の下で自然なので、連結準同型の自然性(定理 3.1[特異ホモロジー])から、同型 ∂:H~n(Sn)→H~n−1(A∩B)≅H~n−1(Sn−1)\partial:\tilde H_n(S^n)\to\tilde H_{n-1}(A\cap B)\cong\tilde H_{n-1}(S^{n-1}) は rnr_n と rn−1r_{n-1} の作用を交換する。よって deg⁡rn=deg⁡rn−1=−1\deg r_n=\deg r_{n-1}=-1。

(4) aa は n+1n+1 個の反射 r(i)r^{(i)}(第 ii 座標の反転)の合成。r(i)=PrP−1r^{(i)}=P r P^{-1}(PP は座標の置換、同相写像)で、(1) から deg⁡r(i)=deg⁡Pdeg⁡rdeg⁡P−1=−1\deg r^{(i)}=\deg P\deg r\deg P^{-1}=-1。よって deg⁡a=(−1)n+1\deg a=(-1)^{n+1}。

(5) f(x)≠xf(x)\ne x なら 補題 8.3[特異ホモロジー] の直線ホモトピーで f≃af\simeq a、よって deg⁡f=(−1)n+1\deg f=(-1)^{n+1}。f(x)≠−xf(x)\ne-x なら、(1−t)f(x)+tx≠0(1-t)f(x)+tx\ne0 で f≃idf\simeq\mathrm{id}(同様)。

写像度は「逆像の個数を符号つきで数える」ものです。そのことを局所写像度で定式化します。x∈Snx\in S^n に対し、Sn∖{x}S^n\setminus\{x\} は可縮なので、系 3.2[特異ホモロジー] から ux:Hn(Sn)→≅Hn(Sn,Sn∖{x})u_x:H_n(S^n)\xrightarrow{\cong}H_n(S^n,S^n\setminus\{x\}) が成り立ちます。

定義 5.3(局所写像度)↗

f:Sn→Snf:S^n\to S^n, y=f(x)y=f(x) とし、xx が f−1(y)f^{-1}(y) の孤立点であるとする。xx の開近傍 UU を U∩f−1(y)={x}U\cap f^{-1}(y)=\{x\} となるように取る。ff は対 (U,U∖x)→(Sn,Sn∖y)(U,U\setminus x)\to(S^n,S^n\setminus y) を定める。切除 ex:Hn(U,U∖x)→Hn(Sn,Sn∖x)e_x:H_n(U,U\setminus x)\to H_n(S^n,S^n\setminus x)(定理 5.3[特異ホモロジー])を使って

Hn(Sn,Sn∖x)←≅exHn(U,U∖x)→f∗Hn(Sn,Sn∖y)H_n(S^n,S^n\setminus x)\xleftarrow[\cong]{e_x}H_n(U,U\setminus x)\xrightarrow{f_*}H_n(S^n,S^n\setminus y)

と ux,uyu_x,u_y を合わせた整数倍写像の倍率を xx における局所写像度 dx(f)d_x(f) とする(UU を小さくしても変わらない)。

局所写像度は次の性質を持ちます。(i) g∘fg\circ f の xx での局所写像度は dx(g∘f)=df(x)(g) dx(f)d_x(g\circ f)=d_{f(x)}(g)\,d_x(f)(関手性)。(ii) ff が xx の近傍 UU から yy の開近傍 VV への同相写像ならば、(U,U∖x)→(V,V∖y)(U,U\setminus x)\to(V,V\setminus y) が対の同相で HnH_n の同型を与えるから dx(f)=±1d_x(f)=\pm1。(iii) ff が同相写像ならば dx(f)=deg⁡fd_x(f)=\deg f(f−1(f(x))={x}f^{-1}(f(x))=\{x\} で、U=SnU=S^n とできる)。

次の定理は、一点 yy の逆像が有限個の点なら、各点の近くでの巻き付き方(局所写像度)を足せば全体の巻き付き方が出る、というものです。たとえば円周を 2 周する写像では、各点の逆像は 2 点で、局所写像度の和の絶対値が 22 になります(例 5.5)。証明は、逆像の各点の小さな近傍を切除で取り出し、全体のホモロジーをその直和に分けて比べます。

定理 5.4(局所写像度の和公式)✓

f:Sn→Snf:S^n\to S^n とし、y∈Sny\in S^n の逆像 f−1(y)={x1,…,xm}f^{-1}(y)=\{x_1,\dots,x_m\} が有限集合とする。このとき

deg⁡f=∑i=1mdxi(f).\deg f=\sum_{i=1}^md_{x_i}(f).

(m=0m=0 のときは右辺は 00 と解釈し、deg⁡f=0\deg f=0。)

証明(定理 5.4)

m=0m=0 なら ff は Sn∖{y}S^n\setminus\{y\}(可縮)を経由するので deg⁡f=0\deg f=0。m≥1m\ge1 とします。xix_i の互いに素な開近傍 UiU_i をとり、F=f−1(y)F=f^{-1}(y) とおくと、ff は対 (Sn,Sn∖F)→(Sn,Sn∖y)(S^n,S^n\setminus F)\to(S^n,S^n\setminus y) を定めます。可換図式

Hn(Sn)→wHn(Sn,Sn∖F)→f∗Hn(Sn,Sn∖y),f∗∘w=uy∘f∗=deg⁡f⋅uyH_n(S^n)\xrightarrow{w}H_n(S^n,S^n\setminus F)\xrightarrow{f_*}H_n(S^n,S^n\setminus y),\qquad f_*\circ w=u_y\circ f_*=\deg f\cdot u_y

を得ます(左の合成: Hn(Sn)→f∗Hn(Sn)→uyHn(Sn,Sn∖y)H_n(S^n)\xrightarrow{f_*}H_n(S^n)\xrightarrow{u_y}H_n(S^n,S^n\setminus y) と、Hn(Sn)→Hn(Sn,Sn∖F)→Hn(Sn,Sn∖y)H_n(S^n)\to H_n(S^n,S^n\setminus F)\to H_n(S^n,S^n\setminus y) の可換性)。ここで切除により ⨁iHn(Ui,Ui∖xi)→≅Hn(Sn,Sn∖F)\bigoplus_iH_n(U_i,U_i\setminus x_i)\xrightarrow{\cong}H_n(S^n,S^n\setminus F) です。射影 Hn(Sn,Sn∖F)→Hn(Sn,Sn∖xj)H_n(S^n,S^n\setminus F)\to H_n(S^n,S^n\setminus x_j) は、i≠ji\ne j の成分 Hn(Ui,Ui∖xi)H_n(U_i,U_i\setminus x_i) を Hn(Sn∖xj,Sn∖xj)=0H_n(S^n\setminus x_j,S^n\setminus x_j)=0 を経由して 00 に送るので、w[Sn]w[S^n] の第 ii 成分は exi−1uxi[Sn]e_{x_i}^{-1}u_{x_i}[S^n] に対応します。したがって f∗w[Sn]=∑if∗exi−1uxi[Sn]=∑idxi(f) uy[Sn]f_*w[S^n]=\sum_if_*e_{x_i}^{-1}u_{x_i}[S^n]=\sum_id_{x_i}(f)\,u_y[S^n]。左辺は deg⁡f⋅uy[Sn]\deg f\cdot u_y[S^n] で、uy[Sn]u_y[S^n] は生成元だから deg⁡f=∑dxi(f)\deg f=\sum d_{x_i}(f)。

例 5.5(z↦zkz ↦ z^k の写像度)

pk:S1→S1p_k:S^1\to S^1, z↦zkz\mapsto z^k (k≥1k\ge1)。各 yy の逆像は kk 点で、pkp_k は局所同相だから局所写像度は ±1\pm1((ii))。R(z)=e2πi/kzR(z)=e^{2\pi i/k}z は pkR=pkp_kR=p_k を満たし、R≃idR\simeq\mathrm{id}(回転の族)なので deg⁡R=1\deg R=1。(i), (iii) から dx(pk)=dx(pk∘R)=dRx(pk) dx(R)=dRx(pk)d_x(p_k)=d_x(p_k\circ R)=d_{Rx}(p_k)\,d_x(R)=d_{Rx}(p_k)。ファイバーの kk 点は RR で互いに移り合うので、kk 個の局所写像度はすべて等しい(共通の符号 ε\varepsilon)。定理 5.4 から deg⁡pk=εk\deg p_k=\varepsilon k、特に ∣deg⁡pk∣=k|\deg p_k|=k です。以下ではこの絶対値だけを使います(符号は ε=1\varepsilon=1 で、基本群の記事の 定理 4.1[基本群と被覆空間] の巻き付き数と一致しますが、本記事では示しません)。

定理 6.1(Brouwer の不動点定理)✓

連続写像 f:Dn→Dnf:D^n\to D^n(n≥1n\ge1)は不動点を持つ。

証明は背理法です。不動点がなければ、円板の各点から境界へ向かう「押し出し」の写像が作れてしまい、それが境界への連続な縮め方(レトラクション)になって、前の記事で示した事実に反します。

f(x)xr(x)D²
不動点がないとき、f(x) から x へ向かう半直線が境界 S^{n-1} と交わる点を r(x) とする(n=2 の概念図)。
証明(定理 6.1)

不動点がないと仮定します。各 x∈Dnx\in D^n に対し、f(x)f(x) から xx へ向かう半直線が Sn−1S^{n-1} と交わる点を r(x)r(x) とします。明示的には r(x)=x+t(x) (x−f(x))r(x)=x+t(x)\,(x-f(x))、t(x)≥0t(x)\ge0 は ∣x+t(x−f(x))∣2=1|x+t(x-f(x))|^2=1 の非負の解です。u=x−f(x)≠0u=x-f(x)\ne0 とすると t=−⟨x,u⟩+⟨x,u⟩2+∣u∣2(1−∣x∣2)∣u∣2t=\dfrac{-\langle x,u\rangle+\sqrt{\langle x,u\rangle^2+|u|^2(1-|x|^2)}}{|u|^2} で、根号の中は ∣x∣≤1|x|\le1 より非負、f(x)≠xf(x)\ne x から分母は正なので tt は xx の連続関数です。∣x∣=1|x|=1 のとき ⟨x,u⟩=1−⟨x,f(x)⟩≥1−∣f(x)∣≥0\langle x,u\rangle=1-\langle x,f(x)\rangle\ge1-|f(x)|\ge0 なので t=0t=0 となり、r(x)=xr(x)=x。よって r:Dn→Sn−1r:D^n\to S^{n-1} はレトラクションで、系 6.2[特異ホモロジー] に反します。

注意 6.2

Brouwer の定理は有限次元の凸コンパクト集合に拡張でき、さらに無限次元の Banach 空間の不動点定理(Schauder の定理)は、有限次元近似に Brouwer を使うことで示されます。また写像度は、方程式の解を符号つきで数える整数(この記事の局所写像度の和公式)として、解の個数の議論や位相不変量の整数性の根拠になります。

定理 6.3(毛玉の定理)✓

nn が偶数なら、SnS^n 上の連続な接ベクトル場 vv(v(x)⊥xv(x)\perp x, v:Sn→Rn+1v:S^n\to\mathbb{R}^{n+1})は必ず零点を持つ。

証明(定理 6.3)

零点がないとすると、w=v/∣v∣w=v/|v| は w(x)⊥xw(x)\perp x の連続写像です。F(x,t)=cos⁡(πt) x+sin⁡(πt) w(x)F(x,t)=\cos(\pi t)\,x+\sin(\pi t)\,w(x) は ∣F∣=1|F|=1 で SnS^n への連続写像、F(⋅,0)=idF(\cdot,0)=\mathrm{id}, F(⋅,1)=−id=aF(\cdot,1)=-\mathrm{id}=a。よって id≃a\mathrm{id}\simeq a で、命題 5.2 から 1=(−1)n+11=(-1)^{n+1}。これは nn が偶数では矛盾です。

XX を有限 CW 複体(またはその鎖複体が有限型のもの)とし、f:X→Xf:X\to X を連続写像とします。

定義 7.1(Lefschetz 数)↗

τ(f)=∑n(−1)ntr⁡(f∗:Hn(X)⊗Q→Hn(X)⊗Q)\tau(f)=\sum_n(-1)^n\operatorname{tr}\bigl(f_*:H_n(X)\otimes\mathbb{Q}\to H_n(X)\otimes\mathbb{Q}\bigr)

を ff の Lefschetz 数という。τ(id)=χ(X)\tau(\mathrm{id})=\chi(X)(系 4.3)、f≃gf\simeq g なら τ(f)=τ(g)\tau(f)=\tau(g)。

例: τ(f)=1+(−1)ndeg⁡f\tau(f)=1+(-1)^n\deg f (f:Sn→Snf:S^n\to S^n)。XX が可縮なら τ(f)=1\tau(f)=1。

定理 7.2(Lefschetz の不動点定理)✓

KK を有限単体複体、X=∣K∣X=|K| とする。連続写像 f:X→Xf:X\to X が τ(f)≠0\tau(f)\ne0 を満たすなら、ff は不動点を持つ。

証明の筋道を先に述べます。不動点がないと仮定すると、ff は各点を一定の距離以上動かします。空間を十分細かい単体に分けて ff を単体ごとの写像で近似すると、どの単体も自分自身には写らないので、鎖のレベルの行列の対角成分がすべて 00 になり、トレースが 00 になります。トレース公式でこれをホモロジーに戻したものが τ(f)\tau(f) です。以下では、そのための道具(単体複体、細分、単体近似)を順に用意します。

証明のために、単体複体の言葉を準備します。KK は RN\mathbb{R}^N 内の幾何学的な有限単体複体(単体の有限集合で、面について閉じ、二つの単体の共通部分は共通の面)とします。単体的鎖複体 CnΔ(K)C^\Delta_n(K) は、nn 単体の頂点の並べ方で符号が変わるシンボル [v0,…,vn][v_0,\dots,v_n] が生成するアーベル群で(各 nn 単体に向きを選べば Z(n 単体の個数)\mathbb{Z}^{(n\text{ 単体の個数})})、∂\partial は特異の場合と同じ式で定めます。単体写像 g:K′→Kg:K'\to K(頂点写像で単体を単体に写すもの)は g#[v0,…,vn]=[g(v0),…,g(vn)]g_\#[v_0,\dots,v_n]=[g(v_0),\dots,g(v_n)](頂点が重なるときは 00)で鎖準同型を与えます。KK の重心細分 K′K'(各単体にその重心を頂点として加え、より小さな単体に分け直したもの)に対し、補題 5.1[特異ホモロジー] と同じ式 Sd σ=bσ(Sd ∂σ)\mathrm{Sd}\,\sigma=b_\sigma(\mathrm{Sd}\,\partial\sigma) で細分鎖写像 Sd:CΔ(K)→CΔ(K′)\mathrm{Sd}:C^\Delta(K)\to C^\Delta(K') が定まります。Sd σ\mathrm{Sd}\,\sigma は σ\sigma に含まれる単体のみの和です。次の事実を用います。

注意 7.3

事実(単体的ホモロジーと特異ホモロジー)。 自然な同型 ΘK:Hn(CΔ(K))→Hn(∣K∣)\Theta_K:H_n(C^\Delta(K))\to H_n(|K|) があり、単体写像 g:K′→Kg:K'\to K に対し ΘKg#=g∗ΘK′\Theta_Kg_\#=g_*\Theta_{K'}、細分に対し ΘK′Sd∗=ΘK\Theta_{K'}\mathrm{Sd}_*=\Theta_K を満たす。胞体ホモロジー定理 定理 3.4 で KK を単体を胞体とする CW 複体と見ると、胞体鎖複体が CΔ(K)C^\Delta(K) と同一視されることから従う。証明は 定理 7.6[コホモロジーと双対性] にある。

次の単体近似定理を証明します。開星状体 St⁡(w)\operatorname{St}(w) を、頂点 ww を持つ単体の内部の合併(開集合)とします。

補題 7.4(単体近似)✓

K,LK,L を有限単体複体、f:∣K∣→∣L∣f:|K|\to|L| を連続写像とする。KK の十分細かい重心細分 K(m)K^{(m)} と単体写像 g:K(m)→Lg:K^{(m)}\to L で、任意の x∈∣K∣x\in|K| について f(x)f(x) と g(x)g(x) が LL の同じ単体に入るものが存在する。特に f≃gf\simeq g(直線ホモトピー)で、∣f(x)−g(x)∣≤max⁡diam⁡(L の単体)|f(x)-g(x)|\le\max\operatorname{diam}(L\text{ の単体})。

証明(補題 7.4)

{f−1(St⁡w)}w\{f^{-1}(\operatorname{St}w)\}_w は ∣K∣|K| の開被覆で、補題 3.4[基本群と被覆空間] の Lebesgue 数 δ\delta が取れます。重心細分を繰り返すと単体の直径は 0 に近づく(補題 5.1[特異ホモロジー])ので、K(m)K^{(m)} の単体の直径が δ/2\delta/2 未満になる mm を取ります。K(m)K^{(m)} の頂点 vv について、St⁡(v)\operatorname{St}(v) の直径は <δ<\delta だから f(St⁡v)⊆St⁡(g(v))f(\operatorname{St}v)\subseteq\operatorname{St}(g(v)) となる LL の頂点 g(v)g(v) が選べます。

gg は単体写像: v0,…,vkv_0,\dots,v_k が K(m)K^{(m)} の単体 τ\tau を張るなら、int⁡τ⊆⋂St⁡(vi)\operatorname{int}\tau\subseteq\bigcap\operatorname{St}(v_i) であり、f(int⁡τ)⊆⋂iSt⁡(g(vi))≠∅f(\operatorname{int}\tau)\subseteq\bigcap_i\operatorname{St}(g(v_i))\ne\varnothing。この共通部分の点は LL のただ一つの単体 ρ\rho の内部にあります。その点が St⁡(g(vi))\operatorname{St}(g(v_i)) に入るので、g(vi)g(v_i) は ρ\rho の頂点です。ゆえに g(v0),…,g(vk)g(v_0),\dots,g(v_k) は LL の一つの単体(ρ\rho の面)を張ります。

近さ: x∈∣K∣x\in|K| を K(m)K^{(m)} の単体 τ\tau(頂点 viv_i)の内部の点とします。f(x)∈⋂St⁡(g(vi))f(x)\in\bigcap\operatorname{St}(g(v_i)) なので、f(x)f(x) を内部に含む単体 ρx\rho_x は g(vi)g(v_i) をすべて頂点に持ち、g(x)=∑tig(vi)g(x)=\sum t_ig(v_i)(gg の線形拡張)は ρx\rho_x の面に入ります。よって f(x),g(x)∈ρxf(x),g(x)\in\rho_x。

証明(定理 7.2)

ff に不動点がないとして τ(f)=0\tau(f)=0 を示します。XX はコンパクトで x↦∣f(x)−x∣x\mapsto|f(x)-x| は連続かつ正なので、最小値 ε>0\varepsilon>0 をもちます。KK を、単体の直径が ε/3\varepsilon/3 未満になるまで重心細分したもの(補題 5.1[特異ホモロジー])とし、改めて KK と書きます。補題 7.4 を L=KL=K に使って、K(m)K^{(m)} から KK への単体写像 gg で、すべての xx について ∣g(x)−f(x)∣<ε/3|g(x)-f(x)|<\varepsilon/3 なるものを取ります。

鎖準同型 Ψ=g#∘Sdm:CΔ(K)→CΔ(K)\Psi=g_\#\circ\mathrm{Sd}^m:C^\Delta(K)\to C^\Delta(K) を考えます。定理 7.6[コホモロジーと双対性] から ΘKΨ∗=g∗ΘK(m)Sd∗m=g∗ΘK\Theta_K\Psi_*=g_*\Theta_{K^{(m)}}\mathrm{Sd}^m_*=g_*\Theta_K で、g≃fg\simeq f だから g∗=f∗g_*=f_*。すなわち Ψ∗\Psi_* は ΘK\Theta_K を通して f∗f_* と同じ作用です。定理 4.1 により

τ(f)=∑n(−1)ntr⁡(Ψ∣CnΔ(K)).\tau(f)=\sum_n(-1)^n\operatorname{tr}(\Psi|C^\Delta_n(K)).

各 nn 単体 σ\sigma に対し、Ψσ\Psi\sigma の中の σ\sigma 自身の係数が 00 であることを示します。Sdmσ\mathrm{Sd}^m\sigma は σ\sigma に含まれる K(m)K^{(m)} の単体 τ\tau の和で、τ\tau の点 xx について ∣g(x)−x∣≥∣f(x)−x∣−∣f(x)−g(x)∣>2ε/3|g(x)-x|\ge|f(x)-x|-|f(x)-g(x)|>2\varepsilon/3 です。もし g#τ=±σg_\#\tau=\pm\sigma なら g(x)∈σg(x)\in\sigma で、∣g(x)−x∣≤diam⁡σ<ε/3|g(x)-x|\le\operatorname{diam}\sigma<\varepsilon/3 となって矛盾。したがって Ψσ\Psi\sigma に σ\sigma は現れず、行列の対角成分がすべて 00 なので tr⁡(Ψ∣CnΔ)=0\operatorname{tr}(\Psi|C_n^\Delta)=0、よって τ(f)=0\tau(f)=0。

系 7.5(Lefschetz の定理の帰結)✓

  1. 有限単体複体 XX で H~n(X;Q)=0\tilde H_n(X;\mathbb{Q})=0(たとえば可縮、あるいは DnD^n)なら、任意の連続写像 X→XX\to X は不動点を持つ。特に Brouwer の定理 定理 6.1 を再証明する。
  2. f:Sn→Snf:S^n\to S^n で deg⁡f≠(−1)n+1\deg f\ne(-1)^{n+1} なら ff は不動点を持つ(τ(f)=1+(−1)ndeg⁡f\tau(f)=1+(-1)^n\deg f)。
  3. χ(X)≠0\chi(X)\ne0 なら、idX\mathrm{id}_X にホモトピックな任意の写像は不動点を持つ。
証明(系 7.5)

1: H0⊗Q=QH_0\otimes\mathbb{Q}=\mathbb{Q} 上の作用は恒等(連結)で τ(f)=1≠0\tau(f)=1\ne0。DnD^n は単体と同相。2: SnS^n は (n+1)(n+1) 単体の境界として単体複体であり、 τ(f)=1+(−1)ndeg⁡f≠0\tau(f)=1+(-1)^n\deg f\ne0 ⇔ deg⁡f≠(−1)n+1\deg f\ne(-1)^{n+1}。3: τ(f)=τ(id)=χ(X)\tau(f)=\tau(\mathrm{id})=\chi(X)。

注意 7.6

Lefschetz の跡公式。 上の証明の中身は、ホモロジー上の跡の交代和 τ(f)\tau(f) を、Hopf のトレース公式 定理 4.1 で鎖のレベルの跡の交代和に移し、不動点がなければ鎖のレベルの対角成分がすべて消えることを見る、というものでした。不動点がある場合に跡の交代和が何に等しいかを述べるのが Lefschetz の跡公式です。閉多様体上の滑らかな写像 ff で、各不動点 xx で det⁡(1−dfx)≠0\det(1-df_x)\ne0 となるもの(不動点は孤立し有限個)について

τ(f)=∑f(x)=xsign⁡det⁡(1−dfx)\tau(f)=\sum_{f(x)=x}\operatorname{sign}\det(1-df_x)

が成り立ちます。f=idf=\mathrm{id} を零点が非退化なベクトル場の流れで少し動かしたものに適用すると、Poincaré–Hopf の定理(零点の指数の和 =χ(M)=\chi(M))になります。証明には対角集合とグラフの交点数を Poincaré 双対で数える議論が要り、本サイトではまだ扱っていません(V. Guillemin, A. Pollack, Differential Topology, Prentice-Hall, 1974 — 第 3 章 §4・§5)。検算として、S1S^1 上の z↦z2z\mapsto z^2 は不動点が z=1z=1 だけで、角度座標で df=2df=2 なので右辺は sign⁡(1−2)=−1\operatorname{sign}(1-2)=-1、左辺は τ(f)=1−deg⁡f=−1\tau(f)=1-\deg f=-1 で一致します。

演習 8.1易

CPn\mathbb{C}P^n の Euler 標数を求め、CPn≄S2n\mathbb{C}P^n\not\simeq S^{2n} (n≥2n\ge2) を示せ。

解答

例 3.5 (b) より χ(CPn)=n+1\chi(\mathbb{C}P^n)=n+1。一方 χ(S2n)=2\chi(S^{2n})=2 なので n≥2n\ge2 なら異なり、系 4.3 によりホモトピー同値でない。

演習 8.2標準

定数でない複素多項式 p(z)=zk+ak−1zk−1+⋯+a0p(z)=z^k+a_{k-1}z^{k-1}+\cdots+a_0 (k≥1k\ge1) が零点を持つことを、写像度を使って示せ。

解答

零点がないと仮定する。r>0r>0 に対し qr(θ)=p(reiθ)/∣p(reiθ)∣q_r(\theta)=p(re^{i\theta})/|p(re^{i\theta})| は S1→S1S^1\to S^1 の連続写像で、rr について連続に変わるので、すべての rr で同じ写像度を持つ(ホモトピー不変性)。r→0r\to0 では qr→p(0)/∣p(0)∣q_r\to p(0)/|p(0)| に近づく定値写像に(r=0r=0 を含めて)ホモトピックだから deg⁡qr=0\deg q_r=0。一方 rr が大きいとき、pt(z)=zk+t(ak−1zk−1+⋯+a0)p_t(z)=z^k+t(a_{k-1}z^{k-1}+\cdots+a_0) (t∈[0,1]t\in[0,1]) は ∣z∣=r|z|=r 上で零点を持たない(r>∑∣ai∣+1r>\sum|a_i|+1 とすれば ∣zk∣>∣t(… )∣|z^k|>|t(\dots)|)ので qr≃(z↦zk/∣zk∣)=pkq_r\simeq(z\mapsto z^k/|z^k|)=p_k で、例 5.5 より deg⁡=±k≠0\deg=\pm k\ne0。矛盾。

演習 8.3標準

f:Sn→Snf:S^n\to S^n が deg⁡f≠1\deg f\ne1 なら、f(x)=−xf(x)=-x となる点 xx が存在することを示せ。また nn が偶数で deg⁡f≠−1\deg f\ne-1 なら不動点が存在することを示せ。

解答

前半の対偶: すべての xx で f(x)≠−xf(x)\ne-x なら 命題 5.2 (5) から deg⁡f=1\deg f=1。後半: 不動点がなければ deg⁡f=(−1)n+1=−1\deg f=(-1)^{n+1}=-1。

演習 8.4標準

実射影平面 RP2\mathbb{R}P^2 の任意の連続な自己写像は不動点を持つことを示せ。

解答

RP2\mathbb{R}P^2 は有限単体複体と同相(三角形分割がある)。例 3.6 より H0=ZH_0=\mathbb{Z}, H1=Z/2H_1=\mathbb{Z}/2, H2=0H_2=0。⊗Q\otimes\mathbb{Q} すると H0⊗Q=QH_0\otimes\mathbb{Q}=\mathbb{Q} のみ(作用は恒等)なので τ(f)=1≠0\tau(f)=1\ne0 で、定理 7.2 から不動点が存在する。

  • A. Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002 — 第 2 章(胞体ホモロジー、写像度、Lefschetz の不動点定理)。
  • J. R. Munkres, Elements of Algebraic Topology, Addison-Wesley, 1984 — 単体的ホモロジーと Lefschetz の不動点定理。
  • J. W. Milnor, Topology from the Differentiable Viewpoint, University of Virginia Press, 1965 — 写像度と毛玉の定理。
  • 田村一郎『トポロジー』岩波書店、1972 — 胞体複体とホモロジー。
  • 枡田幹也『代数的トポロジー』朝倉書店、2002 — 胞体ホモロジー、不動点定理。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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