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特異ホモロジー:連続写像の単体で穴を数え、ホモトピー不変性・切除・Mayer–Vietoris を証明する

対象読者: 本テーマ第 1 章の基本群と被覆空間、位相空間のコンパクト性、線形代数の基底と次元を学んだ人。ホモロジーや鎖複体は仮定しません。

前提となる記事:基本群と被覆空間:ループの代数で穴を数え、π₁(S¹)=ℤ・van Kampen・Galois 対応まで、コンパクト性:有限部分被覆で捉える「有界閉集合」の一般化、ベクトル空間と線形変換:8 つの公理から次元定理まで

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ドーナツの穴や、ボールの中の空洞のように、図形には「穴」があります。この記事は、その穴を数で数える方法を作る話です。図形の中に三角形や四面体のような小さな部品を描き、その部品を足し引きする計算に直すと、穴の個数が整数の組として取り出せます。読み終えると、「円板を、その縁の球面へ連続に押しつぶすことはできない」ことや「Rn\mathbb{R}^n と Rm\mathbb{R}^m は n≠mn\ne m なら同じ形ではない」ことが、この計算で説明できるようになります。

  • 位相空間 XX の特異ホモロジー群 Hn(X)H_n(X) は、XX への連続写像としての nn 次元単体を自由に生成した鎖の複体 (C∗(X),∂)(C_*(X),\partial) の、サイクルを境界で割った商です。基本群と違い、すべての次元の穴を測り、しかも常に可換群です。
  • 連続写像が誘導する準同型 f∗f_* はホモトピー不変です(定理 4.1)。証明の鍵は X×IX\times I を単体に分割する「柱体」の鎖ホモトピーです。
  • 部分空間の対 (X,A)(X,A) には相対ホモロジーがあり、長完全列(系 3.2)が成り立ちます。
  • 切除定理(定理 5.3)は、AA の内部に閉包が入る集合 ZZ を取り除いてもホモロジーが変わらないという定理で、重心細分で「小さい単体」だけの鎖が十分であることから従います。Mayer–Vietoris 完全列(定理 5.4)は同じ事実の別の表現です。
  • これらを使って H~k(Sn)≅Z (k=n)\tilde H_k(S^n)\cong\mathbb{Z}\ (k=n)、それ以外 00 が計算でき、円板からその境界球面へのレトラクションの非存在や、Rn≇Rm\mathbb{R}^n\not\cong\mathbb{R}^m が従います。球面は円板のレトラクトではないが近傍のレトラクトではある、という差を絶対近傍レトラクトの言葉で述べます(命題 6.4)。
  • 特異単体の集合と面への制限の骨格を抜き出したものが単体的集合で、特異単体的集合 Sing⁡X\operatorname{Sing}X と幾何的実現 ∣K∣|K| は互いに随伴です(定理 7.5)。

前の記事で見たように、基本群は 1 次元のループで穴を測ります。S2S^2 は単連結なので基本群では R3\mathbb{R}^3 の中身の詰まった球と区別できませんが、S2S^2 には「中が空洞」という 2 次元の穴があります。この空洞を測るには、ループの代わりに 2 次元の「膜」を使う必要があります。

さらに基本群は非可換で、計算が難しい(van Kampen の定理が使える特別な場合を除く)ことも欠点です。そこでループを任意次元の単体に一般化し、単体を足し算の対象として扱うと、可換な代数だけで済む理論が得られます。それが特異ホモロジーです。

発想は微分形式の閉形式と完全形式(定義 6.4[ベクトル場と微分形式])と同じ構造です。「∂∂=0\partial\partial=0 だから境界のサイクルは自動的にサイクル」、そこで「サイクルだが境界でないもの」が穴を表します。微分形式では d2=0d^2=0、ここでは ∂2=0\partial^2=0 です。

標準 nn 単体を Δn={(t0,…,tn)∈Rn+1:ti≥0, ∑ti=1}\Delta^n=\{(t_0,\dots,t_n)\in\mathbb{R}^{n+1}:t_i\ge0,\ \sum t_i=1\}、頂点を e0,…,ene_0,\dots,e_n とします。頂点の列 [v0,…,vn][v_0,\dots,v_n] は、RN\mathbb{R}^N の点 viv_i に対し、ei↦vie_i\mapsto v_i なるアフィン写像 Δn→RN\Delta^n\to\mathbb{R}^N も表すものとします([v0,…,vn][v_0,\dots,v_n] を線形単体という)。

定義 2.1(特異鎖複体)↗

位相空間 XX の特異 nn 単体とは連続写像 σ:Δn→X\sigma:\Delta^n\to X のことである。Cn(X)C_n(X) を特異 nn 単体全体を基底とする自由アーベル群とし(n<0n<0 では 00)、その元を鎖という。境界作用素 ∂:Cn(X)→Cn−1(X)\partial:C_n(X)\to C_{n-1}(X) を

∂σ=∑i=0n(−1)i σ∣[e0,…,ei^,…,en]\partial\sigma=\sum_{i=0}^n(-1)^i\,\sigma|_{[e_0,\dots,\widehat{e_i},\dots,e_n]}

(ei^\widehat{e_i} は除くの意味。σ\sigma を第 ii 面に制限し Δn−1\Delta^{n-1} と同一視したもの)で定める。

たとえば n=2n=2 の特異単体は、XX の中に描いた「三角形」です。その境界は 3 つの辺(面)を、符号をつけて足したもので、頂点の番号の順に向きをつけると辺が一周してつながります。

e₀e₁e₂+[e₀,e₁]+[e₁,e₂]−[e₀,e₂]
2 単体 [e₀,e₁,e₂] の境界。∂σ = [e₁,e₂] − [e₀,e₂] + [e₀,e₁]。符号が − の辺 [e₀,e₂] は向きを逆にたどると、3 辺が e₀→e₁→e₂→e₀ と一周する閉じた道になる。

命題 2.2

∂∘∂=0\partial\circ\partial=0 である。

証明(命題 2.2)

∂∂σ=∑j<i(−1)i(−1)jσ∣[…ej^…ei^… ]+∑j>i(−1)i(−1)j−1σ∣[…ei^…ej^… ]\partial\partial\sigma=\sum_{j<i}(-1)^{i}(-1)^{j}\sigma|_{[\dots\widehat{e_j}\dots\widehat{e_i}\dots]}+\sum_{j>i}(-1)^{i}(-1)^{j-1}\sigma|_{[\dots\widehat{e_i}\dots\widehat{e_j}\dots]}。第 ii 面を先に除いてから jj 番目(元の番号で j>ij>i のとき j−1j-1 番目)を除くことに注意します。右辺の二つの和で、同じ組 {i,j}\{i,j\} に対応する項は符号が逆なので打ち消し合います。

定義 2.3(ホモロジー群)↗

Zn(X)=ker⁡∂nZ_n(X)=\ker\partial_n(サイクル)、Bn(X)=im⁡∂n+1B_n(X)=\operatorname{im}\partial_{n+1}(境界)とする。命題 2.2 から Bn⊆ZnB_n\subseteq Z_n で、

Hn(X)=Zn(X)/Bn(X)H_n(X)=Z_n(X)/B_n(X)

を XX の nn 次特異ホモロジー群という。連続写像 f:X→Yf:X\to Y は f♯σ=f∘σf_\sharp\sigma=f\circ\sigma により鎖準同型 f♯:C∗(X)→C∗(Y)f_\sharp:C_*(X)\to C_*(Y)(∂f♯=f♯∂\partial f_\sharp=f_\sharp\partial)を与え、準同型 f∗:Hn(X)→Hn(Y)f_*:H_n(X)\to H_n(Y) を誘導する。(gf)∗=g∗f∗(gf)_*=g_*f_*, (id)∗=id(\mathrm{id})_*=\mathrm{id} である。

以上は一般の鎖複体(アーベル群の列 CnC_n と ∂∂=0\partial\partial=0 を満たす ∂\partial)にそのまま通用する構成で、Hn(C)H_n(C) を同様に定め、鎖準同型が HnH_n の準同型を誘導します。鎖ホモトピーとは、鎖準同型 f,g:C→Df,g:C\to D に対する準同型の列 P:Cn→Dn+1P:C_n\to D_{n+1} で ∂P+P∂=g−f\partial P+P\partial=g-f を満たすものをいいます。このとき f∗=g∗f_*=g_* です(サイクル zz に対し g(z)−f(z)=∂Pz+P∂z=∂Pz∈Bn(D)g(z)-f(z)=\partial Pz+P\partial z=\partial Pz\in B_n(D))。

命題 2.4(H₀ と点のホモロジー)✓

  1. XX の道連結成分を XαX_\alpha とすると C∗(X)=⨁αC∗(Xα)C_*(X)=\bigoplus_\alpha C_*(X_\alpha) で、したがって Hn(X)≅⨁αHn(Xα)H_n(X)\cong\bigoplus_\alpha H_n(X_\alpha)。
  2. H0(X)H_0(X) は道連結成分の集合上の自由アーベル群である。特に XX が道連結なら H0(X)≅ZH_0(X)\cong\mathbb{Z}(同型は ε(∑niσi)=∑ni\varepsilon\bigl(\sum n_i\sigma_i\bigr)=\sum n_i)。
  3. 一点 pt\mathrm{pt} では H0=ZH_0=\mathbb{Z}, Hn=0 (n≥1)H_n=0\ (n\ge1)。
証明(命題 2.4)

(1) Δn\Delta^n は道連結なので、特異単体の像は一つの道連結成分に入ります。よって基底が成分ごとに分かれ、∂\partial も成分を保ちます。(2) C0C_0 は点上の自由アーベル群、C1C_1 の元 σ\sigma に対して ∂σ=σ(e1)−σ(e0)\partial\sigma=\sigma(e_1)-\sigma(e_0)(道の終点と始点の差)なので、B0B_0 は同じ道連結成分内の二点の差で生成されます。商は成分上の自由アーベル群です。(3) 各次元に特異単体はただ一つ(定値)で、∂σn=∑i=0n(−1)iσn−1\partial\sigma_n=\sum_{i=0}^n(-1)^i\sigma_{n-1} は nn が偶数(n≥2n\ge2)なら σn−1\sigma_{n-1}、奇数なら 00。したがって鎖複体は ⋯→Z→1Z→0Z→1Z→0Z→0\cdots\to\mathbb{Z}\xrightarrow{1}\mathbb{Z}\xrightarrow{0}\mathbb{Z}\xrightarrow{1}\mathbb{Z}\xrightarrow{0}\mathbb{Z}\to0 で、n≥1n\ge1 のホモロジーは 00、H0=ZH_0=\mathbb{Z} です。

簡約ホモロジー: 拡大 ε:C0(X)→Z\varepsilon:C_0(X)\to\mathbb{Z} を C−1=ZC_{-1}=\mathbb{Z} とする複体 C~∗(X)\tilde C_*(X) のホモロジーを H~n(X)\tilde H_n(X) と書きます(X≠∅X\ne\varnothing)。H~n=Hn (n≥1)\tilde H_n=H_n\ (n\ge1), H~0⊕Z≅H0\tilde H_0\oplus\mathbb{Z}\cong H_0 です。

アーベル群の列 A→fB→gCA\xrightarrow{f}B\xrightarrow{g}C が完全であるとは im⁡f=ker⁡g\operatorname{im}f=\ker g のことです(ff で届く先が、ちょうど gg で 00 に潰れる元の全体ということ)。短完全列は、0→A→B→C→00\to A\to B\to C\to0 の形で各所が完全な列で、AA が BB の部分、CC がその商にあたります。次の定理は、このような列からホモロジーの間の「ひとつながりの完全列」を作ります。連結準同型 δ\delta は、その列の次数を 1 つ下げて橋渡しする写像です。鎖複体の短完全列 0→A∗→iB∗→jC∗→00\to A_*\xrightarrow{i}B_*\xrightarrow{j}C_*\to0(各次元で完全で、i,ji,j は鎖準同型)が与えられたとします。

定理 3.1(ホモロジーの長完全列)✓

短完全列 0→A∗→B∗→C∗→00\to A_*\to B_*\to C_*\to0 に対し、連結準同型 δ:Hn(C)→Hn−1(A)\delta:H_n(C)\to H_{n-1}(A) が定まり、

⋯→Hn(A)→i∗Hn(B)→j∗Hn(C)→δHn−1(A)→i∗Hn−1(B)→⋯\cdots\to H_n(A)\xrightarrow{i_*}H_n(B)\xrightarrow{j_*}H_n(C)\xrightarrow{\delta}H_{n-1}(A)\xrightarrow{i_*}H_{n-1}(B)\to\cdots

は完全である。δ\delta は鎖複体の短完全列の射に関して自然である。

証明(定理 3.1)

δ\delta の定義: c∈Cnc\in C_n をサイクルとします。jj は全射だから j(b)=cj(b)=c なる b∈Bnb\in B_n が取れ、j∂b=∂c=0j\partial b=\partial c=0 なので ∂b=i(a)\partial b=i(a) なる a∈An−1a\in A_{n-1} があります。i∂a=∂∂b=0i\partial a=\partial\partial b=0 と ii の単射性から aa はサイクルです。δ[c]=[a]\delta[c]=[a] とします。

well-defined: 同じ cc に対する別の持ち上げ b′b' を取ると、j(b′−b)=0j(b'-b)=0 から b′−b=i(a′′)b'-b=i(a'') (a′′∈Ana''\in A_n) で、∂b′=∂b+i(∂a′′)\partial b'=\partial b+i(\partial a'') なので aa は ∂a′′\partial a'' だけ、つまり境界の分だけ変わり、[a][a] は変わりません。cc を c+∂c′c+\partial c'(c′∈Cn+1c'\in C_{n+1})に取り替えるときは、j(b′′′)=c′j(b''')=c' なる b′′′∈Bn+1b'''\in B_{n+1} を取って b+∂b′′′b+\partial b''' を持ち上げに選べます。∂(b+∂b′′′)=∂b\partial(b+\partial b''')=\partial b なので aa は変わりません。準同型性は構成から明らかです。自然性も構成から従います。

完全性。 Hn(B)H_n(B) の位置: j∗i∗=0j_*i_*=0 は ji=0ji=0。j∗[b]=0j_*[b]=0 なら j(b)=∂c′j(b)=\partial c' で、b′′b'' を j(b′′)=c′j(b'')=c' と取れば b−∂b′′∈ker⁡j=i(An)b-\partial b''\in\ker j=i(A_n) となり、[b]=i∗[a][b]=i_*[a]。 Hn(C)H_n(C) の位置: δj∗=0\delta j_*=0: c=j(b)c=j(b) で bb がサイクルなら a=0a=0。δ[c]=0\delta[c]=0 なら a=∂a′a=\partial a' で、b−i(a′)b-i(a') はサイクルかつ j(b−i(a′))=cj(b-i(a'))=c なので [c]=j∗[b−i(a′)][c]=j_*[b-i(a')]。 Hn−1(A)H_{n-1}(A) の位置: i∗δ[c]=[∂b]=0i_*\delta[c]=[\partial b]=0。i∗[a]=0i_*[a]=0 なら i(a)=∂bi(a)=\partial b (b∈Bnb\in B_n) で、c=j(b)c=j(b) はサイクル(∂c=j∂b=ji(a)=0\partial c=j\partial b=ji(a)=0)で δ[c]=[a]\delta[c]=[a]。

相対ホモロジー: 部分空間 A⊆XA\subseteq X に対し、Cn(A)⊆Cn(X)C_n(A)\subseteq C_n(X) で、Cn(X,A)=Cn(X)/Cn(A)C_n(X,A)=C_n(X)/C_n(A)(AA に入らない単体が基底)は鎖複体をなします。そのホモロジーを Hn(X,A)H_n(X,A) と書きます。

系 3.2(対の長完全列)✓

0→C∗(A)→C∗(X)→C∗(X,A)→00\to C_*(A)\to C_*(X)\to C_*(X,A)\to0 に 定理 3.1 を適用して

⋯→Hn(A)→Hn(X)→Hn(X,A)→∂Hn−1(A)→⋯→H0(X,A)→0\cdots\to H_n(A)\to H_n(X)\to H_n(X,A)\xrightarrow{\partial}H_{n-1}(A)\to\cdots\to H_0(X,A)\to0

の長完全列を得る。簡約ホモロジーでも同様(A≠∅A\ne\varnothing)。

証明(系 3.2)

短完全列であること。 包含 i:Cn(A)→Cn(X)i:C_n(A)\to C_n(X) は、AA の特異単体を XX の特異単体とみなす写像で、基底を基底の一部へ単射に送るので単射です。商写像 j:Cn(X)→Cn(X,A)j:C_n(X)\to C_n(X,A) は全射で、核は定義から Cn(A)C_n(A) そのものです。よって各 nn で 0→Cn(A)→Cn(X)→Cn(X,A)→00\to C_n(A)\to C_n(X)\to C_n(X,A)\to0 は完全です。AA の特異単体の面はまた AA の特異単体なので ∂Cn(A)⊆Cn−1(A)\partial C_n(A)\subseteq C_{n-1}(A) で、ii は鎖準同型(ii は 定義 2.3 の包含が誘導する i♯i_\sharp)であり、∂\partial は商 C∗(X,A)C_*(X,A) に ∂[c]=[∂c]\partial[c]=[\partial c] として降りて(代表元を Cn(A)C_n(A) の元だけ変えても、像は Cn−1(A)C_{n-1}(A) の元だけ変わる)、∂∂=0\partial\partial=0 も商で保たれます(命題 2.2)。この ∂\partial に関して jj も鎖準同型です。

長完全列。 鎖複体の短完全列に 定理 3.1 を適用すれば、主張の長完全列を得ます。右端は、n<0n<0 で Cn(A)=0C_n(A)=0 ゆえ H−1(A)=0H_{-1}(A)=0 なので、H0(X)→H0(X,A)→H−1(A)=0H_0(X)\to H_0(X,A)\to H_{-1}(A)=0 の完全性から H0(X)→H0(X,A)H_0(X)\to H_0(X,A) が全射となり、→H0(X,A)→0\to H_0(X,A)\to0 で終わります。

簡約版。 A≠∅A\ne\varnothing とし、簡約鎖複体 C~∗(A)→C~∗(X)\tilde C_*(A)\to\tilde C_*(X)(−1-1 次は Z→idZ\mathbb{Z}\xrightarrow{\mathrm{id}}\mathbb{Z}。拡大 ε\varepsilon は包含と可換)を考えます。−1-1 次での商は 00、n≥0n\ge0 では Cn(X,A)C_n(X,A) なので、0→C~∗(A)→C~∗(X)→C∗(X,A)→00\to\tilde C_*(A)\to\tilde C_*(X)\to C_*(X,A)\to0 は各次元で完全な鎖複体の短完全列です(−1-1 次では 0→Z→idZ→0→00\to\mathbb{Z}\xrightarrow{\mathrm{id}}\mathbb{Z}\to0\to0)。ここで C~∗(A)\tilde C_*(A) が ε\varepsilon を含めて鎖複体になる(ε∂1=0\varepsilon\partial_1=0)のは、∂σ=σ(e1)−σ(e0)\partial\sigma=\sigma(e_1)-\sigma(e_0) の係数和が 00 だからです。定理 3.1 から、HnH_n を H~n\tilde H_n に替えた長完全列 ⋯→H~n(A)→H~n(X)→Hn(X,A)→H~n−1(A)→⋯\cdots\to\tilde H_n(A)\to\tilde H_n(X)\to H_n(X,A)\to\tilde H_{n-1}(A)\to\cdots を得ます。簡約ホモロジーは空でない空間に対してだけ定めたので、H~∗(A)\tilde H_*(A) を考えるために A≠∅A\ne\varnothing を仮定しました。

また、このような列の間の射を扱うために次の補題を使います。

補題 3.3(五項補題)✓

可換図式

A1→A2→A3→A4→A5↓α1↓α2↓α3↓α4↓α5B1→B2→B3→B4→B5\begin{matrix}A_1&\to&A_2&\to&A_3&\to&A_4&\to&A_5\\ \downarrow\alpha_1&&\downarrow\alpha_2&&\downarrow\alpha_3&&\downarrow\alpha_4&&\downarrow\alpha_5\\ B_1&\to&B_2&\to&B_3&\to&B_4&\to&B_5\end{matrix}

で二つの行が完全とする。α1,α2,α4,α5\alpha_1,\alpha_2,\alpha_4,\alpha_5 が同型ならば α3\alpha_3 も同型である。

証明(補題 3.3)

各行の写像を左から fi:Ai→Ai+1f_i:A_i\to A_{i+1}, gi:Bi→Bi+1g_i:B_i\to B_{i+1} とします。単射: α3(a)=0\alpha_3(a)=0 とすると α4f3(a)=g3α3(a)=0\alpha_4f_3(a)=g_3\alpha_3(a)=0 なので f3(a)=0f_3(a)=0、よって a=f2(a′)a=f_2(a')。g2α2(a′)=α3f2(a′)=0g_2\alpha_2(a')=\alpha_3f_2(a')=0 から α2(a′)=g1(b)\alpha_2(a')=g_1(b)、b=α1(a′′)b=\alpha_1(a'') とすれば α2(a′−f1a′′)=0\alpha_2(a'-f_1a'')=0、よって a′=f1(a′′)a'=f_1(a'') で a=f2f1(a′′)=0a=f_2f_1(a'')=0。全射: b∈B3b\in B_3 に対し g3(b)=α4(a4)g_3(b)=\alpha_4(a_4) と取れ、α5f4(a4)=g4g3(b)=0\alpha_5f_4(a_4)=g_4g_3(b)=0 だから f4(a4)=0f_4(a_4)=0、a4=f3(a)a_4=f_3(a)。b−α3(a)b-\alpha_3(a) は g3g_3 で 00 に送られるので g2(b′)g_2(b') と書け、b′=α2(a′)b'=\alpha_2(a') と取れば b=α3(a)+α3f2(a′)b=\alpha_3(a)+\alpha_3f_2(a')。

ホモトピー F:X×I→YF:X\times I\to Y は、各特異単体 σ\sigma に対して「柱体」Δn×I\Delta^n\times I を YY に写します。柱体を単体に分割しておけば、その分割が鎖ホモトピーを与えます。ここで示したいのは「図形を連続的に変形しても、穴の数え方は変わらない」ことで、そのために 2 つの写像 f,gf,g の間の変形を、鎖の間の対応 PP(ff の像と gg の像の間に「膜」を張る操作)に翻訳します。証明は、この膜の境界を計算して gg の像から ff の像を引いたものになることを確かめる、という流れです。n=1n=1 の場合を図に示します。

v₀v₁w₀w₁f∘σg∘σ
柱体 Δ¹×I の分割。下の線分が f∘σ、上の線分が g∘σ。2 つの三角形 [v₀,w₀,w₁] と [v₀,v₁,w₁] の符号つきの和が Pσ になる。

定理 4.1(ホモトピー不変性)✓

f,g:X→Yf,g:X\to Y がホモトピック(F:X×I→YF:X\times I\to Y, F0=fF_0=f, F1=gF_1=g)ならば、f∗=g∗:Hn(X)→Hn(Y)f_*=g_*:H_n(X)\to H_n(Y) である。

証明(定理 4.1)

鎖ホモトピー P:Cn(X)→Cn+1(Y)P:C_n(X)\to C_{n+1}(Y) を作ります。特異単体 σ:Δn→X\sigma:\Delta^n\to X に対し σ×id:Δn×I→X×I\sigma\times\mathrm{id}:\Delta^n\times I\to X\times I を考えます。Δn×{0}\Delta^n\times\{0\} の頂点を v0,…,vnv_0,\dots,v_n、Δn×{1}\Delta^n\times\{1\} の頂点を w0,…,wnw_0,\dots,w_n とします。柱体 Δn×I⊂Rn+1×R\Delta^n\times I\subset\mathbb{R}^{n+1}\times\mathbb{R} は n+1n+1 個の (n+1)(n+1) 単体 [v0,…,vi,wi,…,wn][v_0,\dots,v_i,w_i,\dots,w_n] (0≤i≤n0\le i\le n) に分割されます。

Pσ=∑i=0n(−1)i F∘(σ×id)∣[v0,…,vi,wi,…,wn]∈Cn+1(Y)P\sigma=\sum_{i=0}^n(-1)^i\,F\circ(\sigma\times\mathrm{id})|_{[v_0,\dots,v_i,w_i,\dots,w_n]}\in C_{n+1}(Y)

と定めます。この PP を角柱作用素(prism operator)といいます。主張は ∂P=g♯−f♯−P∂\partial P=g_\sharp-f_\sharp-P\partial です。∂Pσ\partial P\sigma を、F∘(σ×id)F\circ(\sigma\times\mathrm{id}) の制限として書くと

∑j≤i(−1)i+j[v0..vj^..vi,wi..wn]+∑j≥i(−1)i+j+1[v0..vi,wi..wj^..wn].\sum_{j\le i}(-1)^{i+j}[v_0..\widehat{v_j}..v_i,w_i..w_n]+\sum_{j\ge i}(-1)^{i+j+1}[v_0..v_i,w_i..\widehat{w_j}..w_n].

j=ij=i の項は、第一の和では (−1)2i[v0..vi−1,wi..wn](-1)^{2i}[v_0..v_{i-1},w_i..w_n]、第二の和では −[v0..vi,wi+1..wn]-[v_0..v_i,w_{i+1}..w_n] です。前者の ii 番目は後者の (i−1)(i-1) 番目と打ち消し合い、残るのは第一の和の i=0i=0 の項 [w0..wn][w_0..w_n](=gσ=g\sigma)と第二の和の i=ni=n の項 −[v0..vn]-[v_0..v_n](=−fσ=-f\sigma)です。j≠ij\ne i の項は −P∂σ-P\partial\sigma になります(∂σ\partial\sigma の第 jj 面に柱体の分割を作ったものが、ちょうどこの項)。以上から ∂P+P∂=g♯−f♯\partial P+P\partial=g_\sharp-f_\sharp で、サイクル上で g∗=f∗g_*=f_* です。

系 4.2(ホモトピー同値は同型を与える)✓

f:X→Yf:X\to Y がホモトピー同値(gf≃idXgf\simeq\mathrm{id}_X, fg≃idYfg\simeq\mathrm{id}_Y なる gg がある)ならば、f∗:Hn(X)→Hn(Y)f_*:H_n(X)\to H_n(Y) は同型である。特に可縮な空間 XX では H~n(X)=0\tilde H_n(X)=0 であり、AA が XX の変位レトラクトならば Hn(A)≅Hn(X)H_n(A)\cong H_n(X)。

証明(系 4.2)

定理 4.1 から g∗f∗=idg_*f_*=\mathrm{id}, f∗g∗=idf_*g_*=\mathrm{id}。可縮なら一点にホモトピー同値であり 命題 2.4 (3)。変位レトラクトは包含とレトラクションが互いに逆のホモトピー同値です(定義 2.6[基本群と被覆空間])。

切除定理の証明は、鎖を細かく切る重心細分が核心です。以下の三段階で行います。(1) 凸集合の線形鎖の細分、(2) 特異鎖への拡張、(3) 十分細かくすれば開被覆に従う。

ねらいは、AA と BB のように 2 つの開集合で XX が覆われているとき、鎖を十分小さく刻めば各部品がどちらかの中に収まる、という点です。そうなれば、XX 全体のホモロジーを AA と BB の側だけで計算できます。刻み方は、三角形ならば各辺の中点や重心に新しい頂点を取って小さな三角形に分けていくもので、この操作を何度も繰り返すと単体の直径は一定の割合で小さくなります(重心細分)。下の SS がその 1 回分の操作、TT は細分する前後の鎖をつなぐ鎖ホモトピーです。

(1) 線形鎖の細分。 凸集合 Y⊆RNY\subseteq\mathbb{R}^N に対し、LCn(Y)⊆Cn(Y)LC_n(Y)\subseteq C_n(Y) を線形単体 [w0,…,wn][w_0,\dots,w_n] (wi∈Yw_i\in Y) が生成する部分群とし、LC−1(Y)=ZLC_{-1}(Y)=\mathbb{Z}(空単体)とする(∂[w0]=[∅]\partial[w_0]=[\varnothing])。b∈Yb\in Y に対し錐

b:LCn(Y)→LCn+1(Y),b[w0,…,wn]=[b,w0,…,wn]b:LC_n(Y)\to LC_{n+1}(Y),\quad b[w_0,\dots,w_n]=[b,w_0,\dots,w_n]

(b[∅]=[b]b[\varnothing]=[b])を定めると ∂b(α)=α−b(∂α)\partial b(\alpha)=\alpha-b(\partial\alpha) が成り立ちます(面の符号を並べればよい)。

LCn(Y)LC_n(Y) 上の S:LCn→LCnS:LC_n\to LC_n と T:LCn→LCn+1T:LC_n\to LC_{n+1} を、nn に関する帰納法で S=idS=\mathrm{id}, T=0T=0 (n=−1n=-1)、線形単体 λ\lambda に対し

Sλ=bλ(S∂λ),Tλ=bλ(λ−T∂λ)S\lambda=b_\lambda(S\partial\lambda),\qquad T\lambda=b_\lambda(\lambda-T\partial\lambda)

で定めます(bλb_\lambda は λ\lambda の重心)。

補題 5.1(重心細分の鎖ホモトピー)✓

∂S=S∂\partial S=S\partial かつ ∂T+T∂=id−S\partial T+T\partial=\mathrm{id}-S である。SλS\lambda は、λ\lambda の重心細分に現れる nn 次元単体(頂点が λ\lambda の面の重心の列 bλ0,…,bλnb_{\lambda_0},\dots,b_{\lambda_n}, λ0⊃⋯\lambda_0\supset\cdots)の符号つきの和で、各単体の直径は nn+1diam⁡λ\frac{n}{n+1}\operatorname{diam}\lambda 以下である。

証明(補題 5.1)

n=−1n=-1 は明らか。帰納法の仮定の下で、∂Sλ=∂bλ(S∂λ)=S∂λ−bλ(∂S∂λ)=S∂λ−bλ(S∂∂λ)=S∂λ\partial S\lambda=\partial b_\lambda(S\partial\lambda)=S\partial\lambda-b_\lambda(\partial S\partial\lambda)=S\partial\lambda-b_\lambda(S\partial\partial\lambda)=S\partial\lambda。また

∂Tλ=(λ−T∂λ)−bλ∂(λ−T∂λ),\partial T\lambda=(\lambda-T\partial\lambda)-b_\lambda\partial(\lambda-T\partial\lambda),

ここで帰納法の仮定から ∂T∂λ=∂λ−S∂λ−T∂∂λ=∂λ−S∂λ\partial T\partial\lambda=\partial\lambda-S\partial\lambda-T\partial\partial\lambda=\partial\lambda-S\partial\lambda なので ∂(λ−T∂λ)=S∂λ\partial(\lambda-T\partial\lambda)=S\partial\lambda で、∂Tλ=λ−T∂λ−bλS∂λ=λ−T∂λ−Sλ\partial T\lambda=\lambda-T\partial\lambda-b_\lambda S\partial\lambda=\lambda-T\partial\lambda-S\lambda。

単体の形は Sλ=bλ(S∂λ)S\lambda=b_\lambda(S\partial\lambda) の定義の帰納から読み取れます。直径: 線形単体の直径は頂点間距離の最大値です。SλS\lambda の単体 [bλ,w0,…,wn−1][b_\lambda,w_0,\dots,w_{n-1}]([w0,…,wn−1][w_0,\dots,w_{n-1}] は SS で細分した λ\lambda の面の単体)で、∣bλ−wi∣≤max⁡j∣bλ−vj∣|b_\lambda-w_i|\le\max_j|b_\lambda-v_j|(vjv_j は λ\lambda の頂点。距離は凸関数なので λ\lambda 上の最大は頂点で取る)、また bλ=1n+1∑vib_\lambda=\frac1{n+1}\sum v_i より ∣bλ−vj∣=1n+1∣∑i(vi−vj)∣≤nn+1diam⁡λ|b_\lambda-v_j|=\frac1{n+1}|\sum_i(v_i-v_j)|\le\frac n{n+1}\operatorname{diam}\lambda。∣wi−wk∣|w_i-w_k| は帰納法により面の細分の直径 ≤n−1ndiam⁡≤nn+1diam⁡λ\le\frac{n-1}n\operatorname{diam}\le\frac n{n+1}\operatorname{diam}\lambda。

(2) 特異鎖への拡張。 特異単体 σ:Δn→X\sigma:\Delta^n\to X に対し、idΔn=[e0,…,en]∈LCn(Δn)\mathrm{id}_{\Delta^n}=[e_0,\dots,e_n]\in LC_n(\Delta^n) として

Sσ=σ♯S(idΔn),Tσ=σ♯T(idΔn)S\sigma=\sigma_\sharp S(\mathrm{id}_{\Delta^n}),\qquad T\sigma=\sigma_\sharp T(\mathrm{id}_{\Delta^n})

と定めます。アフィン写像は重心を保つので、線形鎖の S,TS,T はアフィン写像と可換です。これを使うと、σ\sigma の第 ii 面 σ∣i=σ∘Fi\sigma|_i=\sigma\circ F_i (Fi:Δn−1→ΔnF_i:\Delta^{n-1}\to\Delta^n は面の包含) に対し S(σ∣i)=σ♯(Fi)♯S(idΔn−1)=σ♯S(Fi)S(\sigma|_i)=\sigma_\sharp(F_i)_\sharp S(\mathrm{id}_{\Delta^{n-1}})=\sigma_\sharp S(F_i) なので ∂Sσ=σ♯∂S(id)=σ♯S∂(id)=S∂σ\partial S\sigma=\sigma_\sharp\partial S(\mathrm{id})=\sigma_\sharp S\partial(\mathrm{id})=S\partial\sigma。∂T+T∂=1−S\partial T+T\partial=1-S も同様。したがって 補題 5.1 は特異鎖でも成り立ちます。

反復 SmS^m に対し Dm=∑0≤i<mTSiD_m=\sum_{0\le i<m}TS^i とおくと、∂Dm+Dm∂=∑(∂T+T∂)Si=∑(1−S)Si=1−Sm\partial D_m+D_m\partial=\sum(\partial T+T\partial)S^i=\sum(1-S)S^i=1-S^m です。

(3) 開被覆への適用。 U={Uj}\mathcal{U}=\{U_j\} を XX の部分集合の族で、内部 int⁡Uj\operatorname{int}U_j が XX を覆うものとし、CnU(X)⊆Cn(X)C_n^{\mathcal{U}}(X)\subseteq C_n(X) を、像がどれかの UjU_j に入る単体が生成する部分複体とする。

定理 5.2(小さい鎖の定理)✓

包含 ι:C∗U(X)→C∗(X)\iota:C_*^{\mathcal{U}}(X)\to C_*(X) はホモロジーの同型を誘導する。

証明(定理 5.2)

特異単体 σ:Δn→X\sigma:\Delta^n\to X に対し、{σ−1(int⁡Uj)}\{\sigma^{-1}(\operatorname{int}U_j)\} は コンパクト集合 Δn\Delta^n の開被覆なので、補題 3.4[基本群と被覆空間] から Lebesgue 数 δ\delta が取れます。補題 5.1 により、SmidΔnS^m\mathrm{id}_{\Delta^n} の各単体の直径は (nn+1)mdiam⁡Δn<δ(\frac n{n+1})^m\operatorname{diam}\Delta^n<\delta となる mm があり、σ\sigma はそれらを UjU_j のいずれかに送ります。そこで m(σ)m(\sigma) を、Δn\Delta^n の mm 回重心細分(幾何学的な単体の集合)の各単体が σ\sigma により何らかの UjU_j に入るような最小の mm とします。σ\sigma の第 ii 面 σi\sigma_i について、Δn−1\Delta^{n-1} の mm 回細分の単体は Δn\Delta^n の mm 回細分の単体の面なので m(σi)≤m(σ)m(\sigma_i)\le m(\sigma) です。

Dσ=Dm(σ)σD\sigma=D_{m(\sigma)}\sigma として D:Cn(X)→Cn+1(X)D:C_n(X)\to C_{n+1}(X) を定め、ρ=1−∂D−D∂\rho=1-\partial D-D\partial とおきます。∂ρ=∂−∂D∂=ρ∂\partial\rho=\partial-\partial D\partial=\rho\partial より ρ\rho は鎖準同型です。計算すると

ρσ=σ−∂Dm(σ)σ−D∂σ=Sm(σ)σ+Dm(σ)∂σ−D∂σ=Sm(σ)σ+∑i(−1)i ⁣ ⁣∑m(σi)≤k<m(σ) ⁣ ⁣TSkσi.\rho\sigma=\sigma-\partial D_{m(\sigma)}\sigma-D\partial\sigma=S^{m(\sigma)}\sigma+D_{m(\sigma)}\partial\sigma-D\partial\sigma=S^{m(\sigma)}\sigma+\sum_i(-1)^i\!\!\sum_{m(\sigma_i)\le k<m(\sigma)}\!\!TS^k\sigma_i.

第一項は m(σ)m(\sigma) の定義から CUC^{\mathcal{U}} に入ります。第二項の TSkσiTS^k\sigma_i は、k≥m(σi)k\ge m(\sigma_i) なので SkσiS^k\sigma_i の単体が UjU_j に入っており、TT は単体の像の内部(その単体を含む凸集合)の鎖を作るので CUC^{\mathcal{U}} に入ります。よって ρ:C∗(X)→C∗U(X)\rho:C_*(X)\to C_*^{\mathcal{U}}(X) で、σ∈CU\sigma\in C^{\mathcal{U}} なら m=0m=0, Dσ=0D\sigma=0, D∂σ=0D\partial\sigma=0 より ρι=id\rho\iota=\mathrm{id}。また ιρ=1−∂D−D∂≃1\iota\rho=1-\partial D-D\partial\simeq1 です。したがって ι∗\iota_* は同型。

定理 5.3(切除定理)✓

Z⊆A⊆XZ\subseteq A\subseteq X とし、ZZ の閉包が AA の内部に含まれるとする。このとき包含 (X∖Z,A∖Z)↪(X,A)(X\setminus Z,A\setminus Z)\hookrightarrow(X,A) は

Hn(X∖Z,A∖Z)→ ≅ Hn(X,A)H_n(X\setminus Z,A\setminus Z)\xrightarrow{\ \cong\ }H_n(X,A)

を誘導する。

証明(定理 5.3)

B=X∖ZB=X\setminus Z とおくと int⁡B=X∖Z‾\operatorname{int}B=X\setminus\overline{Z} であり、Z‾⊆int⁡A\overline Z\subseteq\operatorname{int}A から int⁡A∪int⁡B=X\operatorname{int}A\cup\operatorname{int}B=X。U={A,B}\mathcal{U}=\{A,B\} とし、C∗U(X)=C∗(A)+C∗(B)C_*^{\mathcal{U}}(X)=C_*(A)+C_*(B) です。

二つの短完全列

0→C∗(A)→C∗U(X)→C∗U(X)/C∗(A)→0,0→C∗(A)→C∗(X)→C∗(X,A)→00\to C_*(A)\to C_*^{\mathcal{U}}(X)\to C_*^{\mathcal{U}}(X)/C_*(A)\to0,\qquad 0\to C_*(A)\to C_*(X)\to C_*(X,A)\to0

の間に包含による射があり、定理 3.1 の長完全列の可換図式(δ\delta の自然性)ができます。C∗(A)C_*(A) 上の射は恒等、CU→CC^{\mathcal U}\to C は 定理 5.2 により同型を誘導するので、五項補題 補題 3.3 から Hn(CU/C(A))→Hn(X,A)H_n(C^{\mathcal{U}}/C(A))\to H_n(X,A) は同型です。

一方、第二同型定理により C∗(B)/C∗(A∩B)→(C∗(A)+C∗(B))/C∗(A)C_*(B)/C_*(A\cap B)\to(C_*(A)+C_*(B))/C_*(A) は鎖複体の同型です(B∖A=X∖AB\setminus A=X\setminus A に含まれる単体が両方の基底)。A∩B=A∖ZA\cap B=A\setminus Z なので、C∗(X∖Z,A∖Z)≅CU/C(A)C_*(X\setminus Z,A\setminus Z)\cong C^{\mathcal U}/C(A)。合成して主張を得ます。

定理 5.4(Mayer–Vietoris 完全列)✓

A,B⊆XA,B\subseteq X で int⁡A∪int⁡B=X\operatorname{int}A\cup\operatorname{int}B=X とする。このとき完全列

⋯→Hn(A∩B)→(i∗, j∗)Hn(A)⊕Hn(B)→k∗−l∗Hn(X)→∂Hn−1(A∩B)→⋯\cdots\to H_n(A\cap B)\xrightarrow{(i_*,\,j_*)}H_n(A)\oplus H_n(B)\xrightarrow{k_*-l_*}H_n(X)\xrightarrow{\partial}H_{n-1}(A\cap B)\to\cdots

が存在する(i,j,k,li,j,k,l は包含)。A∩B≠∅A\cap B\ne\varnothing なら簡約ホモロジーでも成り立つ。

証明(定理 5.4)

列 0→C∗(A∩B)→(i,j)C∗(A)⊕C∗(B)→k−lC∗(A)+C∗(B)→00\to C_*(A\cap B)\xrightarrow{(i,j)}C_*(A)\oplus C_*(B)\xrightarrow{k-l}C_*(A)+C_*(B)\to0 は短完全です(α↦(α,α)\alpha\mapsto(\alpha,\alpha)、(x,y)↦x−y(x,y)\mapsto x-y。核は (α,α)(\alpha,\alpha) の形)。定理 3.1 を適用し、Hn(C∗(A)+C∗(B))≅Hn(X)H_n(C_*(A)+C_*(B))\cong H_n(X) に 定理 5.2 を使います。簡約版は、次数 −1-1 に Z→Z2→Z\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}^2\to\mathbb{Z} を足せば(A∩B≠∅A\cap B\ne\varnothing なら ε\varepsilon が全射)、同じ議論です。

定理 6.1(球面のホモロジー)✓

n≥0n\ge0 に対し H~k(Sn)≅Z (k=n)\tilde H_k(S^n)\cong\mathbb{Z}\ (k=n)、H~k(Sn)=0 (k≠n)\tilde H_k(S^n)=0\ (k\ne n)。

証明(定理 6.1)

n=0n=0: S0S^0 は 2 点で、命題 2.4 から H0=Z2H_0=\mathbb{Z}^2, H~0=Z\tilde H_0=\mathbb{Z}, 他は 00。

n≥1n\ge1 で Sn−1S^{n-1} まで成立とします。Sn⊂Rn+1S^n\subset\mathbb{R}^{n+1} で N=en+1N=e_{n+1}、S=−en+1S=-e_{n+1}、A=Sn∖{S}A=S^n\setminus\{S\}, B=Sn∖{N}B=S^n\setminus\{N\} とおくと、A,BA,B は開集合で、立体射影により Rn\mathbb{R}^n に同相ゆえ可縮、A∩B={xn+1≠±1}A\cap B=\{x_{n+1}\ne\pm1\} は赤道 Sn−1={xn+1=0}S^{n-1}=\{x_{n+1}=0\} に変位レトラクトします(ホモトピー H(x,t)=(x′,(1−t)xn+1)/∥(x′,(1−t)xn+1)∥H(x,t)=(x',(1-t)x_{n+1})/\|(x',(1-t)x_{n+1})\|, ただし x=(x′,xn+1)x=(x',x_{n+1}), x′≠0x'\ne0)。簡約 Mayer–Vietoris 完全列 定理 5.4 と 系 4.2 から

0=H~k(A)⊕H~k(B)→H~k(Sn)→∂H~k−1(A∩B)→H~k−1(A)⊕H~k−1(B)=00=\tilde H_k(A)\oplus\tilde H_k(B)\to\tilde H_k(S^n)\xrightarrow{\partial}\tilde H_{k-1}(A\cap B)\to\tilde H_{k-1}(A)\oplus\tilde H_{k-1}(B)=0

より H~k(Sn)≅H~k−1(Sn−1)\tilde H_k(S^n)\cong\tilde H_{k-1}(S^{n-1}) を得ます。帰納法を完了します。

系 6.2(球面は円板のレトラクトにならない)✓

n≥1n\ge1 のとき、DnD^n から境界 Sn−1S^{n-1} へのレトラクション r:Dn→Sn−1r:D^n\to S^{n-1}(r∣Sn−1=idr|_{S^{n-1}}=\mathrm{id})は存在しない。

証明(系 6.2)

DnD^n は凸ゆえ可縮で H~n−1(Dn)=0\tilde H_{n-1}(D^n)=0。r∘i=idr\circ i=\mathrm{id} なら H~n−1(Sn−1)=Z→i∗0→r∗Z\tilde H_{n-1}(S^{n-1})=\mathbb{Z}\xrightarrow{i_*}0\xrightarrow{r_*}\mathbb{Z} の合成が恒等になり矛盾(定理 6.1)。

レトラクトになるかどうかは、空間をどこに埋め込むかに依存しない性質として定式化できます。球面は円板全体のレトラクトにはなりませんが、近傍のレトラクトにはなります。この差を言葉にしたのが次の概念です。

定義 6.3(絶対レトラクト・絶対近傍レトラクト)↗

距離づけ可能な空間 XX が絶対レトラクト(AR)であるとは、XX を距離づけ可能な空間 YY の閉部分集合 AA に同相に埋め込むたびに、AA が YY のレトラクトになる(r∣A=idAr|_A=\mathrm{id}_A となる連続写像 r:Y→Ar:Y\to A がある)ことをいう。AA が YY のある開近傍 N⊇AN\supseteq A のレトラクトになることを要求したものを絶対近傍レトラクト(ANR)という。

命題 6.4(AR と ANR の例)✓

n≥1n\ge1 とする。

  1. 立方体 [0,1]n[0,1]^n と、それに同相な空間(円板 DnD^n、単体 Δn\Delta^n など)は AR である。
  2. 球面 Sn−1S^{n-1} は ANR である。
  3. 球面 Sn−1S^{n-1} は AR ではない。
証明(命題 6.4)

距離空間は正規なので(定理 5.2[分離公理と距離づけ可能性])、Tietze の拡張定理 定理 5.2[局所コンパクト空間] が使えます。YY を距離づけ可能、A⊆YA\subseteq Y を閉集合、h:X→Ah:X\to A を同相写像とします。

(1) X=[0,1]nX=[0,1]^n とし、h−1:A→[0,1]nh^{-1}:A\to[0,1]^n の各成分 A→[0,1]A\to[0,1] を Tietze の定理 1 で Y→[0,1]Y\to[0,1] に延ばし、まとめて F:Y→[0,1]nF:Y\to[0,1]^n とします。r=h∘F:Y→Ar=h\circ F:Y\to A は連続で、a∈Aa\in A では F(a)=h−1(a)F(a)=h^{-1}(a) なので r(a)=ar(a)=a です。XX が [0,1]n[0,1]^n と同相なら、その同相を hh に合成すれば同じ議論が通ります。

(2) X=Sn−1⊆RnX=S^{n-1}\subseteq\mathbb{R}^n とし、h−1:A→Sn−1⊆Rnh^{-1}:A\to S^{n-1}\subseteq\mathbb{R}^n の各成分を Tietze の定理 2 で Y→RY\to\mathbb{R} に延ばして F:Y→RnF:Y\to\mathbb{R}^n を得ます。N=F−1(Rn∖{0})N=F^{-1}(\mathbb{R}^n\setminus\{0\}) は開集合で、AA 上では ∣F∣=1|F|=1 なので A⊆NA\subseteq N です。r=h∘(F/∣F∣):N→Ar=h\circ(F/|F|):N\to A は連続で、AA 上で恒等写像です。

(3) Sn−1S^{n-1} は DnD^n(距離空間)の閉部分集合です。AR ならレトラクション Dn→Sn−1D^n\to S^{n-1} が存在しますが、これは 系 6.2 に反します。

注意 6.5

コンパクトな位相多様体と有限 CW 複体(とくに有限単体複体)はすべて ANR であり、ANR が AR であることと可縮であることは同値です(K. Borsuk, Theory of Retracts, PWN, 1967)。ANR はホモトピー論で扱いやすい空間の典型で、たとえば ANR の閉部分集合 A⊆XA\subseteq X(X,AX,A ともに ANR)はホモトピー拡張性質を持ちます。本記事ではこれらを使いません。

系 6.6(次元の不変性)✓

Rn\mathbb{R}^n と Rm\mathbb{R}^m が同相なら n=mn=m である。

証明(系 6.6)

同相写像 h:Rn→Rmh:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m は Rn∖{0}→Rm∖{h(0)}\mathbb{R}^n\setminus\{0\}\to\mathbb{R}^m\setminus\{h(0)\} の同相を与えます。Rk∖{p}\mathbb{R}^k\setminus\{p\} は Sk−1S^{k-1} にホモトピー同値(変位レトラクト)なので、系 4.2 と 定理 6.1 から H~n−1(Sn−1)=Z\tilde H_{n-1}(S^{n-1})=\mathbb{Z} と H~n−1(Sm−1)\tilde H_{n-1}(S^{m-1}) が同型で、後者が非零なのは n−1=m−1n-1=m-1 のときに限ります。(nn または mm が 11 のときも S0S^0 の簡約ホモロジーで同様。)

例 6.7(2 点を除いた平面)

X=R2∖{p,q}X=\mathbb{R}^2\setminus\{p,q\} とし、pp と qq の間を通る縦線を境に A={x 座標が q より左}∖{p}A=\{x\text{ 座標が }q\text{ より左}\}\setminus\{p\} のように開集合に分けます。A≃S1A\simeq S^1, B≃S1B\simeq S^1、A∩BA\cap B は縦の帯で可縮です。簡約 Mayer–Vietoris から H~1(X)≅H~1(A)⊕H~1(B)≅Z2\tilde H_1(X)\cong\tilde H_1(A)\oplus\tilde H_1(B)\cong\mathbb{Z}^2、H~k(X)=0 (k≠1)\tilde H_k(X)=0\ (k\ne1)。

注意 6.8

本記事では使いませんが、道連結な XX の H1(X)H_1(X) は基本群のアーベル化 π1(X)ab\pi_1(X)^{\mathrm{ab}} に同型であることが知られています(Hurewicz の定理の 1 次元の場合。参考文献の Hatcher 2.A 節)。たとえば S1∨S1S^1\vee S^1 では π1\pi_1 が非可換でも H1=Z2H_1=\mathbb{Z}^2 です。

特異鎖複体の定義で使ったのは、特異単体の集合と「面に制限する」操作だけでした。この節は応用というより、その骨格だけを公理として取り出す見方の紹介で、ホモロジーの計算には直接は使いません。この組み合わせ的な骨格を取り出したものが単体的集合です。空間を単体的集合に(特異単体的集合)、単体的集合を空間に(幾何的実現)移す二つの操作があり、互いに随伴になります。

[n]={0,1,…,n}[n]=\{0,1,\dots,n\} とし、広義単調増加な写像 θ:[m]→[n]\theta:[m]\to[n] を単に単調写像と呼びます。θ\theta に対し、頂点を ej↦eθ(j)e_j\mapsto e_{\theta(j)} と送るアフィン写像を θ∗:Δm→Δn\theta_*:\Delta^m\to\Delta^n とします。座標では θ∗(t0,…,tm)i=∑θ(j)=itj\theta_*(t_0,\dots,t_m)_i=\sum_{\theta(j)=i}t_j で、頂点の行き先を比べれば (θφ)∗=θ∗φ∗(\theta\varphi)_*=\theta_*\varphi_* です。δi:[n−1]→[n]\delta^i:[n-1]\to[n] を ii を飛ばす単射、σi:[n+1]→[n]\sigma^i:[n+1]\to[n] を ii に 2 点を送る全射とします。

定義 7.1(単体的集合)↗

単体的集合 KK とは、集合の列 K0,K1,K2,…K_0,K_1,K_2,\dots と、各単調写像 θ:[m]→[n]\theta:[m]\to[n] に対する写像 θ∗:Kn→Km\theta^*:K_n\to K_m の組で、id∗=id\mathrm{id}^*=\mathrm{id}、(θφ)∗=φ∗θ∗(\theta\varphi)^*=\varphi^*\theta^* を満たすものをいう。KnK_n の元を nn 単体、di=(δi)∗:Kn→Kn−1d_i=(\delta^i)^*:K_n\to K_{n-1} を面写像、si=(σi)∗:Kn→Kn+1s_i=(\sigma^i)^*:K_n\to K_{n+1} を退化写像という。単体的集合の射 f:K→Lf:K\to L とは、写像の族 fn:Kn→Lnf_n:K_n\to L_n で、すべての θ\theta について fmθ∗=θ∗fnf_m\theta^*=\theta^*f_n を満たすものをいう。

例 7.2(単体的集合の例)

(a) 特異単体的集合。位相空間 XX に対し Sing⁡nX\operatorname{Sing}_nX を特異 nn 単体 Δn→X\Delta^n\to X 全体とし、θ∗σ=σ∘θ∗\theta^*\sigma=\sigma\circ\theta_* と定める。(θφ)∗σ=σθ∗φ∗=φ∗θ∗σ(\theta\varphi)^*\sigma=\sigma\theta_*\varphi_*=\varphi^*\theta^*\sigma なので単体的集合 Sing⁡X\operatorname{Sing}X である。(δi)∗(\delta^i)_* は第 ii 面への包含なので、diσd_i\sigma は 定義 2.1 の第 ii 面 σ∣[e0,…,ei^,…,en]\sigma|_{[e_0,\dots,\widehat{e_i},\dots,e_n]} に一致する。連続写像 f:X→Yf:X\to Y は σ↦f∘σ\sigma\mapsto f\circ\sigma により射 Sing⁡X→Sing⁡Y\operatorname{Sing}X\to\operatorname{Sing}Y を与える。

(b) 標準 nn 単体 Δ[n]\Delta[n]。Δ[n]m\Delta[n]_m を単調写像 [m]→[n][m]\to[n] の全体とし、θ∗α=α∘θ\theta^*\alpha=\alpha\circ\theta と定める。

(c) 群の脈体。群 GG に対し NmG=GmN_mG=G^m(N0GN_0G は一点)とし、g=(g1,…,gm)g=(g_1,\dots,g_m) を「0→1→⋯→m0\to1\to\cdots\to m の矢印にラベル gkg_k を付けたもの」と読む。単調写像 θ:[l]→[m]\theta:[l]\to[m] に対し (θ∗g)j=gθ(j−1)+1⋯gθ(j)(\theta^*g)_j=g_{\theta(j-1)+1}\cdots g_{\theta(j)}(θ(j−1)=θ(j)\theta(j-1)=\theta(j) なら単位元)と定めると、連続する区間の積の積は区間の積なので (θφ)∗=φ∗θ∗(\theta\varphi)^*=\varphi^*\theta^* が成り立つ。面写像は d0g=(g2,…,gm)d_0g=(g_2,\dots,g_m)、dig=(…,gigi+1,… )d_ig=(\dots,g_ig_{i+1},\dots) (0<i<m)(0<i<m)、dmg=(g1,…,gm−1)d_mg=(g_1,\dots,g_{m-1}) で、退化写像は単位元を挿入する。

命題 7.3(面写像の関係式と鎖複体)✓

単体的集合 KK において、i<ji<j ならば didj=dj−1did_id_j=d_{j-1}d_i(Kn→Kn−2K_n\to K_{n-2})である。したがって KnK_n を基底とする自由アーベル群 Cn(K)C_n(K) に ∂=∑i=0n(−1)idi\partial=\sum_{i=0}^n(-1)^id_i を入れると ∂∂=0\partial\partial=0 で、鎖複体 C∗(K)C_*(K) が得られる。K=Sing⁡XK=\operatorname{Sing}X ではこれは特異鎖複体 C∗(X)C_*(X) そのものである。

証明(命題 7.3)

i<ji<j のとき、δjδi\delta^j\delta^i と δiδj−1\delta^i\delta^{j-1} はどちらも [n−2]→[n][n-2]\to[n] の単調な単射で、像は [n]∖{i,j}[n]\setminus\{i,j\} です(前者では δi\delta^i の像が [n−1]∖{i}[n-1]\setminus\{i\}、次の δj\delta^j は i<ji<j を動かさず jj を飛ばす。後者では δj−1\delta^{j-1} の像が [n−1]∖{j−1}[n-1]\setminus\{j-1\}、次の δi\delta^i は j−1≥ij-1\ge i を jj に送り ii を飛ばす)。像の決まった単調な単射はただ一つなので δjδi=δiδj−1\delta^j\delta^i=\delta^i\delta^{j-1} で、didj=(δjδi)∗=(δiδj−1)∗=dj−1did_id_j=(\delta^j\delta^i)^*=(\delta^i\delta^{j-1})^*=d_{j-1}d_i です。

∂∂x=∑i,j(−1)i+jdidjx\partial\partial x=\sum_{i,j}(-1)^{i+j}d_id_jx の項を i<ji<j と i≥ji\ge j に分けます。(i,j)↦(j−1,i)(i,j)\mapsto(j-1,i) は {i<j}\{i<j\} から {i′≥j′}\{i'\ge j'\} への全単射で、関係式から didj=dj−1did_id_j=d_{j-1}d_i、符号は (−1)i+j=−(−1)(j−1)+i(-1)^{i+j}=-(-1)^{(j-1)+i} なので、二つの和は打ち消し合います。最後の主張は (a) の did_i の記述と 定義 2.1 から従います。

これは 命題 2.2 の別証明でもあります。逆向きの構成が幾何的実現で、各 nn 単体に Δn\Delta^n を 1 枚ずつ用意し、θ∗\theta^* が指定するとおりに貼り合わせます。

定義 7.4(幾何的実現)↗

単体的集合 KK の幾何的実現 ∣K∣|K| とは、KnK_n に離散位相を入れた直和 ⨆nKn×Δn\bigsqcup_nK_n\times\Delta^n(定義 4.6[積位相・商位相と Tychonoff の定理])を、単調写像 θ:[m]→[n]\theta:[m]\to[n]、x∈Knx\in K_n、t∈Δmt\in\Delta^m に対する関係 (θ∗x,t)∼(x,θ∗t)(\theta^*x,t)\sim(x,\theta_*t) が生成する同値関係で割った商空間である。(x,t)(x,t) の類を [x,t][x,t] と書く。

定理 7.5(幾何的実現と特異単体的集合の随伴)✓

単体的集合 KK と位相空間 XX に対し、連続写像 f:∣K∣→Xf:|K|\to X に射 Φ(f):K→Sing⁡X\Phi(f):K\to\operatorname{Sing}X、Φ(f)n(x)=(t↦f[x,t])\Phi(f)_n(x)=\bigl(t\mapsto f[x,t]\bigr) を対応させる写像

Φ:{連続写像 ∣K∣→X}⟶{単体的集合の射 K→Sing⁡X}\Phi:\{\text{連続写像 }|K|\to X\}\longrightarrow\{\text{単体的集合の射 }K\to\operatorname{Sing}X\}

は全単射である。

証明(定理 7.5)

商写像を qq、x∈Knx\in K_n に対し ιx:Δn→∣K∣\iota_x:\Delta^n\to|K|、t↦[x,t]t\mapsto[x,t] とします。ιx\iota_x は直和への包含と qq の合成なので連続で、Φ(f)n(x)=f∘ιx\Phi(f)_n(x)=f\circ\iota_x は特異 nn 単体です。射であること: Φ(f)m(θ∗x)(t)=f[θ∗x,t]=f[x,θ∗t]=(Φ(f)n(x)∘θ∗)(t)=(θ∗Φ(f)n(x))(t)\Phi(f)_m(\theta^*x)(t)=f[\theta^*x,t]=f[x,\theta_*t]=\bigl(\Phi(f)_n(x)\circ\theta_*\bigr)(t)=\bigl(\theta^*\Phi(f)_n(x)\bigr)(t)。

逆写像を作ります。射 g:K→Sing⁡Xg:K\to\operatorname{Sing}X に対し、⨆Kn×Δn\bigsqcup K_n\times\Delta^n 上の写像 g~(x,t)=gn(x)(t)\tilde g(x,t)=g_n(x)(t) を考えます。生成関係について g~(θ∗x,t)=gm(θ∗x)(t)=(θ∗gn(x))(t)=gn(x)(θ∗t)=g~(x,θ∗t)\tilde g(\theta^*x,t)=g_m(\theta^*x)(t)=(\theta^*g_n(x))(t)=g_n(x)(\theta_*t)=\tilde g(x,\theta_*t) なので、g~\tilde g は生成された同値関係の各類の上で一定で、Ψ(g)[x,t]=gn(x)(t)\Psi(g)[x,t]=g_n(x)(t) が well-defined です。各 {x}×Δn\{x\}\times\Delta^n 上で g~\tilde g は連続写像 gn(x)g_n(x) なので、直和位相の普遍性 命題 4.7[積位相・商位相と Tychonoff の定理] から g~\tilde g は連続、商位相の普遍性 定理 4.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理] から Ψ(g)\Psi(g) は連続です。

定義から Ψ(Φ(f))[x,t]=f[x,t]\Psi(\Phi(f))[x,t]=f[x,t]、Φ(Ψ(g))n(x)(t)=gn(x)(t)\Phi(\Psi(g))_n(x)(t)=g_n(x)(t) なので、Φ\Phi と Ψ\Psi は互いに逆です。

命題 7.6(標準単体の実現)✓

∣Δ[n]∣|\Delta[n]| は Δn\Delta^n と同相である。同相は [α,t]↦α∗t[\alpha,t]\mapsto\alpha_*t で与えられる。

証明(命題 7.6)

ε[α,t]=α∗t\varepsilon[\alpha,t]=\alpha_*t(α∈Δ[n]m\alpha\in\Delta[n]_m、t∈Δmt\in\Delta^m)と置きます。生成関係について ε[θ∗α,t]=(αθ)∗t=α∗θ∗t=ε[α,θ∗t]\varepsilon[\theta^*\alpha,t]=(\alpha\theta)_*t=\alpha_*\theta_*t=\varepsilon[\alpha,\theta_*t] なので well-defined で、定理 7.5 の証明と同じく直和と商の普遍性から連続です。逆向きに η(s)=[id[n],s]\eta(s)=[\mathrm{id}_{[n]},s] と置くと連続で、εη(s)=s\varepsilon\eta(s)=s です。また α=α∗(id[n])\alpha=\alpha^*(\mathrm{id}_{[n]}) なので、生成関係から [α,t]=[α∗id,t]=[id,α∗t]=ηε[α,t][\alpha,t]=[\alpha^*\mathrm{id},t]=[\mathrm{id},\alpha_*t]=\eta\varepsilon[\alpha,t] です。よって ε\varepsilon と η\eta は互いに逆の連続写像です。

二つを合わせると、射 Δ[n]→Sing⁡X\Delta[n]\to\operatorname{Sing}X は連続写像 ∣Δ[n]∣≅Δn→X|\Delta[n]|\cong\Delta^n\to X、すなわち特異 nn 単体と 1 対 1 に対応します。単体的集合の nn 単体とは「Δ[n]\Delta[n] からの射」のことだ、という見方がここから出てきます。

注意 7.7

自然な写像 ∣Sing⁡X∣→X|\operatorname{Sing}X|\to X(定理 7.5 で恒等射に対応するもの)は任意の空間で弱ホモトピー同値であり(定義 6.1[ホモトピー群とファイブレーション])、∣K∣|K| はつねに CW 複体です(非退化な単体が胞体)。また群 GG の脈体の実現 ∣NG∣|NG| は離散群 GG の分類空間 BGBG(定義 6.4[ホモトピー群とファイブレーション])を与えます。これらの証明には単体の非退化表示の議論が要り、本サイトではまだ扱っていません(P. G. Goerss, J. F. Jardine, Simplicial Homotopy Theory, Birkhäuser, 1999 — 第 I 章)。

演習 8.1標準

A⊆XA\subseteq X が XX のレトラクト(r:X→Ar:X\to A, ri=idAri=\mathrm{id}_A)ならば、Hn(X)≅Hn(A)⊕Hn(X,A)H_n(X)\cong H_n(A)\oplus H_n(X,A) であることを示せ。

解答

系 3.2 の長完全列で i∗:Hn(A)→Hn(X)i_*:H_n(A)\to H_n(X) は r∗i∗=idr_*i_*=\mathrm{id} から単射。よって連結準同型 ∂:Hn(X,A)→Hn−1(A)\partial:H_n(X,A)\to H_{n-1}(A) は i∗i_* の単射性(完全性)から零写像であり、0→Hn(A)→Hn(X)→Hn(X,A)→00\to H_n(A)\to H_n(X)\to H_n(X,A)\to0 が完全。r∗r_* が切断を与えるので分裂し、Hn(X)≅Hn(A)⊕Hn(X,A)H_n(X)\cong H_n(A)\oplus H_n(X,A)。

補題 8.2(円板と境界球面の対のホモロジー)✓

n≥1n\ge1 とする。Hk(Dn,Sn−1)H_k(D^n,S^{n-1}) は k=nk=n のとき Z\mathbb{Z}、それ以外は 00 である。

証明(補題 8.2)

DnD^n は凸なので可縮で、系 4.2 から H~∗(Dn)=0\tilde H_*(D^n)=0 です。Sn−1≠∅S^{n-1}\ne\varnothing なので 系 3.2 の簡約版が使え、その完全性から Hk(Dn,Sn−1)≅H~k−1(Sn−1)H_k(D^n,S^{n-1})\cong\tilde H_{k-1}(S^{n-1}) です。定理 6.1 から k=nk=n のとき Z\mathbb{Z}、他は 00 です。

補題 8.3(固定点をもたない球面の自己写像は対心写像とホモトピック)✓

連続写像 f:Sn→Snf:S^n\to S^n がすべての xx で f(x)≠xf(x)\ne x を満たすならば、ff は対心写像 −id-\mathrm{id} にホモトピックである。したがって f∗=(−id)∗f_*=(-\mathrm{id})_* である。

証明(補題 8.3)

H(x,t)=(1−t)f(x)−tx∥(1−t)f(x)−tx∥H(x,t)=\dfrac{(1-t)f(x)-tx}{\|(1-t)f(x)-tx\|} とおきます。分母が 00 になると (1−t)f(x)=tx(1-t)f(x)=tx で、両辺の長さから 1−t=t1-t=t、すなわち t=1/2t=1/2 かつ f(x)=xf(x)=x となり仮定に反します。よって HH は連続で H(⋅,0)=fH(\cdot,0)=f, H(⋅,1)=−idH(\cdot,1)=-\mathrm{id} です。ホモトピー不変性(定理 4.1)から f∗=(−id)∗f_*=(-\mathrm{id})_* が従います。

演習 8.4標準

Hk(Dn,Sn−1)H_k(D^n,S^{n-1}) を求めよ。

解答

DnD^n は可縮なので、系 3.2 の簡約版より Hk(Dn,Sn−1)≅H~k−1(Sn−1)H_k(D^n,S^{n-1})\cong\tilde H_{k-1}(S^{n-1})。定理 6.1 から k=nk=n のとき Z\mathbb{Z}、他は 00。

演習 8.5標準

X=S1∨S1X=S^1\vee S^1 の簡約ホモロジーを Mayer–Vietoris で求めよ。

解答

接続点以外の第 2 の円の一点を除いたものを AA、第 1 の円の一点を除いたものを BB とすると、A≃S1A\simeq S^1, B≃S1B\simeq S^1, A∩BA\cap B は可縮(接続点から出る 4 本の弧の合併)。簡約 Mayer–Vietoris から H~1(X)≅Z2\tilde H_1(X)\cong\mathbb{Z}^2、他の次元は 00。

演習 8.6難

連続写像 f:Sn→Snf:S^n\to S^n がすべての xx で f(x)≠xf(x)\ne x を満たすならば、ff は対心写像 −id-\mathrm{id} にホモトピックであることを示せ。

解答

H(x,t)=(1−t)f(x)−tx∥(1−t)f(x)−tx∥H(x,t)=\dfrac{(1-t)f(x)-tx}{\|(1-t)f(x)-tx\|} とおく。分母が 00 になると (1−t)f(x)=tx(1-t)f(x)=tx で、両辺の長さ(=1=1 倍)から 1−t=t1-t=t、すなわち t=1/2t=1/2 かつ f(x)=xf(x)=x となり仮定に反する。よって HH は連続で H(⋅,0)=fH(\cdot,0)=f, H(⋅,1)=−idH(\cdot,1)=-\mathrm{id}。ホモトピー不変性(定理 4.1)から f∗=(−id)∗f_*=(-\mathrm{id})_* が従う。

  • A. Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002 — 第 2 章(特異ホモロジー、切除、Mayer–Vietoris)。
  • J. R. Munkres, Elements of Algebraic Topology, Addison-Wesley, 1984 — 特異ホモロジーの章。
  • 田村一郎『トポロジー』岩波書店、1972 — ホモロジー群の章。
  • 枡田幹也『代数的トポロジー』朝倉書店、2002 — 特異ホモロジーの章。
  • J. P. May, A Concise Course in Algebraic Topology, University of Chicago Press, 1999 — 第 13 章。
  • P. G. Goerss, J. F. Jardine, Simplicial Homotopy Theory, Birkhäuser, 1999 — 第 I 章(単体的集合、幾何的実現と特異単体的集合の随伴)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 5 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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