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解の存在と一意性:Picard–Lindelöf・Peano・Gronwall と初期値への依存

対象読者: 本テーマ第 1 章の初等解法と、学部の解析学(距離空間、完備性、関数列の一様収束)を学んだ人。ルベーグ積分や関数解析は仮定しません。

前提となる記事:常微分方程式の初等解法:変数分離・1 階線形・完全形と「解とは何か」、距離空間:完備化・Baire のカテゴリー定理・縮小写像の原理・コンパクト性、関数列と一様収束:極限と積分・微分はいつ交換できるか

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「今この瞬間の状態から、変化の速さが決まる」という規則だけを与えて、その先の動きを追うのが微分方程式です。ところで、その規則に従う動きは本当に存在するのか、存在するとして 1 通りに決まるのか、出発点を少しずらしても行き先は少ししか変わらないのか、という素朴な疑問があります。この記事は、これらに「条件がよければ、はい」と答える理由を示します。読み終えると、数値計算や「出発点から決まる動き」という言い方がなぜ意味を持つのかが説明できるようになります。

  • 初期値問題 y′=f(x,y)y'=f(x,y)、y(x0)=y0y(x_0)=y_0 は、積分方程式 y=y0+∫f(s,y(s)) dsy=y_0+\int f(s,y(s))\,ds と同値で、右辺は連続関数の空間上の写像です。ff が yy について Lipschitz 連続(変数 yy の差に比例する程度にしか値が変わらない)なら、これは(重みつきノルムで)縮小写像(2 点の距離を一定の割合で縮める写像)で、Banach の不動点定理が局所解の存在と一意性を与えます(Picard–Lindelöf)。
  • Gronwall の不等式は、微分方程式の解の差を評価する基本道具です。一意性、連続依存性、微分可能依存性、解の大域存在がすべてこの 1 本の不等式から出ます。
  • Lipschitz 条件がなく ff が連続なだけでも、Euler 折れ線と Arzelà–Ascoli の議論で解の存在は言えます(Peano)。ただし一意性は一般に失われます。
  • 解は延ばせるだけ延ばせ、最大解(これ以上延ばせない解)の端点では、グラフがどんなコンパクト集合からも脱出します。線形増大条件の下では解は大域的に存在します。
  • 解は初期値と初期時刻に連続に依存し、ff が C1C^1 ならば初期値に C1C^1 級に依存して、その微分は変分方程式(初期値を動かしたときの解の変化率が満たす線形方程式)を満たします。変分方程式を連立した拡大系に同じ結果を使う帰納法で、ff が CkC^k 級なら解も (x,x0,y0)(x,x_0,y_0) について CkC^k 級(C∞C^\infty なら C∞C^\infty 級)になります。自励系ではこれが流れ(各点を出発点とする解を、時間ごとに並べた写像)を定め、半群・多様体上のベクトル場の理論の出発点になります。

前の章 では、公式で書ける方程式を解きました。しかし、実際に現れる微分方程式のほとんどは公式で解けません。それでも私たちは「x0x_0 で y0y_0 を出発した解」を語り、数値計算でそれを近似し、その初期値依存性を調べます。それが意味を持つ前提は、次の 3 つの問いに答えることです。

  1. 存在:解は少なくとも 1 つ存在するか。
  2. 一意性:存在するとして、ただ 1 つか。
  3. 安定性(依存性):初期値を少し変えると、解は少ししか変わらないか。

どれも自明ではなく、前の章で見たとおり、一意性は y′=3y2/3y'=3y^{2/3} で壊れます。そして 1 と 2 に 3 を加えた 3 条件が揃うことを、数学では適切性(well-posedness、Hadamard)といいます。この記事では、ff が yy について Lipschitz 連続という条件のもとで適切性を証明します。

証明の方法も、この記事の見どころです。解を「方程式の解」としてではなく、積分作用素の不動点として捉えるため、関数の空間の完備性が主役になります。微分方程式の問題が関数解析の問題に変わる。この見方が、後の章(Green 関数、半群、偏微分方程式)にそのままつながります。

2. 準備:積分方程式と Lipschitz 条件

Section titled “2. 準備:積分方程式と Lipschitz 条件”

この章では D⊂R×RnD\subset\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n を開集合、f:D→Rnf:D\to\mathbb{R}^n を連続とし、∣⋅∣|\cdot| をユークリッドノルムとします。ベクトル値関数の積分は成分ごとに行います。

補題 2.1(積分のノルム)✓

v:[a,b]→Rnv:[a,b]\to\mathbb{R}^n が連続なら ∣∫abv ds∣≤∫ab∣v∣ ds\left|\int_a^bv\,ds\right|\le\int_a^b|v|\,ds である。

証明(補題 2.1)

w=∫abv dsw=\int_a^bv\,ds とおくと、∣w∣2=∫ab⟨w,v(s)⟩ ds≤∣w∣∫ab∣v∣ ds|w|^2=\int_a^b\langle w,v(s)\rangle\,ds\le|w|\int_a^b|v|\,ds です(Cauchy–Schwarz)。w≠0w\ne0 なら ∣w∣|w| で割ります。

補題 2.2(初期値問題と積分方程式)✓

区間 I∋x0I\ni x_0 上の連続関数 φ\varphi で (x,φ(x))∈D(x,\varphi(x))\in D を満たすものについて、次は同値である。

  1. φ\varphi は C1C^1 級で φ′=f(x,φ)\varphi'=f(x,\varphi)、φ(x0)=y0\varphi(x_0)=y_0 を満たす。
  2. φ(x)=y0+∫x0xf(s,φ(s)) ds\varphi(x)=y_0+\displaystyle\int_{x_0}^{x}f(s,\varphi(s))\,ds(x∈Ix\in I)。
証明(補題 2.2)

(1)⇒(2) は微分積分学の基本定理(定理 5.4[積分の基本定理と定積分])を各成分に適用します。(2)⇒(1) は、右辺の被積分関数が連続なので、定理 5.2[積分の基本定理と定積分] により右辺が C1C^1 級で、その微分が f(x,φ(x))f(x,\varphi(x)) になります。

定義 2.3(y について局所 Lipschitz)↗

ff が DD で yy について局所 Lipschitz 連続であるとは、任意のコンパクト集合 K⊂DK\subset D に対し定数 L=LKL=L_K が存在して

∣f(x,y)−f(x,z)∣≤L∣y−z∣((x,y),(x,z)∈K)|f(x,y)-f(x,z)|\le L|y-z|\qquad((x,y),(x,z)\in K)

が成り立つことをいう。

命題 2.4(C¹ 級なら局所 Lipschitz)✓

ff と Jacobi 行列 fy=∂f/∂yf_y=\partial f/\partial y が DD 上で連続なら、ff は yy について局所 Lipschitz 連続である。

証明(命題 2.4)

K⊂DK\subset D をコンパクトとします。DD が開集合なので、r>0r>0 を、Kr={p:dist⁡(p,K)≤r}⊂DK_r=\{p:\operatorname{dist}(p,K)\le r\}\subset D となるようにとれます(KrK_r は有界閉集合)。M=max⁡Kr∣f∣M=\max_{K_r}|f|、N=max⁡Kr∥fy∥N=\max_{K_r}\|f_y\| とします。(x,y),(x,z)∈K(x,y),(x,z)\in K とします。∣y−z∣≥r|y-z|\ge r なら ∣f(x,y)−f(x,z)∣≤2M≤(2M/r)∣y−z∣|f(x,y)-f(x,z)|\le2M\le(2M/r)|y-z| です。∣y−z∣<r|y-z|<r なら、線分 {(x,y+θ(z−y))}\{(x,y+\theta(z-y))\} は KrK_r に含まれ、ベクトル値の平均値不等式(補題 2.2[逆関数定理・陰関数定理と条件付き極値])により ∣f(x,y)−f(x,z)∣≤N∣y−z∣|f(x,y)-f(x,z)|\le N|y-z| です。L=max⁡(2M/r,N)L=\max(2M/r,N) とすればよいです。

補題 3.1(Gronwall の不等式)✓

u,β:[a,b]→[0,∞)u,\beta:[a,b]\to[0,\infty) を連続、α≥0\alpha\ge0 を定数とし、すべての x∈[a,b]x\in[a,b] で

u(x)≤α+∫axβ(s)u(s) dsu(x)\le\alpha+\int_a^x\beta(s)u(s)\,ds

が成り立つとする。このとき u(x)≤αexp⁡(∫axβ(s) ds)u(x)\le\alpha\exp\left(\int_a^x\beta(s)\,ds\right) である。とくに α=0\alpha=0 なら u≡0u\equiv0。

証明(補題 3.1)

U(x)=α+∫axβu dsU(x)=\alpha+\int_a^x\beta u\,ds とおくと、UU は C1C^1 級で U′=βu≤βUU'=\beta u\le\beta U、u≤Uu\le U です。B(x)=∫axβB(x)=\int_a^x\beta とすると (Ue−B)′=(U′−βU)e−B≤0(Ue^{-B})'=(U'-\beta U)e^{-B}\le0 なので Ue−BUe^{-B} は単調非増加(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理])で、U(x)e−B(x)≤U(a)=αU(x)e^{-B(x)}\le U(a)=\alpha です。よって u≤U≤αeBu\le U\le\alpha e^{B} です。

基点より左側(x<x0x<x_0)の評価は、x↦2x0−xx\mapsto2x_0-x で反転すれば同じ形になるので、以下では ∣x−x0∣|x-x_0| を使って区別せず述べます。

定理 3.2(解の一意性)✓

ff が DD で yy について局所 Lipschitz 連続であるとする。(φ,I)(\varphi,I) と (ψ,J)(\psi,J) を y′=f(x,y)y'=f(x,y) の解とし、ある x0∈I∩Jx_0\in I\cap J で φ(x0)=ψ(x0)\varphi(x_0)=\psi(x_0) なら、I∩JI\cap J 全体で φ=ψ\varphi=\psi である。

証明(定理 3.2)

[a,b]⊂I∩J[a,b]\subset I\cap J を x0x_0 を含むコンパクト区間とします。K={(x,φ(x)),(x,ψ(x)):x∈[a,b]}K=\{(x,\varphi(x)),(x,\psi(x)):x\in[a,b]\} はコンパクトで、Lipschitz 定数 LL をとれます。補題 2.2 と 補題 2.1 から、u=∣φ−ψ∣u=|\varphi-\psi| は

u(x)≤∣∫x0x∣f(s,φ)−f(s,ψ)∣ ds∣≤L∣∫x0xu(s) ds∣u(x)\le\left|\int_{x_0}^{x}|f(s,\varphi)-f(s,\psi)|\,ds\right|\le L\left|\int_{x_0}^{x}u(s)\,ds\right|

を満たします。補題 3.1(α=0\alpha=0)から u≡0u\equiv0 です。[a,b][a,b] は任意なので結論が従います。

定理 4.1(Picard–Lindelöf の定理)✓

R=[x0−a,x0+a]×Bˉ(y0,b)⊂DR=[x_0-a,x_0+a]\times\bar B(y_0,b)\subset D とし、M=max⁡R∣f∣M=\max_R|f|、LL を RR 上の yy に関する Lipschitz 定数とする。h=min⁡(a,b/M)h=\min(a,b/M)(M=0M=0 なら h=ah=a)とおく。このとき初期値問題 y′=f(x,y)y'=f(x,y)、y(x0)=y0y(x_0)=y_0 は [x0−h,x0+h][x_0-h,x_0+h] 上で解をただ 1 つ持つ。この解は、φ0≡y0\varphi_0\equiv y_0、φk+1(x)=y0+∫x0xf(s,φk(s)) ds\varphi_{k+1}(x)=y_0+\int_{x_0}^xf(s,\varphi_k(s))\,ds の一様極限である。

証明の方針は、積分方程式の右辺を写像 TT とみて、その不動点を縮小写像の原理で見つけることです。素朴な距離のままでは積分のたびに LL 倍が出て縮小になるとは限らないので、指数関数 e−2L∣x−x0∣e^{-2L|x-x_0|} を重みとして掛けた距離を使います。この重みは、積分で出る LL 倍を打ち消して、縮小率をちょうど 1/21/2 にするための工夫です。最後の一意性は、解のグラフが箱の外に出る最初の時刻を考えます。そこまでは傾きが MM 以下なので、bb だけ進めずに矛盾が出る、という背理法です。

証明(定理 4.1)

I=[x0−h,x0+h]I=[x_0-h,x_0+h]、X={φ∈C(I;Rn):∣φ(x)−y0∣≤b}X=\{\varphi\in C(I;\mathbb{R}^n):|\varphi(x)-y_0|\le b\} とし、L>0L>0 としてよい(L=0L=0 ならどの数に取り直してもよい)。XX に重みつき距離

d(φ,ψ)=max⁡x∈Ie−2L∣x−x0∣∣φ(x)−ψ(x)∣d(\varphi,\psi)=\max_{x\in I}e^{-2L|x-x_0|}|\varphi(x)-\psi(x)|

を入れます。e−2Lhmax⁡∣φ−ψ∣≤d(φ,ψ)≤max⁡∣φ−ψ∣e^{-2Lh}\max|\varphi-\psi|\le d(\varphi,\psi)\le\max|\varphi-\psi| なので、dd に関するコーシー列は一様コーシー列で、一様収束極限は連続(定理 6.2[関数列と一様収束]、定理 4.1[関数列と一様収束])かつ条件 ∣φ−y0∣≤b|\varphi-y_0|\le b を保ちます。よって (X,d)(X,d) は完備です。

(Tφ)(x)=y0+∫x0xf(s,φ(s)) ds(T\varphi)(x)=y_0+\int_{x_0}^xf(s,\varphi(s))\,ds とします。∣Tφ(x)−y0∣≤M∣x−x0∣≤Mh≤b|T\varphi(x)-y_0|\le M|x-x_0|\le Mh\le b なので Tφ∈XT\varphi\in X です。さらに

∣Tφ(x)−Tψ(x)∣≤L∣∫x0x∣φ−ψ∣ ds∣≤L d(φ,ψ)∣∫x0xe2L∣s−x0∣ds∣≤12e2L∣x−x0∣d(φ,ψ)|T\varphi(x)-T\psi(x)|\le L\left|\int_{x_0}^{x}|\varphi-\psi|\,ds\right|\le L\,d(\varphi,\psi)\left|\int_{x_0}^{x}e^{2L|s-x_0|}ds\right|\le\frac{1}{2}e^{2L|x-x_0|}d(\varphi,\psi)

ですから d(Tφ,Tψ)≤12d(φ,ψ)d(T\varphi,T\psi)\le\frac12d(\varphi,\psi) で、TT は縮小写像です。Banach の不動点定理(定理 6.2[距離空間])により不動点がただ 1 つ存在し、その点は任意の出発点からの反復の極限です(出発点を φ0≡y0∈X\varphi_0\equiv y_0\in X にとる)。不動点は 補題 2.2 により解です。一意性:II 上の任意の解 φ\varphi について、グラフが Bˉ(y0,b)\bar B(y_0,b) から出ることはありません。出るとすると、t1=sup⁡{t∈[x0,x0+h]:∣φ−y0∣≤b on [x0,t]}t_1=\sup\{t\in[x_0,x_0+h]:|\varphi-y_0|\le b\ \text{on}\ [x_0,t]\} は x0+hx_0+h より小さく、∣φ(t1)−y0∣=b|\varphi(t_1)-y_0|=b ですが、[x0,t1][x_0,t_1] ではグラフが RR に入って ∣φ′∣≤M|\varphi'|\le M なので b=∣φ(t1)−y0∣≤M(t1−x0)<bb=|\varphi(t_1)-y_0|\le M(t_1-x_0)<b となり矛盾します(t1−x0<h≤b/Mt_1-x_0<h\le b/M。M=0M=0 なら中央が 00 で b>0b>0 に反します)(左側も同じ)。したがって解は XX の元で、不動点の一意性から 1 つに限られます。

スカラーの場合の局所版は 距離空間 の 定理 6.5[距離空間] にもあります。そこでは通常の一様距離を使うため存在区間が 1/(2L)1/(2L) で制限されますが、ここでは重みつき距離でこの制限を外しています。

重みつき距離 dd を使うのが技巧です。素朴な一様距離では Lh<1L h<1 を要求し、hh を小さく取り直す必要がありますが、dd では縮小率が 1/21/2 に固定でき、解の存在区間 hh が LL によりません。この性質は §6 で本質的に効きます。

系 4.2(最大解の存在と一意性)✓

ff が DD で連続かつ yy について局所 Lipschitz 連続なら、任意の (x0,y0)∈D(x_0,y_0)\in D に対し y(x0)=y0y(x_0)=y_0 の最大解がただ 1 つ存在し、その区間は開区間 (α,β)(\alpha,\beta) である。

証明(系 4.2)

前章(定義 6.1)[常微分方程式の初等解法] で導入した性質のうち、(E)(各点を通る解の存在)を 定理 4.1 が、(U)(解の一意性)を 定理 3.2 が与えます。あとは 定理 6.2[常微分方程式の初等解法] です(前章は n=1n=1 で述べましたが、証明は未知関数の次元によりません)。

例 4.3(定理が保証する区間の大きさ)

y′=y2y'=y^2、y(0)=1y(0)=1 に 定理 4.1 を適用します。R=[−a,a]×[1−b,1+b]R=[-a,a]\times[1-b,1+b] では M=(1+b)2M=(1+b)^2 で、aa はいくらでも大きくとれるので h=b/(1+b)2h=b/(1+b)^2 です。これは b=1b=1 で最大値 1/41/4 をとります。実際の最大解 1/(1−x)1/(1-x) は (−∞,1)(-\infty,1) 上で存在するので、定理が保証する [−1/4,1/4][-1/4,1/4] は控えめですが、「解が発散するまでの時間」のオーダー(11)は正しく捉えています。この見積もりを繰り返し使って解を延ばしていくのが §6 の議論です。

例 4.4(Picard 反復は Taylor 多項式)

y′=yy'=y、y(0)=1y(0)=1 では、φ0=1\varphi_0=1、φ1=1+x\varphi_1=1+x、φ2=1+x+x2/2\varphi_2=1+x+x^2/2、と反復が φk=∑j≤kxj/j!\varphi_k=\sum_{j\le k}x^j/j! になり、exe^x に一様収束します。

反復を重ねるごとに φk\varphi_k が exe^x に重なっていく様子を見てください。

y'=y、y(0)=1 の Picard 反復 φ_k が k=0 の定数関数 1 から始まり、k=7 までに指数関数 e^x のグラフにほぼ重なるまで近づいていく動画。
図. y'=y、y(0)=1 の Picard 反復 φ₀, φ₁, …, φ₇(赤)。薄い青は前の反復。原点から遠い所ほど収束が遅いが、反復とともに一様に e^x(灰)へ近づく。

ff が連続なだけで Lipschitz 条件がないとき、解の一意性は失われますが(前章の 3y2/33y^{2/3})、存在は残ります。この存在を示すにはもはや縮小写像は使えません。かわりにコンパクト性を使います。

補題 5.1(Arzelà–Ascoli の補題)✓

φk:[a,b]→Rn\varphi_k:[a,b]\to\mathbb{R}^n(k∈Nk\in\mathbb{N})が連続で、(i) 一様有界:∣φk(x)∣≤C|\varphi_k(x)|\le C、(ii) 同程度連続:任意の ε>0\varepsilon>0 に対し δ>0\delta>0 が存在して、すべての kk と ∣x−x′∣<δ|x-x'|<\delta で ∣φk(x)−φk(x′)∣<ε|\varphi_k(x)-\varphi_k(x')|<\varepsilon とする。このとき、一様収束する部分列が存在する。

証明(補題 5.1)

実数値関数の場合は、コンパクト距離空間 [a,b][a,b] 上の Arzelà–Ascoli の定理の点列版(系 3.4[Arzelà–Ascoli と Stone–Weierstrass])そのものです。Rn\mathbb{R}^n 値のときは、成分ごとに適用します。第 1 成分の列 (φk(1))(\varphi_k^{(1)}) は一様有界かつ同程度連続(∣φk(1)∣≤∣φk∣|\varphi_k^{(1)}|\le|\varphi_k|、∣φk(1)(x)−φk(1)(x′)∣≤∣φk(x)−φk(x′)∣|\varphi_k^{(1)}(x)-\varphi_k^{(1)}(x')|\le|\varphi_k(x)-\varphi_k(x')|)なので一様収束する部分列を持ちます。その部分列の第 2 成分にもう一度適用して部分列を取り、これを第 nn 成分まで繰り返せば、全成分が一様収束する、すなわち ∣⋅∣|\cdot| に関して一様収束する部分列が得られます。

定理 5.2(Peano の存在定理)✓

定理 4.1 の記号で、ff が RR 上で連続(Lipschitz 条件は不要)とする。このとき初期値問題 y′=f(x,y)y'=f(x,y)、y(x0)=y0y(x_0)=y_0 は [x0−h,x0+h][x_0-h,x_0+h] 上で解を持つ。

証明の方針は、Euler 折れ線(各小区間で傾きを左端の値に固定してつないだ折れ線)を細かく刻んだ列を作り、Arzelà–Ascoli の補題で一様収束する部分列を取り出して、その極限が解になることを示すことです。折れ線を階段関数 τN\tau_N を使った積分の形に書き直すのは、極限をとった式を積分方程式と見比べるためです。

証明(定理 5.2)

右側 [x0,x0+h][x_0,x_0+h] を示します(左側は f~(x,y)=−f(2x0−x,y)\tilde f(x,y)=-f(2x_0-x,y) に右側の結果を適用して、x↦2x0−xx\mapsto2x_0-x で反転すれば得られます)。

Euler 折れ線。 自然数 NN に対し δ=h/N\delta=h/N、xj=x0+jδx_j=x_0+j\delta とし、φN(x0)=y0\varphi_N(x_0)=y_0、x∈[xj,xj+1]x\in[x_j,x_{j+1}] では

φN(x)=φN(xj)+(x−xj)f(xj,φN(xj))\varphi_N(x)=\varphi_N(x_j)+(x-x_j)f(x_j,\varphi_N(x_j))

と順に定めます。帰納的に ∣φN(x)−y0∣≤M(x−x0)≤b|\varphi_N(x)-y_0|\le M(x-x_0)\le b なので ff の引数は常に RR の中にあり、折れ線 φN\varphi_N は定義できます。傾きの大きさは MM 以下なので ∣φN(x)−φN(x′)∣≤M∣x−x′∣|\varphi_N(x)-\varphi_N(x')|\le M|x-x'| です。よって (φN)(\varphi_N) は一様有界かつ同程度連続で、補題 5.1 により一様収束する部分列 φNk→φ\varphi_{N_k}\to\varphi があります。

極限が解であること。 τN(s)=xj\tau_N(s)=x_j(s∈[xj,xj+1)s\in[x_j,x_{j+1}))とおくと、φN(x)=y0+∫x0xf(τN(s),φN(τN(s))) ds\varphi_N(x)=y_0+\int_{x_0}^xf(\tau_N(s),\varphi_N(\tau_N(s)))\,ds です。ff は RR 上で一様連続(補題 2.3[常微分方程式の初等解法])なので、ε>0\varepsilon>0 に対し、∣s−τN(s)∣≤δ|s-\tau_N(s)|\le\delta、∣φN(s)−φN(τN(s))∣≤Mδ|\varphi_N(s)-\varphi_N(\tau_N(s))|\le M\delta から、NN が十分大きいとき

∣f(τN(s),φN(τN(s)))−f(s,φN(s))∣<ε\bigl|f(\tau_N(s),\varphi_N(\tau_N(s)))-f(s,\varphi_N(s))\bigr|<\varepsilon

が全 ss で成り立ちます。したがって ∣φN(x)−y0−∫x0xf(s,φN(s)) ds∣≤εh\left|\varphi_N(x)-y_0-\int_{x_0}^xf(s,\varphi_N(s))\,ds\right|\le\varepsilon h です。N=Nk→∞N=N_k\to\infty のとき、φNk→φ\varphi_{N_k}\to\varphi は一様で ff は一様連続なので f(s,φNk(s))→f(s,φ(s))f(s,\varphi_{N_k}(s))\to f(s,\varphi(s)) も一様です。よって ∣φ(x)−y0−∫x0xf(s,φ(s)) ds∣≤εh\left|\varphi(x)-y_0-\int_{x_0}^xf(s,\varphi(s))\,ds\right|\le\varepsilon h で、ε\varepsilon は任意なので積分方程式が成り立ち、補題 2.2 から解です。

この証明が与えるのは「ある解」であって、「Euler 折れ線の極限として決まる解」ではないことに注意してください。たとえば y′=3y2/3y'=3y^{2/3}、y(0)=0y(0)=0 では f(0)=0f(0)=0 なので Euler 折れ線は恒等的に 00 で、解 y=x3y=x^3 は折れ線法からは出てきません。一意性がない問題では、近似法が拾う解は近似の仕方に依存します。

解がどこまで延びるかを調べます。次の定理は、有限の端点 β\beta で解が止まるなら、その直前でグラフはどんなコンパクト集合の中にもいられない、つまり端に近づくにつれて、領域の端か無限遠に向かって出ていく、ということを述べています。たとえば y′=y2y'=y^2、y(0)=1y(0)=1 の解 1/(1−x)1/(1-x) は x→1x\to1 で発散し、図のようにどの箱からも外に出ます。

x=0x=1(β)K解 y=1/(1−x)
図. y'=y²、y(0)=1 の解 y=1/(1−x)。x=1 に近づくと、コンパクト集合 K(長方形)の外に出る。

定理 6.1(最大解は端点でコンパクト集合から脱出する)✓

ff は DD で連続かつ yy について局所 Lipschitz 連続とし、(φ,(α,β))(\varphi,(\alpha,\beta)) を最大解とする。β<∞\beta<\infty なら、任意のコンパクト集合 K⊂DK\subset D に対し δ>0\delta>0 が存在して、x∈(β−δ,β)x\in(\beta-\delta,\beta) で (x,φ(x))∉K(x,\varphi(x))\notin K である。α>−∞\alpha>-\infty の側も同様である。

証明(定理 6.1)

命題 2.4 の証明のように r>0r>0 をとり、Kr⊂DK_r\subset D とします。M=max⁡Kr∣f∣M=\max_{K_r}|f|、h=min⁡(r/2, r/(2M))h=\min(r/2,\,r/(2M)) とします。(ξ,η)∈K(\xi,\eta)\in K なら、[ξ−r/2,ξ+r/2]×Bˉ(η,r/2)⊂Kr[\xi-r/2,\xi+r/2]\times\bar B(\eta,r/2)\subset K_r で、定理 4.1 は (ξ,η)(\xi,\eta) を通る解を [ξ−h,ξ+h][\xi-h,\xi+h] 上で与えます。ここで hh は点 (ξ,η)(\xi,\eta) によらず、KK だけで決まります。

δ=h\delta=h とします。x1∈(β−h,β)x_1\in(\beta-h,\beta) で (x1,φ(x1))∈K(x_1,\varphi(x_1))\in K とすると、(x1,φ(x1))(x_1,\varphi(x_1)) を通る解 ψ\psi が [x1−h,x1+h]∋β[x_1-h,x_1+h]\ni\beta 上で存在し、定理 3.2 により共通部分で φ=ψ\varphi=\psi です。貼り合わせると β\beta を越える φ\varphi の延長ができ、最大性に反します。

系 6.2(線形増大なら大域的に存在する)✓

II を開区間とし、f:I×Rn→Rnf:I\times\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n は連続かつ yy について局所 Lipschitz 連続で、連続関数 A,B≥0A,B\ge0 により ∣f(x,y)∣≤A(x)∣y∣+B(x)|f(x,y)|\le A(x)|y|+B(x) を満たすとする。このとき、任意の (x0,y0)∈I×Rn(x_0,y_0)\in I\times\mathbb{R}^n に対し、最大解は II 全体で定義される。

証明(系 6.2)

最大解の区間 (α,β)(\alpha,\beta) の右端が β<sup⁡I\beta<\sup I と仮定します。[x0,β]⊂I[x_0,\beta]\subset I 上で A≤A0A\le A_0、B≤B0B\le B_0 としてよく、x∈[x0,β)x\in[x_0,\beta) で

∣φ(x)∣≤∣y0∣+∫x0x(A0∣φ∣+B0) ds=α0+A0∫x0x∣φ∣ ds,α0=∣y0∣+B0(β−x0)|\varphi(x)|\le|y_0|+\int_{x_0}^x(A_0|\varphi|+B_0)\,ds=\alpha_0+A_0\int_{x_0}^x|\varphi|\,ds,\quad\alpha_0=|y_0|+B_0(\beta-x_0)

です。補題 3.1 から ∣φ∣≤α0eA0(β−x0)=:R0|\varphi|\le\alpha_0e^{A_0(\beta-x_0)}=:R_0 で、グラフはコンパクト集合 [x0,β]×Bˉ(0,R0)⊂D[x_0,\beta]\times\bar B(0,R_0)\subset D に留まります。これは 定理 6.1 に反します。左端も同様です。

例 6.3(線形増大条件の例)

y′=x2+cos⁡yy'=x^2+\cos y(スカラー)では ∣f∣≤x2+1|f|\le x^2+1 で、A=0A=0、B=x2+1B=x^2+1 ととれます。最大解は R\mathbb{R} 全体で存在します。一方 y′=y2y'=y^2 は線形増大でなく、解は有限の xx で発散します(前章)。

証明の筋は図 1 のとおりです。基準の解 φ\varphi のまわりに、半径 rr の管(Γr\Gamma_r)を考えます。近い初期値から出た解 ψ\psi は、Gronwall の不等式で差の上限が CεC\varepsilon に抑えられるため管の中に留まり、したがって(管はコンパクトなので)区間の右端 ξ+δ0\xi+\delta_0 まで延びます。

x₀ξ + δ₀管(半径 r)ψφ
図 1. 連続依存性の証明。基準の解 φ(太線)のまわりの管の中に、近い初期値の解 ψ(細線)が留まる。

解を初期条件の関数と見て、φ(x;x0,y0)\varphi(x;x_0,y_0) と書きます。定義域 Ω={(x,x0,y0):(x0,y0)∈D, x∈(α(x0,y0),β(x0,y0))}\Omega=\{(x,x_0,y_0):(x_0,y_0)\in D,\ x\in(\alpha(x_0,y_0),\beta(x_0,y_0))\} です。

定理 7.1(初期値・初期時刻への連続依存性)✓

ff が DD で連続かつ yy について局所 Lipschitz 連続なら、Ω\Omega は開集合で、φ\varphi は Ω\Omega 上連続である。

証明(定理 7.1)

(ξ,x0,y0)∈Ω(\xi,x_0,y_0)\in\Omega とし、ξ≥x0\xi\ge x_0 のとき示します(ξ<x0\xi<x_0 は反転で同じです)。φ=φ(⋅;x0,y0)\varphi=\varphi(\cdot;x_0,y_0) の定義域は開区間なので、δ0>0\delta_0>0 で J′=[x0−δ0,ξ+δ0]J'=[x_0-\delta_0,\xi+\delta_0] が定義域に含まれるものがあります。グラフ Γ={(x,φ(x)):x∈J′}\Gamma=\{(x,\varphi(x)):x\in J'\} はコンパクトです。r>0r>0 を Γr⊂D\Gamma_r\subset D となるようにとり、M=max⁡Γr∣f∣M=\max_{\Gamma_r}|f|、LL を Γr\Gamma_r 上の Lipschitz 定数、ℓ\ell を J′J' の長さ、C=(1+M)eLℓC=(1+M)e^{L\ell} とします。

ε>0\varepsilon>0 を Cε<r/2C\varepsilon<r/2、ε<δ0\varepsilon<\delta_0 とし、∣x0′−x0∣<ε|x_0'-x_0|<\varepsilon、∣y0′−y0∣<ε|y_0'-y_0|<\varepsilon とします。ψ=φ(⋅;x0′,y0′)\psi=\varphi(\cdot;x_0',y_0') の最大区間を (α′,β′)(\alpha',\beta') とし、

t∗=sup⁡{t∈[x0′,min⁡(β′,ξ+δ0)):∣ψ−φ∣≤r on [x0′,t]}t^*=\sup\{t\in[x_0',\min(\beta',\xi+\delta_0)):|\psi-\varphi|\le r\ \text{on}\ [x_0',t]\}

とします。[x0′,t∗)[x_0',t^*) 上では、グラフが Γr\Gamma_r に入るので 補題 2.2 と Lipschitz 条件から

∣ψ(x)−φ(x)∣≤∣y0′−φ(x0′)∣+L∫x0′x∣ψ−φ∣ ds,∣y0′−φ(x0′)∣≤∣y0′−y0∣+∣φ(x0)−φ(x0′)∣≤(1+M)ε|\psi(x)-\varphi(x)|\le|y_0'-\varphi(x_0')|+L\int_{x_0'}^x|\psi-\varphi|\,ds,\qquad|y_0'-\varphi(x_0')|\le|y_0'-y_0|+|\varphi(x_0)-\varphi(x_0')|\le(1+M)\varepsilon

で、補題 3.1 から ∣ψ−φ∣≤(1+M)εeLℓ=Cε<r/2|\psi-\varphi|\le(1+M)\varepsilon e^{L\ell}=C\varepsilon<r/2 です。したがって連続性により t∗t^* は min⁡(β′,ξ+δ0)\min(\beta',\xi+\delta_0) と一致します。β′≤ξ+δ0\beta'\le\xi+\delta_0 なら、[x0′,β′)[x_0',\beta') で ψ\psi のグラフはコンパクト集合 Γr\Gamma_r に留まり、定理 6.1 に反します。ゆえに β′>ξ+δ0\beta'>\xi+\delta_0 で、[x0′,ξ+δ0][x_0',\xi+\delta_0] 上で ∣ψ−φ∣≤Cε|\psi-\varphi|\le C\varepsilon です。x0′x_0' より左の [x0−δ0,x0′][x_0-\delta_0,x_0'] でも、時間を反転して同じ議論をすれば α′<x0−δ0\alpha'<x_0-\delta_0 かつ ∣ψ−φ∣≤Cε|\psi-\varphi|\le C\varepsilon が言えます。これで、(x,x0′,y0′)(x,x_0',y_0')(xx は ξ\xi の近傍、(x0′,y0′)(x_0',y_0') は (x0,y0)(x_0,y_0) の近傍)が Ω\Omega に入ること、すなわち Ω\Omega が開であることが分かり、

∣φ(x;x0′,y0′)−φ(ξ;x0,y0)∣≤Cε+M∣x−ξ∣|\varphi(x;x_0',y_0')-\varphi(\xi;x_0,y_0)|\le C\varepsilon+M|x-\xi|

から連続性も従います。

自励系(右辺が xx に直接よらない方程式)y′=f(y)y'=f(y) では、ψ(x)=φ(x+s)\psi(x)=\varphi(x+s) もまた解なので、定理 3.2 から φ(x;x0,y0)=Φx−x0(y0)\varphi(x;x_0,y_0)=\Phi_{x-x_0}(y_0) と書けます(Φt(y0)=φ(t;0,y0)\Phi_t(y_0)=\varphi(t;0,y_0))。さらに次が成り立ちます。

命題 7.2(流れの群性)✓

自励系 y′=f(y)y'=f(y)(ff は開集合 U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n 上で連続かつ局所 Lipschitz 連続)の流れ Φt\Phi_t は、Φ0=id\Phi_0=\mathrm{id}、Φt+s=Φt∘Φs\Phi_{t+s}=\Phi_t\circ\Phi_s(右辺が定義される範囲で)を満たし、(t,y)↦Φt(y)(t,y)\mapsto\Phi_t(y) は開集合上で連続である。ff のすべての最大解が R\mathbb{R} 上で定義されるなら、{Φt}t∈R\{\Phi_t\}_{t\in\mathbb{R}} は UU の同相写像の 1 径数群になる。

証明(命題 7.2)

Φt+s(y)\Phi_{t+s}(y) と Φt(Φs(y))\Phi_t(\Phi_s(y)) は、ともに tt の関数として解であり t=0t=0 で Φs(y)\Phi_s(y) に一致するので、定理 3.2 から一致します。連続性は 定理 7.1 です。Φ−t∘Φt=id\Phi_{-t}\circ\Phi_t=\mathrm{id} から Φt\Phi_t は連続な逆写像を持ちます。

この命題が、関数解析の章(強連続半群(定義 4.1)[1 径数ユニタリ群と強連続半群] など)の「1 径数群」を、ベクトル場から作る方法を与えています。

定理 8.1(初期値への微分可能依存性)✓

ff と fyf_y が DD 上で連続とする。φ(x;x0,y0)\varphi(x;x_0,y_0) は y0y_0 について C1C^1 級であり、Y(x)=∂φ/∂y0(x;x0,y0)Y(x)=\partial\varphi/\partial y_0(x;x_0,y_0) は変分方程式

Y′=fy(x,φ(x;x0,y0)) Y,Y(x0)=IY'=f_y\bigl(x,\varphi(x;x_0,y_0)\bigr)\,Y,\qquad Y(x_0)=I

の解である。

証明(定理 8.1)

fyf_y が連続なので 命題 2.4 から局所 Lipschitz です。定理 7.1 の記号 J=[x0,ξ]J=[x_0,\xi]、Γr\Gamma_r、LL を用います(ξ<x0\xi<x_0 は反転)。A(x)=fy(x,φ(x))A(x)=f_y(x,\varphi(x)) は連続です。変分方程式は YY の各列について Y′=A(x)YY'=A(x)Y という線形方程式で、右辺は ∣A(x)Y∣≤∥A(x)∥ ∣Y∣|A(x)Y|\le\|A(x)\|\,|Y| を満たすので、系 6.2 により解 YY は JJ 全体で存在します。

η∈Rn\eta\in\mathbb{R}^n を小さくとり、uη(x)=φ(x;x0,y0+η)−φ(x)u_\eta(x)=\varphi(x;x_0,y_0+\eta)-\varphi(x) とおきます。定理 7.1 の証明より JJ 上 ∣uη∣≤C∣η∣|u_\eta|\le C|\eta| です。wη=uη−Yηw_\eta=u_\eta-Y\eta は、積分形の平均値の定理 f(x,φ+u)−f(x,φ)=∫01fy(x,φ+θu) dθ uf(x,\varphi+u)-f(x,\varphi)=\int_0^1f_y(x,\varphi+\theta u)\,d\theta\,u により

wη′=A wη+Rη,Rη=∫01(fy(x,φ+θuη)−fy(x,φ))dθ  uη,wη(x0)=0w_\eta'=A\,w_\eta+R_\eta,\qquad R_\eta=\int_0^1\bigl(f_y(x,\varphi+\theta u_\eta)-f_y(x,\varphi)\bigr)d\theta\;u_\eta,\qquad w_\eta(x_0)=0

を満たします。fyf_y は Γr\Gamma_r 上で一様連続(補題 2.3[常微分方程式の初等解法])なので、任意の ε>0\varepsilon>0 に対し ∣η∣|\eta| が十分小さければ ∣Rη∣≤εC∣η∣|R_\eta|\le\varepsilon C|\eta| です。補題 3.1 から ∣wη∣≤εC∣η∣ℓe∥A∥∞ℓ|w_\eta|\le\varepsilon C|\eta|\ell e^{\|A\|_\infty\ell}、すなわち wη=o(∣η∣)w_\eta=o(|\eta|) で、φ\varphi は y0y_0 で微分可能、微分は Y(ξ)Y(\xi) です。

微分の連続性:y~0\tilde y_0 が y0y_0 に近いとき、A~(x)=fy(x,φ(x;x0,y~0))\tilde A(x)=f_y(x,\varphi(x;x_0,\tilde y_0)) は sup⁡J∥A~−A∥→0\sup_J\|\tilde A-A\|\to0(fyf_y の一様連続性と 定理 7.1)です。y~0\tilde y_0 に対応する変分方程式の解を Y~\tilde Y とし、Δ=Y~−Y\Delta=\tilde Y-Y とおくと、Δ′=A~Δ+(A~−A)Y\Delta'=\tilde A\Delta+(\tilde A-A)Y、Δ(x0)=0\Delta(x_0)=0 で、Gronwall から sup⁡J∣Δ∣→0\sup_J|\Delta|\to0 です。

系 8.2(初期時刻での微分)✓

同じ仮定のもとで、φ\varphi は x0x_0 についても C1C^1 級で ∂φ∂x0(x;x0,y0)=−Y(x) f(x0,y0)\dfrac{\partial\varphi}{\partial x_0}(x;x_0,y_0)=-Y(x)\,f(x_0,y_0) である。

証明(系 8.2)

φ(x0;x0,y0)=y0\varphi(x_0;x_0,y_0)=y_0 なので、x0x_0 を x0+sx_0+s に変えた解 φ(x;x0+s,y0)\varphi(x;x_0+s,y_0) は、時刻 x0x_0 には値

z(s):=φ(x0;x0+s,y0)=y0−∫x0x0+sf(σ,φ(σ;x0+s,y0))dσ=y0−s f(x0,y0)+o(s)z(s):=\varphi(x_0;x_0+s,y_0)=y_0-\int_{x_0}^{x_0+s}f\bigl(\sigma,\varphi(\sigma;x_0+s,y_0)\bigr)d\sigma=y_0-s\,f(x_0,y_0)+o(s)

を持ちます(被積分関数は 定理 7.1 により連続)。解の一意性より φ(x;x0+s,y0)=φ(x;x0,φ(x0;x0+s,y0))\varphi(x;x_0+s,y_0)=\varphi(x;x_0,\varphi(x_0;x_0+s,y_0)) なので、定理 8.1 の連鎖律により ss で微分して主張が従います。偏導関数 −Y(x;x0,y0)f(x0,y0)-Y(x;x_0,y_0)f(x_0,y_0) の連続性には、YY が (x,x0,y0)(x,x_0,y_0) について連続であることが要ります。これは 定理 8.1 の連続性の議論と同じです。(x0′,y0′)(x_0',y_0') に対応する A~\tilde A、Y~\tilde Y(Y~(x0′)=I\tilde Y(x_0')=I)をとると、Δ=Y~−Y\Delta=\tilde Y-Y は Δ′=A~Δ+(A~−A)Y\Delta'=\tilde A\Delta+(\tilde A-A)Y を満たし、初期値 ∣Δ(x0′)∣=∣I−Y(x0′)∣=∣Y(x0)−Y(x0′)∣≤∥A∥∞ sup⁡∣Y∣ ∣x0−x0′∣|\Delta(x_0')|=|I-Y(x_0')|=|Y(x_0)-Y(x_0')|\le\|A\|_\infty\,\sup|Y|\,|x_0-x_0'| は x0′→x0x_0'\to x_0 で 00 に向かうので、Gronwall から sup⁡∣Δ∣→0\sup|\Delta|\to0 です。

例 8.3(変分方程式の確認)

y′=y−y2y'=y-y^2、y(0)=y0∈(0,1)y(0)=y_0\in(0,1) の解は φ=y0ex1−y0+y0ex\varphi=\dfrac{y_0e^x}{1-y_0+y_0e^x}(前章のロジスティック方程式と同じ)で、∂φ/∂y0=ex(1−y0+y0ex)2\partial\varphi/\partial y_0=\dfrac{e^x}{(1-y_0+y_0e^x)^2} です。変分方程式は Y′=(1−2φ)YY'=(1-2\varphi)Y、Y(0)=1Y(0)=1 です。実際、D=1−y0+y0exD=1-y_0+y_0e^x とおくと Y=exD−2Y=e^xD^{-2} は Y(0)=1Y(0)=1 を満たし、Y′/Y=1−2y0ex/D=1−2φY'/Y=1-2y_0e^x/D=1-2\varphi となって変分方程式と一致します。

パラメータ λ\lambda を含む方程式 y′=f(x,y,λ)y'=f(x,y,\lambda) は、λ′=0\lambda'=0 を連立すれば同じ枠組みに入ります。f,fy,fλf,f_y,f_\lambda が連続なら、解は λ\lambda について C1C^1 級です。Sturm–Liouville 問題の固有値の単調性(第 5 章)で使います。

ff がもっと滑らかなら、解も同じだけ滑らかです。多様体上のベクトル場の流れが滑らかであることは、この事実に基づきます。以下、f∈Ck(D)f\in C^k(D) とは、ff の (x,y)(x,y) についての kk 階までのすべての偏導関数が存在して DD 上で連続であることとし、Ω\Omega は 定理 7.1 の前で定めた集合です。

次の定理の証明の発想は、Y=∂φ/∂y0Y=\partial\varphi/\partial y_0 自身が線形の微分方程式の解であることを使うことです。yy と YY をまとめて 1 つの大きな連立方程式(拡大系)と見れば、滑らかさの段数を 1 つ上げる議論を、同じ定理の使い回しで進められます。

定理 8.4(初期値への CkC^k 依存性)✓

k≥1k\ge1 とし、f∈Ck(D)f\in C^k(D) とする。このとき φ(x;x0,y0)\varphi(x;x_0,y_0) は開集合 Ω\Omega 上で (x,x0,y0)(x,x_0,y_0) について CkC^k 級である。特に f∈C∞(D)f\in C^\infty(D) なら φ\varphi は Ω\Omega 上で C∞C^\infty 級である。

証明(定理 8.4)

kk についての帰納法で、「どの次元 nn、どの開集合 D⊂R×RnD\subset\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n、どの f∈Ck(D)f\in C^k(D) についても φ∈Ck(Ω)\varphi\in C^k(\Omega)」を示します。

k=1k=1。 Ω\Omega は開集合です(定理 7.1)。φ\varphi の 1 階偏導関数は

∂φ∂x=f(x,φ),∂φ∂y0=Y(x;x0,y0),∂φ∂x0=−Y(x;x0,y0) f(x0,y0)\frac{\partial\varphi}{\partial x}=f(x,\varphi),\qquad\frac{\partial\varphi}{\partial y_0}=Y(x;x_0,y_0),\qquad\frac{\partial\varphi}{\partial x_0}=-Y(x;x_0,y_0)\,f(x_0,y_0)

で(定理 8.1、系 8.2)、どれも Ω\Omega 上で (x,x0,y0)(x,x_0,y_0) について連続です(第 1 式は φ\varphi の連続性 定理 7.1、第 2・3 式は 系 8.2 の証明で示した YY の連続性による)。偏導関数がすべて存在して連続なので、定義により φ\varphi は C1C^1 級です。

kk から k+1k+1 へ。 f∈Ck+1(D)f\in C^{k+1}(D) とします。Ck+1⊂CkC^{k+1}\subset C^k なので、帰納法の仮定から φ∈Ck(Ω)\varphi\in C^k(\Omega) です。Rn×n\mathbb{R}^{n\times n} を Rn2\mathbb{R}^{n^2} と同一視して、拡大した系

y′=f(x,y),Z′=fy(x,y) Z((x,y,Z)∈D~=D×Rn×n)y'=f(x,y),\qquad Z'=f_y(x,y)\,Z\qquad\bigl((x,y,Z)\in\tilde D=D\times\mathbb{R}^{n\times n}\bigr)

を考えます。右辺 F(x,y,Z)=(f(x,y),fy(x,y)Z)F(x,y,Z)=(f(x,y),f_y(x,y)Z) は、fy∈Ckf_y\in C^k と ZZ についての 1 次式の積なので F∈Ck(D~)F\in C^k(\tilde D) です。初期値 (x0,y0,Z0)(x_0,y_0,Z_0) の解は (φ(x;x0,y0), Y(x;x0,y0)Z0)(\varphi(x;x_0,y_0),\,Y(x;x_0,y_0)Z_0) です。実際これは拡大系を満たし(YY は変分方程式の解)、拡大系の解は一意です(命題 2.4 と 定理 3.2)。さらに、第 2 成分は線形方程式なので φ\varphi の最大区間全体で存在し(系 6.2)、第 1 成分は φ\varphi の最大区間より先には延びないので、拡大系の最大区間は φ\varphi のそれと一致します。したがって拡大系の Ω~\tilde\Omega は {(x,x0,y0,Z0):(x,x0,y0)∈Ω}\{(x,x_0,y_0,Z_0):(x,x_0,y_0)\in\Omega\} で、帰納法の仮定を拡大系(次元 n+n2n+n^2)に使うと、(x,x0,y0,Z0)↦Y(x;x0,y0)Z0(x,x_0,y_0,Z_0)\mapsto Y(x;x_0,y_0)Z_0 は CkC^k 級です。Z0=IZ_0=I と置いて、Y=∂φ/∂y0Y=\partial\varphi/\partial y_0 は Ω\Omega 上 CkC^k 級です。

すると k=1k=1 の場合の 3 つの式の右辺は、CkC^k 級の関数の合成と積なので CkC^k 級です(f∈Ck+1⊂Ckf\in C^{k+1}\subset C^k、φ∈Ck\varphi\in C^k。CkC^k 級写像の合成が CkC^k 級であることは、C1C^1 級の写像が全微分可能であること(定理 4.5[多変数関数の微分と偏微分])と連鎖律(定理 6.1[多変数関数の微分と偏微分])から ∂i(g∘h)=∑j(∂jg∘h) ∂ihj\partial_i(g\circ h)=\sum_j(\partial_jg\circ h)\,\partial_ih_j を得て、右辺に kk についての帰納法を使えばわかる。参照先は 2 変数で述べているが、証明は変数の個数によらない)。1 階偏導関数がすべて CkC^k 級なので φ∈Ck+1(Ω)\varphi\in C^{k+1}(\Omega) です。

系 8.5(パラメータへの CkC^k 依存性と滑らかな流れ)✓

  1. P⊂RmP\subset\mathbb{R}^m を開集合とし、f(x,y,λ)f(x,y,\lambda) が開集合 D×PD\times P 上で (x,y,λ)(x,y,\lambda) について CkC^k 級(k≥1k\ge1)なら、y′=f(x,y,λ)y'=f(x,y,\lambda)、y(x0)=y0y(x_0)=y_0 の解 φ(x;x0,y0,λ)\varphi(x;x_0,y_0,\lambda) は、定義される開集合の上で (x,x0,y0,λ)(x,x_0,y_0,\lambda) について CkC^k 級である。
  2. 自励系 y′=f(y)y'=f(y) で f∈C∞(U)f\in C^\infty(U) なら、命題 7.2 の流れ (t,y)↦Φt(y)(t,y)\mapsto\Phi_t(y) はその定義域(開集合)上で C∞C^\infty 級で、Φt\Phi_t はその定義域から値域への C∞C^\infty 級の微分同相(逆は Φ−t\Phi_{-t})である。
証明(系 8.5)
  1. 未知関数を z=(y,λ)∈Rn+mz=(y,\lambda)\in\mathbb{R}^{n+m} とし、z′=(f(x,y,λ),0)z'=(f(x,y,\lambda),0) を考えると、右辺は D×PD\times P 上で CkC^k 級で、初期値 (y0,λ)(y_0,\lambda) の解は (φ(x;x0,y0,λ),λ)(\varphi(x;x_0,y_0,\lambda),\lambda) です(λ′=0\lambda'=0 なので λ\lambda は定数)。定理 8.4 をこの系に使えばよい。
  2. Φt(y)=φ(t;0,y)\Phi_t(y)=\varphi(t;0,y) なので、定理 8.4(f(x,y)=f(y)f(x,y)=f(y) は (x,y)(x,y) について C∞C^\infty)から (t,y)↦Φt(y)(t,y)\mapsto\Phi_t(y) は C∞C^\infty 級です。命題 7.2 の群性から、Φt\Phi_t の値域の上で Φ−t\Phi_{-t} が定義されて Φt\Phi_t の逆写像になり、それも C∞C^\infty 級です。

定理 9.1(線形 Volterra 方程式)✓

K:{(x,s):a≤s≤x≤b}→RK:\{(x,s):a\le s\le x\le b\}\to\mathbb{R} と g:[a,b]→Rg:[a,b]\to\mathbb{R} が連続なら、

u(x)=g(x)+∫axK(x,s) u(s) dsu(x)=g(x)+\int_a^xK(x,s)\,u(s)\,ds

は [a,b][a,b] 上でただ 1 つの連続な解を持ち、解は Neumann 級数 u=∑k≥0Tkgu=\sum_{k\ge0}T^kg(Tu(x)=∫axK(x,s)u(s) dsTu(x)=\int_a^xK(x,s)u(s)\,ds)の一様極限である。

証明(定理 9.1)

m=max⁡∣K∣m=\max|K|、d(u,v)=max⁡xe−2m(x−a)∣u(x)−v(x)∣d(u,v)=\max_xe^{-2m(x-a)}|u(x)-v(x)| とします(m>0m>0)。これは C[a,b]C[a,b] の完備距離で、Su=g+TuSu=g+Tu は

∣Su(x)−Sv(x)∣≤m∫axe2m(s−a)ds  d(u,v)≤12e2m(x−a)d(u,v)|Su(x)-Sv(x)|\le m\int_a^xe^{2m(s-a)}ds\;d(u,v)\le\tfrac12e^{2m(x-a)}d(u,v)

より縮小率 12\tfrac12 の縮小写像です。Banach の不動点定理(定理 6.2[距離空間])が存在と一意性を与え、u0=gu_0=g から始めた反復 uk+1=g+Tuku_{k+1}=g+Tu_k は ∑j≤kTjg\sum_{j\le k}T^jg です。

積分範囲が固定の Fredholm 方程式 u=g+λ∫abK(x,s)u(s) dsu=g+\lambda\int_a^bK(x,s)u(s)\,ds では、λ\lambda が特別な値(離散集合)のとき解の存在や一意性が壊れます(Fredholm の択一定理(定理 5.3)[コンパクト作用素・Hilbert–Schmidt 作用素・トレースクラス])。Volterra 方程式では積分の上限 xx が動くため、kk 回の反復積分が (m(x−a))k/k!(m(x-a))^k/k! 程度に小さくなり(帰納法で確かめられます)、KK に λ\lambda を掛けた方程式がどの λ\lambda に対しても一意に解けます。

例 9.2(2 階線形方程式の Volterra 型)

y′′+q(x)y=f(x)y''+q(x)y=f(x)、y(a)=c0y(a)=c_0、y′(a)=c1y'(a)=c_1(q,fq,f 連続)は、

y(x)=c0+c1(x−a)+∫ax(x−s)f(s) ds−∫ax(x−s)q(s)y(s) dsy(x)=c_0+c_1(x-a)+\int_a^x(x-s)f(s)\,ds-\int_a^x(x-s)q(s)y(s)\,ds

と同値です。右辺を 2 回微分すれば元の方程式と初期条件が出ます(ddx∫ax(x−s)h(s) ds=∫axh(s) ds\frac{d}{dx}\int_a^x(x-s)h(s)\,ds=\int_a^xh(s)\,ds)。逆に y′′+qy=fy''+qy=f を 2 回積分すると右辺が得られます。これは 定理 9.1 の形(K(x,s)=−(x−s)q(s)K(x,s)=-(x-s)q(s))で、解が [a,b][a,b] 全体で存在することを直接与えます。

演習 10.1易

y′=x+yy'=x+y、y(0)=0y(0)=0 の Picard 反復 φ0=0,φ1,φ2,φ3\varphi_0=0,\varphi_1,\varphi_2,\varphi_3 を求め、極限を推測せよ。

解答

φ1=∫0xs ds=x2/2\varphi_1=\int_0^xs\,ds=x^2/2、φ2=∫0x(s+s2/2) ds=x2/2+x3/6\varphi_2=\int_0^x(s+s^2/2)\,ds=x^2/2+x^3/6、φ3=x2/2+x3/6+x4/24\varphi_3=x^2/2+x^3/6+x^4/24 です。一般に φk=∑j=2k+1xj/j!\varphi_k=\sum_{j=2}^{k+1}x^j/j! で、極限は ex−1−xe^x-1-x です。これは y′=x+yy'=x+y、y(0)=0y(0)=0 の解(1 階線形の公式)に一致します。

演習 10.2標準

u≥0u\ge0 が連続で、u(x)≤α+∫0x(β0u(s)+γ)dsu(x)\le\alpha+\int_0^x\bigl(\beta_0u(s)+\gamma\bigr)ds(α,γ≥0\alpha,\gamma\ge0、β0>0\beta_0>0 は定数)を [0,b][0,b] で満たすなら、u(x)≤αeβ0x+γβ0(eβ0x−1)u(x)\le\alpha e^{\beta_0x}+\dfrac{\gamma}{\beta_0}(e^{\beta_0x}-1) であることを示せ。

解答

右辺の定数項を α1(x)=α+γx\alpha_1(x)=\alpha+\gamma x とすると u≤α1(x)+β0∫0xu dsu\le\alpha_1(x)+\beta_0\int_0^xu\,ds ですが、α1\alpha_1 は一定ではないので直接は 補題 3.1 を使えません。U(x)=α+∫0x(β0u+γ) dsU(x)=\alpha+\int_0^x(\beta_0u+\gamma)\,ds とおくと u≤Uu\le U で U′=β0u+γ≤β0U+γU'=\beta_0u+\gamma\le\beta_0U+\gamma です。(Ue−β0x)′≤γe−β0x(Ue^{-\beta_0x})'\le\gamma e^{-\beta_0x} を 00 から xx まで積分して U(x)e−β0x≤α+γβ0(1−e−β0x)U(x)e^{-\beta_0x}\le\alpha+\dfrac\gamma{\beta_0}(1-e^{-\beta_0x}) を得ます。両辺に eβ0xe^{\beta_0x} を掛ければ結論です。

演習 10.3標準

y′=∣y∣y'=\sqrt{|y|}、y(0)=0y(0)=0 には、y≡0y\equiv0 以外の解があることを示し、Picard 反復 φ0≡0\varphi_0\equiv0 がどうなるか述べよ。この例で 定理 4.1 のどの仮定が壊れているか。

解答

y=x∣x∣/4y=x|x|/4 は C1C^1 級で y′=∣x∣/2=∣y∣y'=|x|/2=\sqrt{|y|} です。ですから 0 以外の解があります。Picard 反復は φ0≡0\varphi_0\equiv0 から φ1=∫0x0 ds=0\varphi_1=\int_0^x\sqrt{0}\,ds=0 となり、すべての φk≡0\varphi_k\equiv0 で、y≡0y\equiv0 に収束します。もう 1 つの解は反復で見つかりません。壊れているのは Lipschitz 条件です。∣∣y∣−∣0∣∣/∣y∣=∣y∣−1/2|\sqrt{|y|}-\sqrt{|0|}|/|y|=|y|^{-1/2} は y→0y\to0 で有界でないからです。

  • 高橋陽一郎『微分方程式入門』東京大学出版会、1988 — 存在・一意性の定理。
  • 笠原晧司『微分方程式の基礎』朝倉書店、1982 — 第 2 章(解の存在と一意性、初期値依存性)。
  • P. Hartman, Ordinary Differential Equations, SIAM, 2002 — Chapters II, V(存在・延長・微分可能依存性)。
  • E. A. Coddington and N. Levinson, Theory of Ordinary Differential Equations, McGraw-Hill, 1955 — Chapters 1–2.
  • V. I. Arnold, Ordinary Differential Equations, Springer, 1992 — Chapter 4(縮小写像による存在定理、変分方程式)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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