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安定性・力学系・特性曲線法:Lyapunov から Poincaré–Bendixson、Cauchy–Kovalevskaya まで

対象読者: 本テーマ第 2〜3 章の内容と、学部の線形代数・多変数微積分(ヤコビ行列、陰関数定理)を学んだ人。偏微分方程式の知識は仮定しません。

前提となる記事:解の存在と一意性:Picard–Lindelöf・Peano・Gronwall と初期値への依存、線形微分方程式系:基本解行列・行列指数関数・Liouville の公式・Floquet の定理・Laplace 変換法、逆関数定理・陰関数定理と条件付き極値:縮小写像で「方程式を解く」

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ボールを谷底に置くと、少し揺すっても元の場所に戻ります。山の頂上に置くと、わずかな揺れで転がり落ちます。微分方程式で動きを表すとき、「この静止状態は揺すられても保たれるか」「長い時間が経つと動きはどこへ向かうか」を、解の公式を求めずに調べられないでしょうか。この記事の前半はその方法を扱い、後半は、解の曲線に沿って考えると難しい方程式(偏微分方程式)が簡単な方程式に置き換わる仕組みを扱います。読み終えると、平衡点の安定・不安定を判定でき、平面の運動が周期運動に落ち着く理由と、偏微分方程式を曲線に沿って解く手順が分かります。

  • 自励系 x′=f(x)x'=f(x) の平衡点の安定性は、解が長時間でどう振る舞うかの最初の手がかりです。Lyapunov 関数は、解に沿って減少する「エネルギー」のような量で、解を計算せずに安定性を示します。
  • 線形化定理:ヤコビ行列 A=Df(0)A=Df(0) の固有値の実部がすべて負なら漸近安定、正のものがあれば不安定です。証明は、AA から作る二次形式を Lyapunov 関数に使います。実部が 00 の固有値があると、線形化だけでは決まりません。
  • 平面では軌道の挙動が強く制限されます。Poincaré–Bendixson の定理:有界な軌道の ω\omega 極限集合(軌道が長時間たつうちに集まっていく先の点の集まり)が平衡点を含まなければ、周期軌道です。平面でカオス(長期の予測が事実上できない複雑な動き)が起きない理由です。
  • 特性曲線法は、1 階偏微分方程式 a ux+b uy=ca\,u_x+b\,u_y=c を、特性曲線に沿った常微分方程式の組に帰着させます。非線形では特性曲線が交差し、有限時間で滑らかな解が壊れます(Burgers 方程式)。
  • Cauchy–Kovalevskaya の定理:係数とデータがすべて解析的(冪級数で書ける)な偏微分方程式の初期値問題は、局所的に解析的な解を一意に持ちます。優級数法(係数がより大きい扱いやすい級数と比べて収束を示す方法)で証明します。

常微分方程式を「解く」とは、初期値から出発して未来を予測することでした。しかし多くの場合、公式で解を書き下せません。それでも知りたいのは、「長い時間が経つと、解はどこへ行くのか」という定性的な情報です。振り子は止まるのか。捕食者と被食者の個体数は一定値に落ち着くのか、それとも周期的に振動するのか。この問いに、解を求めずに答える理論が力学系です。この記事の前半(§2–§5)がそれにあたります。

後半(§6–§7)は偏微分方程式への入口です。偏微分方程式の初期値問題は、うまく選ぶと常微分方程式に帰着できます。1 階の場合は特性曲線法がその方法で、第 2 章の存在と一意性の定理と微分可能依存性が、そのまま使われます。また、高階・多変数の方程式でも係数が解析的なら、常微分方程式の冪級数解(第 4 章)の一般化として局所解が存在します。

以下 U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n は開集合、f:U→Rnf:U\to\mathbb{R}^n は C1C^1 級とし、自励系

x′=f(x)(A)x'=f(x)\tag{A}

を考えます。第 2 章により、各点を通る最大解がただ 1 つ存在し、流れ φt(x0)\varphi_t(x_0) が定義されます(命題 7.2[解の存在と一意性])。f(x∗)=0f(x^*)=0 となる点 x∗x^* を平衡点といい、φt(x∗)=x∗\varphi_t(x^*)=x^* です。

定義 2.1(Lyapunov 安定・漸近安定)↗

平衡点 x∗=0x^*=0 が安定であるとは、任意の ε>0\varepsilon>0 に対し δ>0\delta>0 が存在して、∣x0∣<δ|x_0|<\delta ならば解が t≥0t\ge0 で存在し ∣φt(x0)∣<ε|\varphi_t(x_0)|<\varepsilon となることをいう。安定でないとき不安定という。安定かつある δ0>0\delta_0>0 で ∣x0∣<δ0|x_0|<\delta_0 ならば φt(x0)→0\varphi_t(x_0)\to0(t→∞t\to\infty)のとき漸近安定という。

安定は「近くから出発すれば近くに留まる」、漸近安定は「さらに平衡点に戻る」です。一般の平衡点は座標の平行移動で原点にできます。

線形系 x′=Axx'=Ax(AA は 2×22\times2 実行列)では、特性多項式が λ2−(tr⁡A)λ+det⁡A\lambda^2-(\operatorname{tr}A)\lambda+\det A なので、固有値は tr⁡A\operatorname{tr}A と det⁡A\det A で決まり、原点の型が分類されます(図 1)。

条件固有値原点
det⁡A<0\det A<0実数で異符号鞍点(不安定)
det⁡A>0\det A>0、tr⁡A<0\operatorname{tr}A<0、(tr⁡A)2≥4det⁡A(\operatorname{tr}A)^2\ge4\det A実数で共に負安定結節点(漸近安定)
det⁡A>0\det A>0、tr⁡A<0\operatorname{tr}A<0、(tr⁡A)2<4det⁡A(\operatorname{tr}A)^2<4\det A複素共役、実部負安定渦状点(漸近安定)
det⁡A>0\det A>0、tr⁡A=0\operatorname{tr}A=0純虚数中心(安定だが漸近安定でない)
det⁡A>0\det A>0、tr⁡A>0\operatorname{tr}A>0実部正不安定結節点・渦状点
(a) 安定結節点(b) 鞍点(c) 安定渦状点(d) 中心固有値(a) −1, −3 (b) 1, −1(c) −0.25 ± i (d) ± i
図 1. 2 次元線形系の原点の典型的な型。(a) 安定結節点、(b) 鞍点、(c) 安定渦状点、(d) 中心。矢印は時間の進む向き。

定理 3.1(Lyapunov の安定性定理)✓

f(0)=0f(0)=0 とし、00 の近傍 N⊂UN\subset U 上の C1C^1 級関数 VV が V(0)=0V(0)=0、x≠0x\ne0 で V(x)>0V(x)>0(正定値)を満たすとする。V˙(x):=∇V(x)⋅f(x)\dot V(x):=\nabla V(x)\cdot f(x)(解に沿った VV の微分)について

  1. NN 上で V˙≤0\dot V\le0 なら、00 は安定である。
  2. NN 上で x≠0x\ne0 なら V˙<0\dot V<0 ならば、00 は漸近安定である。
証明(定理 3.1)

x(t)x(t) を解とすると ddtV(x(t))=V˙(x(t))\frac d{dt}V(x(t))=\dot V(x(t)) です。

(1) ε>0\varepsilon>0 をとり、Bˉr⊂N\bar B_r\subset N、r<εr<\varepsilon とします。m=min⁡∣x∣=rV>0m=\min_{|x|=r}V>0 (コンパクト集合上の正値連続関数)。V(0)=0V(0)=0 と連続性から、δ∈(0,r)\delta\in(0,r) を ∣x∣<δ⇒V(x)<m|x|<\delta\Rightarrow V(x)<m となるようにとれます。∣x0∣<δ|x_0|<\delta の解が ∣x(t1)∣=r|x(t_1)|=r となる最初の時刻 t1t_1 を持つとすると、[0,t1][0,t_1] で VV は非増加なので V(x(t1))≤V(x0)<mV(x(t_1))\le V(x_0)<m ですが、V(x(t1))≥mV(x(t_1))\ge m で矛盾です。よって解は BrB_r に留まります。コンパクト集合 Bˉr\bar B_r に留まる解は未来で存在します(定理 6.1[解の存在と一意性])。

(2) (1) より安定です。∣x0∣|x_0| を小さくして解が BrB_r に留まるとします。V(x(t))V(x(t)) は減少して極限 ℓ≥0\ell\ge0 をもちます。ℓ>0\ell>0 と仮定すると、解は K={x∈Bˉr:V(x)≥ℓ}K=\{x\in\bar B_r:V(x)\ge\ell\} に留まり、KK はコンパクトで 0∉K0\notin K です。−c=max⁡KV˙<0-c=\max_K\dot V<0 とおくと V(x(t))≤V(x0)−ct→−∞V(x(t))\le V(x_0)-ct\to-\infty となり、V>0V>0 に反します。ゆえに ℓ=0\ell=0 で、VV が正定値なので x(t)→0x(t)\to0 です(任意の ε′\varepsilon' に対し min⁡ε′≤∣x∣≤rV>0\min_{\varepsilon'\le|x|\le r}V>0)。

例 3.2(減衰のない振り子と減衰のある振り子)

θ′′+sin⁡θ=0\theta''+\sin\theta=0 を x=(θ,v)x=(\theta,v)、v=θ′v=\theta' で書きます。V=12v2+1−cos⁡θV=\tfrac12v^2+1-\cos\theta は原点の近傍(∣θ∣<2π|\theta|<2\pi)で正定値で、V˙=v⋅(−sin⁡θ)+sin⁡θ⋅v=0\dot V=v\cdot(-\sin\theta)+\sin\theta\cdot v=0 です。定理 3.1 の 1 より原点は安定です(エネルギー保存)。摩擦 γ>0\gamma>0 を加えた θ′′+γθ′+sin⁡θ=0\theta''+\gamma\theta'+\sin\theta=0 では V˙=−γv2≤0\dot V=-\gamma v^2\le0 ですが、v=0v=0 で V˙=0\dot V=0 なので 2 の仮定は満たされません。実際には漸近安定で、§5 の LaSalle の不変原理で示します。

f∈C1f\in C^1 で f(0)=0f(0)=0 とし、A=Df(0)A=Df(0) とおくと、f(x)=Ax+g(x)f(x)=Ax+g(x) で g(x)=o(∣x∣)g(x)=o(|x|) です。

補題 4.1(Lyapunov 方程式)✓

B∈Mn(C)B\in M_n(\mathbb{C}) のすべての固有値の実部が負なら、P=∫0∞eB∗teBt dtP=\displaystyle\int_0^\infty e^{B^*t}e^{Bt}\,dt は収束するエルミート正定値行列で、B∗P+PB=−IB^*P+PB=-I を満たす。すべての固有値の実部が正なら、P=∫0∞e−B∗te−Bt dtP=\displaystyle\int_0^\infty e^{-B^*t}e^{-Bt}\,dt は正定値で B∗P+PB=IB^*P+PB=I を満たす。

証明(補題 4.1)

前半:系 4.4[線形微分方程式系] より ∥etB∥≤Ce−ct\|e^{tB}\|\le Ce^{-ct} なので積分は収束し、エルミートです。⟨Px,x⟩=∫0∞∣etBx∣2dt>0\langle Px,x\rangle=\int_0^\infty|e^{tB}x|^2dt>0(x≠0x\ne0、被積分関数は t=0t=0 で ∣x∣2>0|x|^2>0 の連続関数)。ddt(eB∗teBt)=B∗eB∗teBt+eB∗teBtB\frac{d}{dt}(e^{B^*t}e^{Bt})=B^*e^{B^*t}e^{Bt}+e^{B^*t}e^{Bt}B を 00 から ∞\infty まで積分すると 0−I=B∗P+PB0-I=B^*P+PB です。後半は BB を −B-B に置き換えた前半です。

定理 4.2(線形化による安定性の判定)✓

f∈C1(U)f\in C^1(U)、f(0)=0f(0)=0、A=Df(0)A=Df(0) とする。

  1. AA のすべての固有値の実部が負なら、原点は漸近安定である(収束は指数的)。
  2. AA が実部が正の固有値をもつなら、原点は不安定である。

証明の方針です。(1) は、AA から作った二次形式を Lyapunov 関数として 定理 3.1 に当てます。(2) は、実部が正の固有値に対応する方向では増え、負の方向では減る符号付きの量を作り、原点のいくらでも近くから出て遠ざかる解があることを示します。

証明(定理 4.2)

(1) 補題 4.1 で B=AB=A(実行列)、PP は実対称正定値で ATP+PA=−IA^{\mathsf T}P+PA=-I です。V(x)=⟨Px,x⟩V(x)=\langle Px,x\rangle とすると、解に沿って

V˙=⟨P(Ax+g),x⟩+⟨Px,Ax+g⟩=−∣x∣2+2⟨Px,g(x)⟩≤−∣x∣2+2∥P∥∣x∣∣g(x)∣.\dot V=\langle P(Ax+g),x\rangle+\langle Px,Ax+g\rangle=-|x|^2+2\langle Px,g(x)\rangle\le-|x|^2+2\|P\||x||g(x)|.

g=o(∣x∣)g=o(|x|) なので、∣x∣<δ|x|<\delta で ∣g∣≤∣x∣/(4∥P∥)|g|\le|x|/(4\|P\|) となる δ\delta があり、そこで V˙≤−12∣x∣2\dot V\le-\frac12|x|^2 です。定理 3.1 の 2 により漸近安定です。さらに V≤∥P∥∣x∣2V\le\|P\||x|^2 から V˙≤−V/(2∥P∥)\dot V\le-V/(2\|P\|) で、VV は指数的に減衰し、∣x∣2≤V/λmin⁡(P)|x|^2\le V/\lambda_{\min}(P) から ∣x∣|x| も指数的に減衰します。

(2) Re⁡λ>0\operatorname{Re}\lambda>0 の固有値があるので、η>0\eta>0 を、AA のどの固有値の実部とも異なり、かつ最大の実部より小さくとります。Jordan 標準形により Cn=E+⊕E−\mathbb{C}^n=E_+\oplus E_-(それぞれ実部が η\eta より大きい/小さい固有値の一般固有空間、AA 不変)で、E+≠{0}E_+\ne\{0\} です。x=x++x−x=x_++x_- と分解し(一般には直交しない)、Π±\Pi_\pm を射影とします。B±=A∣E±−ηB_\pm=A|_{E_\pm}-\eta の固有値の実部は B+B_+ で正、B−B_- で負です。補題 4.1 を、E±E_\pm に標準内積を制限した空間で使うと(随伴はその内積に関するもの)、E±E_\pm 上のエルミート正定値な P±P_\pm で B+∗P++P+B+=IB_+^*P_++P_+B_+=I、B−∗P−+P−B−=−IB_-^*P_-+P_-B_-=-I となるものがあります。

V(x)=⟨P+x+,x+⟩−⟨P−x−,x−⟩∈RV(x)=\langle P_+x_+,x_+\rangle-\langle P_-x_-,x_-\rangle\in\mathbb{R}

とおきます(実の xx に対し VV は実数)。A∗P±+P±A=±I+2ηP±A^*P_\pm+P_\pm A=\pm I+2\eta P_\pm(E±E_\pm 上)なので、解 x′=Ax+gx'=Ax+g に沿って

V˙=∣x+∣2+∣x−∣2+2ηV+2Re⁡⟨P+x+,Π+g⟩−2Re⁡⟨P−x−,Π−g⟩.\dot V=|x_+|^2+|x_-|^2+2\eta V+2\operatorname{Re}\langle P_+x_+,\Pi_+g\rangle-2\operatorname{Re}\langle P_-x_-,\Pi_-g\rangle.

∣x+∣2+∣x−∣2≥c0∣x∣2|x_+|^2+|x_-|^2\ge c_0|x|^2(x↦(x+,x−)x\mapsto(x_+,x_-) は同型)で、∣g∣≤ε∣x∣|g|\le\varepsilon|x|(∣x∣<δ|x|<\delta)とすると、最後の 2 項は ≥−Cε∣x∣2\ge-C\varepsilon|x|^2 なので、ε\varepsilon を小さくとって ∣x∣<δ|x|<\delta で

V˙≥c02∣x∣2+2ηV.\dot V\ge\tfrac{c_0}2|x|^2+2\eta V.

AA は実行列なので、複素共役は E+E_+ を E+E_+ に写し(共役な固有値は同じ実部をもつ)、E+E_+ は実ベクトル x0≠0x_0\ne0 を含みます。x0∈E+∩Rn∖{0}x_0\in E_+\cap\mathbb{R}^n\setminus\{0\} を原点にいくらでも近くとると V(x0)=⟨P+x0,x0⟩>0V(x_0)=\langle P_+x_0,x_0\rangle>0 です。V>0V>0 の間は V˙≥2ηV>0\dot V\ge2\eta V>0 なので VV は増加し、V>0V>0 に留まります。もし解が ∣x∣<δ|x|<\delta に留まり続けるなら、V≤C′∣x∣2V\le C'|x|^2 から V˙≥c02C′V\dot V\ge\frac{c_0}{2C'}V となって VV が指数的に増大し、∣x∣<δ|x|<\delta で VV が有界であることに反します。よって解は {∣x∣<δ}\{|x|<\delta\} から出ます。原点にいくらでも近い初期値でそうなるので不安定です。

例 4.3(実部が 0 の固有値:線形化では決まらない)

x′=−y+μx(x2+y2)x'=-y+\mu x(x^2+y^2)、y′=x+μy(x2+y2)y'=x+\mu y(x^2+y^2) の線形化は μ\mu によらず中心(固有値 ±i\pm i)です。極座標で r′=μr3r'=\mu r^3、θ′=1\theta'=1 です。μ<0\mu<0 なら rr は減少して漸近安定、μ=0\mu=0 なら安定だが漸近安定でない、μ>0\mu>0 なら不安定です。実部が 00 の固有値があると、高次の項が結果を決めます。

5. 平面力学系:Poincaré–Bendixson の定理

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定義 5.1(ω 極限集合)↗

解 φt(x0)\varphi_t(x_0) の ω\omega 極限集合を ω(x0)={y: ∃ tk→∞, φtk(x0)→y}\omega(x_0)=\{y:\ \exists\,t_k\to\infty,\ \varphi_{t_k}(x_0)\to y\} と定める。

補題 5.2(ω 極限集合の性質)✓

前方軌道 {φt(x0):t≥0}\{\varphi_t(x_0):t\ge0\} がコンパクト集合 K⊂UK\subset U に含まれるなら、ω(x0)\omega(x_0) は空でないコンパクト連結集合で、不変である:y∈ω(x0)y\in\omega(x_0) なら φt(y)∈ω(x0)\varphi_t(y)\in\omega(x_0)(すべての t∈Rt\in\mathbb{R})。

証明(補題 5.2)

KK のコンパクト性(定理 4.3[距離空間])から ω≠∅\omega\ne\emptyset で、ω=⋂T{φt(x0):t≥T}‾\omega=\bigcap_{T}\overline{\{\varphi_t(x_0):t\ge T\}} は閉集合の交わりなので閉、KK に含まれるのでコンパクトです。不変性:y=lim⁡φtk(x0)y=\lim\varphi_{t_k}(x_0) とします。KK から出る解は、KK だけで決まる時間 h>0h>0 の間は必ず存在します(定理 6.1[解の存在と一意性] の証明)。流れの連続性(定理 7.1[解の存在と一意性])から、∣s∣≤h|s|\le h で φs(y)\varphi_s(y) が定義され φs(y)=lim⁡kφs+tk(x0)∈ω⊂K\varphi_s(y)=\lim_k\varphi_{s+t_k}(x_0)\in\omega\subset K です。φs(y)∈ω\varphi_s(y)\in\omega から同じ議論を繰り返せば、すべての s∈Rs\in\mathbb{R} で成り立ちます。連結性:ω=A∪B\omega=A\cup B(互いに素な空でない閉集合)とすると d=dist⁡(A,B)>0d=\operatorname{dist}(A,B)>0 で、軌道は AA にも BB にも無限回いくらでも近づきます。連続関数 t↦dist⁡(φt(x0),A)t\mapsto\operatorname{dist}(\varphi_t(x_0),A) は <d/3<d/3 と >2d/3>2d/3 を無限回行き来するので =d/2=d/2 となる時刻列 sk→∞s_k\to\infty があり、収束部分列の極限は ω\omega の点で AA から距離 d/2d/2、BB から距離 ≥d/2\ge d/2 ですが、これは A∪BA\cup B に属さず矛盾です。

次の原理は、V˙≤0\dot V\le0 のとき V˙=0\dot V=0 となる点の集まりのうち、軌道がそこに留まり続けられる部分だけを見れば、軌道の行き先が分かる、という主張です。ここで集合が不変であるとは、その集合の点から出発した軌道が過去にも未来にもずっとその集合に留まることをいいます(補題の不変性と同じ意味です)。

LaSalle の不変原理。 V∈C1(U)V\in C^1(U)、Ωc={V≤c}\Omega_c=\{V\le c\} がコンパクトで V˙≤0\dot V\le0 とします。x0∈Ωcx_0\in\Omega_c なら V(φt(x0))V(\varphi_t(x_0)) は非増加で極限 ℓ\ell を持ち、ω(x0)\omega(x_0) の各点で V=ℓV=\ell です。ω\omega は不変なので VV はその上の軌道に沿って一定、すなわち V˙=0\dot V=0 です。したがって ω(x0)⊂{V˙=0}\omega(x_0)\subset\{\dot V=0\} に含まれる最大の不変集合です。

例 5.3(減衰振り子の漸近安定性)

例 3.2 の V=12v2+1−cos⁡θV=\frac12v^2+1-\cos\theta、V˙=−γv2\dot V=-\gamma v^2 で、{∣θ∣<π}\{|\theta|<\pi\} 内の {V≤c}\{V\le c\}(c<2c<2)はコンパクトです。{V˙=0}={v=0}\{\dot V=0\}=\{v=0\} に含まれる最大の不変集合は、v≡0v\equiv0 なら v′=−sin⁡θ=0v'=-\sin\theta=0 なので原点のみです。ゆえに ω(x0)={0}\omega(x_0)=\{0\}、原点は漸近安定で、{V<2}\{V<2\} の連結成分(原点を含むもの)が吸引域に含まれます。

以下、n=2n=2、U⊂R2U\subset\mathbb{R}^2 とします。

定理 5.4(Poincaré–Bendixson の定理)✓

U⊂R2U\subset\mathbb{R}^2 上の C1C^1 級自励系 (A) について、x0x_0 の前方軌道がコンパクト集合 K⊂UK\subset U に含まれ、ω(x0)\omega(x_0) が平衡点を含まないなら、ω(x0)\omega(x_0) は周期軌道(閉軌道)である。

証明の土台は次の 2 つの補題です。横断線分 SS とは、どの点でも ff が SS に接しない線分で、ff は SS を常に同じ側へ横切ります。

補題 5.5(横断線分への到達)✓

f(z)≠0f(z)\ne0、SS を zz を内点にもつ横断線分とする。zz の近傍 NN と C1C^1 級関数 τ:N→R\tau:N\to\mathbb{R} で、τ(z)=0\tau(z)=0、φτ(x)(x)∈S\varphi_{\tau(x)}(x)\in S となるものが存在する。

証明(補題 5.5)

nn を SS に垂直な単位ベクトルとし、h(t,x)=⟨φt(x)−z,n⟩h(t,x)=\langle\varphi_t(x)-z,n\rangle とします。h(0,z)=0h(0,z)=0、∂th(0,z)=⟨f(z),n⟩≠0\partial_th(0,z)=\langle f(z),n\rangle\ne0(横断性)で、hh は 定理 8.1[解の存在と一意性] により C1C^1 級です。陰関数定理(定理 5.1[逆関数定理・陰関数定理と条件付き極値])から zz の近傍 NN 上の C1C^1 級関数 τ\tau で h(τ(x),x)=0h(\tau(x),x)=0 となるものがあります。NN を十分小さくとれば φτ(x)(x)∈S\varphi_{\tau(x)}(x)\in S です。

次の補題は、軌道が同じ線分を何度も横切るとき、交点が線分の上で行ったり来たりせず、一方向に順に並ぶことを述べます。これが次の定理で「交点列が収束する」ことを言う鍵になります。証明では、軌道の一周分と線分でできる閉じた曲線の内側・外側を考え、軌道が一度入った側から出られないことを使います。

補題 5.6(横断点の単調性)✓

横断線分 SS と軌道が時刻順に交わる点を p1,p2,p3,…p_1,p_2,p_3,\dots とする。これらは SS 上で単調に並ぶ(pi+1p_{i+1} は pip_i と pi+2p_{i+2} の間にある)。

証明(補題 5.6)

ここでは Jordan の曲線定理(平面の単純閉曲線は平面を 2 つの領域に分け、曲線は両方の領域の境界になる。定理 4.2[Jordan の曲線定理と Jordan–Brouwer の分離定理])を用います。線分の内部の点の近くで線分の両側が異なる領域に属することは、この境界の主張から従います。実際、線分の内部の点 xx を中心とし、弧とも線分の端点とも交わらない半径の円板 NN(弧はコンパクトで xx を含まないので取れる)から下で作る単純閉曲線 CC を除くと二つの半円板になり、どちらも連結なのでそれぞれ一つの成分に入りますが、xx は両方の成分の閉包に入るので(曲線は両方の領域の境界)、二つの半円板は異なる成分に属します。pi≠pi+1p_i\ne p_{i+1} とします(等しければ軌道は周期的)。軌道の pip_i から pi+1p_{i+1} までの弧と、SS 上の線分 [pi,pi+1][p_i,p_{i+1}] は単純閉曲線 CC をなします(弧は SS と端点でしか交わらない)。SS の両側を ++ 側(ff が向かう側)と −- 側とします。ff は SS を −- から ++ へだけ横切るので、軌道は pi+1p_{i+1} を通過した直後に ++ 側へ入ります。CC が定める 2 領域のうち、線分 (pi,pi+1)(p_i,p_{i+1}) の ++ 側に接する方を DD とすると、軌道は pi+1p_{i+1} の直後に DD に入ります。以後、軌道は弧を横切れず(解の一意性)、線分 (pi,pi+1)(p_i,p_{i+1}) も ++ 側から −- 側へは横切れない(横切る向きが一定)ので、DD に留まります。次の交点 pi+2p_{i+2} は S∩DS\cap D の点で、線分 [pi,pi+1][p_i,p_{i+1}] の上にはありません。SS のうち線分の外側の 2 つの延長部分を見ます。pip_i では弧が ++ 側へ出ていくので、pip_i を越える延長は DD の反対側の領域に入ります。pi+1p_{i+1} では弧が −- 側から入ってくるので、pi+1p_{i+1} を越える延長は DD に入ります。ゆえに pi+2p_{i+2} は pi+1p_{i+1} を越えた延長上にあり、pi+1p_{i+1} は pip_i と pi+2p_{i+2} の間にあります。

証明の道筋は 3 段階です。(a) では、ω\omega 極限集合が横断線分と交わる点は高々 1 点であることを示します。(b) では、それを使って ω\omega の中に周期軌道 γ\gamma があることを示します。(c) では、ω\omega が γ\gamma だけであることを示します。最後の (c) までで、定理の結論 ω=γ\omega=\gamma が出ます。

証明(定理 5.4)

ω=ω(x0)\omega=\omega(x_0) とおき、補題 5.2 を使います。

(a) ω∩S\omega\cap S は高々 1 点(SS は横断線分)。 y,y′∈ω∩Sy,y'\in\omega\cap S とします。軌道は yy に無限回近づき、補題 5.5 により各回で SS と交わるので、yy に収束する交点列があります。同様に y′y' にも収束する交点列があります。これらはいずれも同じ軌道と SS の交点(時刻順に並べた列の部分列)で、補題 5.6 によりその列は単調、したがって収束し極限は 1 つです。ゆえに y=y′y=y'。

(b) ω\omega は周期軌道を含む。 y∈ωy\in\omega とします。ω(y)⊂ω\omega(y)\subset\omega は空でなく(yy の軌道は ω\omega に入りコンパクト)、z∈ω(y)z\in\omega(y) をとります。仮定により zz は平衡点でなく、zz を通る横断線分 SS がとれます。(a) と同様に、yy の軌道は SS と zz に収束する交点列をもち、交点は ω∩S\omega\cap S に属します。(a) より ω∩S={z}\omega\cap S=\{z\} なので、yy の軌道は同じ点 zz を 2 つの異なる時刻 t1<t2t_1<t_2 に通ります。yy は平衡点でない(仮定)ので、この軌道は周期軌道 γ\gamma で、γ⊂ω\gamma\subset\omega です。

(c) ω=γ\omega=\gamma。 ω≠γ\omega\ne\gamma とすると、ω\omega は連結なので、ω∖γ\omega\setminus\gamma の点で γ\gamma に任意に近いものがあります(さもなくば γ\gamma は ω\omega の開かつ閉集合)。ω∖γ\omega\setminus\gamma の点列 wkw_k で γ\gamma の点 ww に収束するものをとり(γ\gamma はコンパクト)、ww を通る横断線分 SS をとります(ww は平衡点でない)。補題 5.5 により、十分大きい kk で wkw_k の軌道は SS と交わり、その交点は不変性により ω∩S\omega\cap S に属します。(a) より ω∩S\omega\cap S は 1 点で、w∈ω∩Sw\in\omega\cap S なので ω∩S={w}\omega\cap S=\{w\} です。よって wkw_k の軌道は ww を通り、wk∈γw_k\in\gamma となって矛盾です。

例 5.7(リミットサイクル)

x′=x−y−x(x2+y2)x'=x-y-x(x^2+y^2)、y′=x+y−y(x2+y2)y'=x+y-y(x^2+y^2) は、極座標で r′=r(1−r2)r'=r(1-r^2)、θ′=1\theta'=1 です。円環 A={1/2≤r≤2}A=\{1/2\le r\le2\} は前方不変(r=2r=2 で r′<0r'<0、r=1/2r=1/2 で r′>0r'>0)で、原点以外に平衡点はありません。定理 5.4 は、AA から出る軌道の ω\omega 極限集合が周期軌道であることを保証します。ここでは r(t)=(1+(r0−2−1)e−2t)−1/2r(t)=\bigl(1+(r_0^{-2}-1)e^{-2t}\bigr)^{-1/2} から、実際に単位円 r=1r=1 に巻きつくことが確かめられます(図 2)。

不安定平衡点r = 1
図 2. リミットサイクル r = 1(太線)に、内側と外側から巻きつく軌道。

R3\mathbb{R}^3 以上ではこの定理が成り立たず、Lorenz 方程式のようなカオスが現れます。平面では軌道が交われないという位相的制約(Jordan の曲線定理)が、挙動を周期運動と平衡点に制限します。

6. 1 階偏微分方程式と特性曲線法

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2 変数の準線形方程式

a(x,y,u) ux+b(x,y,u) uy=c(x,y,u)(Q)a(x,y,u)\,u_x+b(x,y,u)\,u_y=c(x,y,u)\tag{Q}

(a,b,c∈C1a,b,c\in C^1)を考えます。解 u(x,y)u(x,y) のグラフは R3\mathbb{R}^3 の曲面です。特性曲線とは、常微分方程式の組

dxdt=a(x,y,u),dydt=b(x,y,u),dudt=c(x,y,u)(C)\frac{dx}{dt}=a(x,y,u),\quad\frac{dy}{dt}=b(x,y,u),\quad\frac{du}{dt}=c(x,y,u)\tag{C}

の解曲線です。初期データは曲線 Γ\Gamma:s↦(x0(s),y0(s))s\mapsto(x_0(s),y_0(s)) と値 u0(s)u_0(s)(C1C^1 級)で与え、非特性条件

a(x0,y0,u0) y0′(s)−b(x0,y0,u0) x0′(s)≠0(N)a(x_0,y_0,u_0)\,y_0'(s)-b(x_0,y_0,u_0)\,x_0'(s)\ne0\tag{N}

(データ曲線が特性方向に接しない)を仮定します。

(N) の意味は次のとおりです。特性曲線は解の曲面の上を走る曲線で、そこでは解の値が (C) で決まります。データ曲線 Γ\Gamma が特性曲線の方向に接していると、その点では特性曲線の (x,y)(x,y) 平面への射影が Γ\Gamma と同じ向きになり、Γ\Gamma の近くの点を新たに通らないので、そこから解の値を広げられません。接していなければ、Γ\Gamma の各点から出る特性曲線が Γ\Gamma の近くの点を 1 本ずつ通り、各点の値が決まります。

定理 6.1(特性曲線法の局所存在と一意性)✓

(N) が s=s0s=s_0 で成り立つなら、点 (x0(s0),y0(s0))(x_0(s_0),y_0(s_0)) の近傍で定義された (Q) の C1C^1 級の解 uu で、s0s_0 の近傍で u(x0(s),y0(s))=u0(s)u(x_0(s),y_0(s))=u_0(s) となるものが存在し、その近傍で一意である。

証明(定理 6.1)

(X,Y,U)(s,t)(X,Y,U)(s,t) を (C) の初期値 (x0(s),y0(s),u0(s))(x_0(s),y_0(s),u_0(s)) の解とします。(C) の右辺は C1C^1 級なので、定理 8.1[解の存在と一意性] により (X,Y,U)(X,Y,U) は (s,t)(s,t) について C1C^1 級です。写像 (s,t)↦(X,Y)(s,t)\mapsto(X,Y) の (s0,0)(s_0,0) でのヤコビ行列は (x0′ay0′b)\begin{pmatrix}x_0'&a\\y_0'&b\end{pmatrix} で、行列式は (N) より 00 でないから、逆関数定理(定理 4.1[逆関数定理・陰関数定理と条件付き極値])により局所的に C1C^1 級同相です。その逆を使って u(X(s,t),Y(s,t))=U(s,t)u(X(s,t),Y(s,t))=U(s,t) で uu を定めると uu は C1C^1 級です。両辺を tt で微分すると、連鎖律により

uxa+uyb=uxXt+uyYt=Ut=cu_xa+u_yb=u_xX_t+u_yY_t=U_t=c

で (Q) が成り立ちます。t=0t=0 で u(x0(s),y0(s))=u0(s)u(x_0(s),y_0(s))=u_0(s) です。

一意性。 u~\tilde u を別の C1C^1 級の解とします。x′=a(x,y,u~(x,y))x'=a(x,y,\tilde u(x,y))、y′=b(x,y,u~(x,y))y'=b(x,y,\tilde u(x,y)) は C1C^1 級のベクトル場なので、初期値 (x0(s),y0(s))(x_0(s),y_0(s)) の解 (x(t),y(t))(x(t),y(t)) がただ 1 つあり、その上で ddtu~(x,y)=u~xa+u~yb=c\frac{d}{dt}\tilde u(x,y)=\tilde u_xa+\tilde u_yb=c です。よって (x,y,u~(x,y))(x,y,\tilde u(x,y)) は初期値 (x0,y0,u0)(s)(x_0,y_0,u_0)(s) の (C) の解で、第 2 章の一意性から (X,Y,U)(s,t)(X,Y,U)(s,t) に一致します。u~(X,Y)=U=u(X,Y)\tilde u(X,Y)=U=u(X,Y) で、(X,Y)(X,Y) は近傍を覆うので u~=u\tilde u=u です。

例 6.2(輸送方程式)

ut+cux=0u_t+cu_x=0(cc は定数)、u(0,x)=u0(x)u(0,x)=u_0(x):(C) は dt/dσ=1dt/d\sigma=1、dx/dσ=cdx/d\sigma=c、du/dσ=0du/d\sigma=0 で、特性直線 x=ξ+ctx=\xi+ct 上で uu は一定です。解は u(t,x)=u0(x−ct)u(t,x)=u_0(x-ct)(波形が速度 cc で進む)。

例 6.3(Burgers 方程式:解が壊れる時刻)

ut+uux=0u_t+uu_x=0、u(0,x)=u0(x)u(0,x)=u_0(x)(u0∈C1u_0\in C^1、u0′u_0' は有界):(C) は dt/dσ=1dt/d\sigma=1、dx/dσ=udx/d\sigma=u、du/dσ=0du/d\sigma=0 なので、uu は特性直線 x=ξ+u0(ξ)tx=\xi+u_0(\xi)t に沿って一定です。T∗=−1/inf⁡u0′T^*=-1/\inf u_0'(inf⁡u0′≥0\inf u_0'\ge0 なら T∗=∞T^*=\infty)とおきます。

  • 0≤t<T∗0\le t<T^* なら、ξ↦ξ+tu0(ξ)\xi\mapsto\xi+tu_0(\xi) は導関数 1+tu0′≥1−t/T∗>01+tu_0'\ge1-t/T^*>0 をもつので、R\mathbb{R} から R\mathbb{R} への狭義単調な全単射です。F(t,x,ξ)=ξ+tu0(ξ)−xF(t,x,\xi)=\xi+tu_0(\xi)-x に陰関数定理を使うと逆写像 ξ(t,x)\xi(t,x) は (t,x)(t,x) について C1C^1 級で、u(t,x)=u0(ξ(t,x))u(t,x)=u_0(\xi(t,x)) が [0,T∗)×R[0,T^*)\times\mathbb{R} 上の C1C^1 級の解です。
  • T>T∗T>T^* では [0,T]×R[0,T]\times\mathbb{R} 上の C1C^1 級の解は存在しません。inf⁡u0′<0\inf u_0'<0 とすると、T>T∗=−1/inf⁡u0′T>T^*=-1/\inf u_0' より、−1/u0′(ξ∗)<T-1/u_0'(\xi^*)<T となる ξ∗\xi^* が存在します。ξ1<ξ2\xi_1<\xi_2 を ξ∗\xi^* に近くとると u0(ξ1)>u0(ξ2)u_0(\xi_1)>u_0(\xi_2) で、2 本の特性直線 x=ξi+u0(ξi)tx=\xi_i+u_0(\xi_i)t は時刻 t12=ξ2−ξ1u0(ξ1)−u0(ξ2)t_{12}=\frac{\xi_2-\xi_1}{u_0(\xi_1)-u_0(\xi_2)} に交わり、ξ1,ξ2→ξ∗\xi_1,\xi_2\to\xi^* で t12→−1/u0′(ξ∗)<Tt_{12}\to-1/u_0'(\xi^*)<T です。したがって t12<Tt_{12}<T となる組があります。C1C^1 級の解があれば、定理 6.1 の一意性の議論から uu は各特性直線上で一定なので、交点で 2 つの異なる値をとることになり矛盾です。

図 3 は u0=−tanh⁡ξu_0=-\tanh\xi(T∗=1T^*=1)の特性直線です。t=1t=1 で原点に集まり始め、その後は交差します。以後の解は衝撃波(不連続解)として弱い意味で考えます。

t = T* = 1xt
図 3. Burgers 方程式(u₀ = −tanh ξ)の特性直線。t = T* = 1 で交差が始まり、滑らかな解は存在しなくなる。

3 変数以上の準線形方程式、および完全非線形の方程式 F(x,y,u,ux,uy)=0F(x,y,u,u_x,u_y)=0 についても、特性曲線(後者では ux,uyu_x,u_y も含む「特性帯」)の常微分方程式を用いて同様の局所存在定理が成り立ちます。ここでは扱いません。

特性曲線法は 1 階の方程式に対するものでした。係数とデータが解析的ならば、一般の(標準形に直せる)偏微分方程式の初期値問題も、冪級数の優級数法で解けます。未知関数 u=(u1,…,uN)u=(u_1,\dots,u_N)、独立変数 (t,x)∈R×Rd(t,x)\in\mathbb{R}\times\mathbb{R}^d とし、

∂tui=∑j=1d∑k=1NAijk(x,t,u) ∂xjuk+bi(x,t,u),u(0,x)=ϕ(x)(CK)\partial_tu_i=\sum_{j=1}^d\sum_{k=1}^NA^{jk}_i(x,t,u)\,\partial_{x_j}u_k+b_i(x,t,u),\qquad u(0,x)=\phi(x)\tag{CK}

を考えます。

定理 7.1(Cauchy–Kovalevskaya の定理)✓

Aijk,biA^{jk}_i,b_i が (x,t,u)=(0,0,ϕ(0))(x,t,u)=(0,0,\phi(0)) の近傍で解析的、ϕ\phi が x=0x=0 で解析的ならば、(CK) は (t,x)=(0,0)(t,x)=(0,0) の近傍で解析的な解をもち、解析的な解は一意である。

証明の考え方です。解を冪級数 ∑Vktk\sum V_kt^k と仮定して係数を順に決めると、各係数は方程式の係数から足し算と掛け算だけで決まり、引き算が現れません。そこで、方程式の係数を、すべての係数がそれ以上の大きさをもつ簡単な級数(優級数)に取り替えた方程式を考えます。取り替えた方程式の解の係数は元の解の係数以上になります。その方程式が明示的に解けて収束級数になれば、元の級数も係数の大きさで押さえられ、収束します。

証明(定理 7.1)

(0) 帰着。 v=u−ϕ(x)v=u-\phi(x) とし、さらに tt を未知関数の成分 v0v_0(∂tv0=1\partial_tv_0=1、v0(0,x)=0v_0(0,x)=0)に加えます。V=(v0,v1,…,vN)V=(v_0,v_1,\dots,v_N)(m=N+1m=N+1 成分)は、データ V(0,x)=0V(0,x)=0 の

∂tV=∑j=1dA~j(x,V) ∂xjV+b~(x,V)(CK′)\partial_tV=\sum_{j=1}^d\tilde A_j(x,V)\,\partial_{x_j}V+\tilde b(x,V)\tag{CK$'$}

を満たします。ここで A~j,b~\tilde A_j,\tilde b は (x,V)=(0,0)(x,V)=(0,0) で解析的です(元の係数の tt に v0v_0、uu に v+ϕv+\phi を代入し、ϕ\phi の微分の項は b~\tilde b に入れる)。

(1) 形式解と優級数。 冪級数 f=∑fαzαf=\sum f_\alpha z^\alpha と非負係数の冪級数 f^=∑f^αzα\hat f=\sum\hat f_\alpha z^\alpha について、すべての α\alpha で ∣fα∣≤f^α|f_\alpha|\le\hat f_\alpha のとき f≪f^f\ll\hat f と書きます。和・積・偏微分・合成でこの関係は保たれます。(CK′') の形式解 V=∑k≥1Vk(x)tkV=\sum_{k\ge1}V_k(x)t^k では、両辺の tkt^k の係数を比べて

(k+1)Vk+1=[tk の係数](∑jA~j(x,V)∂xjV+b~(x,V))(k+1)V_{k+1}=\bigl[\text{$t^k$ の係数}\bigr]\Bigl(\sum_j\tilde A_j(x,V)\partial_{x_j}V+\tilde b(x,V)\Bigr)

となり、右辺は A~j,b~\tilde A_j,\tilde b の Taylor 係数と V1,…,VkV_1,\dots,V_k の(xx の冪級数としての)係数の、非負の整数係数をもつ多項式です(VV に定数項がないため Vk+1V_{k+1} は右辺に現れない)。したがって形式解は一意で、さらに次が成り立ちます。A~j≪A^j\tilde A_j\ll\hat A_j、b~≪b^\tilde b\ll\hat b であり、V^\hat V が優級数系

∂tV^=∑jA^j(x,V^) ∂xjV^+b^(x,V^),V^(0,x)=0\partial_t\hat V=\sum_j\hat A_j(x,\hat V)\,\partial_{x_j}\hat V+\hat b(x,\hat V),\qquad\hat V(0,x)=0

の形式解なら、帰納法により Vk≪V^kV_k\ll\hat V_k がすべての kk で成り立つ。

(2) 優級数系を明示的に解く。 A~j,b~\tilde A_j,\tilde b の各成分の Taylor 係数は、ある M≥1M\ge1、ρ>0\rho>0 により ∣cαβ∣≤Mρ−∣α∣−∣β∣|c_{\alpha\beta}|\le M\rho^{-|\alpha|-|\beta|} を満たします。∏i(1−xi/ρ)−1∏k(1−Vk/ρ)−1≪(1−(∑xi+∑Vk)/ρ)−1\prod_i(1-x_i/\rho)^{-1}\prod_k(1-V_k/\rho)^{-1}\ll(1-(\sum x_i+\sum V_k)/\rho)^{-1} (右辺の多項係数は左辺の係数以上)なので、すべての成分は g(x,V)=Mρρ−∑ixi−∑kVkg(x,V)=\dfrac{M\rho}{\rho-\sum_ix_i-\sum_kV_k} に優級されます(1≪g1\ll g にもなる)。A^j\hat A_j の各成分と b^\hat b の各成分を gg とします。優級数系は ∂tV^i=g(x,V^)(∑j∑k∂xjV^k+1)\partial_t\hat V_i=g(x,\hat V)\bigl(\sum_j\sum_k\partial_{x_j}\hat V_k+1\bigr) です。解を V^i=w(t,s)\hat V_i=w(t,s)、s=∑jxjs=\sum_jx_j と仮定すると、

wt=Mρρ−s−mw(dm ws+1),w(0,s)=0w_t=\frac{M\rho}{\rho-s-mw}\bigl(dm\,w_s+1\bigr),\qquad w(0,s)=0

です。a=ρ−sa=\rho-s、R=a2−2(d+1)mMρ tR=\sqrt{a^2-2(d+1)mM\rho\,t} として

w(t,s)=a−Rm(d+1)w(t,s)=\frac{a-R}{m(d+1)}

が解であることを直接確かめます。wt=Mρ/Rw_t=M\rho/R、ws=a−Rm(d+1)Rw_s=\dfrac{a-R}{m(d+1)R} で、ρ−s−mw=da+Rd+1\rho-s-mw=\dfrac{da+R}{d+1} です。よって

Mρρ−s−mw(dm ws+1)=Mρ(d+1)da+R⋅da+R(d+1)R=MρR=wt\frac{M\rho}{\rho-s-mw}(dm\,w_s+1)=\frac{M\rho(d+1)}{da+R}\cdot\frac{da+R}{(d+1)R}=\frac{M\rho}{R}=w_t

で、w(0,s)=(a−a)/(…)=0w(0,s)=(a-a)/(\ldots)=0 です。RR は (t,s)=(0,0)(t,s)=(0,0) の近傍で解析的(R(0,0)=ρ>0R(0,0)=\rho>0)なので、ww も解析的で、その Taylor 級数を s=∑xjs=\sum x_j に代入したものは、優級数系の形式解(形式解は一意)です。その係数は (1) の再帰式から非負で、冪級数として収束します。

(3) 収束。 (1) の評価から V=∑VktkV=\sum V_kt^k の係数は V^\hat V の係数で上から押さえられるので、VV は (t,x)=(0,0)(t,x)=(0,0) の近傍で絶対収束し、解析関数を定めます。形式的な恒等式が収束級数の恒等式なので、これは (CK′') の解です。u=(v1,…,vN)+ϕu=(v_1,\dots,v_N)+\phi が (CK) の解になります。一意性:解析的な解の Taylor 級数は同じ再帰式を満たすので、(1) の形式解と一致します。

注意 7.2(解析性・標準形の仮定は外せない)

熱方程式 ut=uxxu_t=u_{xx}(xx について 2 階で、(CK) の標準形ではない)、u(0,x)=1/(1−x)u(0,x)=1/(1-x) の形式解は u=∑k≥0tkk!∂x2kϕ(x)u=\sum_{k\ge0}\dfrac{t^k}{k!}\partial_x^{2k}\phi(x) で、x=0x=0 での係数は (2k)!k!tk\dfrac{(2k)!}{k!}t^k です。(2k)!/k!(2k)!/k! は k→∞k\to\infty で階乗的に増大するので、t≠0t\ne0 では級数が発散します。係数が解析的でも、方程式が標準形でなければ(tt 方向に関して特性的でなければ)冪級数解は存在するとは限りません(Kovalevskaya の反例)。

演習 8.1易

x′=−x3−yx'=-x^3-y、y′=x−y3y'=x-y^3 の原点が漸近安定であることを、Lyapunov 関数を見つけて示せ。線形化では何が分かるか。

解答

線形化は (0−110)\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix} で固有値 ±i\pm i(実部 00)、定理 4.2 は使えません。V=x2+y2V=x^2+y^2 は正定値で

V˙=2x(−x3−y)+2y(x−y3)=−2(x4+y4)\dot V=2x(-x^3-y)+2y(x-y^3)=-2(x^4+y^4)

です。(x,y)≠0(x,y)\ne0 で V˙<0\dot V<0 なので、定理 3.1 の 2 により原点は漸近安定です。

演習 8.2標準

x′=yx'=y、y′=x−x3y'=x-x^3 の平衡点を求め、それぞれの線形化から安定性を判定せよ。

解答

平衡点は y=0y=0、x(1−x2)=0x(1-x^2)=0 から (0,0),(±1,0)(0,0),(\pm1,0) です。ヤコビ行列は (011−3x20)\begin{pmatrix}0&1\\1-3x^2&0\end{pmatrix}。原点では (0110)\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} で固有値 ±1\pm1(正と負)なので、定理 4.2 の 2 により不安定(鞍点)。(±1,0)(\pm1,0) では (01−20)\begin{pmatrix}0&1\\-2&0\end{pmatrix} で固有値 ±i2\pm i\sqrt2(実部 00)、線形化では決まりません。H=12y2−12x2+14x4H=\frac12y^2-\frac12x^2+\frac14x^4 は保存量(H˙=y(x−x3)+(−x+x3)y=0\dot H=y(x-x^3)+(-x+x^3)y=0)で、(±1,0)(\pm1,0) はその極小点(Hxx=−1+3x2=2>0H_{xx}=-1+3x^2=2>0)なので、定理 3.1 の 1(V=H−H(±1,0)V=H-H(\pm1,0))により安定(中心)です。

演習 8.3標準

ux+2uy=uu_x+2u_y=u、u(0,y)=yu(0,y)=y を特性曲線法で解け。

解答

(C) は dx/dt=1dx/dt=1、dy/dt=2dy/dt=2、du/dt=udu/dt=u。初期値 (0,s,s)(0,s,s) から X=tX=t、Y=s+2tY=s+2t、U=setU=se^{t}。(N) は a y0′−b x0′=1⋅1−2⋅0=1≠0a\,y_0'-b\,x_0'=1\cdot1-2\cdot0=1\ne0。t=xt=x、s=y−2xs=y-2x より u(x,y)=(y−2x)exu(x,y)=(y-2x)e^{x} です。確かめると ux=−2ex+(y−2x)exu_x=-2e^x+(y-2x)e^x、uy=exu_y=e^x、ux+2uy=(y−2x)ex=uu_x+2u_y=(y-2x)e^x=u、u(0,y)=yu(0,y)=y です。

  • M. W. Hirsch and S. Smale, Differential Equations, Dynamical Systems, and Linear Algebra, Academic Press, 1974 — Chapters 9, 11(Lyapunov の方法、Poincaré–Bendixson の定理)。
  • G. Teschl, Ordinary Differential Equations and Dynamical Systems, American Mathematical Society, 2012 — Chapters 6–7(安定性、Poincaré–Bendixson)。
  • L. C. Evans, Partial Differential Equations, 2nd ed., American Mathematical Society, 2010 — §3.2(特性曲線法)、§4.6(Cauchy–Kovalevskaya の定理)。
  • G. B. Folland, Introduction to Partial Differential Equations, 2nd ed., Princeton University Press, 1995 — Chapter 1(Cauchy–Kovalevskaya、優級数法)。
  • 高橋陽一郎『微分方程式入門』東京大学出版会、1988 — 安定性の章。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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