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多項式環と体の拡大:素因数分解の一意性から作図不能性まで

対象読者: 本テーマ第 5〜6 章の環・体・イデアル・剰余環・PID を学んだ人。UFD、体の拡大、ガロア理論は仮定しません。

前提となる記事:イデアルと剰余環:環を「割る」ための正規部分群

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整数は素数の積にただ一通りに分けられます。では、x2−1x^2-1 のような多項式や、Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] のような「整数を広げた数の世界」でも同じことが言えるでしょうか。この記事では、どんな世界で分解が一通りに決まるかを調べ、方程式の根を付け加えて数の体系(体)を大きくする方法を学びます。最後に、定規とコンパスだけでは立方体の倍積や角の三等分ができない理由が、体の大きさ(次元)の数え上げだけで分かるところまで進みます。

  • 整数の素因数分解の一意性は、PID(単項イデアル整域。どのイデアルも 1 つの元で生成される整域)でそのまま成り立ちます。さらに環 RR が UFD(一意分解整域)なら R[x]R[x] も UFD になり、Z[x]\mathbb{Z}[x] や K[x1,…,xn]K[x_1,\ldots,x_n] が UFD であることが従います(ガウスの補題)。
  • ガウスの補題は「R[x]R[x] での既約性」と「分数体 KK 上の K[x]K[x] での既約性」を結びつけます。その応用がアイゼンシュタインの判定法で、xn−px^n - p や円分多項式 Φp\Phi_p の既約性がほぼ暗算で示せます。
  • ヒルベルトの基底定理は、ネーター環 RR に対して R[x]R[x] もネーター環であること、つまり多項式環のイデアルがつねに有限個の元で生成されることを保証します。
  • 体の拡大では、拡大次数の連鎖律、分解体(多項式の根をすべて含む最小の体)の存在と(同型を除く)一意性、正規拡大が「ある多項式の分解体」と同値なこと、既約多項式が重根を持つのは標数 pp で f∈K[xp]f \in K[x^p] のときに限ることを証明します。
  • 有限体は位数 pnp^n のものがただ一つずつ存在し、その乗法群は巡回群です。体として有限体を作る道具は、既約多項式による剰余環でした。
  • 定規とコンパスで作れる長さは、体の 22 冪次の塔に入ります。これで立方体倍積問題と角の三等分問題が不可能であることが、x3−2x^3-2 などの既約性(拡大次数 33)から出ます。

1. 動機:割り算の世界を Z\mathbb{Z} の外へ

Section titled “1. 動機:割り算の世界を Z\mathbb{Z}Z の外へ”

Z\mathbb{Z} では、00 でも ±1\pm 1 でもない整数が素数の積に一意的に分解されます。この算術の基本定理は、gcd⁡\gcd や最小公倍数、合同式の理論を支えています。では多項式ではどうでしょうか。x2−1=(x−1)(x+1)x^2 - 1 = (x-1)(x+1) のように、体 KK 上の多項式環 K[x]K[x] でも同じ分解が成り立ちそうです。一方、Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] のように整数を拡張した環では、6=2⋅3=(1+−5)(1−−5)6 = 2 \cdot 3 = (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}) と二通りに分解されて、素因数分解の一意性が壊れる例があります(例 2.6)。一意性は環ごとに確かめるべき性質であり、確かめる道具が必要です。

もう一つの出発点は方程式です。x3−2=0x^3 - 2 = 0 の根 23\sqrt[3]{2} は有理数ではありませんが、有理数係数の既約多項式 x3−2x^3-2 の根として一意に特徴づけられます。ここから Q(23)≅Q[x]/(x3−2)\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) \cong \mathbb{Q}[x]/(x^3-2) という体が作られ、Q\mathbb{Q} 上 33 次元のベクトル空間になります。方程式を解くという営みは、体を大きくするという営みに言い換えられるわけです。この言い換えの結果は、たとえば古代ギリシア以来の作図問題(立方体の倍積、角の三等分、円積)に対する決着になります。

この記事は、イデアルと剰余環で得た「PID・極大イデアルと剰余体」の道具を使って、次の順に進みます。

  1. 一意分解整域(UFD)を定義し、PID が UFD であることを示す(§2)。
  2. ガウスの補題から R[x]R[x] が UFD であることを導く(§3)。
  3. アイゼンシュタインの判定法(§4)とヒルベルトの基底定理(§5)。
  4. 代数拡大・分解体・正規拡大・分離拡大(§6)、有限体(§7)、作図不能性(§8)。

次の記事の ガロア理論への招待 は、ここで整えた体の拡大の語彙を使ってガロア群を導入します。

2. 素因数分解の一意性:UFD と PID

Section titled “2. 素因数分解の一意性:UFD と PID”

以下、環はすべて可換環で 1≠01 \ne 0 とし、特に断らない限り整域(零因子のない環)とします。整域 RR の元 a,ba, b について、a=bca = bc となる c∈Rc \in R があるとき b∣ab \mid a と書きます。RR の単元とは積の逆元がある元で、単元の全体を R×R^{\times} と書きます。a=uba = ub(u∈R×u \in R^{\times})のとき aa と bb は同伴であるといい、a∼ba \sim b と書きます。同伴は (a)=(b)(a) = (b) と同値です。

定義 2.1(既約元と素元)↗

整域 RR の元 pp が 00 でも単元でもないとします。

  • pp が既約元であるとは、p=abp = ab ならば aa と bb の少なくとも一方が単元であることをいう。
  • pp が素元であるとは、p∣abp \mid ab ならば p∣ap \mid a または p∣bp \mid b であることをいう((p)(p) が素イデアルであることと同じ)。

Z\mathbb{Z} では両者は一致し、素数が既約元かつ素元です。一般には既約元でも素元でない例があります(例 2.6)。逆向きは常に成り立ちます。素元 pp が p=abp = ab と分解したとすると、p∣abp \mid ab から p∣ap \mid a または p∣bp \mid b で、たとえば a=pa′a = pa' なら p=pa′bp = pa'b より a′b=1a'b = 1(整域なので消去できる)となって bb は単元です。したがって素元は既約元です。

定義 2.2(一意分解整域(UFD))↗

整域 RR が一意分解整域(UFD)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。

  1. 00 でも単元でもない任意の元が、有限個の既約元の積として書ける。
  2. 既約元の積としての 2 通りの表示 p1⋯pr=q1⋯qsp_1 \cdots p_r = q_1 \cdots q_s があれば r=sr = s で、番号を付け替えて pi∼qip_i \sim q_i(i=1,…,ri = 1, \ldots, r)となる。

条件 2 の一意性は、素元の言葉で言い換えられます。次の補題のねらいは、分解の一意性という扱いにくい性質を「既約元ならば素元」という、確かめやすい条件に置き換えることです。証明は、素元なら積の分解のどこかの因子を必ず割る、という点を軸に、因子を 1 つずつ消す帰納法で進みます。

補題 2.3(一意性と素元)✓

整域 RR で、00 でも単元でもない任意の元が既約元の積に書けるとする。このとき、RR が UFD であることと、RR のすべての既約元が素元であることは同値である。

証明(補題 2.3)

(⇐)(\Leftarrow) すべての既約元が素元であるとします。p1⋯pr=q1⋯qsp_1 \cdots p_r = q_1 \cdots q_s(すべて既約元)として、rr に関する帰納法で示します。p1p_1 は素元なので、右辺を割り、したがって p1∣qjp_1 \mid q_j となる jj があります(素元の定義を ss 回使う)。番号を付け替えて j=1j = 1 とします。q1=p1cq_1 = p_1 c と書くと、q1q_1 は既約元で p1p_1 は単元でないので cc は単元です。つまり p1∼q1p_1 \sim q_1 です。両辺から p1p_1 を消去する(整域)と p2⋯pr=c q2⋯qsp_2 \cdots p_r = c\, q_2 \cdots q_s となります。r=1r = 1 なら左辺は 11 なので s=1s = 1 でなければならず(q2q_2 が存在すれば q2q_2 は単元になり既約元に反する)、r≥2r \ge 2 なら、s=1s = 1 とすると左辺 p2⋯prp_2 \cdots p_r が単元 cc に等しくなって p2p_2 が単元になるので不可能で、s≥2s \ge 2 です。このとき cq2c q_2 も既約元(単元倍)なので、帰納法の仮定が適用できて r−1=s−1r - 1 = s - 1 と同伴の対応が得られます。

(⇒)(\Rightarrow) RR が UFD で、pp が既約元、p∣abp \mid ab とします。ab=pcab = pc と書きます。a=0a = 0 や b=0b = 0 なら pp はそれを割るので、a,b≠0a, b \neq 0 とします。aa が単元なら p∣abp \mid ab から p∣bp \mid b が出ます(b=a−1(ab)b = a^{-1}(ab))。bb が単元のときも同様です。そこで a,ba, b がともに単元でないとすると、cc も 00 でないことがわかり、a,ba, b を既約元の積に分解できます。cc が単元なら pcpc は既約元(単元倍)、そうでなければ cc も既約元の積に分解できます。ab=pcab = pc の両辺は、「aa の既約分解と bb の既約分解を並べたもの」と「pp と cc の既約分解を並べたもの」という二通りの既約分解です。一意性により pp は左辺に現れる既約元のどれか、すなわち aa または bb の既約因子のいずれかと同伴です。したがって p∣ap \mid a または p∣bp \mid b です。

補題 2.4(PID の既約元は素元で、生成するイデアルは極大)✓

RR を PID、pp を既約元とする。このとき (p)(p) は極大イデアルであり、pp は素元である。

証明(補題 2.4)

pp は単元でないので (p)≠R(p) \ne R です。(p)⊆J⊆R(p) \subseteq J \subseteq R をイデアルとすると、RR は PID なので J=(d)J = (d) と書けます。p∈(d)p \in (d) から p=dep = de となる ee があり、pp が既約元であるから dd か ee が単元です。dd が単元なら J=RJ = R。ee が単元なら d=pe−1∈(p)d = pe^{-1} \in (p) なので J=(p)J = (p) です。よって (p)(p) は極大イデアルです。定理 6.3[イデアルと剰余環] により R/(p)R/(p) は体で、特に整域なので、命題 6.2[イデアルと剰余環] より (p)(p) は素イデアル、すなわち pp は素元です。

定理 2.5(PID は UFD)✓

単項イデアル整域は UFD である。特に Z\mathbb{Z} と、体 KK 上の多項式環 K[x]K[x] は UFD である。

証明(定理 2.5)

RR を PID とします。補題 2.4 により既約元は素元なので、補題 2.3 から、あとは「00 でも単元でもない元は既約元の積に書ける」ことを示せば十分です。

そうでない元 a0a_0 があったとします。a0a_0 自身は既約元ではないので a0=bca_0 = bc(b,cb, c はともに単元でない)と書けます。b,cb, c がともに既約元の積なら a0a_0 もそうなってしまうので、少なくとも一方は既約元の積に書けません。それを a1a_1 とします。a1∣a0a_1 \mid a_0 ですから (a0)⊆(a1)(a_0) \subseteq (a_1) で、等号は成り立ちません。実際 a0=a1c′a_0 = a_1 c'(c′c' は単元でない)で、(a1)=(a0)(a_1) = (a_0) なら a1=a0u=a1c′ua_1 = a_0 u = a_1 c' u となり c′u=1c' u = 1 で c′c' が単元になって矛盾します。同じ議論を a1a_1 に繰り返して、真に増加するイデアルの列

(a0)⊊(a1)⊊(a2)⊊⋯(a_0) \subsetneq (a_1) \subsetneq (a_2) \subsetneq \cdots

が得られます。和集合 I=⋃n(an)I = \bigcup_n (a_n) はイデアルです(2 元はある (an)(a_n) に共に入る)。RR が PID なので I=(d)I = (d) と書け、d∈(aN)d \in (a_N) となる NN があります。すると I=(d)⊆(aN)⊆(aN+1)⊆II = (d) \subseteq (a_N) \subseteq (a_{N+1}) \subseteq I となり、(aN)=(aN+1)(a_N) = (a_{N+1}) で、真に増加するという構成に反します。

Z\mathbb{Z} と K[x]K[x] が PID であることは 命題 7.2[イデアルと剰余環] で示してあります。これで「K[x]K[x] の多項式は既約多項式の積に一意的に分解される」ことが証明されました。体 KK を大きくすると、既約多項式の様子が変わります(x2+1x^2+1 は R\mathbb{R} 上既約ですが、C\mathbb{C} 上では (x−i)(x+i)(x-i)(x+i) と分解します)。

例 2.6(UFD でない整域:Z[√−5])

R=Z[−5]={a+b−5:a,b∈Z}R = \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] = \{a + b\sqrt{-5} : a, b \in \mathbb{Z}\} は C\mathbb{C} の部分環で整域です。ノルム N(a+b−5)=a2+5b2N(a + b\sqrt{-5}) = a^2 + 5b^2 は N(αβ)=N(α)N(β)N(\alpha\beta) = N(\alpha)N(\beta) を満たし(N(α)=ααˉN(\alpha) = \alpha\bar{\alpha})、N(α)=1N(\alpha) = 1 となる元は ±1\pm 1 だけです。したがって R×={±1}R^{\times} = \{\pm 1\} です(αβ=1\alpha\beta = 1 なら N(α)N(β)=1N(\alpha)N(\beta) = 1)。

6=2⋅3=(1+−5)(1−−5)6 = 2 \cdot 3 = (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}) という 2 通りの分解を考えます。N(2)=4N(2) = 4, N(3)=9N(3) = 9, N(1±−5)=6N(1 \pm \sqrt{-5}) = 6 です。ノルムが 22 や 33 になる元は存在しません(a2+5b2=2,3a^2 + 5b^2 = 2, 3 は b=0b = 0 なら a2∈{2,3}a^2 \in \{2, 3\}、b≠0b \ne 0 なら左辺 ≥5\ge 5 で不可能)。いま 2=αβ2 = \alpha\beta と分解すれば N(α)N(β)=4N(\alpha)N(\beta) = 4 なので、N(α)∈{1,2,4}N(\alpha) \in \{1, 2, 4\} のうち 22 は不可能、よって一方が N=1N = 1、すなわち単元です。ゆえに 22 は既約元で、同様に 33 も、N=6N = 6 の 1±−51 \pm \sqrt{-5} も既約元です(6=2⋅36 = 2 \cdot 3 で、ノルムの積が 66 になる分解は {1,6}\{1, 6\} 以外にありえない)。

22 と 1±−51 \pm\sqrt{-5} は同伴ではありません(単元は ±1\pm 1 のみで、2≠±(1±−5)2 \ne \pm(1\pm\sqrt{-5}))。よって RR は UFD ではありません。実際、2∣(1+−5)(1−−5)=62 \mid (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}) = 6 ですが、2∤1±−52 \nmid 1 \pm \sqrt{-5}(商 (1±−5)/2(1 \pm \sqrt{-5})/2 は RR の元でない)なので、22 は既約元なのに素元ではありません。

整域例:Z[√−5](UFD でない)UFD例:Z[x], K[x, y](PID でない)PID例:Z, K[x]体
整域の包含関係。右へ行くほど性質が弱く、例は「その類に属して、ひとつ内側には属さない」環

3. ガウスの補題と R[x]R[x] の一意分解

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この節では RR を UFD、KK をその分数体(a/ba/b、a,b∈Ra, b \in R、b≠0b \neq 0 の形の元からなる体。Z\mathbb{Z} から Q\mathbb{Q} を作るのと同じ構成)とします。目的は、Z[x]\mathbb{Z}[x] の多項式が Q[x]\mathbb{Q}[x] で既約かどうかと、Z[x]\mathbb{Z}[x] で既約かどうかを結びつけることです。

定義 3.1(原始多項式)↗

f=anxn+⋯+a0∈R[x]f = a_n x^n + \cdots + a_0 \in R[x] が原始多項式であるとは、f≠0f \neq 0 で、RR の素元で ff のすべての係数を割るものが存在しないことをいう。

この節の見通しは次のとおりです。係数をすべて割る素元がない多項式(原始多項式)を「これ以上括り出せない形」とみなし、任意の多項式を「定数 × 原始多項式」に分けます。原始多項式どうしの積はまた原始多項式になる(次の補題)ので、K[x]K[x] での分解を R[x]R[x] に持ち帰ることができます。

UFD では 0 でも単元でもない元は素元(= 既約元、補題 2.3)の積なので、原始多項式であることは「係数すべてを割る非単元が存在しない」ことと同じです。特に定数 a∈Ra \in R が原始多項式であることは aa が単元であることと同じです。

任意の 00 でない f∈R[x]f \in R[x] は、f=df0f = d f_0(d∈Rd \in R, f0f_0 は原始多項式)と書けます。実際、素元 pp がすべての係数を割るなら f=pf1f = pf_1 としますが、ff の 00 でない係数 aa の既約因子の個数は f1f_1 の対応する係数では 11 減るので、この操作は有限回で止まります。

補題 3.2(原始多項式の積は原始多項式)✓

f,g∈R[x]f, g \in R[x] が原始多項式なら、積 fgfg も原始多項式である。

証明(補題 3.2)

fgfg のすべての係数を割る素元 pp があったとします。RR から Rˉ=R/(p)\bar{R} = R/(p) への自然な全射の係数ごとの適用が環準同型 π:R[x]→Rˉ[x]\pi : R[x] \to \bar{R}[x] を定め、その核は「すべての係数が (p)(p) に入る多項式」です。pp は素元なので (p)(p) は素イデアルで、命題 6.2[イデアルと剰余環] により Rˉ\bar{R} は整域、定理 6.2[環と体の基礎] により Rˉ[x]\bar{R}[x] も整域です。仮定から π(f)π(g)=π(fg)=0\pi(f)\pi(g) = \pi(fg) = 0 なので、π(f)=0\pi(f) = 0 または π(g)=0\pi(g) = 0、すなわち pp が ff のすべての係数または gg のすべての係数を割ります。これは f,gf, g が原始多項式であることに反します。

補題 3.3(有理係数多項式の「内容」の分離)✓

00 でない f∈K[x]f \in K[x] は、f=cf0f = c f_0(c∈K×c \in K^{\times}, f0∈R[x]f_0 \in R[x] は原始多項式)の形に書ける。この表示の cc は R×R^{\times} 倍を除いて一意である。すなわち cf0=c′f0′c f_0 = c' f_0'(f0,f0′f_0, f_0' は原始多項式)ならば c/c′∈R×c/c' \in R^{\times} である。

証明(補題 3.3)

存在。 ff の係数の共通分母 b∈R∖{0}b \in R \setminus \{0\} を取ると bf∈R[x]bf \in R[x] で、上の注意から bf=df0bf = d f_0 と書けます。c=d/bc = d/b とすればよいです。

一意性。 c/c′=a/bc/c' = a/b(a,b∈Ra, b \in R)と書き、約分して aa と bb に共通の素元因子がないようにします。cf0=c′f0′c f_0 = c' f_0' から af0=bf0′a f_0 = b f_0' です。素元 pp が bb を割るとすると、pp は af0a f_0 の各係数 a⋅(f0 の係数)a \cdot (f_0 \text{ の係数}) を割りますが、p∤ap \nmid a なので、素元性により pp は f0f_0 のすべての係数を割ります。これは f0f_0 が原始多項式であることに反します。したがって bb を割る素元はなく、bb は単元です。対称に aa も単元で、c/c′=a/b∈R×c/c' = a/b \in R^{\times} です。

定理 3.4(ガウスの補題)✓

RR を UFD、KK をその分数体とし、f∈R[x]f \in R[x] を次数 11 以上の原始多項式とする。

  1. ff が K[x]K[x] で f=GHf = GH(deg⁡G,deg⁡H≥1\deg G, \deg H \ge 1)と分解するなら、R[x]R[x] でも f=ghf = gh(deg⁡g=deg⁡G\deg g = \deg G, deg⁡h=deg⁡H\deg h = \deg H)と分解する。
  2. したがって ff が R[x]R[x] で既約であることと、K[x]K[x] で既約であることは同値である。
証明(定理 3.4)

(1) 補題 3.3 により G=c g0G = c\, g_0, H=c′ h0H = c'\, h_0(g0,h0g_0, h_0 は原始多項式、c,c′∈K×c, c' \in K^{\times})と書けます。すると f=(cc′) g0h0f = (cc')\, g_0 h_0 で、補題 3.2 により g0h0g_0h_0 は原始多項式です。一方 f=1⋅ff = 1 \cdot f も ff の原始多項式による表示なので、補題 3.3 の一意性から cc′=:u∈R×cc' =: u \in R^{\times} です。よって f=(ug0)h0f = (u g_0) h_0 は R[x]R[x] での分解で、次数は deg⁡G,deg⁡H\deg G, \deg H に等しいです。

(2) ff が K[x]K[x] で既約とします。R[x]R[x] で f=ghf = gh と分解したとすると、K[x]K[x] の既約性から gg か hh は定数で、たとえば g=a∈Rg = a \in R です。aa は ff のすべての係数を割り、ff は原始多項式なので aa は単元です。したがって ff は R[x]R[x] で既約です。逆に ff が R[x]R[x] で既約なら、(1) の対偶により K[x]K[x] で既約です(K[x]K[x] での次数 ≥1\ge 1 同士の分解があれば (1) で R[x]R[x] の非自明な分解になる)。

定理 3.5(R が UFD なら R[x] も UFD)✓

RR が UFD ならば多項式環 R[x]R[x] も UFD である。したがって Z[x]\mathbb{Z}[x]、体 KK 上の K[x1,…,xn]K[x_1, \ldots, x_n]、Z[x1,…,xn]\mathbb{Z}[x_1, \ldots, x_n] はいずれも UFD である。

証明(定理 3.5)

KK を RR の分数体とします。補題 2.3 により、(a) 00 でも単元でもない元が既約元の積になること、(b) R[x]R[x] の既約元が素元であること、を示せばよいです。

(a) 分解の存在。 f∈R[x]f \in R[x] を 00 でも単元でもないとし、f=df0f = d f_0(d∈Rd \in R, f0f_0 は原始多項式)と書きます。dd が 00 でも単元でもなければ、RR が UFD なので dd は RR の既約元の積です。RR の既約元(= 素元)pp は R[x]R[x] でも既約元です(p=ghp = gh なら次数の和が 00 で g,h∈Rg, h \in R であり、pp の既約性から一方は単元)。f0f_0 が定数なら単元です。deg⁡f0≥1\deg f_0 \ge 1 なら、K[x]K[x] は UFD(定理 2.5)なので f0=G1⋯Grf_0 = G_1 \cdots G_r(GiG_i は K[x]K[x] の既約元)と書けます。Gi=cigiG_i = c_i g_i(gig_i は原始多項式)とすると、f0=(c1⋯cr)g1⋯grf_0 = (c_1 \cdots c_r) g_1 \cdots g_r で、補題 3.2 と 補題 3.3 の一意性から c1⋯cr=:u∈R×c_1 \cdots c_r =: u \in R^{\times} です。各 gig_i は K[x]K[x] で既約な(GiG_i の定数倍なので)原始多項式で、定理 3.4 (2) により R[x]R[x] で既約です。よって f0=(ug1)g2⋯grf_0 = (u g_1) g_2 \cdots g_r は既約元の積です。

(b) 既約元は素元。 q∈R[x]q \in R[x] を既約元とします。

qq が定数のとき。 q=p∈Rq = p \in R は R[x]R[x] の既約元で、RR でも既約元(R⊆R[x]R \subseteq R[x] で R[x]×=R×R[x]^{\times} = R^{\times})なので、RR の素元です。p∣ghp \mid gh(g,h∈R[x]g, h \in R[x])なら π:R[x]→(R/(p))[x]\pi : R[x] \to (R/(p))[x] による像で π(g)π(h)=0\pi(g)\pi(h) = 0 となり、(R/(p))[x](R/(p))[x] は整域なので π(g)=0\pi(g) = 0 または π(h)=0\pi(h) = 0、つまり p∣gp \mid g または p∣hp \mid h です。

deg⁡q≥1\deg q \ge 1 のとき。 qq は原始多項式です。実際、素元 pp が全係数を割るなら q=pq1q = p q_1 と書け、qq が既約元で pp は単元でないので q1q_1 は単元、つまり定数です。すると deg⁡q=deg⁡p=0\deg q = \deg p = 0 となり deg⁡q≥1\deg q \ge 1 に反します。定理 3.4 (2) により qq は K[x]K[x] でも既約で、PID の既約元として素元です(補題 2.4)。q∣ghq \mid gh(g,h∈R[x]g, h \in R[x])とします。K[x]K[x] で q∣gq \mid g または q∣hq \mid h なので、たとえば g=q⋅sg = q \cdot s(s∈K[x]s \in K[x])です。s=cs0s = c s_0(s0s_0 は原始多項式)と書くと g=c (qs0)g = c\,(q s_0) で、qs0q s_0 は 補題 3.2 により原始多項式です。一方、g=d g0g = d\, g_0(d∈Rd \in R, g0g_0 は原始多項式)とも書けるので、補題 3.3 の一意性から c/d∈R×c/d \in R^{\times}、特に c∈Rc \in R です。よって s=cs0∈R[x]s = c s_0 \in R[x] で、q∣gq \mid g が R[x]R[x] で成り立ちます。

最後の主張は、Z\mathbb{Z} と体が UFD(PID)であることと、R[x1,…,xn]=R[x1,…,xn−1][xn]R[x_1, \ldots, x_n] = R[x_1, \ldots, x_{n-1}][x_n] に対する帰納法から従います。

Z[x]\mathbb{Z}[x] は UFD ですが PID ではありません(演習 9.1)。「UFD ⊋ PID」の例が自然に現れることが、上の図の包含関係の根拠です。

4. アイゼンシュタインの既約判定法

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ガウスの補題は、整数係数の多項式の既約性を判定するための橋です。たとえば x3−2x^3-2 は、係数が 1,0,0,−21,0,0,-2 と並び、先頭以外がすべて 22 の倍数で、定数項 −2-2 は 44 で割り切れません。その最も有名な応用がアイゼンシュタインの判定法で、「pp を法として見ると ff は anxna_n x^n に潰れる」という観察だけで既約性が決まります。

定理 4.1(アイゼンシュタインの判定法)✓

RR を UFD、KK をその分数体、p∈Rp \in R を素元とする。f=anxn+⋯+a1x+a0∈R[x]f = a_n x^n + \cdots + a_1 x + a_0 \in R[x](n≥1n \ge 1)が

p∤an,p∣ai  (0≤i≤n−1),p2∤a0p \nmid a_n, \qquad p \mid a_i \ \ (0 \le i \le n-1), \qquad p^2 \nmid a_0

を満たすならば、ff は K[x]K[x] で既約である。さらに ff が原始多項式なら、ff は R[x]R[x] でも既約である。特に R=ZR = \mathbb{Z} なら、f∈Z[x]f \in \mathbb{Z}[x] は Q[x]\mathbb{Q}[x] で既約である。

証明の方針は背理法です。可約だと仮定して pp を法に還元すると、積が単項式 aˉnxn\bar{a}_n x^n になります。単項式の因数はまた単項式なので、それぞれの定数項が pp で割り切れ、結局 a0a_0 が p2p^2 で割り切れてしまう、という矛盾に至ります。

証明(定理 4.1)

原始多項式への帰着。 §3 の注意(係数全体から共通の素元因子を取り除く操作)より f=df0f = d f_0(d∈Rd \in R, f0f_0 は原始多項式)と書けます。p∤anp \nmid a_n なので p∤dp \nmid d です。f0f_0 の係数を bib_i とすると ai=dbia_i = d b_i で、p∣aip \mid a_i かつ p∤dp \nmid d から p∣bip \mid b_i(i<ni < n)、p∤bnp \nmid b_n、p2∤b0p^2 \nmid b_0(p2∣b0p^2 \mid b_0 なら p2∣a0p^2 \mid a_0)が出ます。ff と f0f_0 は K[x]K[x] で定数倍の関係にあるので、f0f_0 について示せば十分です。以下、ff を原始多項式とします。

既約性。 ff が K[x]K[x] で可約と仮定すると、定理 3.4 (1) により R[x]R[x] で f=ghf = gh(deg⁡g,deg⁡h≥1\deg g, \deg h \ge 1)と分解します。π:R[x]→D[x]\pi : R[x] \to D[x](D=R/(p)D = R/(p))を係数の還元とします。DD は整域です(命題 6.2[イデアルと剰余環])。仮定から π(f)=aˉnxn\pi(f) = \bar{a}_n x^n(aˉn≠0\bar{a}_n \ne 0)なので

π(g) π(h)=aˉnxn\pi(g)\,\pi(h) = \bar{a}_n x^n

です。π(g),π(h)\pi(g), \pi(h) はどちらも 00 ではなく、それぞれの最低次の項の次数を r,r′r, r'、最高次の項の次数を s,s′s, s' とします。DD が整域なので、積の最低次の項は最低次の項どうしの積(次数 r+r′r + r')、最高次の項は最高次の項どうしの積(次数 s+s′s + s')で、どちらも 00 になりません。積は単項式 aˉnxn\bar{a}_n x^n なので r+r′=s+s′=nr + r' = s + s' = n です。r≤sr \le s, r′≤s′r' \le s' とあわせて r=sr = s, r′=s′r' = s' が出ます。つまり π(g)\pi(g), π(h)\pi(h) はともに単項式です。

g,hg, h の最高次の係数の積は ana_n で、p∤anp \nmid a_n なので pp はどちらの最高次係数も割りません。よって deg⁡π(g)=deg⁡g≥1\deg \pi(g) = \deg g \ge 1, deg⁡π(h)=deg⁡h≥1\deg \pi(h) = \deg h \ge 1 です。単項式 π(g)\pi(g) の次数が 11 以上なので、その定数項は 00、つまり g(0)g(0) は pp で割り切れます。h(0)h(0) も同様です。したがって a0=g(0)h(0)a_0 = g(0)h(0) は p2p^2 で割り切れ、仮定に反します。

最後の主張、ff が原始多項式なら R[x]R[x] でも既約であることは 定理 3.4 (2) から従います。

ガロア理論の記事で既約性の確認に繰り返し使われた判定法 注意 2.6[ガロア理論への招待] は、この定理の R=ZR = \mathbb{Z} の場合です。

例 4.2(アイゼンシュタインの判定法の使い方)

(1) xn−px^n - p(pp は素数、n≥1n \ge 1)。係数は 1,0,…,0,−p1, 0, \ldots, 0, -p で、p∤1p \nmid 1, p∣0,−pp \mid 0, -p, p2∤pp^2 \nmid p なので Q[x]\mathbb{Q}[x] で既約です。特に pn\sqrt[n]{p} の Q\mathbb{Q} 上の最小多項式は xn−px^n - p で、[Q(pn):Q]=n[\mathbb{Q}(\sqrt[n]{p}) : \mathbb{Q}] = n です(命題 6.2)。

(2) x5−4x+2x^5 - 4x + 2。p=2p = 2 で、係数 1,0,0,0,−4,21, 0, 0, 0, -4, 2 に対し 2∤12 \nmid 1, 2∣0,−4,22 \mid 0, -4, 2, 4∤24 \nmid 2 なので既約です。

(3) 円分多項式 Φp(x)=xp−1+xp−2+⋯+x+1=xp−1x−1\Phi_p(x) = x^{p-1} + x^{p-2} + \cdots + x + 1 = \dfrac{x^p - 1}{x - 1}(pp は素数)。この多項式には pp で割れる係数がありません。そこで xx を x+1x+1 に置き換えます。x↦x+1x \mapsto x+1 は Q[x]\mathbb{Q}[x] の環同型で、既約性を保ちます。

Φp(x+1)=(x+1)p−1x=∑k=1p(pk)xk−1=xp−1+(pp−1)xp−2+⋯+(p2)x+p.\Phi_p(x+1) = \frac{(x+1)^p - 1}{x} = \sum_{k=1}^{p} \binom{p}{k} x^{k-1} = x^{p-1} + \binom{p}{p-1} x^{p-2} + \cdots + \binom{p}{2} x + p .

1≤k≤p−11 \le k \le p - 1 で (pk)=p!k!(p−k)!\binom{p}{k} = \dfrac{p!}{k!(p-k)!} は pp で割り切れます(分子は pp を因数に持ち、分母は pp を含まない)。最高次の係数 11 は pp で割れず、定数項 pp は p2p^2 で割れないので、Φp(x+1)\Phi_p(x+1) はアイゼンシュタインの条件を満たします。よって Φp(x)\Phi_p(x) は Q\mathbb{Q} 上既約で、pp 次の原始 11 の冪根 ζp\zeta_p は [Q(ζp):Q]=p−1[\mathbb{Q}(\zeta_p):\mathbb{Q}] = p - 1 を満たします。

(4) 仮定が必要なこと。 x2−4x^2 - 4 は 2∤12 \nmid 1, 2∣0,−42 \mid 0, -4 ですが 4∣44 \mid 4 で、(x−2)(x+2)(x-2)(x+2) と可約です。p2∤a0p^2 \nmid a_0 を外せないことがわかります。また判定法は十分条件にすぎません。x2+1x^2 + 1 はそのままでは条件を満たす素数がありませんが、x↦x+1x \mapsto x + 1 で x2+2x+2x^2 + 2x + 2 となり p=2p = 2 で既約と判定できます。

K[x1,…,xn]K[x_1, \ldots, x_n] のイデアルは有限個の元で生成されるか、という問題は、連立多項式方程式の解集合を扱う上で根本的です。無限個の多項式で定義した解集合が、実は有限個の方程式で定義されるかが問われるからです。

定義 5.1(ネーター環)↗

可換環 RR がネーター環であるとは、イデアルの昇鎖 I1⊆I2⊆I3⊆⋯I_1 \subseteq I_2 \subseteq I_3 \subseteq \cdots がつねに止まる(ある NN があって IN=IN+1=⋯I_N = I_{N+1} = \cdots となる)ことをいう。

命題 5.2(ネーター性の同値条件)✓

可換環 RR について、次は同値である。

  1. RR はネーター環である。
  2. RR の任意のイデアルは有限個の元で生成される。
証明(命題 5.2)

(1⇒2)(1 \Rightarrow 2) イデアル II が有限生成でないとします。a1∈Ia_1 \in I を取り、ak+1∈I∖(a1,…,ak)a_{k+1} \in I \setminus (a_1, \ldots, a_k) を(I≠(a1,…,ak)I \neq (a_1, \ldots, a_k) なので)次々に取ると、(a1)⊊(a1,a2)⊊⋯(a_1) \subsetneq (a_1, a_2) \subsetneq \cdots は止まらない昇鎖です。

(2⇒1)(2 \Rightarrow 1) I1⊆I2⊆⋯I_1 \subseteq I_2 \subseteq \cdots とします。和集合 I=⋃kIkI = \bigcup_k I_k はイデアルで、有限個の元 b1,…,bmb_1, \ldots, b_m で生成されます。各 bjb_j はある IkjI_{k_j} に入るので、N=max⁡kjN = \max k_j とすると b1,…,bm∈INb_1, \ldots, b_m \in I_N、よって I⊆IN⊆IN+1⊆II \subseteq I_N \subseteq I_{N+1} \subseteq I で、IN=IN+1=⋯I_N = I_{N+1} = \cdots です。

体、PID(すべてのイデアルが 11 元生成)、有限環はネーター環です。ネーター環の剰余環もネーター環です(剰余環のイデアルは元の環のイデアルの像だから)。一方 K[x1,x2,…]K[x_1, x_2, \ldots](変数が無限個)は (x1)⊊(x1,x2)⊊⋯(x_1) \subsetneq (x_1, x_2) \subsetneq \cdots という止まらない昇鎖があり、ネーター環ではありません。

定理 5.3(ヒルベルトの基底定理)✓

RR がネーター環ならば、多項式環 R[x]R[x] もネーター環である。したがって K[x1,…,xn]K[x_1, \ldots, x_n](KK は体)や Z[x1,…,xn]\mathbb{Z}[x_1, \ldots, x_n] はネーター環であり、そのイデアルは有限生成である。

証明(定理 5.3)

R[x]R[x] のイデアル II が有限生成でないと仮定して矛盾を導きます。f1∈If_1 \in I を次数最小の元とし、fk+1f_{k+1} を I∖(f1,…,fk)I \setminus (f_1, \ldots, f_k) の元のうち次数が最小のものとします(II が有限生成でないので、この集合は空でない)。dk=deg⁡fkd_k = \deg f_k, aka_k を fkf_k の最高次の係数とします。fk+1f_{k+1} は fkf_k を選ぶときにも候補だったので dk≤dk+1d_k \le d_{k+1} です。

RR のイデアルの昇鎖 (a1)⊆(a1,a2)⊆⋯(a_1) \subseteq (a_1, a_2) \subseteq \cdots は止まるので、ある NN で aN+1∈(a1,…,aN)a_{N+1} \in (a_1, \ldots, a_N)、すなわち aN+1=∑i=1Nriaia_{N+1} = \sum_{i=1}^{N} r_i a_i(ri∈Rr_i \in R)となります。そこで

g=fN+1−∑i=1Nri xdN+1−difig = f_{N+1} - \sum_{i=1}^{N} r_i\, x^{d_{N+1} - d_i} f_i

とおきます。各項の次数は dN+1d_{N+1} で最高次の係数は aN+1a_{N+1} と ∑riai\sum r_i a_i なので、それらが打ち消し合い、deg⁡g<dN+1\deg g < d_{N+1} です。また g∈Ig \in I で、g∈(f1,…,fN)g \in (f_1, \ldots, f_N) ならば fN+1∈(f1,…,fN)f_{N+1} \in (f_1, \ldots, f_N) となって選び方に反するので、g∉(f1,…,fN)g \notin (f_1, \ldots, f_N) です。すると gg は fN+1f_{N+1} の選択のときの候補で、より低い次数を持つことになり、fN+1f_{N+1} の次数最小性に反します。

よって R[x]R[x] のすべてのイデアルは有限生成で、命題 5.2 により R[x]R[x] はネーター環です。体や Z\mathbb{Z} はネーター環(PID)なので、変数の個数に関する帰納法で後半が従います。

例 5.4(連立方程式の解集合は有限個の方程式で書ける)

S⊆K[x1,…,xn]S \subseteq K[x_1, \ldots, x_n] を(無限個でもよい)多項式の集合とし、その共通零点集合を V(S)V(S) とします。SS が生成するイデアル (S)(S) は 定理 5.3 により有限個の元 g1,…,gmg_1, \ldots, g_m で生成され、各 gjg_j は SS の有限個の元の K[x1,…,xn]K[x_1, \ldots, x_n] 係数の一次結合です。そこで S0⊆SS_0 \subseteq S をそれらの有限個の元の集合とすれば、S0S_0 は (S)(S) を生成し、V(S)=V(S0)V(S) = V(S_0) です。無限個の方程式で定まる図形も、有限個の方程式で定まります。

6. 代数拡大・分解体・正規拡大・分離拡大

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この節では「体を大きくする」操作を整理します。以後よく出る見方は、大きい体を小さい体上のベクトル空間とみなして、その次元で大きさを測ることです。

体 KK が体 LL の部分体であるとき、L/KL/K を拡大と呼び、LL を KK 上のベクトル空間とみなして [L:K]=dim⁡KL[L:K] = \dim_K L を拡大次数と書きます。有限なとき有限次拡大といいます。ベクトル空間の次元の基本事実は ベクトル空間と線形変換 にあります。

命題 6.1(次数の連鎖律)✓

K⊆M⊆LK \subseteq M \subseteq L を体の拡大とし、[L:M][L:M], [M:K][M:K] がともに有限であるとする。このとき [L:K][L:K] は有限で、[L:K]=[L:M] [M:K][L:K] = [L:M]\,[M:K] である。

証明(命題 6.1)

u1,…,umu_1, \ldots, u_m を LL の MM 上の基底、v1,…,vnv_1, \ldots, v_n を MM の KK 上の基底とし、uivju_i v_j が LL の KK 上の基底であることを示します。x∈Lx \in L に対し x=∑iciuix = \sum_i c_i u_i(ci∈Mc_i \in M)、ci=∑jdijvjc_i = \sum_j d_{ij} v_j(dij∈Kd_{ij} \in K)なので x=∑i,jdijuivjx = \sum_{i,j} d_{ij} u_i v_j です。一次独立性は、∑dijuivj=0\sum d_{ij} u_i v_j = 0 なら uiu_i の MM 上の一次独立性から各 ii で ∑jdijvj=0\sum_j d_{ij} v_j = 0、vjv_j の KK 上の一次独立性から dij=0d_{ij} = 0 となります。

命題 6.2(代数的な元による単拡大)✓

L/KL/K を拡大、α∈L\alpha \in L とする。代入 evα:K[x]→L\mathrm{ev}_\alpha : K[x] \to L, f↦f(α)f \mapsto f(\alpha) の核が 00 でないとき、α\alpha は KK 上代数的であるという(そうでないとき超越的)。このとき、核は既約なモニック多項式 mαm_\alpha(α\alpha の最小多項式)で生成され、

K[x]/(mα)  ≅  K[α]=K(α),[K(α):K]=deg⁡mαK[x]/(m_\alpha) \;\cong\; K[\alpha] = K(\alpha), \qquad [K(\alpha):K] = \deg m_\alpha

である。ここで K[α]K[\alpha] は α\alpha の KK 係数多項式全体、K(α)K(\alpha) は KK と α\alpha を含む LL の最小の部分体である。

証明(命題 6.2)

K[x]K[x] は PID なので核は (m)(m)(mm はモニック)と書け、K[x]/(m)≅Im evα=K[α]K[x]/(m) \cong \mathrm{Im}\,\mathrm{ev}_\alpha = K[\alpha] です(定理 5.1[イデアルと剰余環])。K[α]K[\alpha] は体 LL の部分環なので整域であり、mm は既約です(m=ghm = gh と、g,hg, h の次数がどちらも deg⁡m\deg m 未満であるように分解できたら g(α)h(α)=0g(\alpha) h(\alpha) = 0 から g(α)=0g(\alpha) = 0 または h(α)=0h(\alpha) = 0 となり、mm の次数の最小性に反する)。補題 2.4 により (m)(m) は極大イデアルなので、定理 6.3[イデアルと剰余環] により K[α]≅K[x]/(m)K[\alpha] \cong K[x]/(m) は体で、K[α]=K(α)K[\alpha] = K(\alpha) です。除法により任意の ff は f=qm+rf = qm + r(deg⁡r<d=deg⁡m\deg r < d = \deg m または r=0r = 0)と書けるので、1,α,…,αd−11, \alpha, \ldots, \alpha^{d-1} が K(α)K(\alpha) を生成し、また mm の次数最小性から一次独立です。よって [K(α):K]=d[K(\alpha):K] = d です。

系 6.3(代数的な元の全体は体をなす)✓

L/KL/K が有限次拡大なら、LL の任意の元は KK 上代数的である。また L/KL/K を任意の拡大とすると、KK 上代数的な LL の元全体は LL の部分体をなす。

証明(系 6.3)

[L:K]=n[L:K] = n なら 1,α,…,αn1, \alpha, \ldots, \alpha^n は一次従属なので、α\alpha は KK 係数の 00 でない多項式の根です。次に α,β\alpha, \beta が代数的とします。β\beta は K(α)K(\alpha) 上でも代数的(KK 係数の多項式は K(α)K(\alpha) 係数でもある)なので、命題 6.2 と 命題 6.1 により [K(α,β):K]=[K(α,β):K(α)] [K(α):K]<∞[K(\alpha, \beta):K] = [K(\alpha,\beta):K(\alpha)]\,[K(\alpha):K] < \infty です。前半により K(α,β)K(\alpha,\beta) の元 α±β\alpha \pm \beta, αβ\alpha\beta, α/β\alpha/\beta (β≠0\beta \ne 0) は代数的です。

定義 6.4(分解体)↗

f∈K[x]f \in K[x] を次数 11 以上の多項式とする。拡大 L/KL/K が ff の分解体であるとは、ff が L[x]L[x] で 1 次式の積 f=c(x−α1)⋯(x−αn)f = c(x - \alpha_1) \cdots (x - \alpha_n) に分解し、かつ L=K(α1,…,αn)L = K(\alpha_1, \ldots, \alpha_n) であることをいう。

分解体は「ff の根をすべて持つ最小の拡大」です。存在と一意性は、同型の拡張の補題から出ます。この補題のねらいは、「根を 1 つ付け加えるたびに、同型を 1 段ずつ大きい体へ延ばしていける」ことを示す点にあります。根を 1 つ選んで K(α)K(\alpha) をつくり、その上で同じ問題を(次数のより小さい形で)解き直す、という帰納法です。

補題 6.5(同型の拡張)✓

σ:K→K′\sigma : K \to K' を体の同型とし、f∈K[x]f \in K[x] を次数 11 以上の多項式、fσ∈K′[x]f^{\sigma} \in K'[x] を係数に σ\sigma を施したものとする。LL を ff の KK 上の分解体、L′L' を fσf^{\sigma} の K′K' 上の分解体とすると、σ\sigma は体の同型 σ~:L→L′\tilde{\sigma} : L \to L' に拡張される。

証明(補題 6.5)

[L:K][L:K] に関する帰納法です。[L:K]=1[L:K] = 1 なら ff は KK で 1 次式に分解しており、fσf^{\sigma} も K′K' で分解するので L′=K′L' = K' で、σ~=σ\tilde{\sigma} = \sigma です。[L:K]>1[L:K] > 1 とします。L=K(根)L = K(\text{根}) なので ff の根 α∈L∖K\alpha \in L \setminus K があります。gg を α\alpha の KK 上の最小多項式とすると deg⁡g≥2\deg g \ge 2 で、g∣fg \mid f です。gσg^{\sigma} は K′K' で既約で fσf^{\sigma} を割り、fσf^{\sigma} は L′L' で 1 次式に分解するので、gσg^{\sigma} の根 α′∈L′\alpha' \in L' があります。命題 6.2 により

K(α)≅K[x]/(g)→ σ K′[x]/(gσ)≅K′(α′)K(\alpha) \cong K[x]/(g) \xrightarrow{\ \sigma\ } K'[x]/(g^{\sigma}) \cong K'(\alpha')

は α↦α′\alpha \mapsto \alpha' で σ\sigma を拡張する同型 τ\tau です。LL は K(α)K(\alpha) 上でも ff の分解体、L′L' も K′(α′)K'(\alpha') 上で fσf^{\sigma} の分解体で、[L:K(α)]<[L:K][L : K(\alpha)] < [L:K] なので帰納法の仮定が使えて、τ\tau は L→L′L \to L' に拡張されます。

定理 6.6(分解体の存在と一意性)✓

体 KK 上の次数 11 以上の多項式 ff に対して、分解体が存在し、KK を動かさない同型を除いて一意である。

証明(定理 6.6)

存在。 deg⁡f\deg f に関する帰納法で示します。ff の既約因子 gg を取り、K1=K[x]/(g)K_1 = K[x]/(g) とすると、これは体で(補題 2.4)、KK から K1K_1 への自然な写像は単射(定理 7.5[環と体の基礎])なので K⊆K1K \subseteq K_1 とみなせます。α=x+(g)∈K1\alpha = x + (g) \in K_1 は gg の、したがって ff の根で、K1[x]K_1[x] で f=(x−α)f1f = (x - \alpha) f_1 と書けます。deg⁡f1<deg⁡f\deg f_1 < \deg f なので、帰納法の仮定により f1f_1 の K1K_1 上の分解体 LL があります(deg⁡f1=0\deg f_1 = 0 なら L=K1L = K_1)。LL は ff を 1 次式に分解し、根は α\alpha と f1f_1 の根なので、L=K1(f1 の根)=K(α,f1 の根)L = K_1(f_1 \text{ の根}) = K(\alpha, f_1 \text{ の根}) で、ff の分解体です。

一意性。 分解体 L,L′L, L' に対し、補題 6.5 を σ=idK\sigma = \mathrm{id}_K に適用すれば同型 L→L′L \to L' で KK 上恒等的なものが得られます。

定義 6.7(正規拡大)↗

代数拡大 L/KL/K(LL のすべての元が KK 上代数的)が正規拡大であるとは、K[x]K[x] の既約多項式が LL に根を 1 つでも持てば、L[x]L[x] で 1 次式の積に分解することをいう。

次の定理は、「既約多項式が根を 1 つ持てば全部持つ」という正規拡大の定義が、「ある多項式の分解体である」という作りやすい言い方と同じことだと述べます。証明の後半では、体が 3 種類(K(α)K(\alpha)、K(β)K(\beta)、LL や L(β)L(\beta))出てきます。要点は、根 α\alpha を β\beta に置き換える同型を分解体まで延ばし、次数を比べて β\beta が LL に入ることを導く、という流れです。

定理 6.8(有限次正規拡大と分解体)✓

有限次拡大 L/KL/K について、L/KL/K が正規拡大であることと、LL がある多項式 f∈K[x]f \in K[x] の KK 上の分解体であることは同値である。

証明(定理 6.8)

(⇒)(\Rightarrow) LL の KK 上の基底 α1,…,αn\alpha_1, \ldots, \alpha_n を取り(系 6.3 により各 αi\alpha_i は代数的)、mim_i をその最小多項式とします。mim_i は既約で LL に根 αi\alpha_i を持つので、正規性から LL で 1 次式に分解します。f=m1⋯mnf = m_1 \cdots m_n とすると、ff は LL で分解し、ff の根は LL の元で、αi\alpha_i を含みます。K(f の根)⊆L=K(α1,…,αn)⊆K(f の根)K(f \text{ の根}) \subseteq L = K(\alpha_1, \ldots, \alpha_n) \subseteq K(f \text{ の根}) なので、LL は ff の分解体です。

(⇐)(\Leftarrow) LL が f∈K[x]f \in K[x] の分解体で、g∈K[x]g \in K[x] が既約で LL に根 α\alpha を持つとします。MM を gg の LL 上の分解体とし、β∈M\beta \in M を gg の任意の根とします。β∈L\beta \in L を示せば、gg のすべての根が LL にあることになり、gg は LL で分解します。

K(α)≅K[x]/(g)≅K(β)K(\alpha) \cong K[x]/(g) \cong K(\beta) (命題 6.2)より、α↦β\alpha \mapsto \beta となる KK 上の同型 τ:K(α)→K(β)\tau : K(\alpha) \to K(\beta) があります。LL は K(α)K(\alpha) 上の ff の分解体で、L(β)L(\beta) は K(β)K(\beta) 上の ff の分解体です(ff は L(β)L(\beta) で分解し、L(β)=K(根)(β)=K(β)(根)L(\beta) = K(\text{根})(\beta) = K(\beta)(\text{根}))。補題 6.5 により τ\tau は同型 L→L(β)L \to L(\beta) に拡張され、[L:K(α)]=[L(β):K(β)][L:K(\alpha)] = [L(\beta):K(\beta)] です。また [K(α):K]=[K(β):K]=deg⁡g[K(\alpha):K] = [K(\beta):K] = \deg g です。命題 6.1 から

[L:K]=[L:K(α)] [K(α):K]=[L(β):K(β)] [K(β):K]=[L(β):K][L:K] = [L:K(\alpha)]\,[K(\alpha):K] = [L(\beta):K(\beta)]\,[K(\beta):K] = [L(\beta):K]

で、L⊆L(β)L \subseteq L(\beta) かつ次数が等しいので L=L(β)L = L(\beta)、つまり β∈L\beta \in L です。

注意 6.9(正規でない拡大)

Q(23)/Q\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})/\mathbb{Q} は正規拡大ではありません。x3−2x^3 - 2 は 例 4.2 により Q\mathbb{Q} 上既約で、実数体の部分体 Q(23)\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) に根 23\sqrt[3]{2} を持ちますが、他の 2 根 23 e±2πi/3\sqrt[3]{2}\,e^{\pm 2\pi i/3} は虚数なので Q(23)\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) に入らないからです。この拡大は x3−2x^3-2 の分解体ではなく、分解体は Q(23,e2πi/3)\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, e^{2\pi i/3}) です。

∛2(Q(∛2) に入る)∛2·e^(2πi/3)(入らない)∛2·e^(−2πi/3)(入らない)
x³ − 2 の 3 つの根。実数の根だけが Q(∛2) に入り、2 つの虚数の根は入らない

次に分離性です。重根の有無は、形式微分で判定できます。

定義 6.10(分離多項式・分離拡大)↗

体 KK 上の既約多項式 gg が分離的であるとは、gg の分解体で gg が重根を持たない(根がすべて相異なる)ことをいう。代数拡大 L/KL/K が分離拡大であるとは、LL の各元の KK 上の最小多項式が分離的であることをいう。

命題 6.11(分離性の判定)✓

KK 上の既約多項式 ff が重根を持つことと、形式微分 f′f' が 00 であることは同値である。したがって標数 00 の体では、すべての既約多項式は分離的であり、すべての代数拡大は分離拡大である。標数 p>0p > 0 の体では、f′=0f' = 0 は f∈K[xp]f \in K[x^p](f(x)=h(xp)f(x) = h(x^p) の形)と同値である。

証明(命題 6.11)

ff が重根 α\alpha を持つとすると、f=(x−α)2hf = (x - \alpha)^2 h から f′=2(x−α)h+(x−α)2h′f' = 2(x-\alpha)h + (x-\alpha)^2 h' なので f′(α)=0f'(\alpha) = 0 です。α\alpha の最小多項式 mαm_\alpha は ff の定数倍であり(ff が既約)、f′(α)=0f'(\alpha) = 0 から mα∣f′m_\alpha \mid f' なので f∣f′f \mid f' です。deg⁡f′<deg⁡f\deg f' < \deg f ですから f′=0f' = 0 です。逆に f′=0f' = 0 とします。α\alpha を ff の根とし f=(x−α)hf = (x - \alpha) h と書くと f′=h+(x−α)h′=0f' = h + (x - \alpha)h' = 0 から h(α)=0h(\alpha) = 0、よって (x−α)2∣f(x-\alpha)^2 \mid f で重根です。

標数 00 では、f=∑i=0naixif = \sum_{i=0}^{n} a_i x^i(n≥1n \ge 1, an≠0a_n \ne 0)の f′f' の xn−1x^{n-1} の係数は nan≠0n a_n \ne 0 なので f′≠0f' \ne 0 です。標数 pp では、f′=∑iaixi−1=0f' = \sum i a_i x^{i-1} = 0 は、p∤ip \nmid i なる ii で ai=0a_i = 0 と同値、つまり f∈K[xp]f \in K[x^p] です。

例 6.12(分離的でない既約多項式)

pp を素数、k=Fpk = \mathbb{F}_p(pp 元体)、K=k(t)K = k(t)(k[t]k[t] の分数体)とします。xp−t∈K[x]x^p - t \in K[x] は既約です。実際、R=k[t]R = k[t] は UFD(定理 2.5)、tt は素元で、xp−tx^p - t は 定理 4.1 の条件(t∤1t \nmid 1, t∣−tt \mid -t, t2∤tt^2 \nmid t)を満たします。しかしこの多項式は、分解体で xp−t=(x−τ)px^p - t = (x - \tau)^p(τp=t\tau^p = t)と pp 重根を持ちます(標数 pp で (x−τ)p=xp−τp(x-\tau)^p = x^p - \tau^p、補題 7.1)。形式微分は pxp−1=0p x^{p-1} = 0 です。標数 pp の体には、このような「分離的でない拡大」が現れ得ます。

標数 p>0p > 0 の体では、pp 乗する操作が足し算と両立します。有限体の理論は、この観察と群論(ラグランジュの定理)だけで完結します。

補題 7.1(フロベニウス写像)✓

AA を標数 pp(pp は素数)の可換環とする。このとき任意の a,b∈Aa, b \in A と k≥1k \ge 1 に対し (a+b)pk=apk+bpk(a+b)^{p^k} = a^{p^k} + b^{p^k} である。したがって F:A→AF : A \to A, a↦apa \mapsto a^p は環準同型であり、AA が体なら単射、有限体なら全単射である。

証明(補題 7.1)

二項定理から (a+b)p=∑i=0p(pi)aibp−i(a+b)^p = \sum_{i=0}^{p} \binom{p}{i} a^i b^{p-i} で、0<i<p0 < i < p では (pi)=p!i!(p−i)!\binom{p}{i} = \dfrac{p!}{i!(p-i)!} の分子は pp で割れ、分母は pp で割れない(i!,(p−i)!i!, (p-i)! の因数はすべて pp 未満)ので、p∣(pi)p \mid \binom{p}{i} です。標数 pp では p⋅1=0p \cdot 1 = 0 なので中間項が消えます。kk に関する帰納法で一般の pkp^k の場合が従い、乗法性と 1p=11^p = 1 は明らかです。体では F(a)=0F(a) = 0 なら ap=0a^p = 0 で a=0a = 0(整域)となって核が 00 で単射、有限集合上の単射は全単射です。

定理 7.2(有限体の存在と一意性)✓

  1. 有限体 FF の元の個数は、ある素数 pp と n≥1n \ge 1 に対する pnp^n である(p=char⁡Fp = \operatorname{char} F)。
  2. 素数 pp と n≥1n \ge 1 に対し、元の個数が q=pnq = p^n の体が存在する。
  3. 元の個数が等しい 2 つの有限体は同型である。

この体を Fq\mathbb{F}_q と書く。

証明(定理 7.2)

(1) FF が有限なので、n⋅1=0n \cdot 1 = 0 となる n≥1n \ge 1 があり、標数は 00 ではありません。命題 5.8[環と体の基礎] より標数 pp は素数です。Z→F\mathbb{Z} \to F の像は Z/pZ=Fp\mathbb{Z}/p\mathbb{Z} = \mathbb{F}_p に同型な部分体で、FF はその上の有限次元ベクトル空間です。次元を nn とすれば ∣F∣=pn|F| = p^n です。

(2) q=pnq = p^n とし、f=xq−x∈Fp[x]f = x^q - x \in \mathbb{F}_p[x] の分解体を LL とします(定理 6.6)。f′=qxq−1−1=−1f' = q x^{q-1} - 1 = -1(Fp\mathbb{F}_p で q=0q = 0)です。重根 α\alpha があれば f′(α)=0f'(\alpha) = 0 ですが f′=−1f' = -1 なので、ff の根は相異なる qq 個です。その集合を SS とします。a,b∈Sa, b \in S なら、補題 7.1 により (a+b)q=aq+bq=a+b(a+b)^q = a^q + b^q = a + b、また (ab)q=ab(ab)^q = ab、a≠0a \ne 0 なら (a−1)q=a−1(a^{-1})^q = a^{-1} ですから、SS は LL の部分体です。Fp\mathbb{F}_p の元 cc は cp=cc^p = c(定理 7.3[部分群と剰余類])を満たすので cq=cc^q = c、Fp⊆S\mathbb{F}_p \subseteq S です。LL は Fp\mathbb{F}_p に根を添加して得られる体なので L=SL = S で、∣L∣=q|L| = q です。

(3) ∣F∣=q=pn|F| = q = p^n とします。F×F^{\times} は位数 q−1q - 1 の群なので、系 7.1[部分群と剰余類] により a≠0a \ne 0 なら aq−1=1a^{q-1} = 1、したがってすべての a∈Fa \in F で aq=aa^q = a です。多項式 xq−xx^q - x の根は高々 qq 個で、FF の qq 個の元がすべて根なので、F[x]F[x] で xq−x=∏a∈F(x−a)x^q - x = \prod_{a \in F}(x - a) です。そして FF は Fp\mathbb{F}_p に根(= FF の全元)を添加した体です。つまり FF は xq−xx^q - x の Fp\mathbb{F}_p 上の分解体です。定理 6.6 の一意性から、位数 qq の体は同型を除いて一つです。

定理 7.3(体の乗法群の有限部分群は巡回群)✓

KK を体、GG を K×K^{\times} の有限部分群とすると、GG は巡回群である。特に有限体 Fq\mathbb{F}_q の乗法群 Fq×\mathbb{F}_q^{\times} は位数 q−1q-1 の巡回群である。

証明(定理 7.3)

∣G∣=n|G| = n とし、正の整数 dd に対して φ(d)=#{1≤m≤d:gcd⁡(m,d)=1}\varphi(d) = \#\{1 \le m \le d : \gcd(m, d) = 1\} とおきます。次の 2 つの事実を使います。

(i) ∑d∣nφ(d)=n\sum_{d \mid n} \varphi(d) = n。実際、1≤k≤n1 \le k \le n を gcd⁡(k,n)=n/d\gcd(k, n) = n/d(d∣nd \mid n)で分類すると、k=(n/d)mk = (n/d)m と書けて 1≤m≤d1 \le m \le d, gcd⁡(m,d)=1\gcd(m, d) = 1 ですから、各 dd に属する kk は φ(d)\varphi(d) 個です。

(ii) 位数 dd の元 aa が生成する巡回群 ⟨a⟩\langle a \rangle の元 ama^m(1≤m≤d1 \le m \le d)の位数は d/gcd⁡(m,d)d / \gcd(m, d) で、したがって位数 dd の元(生成元)はちょうど φ(d)\varphi(d) 個です。実際、(am)k=e(a^m)^k = e は d∣mkd \mid mk と同値で、これは dgcd⁡(m,d)∣k\frac{d}{\gcd(m,d)} \mid k と同値だからです。

GG の位数 dd の元の個数を ψ(d)\psi(d) とします。位数 dd の元 aa があれば、⟨a⟩\langle a \rangle の dd 個の元はすべて xd−1x^d - 1 の根です。体上の dd 次多項式の根は高々 dd 個なので、位数 dd の任意の元 bb(bd=1b^d = 1)も ⟨a⟩\langle a \rangle に属し、(ii) よりそれは生成元です。つまり ψ(d)∈{0,φ(d)}\psi(d) \in \{0, \varphi(d)\}、とくに ψ(d)≤φ(d)\psi(d) \le \varphi(d) です。元の位数は nn の約数(系 7.1[部分群と剰余類])なので

n=∑d∣nψ(d)≤∑d∣nφ(d)=nn = \sum_{d \mid n} \psi(d) \le \sum_{d \mid n} \varphi(d) = n

で、等号が成り立ち、すべての d∣nd \mid n で ψ(d)=φ(d)\psi(d) = \varphi(d) です。特に ψ(n)=φ(n)≥1\psi(n) = \varphi(n) \ge 1(m=1m = 1 が数えられる)で、位数 nn の元が存在し、GG は巡回群です。

系 7.4(任意の次数の既約多項式の存在)✓

素数 pp と n≥1n \ge 1 に対し、Fp[x]\mathbb{F}_p[x] に次数 nn の既約多項式が存在する。そのような mm に対し Fp[x]/(m)≅Fpn\mathbb{F}_p[x]/(m) \cong \mathbb{F}_{p^n} である。

証明(系 7.4)

F=FpnF = \mathbb{F}_{p^n}(定理 7.2 (2))の乗法群の生成元を γ\gamma とすると(定理 7.3)、F=Fp(γ)F = \mathbb{F}_p(\gamma) です。γ\gamma の最小多項式 mm は既約で、命題 6.2 により deg⁡m=[F:Fp]=n\deg m = [F : \mathbb{F}_p] = n です。次数 nn の既約多項式 mm に対して Fp[x]/(m)\mathbb{F}_p[x]/(m) は 補題 2.4 により pnp^n 元の体で、定理 7.2 (3) により Fpn\mathbb{F}_{p^n} と同型です。

例 7.5(8 元体 F₈)

x3+x+1∈F2[x]x^3 + x + 1 \in \mathbb{F}_2[x] は x=0,1x = 0, 1 で値が 11 なので根を持たず、3 次式なので既約です。F8=F2[x]/(x3+x+1)\mathbb{F}_8 = \mathbb{F}_2[x]/(x^3 + x + 1) の元は a+bx+cx2a + bx + cx^2(a,b,c∈{0,1}a, b, c \in \{0, 1\})の 8 個で、x3=x+1x^3 = x + 1 を使うと

x4=x2+x,x5=x2+x+1,x6=x2+1,x7=x3+x=1x^4 = x^2 + x,\quad x^5 = x^2 + x + 1,\quad x^6 = x^2 + 1,\quad x^7 = x^3 + x = 1

です。xx の位数は 77(素数)で、F8×\mathbb{F}_8^{\times} の生成元です。この表により、F8\mathbb{F}_8 の掛け算は指数の足し算( mod  7\bmod\ 7)で計算できます。

命題 7.6(有限体上の既約多項式は分離的)✓

有限体 FF 上のすべての既約多項式は分離的である。

証明(命題 7.6)

標数を pp とします。既約多項式 ff が分離的でなければ、命題 6.11 により f=∑bixpif = \sum b_i x^{pi} と書けます。補題 7.1 により FF では a↦apa \mapsto a^p が全射なので、bi=cipb_i = c_i^p となる cic_i が取れ、f=(∑cixi)pf = \bigl(\sum c_i x^i\bigr)^p となります。ff は定数でないので ∑cixi\sum c_i x^i も定数でなく、ff は p≥2p \ge 2 個の非定数多項式の積となって既約性に反します。

古代ギリシア以来の三大問題は、定規とコンパスだけで (1) 与えられた立方体の 2 倍の体積の立方体を作る(立方体倍積)、(2) 任意の角を三等分する、(3) 与えられた円と同じ面積の正方形を作る(円積)、というものでした。拡大次数の連鎖律で、これらが不可能であることがわかります。

平面上に原点 (0,0)(0,0) と点 (1,0)(1,0) を置き、P0={(0,0),(1,0)}P_0 = \{(0,0), (1,0)\} とします。PkP_k から Pk+1P_{k+1} は次のように作ります。PkP_k の相異なる 2 点を通る直線と、PkP_k の 1 点を中心とし PkP_k の 2 点の距離を半径とする円を考え、これらの相異なる 2 つの図形の交点をすべて PkP_k に加えたものを Pk+1P_{k+1} とします。⋃kPk\bigcup_k P_k の点を作図可能な点といい、(a,0)(a, 0) が作図可能な点であるとき実数 aa を作図可能な数といいます。

中心 (u, v)PQP, Q の座標は A x² + B x + C = 0 の解(A, B, C は F の元)
直線と円の交点の座標は 2 次方程式の解。係数が F に入っていれば、解は F または F(√D) に入る

補題 8.1(交点の座標は高々 2 次の拡大に入る)✓

FF を R\mathbb{R} の部分体とし、PkP_k の点の座標がすべて FF に属するとする。このとき、PkP_k から作られる 2 つの図形(直線または円)の交点の座標は、ある D∈FD \in F, D≥0D \ge 0 に対して F(D)F(\sqrt{D}) に属する。ここで F(D)=FF(\sqrt{D}) = F であってもよい。

証明(補題 8.1)

PkP_k の 2 点 (x1,y1)≠(x2,y2)(x_1, y_1) \ne (x_2, y_2) を通る直線は ax+by=cax + by = c(a=y2−y1a = y_2 - y_1, b=x1−x2b = x_1 - x_2, c=ax1+by1c = a x_1 + b y_1)で、a,b,c∈Fa, b, c \in F、(a,b)≠(0,0)(a, b) \ne (0,0) です。中心 (u,v)(u, v) の円で半径の二乗が r2r^2 のものは (x−u)2+(y−v)2=r2(x-u)^2 + (y-v)^2 = r^2 で、u,v,r2∈Fu, v, r^2 \in F(距離の二乗は座標の多項式)です。

直線と直線。 交点は連立 1 次方程式の解で、クラメルの公式により座標は FF に属します。

直線と円。 直線を ax+by=cax + by = c とします。b≠0b \ne 0 なら y=(c−ax)/by = (c - ax)/b を円の式に代入して、xx についての 2 次方程式 Ax2+Bx+C=0Ax^2 + Bx + C = 0(A=1+a2/b2≠0A = 1 + a^2/b^2 \ne 0、A,B,C∈FA, B, C \in F)を得ます。実数の交点があるので D=B2−4AC≥0D = B^2 - 4AC \ge 0 で、x=(−B±D)/(2A)∈F(D)x = (-B \pm \sqrt{D})/(2A) \in F(\sqrt{D})、y=(c−ax)/b∈F(D)y = (c - ax)/b \in F(\sqrt{D}) です。b=0b = 0 なら x=c/ax = c/a が定まり、yy についての 2 次方程式に同様の議論を適用します。

円と円。 2 つの円 x2+y2−2ux−2vy+e=0x^2 + y^2 - 2ux - 2vy + e = 0 と x2+y2−2u′x−2v′y+e′=0x^2 + y^2 - 2u'x - 2v'y + e' = 0(e,e′∈Fe, e' \in F)の交点は、辺々の差 2(u′−u)x+2(v′−v)y=e′−e2(u' - u)x + 2(v' - v)y = e' - e を満たします。2 円が相異なって交わるなら中心が異なる(同心円は交わらないか一致する)ので、これは係数が FF に属する直線の式です。したがって交点は、この直線と円の交点であり、前の場合に帰着します。

定理 8.2(作図可能な数の拡大次数)✓

(x,y)(x, y) が作図可能な点なら、[Q(x):Q][\mathbb{Q}(x) : \mathbb{Q}] は 22 のべきである。特に作図可能な数 aa について [Q(a):Q][\mathbb{Q}(a):\mathbb{Q}] は 22 のべきである。したがって、有理数係数の最小多項式の次数が 22 のべきでない数は作図可能でない。

証明(定理 8.2)

体 FkF_k を、F0=QF_0 = \mathbb{Q} から始めて次のように定めます。PkP_k の点の座標がすべて FkF_k に入っていると仮定し(k=0k = 0 では P0P_0 の座標は 0,1∈Q0, 1 \in \mathbb{Q})、Pk+1P_{k+1} の新しい点を ss 個とします。補題 8.1 により、それらの座標は Fk(D1),…,Fk(Ds)F_k(\sqrt{D_1}), \ldots, F_k(\sqrt{D_s})(Dj∈FkD_j \in F_k)のいずれかに入ります。Fk+1=Fk(D1,…,Ds)F_{k+1} = F_k(\sqrt{D_1}, \ldots, \sqrt{D_s}) とします。この体は FkF_k に平方根を 1 つずつ添加して得られ、各段階の拡大次数は x2−Djx^2 - D_j を根に持つので 11 または 22 です。命題 6.1 から [Fk+1:Fk][F_{k+1} : F_k] は 22 のべきです。

作図可能な点 (x,y)(x, y) は、ある PNP_N に属し、x∈FNx \in F_N で、[FN:Q][F_N : \mathbb{Q}] は 22 のべき 2m2^m です。Q⊆Q(x)⊆FN\mathbb{Q} \subseteq \mathbb{Q}(x) \subseteq F_N なので 命題 6.1 により [Q(x):Q][\mathbb{Q}(x):\mathbb{Q}] は 2m2^m の約数、したがって 22 のべきです。最後の主張は、[Q(a):Q][\mathbb{Q}(a):\mathbb{Q}] が最小多項式の次数に等しいこと(命題 6.2)から従います。

系 8.3(立方体倍積と角の三等分の不可能性)✓

  1. 長さ 11 の線分から、長さ 23\sqrt[3]{2} の線分を作図することはできない。したがって立方体倍積は不可能である。
  2. 60°60° の角を三等分することはできない。したがって、任意の角の三等分は不可能である。
証明(系 8.3)

(1) x3−2x^3 - 2 は 定理 4.1(p=2p = 2)により Q\mathbb{Q} 上既約なので、[Q(23):Q]=3[\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}):\mathbb{Q}] = 3 で、22 のべきではありません。定理 8.2 より 23\sqrt[3]{2} は作図可能ではありません。

(2) 60°60° の角は正三角形から作図できます(点 (1/2,3/2)(1/2, \sqrt{3}/2) は作図可能)。もしこの角を三等分できるなら、点 (cos⁡20°,sin⁡20°)(\cos 20°, \sin 20°) が作図可能になります。三倍角の公式 cos⁡3θ=4cos⁡3θ−3cos⁡θ\cos 3\theta = 4\cos^3\theta - 3\cos\theta に θ=20°\theta = 20° を代入すると、c=cos⁡20°c = \cos 20° は 4c3−3c=1/24c^3 - 3c = 1/2 を満たします。y=2cy = 2c とおくと y3−3y−1=0y^3 - 3y - 1 = 0 です。有理数の根の候補 ±1\pm 1 はどちらも根でない(1−3−1=−31 - 3 - 1 = -3, −1+3−1=1-1 + 3 - 1 = 1)ので、この 3 次式は Q\mathbb{Q} 上既約です(3 次式が可約なら 1 次の因子、すなわち有理数の根を持つ)。よって [Q(cos⁡20°):Q]=3[\mathbb{Q}(\cos 20°):\mathbb{Q}] = 3 で、定理 8.2 に反します。

例 8.4(正七角形は作図できない)

ζ=e2πi/7\zeta = e^{2\pi i/7}、y=ζ+ζ−1=2cos⁡(2π/7)y = \zeta + \zeta^{-1} = 2\cos(2\pi/7) とします。y2=ζ2+2+ζ−2y^2 = \zeta^2 + 2 + \zeta^{-2}, y3=ζ3+3ζ+3ζ−1+ζ−3y^3 = \zeta^3 + 3\zeta + 3\zeta^{-1} + \zeta^{-3} なので

y3+y2−2y−1=ζ3+ζ2+ζ+1+ζ−1+ζ−2+ζ−3=ζ−3(1+ζ+⋯+ζ6)=0y^3 + y^2 - 2y - 1 = \zeta^3 + \zeta^2 + \zeta + 1 + \zeta^{-1} + \zeta^{-2} + \zeta^{-3} = \zeta^{-3}(1 + \zeta + \cdots + \zeta^6) = 0

です(ζ7=1\zeta^7 = 1, ζ≠1\zeta \ne 1 から 1+ζ+⋯+ζ6=01 + \zeta + \cdots + \zeta^6 = 0)。±1\pm 1 は根でない(1+1−2−1=−11 + 1 - 2 - 1 = -1, −1+1+2−1=1-1 + 1 + 2 - 1 = 1)ので、この 3 次式は既約で、[Q(cos⁡(2π/7)):Q]=3[\mathbb{Q}(\cos(2\pi/7)):\mathbb{Q}] = 3 です。定理 8.2 により正七角形(頂点 (cos⁡(2π/7),sin⁡(2π/7))(\cos(2\pi/7), \sin(2\pi/7)) を含む)は作図できません。

注意 8.5(円積問題と正多角形の作図)

円積問題は、π\sqrt{\pi} が作図可能であることと同値です。定理 8.2 によれば作図可能な数は代数的数なので、π\pi が超越数であること(リンデマン、1882)から不可能と従います。この事実の証明はこの記事では行いません。逆向きに、正 nn 角形が作図可能であるための必要十分条件が「n=2kp1⋯prn = 2^k p_1 \cdots p_r(pip_i は相異なるフェルマー素数)」であること(ガウス・ヴァンツェル)の十分性は、体の拡大とガロア群の言葉で証明されます(ガロア理論への招待の議論の延長にあります)。

演習 9.1標準

Z[x]\mathbb{Z}[x] のイデアル (2,x)(2, x) は単項でないことを示せ。これにより Z[x]\mathbb{Z}[x] は UFD だが PID でない。

解答

(2,x)=(d)(2, x) = (d) と仮定します。2∈(d)2 \in (d) から 2=de2 = de(d,e∈Z[x]d, e \in \mathbb{Z}[x])、次数を比べて d,ed, e は定数(整数)で d∈{±1,±2}d \in \{\pm 1, \pm 2\} です。x∈(d)x \in (d) から d∣xd \mid x で、d=±2d = \pm 2 なら x=±2gx = \pm 2 g の係数 ±2g1=1\pm 2 g_1 = 1 となって矛盾するので d=±1d = \pm 1、よって (d)=Z[x](d) = \mathbb{Z}[x] です。ところが (2,x)(2, x) の元 2g+xh2g + xh の定数項は 2g(0)2g(0) で偶数ですから 1∉(2,x)1 \notin (2, x) です。矛盾です。

演習 9.2易

x4+1x^4 + 1 が Q[x]\mathbb{Q}[x] で既約であることを、x↦x+1x \mapsto x+1 とアイゼンシュタインの判定法で示せ。

解答

(x+1)4+1=x4+4x3+6x2+4x+2(x+1)^4 + 1 = x^4 + 4x^3 + 6x^2 + 4x + 2 です。p=2p = 2 について、最高次の係数 11 は奇数、他の係数 4,6,4,24, 6, 4, 2 は偶数、定数項 22 は 44 で割れません。よって 定理 4.1 により (x+1)4+1(x+1)^4 + 1 は Q[x]\mathbb{Q}[x] で既約です。x↦x+1x \mapsto x+1 は Q[x]\mathbb{Q}[x] の環同型なので、x4+1x^4+1 も既約です。

演習 9.3標準

x2+1x^2 + 1 は F3[x]\mathbb{F}_3[x] で既約であることを確かめ、F9=F3[x]/(x2+1)\mathbb{F}_9 = \mathbb{F}_3[x]/(x^2+1) の乗法群の生成元を 1 つ求めよ。

解答

x2+1x^2 + 1 の F3\mathbb{F}_3 での値は x=0,1,2x = 0, 1, 2 で 1,2,21, 2, 2 となり根がないので、2 次式として既約です。F9\mathbb{F}_9 の元を a+bxa + bx と書くと x2=−1x^2 = -1 です。γ=1+x\gamma = 1 + x について γ2=1+2x+x2=2x\gamma^2 = 1 + 2x + x^2 = 2x、γ4=4x2=x2=−1≠1\gamma^4 = 4x^2 = x^2 = -1 \ne 1、γ8=1\gamma^8 = 1 です。γ\gamma の位数は 88 の約数で 44 の約数ではない(γ4≠1\gamma^4 \ne 1)ので位数は 88 であり、γ=1+x\gamma = 1 + x は位数 8=∣F9×∣8 = |\mathbb{F}_9^{\times}| の生成元です。

演習 9.4標準

2cos⁡40°2\cos 40° が y3−3y+1=0y^3 - 3y + 1 = 0 を満たすことを示し、正九角形が作図できないことを示せ。

解答

y=2cos⁡θy = 2\cos\theta とすると三倍角の公式から 2cos⁡3θ=8cos⁡3θ−6cos⁡θ=y3−3y2\cos 3\theta = 8\cos^3\theta - 6\cos\theta = y^3 - 3y です。θ=40°\theta = 40° なら 2cos⁡120°=−12\cos 120° = -1 なので y3−3y+1=0y^3 - 3y + 1 = 0 です。有理数の根の候補 ±1\pm 1 は、1−3+1=−11 - 3 + 1 = -1, −1+3+1=3-1 + 3 + 1 = 3 で根ではないので、この 3 次式は Q\mathbb{Q} 上既約です。したがって [Q(cos⁡40°):Q]=3[\mathbb{Q}(\cos 40°):\mathbb{Q}] = 3 で 22 のべきではなく、定理 8.2 により cos⁡40°\cos 40° は作図可能でありません。正九角形の頂点 (cos⁡40°,sin⁡40°)(\cos 40°, \sin 40°) が作図できれば矛盾なので、正九角形は作図できません。

  1. 雪江明彦『代数学 2 環と体とガロア理論』日本評論社、2010 — 一意分解整域、多項式環、体の拡大、有限体の各章。
  2. D. S. Dummit and R. M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004 — Chapter 8(UFD)、Chapter 9(多項式環とアイゼンシュタインの判定法)、Chapter 13(体論)。
  3. S. Lang, Algebra, revised 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics 211, Springer, 2002 — Chapter IV(多項式環・ガウスの補題・ヒルベルトの基底定理)、Chapter V(体)。
  4. M. Artin, Algebra, 2nd ed., Pearson, 2011 — 多項式環、体の拡大、作図の各章。
  5. D. Hilbert, “Über die Theorie der algebraischen Formen”, Mathematische Annalen 36 (1890), 473–534 — 基底定理の原論文。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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