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偏角の原理と Rouché の定理:零点を数える積分から開写像定理まで

対象読者: 本テーマ第 1〜5 章(コーシーの積分定理、ローラン展開、留数定理)を学んだ学部生。曲線の回転数の直観と、多項式の根に関する基本事項を仮定します。

前提となる記事:留数定理と定積分への応用:孤立特異点の分類から実積分・鍵穴輪郭・級数の和まで、正則関数の強力な性質:無限回微分可能性から一致の定理まで

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高次の方程式には、根を求める公式がないことがあります。それでも「この円の内側に根が何個あるか」は、根を 1 つも求めずに数えられます。この記事では、複素平面で円を 1 周する積分を使って、関数が 0 になる点の個数を数える方法を学びます。読み終えると、根のおおまかな位置を調べることや、係数を少し変えても根が大きくは動かないことを説明できるようになります。

  • 偏角の原理:有理型関数 ff と正則関数 gg について、円周上の積分 12πi∮g f′/f dz\frac{1}{2\pi i}\oint g\,f'/f\,dz は、円内の零点での gg の値の(位数込みの)和から、極での gg の値の(位数込みの)和を引いたものに等しくなります。g=1g=1 なら零点の個数 −- 極の個数です。
  • 積分 12πi∮f′/f dz\frac{1}{2\pi i}\oint f'/f\,dz は、像の曲線 f(C)f(C) が原点のまわりを回る回数(回転数)でもあります。零点の数え上げが「曲線の回数を数える」問題に変わります。
  • Rouché の定理:円周上で ∣f−g∣<∣f∣+∣g∣|f-g|<|f|+|g|(特に ∣f−g∣<∣f∣|f-g|<|f|)なら、ff と gg は円内で同じ個数の零点(極の個数を引いた値)をもちます。「大きいほうの項だけで数える」という使い方ができます。
  • Hurwitz の定理:正則関数列が局所一様収束するなら、極限の零点の個数は近似列の零点の個数で保たれます。零点のない列の極限は恒等的に 00 か、零点がないかのどちらかで、単射な列の極限は定数か単射です。
  • 開写像定理:定数でない正則関数は開集合を開集合に写します。さらに零点の位数 mm の点の近くでは mm 対 1 に写り、単射な正則関数の逆写像は自動的に正則です。
  • 応用として、モニックな多項式の根が係数に連続的に依存すること、したがって行列の固有値が成分に連続的に依存することを証明します。

1. 動機:根を求めずに根を数える

Section titled “1. 動機:根を求めずに根を数える”

5 次以上の多項式の根を代数的に求める公式はありません。それでも「単位円板の中に根は何個あるか」という問いには、根を 1 つも求めずに答えられます。係数を少し動かしたとき根がどう動くかも、同じ道具で追えます。

実関数なら、これは中間値の定理と符号変化の勘定でした。複素平面には「符号」がない代わりに、回転数があります。ff が円 CC 上で零にならないなら、zz が CC を 1 周するとき f(z)f(z) は原点を避けながら閉曲線を描き、原点のまわりを何周かします。この周回数は ff を少し動かしても(原点を通らない限り)変わらない整数なので、連続変形で不変です。「ff を gg に連続的に動かしても、境界で原点を横切らなければ零点の個数は変わらない」というのが Rouché の定理の中身です。

物理や線形代数での出番は、固有値の追跡です。行列 AA の固有値は特性多項式 det⁡(zI−A)\det(zI-A) の根ですから、AA に小さな摂動を加えたとき、各固有値の近くにちょうど代数的重複度(特性多項式の根としての重複度)の個数だけ固有値が残ることを、この記事の方法で示せます(定理 7.3 と 系 7.4)。

前章までに証明済みで、以下で断りなく使うものを挙げます。

事実出典
零点の孤立性、f(z)=(z−a)mg(z)f(z)=(z-a)^m g(z) と書けること補題 7.2[正則関数の強力な性質]
一致の定理定理 7.3[正則関数の強力な性質]
極の特徴づけ(f=g/(z−a)mf=g/(z-a)^m, g(a)≠0g(a)\ne0)命題 3.4[留数定理と定積分への応用]
留数定理定理 5.1[留数定理と定積分への応用]
コーシーの積分公式(導関数版)定理 3.2[正則関数の強力な性質]
モレラの定理定理 3.6[正則関数の強力な性質]
複素線積分の微積分の基本定理定理 3.2[コーシーの積分定理と積分公式]
ML 不等式補題 2.4[コーシーの積分定理と積分公式]
対数の主枝の正則性定理 6.9[正則関数とコーシー・リーマンの関係式]

記号:D(a,R)D(a,R) は開円板、D‾(a,r)\overline{D}(a,r) は閉円板、Cr=∂D(a,r)C_r=\partial D(a,r) は反時計回りの円周です。

定義 2.1(有理型関数と位数)↗

R>0R>0 とする。D(a,R)D(a,R) の部分集合 PP が D(a,R)D(a,R) 内に集積点をもたず、ff が D(a,R)∖PD(a,R)\setminus P で正則で、各 p∈Pp\in P が ff の極であるとき、ff を D(a,R)D(a,R) 上の有理型関数という。

f≢0f\not\equiv0 が b∈D(a,R)b\in D(a,R) の近くで f(z)=(z−b)kh(z)f(z)=(z-b)^{k}h(z)(k∈Zk\in\mathbb{Z}、hh は bb の近傍で正則、h(b)≠0h(b)\ne0)と書けるとき、kk を bb における ff の位数といい ord⁡bf\operatorname{ord}_b f と書く。k>0k>0 なら bb は位数 kk の零点、k<0k<0 なら位数 −k-k の極、k=0k=0 なら零点でも極でもない。

零点については 補題 7.2[正則関数の強力な性質]、極については 命題 3.4[留数定理と定積分への応用] の (iii) により、f≢0f\not\equiv0 の各点で位数がただ 1 つ定まります(一意性:(z−b)kh=(z−b)k′h′(z-b)^{k}h=(z-b)^{k'}h' で k<k′k<k' なら、両辺を (z−b)k(z-b)^k で割って z→bz\to b とすると h(b)=0h(b)=0 となり矛盾)。

次の補題は、あとで零点や極を「数える」ときに、数えるものが有限個であることを保証するための準備です。証明の方針は、無限個あるとコンパクトな円板の中に集積点ができてしまい、それが一致の定理と矛盾する、というものです。

補題 2.2(零点と極の有限性)✓

f≢0f\not\equiv0 を D(a,R)D(a,R) 上の有理型関数とする。任意の 0<ρ<R0<\rho<R について、D‾(a,ρ)\overline{D}(a,\rho) に含まれる ff の零点と極は有限個である。

証明(補題 2.2)

極の集合 PP は D(a,R)D(a,R) 内に集積点をもたないので、コンパクト集合 D‾(a,ρ)\overline{D}(a,\rho) に有限個しか含まれません。零点が無限個あれば、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理で集積点 p∈D‾(a,ρ)p\in\overline{D}(a,\rho) があります。pp が極なら ∣f(z)∣→∞|f(z)|\to\infty (z→pz\to p) なので pp の近くに零点はなく不適です。p∉Pp\notin P なら、pp は PP の集積点でもないので ff は pp の近傍で正則で、連続性から f(p)=0f(p)=0 です。

U=D(a,R)∖PU=D(a,R)\setminus P は連結です。実際、UU の 2 点を結ぶ線分は PP の点を有限個しか通らないので、各極の手前で小さな半円周に迂回すれば UU 内の道が得られます。したがって一致の定理(定理 7.3[正則関数の強力な性質])を領域 UU 上の ff と 00 に適用でき、零点の集積点 p∈Up\in U から f≡0f\equiv0 が従います。仮定に反します。

補題 2.3(対数微分の留数)✓

f≢0f\not\equiv0 が bb で位数 kk をもち、gg が bb の近傍で正則とする。このとき f′/ff'/f は bb の穴あき近傍で正則であり、

Res⁡ ⁣(g f′f, b)=k g(b)\operatorname{Res}\!\left(g\,\frac{f'}{f},\,b\right)=k\,g(b)

が成り立つ。

証明(補題 2.3)

f(z)=(z−b)kh(z)f(z)=(z-b)^{k}h(z)(h(b)≠0h(b)\ne0)とします。hh は bb の近傍で零点をもたない(連続性)ので h′/hh'/h はそこで正則です。積の微分法で

f′(z)=k(z−b)k−1h(z)+(z−b)kh′(z)f'(z)=k(z-b)^{k-1}h(z)+(z-b)^{k}h'(z)

ですから、

f′(z)f(z)=kz−b+h′(z)h(z)\frac{f'(z)}{f(z)}=\frac{k}{z-b}+\frac{h'(z)}{h(z)}

となります。したがって gf′/f=k g(z)/(z−b)+gh′/hg f'/f=k\,g(z)/(z-b)+g h'/h で、第 2 項は bb で正則なので留数に寄与しません。第 1 項は g(z)=g(b)+(z−b)g~(z)g(z)=g(b)+(z-b)\tilde g(z)(g~\tilde g は正則)と書けば kg(b)/(z−b)+kg~(z)k g(b)/(z-b)+k\tilde g(z) ですから、留数は kg(b)k g(b) です。

定理 3.1(偏角の原理)✓

f≢0f\not\equiv0 を D(a,R)D(a,R) 上の有理型関数とし、0<r<R0<r<R で、ff は円周 CrC_r 上に零点も極ももたないとする。gg を D(a,R)D(a,R) 上の正則関数とする。D(a,r)D(a,r) 内にある ff の相異なる零点を z1,…,zsz_1,\dots,z_s(位数 m1,…,msm_1,\dots,m_s)、相異なる極を p1,…,ptp_1,\dots,p_t(位数 n1,…,ntn_1,\dots,n_t)とすると

12πi∮Crg(z)f′(z)f(z) dz=∑j=1smj g(zj)−∑l=1tnl g(pl)\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_r}g(z)\frac{f'(z)}{f(z)}\,dz=\sum_{j=1}^{s}m_j\,g(z_j)-\sum_{l=1}^{t}n_l\,g(p_l)

が成り立つ。特に g≡1g\equiv1 とすると、零点の個数 NN と極の個数 PP(ともに位数を込めて数える)について

12πi∮Crf′(z)f(z) dz=N−P.\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_r}\frac{f'(z)}{f(z)}\,dz=N-P .
証明(定理 3.1)

補題 2.2 により、閉円板 D‾(a,ρ)\overline{D}(a,\rho)(r<ρ<Rr<\rho<R)の零点と極は有限個です。CrC_r 上には零点も極もないので、r<ρ<Rr<\rho<R を十分 rr に近く取れば、r≤∣z−a∣<ρr\le|z-a|<\rho に零点も極もありません(rr より外側にある零点と極は有限個で、CrC_r 上にないので、それらの ∣z−a∣|z-a| の最小値は rr より大きい)。以下 D=D(a,ρ)D=D(a,\rho) を使います。DD は凸なので単連結領域です。

G=gf′/fG=g f'/f は、DD から z1,…,zs,p1,…,ptz_1,\dots,z_s,p_1,\dots,p_t を除いた集合で正則です(零点・極以外では ff は正則で f≠0f\neq0)。CrC_r は DD 内の正の向きの単純閉曲線で、その内部は D(a,r)D(a,r) です。留数定理(定理 5.1[留数定理と定積分への応用])より

12πi∮CrG dz=∑jRes⁡(G,zj)+∑lRes⁡(G,pl).\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_r}G\,dz=\sum_{j}\operatorname{Res}(G,z_j)+\sum_{l}\operatorname{Res}(G,p_l).

補題 2.3 により Res⁡(G,zj)=mjg(zj)\operatorname{Res}(G,z_j)=m_j g(z_j)、Res⁡(G,pl)=−nlg(pl)\operatorname{Res}(G,p_l)=-n_l g(p_l)(極の位数は ord⁡=−nl\operatorname{ord}=-n_l)です。これで主張が従います。

注意 3.2(回転数としての読み方)

γ(t)\gamma(t) (a≤t≤b)(a\le t\le b) で CrC_r を 1 周し、Γ=f∘γ\Gamma=f\circ\gamma とおきます。ff に極がなければ Γ\Gamma は原点を通らない閉曲線で、置換積分 w=f(γ(t))w=f(\gamma(t)) により

∮Crf′(z)f(z) dz=∫abf′(γ(t))γ′(t)f(γ(t)) dt=∫Γdww\oint_{C_r}\frac{f'(z)}{f(z)}\,dz=\int_a^b\frac{f'(\gamma(t))\gamma'(t)}{f(\gamma(t))}\,dt=\int_{\Gamma}\frac{dw}{w}

です。右辺は、ww が Γ\Gamma を 1 周するときの log⁡w\log w の増分です。実部 log⁡∣w∣\log|w| の増分は閉曲線なので 00、虚部は偏角 arg⁡w\arg w の連続的な増分で、これが 2π2\pi の整数倍になります。したがって

N−P=12πΔCrarg⁡f=Γ が原点のまわりを反時計回りに回る回数N-P=\frac{1}{2\pi}\Delta_{C_r}\arg f=\Gamma\text{ が原点のまわりを反時計回りに回る回数}

です。定理の名前の由来はここにあり、「zz が円を 1 周するときの ff の偏角の増分」が零点の個数から極の個数を引いたものを 2π2\pi 倍した値になります。

z₁ (位数 2)z₂pz 平面と円 C0w = f(z) の軌跡(2 周)
偏角の原理。左:円 C の内部に零点(黒丸、位数込みで 3 個)と極(×、1 個)。右:z が C を 1 周するときの f(z) の軌跡は原点のまわりを 3 − 1 = 2 周する。

偏角の原理は、零点を数える手段が「f′/ff'/f の周回積分」だと教えてくれます。ここから、ff を少し変えたとき個数がどう変わるかを調べます。

定理 4.1(Rouché の定理)✓

f,gf,g を D(a,R)D(a,R) 上の有理型関数とし、0<r<R0<r<R とする。CrC_r 上の各点で f,gf,g は正則であり、

∣f(z)−g(z)∣<∣f(z)∣+∣g(z)∣(z∈Cr)|f(z)-g(z)|<|f(z)|+|g(z)| \qquad (z\in C_r)

が成り立つとする。このとき f,gf,g は CrC_r 上に零点をもたず、D(a,r)D(a,r) 内の零点の個数 Nf,NgN_f,N_g と極の個数 Pf,PgP_f,P_g(位数込み)について

Nf−Pf=Ng−PgN_f-P_f=N_g-P_g

が成り立つ。特に f,gf,g がともに D(a,R)D(a,R) 上で正則なら Nf=NgN_f=N_g である。

とりわけ、CrC_r 上で ∣f−g∣<∣f∣|f-g|<|f| ならば仮定は成り立つ(∣f∣≤∣f∣+∣g∣|f|\le|f|+|g| より)。

証明の方針は次のとおりです。比 h=g/fh=g/f を考えると、仮定は「hh が円周上で負の実軸(原点を含む)に入らない」という意味になります。その範囲では対数の主枝が使えるので、h′/hh'/h の円周上の積分が 0 になります。すると g′/gg'/g と f′/ff'/f の積分が等しくなり、偏角の原理から零点の個数の差がわかります。

証明(定理 4.1)

CrC_r 上の点 zz で f(z)=0f(z)=0 なら仮定は ∣g(z)∣<∣g(z)∣|g(z)|<|g(z)| となって矛盾します。g(z)=0g(z)=0 の場合も同様なので、f,gf,g は CrC_r 上で零点をもちません。

h=g/fh=g/f とおきます。f,gf,g は CrC_r 上で正則かつ零でないので、CrC_r のある近傍(円環 A={r−η<∣z−a∣<r+η}A=\{r-\eta<|z-a|<r+\eta\}、η>0\eta>0 は十分小さい)で f,gf,g は正則かつ零点なしとできます(零点と極の集合は閉かつ離散的で、CrC_r はコンパクトで集合と交わらないから)。したがって hh は AA 上正則で零点なしです。

仮定を hh で言い直します。∣1−h∣<1+∣h∣|1-h|<1+|h| です。三角不等式 ∣1+(−h)∣≤1+∣h∣|1+(-h)|\le1+|h| の等号は、−h-h が 00 以上の実数のとき、すなわち h∈(−∞,0]h\in(-\infty,0] のときに限ります。よって h(z)∉(−∞,0]h(z)\notin(-\infty,0](z∈Crz\in C_r)です。集合 C∖(−∞,0]\mathbb{C}\setminus(-\infty,0] は開集合なので、連続性とコンパクト性から、η\eta をさらに小さくして h(A)⊂C∖(−∞,0]h(A)\subset\mathbb{C}\setminus(-\infty,0] とできます。

すると主枝 Log⁡\operatorname{Log} が使えて、Log⁡∘h\operatorname{Log}\circ h は AA 上正則であり、定理 6.9[正則関数とコーシー・リーマンの関係式] と連鎖律で (Log⁡∘h)′=h′/h(\operatorname{Log}\circ h)'=h'/h です。つまり h′/hh'/h は円環 AA(領域)上に原始関数 Log⁡∘h\operatorname{Log}\circ h をもつので、微積分の基本定理(定理 3.2[コーシーの積分定理と積分公式])により ∮Crh′/h dz=0\oint_{C_r}h'/h\,dz=0 です。

一方 g=fhg=fh から g′/g=f′/f+h′/hg'/g=f'/f+h'/h ですので、

12πi∮Crg′g dz=12πi∮Crf′f dz\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_r}\frac{g'}{g}\,dz=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_r}\frac{f'}{f}\,dz

です。偏角の原理(定理 3.1)で両辺をそれぞれ Ng−PgN_g-P_g、Nf−PfN_f-P_f に書き換えれば結論を得ます。

0f(p)g(p)実線の円:f(C) 細い曲線:g(C) 破線:中心 f(p)・半径 |f(p)|
Rouché の定理の幾何学。z が円を回るとき、g(z) は常に「f(z) を中心とし原点を通る円板」の中にあるので、f(z) と g(z) は原点に対して同じ側にあり、回転数は等しい。

仮定 ∣f−g∣<∣f∣|f-g|<|f| は、図の破線の円板に g(p)g(p) が入ることを意味します。この円板は原点を境界上に通るだけで内部に含まないので、f(p)f(p) から g(p)g(p) へ向かう線分は原点を横切りません。連続変形 f+t(g−f)f+t(g-f)(0≤t≤10\le t\le1)の途中で境界上に零点が現れないというのが、回転数が変わらない理由です。

5. 正則関数列の収束と Hurwitz の定理

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関数列の極限と零点の関係を調べるために、まず「正則関数の局所一様収束極限は正則」を証明します。実解析では、一様収束しても導関数は収束するとは限りませんでした(定理 7.3[関数列と一様収束] に追加の仮定が必要)。複素解析ではそれが不要です。

定義 5.1(局所一様収束)↗

Ω⊂C\Omega\subset\mathbb{C} を開集合とする。Ω\Omega 上の関数列 fnf_n が ff に局所一様収束するとは、Ω\Omega の任意のコンパクト部分集合 KK で sup⁡z∈K∣fn(z)−f(z)∣→0\sup_{z\in K}|f_n(z)-f(z)|\to0 となることをいう。

定理 5.2(ワイエルシュトラスの収束定理)✓

Ω\Omega を開集合、fnf_n を Ω\Omega 上の正則関数列とし、fnf_n が ff に局所一様収束するとする。このとき ff は Ω\Omega 上で正則であり、すべての k≥1k\ge1 について fn(k)f_n^{(k)} は f(k)f^{(k)} に局所一様収束する。

証明(定理 5.2)

ff の連続性:z0∈Ωz_0\in\Omega と ε>0\varepsilon>0 に対し、閉円板 D‾(z0,ρ)⊂Ω\overline{D}(z_0,\rho)\subset\Omega をとります。この上で fn→ff_n\to f は一様なので、∣fn−f∣<ε/3|f_n-f|<\varepsilon/3 となる nn を 1 つ固定し、fnf_n の連続性から ∣z−z0∣<δ|z-z_0|<\delta で ∣fn(z)−fn(z0)∣<ε/3|f_n(z)-f_n(z_0)|<\varepsilon/3 とできます。すると ∣f(z)−f(z0)∣≤∣f(z)−fn(z)∣+∣fn(z)−fn(z0)∣+∣fn(z0)−f(z0)∣<ε|f(z)-f(z_0)|\le|f(z)-f_n(z)|+|f_n(z)-f_n(z_0)|+|f_n(z_0)-f(z_0)|<\varepsilon です。

正則性:閉三角形 Δ⊂Ω\Delta\subset\Omega をとります。各 fnf_n に対してグルサの定理(定理 4.5[コーシーの積分定理と積分公式])から ∮∂Δfn dz=0\oint_{\partial\Delta}f_n\,dz=0 です。∂Δ\partial\Delta はコンパクトで長さ LL が有限なので、ML 不等式(補題 2.4[コーシーの積分定理と積分公式])により

∣∮∂Δf dz∣=∣∮∂Δ(f−fn) dz∣≤Lsup⁡∂Δ∣f−fn∣→0\left|\oint_{\partial\Delta}f\,dz\right|=\left|\oint_{\partial\Delta}(f-f_n)\,dz\right|\le L\sup_{\partial\Delta}|f-f_n|\to0

です。よって ∮∂Δf dz=0\oint_{\partial\Delta}f\,dz=0 で、ff は連続ですからモレラの定理(定理 3.6[正則関数の強力な性質])により ff は正則です。

導関数の収束:D‾(a,r)⊂Ω\overline{D}(a,r)\subset\Omega とします。fn−ff_n-f は正則なので、導関数版の積分公式(定理 3.2[正則関数の強力な性質])が ∣z−a∣≤r/2|z-a|\le r/2 で使え、このとき ∣ζ−z∣≥r/2|\zeta-z|\ge r/2(ζ∈Cr\zeta\in C_r)から

∣fn(k)(z)−f(k)(z)∣=∣k!2πi∮Crfn(ζ)−f(ζ)(ζ−z)k+1 dζ∣≤k! r(r/2)k+1sup⁡Cr∣fn−f∣→0\bigl|f_n^{(k)}(z)-f^{(k)}(z)\bigr|=\left|\frac{k!}{2\pi i}\oint_{C_r}\frac{f_n(\zeta)-f(\zeta)}{(\zeta-z)^{k+1}}\,d\zeta\right|\le\frac{k!\,r}{(r/2)^{k+1}}\sup_{C_r}|f_n-f|\to0

です。コンパクト集合 K⊂ΩK\subset\Omega は、このような D(a,r/2)D(a,r/2) の有限個で覆えるので、KK 上の一様収束が従います。

定理 5.3(Hurwitz の定理)✓

Ω\Omega を領域、fnf_n を Ω\Omega 上の正則関数列で、fn→ff_n\to f が局所一様収束し、f≢0f\not\equiv0 とする。D‾(a,r)⊂Ω\overline{D}(a,r)\subset\Omega で ff が CrC_r 上に零点をもたないなら、ある NN が存在して、n≥Nn\ge N のとき fnf_n と ff は D(a,r)D(a,r) 内に(位数込みで)同じ個数の零点をもつ。

証明(定理 5.3)

定理 5.2 により ff は正則です。m=min⁡Cr∣f∣>0m=\min_{C_r}|f|>0 です(CrC_r はコンパクトで ff は零にならない)。CrC_r 上の一様収束から、ある NN があって n≥Nn\ge N のとき CrC_r 上で ∣fn−f∣<m≤∣f∣|f_n-f|<m\le|f| となります。Rouché の定理(定理 4.1)の最後の注意により、fnf_n と ff は D(a,r)D(a,r) に同数の零点をもちます。

系 5.4(Hurwitz の定理の系)✓

Ω\Omega を領域、fn→ff_n\to f(局所一様)を正則関数列とする。

  1. f≢0f\not\equiv0 かつ f(a)=0f(a)=0 ならば、任意の ρ>0\rho>0 に対し、十分大きな nn で fnf_n は D(a,ρ)D(a,\rho) に零点をもつ。
  2. すべての fnf_n が零点をもたないなら、f≡0f\equiv0 であるか、ff も零点をもたない。
  3. すべての fnf_n が単射なら、ff は定数であるか、単射である。
証明(系 5.4)

(1) f≢0f\not\equiv0 なので、ff の零点の孤立性(補題 7.2[正則関数の強力な性質])から、ρ\rho を小さく取り直して D‾(a,ρ)⊂Ω\overline{D}(a,\rho)\subset\Omega、かつ D‾(a,ρ)∖{a}\overline{D}(a,\rho)\setminus\{a\} に零点がないとできます。ff は D(a,ρ)D(a,\rho) に零点 aa をもつので、定理 5.3 から十分大きな nn で fnf_n も零点をもちます。

(2) f≢0f\not\equiv0 かつ f(a)=0f(a)=0 なる aa があれば、(1) から fnf_n が零点をもち仮定に反します。

(3) ff が定数でなく単射でないと仮定します。f(a)=f(b)=cf(a)=f(b)=c、a≠ba\ne b なる a,b∈Ωa,b\in\Omega があります。f−c≢0f-c\not\equiv0 で、零点は孤立するので、a,ba,b を中心とする互いに交わらない閉円板 D‾a,D‾b⊂Ω\overline{D}_a,\overline{D}_b\subset\Omega を、境界上で f≠cf\ne c かつ内部の零点は中心だけとなるように取れます。fn−c→f−cf_n-c\to f-c も局所一様収束です。定理 5.3 から十分大きな nn で、fn−cf_n-c は DaD_a と DbD_b の両方に零点 zn∈Daz_n\in D_a、wn∈Dbw_n\in D_b をもちます。zn≠wnz_n\ne w_n で fn(zn)=fn(wn)=cf_n(z_n)=f_n(w_n)=c ですから、fnf_n の単射性に反します。

注意 5.5

(2) で f≡0f\equiv0 は実際に起こります。たとえば Ω={∣z∣<1}\Omega=\{|z|<1\} 上の fn(z)=1/nf_n(z)=1/n は零点をもたず、00 に一様収束します。同様に (3) の定数も実際に起こり、fn(z)=z/nf_n(z)=z/n は単射で定数 00 に収束します。

Rouché の定理から、正則関数が点の近くでどう写すかが完全にわかります。w0=f(a)w_0=f(a) の近くの値 ww に対して、方程式 f(z)=wf(z)=w の解の個数は、f−w0f-w_0 の零点 aa の位数に等しいのです。

次の定理は量化子が重なっているので、順に読みます。まず点 aa を中心とする十分小さい円の半径 rr を選び、次にそれに応じて w0w_0 のまわりの小さな半径 δ\delta を選びます。すると、w0w_0 に近い値 ww はどれも、円板の中でちょうど mm 回ずつ取られる、という内容です。たとえば f(z)=z2f(z)=z^2 で a=0a=0 なら m=2m=2 で、00 でない値 ww は ±w\pm\sqrt{w} の 2 点から取られます。

定理 6.1(正則写像の局所構造)✓

Ω\Omega を領域、ff を Ω\Omega 上の定数でない正則関数、a∈Ωa\in\Omega、w0=f(a)w_0=f(a) とする。f−w0f-w_0 の aa における零点の位数を m≥1m\ge1 とする。このとき、ある r0>0r_0>0 が存在して、0<r<r00<r<r_0 をみたす任意の rr に対して δ>0\delta>0 が存在し、0<∣w−w0∣<δ0<|w-w_0|<\delta をみたす任意の ww について、方程式 f(z)=wf(z)=w は D(a,r)D(a,r) にちょうど mm 個の相異なる解をもち、それらはすべて単根(f′≠0f'\ne0)である。

証明(定理 6.1)

ff が定数でないので f−w0≢0f-w_0\not\equiv0 で、一致の定理の結果 m<∞m<\infty です。f′≢0f'\not\equiv0 でもあります(そうでなければ領域上 ff は定数)。零点の孤立性(補題 7.2[正則関数の強力な性質])から、r0>0r_0>0 を、D‾(a,r0)⊂Ω\overline{D}(a,r_0)\subset\Omega で、D‾(a,r0)∖{a}\overline{D}(a,r_0)\setminus\{a\} に f−w0f-w_0 の零点も f′f' の零点もないように取れます。0<r<r00<r<r_0 を任意に取り、δ=min⁡Cr∣f−w0∣>0\delta=\min_{C_r}|f-w_0|>0 とします。

0<∣w−w0∣<δ0<|w-w_0|<\delta なる ww を取り、F=f−w0F=f-w_0、G=f−wG=f-w とおきます。CrC_r 上で ∣F−G∣=∣w−w0∣<δ≤∣F∣|F-G|=|w-w_0|<\delta\le|F| なので、Rouché の定理(定理 4.1)から GG は D(a,r)D(a,r) に FF と同じ mm 個の零点(位数込み)をもちます。G(a)=w0−w≠0G(a)=w_0-w\ne0 なので aa は零点ではなく、G′=f′G'=f' は D(a,r)∖{a}D(a,r)\setminus\{a\} に零点をもたないので、GG の零点はすべて位数 11 です。したがって mm 個の相異なる単根です。

定理 6.2(開写像定理)✓

Ω\Omega を領域、ff を Ω\Omega 上の定数でない正則関数とする。このとき Ω\Omega の任意の開集合 UU に対して f(U)f(U) は開集合である。

証明(定理 6.2)

a∈Ua\in U を取り、w0=f(a)w_0=f(a) とします。D(a,r)⊂UD(a,r)\subset U かつ r<r0r<r_0 となる rr について 定理 6.1 を使うと、ある δ>0\delta>0 があって、0<∣w−w0∣<δ0<|w-w_0|<\delta の各 ww は m≥1m\ge1 個の解を D(a,r)D(a,r) にもちます。したがって D(w0,δ)⊂f(D(a,r))⊂f(U)D(w_0,\delta)\subset f(D(a,r))\subset f(U) です。w0=f(a)w_0=f(a) は f(U)f(U) の任意の点なので、f(U)f(U) は開集合です。

系 6.3(単射な正則関数の逆写像)✓

Ω\Omega を領域、f:Ω→Cf:\Omega\to\mathbb{C} を単射な正則関数とする。このとき f′(z)≠0f'(z)\ne0(z∈Ωz\in\Omega)であり、f(Ω)f(\Omega) は開集合で、逆写像 f−1:f(Ω)→Ωf^{-1}:f(\Omega)\to\Omega は正則、(f−1)′(f(z))=1/f′(z)(f^{-1})'(f(z))=1/f'(z) である。

証明(系 6.3)

単射なら定数ではないので 定理 6.2 から f(Ω)f(\Omega) は開集合です。a∈Ωa\in\Omega で mm を f−f(a)f-f(a) の位数とします。m=1m=1 は f′(a)≠0f'(a)\ne0 と同値です。m≥2m\ge2 なら 定理 6.1 により、f(a)f(a) の近くの w≠f(a)w\ne f(a) が D(a,r)D(a,r) に m≥2m\ge2 個の解をもち、単射性に反します(f−f(a)f-f(a) の位数 mm が 1 であることと f′(a)≠0f'(a)\ne0 は、f(z)−f(a)=(z−a)mh(z)f(z)-f(a)=(z-a)^mh(z), h(a)≠0h(a)\ne0 から f′(a)=0  ⟺  m≥2f'(a)=0 \iff m\ge2 と読めます)。よって m=1m=1、f′(a)≠0f'(a)\neq0 です。

f−1f^{-1} の連続性:開集合 U⊂ΩU\subset\Omega に対し、(f−1)−1(U)=f(U)(f^{-1})^{-1}(U)=f(U) は開集合です。微分可能性:w0=f(a)w_0=f(a)、w→w0w\to w_0 (w≠w0w\ne w_0) とし z=f−1(w)z=f^{-1}(w) とおくと、連続性から z→az\to a、単射性から z≠az\ne a で、

f−1(w)−f−1(w0)w−w0=z−af(z)−f(a)→1f′(a)\frac{f^{-1}(w)-f^{-1}(w_0)}{w-w_0}=\frac{z-a}{f(z)-f(a)}\to\frac{1}{f'(a)}

です。

注意 6.4

開写像定理から最大値原理(定理 7.7[正則関数の強力な性質])も別の形で得られます。定数でない ff が aa で ∣f∣|f| の局所最大をとるとすると、f(D(a,r))f(D(a,r)) は f(a)f(a) を含む開集合なので ∣w∣>∣f(a)∣|w|>|f(a)| なる値を含み、矛盾です。逆に最大値原理の証明は平均値の性質だけを使っており、ここでの証明は零点の個数を数える別の道筋です。定義 2.2[等角写像とリーマン写像定理] が「正則で単射なら逆も正則」を断りなく使っていたことの根拠は、系 6.3 です。

7. 応用:零点の個数と、根・固有値の連続性

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例 7.1(z⁵+3z+1 の零点の分布)

p(z)=z5+3z+1p(z)=z^5+3z+1 とします。∣z∣=1|z|=1 上で ∣3z∣=3|3z|=3、∣z5+1∣≤2<3|z^5+1|\le2<3 ですから、f=3zf=3z、g=pg=p に Rouché の定理(∣f−g∣=∣z5+1∣<∣f∣|f-g|=|z^5+1|<|f|)を適用して、pp は ∣z∣<1|z|<1 にちょうど 1 個の零点をもちます(実際、p(−1/3)p(-1/3) 付近に実根があります)。∣z∣=2|z|=2 上では ∣z5∣=32|z^5|=32、∣3z+1∣≤7<32|3z+1|\le7<32 ですから、pp は ∣z∣<2|z|<2 に 5 個の零点をもちます。したがって 1<∣z∣<21<|z|<2 に 4 個あり、∣z∣=1|z|=1 上には零点がありません。根を 1 つも計算していません。

例 7.2(方程式 ez=e^z = 3z)

f(z)=−3zf(z)=-3z、g(z)=ez−3zg(z)=e^z-3z とおくと、∣z∣=1|z|=1 上で ∣f−g∣=∣ez∣=eRe⁡z≤e<3=∣f∣|f-g|=|e^z|=e^{\operatorname{Re}z}\le e<3=|f| です。よって ez=3ze^z=3z は単位円板にちょうど 1 つの解をもちます。実軸上で ex−3xe^x-3x は x=0x=0 で正、x=1x=1 で e−3<0e-3<0 なので、解は (0,1)(0,1) の実数です。

定理 7.3(多項式の根の連続性)✓

p(z)=zn+an−1zn−1+⋯+a0p(z)=z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_0 の相異なる根を λ1,…,λs\lambda_1,\dots,\lambda_s(重複度 m1,…,msm_1,\dots,m_s)とする。円板 Dj=D(λj,ε)D_j=D(\lambda_j,\varepsilon) が互いに交わらないような ε>0\varepsilon>0 を任意に取る。このとき、ある δ>0\delta>0 が存在して、∑k=0n−1∣bk−ak∣<δ\sum_{k=0}^{n-1}|b_k-a_k|<\delta を満たす任意のモニック多項式 q(z)=zn+bn−1zn−1+⋯+b0q(z)=z^n+b_{n-1}z^{n-1}+\cdots+b_0 は、各 DjD_j にちょうど mjm_j 個の根(重複度込み)をもち、⋃jDj\bigcup_jD_j の外には根をもたない。

証明(定理 7.3)

円周 Cj=∂DjC_j=\partial D_j 上に pp の根はないので、μ=min⁡jmin⁡Cj∣p∣>0\mu=\min_j\min_{C_j}|p|>0 です。M0=1+max⁡j∣λj∣+εM_0=1+\max_j|\lambda_j|+\varepsilon とすると、⋃jCj⊂D‾(0,M0)\bigcup_jC_j\subset\overline{D}(0,M_0) で、∣z∣≤M0|z|\le M_0 のとき

∣q(z)−p(z)∣=∣∑k<n(bk−ak)zk∣≤M0 n−1∑k∣bk−ak∣<M0 n−1δ|q(z)-p(z)|=\Bigl|\sum_{k<n}(b_k-a_k)z^k\Bigr|\le M_0^{\,n-1}\sum_k|b_k-a_k|<M_0^{\,n-1}\delta

です。δ=μ/M0 n−1\delta=\mu/M_0^{\,n-1} とすれば、各 CjC_j 上で ∣q−p∣<μ≤∣p∣|q-p|<\mu\le|p| となります。Rouché の定理(定理 4.1)を円板 DjD_j に適用すれば、qq も DjD_j に mjm_j 個の根をもちます。合計 ∑jmj=n\sum_jm_j=n 個で qq の根の総数 nn に達するので、他に根はありません。

系 7.4(固有値の連続性)✓

A∈Mn(C)A\in M_n(\mathbb{C}) の相異なる固有値を λ1,…,λs\lambda_1,\dots,\lambda_s(代数的重複度 mjm_j)とする。ε>0\varepsilon>0 を、D(λj,ε)D(\lambda_j,\varepsilon) が互いに交わらないように取る。このとき、ある δ>0\delta>0 が存在して、max⁡i,k∣Bik−Aik∣<δ\max_{i,k}|B_{ik}-A_{ik}|<\delta を満たす任意の B∈Mn(C)B\in M_n(\mathbb{C}) は、各 D(λj,ε)D(\lambda_j,\varepsilon) にちょうど mjm_j 個の固有値(代数的重複度込み)をもつ。

証明(系 7.4)

固有値は特性多項式 det⁡(zI−A)\det(zI-A)(モニックな nn 次式)の根で、その重複度が代数的重複度です。特性多項式の係数は行列の成分の多項式(行列式の展開)なので、成分について連続です。したがって BB が AA に十分近ければ特性多項式の係数の差の和が 定理 7.3 の δ\delta より小さくなり、主張が従います。

注意 7.5

重複度 mjm_j の固有値は、摂動で mjm_j 個に分裂してもよく、ε\varepsilon の円板の中を出ません。固有値が連続に動くことと、たとえば A=(0100)A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix} の摂動 Bη=(01η0)B_\eta=\begin{pmatrix}0&1\\\eta&0\end{pmatrix} の固有値 ±η\pm\sqrt{\eta} のように、動きが摂動の大きさに対して Lipschitz とは限らないことは両立しています。固有値の集合としての連続性は上の定理が保証する最良の形です。行列の固有値については 固有値と固有ベクトル を参照してください。

演習 8.1易

p(z)=z4−5z+1p(z)=z^4-5z+1 について、∣z∣<1|z|<1 と 1<∣z∣<21<|z|<2 にある零点の個数を、位数込みで求めよ。

解答

∣z∣=1|z|=1 上で ∣−5z∣=5|-5z|=5、∣z4+1∣≤2<5|z^4+1|\le2<5 なので、Rouché の定理(定理 4.1)より pp は ∣z∣<1|z|<1 に −5z-5z と同数の 1 個の零点をもち、∣z∣=1|z|=1 上には零点がありません。∣z∣=2|z|=2 上では ∣z4∣=16|z^4|=16、∣−5z+1∣≤11<16|-5z+1|\le11<16 なので、∣z∣<2|z|<2 の零点は z4z^4 と同数の 4 個です。したがって ∣z∣<1|z|<1 に 1 個、1<∣z∣<21<|z|<2 に 4−1=34-1=3 個です。

演習 8.2標準

p(z)=zn+an−1zn−1+⋯+a0p(z)=z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_0 とし、A=max⁡k∣ak∣A=\max_k|a_k|、R=1+AR=1+A とする。Rouché の定理を使って、pp のすべての根が ∣z∣<R|z|<R にあることを示せ。

解答

A=0A=0 なら p=znp=z^n で根は 00 のみだから自明なので、A>0A>0 とします。∣z∣=R|z|=R 上で ∣p(z)−zn∣≤A∑k=0n−1Rk=ARn−1R−1=Rn−1<Rn=∣zn∣\bigl|p(z)-z^n\bigr|\le A\sum_{k=0}^{n-1}R^k=A\dfrac{R^n-1}{R-1}=R^n-1<R^n=|z^n| です(A=R−1A=R-1 を使いました)。f=znf=z^n、g=pg=p に Rouché の定理(定理 4.1)を使うと、pp は ∣z∣<R|z|<R に znz^n と同数、すなわち nn 個の零点をもちます。pp の根は全部で nn 個ですから、すべて ∣z∣<R|z|<R にあります。

演習 8.3標準

f(z)=(z−1)2(z+1)z−i2f(z)=\dfrac{(z-1)^2(z+1)}{z-\tfrac{i}{2}} とする。12πi∮∣z∣=2z f′(z)f(z) dz\dfrac{1}{2\pi i}\oint_{|z|=2}z\,\dfrac{f'(z)}{f(z)}\,dz を求めよ。

解答

ff の零点は 11(位数 22)、−1-1(位数 11)、極は i/2i/2(位数 11)で、いずれも ∣z∣<2|z|<2 にあり、∣z∣=2|z|=2 上にはありません。定理 3.1 で g(z)=zg(z)=z とすると、値は 2⋅1+1⋅(−1)−1⋅i2=1−i22\cdot1+1\cdot(-1)-1\cdot\dfrac{i}{2}=1-\dfrac{i}{2} です。

演習 8.4標準

領域 Ω\Omega 上の正則関数 ff が Re⁡f≥0\operatorname{Re}f\ge0 を満たすなら、Re⁡f>0\operatorname{Re}f>0 であるか、ff は純虚数の定数であることを示せ。

解答

ff が定数でないとします。開写像定理(定理 6.2)から f(Ω)f(\Omega) は開集合で、{w:Re⁡w≥0}\{w:\operatorname{Re}w\ge0\} に含まれます。閉半平面に含まれる開集合は開半平面 {Re⁡w>0}\{\operatorname{Re}w>0\} に含まれるので(境界上の点の近くには Re⁡w<0\operatorname{Re}w<0 の点がある)、純虚数の値は f(Ω)f(\Omega) に含まれません。ゆえに Re⁡f>0\operatorname{Re}f>0 です。定数のとき Re⁡f≥0\operatorname{Re}f\ge0 なら、実部が正の定数か、実部 00 の定数(純虚数)です。

  • L. V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1979 — 第 4 章 §5.1–§5.3(偏角の原理、Rouché の定理、開写像定理)。
  • W. Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1987 — 第 10 章(零点の個数、開写像定理)。
  • E. M. Stein and R. Shakarchi, Complex Analysis, Princeton University Press, 2003 — 第 3 章 §4(偏角の原理と Rouché の定理)。
  • J. B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Springer, 1978 — 第 V 章 §3(偏角の原理)と第 VII 章 §2(Hurwitz の定理)。
  • 杉浦光夫『解析入門 II』東京大学出版会、1985 — 複素解析の章。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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