円の縁での値を決めたとき、内側の値は一通りに決まるのか、決まるならどう計算できるのか。この記事はその素朴な問いから始まります。答えは、内側の値が縁の値の重みつき平均で書ける、というものです。読み終えると、縁の温度や電位から内部の分布を求める公式と、それを使った値の評価、領域を境界の向こうへ延長する方法が使えるようになります。
- 実数値の調和関数は、円板の上では必ず正則関数の実部です(調和共役の存在)。したがって調和関数は C∞ で、円周上の平均値の性質と最大値原理をもちます。逆に、連続で平均値の性質をもつ関数は調和です。
- Poisson 核 Pr(θ)=1−2rcosθ+r21−r2 は、正で全積分 1 の「近似単位元」(積分すると 1 で、一点のまわりに集中していく重み)です。円板の閉包の近くで調和な u は、境界値の Poisson 積分で復元できます。
- Dirichlet 問題:円周上の連続関数 φ に対し、Poisson 積分は円板上の調和関数で、境界でちょうど φ の値をとる唯一の解です。
- Harnack の不等式:正の調和関数は、円板の中の点で値が同じオーダー(比が R+rR−r と R−rR+r の間)に入ります。そこから、リウヴィル型の定理と、単調増加列についての Harnack の原理が出ます。
- Herglotz の表現:円板上で Ref≥0 の正則関数は、円周上の正測度 μ による ∫eiθ−zeiθ+zdμ(θ) に(虚の定数を除いて)一致します。測度の存在を弱 * 収束(測度の列を、連続関数との積分の収束でとらえる極限)の議論で示します。
- Schwarz の鏡像原理:境界の一部の上で実数値(または調和関数なら 0)となる関数は、その部分を越えて対称に延長でき、延長しても正則(調和)です。
薄い円盤の縁の温度を φ(θ) に保ったとき、平衡状態での内部の温度分布 u は何か。数学的には、Δu=0 を満たし境界で u=φ となる関数を探すDirichlet 問題です。同じ形の問題が、静電ポテンシャル(導体の表面電位を与えて内部の電位を求める)や、流体の速度ポテンシャルにも現れます。
正則関数とコーシー・リーマンの関係式で、正則関数 f=u+iv の実部 u はラプラス方程式 Δu=0 を満たすことを見ました(系 5.7[正則関数とコーシー・リーマンの関係式])。この章はその逆から始めます。ラプラス方程式を満たす実関数は、円板上ではかならず正則関数の実部になります。調和関数の問題が、正則関数のコーシーの積分公式やテイラー展開に載せ替えられるのです。そこから Poisson 積分公式が出て、Dirichlet 問題の解が具体的に書き下せます。
この章の内容は、次の話題の入口でもあります。正の調和関数と Herglotz の表現は、Hardy 空間(円板上の正則関数のうち、半径 r<1 の円周上での平均的な大きさが r によらず有界なものの空間)や Herglotz 関数(実部が非負の正則関数)の理論の出発点で、ここで示す Harnack の不等式は、正則関数族の正規性(関数の列から、局所一様収束する部分列が取れる性質)や、確率論での調和関数の評価にも使われます。
D(a,R) は開円板、D=D(0,1)、T=∂D は単位円周、H±={±Imz>0} は上・下半平面です。
定義 3.1(調和関数)↗
開集合 Ω⊂C=R2 上の実数値 C2 級関数 u が調和であるとは、Ω 上で Δu=uxx+uyy=0 が成り立つことをいう。
命題 3.2(円板上の調和共役)✓
u を円板 D(a,R) 上の調和関数とする。このとき D(a,R) 上の正則関数 f で Ref=u となるものが存在する。
証明(命題 3.2)
g=ux−iuy とおきます。実部 U=ux、虚部 V=−uy は C1 級で、Ux=uxx、Vy=−uyy ですから、Δu=0 は Ux=Vy と同値です。Uy=uxy、Vx=−uyx ですから u∈C2 の下で Uy=−Vx も成り立ちます。コーシー・リーマンの関係式の十分性(定理 5.1[正則関数とコーシー・リーマンの関係式])から、g は D(a,R) 上で正則です。
円板は凸なので単連結で、正則関数は原始関数をもちます(定義 5.2[等角写像とリーマン写像定理] の同値条件)。H′=g となる H を取り、H=P+iQ と書くと、H′=Px+iQx=Px−iPy(コーシー・リーマン)なので、Px=ux、Py=uy です。u−P の勾配は零で、円板は連結ですから u−P は定数 c です。f=H+c とおけば Ref=P+c=u です。
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系 3.3(調和関数の平均値の性質)✓
u を開集合 Ω 上の調和関数とする。u は C∞ 級であり、D(a,r)⊂Ω ならば
u(a)=2π1∫02πu(a+reiθ)dθ.
証明(系 3.3)
D(a,r) はコンパクトで Ω は開なので、D(a,R)⊂Ω となる R>r が取れます。命題 3.2 で u=Ref(f は正則)と書けます。f は C∞(系 5.7[正則関数とコーシー・リーマンの関係式])なので u も C∞ で、f の平均値の性質(系 6.5[コーシーの積分定理と積分公式])の実部を取れば主張です。
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実際には、C2 級という仮定がなくても、連続であって平均値の性質を満たしさえすれば調和です(定理 5.1)。次の最大値原理は、平均値の性質だけを使って証明します。
定理 3.4(調和関数の最大値原理)✓
Ω を領域、u:Ω→R を連続で、すべての D(a,r)⊂Ω で円周上の平均値の性質をもつ関数(特に調和関数)とする。u が Ω の点 p で最大値 m=maxΩu をとるならば、u≡m である。
さらに Ω が有界で u∈C(Ω) ならば、maxΩu=max∂Ωu である。
証明(定理 3.4)
集合 A={z∈Ω:u(z)=m} は空でなく、u の連続性から Ω で閉です。q∈A を取り、D(q,r)⊂Ω とします。0<ρ≤r で平均値の性質から 2π1∫02π(m−u(q+ρeiθ))dθ=0 です。被積分関数は連続で 0 以上ですから恒等的に 0 で、u≡m が D(q,r) 上で成り立ちます。ゆえに A は開集合で、Ω の連結性から A=Ω です。
後半:Ω はコンパクトなので、最大値を達成する点 p∈Ω があります。p∈∂Ω なら終わりです。p∈Ω なら、前半から u≡u(p) が Ω 上で成り立ち、連続性から Ω 上でも成り立つので、最大値は境界でもとられます。
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系 3.5(Dirichlet 問題の一意性)✓
Ω を有界領域とし、u,v∈C(Ω) が Ω 上調和で、∂Ω 上 u=v ならば、Ω 上 u=v である。
証明(系 3.5)
u−v は調和で、境界上で零です。定理 3.4 を u−v と v−u に使えば、どちらも最大値が 0 以下、すなわち u−v≡0 です。
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定義 4.1(Poisson 核)↗
0≤r<1 と θ∈R に対して
Pr(θ)=1−2rcosθ+r21−r2=∣1−reiθ∣21−r2をPoisson 核という。
補題 4.2(Poisson 核の性質)✓
0≤r<1 のとき次が成り立つ。
- Pr(θ)=Re1−reiθ1+reiθ=n∈Z∑r∣n∣einθ(級数は θ について一様収束)。
- Pr(θ)>0、2π1∫02πPr(θ)dθ=1。
- 1+r1−r≤Pr(θ)≤1−r1+r。
- 0<δ≤∣θ∣≤π、21≤r<1 ならば Pr(θ)≤1−cosδ2(1−r)。
証明(補題 4.2)
1. q=reiθ とおくと、Re1−q1+q=Re∣1−q∣2(1+q)(1−qˉ)=∣1−q∣21−∣q∣2 で、これは Pr(θ) です。∣q∣<1 ですから 1−q1+q=1+2∑n≥1qn(幾何級数)で、実部を取ると 1+2∑n≥1rncosnθ=∑n∈Zr∣n∣einθ です。∑r∣n∣<∞ から一様収束が従います。
2. 分子 1−r2>0、分母 ∣1−reiθ∣2>0 から正です。1 の級数を項別積分すると(一様収束)n=0 の項は ∫02πeinθdθ=0 で、n=0 の項だけが残って 2π1∫Pr=1 です。
3. 1−r≤∣1−reiθ∣≤1+r と 1−r2=(1−r)(1+r) から従います。
4. ∣1−reiθ∣2=(1−r)2+2r(1−cosθ)≥2r(1−cosδ)≥1−cosδ(r≥21、∣θ∣≥δ で cosθ≤cosδ)。分子 1−r2≤2(1−r) なので主張を得ます。
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Poisson 核 P_r(θ) のグラフ(θ は −π から π、r = 0.3, 0.6, 0.85)。r が 1 に近づくにつれ、全積分を 1 に保ったまま θ = 0 のまわりに集中する。
次の Poisson 積分公式は、調和関数を正則関数の実部として冪級数に展開し、その係数を円周上の値のフーリエ係数(e−inθ をかけて平均した値)で表し直すことで得られます。係数を並べ直すと、前の補題の Poisson 核の級数がちょうど現れる、というのが証明の筋です。
証明(定理 4.3)
D の近傍に D(0,R′)(R′>1)が取れて、命題 3.2 により D(0,R′) 上の正則関数 f=∑n≥0cnzn で u=Ref となるものがあります。級数は ∣z∣=1 でも一様収束します。
u^(n)=2π1∫02πu(eiθ)e−inθdθ とおきます。u=21(f+fˉ) で、項別積分(一様収束)と ∫02πeikθdθ=0(k=0)から、
2π1∫02πf(eiθ)e−inθdθ={cn0(n≥0)(n<0),2π1∫02πf(eiθ)e−inθdθ={c−n0(n≤0)(n>0)です。したがって u^(n)=cn/2 (n≥1)、u^(0)=Rec0、u^(−n)=cn/2 (n≥1) です。一方、u(reiϕ)=Re∑n≥0cnrneinϕ=Rec0+∑n≥121(cnrneinϕ+cnrne−inϕ) ですから
u(reiϕ)=n∈Z∑u^(n)r∣n∣einϕ=2π1∫02πu(eiθ)n∈Z∑r∣n∣ein(ϕ−θ)dθです(r<1 なので級数は一様収束し、和と積分を交換できる)。補題 4.2 の 1 で級数は Pr(ϕ−θ) です。
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円板が D(a,ρ) のときは、u(a+ρz) に使ってスケールを戻せばよく、D(a,ρ) の近傍で調和な u に対して u(a+ρreiϕ)=2π1∫Pr(ϕ−θ)u(a+ρeiθ)dθ です。
次の定理の証明では、調和性は Poisson 積分が正則関数の実部になることから従います。難しいのは境界での連続性です。境界に近い点では Poisson 核が境界の一点のまわりに集中するので、積分を「近い部分」と「遠い部分」に分けます。近い部分は φ の連続性で小さく抑え、遠い部分は核そのものが小さくなることで抑えます。
定理 4.4(円板の Dirichlet 問題)✓
φ:R→R を周期 2π の連続関数とする。
u(reiψ)=2π1∫02πPr(ψ−θ)φ(θ)dθ (0≤r<1),u(eiψ)=φ(ψ)で D 上の関数 u を定める。このとき u は D 上連続で、D 上調和である。また、この性質をもつ関数は他にない。
証明(定理 4.4)
調和性。 z=reiψ に対して eiθ−zeiθ+z=1−rei(ψ−θ)1+rei(ψ−θ) ですから、補題 4.2 の 1 により Reeiθ−zeiθ+z=Pr(ψ−θ) です。また ∣z∣≤ρ<1 で eiθ−zeiθ+z=1+2∑n≥1zne−inθ が θ について一様収束するので、
H(z)=2π1∫02πφ(θ)eiθ−zeiθ+zdθ=φ^(0)+2n≥1∑φ^(n)znです(φ^(n)=2π1∫φe−inθdθ)。∣φ^(n)∣≤max∣φ∣ なので、この冪級数の収束半径は 1 以上で、H は D 上正則です。φ は実数値なので u=ReH で、系 5.7[正則関数とコーシー・リーマンの関係式] から調和です。
境界での連続性。 θ0∈R と ε>0 を取ります。φ は周期的な連続関数なので一様連続で、∣θ−θ′∣<2η なら ∣φ(θ)−φ(θ′)∣<ε となる η>0 があります。z=reiψ→eiθ0(r<1)とし、∣ψ−θ0∣<η とします。2π1∫Pr=1 から
u(z)−φ(θ0)=2π1∫ψ−πψ+πPr(ψ−θ)(φ(θ)−φ(θ0))dθ.∣θ−ψ∣<η の部分では ∣θ−θ0∣<2η なので被積分関数は Pr⋅ε 以下で、Pr≥0 と全積分 1 から寄与は ε 以下です。η≤∣θ−ψ∣≤π の部分では、r≥21 で 補題 4.2 の 4 から Pr≤1−cosη2(1−r) で、∣φ(θ)−φ(θ0)∣≤2max∣φ∣ ですから寄与は 1−cosη4(1−r)max∣φ∣ 以下で、r→1 で 0 です。したがって limsup∣u(z)−φ(θ0)∣≤ε で、ε は任意なので u(z)→φ(θ0)=u(eiθ0) です。これは境界点 eiθ0 への任意の近づき方での連続性を意味します(境界上の点列では u=φ が連続なのでよい)。
一意性。 系 3.5 です。
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例 4.6(sin³θ の Poisson 積分)
φ(θ)=sin3θ=41(3sinθ−sin3θ) です。sinnθ の調和拡張は rnsinnψ(zn の虚部)ですから、定理 4.4 の解は一意性により
u(reiψ)=43rsinψ−41r3sin3ψです。r→1 で sin3ψ に戻ることがすぐ確かめられます。
定理 5.1(平均値の性質をもつ連続関数は調和)✓
Ω を開集合、u:Ω→R を連続で、D(a,r)⊂Ω をみたす任意の円板で平均値の性質 u(a)=2π1∫02πu(a+reiθ)dθ をもつものとする。このとき u は調和である。
証明(定理 5.1)
D(a,ρ)⊂Ω を取り、u の円周上の値を境界値として 定理 4.4(スケール変換したもの)の v∈C(D(a,ρ)) を作ります。v は D(a,ρ) で調和、境界上で u=v です。w=u−v は D(a,ρ) 上連続で、u と調和関数 v(系 3.3)の平均値の性質から、D(a,ρ) の内部でも平均値の性質をもちます。定理 3.4 の証明は平均値の性質だけを使っているので w にも適用でき、最大値・最小値は境界値 0 に等しいです。よって w≡0、つまり D(a,ρ) 上で u=v は調和です。a,ρ は任意なので u は調和です。
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証明(系 5.2)
u は連続で、各 D(a,r)⊂Ω 上の一様収束から平均値の性質が極限で保たれます。定理 5.1 から調和です。
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定理 5.3(Harnack の不等式)✓
u≥0 を円板 D(a,R) 上の調和関数とする。このとき ∣z−a∣=r<R の z で
R+rR−ru(a)≤u(z)≤R−rR+ru(a)が成り立つ。
証明(定理 5.3)
一般性を失わず a=0 とします。r<ρ<R を取ると、u は D(0,ρ) の近傍で調和です。z=reiϕ に 定理 4.3 をスケール変換して使うと
u(z)=2π1∫02πPr/ρ(ϕ−θ)u(ρeiθ)dθ.u≥0 と 補題 4.2 の 3 より ρ+rρ−r≤Pr/ρ≤ρ−rρ+r ですから、2π1∫02πu(ρeiθ)dθ=u(0)(系 3.3)を使って
ρ+rρ−ru(0)≤u(z)≤ρ−rρ+ru(0)です。ρ→R とすれば主張です。
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系 5.4(下に有界な調和関数)✓
u を C 全体で調和な関数とし、u≥c(定数 c)ならば u は定数である。
証明(系 5.4)
u−c≥0 に 定理 5.3 を D(0,R) で使うと、R+∣z∣R−∣z∣(u(0)−c)≤u(z)−c≤R−∣z∣R+∣z∣(u(0)−c) です。R→∞ で両辺の係数は 1 に収束するので、u(z)=u(0) です。
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次の Harnack の原理は、増えていく調和関数の列について、局所一様に ∞ へ発散するか、局所一様収束して極限が調和関数になるか、という二者択一を述べています。証明では、Harnack の不等式により、列の増え方が近くの点どうしで同じオーダーにそろうことを使います。
定理 5.5(Harnack の原理)✓
Ω を領域、u1≤u2≤⋯ を Ω 上の調和関数の単調増加列とする。このとき次のいずれか一方が成り立つ。
- un→∞ が局所一様に成り立つ。
- un は局所一様収束し、極限は調和関数である。
証明(定理 5.5)
b∈Ω に対して D(b,R)⊂Ω を取ります。m>n で um−un≥0 は調和なので、定理 5.3 を r≤R/2(R+rR−r≥31)で使うと
31(um−un)(b)≤(um−un)(z)≤3(um−un)(b)(z∈D(b,R/2)).(i) limun(b)<∞ とします。(un(b)) は単調で有界なのでコーシー列で、上の右側の不等式から supD(b,R/2)∣um−un∣≤3(um−un)(b)→0(m>n→∞)となり、D(b,R/2) 上で一様コーシー、よって一様収束します。(ii) limun(b)=∞ とします。左側の不等式 un(z)≥u1(z)+31(un−u1)(b) と、u1 が D(b,R/2) 上で有界なことから、un→∞ が D(b,R/2) 上で一様に成り立ちます。
(i) の成り立つ点の集合 A と (ii) の点の集合 B は、Ω を互いに交わらない 2 つの集合に分け(単調列の極限は (−∞,∞] に存在する)、上の議論から各点の近傍まで含めて開集合です。Ω は連結なので A=Ω か B=Ω です。コンパクト集合は有限個の D(b,R/2) で覆えるので、局所一様性が従います。(i) の場合、極限は 系 5.2 により調和です。
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例 5.6(Harnack の不等式の等号)
u(z)=Re1−z1+z=∣1−z∣21−∣z∣2 は D 上で正、u(0)=1 の調和関数です。実軸上では u(r)=1−r1+r、u(−r)=1+r1−r で、定理 5.3 の上下の評価(R=1)が両方とも等号になります。つまり係数 R∓rR±r はこれ以上改良できません。
Poisson 核の実部と虚部のペア eiθ−zeiθ+z は、円板上で実部が正の正則関数です。Herglotz の定理は、実部が非負の正則関数がすべてこの核の「重ね合わせ」で書けることを主張します。まず係数の評価を示します。
ここで出てくる「測度」は、円周の各部分に非負の重み(質量)を割り当てる規則のことで、ボレル測度はその対象を開集合から作れる集合にそろえたものです。直観的には、円周上に質量を置いたときの、その置き方だと思ってください。証明の筋は、半径 r の円周上の値を質量とみなして測度 μr を作り、r→1 の極限で測度 μ を取り出す、というものです。極限の存在は、連続関数に対する積分の値(正の線形汎関数)の収束から、Riesz–Markov–Kakutani の表現定理(正の線形汎関数は測度による積分で書ける、という定理)で測度に直します。
命題 6.1(Carathéodory の係数評価)✓
f(z)=∑n≥0cnzn を D 上の正則関数で Ref≥0 とする。このとき n≥1 について ∣cn∣≤2Rec0 である。
証明(命題 6.1)
0<r<1 とし、ur(θ)=Ref(reiθ) とおきます。定理 4.3 の証明の計算(f(rz) に適用)により、n≥1 で 2π1∫02πur(θ)e−inθdθ=2cnrn です。ur≥0 と平均値の性質(系 3.3)から
2∣cn∣rn≤2π1∫02π∣ur(θ)∣dθ=2π1∫02πur(θ)dθ=Rec0です。r→1 とすれば主張です。
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定理 6.2(Herglotz の表現定理(円板))✓
f を D 上の正則関数で Ref≥0 とする。このとき円周 T={∣ζ∣=1} 上の正の有限ボレル測度 μ で μ(T)=Ref(0) となるものが存在して、すべての z∈D で
f(z)=iImf(0)+∫02πeiθ−zeiθ+zdμ(θ)が成り立つ。
証明(定理 6.2)
u=Ref≥0、f=∑cnzn とします。
(1) 有限半径での表現。 0<r<1 とし、ur(θ)=u(reiθ)≥0 に対する測度 dμr=ur(θ)2πdθ を考えます。平均値の性質から μr の全質量は u(0)=Rec0 です。定理 4.3 の証明の計算により u^r(n)=cnrn/2 (n≥1)、u^r(0)=Rec0 なので、K(z,θ)=eiθ−zeiθ+z=1+2∑n≥1zne−inθ を使って
f(rz)=n≥0∑cnrnzn=iImc0+u^r(0)+2n≥1∑u^r(n)zn=iImc0+∫02πK(z,θ)dμr(θ)です(級数は ∣z∣<1 で一様収束するので、積分との交換ができる)。
(2) 測度の極限。 C(T) を、周期 2π の連続関数全体に一様ノルムを入れた空間とします。区分線形で節点と節点での値が有理数のものは可算個で、一様連続性から C(T) で稠密です。それらを g1,g2,… とします。Λr(g)=∫gdμr は C(T) 上の線形汎関数で、g≥0 なら Λr(g)≥0、∣Λr(g)∣≤u(0)∥g∥∞ です。rj(0)=1−1/(j+1) とします。各 k に対し (Λr(gk)) は有界(∣Λr(gk)∣≤u(0)∥gk∥∞)なので、k=1 について収束部分列を取り、その部分列からさらに k=2 について収束部分列を取り……と続けて対角線を取ると、rj↑1 で、すべての k について Λrj(gk) が収束するものが得られます。任意の g∈C(T) と ε>0 に対し、∥g−gk∥∞<ε となる k を取れば ∣Λrj(g)−Λrl(g)∣≤2u(0)ε+∣Λrj(gk)−Λrl(gk)∣ なので、Λrj(g) もコーシー列で収束します。極限を Λ(g) とすると、Λ は正の線形汎関数で Λ(1)=u(0) です。Riesz–Markov–Kakutani の表現定理(定理 4.1[Radon 測度と Riesz–Markov–角谷の表現定理]。T はコンパクトなので C(T)=Cc(T))により、T 上の正の有限ボレル測度 μ で Λ(g)=∫gdμ、μ(T)=Λ(1)=u(0)=Ref(0) となるものが存在します。
(3) 極限移行。 z∈D を固定します。θ↦K(z,θ) は周期的な連続関数(実部と虚部に分けて Λrj を適用できる)なので、∫K(z,θ)dμrj→∫K(z,θ)dμ です。(1) で r=rj→1 とすれば、左辺は f(rjz)→f(z) で主張を得ます。
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例 6.4(Herglotz の表現の例)
f(z)=1−z1+z は Ref>0 で f(0)=1 です。K(z,0)=1−z1+z ですから、μ=δ0(θ=0 に質量 1)が表現を与えます。一方、f≡1 は μ=2πdθ(∫K(z,θ)2πdθ=1)に対応します。ほかに f(z)=1+z のような場合は Ref≥0 ですから表現でき、μ=(1+cosθ)2πdθ です(実際 K(z,θ)=1+2∑n≥1zne−inθ を (1+cosθ)2πdθ で積分すると、n=0 の項が 1、n=1 の項が 2z⋅21=z、n≥2 の項が 0 で、和は 1+z になります)。
実軸(円周でもよい)の一部の上で実数値をとる関数は、その部分を横切って対称に延長されます。まず、対称な領域上の関数が「軸の外で正則 + 軸上で連続」なら全体で正則、という補題を示します。
鏡像原理の設定。実軸の区間 I の上側 Ω⁺ で与えられた関数を、下側へ鏡映して延長し、I で貼り合わせる。
この補題の証明では、実軸にまたがる三角形を、軸より上と下の三角形に切り分けます。軸の上下では正則なので積分が 0 になり、軸の近くではわずかに持ち上げた三角形で近似して、連続性で極限を取ります。
補題 7.1(軸上で連続なら正則)✓
Ω を開集合とし、F:Ω→C を連続で、Ω∖R 上で正則とする。このとき F は Ω 上で正則である。
証明(補題 7.1)
モレラの定理(定理 3.6[正則関数の強力な性質])を使うので、閉三角形 Δ⊂Ω で ∮∂ΔFdz=0 を示します。
Δ∩R=∅ なら、Δ は H+ か H− に入るので、グルサの定理(定理 4.5[コーシーの積分定理と積分公式])から 0 です。
Δ が閉上半平面に入っている(実軸と接してもよい)場合:Δ はコンパクトで Ω は開なので、小さい t>0 について Δ+it⊂Ω∩H+ です。グルサの定理から ∮∂(Δ+it)Fdz=0 で、F は Δ の近傍のコンパクト集合上で一様連続なので、t→0 で ∮∂(Δ+it)F→∮∂ΔF です。閉下半平面の場合も同様です。
Δ が両側にまたがるとき:実軸で切って、上側と下側の部分をそれぞれ三角形に分割します(それぞれ高々 3 個以下の三角形)。分割で現れる内部の辺は、隣接する 2 つの三角形の境界として逆向きに 2 度現れて打ち消し合うので、∮∂ΔF は小三角形の境界積分の和です。各小三角形は閉半平面に入るので 0 です。
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定理 7.2(Schwarz の鏡像原理(実軸))✓
Ω⊂C を、z∈Ω⇒zˉ∈Ω をみたす開集合とし、Ω+=Ω∩H+、I=Ω∩R とする。f:Ω+∪I→C が連続で、Ω+ 上で正則、I 上で実数値であるとする。このとき
F(z)={f(z)f(zˉ)(z∈Ω+∪I)(z∈Ω∩H−)は Ω 上で正則である。
証明(定理 7.2)
I 上では f(zˉ)=f(z)=f(z) (実数値)なので、2 つの定義は I 上で矛盾しません。F は Ω+∪I 上、また Ω∩H− 上で連続です。zn→x∈I に対して zn∈Ω+ なら F(zn)=f(zn)→f(x)、zn∈H− なら F(zn)=f(zˉn)→f(x)=f(x) なので、F は Ω 上連続です。
Ω∩H− 上の正則性:z と z+h が H− にあるとき
hF(z+h)−F(z)=(hˉf(zˉ+hˉ)−f(zˉ))h→0f′(zˉ)です。よって F は Ω∖R 上正則で、補題 7.1 より Ω 上正則です。
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例 7.3(境界での一意性)
f を H+ 上で正則、H+ 上で連続とし、区間 [0,1] 上で f=0 とします。このとき f≡0 です。実際 Ω=D(21,21) は実軸に関して対称で、f は Ω+∪I 上連続、I=(0,1) 上で実数値 0 です。定理 7.2 の延長 F は Ω 上正則で、I 上で F=0 です。I は集積点をもつので一致の定理から F≡0(Ω 上)です。よって f=0 が開集合 Ω+ 上で成り立ち、H+ は領域ですから、再び一致の定理で H+ 全体で f≡0 です。
調和関数の鏡像原理は、正則関数版と少し形が違います。実軸上で値が 0 になる場合に、奇関数として延長します。
証明の方針は、半円板の上でまず Dirichlet 問題の解 v を作り、一意性から v が奇関数になること(実軸上で 0)を確かめ、最大値原理で v が元の u と一致することを示す、というものです。
定理 7.4(調和関数の鏡像原理)✓
Ω,Ω+,I を 定理 7.2 と同じとする。u:Ω+∪I→R が連続で、Ω+ 上調和、I 上で u=0 とする。このとき
u~(z)={u(z)−u(zˉ)(z∈Ω+∪I)(z∈Ω∩H−)は Ω 上調和である。
証明(定理 7.4)
Ω∩H− 上では −u(zˉ) は調和です(座標 y↦−y でラプラシアンは不変)。u~ は連続です。x0∈I を取り、D(x0,ρ)⊂Ω とします。u~ の円周 ∂D(x0,ρ) への制限を境界値とする 定理 4.4 の解 v∈C(D(x0,ρ)) を取ります。w(z)=−v(zˉ) もまた、境界値 −u~(ζˉ)=u~(ζ) をもつ解なので、一意性(系 3.5)から w=v、つまり v は奇関数で、特に実軸上で v=0 です。
半円板 D+=D(x0,ρ)∩H+ で u−v を考えます。D+ 上連続で、D+ 内で調和です。円弧の部分では v=u~=u なので u−v=0、直径の部分では u=0、v=0 なので u−v=0 です。最大値原理(定理 3.4)により u=v が D+ 上で成り立ちます。D− 上でも u~(z)=−u(zˉ)=−v(zˉ)=v(z) で、直径上は両方 0 です。よって D(x0,ρ) 上で u~=v は調和です。x0∈I は任意なので、u~ は Ω 上調和です。
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演習 8.1易
φ(θ)=cos2θ の円板上の調和拡張 u を求め、u(21,0) の値を求めよ。
解答
cos2θ=21+21cos2θ です。1 の調和拡張は 1、cos2θ の調和拡張は Rez2=r2cos2ψ ですから、定理 4.4 の一意性より u(reiψ)=21+21r2cos2ψ です。u(21,0)=21+21⋅41=85 です。
演習 8.2標準
u を D 上の正の調和関数で u(0)=1 とする。u(21) のとりうる値の範囲について、31≤u(21)≤3 を示し、両端が実現されることを確かめよ。
解答
定理 5.3 で R=1、r=21 とすると 1+1/21−1/2=31、1−1/21+1/2=3 です。実現:u(z)=Re1−z1+z は u(0)=1 で u(21)=1/23/2=3、u(z)=Re1+z1−z は u(0)=1 で u(21)=3/21/2=31 です(例 5.6 の z↦−z にあたります)。
演習 8.3標準
f を H+ 上で正則、H+ 上で連続で、R 上で実数値とする。f が H+ 上で有界ならば、f は定数であることを示せ。
解答
鏡像原理(定理 7.2、Ω=C)により、f は整関数 F に延長されます。∣F∣=∣f(zˉ)∣ ですから、F は H− でも有界で、したがって C 全体で有界です。リウヴィルの定理(定理 4.2[正則関数の強力な性質])から F は定数、f も定数です。
演習 8.4標準
f を D 上の正則関数で Ref>0、f(0)=1 とする。f(z)=1+∑n≥1cnzn とおくと ∣cn∣≤2 であることを示し、f(z)=1−z1+z のとき等号が成り立つことを確かめよ。
解答
命題 6.1 で Rec0=1 ですから ∣cn∣≤2 です。1−z1+z=1+2∑n≥1zn なので cn=2 で等号が成り立ちます。
- L. V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1979 — 第 4 章 §6(調和関数、Poisson の公式、Harnack の不等式、鏡像原理)。
- W. Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1987 — 第 11 章(調和関数)と第 7 章(Riesz の表現定理)。
- E. M. Stein and R. Shakarchi, Complex Analysis, Princeton University Press, 2003 — 第 2 章 §5(円板の Dirichlet 問題)、第 5 章 §5(鏡像原理)。
- S. Axler, P. Bourdon and W. Ramey, Harmonic Function Theory, 2nd ed., Springer, 2001 — 第 1 章・第 2 章・第 3 章(Poisson 積分、Harnack の定理)。
- 杉浦光夫『解析入門 II』東京大学出版会、1985 — 調和関数の章。