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Jensen の公式と劣調和関数:log|f| の円周平均から零点を数える

対象読者: 本テーマの調和関数と Poisson 積分の章および正則関数の性質の章を学び、ルベーグ積分の基本(収束定理)を知っている学部上級生〜修士課程の人。劣調和関数は初めてで構いません。

前提となる記事:調和関数と Poisson 積分:円板の Dirichlet 問題から Harnack・Herglotz・鏡像原理へ、正則関数の強力な性質:無限回微分可能性から一致の定理まで、ルベーグ積分の定義と収束定理:値域を分割して極限と積分を交換する

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多項式なら、根の個数は次数で分かります。では、もっと複雑な関数が、ある円の中に零点をいくつ持つかは、どうやって知ればよいのでしょうか。この記事の答えは、円周上での関数の大きさを(対数をとって)平均すると、円の中の零点の個数と位置が見えてくる、というものです。読み終えると、円周上の値だけから零点の個数を見積もれるようになり、多項式の根の大きさも積分で捉えられるようになります。

  • 劣調和関数とは、上半連続(ジャンプする点では高い側の値をとる、という連続性の弱い形)で、各点での値が小さな円周上の平均以下になる関数です。C2C^2 級なら Δu≥0\Delta u\ge0 と同値で、調和関数の「不等式版」にあたります。
  • 劣調和関数に対しても最大値原理が成り立ちます。そこから、円周平均が半径について単調増加であること、また「調和関数との比較」で劣調和性を言い換えられることが出ます。
  • 正則関数 ff に対して log⁡∣f∣\log|f| は(−∞-\infty の値を許せば)劣調和です。零点のないところでは調和で、零点では −∞-\infty だからです。
  • Jensen の公式:f(0)≠0f(0)\ne0 で零点が aka_k なら、半径 RR の円周上で 12π∫02πlog⁡∣f(Reiθ)∣ dθ=log⁡∣f(0)∣+∑klog⁡R∣ak∣\dfrac{1}{2\pi}\displaystyle\int_0^{2\pi}\log|f(Re^{i\theta})|\,d\theta=\log|f(0)|+\sum_k\log\dfrac{R}{|a_k|}。劣平均値不等式の「不足分」が、零点の位置だけで厳密に書けます。
  • 応用として、零点の個数の評価、有界正則関数の零点の Blaschke 条件(零点の位置が満たすべき和の制限)、Hadamard の三円定理、多項式の円周上の対数平均(Mahler 測度)log⁡∣an∣+∑log⁡max⁡(1,∣zk∣)\log|a_n|+\sum\log\max(1,|z_k|) を導きます。最後に有理型関数(極をもってよい関数)へ広げ、近接関数 m(r,a)m(r,a)(円周上で値 aa にどれだけ近いか)と個数関数 N(r,a)N(r,a)(値 aa をとる点の数)の和が aa によらない(Nevanlinna の第一主要定理)ことを示します。

1. 動機:正則関数の「大きさ」から零点の個数を読む

Section titled “1. 動機:正則関数の「大きさ」から零点の個数を読む”

正則関数は、円周上の値で内部の値が決まります(コーシーの積分公式)。その値の「大きさ」から、内部の零点の個数が分かるでしょうか。偏角の原理は零点を数える公式ですが、arg⁡f\arg f の変化量を追う必要があり、∣f∣|f| の大きさだけを知っているときには使いにくい道具です。

∣f∣|f| だけで零点を評価できると、次のような場面で便利です。整関数の増大度(∣f(z)∣≤e∣z∣ρ|f(z)|\le e^{|z|^\rho} のような評価)から零点の個数の上限を出す。単位円板上の有界正則関数の零点の分布を制限する。多項式の根の大きさを、係数だけで書ける積分で捉える。

鍵は log⁡∣f∣\log|f| です。零点のない領域では log⁡∣f∣=Re⁡log⁡f\log|f|=\operatorname{Re}\log f が調和関数になり、平均値の性質が使えます。零点では −∞-\infty に落ちるので、平均値の等式は不等式に弱まります。この「調和関数を不等式に弱めたクラス」が劣調和関数で、不等式の不足分を零点が数えるのが Jensen の公式です。

スペクトル理論や数理物理でも、同じ道具が独立に作られています。ほぼ周期的作用素の Lyapunov 指数の下からの評価では、位相を複素化して log⁡∣f∣\log|f| の円周平均を中心の値と比べます。また、静電ポテンシャルの比較では、連続な劣調和関数の最大値原理が使われます。この記事で一度、一般の形で証明しておきます。

事実出典
調和関数は C∞C^\infty で、円周上の平均値の等式をもつ系 3.3[調和関数と Poisson 積分]
正則関数の実部は調和系 5.7[正則関数とコーシー・リーマンの関係式]
円板の Poisson 積分公式と Dirichlet 問題の解定理 4.3[調和関数と Poisson 積分]、定理 4.4[調和関数と Poisson 積分]
円板上の零点を持たない正則関数は対数を持つ定義 5.2[等角写像とリーマン写像定理] の同値条件
零点の位数、孤立性、一致の定理、テイラー展開定義 7.1[正則関数の強力な性質]、定理 7.3[正則関数の強力な性質]、定理 5.2[正則関数の強力な性質]
単調収束定理、優収束定理定理 5.2[ルベーグ積分の定義と収束定理]、定理 7.3[ルベーグ積分の定義と収束定理]
グリーンの定理定理 6.1[ベクトル解析と積分定理]

記号。D(a,r)D(a,r) は開円板、D‾(a,r)\overline{D}(a,r) は閉円板です。実数値関数 uu の円周平均を

Mu(a,r)=12π∫02πu(a+reiθ) dθ\mathcal{M}_u(a,r)=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}u(a+re^{i\theta})\,d\theta

と書きます。log⁡0=−∞\log 0=-\infty とし、−∞-\infty を値にとる関数を扱います。上に有界な関数の積分は [−∞,∞)[-\infty,\infty) に値をとるものとして意味をもち、和・正の定数倍・不等式の積分は通常どおり成り立ちます(単調収束定理を sup⁡u−u≥0\sup u-u\ge0 に使う)。

次の定義には 2 つの条件があります。上半連続は、値が急に上へ跳ぶことを許さない条件です。たとえば x≥0x\ge0 で 11、x<0x<0 で 00 とする関数は、ジャンプの点で高い側の値 11 をとっているので上半連続で、x>0x>0 で 11、x≤0x\le0 で 00 とする関数は上半連続ではありません。劣平均値性は、各点の値が、そのまわりの小さな円周上の平均値以下である、という条件です。調和関数なら等号になる部分が、不等号に弱まっています。

定義 3.1(劣調和関数)↗

Ω⊂C\Omega\subset\mathbb{C} を開集合とする。関数 u:Ω→[−∞,∞)u:\Omega\to[-\infty,\infty) が劣調和であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。

  1. (上半連続)すべての実数 tt について {z∈Ω:u(z)<t}\{z\in\Omega:u(z)<t\} が開集合である。
  2. (劣平均値性)各 a∈Ωa\in\Omega に対して ra>0r_a>0 が存在し、0<r<ra0<r<r_a なら D‾(a,r)⊂Ω\overline{D}(a,r)\subset\Omega かつ
u(a)≤Mu(a,r)u(a)\le\mathcal{M}_u(a,r)

が成り立つ。

上半連続な関数は、コンパクト集合の上で上に有界で、最大値を達成します。そのため、円周上の積分は [−∞,∞)[-\infty,\infty) に値をもって確定します。連続な関数は上半連続で、−∞-\infty を許した連続関数(log⁡∣f∣\log|f| など)も上半連続です。調和関数は、平均値の等式から劣調和です。

補題 3.2(劣調和関数の演算)✓

u,vu,v を Ω\Omega 上の劣調和関数とする。

  1. u+vu+v、cucu(c>0c>0)、max⁡{u,v}\max\{u,v\} は劣調和である。
  2. hh を Ω\Omega 上の調和関数とすると、u+hu+h は劣調和である。
証明(補題 3.2)

上半連続性:{u+v<t}=⋃s∈Q{u<s}∩{v<t−s}\{u+v<t\}=\bigcup_{s\in\mathbb{Q}}\{u<s\}\cap\{v<t-s\} は開集合の和です。max⁡{u,v}\max\{u,v\} は {max⁡<t}={u<t}∩{v<t}\{\max<t\}=\{u<t\}\cap\{v<t\} から従い、cucu は明らかです。hh は連続なので u+hu+h も上半連続です。

劣平均値性:a∈Ωa\in\Omega に対し r<min⁡{ra(u),ra(v)}r<\min\{r_a(u),r_a(v)\} とします。u(a)+v(a)≤Mu(a,r)+Mv(a,r)=Mu+v(a,r)u(a)+v(a)\le\mathcal{M}_u(a,r)+\mathcal{M}_v(a,r)=\mathcal{M}_{u+v}(a,r) です。max⁡{u,v}(a)\max\{u,v\}(a) は u(a)u(a) か v(a)v(a) に等しく、たとえば u(a)u(a) なら u(a)≤Mu(a,r)≤Mmax⁡{u,v}(a,r)u(a)\le\mathcal{M}_u(a,r)\le\mathcal{M}_{\max\{u,v\}}(a,r) です。hh については h(a)=Mh(a,r)h(a)=\mathcal{M}_h(a,r)(系 3.3[調和関数と Poisson 積分])なので、和の場合に帰着します。

C2C^2 級の関数に対しては、劣調和性は微分の条件で言い換えられます。

定理 3.3(C2C^2 級劣調和関数の特徴付け)✓

uu を開集合 Ω\Omega 上の実数値 C2C^2 級関数とする。uu が劣調和であることと、Ω\Omega 上で Δu=uxx+uyy≥0\Delta u=u_{xx}+u_{yy}\ge0 であることは同値である。さらに Δu≥0\Delta u\ge0 なら、D‾(a,R)⊂Ω\overline{D}(a,R)\subset\Omega をみたす任意の a,Ra,R について u(a)≤Mu(a,R)u(a)\le\mathcal{M}_u(a,R) である。

証明(定理 3.3)

D‾(a,R)⊂Ω\overline{D}(a,R)\subset\Omega とし、m(r)=Mu(a,r)m(r)=\mathcal{M}_u(a,r)(0≤r≤R0\le r\le R、m(0)=u(a)m(0)=u(a))とおきます。u∈C1u\in C^1 なので積分記号下で微分でき、

m′(r)=12π∫02π(uxcos⁡θ+uysin⁡θ)(a+reiθ) dθ.m'(r)=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\bigl(u_x\cos\theta+u_y\sin\theta\bigr)(a+re^{i\theta})\,d\theta .

円周 γ(θ)=a+reiθ\gamma(\theta)=a+re^{i\theta} では dx=−rsin⁡θ dθdx=-r\sin\theta\,d\theta、dy=rcos⁡θ dθdy=r\cos\theta\,d\theta なので、−uy dx+ux dy=r(uxcos⁡θ+uysin⁡θ) dθ-u_y\,dx+u_x\,dy=r(u_x\cos\theta+u_y\sin\theta)\,d\theta です。グリーンの定理(定理 6.1[ベクトル解析と積分定理]、P=−uyP=-u_y、Q=uxQ=u_x)から

m′(r)=12πr∮∂D(a,r)(−uy dx+ux dy)=12πr∬D(a,r)Δu dx dy(0<r≤R)m'(r)=\frac{1}{2\pi r}\oint_{\partial D(a,r)}(-u_y\,dx+u_x\,dy)=\frac{1}{2\pi r}\iint_{D(a,r)}\Delta u\,dx\,dy\qquad(0<r\le R)

です。mm は [0,R][0,R] で連続、(0,R](0,R] で C1C^1 なので m(r)−u(a)=∫0rm′(s) dsm(r)-u(a)=\int_0^rm'(s)\,ds です。

Δu≥0\Delta u\ge0 なら m′≥0m'\ge0 で、m(r)≥u(a)m(r)\ge u(a) が r≤Rr\le R で成り立ちます。これは後半の主張で、特に劣調和性を与えます。逆に、ある点 bb で Δu(b)<0\Delta u(b)<0 とすると、連続性から D(b,ρ)D(b,\rho) 上で Δu<0\Delta u<0 となる ρ>0\rho>0 があります。0<s<ρ0<s<\rho で m′(s)<0m'(s)<0 なので、0<r<ρ0<r<\rho で Mu(b,r)<u(b)\mathcal{M}_u(b,r)<u(b) です。これは bb での劣平均値性に反します。

例 3.4(劣調和関数の例)

  • ∣z∣2|z|^2 は Δ∣z∣2=4>0\Delta|z|^2=4>0 で劣調和です。exe^{x} も Δex=ex>0\Delta e^x=e^x>0 で劣調和です。
  • 調和関数 Re⁡z\operatorname{Re}z と定数 00 に 補題 3.2 を使えば、max⁡{Re⁡z,0}\max\{\operatorname{Re}z,0\} は劣調和です。これは C2C^2 級ではなく、定理 3.3 の対象外ですが、劣調和性は定義から確かめられます。
  • −∣z∣2-|z|^2 は Δ<0\Delta<0 なので劣調和でありません。一般に、劣調和関数に −1-1 を掛けると優調和関数になり、調和関数だけが両方を満たします。

調和関数の最大値原理(定理 3.4[調和関数と Poisson 積分])は、平均値の等式だけを使って証明されました。不等式でも同じ議論が通ります。

定理 4.1(劣調和関数の最大値原理)✓

  1. Ω\Omega を領域、uu を Ω\Omega 上の劣調和関数とする。uu が Ω\Omega の点で Ω\Omega 全体での最大値 MM をとるならば、u≡Mu\equiv M である。
  2. Ω\Omega を有界な開集合とし、u:Ω‾→[−∞,∞)u:\overline{\Omega}\to[-\infty,\infty) が上半連続で、Ω\Omega 上で劣調和とする。このとき Ω\Omega 上で u≤max⁡∂Ωuu\le\max_{\partial\Omega}u である。
証明(定理 4.1)

1. M=−∞M=-\infty なら u≡−∞u\equiv-\infty で主張は明らかです。MM が実数のとき、A={u<M}A=\{u<M\} は上半連続性から開集合で、その補集合 {u=M}\{u=M\} は空でありません。a∈{u=M}a\in\{u=M\} と 0<r<ra0<r<r_a を取ると、M=u(a)≤Mu(a,r)≤MM=u(a)\le\mathcal{M}_u(a,r)\le M なので MM−u(a,r)=0\mathcal{M}_{M-u}(a,r)=0 です。M−u≥0M-u\ge0 ですから、円周上でほとんど至るところ u=Mu=M です。これが 0<r<ra0<r<r_a のすべてで成り立つので、極座標で積分すると A∩D(a,ra)A\cap D(a,r_a) のルベーグ測度は 00 です。この集合は開集合なので空で、D(a,ra)⊂{u=M}D(a,r_a)\subset\{u=M\} です。よって {u=M}\{u=M\} は開かつ閉(上半連続性から閉)で、Ω\Omega が連結なので {u=M}=Ω\{u=M\}=\Omega です。

2. Ω‾\overline{\Omega} はコンパクトで uu は上半連続なので、最大値 M=max⁡Ω‾uM=\max_{\overline\Omega}u を達成する点 pp があります。p∈∂Ωp\in\partial\Omega なら終わりです。p∈Ωp\in\Omega とし、pp を含む Ω\Omega の連結成分を GG とします。1 から u≡Mu\equiv M が GG 上で成り立ちます。GG は有界な空でない開集合なので境界点 q∈∂Gq\in\partial G をもち、q∈∂Ωq\in\partial\Omega です(Ω\Omega の連結成分は開集合なので、GG の境界点は Ω\Omega に属さない)。上半連続性から u(q)≥lim sup⁡z→q,z∈Gu(z)=Mu(q)\ge\limsup_{z\to q,z\in G}u(z)=M で、u(q)=Mu(q)=M です。したがって max⁡∂Ωu=M\max_{\partial\Omega}u=M です。

2 の形は、正則関数の最大値原理(定理 3.1[最大値原理の一般化と正則関数族])を一般化したものです。∣f∣|f| や log⁡∣f∣\log|f| に適用できます。

5. 同値な特徴付けと円周平均の単調性

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定義の劣平均値性は「小さな円周」でしか要求していません。大きな円周でも成り立つことを示すために、上半連続関数を連続関数で上から近似します。連続関数にしておけば、円周上の値を境界値とする Dirichlet 問題の解(調和関数)を作って比べられるので、次の補題はその準備です。構成では、各点 yy から「−n d(x,y)-n\,d(x,y) で下がっていく山」を立て、その上側の包みを取っています。

補題 5.1(上半連続関数の連続関数による近似)✓

KK を円周(コンパクト距離空間)、u:K→[−∞,∞)u:K\to[-\infty,\infty) を上半連続とする。このとき、KK 上の実数値連続関数の列 φ1≥φ2≥⋯≥u\varphi_1\ge\varphi_2\ge\cdots\ge u で、各点で φn↓u\varphi_n\downarrow u となるものが存在する。

証明(補題 5.1)

S=sup⁡Ku<∞S=\sup_Ku<\infty とおきます(上半連続性とコンパクト性)。S=−∞S=-\infty なら φn≡−n\varphi_n\equiv-n とします。SS が実数のとき、

φn(x)=sup⁡y∈K[max⁡{u(y),−n}−n d(x,y)]\varphi_n(x)=\sup_{y\in K}\bigl[\max\{u(y),-n\}-n\,d(x,y)\bigr]

とおきます。各項は −n−n diamK-n-n\,\mathrm{diam}K 以上 max⁡{S,0}\max\{S,0\} 以下なので、φn\varphi_n は実数値です。各 yy について x↦max⁡{u(y),−n}−n d(x,y)x\mapsto\max\{u(y),-n\}-n\,d(x,y) は nn-リプシッツなので、その上限 φn\varphi_n も nn-リプシッツで連続です。y=xy=x を取れば φn(x)≥max⁡{u(x),−n}≥u(x)\varphi_n(x)\ge\max\{u(x),-n\}\ge u(x)、また項は nn について単調減少なので φn\varphi_n も単調減少です。

収束:x∈Kx\in K と実数 t>u(x)t>u(x) を取ります。上半連続性から、d(x,y)<δd(x,y)<\delta なら u(y)<tu(y)<t となる δ>0\delta>0 があります。n≥−tn\ge-t なら d(x,y)<δd(x,y)<\delta の項は max⁡{u(y),−n}≤t\max\{u(y),-n\}\le t 以下です。d(x,y)≥δd(x,y)\ge\delta の項は max⁡{S,0}−nδ\max\{S,0\}-n\delta 以下で、nn が大きければ tt 以下です。ゆえに十分大きい nn で φn(x)≤t\varphi_n(x)\le t です。tt は任意なので φn(x)→u(x)\varphi_n(x)\to u(x) です。

定理 5.2(劣調和性の同値な特徴付け)✓

Ω\Omega を開集合、u:Ω→[−∞,∞)u:\Omega\to[-\infty,\infty) を上半連続とする。次の 3 条件は同値である。

  • (a) uu は劣調和である(定義 3.1)。
  • (b) D‾(a,r)⊂Ω\overline{D}(a,r)\subset\Omega をみたすすべての a,ra,r について u(a)≤Mu(a,r)u(a)\le\mathcal{M}_u(a,r)。
  • (c) D‾=D‾(a,r)⊂Ω\overline{D}=\overline{D}(a,r)\subset\Omega とし、hh が D‾\overline{D} 上連続で D(a,r)D(a,r) 上調和、かつ ∂D\partial D 上で u≤hu\le h ならば、D(a,r)D(a,r) 上でも u≤hu\le h。
証明(定理 5.2)

(a)⇒(c):w=u−hw=u-h は D‾\overline{D} 上で上半連続で、開円板 D=D(a,r)D=D(a,r) 上で劣調和です(補題 3.2 の 2、−h-h は調和)。∂D\partial D 上では w≤0w\le0 なので、定理 4.1 の 2 から DD 上で w≤0w\le0 です。

(c)⇒(b):D‾(a,r)⊂Ω\overline{D}(a,r)\subset\Omega とします。補題 5.1 で円周 {∣z−a∣=r}\{|z-a|=r\} 上の連続関数 φn↓u\varphi_n\downarrow u を取ります。θ↦φn(a+reiθ)\theta\mapsto\varphi_n(a+re^{i\theta}) の Dirichlet 問題の解(定理 4.4[調和関数と Poisson 積分]を D(a,r)D(a,r) に移したもの)を hnh_n とします。hnh_n は D‾(a,r)\overline{D}(a,r) 上連続、内部で調和、境界上で φn≥u\varphi_n\ge u です。(c) から u(a)≤hn(a)u(a)\le h_n(a) で、Poisson 核は P0≡1P_0\equiv1 なので hn(a)=Mφn(a,r)h_n(a)=\mathcal{M}_{\varphi_n}(a,r) です。φ1−φn≥0\varphi_1-\varphi_n\ge0 は単調増加で φ1−u\varphi_1-u に収束するので、単調収束定理(定理 5.2[ルベーグ積分の定義と収束定理])から Mφn(a,r)→Mu(a,r)\mathcal{M}_{\varphi_n}(a,r)\to\mathcal{M}_u(a,r)(−∞-\infty になり得る)です。よって u(a)≤Mu(a,r)u(a)\le\mathcal{M}_u(a,r) です。

(b)⇒(a):定義の特別な場合です。

系 5.3(円周平均の単調性)✓

uu を Ω\Omega 上の劣調和関数、D‾(a,R)⊂Ω\overline{D}(a,R)\subset\Omega とする。このとき r↦Mu(a,r)r\mapsto\mathcal{M}_u(a,r) は (0,R](0,R] 上で単調非減少であり、u(a)≤Mu(a,r)u(a)\le\mathcal{M}_u(a,r) である。

証明(系 5.3)

u(a)≤Mu(a,r)u(a)\le\mathcal{M}_u(a,r) は 定理 5.2 の (b) です。0<r<s≤R0<r<s\le R とし、定理 5.2 の証明と同じ φn\varphi_n、hnh_n を円周 ∣z−a∣=s|z-a|=s について取ります。(c) から D(a,s)D(a,s) 上で u≤hnu\le h_n なので、半径 rr の円周で平均すれば

Mu(a,r)≤Mhn(a,r)=hn(a)=Mφn(a,s)\mathcal{M}_u(a,r)\le\mathcal{M}_{h_n}(a,r)=h_n(a)=\mathcal{M}_{\varphi_n}(a,s)

です(途中は hnh_n の平均値の等式)。n→∞n\to\infty で右辺は Mu(a,s)\mathcal{M}_u(a,s) に収束します。

6. log⁡∣f∣\log|f| の劣調和性

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劣調和関数の主な供給源は、正則関数の対数 log⁡∣f∣\log|f| です。まず、零点がない場所で log⁡∣f∣\log|f| が調和であることを確かめます。

補題 6.1(零点のない正則関数の log⁡∣g∣\log|g|)✓

gg を開円板 DD 上の正則関数で、DD 上に零点をもたないものとする。このとき log⁡∣g∣\log|g| は DD 上で調和である。

証明(補題 6.1)

g′/gg'/g は DD 上で正則です。円板は単連結なので原始関数 LL をもちます(定義 5.2[等角写像とリーマン写像定理])。(ge−L)′=(g′−gL′)e−L=0(ge^{-L})'=(g'-gL')e^{-L}=0 で、DD は連結なので ge−Lge^{-L} は零でない定数 eκe^{\kappa} に等しく、g=eL+κg=e^{L+\kappa} です。ゆえに log⁡∣g∣=Re⁡(L+κ)\log|g|=\operatorname{Re}(L+\kappa) で、正則関数の実部ですから調和です(系 5.7[正則関数とコーシー・リーマンの関係式])。

定理 6.2(log⁡∣f∣\log|f| の劣調和性)✓

ff を開集合 Ω\Omega 上の正則関数とする。log⁡∣f∣:Ω→[−∞,∞)\log|f|:\Omega\to[-\infty,\infty)(log⁡0=−∞\log0=-\infty)は Ω\Omega 上で劣調和である。

証明(定理 6.2)

∣f∣|f| は連続で、log⁡:[0,∞)→[−∞,∞)\log:[0,\infty)\to[-\infty,\infty) も連続なので、log⁡∣f∣\log|f| は上半連続です。a∈Ωa\in\Omega とします。f(a)=0f(a)=0 なら log⁡∣f(a)∣=−∞\log|f(a)|=-\infty で、劣平均値不等式は自明です。f(a)≠0f(a)\ne0 なら、連続性から aa の近傍の円板 D(a,ρ)D(a,\rho) 上で f≠0f\ne0 です。補題 6.1 から log⁡∣f∣\log|f| はそこで調和で、平均値の等式(系 3.3[調和関数と Poisson 積分])から 0<r<ρ0<r<\rho で log⁡∣f(a)∣=Mlog⁡∣f∣(a,r)\log|f(a)|=\mathcal{M}_{\log|f|}(a,r) です。

したがって 定理 5.2 と 系 5.3 が log⁡∣f∣\log|f| に使えます。とくに、D‾(a,R)⊂Ω\overline{D}(a,R)\subset\Omega なら

log⁡∣f(a)∣≤12π∫02πlog⁡∣f(a+Reiθ)∣ dθ,\log|f(a)|\le\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\log|f(a+Re^{i\theta})|\,d\theta,

円周平均は RR について単調増加です。残る問いは、この不等式の不足分が何で決まるかです。答えが Jensen の公式です。

最初に、一次式の対数の円周平均を計算します。これが Jensen の公式のすべての部品になります。零点が円の内側か外側にあるときは、調和関数の平均値の等式だけで済みます。零点が円周上にあるときだけ、積分と極限の入れ替えが必要になり、証明の後半で優収束定理を使います。

補題 7.1(一次式の対数の円周平均)✓

a∈Ca\in\mathbb{C}、R>0R>0 に対して

12π∫02πlog⁡∣Reiθ−a∣ dθ=log⁡max⁡{R,∣a∣}\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\log\bigl|Re^{i\theta}-a\bigr|\,d\theta=\log\max\{R,|a|\}

である。(積分は ∣a∣=R|a|=R のとき θ\theta の 1 点で −∞-\infty をとるが、可積分である。)

証明(補題 7.1)

∣a∣>R|a|>R のとき。 z↦log⁡∣z−a∣z\mapsto\log|z-a| は D(0,∣a∣)D(0,|a|) 上で調和(補題 6.1)で、D‾(0,R)⊂D(0,∣a∣)\overline{D}(0,R)\subset D(0,|a|) なので、平均値の等式から平均は中心での値 log⁡∣0−a∣=log⁡∣a∣\log|0-a|=\log|a| です。

∣a∣<R|a|<R のとき。 a=0a=0 なら平均は log⁡R\log R で自明です。a≠0a\ne0 のとき、∣Reiθ−a∣=R ∣1−(a/R)e−iθ∣|Re^{i\theta}-a|=R\,|1-(a/R)e^{-i\theta}| です。ζ↦log⁡∣1−ζ∣\zeta\mapsto\log|1-\zeta| は D(0,1)D(0,1) で調和(1−ζ1-\zeta が零点をもたない)で、s=∣a∣/R<1s=|a|/R<1 です。(a/R)e−iθ(a/R)e^{-i\theta} は θ\theta が一周する間に円周 ∣ζ∣=s|\zeta|=s を一周するので、log⁡∣1−ζ∣\log|1-\zeta| のその円周上の平均は中心の値 00 です。ゆえに平均は log⁡R\log R です。

∣a∣=R|a|=R のとき。 a=Reiαa=Re^{i\alpha} とすると ∣Reiθ−a∣=R ∣ei(θ−α)−1∣|Re^{i\theta}-a|=R\,|e^{i(\theta-\alpha)}-1| で、周期関数の平均は平行移動で変わらないので、J=12π∫−ππlog⁡∣eiθ−1∣ dθJ=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\log|e^{i\theta}-1|\,d\theta を求めればよいです(平均 =log⁡R+J=\log R+J)。ρ∈[12,1)\rho\in[\tfrac12,1) について、直前の場合(R=1R=1、a=ρa=\rho)から 12π∫−ππlog⁡∣eiθ−ρ∣ dθ=0\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\log|e^{i\theta}-\rho|\,d\theta=0 です。優関数を作ります。∣eiθ−ρ∣2=(1−ρ)2+2ρ(1−cos⁡θ)≥1−cos⁡θ=2sin⁡2(θ/2)|e^{i\theta}-\rho|^2=(1-\rho)^2+2\rho(1-\cos\theta)\ge1-\cos\theta=2\sin^2(\theta/2) で、∣θ∣≤π|\theta|\le\pi では ∣sin⁡(θ/2)∣≥∣θ∣/π|\sin(\theta/2)|\ge|\theta|/\pi ですから ∣eiθ−ρ∣≥2∣θ∣/π|e^{i\theta}-\rho|\ge\sqrt2|\theta|/\pi です。また ∣eiθ−ρ∣≤2|e^{i\theta}-\rho|\le2 です。したがって

∣log⁡∣eiθ−ρ∣∣≤log⁡2+∣log⁡2∣θ∣π∣\bigl|\log|e^{i\theta}-\rho|\bigr|\le\log2+\Bigl|\log\frac{\sqrt2|\theta|}{\pi}\Bigr|

で、右辺は [−π,π][-\pi,\pi] で可積分です。ρ↑1\rho\uparrow1 で θ≠0\theta\ne0 では log⁡∣eiθ−ρ∣→log⁡∣eiθ−1∣\log|e^{i\theta}-\rho|\to\log|e^{i\theta}-1| なので、優収束定理(定理 7.3[ルベーグ積分の定義と収束定理])から J=0J=0 です。

定理 7.2(Jensen の公式)✓

ff を、閉円板 D‾(0,R)\overline{D}(0,R) を含む円板 D(0,R′)D(0,R')(R′>RR'>R)上の正則関数で、恒等的には 00 でないものとする。ff の原点でのテイラー展開を f(z)=czm+(高次)f(z)=cz^m+(\text{高次})(c≠0c\ne0)とし、D‾(0,R)∖{0}\overline{D}(0,R)\setminus\{0\} にある ff の零点を、位数の分だけ重複させて a1,…,aNa_1,\dots,a_N とする。このとき

12π∫02πlog⁡∣f(Reiθ)∣ dθ=log⁡∣c∣+mlog⁡R+∑k=1Nlog⁡R∣ak∣\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\log\bigl|f(Re^{i\theta})\bigr|\,d\theta=\log|c|+m\log R+\sum_{k=1}^{N}\log\frac{R}{|a_k|}

である。とくに f(0)≠0f(0)\ne0 なら m=0m=0、c=f(0)c=f(0) で、右辺は log⁡∣f(0)∣+∑klog⁡(R/∣ak∣)\log|f(0)|+\sum_k\log(R/|a_k|) である。

証明(定理 7.2)

f≢0f\not\equiv0 なので、定理 7.3[正則関数の強力な性質] により ff の零点は D(0,R′)D(0,R') の中で集積せず、コンパクト集合 D‾(0,(R+R′)/2)\overline{D}(0,(R+R')/2) には有限個しかありません。したがって R<R1<R′R<R_1<R' を、R<∣z∣<R1R<|z|<R_1 に零点がないように取れます。原点の位数 mm の零点と aka_k の位数の分だけ順に因子を割ると、D(0,R1)D(0,R_1) 上の正則関数 gg で

f(z)=zm∏k=1N(z−ak)⋅g(z),g は D(0,R1) で零点をもたないf(z)=z^m\prod_{k=1}^{N}(z-a_k)\cdot g(z),\qquad g\ \text{は}\ D(0,R_1)\ \text{で零点をもたない}

となるものがあります(定義 7.1[正則関数の強力な性質])。z→0z\to0 で f(z)/zm→cf(z)/z^m\to c なので g(0)=c/∏k(−ak)g(0)=c\big/\prod_k(-a_k)、すなわち log⁡∣g(0)∣=log⁡∣c∣−∑klog⁡∣ak∣\log|g(0)|=\log|c|-\sum_k\log|a_k| です。

補題 6.1 から log⁡∣g∣\log|g| は D(0,R1)D(0,R_1) 上で調和で、平均値の等式から Mlog⁡∣g∣(0,R)=log⁡∣g(0)∣\mathcal{M}_{\log|g|}(0,R)=\log|g(0)| です。一方、円周上(零点を除く)で

log⁡∣f(Reiθ)∣=mlog⁡R+∑klog⁡∣Reiθ−ak∣+log⁡∣g(Reiθ)∣\log|f(Re^{i\theta})|=m\log R+\sum_k\log|Re^{i\theta}-a_k|+\log|g(Re^{i\theta})|

です。各項が可積分なので(補題 7.1)、積分して 補題 7.1 を使います。∣ak∣≤R|a_k|\le R なので log⁡max⁡{R,∣ak∣}=log⁡R\log\max\{R,|a_k|\}=\log R で、

Mlog⁡∣f∣(0,R)=mlog⁡R+Nlog⁡R+log⁡∣c∣−∑klog⁡∣ak∣\mathcal{M}_{\log|f|}(0,R)=m\log R+N\log R+\log|c|-\sum_k\log|a_k|

です。これは主張の式です。

Jensen の公式の右辺で、零点 aka_k の寄与 log⁡(R/∣ak∣)\log(R/|a_k|) は ∣ak∣≤R|a_k|\le R なので 00 以上です。これが 系 5.3 の不等式の不足分にあたります。

系 7.3(Jensen の不等式)✓

Jensen の公式の仮定の下で

12π∫02πlog⁡∣f(Reiθ)∣ dθ≥log⁡∣c∣+mlog⁡R.\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\log|f(Re^{i\theta})|\,d\theta\ge\log|c|+m\log R .

とくに f(0)≠0f(0)\ne0 なら log⁡∣f(0)∣\log|f(0)| 以上で、等号は D‾(0,R)\overline{D}(0,R) に零点がない(または零点が円周上だけにある)ときに限る。

証明(系 7.3)

定理 7.2 の右辺の和は非負項の和です。和が 00 になるのは、すべての kk で ∣ak∣=R|a_k|=R のとき、すなわち零点が円周上にしかないときです。

零点の個数を使った形も有用です。n(t)n(t) を、0<∣z∣≤t0<|z|\le t にある ff の零点の数(位数の重複込み)とします。

系 7.4(個数関数を用いた Jensen の公式)✓

定理 7.2 の仮定の下で

12π∫02πlog⁡∣f(Reiθ)∣ dθ=log⁡∣c∣+mlog⁡R+∫0Rn(t)t dt.\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\log|f(Re^{i\theta})|\,d\theta=\log|c|+m\log R+\int_0^R\frac{n(t)}{t}\,dt .
証明(系 7.4)

log⁡(R/∣a∣)=∫∣a∣Rdtt=∫0R1[∣a∣≤t]t dt\log(R/|a|)=\int_{|a|}^{R}\dfrac{dt}{t}=\int_0^R\dfrac{\mathbf{1}[|a|\le t]}{t}\,dt なので、k=1,…,Nk=1,\dots,N について足せば ∑klog⁡(R/∣ak∣)=∫0Rn(t)t dt\sum_k\log(R/|a_k|)=\int_0^R\dfrac{n(t)}{t}\,dt です。

log 0.2log 0.5log 0.8log 1傾き 0傾き 1傾き 2傾き 3I(r) − log|f(0)|log r →
Jensen の公式。円周平均 I(r) から log|f(0)| を引いたものを log r に対して描く。折れ線は凸で、傾きは半径 r の内側にある零点の個数に等しい(零点の絶対値が 0.2、0.5、0.8 の場合)。

注意 7.5

図のとおり、s=log⁡rs=\log r の関数として I(r)=Mlog⁡∣f∣(0,r)I(r)=\mathcal{M}_{\log|f|}(0,r) は、半径 rr が零点の絶対値を越えるたびに傾きが 11 ずつ増える折れ線です。定理 7.2 を各 rr(∣ak∣|a_k| と異なる)に使えば I(r)=log⁡∣c∣+mlog⁡r+∑∣ak∣≤rlog⁡(r/∣ak∣)I(r)=\log|c|+m\log r+\sum_{|a_k|\le r}\log(r/|a_k|) で、ss について傾きは m+n(es)m+n(e^{s}) です。傾きが単調非減少なので、II は log⁡r\log r の凸関数になります。劣調和関数一般についても、円周平均が log⁡r\log r の凸関数になることが知られています。

Jensen の公式は円の中心 00 での値と円周の平均の関係でした。中心を一般の点 zz に替えたものが Poisson–Jensen 公式です。中心以外の点では、零点があると log⁡∣f∣\log|f| が調和でなくなり、Poisson 積分がそのままでは使えません。そこで、零点ごとに、円周上では絶対値が 11 で円の内側の零点だけを同じ位置にもつ因子で ff を割り、零点のない関数にしてから Poisson 積分を使います。この因子が円板の自己同型で零点を円周へ送る Blaschke 因子です。∣a∣<R|a|<R のとき

ba(z)=R(z−a)R2−aˉzb_a(z)=\frac{R(z-a)}{R^2-\bar{a}z}

とおきます。bab_a は D(0,R2/∣a∣)⊃D‾(0,R)D(0,R^2/|a|)\supset\overline{D}(0,R) 上で正則で、零点は z=az=a(単純)だけです。

補題 8.1(Blaschke 因子)✓

∣a∣<R|a|<R のとき、∣z∣=R|z|=R で ∣ba(z)∣=1|b_a(z)|=1 であり、∣z∣<R|z|<R で ∣ba(z)∣<1|b_a(z)|<1 である。

証明(補題 8.1)

∣z∣=R|z|=R のとき ∣R2−aˉz∣=∣zzˉ−aˉz∣=R ∣zˉ−aˉ∣=R ∣z−a∣|R^2-\bar{a}z|=|z\bar{z}-\bar{a}z|=R\,|\bar{z}-\bar{a}|=R\,|z-a| なので ∣ba(z)∣=1|b_a(z)|=1 です。∣z∣<R|z|<R のとき、∣R2−aˉz∣2−R2∣z−a∣2=(R2−∣a∣2)(R2−∣z∣2)>0|R^2-\bar{a}z|^2-R^2|z-a|^2=(R^2-|a|^2)(R^2-|z|^2)>0 (展開すれば確かめられる)なので ∣ba(z)∣<1|b_a(z)|<1 です。

定理 8.2(Poisson–Jensen 公式)✓

ff を、閉円板 D‾(0,R)\overline{D}(0,R) を含む円板上の正則関数で、恒等的には 00 でなく、円周 ∣z∣=R|z|=R 上に零点をもたないものとする。D(0,R)D(0,R) の中の ff の零点を、重複込みで a1,…,aNa_1,\dots,a_N とする。z=reiφ∈D(0,R)z=re^{i\varphi}\in D(0,R) が ff の零点でないとき

log⁡∣f(z)∣=12π∫02πPr/R(φ−θ) log⁡∣f(Reiθ)∣ dθ+∑k=1Nlog⁡∣bak(z)∣\log|f(z)|=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}P_{r/R}(\varphi-\theta)\,\log|f(Re^{i\theta})|\,d\theta+\sum_{k=1}^{N}\log\bigl|b_{a_k}(z)\bigr|

である。ここで PsP_s は Poisson 核(定義 4.1[調和関数と Poisson 積分])で、右辺の和の各項は 00 以下である。

証明(定理 8.2)

B=∏kbakB=\prod_kb_{a_k} とおきます。円周上に零点がなく、零点が有限個なので、R2>RR_2>R を、D(0,R2)D(0,R_2) での ff の零点が aka_k だけで、かつ R2≤R2/∣ak∣R_2\le R^2/|a_k| となるように取れます。f/Bf/B は aka_k で(位数が一致するので)除去でき、D(0,R2)D(0,R_2) 上の零点をもたない正則関数 gg を与えます。補題 6.1 から log⁡∣g∣\log|g| は調和です。

定理 4.3[調和関数と Poisson 積分] を半径 RR にスケールしたもの(同じ箇所の直後の注意)を log⁡∣g∣\log|g| に使うと、

log⁡∣g(z)∣=12π∫02πPr/R(φ−θ) log⁡∣g(Reiθ)∣ dθ.\log|g(z)|=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}P_{r/R}(\varphi-\theta)\,\log|g(Re^{i\theta})|\,d\theta .

補題 8.1 から円周上で ∣B∣=1|B|=1 なので log⁡∣g∣=log⁡∣f∣\log|g|=\log|f| です。また log⁡∣f(z)∣=log⁡∣g(z)∣+log⁡∣B(z)∣\log|f(z)|=\log|g(z)|+\log|B(z)| で、log⁡∣B∣=∑klog⁡∣bak∣\log|B|=\sum_k\log|b_{a_k}| です。各項が 00 以下であることは 補題 8.1 です。

注意 8.3

z=0z=0 では P0≡1P_0\equiv1、∣ba(0)∣=∣a∣/R|b_a(0)|=|a|/R なので、公式は f(0)≠0f(0)\ne0 のときの Jensen の公式に一致します。一般の zz では、−log⁡∣ba(z)∣-\log|b_a(z)| は円板の aa を極とする Green 関数(円周上で 00 になり、aa で +∞+\infty になる)で、公式は「log⁡∣f∣\log|f| は調和な部分(Poisson 積分)から零点ごとの Green 関数を引いたもの」と読めます。劣調和関数の一般の分解(Riesz 分解)の、正則関数の場合の姿です。また、右辺の和が 00 以下であることから、log⁡∣f(z)∣\log|f(z)| は円周上の値の Poisson 積分以下です。

系 9.1(零点の個数の評価)✓

ff を D‾(0,2R)\overline{D}(0,2R) を含む円板上の正則関数で f(0)≠0f(0)\ne0 とし、M=max⁡∣z∣=2R∣f(z)∣M=\max_{|z|=2R}|f(z)| とする。D‾(0,R)\overline{D}(0,R) にある ff の零点の個数(重複込み)を nn とすると

n≤1log⁡2 log⁡M∣f(0)∣n\le\frac{1}{\log2}\,\log\frac{M}{|f(0)|}

である。

証明(系 9.1)

定理 7.2 を半径 2R2R で使います。D‾(0,2R)\overline{D}(0,2R) の零点を a1,…,aNa_1,\dots,a_N とすると、

log⁡∣f(0)∣+∑k=1Nlog⁡2R∣ak∣=Mlog⁡∣f∣(0,2R)≤log⁡M\log|f(0)|+\sum_{k=1}^{N}\log\frac{2R}{|a_k|}=\mathcal{M}_{\log|f|}(0,2R)\le\log M

です。和の各項は 00 以上で、∣ak∣≤R|a_k|\le R の項は log⁡(2R/∣ak∣)≥log⁡2\log(2R/|a_k|)\ge\log2 です。そのような項が nn 個あるので nlog⁡2≤log⁡M−log⁡∣f(0)∣n\log2\le\log M-\log|f(0)| です。

例 9.2(sin⁡πz/(πz)\sin\pi z/(\pi z) の零点)

f(z)=sin⁡πzπzf(z)=\dfrac{\sin\pi z}{\pi z} は整関数で f(0)=1f(0)=1、零点は ±1,±2,…\pm1,\pm2,\dots です。∣sin⁡πz∣≤cosh⁡(πIm⁡z)≤eπ∣z∣|\sin\pi z|\le\cosh(\pi\operatorname{Im}z)\le e^{\pi|z|} ですから、∣z∣=2R|z|=2R で ∣f∣≤e2πR/(2πR)|f|\le e^{2\pi R}/(2\pi R) です。系 9.1 から D‾(0,R)\overline{D}(0,R) の零点の数 2⌊R⌋2\lfloor R\rfloor は

2⌊R⌋≤2πR−log⁡(2πR)log⁡22\lfloor R\rfloor\le\frac{2\pi R-\log(2\pi R)}{\log2}

を満たします。実際の値 2R2R に対して右辺は約 9.1R9.1R で、増大度が指数型(一次)の整関数の零点は RR に比例する程度しか増えない、という大きさの感覚を与えます。一般に ∣f(z)∣≤CeB∣z∣ρ|f(z)|\le Ce^{B|z|^\rho} の整関数では、同じ議論で D‾(0,R)\overline{D}(0,R) の零点の数は O(Rρ)O(R^\rho) と評価できます。

系 9.3(有界正則関数の零点の Blaschke 条件)✓

ff を単位円板 D\mathbb{D} 上の正則関数で、∣f∣≤M|f|\le M かつ f(0)≠0f(0)\ne0 とする。ff の零点を重複込みで a1,a2,…a_1,a_2,\dots とすると

∑klog⁡1∣ak∣≤log⁡M∣f(0)∣,したがって∑k(1−∣ak∣)≤log⁡M∣f(0)∣<∞\sum_k\log\frac{1}{|a_k|}\le\log\frac{M}{|f(0)|},\qquad\text{したがって}\quad\sum_k(1-|a_k|)\le\log\frac{M}{|f(0)|}<\infty

である。

証明(系 9.3)

0<r<10<r<1 に 定理 7.2 を使うと、∑∣ak∣≤rlog⁡(r/∣ak∣)=Mlog⁡∣f∣(0,r)−log⁡∣f(0)∣≤log⁡M−log⁡∣f(0)∣\sum_{|a_k|\le r}\log(r/|a_k|)=\mathcal{M}_{\log|f|}(0,r)-\log|f(0)|\le\log M-\log|f(0)| です。零点の有限部分集合 FF を固定し、rr を F⊂D‾(0,r)F\subset\overline{D}(0,r) となるように取れば、∑k∈Flog⁡(r/∣ak∣)≤log⁡(M/∣f(0)∣)\sum_{k\in F}\log(r/|a_k|)\le\log(M/|f(0)|) で、r↑1r\uparrow1 として ∑k∈Flog⁡(1/∣ak∣)≤log⁡(M/∣f(0)∣)\sum_{k\in F}\log(1/|a_k|)\le\log(M/|f(0)|) を得ます。FF は任意なので、非負項の級数 ∑klog⁡(1/∣ak∣)\sum_k\log(1/|a_k|) の部分和が上から押さえられ、級数は収束して主張の不等式を与えます。0<t≤10<t\le1 で 1−t≤log⁡(1/t)1-t\le\log(1/t) なので、後半も従います。

これは、有界な正則関数が D\mathbb{D} の内部に零点を無制限には持てないことを示します。たとえば ak=1−1k+1a_k=1-\dfrac{1}{k+1}(k≥1k\ge1)は ∑(1−∣ak∣)=∑1k+1=∞\sum(1-|a_k|)=\sum\dfrac{1}{k+1}=\infty なので、これらすべてを零点にもつ有界な正則関数で f(0)≠0f(0)\ne0 となるものは存在しません。逆に、∑(1−∣ak∣)<∞\sum(1-|a_k|)<\infty なら、これらを零点にもつ有界正則関数(Blaschke 積)が存在することが知られています。

最大値原理の記事(系 5.6[最大値原理の一般化と正則関数族])では、三線定理から三円定理を導きました。ここでは、log⁡∣f∣\log|f| の劣調和性だけから直接証明します。

定理 9.4(Hadamard の三円定理)✓

0<r1<r20<r_1<r_2 とし、ff を閉円環 {r1≤∣z∣≤r2}\{r_1\le|z|\le r_2\} を含む円環領域上の正則関数で、恒等的には 00 でないものとする。M(r)=max⁡∣z∣=r∣f(z)∣M(r)=\max_{|z|=r}|f(z)| とすると、r1≤r≤r2r_1\le r\le r_2 で

log⁡M(r)≤log⁡(r2/r)log⁡(r2/r1)log⁡M(r1)+log⁡(r/r1)log⁡(r2/r1)log⁡M(r2)\log M(r)\le\frac{\log(r_2/r)}{\log(r_2/r_1)}\log M(r_1)+\frac{\log(r/r_1)}{\log(r_2/r_1)}\log M(r_2)

である。すなわち log⁡M(et)\log M(e^{t}) は t=log⁡rt=\log r の凸関数である。

証明(定理 9.4)

円周は無限集合でコンパクトなので、f≢0f\not\equiv0 なら(一致の定理 定理 7.3[正則関数の強力な性質] により)ff は円周上に零点を無限個もてず、M(r)>0M(r)>0 です。ℓ=log⁡(r2/r1)\ell=\log(r_2/r_1) とし、

L(z)=log⁡M(r1)+log⁡M(r2)−log⁡M(r1)ℓ (log⁡∣z∣−log⁡r1)L(z)=\log M(r_1)+\frac{\log M(r_2)-\log M(r_1)}{\ell}\,\bigl(\log|z|-\log r_1\bigr)

とおきます。log⁡∣z∣=12log⁡(x2+y2)\log|z|=\tfrac12\log(x^2+y^2) は z≠0z\ne0 で Δlog⁡∣z∣=0\Delta\log|z|=0 です(∂xxlog⁡∣z∣=(y2−x2)/(x2+y2)2\partial_{xx}\log|z|=(y^2-x^2)/(x^2+y^2)^2、∂yy\partial_{yy} は x,yx,y を入れ替えたもの)。ゆえに LL は調和で、∣z∣=rj|z|=r_j で L=log⁡M(rj)L=\log M(r_j)(j=1,2j=1,2)です。

w=log⁡∣f∣−Lw=\log|f|-L は閉円環上で上半連続、開円環上で劣調和です(定理 6.2 と 補題 3.2)。境界の 2 つの円周で w≤0w\le0 なので、定理 4.1 の 2 から w≤0w\le0 が円環の内部で成り立ちます。ゆえに ∣z∣=r|z|=r で log⁡∣f(z)∣≤L(z)=log⁡M(r1)+log⁡M(r2)−log⁡M(r1)ℓlog⁡rr1\log|f(z)|\le L(z)=\log M(r_1)+\dfrac{\log M(r_2)-\log M(r_1)}{\ell}\log\dfrac{r}{r_1} で、max⁡\max を取れば主張の不等式です。

等号が成り立つ例は f(z)=czkf(z)=cz^k(kk は整数)です。このとき log⁡M(et)=log⁡∣c∣+kt\log M(e^t)=\log|c|+kt は tt の一次式です。

9.4. 多項式の円周上の対数平均:Mahler 測度

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定理 9.5(多項式の円周上の対数平均)✓

P(z)=an∏k=1n(z−zk)P(z)=a_n\prod_{k=1}^{n}(z-z_k)(an≠0a_n\ne0、zk∈Cz_k\in\mathbb{C})とする。このとき

12π∫02πlog⁡∣P(eiθ)∣ dθ=log⁡∣an∣+∑k=1nlog⁡max⁡{1,∣zk∣}\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\log\bigl|P(e^{i\theta})\bigr|\,d\theta=\log|a_n|+\sum_{k=1}^{n}\log\max\{1,|z_k|\}

である。(円周上に根があってもよい。)

証明(定理 9.5)

log⁡∣P(eiθ)∣=log⁡∣an∣+∑klog⁡∣eiθ−zk∣\log|P(e^{i\theta})|=\log|a_n|+\sum_k\log|e^{i\theta}-z_k| です(根と一致する θ\theta は有限個で、積分に影響しない)。各項は 補題 7.1(R=1R=1)で可積分で、平均が log⁡max⁡{1,∣zk∣}\log\max\{1,|z_k|\} です。足し合わせれば主張です。

左辺の指数を取った M(P)=exp⁡(12π∫log⁡∣P(eiθ)∣ dθ)=∣an∣∏kmax⁡{1,∣zk∣}M(P)=\exp\bigl(\frac{1}{2\pi}\int\log|P(e^{i\theta})|\,d\theta\bigr)=|a_n|\prod_k\max\{1,|z_k|\} を PP の Mahler 測度といいます。∣P∣|P| の円周上の幾何平均で、円の外側にある根だけを大きさで数えます。M(PQ)=M(P)M(Q)M(PQ)=M(P)M(Q) もすぐ従います。

例 9.6(z2−z−1z^2-z-1 の Mahler 測度)

P(z)=z2−z−1P(z)=z^2-z-1 の根は φ=1+52≈1.618\varphi=\frac{1+\sqrt5}{2}\approx1.618 と −1/φ≈−0.618-1/\varphi\approx-0.618 です。定理 9.5 から 12π∫02πlog⁡∣e2iθ−eiθ−1∣ dθ=log⁡φ\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\log|e^{2i\theta}-e^{i\theta}-1|\,d\theta=\log\varphi で、Mahler 測度は黄金比 φ\varphi です。一方 P(0)=−1P(0)=-1 で、Jensen の不等式(系 7.3)の下界は log⁡∣P(0)∣=0\log|P(0)|=0 です。不足分 log⁡φ\log\varphi は、円内にある根 −1/φ-1/\varphi の寄与 log⁡(1/∣−1/φ∣)=log⁡φ\log(1/|{-1/\varphi}|)=\log\varphi に等しく、定理 7.2 と合っています。

注意 9.7

f(0)≠0f(0)\ne0 の多項式 ff について ∫01log⁡∣f(e2πiθ)∣ dθ≥log⁡∣f(0)∣\int_0^1\log|f(e^{2\pi i\theta})|\,d\theta\ge\log|f(0)| が成り立つ、という形(系 7.3 の多項式版)は、位相を複素化した Lyapunov 指数の下からの評価に使われます。定理 9.5 はその等式版で、不足分は円の内側にある根 zkz_k の log⁡(1/∣zk∣)\log(1/|z_k|) の総和です。

9.5. 有理型関数への拡張:近接関数と Nevanlinna の第一主要定理

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Jensen の公式を有理型関数(定義 2.1[偏角の原理と Rouché の定理])に広げると、零点と極が対称な役割を演じます。さらに「値 aa を何回取るか」と「値 aa にどれだけ近づくか」を足したものが aa によらない、という値分布論の出発点が得られます。以下の 3 つの定義は、前者を個数関数 NN、後者を近接関数 mm で測り、その和を特性関数 TT とするためのものです。零点の個数を log⁡\log の積分で測る Jensen の公式と同じ形で、極の個数も測ります。x≥0x\ge0 について log⁡+x=max⁡{log⁡x,0}\log^+x=\max\{\log x,0\}(log⁡+0=0\log^+0=0)と書くと、x>0x>0 で log⁡x=log⁡+x−log⁡+(1/x)\log x=\log^+x-\log^+(1/x) です。

定義 9.8(近接関数・個数関数・特性関数)↗

ff を D‾(0,R)\overline{D}(0,R) を含む円板上の有理型関数で、恒等的に 00 でなく、00 が零点でも極でもないものとする。0<r≤R0<r\le R について

  • 近接関数 m(r,f)=12π∫02πlog⁡+∣f(reiθ)∣ dθm(r,f)=\dfrac1{2\pi}\displaystyle\int_0^{2\pi}\log^+\bigl|f(re^{i\theta})\bigr|\,d\theta(極は円周上に有限個なので、その点は積分から除く)、
  • 個数関数 N(r,f)=∫0rn(t,f)t dtN(r,f)=\displaystyle\int_0^r\frac{n(t,f)}{t}\,dt(n(t,f)n(t,f) は ∣z∣≤t|z|\le t にある ff の極の個数、位数の重複込み)、
  • 特性関数 T(r,f)=m(r,f)+N(r,f)T(r,f)=m(r,f)+N(r,f)

と置く。a∈Ca\in\mathbb{C} で f(0)≠af(0)\ne a のとき、m(r,a)=m(r,1/(f−a))m(r,a)=m\bigl(r,1/(f-a)\bigr)、N(r,a)=N(r,1/(f−a))N(r,a)=N\bigl(r,1/(f-a)\bigr) と書く。N(r,a)N(r,a) は f=af=a となる点(aa-点)の個数を、m(r,a)m(r,a) は円周上で ff が aa にどれだけ近いかを測る。

定理 9.9(有理型関数の Jensen の公式)✓

定義 9.8 の ff について

log⁡∣f(0)∣=12π∫02πlog⁡∣f(Reiθ)∣ dθ−N(R,1/f)+N(R,f)\log|f(0)|=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}\log\bigl|f(Re^{i\theta})\bigr|\,d\theta-N(R,1/f)+N(R,f)

が成り立つ。言い換えると T(R,f)=T(R,1/f)+log⁡∣f(0)∣T(R,f)=T(R,1/f)+\log|f(0)| である。

証明(定理 9.9)

極は孤立しているので(補題 2.2[偏角の原理と Rouché の定理])、D‾(0,R)\overline{D}(0,R) にある極は有限個で、重複込みで b1,…,bPb_1,\dots,b_P とします。Q(z)=∏j(z−bj)Q(z)=\prod_j(z-b_j) と置くと、g=Qfg=Qf は各 bjb_j で除去可能特異点をもち(位数 kk の極に位数 kk の零点を掛けている)、D‾(0,R′)\overline{D}(0,R')(R′>RR'>R を極が増えないように選ぶ)上の正則関数で、D‾(0,R)\overline{D}(0,R) での零点は ff の零点と重複込みで一致し、g(bj)≠0g(b_j)\ne0 です。g(0)=f(0)∏j(−bj)≠0g(0)=f(0)\prod_j(-b_j)\ne0 です。

gg に 系 7.4(m=0m=0)を使うと、12π∫log⁡∣g(Reiθ)∣ dθ=log⁡∣g(0)∣+N(R,1/f)\frac1{2\pi}\int\log|g(Re^{i\theta})|\,d\theta=\log|g(0)|+N(R,1/f) です。QQ には 補題 7.1 を各因子に使い、∣bj∣≤R|b_j|\le R から 12π∫log⁡∣Q(Reiθ)∣ dθ=Plog⁡R\frac1{2\pi}\int\log|Q(Re^{i\theta})|\,d\theta=P\log R です。円周上(有限個の点を除く)で log⁡∣f∣=log⁡∣g∣−log⁡∣Q∣\log|f|=\log|g|-\log|Q| なので

12π∫02πlog⁡∣f(Reiθ)∣ dθ=log⁡∣f(0)∣+∑jlog⁡∣bj∣+N(R,1/f)−Plog⁡R=log⁡∣f(0)∣+N(R,1/f)−∑jlog⁡R∣bj∣.\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}\log|f(Re^{i\theta})|\,d\theta=\log|f(0)|+\sum_j\log|b_j|+N(R,1/f)-P\log R=\log|f(0)|+N(R,1/f)-\sum_j\log\frac{R}{|b_j|}.

系 7.4 の証明と同じ計算で ∑jlog⁡(R/∣bj∣)=∫0Rn(t,f)tdt=N(R,f)\sum_j\log(R/|b_j|)=\int_0^R\frac{n(t,f)}{t}dt=N(R,f) なので、第 1 の式が出ます。log⁡∣f∣=log⁡+∣f∣−log⁡+∣1/f∣\log|f|=\log^+|f|-\log^+|1/f| から左辺の積分は m(R,f)−m(R,1/f)m(R,f)-m(R,1/f) で、代入して整理すれば T(R,f)=T(R,1/f)+log⁡∣f(0)∣T(R,f)=T(R,1/f)+\log|f(0)| です。

定理 9.10(Nevanlinna の第一主要定理)✓

定義 9.8 の ff と、f(0)≠af(0)\ne a をみたす a∈Ca\in\mathbb{C} について

m(R,a)+N(R,a)=T(R,f)−log⁡∣f(0)−a∣+ε(R,a),∣ε(R,a)∣≤log⁡+∣a∣+log⁡2m(R,a)+N(R,a)=T(R,f)-\log|f(0)-a|+\varepsilon(R,a),\qquad|\varepsilon(R,a)|\le\log^+|a|+\log2

が成り立つ。

証明(定理 9.10)

f−af-a に 定理 9.9 を使うと T(R,1/(f−a))=T(R,f−a)−log⁡∣f(0)−a∣T(R,1/(f-a))=T(R,f-a)-\log|f(0)-a| で、左辺は m(R,a)+N(R,a)m(R,a)+N(R,a) です。f−af-a と ff は極が同じなので N(R,f−a)=N(R,f)N(R,f-a)=N(R,f) です。x,y≥0x,y\ge0 について x+y≤2max⁡{x,y}x+y\le2\max\{x,y\} から log⁡+(x+y)≤log⁡+x+log⁡+y+log⁡2\log^+(x+y)\le\log^+x+\log^+y+\log2 なので、log⁡+∣f−a∣≤log⁡+∣f∣+log⁡+∣a∣+log⁡2\log^+|f-a|\le\log^+|f|+\log^+|a|+\log2、log⁡+∣f∣≤log⁡+∣f−a∣+log⁡+∣a∣+log⁡2\log^+|f|\le\log^+|f-a|+\log^+|a|+\log2 です。円周上で平均すると ∣m(R,f−a)−m(R,f)∣≤log⁡+∣a∣+log⁡2|m(R,f-a)-m(R,f)|\le\log^+|a|+\log2、すなわち ε(R,a)=T(R,f−a)−T(R,f)\varepsilon(R,a)=T(R,f-a)-T(R,f) が主張の評価をみたします。

例 9.11(指数関数の特性関数)

f(z)=ezf(z)=e^z は極も零点ももたないので N(r,f)=N(r,1/f)=0N(r,f)=N(r,1/f)=0 です。log⁡+∣ereiθ∣=max⁡{rcos⁡θ,0}\log^+|e^{re^{i\theta}}|=\max\{r\cos\theta,0\} なので

T(r,ez)=m(r,ez)=12π∫−π/2π/2rcos⁡θ dθ=rπ.T(r,e^z)=m(r,e^z)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}r\cos\theta\,d\theta=\frac r\pi .

値 00 は一度も取らないので N(r,0)=0N(r,0)=0 ですが、第一主要定理から m(r,0)=m(r,e−z)=r/πm(r,0)=m(r,e^{-z})=r/\pi で、取らない代わりに円周の左半分で 00 に指数的に近づいています。値 a≠0a\ne0 については ez=ae^z=a の解が log⁡∣a∣+i(arg⁡a+2πk)\log|a|+i(\arg a+2\pi k) なので n(t,a)≈t/πn(t,a)\approx t/\pi、N(r,a)≈r/πN(r,a)\approx r/\pi で、こちらは主に個数で T(r,f)T(r,f) を使い切ります。

Nevanlinna 理論の深い部分は、N(r,a)N(r,a) が T(r,f)T(r,f) に比べて小さくなりうる値 aa がほとんどないことを主張する第二主要定理と、そこから出る欠如関係 ∑aδ(a)≤2\sum_a\delta(a)\le2(δ(a)=lim inf⁡r→∞m(r,a)/T(r,f)\delta(a)=\liminf_{r\to\infty}m(r,a)/T(r,f))です。C\mathbb{C} 上の定数でない有理型関数が取らない値は高々 22 個である、という Picard の定理の定量化にあたります。この記事では扱いません(W. K. Hayman, Meromorphic Functions, Oxford, 1964, 第 1–2 章)。

演習 10.1易

12π∫02πlog⁡∣e2iθ−3eiθ+2∣ dθ\dfrac{1}{2\pi}\displaystyle\int_0^{2\pi}\log\bigl|e^{2i\theta}-3e^{i\theta}+2\bigr|\,d\theta を求めよ。

解答

z2−3z+2=(z−1)(z−2)z^2-3z+2=(z-1)(z-2) なので、定理 9.5 から log⁡∣1∣+log⁡max⁡{1,1}+log⁡max⁡{1,2}=log⁡2\log|1|+\log\max\{1,1\}+\log\max\{1,2\}=\log2 です。根 11 は円周上にあり、寄与は 00 です。

演習 10.2標準

uu を Ω\Omega 上の劣調和関数、p>0p>0 とする(e−∞=0e^{-\infty}=0 とする)。epue^{pu} が劣調和であることを示せ。これを用いて、ff が正則なら ∣f∣p|f|^p が劣調和であり、r↦12π∫02π∣f(reiθ)∣p dθr\mapsto\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}|f(re^{i\theta})|^p\,d\theta が単調非減少であることを導け。

解答

epue^{pu} は上半連続です(epte^{pt} が単調増加で連続なので {epu<s}={u<log⁡s/p}\{e^{pu}<s\}=\{u<\log s/p\}、s>0s>0 は開で、s≤0s\le 0 のときは空)。ϕ(t)=ept\phi(t)=e^{pt} は凸なので、Jensen の不等式(平均に関する凸関数の不等式)から ϕ(Mu(a,r))≤Mϕ∘u(a,r)\phi(\mathcal{M}_u(a,r))\le\mathcal{M}_{\phi\circ u}(a,r) です。ϕ\phi は単調増加で、u(a)≤Mu(a,r)u(a)\le\mathcal{M}_u(a,r) から epu(a)≤epMu(a,r)≤Mepu(a,r)e^{pu(a)}\le e^{p\mathcal{M}_u(a,r)}\le\mathcal{M}_{e^{pu}}(a,r) を得ます(Mu=−∞\mathcal{M}_u=-\infty のとき ϕ(−∞)=0\phi(-\infty)=0 として自明)。ゆえに epue^{pu} は劣調和です。u=log⁡∣f∣u=\log|f|(定理 6.2)とすれば epu=∣f∣pe^{pu}=|f|^p は劣調和で、系 5.3 から円周平均は単調非減少です。

演習 10.3難

ff を D\mathbb{D} 上の正則関数で ∣f∣≤1|f|\le1、f(0)=12f(0)=\frac12 とする。ff の D‾(0,12)\overline{D}(0,\tfrac12) にある零点(重複込み)は高々 11 個であることを示せ。またこの評価が最良であることを、例で示せ。

解答

系 9.3 から ∑klog⁡(1/∣ak∣)≤log⁡(1/∣f(0)∣)=log⁡2\sum_k\log(1/|a_k|)\le\log(1/|f(0)|)=\log2 です。∣ak∣≤12|a_k|\le\frac12 の零点は各々 log⁡(1/∣ak∣)≥log⁡2\log(1/|a_k|)\ge\log2 を寄与するので、2 個以上あれば和が 2log⁡2>log⁡22\log2>\log2 となり矛盾します。最良性:f(z)=12−z1−12zf(z)=\dfrac{\frac12-z}{1-\frac12z} は D\mathbb{D} で ∣f∣≤1|f|\le1(補題 8.1 で R=1R=1、a=12a=\tfrac12 の −ba-b_a)で、f(0)=12f(0)=\tfrac12、零点 z=12z=\tfrac12(単純)を D‾(0,12)\overline{D}(0,\tfrac12) にもちます。

  • L. V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1979 — 第 5 章 §3(Jensen の公式)。
  • W. Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1987 — 第 15 章(Jensen の公式、Blaschke 積)。
  • T. Ransford, Potential Theory in the Complex Plane, Cambridge University Press, 1995 — 第 2 章(劣調和関数)。
  • G. Everest and T. Ward, Heights of Polynomials and Entropy in Algebraic Dynamics, Springer, 1999 — 第 1 章(Mahler 測度と Jensen の公式)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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