共鳴:複素変形・Fermi の黄金律・Friedrichs 模型と崩壊の法則
対象読者: 本テーマ第 1〜3 章を学び、レゾルベントと解析関数の基礎を知っている大学院生。複素スケーリングと共鳴は仮定しません。
前提となる記事:Mourre 評価と極限吸収原理:共役作用素・Virial 定理・局所減衰
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”励起した原子は、しばらくそのままでいたあと光を出して落ち着きます。この「しばらくそのまま」の状態は、量子力学の式の上では本当の固有状態ではなく、時間とともに少しずつ崩れていきます。この記事は、そうした寿命のある状態を「複素数のエネルギーをもつ状態」として数学的に扱う方法を学びます。読み終えると、寿命が複素エネルギーの虚部から決まること、そして崩れ方が指数関数にほぼ従うこと(と、厳密にはどうずれるか)を、証明つきで説明できるようになります。
- ディラテーション(空間を 倍に拡大・縮小する操作) でハミルトニアンを変換した を、ポテンシャルが許す限り複素数の に解析接続します(複素スケーリング)。 はもはや自己共役ではありません。
- Aguilar–Balslev–Combes の定理: なら本質スペクトルは に回転し、その「下」から共鳴が孤立した複素固有値として現れます。共鳴は によらず、レゾルベントの行列要素 を実軸を越えて解析接続したときの極に一致します。
- 連続スペクトルに埋め込まれた(連続スペクトルの範囲の中にある)単純固有値 を摂動 で崩すと、複素スケーリングのもとで は孤立固有値になり、正則摂動論が使えます。2 次の係数の虚部が Fermi の黄金律 を与えます。
- 黄金律の崩壊率 は、生存確率 の指数崩壊の速さです。誤差は時間について一様に です。
- ただし崩壊は厳密な指数関数にはなりません。 なら短時間では の 2 次で減り(頻繁な測定で崩壊が止まる Zeno 効果)、 が下に有界なら長時間では指数より遅く減ります(Khalfin の定理、典型的には のべき崩壊)。
- 可解模型として、離散準位が連続スペクトルと 1 次で結合する Friedrichs 模型を扱います。レゾルベントは自己エネルギー で と厳密に書け、埋め込み固有値の消失、第 2 シートの共鳴極、時間尺度 での指数崩壊(van Hove 極限。結合を弱くしながら、時間を結合の 2 乗に反比例して長くとって見る極限)がすべて手で計算できます。回転波近似の spin-boson 模型の 1 励起部分空間はこの模型そのものです。
原子の励起状態は光子を放出して基底状態へ遷移し、放射性核は崩壊します。どちらもハミルトニアンの固有状態ではなく、有限の寿命をもつ準安定状態です。物理では、この状態に「複素エネルギー」 を割り当て、 の絶対値の 2 乗が で減ると説明します(Gamow)。また散乱断面積には、幅 の Breit–Wigner 型のピークが現れます。
しかし自己共役作用素の固有値は実数なので、「複素固有値」は のスペクトルには現れません。数学的には次の三つの問いがあります。
- 共鳴をどう定義するか。レゾルベント は上半平面で解析的ですが、実軸上の連続スペクトルが切れ目になります。その切れ目を越えた解析接続の極が共鳴であるはずです。
- 埋め込み固有値が摂動でどう変わるか。教科書的な Fermi の黄金律は 関数を含む形式計算ですが、摂動論の主張として正当化できるか。
- 崩壊は本当に指数関数的か。
複素スケーリング(Aguilar–Balslev–Combes 1971、Simon 1973)は、作用素の側を変形して連続スペクトルを回転させ、隠れていた極を固有値として「露出」させる方法で、三つの問いすべてに答えます。前章と同じディラテーション群が主役です。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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