# 共鳴：複素変形・Fermi の黄金律・Friedrichs 模型と崩壊の法則

> 複素スケーリングで本質スペクトルを回転させ共鳴を複素固有値として捉え、Fermi の黄金律と指数崩壊からのずれ（Zeno 効果・べき崩壊）を示す。可解な Friedrichs 模型で自己エネルギー、共鳴極、van Hove 極限を厳密に計算する。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/spectral-scattering/resonances

## 0. この記事の要点

励起した原子は、しばらくそのままでいたあと光を出して落ち着きます。この「しばらくそのまま」の状態は、量子力学の式の上では本当の固有状態ではなく、時間とともに少しずつ崩れていきます。この記事は、そうした寿命のある状態を「複素数のエネルギーをもつ状態」として数学的に扱う方法を学びます。読み終えると、寿命が複素エネルギーの虚部から決まること、そして崩れ方が指数関数にほぼ従うこと（と、厳密にはどうずれるか）を、証明つきで説明できるようになります。

- ディラテーション（空間を $e^\theta$ 倍に拡大・縮小する操作）$(U(\theta)\psi)(x)=e^{d\theta/2}\psi(e^\theta x)$ でハミルトニアンを変換した $H(\theta)=e^{-2\theta}(-\Delta)+V(e^\theta x)$ を、ポテンシャルが許す限り複素数の $\theta$ に解析接続します（**複素スケーリング**）。$H(\theta)$ はもはや自己共役ではありません。
- **Aguilar–Balslev–Combes の定理**: $\mathrm{Im}\,\theta=\beta>0$ なら本質スペクトルは $e^{-2i\beta}[0,\infty)$ に回転し、その「下」から**共鳴**が孤立した複素固有値として現れます。共鳴は $\theta$ によらず、レゾルベントの行列要素 $\langle\varphi,(H-z)^{-1}\psi\rangle$ を実軸を越えて解析接続したときの極に一致します。
- 連続スペクトルに埋め込まれた（連続スペクトルの範囲の中にある）単純固有値 $E_0$ を摂動 $\kappa W$ で崩すと、複素スケーリングのもとで $E_0$ は孤立固有値になり、正則摂動論が使えます。2 次の係数の虚部が **Fermi の黄金律** $\mathrm{Im}\,E(\kappa)=-\pi\kappa^2\langle W\varphi,\delta(H_0-E_0)\bar PW\varphi\rangle+O(\kappa^3)$ を与えます。
- 黄金律の崩壊率 $\Gamma=-2\,\mathrm{Im}\,E(\kappa)$ は、[生存確率](#def-survival-amplitude) $|\langle\varphi,e^{-itH}\varphi\rangle|^2\approx e^{-\Gamma t}$ の指数崩壊の速さです。誤差は時間について一様に $O(\kappa^2)$ です。
- ただし崩壊は厳密な指数関数にはなりません。$\varphi\in D(H)$ なら短時間では $1-(\Delta H)^2t^2$ の 2 次で減り（頻繁な測定で崩壊が止まる **Zeno 効果**）、$H$ が下に有界なら長時間では指数より遅く減ります（Khalfin の定理、典型的には $t^{-3/2}$ のべき崩壊）。
- 可解模型として、離散準位が連続スペクトルと 1 次で結合する **Friedrichs 模型**を扱います。レゾルベントは自己エネルギー $\Sigma(z)$ で $\langle\varphi,(H_\lambda-z)^{-1}\varphi\rangle=1/(E_0-z-\lambda^2\Sigma(z))$ と厳密に書け、埋め込み固有値の消失、第 2 シートの共鳴極、時間尺度 $t\sim\lambda^{-2}$ での指数崩壊（van Hove 極限。結合を弱くしながら、時間を結合の 2 乗に反比例して長くとって見る極限）がすべて手で計算できます。回転波近似の spin-boson 模型の 1 励起部分空間はこの模型そのものです。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **自己共役作用素**: 物理量（エネルギーなど）を表す作用素で、スペクトルが実数になるもの。→ [自己共役作用素](/mathematics/functional-analysis/self-adjoint-extensions#def-self-adjoint)
- **コンパクト作用素**: 有界な集合を、閉包がコンパクトな集合へ写す作用素。有限階数作用素の極限として近似できる。→ [コンパクト作用素](/mathematics/functional-analysis/compact-operators#def-compact-operator)
- **Fourier 変換**: 関数を波の重ね合わせに分解する変換。$-\Delta$ を掛け算 $|k|^2$ に変える。→ [Fourier 変換](/mathematics/fourier-analysis/fourier-transform#def-fourier-transform)
- **リース射影**: 孤立したスペクトルの点のまわりでレゾルベントを積分して得る射影で、その点に属する部分空間を取り出す。→ [リース射影](/mathematics/functional-analysis/operator-convergence#def-riesz-projection)
- **生存確率**: 時刻 $0$ の状態に、時刻 $t$ でもまだいる確率。→ [生存確率](#def-survival-amplitude)
- **Mourre 評価とディラテーション群**: 前章で使った、スケール変換の群と共役作用素 $A$ の枠組み。→ [Mourre 評価と極限吸収原理](/mathematics/spectral-scattering/mourre-theory)

</Aside>

## 1. 動機

原子の励起状態は光子を放出して基底状態へ遷移し、放射性核は崩壊します。どちらもハミルトニアンの固有状態ではなく、有限の寿命をもつ準安定状態です。物理では、この状態に「複素エネルギー」$E-i\Gamma/2$ を割り当て、$e^{-it(E-i\Gamma/2)}$ の絶対値の 2 乗が $e^{-\Gamma t}$ で減ると説明します（Gamow）。また散乱断面積には、幅 $\Gamma$ の Breit–Wigner 型のピークが現れます。

しかし[自己共役作用素](/mathematics/functional-analysis/self-adjoint-extensions#def-self-adjoint)の固有値は実数なので、「複素固有値」は $H$ のスペクトルには現れません。数学的には次の三つの問いがあります。

1. 共鳴をどう定義するか。レゾルベント $\langle\varphi,(H-z)^{-1}\psi\rangle$ は上半平面で解析的ですが、実軸上の連続スペクトルが切れ目になります。その切れ目を越えた解析接続の極が共鳴であるはずです。
2. 埋め込み固有値が摂動でどう変わるか。教科書的な Fermi の黄金律は $\delta$ 関数を含む形式計算ですが、摂動論の主張として正当化できるか。
3. 崩壊は本当に指数関数的か。

複素スケーリング（Aguilar–Balslev–Combes 1971、Simon 1973）は、作用素の側を変形して連続スペクトルを回転させ、隠れていた極を固有値として「露出」させる方法で、三つの問いすべてに答えます。[前章](/mathematics/spectral-scattering/mourre-theory)と同じディラテーション群が主役です。

（この章の続きは購入者向けです。）
