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Mourre 評価と極限吸収原理:共役作用素・Virial 定理・局所減衰

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章の波動作用素とトレースクラス摂動を学び、自己共役作用素の交換子とレゾルベントを扱える大学院生。Mourre 理論は仮定しません。

前提となる記事:トレースクラス摂動と Kato–Rosenblum の定理:絶対連続スペクトルの安定性とスペクトルシフト関数

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量子力学の粒子は、エネルギーによっては一か所に留まる(束縛される)こともあれば、遠くへ飛び去っていくこともあります。この記事の問いは、「飛び去るタイプの状態は、本当にきれいに飛び去るのか」ということです。古典力学では、粒子が遠ざかっていくとき、ある量(位置と運動量の積)が時間とともに増え続けます。この量に対応する作用素を取り、その時間変化の符号を見るだけで、そのエネルギー区間に固有値(束縛状態)が有限個しかないことや、飛び去る状態の振る舞いまで分かる、というのが Mourre の方法です。読み終えると、この「符号を見る」条件から何が導かれるかを、定理として説明できるようになります。

  • 自己共役作用素 HH の連続スペクトルを調べる道具として、もう一つの自己共役作用素 AA(共役作用素)を取り、交換子 i[H,A]i[H,A] がエネルギー区間 II 上で正であること、すなわち Mourre 評価 EI(H) i[H,A] EI(H)≥θEI(H)+KE_I(H)\,i[H,A]\,E_I(H)\ge\theta E_I(H)+K(θ>0\theta>0、KK はコンパクト)を確かめます。
  • 固有ベクトル ψ\psi に対しては常に ⟨ψ,i[H,A]ψ⟩=0\langle\psi,i[H,A]\psi\rangle=0 です(Virial 定理)。これと Mourre 評価を組み合わせると、II 内の固有値は多重度込みで有限個しかないことが直ちに従います。
  • Mourre の定理: Mourre 評価が成り立つ区間では特異連続スペクトルがなく、固有値から離れたところで重み付きレゾルベント ⟨A⟩−s(H−λ∓i0)−1⟨A⟩−s\langle A\rangle^{-s}(H-\lambda\mp i0)^{-1}\langle A\rangle^{-s}(s>1/2s>1/2)が存在して連続です(極限吸収原理)。証明は、人工的な散逸 −iεM-i\varepsilon M を加えたレゾルベントの ε\varepsilon についての微分不等式によります。
  • Schrödinger 作用素 H=−Δ+VH=-\Delta+V ではディラテーション生成子(空間を一様に拡大・縮小する操作を生む作用素)A=12(x⋅p+p⋅x)A=\frac12(x\cdot p+p\cdot x) が共役作用素になり、i[H,A]=2(−Δ)−x⋅∇Vi[H,A]=2(-\Delta)-x\cdot\nabla V から、正のエネルギーの任意の有界区間で Mourre 評価が成り立ちます。
  • 極限吸収原理は Kato の平滑性 ∫∥Te−itHψ∥2 dt≤C∥ψ∥2\int\|Te^{-itH}\psi\|^2\,dt\le C\|\psi\|^2 を与え、これが局所減衰評価と、短距離ポテンシャルでの漸近完全性の証明に直結します。

散乱理論の中心的な問いは「連続スペクトルに属する状態は本当に遠方へ散っていくか」です。波動作用素と漸近完全性で見たように、漸近完全性は Ran Ω±=Hac(H)\mathrm{Ran}\,\Omega_\pm=\mathcal{H}_{\mathrm{ac}}(H) かつ Hsc(H)={0}\mathcal{H}_{\mathrm{sc}}(H)=\{0\} という主張です(定義 5.1[波動作用素と漸近完全性])。特異連続スペクトルの不在は、それだけで独立に示すべき性質です。前章のトレースクラス法(Kato–Rosenblum)は摂動が「小さい」(トレースクラス)ことを要求するので、多体系や長距離ポテンシャルには届きません。

1981 年に Mourre が導入した方法は発想が異なります。古典力学では、エネルギー E>0E>0 の自由粒子について ddt(x⋅p)=2∣p∣2=2E>0\frac{d}{dt}(x\cdot p)=2|p|^2=2E>0(ハミルトニアン ∣p∣2|p|^2 のもとで x˙=2p\dot x=2p、p˙=0\dot p=0) であり、x⋅px\cdot p は時間とともに単調に増えます。粒子が遠方へ逃げることを「ある観測量が単調に増える」ことで捉えるわけです。量子力学では、Heisenberg の運動方程式から ddt⟨e−itHψ,Ae−itHψ⟩=⟨e−itHψ,i[H,A]e−itHψ⟩\frac{d}{dt}\langle e^{-itH}\psi,Ae^{-itH}\psi\rangle=\langle e^{-itH}\psi,i[H,A]e^{-itH}\psi\rangle なので、交換子 i[H,A]i[H,A] がエネルギー殻上で正なら AA の期待値が単調に増え、状態は束縛されていられません。Mourre 評価はこの「局所的な正値性」を、コンパクト誤差を許して定式化したものです。

この方法は摂動の大きさをほとんど問わず、NN 体 Schrödinger 作用素(Perry–Sigal–Simon)や場の量子論の模型にまで適用できます。以下では Cycon–Froese–Kirsch–Simon の教科書に近い形の仮定のもとで理論を組み立てます。

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執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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