CCR の表現:Stone–von Neumann の一意性と無限自由度の非同値表現
対象読者: 本テーマ第 1〜6 章の Fock 空間・Weyl 作用素・Q 空間表示と、ユニタリ表現、強連続ユニタリ群、Stone の定理を学んだ博士課程の人。
前提となる記事:ガウス測度と Q 空間表示:Wiener–伊藤–Segal 同型と超縮小性
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”量子力学では、位置と運動量が「」という関係を満たすと習います。この記事は、この関係を満たす組が本当に一通りしかないのか、という素朴な疑問を扱います。粒子が有限個なら答えは「一通りしかない」で、無限個の粒子(場)になると「一通りではない」です。読み終えると、この違いがどこから来るのか、それが相互作用や温度のある系の記述にどう響くのかが説明できるようになります。
- 正準交換関係(CCR)は、非有界作用素の交換子 の形(Heisenberg 形式)では定義域の扱いが曖昧になるので、ユニタリ作用素の積の関係 (Weyl 形式)で定式化します。ここで です。
- Weyl 関係からは Heisenberg 関係が適当な定義域の上で従い、さらに「正準共役な作用素のスペクトルは 全体」が出ます。逆は成り立ちません。下に有界なハミルトニアン(エネルギーを表す作用素)に Weyl の意味で共役な時間作用素が存在しないこと(Pauli の定理)もここから従います。
- 有限自由度 の正則な Weyl 表現は、すべて Fock 表現(=Schrödinger 表現)の直和にユニタリ同値です(Stone–von Neumann の一意性定理)。証明の鍵は Gauss 関数で平均した作用素 が を満たす射影になることです。
- 「すべての消滅作用素で消えるベクトル」(真空ベクトル)があれば、それが生成する部分表現は Fock 表現です。数作用素が存在する表現は Fock 表現の直和に限られます(Dell’Antonio–Doplicher–Ruelle、Chaiken)。
- 無限自由度では一意性が破れます。各振動子の尺度を , と一斉に変えた表現や、各モードに有限の占有数を持たせた温度状態の表現は、どれも Fock 表現と互いに素です。証明には平均 の強極限という「巨視的観測量」を使います。
量子力学の教科書は「 を満たす作用素の組」を出発点にしますが、この関係を満たす組は本質的に一つしかないこと、すなわち 上の位置と運動量しかないことは、暗黙のうちに仮定されています。この仮定を正当化するのが Stone–von Neumann の一意性定理です。ただし定理が正しく述べられるのは Weyl 形式に対してであり、Heisenberg 形式のままでは反例があります。
場の量子論では自由度が無限になり、この一意性が破れます。同じ CCR を満たしながら Fock 表現とユニタリ同値でない表現が無数にあり、相互作用のある場や温度のある系の「正しい」表現は一般に Fock 表現ではありません。van Hove 模型(van Hove 模型)で相互作用後の真空が Fock 空間からはみ出す現象や、Haag の定理はこの事情の現れです。本章では、有限自由度の一意性を証明したうえで、無限自由度でどのように壊れるかを具体的な表現で確かめます。次章 Bogoliubov 変換と Shale の定理 は、本章の非同値表現が「CCR を保つ線形変換が Fock 空間で実装できない」ことから生じる場合を系統的に扱います。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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