フェルミオン Fock 空間と正準反交換関係:有界な生成消滅作用素・Jordan–Wigner 変換・電子陽電子の Fock 空間
対象読者: 本テーマ第 1〜4 章のボソン側の Fock 空間論と、反対称テンソル積、行列式、C* 環の基本的な言葉を学んだ博士課程の人。CAR の表現論は仮定しません。
前提となる記事:Segal 場・Weyl 作用素・コヒーレント状態:解析ベクトルによる自己共役性と Fock 表現の既約性
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”電子のように「同じ状態に 2 個は入れない」粒子がたくさんあるとき、その全体の状態をどう数学的に扱えばよいかを調べる章です。粒子の入れ替えで符号が変わるように状態空間を作ると、同じ状態を 2 回使うと自動的に になり、この禁止則が式の中に組み込まれます。読み終えると、粒子を 1 個増やす・減らす操作の満たす規則を示せ、小さな系ではそれを行列で具体的に書き下せるようになります。
- 複素 Hilbert 空間 上のフェルミオン Fock 空間 を反対称テンソル積から作り、Slater 行列式 の内積が Gram 行列式 になることを示します。
- 生成・消滅作用素 , は正準反交換関係(CAR) , を満たし、CAR だけから が従います。ボソンと違ってフェルミオンの場の作用素は有界です。
- 第二量子化 , はボソンと同じ形で定義でき、 と書けます。固有値は の相異なる固有値の和で、基底状態は Slater 行列式です。
- なら、CAR の表現はすべて Fock 表現の直和にユニタリ同値です。Fock 表現は 次元のスピン鎖 に Jordan–Wigner 変換で実現され、XX スピン鎖が自由フェルミオンに写ります。
- 電子・陽電子の Fock 空間 上に、Klein 因子 (電子の個数の偶奇で符号を付け、電子側と陽電子側の作用素を反交換させるための因子)を挟んで Dirac 場の CAR 表現を作ります。負エネルギー部分が無限次元なら、この表現は 上の Fock 表現と同値になりません(Dirac の海)。
Pauli の排他原理は「同じ 1 粒子状態に 2 個の電子は入れない」と述べます。多粒子の波動関数を粒子の入れ替えについて反対称にすれば、同じ状態を 2 回使った Slater 行列式は になり、排他原理は自動的に満たされます。前の章までに扱ったボソン Fock 空間 の「対称」を「反対称」に替えたものが、フェルミオンの多粒子空間です。
形の上ではボソンの議論をなぞるだけですが、結果は質的に違います。第一に、生成・消滅作用素が有界になり、定義域の議論がほとんど要らなくなります。第二に、自由度が有限なら Fock 空間は有限次元 で、CAR の代数は行列代数そのものです。これがスピン鎖とフェルミオン系を行き来する Jordan–Wigner 変換の背景です。第三に、Dirac 方程式の負エネルギー解をどう扱うかという問題(Dirac の海)が、「CAR の表現をどれにするか」という問題として正確に定式化されます。
本章は Segal 場・Weyl 作用素・コヒーレント状態 までのボソンの議論を前提にし、反対称テンソル積の基本事項は 対称・反対称テンソル積と多粒子の Hilbert 空間 の内容を使います。ここでは必要な範囲を自己完結的に確認します。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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