# フェルミオン Fock 空間と正準反交換関係：有界な生成消滅作用素・Jordan–Wigner 変換・電子陽電子の Fock 空間

> 反対称テンソル積からフェルミオン Fock 空間を作り、生成・消滅作用素の正準反交換関係と ‖b(f)‖=‖f‖ を証明する。第二量子化、有限自由度での CAR 表現の一意性、Jordan–Wigner 変換、電子・陽電子の Fock 空間と Dirac の海の非 Fock 性まで扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/fock-space/fermion-fock-space

## 0. この記事の要点

電子のように「同じ状態に 2 個は入れない」粒子がたくさんあるとき、その全体の状態をどう数学的に扱えばよいかを調べる章です。粒子の入れ替えで符号が変わるように状態空間を作ると、同じ状態を 2 回使うと自動的に $0$ になり、この禁止則が式の中に組み込まれます。読み終えると、粒子を 1 個増やす・減らす操作の満たす規則を示せ、小さな系ではそれを行列で具体的に書き下せるようになります。

- 複素 Hilbert 空間 $\mathcal{H}$ 上の**フェルミオン Fock 空間** $\mathcal{F}_{\mathrm{f}}(\mathcal{H})=\bigoplus_{n\ge 0}\wedge^n\mathcal{H}$ を反対称テンソル積から作り、[Slater 行列式](/physics/quantum-mechanics-2/identical-particles#def-slater-determinant) $f_1\wedge\cdots\wedge f_n$ の内積が Gram 行列式 $\det(\langle f_i,g_j\rangle)$ になることを示します。
- 生成・消滅作用素 $b(f)^*$, $b(f)$ は**正準反交換関係（CAR）** $\{b(f),b(g)^*\}=\langle f,g\rangle$, $\{b(f),b(g)\}=0$ を満たし、CAR だけから $\|b(f)\|=\|f\|$ が従います。ボソンと違ってフェルミオンの場の作用素は**有界**です。
- 第二量子化 $\Gamma_{\mathrm{f}}(U)$, $\mathrm{d}\Gamma_{\mathrm{f}}(A)$ はボソンと同じ形で定義でき、$\mathrm{d}\Gamma_{\mathrm{f}}(A)=\sum_{i,j}\langle e_i,Ae_j\rangle b(e_i)^*b(e_j)$ と書けます。固有値は $A$ の**相異なる**固有値の和で、基底状態は Slater 行列式です。
- $\dim\mathcal{H}=m<\infty$ なら、CAR の表現はすべて Fock 表現の直和にユニタリ同値です。Fock 表現は $2^m$ 次元のスピン鎖 $(\mathbb{C}^2)^{\otimes m}$ に **Jordan–Wigner 変換**で実現され、XX スピン鎖が自由フェルミオンに写ります。
- 電子・陽電子の Fock 空間 $\mathcal{F}_{\mathrm{f}}(\mathcal{H}_+)\otimes\mathcal{F}_{\mathrm{f}}(\mathcal{H}_-)$ 上に、Klein 因子 $(-1)^{N_+}$（電子の個数の偶奇で符号を付け、電子側と陽電子側の作用素を反交換させるための因子）を挟んで Dirac 場の CAR 表現を作ります。負エネルギー部分が無限次元なら、この表現は $\mathcal{H}$ 上の Fock 表現と同値になりません（Dirac の海）。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **反対称化とウェッジ積**: 粒子の入れ替えで符号が変わるようにテンソルを平均する操作と、そうして作る積のこと。→ [反対称化](/physics/quantum-mechanics-2/identical-particles#def-permutation-operators)
- **ボソン Fock 空間**: 粒子数ごとの対称な空間を直和でまとめた空間で、この章はその反対称版です。→ [ボソン Fock 空間](/physics/fock-space/boson-fock-space#def-boson-fock-space)
- **数作用素**: 状態にいる粒子の個数を値として返す作用素。→ [数作用素](/physics/fock-space/boson-fock-space#def-number-operator)
- **Gram 行列式**: ベクトルの組どうしの内積を並べた行列の行列式のことです。
- **ユニタリ同値**: ユニタリ作用素で一方を他方に写せる、つまり同じ構造を別の座標で見ているだけ、ということ。

</Aside>

## 1. 動機

Pauli の排他原理は「同じ 1 粒子状態に 2 個の電子は入れない」と述べます。多粒子の波動関数を粒子の入れ替えについて反対称にすれば、同じ状態を 2 回使った Slater 行列式は $0$ になり、排他原理は自動的に満たされます。前の章までに扱ったボソン Fock 空間 $\mathcal{F}_{\mathrm{b}}(\mathcal{H})$ の「対称」を「反対称」に替えたものが、フェルミオンの多粒子空間です。

形の上ではボソンの議論をなぞるだけですが、結果は質的に違います。第一に、生成・消滅作用素が有界になり、定義域の議論がほとんど要らなくなります。第二に、自由度が有限なら Fock 空間は有限次元 $2^m$ で、CAR の代数は行列代数そのものです。これがスピン鎖とフェルミオン系を行き来する Jordan–Wigner 変換の背景です。第三に、Dirac 方程式の負エネルギー解をどう扱うかという問題（Dirac の海）が、「CAR の表現をどれにするか」という問題として正確に定式化されます。

本章は [Segal 場・Weyl 作用素・コヒーレント状態](/physics/fock-space/segal-field-weyl) までのボソンの議論を前提にし、反対称テンソル積の基本事項は [対称・反対称テンソル積と多粒子の Hilbert 空間](/physics/fock-space/symmetric-tensor-products) の内容を使います。ここでは必要な範囲を自己完結的に確認します。

（この章の続きは購入者向けです。）
