コンテンツにスキップ

Bogoliubov 変換と Shale の定理:Fock 空間で実装できる正準変換の判定

対象読者: 本テーマ第 1〜7 章の CCR・Weyl 関係と Fock 表現を学び、Hilbert–Schmidt 作用素とコンパクト作用素の基本を知っている博士課程の人。

前提となる記事:CCR の表現:Stone–von Neumann の一意性と無限自由度の非同値表現

生 Markdown

量子の世界では、粒子を 1 個増やす操作(生成)と 1 個減らす操作(消滅)を組み合わせて状態を表します。この操作を線形に混ぜ合わせて新しい「生成と消滅」の組を作ると、それに対する「何もない状態(真空)」も新しくなります。ここで知りたいのは、混ぜ方を変えたあとの真空が、もとの粒子の空間の中にきちんとあるのか、はみ出してしまうのか、ということです。この記事では、その答えが「混ぜ込まれる生成の部分がある意味で小さいか」という具体的な条件で決まることを示します。

  • 共役子 CC(複素共役を一般の Hilbert 空間に持ち込んだもの)を固定し、aT(f)=a(Uf)+a(VCf)∗a_T(f)=a(Uf)+a(VCf)^*(U,VU,V は有界作用素)の形の組み替えを Bogoliubov 変換と呼びます。これが CCR を保ち逆変換も持つ条件は、Aˉ=CAC\bar{A}=CAC, AT=CA∗CA^{\mathsf{T}}=CA^*C と書いて U∗U−VTVˉ=1U^*U-V^{\mathsf{T}}\bar{V}=1, U∗V=VTUˉU^*V=V^{\mathsf{T}}\bar{U}, UU∗−VV∗=1UU^*-VV^*=1, UVT=VUTUV^{\mathsf{T}}=VU^{\mathsf{T}} です。実線形写像 T=U+VCT=U+VC が σ(f,g)=Im⟨f,g⟩\sigma(f,g)=\mathrm{Im}\langle f,g\rangle を保つことと同じです。
  • Shale の定理: Bogoliubov 変換が Fock 空間上のユニタリ作用素 U\mathbb{U} で UW(f)U∗=W(Tf)\mathbb{U}W(f)\mathbb{U}^*=W(Tf)(W(f)W(f) は Weyl 作用素)と実装できるための必要十分条件は、VV が Hilbert–Schmidt 作用素であることです。必要性は「新しい真空 UΩ\mathbb{U}\Omega の 2 粒子成分が VV を Hilbert–Schmidt 作用素として表す」ことから出ます。
  • 実装できるとき、新しい真空の粒子数の期待値は ∥V∥22\|V\|_2^2 で、真空は exp⁡(−12∑Kjkaj∗ak∗)Ω\exp(-\frac12\sum K_{jk}a_j^*a_k^*)\Omega という Gauss 型ベクトルです。1 モードではスクイーズド真空(位置か運動量のどちらかのゆらぎを真空より小さくした状態)になり、2 次ハミルトニアン ωa∗a+λ2(a2+a∗2)\omega a^*a+\frac{\lambda}{2}(a^2+a^{*2})(∣λ∣<ω|\lambda|<\omega)は Bogoliubov 変換で εb∗b−12(ω−ε)\varepsilon b^*b-\frac12(\omega-\varepsilon), ε=ω2−λ2\varepsilon=\sqrt{\omega^2-\lambda^2} に対角化されます。
  • 無限個のモードを同じ強さでスクイーズする変換は VV が Hilbert–Schmidt でなく実装できません。前章の互いに素な表現 πs\pi_s はこの例です。VV がコンパクトでも Hilbert–Schmidt でなければ実装できません。
  • シフト a(f)↦a(f)+⟨f,g⟩a(f)\mapsto a(f)+\langle f,g\rangle は g∈Hg\in\mathcal{H} のときに限り実装でき、実装作用素は Weyl 作用素 W(i2 g)W(i\sqrt2\,g) です。g∉Hg\notin\mathcal{H} となる赤外発散が van Hove 模型の非同値表現の起源です。フェルミオンでも同じ形の判定(Shale–Stinespring の定理)が成り立ちます。

超流動の Bogoliubov 理論、BCS 理論、曲がった時空や加速系の Unruh 効果、量子光学のスクイーズド光は、どれも「生成・消滅作用素を線形に混ぜて新しい生成・消滅作用素を作り、それについての真空を新しい基底状態とする」という同じ操作に基づいています。有限個のモードなら、Stone–von Neumann の定理(定理 6.3[CCR の表現])によって新しい生成・消滅作用素も Fock 表現を与え、両者はユニタリ作用素で結ばれます。無限個のモードではそうとは限らず、前章の 定理 7.2[CCR の表現] のように、新しい真空が元の Fock 空間に存在しないことがあります。

どの変換なら Fock 空間の中で実装できるのか。この問いに完全な答えを与えるのが Shale の定理で、答えは「混ぜ込まれる生成作用素の部分 VV が Hilbert–Schmidt であること」という、驚くほど具体的な条件です。物理的には「新しい真空に含まれる元の粒子の数 ∥V∥22\|V\|_2^2 が有限であること」と読めます。

元の Fock 空間Fock 真空 Ω新しい真空 UΩV が Hilbert–Schmidt のとき新しい真空に当たるベクトルは空間に無いV が Hilbert–Schmidtでないとき
Shale の定理のイメージ。 が Hilbert–Schmidt なら新しい真空は元の Fock 空間の中にあり、そうでなければ Fock 空間の外にある。

歴史的には、Bogoliubov は弱く相互作用する Bose 気体のハミルトニアンを、運動量 kk と −k-k の生成・消滅作用素を混ぜる変換で 2 次形式に対角化し、準粒子の分散関係がフォノン的になることを示しました。このとき準粒子の真空は、有限体積でも元の真空に ±k\pm k の対を無限個まで含む重ね合わせで、無限体積の極限では元の Fock 空間から外れます。物理の計算では無限体積の極限を最後に取るので気づきにくいのですが、作用素論の立場では「どの段階で表現が変わったか」を Shale の定理が正確に教えてくれます。本章では、まず変換が CCR を保つ代数的な条件を整理し(§3)、実装可能性を Hilbert–Schmidt 条件で特徴づけ(§4)、具体例(§5)とシフト変換(§6)、フェルミオン版(§7)を順に扱います。

ここから先は有料(買い切り ¥200)の内容です。

この章は博士課程以上・研究水準の内容です。続き(定義・定理・証明・例・演習)は ¥200 の買い切りで、他の有料章と 100 本ノックも含めてすべて読めます。無料の章は最後まで読めます。

購入する ログイン

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。