コンテンツにスキップ

van Hove 模型:Weyl 作用素による厳密な対角化と、切断除去で現れる非同値表現

対象読者: 本テーマ第 1〜9 章の第二量子化と自由場の構成、Weyl 作用素、Kato–Rellich の定理の statement を知っている博士課程の人。相互作用模型は仮定しません。

前提となる記事:自由スカラー場の Fock 空間上の構成:Segal 場・Poincaré 共変性・Wightman 公理

生 Markdown

動かない電荷のまわりに、量子的な場がどんな「雲」をつくるかを、近似なしで解き切れる珍しい例を扱います。式を完全平方にして場を一定量ずらすだけで解ける一方、電荷を点にする極限や、波長の長い場の扱いでは、雲をつくるボソンの数が無限になり、もとの状態空間に収まらなくなります。読み終えると、この「収まらない」現象がどの条件で起き、そのとき何を取り替えれば極限が意味をもつのかを、証明つきで説明できるようになります。

  • van Hove 模型は、自由スカラー場が動かない外部源 ρ\rho と線形に結合した系で、ハミルトニアンは Hλ=dΓ(ω)+ΦS(λv)H_\lambda=\mathrm{d}\Gamma(\omega)+\Phi_{\mathrm{S}}(\lambda v)(具体的には v=ρ^/ωv=\hat\rho/\sqrt{\omega})です。抽象的には、非負で単射な自己共役作用素 TT を使って Hλ=dΓ(T)+ΦS(λv)H_\lambda=\mathrm{d}\Gamma(T)+\Phi_{\mathrm{S}}(\lambda v) と書きます。
  • v∈D(T−1/2)v\in D(T^{-1/2})(具体的には v/ω∈L2v/\sqrt{\omega}\in L^2)なら、HλH_\lambda は D(dΓ(T))D(\mathrm{d}\Gamma(T)) 上で自己共役で、Hλ≥E0:=−λ22∥T−1/2v∥2H_\lambda\ge E_0:=-\frac{\lambda^2}{2}\|T^{-1/2}v\|^2 です(Kato–Rellich の定理)。
  • さらに v∈D(T−1)v\in D(T^{-1})(具体的には v/ω∈L2v/\omega\in L^2)なら、Hλ=W(iλT−1v)(dΓ(T)+E0)W(iλT−1v)∗H_\lambda=W(i\lambda T^{-1}v)\bigl(\mathrm{d}\Gamma(T)+E_0\bigr)W(i\lambda T^{-1}v)^* と Weyl 作用素で厳密に対角化でき、基底状態はコヒーレント状態 Ωλ=W(iλT−1v)Ω\Omega_\lambda=W(i\lambda T^{-1}v)\Omega です。古典論の静的解と自己エネルギー(湯川・Coulomb エネルギー)がそのまま再現されます。
  • 逆に、v∈D(T−1/2)∖D(T−1)v\in D(T^{-1/2})\setminus D(T^{-1}) なら inf⁡σ(Hλ)=E0\inf\sigma(H_\lambda)=E_0 は有限なのに、基底状態は Fock 空間に存在しません。質量ゼロで源の全電荷が 00 でない場合(ρ^/ω3/2∉L2\hat\rho/\omega^{3/2}\notin L^2)がこれにあたります(赤外の van Hove 現象)。
  • 紫外切断を外すと E0→−∞E_0\to-\infty でエネルギーくりこみが必要になり、さらに基底状態は弱収束で 00 に消えます。切断を外した極限の基底状態と時間発展は、Fock 表現と非同値(ユニタリ作用素で移り合えない)な「シフトした」CCR 表現の中で実現されます。

点電荷のまわりの静電場を量子化すると何が起きるでしょうか。古典論では、静的な源 ρ\rho と結合したスカラー場のエネルギー

Hcl=∫(12π2+12∣∇φ∣2+12m2φ2)d3x+λ∫ρ φ d3xH_{\mathrm{cl}}=\int\Bigl(\tfrac12\pi^2+\tfrac12|\nabla\varphi|^2+\tfrac12m^2\varphi^2\Bigr)d^3x+\lambda\int\rho\,\varphi\,d^3x

の最小値は、静的解 φcl=−λ(−Δ+m2)−1ρ\varphi_{\mathrm{cl}}=-\lambda(-\Delta+m^2)^{-1}\rho で達成され、値は

Ecl=−λ22∬ρ(x)e−m∣x−y∣4π∣x−y∣ρ(y) d3x d3yE_{\mathrm{cl}}=-\frac{\lambda^2}{2}\iint\rho(x)\frac{e^{-m|x-y|}}{4\pi|x-y|}\rho(y)\,d^3x\,d^3y

(湯川ポテンシャルによる自己エネルギー。m=0m=0 なら Coulomb エネルギー)です。点電荷 ρ=δ\rho=\delta ではこれは −∞-\infty になります。

量子論では、相互作用 λ∫ρφ\lambda\int\rho\varphi は前章の時間ゼロ場 λφ(ρ)=ΦS(λρ^/ω)\lambda\varphi(\rho)=\Phi_{\mathrm{S}}(\lambda\hat\rho/\sqrt{\omega})(自由スカラー場 の 定義 3.2[自由スカラー場の Fock 空間上の構成])で、相互作用は生成・消滅作用素の 1 次式です。2 次式を完全平方にすれば対角化できるので、この模型は厳密に解けます。それでも、解いてみると場の量子論の発散の典型がすべて現れます。紫外では自己エネルギーが発散し、赤外では「無限個の軟らかいボソンをまとった状態」が Fock 空間からはみ出します。van Hove(1952)はこの模型で、相互作用のある場の状態空間が自由場の Fock 空間と「直交」しうることを最初に指摘しました。本章はその内容を、新井の抽象的 van Hove 模型の形で厳密に述べます。

話の筋は次のとおりです。§3 で相互作用が自由ハミルトニアンに対して小さいこと(相対限界 00)を示してハミルトニアンを定義し、§4 で Weyl 作用素による完全平方を厳密に実行します。§5 では完全平方のシフトが L2L^2 からはみ出す場合に、基底状態が本当に消えることを証明します。最後に §6 で、切断を外したときに「何が極限として残り、何が消えるのか」を整理し、残るもの(期待値と時間発展)が Fock 表現とは別の表現の中で実現されることを示します。解ける模型なので、発散のどこまでが計算の不手際で、どこからが表現の取り替えを要する本質的な現象なのかを、曖昧さなく切り分けられます。

ここから先は有料(買い切り ¥200)の内容です。

この章は博士課程以上・研究水準の内容です。続き(定義・定理・証明・例・演習)は ¥200 の買い切りで、他の有料章と 100 本ノックも含めてすべて読めます。無料の章は最後まで読めます。

購入する ログイン

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。