# 時間作用素と Weyl 関係：Pauli の定理・強時間作用素・生存確率の減衰

> ハミルトニアン H に正準共役な時間作用素を、Weyl 対・強時間作用素（弱 Weyl 関係）・時間作用素・弱時間作用素の階層として定義し、Pauli の定理を証明する。強時間作用素があれば H は純絶対連続であること、生存確率の減衰と時間–エネルギー不確定性関係、自由粒子の Aharonov–Bohm 時間作用素を扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/spectral-scattering/time-operators

## 0. この記事の要点

位置 $x$ と運動量 $p$ は $[x,p]=i$ で結ばれた組ですが、時間はエネルギーと組になる観測量ではなく、外から与えられる目盛りとして扱われます。もし時計の針のように「エネルギーと対になる時間の観測量」を作れたら何が言えるか、というのがこの記事の問いです。作り方の条件を厳しくしすぎると作れなくなり（Pauli の定理）、少し緩めると作れて、しかもエネルギーのスペクトルの型や、状態が元のままである確率の減り方がわかります。下の箇条書きに出てくる用語は、§3 以降で一つずつ定義します。

- 自己共役作用素 $H$ の**時間作用素**とは、正準交換関係 $[H,T]=-i$（同値に $[T,H]=i$）を何らかの意味で満たす対称作用素 $T$ です。「何らかの意味」の強さに応じて、**Weyl 対** $\Rightarrow$ **強時間作用素**（弱 Weyl 関係 $Te^{-itH}\psi=e^{-itH}(T+t)\psi$）$\Rightarrow$ **時間作用素**（稠密な部分空間上の交換関係）$\Rightarrow$ **弱時間作用素**（2 次形式としての交換関係）という階層があり、各段の逆は成り立ちません。
- **Pauli の定理**: $\sigma(H)\ne\mathbb{R}$（特に $H$ が下に有界）なら、$e^{itH}Te^{-itH}=T+t$ を満たす**自己共役な** $T$ は存在しません。$T$ を対称作用素に弱めると存在しえて、そのとき $T$ は本質的自己共役ではありません。
- 強時間作用素が存在すれば、$H$ のスペクトルは**純絶対連続**です（宮本の定理）。証明は「$t\langle\varphi,e^{-itH}\psi\rangle$ が有界」という 1 行の恒等式と、Fourier 変換が $L^2$ に入る測度は絶対連続という事実だけで済みます。逆に $H$ の絶対連続なスペクトル表現が開区間の上に載っていれば、強時間作用素を構成できます。
- 同じ恒等式から、$\psi\in D(T^n)$ の生存確率は $|\langle\psi,e^{-itH}\psi\rangle|^2=O(t^{-2n})$ で減衰し、$\psi\in D(T)\cap D(H)$ では $\Delta T\,\Delta H\ge1/2$ が成り立ちます。時間作用素を使わない時間–エネルギー不確定性関係として、Mandelstam–Tamm の不等式 $P_\psi(t)\ge\cos^2(\Delta H\,t)$ も証明します。
- 自由粒子 $H_0=p^2/(2m)$ の **Aharonov–Bohm 時間作用素** $T_{\mathrm{AB}}=\frac m2(xp^{-1}+p^{-1}x)$ は強時間作用素であり、不足指数（自己共役な拡張が作れるかを判定する一組の整数）は $(0,2)$ で、自己共役拡大を持ちません。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **自己共役作用素**: 対称で、その共役作用素と定義域まで一致する作用素。ハミルトニアン $H$ はこれです。→ [自己共役作用素](/mathematics/functional-analysis/self-adjoint-extensions#def-self-adjoint)
- **対称作用素・本質的自己共役**: 定義域の上で $\langle A\varphi,\psi\rangle=\langle\varphi,A\psi\rangle$ を満たすのが対称作用素で、閉包が自己共役になるものが本質的自己共役です。→ [対称作用素](/mathematics/functional-analysis/unbounded-operators#def-symmetric-operator)、[本質的自己共役](/mathematics/functional-analysis/self-adjointness-criteria#def-symmetric-essentially-self-adjoint)
- **絶対連続スペクトル**: スペクトル測度が Lebesgue 測度に関して絶対連続な部分。固有値のような離散的な成分を持たない部分です。→ [絶対連続](/mathematics/functional-analysis/spectrum-classification#def-spectral-subspaces)
- **関数計算**: 自己共役作用素 $H$ に対して $f(H)$（たとえば $e^{-itH}$）を定める仕組み。→ [関数計算](/mathematics/functional-analysis/spectral-theorem-unbounded#def-functional-calculus)
- **ユニタリ作用素**: 内積を保つ全射の線形作用素。$e^{-itH}$ はユニタリ作用素の族（ユニタリ群）です。→ [ユニタリ](/mathematics/functional-analysis/bounded-operators#def-operator-classes)

</Aside>

## 1. 動機

量子力学では位置と運動量が $[x,p]=i$ で結ばれるのに、時間はパラメータとして外から与えられ、エネルギーに正準共役な「時間の観測量」はありません。Pauli は 1933 年の量子力学の総説で、$[H,T]=-i$ を満たす自己共役な $T$ があれば $e^{-i\varepsilon T}$ がエネルギーを $\varepsilon$ だけずらすので、$H$ のスペクトルが実数全体になってしまい、下に有界なハミルトニアンと両立しない、と論じました。この議論は時間–エネルギー不確定性関係の地位をめぐる長い論争の出発点となりました。

Pauli の議論は、交換関係を Weyl 形式で読んだときにだけ厳密です。その厳密な形は既にフォック空間のテーマで <Ref to="physics/fock-space/ccr-representations#prop-pauli-time-operator" /> として示しました。そこでの注意（<Ref to="physics/fock-space/ccr-representations#rem-weak-weyl-relation" />）のとおり、Heisenberg 関係と Weyl 関係の間には何段階もの弱い形があり、弱い形なら下に有界な $H$ にも時間作用素が存在しえます。本章は、新井朝雄・宮本学らが 2000 年代に整備したこの階層を定義から組み立て、各段で何が言えて何が言えないかを確定させます。

スペクトル理論の側から見ると、時間作用素の存在は $H$ のスペクトルの型についての情報を与えます。強時間作用素は $H$ が純絶対連続であることの十分条件であり、生存確率の減衰率を定量的に与えます。これは前章までの散乱理論（波動作用素の存在には絶対連続部分が要る）や、次章以降の共鳴・崩壊する状態（[共鳴：複素変形・Fermi の黄金律・崩壊](/mathematics/spectral-scattering/resonances)、[Friedrichs 模型と崩壊する状態](/mathematics/spectral-scattering/resonances)）と直接つながります。

（この章の続きは購入者向けです。）
