川の水面に浮かべた木の葉は、各地点の流れの向きと速さに従って動いていきます。多様体の上のベクトル場も同じで、各点に「どちらへどの速さで進むか」を指定したものです。この記事では、その指示に従って点を動かしたとき、ほかの量(関数・矢印・微分形式)が動きにつれてどれだけ変わるかを調べます。さらに、各点で「この方向の組に沿って進める」という指定があるとき、それに沿った曲面が実際にあるかどうかを判定する条件(Frobenius の定理)を導きます。
- ベクトル場 X の流れ θt は、各点を X に沿って時間 t だけ動かす写像です。局所的な微分同相(滑らかで逆も滑らかな全単射)の 1 パラメータ族であり、θs∘θt=θs+t が成り立ちます(定理 2.5)。
- 流れに沿って別の対象を微分したものが Lie 微分 LX です。ベクトル場 Y に対しては LXY=[X,Y](Lie 括弧)になります(定理 3.2)。
- 微分形式に対しては Cartan の公式 LX=diX+iXd が成り立ちます(定理 4.2)。外微分が d2=0 である以上の情報を、LX という「流れに沿った変化率」の言葉で書き直した式です。
- 二つのベクトル場の括弧が 0 であることと、二つの流れが可換であることは同値です(命題 5.1)。
- Frobenius の定理(定理 6.2):k 次元の接分布 E⊂TM(各点で接空間の k 次元部分空間を一つ選ぶ対応のこと)が、各点のまわりで座標軸 ∂1,…,∂k で張られるようにチャートを取れる条件は、E の切断どうしの括弧が E の切断になること(involutive)です。
- 条件は微分形式の言葉に書き換えられます(系 6.4)。R3 では ω∧dω=0 という一本の式になります。
微分方程式 x˙=V(x) を解くことは、ベクトル場 V の積分曲線を求めることです。多様体の上ではこの見方を保つのが自然で、座標を一つ決めてしまうと、座標変換のたびに方程式の形が変わります。ベクトル場の流れという座標によらない対象に目を向けると、次の問いに自然に答えられます。
- 流れに沿って関数、ベクトル場、微分形式を動かしたとき、それらはどのような割合で変化するか(Lie 微分)。
- 各点で k 次元の方向が指定されているとき(分布)、それらを接空間とするような k 次元の曲面は存在するか(Frobenius)。
k=1 のとき 2 は積分曲線の存在そのものです。k≥2 のときは、方向が互いに整合する条件(括弧で閉じること)が必要になります。リー群とリー環 で左不変ベクトル場の括弧としてリー環を定義し、1 パラメータ部分群を作りましたが、そのとき暗黙に使った「流れ」と「括弧」の一般論が、この記事の内容です。
滑らかなベクトル場 X は、各点 p で導分 Xp:C∞(M)→R を与え(定義 5.1[接ベクトル空間と接バンドル])、滑らかな関数 f を滑らかな関数 Xf=(p↦Xpf) に写します。
定義 2.1(Lie 括弧)↗
X,Y を滑らかなベクトル場とする。[X,Y]f=X(Yf)−Y(Xf) で定まる写像 f↦[X,Y]f を Lie 括弧という。
命題 2.2(Lie 括弧の性質)✓
- [X,Y] は滑らかなベクトル場であり、チャート (x1,…,xn) 上で
[X,Y]=j∑(i∑Xi∂xi∂Yj−Yi∂xi∂Xj)∂xj∂と書ける。
2. [X,Y]=−[Y,X]、R 双線形、ヤコビ恒等式 [X,[Y,Z]]+[Y,[Z,X]]+[Z,[X,Y]]=0。
3. f,g を滑らかな関数とすると [fX,gY]=fg[X,Y]+f(Xg)Y−g(Yf)X。
証明(命題 2.2)
(1) X=∑Xi∂i、Y=∑Yj∂j とすると X(Yf)=∑i,jXi∂iYj∂jf+∑i,jXiYj∂i∂jf です。Y(Xf) も同様で、2 階の項は偏微分の順序交換(定理 9.9[多変数関数の微分と偏微分])により打ち消し合います。残りは f の 1 階の偏微分の線形結合で、係数が表の式です。これは ∂jf に掛かる滑らかな係数を持つ導分なので、滑らかなベクトル場です(命題 3.2[ベクトル場と微分形式])。
(2) 反対称性と双線形性は定義から明らかです。ヤコビ恒等式は展開して確かめます。[X,[Y,Z]]f=XYZf−XZYf−YZXf+ZYXf で、(X,Y,Z) を巡回的に取り替えた 3 式を足すと、XYZf、XZYf、YXZf、YZXf、ZXYf、ZYXf の 6 種類の項がそれぞれ + と − で 1 回ずつ現れて、和は 0 です。
(3) [fX,gY]h=fX(gYh)−gY(fXh)=fg(XYh−YXh)+f(Xg)Yh−g(Yf)Xh です。
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次に流れを作ります。局所的な常微分方程式の基本定理を用います。
定理 2.3(常微分方程式の基本定理)✓
U⊂Rn を開集合、V:U→Rn を C∞ 級とする。
- 各 x0∈U に対し、ε>0、x0 の開近傍 U0⊂U、C∞ 級写像 Φ:(−ε,ε)×U0→U で、∂tΦ(t,x)=V(Φ(t,x))、Φ(0,x)=x を満たすものが存在する。
- I が区間で、c1,c2:I→U が c˙=V(c) の解で c1(t0)=c2(t0) となる t0∈I があれば、I 全体で c1=c2 である。
証明(定理 2.3)
これらは 常微分方程式の存在と一意性 で証明した事実です。V は C1 級なので y について局所 Lipschitz 連続です(命題 2.4[解の存在と一意性])。(2) は 定理 3.2[解の存在と一意性] です。(1) の存在は 定理 4.1[解の存在と一意性] で、x0 を中心とする閉球 Bˉ(x0,b)⊂U 上で M=max∣V∣ をとると、x∈Bˉ(x0,b/2) について [−1,1]×Bˉ(x,b/2)⊂R×U に定理を使えるので、存在時間 h=min(1,b/(2M)) は Bˉ(x0,b/2) の各点で共通にとれます。ε=h、U0=B(x0,b/2)、Φ(t,x)=φ(t;0,x)(初期時刻 0、初期値 x の解)と置けば、(−ε,ε)×U0 は解の定義域に含まれます。V は C∞ 級なので、初期値への C∞ 級の依存性(定理 8.4[解の存在と一意性]、系 8.5[解の存在と一意性] の 2)から Φ は (t,x) について C∞ 級です。
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常微分方程式の側で証明されている事実を、多様体の言葉に移すのがこの記事の目的です。滑らかさの証明の要点は、(Φ,DxΦ) が C∞ 級のベクトル場 (x,Y)↦(V(x),DV(x)Y) の流れ(初期値 (x,I))であることで、C1 級性を拡大系に繰り返し使う帰納法になっています。
定義 2.4(積分曲線)↗
X を多様体 M の滑らかなベクトル場とする。区間 J⊂R から M への滑らかな曲線 γ が X の積分曲線であるとは、すべての t∈J で γ′(t)=Xγ(t) が成り立つことをいう。
定理 2.5(流れの基本定理)✓
X を滑らかなベクトル場とする。このとき R×M の開集合 D⊃{0}×M と滑らかな写像 θ:D→M(流れ)で、次を満たすものが一意に存在する。
- 各 p∈M について D(p)={t:(t,p)∈D} は 0 を含む開区間で、t↦θ(t,p) は p を始点とする極大積分曲線である。
- (t,p)∈D とする。(s,θ(t,p))∈D であることと (s+t,p)∈D であることは同値で、このとき θ(s,θ(t,p))=θ(s+t,p)。
- θt=θ(t,⋅) の定義域 Mt={p:(t,p)∈D} は開集合で、θt:Mt→M−t は逆写像 θ−t を持つ微分同相である。
証明の方針:まず、同じ点から出る積分曲線は重なる部分で一致すること(一意性)を示して、延ばせるだけ延ばした極大な積分曲線を作ります。次に、積分曲線をたどって「どの時刻まで滑らかに流れが定義できるか」の限界を上限 t1 で捉え、それが端まで届かないと仮定すると局所的な流れでさらに先へ延ばせてしまうことから矛盾を導きます。
証明(定理 2.5)
一意性と極大積分曲線。 二つの積分曲線 γ1,γ2:J→M が t0 で一致するとします。一致する点の集合 S={t:γ1(t)=γ2(t)} は、M が Hausdorff であることから閉集合です(異なる点は互いに交わらない開近傍を持つので、t∈/S なら t の近傍も S の外)。S は開集合でもあります:t1∈S のとき、γ1(t1) のチャートで積分曲線は c˙=V(c) の解になり、定理 2.3 (2) により一致が t1 の近傍に広がります。J は連結なので S=J です。したがって、p を始点とするすべての積分曲線の定義域の和集合上に、それらを貼り合わせた積分曲線が(一意に)定まります。これが極大積分曲線で、その定義域が開区間 D(p) です。
群の性質 (2)。 (t,p)∈D とします。s↦θ(s+t,p) は θ(t,p) を始点とする積分曲線なので、それは θ(⋅,θ(t,p)) の拡張です。極大性から、D(θ(t,p))=D(p)−t が従い、θ(s,θ(t,p))=θ(s+t,p) です。
D が開で θ が滑らか。 (t0,p0)∈D、t0>0 とします(t0<0 も同様、t0=0 は 定理 2.3 (1) による)。T を、[0,τ]×N⊂D かつ θ が [0,τ]×N の近傍で滑らかとなる p0 の開近傍 N が存在するような τ∈[0,t0] の全体とし、t1=supT とします。定理 2.3 (1) により T は正の数を含みます。t1<t0 と仮定して矛盾を導きます。q=θ(t1,p0) のチャートで 定理 2.3 (1) を適用し、ε>0 と近傍 U0∋q 上の局所流れ Φ を得ます。t2∈T を t1−ε/2<t2<t1 かつ θ(t2,p0)∈U0 となるように取り(θ(⋅,p0) は連続)、[0,t2]×N⊂D となる N を θ(t2,N)⊂U0 となるまで小さくします。このとき (t,x)∈[t2,t2+ε)×N に対し Φ(t−t2,θ(t2,x)) は積分曲線で、θ(t,x) の定義を拡張し滑らかです。これは τ=min(t2+ε/2,t0)>t1 が T に入ることを意味し、t1=supT に反します。よって t1=t0 で、(t0,p0) の近傍で θ は定義され滑らかです。
(3)。 (2) から θ−t∘θt=id(Mt 上)と θt∘θ−t=id(M−t 上)が従い、θt は滑らかな全単射で逆写像も滑らかです。Mt は D の開性から開です。
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どの p でも D(p)=R のとき X は完備といいます。完備でないベクトル場はいくらでもあります。
例 2.6(有限時間で爆発する流れ)
M=R、X=x2∂/∂x のとき、x˙=x2 の解は x(t)=x0/(1−tx0) で、x0>0 なら t→1/x0 で発散します。極大積分曲線の定義域は x0>0 のとき (−∞,1/x0)、x0<0 のとき (1/x0,∞)、x0=0 のとき R です。
命題 2.7(コンパクトな台を持つベクトル場は完備)✓
X の台 suppX={X=0} がコンパクトならば、X は完備である。とくにコンパクトな多様体上のベクトル場はすべて完備である。
証明(命題 2.7)
p∈/suppX なら Xp=0 で、定値曲線が極大積分曲線なので D(p)=R です。p∈K=suppX とします。極大積分曲線 γ は K を出ません:もし γ(t0)∈/K なら、そこで X=0 で、定値曲線との一意性により γ が定値になり γ(0)=p∈K に反します。K はコンパクトなので、定理 2.3 (1) の局所流れを有限個のチャートで取って、ある ε>0 が存在し、すべての q∈K に対し (−ε,ε)⊂D(q) となります。したがって D(p)=(a,b) で b<∞ とすると、t0∈(b−ε/2,b) で q=γ(t0)∈K から出発する積分曲線が t0+ε まで伸び、γ の極大性に反します。a についても同様です。
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流れ θt は、点だけでなく、関数・ベクトル・微分形式にも作用します。それらを t について微分したものが Lie 微分です。
定義 3.1(Lie 微分)↗
X を滑らかなベクトル場、θt をその流れとする。
- 関数 f に対し (LXf)(p)=dtdt=0f(θt(p))=Xpf。
- ベクトル場 Y に対し (LXY)p=dtdt=0d(θ−t)θt(p)(Yθt(p))∈TpM。
- k 形式 ω に対し (LXω)p=dtdt=0(θt∗ω)p∈ΛkTp∗M。
(2)(3) の括弧の中は、t が十分小さいとき定義され、固定された有限次元ベクトル空間 TpM、ΛkTp∗M の中の滑らかな曲線です(θ が滑らかだから)。(2) は、点 θt(p) にあるベクトル Y を、流れで p まで引き戻して比べているということです。
直感的には、p から流れに乗って θt(p) まで動いた先に、Y の矢印が立っているところを想像してください。異なる点の接ベクトルは同じ空間に属さないので、そのままでは差が取れません。そこで、流れを逆向き(θ−t)に戻して矢印を p の接空間 TpM に持ち帰り、Yp との違いを t で微分します。逆向きの流れを使うのは、動いた先から出発点へ戻すためです。
定理 3.2(LXY は Lie 括弧)✓
任意の滑らかなベクトル場 X,Y に対して LXY=[X,Y]。
証明の方針:ベクトルの変化は直接は見えにくいので、関数 f に作用させた値で比べます。時刻 t が二か所(流れで動いた点 qt と、関数を戻す流れ H)に現れるので、これを別々の変数 t,s とみなして偏微分に分け、第 1 項が X(Yf)、第 2 項が −Y(Xf) になることを確かめます。
証明(定理 3.2)
p∈M とし、f を p の近傍で滑らかな関数とします。qt=θt(p)、H(t,q)=f(θ−t(q)) とおくと、H は (0,p) の近傍で滑らかで、H(0,⋅)=f です。定義から
(d(θ−t)(Yqt))f=Yqt(H(t,⋅))=:K(t,t),K(t,s)=(YH(s,⋅))(qt)です。K は (t,s) について滑らか(H が滑らかで Y は q についての 1 階の微分作用素)なので、dtdK(t,t)0=∂tK(0,0)+∂sK(0,0) です。
第 1 項:K(t,0)=(Yf)(θt(p)) なので ∂tK(0,0)=Xp(Yf)。
第 2 項:K(0,s)=(YH(s,⋅))(p) で、H の滑らかさにより s についての微分と q についての微分 Y は交換できます。∂sH(s,q)∣s=0=dsdf(θ−s(q))0=−(Xf)(q) より ∂sK(0,0)=−Yp(Xf)。
したがって (LXY)pf=Xp(Yf)−Yp(Xf)=[X,Y]pf です。
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以下で引き戻しの性質を使います。ベクトル場と微分形式 では述べるだけでしたので、短く証明しておきます。
補題 3.3(引き戻しは ∧ と d を保つ)✓
F:N→M を滑らかな写像とし、k 形式 ω に対し (F∗ω)p(v1,…,vk)=ωF(p)(dFpv1,…,dFpvk) と定める。このとき F∗(α∧β)=F∗α∧F∗β と F∗(dω)=d(F∗ω) が成り立つ。
証明(補題 3.3)
ウェッジ積は 定義 5.2[ベクトル場と微分形式] のとおり引数を並べ替えた積の和で与えられ、F∗ は各引数に dFp を施すだけなので、前者が従います。後者は、d の局所性(補題 6.3[ベクトル場と微分形式])により、M のチャート (y1,…,ym) 上の ω=∑IfIdyi1∧⋯∧dyik について示せば足ります。関数 g について (F∗dg)p(v)=dg(dFpv)=v(g∘F)=d(g∘F)p(v) なので F∗dg=d(g∘F) で、
F∗ω=I∑(fI∘F)d(yi1∘F)∧⋯∧d(yik∘F)です。外微分の次数つきライプニッツ則と d2=0(定理 6.2[ベクトル場と微分形式])により d(F∗ω)=∑Id(fI∘F)∧d(yi1∘F)∧⋯∧d(yik∘F) で、これは前者と F∗dg=d(g∘F) により F∗(∑IdfI∧dyi1∧⋯∧dyik)=F∗(dω) です。
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証明(命題 3.4)
引き戻しは θt∗(α∧β)=θt∗α∧θt∗β、θt∗d=dθt∗ を満たします(補題 3.3)。
(2) 各点で ΛkTp∗M×ΛlTp∗M→Λk+lTp∗M はウェッジ積という双線形写像なので、t について積の微分法を使うだけです。(3) θt∗ω のチャートでの係数は (t,x) について滑らかなので、t による微分と x による微分(d)は交換でき、ddtdθt∗ω=dtddθt∗ω=dtdθt∗dω です。(1) は定義です。
(4) p を固定し、Ω(t)=(θt∗ω)p、wi(t)=d(θ−t)(Yi∣θt(p))∈TpM とおきます。dθt∘dθ−t=id により
(ω(Y1,…,Yk))(θt(p))=Ω(t)(w1(t),…,wk(t))です。両辺を t=0 で微分すると、左辺は Xp(ω(Y1,…,Yk))、右辺は多重線形写像の積の微分法により (LXω)p(Y1,…)+∑iωp(…,(LXYi)p,…) です。定理 3.2 を使えば (4) が従います。
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k 形式 ω に対し、内部積 iXω を (iXω)(v2,…,vk)=ω(X,v2,…,vk) で定め、0 形式には iXf=0 とします。iXω は (k−1) 形式で、X について C∞(M) 線形です。
補題 4.1(内部積は反導分)✓
α を k 形式、β を l 形式とすると
iX(α∧β)=iXα∧β+(−1)kα∧iXβ.
証明(補題 4.1)
定義 5.2[ベクトル場と微分形式] のシャッフル和で (α∧β)(X,v2,…,vk+l) を考えます。(k,l) シャッフル σ は、第 1 番目の引数 X が α の側に入る(σ(1)=1)か、β の側に入る(σ(k+1)=1)かのどちらかです。前者の和は、残りの v2,…,vk+l に対する (k−1,l) シャッフル和で、(iXα∧β)(v2,…) に一致します。後者では X を β の第 1 引数に動かす並べ替えの符号が (−1)k で、和は (−1)k(α∧iXβ)(v2,…) です。
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定理 4.2(Cartan の公式)✓
任意のベクトル場 X と微分形式 ω に対し
LXω=diXω+iXdω.
証明の方針:LX と diX+iXd の差 D が、積の微分法則(導分)を満たし、d と可換で、関数に対して 0 になることを示します。微分形式は関数と dxi のウェッジ積の和なので、これらに対して D が 0 であれば、積の微分法則により形式全体で D=0 となります。
証明(定理 4.2)
D=LX−(diX+iXd) とおきます。以下の三つを示します。
(a) diX+iXd は次数 0 の導分。 α∈Ωk として 補題 4.1 と 定理 6.2[ベクトル場と微分形式] の次数付きライプニッツ則を使います。
diX(α∧β)iXd(α∧β)=d(iXα)∧β+(−1)k−1iXα∧dβ+(−1)kdα∧iXβ+α∧diXβ,=iXdα∧β+(−1)k+1dα∧iXβ+(−1)kiXα∧dβ+α∧iXdβ.和を取ると、iXα∧dβ の項は符号 (−1)k−1 と (−1)k で、dα∧iXβ の項は (−1)k と (−1)k+1 で打ち消し合い、(diX+iXd)α∧β+α∧(diX+iXd)β が残ります。
(b) D は d と可換。 LX は 命題 3.4 (3) により d と可換です。d(diX+iXd)=diXd=(diX+iXd)d(d2=0 による)。
(c) 関数に対して D=0。 f に対し (diX+iXd)f=iXdf=df(X)=Xf=LXf。
LX は 命題 3.4 (2) により、(a) と合わせて D は次数 0 の導分で、(b)(c) を満たします。D は局所的です(LX は各点の近傍の情報で決まり、d は 補題 6.3[ベクトル場と微分形式] により局所的)から、チャートの定義域 U 上の形式にも作用させて議論できます。チャート (x1,…,xn) 上で ω=∑IfIdxi1∧⋯∧dxik と書くと、D(dxi)=D(dxi)=d(Dxi)=0、DfI=0 なので、導分性から Dω=0 です。
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証明(系 4.3)
命題 3.4 (4) より (LXω)(Y)=X(ω(Y))−ω([X,Y])。一方 定理 4.2 より (LXω)(Y)=(iXdω)(Y)+d(ω(X))(Y)=dω(X,Y)+Y(ω(X))。両者を等しいとおけば公式が従います。
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これは ベクトル場と微分形式 で座標計算に譲った公式と同じものです。ここでは座標を使わずに導かれました。
例 4.4(回転のベクトル場)
R2 のベクトル場 X=−y∂x+x∂y の流れは θt(x,y)=(xcost−ysint, xsint+ycost) です(x˙=−y、y˙=x の解)。面積形式 μ=dx∧dy について 定理 4.2 を使うと、iXμ=−ydy−xdx なので diXμ=−dy∧dy−dx∧dx=0、dμ=0 から LXμ=0 です。実際 θt は面積を保つ回転です。同じく ω=xdy−ydx について LXω=d(iXω)+iXdω、iXω=x⋅x−y(−y)=x2+y2、dω=2dx∧dy、iXdω=2(−ydy−xdx) より LXω=2(xdx+ydy)−2(xdx+ydy)=0 で、これも回転で不変です。
命題 5.1(可換性の同値条件)✓
X,Y を滑らかなベクトル場、θt,φs をそれぞれの流れとする。次は同値である。
- [X,Y]=0。
- Y は X の流れで不変:dθt(Yp)=Yθt(p)(θt(p) が定義されるすべての (t,p) で)。
- 流れが可換:θt∘φs=φs∘θt(両辺が定義される範囲で)。
証明(命題 5.1)
(1) ⇒ (2) p を固定し、w(t)=d(θ−t)(Yθt(p))∈TpM とします。θ−t−s=θ−t∘θ−s より、w(t+s)=d(θ−t)[d(θ−s)(Yθs(q))](q=θt(p))なので、s=0 で微分して
w′(t)=d(θ−t)((LXY)q)=d(θ−t)([X,Y]q)=0(定理 3.2)。したがって w(t)=w(0)=Yp で、これが (2) です。
(2) ⇒ (3) (2) より、θt は Y の積分曲線を Y の積分曲線に写します。s↦θt(φs(p)) は θt(p) を始点とする Y の積分曲線なので、一意性により φs(θt(p)) と一致します。
(3) ⇒ (1) (3) から θt∘φs(p)=φs∘θt(p) の両辺を s で微分すると (2) が出ます。(2) から (LXY)p=dtd∣0dθ−t(Yθt(p))=dtd∣0Yp=0 です。
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条件 3 は、X の流れと Y の流れを順に辿る二つの経路が同じ点に着く、ということです。下の図の左は括弧が 0 の場合で四角形が閉じ、右は括弧が 0 でない場合で、順序によって着く点がずれて四角形が閉じません。
二つの流れを順に動かす。左は [X,Y]=0 で四角形が閉じ、右は [X,Y]≠0 で終点がずれる(模式図)。
定義 6.1(分布・involutive・平坦チャート)↗
M を n 次元多様体とする。
- M の k 次元分布とは、各点 p に k 次元部分空間 Ep⊂TpM を与える対応 E で、各点の近傍 U 上に滑らかなベクトル場 X1,…,Xk が存在し、各 q∈U で X1∣q,…,Xk∣q が Eq の基底となるもの(局所枠)をいう。
- E の切断とは、すべての点で Xp∈Ep となる滑らかなベクトル場 X をいう。E が involutive であるとは、E の任意の二つの切断 X,Y に対して [X,Y] も E の切断になることをいう。
- チャート (U;x1,…,xn) が E に対して平坦であるとは、U 上で E が ∂/∂x1,…,∂/∂xk で張られることをいう。このとき xk+1,…,xn を定数とする集合(スライス)は、接空間が E である k 次元部分多様体(積分多様体)になる。
平坦チャート。曲がった葉層(左)が、座標を取り替えると水平な層(右)になる。
定理 6.2(Frobenius の定理)✓
E を n 次元多様体 M 上の k 次元分布とする。次は同値である。
- E は involutive である。
- 各点 p∈M に対し、p を含む E に平坦なチャートが存在する。
証明の方針:(2) ⇒ (1) は平坦チャートでの括弧の計算だけです。(1) ⇒ (2) では、まず分布の枠を ∂yi 成分が単位行列になる形に整え、involutive の仮定から枠どうしの括弧が 0 になることを示します。そのうえで、各枠の流れを順に合成した写像を作り、逆関数定理でそれを座標に取ると、座標ベクトルが枠そのものになります。
証明(定理 6.2)
(2) ⇒ (1) 平坦チャート上で E の切断は X=∑i≤kfi∂i の形をしています。二つの切断 X=∑fi∂i、Y=∑gj∂j に対し 命題 2.2 (3) と [∂i,∂j]=0 により
[X,Y]=i,j≤k∑(fi∂igj−gi∂ifj)∂jで、これも ∂1,…,∂k の線形結合です。
(1) ⇒ (2) E が involutive とし、p∈M とします。
第 1 段:枠を整える。 p のチャート (V;y1,…,yn) を y(p)=0 となるよう取り、E の局所枠 X1,…,Xk を V 上に取ります。Xi=∑jaij∂yj と書くと、X1∣p,…,Xk∣p が一次独立なので k×n 行列 (aij) は階数 k で、座標の番号を入れ替えて、前半の k×k 小行列 A=(aij)i,j≤k が p で可逆としてよいです。連続性から p の近傍で A は可逆なので、Zi=∑l(A−1)ilXl が E の新しい局所枠になり、
Zi=∂yi∂+j>k∑cij∂yj∂(i=1,…,k)の形をしています(cij は滑らかな関数)。
第 2 段:枠が可換。 E は involutive なので [Zi,Zl] は E の切断で、∑mhmZm の形に書けます。一方 命題 2.2 (1) により [Zi,Zl] の ∂yj 成分(j≤k)は Zi(δlj)−Zl(δij)=0 です。∑mhmZm の第 j 成分(j≤k)は hj なので、hj=0 がすべての j≤k で成り立ち、[Zi,Zl]=0 です。
第 3 段:流れを合成する。 θi を Zi の(局所)流れとします。0 の近傍で
Ψ(s1,…,sk,yk+1,…,yn)=θs11∘⋯∘θskk(0,…,0,yk+1,…,yn)を定めます(定理 2.5 により滑らか)。s=0 では Ψ(0,y′′)=(0,y′′)(スライスへの恒等写像)なので、原点での微分は、∂Ψ/∂si(0)=Zi∣0=∂yi+∑cij∂yj、∂Ψ/∂yj(0)=∂yj (j>k) となり、行列は (Ic0I) で可逆です。系 2.2[部分多様体と正則値定理] により Ψ は原点の近傍で微分同相で、その逆 x=Ψ−1 が p のまわりのチャートです。
第 4 段:座標ベクトルは Zi。 Zi たちの流れは 命題 5.1 と第 2 段により互いに可換なので、Ψ の合成の順序を入れ替えて θi を最後に作用させることができ、Ψ(s,y′′)=θsii(Ψ(…,0i,…)) と書けます。よって ∂Ψ/∂si(s,y′′)=Zi∣Ψ(s,y′′)、すなわち座標 x で ∂/∂xi=Zi(i≤k)です。Z1,…,Zk は E を張るので、x は E に平坦なチャートです。
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分布を微分形式で与えることもよくあります。n−k 個の 1 形式 ω1,…,ωn−k が各点で一次独立なとき、E=⋂akerωa は k 次元分布です。
証明(系 6.4)
X,Y を E の切断とすると ωa(X)=ωa(Y)=0 なので、系 4.3 より dωa(X,Y)=−ωa([X,Y]) です。[X,Y] が E の切断であることは、すべての a で ωa([X,Y])=0 と同値で、これは (2) です。
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例 6.6(球面による葉層)
R3∖{z=0} 上で、X1=y∂z−z∂y、X2=z∂x−x∂z は各点で一次独立で(外積が z(x,y,z)=0)、張る 2 次元分布 E は動径方向に直交する平面、すなわち原点を中心とする球面の接平面です。[X1,X2]=y∂x−x∂y も球面に接するので E に入ります(計算は 命題 2.2 (1) による)。したがって E は involutive で、積分多様体は同心球面です。Frobenius の平坦チャートは極座標 (θ,ϕ,r) の形をとり、r が定数のスライスが球面です。
演習 7.1易
R2 のベクトル場 X=x∂x−y∂y の流れを求めよ。また、LX(dx∧dy) を Cartan の公式で計算せよ。
解答
x˙=x、y˙=−y の解は θt(x,y)=(etx,e−ty) です。iX(dx∧dy)=xdy+ydx(iX(dx∧dy)=dx(X)dy−dy(X)dx=xdy+ydx)で、d(xdy+ydx)=dx∧dy+dy∧dx=0、d(dx∧dy)=0 ですから LX(dx∧dy)=0。実際 θt のヤコビ行列式は ete−t=1 で面積形式を保ちます。
演習 7.2標準
R 上のベクトル場 X=∂x、Y=x∂x について [X,Y] を求め、X の流れによる Y の引き戻しを直接計算して 定理 3.2 を確かめよ。
解答
命題 2.2 (1) から [X,Y]=(1⋅1−0)∂x=∂x です。X の流れは θt(x)=x+t で dθ−t=id ですから、d(θ−t)(Yθt(x))=(x+t)∂x です。t で微分して t=0 とすると ∂x で、[X,Y] と一致します。
演習 7.3標準
R2 で ω=xdy、X=x∂x+y∂y について 定理 4.2 の両辺を計算し、一致を確かめよ。
解答
X の流れは θt(x,y)=(etx,ety) で、θt∗ω=etx⋅etdy=e2txdy、よって LXω=2xdy。一方 iXω=x⋅y(dy(X)=y)、d(iXω)=ydx+xdy、dω=dx∧dy、iXdω=xdy−ydx で、和は ydx+xdy+xdy−ydx=2xdy となり一致します。
演習 7.4難
R3 で ω=dz−xdy が定める 2 次元分布 E=kerω は積分可能でないことを示せ。また、ω を零点を持たない関数 f 倍した fω について (fω)∧d(fω)=f2ω∧dω を示し、「ω∧dω=0」が E だけで決まる条件であることを確かめよ。
解答
dω=−dx∧dy です。E は X=∂x と Y=∂y+x∂z で張られ(ω(Y)=x−x=0)、dω(X,Y)=−(dx(X)dy(Y)−dx(Y)dy(X))=−1=0 です。系 6.4 により E は involutive でなく、積分可能ではありません。実際 ω∧dω=−dz∧dx∧dy=0 です。
d(fω)=df∧ω+fdω なので、(fω)∧d(fω)=fω∧df∧ω+f2ω∧dω=f2ω∧dω(ω∧df∧ω=−df∧ω∧ω=0)。f が零点を持たなければ、零になるかどうかは ω に依りません。E=kerω=ker(fω) だけで決まる条件です。
- John M. Lee『Introduction to Smooth Manifolds』(第 2 版)Springer、2013 — 第 9 章(流れ)、第 12 章(Lie 微分)、第 19 章(Frobenius の定理)。
- Frank W. Warner『Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups』Springer、1983 — 第 1 章(Frobenius の定理)。
- Michael Spivak『A Comprehensive Introduction to Differential Geometry, Vol. 1』Publish or Perish、1979 — 第 5 章(Lie 微分・Frobenius)。
- 松本幸夫『多様体の基礎』東京大学出版会、1988 — ベクトル場・Frobenius の定理の章。
- 坪井俊『幾何学 I 多様体入門』東京大学出版会、2005 — ベクトル場と微分形式の章。
執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12