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de Rham コホモロジー:閉形式と完全形式のずれが測る穴

対象読者: 本テーマ第 1〜4 章と第 7 章(微分形式、外微分、ストークスの定理、流れとカルタンの公式)を学び、学部の線形代数(商空間・完全系列)を知っている人。コホモロジーは仮定しません。

前提となる記事:ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理:局所的に平らにできる条件、ストークスの定理:微分と境界の双対性

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微積分では、回転が 00 のベクトル場は何かの関数の勾配になる、と習います。ところが平面から原点を取り除くと、この主張は成り立たなくなります。空間に穴があるかどうかを、微分形式という解析の道具で数える方法が、この記事の主題です。読み終えると、球面や穴の開いた空間について、穴の個数に当たる数を実際に計算できるようになります。

  • d∘d=0d\circ d=0 なので完全形式は閉形式です。逆は一般には成り立たず、その「ずれ」を測る商空間 HdRk(M)={閉}/{完全}H^k_{\mathrm{dR}}(M)=\{\text{閉}\}/\{\text{完全}\} が de Rham コホモロジーです。穴のある空間で自明でない値を取ります。
  • 滑らかな写像 F ⁣:M→NF\colon M\to N は引き戻しにより F∗ ⁣:HdRk(N)→HdRk(M)F^*\colon H^k_{\mathrm{dR}}(N)\to H^k_{\mathrm{dR}}(M) を誘導します。滑らかにホモトピックな写像は同じ写像を誘導します(定理 3.2)。証明は Cartan の公式(定理 4.2)[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理] だけでできます。
  • したがって星形領域では Hk=0H^k=0 (k≥1)(k\ge1)、すなわち閉形式はすべて完全です(Poincaré の補題、定理 3.4)。
  • 多様体を二つの開集合で覆うと、Mayer–Vietoris 完全系列が Hk(U∪V)H^k(U\cup V) を Hk(U)H^k(U)、Hk(V)H^k(V)、Hk(U∩V)H^k(U\cap V) に結びつけます(定理 4.3)。1 の分割がその心臓部です。
  • この道具で球面のコホモロジーが H0=Hn=RH^0=H^n=\mathbb{R}、他は 00 と求まります(定理 5.1)。Hn(Sn)H^n(S^n) の同型は ∫Sn\int_{S^n} で与えられます。

微積分で習うように、R3\mathbb{R}^3 上のベクトル場 F\boldsymbol F が rot⁡F=0\operatorname{rot}\boldsymbol F=0 ならば、ある関数 ff で F=grad⁡f\boldsymbol F=\operatorname{grad}f と書けます。これを外微分の言葉で書くと、「1 形式 ω\omega が dω=0d\omega=0(閉)ならば、ある関数 ff で ω=df\omega=df(完全)」です。ところが ベクトル場と微分形式 で見たとおり、R2∖{0}\mathbb{R}^2\setminus\{0\} 上の角度形式

η=−y dx+x dyx2+y2\eta=\frac{-y\,dx+x\,dy}{x^2+y^2}

は閉ですが完全ではありません(系 6.6[ベクトル場と微分形式])。原点の周りを一周する積分が 2π≠02\pi\ne0 だからです。

閉ならば完全という主張が成り立つかどうかは、空間の形に依存します。穴があると破れます。この破れ具合を、線形空間として測るのが de Rham コホモロジーです。その次元(Betti 数。コホモロジーの次元として定まる整数)は穴の個数と次元を数える位相不変量になり、微分形式という解析的な対象から位相的な情報が取り出せます。

この記事の道筋は次のとおりです。

  1. 定義と、引き戻しによる関手性(第 2 節)。
  2. ホモトピー不変性と Poincaré の補題(第 3 節)。
  3. Mayer–Vietoris 完全系列(第 4 節)。
  4. 球面の計算と応用(第 5 節)。

MM を滑らかな多様体とし、Ωk(M)\Omega^k(M) を MM 上の滑らかな kk 形式全体(k<0k<0 または k>dim⁡Mk>\dim M では 00)とします。外微分 d ⁣:Ωk(M)→Ωk+1(M)d\colon\Omega^k(M)\to\Omega^{k+1}(M) は d∘d=0d\circ d=0 を満たすので、

⋯→Ωk−1(M)→dΩk(M)→dΩk+1(M)→⋯\cdots\to\Omega^{k-1}(M)\xrightarrow{d}\Omega^k(M)\xrightarrow{d}\Omega^{k+1}(M)\to\cdots

は余鎖複体(dd を二回続けると 00 になる列のこと)です。

定義 2.1(de Rham コホモロジー)↗

Zk(M)=ker⁡(d ⁣:Ωk→Ωk+1)Z^k(M)=\ker(d\colon\Omega^k\to\Omega^{k+1})(閉 kk 形式)、Bk(M)=im⁡(d ⁣:Ωk−1→Ωk)B^k(M)=\operatorname{im}(d\colon\Omega^{k-1}\to\Omega^k)(完全 kk 形式)とする。Bk⊂ZkB^k\subset Z^k であり(定義 6.4[ベクトル場と微分形式])、商ベクトル空間

HdRk(M)=Zk(M)/Bk(M)H^k_{\mathrm{dR}}(M)=Z^k(M)/B^k(M)

を kk 次の de Rham コホモロジーという。閉形式 ω\omega の類を [ω][\omega] と書く。

命題 2.2(基本的な性質)✓

MM を nn 次元の滑らかな多様体とする。

  1. HdR0(M)H^0_{\mathrm{dR}}(M) は MM 上の局所定数関数全体であり、MM の連結成分の個数が cc なら HdR0(M)≅RcH^0_{\mathrm{dR}}(M)\cong\mathbb{R}^c。とくに MM が連結なら H0=RH^0=\mathbb{R}。
  2. k>nk>n では HdRk(M)=0H^k_{\mathrm{dR}}(M)=0。
  3. F ⁣:M→NF\colon M\to N を滑らかな写像とすると、F∗ ⁣:Ωk(N)→Ωk(M)F^*\colon\Omega^k(N)\to\Omega^k(M) は dd と可換なので、線形写像 F∗ ⁣:HdRk(N)→HdRk(M)F^*\colon H^k_{\mathrm{dR}}(N)\to H^k_{\mathrm{dR}}(M)、[ω]↦[F∗ω][\omega]\mapsto[F^*\omega] を誘導する。(G∘F)∗=F∗∘G∗(G\circ F)^*=F^*\circ G^*、id∗=id\mathrm{id}^*=\mathrm{id}。とくに微分同相は同型を誘導する。
  4. [α]∈Hk[\alpha]\in H^k、[β]∈Hl[\beta]\in H^l に対し [α][β]:=[α∧β]∈Hk+l[\alpha][\beta]:=[\alpha\wedge\beta]\in H^{k+l} は代表元の取り方によらず定まり、F∗F^* はこの積を保つ。
証明(命題 2.2)

(1) H0=Z0H^0=Z^0(B0=0B^0=0)で、df=0df=0 なのは、各チャートで ff の偏導関数がすべて 00 のとき、すなわち ff が局所定数のときです。局所定数関数は連結成分上で定数です。

(2) Ωk=0\Omega^k=0 だからです。

(3) 引き戻しの性質(補題 3.3)[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理] にある F∗d=dF∗F^*d=dF^* により、閉形式は閉形式に、完全形式は完全形式に写されます(F∗(dγ)=d(F∗γ)F^*(d\gamma)=d(F^*\gamma))。合成と恒等写像の性質は引き戻しの性質です。

(4) d(α∧β)=dα∧β+(−1)kα∧dβ=0d(\alpha\wedge\beta)=d\alpha\wedge\beta+(-1)^k\alpha\wedge d\beta=0 で α∧β\alpha\wedge\beta は閉です。α\alpha を α+dγ\alpha+d\gamma に取り替えると、dγ∧β=d(γ∧β)d\gamma\wedge\beta=d(\gamma\wedge\beta)(β\beta が閉なので)が完全形式なので類は変わりません。β\beta を取り替えても同様です(α∧dγ=(−1)kd(α∧γ)\alpha\wedge d\gamma=(-1)^kd(\alpha\wedge\gamma))。F∗(α∧β)=F∗α∧F∗βF^*(\alpha\wedge\beta)=F^*\alpha\wedge F^*\beta より後半も従います。

こうして HdR∙(M)=⨁kHdRk(M)H^\bullet_{\mathrm{dR}}(M)=\bigoplus_kH^k_{\mathrm{dR}}(M) は次数付き可換環になります。この記事では環構造は使いません。

例 2.3(角度形式の類)

M=R2∖{0}M=\mathbb{R}^2\setminus\{0\}、η\eta を上の角度形式とします。η\eta は閉形式ですが、単位円 CC に沿った積分が ∫Cη=2π≠0\int_C\eta=2\pi\ne0 なので完全形式ではありません(完全なら η=df\eta=df で、閉曲線上で ∫Cdf=0\int_C df=0)。したがって [η]≠0∈HdR1(M)[\eta]\ne0\in H^1_{\mathrm{dR}}(M)、HdR1(R2∖{0})≠0H^1_{\mathrm{dR}}(\mathbb{R}^2\setminus\{0\})\ne0 です。後で、この空間の H1H^1 がちょうど R⋅[η]\mathbb{R}\cdot[\eta] であることを示します(系 5.3)。

1 形式については、完全性を周回積分で判定できます。これは H1H^1 を実際に計算するときの出発点になります。

命題 2.4(閉 1 形式が完全である条件)✓

MM を連結な多様体、ω\omega を MM 上の閉 1 形式とする。ω\omega が完全であることと、MM 内の区分的に滑らかな閉曲線 γ\gamma すべてについて ∫γω=0\int_\gamma\omega=0 であることは同値である。

証明(命題 2.4)

(⇒)ω=df\omega=df なら ∫γdf=f(γ(1))−f(γ(0))=0\int_\gamma df=f(\gamma(1))-f(\gamma(0))=0(合成関数の微分と微分積分学の基本定理)。(⇐)p0∈Mp_0\in M を固定します。p0p_0 と区分的に滑らかな曲線で結べる点の全体は、チャートの球の中では線分で結べるので開かつ閉で、MM が連結なので MM 全体です。f(p)=∫γωf(p)=\int_{\gamma}\omega(γ\gamma は p0p_0 から pp への曲線)と定めます。二つの曲線の差は閉曲線なので積分が 00 であり、ff は曲線の取り方によりません。チャート上の球 BB と q∈Bq\in B を取ります。p0p_0 から qq への曲線に線分 s↦q+sejs\mapsto q+se_j (0≤s≤t0\le s\le t) をつなげると、f(q+tej)−f(q)=∫0tωj(q+sej) dsf(q+te_j)-f(q)=\int_0^t\omega_j(q+se_j)\,ds(ω=∑ωidxi\omega=\sum\omega_idx^i)です。したがって ∂jf=ωj\partial_jf=\omega_j で、ff は C1C^1 級、さらに ωj\omega_j が滑らかなので ff は滑らかで df=ωdf=\omega です。

たとえば 例 2.3 の角度形式 η\eta は、単位円に沿った積分が 2π2\pi なので完全でないことが、この判定からすぐ分かります。

3. ホモトピー不変性と Poincaré の補題

Section titled “3. ホモトピー不変性と Poincaré の補題”

ここでは M×RM\times\mathbb{R} の座標を (x,t)(x,t) とし、T=∂/∂tT=\partial/\partial t、it ⁣:M→M×Ri_t\colon M\to M\times\mathbb{R}、it(x)=(x,t)i_t(x)=(x,t) とします。TT の流れは平行移動 ψs(x,t)=(x,t+s)\psi_s(x,t)=(x,t+s) です。

次のホモトピー公式のねらいは、時刻 00 と時刻 11 での引き戻しの差 i1∗ω−i0∗ωi_1^*\omega-i_0^*\omega を、dd で書ける部分(完全形式)と dωd\omega の部分に分けることです。ω\omega が閉なら dω=0d\omega=0 なので、差は完全形式になります。証明の方針は、時刻 tt での引き戻しの変化率が Cartan の公式で dd のついた項に分かれることを使い、それを tt について 00 から 11 まで積分するというものです。KK は、その積分でできる「11 次下げる」操作です。

命題 3.1(ホモトピー公式)✓

kk 形式 ω∈Ωk(M×R)\omega\in\Omega^k(M\times\mathbb{R}) に対し、

(Kω)x(v1,…,vk−1)=∫01(iTω)(x,t)(d(it) v1,…,d(it) vk−1) dt(K\omega)_x(v_1,\dots,v_{k-1})=\int_0^1(i_T\omega)_{(x,t)}\bigl(d(i_t)\,v_1,\dots,d(i_t)\,v_{k-1}\bigr)\,dt

で定まる Kω∈Ωk−1(M)K\omega\in\Omega^{k-1}(M) は滑らかで(K ⁣:Ωk(M×R)→Ωk−1(M)K\colon\Omega^k(M\times\mathbb{R})\to\Omega^{k-1}(M))、

i1∗ω−i0∗ω=d Kω+K dω.i_1^*\omega-i_0^*\omega=d\,K\omega+K\,d\omega .

つまり Kω=∫01it∗(iTω) dtK\omega=\int_0^1i_t^*(i_T\omega)\,dt である。

証明(命題 3.1)

滑らかさは、チャートでの係数が (x,t)(x,t) について滑らかで、積分区間が有界なので、積分と xx に関する偏微分が交換できることから従います。同じ理由で dd は ∫01dt\int_0^1dt と可換です:d Kω=∫01d it∗(iTω) dt=∫01it∗(d iTω) dtd\,K\omega=\int_0^1d\,i_t^*(i_T\omega)\,dt=\int_0^1i_t^*(d\,i_T\omega)\,dt。

まず ddtit∗ω=it∗(LTω)\dfrac{d}{dt}i_t^*\omega=i_t^*(L_T\omega) を示します。it+s=ψs∘iti_{t+s}=\psi_s\circ i_t なので、各点で (it+s∗ω)x=(ψs∗ω)(x,t)∘d(it)x(i_{t+s}^*\omega)_x=(\psi_s^*\omega)_{(x,t)}\circ d(i_t)_x であり、右の線形写像 d(it)xd(i_t)_x は ss によりません。これを s=0s=0 で微分すると、定義 3.1[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理] により (LTω)(x,t)∘d(it)x(L_T\omega)_{(x,t)}\circ d(i_t)_x です。

各点・各接ベクトルについて t↦(it∗ω)x(v1,…,vk)t\mapsto(i_t^*\omega)_x(v_1,\dots,v_k) は滑らかな関数なので、微積分学の基本定理により

i1∗ω−i0∗ω=∫01ddtit∗ω dt=∫01it∗(LTω) dt.i_1^*\omega-i_0^*\omega=\int_0^1\frac{d}{dt}i_t^*\omega\,dt=\int_0^1i_t^*(L_T\omega)\,dt .

定理 4.2[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理] から LTω=d iTω+iTdωL_T\omega=d\,i_T\omega+i_Td\omega なので、右辺は ∫01it∗(d iTω) dt+∫01it∗(iTdω) dt=d Kω+K dω\int_0^1i_t^*(d\,i_T\omega)\,dt+\int_0^1i_t^*(i_Td\omega)\,dt=d\,K\omega+K\,d\omega です。

写像のホモトピーを次のように扱います。滑らかな写像 F,G ⁣:M→NF,G\colon M\to N が滑らかにホモトピックであるとは、滑らかな H ⁣:M×R→NH\colon M\times\mathbb{R}\to N で H∘i0=FH\circ i_0=F、H∘i1=GH\circ i_1=G となるものがあることとします。([0,1][0,1] 上のホモトピーは、滑らかな単調関数 g ⁣:R→[0,1]g\colon\mathbb{R}\to[0,1](t≤0t\le0 で 00、t≥1t\ge1 で 11)で時間を取り替えて R\mathbb{R} 上に延長できます。)直感的には、FF を途中で止めずに連続的に動かしていくと GG になる、ということです。

定理 3.2(ホモトピー不変性)✓

F,G ⁣:M→NF,G\colon M\to N が滑らかにホモトピックならば、F∗=G∗ ⁣:HdRk(N)→HdRk(M)F^*=G^*\colon H^k_{\mathrm{dR}}(N)\to H^k_{\mathrm{dR}}(M)。

証明(定理 3.2)

HH を滑らかなホモトピーとします。ω∈Ωk(N)\omega\in\Omega^k(N) を閉形式とすると H∗ωH^*\omega も閉で、命題 3.1 により

G∗ω−F∗ω=i1∗H∗ω−i0∗H∗ω=d K(H∗ω)+K d(H∗ω)=d K(H∗ω).G^*\omega-F^*\omega=i_1^*H^*\omega-i_0^*H^*\omega=d\,K(H^*\omega)+K\,d(H^*\omega)=d\,K(H^*\omega).

右辺は完全形式なので、[G∗ω]=[F∗ω][G^*\omega]=[F^*\omega] です。

写像 F ⁣:M→NF\colon M\to N が滑らかなホモトピー同値であるとは、滑らかな G ⁣:N→MG\colon N\to M で G∘FG\circ F、F∘GF\circ G がそれぞれ idM\mathrm{id}_M、idN\mathrm{id}_N に滑らかにホモトピックなものがあることとします。MM と NN が、連続的な変形で互いに写り合う関係にある、ということです。

系 3.3(ホモトピー同値は同型を誘導する)✓

F ⁣:M→NF\colon M\to N が滑らかなホモトピー同値ならば、F∗ ⁣:HdRk(N)→HdRk(M)F^*\colon H^k_{\mathrm{dR}}(N)\to H^k_{\mathrm{dR}}(M) は同型である。

証明(系 3.3)

定理 3.2 により (G∘F)∗=id(G\circ F)^*=\mathrm{id}、(F∘G)∗=id(F\circ G)^*=\mathrm{id}、すなわち F∗G∗=idF^*G^*=\mathrm{id} かつ G∗F∗=idG^*F^*=\mathrm{id} です。

連続なホモトピーで結ばれた滑らかな写像は、滑らかなホモトピーでも結べること(Whitney の近似定理)が知られています。この記事では使いませんが、これにより de Rham コホモロジーは連続写像の意味でのホモトピー不変量にもなります。

次の Poincaré の補題の「星形」とは、ある点 x0x_0 から見て、領域のどの点へも線分で行ける形のことです(凸集合は星形です)。証明の方針は、領域を x0x_0 に向かって縮める写像が恒等写像にホモトピックなので、コホモロジーが一点のものと同じになる、というものです。

定理 3.4(Poincaré の補題)✓

U⊂RnU\subset\mathbb{R}^n を星形の開集合(ある x0∈Ux_0\in U が存在し、すべての x∈Ux\in U について線分 [x0,x]⊂U[x_0,x]\subset U)とする。このとき HdR0(U)=RH^0_{\mathrm{dR}}(U)=\mathbb{R}、k≥1k\ge1 で HdRk(U)=0H^k_{\mathrm{dR}}(U)=0。すなわち UU 上の閉 kk 形式(k≥1k\ge1)は完全である。

証明(定理 3.4)

H0H^0 は 命題 2.2 (1) です(UU は連結)。滑らかな関数 g ⁣:R→[0,1]g\colon\mathbb{R}\to[0,1] を g(t)=f(t)/(f(t)+f(1−t))g(t)=f(t)/(f(t)+f(1-t))(ff は 補題 6.1[部分多様体と正則値定理] (1) の関数)で定めると、t≤0t\le0 で 00、t≥1t\ge1 で 11 です。

H ⁣:U×R→U,H(x,t)=x0+g(t)(x−x0)H\colon U\times\mathbb{R}\to U,\qquad H(x,t)=x_0+g(t)(x-x_0)

は、星形性から値が UU に入る滑らかな写像で、H∘i0H\circ i_0 は定値写像 c ⁣:U→{x0}↪Uc\colon U\to\{x_0\}\hookrightarrow U、H∘i1=idUH\circ i_1=\mathrm{id}_U です。定理 3.2 により id=c∗\mathrm{id}=c^* が Hk(U)H^k(U) 上で成り立ちます。ところが cc は点 {x0}\{x_0\} を経由し、k≥1k\ge1 では点の上の kk 形式は 00 なので Hk({x0})=0H^k(\{x_0\})=0、よって c∗=0c^*=0 です。ゆえに Hk(U)H^k(U) 上で恒等写像が 00 で、Hk(U)=0H^k(U)=0 です。

別の見方をすると、Rn\mathbb{R}^n 全体に対する 例 6.5[ベクトル場と微分形式] の「rot⁡F=0\operatorname{rot}\boldsymbol F=0 ならばポテンシャルが存在する」は、この補題の k=1k=1 の場合です。

もう一つ重要な同型を示しておきます。

系 3.5(円柱と穴あき空間)✓

  1. π ⁣:M×R→M\pi\colon M\times\mathbb{R}\to M を射影とすると π∗ ⁣:Hk(M)→Hk(M×R)\pi^*\colon H^k(M)\to H^k(M\times\mathbb{R}) は同型である。
  2. n≥1n\ge1 に対し、r ⁣:Rn∖{0}→Sn−1r\colon\mathbb{R}^n\setminus\{0\}\to S^{n-1}、r(x)=x/∣x∣r(x)=x/|x| は滑らかなホモトピー同値で、Hk(Rn∖{0})≅Hk(Sn−1)H^k(\mathbb{R}^n\setminus\{0\})\cong H^k(S^{n-1})。
証明(系 3.5)

(1) s=i0 ⁣:M→M×Rs=i_0\colon M\to M\times\mathbb{R} とすると π∘s=idM\pi\circ s=\mathrm{id}_M です。s∘π(x,t)=(x,0)s\circ\pi(x,t)=(x,0) は H((x,t),u)=(x,g(u)t)H((x,t),u)=(x,g(u)t) により id\mathrm{id} にホモトピックです(u=0u=0 で s∘πs\circ\pi、u=1u=1 で恒等)。よって π\pi はホモトピー同値です。

(2) 包含 j ⁣:Sn−1→Rn∖{0}j\colon S^{n-1}\to\mathbb{R}^n\setminus\{0\} とすると r∘j=idr\circ j=\mathrm{id}、j∘r(x)=x/∣x∣j\circ r(x)=x/|x| は H(x,u)=((1−g(u))/∣x∣+g(u))xH(x,u)=\bigl((1-g(u))/|x|+g(u)\bigr)x により id\mathrm{id} にホモトピックです(スカラーが常に正なので 00 を通りません)。

空間を二つの簡単な部分に分けて計算する道具を作ります。まず純粋に代数的な補題を証明します。

このあとの補題は、完全列の形をした余鎖複体の列から、コホモロジーの長い完全系列を作るものです。核心は連結準同型 ∂\partial の作り方で、手順は次の三つです。閉形式 cc を一つ右の複体から左へ持ち上げて bb とし、その dd を取ると、dbd b は一つ左の複体の元として書けます。この元が閉形式になり、その類が ∂[c]\partial[c] です。「持ち上げて、dd を取って、落とす」と覚えると、証明の追いやすさが変わります。

余鎖複体 A∙,B∙,C∙A^\bullet,B^\bullet,C^\bullet(実ベクトル空間と線形な dd の列)と、余鎖写像(dd と可換な線形写像)i ⁣:A∙→B∙i\colon A^\bullet\to B^\bullet、j ⁣:B∙→C∙j\colon B^\bullet\to C^\bullet が、各次数 kk で短完全列 0→Ak→iBk→jCk→00\to A^k\xrightarrow{i}B^k\xrightarrow{j}C^k\to0 をなすとします。

補題 4.1(長完全系列)✓

上の状況で、線形写像 ∂ ⁣:Hk(C∙)→Hk+1(A∙)\partial\colon H^k(C^\bullet)\to H^{k+1}(A^\bullet)(連結準同型)が定まり、

⋯→Hk(A)→i∗Hk(B)→j∗Hk(C)→ ∂ Hk+1(A)→i∗Hk+1(B)→⋯\cdots\to H^k(A)\xrightarrow{i_*}H^k(B)\xrightarrow{j_*}H^k(C)\xrightarrow{\ \partial\ }H^{k+1}(A)\xrightarrow{i_*}H^{k+1}(B)\to\cdots

は完全である。

証明(補題 4.1)

∂\partial の定義。 c∈Ckc\in C^k を閉(dc=0dc=0)とします。jj は全射なので c=j(b)c=j(b) となる b∈Bkb\in B^k があります。j(db)=d j(b)=dc=0j(db)=d\,j(b)=dc=0 なので db=i(a)db=i(a) となる a∈Ak+1a\in A^{k+1} が(ii の単射性から一意に)あります。i(da)=d i(a)=ddb=0i(da)=d\,i(a)=ddb=0 で ii は単射なので da=0da=0、aa は閉です。∂[c]:=[a]\partial[c]:=[a] と定めます。

well-defined。 bb を別の持ち上げ b′b' に取ると、j(b′−b)=0j(b'-b)=0 から b′−b=i(x)b'-b=i(x)(x∈Akx\in A^k)で、db′=db+i(dx)db'=db+i(dx) より a′=a+dxa'=a+dx、類は同じです。cc を c+dc′c+dc' に取り替えるとき、c′=j(b′′)c'=j(b'') とすれば持ち上げは b+db′′b+db'' で、d(b+db′′)=dbd(b+db'')=db なので aa は変わりません。線形性は明らかです。

Hk(A)→Hk(B)→Hk(C)H^k(A)\to H^k(B)\to H^k(C) での完全性。 j i=0j\,i=0 から j∗i∗=0j_*i_*=0。逆に b∈Bkb\in B^k が閉で [j(b)]=0[j(b)]=0 とします。j(b)=dc′j(b)=dc'、c′=j(b′)c'=j(b') と書くと j(b−db′)=0j(b-db')=0 なので b−db′=i(a)b-db'=i(a) (a∈Aka\in A^k) です。i(da)=d(b−db′)=0i(da)=d(b-db')=0 から da=0da=0 で、[b]=[i(a)]=i∗[a][b]=[i(a)]=i_*[a] です。

Hk(B)→Hk(C)→Hk+1(A)H^k(B)\to H^k(C)\to H^{k+1}(A) での完全性。 閉な bb に対し c=j(b)c=j(b) の持ち上げとして bb が取れ、db=0=i(0)db=0=i(0) なので ∂j∗[b]=0\partial j_*[b]=0。逆に ∂[c]=0\partial[c]=0 とし、持ち上げ bb と db=i(a)db=i(a) に対して a=dxa=dx (x∈Akx\in A^k) とします。b−i(x)b-i(x) は閉で(d(b−ix)=i(a)−i(dx)=0d(b-ix)=i(a)-i(dx)=0)、j(b−ix)=cj(b-ix)=c なので [c]=j∗[b−ix][c]=j_*[b-ix] です。

Hk(C)→Hk+1(A)→Hk+1(B)H^k(C)\to H^{k+1}(A)\to H^{k+1}(B) での完全性。 ∂[c]=[a]\partial[c]=[a] で i(a)=dbi(a)=db は完全なので i∗∂=0i_*\partial=0。逆に閉な a∈Ak+1a\in A^{k+1} で i(a)=db′i(a)=db' (b′∈Bkb'\in B^k) とします。c=j(b′)c=j(b') は閉で(dc=j(db′)=j i(a)=0dc=j(db')=j\,i(a)=0)、b′b' が持ち上げで db′=i(a)db'=i(a) なので ∂[c]=[a]\partial[c]=[a] です。

これを微分形式に適用します。M=U∪VM=U\cup V(U,VU,V は開集合)とし、

0→Ωk(M)→ r Ωk(U)⊕Ωk(V)→ δ Ωk(U∩V)→0,0\to\Omega^k(M)\xrightarrow{\ r\ }\Omega^k(U)\oplus\Omega^k(V)\xrightarrow{\ \delta\ }\Omega^k(U\cap V)\to0,

r(ω)=(ω∣U,ω∣V)r(\omega)=(\omega|_U,\omega|_V)、δ(α,β)=β∣U∩V−α∣U∩V\delta(\alpha,\beta)=\beta|_{U\cap V}-\alpha|_{U\cap V} とします。r,δr,\delta は制限なので dd と可換です。

補題 4.2(微分形式の短完全列)✓

上の列は各 kk で完全である。

証明(補題 4.2)

rr の単射性は、ω\omega が UU と VV の上で 00 なら MM 上で 00 ということです。δ∘r=0\delta\circ r=0 は明らかで、ker⁡δ⊂im⁡r\ker\delta\subset\operatorname{im}r は、α,β\alpha,\beta が U∩VU\cap V で一致するなら貼り合わせて MM 上の滑らかな形式が得られるということです。

δ\delta の全射性。定理 6.3[部分多様体と正則値定理] を被覆 {U,V}\{U,V\} に適用し、各 ρj\rho_j を supp⁡ρj⊂U\operatorname{supp}\rho_j\subset U か ⊂V\subset V かで二つのグループに分けて、ρU,ρV\rho_U,\rho_V を各グループの和とします(局所有限和)。ρU+ρV=1\rho_U+\rho_V=1、supp⁡ρU⊂U\operatorname{supp}\rho_U\subset U、supp⁡ρV⊂V\operatorname{supp}\rho_V\subset V(局所有限な閉集合族の和は閉)です。η∈Ωk(U∩V)\eta\in\Omega^k(U\cap V) とします。ρVη\rho_V\eta は U∩VU\cap V 上の形式ですが、UU の開集合 U∖supp⁡ρVU\setminus\operatorname{supp}\rho_V の上で 00 と置けば(U∩VU\cap V との重なりで 00 に一致するので)UU 上の滑らかな形式 α~\tilde\alpha に延長できます。同様に ρUη\rho_U\eta は VV 上の滑らかな形式 β~\tilde\beta に延長されます。δ(−α~,β~)=β~+α~=(ρU+ρV)η=η\delta(-\tilde\alpha,\tilde\beta)=\tilde\beta+\tilde\alpha=(\rho_U+\rho_V)\eta=\eta です。

定理 4.3(Mayer–Vietoris 完全系列)✓

M=U∪VM=U\cup V(U,VU,V は開集合)のとき、次の完全系列が存在する。

⋯→Hk(M)→r∗Hk(U)⊕Hk(V)→δ∗Hk(U∩V)→ ∂ Hk+1(M)→⋯\cdots\to H^k(M)\xrightarrow{r^*}H^k(U)\oplus H^k(V)\xrightarrow{\delta^*}H^k(U\cap V)\xrightarrow{\ \partial\ }H^{k+1}(M)\to\cdots

ここで r∗[ω]=([ω∣U],[ω∣V])r^*[\omega]=([\omega|_U],[\omega|_V])、δ∗([α],[β])=[β∣U∩V]−[α∣U∩V]\delta^*([\alpha],[\beta])=[\beta|_{U\cap V}]-[\alpha|_{U\cap V}]。

証明(定理 4.3)

補題 4.2 の短完全列に 補題 4.1 を適用します。

連結準同型 ∂\partial の中身を見ておきます。閉形式 η\eta on U∩VU\cap V に対し、η=δ(−ρVη,ρUη)\eta=\delta(-\rho_V\eta,\rho_U\eta) と持ち上げ、dd を取ると (−d(ρVη), d(ρUη))=(−dρV∧η, dρU∧η)(-d(\rho_V\eta),\ d(\rho_U\eta))=(-d\rho_V\wedge\eta,\ d\rho_U\wedge\eta)(dη=0d\eta=0 による)で、dρU=−dρVd\rho_U=-d\rho_V なので二つは U∩VU\cap V 上で一致し、MM 上の閉形式 dρU∧ηd\rho_U\wedge\eta(U∩VU\cap V の外では 00 と置く)が得られます。つまり

∂[η]=[dρU∧η]\partial[\eta]=[d\rho_U\wedge\eta]

です。

NSC1C2
円周を U = S¹ から N を除いたもの、V = S¹ から S を除いたもので覆う。共通部分 U∩V は二つの弧(太線)で、連結成分が 2 個あるので H⁰(U∩V) は 2 次元になる。

例 4.4(2 点を除いた平面)

p=(−1,0)p=(-1,0)、q=(1,0)q=(1,0)、M=R2∖{p,q}M=\mathbb{R}^2\setminus\{p,q\} とし、U={x<1/2}∖{p}U=\{x<1/2\}\setminus\{p\}、V={x>−1/2}∖{q}V=\{x>-1/2\}\setminus\{q\} とします。U∪V=MU\cup V=M で、U∩VU\cap V は帯状領域 {∣x∣<1/2}\{|x|<1/2\} で、星形(凸)です。UU は半平面から 1 点を除いたもので、R2∖{0}\mathbb{R}^2\setminus\{0\} と微分同相ですので、系 3.5 (2) により H0=RH^0=\mathbb{R}、H1=RH^1=\mathbb{R}、H2=H2(S1)=0H^2=H^2(S^1)=0(定理 5.1 の証明の n=1n=1 の部分、あるいは直接 Ω2(S1)=0\Omega^2(S^1)=0)。VV も同様です。

H0(M)=RH^0(M)=\mathbb{R}(連結)、H0(U)⊕H0(V)=R2H^0(U)\oplus H^0(V)=\mathbb{R}^2、H0(U∩V)=RH^0(U\cap V)=\mathbb{R} で、δ∗(a,b)=b−a\delta^*(a,b)=b-a は全射です。よって ∂ ⁣:H0(U∩V)→H1(M)\partial\colon H^0(U\cap V)\to H^1(M) は 00 写像で、H1(M)→H1(U)⊕H1(V)=R2H^1(M)\to H^1(U)\oplus H^1(V)=\mathbb{R}^2 は単射です。H1(U∩V)=0H^1(U\cap V)=0(定理 3.4)なので δ∗\delta^* の行き先は 00 で、完全性から r∗ ⁣:H1(M)→H1(U)⊕H1(V)r^*\colon H^1(M)\to H^1(U)\oplus H^1(V) は全射です。以上より H1(M)≅R2H^1(M)\cong\mathbb{R}^2。さらに H1(U∩V)=0→H2(M)→H2(U)⊕H2(V)=0H^1(U\cap V)=0\to H^2(M)\to H^2(U)\oplus H^2(V)=0 から H2(M)=0H^2(M)=0。穴が 2 個あれば H1H^1 は 2 次元、という予想どおりです。

定理 5.1(球面のコホモロジー)✓

  1. S0S^0(2 点)では HdR0=R2H^0_{\mathrm{dR}}=\mathbb{R}^2、他の kk で 00。
  2. n≥1n\ge1 では
HdRk(Sn)≅{R(k=0, n),0(それ以外).H^k_{\mathrm{dR}}(S^n)\cong\begin{cases}\mathbb{R}&(k=0,\ n),\\0&(\text{それ以外}).\end{cases}

証明の方針は、球面を北極と南極を除いた二つの開集合で覆い、Mayer–Vietoris で次元を一つ下げた球面に帰着させる帰納法です。n=1n=1 と n≥2n\ge2 の違いは、共通部分が n=1n=1 では連結成分を二つ持ち、n≥2n\ge2 では連結である点だけです。この違いが H0H^0 と H1H^1 の場合分けに現れます。

証明(定理 5.1)

(1) は明らかです(点の上の 00 形式は数、k≥1k\ge1 の形式は 00)。(2) を nn に関する帰納法で示します。

N=(0,…,0,1)N=(0,\dots,0,1)、S=−NS=-N とし、U=Sn∖{N}U=S^n\setminus\{N\}、V=Sn∖{S}V=S^n\setminus\{S\} とします。立体射影(補題 5.2[微分可能多様体の定義])により U≅RnU\cong\mathbb{R}^n、V≅RnV\cong\mathbb{R}^n で、U∩V=Sn∖{N,S}U\cap V=S^n\setminus\{N,S\} は Rn∖{0}\mathbb{R}^n\setminus\{0\} と微分同相です。定理 3.4 から H0(U)=H0(V)=RH^0(U)=H^0(V)=\mathbb{R}、k≥1k\ge1 で Hk(U)=Hk(V)=0H^k(U)=H^k(V)=0。系 3.5 (2) から Hk(U∩V)≅Hk(Sn−1)H^k(U\cap V)\cong H^k(S^{n-1})。定理 4.3 を使います。

k≥2k\ge2 のとき。 Hk−1(U)⊕Hk−1(V)=0H^{k-1}(U)\oplus H^{k-1}(V)=0(k−1≥1k-1\ge1)、Hk(U)⊕Hk(V)=0H^k(U)\oplus H^k(V)=0 なので

0→Hk−1(U∩V)→ ∂ Hk(Sn)→00\to H^{k-1}(U\cap V)\xrightarrow{\ \partial\ }H^k(S^n)\to0

が完全で、Hk(Sn)≅Hk−1(Sn−1)H^k(S^n)\cong H^{k-1}(S^{n-1})。

k=0,1k=0,1 のとき。 系列の初めの部分は

0→H0(Sn)→R2→ δ∗ H0(U∩V)→ ∂ H1(Sn)→0.0\to H^0(S^n)\to\mathbb{R}^2\xrightarrow{\ \delta^*\ }H^0(U\cap V)\xrightarrow{\ \partial\ }H^1(S^n)\to0 .

ここで H1(U)⊕H1(V)=0H^1(U)\oplus H^1(V)=0 を使いました。δ∗(a,b)=b−a\delta^*(a,b)=b-a(定数関数の差)です。

  • n≥2n\ge2:U∩V≃Sn−1U\cap V\simeq S^{n-1} は連結なので H0(U∩V)=RH^0(U\cap V)=\mathbb{R}。δ∗\delta^* は全射で、核は 1 次元(a=ba=b)、よって H0(Sn)=RH^0(S^n)=\mathbb{R}、H1(Sn)=0H^1(S^n)=0。
  • n=1n=1:U∩VU\cap V は 2 個の連結成分を持つので H0(U∩V)=R2H^0(U\cap V)=\mathbb{R}^2、δ∗(a,b)=(b−a,b−a)\delta^*(a,b)=(b-a,b-a) の像は 1 次元。核が 1 次元なので H0(S1)=RH^0(S^1)=\mathbb{R}、余核が 1 次元なので H1(S1)=RH^1(S^1)=\mathbb{R}。

以上から n=1n=1 では k≥2k\ge2 で Hk(S1)≅Hk−1(S0)=0H^k(S^1)\cong H^{k-1}(S^0)=0。n≥2n\ge2 では Hk(Sn)≅Hk−1(Sn−1)H^k(S^n)\cong H^{k-1}(S^{n-1})(k≥2k\ge2)に帰納法の仮定を使えば、Hn(Sn)≅H1(S1)=RH^n(S^n)\cong H^1(S^1)=\mathbb{R} で、それ以外の k≥2k\ge2 では 00 です。

とくに H1(S1)=RH^1(S^1)=\mathbb{R} から、円周上の 1 形式は必ず閉であり(Ω2(S1)=0\Omega^2(S^1)=0)、∫S1\int_{S^1} が同型を与えます。一般に次が成り立ちます。

系 5.2(最高次のコホモロジーは積分で測る)✓

n≥1n\ge1 とし、SnS^n に 命題 3.3[ストークスの定理] の向きを入れる。このとき

∫Sn ⁣:HdRn(Sn)→R,[ω]↦∫Snω\int_{S^n}\colon H^n_{\mathrm{dR}}(S^n)\to\mathbb{R},\qquad[\omega]\mapsto\int_{S^n}\omega

は well-defined な同型である。

証明(系 5.2)

ω\omega は nn 形式なので閉です。ω\omega を ω+dα\omega+d\alpha に取り替えても、SnS^n はコンパクトで境界を持たないので ∫dα=0\int d\alpha=0(系 6.2[ストークスの定理])、積分は変わりません。線形写像は well-defined です。体積形式 μ\mu では ∫μ>0\int\mu>0 なので写像は 00 でなく、Hn(Sn)H^n(S^n) は 1 次元(定理 5.1)ですから、00 でない線形写像 R→R\mathbb{R}\to\mathbb{R} は同型です。

系 5.3(穴あき平面の閉 1 形式)✓

η\eta を角度形式とする。R2∖{0}\mathbb{R}^2\setminus\{0\} 上の閉 1 形式 ω\omega は、定数 c=12π∫S1ωc=\dfrac1{2\pi}\displaystyle\int_{S^1}\omega と関数 ff を用いて ω=c η+df\omega=c\,\eta+df と書ける。ここで S1S^1 は単位円(反時計回り)。とくに HdR1(R2∖{0})=R[η]H^1_{\mathrm{dR}}(\mathbb{R}^2\setminus\{0\})=\mathbb{R}[\eta]。

証明(系 5.3)

系 3.5 (2) と 定理 5.1 より H1(R2∖{0})≅H1(S1)H^1(\mathbb{R}^2\setminus\{0\})\cong H^1(S^1) は 1 次元で、この同型は [ω]↦[j∗ω][\omega]\mapsto[j^*\omega](j ⁣:S1→R2∖{0}j\colon S^1\to\mathbb{R}^2\setminus\{0\} は包含)で、系 5.2 により ∫S1j∗ω\int_{S^1}j^*\omega で測れます。∫S1η=2π\int_{S^1}\eta=2\pi なので、ω−cη\omega-c\eta の S1S^1 上の積分は 00 となり、類が 00 です。したがって ω−cη=df\omega-c\eta=df です。

この系は、ベクトル場の「周回積分」が閉曲線の取り方(ホモトピー類)にしか依らない、という物理学の古典的事実の背景です。

例 5.4(ゲージ場の周回積分)

無限に長い細いソレノイドの外側の領域(R2∖{0}\mathbb{R}^2\setminus\{0\} と思ってよい)では、磁場は 00 ですが、ベクトルポテンシャルの 1 形式を A=Φ2πηA=\dfrac{\Phi}{2\pi}\eta と取ることができます(Φ\Phi はソレノイドの中を貫く磁束)。dA=0dA=0 は磁場が 00 であることに相当します。ところが 系 5.3 により、AA は dfdf の形に書けません。実際 ∫S1A=Φ≠0\int_{S^1}A=\Phi\ne0 です。ゲージ変換 A↦A+dfA\mapsto A+df では周回積分 ∫A\int A は変わらないので、これは物理的に観測できる量です(Aharonov–Bohm 効果では、電子の波動関数の位相 eiqΦ/ℏe^{iq\Phi/\hbar} として現れます)。「磁場が 00 でも AA を消せない」ことの数学的な内容が、HdR1(R2∖{0})≠0H^1_{\mathrm{dR}}(\mathbb{R}^2\setminus\{0\})\ne0 です。

例 5.5(トーラスのコホモロジー)

T2=S1×S1T^2=S^1\times S^1 を Mayer–Vietoris で計算します。第 1 の円周を二つの開弧 A,BA,B(それぞれ区間と微分同相で、A∩BA\cap B は二つの区間 I1,I2I_1,I_2)で覆い、U=A×S1U=A\times S^1、V=B×S1V=B\times S^1 とします。U,V≅R×S1U,V\cong\mathbb{R}\times S^1 で、系 3.5 (1) と 定理 5.1 から H0=H1=RH^0=H^1=\mathbb{R}、H2=0H^2=0 です。U∩V=(I1⊔I2)×S1U\cap V=(I_1\sqcup I_2)\times S^1 は 2 個の円柱の非交和で、H0=H1=R2H^0=H^1=\mathbb{R}^2、H2=0H^2=0 です。

第 2 の円周の角度形式 dφd\varphi の第 2 射影による引き戻し g=pr2∗dφg=\mathrm{pr}_2^*d\varphi は、U,V,U∩VU,V,U\cap V の各連結成分の H1H^1 の生成元を与えます(系 3.5 (1) の同型 pr2∗\mathrm{pr}_2^*)。

  • k=0k=0:H0(T2)=RH^0(T^2)=\mathbb{R} から、δ∗ ⁣:R2→R2\delta^*\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2、(a,b)↦(b−a,b−a)(a,b)\mapsto(b-a,b-a) の階数は 11 で、余核は 1 次元。
  • k=1k=1:δ∗ ⁣:H1(U)⊕H1(V)=R2→H1(U∩V)=R2\delta^*\colon H^1(U)\oplus H^1(V)=\mathbb{R}^2\to H^1(U\cap V)=\mathbb{R}^2 は、gUg_U の I1,I2I_1,I_2 への制限がどちらも gg なので、(a,b)↦(b−a)(g1+g2)(a,b)\mapsto(b-a)(g_1+g_2) で階数 11。核は 1 次元、余核は 1 次元。

完全性から、dim⁡H1(T2)=(余核 1)+(核 1)=2\dim H^1(T^2)=(\text{余核 }1)+(\text{核 }1)=2、H2(T2)≅coker⁡δ∗=RH^2(T^2)\cong\operatorname{coker}\delta^*=\mathbb{R}(H2(U)⊕H2(V)=0H^2(U)\oplus H^2(V)=0)。以上で dim⁡Hk(T2)=1,2,1\dim H^k(T^2)=1,2,1(k=0,1,2k=0,1,2)が分かりました。H1H^1 の 2 つの生成元は二つの円周それぞれの角度形式 dθ1,dθ2d\theta_1,d\theta_2 で、これらはトーラスの二つの独立な閉曲線(経線と緯線)に沿った積分で区別されます。

演習 6.1易

円柱 S1×RS^1\times\mathbb{R} の de Rham コホモロジーを求めよ。

解答

系 3.5 (1) により Hk(S1×R)≅Hk(S1)H^k(S^1\times\mathbb{R})\cong H^k(S^1) なので、定理 5.1 から H0=RH^0=\mathbb{R}、H1=RH^1=\mathbb{R}、他は 00 です。生成元は dθd\theta(θ\theta は円周の角度座標)の引き戻しです。

演習 6.2標準

MM を空でないコンパクトで境界のない、向き付けられた nn 次元多様体とする。HdRn(M)≠0H^n_{\mathrm{dR}}(M)\ne0 を示せ。

解答

向きを定める体積形式 μ\mu(至るところ正)は nn 形式なので閉で、∫Mμ>0\int_M\mu>0 です。系 6.2[ストークスの定理] により完全形式の積分は 00 なので μ\mu は完全でなく、[μ]≠0[\mu]\ne0 です。

演習 6.3標準

Mayer–Vietoris 完全系列を用いて、R3\mathbb{R}^3 から 2 点 p=(−1,0,0)p=(-1,0,0)、q=(1,0,0)q=(1,0,0) を除いた空間 MM の HdRk(M)H^k_{\mathrm{dR}}(M) を求めよ。

解答

例 4.4 と同じく U={x<1/2}∖{p}U=\{x<1/2\}\setminus\{p\}、V={x>−1/2}∖{q}V=\{x>-1/2\}\setminus\{q\} を取ります。U,V≅R3∖{0}U,V\cong\mathbb{R}^3\setminus\{0\} で、H0=RH^0=\mathbb{R}、H2=RH^2=\mathbb{R}、H1=H3=0H^1=H^3=0(系 3.5 と 定理 5.1)。U∩VU\cap V は星形で H0=RH^0=\mathbb{R}、他は 00。k=0k=0:MM は連結で H0(M)=RH^0(M)=\mathbb{R}、δ∗ ⁣:R2→R\delta^*\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R} は全射なので ∂=0\partial=0、H1(M)↪H1(U)⊕H1(V)=0H^1(M)\hookrightarrow H^1(U)\oplus H^1(V)=0 から H1(M)=0H^1(M)=0。k=2k=2:H1(U∩V)=0→H2(M)→H2(U)⊕H2(V)=R2→H2(U∩V)=0H^1(U\cap V)=0\to H^2(M)\to H^2(U)\oplus H^2(V)=\mathbb{R}^2\to H^2(U\cap V)=0 から H2(M)≅R2H^2(M)\cong\mathbb{R}^2。k=3k=3:H3(U)⊕H3(V)=0H^3(U)\oplus H^3(V)=0、H2(U∩V)=0H^2(U\cap V)=0 から H3(M)=0H^3(M)=0。したがって H0=RH^0=\mathbb{R}、H2=R2H^2=\mathbb{R}^2、他は 00 です。2 点を囲む 2 個の球面が独立な類を与えます。

演習 6.4難

S1S^1 を反時計回りに向き付け、N=(0,1)N=(0,1)、S=(0,−1)S=(0,-1)、U=S1∖{N}U=S^1\setminus\{N\}、V=S1∖{S}V=S^1\setminus\{S\} とする。ρU,ρV\rho_U,\rho_V を従属する 1 の分割とし、NN の近くで ρU=0\rho_U=0、SS の近くで ρU=1\rho_U=1 とする。U∩VU\cap V の二つの連結成分は右半円 C1C_1(SS から NN へ反時計回りに進む弧)と左半円 C2C_2 である。h∈H0(U∩V)h\in H^0(U\cap V) を C1C_1 上で 11、C2C_2 上で 00 の局所定数関数とするとき、連結準同型について ∫S1∂[h]\int_{S^1}\partial[h] を求めよ。

解答

本文の公式 ∂[η]=[dρU∧η]\partial[\eta]=[d\rho_U\wedge\eta] を使います。hh は 00 形式で、dρUd\rho_U は N,SN,S の近くで 00 なので、dρU⋅hd\rho_U\cdot h は C1C_1 に台を持つ S1S^1 上の 1 形式(C1C_1 の外で 00)です。C1C_1 を SS から NN へ反時計回りにたどると ρU\rho_U は 11 から 00 に変わるので、

∫S1∂[h]=∫C1dρU=ρU(N)−ρU(S)=0−1=−1.\int_{S^1}\partial[h]=\int_{C_1}d\rho_U=\rho_U(N)-\rho_U(S)=0-1=-1 .

これは 00 でないので、∂\partial は 系 5.2 の同型 ∫S1\int_{S^1} を通して全射です。一方、定数関数(C1,C2C_1,C_2 の両方で 11)に対しては ∫dρU=∫C1dρU+∫C2dρU=−1+1=0\int d\rho_U=\int_{C_1}d\rho_U+\int_{C_2}d\rho_U=-1+1=0 で、∂\partial の核に入ります。これは δ∗\delta^* の像と一致していて、完全性と合っています。

  • Raoul Bott, Loring W. Tu『Differential Forms in Algebraic Topology』Springer、1982 — 第 1 章(de Rham コホモロジー、Mayer–Vietoris、ホモトピー不変性)。
  • John M. Lee『Introduction to Smooth Manifolds』(第 2 版)Springer、2013 — 第 17 章(de Rham コホモロジー)。
  • Ib Madsen, Jørgen Tornehave『From Calculus to Cohomology』Cambridge University Press、1997 — 第 9〜10 章。
  • 松本幸夫『多様体の基礎』東京大学出版会、1988 — de Rham コホモロジーの章。
  • 坪井俊『幾何学 III 微分形式』東京大学出版会、2008 — ド・ラームコホモロジー。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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