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h 同境定理・エキゾチック球面・低次元トポロジーの入口

対象読者: 本テーマ第 4〜6 章(Thom 類・ハンドル分解・同境)と、基本群・被覆空間を学んだ修士課程以上の人。Hirzebruch の符号数定理は主張として使います。

前提となる記事:ハンドル分解と手術:曲面の分類と Heegaard 分解、同境と Pontryagin–Thom 構成、Thom 類と Poincaré 双対:交叉とカップ積、Euler 類、基本群と被覆空間:ループの代数で穴を数え、π₁(S¹)=ℤ・van Kampen・Galois 対応まで

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球面とそっくりに見える図形は、本当に球面と同じ形なのでしょうか。「同じ形」を、伸び縮みだけで移り合うことと取るか、なめらかさまで込めて移り合うことと取るかで、答えが変わることがあります。この記事では、次元が大きいときには簡単な条件を確かめるだけで形が決まること、7 次元には球面と同じ形でありながらなめらかさの意味では別物の「球面」があること、3 次元の結び目と 4 次元の多様体では事情が違うことを、順に見ていきます。読み終えると、次元ごとに何が分かっていて何が分かっていないかと、それぞれの結果の証明の筋を説明できるようになります。

  • h 同境定理(Smale):次元 6 以上の単連結な h 同境(両端の多様体から全体への包含が、どちらもホモトピー同値になる同境)は積 M0×[0,1]M_0\times[0,1] に微分同相です(定理 2.2。主張のみ)。これから、次元 6 以上のホモトピー球面は球面に同相であること(系 2.9)と、可縮な多様体が円板であること(系 2.8)が従います。
  • 証明の筋は「ハンドルをすべて消去する」ことです。並べ替え・0-ハンドルの消去・代数的な条件まではハンドル分解の定理(ハンドルの消去定理は同章で主張のみ)から導け(命題 2.12)、残る核心は、符号つきの交点数 ±1\pm1 を幾何的な 1 点にする Whitney の技巧(逆符号の 2 つの交点の間に円板を張って、2 点を同時に消す操作)です。これは次元が足りない 4 次元で破れます。
  • S4S^4 上の S3S^3 束 Mh,jM_{h,j}(h+j=1h+j=1)は、臨界点が 2 つの Morse 関数をもつので S7S^7 に同相です。一方 (h−j)2≢1(mod7)(h-j)^2\not\equiv1\pmod7 なら S7S^7 に微分同相ではありません(定理 3.3。後半は Hirzebruch の符号数定理(符号数を Pontryagin 数で表す公式)と Pontryagin 数の整数性に依存)。
  • 結び目は必ず向き付けられた曲面(Seifert 膜。結び目を縁にもつ曲面)の境界になります(定理 4.4)。結び目の補空間のホモロジーは結び目によらず(命題 4.8)、区別には基本群が要ります。三葉結び目の群は対称群 S3S_3 の上への全射をもち、自明な結び目と区別できます(定理 4.9)。
  • 単連結な閉 4 次元多様体では H2H_2 が自由で、交叉形式がユニモジュラー(基底についての行列式が ±1\pm1)です(命題 5.3)。位相的な分類は交叉形式でほぼ尽くされ(Freedman。定理 5.7)、滑らかな構造をもつための強い制約があります(Donaldson。定理 5.9)。この 2 つは主張のみです。

滑らかな多様体の章の 注意 6.7[微分可能多様体の定義] で、同相だが微分同相でない多様体があるかという問題と、Milnor の 7 次元球面に触れました。この章では、これまでに準備した横断性・ハンドル分解・同境不変量を使って、この問題がどこまで分かっているかを次元ごとに見渡します。

多様体の分類には、次元による著しい違いがあります。次元 2 以下では、分類は 定理 7.5[ハンドル分解と手術] のとおり完全で、位相的な分類と滑らかな分類は一致します。次元 5 以上では、「一般の位置に動かせば交わらない」という数え方(2+2<52+2\lt5)が円板に対して使えるので、ハンドルの消去が代数的な条件だけで実行でき、分類はホモトピー論と代数の問題に帰着します。その境目にある次元 3 と 4 では、この数え方がちょうど足りず、結び目理論やゲージ理論といった別の道具が必要になります。

この章には証明しない定理が 4 つあります。どれも証明が本 1 冊分になるか、研究水準の結果です。このほか、ハンドル分解の章で主張のみとしたハンドルの消去定理(定理 5.2[ハンドル分解と手術])を、§2.3 の 1 か所(命題 2.12 の 3 の最後の主張)で仮定として使います。指数 00 と 11 の対の消去は同章の 補題 5.6[ハンドル分解と手術] で証明済みで、仮定ではありません。何を証明し、何を主張だけにするかを先に表にしておきます。

証明するもの主張のみのもの(理由と出典は各定理の直後の注意)
Alexander の技巧、ねじれ球面が球面に同相であることh 同境定理(定理 2.2)
h 同境定理からの 3 つの帰結Whitney の技巧(定理 2.4。h 同境定理の証明の一部)
h 同境定理の証明のうち、0-ハンドルと nn-ハンドルの消去と、交点数が ±1\pm1 になることFreedman の定理(定理 5.7)
Mh,jM_{h,j}(h+j=1h+j=1)が S7S^7 に同相であること、特性数の計算Donaldson の定理(定理 5.9)
Seifert 膜の存在、絡み数の公式、結び目の補空間のホモロジー、三葉結び目の非自明性
単連結な閉 4 次元多様体の H2H_2 が自由で、交叉の対がユニモジュラーであること、3 つの例の交叉形式

このほか、Mh,jM_{h,j} が S7S^7 に微分同相でないことの証明は、既出の Hirzebruch の符号数定理(定理 3.14[指数定理]。主張のみ)と、Pontryagin 数の整数性(Rikai ではまだ証明していない事実)に依存します。この依存は定理の仮定として明示します。

多様体は滑らか・Hausdorff・第二可算、閉多様体はコンパクトで境界のないものとします。同境、Morse 関数、ハンドルの用語はハンドル分解の章のとおりです。

定義 2.1(h 同境、ホモトピー球面、ねじれ球面)↗

  1. 同境 W ⁣:M0⇝M1W\colon M_0\rightsquigarrow M_1(定義 2.1[ハンドル分解と手術])が h 同境であるとは、包含 M0↪WM_0\hookrightarrow W と M1↪WM_1\hookrightarrow W がどちらもホモトピー同値であることをいう。
  2. 球面 SnS^n にホモトピー同値な閉 nn 次元多様体をホモトピー球面という。
  3. h ⁣:Sn−1→Sn−1h\colon S^{n-1}\to S^{n-1} を微分同相とする。2 つの円板 DnD^n を境界で hh により貼り合わせた閉多様体 Σh=Dn∪hDn\Sigma_h=D^n\cup_hD^n(定理 7.2[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])をねじれ球面という。

定理 2.2(h 同境定理(Smale。主張のみ))※

n≥6n\ge6 とし、W ⁣:M0⇝M1W\colon M_0\rightsquigarrow M_1 を nn 次元の同境で、WW、M0M_0、M1M_1 がいずれも単連結、かつ Hk(W,M0)=0H_k(W,M_0)=0(すべての kk)であるものとする。このとき、M0M_0 の上で (z,0)↦z(z,0)\mapsto z となる微分同相 M0×[0,1]→WM_0\times[0,1]\to W が存在する。とくに M0M_0 と M1M_1 は微分同相である。

注意 2.3

定理 2.2 は主張のみで、この記事では証明しません。証明は、WW のハンドル分解からハンドルをすべて消去するもので、§2.3 でその筋を追い、ハンドル分解の章の定理から証明できる段は証明します。証明できない段は、1-ハンドルを 3-ハンドルに取り替える操作、ハンドルの滑らせによる基底の取り替え、そして Whitney の技巧(定理 2.4)です。これらを省略なしに書くと J. Milnor『Lectures on the h-Cobordism Theorem』(Princeton University Press, 1965)の §6–§9、約 50 ページになり、1 つの記事には収まりません。原論文は S. Smale, “On the structure of manifolds”, Amer. J. Math. 84 (1962), 387–399 です。仮定のうち「単連結かつ H∗(W,M0)=0H_*(W,M_0)=0」は、単連結な WW、M0M_0、M1M_1 については h 同境であることと同値です(一方は自明、他方は Hurewicz の定理と Whitehead の定理による)。単連結でない場合は Whitehead ねじれという代数的な障害が現れます(s 同境定理)。

定理 2.4(Whitney の技巧(主張のみ))※

VV を単連結な mm 次元の境界のない多様体、PP、QQ をその連結でコンパクトな境界のない部分多様体で、dim⁡P+dim⁡Q=m\dim P+\dim Q=m、dim⁡P≥2\dim P\ge2、dim⁡Q≥3\dim Q\ge3(したがって m≥5m\ge5)、PP と QQ が横断的に交わるとする。dim⁡P=2\dim P=2 のときは、さらに V∖QV\setminus Q も単連結であるとする。PP と、QQ の法束が向き付けられているとし(交点 xx の符号は、同型 TxP→TxV/TxQT_xP\to T_xV/T_xQ が向きを保つかどうかで決める)、交点 x,y∈P∩Qx,y\in P\cap Q の符号が逆であるとする。このとき VV のアンビエントイソトピー hth_t で、ほかの交点の近くでは恒等写像であり、h1(P)h_1(P) が QQ と横断的に交わって h1(P)∩Q=P∩Q∖{x,y}h_1(P)\cap Q=P\cap Q\setminus\{x,y\} となるものが存在する。したがって、交点の符号の和が ±1\pm1 なら、PP をイソトピーで動かして QQ とちょうど 1 点で横断的に交わるようにできる。

注意 2.5

定理 2.4 も主張のみです(h 同境定理の証明の一部として、同じ扱いにします)。証明は、xx と yy を PP の中の弧と QQ の中の弧で結んでできる閉曲線に 2 次元円板(Whitney 円板)を張り、その円板に沿って PP を押し出して 2 つの交点を同時に消す、というものです。円板を埋め込みに取り、内部が PP、QQ と交わらないようにし、さらに円板の法枠を PP と QQ に沿う形に延ばす必要があり、そこに単連結性と次元の仮定が使われます。上の主張は Milnor の本の §6 にある定理を、VV が単連結で PP、QQ が連結な場合に述べたものです(原文は、xx と yy を結ぶ 2 本の弧からなる閉曲線が VV の中で可縮であることと、dim⁡P≤2\dim P\le2 のとき π1(V∖Q)→π1(V)\pi_1(V\setminus Q)\to\pi_1(V) が単射であることを仮定します。dim⁡P≥3\dim P\ge3 なら後者は自動的に成り立ちます)。出典は H. Whitney, “The self-intersections of a smooth nn-manifold in 2n2n-space”, Ann. of Math. 45 (1944), 220–246 と、上記 Milnor の本の §6 です。

補題 2.6(Alexander の技巧)✓

任意の同相写像 h ⁣:Sn−1→Sn−1h\colon S^{n-1}\to S^{n-1} は、同相写像 hˉ ⁣:Dn→Dn\bar h\colon D^n\to D^n、hˉ(tx)=t h(x)\bar h(tx)=t\,h(x)(x∈Sn−1x\in S^{n-1}、0≤t≤10\le t\le1)に延びる。したがって、ねじれ球面 Σh\Sigma_h は SnS^n に同相である。

証明(補題 2.6)

hˉ\bar h は t>0t\gt0 で連続で、∣hˉ(tx)∣=t|\bar h(tx)|=t なので原点でも連続です。h−1h^{-1} から同じ式で作った写像が逆を与えるので、hˉ\bar h は同相写像です。Σh\Sigma_h は、非交和 D1⊔D2D_1\sqcup D_2(どちらも DnD^n)で x∈∂D2x\in\partial D_2 と h(x)∈∂D1h(x)\in\partial D_1 を同一視したものです。SnS^n を 2 つの半球 D1∪idD2D_1\cup_{\mathrm{id}}D_2 と見て、D1D_1 の上で恒等写像、D2D_2 の上で hˉ\bar h とおくと、x∈∂D2x\in\partial D_2 は h(x)∈∂D2h(x)\in\partial D_2 に写り、これは SnS^n の中で h(x)∈∂D1h(x)\in\partial D_1 と同じ点なので、同一視と両立します。コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射なので同相写像です。

hˉ\bar h は hh が微分同相でも原点で滑らかとは限りません。これが、ねじれ球面が球面に微分同相とは限らない理由です。

命題 2.7(臨界点が 2 つの Morse 関数をもつ閉多様体はねじれ球面)✓

MM を閉 nn 次元多様体(n≥1n\ge1)とし、臨界点がちょうど 2 つで、どちらも非退化な滑らかな関数 f ⁣:M→Rf\colon M\to\mathbb{R} があるとする。このとき MM はあるねじれ球面 Σh\Sigma_h に微分同相である。とくに MM は SnS^n に同相である。

証明(命題 2.7)

定理 8.3[Morse 理論] の証明のとおり、2 つの臨界点は最小点 pp(指数 00)と最大点 qq(指数 nn)で、f(p)=0f(p)=0、f(q)=1f(q)=1 としてよく、小さい ε>0\varepsilon\gt0 について、Morse チャート(定理 3.2[Morse 理論])uu により Mε={f≤ε}={∣u∣2≤ε}M^\varepsilon=\{f\le\varepsilon\}=\{|u|^2\le\varepsilon\} は v↦u−1(ε v)v\mapsto u^{-1}(\sqrt\varepsilon\,v) で DnD^n に微分同相、同様に D2={f≥1−ε}D_2=\{f\ge1-\varepsilon\} も DnD^n に微分同相です。区間 [ε,1−ε][\varepsilon,1-\varepsilon] は臨界値を含まないので、定理 5.1[Morse 理論] の 1 により MM の微分同相 Φ\Phi で Φ(Mε)=M1−ε\Phi(M^\varepsilon)=M^{1-\varepsilon} となるものがあります。よって D1=M1−εD_1=M^{1-\varepsilon} も DnD^n に微分同相で、M=D1∪D2M=D_1\cup D_2、D1∩D2=f−1(1−ε)D_1\cap D_2=f^{-1}(1-\varepsilon) は両方の境界です。gi ⁣:Di→Dng_i\colon D_i\to D^n を微分同相とすると、h=g1∘g2−1∣Sn−1h=g_1\circ g_2^{-1}|_{S^{n-1}} は Sn−1S^{n-1} の微分同相で、g1g_1、g2g_2 は MM から Dn∪hDnD^n\cup_hD^n への全単射を定めます。等位面 f−1(1−ε)f^{-1}(1-\varepsilon) の両側のカラーとして勾配状ベクトル場の流れによるもの(定理 2.7[ハンドル分解と手術])を取れば、これは貼り合わせの構造についての微分同相です(定理 7.2[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])。後半は 補題 2.6 です。

これは Reeb の球面定理を「ねじれ球面に微分同相」の形に精密にしたものです。§3 で、この命題を使って Milnor の多様体が S7S^7 に同相であることを示します。

系 2.8(円板の特徴づけ)△

n≥6n\ge6 とし、WW をコンパクトで単連結な nn 次元の境界付き多様体で、境界 ∂W\partial W が空でなく単連結、かつ H~k(W)=0\tilde H_k(W)=0(すべての kk。WW が可縮ならこれは成り立つ)であるものとする。定理 2.2 を仮定すると、WW は DnD^n に微分同相である。

証明の方針は次のとおりです。WW から小さい円板を 1 つ抜いた W0W_0 は、その円板の境界と ∂W\partial W をつなぐ同境になり、仮定からそれは h 同境です。定理 2.2 でこれが積と分かるので、抜いた円板を戻すと、WW は円板 D0D_0 の外側に カラー(境界に沿った積の形の帯)を継ぎ足したものにすぎない、という流れです。

証明(系 2.8)

WW の内部のチャートの中に閉円板 D0D_0 を取り、W0=W∖int⁡D0W_0=W\setminus\operatorname{int}D_0 とします。W0W_0 は同境 ∂D0⇝∂W\partial D_0\rightsquigarrow\partial W です。

単連結性。 WW を、W0W_0 と D0D_0 を少し太らせた 2 つの開集合の和と見ます。共通部分は Sn−1S^{n-1} にホモトピー同値で、n≥3n\ge3 なので単連結です(命題 6.3[基本群と被覆空間])。系 6.2[基本群と被覆空間] の 2 により π1(W)≅π1(W0)/N\pi_1(W)\cong\pi_1(W_0)/N で、NN は自明な群の像の正規閉包なので自明、π1(W0)≅π1(W)=1\pi_1(W_0)\cong\pi_1(W)=1 です。∂D0=Sn−1\partial D_0=S^{n-1} も単連結です。

相対ホモロジー。 D0D_0 と同心の小さい開円板 D0′D_0' を取ると、切除定理(定理 5.3[特異ホモロジー])により Hk(W∖D0′,D0∖D0′)≅Hk(W,D0)H_k(W\setminus D_0',D_0\setminus D_0')\cong H_k(W,D_0) です。D0∖D0′D_0\setminus D_0' は動径方向に ∂D0\partial D_0 へ変位レトラクトするので、対 (W0,∂D0)⊂(W∖D0′,D0∖D0′)(W_0,\partial D_0)\subset(W\setminus D_0',D_0\setminus D_0') はホモロジーの同型を誘導します(対の長完全列と五項補題。系 3.2[特異ホモロジー]、補題 3.3[特異ホモロジー])。D0D_0 と WW はどちらも連結で被約ホモロジーが 00 なので、対 (W,D0)(W,D_0) の長完全列から Hk(W,D0)=0H_k(W,D_0)=0 です。よって Hk(W0,∂D0)=0H_k(W_0,\partial D_0)=0 です。

定理 2.2 により、∂D0\partial D_0 の上で恒等写像となる微分同相 Sn−1×[0,1]→W0S^{n-1}\times[0,1]\to W_0 があります。WW は D0D_0 と W0W_0 を ∂D0\partial D_0 に沿って貼り合わせたもので、WW の構造は、WW の中の ∂D0\partial D_0 の両側のカラーによる貼り合わせの構造です。上の微分同相により、WW は、D0D_0 と Sn−1×[0,1]S^{n-1}\times[0,1] を ∂D0=Sn−1×0\partial D_0=S^{n-1}\times0 に沿って貼り合わせたもの W′W' に微分同相です(カラーを取り替えても構造は微分同相を除いて変わりません。系 7.4[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] の 2)。W′W' のカラーとして、D0D_0 のカラー cc と Sn−1×[0,1]S^{n-1}\times[0,1] の積のカラーを取ると、W′W' は、D0D_0 を境界の外へ延長した D^0\hat D_0(補題 2.2[ハンドル分解と手術])の中の D0∪{(z,t):−12≤t≤0}D_0\cup\{(z,t):-\tfrac12\le t\le0\} に微分同相です(D0D_0 の上では恒等写像、Sn−1×[0,1]S^{n-1}\times[0,1] の上では (z,s)↦(z,−σ(s))(z,s)\mapsto(z,-\sigma(s))。σ ⁣:[0,1]→[0,12]\sigma\colon[0,1]\to[0,\tfrac12] は 00 の近くで σ(s)=s\sigma(s)=s となる微分同相で、継ぎ目のチャートで見るとこの写像は継ぎ目の近くで恒等写像です)。これは 補題 5.1[ハンドル分解と手術](β=12\beta=\tfrac12)により D0≅DnD_0\cong D^n に微分同相です。

系 2.9(高次元の一般化された Poincaré 予想)△

n≥6n\ge6 とし、MM を単連結な閉 nn 次元多様体で Hk(M)≅Hk(Sn)H_k(M)\cong H_k(S^n)(すべての kk)を満たすもの(とくにホモトピー球面)とする。定理 2.2 を仮定すると、MM はねじれ球面に微分同相で、したがって SnS^n に同相である。

証明(系 2.9)

指数 00 と指数 nn の臨界点が 1 つずつの自己指数的な Morse 関数 ff を取り(系 5.9[ハンドル分解と手術])、M′=f−1((−∞,n−12])M'=f^{-1}((-\infty,n-\tfrac12])、D=f−1([n−12,∞))D=f^{-1}([n-\tfrac12,\infty)) とします。DD は指数 nn のハンドル 1 つで、DnD^n に微分同相です(定理 3.6[ハンドル分解と手術])。M′M' が 系 2.8 の仮定を満たすことを示します。

単連結性。 M=M′∪DM=M'\cup D に、上の証明と同じく van Kampen の定理を使うと π1(M′)≅π1(M)=1\pi_1(M')\cong\pi_1(M)=1 です。∂M′=∂D≅Sn−1\partial M'=\partial D\cong S^{n-1} も単連結です。

ホモロジー。 命題 6.1[ハンドル分解と手術] の記号で M′=Mn−1M'=M_{n-1} です。その証明の (ii) により 1≤k≤n−21\le k\le n-2 で Hk(Mn−1)≅Hk(M)=0H_k(M_{n-1})\cong H_k(M)=0、(i) により Hn(Mn−1)=0H_n(M_{n-1})=0 です。対 (M,Mn−1)(M,M_{n-1}) の長完全列

0=Hn(Mn−1)→Hn(M)→Hn(M,Mn−1)→Hn−1(Mn−1)→Hn−1(M)=00=H_n(M_{n-1})\to H_n(M)\to H_n(M,M_{n-1})\to H_{n-1}(M_{n-1})\to H_{n-1}(M)=0

で、Hn(M)≅ZH_n(M)\cong\mathbb{Z}、Hn(M,Mn−1)=Cn≅ZH_n(M,M_{n-1})=C_n\cong\mathbb{Z}(指数 nn の臨界点は 1 つ)なので、中央の射は 00 でない整数 mm を掛ける写像で、Hn−1(Mn−1)≅Z/∣m∣H_{n-1}(M_{n-1})\cong\mathbb{Z}/|m| は有限群です。一方、同じ証明の (iii) により Hn−1(Mn−1)H_{n-1}(M_{n-1}) は自由アーベル群 Cn−1C_{n-1} の部分群に同型で、ねじれをもちません。よって Hn−1(Mn−1)=0H_{n-1}(M_{n-1})=0 です。

系 2.8 により M′≅DnM'\cong D^n で、M=M′∪DM=M'\cup D は 2 つの円板を境界で貼ったもの、すなわちねじれ球面です。補題 2.6 により SnS^n に同相です。

注意 2.10

n=5n=5 でも、ホモトピー球面は S5S^5 に同相(実は微分同相)です。5 次元のホモトピー球面が可縮な 6 次元多様体の境界になること(Kervaire–Milnor)を示し、系 2.8 を n=6n=6 で使います。n=4n=4 の位相的な場合は Freedman(定理 5.7)、n=3n=3 は Perelman(2002–2003 年。Hamilton の Ricci 流による)の結果です。滑らかな 4 次元のホモトピー球面が S4S^4 に微分同相かどうかは、いまも未解決です。これらはこの記事では証明しません。

系 2.11(単連結な h 同境類と微分同相類の一致)△

M0M_0、M1M_1 を単連結な閉多様体で次元が 55 以上のものとする。単連結な同境 W ⁣:M0⇝M1W\colon M_0\rightsquigarrow M_1 で H∗(W,M0)=0H_*(W,M_0)=0 となるものが存在すれば、定理 2.2 を仮定すると、M0M_0 と M1M_1 は微分同相である。

証明(系 2.11)

dim⁡W≥6\dim W\ge6 なので 定理 2.2 により W≅M0×[0,1]W\cong M_0\times[0,1] で、もう一方の境界成分 M1M_1 は M0×{1}M_0\times\{1\} に写ります。

この系は、同境という粗い関係(前章)から、ホモトピーの条件を足すだけで微分同相という最も細かい関係が得られることを述べています。高次元の多様体の分類(手術理論)は、この系を出口として組み立てられています。

2.3. 証明の筋:ハンドルをすべて消去する

Section titled “2.3. 証明の筋:ハンドルをすべて消去する”

W ⁣:M0⇝M1W\colon M_0\rightsquigarrow M_1 が積であることは、臨界点の無い Morse 関数をもつことと同値です(定理 2.7[ハンドル分解と手術])。そこで、Morse 関数から出発して臨界点を対にして消していきます。次の命題は、そのうちハンドル分解の章の定理だけで証明できる部分です。

命題 2.12(h 同境定理の証明のうち、ハンドル分解の定理から従う部分)△

n≥2n\ge2 とし、W ⁣:M0⇝M1W\colon M_0\rightsquigarrow M_1 を連結な nn 次元の同境で、M0M_0、M1M_1 が空でなく、Hk(W,M0)=0H_k(W,M_0)=0(すべての kk)であるものとする。3 の最後の主張だけは、一般の指数のハンドルの消去定理(定理 5.2[ハンドル分解と手術]。同章で主張のみ)を仮定したうえでの主張である(λ=0\lambda=0 と λ=n−1\lambda=n-1 の場合は仮定なしに成り立つ)。

  1. WW の上に、指数 00 と指数 nn の臨界点をもたない自己指数的な Morse 関数が存在する。
  2. WW の上の任意の Morse 関数について、指数 λ\lambda の臨界点の個数を cλc_\lambda とすると ∑λ(−1)λcλ=0\sum_\lambda(-1)^\lambda c_\lambda=0。とくに、臨界点の指数が λ\lambda と λ+1\lambda+1 だけなら cλ=cλ+1c_\lambda=c_{\lambda+1}。
  3. Morse 関数 ff の臨界点が、指数 λ\lambda の pp と指数 λ+1\lambda+1 の qq のちょうど 2 つで、f(p)<f(q)f(p)\lt f(q)、間の等位面 VV の中で qq の下降球面 AA と pp の上昇球面 BB が横断的に交わるとする。このとき、符号つきの交点数(命題 6.1[ハンドル分解と手術] の n(q,p)n(q,p))は ±1\pm1 である。さらに A∩BA\cap B がちょうど 1 点なら、WW は M0×[0,1]M_0\times[0,1] に微分同相である。
証明(命題 2.12)

1。 自己指数的な Morse 関数 ff と勾配状ベクトル場を取ります(定理 4.1[ハンドル分解と手術] の 3)。W(0)=f−1([−12,12])W_{(0)}=f^{-1}([-\tfrac12,\tfrac12]) は M0×[0,1]M_0\times[0,1] と、指数 00 の臨界点ごとの円板の非交和で、W(1)=f−1([−12,32])W_{(1)}=f^{-1}([-\tfrac12,\tfrac32]) はそれに 1-ハンドルを貼ったものです(定理 3.6[ハンドル分解と手術])。指数 22 以上の臨界値を通過しても H0H_0 は変わらないので(補題 2.5[同境と Pontryagin–Thom 構成] の証明のとおり、各段の相対ホモロジーは臨界点の指数の次数にだけ現れます)、W(1)W_{(1)} は連結です。指数 00 の臨界点 pp があれば、その円板 DD は W(0)W_{(0)} の成分の 1 つで、M0≠∅M_0\ne\varnothing なので成分はほかにもあります。W(1)W_{(1)} が連結なので、一方の足が ∂D\partial D に、他方の足が別の成分にある 1-ハンドルがあります(どの 1-ハンドルも両足を同じ成分にもつなら、成分は増えも減りもしません)。系 5.9[ハンドル分解と手術] の証明と同じく、この 1-ハンドルの臨界点 qq と pp を隣り合う臨界値に並べ替えると(勾配状ベクトル場は変えません)、pp と qq だけを含む帯の中で、qq に収束する 2 本の軌道のうち pp から来るのは、∂D\partial D に足をもつ側のちょうど 1 本です。補題 5.6[ハンドル分解と手術] の 1 により、帯の上に臨界点をもたず帯の境界の近傍でもとの関数に一致する関数があり、それに取り替えて対を消去できます。これを繰り返して指数 00 の臨界点をなくします。M1≠∅M_1\ne\varnothing なので、−f-f に同じ議論を使って指数 nn の臨界点をなくし(同補題の後半)、最後に自己指数的に並べ替えます(定理 4.1[ハンドル分解と手術] の 3 の証明の操作は臨界点の個数を指数ごとに変えません)。

2。 補題 2.5[同境と Pontryagin–Thom 構成] により χ(W)−χ(M0)=∑λ(−1)λcλ\chi(W)-\chi(M_0)=\sum_\lambda(-1)^\lambda c_\lambda です。対 (W,M0)(W,M_0) の長完全列の階数の交代和から χ(W)−χ(M0)=∑k(−1)krank⁡Hk(W,M0)=0\chi(W)-\chi(M_0)=\sum_k(-1)^k\operatorname{rank}H_k(W,M_0)=0 です。

3。 f(p)<m<f(q)f(p)\lt m\lt f(q) となる正則値 mm を取り、W′=f−1((−∞,m])W'=f^{-1}((-\infty,m]) とします。命題 6.1[ハンドル分解と手術] の 1 の証明と同じく、Hk(W′,M0)H_k(W',M_0) は k=λk=\lambda で下降円板の類 [D(p)][D(p)] の生成する Z\mathbb{Z}、ほかで 00、Hk(W,W′)H_k(W,W') は k=λ+1k=\lambda+1 で [D(q)][D(q)] の生成する Z\mathbb{Z}、ほかで 00 です。鎖複体の短完全列 0→C∗(W′,M0)→C∗(W,M0)→C∗(W,W′)→00\to C_*(W',M_0)\to C_*(W,M_0)\to C_*(W,W')\to0 の長完全列(定理 3.1[特異ホモロジー])

0=Hλ+1(W,M0)→Hλ+1(W,W′)→ ∂ Hλ(W′,M0)→Hλ(W,M0)=00=H_{\lambda+1}(W,M_0)\to H_{\lambda+1}(W,W')\xrightarrow{\ \partial\ }H_\lambda(W',M_0)\to H_\lambda(W,M_0)=0

から ∂\partial は同型 Z→Z\mathbb{Z}\to\mathbb{Z} で、∂[D(q)]=±[D(p)]\partial[D(q)]=\pm[D(p)] です。一方、命題 6.1[ハンドル分解と手術] の 3 の証明の計算(∂[D(q)]\partial[D(q)] は球面 AA の類で、その [D(p)][D(p)] の係数は BB の管状近傍への射影の局所写像度の和)はこの状況でもそのまま成り立ち、∂[D(q)]=n(q,p)[D(p)]\partial[D(q)]=n(q,p)[D(p)] です。よって n(q,p)=±1n(q,p)=\pm1 です。A∩BA\cap B が 1 点のとき、λ=0\lambda=0 なら 補題 5.6[ハンドル分解と手術] の 2 により(AA は 2 点で、BB との交点が 1 点であることは、qq に収束する 2 本の軌道のうちちょうど 1 本が pp から来ることを意味します)、λ=n−1\lambda=n-1 なら同補題の後半により、W≅M0×[0,1]W\cong M_0\times[0,1] です。そのほかの λ\lambda では、主張のみの 定理 5.2[ハンドル分解と手術] を仮定すると W≅M0×[0,1]W\cong M_0\times[0,1] です。この最後の場合だけが仮定つきの主張です。

h 同境定理の証明は、この命題の 3 の状況を、次の順で作り出します。番号 (c)(d)(e) が、この記事で証明していない段です。

ねらいを先に言うと、交点数は符号つきで数えるので、+1+1 の交点と −1-1 の交点は打ち消し合います。したがって交点数が ±1\pm1 でも、実際の交点は 3 個以上あるかもしれません。(e) で逆符号の対を消して、交点を 1 個にするのが目標です。また (c) で指数 11 を指数 33 に取り替えるのは、1 次元の球面では (e) の Whitney の技巧が使えないからです(後の 注意 2.13 を参照)。

  • (a) 自己指数的な Morse 関数を取る(定理 4.1[ハンドル分解と手術])。
  • (b) 指数 00 と nn の臨界点を消す(命題 2.12 の 1)。
  • (c) 指数 11 の臨界点を指数 33 の臨界点に取り替える。WW と M0M_0 が単連結なので、1-ハンドルを 1 周する閉曲線は可縮で、n≥5n\ge5 なら一般の位置から埋め込まれた円周として実現できる。系 5.5[ハンドル分解と手術] で指数 22 と 33 の対を生み、その 2-ハンドルの接着円周をこの閉曲線にイソトピーで動かして 1-ハンドルと消去する。−f-f に同じことをして指数 n−1n-1 の臨界点も消す。
  • (d) 残る指数は 2,…,n−22,\dots,n-2 である。H∗(W,M0)=0H_*(W,M_0)=0 なのでハンドル鎖複体は完全で、境界作用素は基底を取り替えれば対角成分 ±1\pm1 の形になる。基底の取り替え(ある生成元に別の生成元を足す)は、ハンドルの滑らせ(命題 5.8[ハンドル分解と手術])で実現する。
  • (e) こうして交点数が n(q,p)=±1n(q,p)=\pm1 の対(指数 λ\lambda と λ+1\lambda+1、2≤λ≤n−32\le\lambda\le n-3)が得られるが、幾何的な交点は 3 個以上あるかもしれない。等位面 VV(次元 n−1≥5n-1\ge5)の中で、qq の下降球面(λ\lambda 次元)と pp の上昇球面(n−λ−1n-\lambda-1 次元)に Whitney の技巧(定理 2.4)を使い、逆符号の交点の対を消して交点を 1 個にする。2 つの球面の次元はどちらも 22 以上で和が n−1≥5n-1\ge5 なので、一方は 33 以上で、それを QQ に取る。VV が単連結であることと、他方が 2 次元のときに要る「V∖QV\setminus Q が単連結」という条件は、WW、M0M_0、M1M_1 の単連結性と、指数 11、n−1n-1 の臨界点が無いことから示す(Milnor の本の §6)。
  • (f) 定理 5.2[ハンドル分解と手術] で対を消去する。これを繰り返すと臨界点がなくなり、定理 2.7[ハンドル分解と手術] により W≅M0×[0,1]W\cong M_0\times[0,1] である。

注意 2.13

(e) で次元の条件が効く理由を、数え上げで説明します。Whitney 円板は 2 次元で、それを m=n−1m=n-1 次元の等位面 VV の中に、自分自身と交わらないように置くには 2+2<m2+2\lt m、すなわち m≥5m\ge5 が必要です(系 9.5[横断性] の数え方)。円板の内部を一般の位置で PP(次元 rr)から外すには 2+r<m2+r\lt m、すなわち dim⁡Q=m−r≥3\dim Q=m-r\ge3 が、QQ から外すには dim⁡P≥3\dim P\ge3 が要ります。dim⁡P=2\dim P=2 のときは円板と QQ が一般に有限個の点で交わるので、一般の位置の代わりに V∖QV\setminus Q の単連結性を使って、円板を QQ と交わらないように取り直します。dim⁡P=1\dim P=1 ではこの議論が使えません。指数 11(と n−1n-1)の臨界点を含む対では一方の球面が 1 次元になるので、(c) の取り替えを先に行います。m=4m=4(WW が 5 次元、境界が 4 次元)では 2+2=42+2=4 で、円板は一般に有限個の点で自分自身と交わり、消せません。この自己交差を、無限回の構成の極限として位相的に(滑らかにではなく)消したのが Freedman の仕事で、消せないことをゲージ理論の不変量で示したのが Donaldson の仕事です。

次元ごとの状況をまとめます(n=dim⁡Wn=\dim W。主張と出典だけで、証明はしません)。

dim⁡W\dim W単連結な h 同境は積か根拠
n≥6n\ge6微分同相の意味で積Smale(定理 2.2)
n=5n=5同相の意味では積。微分同相の意味では反例があるFreedman(1982 年)、Donaldson(1987 年)
n=4n=4滑らかな場合は未解決滑らかな 4 次元 Poincaré 予想と関係する
n=3n=3積3 次元 Poincaré 予想(Perelman)から従う
n≤2n\le2積1 次元多様体と曲面の分類

H\mathbb{H} を四元数体とし、S3⊂HS^3\subset\mathbb{H} を単位四元数の群、D4⊂HD^4\subset\mathbb{H} を閉単位球とします。Re⁡\operatorname{Re} は実部、uˉ\bar u は共役で、∣u∣2=uuˉ|u|^2=u\bar u、Re⁡(ab)=Re⁡(ba)\operatorname{Re}(ab)=\operatorname{Re}(ba) です。S4=H∪{∞}S^4=\mathbb{H}\cup\{\infty\} を、座標 uu と u′=u/∣u∣2=uˉ−1u'=u/|u|^2=\bar u^{-1} の 2 つのチャートで覆います(Milnor の原論文と同じ取り方です)。

ここでの発想は、S4S^4 を 2 つの円板に分け、それぞれの上の自明な束(円板と S3S^3 の積)を、赤道の S3S^3 に沿って貼り合わせることです。貼り合わせのときに S3S^3 をどうねじるかが、次の式の uhvuju^h v u^j で、整数の組 (h,j)(h,j) がねじり方を決めます。

定義 3.1(Milnor の多様体)↗

整数 h,jh,j に対し、H×S3\mathbb{H}\times S^3 のコピー 2 つを、(H∖0)×S3(\mathbb{H}\setminus0)\times S^3 の微分同相

(u,v)↦(u′,v′)=(u∣u∣2, uh v uj∣u∣h+j)(u,v)\mapsto(u',v')=\Bigl(\frac{u}{|u|^2},\ \frac{u^h\,v\,u^j}{|u|^{h+j}}\Bigr)

で貼り合わせた 7 次元多様体を Mh,jM_{h,j} と書く。同じ式で v,v′∈D4v,v'\in D^4 としたもの(H×D4\mathbb{H}\times D^4 のコピー 2 つを貼り合わせた 8 次元の境界付き多様体)を Bh,jB_{h,j} と書く。∂Bh,j=Mh,j\partial B_{h,j}=M_{h,j} で、v,v′∈Hv,v'\in\mathbb{H} としたものは S4S^4 上の階数 44 の実ベクトル束 ξh,j\xi_{h,j} である。

∣u∣=1|u|=1 のとき v↦uhvujv\mapsto u^hvu^j は H=R4\mathbb{H}=\mathbb{R}^4 の回転(SO(4)SO(4) の元)で、ξh,j\xi_{h,j} は赤道 S3S^3 の上の貼り合わせ関数 gh,j(u)=Lu hRu jg_{h,j}(u)=L_u^{\,h}R_u^{\,j}(LuL_u、RuR_u は uu の左乗法と右乗法)で決まるベクトル束です。Mh,jM_{h,j} はその単位球面束、Bh,jB_{h,j} は単位円板束で、どちらもコンパクトです(S4S^4 上のファイバー束。定義 3.5[ホモトピー群とファイブレーション])。Hausdorff 性は、貼り合わせで同一視されない 2 点が、u=0u=0 の近くと u′=0u'=0 の近くに分かれることから従います。

例 3.2(M1,0M_{1,0} は S⁷)

S7={(a,b)∈H2:∣a∣2+∣b∣2=1}S^7=\{(a,b)\in\mathbb{H}^2:|a|^2+|b|^2=1\} から S4=H∪{∞}S^4=\mathbb{H}\cup\{\infty\} への写像 (a,b)↦ab−1(a,b)\mapsto ab^{-1} は、ファイバーが S3S^3 の束(四元数の Hopf 束)です。b≠0b\ne0 の部分を (u,v)=(ab−1,b/∣b∣)(u,v)=(ab^{-1},b/|b|) で、a≠0a\ne0 の部分を (u′,v′)=(ba−1‾,a/∣a∣)(u',v')=(\overline{ba^{-1}},a/|a|) で H×S3\mathbb{H}\times S^3 と同一視すると、u′=uˉ−1=u/∣u∣2u'=\bar u^{-1}=u/|u|^2、v′=a/∣a∣=ub/∣ub∣=uv/∣u∣v'=a/|a|=ub/|ub|=uv/|u| なので、これは (h,j)=(1,0)(h,j)=(1,0) の貼り合わせです。よって M1,0≅S7M_{1,0}\cong S^7 で、B1,0B_{1,0} に 8 次元円板を貼ったものは四元数射影平面 HP2\mathbb{H}P^2 です。h+j=1h+j=1 となるほかの (h,j)(h,j) でも位相的には同じことが起きる、というのが次の定理の前半です。

3.2. 同相であること、微分同相でないこと

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定理 3.3(Milnor のエキゾチック 7 次元球面)△

h+j=1h+j=1 とする。

  1. Mh,jM_{h,j} の上に、臨界点がちょうど 2 つで、どちらも非退化な滑らかな関数が存在する。したがって Mh,jM_{h,j} はねじれ球面に微分同相で、S7S^7 に同相である。
  2. ξh,j\xi_{h,j} の零切断 Z≅S4Z\cong S^4 の Bh,jB_{h,j} の中での自己交点数は ±1\pm1 で、p1(ξh,j)[S4]=±2(h−j)p_1(\xi_{h,j})[S^4]=\pm2(h-j) である。
  3. Hirzebruch の符号数定理(定理 3.14[指数定理]。主張のみ)と、「向き付けられた閉 8 次元多様体 CC の Pontryagin 数 p2[C]p_2[C] は整数である」という事実を仮定する。このとき、(h−j)2≢1(mod7)(h-j)^2\not\equiv1\pmod7 ならば Mh,jM_{h,j} は S7S^7 に微分同相でない。

証明の見取り図です。1 は、Mh,jM_{h,j} の上に臨界点が 2 つの関数を具体的に書き、命題 2.7 から球面に同相と結論します。2 は、Mh,jM_{h,j} を境界とする 8 次元の多様体 Bh,jB_{h,j} について、零切断の自己交点数と p1p_1 を計算します。p1p_1 の計算は、接続の曲率を使って赤道 S3S^3 上の積分に帰着させる計算で、読み飛ばして結果の ±2(h−j)\pm2(h-j) だけを受け取っても、3 の筋は追えます。3 は、S7S^7 に微分同相だと仮定して Bh,jB_{h,j} に 8 次元円板を貼り、符号数定理から出る式が 7 を法とする条件に反することを示します。

証明(定理 3.3)

1。 第 2 のチャートで u′′=u′(v′)−1u''=u'(v')^{-1} とおくと、(u′,v′)↦(u′′,v′)(u',v')\mapsto(u'',v') は H×S3\mathbb{H}\times S^3 の微分同相なので、(u′′,v′)(u'',v') も座標に使えます。

f(u,v)=Re⁡v1+∣u∣2(第 1 のチャート),f=Re⁡u′′1+∣u′′∣2(第 2 のチャート)f(u,v)=\frac{\operatorname{Re}v}{\sqrt{1+|u|^2}}\quad(\text{第 1 のチャート}),\qquad f=\frac{\operatorname{Re}u''}{\sqrt{1+|u''|^2}}\quad(\text{第 2 のチャート})

が重なりで一致することを確かめます。u′=u/∣u∣2=uˉ−1u'=u/|u|^2=\bar u^{-1}、v′=uhvuj/∣u∣v'=u^hvu^j/|u|(h+j=1h+j=1)なので、uˉ−1=u/∣u∣2\bar u^{-1}=u/|u|^2 と 1−j=h1-j=h を使って

u′′=uˉ−1⋅∣u∣ u−jv−1u−h=u1−j v−1u−h∣u∣=uhv−1u−h∣u∣,∣u′′∣=1∣u∣u''=\bar u^{-1}\cdot|u|\,u^{-j}v^{-1}u^{-h}=\frac{u^{1-j}\,v^{-1}u^{-h}}{|u|}=\frac{u^{h}v^{-1}u^{-h}}{|u|},\qquad|u''|=\frac1{|u|}

です。Re⁡(uhv−1u−h)=Re⁡(v−1)=Re⁡(vˉ)=Re⁡v\operatorname{Re}(u^hv^{-1}u^{-h})=\operatorname{Re}(v^{-1})=\operatorname{Re}(\bar v)=\operatorname{Re}v(∣v∣=1|v|=1)なので

Re⁡u′′1+∣u′′∣2=Re⁡v/∣u∣1+∣u∣−2=Re⁡v∣u∣2+1\frac{\operatorname{Re}u''}{\sqrt{1+|u''|^2}}=\frac{\operatorname{Re}v/|u|}{\sqrt{1+|u|^{-2}}}=\frac{\operatorname{Re}v}{\sqrt{|u|^2+1}}

で、ff は Mh,jM_{h,j} 上の滑らかな関数です。

臨界点を求めます。第 1 のチャートで、uu についての微分は −Re⁡v⋅u (1+∣u∣2)−3/2-\operatorname{Re}v\cdot u\,(1+|u|^2)^{-3/2}、vv についての微分は S3S^3 上の関数 Re⁡v\operatorname{Re}v の微分の (1+∣u∣2)−1/2(1+|u|^2)^{-1/2} 倍です。Re⁡v\operatorname{Re}v の S3S^3 上の臨界点は v=±1v=\pm1 だけで、そこでは Re⁡v≠0\operatorname{Re}v\ne0 なので u=0u=0 でなければなりません。よって第 1 のチャートの臨界点は (u,v)=(0,±1)(u,v)=(0,\pm1) です。v=±(1−∣w∣2,w)v=\pm(\sqrt{1-|w|^2},w)(w∈R3w\in\mathbb{R}^3)と書くと、(0,±1)(0,\pm1) の近くで f=±(1−12∣w∣2−12∣u∣2+⋯ )f=\pm(1-\tfrac12|w|^2-\tfrac12|u|^2+\cdots) で、Hessian は ∓I\mp I、非退化です。第 1 のチャートに入らない点は u′=0u'=0、すなわち u′′=0u''=0 の点で、そこでは f=Re⁡u′′/1+∣u′′∣2f=\operatorname{Re}u''/\sqrt{1+|u''|^2} の u′′u'' についての微分は d(Re⁡u′′)≠0d(\operatorname{Re}u'')\ne0 です。よって臨界点は 2 つだけで、命題 2.7 により主張を得ます。

2 の前半。 ξh,j\xi_{h,j} の切断で零点が 1 つだけのものを作ります。滑らかな関数 c ⁣:[0,∞)→(0,∞)c\colon[0,\infty)\to(0,\infty) を、[0,12][0,\tfrac12] で c=1c=1、t≥1t\ge1 で c(t)=1/tc(t)=1/t となるように取ります。第 2 のチャートで v′=c(∣u′∣) u′v'=c(|u'|)\,u'、第 1 のチャートで v=a(∣u∣)⋅1v=a(|u|)\cdot1、a(r)=c(1/r)/ra(r)=c(1/r)/r と定めます。貼り合わせの逆は v=∣u∣ u−hv′u−jv=|u|\,u^{-h}v'u^{-j} で、v′=c(∣u′∣)u′v'=c(|u'|)u'、u′=u/∣u∣2u'=u/|u|^2 を代入すると v=c(1/∣u∣) u1−h−j/∣u∣=a(∣u∣)v=c(1/|u|)\,u^{1-h-j}/|u|=a(|u|) となり、2 つは一致します。r≤1r\le1 で a(r)=c(1/r)/r=1a(r)=c(1/r)/r=1 なので、aa は u=0u=0 まで滑らかで正です。よってこの切断は u′=0u'=0 でだけ 00 になり、そこでは v′=u′v'=u'、すなわち H\mathbb{H} の恒等写像で、零点は非退化、局所的な指数は ±1\pm1 です。零切断 ZZ の自己交点数は ∫ηZ∧ηZ=∫ZηZ\int\eta_Z\wedge\eta_Z=\int_Z\eta_Z で(系 5.6[Thom 類と Poincaré 双対] を Bh,jB_{h,j} の内部に使う。ZZ はコンパクト)、ηZ\eta_Z の ZZ への制限は法束 ξh,j\xi_{h,j} の Euler 類なので、これは ξh,j\xi_{h,j} の Euler 数、すなわち零切断に横断的な切断の零点の符号の和に等しく(定理 6.5[Thom 類と Poincaré 双対] の後半)、±1\pm1 です。

2 の後半。 S4S^4 を 2 つの円板 D±D_\pm の和と見て、ξh,j\xi_{h,j} を D±D_\pm 上の自明束を赤道 S3S^3 の近くで g=gh,j ⁣:S3→SO(4)g=g_{h,j}\colon S^3\to SO(4) により貼ったものと見ます。D−D_- の上では自明な接続、D+D_+ の上では、境界の近くで 11、中心の近くで 00 の動径方向の関数 ρ\rho を使った接続形式 A=ρ g−1dgA=\rho\,g^{-1}dg(gg を動径方向に定数として延ばす)を取ると、貼り合わせと両立する SO(4)SO(4) 接続になります。曲率 Ω=dA+A∧A\Omega=dA+A\wedge A は D−D_- で 00 です。命題 3.12[指数定理] の 3 と、tr⁡(Ω∧Ω)=d CS(A)\operatorname{tr}(\Omega\wedge\Omega)=d\,\mathrm{CS}(A)(定理 6.1[Chern–Weil 理論と特性類] の 1)、Stokes の定理から、θ=g−1dg\theta=g^{-1}dg として

p1(ξh,j)[S4]=−18π2∫D+tr⁡(Ω∧Ω)=−18π2∫S3CS(θ)=124π2∫S3tr⁡(θ∧θ∧θ)=:w(g)p_1(\xi_{h,j})[S^4]=-\frac1{8\pi^2}\int_{D_+}\operatorname{tr}(\Omega\wedge\Omega)=-\frac1{8\pi^2}\int_{S^3}\mathrm{CS}(\theta)=\frac1{24\pi^2}\int_{S^3}\operatorname{tr}(\theta\wedge\theta\wedge\theta)=:w(g)

です(dθ=−θ∧θd\theta=-\theta\wedge\theta なので CS(θ)=tr⁡(−θ3+23θ3)=−13tr⁡(θ3)\mathrm{CS}(\theta)=\operatorname{tr}(-\theta^3+\tfrac23\theta^3)=-\tfrac13\operatorname{tr}(\theta^3))。

ww は積について加法的です。g=g1g2g=g_1g_2 のとき θ=α+β\theta=\alpha+\beta、α=g2−1θ1g2\alpha=g_2^{-1}\theta_1g_2、β=θ2\beta=\theta_2 で、1 形式の積のトレースは巡回的に入れ替えられるので tr⁡(θ3)=tr⁡(θ13)+tr⁡(θ23)+3tr⁡(α2β)+3tr⁡(αβ2)\operatorname{tr}(\theta^3)=\operatorname{tr}(\theta_1^3)+\operatorname{tr}(\theta_2^3)+3\operatorname{tr}(\alpha^2\beta)+3\operatorname{tr}(\alpha\beta^2) です。dα=−βα−α2−αβd\alpha=-\beta\alpha-\alpha^2-\alpha\beta、dβ=−β2d\beta=-\beta^2 から

dtr⁡(αβ)=tr⁡(dα β)−tr⁡(α dβ)=−tr⁡(βαβ)−tr⁡(α2β)−tr⁡(αβ2)+tr⁡(αβ2)=−tr⁡(αβ2)−tr⁡(α2β)d\operatorname{tr}(\alpha\beta)=\operatorname{tr}(d\alpha\,\beta)-\operatorname{tr}(\alpha\,d\beta)=-\operatorname{tr}(\beta\alpha\beta)-\operatorname{tr}(\alpha^2\beta)-\operatorname{tr}(\alpha\beta^2)+\operatorname{tr}(\alpha\beta^2)=-\operatorname{tr}(\alpha\beta^2)-\operatorname{tr}(\alpha^2\beta)

なので、交差項は完全形式で S3S^3 上の積分は 00、w(g1g2)=w(g1)+w(g2)w(g_1g_2)=w(g_1)+w(g_2) です。LuL_u と RuR_u は可換なので w(gh,j)=h w(L)+j w(R)w(g_{h,j})=h\,w(L)+j\,w(R)(L,R ⁣:S3→SO(4)L,R\colon S^3\to SO(4) は u↦Lu,Ruu\mapsto L_u,R_u)です。共役 κ(v)=vˉ\kappa(v)=\bar v は直交変換で κLuκ−1=Ruˉ=Ru−1\kappa L_u\kappa^{-1}=R_{\bar u}=R_u^{-1} を満たし、ww は定数行列による共役で変わらないので w(R−1)=w(L)w(R^{-1})=w(L)、加法性から w(R)=−w(L)w(R)=-w(L) です。よって w(gh,j)=(h−j) w(L)w(g_{h,j})=(h-j)\,w(L) です。

w(L)w(L) を計算します。Lu−1dLu=Lu−1duL_u^{-1}dL_u=L_{u^{-1}du} で、u−1du=θ1i+θ2j+θ3ku^{-1}du=\theta^1i+\theta^2j+\theta^3k(θa\theta^a は S3S^3 上の左不変 1 形式で、∣u−1du∣=∣du∣|u^{-1}du|=|du| なので丸い計量の正規直交余枠)と書けます。純虚四元数 a,b,ca,b,c について tr⁡R(LaLbLc)=4Re⁡(abc)\operatorname{tr}_{\mathbb{R}}(L_aL_bL_c)=4\operatorname{Re}(abc) で、(u−1du)3=6 θ1∧θ2∧θ3⋅ijk=−6 θ1∧θ2∧θ3(u^{-1}du)^3=6\,\theta^1\wedge\theta^2\wedge\theta^3\cdot ijk=-6\,\theta^1\wedge\theta^2\wedge\theta^3 なので、tr⁡(θ3)=−24 θ1∧θ2∧θ3\operatorname{tr}(\theta^3)=-24\,\theta^1\wedge\theta^2\wedge\theta^3 です。θ1∧θ2∧θ3\theta^1\wedge\theta^2\wedge\theta^3 は単位球面 S3S^3 の体積形式(向きにより符号が付く)で、積分は ±2π2\pm2\pi^2 です。よって w(L)=124π2⋅(−24)⋅(±2π2)=∓2w(L)=\frac{1}{24\pi^2}\cdot(-24)\cdot(\pm2\pi^2)=\mp2、p1(ξh,j)[S4]=±2(h−j)p_1(\xi_{h,j})[S^4]=\pm2(h-j) です。

3。 Mh,jM_{h,j} から S7S^7 への微分同相があるとして矛盾を導きます。B=Bh,jB=B_{h,j} と D8D^8 を境界で貼り合わせると、向き付けられた閉 8 次元多様体 C=B∪D8C=B\cup D^8 が得られます(定理 7.2[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張]。D8D^8 の向きは貼り合わせに合うように選びます)。

コホモロジー。 BB は零切断 Z≅S4Z\cong S^4 に変位レトラクトし、BB と D8D^8 を少し太らせた開集合の共通部分は S7S^7 にホモトピー同値です。Mayer–Vietoris 完全系列(定理 4.3[de Rham コホモロジー])と HdR3(S7)=HdR4(S7)=0H^3_{\mathrm{dR}}(S^7)=H^4_{\mathrm{dR}}(S^7)=0(定理 5.1[de Rham コホモロジー])から HdR4(C)≅HdR4(S4)⊕HdR4(D8)≅RH^4_{\mathrm{dR}}(C)\cong H^4_{\mathrm{dR}}(S^4)\oplus H^4_{\mathrm{dR}}(D^8)\cong\mathbb{R} です。ZZ の Poincaré 双対 ηZ∈HdR4(C)\eta_Z\in H^4_{\mathrm{dR}}(C) について ∫CηZ∧ηZ=I(Z,Z)=:e=±1\int_C\eta_Z\wedge\eta_Z=I(Z,Z)=:e=\pm1(2 と 系 5.6[Thom 類と Poincaré 双対])なので ηZ≠0\eta_Z\ne0 で、ηZ\eta_Z が HdR4(C)H^4_{\mathrm{dR}}(C) を張ります。交叉形式は 11 次元の空間の上の (e)(e) で、σ(C)=e\sigma(C)=e です。

p12[C]p_1^2[C]。 p1(TC)=a ηZp_1(TC)=a\,\eta_Z と書くと、∫Zp1(TC)=∫Cp1(TC)∧ηZ=a e\int_Zp_1(TC)=\int_Cp_1(TC)\wedge\eta_Z=a\,e です。TC∣Z=TZ⊕ξh,jTC|_Z=TZ\oplus\xi_{h,j} で、直和の接続では det⁡(1+Ω/2π)\det(1+\Omega/2\pi) が 2 つのブロックの積になるので p1(TC∣Z)=p1(TS4)+p1(ξh,j)p_1(TC|_Z)=p_1(TS^4)+p_1(\xi_{h,j})、また TS4⊕ε1TS^4\oplus\varepsilon^1 は自明束(R5\mathbb{R}^5 の中の S4S^4 の接束と法束の直和)なので p1(TS4)=p1(TS4⊕ε1)=0p_1(TS^4)=p_1(TS^4\oplus\varepsilon^1)=0 です(命題 6.8[同境と Pontryagin–Thom 構成] の証明と同じ計算)。よって a e=p1(ξh,j)[S4]=±2(h−j)a\,e=p_1(\xi_{h,j})[S^4]=\pm2(h-j) で、

p12[C]=a2∫CηZ∧ηZ=a2e=4(h−j)2e=4e (h−j)2p_1^2[C]=a^2\int_C\eta_Z\wedge\eta_Z=a^2e=\frac{4(h-j)^2}{e}=4e\,(h-j)^2

です(e=±1e=\pm1)。

符号数定理。 定理 3.14[指数定理] の L2=(7p2−p12)/45L_2=(7p_2-p_1^2)/45 から 45 σ(C)=7p2[C]−p12[C]45\,\sigma(C)=7p_2[C]-p_1^2[C]、すなわち

7 p2[C]=45e+4e(h−j)2=e(45+4(h−j)2)7\,p_2[C]=45e+4e(h-j)^2=e\bigl(45+4(h-j)^2\bigr)

です。p2[C]p_2[C] が整数なら右辺は 77 の倍数で、45≡345\equiv3、4⋅2≡1(mod7)4\cdot2\equiv1\pmod7 から 4(h−j)2≡−3≡44(h-j)^2\equiv-3\equiv4、(h−j)2≡1(mod7)(h-j)^2\equiv1\pmod7 です。これは仮定に反します。

注意 3.4

3 が依存する 2 つの事実のうち、符号数定理は指数定理の章で主張のみとして述べたものです。Pontryagin 数の整数性は、Pontryagin 類が整数係数コホモロジーの類の像であること(Milnor–Stasheff『Characteristic Classes』§15)から従いますが、Rikai では Pontryagin 類を曲率で定義しているだけで、整数性はまだ証明していません。1 と 2 はこれらに依存しません。原論文は J. Milnor, “On manifolds homeomorphic to the 7-sphere”, Ann. of Math. 64 (1956), 399–405 です。

定義 3.5(Milnor の不変量 λ)↗

MM を向き付けられた閉 7 次元多様体で HdR3(M)=HdR4(M)=0H^3_{\mathrm{dR}}(M)=H^4_{\mathrm{dR}}(M)=0 を満たし、向き付けられたコンパクトな 8 次元多様体 BB の境界であるものとする。このとき Hc4(B∖M)→HdR4(B)H^4_c(B\setminus M)\to H^4_{\mathrm{dR}}(B) は同型で、Hc4(B∖M)H^4_c(B\setminus M) 上の対称形式 ∫Bα∧β\int_B\alpha\wedge\beta の符号数 σ(B)\sigma(B) と、p1(TB)p_1(TB) をこの同型で引き戻して 2 乗した数 q(B)=∫Bp1∧p1q(B)=\int_Bp_1\wedge p_1 が定まる。

λ(M)≡2q(B)−σ(B)(mod7)\lambda(M)\equiv2q(B)-\sigma(B)\pmod7

を MM の Milnor の不変量という。

λ(M)\lambda(M) が BB の取り方によらないことは、定理 3.3 の 3 と同じ 2 つの事実から従います。2 つの B1B_1、B2B_2 を貼り合わせた閉多様体 C=B1∪(−B2)C=B_1\cup(-B_2) で σ\sigma と qq は加法的(σ(C)=σ(B1)−σ(B2)\sigma(C)=\sigma(B_1)-\sigma(B_2)、q(C)=q(B1)−q(B2)q(C)=q(B_1)-q(B_2))で、符号数定理から 45σ(C)+q(C)=7p2[C]≡045\sigma(C)+q(C)=7p_2[C]\equiv0、両辺を 2 倍して 2q(C)−σ(C)≡0(mod7)2q(C)-\sigma(C)\equiv0\pmod7 となるからです。σ\sigma の加法性は前章の 定理 6.4[同境と Pontryagin–Thom 構成] の同境不変性の精密化です(σ\sigma と qq の加法性はこの記事では証明しません。Milnor の原論文にあります)。これを認めると、λ\lambda は向きを保つ微分同相の不変量です。S7=∂D8S^7=\partial D^8 では λ=0\lambda=0 です。

例 3.6(λ(M2,−1)λ(M_{2,−1}) の計算)

B=Bh,jB=B_{h,j}(h+j=1h+j=1)では、σ(B)=e\sigma(B)=e、q(B)=4e(h−j)2q(B)=4e(h-j)^2(定理 3.3 の証明)なので、e=1e=1 となる向きで

λ(Mh,j)≡8(h−j)2−1≡(h−j)2−1(mod7)\lambda(M_{h,j})\equiv8(h-j)^2-1\equiv(h-j)^2-1\pmod7

です。(h,j)=(1,0)(h,j)=(1,0) では λ=0\lambda=0 で、M1,0=S7M_{1,0}=S^7 と整合します。(h,j)=(2,−1)(h,j)=(2,-1) では (h−j)2=9(h-j)^2=9、λ≡8≡1(mod7)\lambda\equiv8\equiv1\pmod7 で、M2,−1M_{2,-1} は S7S^7 に同相ですが微分同相ではありません。h−j=2k−1h-j=2k-1 は奇数全体を動くので、λ\lambda は k(k−1)⋅4 mod 7k(k-1)\cdot4\bmod7、すなわち 0,1,3,60,1,3,6 の 4 通りの値を取り、少なくとも 4 つの互いに微分同相でない(向きを込めて)微分構造が S7S^7 の上にあることが分かります。

注意 3.7

nn 次元のホモトピー球面の、向きを保つ微分同相類(n≥5n\ge5 では h 同境類と同じ。系 2.11)は、連結和を演算として有限アーベル群 Θn\Theta_n をなします。Kervaire と Milnor は手術理論を使って Θn\Theta_n を安定ホモトピー群と Bernoulli 数で記述し、Θ7≅Z/28\Theta_7\cong\mathbb{Z}/28 を得ました(M. Kervaire, J. Milnor, “Groups of homotopy spheres: I”, Ann. of Math. 77 (1963), 504–537)。S7S^7 の上の微分構造は、向きを込めて 28 個、向きを忘れると 15 個で、そのすべてが S4S^4 上の S3S^3 束として実現できるわけではありません。Θ5\Theta_5 と Θ6\Theta_6 は自明で、n=4n=4 の場合は未解決です。これらはこの記事では証明しません。

次元 3 では、余次元 2 の部分多様体である結び目が、多様体そのものと同じくらい豊かな対象になります(注意 8.2[ハンドル分解と手術] の Lickorish–Wallace の定理が、両者を結びます)。ここでは、これまでの道具で届く初等的な事実を証明します。

定義 4.1(結び目、絡み目、Seifert 膜)↗

  1. R3\mathbb{R}^3(または S3=R3∪{∞}S^3=\mathbb{R}^3\cup\{\infty\})の、円周に微分同相な部分多様体を結び目、コンパクトな境界のない 1 次元部分多様体(有限個の結び目の非交和)を絡み目という。向きを決めたものを向き付けられた絡み目という。2 つの絡み目は、全空間のアンビエントイソトピーで移り合うとき同値であるという。平面の円周に同値な結び目を自明な結び目という。
  2. 向き付けられた絡み目 LL の Seifert 膜とは、コンパクトな向き付けられた 2 次元の境界付き部分多様体 FF で、∂F=L\partial F=L(境界の向きを込めて)であり、閉曲面の成分をもたないものをいう。結び目 KK の連結な Seifert 膜の種数(境界を円板でふさいだ閉曲面 Σg\Sigma_g の gg)の最小値を KK の種数という。
  3. 連結な Seifert 膜 FF の H1(F)≅Z2gH_1(F)\cong\mathbb{Z}^{2g} の基底を閉曲線 a1,…,a2ga_1,\dots,a_{2g} で表し、aj+a_j^+ を aja_j を FF の正の法方向に少し押し出した曲線とするとき、絡み数の行列 Vij=lk⁡(ai,aj+)V_{ij}=\operatorname{lk}(a_i,a_j^+) を Seifert 行列という(この記事では定義だけを述べます。det⁡(V−tVT)\det(V-tV^{\mathsf T}) が Alexander 多項式です)。

結び目の種数が 00 であることは、円板の境界になること、すなわち自明であることと同値です(円板に沿って結び目を小さい円周まで縮められます)。

補題 4.2(正則な射影図)✓

L⊂R3L\subset\mathbb{R}^3 を絡み目、π ⁣:R3→R2\pi\colon\mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^2 を第 3 座標を忘れる射影とする。LL をいくらでも小さいイソトピーで動かして、π∣L\pi|_L がはめ込みで、多重点が有限個の横断的な 2 重点だけであるようにできる。

証明(補題 4.2)

包含 e ⁣:L→R3e\colon L\to\mathbb{R}^3 に対し j=(1,e,e⊗e) ⁣:L→R13j=(1,e,e\otimes e)\colon L\to\mathbb{R}^{13}(e⊗ee\otimes e は座標の積 eaebe_ae_b を並べたもの)とおきます。LL の相異なる 3 点 x,y,zx,y,z について j(x),j(y),j(z)j(x),j(y),j(z) は 1 次独立です。実際、c1j(x)+c2j(y)+c3j(z)=0c_1j(x)+c_2j(y)+c_3j(z)=0 なら、R3\mathbb{R}^3 上の任意の 2 次以下の多項式 PP について c1P(x)+c2P(y)+c3P(z)=0c_1P(x)+c_2P(y)+c_3P(z)=0 で、y,zy,z で 00、xx で 00 でない PP(2 つの 1 次式の積)を取れば c1=0c_1=0、同様に c2=c3=0c_2=c_3=0 です。また jj ははめ込みです。s∈S=Hom⁡(R13,R3)s\in S=\operatorname{Hom}(\mathbb{R}^{13},\mathbb{R}^3) に対し es=e+s∘je_s=e+s\circ j とします。ss が 00 のある近傍にあれば ese_s は埋め込みで(多径数の族についての安定性。系 5.4[横断性])、t↦etst\mapsto e_{ts} が ee から ese_s へのイソトピーです。LL の単位接ベクトル場を τ\tau とし、次の 3 つの写像を考えます。

F1 ⁣:L×S→R2,F1(x,s)=π(des(τx)),F2 ⁣:(L2∖Δ)×S→R2×R2,F2(x,y,s)=(πes(x),πes(y)),F3 ⁣:L(3)×S→(R2)3,F3(x,y,z,s)=(πes(x),πes(y),πes(z))\begin{aligned} F_1&\colon L\times S\to\mathbb{R}^2,&F_1(x,s)&=\pi\bigl(de_s(\tau_x)\bigr),\\ F_2&\colon(L^2\setminus\Delta)\times S\to\mathbb{R}^2\times\mathbb{R}^2,&F_2(x,y,s)&=\bigl(\pi e_s(x),\pi e_s(y)\bigr),\\ F_3&\colon L^{(3)}\times S\to(\mathbb{R}^2)^3,&F_3(x,y,z,s)&=\bigl(\pi e_s(x),\pi e_s(y),\pi e_s(z)\bigr) \end{aligned}

(L(3)L^{(3)} は相異なる 3 点の組の全体)。ss についての微分は、それぞれ s˙↦πs˙(dj(τx))\dot s\mapsto\pi\dot s(dj(\tau_x))、(πs˙j(x),πs˙j(y))(\pi\dot sj(x),\pi\dot sj(y))、(πs˙j(x),πs˙j(y),πs˙j(z))(\pi\dot sj(x),\pi\dot sj(y),\pi\dot sj(z)) で、dj(τx)≠0dj(\tau_x)\ne0 と上の 1 次独立性から全射です。よって 3 つとも沈め込みで、{0}⊂R2\{0\}\subset\mathbb{R}^2(余次元 22)、対角線 {(w,w)}\{(w,w)\}(余次元 22)、小対角線 {(w,w,w)}\{(w,w,w)\}(余次元 44)に横断的です。パラメータ付き横断性定理(定理 6.1[横断性])により、ほとんどすべての ss で、ss を固定した写像もこれらに横断的です。定義域の次元は 11、22、33 なので、1 つ目と 3 つ目では横断的であることは像が交わらないこと、すなわち π∘es\pi\circ e_s がはめ込みで 3 重点をもたないことを意味し、2 つ目では 2 重点 (x,y)(x,y) で π(des(τx))\pi(de_s(\tau_x)) と π(des(τy))\pi(de_s(\tau_y)) が R2\mathbb{R}^2 を張ること、すなわち 2 重点が横断的であることを意味します。はめ込みは局所的に単射なので 2 重点の対は L2L^2 の対角線の近くに無く、横断的な 2 重点は孤立しているので、コンパクト性から有限個です。

2 重点ごとに、どちらの枝が上(第 3 座標が大きい)かを記録した平面曲線を、絡み目の射影図といいます。同じ射影図をもつ 2 つの絡み目は、第 3 座標だけを動かす直線的なイソトピーで移り合うので同値です。

交差平滑化帯
Seifert のアルゴリズムの基本操作。左:向き付けられた射影図の交差。右:向きに沿って枝をつなぎ替える(平滑化)。すべての交差を平滑化すると、互いに交わらない向き付けられた円周(Seifert 円周)の集まりになる。各円周に円板を張り、交差があった場所ごとに半ひねりの帯で円板をつなぐと Seifert 膜が得られる。

補題 4.3(平面の中の円周は円板を囲む)✓

C⊂R2C\subset\mathbb{R}^2 を円周に微分同相な部分多様体とする。R2∖C\mathbb{R}^2\setminus C の有界な成分の閉包 AA は D2D^2 に微分同相である。

証明(補題 4.3)

定理 5.3[交点数と写像度] により、AA は CC を境界とするコンパクトな曲面です。S2=R2∪{∞}S^2=\mathbb{R}^2\cup\{\infty\} の中で、もう一方の成分の閉包 BB も、AA の内部の点を無限遠点に写す座標で見れば有界な成分の閉包なので、CC を境界とするコンパクトな曲面で、A∪B=S2A\cup B=S^2、A∩B=CA\cap B=C です。AA、BB は連結で、S2S^2 の部分多様体なので向き付け可能です。境界の円周を円板でふさいだ閉曲面を A^\hat A、B^\hat B とすると、分類定理(定理 7.5[ハンドル分解と手術])により A^≅Σg\hat A\cong\Sigma_g、B^≅Σg′\hat B\cong\Sigma_{g'} です。

閉曲面 NN が、共通の境界 CC(円周の非交和)をもつ 2 つのコンパクトな曲面 PP、P′P' の和であるとき χ(N)=χ(P)+χ(P′)\chi(N)=\chi(P)+\chi(P') です。実際、PP を同境 ∅⇝C\varnothing\rightsquigarrow C、P′P' を同境 C⇝∅C\rightsquigarrow\varnothing と見て、CC の近くでカラーの座標に一致する Morse 関数をそれぞれに取ってつなぐと NN 上の Morse 関数になり、補題 2.5[同境と Pontryagin–Thom 構成] を NN、PP、P′P' に使うと、臨界点の指数の交代和について χ(N)=χ(P)+(χ(P′)−χ(C))\chi(N)=\chi(P)+(\chi(P')-\chi(C)) で、χ(C)=0\chi(C)=0 です。これを A^=A∪D2\hat A=A\cup D^2 に使うと χ(A)=χ(A^)−1=1−2g\chi(A)=\chi(\hat A)-1=1-2g、同様に χ(B)=1−2g′\chi(B)=1-2g' で、S2=A∪BS^2=A\cup B に使うと 2=χ(A)+χ(B)=2−2g−2g′2=\chi(A)+\chi(B)=2-2g-2g'、よって g=g′=0g=g'=0 です。A^≅S2\hat A\cong S^2 で、AA は S2S^2 から埋め込まれた開円板を除いたものです。円板定理(定理 6.2[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])により、その円板は半球に写せるので、AA は残りの半球、すなわち D2D^2 に微分同相です。

定理 4.4(Seifert 膜の存在)✓

R3\mathbb{R}^3(または S3S^3)の任意の向き付けられた絡み目は Seifert 膜をもつ。結び目は連結な Seifert 膜をもつ。

証明の全体像です。結び目の補空間の上の「角度を測る関数」を作り、その一つの値の逆像を膜にします。そのために、第 1 段で補空間の H1H_1 を調べ、第 2 段で周期が整数の閉 1 形式を作り、第 3 段でそれを円周への写像に積分し直して正則値の逆像を取り、第 4 段で向きが結び目の向きと合うことを確かめます。

証明(定理 4.4)

S3S^3 の絡み目 LL について示し、最後に R3\mathbb{R}^3 の場合を導きます。S3S^3 に向きを決め、LL の成分を K1,…,KrK_1,\dots,K_r とします。膜は、補空間から円周への写像の正則値の逆像として作ります。

第 1 段:管状近傍と補空間の H1H_1。 各 KiK_i の法束は、向き付けられた 3 次元多様体の中の向き付けられた円周の法束なので、向き付けられた階数 22 の束です。円周を区間の両端を貼ったものと見ると、区間の上では自明で(系 2.5[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])、貼り合わせは GL+(2,R)GL^+(2,\mathbb{R}) の元、GL+(2,R)GL^+(2,\mathbb{R}) は弧状連結(補題 3.1[Hurewicz の定理と Freudenthal の懸垂定理])なので、法束は自明です。よって管状近傍(定理 3.4[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])から、像が互いに交わらない埋め込み τi ⁣:S1×B→S3\tau_i\colon S^1\times B\to S^3(B⊂CB\subset\mathbb{C} は半径 22 の開円板)で、τi(S1×0)=Ki\tau_i(S^1\times0)=K_i(向きを込めて)、かつ積の向きについて向きを保つものが取れます。Ni=τi(S1×D2)N_i=\tau_i(S^1\times D^2)、N=⋃iNiN=\bigcup_iN_i、X=S3∖int⁡NX=S^3\setminus\operatorname{int}N とし、τi(S1×(B∖0))\tau_i(S^1\times(B\setminus0)) の点を τi(e2πit,re2πiθ)\tau_i(e^{2\pi it},re^{2\pi i\theta})(t,θ∈R/Zt,\theta\in\mathbb{R}/\mathbb{Z}、0<r<20\lt r\lt2)と書きます。∂Ni≅T2\partial N_i\cong T^2 の上の閉曲線 μi\mu_i(tt が一定、r=1r=1 で、θ\theta が 1 周する。メリディアン)と ℓi\ell_i(θ\theta が一定、r=1r=1 で、tt が 1 周する)は H1(∂Ni)≅Z2H_1(\partial N_i)\cong\mathbb{Z}^2 の基底です(命題 2.11[基本群と被覆空間]、定理 4.1[基本群と被覆空間])。NN と XX を少し太らせた開集合の Mayer–Vietoris 完全列(定理 5.4[特異ホモロジー])

0=H2(S3)→⨁iH1(∂Ni)→H1(N)⊕H1(X)→H1(S3)=00=H_2(S^3)\to\bigoplus_iH_1(\partial N_i)\to H_1(N)\oplus H_1(X)\to H_1(S^3)=0

から、中央の射は同型です。H1(N)=⨁iZH_1(N)=\bigoplus_i\mathbb{Z} への成分は μi↦0\mu_i\mapsto0、ℓi↦(Ki の類)\ell_i\mapsto(K_i\text{ の類}) なので、その核 ⨁iZμi\bigoplus_i\mathbb{Z}\mu_i が H1(X)H_1(X) に同型に写ります。XX は S3∖LS^3\setminus L の変位レトラクト(Ni∖KiN_i\setminus K_i を動径方向に ∂Ni\partial N_i へ縮める)なので、H1(S3∖L)H_1(S^3\setminus L) は μ1,…,μr\mu_1,\dots,\mu_r の類を基底とする自由アーベル群です。

第 2 段:周期が整数の閉 1 形式。 de Rham の定理(定理 5.4[コホモロジーと双対性])と普遍係数定理(定理 3.4[コホモロジーと双対性]。H0H_0 は自由なので Ext⁡\operatorname{Ext} の項は消えます)により、閉 1 形式の類に周期 [γ]↦∫γα[\gamma]\mapsto\int_\gamma\alpha を対応させる写像は、同型 HdR1(U)→Hom⁡(H1(U),R)H^1_{\mathrm{dR}}(U)\to\operatorname{Hom}(H_1(U),\mathbb{R}) です(UU は多様体)。U=S3∖LU=S^3\setminus L に使うと、閉 1 形式 α0\alpha_0 で、すべての ii について ∫μiα0=1\int_{\mu_i}\alpha_0=1 となるものがあります。H1(S3∖L)H_1(S^3\setminus L) は μi\mu_i の類で生成されるので、S3∖LS^3\setminus L の中のどの閉曲線の上でも α0\alpha_0 の積分は整数です。とくに mi=∫ℓiα0m_i=\int_{\ell_i}\alpha_0 は整数です。Ui=τi(S1×(B∖0))U_i=\tau_i(S^1\times(B\setminus0)) は T2×(0,2)T^2\times(0,2) に微分同相で、H1(Ui)H_1(U_i) は μi\mu_i、ℓi\ell_i の類で生成されます。UiU_i 上の閉 1 形式 α0−dθ−mi dt\alpha_0-d\theta-m_i\,dt は μi\mu_i と ℓi\ell_i の上の積分がどちらも 00 なので、上の同型(U=UiU=U_i)により完全形式で、UiU_i 上の滑らかな関数 gig_i により dgidg_i と書けます。S3S^3 上の滑らかな関数 χi\chi_i を、NiN_i の近傍で 11、台が τi(S1×B)\tau_i(S^1\times B) に含まれるように取り(系 6.4[部分多様体と正則値定理])、

α=α0−∑id(χigi)\alpha=\alpha_0-\sum_id(\chi_ig_i)

とおきます(χigi\chi_ig_i は UiU_i の外では 00 として S3∖LS^3\setminus L 上の滑らかな関数とみなします)。α\alpha は S3∖LS^3\setminus L 上の閉 1 形式で、α0\alpha_0 との差が完全形式なので閉曲線の上の積分はすべて整数、Ni∖KiN_i\setminus K_i の上では α=dθ+mi dt\alpha=d\theta+m_i\,dt です。

第 3 段:正則値の逆像。 S3∖LS^3\setminus L の各連結成分に基点 x0x_0 を選び、その成分の点 xx に対し、x0x_0 から xx への滑らかな道 γ\gamma を取って ϕ(x)=∫γα mod Z\phi(x)=\int_\gamma\alpha\bmod\mathbb{Z} とおきます。2 本の道の上の積分の差は閉曲線の上の積分で整数なので、ϕ ⁣:S3∖L→R/Z\phi\colon S^3\setminus L\to\mathbb{R}/\mathbb{Z} は道の取り方によりません。各点のまわりの球状のチャートの中では α=dh\alpha=dh と書けて(定理 3.4[de Rham コホモロジー])ϕ=h+定数\phi=h+\text{定数} なので、ϕ\phi は滑らかで dϕ=αd\phi=\alpha です。連結な Ni∖KiN_i\setminus K_i の上では ϕ=θ+mit+ci\phi=\theta+m_it+c_i(cic_i は定数)です。Sard の定理(定理 7.4[部分多様体と正則値定理])により ϕ\phi の正則値 cc があり、F′=ϕ−1(c)F'=\phi^{-1}(c) は S3∖LS^3\setminus L の閉集合である 2 次元部分多様体です(定理 4.3[部分多様体と正則値定理])。Ni∖KiN_i\setminus K_i の中では

F′∩(Ni∖Ki)={τi(e2πit, re2πi(c−ci−mit)): t∈R/Z, 0<r≤1}F'\cap(N_i\setminus K_i)=\bigl\{\tau_i\bigl(e^{2\pi it},\,re^{2\pi i(c-c_i-m_it)}\bigr):\ t\in\mathbb{R}/\mathbb{Z},\ 0\lt r\le1\bigr\}

です。F=F′∪LF=F'\cup L とおきます。F′F' は S3∖LS^3\setminus L の閉集合なので FF は S3S^3 の閉集合で、コンパクトです。KiK_i の近くでは、FF は埋め込み S1×[0,1]→S3S^1\times[0,1]\to S^3、(t,r)↦τi(e2πit,re2πi(c−ci−mit))(t,r)\mapsto\tau_i(e^{2\pi it},re^{2\pi i(c-c_i-m_it)}) の像です(r=0r=0 での rr 方向の微分は e2πi(c−ci−mit)≠0e^{2\pi i(c-c_i-m_it)}\ne0 なのではめ込みで、単射です)。よって FF は LL を境界とするコンパクトな 2 次元の境界付き部分多様体です。

第 4 段:向き。 F′F' の各点 xx で、α(n)>0\alpha(n)\gt0 となる接ベクトル n∈TxS3n\in T_xS^3 を取り、TxF′=ker⁡αxT_xF'=\ker\alpha_x の基底 (a1,a2)(a_1,a_2) を、(a1,a2,n)(a_1,a_2,n) が S3S^3 の正の向きの基底であるとき正と定めます。これは nn の取り方によらず、F′F' の向きを定めます。KiK_i の近くで調べます。τi\tau_i は向きを保つので、r>0r\gt0 では (∂t,∂r,∂θ)(\partial_t,\partial_r,\partial_\theta) が正の向きの枠です。TxF′T_xF' は ∂t−mi∂θ\partial_t-m_i\partial_\theta と ∂r\partial_r で張られ、n=∂θn=\partial_\theta(α(∂θ)=1\alpha(\partial_\theta)=1)と取れて、(∂t−mi∂θ, ∂r, ∂θ)(\partial_t-m_i\partial_\theta,\ \partial_r,\ \partial_\theta) は (∂t,∂r,∂θ)(\partial_t,\partial_r,\partial_\theta) と同じ向きです。これは上の埋め込みの座標 (t,r)(t,r) についての (∂/∂t,∂/∂r)(\partial/\partial t,\partial/\partial r) が FF の正の基底であることを意味し、この向きは r=0r=0 まで延びます。境界 KiK_i での外向きベクトルは −∂/∂r-\partial/\partial r で、(−∂/∂r, ∂/∂t)(-\partial/\partial r,\ \partial/\partial t) は (∂/∂t,∂/∂r)(\partial/\partial t,\partial/\partial r) と同じ向きなので、境界の向き(定義 4.5[ストークスの定理])は tt の増える向き、すなわち KiK_i の向きです。これがすべての ii で成り立つので、∂F=L\partial F=L(向きを込めて)です。

FF の連結成分は有限個で、そのうち LL と交わらないもの(閉曲面)を取り除いた残りが Seifert 膜です。LL が結び目なら、残った各成分は空でない境界をもち、境界の全体 LL は連結なので、成分は 1 つです。

R3\mathbb{R}^3 の場合。 R3\mathbb{R}^3 の絡み目 LL を S3=R3∪{∞}S^3=\mathbb{R}^3\cup\{\infty\} の絡み目と見て、上の FF を取ります。∞∈F\infty\in F のときは、∞\infty のまわりの、LL と交わらないチャートの開球 OO の中に FF に入らない点 x1x_1 を取ります(F∩OF\cap O は 2 次元の部分多様体で、OO 全体ではありません)。台が OO のコンパクト集合に入る S3S^3 の微分同相で x1x_1 を ∞\infty に写すものがあり(定理 5.4[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] の 1 を OO に使い、外へ恒等写像で延ばす。恒等写像にイソトピックなので向きを保つ)、それによる FF の像は ∞\infty を含まない Seifert 膜です。

注意 4.5

上の証明は膜の存在を示すだけで、形は教えてくれません。射影図から膜を具体的に作る方法が、以下に述べる Seifert のアルゴリズム(H. Seifert、1934 年)です。交差が cc 個の射影図を平滑化して得られる円周が ss 個のとき、Euler 標数 s−cs-c の Seifert 膜が得られ、結び目で膜が連結なら種数は 12(c−s+1)\tfrac12(c-s+1) です。ここでは構成を説明するにとどめます。円板と帯を貼り合わせた図形の角をならして滑らかな部分多様体にする段と、帯のひねりと向きの確認は絵による説明で、省略のない証明にはなっていません(D. Rolfsen『Knots and Links』第 5 章)。この節の例と演習でこの膜の Euler 標数を使うところは、アルゴリズムの結果を認めたうえでの計算です。

Seifert のアルゴリズム。 S3S^3 の絡み目は、絡み目の上にない点を無限遠点とすれば R3\mathbb{R}^3 の絡み目です。補題 4.2 により、絡み目 LL は正則な射影図をもつとし、第 3 座標を付け替えて、交差の近く以外では平面 x3=0x_3=0 の上に、交差の近くでは上を通る枝だけが少し持ち上がっているとします。

第 1 段:平滑化。 各交差の近くで、2 つの枝を、向きを保つように「入ってきた枝を、もう一方の出ていく枝へ」つなぎ替えます(図)。得られるのは平面 x3=0x_3=0 の中の向き付けられたコンパクトな 1 次元部分多様体で、有限個の円周 C1,…,CsC_1,\dots,C_s(Seifert 円周)の非交和です(定理 4.4[横断性])。

第 2 段:交差で隣り合う 2 つの弧は別の円周に属する。 平滑化した場所では、2 つの弧が同じ向き(図では上向き)に並んでいて、間の細い領域 RR はどの円周とも交わりません。2 つの弧が同じ円周 CC に属するとすると、RR は R2∖C\mathbb{R}^2\setminus C の 1 つの成分に含まれます。CC の内側(補題 4.3 の円板)は、CC の向きについてつねに左側にあるか、つねに右側にあるかのどちらかですが、RR は左の弧から見て右側、右の弧から見て左側にあるので、これは矛盾です。

第 3 段:円板を張る。 各 CiC_i は平面の中で円板 AiA_i を囲みます(補題 4.3)。CiC_i を囲むほかの Seifert 円周の個数を did_i とし、高さ hi=1/(1+di)h_i=1/(1+d_i) を取って、

Fi=Ci×[0,hi] ∪ Ai×{hi}F_i=C_i\times[0,h_i]\ \cup\ A_i\times\{h_i\}

(壁とふた)の角を丸めたものを作ります。FiF_i は CiC_i を境界とする円板です。2 つの円周が互いの外側にあれば FiF_i と FjF_j は交わりません。CjC_j が CiC_i の内側にあれば dj>did_j\gt d_i、hj<hih_j\lt h_i で、FjF_j は AiA_i の上の高さ hjh_j 以下の部分にあり、FiF_i のふた(高さ hih_i)と壁(CiC_i の上)のどちらとも交わりません。FiF_i には CiC_i の向きが境界の向きになる向きを入れます。

第 4 段:帯でつなぐ。 交差があった各場所で、平滑化した 2 つの弧を、もとの交差を復元する半ひねりの帯でつなぎます(帯は交差の近くの小さい球の中に取り、2 つの枝のうち上を通る方が上になる向きにひねります)。第 2 段により帯は異なる円板 FiF_i、FjF_j をつなぎます。こうして得られるコンパクトな曲面 FF の境界は、もとの射影図をもつ絡み目で、LL に同値です。

向き。 帯でつながる 2 つの円周は、互いの外側にあるか、一方が他方のすぐ内側にあるかのどちらかです。前者では、隣り合う弧が同じ向きなので 2 つの円周の回る向きは逆で、円板の表(境界の向きから決まる法方向)は一方が上、他方が下を向き、半ひねりの帯は表を表につなぎます。後者では 2 つの円周は同じ向きに回り、円板は同じ側を表にして上下に重なっていて、半ひねりの帯は下の階から上の階への斜面として表を表につなぎます。よって FF は向き付けられ、境界の向きは LL の向きです。

Euler 標数と連結性。 FF は ss 個の円板(0-ハンドル)に cc 本の帯(1-ハンドル)を貼ったものなので χ(F)=s−c\chi(F)=s-c です(補題 2.5[同境と Pontryagin–Thom 構成])。FF が連結で境界が 1 つの円周なら、ふさいだ閉曲面の Euler 標数は s−c+1=2−2gs-c+1=2-2g です。FF が連結でないときは、2 つの成分を、FF のほかの部分と交わらない細い管(FF から小さい円板を 2 つ除き、それらを結ぶ弧の近傍の円筒を付ける。弧は一般の位置から FF と交わらないように取れる)でつなげば、向きを保ったまま連結にできます。

例 4.6(三葉結び目、8 の字結び目、Hopf 絡み目)

三葉結び目の標準的な射影図は交差が c=3c=3 個で、平滑化すると大小 2 つの入れ子の円周(s=2s=2)になります。Seifert のアルゴリズム(注意 4.5)の膜は 2 枚の円板を 3 本の半ひねりの帯でつないだもので、連結、χ=−1\chi=-1、種数 12(3−2+1)=1\tfrac12(3-2+1)=1 の、穴の 1 つあいたトーラスです。8 の字結び目は c=4c=4、s=3s=3 で、やはり種数 11 の膜が得られます。どちらも自明な結び目ではないので(三葉結び目については 定理 4.9)、種数はちょうど 11 です。Hopf 絡み目(2 つの円周が 1 回絡んだもの)は c=2c=2、s=2s=2 で、膜は円環です。円環の 2 つの境界成分は、帯のひねりのために互いに 1 回絡みます。

射影図の交差 xx の符号 ϵ(x)=±1\epsilon(x)=\pm1 を、上を通る枝の接ベクトル tovert_{\mathrm{over}} と下を通る枝の接ベクトル tundert_{\mathrm{under}} の射影について ϵ(x)=sign⁡det⁡(tover,tunder)\epsilon(x)=\operatorname{sign}\det(t_{\mathrm{over}},t_{\mathrm{under}}) と定めます(図の左の交差は tover=(1,1)t_{\mathrm{over}}=(1,1)、tunder=(−1,1)t_{\mathrm{under}}=(-1,1) で +1+1)。

系 4.7(絡み数の射影図による公式)✓

KK、LL を互いに交わらない向き付けられた結び目とし、K∪LK\cup L が正則な射影図をもつとする。

  1. lk⁡(K,L)\operatorname{lk}(K,L) は、KK の Seifert 膜 FF と LL の交点の符号の和に等しい(LL が FF に横断的なとき)。
  2. lk⁡(K,L)=∑x: L が K の上を通る交差ϵ(x)=∑x: K が L の上を通る交差ϵ(x)=12∑x: K と L の交差ϵ(x)\displaystyle\operatorname{lk}(K,L)=\sum_{x:\ L\text{ が }K\text{ の上を通る交差}}\epsilon(x)=\sum_{x:\ K\text{ が }L\text{ の上を通る交差}}\epsilon(x)=\frac12\sum_{x:\ K\text{ と }L\text{ の交差}}\epsilon(x)。
証明(系 4.7)

1。 定理 4.4 により FF が存在し、命題 8.2[交点数と写像度] の 2 です。

2。 絡み数は λ(x,y)=(y−x)/∣y−x∣\lambda(x,y)=(y-x)/|y-x|(x∈Kx\in K、y∈Ly\in L)の写像度です(定義 8.1[交点数と写像度])。北極 e3e_3 の逆像は、yy が xx の真上にある対、すなわち LL が KK の上を通る交差です。そこで KK、LL の正の接ベクトルを tKt_K、tLt_L、水平成分を tKht_K^h、tLht_L^h とすると、dλ(tK,0)=−tKh/∣y−x∣d\lambda(t_K,0)=-t_K^h/|y-x|、dλ(0,tL)=tLh/∣y−x∣d\lambda(0,t_L)=t_L^h/|y-x| です。交差が横断的なのでこの 2 つは 1 次独立で、e3e_3 は正則値です。Te3S2T_{e_3}S^2 の正の基底は (e1,e2)(e_1,e_2) なので、dλd\lambda の符号は sign⁡det⁡(−tKh,tLh)=sign⁡det⁡(tLh,tKh)=ϵ(x)\operatorname{sign}\det(-t_K^h,t_L^h)=\operatorname{sign}\det(t_L^h,t_K^h)=\epsilon(x)(上を通るのは LL)です。写像度は正則値の逆像の符号の和なので(定理 4.5[交点数と写像度])、第 1 の等式を得ます。南極 −e3-e_3 の逆像は KK が LL の上を通る交差で、T−e3S2T_{-e_3}S^2 の正の基底は (e2,e1)(e_2,e_1) なので、符号は −sign⁡det⁡(−tKh,tLh)=sign⁡det⁡(tKh,tLh)=ϵ(x)-\operatorname{sign}\det(-t_K^h,t_L^h)=\operatorname{sign}\det(t_K^h,t_L^h)=\epsilon(x)(上を通るのは KK)です。写像度は正則値の取り方によらないので第 2 の等式が、2 つを平均して第 3 の等式が得られます。

Hopf 絡み目では 2 つの交差の符号が同じで、絡み数は ±1\pm1 です。1 では、Seifert のアルゴリズム(注意 4.5)の膜を KK だけの射影図から作ると、LL は KK の Seifert 円周の円板を上から下へ(または下から上へ)貫き、その回数の符号つきの和が同じ数を与えます。

4.3. 補空間のホモロジーと基本群

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命題 4.8(結び目の補空間のホモロジーは結び目によらない)✓

K⊂S3K\subset S^3 を結び目とする。H~k(S3∖K)\tilde H_k(S^3\setminus K) は k=1k=1 で Z\mathbb{Z}、ほかで 00 である。H1(S3∖K)H_1(S^3\setminus K) は、KK の管状近傍の境界の上で KK を 1 回まわる閉曲線(メリディアン)の類で生成される。

証明(命題 4.8)

前半は 定理 3.1[Jordan の曲線定理と Jordan–Brouwer の分離定理] の (b)(n=3n=3、k=1k=1)です。生成元を調べます。KK の法束は、向き付けられた 3 次元多様体の中の向き付けられた円周の法束なので、向き付けられた階数 22 の束です。円周を区間の両端を貼ったものと見ると、区間の上では自明で(系 2.5[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])、貼り合わせは GL+(2,R)GL^+(2,\mathbb{R}) の元、GL+(2,R)GL^+(2,\mathbb{R}) は弧状連結(補題 3.1[Hurewicz の定理と Freudenthal の懸垂定理])なので、法束は自明です。よって管状近傍(定理 3.4[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])の閉円板束の部分 NN は S1×D2S^1\times D^2 に微分同相で、X=S3∖int⁡NX=S^3\setminus\operatorname{int}N は S3∖KS^3\setminus K にホモトピー同値、N∩X=∂N≅T2N\cap X=\partial N\cong T^2 です。NN と XX を少し太らせた開集合の Mayer–Vietoris 完全列(定理 5.4[特異ホモロジー])

0=H2(S3)→H1(T2)→H1(N)⊕H1(X)→H1(S3)=00=H_2(S^3)\to H_1(T^2)\to H_1(N)\oplus H_1(X)\to H_1(S^3)=0

から、H1(T2)≅Z2→H1(N)⊕H1(X)H_1(T^2)\cong\mathbb{Z}^2\to H_1(N)\oplus H_1(X) は同型です。H1(T2)H_1(T^2) の基底としてメリディアン μ={pt}×∂D2\mu=\{\mathrm{pt}\}\times\partial D^2 と ℓ=S1×{pt}\ell=S^1\times\{\mathrm{pt}\} を取ると、H1(N)≅ZH_1(N)\cong\mathbb{Z} への像は μ↦0\mu\mapsto0、ℓ↦1\ell\mapsto1 です。同型であることから、H1(N)H_1(N) への射の核 Zμ\mathbb{Z}\mu は H1(X)H_1(X) に同型に写ります。よって H1(X)=Z[μ]H_1(X)=\mathbb{Z}[\mu] です。

ホモロジーではすべての結び目が同じに見える、というのがこの命題の内容です。閉曲線 γ⊂S3∖K\gamma\subset S^3\setminus K の H1(S3∖K)≅ZH_1(S^3\setminus K)\cong\mathbb{Z} での値は絡み数 lk⁡(γ,K)\operatorname{lk}(\gamma,K) です。結び目を区別するには、可換化する前の基本群を見ます。

定理 4.9(三葉結び目は自明でない)✓

S3={(z1,z2)∈C2:∣z1∣2+∣z2∣2=2}S^3=\{(z_1,z_2)\in\mathbb{C}^2:|z_1|^2+|z_2|^2=2\} の中の結び目 K={(e3it,e2it):t∈R}K=\{(e^{3it},e^{2it}):t\in\mathbb{R}\}(三葉結び目)について

π1(S3∖K)≅⟨a,b∣a2=b3⟩\pi_1(S^3\setminus K)\cong\langle a,b\mid a^2=b^3\rangle

で、この群は 3 次対称群 S3S_3 の上への全射準同型をもつ。とくに可換でない。自明な結び目 UU では π1(S3∖U)≅Z\pi_1(S^3\setminus U)\cong\mathbb{Z} なので、KK は自明な結び目に同値でない。

証明(定理 4.9)

命題 8.3[ハンドル分解と手術] の証明のとおり、V1={∣z1∣≤1}V_1=\{|z_1|\le1\}、V2={∣z2∣≤1}V_2=\{|z_2|\le1\} はソリッドトーラスで、V1V_1 の S1S^1 方向は z2z_2 の偏角、V2V_2 の S1S^1 方向は z1z_1 の偏角、共通の境界は T={∣z1∣=∣z2∣=1}T=\{|z_1|=|z_2|=1\} です。K⊂TK\subset T で、KK は z1z_1 の偏角の方向に 3 回、z2z_2 の偏角の方向に 2 回まわります。

Vi∖KV_i\setminus K は、D2D^2 方向に半径を 12\tfrac12 倍に縮める変位レトラクションで ViV_i の中のソリッドトーラスに、したがって芯の円周にホモトピー同値で、π1(V1∖K)≅Z\pi_1(V_1\setminus K)\cong\mathbb{Z}(生成元 aa:z2z_2 の偏角を 1 周)、π1(V2∖K)≅Z\pi_1(V_2\setminus K)\cong\mathbb{Z}(生成元 bb:z1z_1 の偏角を 1 周)です(定理 4.1[基本群と被覆空間])。T∖KT\setminus K は、トーラスを KK に沿って切り開いた開いた円環で、KK に平行な閉曲線 K′K' にホモトピー同値、π1(T∖K)≅Z\pi_1(T\setminus K)\cong\mathbb{Z} です。K′K' は V1∖KV_1\setminus K の中で z2z_2 の偏角を 2 周するので a2a^2 に、V2∖KV_2\setminus K の中で z1z_1 の偏角を 3 周するので b3b^3 に写ります。S3∖KS^3\setminus K を、V1∖KV_1\setminus K と V2∖KV_2\setminus K を T∖KT\setminus K の近くで少し太らせた 2 つの開集合の和と見て van Kampen の定理(定理 6.1[基本群と被覆空間])を使うと、π1(S3∖K)\pi_1(S^3\setminus K) は Z⟨a⟩\mathbb{Z}\langle a\rangle と Z⟨b⟩\mathbb{Z}\langle b\rangle の、a2=b3a^2=b^3 による融合積、すなわち ⟨a,b∣a2=b3⟩\langle a,b\mid a^2=b^3\rangle です。

a↦(1 2)a\mapsto(1\,2)、b↦(1 2 3)b\mapsto(1\,2\,3) は、(1 2)2=1=(1 2 3)3(1\,2)^2=1=(1\,2\,3)^3 なので関係式を保ち、準同型 π1(S3∖K)→S3\pi_1(S^3\setminus K)\to S_3 を定めます。(1 2)(1\,2) と (1 2 3)(1\,2\,3) は S3S_3 を生成するので全射で、S3S_3 は可換でないので π1(S3∖K)\pi_1(S^3\setminus K) も可換ではありません。

自明な結び目として U={z2=0}∩S3U=\{z_2=0\}\cap S^3 を取ると、S3∖U={z2≠0}S^3\setminus U=\{z_2\ne0\} は (z1,z2)↦(sz1,2−s2∣z1∣2 z2/∣z2∣)(z_1,z_2)\mapsto(sz_1,\sqrt{2-s^2|z_1|^2}\,z_2/|z_2|)(s∈[0,1]s\in[0,1])で円周 {z1=0}\{z_1=0\} に変位レトラクトし、π1≅Z\pi_1\cong\mathbb{Z} です。結び目が同値なら補空間は同相で基本群は同型なので、KK は UU に同値ではありません。

KK は標準的なトーラスの上を (2,3)(2,3) の傾きで走る結び目(トーラス結び目)で、立体射影すると交差が 3 つのよく知られた形になります。この証明は、命題 4.8 の可換化 a↦3a\mapsto3、b↦2b\mapsto2(Z\mathbb{Z} への全射)では見えなかった情報を、非可換な像で取り出しています。

4 次元では、中間の次元 2 のホモロジーの上の交点数が、多様体の最も基本的な不変量になります。Thom 類と Poincaré 双対の章では実係数の交叉形式 ∫Mα∧β\int_M\alpha\wedge\beta を扱いました。4 次元多様体の分類では、その中の整数の格子が本質的です。

定義 5.1(4 次元多様体の交叉形式)↗

MM を向き付けられた閉 4 次元多様体とする。

  1. HdR2(M)H^2_{\mathrm{dR}}(M) の類 [α][\alpha] で、向き付けられた閉曲面からの任意の滑らかな写像 g ⁣:Σ→Mg\colon\Sigma\to M について ∫Σg∗α∈Z\int_\Sigma g^*\alpha\in\mathbb{Z} となるものの全体を ΛM\Lambda_M と書く。ΛM\Lambda_M は部分群である。
  2. ΛM\Lambda_M の上の対称双線形形式 QM(α,β)=∫Mα∧βQ_M(\alpha,\beta)=\int_M\alpha\wedge\beta を、MM の(整数係数の)交叉形式という。
  3. 対称双線形形式 Q ⁣:Λ×Λ→ZQ\colon\Lambda\times\Lambda\to\mathbb{Z}(Λ≅Zr\Lambda\cong\mathbb{Z}^r)がユニモジュラーであるとは、基底についての行列の行列式が ±1\pm1 であること(同値:x↦Q(x,⋅)x\mapsto Q(x,\cdot) が同型 Λ→Hom⁡(Λ,Z)\Lambda\to\operatorname{Hom}(\Lambda,\mathbb{Z}))をいう。すべての xx で Q(x,x)Q(x,x) が偶数のとき偶、そうでないとき奇という。すべての x≠0x\ne0 で Q(x,x)>0Q(x,x)\gt0(または <0\lt0)のとき定値、そうでないとき不定値という。rr を階数、実係数に延ばした形式の符号数を QQ の符号数という。

次の補題が、この節で必要な整数係数の Poincaré 双対です。ハンドル分解を上下逆さに見ることで得られます。

補題 5.2(ハンドル分解による整数係数の双対)✓

MM を向き付けられた閉 nn 次元多様体とする。すべての kk について

Hn−k(M)≅Hom⁡(Hk(M),Z)⊕Ext⁡(Hk−1(M),Z)H_{n-k}(M)\cong\operatorname{Hom}(H_k(M),\mathbb{Z})\oplus\operatorname{Ext}(H_{k-1}(M),\mathbb{Z})

である。より詳しく、自己指数的な Morse 関数 ff と、すべての指数で下降球面と上昇球面が横断的に交わる勾配状ベクトル場を取り、下降円板 D(p)D(p) の向きを選んで、上昇円板 A(p)A(p) の向きを「D(p)D(p) の向き、A(p)A(p) の向きの順に並べると pp で MM の向きになる」ように決めると、n−fn-f のハンドル鎖複体 C∗′C'_* は、ff のハンドル鎖複体 C∗C_* の双対複体 Hom⁡(Cn−∗,Z)\operatorname{Hom}(C_{n-*},\mathbb{Z}) に、[A(p)][A(p)] を [D(p)][D(p)] の双対基底の ±1\pm1 倍(符号は次数だけで決まる)に写す同型で同型である。

証明(補題 5.2)

このような ff と勾配状ベクトル場は存在します(定理 4.1[ハンドル分解と手術] の 3 と、その 2 の証明の方法:等位面 VV の中で、上昇球面の包含写像を 定理 9.1[横断性] の族の中で少し動かして下降球面に横断的にし、系 5.4[横断性] によりそれがイソトピーであるようにして、定理 5.2[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] で VV のアンビエントイソトピーに延ばす。指数の低い等位面から順に行えば、ベクトル場を変える帯が互いに交わらないので、すでに横断的にした等位面は影響を受けない)。

pp を指数 λ\lambda、qq を指数 λ+1\lambda+1 の臨界点、V=f−1(λ+12)V=f^{-1}(\lambda+\tfrac12) とし、s∈Aq∩Bps\in A_q\cap B_p(AqA_q は qq の下降球面、BpB_p は pp の上昇球面)とします。命題 6.1[ハンドル分解と手術] の 3 により、ff の境界作用素の係数 n(q,p)n(q,p) への ss の寄与 ϵs\epsilon_s は、TsAqT_sA_q の向き a\mathfrak{a} と、BpB_p の法方向の向き νB\nu_B(D(p)D(p) の向きから決まる)を、同型 TsAq→TsV/TsBpT_sA_q\to T_sV/T_sB_p で比べた符号です。同じ命題を n−fn-f に使うと、下降と上昇が入れ替わり、n−fn-f の係数 n′(p,q)n'(p,q) への ss の寄与 ϵs′\epsilon_s' は、TsBpT_sB_p の向き b\mathfrak{b} と、AqA_q の法方向の向き νA\nu_A(A(q)A(q) の向きから決まる)を比べた符号です。TsVT_sV の向き o\mathfrak{o} を 1 つ固定すると、νB⊕b=κB o\nu_B\oplus\mathfrak{b}=\kappa_B\,\mathfrak{o}、νA⊕a=κA o\nu_A\oplus\mathfrak{a}=\kappa_A\,\mathfrak{o} となる符号 κB,κA\kappa_B,\kappa_A があります。D(p)D(p) の向きを逆にすると、取り決めにより A(p)A(p) の向きも逆になり、νB\nu_B と b\mathfrak{b}(A(p)A(p) の境界としての向き)がともに逆になるので、κB\kappa_B は変わりません。κA\kappa_A も同様で、どちらも nn と λ\lambda だけで決まります。定義から a⊕b=ϵsκB o\mathfrak{a}\oplus\mathfrak{b}=\epsilon_s\kappa_B\,\mathfrak{o}、b⊕a=ϵs′κA o\mathfrak{b}\oplus\mathfrak{a}=\epsilon_s'\kappa_A\,\mathfrak{o} で、a⊕b=(−1)λ(n−λ−1)b⊕a\mathfrak{a}\oplus\mathfrak{b}=(-1)^{\lambda(n-\lambda-1)}\mathfrak{b}\oplus\mathfrak{a} なので、ϵs′=ελϵs\epsilon_s'=\varepsilon_\lambda\epsilon_s、ελ=(−1)λ(n−λ−1)κAκB\varepsilon_\lambda=(-1)^{\lambda(n-\lambda-1)}\kappa_A\kappa_B です。交点について足すと n′(p,q)=ελ n(q,p)n'(p,q)=\varepsilon_\lambda\,n(q,p) で、ελ\varepsilon_\lambda は λ\lambda と nn だけで決まります。

Cn−λ′C'_{n-\lambda} は [A(p)][A(p)](pp は ff の指数 λ\lambda の臨界点)を基底とし、境界作用素 d′ ⁣:Cn−λ′→Cn−λ−1′d'\colon C'_{n-\lambda}\to C'_{n-\lambda-1} の行列は ελ\varepsilon_\lambda 倍の dλ+1d_{\lambda+1} の転置です。[A(p)][A(p)] を [D(p)][D(p)] の双対基底に対応させると、Cn−λ′≅Hom⁡(Cλ,Z)C'_{n-\lambda}\cong\operatorname{Hom}(C_\lambda,\mathbb{Z}) で、d′d' は ελ\varepsilon_\lambda 倍の dλ+1d_{\lambda+1} の双対写像です。次数ごとに基底全体に符号 ±1\pm1 を掛け直せば(λ\lambda について順に決めます)ελ\varepsilon_\lambda を吸収でき、C∗′≅Hom⁡(Cn−∗,Z)C'_*\cong\operatorname{Hom}(C_{n-*},\mathbb{Z}) が複体の同型になります。C∗′C'_* のホモロジーは H∗(M)H_*(M) なので(命題 6.1[ハンドル分解と手術] の 2 を n−fn-f に使う)、Hn−k(M)≅Hk(Hom⁡(C∗,Z))H_{n-k}(M)\cong H^k(\operatorname{Hom}(C_*,\mathbb{Z})) で、自由アーベル群の鎖複体 C∗C_* についての普遍係数定理(定理 3.4[コホモロジーと双対性])と H∗(C∗)≅H∗(M)H_*(C_*)\cong H_*(M) から主張を得ます。

命題 5.3(単連結な閉 4 次元多様体の H₂ と交叉形式)✓

MM を単連結な閉 4 次元多様体とし、向きを 1 つ決める(単連結なので向き付け可能である)。

  1. H1(M)=H3(M)=0H_1(M)=H_3(M)=0、H0(M)≅H4(M)≅ZH_0(M)\cong H_4(M)\cong\mathbb{Z} で、H2(M)H_2(M) は有限階数の自由アーベル群である。
  2. 補題 5.2 の ff について、C2′C'_2 の元 ∑iai[A(pi)]\sum_ia_i[A(p_i)] と C2C_2 の元 ∑jbj[D(pj)]\sum_jb_j[D(p_j)] に ∑iaibi\sum_ia_ib_i(芯と余芯の交点数)を対応させる対は、双線形形式 λM ⁣:H2(M)×H2(M)→Z\lambda_M\colon H_2(M)\times H_2(M)\to\mathbb{Z} を誘導し、λM\lambda_M はユニモジュラーである。
  3. ΛM={[α]:∫zα∈Z (∀z∈H2(M))}≅Hom⁡(H2(M),Z)\Lambda_M=\{[\alpha]:\int_z\alpha\in\mathbb{Z}\ (\forall z\in H_2(M))\}\cong\operatorname{Hom}(H_2(M),\mathbb{Z}) で、ΛM\Lambda_M は HdR2(M)H^2_{\mathrm{dR}}(M) を張る階数 b2(M)b_2(M) の格子である。
  4. φ ⁣:M→M′\varphi\colon M\to M' が向き付けられた閉 4 次元多様体の間のホモトピー同値なら、φ\varphi にホモトピックな滑らかな写像による引き戻しは同型 ΛM′→ΛM\Lambda_{M'}\to\Lambda_M を与え、QM(φ∗x,φ∗y)=±QM′(x,y)Q_M(\varphi^*x,\varphi^*y)=\pm Q_{M'}(x,y)(符号は x,yx,y によらない)である。とくに、Q(x,x)Q(x,x) が奇数となる x∈Λx\in\Lambda が存在するかどうかは、ホモトピー同値で不変である。
証明(命題 5.3)

向き付け可能性:向きの 2 重被覆(各点に局所的な向きを対応させる被覆)は、単連結な底空間の上では自明なので(定理 5.1[基本群と被覆空間])、大域的な向きがあります。

1。 単連結なので H1(M)=0H_1(M)=0 です(定理 5.4[Hurewicz の定理と Freudenthal の懸垂定理] の n=2n=2 の場合の前半)。H0(M)≅ZH_0(M)\cong\mathbb{Z}、Ext⁡(Z,Z)=0\operatorname{Ext}(\mathbb{Z},\mathbb{Z})=0、Hom⁡(0,Z)=Ext⁡(0,Z)=0\operatorname{Hom}(0,\mathbb{Z})=\operatorname{Ext}(0,\mathbb{Z})=0 なので、補題 5.2 から H4≅Hom⁡(H0,Z)≅ZH_4\cong\operatorname{Hom}(H_0,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}、H3≅Hom⁡(H1,Z)⊕Ext⁡(H0,Z)=0H_3\cong\operatorname{Hom}(H_1,\mathbb{Z})\oplus\operatorname{Ext}(H_0,\mathbb{Z})=0、H2≅Hom⁡(H2,Z)⊕Ext⁡(H1,Z)=Hom⁡(H2,Z)H_2\cong\operatorname{Hom}(H_2,\mathbb{Z})\oplus\operatorname{Ext}(H_1,\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}(H_2,\mathbb{Z}) です。H2(M)H_2(M) は有限生成(補題 2.5[同境と Pontryagin–Thom 構成])で、有限生成アーベル群 GG について Hom⁡(G,Z)\operatorname{Hom}(G,\mathbb{Z}) はねじれのない有限生成アーベル群、すなわち自由アーベル群なので、H2(M)H_2(M) は自由です。

2。 補題 5.2 の複体の同型で、C2′C'_2 の元 ∑iai[A(pi)]\sum_ia_i[A(p_i)] は、C2C_2 上の線形形式 [D(pj)]↦±aj[D(p_j)]\mapsto\pm a_j に対応し、与えられた対はこの線形形式の値(の ±1\pm1 倍)です。サイクルとコサイクルの対はホモロジー類とコホモロジー類だけで決まるので、H2(C′)×H2(C)=H2(M)×H2(M)H_2(C')\times H_2(C)=H_2(M)\times H_2(M) の上の対 λM\lambda_M が定まります。x↦λM(x,⋅)x\mapsto\lambda_M(x,\cdot) は、同型 H2(M)=H2(C′)≅H2(Hom⁡(C∗,Z))H_2(M)=H_2(C')\cong H^2(\operatorname{Hom}(C_*,\mathbb{Z})) と、普遍係数定理の写像 h ⁣:H2(Hom⁡(C∗,Z))→Hom⁡(H2(C),Z)h\colon H^2(\operatorname{Hom}(C_*,\mathbb{Z}))\to\operatorname{Hom}(H_2(C),\mathbb{Z}) の合成(の ±1\pm1 倍)です。Ext⁡(H1(M),Z)=0\operatorname{Ext}(H_1(M),\mathbb{Z})=0 なので hh は同型で(定理 3.4[コホモロジーと双対性])、λM\lambda_M はユニモジュラーです。

3。 de Rham の定理(定理 5.4[コホモロジーと双対性])と実係数の普遍係数定理(系 3.5[コホモロジーと双対性])により、閉 2 形式の類 [α][\alpha] に周期 z↦∫zαz\mapsto\int_z\alpha を対応させる写像は同型 HdR2(M)→Hom⁡(H2(M),R)H^2_{\mathrm{dR}}(M)\to\operatorname{Hom}(H_2(M),\mathbb{R}) です。向き付けられた閉曲面からの写像 g ⁣:Σ→Mg\colon\Sigma\to M は類 g∗[Σ]∈H2(M)g_*[\Sigma]\in H_2(M) を定め、∫Σg∗α\int_\Sigma g^*\alpha はその周期です。逆に、MM は単連結なので Hurewicz 準同型 π2(M)→H2(M)\pi_2(M)\to H_2(M) は同型で(系 5.6[Hurewicz の定理と Freudenthal の懸垂定理] の n=2n=2)、H2(M)H_2(M) の任意の類は滑らかな写像 S2→MS^2\to M(系 8.2[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])の像です。よって ΛM\Lambda_M は周期がすべて整数である類の全体で、上の同型により Hom⁡(H2(M),Z)⊂Hom⁡(H2(M),R)\operatorname{Hom}(H_2(M),\mathbb{Z})\subset\operatorname{Hom}(H_2(M),\mathbb{R}) に対応します。1 により H2(M)≅Zb2H_2(M)\cong\mathbb{Z}^{b_2} なので、これは実ベクトル空間を張る階数 b2b_2 の格子です。

4。 φ\varphi とそのホモトピー逆 ψ\psi を滑らかな写像に取り替えます(定理 8.1[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])。g ⁣:Σ→Mg\colon\Sigma\to M について ∫Σg∗φ∗α=∫Σ(φ∘g)∗α\int_\Sigma g^*\varphi^*\alpha=\int_\Sigma(\varphi\circ g)^*\alpha なので φ∗ΛM′⊂ΛM\varphi^*\Lambda_{M'}\subset\Lambda_M、同様に ψ∗ΛM⊂ΛM′\psi^*\Lambda_M\subset\Lambda_{M'} で、φ∗ψ∗=(ψ∘φ)∗=id\varphi^*\psi^*=(\psi\circ\varphi)^*=\mathrm{id}、ψ∗φ∗=id\psi^*\varphi^*=\mathrm{id}(定理 3.2[de Rham コホモロジー])から φ∗ ⁣:ΛM′→ΛM\varphi^*\colon\Lambda_{M'}\to\Lambda_M は同型です。引き戻しは外積と可換なので QM(φ∗x,φ∗y)=∫Mφ∗(x∧y)=deg⁡φ⋅∫M′x∧yQ_M(\varphi^*x,\varphi^*y)=\int_M\varphi^*(x\wedge y)=\deg\varphi\cdot\int_{M'}x\wedge y(系 4.4[交点数と写像度])で、deg⁡φ\deg\varphi と deg⁡ψ\deg\psi は整数、deg⁡φ⋅deg⁡ψ=deg⁡(ψ∘φ)=1\deg\varphi\cdot\deg\psi=\deg(\psi\circ\varphi)=1 なので deg⁡φ=±1\deg\varphi=\pm1 です。

注意 5.4

2 の λM\lambda_M と、定義 5.1 の QMQ_M は同じものの 2 つの表し方です。H2(M)H_2(M) の類 zz の Poincaré 双対 ηz∈HdR2(M)\eta_z\in H^2_{\mathrm{dR}}(M)(∫Mα∧ηz=∫zα\int_M\alpha\wedge\eta_z=\int_z\alpha で決まる類)を取ると、z↦ηzz\mapsto\eta_z は H2(M)H_2(M) から ΛM\Lambda_M の上への同型で、QM(ηz,ηw)=λM(z,w)Q_M(\eta_z,\eta_w)=\lambda_M(z,w) が成り立ちます。したがって QMQ_M は整数値で対称なユニモジュラー形式で、横断的に交わる 2 つの埋め込まれた曲面については交点数に一致します。この一致の証明には、特異サイクルの Poincaré 双対を台の近くに局所化する議論(部分多様体については 系 5.3[Thom 類と Poincaré 双対])を鎖の水準で行う必要があり、この記事では行いません(R. E. Gompf, A. I. Stipsicz『4-Manifolds and Kirby Calculus』§1.2)。以下の例では、ΛM\Lambda_M と QMQ_M を定義から直接計算します。

命題 5.5(CP²、S² × S²、CP² # (−CP²) の交叉形式)✓

  1. CP2\mathbb{C}P^2 では Λ=Zx\Lambda=\mathbb{Z}x(xx は直線 LL の Poincaré 双対)、Q=(1)Q=(1)。向きを逆にした −CP2-\mathbb{C}P^2 では Q=(−1)Q=(-1)。
  2. S2×S2S^2\times S^2 では Λ=Za⊕Zb\Lambda=\mathbb{Z}a\oplus\mathbb{Z}b(a,ba,b は各因子の面積形式の引き戻し)、Q=H:=(0110)Q=H:=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}。これは偶で不定値、符号数 00 である。
  3. CP2#(−CP2)\mathbb{C}P^2\#(-\mathbb{C}P^2) では Λ=Zx⊕Zy\Lambda=\mathbb{Z}x\oplus\mathbb{Z}y、Q=(100−1)Q=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}。これは奇で不定値、符号数 00 である。
  4. S2×S2S^2\times S^2 と CP2#(−CP2)\mathbb{C}P^2\#(-\mathbb{C}P^2) はホモトピー同値でない。とくに同相でない。
証明(命題 5.5)

部分多様体 ZZ の Poincaré 双対 ηZ\eta_Z について、次の 2 つを使います。(i) ∫Mα∧ηZ=∫Zα\int_M\alpha\wedge\eta_Z=\int_Z\alpha(Poincaré 双対の定義。定義 5.1[Thom 類と Poincaré 双対])。(ii) 向き付けられた閉曲面からの滑らかな写像 g ⁣:Σ→Mg\colon\Sigma\to M について ∫Σg∗ηZ\int_\Sigma g^*\eta_Z は整数である。実際、gg をホモトピーで ZZ に横断的にすると(定理 9.1[横断性]。積分は変わらない)、g∗ηZg^*\eta_Z は有限個の符号つきの点 g−1(Z)g^{-1}(Z) の Poincaré 双対で(命題 5.7[Thom 類と Poincaré 双対])、積分は符号の和です。

1。 HdR2(CP2)=RxH^2_{\mathrm{dR}}(\mathbb{C}P^2)=\mathbb{R}x、x=ηLx=\eta_L、∫x2=1\int x^2=1 です(定理 8.4[Thom 類と Poincaré 双対])。(ii) により x∈Λx\in\Lambda です。sx∈Λsx\in\Lambda なら、gg を別の直線 L′L' の包含として(L′L' は LL にイソトピックなので ηL′=x\eta_{L'}=x)、(i) から ∫L′sx=s∫CP2x∧ηL′=s∫x2=s\int_{L'}sx=s\int_{\mathbb{C}P^2}x\wedge\eta_{L'}=s\int x^2=s が整数です。よって Λ=Zx\Lambda=\mathbb{Z}x、Q(x,x)=1Q(x,x)=1 です。向きを逆にすると積分の符号が変わります。

2。 ω\omega を ∫S2ω=1\int_{S^2}\omega=1 の 2 形式、a=pr1∗ωa=\mathrm{pr}_1^*\omega、b=pr2∗ωb=\mathrm{pr}_2^*\omega とすると、Künneth の公式(系 5.7[コホモロジーと双対性])により HdR2(S2×S2)=Ra⊕RbH^2_{\mathrm{dR}}(S^2\times S^2)=\mathbb{R}a\oplus\mathbb{R}b です。g ⁣:Σ→S2×S2g\colon\Sigma\to S^2\times S^2 について ∫Σg∗a=deg⁡(pr1∘g)∈Z\int_\Sigma g^*a=\deg(\mathrm{pr}_1\circ g)\in\mathbb{Z}(系 4.4[交点数と写像度])なので a,b∈Λa,b\in\Lambda です。sa+tb∈Λsa+tb\in\Lambda なら、S2×{pt}S^2\times\{\mathrm{pt}\} と {pt}×S2\{\mathrm{pt}\}\times S^2 の上の積分から s,t∈Zs,t\in\mathbb{Z} です。a∧a=pr1∗(ω∧ω)=0a\wedge a=\mathrm{pr}_1^*(\omega\wedge\omega)=0、同様に b∧b=0b\wedge b=0、∫a∧b=∫S2ω⋅∫S2ω=1\int a\wedge b=\int_{S^2}\omega\cdot\int_{S^2}\omega=1 なので Q=HQ=H で、Q(sa+tb,sa+tb)=2stQ(sa+tb,sa+tb)=2st は偶数です。HH の固有値は ±1\pm1 です。

3。 CP2\mathbb{C}P^2 の直線 LL と −CP2-\mathbb{C}P^2 の直線 L′L' を、連結和を作るときに除く円板と交わらないように取ります。M=CP2#(−CP2)M=\mathbb{C}P^2\#(-\mathbb{C}P^2) を、2 つの穴あきの多様体を少し太らせた開集合 U1,U2U_1,U_2(共通部分は S3×(−1,1)S^3\times(-1,1))の和と見ると、Mayer–Vietoris 完全系列と HdR1(S3)=HdR2(S3)=0H^1_{\mathrm{dR}}(S^3)=H^2_{\mathrm{dR}}(S^3)=0 から HdR2(M)≅HdR2(U1)⊕HdR2(U2)H^2_{\mathrm{dR}}(M)\cong H^2_{\mathrm{dR}}(U_1)\oplus H^2_{\mathrm{dR}}(U_2) で、同じ議論を CP2=U1∪D4\mathbb{C}P^2=U_1\cup D^4 に使うと HdR2(U1)≅HdR2(CP2)H^2_{\mathrm{dR}}(U_1)\cong H^2_{\mathrm{dR}}(\mathbb{C}P^2) です。LL、L′L' の小さい管状近傍に台をもつ x=ηLx=\eta_L、y=ηL′y=\eta_{L'} が基底を与えます。(ii) により x,y∈Λx,y\in\Lambda で、sx+ty∈Λsx+ty\in\Lambda なら、LL と L′L' に平行な直線の上の積分から 1 と同じく s,t∈Zs,t\in\mathbb{Z} です。∫x2=1\int x^2=1、∫y2=−1\int y^2=-1(−CP2-\mathbb{C}P^2 の向き)、x∧y=0x\wedge y=0(台が交わらない)なので Q=diag⁡(1,−1)Q=\operatorname{diag}(1,-1) で、Q(x,x)=1Q(x,x)=1 は奇数です。

4。 命題 5.3 の 4 により、「Q(z,z)Q(z,z) が奇数となる z∈Λz\in\Lambda が存在する」という性質はホモトピー同値で不変です。3 の多様体はこれを満たし、2 の多様体は満たしません。

この 2 つの多様体は、単連結で、Betti 数も Euler 標数(44)も符号数(00)も実係数の交叉形式も同じです。違いは格子の上の偶奇だけで、整数係数で考えることの意味がここにあります。

例 5.6(E₈ 形式と K3 曲面)

E8E_8 形式は、次の対称行列で与えられる Z8\mathbb{Z}^8 上の形式です(対角成分が 22、鎖状に並んだ 7 個の基底の隣どうしと、8 番目と 5 番目の間が −1-1、ほかは 00)。

E8=(2−1−12−1−12−1−12−1−12−1−1−12−1−12−12)E_8=\begin{pmatrix} 2&-1&&&&&&\\ -1&2&-1&&&&&\\ &-1&2&-1&&&&\\ &&-1&2&-1&&&\\ &&&-1&2&-1&&-1\\ &&&&-1&2&-1&\\ &&&&&-1&2&\\ &&&&-1&&&2 \end{pmatrix}

対角成分が偶数なので偶で、正定値、行列式は 11 です(演習 6.2)。階数 88、符号数 88 の、偶で定値なユニモジュラー形式のうち階数が最小のものです。4 次曲面 {z04+z14+z24+z34=0}⊂CP3\{z_0^4+z_1^4+z_2^4+z_3^4=0\}\subset\mathbb{C}P^3(K3 曲面)は単連結な閉 4 次元多様体で、交叉形式は 2(−E8)⊕3H2(-E_8)\oplus3H(階数 2222、符号数 −16-16)であることが知られています(Gompf–Stipsicz『4-Manifolds and Kirby Calculus』§1.3)。

5.3. Freedman の定理と Donaldson の定理

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定理 5.7(Freedman の定理(主張のみ))※

  1. 任意の整数係数のユニモジュラーな対称双線形形式 QQ に対し、単連結な閉じた位相 4 次元多様体で交叉形式が QQ に同型なものが存在する。
  2. QQ が偶なら、そのような多様体は同相を除いてただ 1 つである。QQ が奇なら、同相を除いてちょうど 2 つあり、Kirby–Siebenmann 不変量(Z/2\mathbb{Z}/2 に値を取る)で区別される。2 つのうち少なくとも一方は滑らかな構造をもたない。
  3. したがって、単連結な閉じた滑らかな 4 次元多様体は、交叉形式が同型なら同相である。とくに、S4S^4 にホモトピー同値な位相 4 次元多様体は S4S^4 に同相である。

注意 5.8

定理 5.7 は主張のみです。証明は、注意 2.13 で述べた 4 次元での Whitney 円板の自己交差を、Casson ハンドルと呼ばれる無限回の構成で置き換え、それが位相的には通常の 2-ハンドルと同相であることを Bing 流の分解空間の理論で示す、というもので、原論文は 100 ページ近くあります(M. H. Freedman, “The topology of four-dimensional manifolds”, J. Differential Geom. 17 (1982), 357–453)。位相多様体のハンドル理論・横断性(Kirby–Siebenmann、Quinn)も前提になり、Rikai の範囲を大きく超えます。

定理 5.9(Donaldson の定理(主張のみ))※

単連結な閉じた滑らかな 4 次元多様体の交叉形式が定値ならば、その形式は Z\mathbb{Z} 上で対角化できる。すなわち ±diag⁡(1,…,1)\pm\operatorname{diag}(1,\dots,1) に同型である。

注意 5.10

定理 5.9 も主張のみです。証明は、MM の上の SU(2)SU(2) 束の反自己双対接続(インスタントン)のモジュライ空間が、MM を一方の境界とし、CP2\mathbb{C}P^2 の錐を特異点にもつ 5 次元の「同境」になることを示し、同境不変量を比べるもので、非線形偏微分方程式の解析(Uhlenbeck のコンパクト性定理、Taubes による解の存在)と指数定理(指数定理の章)を使います。原論文は S. K. Donaldson, “An application of gauge theory to four-dimensional topology”, J. Differential Geom. 18 (1983), 279–315、教科書は S. K. Donaldson, P. B. Kronheimer『The Geometry of Four-Manifolds』(Oxford University Press, 1990)です。主束と接続の章の言葉で述べられる、ゲージ理論の位相幾何への最初の応用です。

例 5.11(2 つの定理を合わせる)

E8E_8 形式は偶で定値、階数 88 で、対角化できません(対角化できる形式は Q(x,x)=±1Q(x,x)=\pm1 となる元をもち、奇です)。定理 5.7 により、交叉形式が E8E_8 の単連結な閉じた位相 4 次元多様体(E8E_8 多様体)がただ 1 つありますが、定理 5.9 により、それは滑らかな構造をもちません。E8⊕E8E_8\oplus E_8 についても同じです。位相多様体と滑らかな多様体の違いが 4 次元で初めて、しかも単連結な閉多様体で現れることになります。

さらに、2 つの定理から、R4\mathbb{R}^4 に同相だが微分同相でない滑らかな多様体(エキゾチック R4\mathbb{R}^4)の存在が導かれます(注意 6.7[微分可能多様体の定義] で触れたもの)。n≠4n\ne4 では Rn\mathbb{R}^n の滑らかな構造はただ 1 つなので、これは 4 次元だけの現象です。偶な形式については、Rokhlin の定理「滑らかで偶な交叉形式をもつ単連結な閉 4 次元多様体の符号数は 1616 の倍数である」(1952 年)が先に知られていて、符号数 88 の E8E_8 多様体が滑らかでないことはこれからも従います。これらはこの記事では証明しません。

注意 5.12

滑らかな 4 次元多様体を具体的に扱う言葉が Kirby 図式です。連結な閉 4 次元多様体のハンドル分解(0-ハンドル 1 個から始める)で、1-ハンドルと 2-ハンドルの接着写像を ∂D4=S3\partial D^4=S^3 の中の絵として描きます。2-ハンドルの接着写像 S1×D2→S3S^1\times D^2\to S^3 は、結び目(接着円周)とその管状近傍の自明化、すなわち整数(枠)で決まるので、1-ハンドルが無い場合の図式は、各成分に整数の付いた S3S^3 の中の絡み目です。交叉形式は、対角成分が枠、非対角成分が成分どうしの絡み数(系 4.7)の行列になります。たとえば枠 +1+1 の自明な結び目は CP2\mathbb{C}P^2、枠 00 を付けた Hopf 絡み目は S2×S2S^2\times S^2 の図式です。図式の変形(ハンドルの滑らせと、消去できる対の生成・消去。命題 5.8[ハンドル分解と手術]、定理 5.2[ハンドル分解と手術])で同じ多様体の図式どうしが移り合う、というのが Kirby 計算です。4 次元多様体論が結び目理論と切り離せないのはこのためです。

演習 6.1標準

cc 個の交差をもつ結び目の射影図から Seifert のアルゴリズムで作った膜が連結で、Seifert 円周が ss 個のとき、種数が 12(c−s+1)\tfrac12(c-s+1) であることを確かめ、交差が cc 個の射影図をもつ結び目の種数は 12(c−1)\tfrac12(c-1) 以下であることを示せ。交差が 2 個以下の射影図をもつ結び目は自明であることを導け。

解答

まず、結び目の射影図から作った膜 FF は連結です。FF の各連結成分は円板に帯を貼った曲面で、2-ハンドルをもたないので閉曲面ではなく、空でない境界をもちます。境界の和 ∂F\partial F は結び目で連結なので、成分は 1 つです。

FF は ss 個の 0-ハンドルと cc 個の 1-ハンドルからなるので χ(F)=s−c\chi(F)=s-c です。境界の円周を円板でふさいだ閉曲面 F^\hat F は連結で向き付け可能、χ(F^)=s−c+1=2−2g\chi(\hat F)=s-c+1=2-2g なので g=12(c−s+1)g=\tfrac12(c-s+1) です。s=1s=1 のとき、Seifert のアルゴリズムの第 2 段(注意 4.5 の後の説明)により帯は異なる円周をつなぐので c=0c=0 で、g=0g=0 です。s≥2s\ge2 なら g≤12(c−1)g\le\tfrac12(c-1) です。どちらの場合も、結び目の種数(連結な Seifert 膜の種数の最小値)は max⁡(0,12(c−1))\max(0,\tfrac12(c-1)) 以下です。c≤2c\le2 のとき 12(c−1)<1\tfrac12(c-1)\lt1 なので種数は 00 で、結び目は円板の境界、すなわち自明です。

演習 6.2標準

例 5.6 の行列について、det⁡E8=1\det E_8=1 を示せ。また、左上の k×kk\times k 小行列式(k≤7k\le7)が k+1k+1 であることを示し、E8E_8 が正定値であることを確かめよ。Donaldson の定理から、交叉形式が E8⊕E8E_8\oplus E_8 に同型な単連結の閉じた滑らかな 4 次元多様体は存在しないことを導け。

解答

対角成分が 22、隣どうしが −1-1 の k×kk\times k 三重対角行列の行列式を aka_k とすると、最後の行で展開して ak=2ak−1−ak−2a_k=2a_{k-1}-a_{k-2}、a1=2a_1=2、a2=3a_2=3 なので ak=k+1a_k=k+1 です。これが左上の k×kk\times k 小行列式(k≤7k\le7)です。E8E_8 の行列式を第 8 行で展開します。第 8 行の 00 でない成分は (8,5)(8,5) の −1-1 と (8,8)(8,8) の 22 です。(8,8)(8,8) の寄与は 2a7=162a_7=16 です。(8,5)(8,5) と (5,8)(5,8) の −1-1 の対の寄与は、第 5・第 8 の行と列を除いた行列の行列式の −1-1 倍で、残るのは基底 1,…,41,\dots,4 の鎖と 6,76,7 の鎖に分かれた行列なので −a4a2=−15-a_4a_2=-15 です(第 8 列の 00 でない成分は (5,8)(5,8) と (8,8)(8,8) だけなので、ほかの項はありません)。よって det⁡E8=16−15=1\det E_8=16-15=1 です。左上の小行列式が 2,3,…,8,12,3,\dots,8,1 とすべて正なので、Sylvester の判定法により正定値です。

E8⊕E8E_8\oplus E_8 は正定値で、対角成分がすべて偶数なので偶です。Z\mathbb{Z} 上で対角化できる定値形式は ±diag⁡(1,…,1)\pm\operatorname{diag}(1,\dots,1) で、Q(x,x)=±1Q(x,x)=\pm1 となる元をもつので奇です。偶であることは基底の取り方によらないので、E8⊕E8E_8\oplus E_8 は対角化できず、定理 5.9 により、これを交叉形式とする単連結な閉じた滑らかな 4 次元多様体はありません。

演習 6.3標準

h+j=1h+j=1 を満たす (h,j)(h,j) のうち、定理 3.3 の 3 で S7S^7 に微分同相でないことが分かるものを、h=0,1,…,6h=0,1,\dots,6 について列挙せよ。また、Mh,jM_{h,j} と Mj,hM_{j,h} の関係を述べよ。

解答

h−j=2h−1h-j=2h-1 で、(2h−1)2 mod 7(2h-1)^2\bmod7 は h=0,…,6h=0,\dots,6 について順に 1,1,2,4,0,4,21,1,2,4,0,4,2 です(1,1,9,25,49,81,1211,1,9,25,49,81,121)。11 と合同でないのは h=2,3,4,5,6h=2,3,4,5,6 で、M2,−1,M3,−2,M4,−3,M5,−4,M6,−5M_{2,-1},M_{3,-2},M_{4,-3},M_{5,-4},M_{6,-5} は S7S^7 に同相ですが微分同相ではありません。h=0,1h=0,1(M0,1M_{0,1}、M1,0M_{1,0})ではこの判定は何も言わず、実際 M1,0M_{1,0} は 例 3.2 により S7S^7 です。(h,j)(h,j) を (j,h)(j,h) に替えると h+jh+j は変わらず (h−j)2(h-j)^2 も変わりません。ファイバーの共役 v↦vˉv\mapsto\bar v は、uhvuj‾=uˉ jvˉ uˉ h\overline{u^hvu^j}=\bar u^{\,j}\bar v\,\bar u^{\,h} なので、底空間の座標も u↦uˉu\mapsto\bar u と替えれば Mh,jM_{h,j} を Mj,hM_{j,h} に写す微分同相を与えます(uˉ/∣uˉ∣2=u/∣u∣2‾\bar u/|\bar u|^2=\overline{u/|u|^2} なので貼り合わせと両立します)。したがって M0,1≅M1,0≅S7M_{0,1}\cong M_{1,0}\cong S^7 です。

  • J. Milnor, Lectures on the h-Cobordism Theorem, Princeton University Press, 1965 — §6(Whitney の技巧)、§7–§9(h 同境定理の証明と帰結)。
  • J. Milnor, “On manifolds homeomorphic to the 7-sphere”, Annals of Mathematics 64 (1956), 399–405。
  • S. Smale, “On the structure of manifolds”, American Journal of Mathematics 84 (1962), 387–399。
  • M. Kervaire, J. Milnor, “Groups of homotopy spheres: I”, Annals of Mathematics 77 (1963), 504–537。
  • D. Rolfsen, Knots and Links, Publish or Perish, 1976 — 第 3 章(結び目群)、第 5 章(Seifert 膜)。
  • R. E. Gompf, A. I. Stipsicz, 4-Manifolds and Kirby Calculus, Graduate Studies in Mathematics 20, American Mathematical Society, 1999 — 第 1 章(交叉形式、Freedman と Donaldson の定理)、第 4 章・第 5 章(Kirby 図式)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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